説明

マグネシウム合金部材

【課題】接合対象同士を生産性よく接合することができ、リサイクル時に有害なガスや煤煙などが発生しないマグネシウム合金部材を提供する。
【解決手段】複数のマグネシウム合金片(基材1と補強材2、ボス3、ピン4)が、無機接合層を介して接合されている。無機接合層の具体例としては、無機系接着剤や、ホットクラッドを行う際にマグネシウム合金片に形成される金属薄膜が挙げられる。無機接合層を介してマグネシウム合金片同士を接合しているため、切削により補強材などを形成する場合に比べて、材料の無駄を省くことができる。無機接合層を用いることで、マグネシウム合金部材をリサイクルする際に溶解しても、有害な煤煙が発生したりしない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金部材に関するものである。特に、有機系材料の使用量を可及的に低減できるマグネシウム合金部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノート型パーソナルコンピュータといった携帯機器類の筐体や自動車部品などの構成材料に、軽量で比強度が高いマグネシウム合金が利用されてきている。マグネシウム合金部材では、基材に補強材を設けたり、基材に仕切りや位置決めに利用されるピンを設けることがある。
【0003】
マグネシウム合金の基材に補強材を設ける場合、切削により基材と一体の補強材を形成したり(特許文献1)、基材に補強材やピンを設ける場合、これら補強材やピンを基材に接合することが考えられる。この接合の具体的な手段としては、有機系接着シートにより補強材やピンを基材に貼り付けたり、ボルトとナットを利用して接合対象同士を接合することが挙げられる。
【0004】
【特許文献1】特開2002-018626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、切削による補強材の形成では、切削により除去されるマグネシウム合金が多いため生産効率が低くなる。また、切削屑の発生や飛散は環境や安全の面からも避けたいところである。
【0006】
一方、有機系接着シートを用いた接合では、マグネシウム合金部材をリサイクルする際、同部材を溶解すると、有害なガスや煤煙が発生するなど環境上の問題がある。
【0007】
また、ボルトとナットによる接合は、部品点数が多くなる上、接合個所が多いと、接合作業も煩雑になる。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、接合対象同士を生産性よく接合することができるマグネシウム合金部材を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、リサイクル時に有害なガスや煤煙などが発生しないマグネシウム合金部を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマグネシウム合金部材は、複数のマグネシウム合金片が、無機接合層を介して接合されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、無機接合層を介してマグネシウム合金片同士を接合しているため、切削により補強材などを形成する場合に比べて、材料の無駄を省くことができる。また、無機接合層を用いることで、マグネシウム合金部材をリサイクルする際に溶解しても、有害な煤煙が発生したりしない。さらに、ボルトとナットを用いて接合を行う場合に比べて、部品点数が多くなることもなく、かつ接合個所が多くても比較的接合作業が簡易に行える。
【0012】
本発明のマグネシウム合金部材において、前記無機接合層は、Al,Si,Cu,Fe,及びNiの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、Al,Si,Cu,Fe,及びNiの少なくとも1種を含む接合層を形成することで、接合強度と耐熱性に優れた接合を行うことができる。
【0014】
特に、前記無機接合層は、Alの酸化物及びSiの酸化物の少なくとも1種からなることが好適である。
【0015】
この構成によれば、特に高い耐熱性を有する接合層を介して板材と補強材とを接合することができる。
【0016】
