説明

マイクロ流体装置

マイクロ流体装置は:化学的、生化学的又は物理的プロセスを実施するように適合された複数のチャンバー(3、4、5、6)及びその複数のチャンバー(3、4、5、6)の中を通って続いて移動する少なくとも1つの磁性粒子(7)を収容するように適合された、複数のチャンバーを接続する流路(9)を有する。その複数のチャンバー(3、4、5、6)は、その少なくとも1つの磁性粒子(7)の、複数のチャンバーのうち1つからその複数のチャンバーのうちのもう1つまでの通過を可能にするように適合されている少なくとも1つの弁状構造部によって分離されている。その少なくとも1つの磁性粒子(7)の流路に沿った動作を遅延させるように適合された遅延構造部(11、111)が備えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のチャンバー及びその複数のチャンバーの中を通って続いて移動する、少なくとも1つの磁性粒子に対する流路を有するマイクロ流体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、数種類のマイクロ流体装置が、例えば、生化学的プロセス、生化学分析、及び/又は生化学的検出に対して開発されている。例えば、特許文献1は、生化学分析に使用できる数種類のマイクロ流体装置を記載している。
【0003】
例えば、合成によるシークエンシングなどに適しているマイクロ流体装置の一種によると、磁性粒子は、例えば、複数の異なる物理的、化学的又は生化学的プロセスが実施される複数のチャンバーの中を通って続いて駆動されるか又は作動する。それらの磁性粒子は、例えば、分析されるべき(生物学的)要素とともに供給される。この種のマイクロ流体装置において、磁性粒子が続いて中を通って移動するいくつかのチャンバーは、それらの磁性粒子のための流路を定めるチャンネルによって接続される。その複数のチャンバー及び相互接続されたチャンネルは、処理モジュールを定義する。異なる流体が、その複数のチャンバー内に供給されることから、弁状構造部は、磁性粒子の通過を可能にし、その異なるチャンバーに存在する流体の混合を(少なくとも実質的に)防止するように適合されている。例えば、そのような弁状構造部は、磁性粒子が通り抜けることが出来る粘弾性媒体を含んでもよい。それらの磁性粒子は、複数のチャンバーの中を通して、磁場生成ユニットによって生成される印加磁場(又はいくつかの印加磁場)で駆動される。そのようなシステムにおいて、移動速度、プロセスの開始後の所定の時間における磁性粒子の位置、及び/又はそれらの磁性粒子それぞれの構成要素における滞留時間などの磁性粒子の動力関係は、例えば、製造交差による理想的な(又は企画された)動作から外れてもよい。例えば、磁性ビーズによって形成される磁性粒子は、変化する磁化率、サイズ又は表面被覆などの変化する特性を示してもよい。さらに、その複数のチャンバーを分離している弁状構造部は、変化する粗性、表面張力又はサイズなどの変化する特性を有してもよい。それらの磁性粒子の動力関係における逸脱のもう1つの理由として、磁性粒子を、マイクロ流体装置を通して駆動する磁場は、空間的に不均一であってもよい。
【0004】
多くの場合において、高いスループット(throughput)及び/又は高いマルチプレックス(multiplex)の応用に対するマイクロ流体装置が望ましい。そのような素子において、プロセスは、複数の(実質的に)同一の処理モジュールにおいて並行に同時に実施されるべきである。例えば、図1は、複数のN並行処理モジュール(例えば、N=3)を有するマイクロ流体装置を示す。そのモジュールの数Nは非常に高く、例えば、5、10、100、105又はそれよりもさらに一層高くてもよい。小型サイズの素子が好ましいことから、高いモジュール数を持つマイクロ流体装置は、小型化した方法で供給されるべきである。しかし、高いモジュール数及び効率的な小型化に対し、個々の磁場生成ユニットを、それぞれの処理モジュールに対して小型化することは難しくなる。その結果として、共有の磁場生成ユニットが、複数の処理モジュールに対して供給される(又は1つの磁場生成ユニットが、全ての処理モジュールに対して供給される)ことが、それぞれの処理モジュールにおいて磁性粒子を駆動させるためには望ましい。しかし、そのような共有の磁場生成ユニットの実装は、輸送速度、それぞれの処理モジュール、滞留時間、及びそのようなものは、個別の処理モジュールに対して個別に制御することはできないという欠点を有する。上記に記載された製造交差によって、結果として、異なる処理モジュールにおける磁性粒子は、非同期化されるかもしれない。