説明

マイクロ流体デバイスおよびその製造方法

【課題】微少量の流体(おもに液体)をマイクロポンプなどの送液手段を必要としないで、効率的に安定して供給でき、小型で一体構造内に複雑な3次元流路を簡便に作製できるマイクロ流体デバイスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】このマイクロ流体デバイス1は、積層されたシート状部材2〜5で構成され、各シート状部材2〜5は多孔質材に充填材が充填されて流体が透過できない流体非透過部2A,2B,2C,3A,3B,3C,4A,4B,5A,5Bと、多孔質材からなり流体が通過可能な領域である流路6〜11とを有する。流路6〜11が多孔質材で形成されているので、この流路の多孔質構造内の毛管流動によって流体が移動する。よって、気泡などによって流路が閉塞することなく、微少量の流体に対してもマイクロポンプなどの送液手段を必要としないで、効率的に安定して流体を搬送,供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、微小な流量の流体を搬送でき、また、上記流体の流量を制御できるマイクロ流体デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスは、微小な流路、反応槽、分離機構などを有し、微少量の流体を搬送できる化学的および生物学的物質を混合し、反応させ、検出・測定することができることから、例えば、特許文献1(特開2004−93558号公報)に開示されているような微小分析デバイスや化学的・物理化学的な微小反応デバイス(マイクロリアクター)としての使用が検討されている。
【0003】
通常、マイクロ流体デバイスは、シリコン、ガラス、またはポリマーなどの基板が使用され、エッチングなどの微細加工手段によって微細溝が形成されている。このような微細な流路で形成されたマイクロ流路デバイスを稼働させるためには、特許文献1に記載されるように、マイクロシリンジ微量送液ポンプなどの送液手段が必要となる不便さがあった。
【0004】
一方、特許文献2(特表2003−503715号公報)には、送液ポンプなのどの外力によらず、毛管流動で流体搬送できる微細化流路の集合を用いるマイクロ流体デバイスが開示されている。
【0005】
しかし、特許文献2に記載のマイクロ流体デバイスでは、流路部に微細形状を形成する微細加工が必要になる。また、流路の分岐させたり合流させたりする複雑な3次元構造のマイクロ流路をマイクロ流体デバイスの一体構造内に作製することは困難であるので、マイクロ流路デバイスとして望ましい機能を実現しにくい課題があった。
【特許文献1】特開2004−93558号公報
【特許文献2】特表2003−503715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明の課題は、微少量の流体(おもに液体)をマイクロポンプなどの送液手段を必要としないで、効率的に安定して供給でき、小型で一体構造内に複雑な3次元流路を簡便に作製できるマイクロ流体デバイスおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明のマイクロ流体デバイスは、流体が通過可能な多孔質材で形成されている貫通した流路を少なくとも1つ有する複数の積層部材を備え、
上記複数の積層部材は積層されており、上記積層方向に隣接する複数の積層部材の複数の上記流路が連通しており、上記連通している複数の流路が少なくとも1つの連通流路を構成しており、
上記連通流路は、上記積層方向の一端の上記積層部材に形成された上記少なくとも1つの流路を含み、
上記積層部材は、
上記流路に隣接していると共に充填材が充填されて上記流体が透過できない流体非透過部を有することを特徴としている。
【0008】
この発明のマイクロ流体デバイスによれば、流路が多孔質材で形成されているので、この流路の多孔質構造内の毛管流動によって流体が移動する。よって、気泡などによって流路が閉塞することなく、微少量の流体に対してもマイクロポンプなどの送液手段を必要としないで、効率的に安定して流体を搬送,供給することができる。
【0009】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスでは、上記複数の積層部材のうちの少なくとも1つの積層部材の流路の積層方向の透過係数は、
上記複数の積層部材のうちの他の積層部材の流路の積層方向の透過係数とは異なっている。
【0010】
この実施形態によれば、積層方向の透過係数の大きな流路では、ポート(上記積層方向の一端の積層部材に形成された流路)から導入された流体(一例としてのメタノールや水)を、積層方向の透過係数の小さな流路に比べて、よりすばやく次層の多孔質の流路へ導入できる。また、上記積層方向の透過係数の大きな流路から上記ポートへ流体が逆流することを防止する効果もある。
【0011】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスでは、上記複数の積層部材のうちの少なくとも1つの積層部材の流路の積層方向と直交する方向の透過係数は、
上記複数の積層部材のうちの他の積層部材の流路の積層方向と直交する方向の透過係数とは異なっている。
【0012】
この実施形態によれば、上記積層方向と直交する方向の透過係数が大きな積層部材では、上記積層方向と直交する方向の透過係数が小さな積層部材に比べて、多孔質の流路に導入された流体を素早く多孔質の流路全体に行き渡らせて効率良く混合できる。
【0013】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスでは、上記複数の積層部材のうちの少なくとも1つの積層部材が有する少なくとも1つの流路は、上記流体の透過量を調整するための透過量調整材が充填されている。
【0014】
この実施形態によれば、上記複数の積層部材の流路が同一の多孔質材で形成されていても、流路に上記透過量調整材を充填することで、透過量や逆流量の調整が可能になる。また、流路に上記透過量調整材を充填することで、メタノールと水のように、透過し易さの異なる流体を透過させる場合でも、水とメタノールの流量差を減らすように調整したり、多孔質の流路内のメタノール濃度を所定の濃度以下に調整したりすることができる。
【0015】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスでは、上記流路内の流体を引き込んで反応場となる部材が上記連通流路内に配置されている。
【0016】
この実施形態によれば、上記連通流路を通して反応場に流体を導入して改質反応などの化学反応をさせることが可能となる。
【0017】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスでは、配線を除いて上記複数の積層部材が構成する一体構造体内に封じ込められたヒータ部材を備える。
【0018】
この実施形態によれば、マイクロ流体デバイス全体を小型化できるだけでなく、上記ヒータ部材によって必要な所だけを局所的に加熱することができるので、加熱が不必要な他の積層部材や充填材として耐熱性の低い材料を採用することも可能となる。