本発明のマグネシウム合金部材において、接合されたマグネシウム合金片間の接合強度が100MPa以上であることが望ましい。
【0017】
この構成によれば、高い強度でマグネシウム合金片同士を接合することができる。
【0018】
本発明のマグネシウム合金部材において、接合されるマグネシウム合金片の少なくとも一つを、圧延板とすることが挙げられる。
【0019】
この構成によれば、接合対象の少なくとも一方を圧延板とすることで、鋳造材に比べて高強度で表面平滑性に優れるマグネシウム合金部材を得ることができる。
【0020】
本発明のマグネシウム合金部材において、前記圧延板が、Alを3.5質量%以上含むことが好ましい。
【0021】
この構成によれば、十分な強度と高い耐食性を有するマグネシウム合金部材とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のマグネシウム合金部材によれば、リサイクルする際に有害なガスや煤煙が発生することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
<マグネシウム合金部材>
本発明のマグネシウム合金部材における接合対象は、複数のマグネシウム合金片からなる。各合金片は、無機接合層を介して接合される。
【0024】
《接合対象》
接合対象の各々は、いずれもマグネシウム合金からなるものとする。このマグネシウム合金は、Mgに添加元素を含有した種々の組成のもの(残部:Mg及び不純物)が利用できる。例えば、Mg-Al系、Mg-Zn系、Mg-RE(希土類元素)系、Y添加合金などが挙げられる。特に、Alを含有するMg-Al系合金は、耐食性が高い。Mg-Al系合金は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg-Al-Zn系合金、Zn:0.2〜1.5質量%)、AM系合金(Mg-Al-Mn系合金、Mn:0.15〜0.5質量%)、AS系合金(Mg-Al-Si系合金、Si:0.6〜1.4質量%)、Mg-Al-RE(希土類元素)系合金などが挙げられる。Al量は、1.0〜11質量%以下、さらには3.5質量%以上が好ましく、特に、Alを8.3〜9.5質量%、Znを0.5〜1.5質量%含有し、残部がMg及び不純物からなるMg-Al系合金が好ましい。その代表例であるAZ91合金は、AZ31合金といった他のMg-Al系合金と比較して、耐食性や強度、耐塑性変形性といった機械的特性に優れる。
【0025】
このAZ91は耐食性に優れるため、筐体の内面や筐体内部に収納される部材など、外部に露出されない箇所の部材に利用する場合、塗装をしない或いは防食被膜を形成しないことも許容できることがある。塗装や防食被膜を形成しなければ、これらの形成工程を省略できる。また、塗装などをしなければ、通常、塗料などに含まれる有機溶媒も存在しないため、マグネシウム合金部材をリサイクルする際に有害なガスや煤煙が発生することも抑制できる。防食被膜には、化成被膜や陽極酸化膜が挙げられる。
【0026】
接合対象となるマグネシウム合金片同士は、同一組成又は同一系のマグネシウム合金からなることが好ましい。同一組成又は同一系のマグネシウム合金同士の接合であれば、両者の線膨張係数がほぼ同一であるため、合金片または合金部材に熱処理を施す場合でも、各合金片の膨張・収縮量に差が殆どなく、接合作業が行いやすい上、接合後も強固に接合される。
【0027】
また、接合対象となるマグネシウム合金片の製造工程は、特に限定されない。鋳造、圧延、押出、伸線などいずれであってもよい。鋳造材は、複雑形状の合金片を作製するのに好適である。圧延材は、高強度で表面平滑性に優れた平板を作製するのに好適である。押出しは、種々の断面の長尺材を作製するのに好適である。伸線は、ワイヤの作製に好適である。もちろん、この合金片は、鋳造材を圧延した圧延板、押出材を圧延した圧延板、鋳造材を押出した押出材、または鋳造材を伸線した伸線材でもよい。合金片を鋳造板とする場合、その鋳造板は、双ロール法といった連続鋳造法、特に、WO/2006/003899に記載の鋳造方法で製造した鋳造板を利用することが好ましい。合金片を圧延板とする場合、その圧延板は、例えば特開2007-98470号公報に記載の圧延方法で製造した圧延板を利用することが好ましい。
【0028】
