説明

マグネットロール及びその製造方法

【課題】複写機やプリンター等に使われているマグネットロールには、トナー等のパターン形成材料をより均一に感光体ドラムの上に供給させることが求められていた。
【解決手段】マグネットロールの表面を構成するロール6の表面に、ロールの外表面の長手方向に略平行に形成された複数本の溝を形成することで、前記ロールの回転に伴ってトナー等が前記ロールの中央部に搬送できるため、マグネットロールを回転させた時にトナー3の画像形成材料が、マグネットロールの端部から零れることなく、ロール中央部に引き寄せられ、より均一化できるため、ドラム全体にかすれや印字ムラの少ない画像を形成することができるマグネットロールを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンター、ファクシミリなどに用いられるマグネットロールとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図12を用いてマグネットロールの使われ方について説明する。図12はマグネットロールの使われ方について説明する図であり、図12(A)はその斜視図、図12(B)は断面図に相当する。図12(A)においてドラム1とマグネットロール2の間にトナー3がセットされている。なおトナー3は2成分系の場合、キャリアと呼ばれる直径数十μmの磁性粉と、直径数μmの微細な着色トナー粒子等から形成されることが多い。次に図12(B)を用いて更に詳しく説明する。まず図12(B)に示すように、ドラム1が矢印5の方向に回転する。このとき、マグネットロール2も矢印5aのごとく回転しながら、ケース4の中のトナー3を、ドラム1の表面に付着させることになる。図12に示すように、マグネットロール2を用いてドラム1にトナー3等を供給する場合、どうしてもマグネットロール2の両端からトナー3等が零れ落ちてしまいやすい。その結果、長時間の印字を行った場合、その印字品質に影響を与える可能性があった。
【0003】
こうしたマグネットロール2はその複写プロセスの中で、特に磁気ブラシを形成して現像後の現像剤を剥離し、新しいトナー3等を供給する重要な部品である。
【0004】
発明者らは特許文献1等で、トナー搬送時に、トナーがマグネットロールの長手方向端部でのトナーの搬送量を中央部よりも少なくするマグネットロールを提案した。
【0005】
図13を用いて更に詳しく説明する。図13は発明者らが特許文献1で提案したマグネットロール2の一例を示す斜視図である。図13(A)において、ロール6Aの表面には固定溝7が形成されている。そして固定溝7の中央部8での溝幅は広目に、周辺部9での溝は狭目に形成されている。このように溝幅をロールの長手方向で変化させることで、トナー搬送時にロール6Aの端部にキャップ等を設けること無く、トナー3がロール6Aの端部より外部へ零れてしまうことを防止していた。なおマグネットロール2は、ロール6Aの内部にマグネット部品等を入れることで形成される。
【0006】
更に図13(B)を用いて詳しく説明する。図13(B)はロール6Aの外表面に規則性のある凹状パターンを設けて、更にこのパターンの密度を、前記ロールの長手方向中央部から端部にかけて徐々に小さくした例である。図13(B)に示すような固定溝7a,7bからなる凹部パターンはロール6Aを適当な保持治具に固定して、保持体の回転スピードを変えながらレーザー等で加工することで作成できる。なお図13(B)において、固定溝7aはロール6Aの表側(正面側)、固定溝7bはロール6Aの裏側に形成されたものであり、固定溝7bはロール6Aの陰で見えないことを点線にて示している。
【0007】
更に図13(B)の場合、固定溝7の角度10d(図13(B)では、ロールの長手方向に対する固定溝7の角度をそれぞれ角度10a,10b,10cとしている)が、ロール内での形成位置に変化してしまうため、ロール6Aの表面にトナー3の送りにムラが出る可能性もあった。また図13(B)の場合、固定溝7は一本の連続的なものであるので、固定溝7の一部がトナー等で詰まってしまった場合、そのトナー送りにムラが発生する可能性が考えられる。そこでその角度を小さく(つまり角度を寝かせる)することでトナーの搬送量を増加しても、固定溝7が一本のためにトナー等の搬送アップの効果が少ない可能性がある。また角度を小さくした状態で、その本数を増加しようとするとコストが発生する可能性がある。