【0019】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスでは、上記積層方向に隣接する2つの積層部材の流体非透過部が接合している接合領域に上記充填材が充填されている。
【0020】
この実施形態によれば、上記流体非透過部が接合している接合領域に上記充填材が充填されたことで、流体が上記連通流路や上記反応場となる部材以外の部分を通過することを防いで、上記複数の積層部材が構成する一体構造体内に導入された流体を上記連通流路や上記反応場となる部材へ確実に導入できる。よって、流体が未反応でポートから排出されるのを抑制して、供給された流体を効率よく反応させることができる。
【0021】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスでは、上記反応場となる部材とこの反応場となる部材に隣接している上記積層部材との間に上記充填材が充填されている。
【0022】
この実施形態によれば、流体が上記反応場となる部材以外の部分を通過することを防いで、上記流体を上記反応場となる部材へ確実に導入でき、効率よく反応させることができる。
【0023】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法では、転写用基板の凸部に充填材を含む材料層を形成し、
上記充填材を含む材料層が形成された転写用基板の上記凸部を、流体の通過可能な多孔質材で形成されている多孔質部材に重ね合わせて、上記充填材を含む材料を上記多孔質部材に転写し、上記凸部が重ね合わされた上記多孔質部材の領域に上記充填材を充填して、上記領域を上記流体が通過できない流体非透過部とすると共に、上記流体非透過部に隣接していて上記流体が通過可能な流路を形成し、
上記流路と流体非透過部が形成された上記多孔質部材を複数積層して、上記複数の多孔質部材の流路が連通している少なくとも1つの連通流路を備えた実質的に一体構造の積層構造体を形成する。
【0024】
この実施形態によれば、流体の通過可能な多孔質材で形成されている多孔質部材の流体非通過部とする部分に充填材を充填して上記流体非通過部と流体が通過できる流路とを同時に形成する。したがって、基板に形成した流路溝に多孔質材を詰め込んで多孔質構造の流路を形成する場合と比較して、多孔質構造の流路とこの流路を画定する壁面(流体非通過部)との間に隙間が生じることを回避できる。よって、流体が多孔質の流路と流路壁の界面との隙間を通って多孔質材の透過係数以上に透過してしまうことがなく、多孔質材の透過係数でもって流体の透過を安定して制御できるマイクロ流体デバイスを作製できる。
【0025】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法では、上記充填材を含む材料層が形成された材料基板の上記材料層に、転写用基板の凸部を押し付けて、上記凸部に上記充填材を含む材料を転写し、上記転写用基板の凸部に上記充填材を含む材料層を形成する。
【0026】
この実施形態によれば、転写用基板の凸部のみに充填材を含む材料層を容易に形成することができる。
【0027】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法では、上記充填材を含む材料層が形成された転写用基板の上記凸部を、流体の通過可能な多孔質材で形成されている多孔質部材に重ね合わせて、上記充填材を含む材料を上記多孔質部材に転写するときに、アニールによって上記充填材を上記多孔質部材に含浸させる。
【0028】
この実施形態によれば、上記アニールによって上記充填材を上記多孔質部材内に含浸させるので、上記充填材を多孔質部材内に十分行き渡らせることができ、流路からの流体の漏れを確実に抑えることができる。
【0029】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法では、上記流路と流体非透過部が形成された上記多孔質部材を複数積層し、アニールによって上記流体非透過部の上記充填材を隣接する2つの多孔質部材間の接合領域に含浸させることにより、上記複数の多孔質部材を貼り合わせる。
【0030】
この実施形態によれば、上記アニールによって上記充填材を多孔質部材間の界面に含浸させることができて上記多孔質部材同士の接合部の接合を強固にできると共に、上記多孔質部材の界面に沿って流体が漏れることを抑制できる。
【0031】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法では、上記多孔質部材に形成された上記流路と流体非透過部のうちの上記流体非透過部上に上記充填材を含む材料層を上記流体非透過部の厚さよりも薄く形成してから、上記多孔質部材を複数積層し、上記アニールによって上記流体非透過部の上記充填材を隣接する2つの多孔質部材間の接合領域に含浸させる。
【0032】
この実施形態によれば、上記アニールによって上記充填材を多孔質部材間の界面に確実に含浸させることができて上記多孔質部材同士の接合部の接合をより強固にできると共に、上記多孔質部材の界面に沿って流体が漏れることを確実に抑制できる。
【0033】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法では、上記流体の透過量を調整するための透過量調整材を含む材料層が形成された透過量調整材転写用基板を、上記流路と流体非透過部とが形成された上記多孔質部材に重ね合わせて、上記多孔質部材の上記流路と流体非透過部のうちの上記流路に上記透過量調整材を充填する。
【0034】
この実施形態によれば、上記多孔質部材内の上記流路に上記透過量調整材を充填するので、上記透過量調整材でもって上記流路の透過量や逆流量を調整できる。
【0035】
また、一実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法では、上記流路内の流体を引き込んで反応場となる部材もしくはヒータ部材のうちの少なくとも一方を、隣り合う2つの上記多孔質部材間に封入するように、上記流路と流体非透過部が形成された上記多孔質部材を複数積層する。
【0036】
この実施形態によれば、反応場となる部材もしくはヒータ部材を隣り合う2つの多孔質部材間に封入するので、反応場での化学反応をさせることができ、また、ヒータ部材による加熱による反応の促進を図れるマイクロ流体デバイスを作製できる。
【発明の効果】
【0037】
この発明のマイクロ流体デバイスによれば、流路が多孔質材で形成されているので、この流路の多孔質構造内の毛管流動によって流体が移動する。よって、気泡などによって流路が閉塞することなく、微少量の流体に対してもマイクロポンプなどの送液手段を必要としないで、効率的に安定して流体を搬送,供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0039】
なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。また、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、この発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、この発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の構成を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0040】