接合対象となるマグネシウム合金片の形状は、特に限定されない。平板材、曲げ板材、円筒状、棒状、ブロック状など種々の形態が選択できる。必要に応じて、絞り加工や曲げ加工などの塑性加工や、切削又は研削加工を行うことで、より複雑な形状の接合対象としても良い。
【0029】
例えば、図1に示すように、一方の合金片をトレイ状の基材1の底面とし、他方の合金片を、前記底面を補強するL型の補強材2としたりすることが挙げられる。その他、他方の合金片として、円筒状のボス3としたり、棒状のピン4とすることも挙げられる。特に、筒状のボス3の内面に雌ねじを形成して、その雌ねじに雄ねじを螺合できるようにしてもよい。
【0030】
一方の合金片が平板状であれば、他方の合金片を安定して強固に接合しやすい。一方の合金片を板材とした場合、板材の厚さは、特に限定されないが、2.0mm以下、特に1.5mm以下、更には1mm以下が好ましい。上記範囲において厚いほど強度に優れ、薄いほど薄型・軽量な筐体に適する。マグネシウム合金部材の用途に応じて板厚を選択するとよい。
【0031】
一方の合金片が板材、他方の合金片が板材の補強材の場合、板材の長さは、補強材の長さに対して過剰に長くないことが好ましい。特に、補強材の長手方向の長さをLr、板材の補強材に沿った方向の長さをLbとしたとき、両者の長さの比Lr/Lbが0.8以上とすることが望ましい。広大な板材のごく一部に補強材を接合しても、殆ど補強機能を果たせないため、補強材で板材を補強するには、板材に対してある程度広範囲に亘って補強材が接合されている必要がある。そのため、上記比Lr/Lbを0.8以上とすることで、補強材に板材の剛性を高める補強機能を十分に持たせることができる。もちろん、板材と補強材の接合面同士は、局部的な接合でもよいが、全面に亘って接合されていることが好ましい。
【0032】
また、板材自体がある程度大きい寸法である場合に補強材を接合する必要性が高く、板材が小さければ補強する必要性が低い。そのため、板材の長さが10cm以上(板材の厚みの50倍以上)の場合に、補強材を接合することの有効性が高い。
【0033】
この補強材の形状は、板材を補強することができればよく、特に限定されない。理論上、平板状の補強材を板材に面接合しても良いが、実用上、板材と直交する方向に突出する突片を有する形状の補強材2を用いることが好ましい。代表的には、図1に示す断面がL型の長尺材の他、T型やI型の長尺材が挙げられる。特に、補強材を板材に接合した状態で、板材の表面から突出する補強材の高さが、板材の厚さの2倍以上となる部分を有する形状の補強材が好ましい。一般に、板材を鍛造するなどしただけでは、板材の厚さの2倍以上となる突片を板材に形成することは事実上不可能である。また、高さの低い突片を鍛造で成形したとしても、突片周囲の板材が局所的に薄くなる。しかし、本発明では、補強材の高さが自由に選択できるため、板材の厚さの2倍以上となる高さを有する補強材を板材に接合することで、高い補強性能を実現することができる。もちろん、補強材周辺の板材が薄くなることもない。
【0034】
これら平板状の補強材、又は断面がT型、L型やI型の補強材のいずれの場合も、板材との接合片及び突片の少なくとも一方には、必要に応じて、補強材の強度を保持できる限度で適宜な貫通孔を形成してもよい。この貫通孔の形成により補強材の軽量化を図ることができる。この貫通孔は、ねじ孔として利用しても良い。
【0035】
補強材の板材に対する配列パターンとしては、長尺の補強材を板材の長手方向に沿って連続的に接合することが好ましい。複数の短い補強材を、間隔を空けて板材に接合しても補強効果は低いが、長尺材を連続的に補強材に接合することで、良好な補強特性が得られる。
【0036】
その他、マグネシウム合金の具体例としては、図2に示すステー10が挙げられる。このステー10は、パイプ状のバー12における両端部寄りの2箇所を支持部材14で保持する構成である。このバー12と支持部材14とがマグネシウム合金で形成され、互いに接合されている。ここでの支持部材14は、バー12の円筒面に適合する円弧片14Aと、この円弧片14Aに連続するL型片14Bとからなる構成としている。このように、接合面が湾曲面であっても、何ら問題なくマグネシウム合金片同士を接合できる。
【0037】
《無機接合層》