【0008】
また角度を大きく(例えば90度)した場合、トナー等の搬送性が低下する可能性も考えられる。
【特許文献1】特開2003−186307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の構成では、ロール6A表面に形成された平行な溝の働きによってトナー3の搬送量を中央部よりも周辺部で減らすことができ、トナーのロール周辺部や端部からの零れ落ちを抑制したが、それでも場合によっては零れ落ちが発生する場合があり、ドラムへのトナー供給や印字に対する影響の可能性が有るという課題を有していた。
【0010】
本課題は上記従来の課題を解決するもので、ロールの周辺部や端部から零れ落ちるトナー量を積極的に低減し、ドラムへのトナー供給を安定化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そしてこの目的を達成するために、ロールの外表面に長手方向に略平行に形成された複数本の溝を一定の角度で曲がらせることで、マグネットロールの回転を利用しながらトナーを周辺部から中央部へ積極的に戻そうとするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマグネットロール及びその製造方法は、ロールの回転によってトナーを積極的にロールの中央部へ戻すことができるため、トナーの零れ落ちを防止すると共に、これらの印字への影響を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1におけるマグネットロール及びその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は本発明の実施の形態1におけるマグネットロールの外観図である。
【0015】
図1(A)において、11は可変溝、12は矢印、13は中央部、14は周辺部、15は末端部、16は点線である。また図1(A)の矢印12における断面図が、図1(B)に相当する。
【0016】
図1(A)において、ロール6の外表面には複数本の可変溝11が形成されており、図1(A)において可変溝11の中央部13は互いに平行でかつロール6の円周方向に垂直に形成されている。また可変溝11の左右の周辺部14は、左右側共に任意の位置において一定の角度で曲がっている。そして可変溝11は、ロール6の左右の末端部15には形成されていない。
【0017】
図1(B)は、矢印12(及び点線16で示すように)における図1(A)の断面図である。図1(B)に示すロール6の内部は空洞であり、この空洞に所定のマグネット部材(図示していない)がセットされてマグネットロールを構成する。
【0018】
図1(C)は、ロール6の表面に形成された可変溝11の断面拡大図である。図1(C)に示すように、ロール6の表面には、半円状の可変溝11が複数本形成されている。
【0019】
次に図2を用いて、本実施形態の可変溝11の効果について説明する。図2は可変溝の効果を模式的に説明する斜視図である。なお図2においてドラム等は図示していない。図2(A)に示すように本実施の形態の可変溝11が形成されたロール6を、矢印17aの方向に回転させると可変溝11の効果によって、トナー3aがあたかも箒(ほうき)で掃き寄せられるかのように、周辺部14から中央部13に搬送される。これは可変溝11のパターンによって、トナー3aに周辺部14から中央部13に向かおうとするベクトルが発生するためである。
【0020】
次に比較のために従来例として図2(B)を用いて、ロール6bに可変溝11が形成されていない場合について説明する。図2(B)においてロール6bの表面には可変溝11は形成されていない。そのためロール6bが矢印17cの方向に回転するに従って、トナー3bは中央部13から周辺部14へと矢印17dに示す方向に自然に広がっていく。その結果ロール6bの中央部13はトナー不足になる可能性がある。そしてロール6bの回転に伴い、トナー11bは周辺部14から末端部15(図2においては図示していない)へと広がって行き、最後にはロール6bの端部より外部で零れてしまう。
【0021】