すなわち、それらは、異なる速度で移動し、所定の瞬間において異なる位置に存在し、及び/又はそのマイクロ流体装置の構成要素において異なる滞留時間を有するかもしれない。この非同期化は、チャンバーにおける異なる又は同一でない化学的、生化学的又は物理的プロセスをもたらし、それは、望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,632,655B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、少なくとも1つの磁性粒子の動作の制御を可能にするマイクロ流体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1に記載のマイクロ流体装置によって解決される。そのマイクロ流体装置は:化学的、生化学的又は物理的プロセスを実施するために適合された複数のチャンバー;続いて複数のチャンバーの中を通って移動する少なくとも1つの磁性粒子を収容するように適合された複数のチャンバーを接続する流路;を含み、複数のチャンバーは、その少なくとも1つの磁性粒子が、その複数のチャンバーのうちの1つからもう1つへと通過することを可能にするように適合された少なくとも1つの弁状構造部によって分離され;また、その少なくとも1つの磁性粒子の流路に沿った動作を遅らせるように適合された少なくとも1つの遅延構造部;を有する。その少なくとも1つの磁性粒子の動作を遅らせるための少なくとも1つの遅延構造部が、マイクロ流体装置において供給されていることから、その磁性粒子が過度に速く動いている場合(例えば、他の処理モジュールに比較して)、その磁性粒子(又は複数の磁性粒子)を、そのマイクロ流体装置において望まれる時間‐位置関係に持って来るように遅延させることができる。その磁性粒子(又はいくつかの磁性粒子)は、そのマイクロ流体装置を適切に定義された状態に持っていくように、適切に遅延させることができる。いくつかの処理モジュールが存在する場合、それぞれの処理モジュールを通して他の処理モジュールにおける磁性粒子に比べて速く動いている磁性粒子は、それぞれの粒子の動作が同期化されるように、遅延構造部によって遅らせることが出来る。磁性粒子は、例えば、適切な磁場を印加することによって制御可能に遅延させることができる。結果として、異なる処理モジュールにおける磁性粒子が、同時に同じプロセスにおかれることを保証することができる。
【0008】
弁状構造部という用語は、一種の物質(例えば、実施形態における磁性粒子)の通過を可能にする一方、他方の又は他の種の物質(例えば、実施形態における異なる流体)の通過を(少なくとも実質的に)防止するように適合されている構造を意味する。
【0009】
望ましくは、その遅延構造部は、少なくとも1つの磁性粒子の動作を、磁場を印加することによって遅延させるように適合されている。この場合、その遅延構造部は、例えば、既に存在している磁場生成ユニット(少なくとも1つの磁性粒子を流路に沿って駆動させるために存在する)の、異なる磁場(例えば、異なる磁場振幅、異なる磁場方向など)を生成する機能を使用して、適切に構成することができる。その磁性粒子の磁場に対する反応が、その粒子を遅延させるために使用される。
【0010】
望ましくは、その遅延構造部は、その少なくとも1つの磁性粒子の動作を制御された方法で停止させ、その少なくとも1つの磁性粒子を制御可能なように再び放出するように適合されている。この場合、その少なくとも1つの磁性粒子のある一定の時点における位置は、その少なくとも1つの磁性粒子を捕獲し、所定の時点で再び放出することによって、遅延構造部によって正確に調節することができる。従って、その少なくとも1つの磁性粒子の動作は、他の処理モジュールにおける磁性粒子の動作に正確に同期化することができる。その遅延構造部が、それの停止及び放出するステップが、変化する磁場によって実施されるように適合されている場合、同期化は、(既に存在する)磁場生成ユニットによってなし遂げることができる。生成された磁場及びその結果生じる磁力/トルクは、簡単に、振幅、方向及び時間において、信頼できる同期化が達成されるように制御することができる。
【0011】
望ましくは、その遅延構造部は、幾何学的構造部を有し、少なくとも1つの磁性粒子が、磁場の印加によって、その幾何学的構造部から反対に動かされるように適合されている。この場合、遅延構造部は、非常に狭い流路を有するマイクロ流体装置においてさえ、特に簡単な方法で具現化できる。その幾何学的構造部は、例えば、少なくとも1つの磁性粒子の流路に備えられたくぼみ、突起部、縁、壁などによって形成され得る。その少なくとも1つの磁性粒子は、例えば、磁場によってそこで保たれるように、幾何学的構造部から反対方向に駆動され得る。その幾何学的構造部は、ストップ(stop)の形状を有する。その(又はそれらの)磁性粒子は、熱的/拡散動作及び磁性/ドリフト動作によって、あるいはその(又はそれらの)磁性粒子における他の力によって放出され、再び駆動されることができる。