無機接合層は、上記のマグネシウム合金片同士を接合する。この無機接合層は、実質的に無機系材料のみからなるため、有機系材料が含有されない。そのため、マグネシウム合金部材をリサイクルする際に溶融しても、有害な煤煙などが発生することがない。この無機接合層は、マグネシウム合金片の少なくとも一方と異種の材質からなる。つまり、無機接合層は、少なくとも一方のマグネシウム合金片の一部を変形させて形成しているのではない。そのため、いずれのマグネシウム合金片も接合個所近傍で薄くなったりすることがない。
【0038】
接合されたマグネシウム合金片間の接合強度は、100MPa以上、特に150MPa以上とすることが好ましい。つまり、このような接合強度が得られるような無機接合層を形成する。この接合強度は、接合部分を切り出し、接合界面の裏にあたる2面に、スタッド溶接など、接合界面以上の強度を有する接合方法で、棒もしくは板材の把持部を接合し、それら把持部同士を引っ張り試験することにより求めればよい。このような無機接合層は、例えば、後に述べる接合方法により形成される。
【0039】
《その他》
本発明のマグネシウム合金部材は、防食被膜や塗装を備えていても良い。これらの少なくとも一方を備えることで、耐食性を向上すると共に、合金部材の外観を良好にすることができる。
【0040】
特に、これら防食被膜および塗装を除くマグネシウム合金部材の重量の99%以上がマグネシウム合金からなることが好適である。この構成とすることで、無機系材料からなる接合層の過剰な増大を回避する。
【0041】
また、本発明マグネシウム合金部材を構成するマグネシウム合金の平均結晶粒径は、40μm以下とすることが好ましい。より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。このような微細な平均結晶粒径のマグネシウム合金を用いることで、マグネシウム合金片の強度、ひいてはマグネシウム合金部材の強度を向上することができる。
【0042】
<マグネシウム合金片の接合方法>
以上のようなマグネシウム合金片の接合は、無機系接着剤を用いる接着、又はホットクラッドを用いる接合を利用することが好適である。
【0043】
《無機系接着剤》
無機系接着剤には、AlやSiを含有する接着剤が挙げられる。この接着剤がマグネシウム合金片の接合後に無機接合層になる。より具体的には、Alの酸化物及びSiの酸化物の少なくとも1種を含有する接着剤が挙げられる。このような無機系接着剤は、十分な接着力を有することはもちろん、高い耐熱性を備えている。そのため、マグネシウム合金部材に、後述するように、種々の熱処理を施すことができる。
【0044】
《ホットクラッド》
ホットクラッドは、接合対象の合金片同士を加熱して押圧することで接合する。通常、接合対象となる両合金片の少なくとも一方の接合面に金属薄膜を形成しておく。この金属薄膜がマグネシウム合金片の接合後に無機接合層になる。金属薄膜は、マグネシウム合金よりも塑性変形性に優れ、酸化しにくい金属からなることが好ましい。具体的には、Cu,Fe,及びNiの少なくとも1種が挙げられる。一層あるいは複数の層からなる金属薄膜の厚みは、0.1〜10μm程度が好ましい。下限値未満では、十分な接合強度を得ることが難しく、上限値を超えても過剰に金属薄膜の厚みが増大するばかりで、接合強度を向上することが難しい。この金属薄膜の形成手段としては、めっきの他、PVDまたはCVDによる成膜が挙げられ、中でもめっきが好適である。めっきの具体的な方法は、電気めっき、無電解めっきなどが挙げられる。
【0045】
ホットクラッドを行う際の接合対象の加熱温度は、80℃以上350℃以下が好ましい。下限値未満では、マグネシウム合金片同士を接合することが難しく、上限値を超えるとマグネシウムの結晶粒の粗大化に伴う強度低下などの問題が生じる場合がある。また、圧接時の圧力は、20〜80MPa程度が好ましい。下限値未満では、十分な強度にマグネシウム合金片同士を接合することが難しく、上限値を超えても接合強度の向上が期待し難い。
【0046】
《前処理》
マグネシウム合金片同士の接合を行う前に、両接合対象に脱脂処理を施すことが好ましい。この脱脂処理により、接合対象同士を強固に接合することができる。
【0047】
<塑性加工>