(第1の実施の形態)
図1Aと図1Bは、この発明の第1実施形態に係るマイクロ流体デバイスの1例を示す平面図と断面図である。
【0041】
図1A,図1Bに示すように、この第1実施形態に係るマイクロ流体デバイス1は、流体が通過可能な多孔質構造の積層部材としてのシート状部材2、3、4、5を積層した実質的な一体構造を有するマイクロ流体デバイスである。
【0042】
上記シート状部材2は、多孔質材からなり流体が通過可能な領域である流路6と流路7と、この流路6,7に隣接していて上記多孔質材に充填材が充填されて上記流体が透過できない流体非透過部2A,2B,2Cを有している。また、シート状部材3は、多孔質材からなり流体が通過可能な領域である流路8と流路9と、この流路8,9に隣接していて上記多孔質材に充填材が充填されて上記流体が透過できない流体非透過部3A,3B,3Cを有している。
【0043】
また、シート状部材4は、多孔質材からなり流体が通過可能な領域である流路10と、この流路10に隣接していて上記多孔質材に充填材が充填されて上記流体が透過できない流体非透過部4A,4Bを有している。また、シート状部材5は、多孔質材からなり流体が通過可能な領域である流路であるポート11と、このポート11に隣接していて上記多孔質材に充填材が充填されて上記流体が透過できない流体非透過部5A,5Bを有している。
【0044】
このように、各シート状部材2〜5は、上記多孔質材に充填材が充填されている流体非透過部によって、各流路6〜11が画定されている。
【0045】
図1Bに示すように、シート状部材2の流路6はポートをなし、このポートをなす流路6はシート状部材3の流路8に連通している。このシート状部材3の流路8はシート状部材4の流路10に連通している。また、上記流路10はシート状部材5の流路11に連通している。この流路11はポートをなす。また、シート状部材2のポートをなす流路7はシート状部材3の流路9に連通し、この流路9はシート状部材4の流路10に連通している。上記流路6〜11は、シート状部材2〜5からなる一体構造の積層体を貫通した連通流路としての3次元マイクロ流路をなす。
【0046】
また、この第1実施形態では、各シート状部材2〜5の界面にも上記流路6〜11の領域を除いて、上記充填材が充填されている。
【0047】
この実施形態のマイクロ流体デバイス1によれば、一例として、メタノールと水を微少量においても効率的に混合し、マイクロポンプなどの送液手段を必要としないで、下記の式(1)に示す水蒸気改質反応を引き起こして水素ガスを生成するための装置(図示せず)に安定して供給することができる。上記水蒸気改質反応を行う装置では、通常200℃から300℃程度の温度で式(1)に示す水蒸気改質反応が促進される。
CHOH+HO → 3H+CO … (1)
【0048】
このマイクロ流体デバイス1では、たとえばメタノールはポート(流路)6へ供給され、水はポート(流路)7へ供給される。そして、各ポート6,7が有する多孔質構造の吸収力によってポート6内へメタノールが導入され、ポート7内へ水が導入される。上記ポート6へ導入されたメタノールは多孔質構造の吸収力によって多孔質構造の流路8に導入され、上記ポート7へ導入された水は多孔質構造の吸収力によって多孔質構造の流路9に導入される。
【0049】
そして、上記多孔質構造の流路8に導入されたメタノールと上記多孔質構造の流路9に導入された水は、多孔質構造の吸収力によりシート状部材4の多孔質の流路10内に導入され、上記多孔質の流路10内で混合される。この多孔質の流路10内で混合されたメタノールと水は、多孔質構造の流路11へ導入され、この流路11から上記水蒸気改質反応を行う装置へ導出される。
【0050】
上記マイクロ流体デバイス1において、上記メタノール,水は、全て、流路6〜11における多孔質構造内の毛管流動によって移動するので、気泡などによって各流路6〜11が閉塞することがない。よって、上記マイクロ流体デバイス1によれば、上記メタノールと水とを、ポンプなどの送液手段を用いることなく、安定して効率良く混合できる。さらに、上記流路6〜11は、連通流路として3次元マイクロ流路を形成しているので、平面的な流路レイアウトの流路デバイスに比べて微小な領域での液体の混合が可能となる。
【0051】
この実施形態において、各シート状部材2、3、4、5を構成する多孔質材,充填材のうちの上記多孔質材としては、例えば、多孔質シリコン、カーボンペーパー、カーボンの焼結体、ニッケルなどの焼結金属、発泡金属、さらにポリイミド、アクリル系などの多孔質樹脂などの耐薬品性を備えた多孔質材が使用可能である。ここで、上記多孔質材の多孔質構造としては、流体の毛管流動を誘起する構造であればよく、繊維構造であってもよい。また、各シート状部材2、3、4、5を構成する多孔質材,充填材のうちの上記充填材としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、アクリル系、ポリイミド系などの樹脂を用いることができる。
【0052】
この実施形態における典型的な一例では、シート状部材2〜5の厚さは、30μmから200μm程度で、上記充填材の充填領域である流体非透過部2A〜2C,3A〜3C,4A,4B,5A,5Bによって画定される透過領域である流路6〜11の幅は、例えば10μmから200μm程度である。なお、本発明においては、上記通過領域の幅は、シート状部材の拡散速度や厚さなどによって相対的に決まることから、特にサイズを上述の値に限定するものではない。また、各流路の幅は必ずしも互いに同じでなくてもよい。また、本発明は流路の本数やレイアウトを図1A,図1Bに示す形態に限定するものでは無いことは勿論で、複数のポートや流路を並列して配置してもよい。さらには、これらの流路が分岐しても良いことは言うまでもない。
【0053】
上記一体構造に積層された多孔質構造のシート状部材2〜5のうちの少なくとも一つは、積層方向の透過係数が他のシート状部材2〜5と異なるものを用いてもよい。例えば、図1に示すマイクロ流体デバイス1において、シート状部材3を構成する多孔質材として、シート状部材2を構成する多孔質材よりも積層方向の透過係数の大きな材料を用いてもよい。この場合、ポート6に吸収されたメタノールおよびポート7に吸収された水を、ポート6,7内におけるよりも速やかにシート状部材3の多孔質の流路8,9内へ導入することができとと共に、多孔質の流路8,9からポート6,7への逆流防止に効果がある。
【0054】
ここで、上記場合において、上記シート状部材3の多孔質材は、シート状部材2の多孔質材よりも透過し易い材料であればよく、多孔質構造の透過係数や平均孔径などは、シート状部材2の多孔質材に応じて相対的に決まるものであり、特に限定されない。例えば、シート状部材2の多孔質材として膜厚が30μm程度で、多孔質材の平均孔径が0.01μm程度のものを用いた場合、シート状部材3の多孔質材は、ガーレー試験機法により透気度を測定した場合に例えばシート状部材2の透過係数に対して一桁程度低い透過係数となることが好ましい。
【0055】