【0012】
望ましくは、その少なくとも1つの遅延構造部は、弁状構造部とは別に形成される。この場合、その素子の信頼性は、その弁状機能及び遅延機能が干渉しないことから、改善される。
【0013】
1つの態様に従って、弁状構造部の各々は、流路に関して隣接している複数のチャンバーのチャンバー間において備えられている。この場合、少なくとも1つの磁性粒子は、1つのチャンバーから他のチャンバーへの各動作において、弁状構造部の中を通って移動しなければいけない。従って、チャンバーは、互いに関して確実に離れている。
【0014】
望ましくは、そのマイクロ流体装置は、少なくとも1つの磁性粒子を磁場によって複数のチャンバーを通して動かすように適合されている磁場生成ユニットを含む。これは、その少なくとも1つの磁性粒子の流路に沿った制御された動作を可能にする。その磁場生成ユニットが、少なくとも1つの粒子を遅延させるために磁場を印加するように適合されている場合、その少なくとも1つの磁性粒子の流路に沿った動作及びその少なくとも1つの磁性粒子の遅延の両方は、単一の構造によって成し遂げることが出来る。結果として、小型化された実装が可能である。
【0015】
1つの態様に従って、マイクロ流体装置は、複数のチャンバーの第1から、それに続く複数のチャンバーの第2までの動作の方向が第1方向にあり、その複数のチャンバーの第2から、それに続く複数のチャンバーの第3までの動作が第2方向にあり、その第1方向及び第2方向は、異なっているように構成されている。そのような構造は、磁性粒子を異なったチャンバー間において動かす段階的/制御された方法を提供し、それは、多数の処理モジュールを並行に有し、単一の磁場生成ユニットを有するマイクロ流体装置に特に適している。従って、磁性粒子の処理モジュールにおける一致した動作を達成することができる。
【0016】
望ましくは、そのマイクロ流体装置は、複数の処理モジュールを有し、各処理モジュールは、複数のチャンバー及び複数のチャンバーそれぞれの中を同時に移動している磁性粒子を収容するように適合されている複数のチャンバーそれぞれを接続する流路を有する。この場合、高いスループット及び/又は高いマルチプレックスの応用が可能である。共通の磁場生成ユニットがその複数の処理モジュールに対して備えられている場合、高い処理モジュール数に対してさえも効果的な小型化が可能である。例えば、それらの処理モジュールは、類似の又は同一の構造を有する。
【0017】
望ましくは、そのマイクロ流体装置の処理モジュールは、同一である。この場合、同じプロセスが、対応する処理モジュールのチャンバーにおいて実施され、素子は、高いスループット及び/又は高いマルチプレックスの応用において特に適している。
【0018】
望ましくは、その複数のチャンバーの個々のチャンバーは、複数の異なる化学的又は生化学的プロセスを実施するために適合されている。この場合、そのマイクロ流体装置は、合成によるシークエンシング及び他の複雑な化学的及び/又は生化学的プロセスに対して特に適している。
【0019】
本発明のさらなる特徴及び利点は、含まれる図表を参照することによって詳しい実施形態の記載に現れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実質的に同一の処理モジュールを含むマイクロ流体システムであり、各モジュールは、磁性粒子に対する流路を定めるチャンネルによって相互接続されている複数のチャンバーを含むマイクロ流体システムを示す概略図である。
【図2a】遅延構造部に関して2つの例を示す概略図である。
【図2b】遅延構造部に関して2つの例を示す概略図である。
【図3a】チャンバーに関して遅延構造部の模範的な位置を示す概略図である。
【図3b】チャンバーに関して遅延構造部の模範的な位置を示す概略図である。
【図3c】チャンバーに関して遅延構造部の模範的な位置を示す概略図である。
【図4】遅延構造部からの磁性粒子の放出を示す概略図である。
【図5】続くチャンバー間において異なる方向に延びる流路を持つ処理モジュールを示す概略図である。
【図6】曲がりくねった形状及び「仮想」チャンネルを持つ処理モジュールを示す概略図である。
【図7】共通のチャンバーを共有する複数の処理モジュールを含むマイクロ流体装置を示す概略図である。