なお従来の図13(A)や(B)の場合ではトナー等の掃き寄せ効果は得られにくい。また図13(A)の溝パターンの場合、図13に示したようにトナー3を周辺部9から中央部8へ向かわせるベクトルは発生しにくい。
【0022】
図1、図2では直線の組合せからなる可変溝を説明したが、可変溝は曲線から形成しても良い。そこで次に可変溝を曲線の組合せで可変溝を作成した場合について説明する。図3は複数の曲線からなる可変溝を説明する図である。図3(A)、(B)に示すようにロール6a,6cの上には可変溝11a,11bが複数本、上に凸のパターンとして形成されている。このように円弧上の複数本の溝を、ロールの外表面の長手方向に略平行して形成させてもよい。図3(A)と図3(B)の違いは可変溝11a,11bの中央部13が周辺部14に比べて細い(図3(A))、太い(図3(B))等である。このように曲線を組合せて可変溝を設計することで、ロール6の回転に伴うトナー3の搬送をより滑らかにできる。
【0023】
なお可変溝11a,11bはロール6の全周囲(360度の周囲全面)全てに形成される必要はない。例えば、ロール6の周辺に複数に分割された状態(ロール6の一部には可変溝が形成されていない部分を形成しても良い)で形成されても良い。このように可変溝11a,11bを複数に分割することで、感光性樹脂を用いて、可変溝11a,11bを形成する場合のマスクの露光時(特にフィルム状のマスクをロール6の周囲にグルグルと巻きつける場合、その巻き出しと巻き終わりがぴったり重ならない場合があり、その遊び部分に可変溝11a,11bを形成しないことができるので)の作業性を高められる。同様にエッチングレジスト等をロール6の表面に印刷する際にも、そのエッチングレジストのパターンのつなぎ部分を処理しやすくなる。
【0024】
特に図3に示すように可変溝を円弧等で形成することで、端部での内側(中央部13)へのトナー3の戻し量をコントロールしやすくなる。そして可変溝11a,11bの内部に入ったトナー3がロール6の回転に伴って、ロール6の中央部13の方向へ滑らかで安定した搬送が可能になる。また中央部13に近い側はトナーの戻し量を少な目(中央部13では角度10dを0度に近づける)にして、周辺部14に近いほどトナーの戻し量を多くする(周辺部14では次の図4で説明する角度10dを大きくする)ことも可能である。こうしてトナー量を印字面積内で均一化できるため、中央部や周辺部でのトナーの変動による画像の影響が抑えられる。
【0025】
このようにしてマグネットロールを構成するロール6の長手方向に略平行に形成された複数本の可変溝11が、前記ロールの左右両端から任意の位置より一定の角度で曲がらせることで、図2や図3に示すようにトナーを、その回転に従って、積極的にロール中央部に搬送できる。
【0026】
またこの可変溝は、図3に示すように円弧状として、これら複数本の溝を、ロールの長手方向に略平行して形成することで、その回転に従ってロール中央部に積極的に搬送できることは言うまでもない。
【0027】
(実施の形態2)
実施の形態2では、可変溝を複数本の螺旋状パターンにした場合について、図4を用いて説明する。
【0028】
図4は、複数の螺旋状パターンからなる可変溝を説明する模式図である。図4において、ロール6の外表面には、複数本からなる可変溝11が形成されている。そして、この可変溝11は、ロール6の周りに略平行に螺旋を形成する複数本が形成されている。
【0029】
このように、可変溝を螺旋状(もしくはスパイラル状)とすることで、トナー3を一方向に均一に搬送できる。また可変溝の本数を複数本としてその本数を増加することで、角度10dを小さくすることができるので、ロール6の回転(矢印17a)によるトナー3への矢印17bで示す搬送方向への運動ベクトルを大きくできるため、よりトナー3の搬送量を増加できる。更に詳しく説明する。角度10dが大きい(角度が90度に近い)場合、ロール6を矢印17aの方向に回転させても、矢印17bの方向にトナー3は搬送されにくい。一方、角度10dが小さい(例えば、60度や30度と小さい)の場合、ロール6を矢印17aの方向に回転させることで、矢印17bの方向にトナー3を搬送させやすい。また可変溝11の本数を増加することで、単位時間当たりのトナー3の搬送量を増加できる。
【0030】
また角度10dは、本マグネットロールが使われる複写機の仕様(例えば、複写速度や紙送り速度)に合わせて最適化できることは言うまでもない。