マグネシウム合金片の少なくとも一方には、接合前または接合後に塑性加工を行っても良い。この塑性加工の種類は、特に限定されない。例えば、絞り成形、張り出し成形、曲げ成形などが挙げられる。
【0048】
この塑性加工を合金片同士の接合前に行う場合、接合時に合金片は比較的複雑な形状の場合が多いが、塑性加工時は合金片が比較的単純な形状であるため、塑性加工作業が行いやすく、選択できる塑性加工の種類の自由度も高い。一方、塑性加工を合金片同士の接合後に行う場合、塑性加工時に合金片同士の接合体は比較的複雑な形状の場合が多いが、接合時は合金片が比較的単純な形状であるため、接合作業が行いやすい。
【0049】
合金片同士の接合後に塑性加工を行う場合、一方の合金片のうち、他方の合金片が存在しない領域に対して塑性変形が生じるように行うことが好適である。例えば、図1に示すように、矩形の底面と、底面の各辺から立設される側面を備えるトレイ状の成形体(基材1)を作製する場合、矩形のブランク板を用い、そのブランク板のうち、成形後にトレイの底面となる箇所にのみ補強材2を接合しておけばよい。その成形の際、例えば、パンチやダイなどの成形工具は、補強材2に干渉しないように切欠を有する構成とすればよい。
【0050】
この塑性加工は、加工対象の塑性変形性を高められるように150℃〜350℃の温度域で行うことが好ましい。この規定範囲の温度にて塑性加工を行えば、加工対象に塑性変形に伴うクラックなどが生じ難い。特に、塑性加工の温度域としては、150℃〜300℃、さらには250℃〜280℃が好ましい。このような温度域であれば、塑性加工中の加工対象の強度低下を抑制することができる。
【0051】
<熱処理>
本発明のマグネシウム合金部材には熱処理を施すことが好ましい。通常、無機系接着剤には、有機溶剤や水が含まれているため、この有機溶剤や水を除去するための熱処理を行うことが好ましい。有機溶剤を除去することで、接合層を実質的に無機系材料のみで構成とすることができる。また、水を除去することで、接合層周辺の耐食性を向上できる。この熱処理温度は、マグネシウム合金片同士の接合箇所を80℃以上350℃以下とすることが好ましい。熱処理温度を80℃以上とすることで、短時間に有機溶剤や水を十分に除去することができる。また、熱処理温度を350℃以下とすることで、マグネシウム合金の軟化に伴う変形を防止し、マグネシウム合金の結晶粒径の粗大化に伴う強度低下を抑制する。さらに、上記熱処理温度に保持する熱処理時間は、長ければ十分に有機溶剤の除去が行えるが、過剰に処理時間が長いと合金部材の生産性が低下するため、30分以下、特に5分以下程度が好ましい。接合層が実質的に無機系材料のみで構成されていることは、例えば、接合層を含む接合体を加熱した際に発生するガスの有無をガスクロマトグラフィーなどで検出すれば確認できる。
【0052】
一方、マグネシウム合金片同士の接合をホットクラッドで行う場合、元々有機溶剤などは用いていないので、有機溶剤などを除去するための熱処理を省略することができる。
【0053】
その他、前記塑性加工後の成形体に、塑性加工時に生じた歪を除去するための熱処理を施してもよい。
【実施例1】
【0054】
<マグネシウム合金部材>
図3に示すように、AZ91相当又はAZ31相当の組成からなるプレス成形板の基材1にAZ91相当の組成からなる補強材2を接合して下記のサンプルを作製し、その各々についてリサイクル性、耐熱性、外観、作製時間、及び耐食性を調べた。
【0055】
このサンプルは、両端部がほぼ直角にプレス成形された[型のプレス成形板と、この成形板の上面に接合された断面がL型の補強材2並びに円筒状のボス3とからなる。ここでは、成形板の幅方向に沿って補強材2を接合している。成形板のプレス成形前の矩形板は、次のようにして得た。まず、双ロール連続鋳造法により得られた鋳造板(厚さ4mm)を複数用意した。得られた各鋳造板に、ロール温度:150〜250℃、板温度:200〜400℃、1パスあたりの圧下率を10〜50%の圧延条件で、厚さが0.5mmになるまで複数回圧延を施した。得られた圧延板に抜打ち加工を行い、プレス成形用のブランク板(板材)を用意した。この板材のサイズは、幅150mm、長さ300mm、厚さ0.5mmである。
【0056】