【図8】共通のチャンバーを共有する複数の処理モジュールを含むマイクロ流体装置の代替の実施形態を示す概略図である。
【図9】図5の処理モジュールの修正を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0021】
本発明の実施形態が、図を参照してこれから記載される。第1に、一般的な構造が、図1に関して模範となるように説明される。図1は、プロセス方向Xに関して平行に配置されている複数Nの処理モジュール2a、2b、2c(図において3つの処理モジュール(N=3)が示されている)を有するマイクロ流体装置1を概略的に示す。3つの処理モジュール2a、2b、2cが示されているが、その実施形態は、この特定の数に限定されず、例えば、N=5;10;1000;105又はさらに高い数もしくは他の数も可能である。各処理モジュールは、複数のチャンバー3、4、5、6(図1において概略的にのみ示される)を含む。処理モジュール2a、2b、2c毎の4つのチャンバー3、4、5、6が、図1に示されているが、その実施形態はこの数に限定されず、異なる数のチャンバーが供給されてもよい。特に、それよりもはるかに高い数のチャンバーが供給されてもよい。処理モジュール2a、2b、2cそれぞれの対応するチャンバー、すなわち図1において同じ番号3、4、5、又は6で指定されているチャンバーは、実質的に同一(特に、回避不可能な製造交差を除いては)であるように形成されている。チャンバー3、4、5、6は、それぞれのチャンバーの中へ輸送される及びそこに位置する粒子において化学的、生化学的及び/又は物理的プロセスを実施するように適合される。特に、異なるチャンバー3、4、5、6が、その粒子において、異なった明確に定義される化学的、生化学的及び/又は物理的プロセスを実施するように適合されてもよい。例えば、マイクロ流体装置は、合成によるシークエンシングに対して適合されてもよい。この場合、それらの異なるチャンバーは、A-C-T-G取り込みプロセス、検出プロセス、及びピロシークエンシング(pyrosequencing)の場合、例えば消光プロセス(例えばアピラーゼによる)及び洗浄プロセスを提供することができる。
【0022】
チャンバー3、4、5、及び6は、直列に接続され、チャンネル9によって相互接続される。チャンネル9及びチャンバー3、4、5、及び6は、磁性粒子7が異なるチャンバー3、4、5、及び6の中を通って続いて輸送されることができるように、構成される。図1において、3つの磁性粒子7が、処理モジュール2a、2b、2cの各々において概略的に示される。しかし、1つの磁性粒子7だけが、各処理モジュールに供給されるか、あるいは、異なる数の磁性粒子7が供給されることも可能である。磁性粒子7は、チャンバー3、4、5、6において分析及び/又は処理されるべき1つ又はそれ以上の物質とともに適切に供給される磁性ビーズであってもよい。磁性粒子7は、チャンバー3、4、5、6及び相互接続されたチャンネル9の中を通して、共通の磁場生成ユニット8によって生成される磁場によって駆動される。模範的な実施形態において、その磁場生成ユニット8は、全ての処理モジュール2a、2b及び2cに対して共通に供給される。しかし、例えば、多数の処理モジュールの場合、複数の処理モジュールに対してそれぞれ供給されるいくつかの磁場生成ユニット8が、供給されてもよい。磁場生成ユニット8(又は複数の磁場生成ユニット)は、時間と共に異なる振幅及び/又は方向を持つ磁場を生成することが可能なように構成される。
【0023】
異なる化学的、生化学的、又は物理的プロセスが、それぞれのチャンバー2、3、4、及び5において実施されてもよいことが記載されてきている。この目的で、チャンバー2、3、4、及び5は、例えば、異なる流体(多くの場合、混合すべきではない)で充填されてもよい。チャンバー2、3、4、及び5の互いからの分離を達成するために、弁状構造部10が、2つの隣り合うチャンバーの間を相互接続するチャンネル9において供給される。その弁状構造部10は、隣のチャンバーに含まれる流体が、混合しない(又は少なくとも実質的に混合しない)ように、すなわち、その弁状構造部10を通過しないように、構成される。例えば、その弁状構造部は、チャンネル9において配置された粘弾性媒体によって形成されてもよい。
【0024】