【0031】
比較のために従来例として、図13(B)の形状のロールを作成した。まずロールの表面にレジストを塗布し、これをレーザー加工機にセットし、レジスト塗布されたロールを回転させながらその上にレーザーを動かしながら照射し、一筆書きのようにして図13(B)に示す固定溝7a,7bを作成した。しかし角度10a,10b,10cとロール6の中で色々変化させても、トナー3の搬送量が限られていた。これは固定溝7a,7bが一本であるためと思われた。つまりロールが1回転(360度)しないと、固定溝7a,7bによってトナー3が搬送されないためである。そこで角度10を小さい状態で、ロール表面に複数本の固定溝7を形成しようと、再度レーザーで加工した。しかし最初の(1本目の加工溝を形成する)レーザーでレジスト除去された部分に、次の(2本目の加工溝を形成する)レーザー照射で飛散ったレジスト飛散物(ドロスと呼ばれる飛散物であり、レーザー照射で飛散ったレジスト部材)が、その近くに汚れとして再付着した。その結果、複数本の固定溝7を高精度に形成することは難しかった。そこで別の工法としてノズルからレジストを一筆書きのようにロール表面に塗布したが、作業時間が長くなった。
【0032】
以上のようにしてスパイラル状の複数本からなる可変溝11を作成し、その回転に従ってロール上のトナーを目的とする方向に積極的に搬送できる。
【0033】
(実施の形態3)
実施の形態3では、可変溝を形成する凹部の形状について更に詳しく説明する。
【0034】
図5は半円状の可変溝について説明する断面図である。図5において、18は内接円、19はV溝、20は溜まりである。まず図5(A)を用いて説明する。図5(A)は本発明の可変溝の断面図であり、ロール6の回転によってトナー3が可変溝11の中で運動する様子を模式的に示すものである。
【0035】
また図5(A)における内接円18は、可変溝11が円弧からなることを図示したものであり、可変溝11の形成する曲率(R部)が円弧であり内接円18の一部であることを模式的に示している。このように、可変溝11の断面を円弧状(あるいは内接円18のようなRのある状態、なおRは曲率の意味)とすることで、トナー3をその中に入れながら、矢印12aのようにロール6の回転と共にトナー3をスムーズに搬送させられる。
【0036】
次に従来例との比較について、V溝を例に説明する。ここでV溝とはその断面形状がV字をしているものであり、例えばロールを押し出し加工等で成形して、その表面に凹部もしくは溝を形成する場合に得られる溝形状の代表例に相当する。このようなV溝19の場合、図5(B)に示すように、トナー3bの動きが矢印12bで示すように屈曲したものになってしまう。その結果、V溝19の底にトナー3bが喰い込む場合や溜まってしまう可能性がある。またこれが溜まり20を形成し、トナー3bの搬送阻害の一要因となる可能性がある。
【0037】
一方、図5(A)に示したような本実施の形態の場合、溝の断面が円になる関係で、トナー3は矢印12aに示すようにスムーズに送られ、長時間の安定した搬送が可能となる。また溝の底が均一であり、鋭角な部分がないため、溜まり20も形成されにくい。
【0038】
また図6は可変溝11の溝幅を広くした場合について説明する断面図である。図6に示すように、可変溝11の幅を広くすることで、トナー3の搬送量を増加させられる。更に底角(底部と壁部の交わる部分に相当)にR(曲率)を形成することで、溜まり20が発生しにくい。特に図6に示すように可変溝11の底隅には、R(図では内接円18で表現)が形成されているため、矢印17が示すようにトナー3が可変溝11の中でスムーズに流動、搬送されやすい。そのためより微細で凝集性の可能性のあるトナー等を使った場合でも、長時間の安定した駆動(更には長時間での安定した微細パターンの形成)が可能となる。
【0039】
また図6における内接円18は可変溝11の底角が一定の曲率をもって形成されていることを模式的に示すものである。図6に示すように可変溝11を幅広としても、可変溝の底角に曲率を持たせることで、トナー3のスムーズな搬送が可能となる。
【0040】