また、一体構造に積層された多孔質構造のシート状部材2〜5のうちの少なくとも一つは、上記積層方向と直交する平面に沿った方向の透過係数が他のシート状部材と異なるものを用いてもよい。例えば、図1に示す実施形態において、シート状部材4の多孔質材として、シート状部材3の多孔質材よりも上記平面に沿った方向の透過係数の大きな材料を用いてもよい。この場合、多孔質材からなる流路8から多孔質材からなる流路10に導入されたメタノール、および多孔質材の流路9から多孔質材の流路10に導入された水を、多孔質の流路10全体にすばやく行き渡らせることができる。よって、メタノールと水を効率よく混合させることができる。上記場合において、上記シート状部材4の多孔質材は、シート状部材3の多孔質材よりも上記平面に沿った方向に透過し易い材料であればよい。このシート状部材4の多孔質構造の透過係数や平均孔径などは、シート状部材3に応じて相対的に決まるものであり、特に限定されない。例えば、透気度を測定した場合に、シート状部材4の多孔質材の上記平面に沿った方向の透過係数がシート状部材3の多孔質材の上記平面に沿った方向の透過係数に対して、例えば一桁から二桁程度大きい数値となることが好ましい。
【0056】
また、シート状部材3側からシート状部材4の多孔質の流路10に、メタノールと水をすばやく吸収し、また、メタノールと水がシート状部材3側へ逆流するのを防止するためには、シート状部材4の多孔質材の積層方向の透過係数がシート状部材3の多孔質材の積層方向の透過係数よりも大きいほうが好ましい。さらに、多孔質の流路10内でメタノールと水の混合を均一に行うためには、シート状部材5の出口側のポート11の積層方向の透過係数が、シート状部材4の多孔質の流路10の積層方向の透過係数よりも小さい方が好ましい。これにより、多孔質の流路10内からのメタノールと水の排出をポート11の透過速度で制限することができる。よって、多孔質の流路10に導入されたメタノールと水を多孔質の流路10内に、一旦、十分に充満させてから、ポート11から排出させることができ、多孔質の流路10内の混合物の均一性を高めることが可能となる。
【0057】
また、一体構造に積層された多孔質構造のシート状部材2〜5のうちの少なくとも一つに、上記通過可能領域をなす流路6〜11に、上記メタノール,水の透過量を調整するための透過量調整材を充填してもよい。例えば、図1に示す実施形態において、シート状部材3の多孔質の流路8および9に上記透過量調整材を充填することで、上記流路8および9を透過する水やメタノールの量を少なくすることができるとともに、流路8,9からポート6,7へメタノール,水が逆流するのを防止する効果をさらに強めることができる。このように、上記透過量調整材を流路6〜11のうちの少なくともいずれか1つに充填することで、各シート部材2〜5が同じ多孔質構造の多孔質材で構成されていても、各シート部材2〜5の各流路6〜11の透過量や逆流量を調整可能になる。
【0058】
また、図1A,図1Bに示す実施形態において、シート状部材3の多孔質材の流路9はそのままで、多孔質の流路8のみに上記透過量調整材を充填することで、流路9を透過する水の量はほとんど変えずに、流路8を透過するメタノールの量のみを少なく抑制することができる。この場合、メタノールと水のように透過しやすさの異なる流体を透過させる場合においても、水とメタノールの流量差を軽減するように調整したり、多孔質の流路10内のメタノール濃度を所定の濃度以下に調整したりすることができる。
【0059】
ここで、上記透過量調整材としては、例えば、ポリイミド、PTFE、アクリル系などの樹脂を用いることができ、透過させる流体に対して、化学的に安定な材料であれば採用可能である。
【0060】
(第2の実施の形態)
次に、図2A,図2Bを参照して、この発明のマイクロ流体デバイスの第2実施形態を説明する。図2Aは、この第2実施形態のマイクロ流体デバイス34の平面図であり、図2Bは、上記マイクロ流体デバイス34の断面図である。
【0061】
図2A,図2Bに示すように、この第2実施形態に係るマイクロ流体デバイス34は、流体が通過可能な多孔質構造の積層部材としてのシート状部材22、23、24、25を積層した実質的な一体構造を有するマイクロ流体デバイスである。
【0062】
上記シート状部材22は、多孔質材からなり流体が通過可能な領域である流路26と流路27と、この流路26,27に隣接していて上記多孔質材に充填材が充填されて上記流体が透過できない流体非透過部22A,22B,22Cを有している。なお、上記流路26と27はポートをなす。また、シート状部材23は、多孔質材からなり流体が通過可能な領域である流路である流路28と流路29と、この流路28,29に隣接していて上記多孔質材に充填材が充填されて上記流体が透過できない流体非透過部23A,23B,23Cを有している。
【0063】
また、シート状部材24は、多孔質材からなり流体が通過可能な領域である流路30と、この流路30に隣接していて上記多孔質材に充填材が充填されて上記流体が透過できない流体非透過部24A,24Bを有している。また、シート状部材25は、多孔質材からなり流体が通過可能な領域である流路であるポート31と、このポート31に隣接していて上記多孔質材に充填材が充填されて上記流体が透過できない流体非透過部25A,25Bを有している。このように、各シート状部材22〜25は、上記多孔質材に充填材が充填されている流体非透過部によって、各流路26〜31が画定されている。
【0064】
さらに、このマイクロ流体デバイス34では、上記シート状部材24と25との間に、反応場となる部材37A,37Bとマイクロヒータ35A,35Bとが配設されている。この反応場となる部材37A,37Bとマイクロヒータ35A,35Bとは、上記流路30とポート31との間に位置しており、上記一体構造内に封じ込められている。なお、図2Aにおいて、36A,36Bは、マイクロヒータ35A,35Bへの配線である。
【0065】
よって、この第2実施形態では、各シート状部材22〜25の多孔質構造の流体通過可能領域をなす流路26,28,30が積層方向に接続し、また、流路27,29,30が積層方向に接続している。さらに、流路30は、上記反応場となる部材37A,37Bを介して、ポート31へ連通している。これにより、このマイクロ流体デバイス34は、出入り口をなすポート26,27,31から連通した3次元のマイクロ流路が一体構造内に形成されたマイクロ流体デバイスとなっている。
【0066】
また、この第2実施形態では、前述の第1実施形態と同様、各シート状部材22〜25の界面にも上記流路26〜31の領域を除いて、上記充填材が充填されている。また、この第2実施形態において、上記反応場となる部材37A,37Bは、流体としてのメタノール,水が通過可能な材質あるいは構造のものが用いられている。また、上記マイクロヒータ35A,35Bは、上記流体としてのメタノール,水を透過しない耐熱性,耐薬品性のすぐれた材料でコートされていることが好ましい。
【0067】
この第2実施形態において、メタノールをポート26へ供給し、水をポート27へ供給すると、このメタノール,水はそれぞれ多孔質構造の吸収力によってシート状部材22のポート26,27内へ導入される。上記ポート26へ導入されたメタノールはシート状部材23の多孔質構造の流路28の吸収力によって多孔質の流路28に導入され、上記ポート27へ導入された水は、シート状部材23の多孔質構造の流路29の吸収力によって多孔質の流路29に導入される。