また、補強材2は、AZ91相当材の圧延板から厚さ0.6mm、幅10mm、長さ150mmの矩形板を打ち抜き、この矩形板をL型にプレス成形して、成形板との接合片の幅が8mm、成形板に補強材を接合した際に成形板表面から直交方向に突出する突片の高さが2mmとなるように構成した。成形板、補強材2のいずれも、プレス成形時の加工対象の温度は、280℃である。補強材2の長手方向の長さをLr、基材1の補強材2に沿った方向の長さをLbとしたとき、Lr=150mm、Lb=150mm
、両者の長さの比Lr/Lbは1.0である。成形板・補強材2のいずれにも、防食処理も塗装も行っていない。一方、ボス3はAZ91相当の組成からなる鋳造材で構成され、直径5mmφ、高さ5mmである。
【0057】
<接合方法>
上述した成形板に補強材とボスとを接合する。接合方法は以下の4種類の方法で行った。
【0058】
(1)無機系接着剤
補強材及びボスにおける成形板との接合面に無機系接着剤を塗布し、この接合面を成形板に圧接する。無機系接着剤には、スリーボンド社製の耐熱性無機接着剤スリーボンド3732を用いた。この接着剤は酸化アルミニウムを主成分としている。成形板に補強材とボスを接合した後、その接合体に熱処理を施し、無機系接着剤中の有機溶媒(アルコール系溶剤)を除去する。この熱処理は、200℃で20分とした。
【0059】
(2)有機系接着剤
補強材及びボスにおける成形板との接合面に有機系接着剤を塗布して、この接合面を成形板に圧接する。有機系接着剤はセメダイン社製110である。
【0060】
(3)スポット溶接
補強材及びボスにおける接合面を成形板の所定位置に配置し、スポット溶接を行う。ここでは、補強材の接合面に3箇所、ボスの接合面に1箇所のスポット溶接をした。
【0061】
(4)ホットクラッド
補強材及びボスに対し、電気めっきによりCuめっき及びNiストライクめっきを順次施し、この補強材及びボスのめっき形成面を成形板に約300℃の雰囲気下にて60MPaで圧接して接合する。Cuめっき及びNiストライクめっきの合計厚さは4μmである。
【0062】
<サンプル>
サンプル1-1:AZ91の矩形板を断面[型にプレス成形した後、無機系接着剤を用いて補強材及びボスをプレス成形板に接合する。
【0063】
サンプル1-2:AZ91の矩形板を断面[型にプレス成形した後、有機系接着剤を用いて補強材及びボスをプレス成形板に接合する。
【0064】
サンプル1-3:AZ91の矩形板を断面[型にプレス成形した後、スポット溶接にて補強材及びボスをプレス成形板に接合する。
【0065】
サンプル1-4:AZ91の矩形板を断面[型にプレス成形した後、ホットクラッドにて補強材及びボスをプレス成形板に接合する。
【0066】
サンプル1-5:AZ31の矩形板を断面[型にプレス成形した後、無機系接着剤を用いて補強材及びボスをプレス成形板に接合する。
【0067】
サンプル1-6:AZ61の矩形板を断面[型にプレス成形した後、無機系接着剤を用いて補強材及びボスをプレス成形板に接合する。
【0068】
<評価方法>
上記のサンプルについて、以下の評価を行う。その結果を表1に示す。
【0069】
リサイクル性:サンプルを細かく粉砕し、カーボンの坩堝に入れて、Ar雰囲気中にて溶解する。溶解の前後の組成をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析により分析し、組成の変動状態を調べる。溶解中にガスの発生に伴う異臭があったり、組成の変動があったら×、これらがなければ○とする。
【0070】
耐熱性:接合個所が含まれるように、サンプルから2cm角を切り出し、試験片とする。この試験片を150℃の環境下に100時間保持し、接合箇所の剥離の有無を調べる。剥離がなければ○、剥離があれば×とする。
【0071】
外観:サンプルの接合箇所を目視にて外観検査し、溶接こぶの有無などを調べる。溶接こぶがなければ○、あれば×とする。
【0072】
作製時間:100個のサンプルの生産時間を計測し、その時間からサンプル1個当たりのサンプルの作製時間(秒)を算出する。但し、無機系接着剤中の有機溶媒を除去する熱処理時間は長いため、サンプルの生産時間から除外する。
【0073】