なお可変溝11の幅は、0.05mm以上5mm以下が望ましい。幅が0.05mm未満の場合、トナー等に含まれる大きな粒子(例えば、キャリア)の搬送効果が得られにくい場合がある。また幅が5mmを超えると、マグネットロールの曲率に比べて溝幅が大きくなり過ぎて、搬送効果が低下する場合がある。また溝の深さは0.01mm以上0.2mm以下が望ましい。溝の深さが0.01mm未満の場合、トナー等の搬送効果が低下する場合がある。また溝の深さが0.2mmを超えると、溝が深すぎてトナー等の搬送(あるいはトナーが溝に入ったり、出たりする動作にも)に影響が現れる場合がある。
【0041】
また溝断面にR部を形成する場合、そのR部の直径は30μm以上0.02mm以下が望ましい。R部の直径が30μm未満の場合、溝にトナー等が残りやすい(もしくは出にくい)場合がある。またR部の大きさを0.02mmより大きくするのは、エッチング技術を使う場合ではコストアップする可能性がある。
【0042】
なおトナー3のもう一つの要素であるトナーの粒径は3μmから10μm程度のものを用いることが望ましい。この範囲のものは安価であり、多少粒度分布がばらついていたとしても、本発明の可変溝によってキャリア粉が搬送される以上、トナーの均一化が容易になり、より安定な印字が可能になる。
【0043】
またトナーと同時に使うキャリアとしては、粒径30μmから80μm程度のものを使うことが望ましい。この範囲のキャリアであれば、多少粒度分布がばらついたとしても、本発明の可変溝を使うことで、特に問題なく安定な印字が可能となる。
【0044】
なお高品位の印字を行うには、キャリア、トナー共により小さな、あるいは粒度分布のシャープなものを使うことが望ましい。このような部材は、凝集しやすい場合があるが、本発明のような可変溝を使うことで、凝集発生を防止しながら、より均一に搬送できる。ここで凝集防止できる理由は、キャリアやトナーが可変溝の中で搬送される(あるいは転がされる、送られる)際に、解しの効果が得られるためである。
【0045】
またロール表面に形成する可変溝の本数、角度、密度はそれぞれのプリンター用途によって最適化できる。
【0046】
なお本実施の形態のマグネットロールの直径は10mm以上から40mm以下の程度が望ましい。直径を10mm以上から40mm以下とすることで、例えばカラー機種で10から45枚機/分、モノクロでは25−105枚機/分程度に使いやすい。この場合、例えば、マグネットロールの直径を18mmで、A4を40枚/分で印字する場合、1枚の画像領域が縦297mmであり、297/(18×3.14)=210/分程度となる。以上、このような数字から、必要な可変溝の寸法やトナーの送り等を計算できる。
【0047】
(実施の形態4)
実施の形態4では、本発明でのマグネットロールの製造方法の一例について図面を用いて説明する。
【0048】
図7はロールの表面に可変溝を形成する様子を示す斜視図である。図7において、21は感光性レジスト、22は露光、23はエッチング装置である。
【0049】
まず図7(A)に示すように、ロール6を用意する。次に図7(B)に示すようにロール6の表面に感光性レジスト21を塗布する。なおロール6の左右の孔にゴムキャップ等で蓋をしておくことで、ロール6の内面(パイプの内側)に感光性レジスト21が流れ込むことを防止できる。
【0050】
次に図7(C)に示すようにして、感光性レジスト21が塗布されたロール6にマスク(図7(C)では図示していない)をセットし、その上から露光22を行う。その後、現像処理を行うことで、ロール6の上に感光性レジスト21からなる可変溝パターン(図示していない)を形成する。その後、図7(D)に示すようにして、感光性レジスト21によるパターンがその表面に形成されたロール6をエッチング装置23にセットし、ロール6の表面をエッチングする。なお図7(D)において、エッチング装置23の中のエッチング液や攪拌装置等は図示していない。またこうした工程において、ロール6の左右の孔に蓋をしておくことで、ロール6の内面への影響を抑えられる。
【0051】
ロール6にアルミを使った場合、エッチング液として塩酸(濃度1wt%から10wt%)を使うことが費用的に望ましい。濃度が1wt%未満の場合、エッチングに時間がかかりすぎる。また濃度が10wt%を超えると取扱いに注意を要する。また電解エッチング(エッチング時に電圧を印加すること)を行っても良い。その場合、塩酸濃度は1wt%から10wt%が望ましい。濃度1wt%未満の場合、エッチングに時間がかかりすぎる場合がある。また濃度10wt%を超えると取扱いに注意を要する。また電解エッチングを行う場合は、陽極側をワーク側つまりロール6とすることが望ましく、また陰極側をロール6に形状を合わせた形状(例えば円筒状)にすることで、エッチングのバラツキを抑えられる。