一般的に、マイクロ流体装置の作動において、磁性粒子7は、磁場生成ユニット8による磁場の印加によって、実質的に同時に、チャンバー2、3、4、及び5の中を通って続いて移動させられ、異なるプロセスは、異なるチャンバー2、3、4、及び5において実施される。しかし、上記に記載されているように、例えば製造交差によって、さらなる測定無しに、複数の処理モジュール2a、2b及び2cにおける磁性粒子7は、完全に同時には駆動されない。従って、様々な処理モジュール2a、2b及び2cにおいていくつかの分散、すなわち、速度、位置、時間などの変動が生じる。
【0025】
該実施形態に従って、磁性粒子7の動作を遅延させるための遅延構造部が供給され、それは、磁性粒子7の異なる処理モジュール2a、2b及び2cにおける動力関係の同期化を可能にする。図2aは、チャンバーのうちの1つの一部分(その例においてチャンバー4;注目すべきは、その実施形態は、遅延構造部を含むチャンバー4に限定されないことである)を模範となるように示す。図2aから分かるように、くぼみ11が、図2aの断面図において概略的に示されるように、チャンバー4の底壁において形成される。そのチャンバー4における空間は、適切な流体(そのチャンバーにおいて実施される処理に必要とされる)で充填される。そのチャンバーにおける磁性粒子7の軌跡Tが、折れた矢印で概略的に示されている。図2aにおける矢印Xは、磁性粒子7が磁場生成ユニット8によって生成される磁場によって駆動される次のチャンバーへのその磁性粒子7の移動の主な方向を示す。その例に従って、磁場生成ユニット8は、磁性粒子7をくぼみ11の反対方向に駆動させる磁場要素Hを生成する。従って、磁性粒子7は、次のチャンバーへ向かう動作(チャンネル9を通して流路に沿った)を一時的に停止され、すなわち、その流路に沿った動作が遅延する。言い換えれば、その磁性粒子7は、遅延構造部によって保持される。複数の処理モジュール2a、2b、2cを含むマイクロ流体装置において、遅延構造部は、他の磁性粒子に比べて速い速度で移動している磁性粒子7を遅延させる(又は、むしろ一時的に停止させる)ために使用することができる。従って、その遅延構造部は、より遅い磁性粒子7が、より速い磁性粒子(例えば、他の処理モジュールにおける)に「追いつく」ことを可能にする。そうすることによって、そのマイクロ流体装置における位置が、互いに関して同期化される。図2bは、遅延構造部のもう1つの具現化を示し、幾何学的構造部(物理的構造部)が、チャンバー4の壁における突起部111として備えられ、磁性粒子7(又は複数の磁性粒子)は、磁場Hによって、その突起部111から反対方向に駆動される。
【0026】
図3aから3cは、幾何学的構造部11、111の異なる可能な位置を、チャンバー4に対する遅延構造部として概略的に示す。図3aから3cにおける上面図において概略的に示されるように、幾何学的構造部11、111(物理的構造部)は、チャンバー4(図3a及び3b)において中心に位置してもよく、あるいは、むしろ次のチャンバーへの主な動作方向に関して端部の位置(図3c)に位置してもよい。さらに、幾何学的構造部11、111は、図2a及び2bに示される方向に直角な方向において、異なる形状(例は、図3a及び3cにおいて提供される)を有してもよい。当然のことながら、図2a、2b及び3aから3cに関して説明されている幾何学的構造部は、唯一の例であり、磁性粒子が、一時的に捕獲されるように、磁場生成ユニット8によって供給される磁場によって駆動される他の適切な物理的構造も可能である。例えば、幾何学的構造部は、圧入、突起、縁、壁、ポールなどによって形成することができる。
【0027】
同期化段階の後に、磁性粒子7は、次のチャンバーへ(チャンネル9を通って)移動するように、マイクロ流体装置においてさらに駆動される。磁性粒子7の遅延構造部からの放出は、異なる方法でなし遂げられてもよい。例えば、その放出は、遅延構造部での磁性粒子を保持している磁場が変わった後に、熱的/拡散的動作、磁気/ドリフト動作、又は、例えば、流体せん断力などの粒子に作用する他の力によって、駆動することができる。磁性粒子7の遅延構造部の幾何学的構造部11/111からの放出は、図4における矢印Rによって概略的に示される。放出は、例えば、移動の主な方向が生じる平面において具現化され、その平面において、複数の処理モジュールが平行に又はそのような平面に垂直な方向において配置される。磁性粒子7の遅延構造部からの放出は、磁力は、振幅、方向及び時間依存性において簡単に制御でき、チャンネル9及びチャンバー3、4、5、6を通して磁性粒子7を駆動させるためにも使用される磁場生成ユニット8によって供給することができることから、磁力を加えることによってなし遂げられる。例えば、磁性粒子7の捕獲及び放出は、異なる方向及び/又は異なる振幅において磁場を印加することによって具現化することができる。
【0028】