【0068】
そして、上記流路28からのメタノールと上記流路29からの水とが、多孔質構造の吸収力によりシート状部材24の多孔質の流路30内に導入されて混合される。これらの流路26〜30の全てにおいて、多孔質構造内の毛管流動によって流体としてのメタノール,水が移動するため、気泡などによって流路26〜30が閉塞することがない。よって、上記メタノールと水を、ポンプなどの送液手段を用いることなく、流路30に安定して効率良く供給して混合させることができる。
【0069】
さらに、多孔質の流路30内で混合されたメタノールと水は、多孔質の流路30から反応場となる部材37A,37Bへ浸透する。この反応場となる部材37A,37Bは、マイクロヒータ35A,35Bにより加熱されている。よって、上記メタノールと水の混合物が、上記反応場となる部材37A,37B内を通過する際にメタノールの改質反応が促進される。反応場となる部材37A,37B内で生成した水素および二酸化炭素は、多孔質の流路30内よりも圧力の低いポート31側に排出される。
【0070】
この実施形態のマイクロ流体デバイス34によれば、上記反応場となる部材37A,37Bにおいて、上記メタノールと水の混合物から、前述の式(1)に示す水蒸気改質反応を引き起こして水素ガスを生成する。すなわち、この第2実施形態によれば、マイクロポンプなどの送液手段を必要とすることなく、メタノールと水を微少量においても流路30から反応場となる部材37A,37Bへ効率的に安定に供給して混合し、改質反応により水素ガスを生成することができる。さらに、この実施形態では、上記3次元のマイクロ流路構造を有するので、平面的な流路レイアウトの流路デバイスに比べて微小な領域で水素ガスの生成が可能となる。
【0071】
この実施形態において、シート状部材22,23,24,25としては、例えば、多孔質シリコン、カーボンペーパー、カーボンの焼結体、ニッケルなどの焼結金属、多孔質ポリイミド樹脂など、耐薬品性を備えた多孔質材が使用可能である。また、各シート状部材22〜25を構成する多孔質材における多孔質構造は、流体の毛管流動を誘起する構造であればよく、繊維構造であってもよい。この実施形態における典型的な例では、上記シート状部材22〜25の厚さは、30μmから200μm程度で、上記充填材の充填領域によって画定される透過領域つまり流路26〜31の幅は、例えば10μmから200μm程度である。尚、本発明においては、通過領域である各流路の幅は、シート状部材の拡散速度や厚さなどによって相対的に決まるものであり、特にサイズを上記寸法に限定されるものではなく、必ずしも互いに同じでなくてもよい。なお、上記充填材としては、アクリル系、ポリイミド系などの樹脂を用いることができる。
【0072】
また、上記反応場となる部材37A,37Bとしては、たとえば、多孔質シリコン、カーボンペーパー、カーボンの焼結体、ニッケルなどの焼結金属、発泡金属など、耐薬品性を備えた多孔質材が使用可能である。もっとも、上記反応場となる部材37A,37Bの材質としては、特に上記材質に限定されるものではなく、多孔質の流路30からの流体を引き込み得るような孔径の多孔質材であって、反応熱等による温度上昇に耐え得る耐熱性を有するものあればよい。この実施形態における典型的な例では、反応場となる部材37A,37Bとして、平均孔径が数μmから数10μm程度の多孔質カーボン焼結体が用いられている。
【0073】
また、上記反応場となる部材37A,37Bの表面には、改質触媒が形成されていてもよい。この改質触媒は、メタノールおよび水に対して化学反応を促進する作用を有し、メタノールおよび水から水素および二酸化炭素を生成する機能を有するものである。
【0074】
さらに、この実施形態においては、反応場となる部材37A,37Bは、多孔質の流路30よりも上記メタノールと水の混合物を透過しにくい方がよい。例えば、ガーレー試験機法により透気度を測定した場合に、反応場となる部材37A,37Bの透気度は、多孔質の流路30の透気度よりも一桁から二桁程度低い数値となることが好ましい。これにより、反応場となる部材37A,37Bでは、多孔質の流路30から導入されたメタノールの排出が抑制される。よって、メタノールと水が多孔質の流路30内に均一に充満し、多孔質の流路30から反応場となる部材37A,37Bの全体に均一にメタノールと水の混合物を供給できる。なお、多孔質の流路30内に上記混合物が均一に充満していない場合には、反応場となる部材37A,37Bへの上記混合物の供給が著しく不均一になりやすい。
【0075】
なお、上記マイクロヒータ35A,35Bは、必ずしも図2A,図2Bに示すようにシート状部材22〜25の一体構造に内蔵されていなくてもよい。すなわち、マイクロ流体デバイス34の一体構造の全体を外部から加熱することも可能である。もっとも、図2A,図2Bに示すように、マイクロヒータ35A,35Bを上記一体構造に内蔵することで、デバイス全体を小型化できるだけでなく、必要な箇所だけを局所的に加熱することができ、他のシート状部材や充填材に耐熱性の低い材料を採用することも可能となる。
【0076】
さらに、上記シート状部材24と25との界面、上記反応場となる部材37Aと上記シート状部材24との界面、上記反応場となる部材37Bと上記シート状部材25との界面のうちの少なくとも1つに上記充填材を充填してもよい。また、上記反応場となる部材37A,37Bとマイクロヒータ35A,35Bとの界面に上記充填材を充填してもよい。上記充填材の充填によって、上記メタノールと水の混合物が上記反応場となる部材37A,37Bの周囲のシート状部材24,25やマイクロヒータ35A,35Bとの間の隙間を通過することを防止できる。よって、上記多孔質の流路30からの混合物が上記反応場となる部材37A,37B内を通過せずに上記隙間を通過してポート31側に排出されることを防止できる。したがって、上記流路30からの上記混合物が未反応のままでポート31から排出されることを抑制でき、上記混合物を上記反応場となる部材37A,37Bに確実に供給して効率よく反応させることができる。
【0077】
なお、上記第1,第2実施形態では、流体がメタノール,水である一例を説明したが、上記流体としては、他の液体であってもよく、気体、固液混相流体、気液混相流体等でもよい。
【0078】
(第3の実施の形態)
次に、図3A〜図3Cおよび図4A,図4Bを参照して、この発明の第3実施形態としてのマイクロ流体デバイスの製造方法を説明する。図3A〜図3Cは、本発明のマイクロ流体デバイスを構成する積層部材14を作製する工程を示す工程断面図であり、上記積層部材14は、上述の第1実施形態のマイクロ流体デバイスのシート状部材2もしくはシート状部材3に相当している。また、図4Aは、図3A〜図3Cと同様の工程で作製した第1実施形態のシート状部材2,3およびシート状部材4,5を示す平面図であり、図4Bは、図4Aのシート状部材2〜5を積層して一体構造としたマイクロ流体デバイスを示す断面図である。
【0079】