耐食性:接合個所が含まれるように、サンプルから2cm角を試験片として切り出し、この試験片に24時間塩水噴霧試験を行って、腐食状況を調べる。腐食が認められなければ○、腐食が認められれば×とする。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示すように、無機系接着剤を用いたサンプル1-1は、リサイクル性、耐熱性、外観、作製時間、耐食性のいずれも良好な結果であった。無機系接着剤の硬化後の特性は、線膨張係数:75×10-7/℃、ビッカース硬度(0.2kgf):200Hvである。また、ホットクラッドを用いたサンプル1-4も、作製時間が若干サンプル1-1に比べて劣る程度であり、リサイクル性、耐熱性、外観、耐食性のいずれも良好な結果であった。一方、有機系接着剤を用いたサンプル1-2はリサイクル性と耐熱性で、スポット溶接を用いたサンプル1-3は外観で不合格となった。ここで、試験片に占めるマグネシウム合金の質量割合は、サンプル1-2(有機系接着剤)が99%未満、サンプル1-1(無機系接着剤)、サンプル1-4(ホットクラッド)が99%以上であり、サンプル1-3(スポット溶接)は100%である。さらに、試験片を構成するマグネシウム合金の平均結晶粒径は、20μm以下である。
【実施例2】
【0076】
次に、実施例1のサンプル1-1、1-4から成形板と補強材の接合個所を含む試験片を切り出し、この成形板と補強板の表面に把持部となる棒状体を溶接して、把持部を引っ張ることで剥離させ、この剥離に要する荷重を測定する。そして、この荷重を試験片における成形板と補強板との接合面積で除して接合個所の接合強度とする。試験片における成形板と補強板との接合面積は、12mm2である。その結果、接合強度はサンプル1-1が300MPa、サンプル1-4が200MPaであり、十分な強度であることが確認された。
【0077】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、本発明は上述した構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のマグネシウム合金部材は、電子機器の筐体や、産業機械・自動車などにおけるシャーシやステーなどに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】(A)は本発明実施形態に係るマグネシウム合金部材の斜視図、(B)はその断面図である。
【図2】本発明実施形態に係るステーを示す斜視図である。
【図3】実施例1に係るマグネシウム合金部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0080】
1 基材
2 補強材
3 ボス
4 ピン
10 ステー
12 バー
14 支持部材
14A 円弧片 14B L型片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマグネシウム合金片が、無機接合層を介して接合されていることを特徴とするマグネシウム合金部材。
【請求項2】
前記無機接合層は、Al,Si,Cu,Fe,及びNiの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項3】
前記無機接合層は、Alの酸化物及びSiの酸化物の少なくとも1種からなることを特徴とする請求項2に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項4】
接合されたマグネシウム合金片間の接合強度が100MPa以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項5】
接合されるマグネシウム合金片の少なくとも一つが、圧延板であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項6】
前記圧延板が、Alを3.5質量%以上含むことを特徴とする請求項5に記載のマグネシウム合金部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−125624(P2010−125624A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299755(P2008−299755)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】