【0052】
またワーク(つまりロール6)を立ててエッチングすることができる。このようにワークを立てることで、発生した泡等をロール表面から逃がしやすくなり、エッチング時のバラツキを抑えられると共に、エッチング装置23に浸漬するロール6の数を増やせる。またロール6を寝かせた状態でエッチング装置にセットする場合、ロール6は必要に応じて回転させることが望ましい。回転させることで、ロール6の表面に発生した泡等の影響を受けにくくなり、エッチング時のバラツキを抑えられる。このようにして感光性レジスト21をロール6の表面全体に塗布した後、マスク(図7では図示していない)を介して、露光、現像することで、所定パターンを形成できる。
【0053】
なおエッチングレジストとして、UV硬化の樹脂を用いることができる。例えば、UV効果の樹脂ペースト等を、所定の印刷機を使ってロール6の上に直接パターン状に印刷し、これをUV硬化した後、図7(D)に示すようにしてエッチング装置23でエッチングすることで、可変溝11を形成できる。特にUV硬化のレジストインキを使うことで、熱硬性のレジストインキに比べ取扱い(特に取扱い雰囲気温度の影響が小さくなるため)が簡単となり、製造したマグネットロールのバラツキを抑えられる。また加工時間も熱硬化インキの場合は100℃〜170℃で20分〜60分の硬化時間が必要となるが、UV硬化インキの場合は1本当たり15s〜60sの硬化時間で済むので、生産性を高められる。
【0054】
またエッチング工程は、脱脂−レジスト形成−硬化−脱脂−水洗−エッチング−水洗−レジスト剥離−水洗−湯洗が望ましいが、工程によってはその一部を省くことも可能である。また脱脂剤、レジスト剥離剤としては、市販のものを使うことができる。また必要に応じて各槽に超音波装置を付けることで、各工程の処理バラツキを抑えられる。
【0055】
またエッチング液濃度の管理、不純物管理、温度管理、pH管理、電気伝導度計等を用いた管理、電解エッチング時の電流密度の管理等を行うことで、工程のバラツキを抑えられる。
【0056】
またロールとして、アルミやステンレスを切削加工したものを使う場合、その加工面(切削面)のRmaxは10μm以下と小さい方が望ましい。Rmaxが10μmより大きい場合、レジスト材料(感光性樹脂やUV硬化樹脂等)を塗布した場合、前記レジスト材料にピンホールが発生する場合がある。さらに望ましくはRmaxを5μm以下にすることが望ましい。例えばRmaxを10μm以下と小さくするためには、バフ研磨やサンドブラスト加工を行うことができる。こうした処理で、例えばRmaxを10μm以下(望ましくは5μm以下)と小さくすることで、レジスト材料の泡を減らせると共に、レジスト材料と下地との密着強度(あるいは剥離強度)を高められる。
【0057】
また溝形成部(あるいは溝の底)の表面粗さもRmaxを10μm以下にコントロールすることが望ましい。この部分の表面粗さがRmax10μm以上の場合、トナー3が汚れとして残りやすい場合がある。なおRmaxはJIS−B0601を使えるが、Rz(十点平均粗さ)に置き換えても良い。
【0058】
このようにエッチングによって溝を形成し、その表面粗さ等も最適化することで、トナー等の搬送を安定化しやすい。
【0059】
(実施の形態5)
実施の形態5では、本発明のマグネットロールに形成するパターンの一例について、図面を参照して説明する。
【0060】
図8はロール表面に文字等を入れた場合について説明する斜視図である。図8において、24は文字等である。図8(A)に示すようにロール6の表面に文字等24aを形成し、これを可変溝としても良い。また文字等24aは、図8(A)のようにロール6の長手方向に平行であっても良く、また図8(B)に示したように文字等24bは斜めであっても良い。また図1から図6で示した可変溝11に、図8(A)、(B)で示した文字等24a,24bを組合わすのも良い。また文字等24a,24bは、図8等で示すような凹状としても良いし、後述する図9(B)、図10(B)で示すような浮出し状(もしくは浮き彫り)としても良い。また文字等24は文字や数字以外に、各種記号、マーク、商標、画像、網点、写真等であっても良いことは言うまでもない。また表面に文字、数字または記号等をエッチングで形成する場合、その文字、数字または記号は任意な位置に形成しても良い。