このマイクロ流体デバイスの製造方法では、図3Aに示すように、多孔質材で形成されている多孔質部材としての多孔質構造のシート状部材14上に、転写用基板12を配置する。この転写用基板12は、上記凸部12A,12B,12Cを有し、この凸部12A〜12Cに充填材を含む材料層13が積層されている。上記凸部12A〜12Cは、上記多孔質構造のシート状部材14に上記充填材を充填すべき領域に上記材料層13を転写できるようにパターニングされている。
【0080】
次に、図3Bに示すように、上記転写用基板12の上記材料層13が積層された凸部12A,12B,12Cを上記シート状部材14の流体非透過部14A,14B,14Cとする領域に重ね合わせてプレスする。これにより、上記材料層13の充填材を含む材料が上記シート状部材14に転写され、図3Cに示すように、上記領域に上記充填材が充填されて上記流体非透過部14A,14B,14Cが形成される。また、上記流体非透過部14A,14B,14Cに隣接していて流体が通過可能な流路16,17が形成される。
【0081】
この実施形態によれば、多孔質のシート状部材14に、充填材を充填して、流路16,17と流体非透過部14A〜14Cを形成している。したがって、この実施形態の製造方法では、基板に形成した流路溝に多孔質材を詰め込むことによって多孔質構造の流路を形成する場合と異なり、多孔質構造の流路とこの流路を画定する壁面との間に隙間を生じない。よって、流体が多孔質材からなる流路16,17と流路壁との界面の隙間を通って多孔質材の透過係数以上に透過してしまうことがなく、多孔質材の透過係数で流体の透過を安定して制御できる。
【0082】
シート状部材14を構成する多孔質材としては、すでに述べたように、多孔質シリコン、カーボンペーパー、カーボンの焼結体、ニッケルなどの焼結金属、多孔質ポリイミド樹脂が使用可能である。ここでは、上記多孔質材として、平均孔径0.05μm、厚さ30μm程度の多孔質ポリイミド樹脂を使用する場合の条件の一例を説明する。上記充填材を含む材料層13としては、塗布し易いように溶剤に溶かしたアクリル系樹脂を用いた。また、材料層13の膜厚を約50μmとした。上記充填材を含む材料層13の膜厚は、シート状部材14の膜厚に応じて設定するので、上記値に限定するものではないが、シート状部材14の膜厚の1倍から3倍程度とするのがよい。上記材料層13の膜厚が小さ過ぎると、シート状部材14内に十分充填できなくなる。逆に、上記材料層13の膜厚が大き過ぎると、充填される領域14A〜14Cが厚さ方向と直交する平面に沿った方向に広がりすぎて、流体の透過可能領域である流路16および17を狭くし過ぎてしまう。
【0083】
また、上記実施形態において、図3Bに示すように、転写用基板12を多孔質構造のシート状部材14に重ね合わせて、充填材を含む材料層13を転写用基板12から多孔質構造のシート状部材14に転写し、流体非透過部14A〜14Cとする領域に上記充填材を充填する行程において、アニールによって上記充填材を上記多孔質構造内に含浸させることが好ましい。上記アニールすることで、プレスのみで上記充填材を含む材料層13を上記領域に転写する場合に比べて、充填材をシート状部材14の多孔質構造内に十分行き渡らせることができ、流路16,17からの流体の漏れを確実に抑制できる。
【0084】
上記アニール条件については、例えば、80℃から120℃程度の温度で10分から60分程度アニールすれば、ポリイミドの多孔質構造内に上記充填材を十分に含浸させることができる。アニール温度やアニール時間は、シート状部材14の膜厚や平均孔径、上記充填材の粘性などに依存するので、これに限定するものではないが、本実施形態の条件においては、上記アニール温度が80℃以下では充填材を含む材料を塗布するために用いた溶剤が十分揮発せず、シート状部材14内での充填材の固着が不十分になる虞がある。また、上記アニール温度が120℃以上では、シート状部材14内での上記充填材を含む材料の拡散が速く、微細な流路パターンへの適用が困難になる虞がある。充填材の拡散を抑制し、確実にシート状部材14内に充填材を固着させるためには、30分程度の時間をかけて徐々に温度を上げ100℃以上の温度で10分程度アニールするとよい。
【0085】
次に、図4Aの平面図に、上述の図3A〜図3Bと同様の工程で作製した第1実施形態のシート状部材2,3,4,5を示す。このシート状部材2〜5を位置合わせして積層し、図4Bに示すように、実質的に一体構造のマイクロ流体デバイス1を形成できる。
【0086】
上記位置合わせして積層してから、好ましくはアニールを行う。このアニールを行うことによって、シート状部材2,3,4,5内の充填材がシート状部材2,3,4,5間の界面にも含浸させられる。これにより、上記界面に充填材含浸領域21a,21c,21bを形成することができる。よって、図4Bに示すように、シート状部材2,3,4,5同士が接合されると共に、シート状部材2〜5間の界面に沿って流体が漏れることを抑制できる。
【0087】
次に、図5A〜図5Cの工程断面図を参照して、図3Aに示す転写用基板12の製造方法の一例を説明する。まず、図5Aに示すように、充填材を含む材料層53が表面に形成された基板52を用意し、この基板52の材料層53に対向するように、凸部12A〜12Cを有する転写用基板12を配置する。次に、図5Bに示すように、上記転写用基板12の凸部12A〜12Cを上記基板52上の充填材を含む材料層53に押し付ける。これにより、図5Cに示すように、上記転写用基板12の凸部12A〜12Cに上記充填材を含む材料層13を積層することができる。このようにして、上記転写用基板12の凸部12A〜12Cのみに上記充填材を含む材料層13を容易に形成できる。
【0088】
なお、上記基板52は、特に材料を限定するものではないが、フレキシブルで平坦性の高いものを用いるのが望ましい。ここでは、PET(ポリエチレンテレフタレート)シートを用いた。PETは柔軟性があるので、転写用基板12から基板22を剥がし易くなる。また、PETは平坦性が高いので、充填材を含む材料層53がPETシートの基板52から剥がれ易くなる。これにより、転写用基板12に転写された充填材を含む材料層13の膜厚を十分に確保できる。
【0089】
さらに、この第3実施形態の製造方法では、図6A〜図6Dの工程断面図を参照して説明する以下の工程を有することが好ましい。すなわち、図6Aの工程断面図に示すように、充填材を含む材料層68が凸部66Aに積層された転写用基板66を、上記シート状部材5に対向配置させ、図6Bに示すように、上記転写用基板66の凸部66Aの上記充填材を含む材料層68を上記シート状部材5の流体非透過部5A,5Bに重ね合わせて押し付ける。これにより、図6Cに示すように、上記シート状部材5の流体非透過部5A,5Bとポート11のうちの上記流体非透過部5A,5B上だけに上記充填材を含む材料層68を薄く転写させる。そして、図6Dに示すように、上記充填材を含む材料層68が流体非透過部5A,5B上に薄く積層された上記シート状部材5に上記シート状部材4を重ね合わせることで、シート状部材4とシート状部材5との間の界面に上記充填材を含む材料層68による充填材含浸領域70を形成できる。これにより、シート状部材5の流体非透過部5A,5Bとシート状部材4の流体非透過部4A,4Bとの接合をより強固にできると共に、シート状部材4とシート状部材5との界面に沿って流体(メタノール,水等)が漏れることを確実に抑制できる。なお、上記シート状部材4,3にもシート状部材3,2と接合する前に予め、上記シート状部材5と同様にして、上記充填材を含む材料層を形成して、各シート状部材間の接合を強固にすると共に接合界面に沿って流体が漏れることを抑制することが好ましい。