上記の実施形態に関して、各処理モジュール2a、2b、2cのチャンバーの線形配置が記載されてきているが、他の配置も可能である。図5は、チャンバー3、4、5、6、…が、2つのチャンバーをそれぞれ接続しているチャンネル9が異なる配向を有するように、配置されているマイクロ流体装置の1つの処理モジュール2xを概略的に示す。示される例において、磁性粒子7が続いて移動する(点線矢印で概略的に示される)チャンネル9が、互いに垂直に配置されている。示される例において、1つのチャンバーから次のチャンバーへの移動の間に、磁性粒子7は、遅延構造部の幾何学的構造部11/111によって止められ、その後に次のチャンバーへ、次の弁状構造部10を通って移動させられる。その例において、磁性粒子7の動作、すなわち、それぞれのチャンネル9を通って遅延構造部で停止する動作及びその遅延構造部からの放出は、異なる方向における磁場を印加(垂直な方向において作用している磁力の実施形態において)することによってなし遂げられる。必要な磁力は、磁場生成ユニット8(図5には示されない)によって生成される。磁性粒子7(又は複数の磁性粒子)は、印加磁場によって、遅延構造部によって止められるまで移動する。その後に、その磁場の方向は変化し、磁性粒子7は、次のチャンネル9を通って、それが遅延構造部によって再び停止させられるなどする次のチャンバーの中へと移動する。そのような構造は、チャンバー間の磁性粒子を移動させるための段階的/制御された方法であり、それは、磁性粒子7の一致した動作が達成されるように、単一の磁場生成ユニット8を持つ高N並列化(多くの並行処理モジュール)に特に適している。
【0029】
図9は、図5に示される処理モジュールの改良形を示す。図5の改良形は、図5の処理モジュールから詳細のみにおいて異なり、従って、その相違だけが記載される。その改良形によると、処理モジュール2zにおいて、遅延構造部は、チャンバー内に備えられた別の物理的構造部としては形成されないが、そのチャンバー(物理的/幾何学的構造部である)の壁(又は境界線)によって形成される。磁性粒子7の遅延は、その磁性粒子7を1つのチャンバーから次のチャンバーまでの動作方向において動かすことによって、磁性粒子7が動かされるチャンバーの中においてそのチャンバーの壁で終わりになるまで実施される。従って、磁性粒子7は、遅延構造部として作用するチャンバーの壁によって動作を止められる。さらに、磁性粒子7の遅延構造部からの放出は、印加磁場の方向を変えることによってなし遂げられ、この場合、その方向は、次のチャンバーへの輸送方向へと変わる。
【0030】
図5及び9に関し、遅延構造部が各チャンバーにおいて備えられるマイクロ流体装置の処理モジュール2x、2zが示されているが、本発明は、そのような配置に限定されない。処理モジュール毎(又はマイクロ流体装置毎)の遅延構造部の必要な数及びこれらの遅延構造部によってなし遂げられる同期化ステップの数は、複数の要因に依存する。原則として、その数は、素子の分散、すなわちそのマイクロ流体装置において移動している磁性粒子7の速度、位置、時間などにおける変動量に依存する。例えば、その同期化ステップの数及びその素子の作動中に適用される同期化ステップの長さは、観測された分散の程度に適合することができる。その分散の程度は、例えば、磁性粒子7の位置のリアルタイムの光学的検出及び適切な信号処理によって観測することが出来る。
【0031】
図6は、マイクロ流体装置の処理モジュール2yのさらなる実施形態を示す。この場合、その処理モジュール2yは、曲がりくねる形状を有し、チャンネル9は、いわゆる仮想チャンネル、すなわち水が簡単に浸透できない領域(部分的に疎水性領域であり部分的に固体の構造)によって囲まれた親水性領域として具現化されている。弁状構造部10は、疎水性のバリアとして具現化される。チャンバー3、4、5、...は、概略的にのみ示されている。遅延構造部を形成する幾何学的構造部111は、チャンネルの境界線における物理的境界線によって具現化される。その遅延構造部は、弁状構造部10に干渉しないことから、マイクロ流体装置の十分な信頼性が提供される。処理モジュール2yを通る磁性粒子の輸送は、上記の例のように、磁場を印加することによって実施される。他の例のように、共通の磁場生成ユニット8(図6に示されない)が、必要な磁場を生成するために備えられている。
【0032】