【0061】
(実施の形態6)
実施の形態6では、可変溝の第1のバリエーションについて、図面を参照しながら説明する。
【0062】
図9は可変溝の第1のバリエーションを説明する斜視図である。図9において、25はマージン、26a,26b,26cは浮出し部である。まず図9(A)を用いて説明する。図9(A)は可変溝の第1のバリエーションを説明する斜視図であり、ロール6の表面には、短冊状の短い可変溝11cが一定の角度(例えば図4で示した角度10d等)で傾いた状態で複数個が並んだ状態で形成されている。そして図9(A)に示すように、複数の可変溝11cの列が、マージン25(もしくは一定の間隔)を保ちながら、ロール6の表面に複数列形成されている。図9(A)に示すように、可変溝11cを短冊状にして複数個をロール6の表面に並べることができる。このようにマージン25を最初から設計に入れておくことで、ロール6の周囲に形成することで、マスクを使って露光した場合でも、ロール円周長と、マスクパターンの寸法誤差を、このマージン25部分で処理(もしくは吸収)できる。また同様に印刷でレジストパターンを形成する場合でも印刷パターンのつなぎ目をこうしたマージン25部分で処理(もしくは吸収)できる。
【0063】
次に可変溝11cを反転させた場合について図9(B)を用いて説明する。図9(B)においてロール6の末端部15はエッチングされていない。そして中央部13と周辺部14は浮出し部26aを残してエッチングされている。図9(A)において可変溝11cはロール6の凹状に窪んでいる部分であるが、図9(B)においてはネガポジ(白黒逆転、もしくは凹凸反転)の関係になっている。つまり図9(B)において、図9(A)の可変溝11cの位置がエッチングされていない部分、つまり浮出し部26aとなっている。そして図9(B)の浮出し部26a以外の部分は、凹部上にエッチングで窪んでいる。図9(B)で示すように、浮出し部26aに一定の角度を付けることで、図9(B)のロール6が所定方向に回転させると、浮出し部分26aがあたかも箒(ほうき)のように、トナー3(図9では図示していない)を求める所定方向に搬送することができる。
【0064】
また図9(B)に示すように、ロール6の末端部15を浮出し部26bとする(エッチングしていない浮出し部分とする)ことで、ロール6の回転に伴って搬送したトナー3(図9(B)では図示していない)をこの浮出し部26bで止めることができ、ロール6の末端部15からロール6の外部への零れを防止できる。
【0065】
(実施の形態7)
実施の形態7では、可変溝の第2のバリエーションについて、図面を参照しながら説明する。
【0066】
図10は可変溝の第2のバリエーションを説明する斜視図である。実施の形態6(あるいは図9)と実施の形態7(あるいは図10)の違いは、可変溝11cが同じ方向を向いている(実施の形態6や図9)のと、可変溝11d,11eが異なる方向を向いている(実施の形態7や図10)点である。そして図10(A)、(B)に示すように、可変溝11d,11eをブロック状(もしくは行列や群状態)に設計して、更に各々の可変溝11d,11eを図10(A)に示すようにそれぞれ独自の方向に形成できる。
【0067】
図10(A)について更に詳しく説明する。図10(A)において、可変溝11dと可変溝11eは異なる傾き角度(図4で示した角度10dに相当)で形成されている。そして複数個の可変溝11d(図10(A)では行状に並んでいる)と、複数個の可変溝11eが形成する各々の行は、マージン25を介して、ロール6の円周方向に並んでいる。このように、可変溝11d,11eの角度を変化させることで、ロール6が回転した場合に、トナー3等(図10では図示していない)を、左右にまんべんなく搬送(もしくは攪拌)できるため、トナー3の偏りを防止でき印字品質を安定化できる作用効果が得られる。またマージン25を形成することで、ロール6の寸法バラツキと可変溝11d,11eの形成位置のバラツキを吸収できることは言うまでもない。