【0090】
ここで、上記転写用基板66と上記充填材を含む材料層68しては、図3Aに示した転写用基板12,充填材を含む材料層13と同様の材質を採用できる。また、上記充填材を含む材料層68の積層の厚さとしては5μm程度とした。この充填材を含む材料層68は、シート状部材の界面を充填するのに十分な量の充填材があればよい。
【0091】
次に、図7A〜図7Cを参照して、図3Cに示したように、流体非透過部14A〜14Cと流体が通過可能な流路16,17が形成されたシート状部材14の上記流路16,17のうちの流路16に流体の透過量を調整するための透過量調整材を充填する工程を説明する。
【0092】
まず、図7Aに示すように、透過量調整材を含む材料層72が凸部71Aに積層された転写用基板71を、上記シート状部材14に対向させ、このシート状部材14の流路16に上記凸部71Aに積層した上記透過量調整材を含む材料層72を対向させる。次に、図7Bに示すように、上記透過量調整材を含む材料層72を上記シート状部材14の流路16に重ね合わせて、流路16に上記透過量調整材を含む材料層72を転写する。これにより、上記流路16に上記透過量調整材が充填されて、図7Cに示すように、上記透過量調整材が上記流路16に充填されたシート状部材14を作製できる。
【0093】
ここで、透過量調整材を含む材料層72が形成された転写用基板71は、図5A〜図5Cの工程断面図を参照して図3Aに示す転写用基板12を製造する方法を説明したのと同様の方法で作製できる。すなわち、基板上に上記透過量調整材を含む材料層72を形成して、この透過量調整材を含む材料層72に転写用基板71の凸部71Aを押し付けることで、この凸部71Aに上記透過量調整材を含む材料層72が転写され、凸部71Aに上記透過量調整材を含む材料層72を形成できる。ここで、上記透過量調整材としては、上述の通り、ポリイミド,PTFE,アクリル系などの樹脂を用いることができ、透過させる流体に対して、化学的に安定な材料であれば採用可能である。
【0094】
また、図7Bに示す工程において、上記透過量調整材を含む材料層72を上記流路16に充填する際のアニール条件については、例えば、上記透過量調整材としてポリイミド樹脂を用いた場合は、80℃から150℃程度の温度で5分から15分程度のアニールを行うことで、シート状部材14の多孔質構造内に上記透過量調整材を含浸させる。このように短時間のアニールを行うことによって、シート状部材14の多孔質構造内の膜厚方向全域には上記透過量調整材が行き渡らなく部分的な領域に上記透過量調整材が充填される。この部分的な透過量調整材の充填により、流路16において流体の透過率が抑制された透過量調整構造が形成される。上記アニール温度やアニール時間は、シート状部材14の膜厚や平均孔径、上記透過量調整材の粘性などに依存するので、上述した値に限定するものではない。上記シート状部材14の流路16の多孔質構造内に上記透過量調整材を充填させる。この透過量調整材による流量調整により、上記流路16の透過量や逆流量を調整でき、上記シート状部材間の界面領域での漏れのない安定した透過構造が得られる。
【0095】
また、図2A,図2Bに示した第2実施形態のマイクロ流体デバイスも、図1A,図1Bに示す第1実施形態のマイクロ流体デバイスと同様、上記説明した第3実施形態の製造方法により作製することができることが理解できる。
【0096】
図2A,図2Bに示した第2実施形態を製造する工程では、シート状部材24とシート状部材25との間に、反応場となる部材37A,37Bおよびマイクロヒータ35A,35Bを封入する工程を要する。この工程においては、反応場となる部材37A,37Bおよびマイクロヒータ35A,35Bをシート状部材24とシート状部材25の間で積層する。そして、反応場となる部材37A,37Bおよび上記マイクロヒータ35A,35Bの周囲のシート状部材24と25とを重ね合わせて、アニールを行い、充填材をシート状部材24と25との界面に含浸させることにより、シート状部材24と25との重ね合わせ部分を接合できる。これによって、反応場となる部材37A,37Bおよびマイクロヒータ35A,35Bを上記一体構造内に封じ込めることが可能となる。このように、可撓性のあるシート状部材24,25間に反応場となる部材37A,37Bとマイクロヒータ35A,35Bを封入することで、反応場となる部材37A,37Bおよびマイクロヒータ35A,35Bに密着した封止が容易になり、流体の周囲への漏れを抑制し易い構造を実現できる。
【0097】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、上記開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1A】この発明の第1実施形態に係るマイクロ流体デバイスを示す平面図である。
【図1B】上記第1実施形態に係るマイクロ流体デバイスを示す断面図である。
【図2A】この発明の第2実施形態に係るマイクロ流体デバイスを示す平面図である。
【図2B】上記第2実施形態に係るマイクロ流体デバイスを示す断面図である。
【図3A】上記第1実施形態のマイクロ流体デバイスの製造工程を説明するための工程断面図である。
【図3B】上記第1実施形態のマイクロ流体デバイスの製造工程を説明するための工程断面図である。
【図3C】上記第1実施形態のマイクロ流体デバイスの製造工程を説明するための工程断面図である。
【図4A】図3A〜図3Bに示す工程と同様の工程で作製した第1実施形態のシート状部材2,3,4,5の平面図である。
【図4B】図4Aに示すシート状部材2,3,4,5が積層され接合されて形成された一体構造のマイクロ流体デバイスの断面図である。
【図5A】図3Aに示す転写用基板12の製造方法を説明するための工程断面図である。
【図5B】図3Aに示す転写用基板12の製造方法を説明するための工程断面図である。
【図5C】図3Aに示す転写用基板12の製造方法を説明するための工程断面図である。
【図6A】上記第3実施形態の製造方法において、シート状部材5とシート状部材4との間の界面に充填材含浸領域70を形成する工程を説明するための断面図である。
【図6B】上記第3実施形態の製造方法において、上記充填材含浸領域70を形成する工程を説明するための断面図である。
【図6C】上記第3実施形態の製造方法において、上記充填材含浸領域70の形成工程を説明するための断面図である。
【図6D】上記第3実施形態の製造方法において、上記充填材含浸領域70の形成工程を説明するための断面図である。
【図7A】上記第3実施形態の製造方法において、シート状部材14の流路16に透過量調整材を充填する工程を説明するための断面図である。
【図7B】上記第3実施形態の製造方法において、シート状部材14の流路16に透過量調整材を充填する工程を説明するための断面図である。
【図7C】上記第3実施形態の製造方法において、シート状部材14の流路16に透過量調整材を充填する工程を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0099】