図7及び8は、マイクロ流体装置のさらなる代替の実施形態を示す。図7及び図8の療法において、そのマイクロ流体装置は、複数の並行処理モジュール2a、2b、2c、…(5個の処理モジュールが図7において概略的に示され、10個の処理モジュールが図8において概略的に示される)を含む。図7及び8において示される例において、異なる処理モジュール2a、2b、2c、…は、共通のチャンバー3、4、5(3つのチャンバーが示されているが、その例はこの数に限定されず、他の数も可能である)を共有し、すなわち、磁性粒子7(異なる処理モジュールにおける)は、同じチャンバーの中を通って移動する。それらのチャンバーは、他のチャンバー/実施形態に関して上記に記載されたように備えられてもよく、特に、異なる化学的、生化学的、又は物理的プロセスを実施するために適合されてもよい。共有される流体チャンバーを使用することによって、マイクロ流体装置の流体的な前処理が簡略化され、素子の単位面積毎の粒子の非常に高い密度を可能にする。いくつかの又は全ての処理モジュールに対する共通のチャンバーとして示される具現化において、例えば異なる流体を含むチャンバーは、それぞれの処理モジュールに対する個々のチャンバーに関して上記に記載されているように、弁状構造部10によって分離される。処理モジュール2a、2b、…毎に、1つの磁性粒子7が図7及び8の各々において示されているが、この場合もまた、2つ以上の磁性粒子7が各処理モジュールに供給されてもよい。各チャンバーは、1つ又はそれ以上の遅延構造部を備えてもよい。図7に示される例において、幾何学的構造部11によって形成される遅延構造部は、チャンバーのうち1つ(チャンバー4)だけにおいて配置される。図8に示される例において、幾何学的構造部11によって形成される遅延構造部は、1つよりも多くのチャンバー(描写される例において3、4、5の全てのチャンバーで)において配置される。共通のチャンバーの配置は、上記に記載されている実施形態及び例と組み合わせることが出来る。この場合もまた、磁性粒子7の同期化の働きをする遅延構造部の必要な数及びマイクロ流体装置の動作中に適用される同期化ステップの必要な数は、そのマイクロ流体装置において生じる分散に依存する。全ての磁性粒子(又は粒子のグループ)は、磁力によってマイクロ流体装置において輸送されている間に検出し、追跡することができる。この場合もまた、図7及び8の例において、必要な磁力は、共有される磁場生成ユニット8(これらの図に示されない)によって供給される。
【0033】
全ての例/実施形態に関して、例えば磁性ビーズによって形成されるいくつかの磁性粒子は、処理/シークエンシング速度を増加させるように及び/又は合計のサイズ及び/又はコストを低減するように、各処理モジュールにおいて供給されてもよい。上記に記載されているように、異なるチャンバーが、例えば、合成によるシークエンシングの場合において、A-C-T-G取り込みプロセス、検出プロセス、消光プロセス(例えばアピラーゼによる)、及び洗浄プロセスを提供できるなど、異なった(生)化学的プロセスを提供してもよい。1つ又はそれ以上の中間洗浄チャンバーが、例えば合成によるシークエンシングなどに重要になり得る(例えば合成によるシークエンシングなどに重要になり得る)それに続くチャンバーの汚染を低減するために、提供されてもよい。各チャンバーは、それらがモジュールにおいて、例えば、汚染及び/又は減少を防ぐために、それぞれの処理において必要な流体で再充填及び/又は再び満たされるように、流体貯留層に付着させることができる。例えば、マイクロ流体装置は、平面状の構成、すなわち、全てのチャンネル及びチャンバーが単一の平面に配置された構成において具現化されてもよい。しかし、そのマイクロ流体装置は、また、面内及び面外において、異なる3次元形状で配置されたチャンネル及びチャンバーで具現化することもできる。
【0034】
上記において、同期化構造を形成する遅延構造部が、少なくとも1つのチャンバーにおいて備えられることが記載されている。その遅延構造部は、ストップとして形作られ、磁性粒子(又は複数の粒子)が、磁力によってそのストップまで駆動される。同期化ステップにおいて、磁性粒子(1つ又はいくつかのモジュールにおける)は、そのシステムが、明確に定義された状態に持って来られるように、磁力を加えることによって、遅延構造部へ向けて駆動される。磁性粒子の同期化は、多粒子システムが同期化され制御されるように、最も速く動いている磁性粒子を遅らせることによってなし遂げられる。
【0035】
開示されたマイクロ流体装置及び方法は、駆動される磁性粒子の高密度処理を生化学的処理、合成及び/又は検出器において可能にする。そのマイクロ流体装置は、例えば、インビトロ(in-vitro)診断、マルチプレックス分子診断及び合成による非常に並行なシークエンシングなどに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的、生化学的又は物理的プロセスを実施するように適合された複数のチャンバー;