1,34 マイクロ流体デバイス
2,3,4,5,14,22,23,24,25 シート状部材
6,7,11,26,27,31 ポート
8,9,10,16,17,28,29,30 多孔質の流路
2A〜2C,3A〜3C,4A,4B,5A,5B 流体非透過部
12,66,71 転写用基板
13,53,68,72 充填材を含む材料層
14A,14B,14C 流体非透過部
21a〜21c 充填材含浸領域
22A〜22C,23A〜23C,24A,24B,25A,25B 流体非透過部
35A,35B マイクロヒータ
36A,36B マイクロヒータ配線
37A,37B 反応場となる部材。
52 基板
70 充填材含浸領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が通過可能な多孔質材で形成されている貫通した流路を少なくとも1つ有する複数の積層部材を備え、
上記複数の積層部材は積層されており、上記積層方向に隣接する複数の積層部材の複数の上記流路が連通しており、上記連通している複数の流路が少なくとも1つの連通流路を構成しており、
上記連通流路は、上記積層方向の一端の上記積層部材に形成された上記少なくとも1つの流路を含み、
上記積層部材は、
上記流路に隣接していると共に充填材が充填されて上記流体が透過できない流体非透過部を有することを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ流体デバイスにおいて、
上記複数の積層部材のうちの少なくとも1つの積層部材の流路の積層方向の透過係数は、
上記複数の積層部材のうちの他の積層部材の流路の積層方向の透過係数とは異なっていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイスにおいて、
上記複数の積層部材のうちの少なくとも1つの積層部材の流路の積層方向と直交する方向の透過係数は、
上記複数の積層部材のうちの他の積層部材の流路の積層方向と直交する方向の透過係数とは異なっていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のマイクロ流体デバイスにおいて、
上記複数の積層部材のうちの少なくとも1つの積層部材が有する少なくとも1つの流路は、上記流体の透過量を調整するための透過量調整材が充填されていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のマイクロ流体デバイスにおいて、
上記流路内の流体を引き込んで反応場となる部材が上記連通流路内に配置されていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のマイクロ流体デバイスにおいて、
上記複数の積層部材が構成する一体構造体内に封じ込められたヒータ部材を備えることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載のマイクロ流体デバイスにおいて、
上記積層方向に隣接する2つの積層部材の流体非透過部が接合している接合領域に上記充填材が充填されていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
請求項5に記載のマイクロ流体デバイスにおいて、
上記反応場となる部材とこの反応場となる部材に隣接している上記積層部材との間に上記充填材が充填されていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
転写用基板の凸部に充填材を含む材料層を形成し、
上記充填材を含む材料層が形成された転写用基板の上記凸部を、流体の通過可能な多孔質材で形成されている多孔質部材に重ね合わせて、上記充填材を含む材料を上記多孔質部材に転写し、上記凸部が重ね合わされた上記多孔質部材の領域に上記充填材を充填して、上記領域を上記流体が通過できない流体非透過部とすると共に、上記流体非透過部に隣接していて上記流体が通過可能な流路を形成し、
上記流路と流体非透過部が形成された上記多孔質部材を複数積層して、上記複数の多孔質部材の流路が連通している少なくとも1つの連通流路を備えた実質的に一体構造の積層構造体を形成することを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法において、
上記充填材を含む材料層が形成された材料基板の上記材料層に、転写用基板の凸部を押し付けて、上記凸部に上記充填材を含む材料を転写し、上記転写用基板の凸部に上記充填材を含む材料層を形成することを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法において、
上記充填材を含む材料層が形成された転写用基板の上記凸部を、流体の通過可能な多孔質材で形成されている多孔質部材に重ね合わせて、上記充填材を含む材料を上記多孔質部材に転写するときに、アニールによって上記充填材を上記多孔質部材に含浸させることを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか1つに記載のマイクロ流体デバイスの製造方法において、
上記流路と流体非透過部が形成された上記多孔質部材を複数積層し、アニールによって上記流体非透過部の上記充填材を隣接する2つの多孔質部材間の接合領域に含浸させることにより、上記複数の多孔質部材を貼り合わせることを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法において、
上記多孔質部材に形成された上記流路と流体非透過部のうちの上記流体非透過部上に上記充填材を含む材料層を上記流体非透過部の厚さよりも薄く形成してから、上記多孔質部材を複数積層し、上記アニールによって上記流体非透過部の上記充填材を隣接する2つの多孔質部材間の接合領域に含浸させることを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか1つに記載のマイクロ流体デバイスの製造方法において、
上記流体の透過量を調整するための透過量調整材を含む材料層が形成された透過量調整材転写用基板を、上記流路と流体非透過部とが形成された上記多孔質部材に重ね合わせて、上記多孔質部材の上記流路と流体非透過部のうちの上記流路に上記透過量調整材を充填することを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項15】
請求項9から14のいずれか1つに記載のマイクロ流体デバイスの製造方法において、
上記流路内の流体を引き込んで反応場となる部材もしくはヒータ部材のうちの少なくとも一方を、隣り合う2つの上記多孔質部材間に封入するように、上記流路と流体非透過部が形成された上記多孔質部材を複数積層することを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【公開番号】特開2009−291758(P2009−291758A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150181(P2008−150181)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】