該複数のチャンバーを通って続いて移動する、少なくとも1つの磁性粒子を収容するように適合された、該複数のチャンバーを接続する流路;
を有するマイクロ流体装置であり、前記複数のチャンバーは、前記少なくとも1つの磁性粒子の、該複数のチャンバーのうちの1つから該複数のチャンバーのもう1つまでの通過を可能にするように適合された少なくとも1つの弁状構造部によって分離され;且つ
前記少なくとも1つの磁性粒子の前記流路に沿った動作を遅延させるように適合された少なくとも1つの遅延構造部;
を有する、マイクロ流体装置。
【請求項2】
前記遅延構造部は、前記少なくとも1つの磁性粒子の動作を、磁場を印加することによって遅延させるように適合されている、請求項1に記載のマイクロ流体装置。
【請求項3】
前記遅延構造部は、前記少なくとも1つの磁性粒子の動作を制御された方法で停止し、該少なくとも1つの磁性粒子を制御可能なように再び放出するように適合されている、請求項1又は2に記載のマイクロ流体装置。
【請求項4】
前記遅延構造部は、停止させるステップ及び放出するステップが、磁場を変化させることによって実施されるように適合されている、請求項3に記載のマイクロ流体装置。
【請求項5】
前記遅延構造部は、幾何学的構造部を有し、前記少なくとも1つの磁性粒子が該幾何学的構造部の反対方向に、磁場を印加することによって動かされるように適合されている、請求項1乃至4のうち何れか1項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの遅延構造は、前記弁状構造部から離れて形成されている、請求項1乃至5のうち何れか1項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項7】
前記弁状構造部は、前記流路に関して隣り合っている前記複数のチャンバーの間において各々が備えられている、請求項1乃至6のうち何れか1項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項8】
前記マイクロ流体装置は、前記少なくとも1つの磁性粒子を、磁場によって前記複数のチャンバーの中を通して動かすように適合されている磁場生成ユニットを含む、請求項1乃至7のうち何れか1項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項9】
前記磁場生成ユニットは、前記少なくとも1つの磁性粒子を遅延させるための磁場を印加するように適合されている、請求項8に記載のマイクロ流体装置。
【請求項10】
前記装置は、前記複数のチャンバーの第1チャンバーから、それに続く該複数のチャンバーの第2チャンバーまでの動作の方向が第1方向にあり、該複数のチャンバーの第2チャンバーから、それに続く該複数のチャンバーの第3チャンバーまでの動作の方向が、第2方向にあり、該第1方向及び該第2方向は異なっている、請求項1乃至9のうち何れか1項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項11】
前記マイクロ流体装置は、複数の処理モジュールを有し、各モジュールは、複数のチャンバー及び該複数のチャンバーのそれぞれの中を通って同時に動いている磁性粒子を収容するように適合された、該複数のチャンバーのそれぞれを接続するそれぞれの流路を有する、請求項1乃至10のうちいずれか1項に記載のマイクロ流体装置。
【請求項12】
共通の磁場生成ユニットが、前記複数の処理モジュールに対して備えられている、請求項11に記載のマイクロ流体装置。
【請求項13】
前記処理モジュールは同一である、請求項11又は12に記載のマイクロ流体装置。
【請求項14】
前記複数のチャンバーの個々のチャンバーは、複数の異なる化学的又は生化学的プロセスを実施するように適合されている、請求項1乃至13のうちいずれか1項に記載のマイクロ流体装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−504487(P2012−504487A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529667(P2011−529667)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054294
【国際公開番号】WO2010/041174
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】