【0068】
更に図10(B)は、可変溝11d,11e(共に図10(A))を、浮出し部26a,26bとした場合について説明する斜視図である。図10(B)に示すように、トナー3等(図10では図示していない)を浮出し部26a,26bが、あたかもブラシのようにしてトナー3等を攪拌、搬送することができる。また図10(B)で示すように、ロール6の両端(末端部15)に、浮出し部26cを形成することで、ロール6の両端からトナー3等が零れ落ちることを防止できることは言うまでもない。
【0069】
(実施の形態8)
実施の形態8では、レジスト材料をロール上に印刷する場合について、図面を参照しながら説明する。
【0070】
図11はロール上にレジスト材料を印刷する様子を示す図である。図11において、27は印刷部、28は印刷パターンである。まず図11(A)を用いて説明する。図11(A)はロール6上にエッチング後に可変溝11を形成するためのエッチングレジストインキを印刷する様子を示す斜視図である。図11(A)において、ロール6は所定治具(図示していない)に固定された状態で、矢印17cの方向に回転する。そして印刷部27は矢印17bの方向に回転する。また印刷部27の上には所定パターンが形成されている。そして、矢印17cの方向に回転するロール6の上に、印刷部27を矢印17bの方向に回転させながら、軽くタッチさせると同時に、前記印刷部27を矢印17aの方向に送る。このとき印刷部27をロール6に対して所定角度傾けても良い。こうすることでロール6の表面に連続的に可変溝を形成するためのレジストパターン(図11(A)ではレジストパターンは図示していない)を印刷できる。このように印刷方法を工夫することで、連続印刷した場合でも、レジストパターン間のつなぎ部分を目立たなくできる。
【0071】
図11(B)は図11(A)でロール6の表面に印刷するレジストパターンの一例を、展開図として広げたものである。図11(A)と図11(B)の間を結ぶ点線16は、図11(B)が図11(A)の展開図であることを説明するものである。図11(B)のパターンを、クルクルと円柱状に巻きつけると、可変溝がエンドレス(印刷によるパターンのつなぎが目立たなく)である図11(A)のロール6が形成できる。図11(B)において、印刷パターン28が印刷部27で印刷されたレジストパターンの一例であり、図11(A)のように印刷することで、複数のレジストパターンの間に、マージン25を斜めに入れることができ、連続的な可変溝をロール6の表面に形成できる。
【0072】
なお印刷方法としては、スクリーン印刷、凸版(フレキソ印刷と呼ばれるゴム凸版も含む)、オフセット印刷(シリコン系のゴムを転写体とした転写印刷、パッド印刷等も含む)を使うことができる。またこうした印刷工法を用いることで、ロールへの可変溝の加工コストを抑えられる。
【0073】
またこうして作成したロールに、所定のマグネットやシャフト、軸受け等を組合せてマグネットロールとなる。
【0074】
また溝断面にR部を設けることで、トナー3の搬送が安定化でき、そのR部は30μm以上0.2mm以下が望ましい。
【0075】
また溝形成部の表面粗さをRmax10μm以下とすることで、トナー3の搬送が安定化できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上のように、本発明にかかるマグネットロール及びその製造方法は、その表面に形成した可変溝によってトナー等の搬送性を高められるために、ブリンターやコピー装置のより安定した印字特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(A)〜(C)は本発明の実施の形態1におけるマグネットロールの外観図及び断面図
【図2】可変溝の効果を説明する模式斜視図
【図3】複数の曲線からなる可変溝を説明する図
【図4】複数の螺旋状パターンからなる可変溝を説明する模式図
【図5】半円状の可変溝について説明する断面図
【図6】幅を広くし更に底角にRを付けた可変溝について説明する断面図
【図7】ロールの表面に可変溝を形成する様子を示す斜視図
【図8】ロール表面に文字等を入れた場合について説明する斜視図
【図9】可変溝の第1のバリエーションを説明する斜視図
【図10】可変溝の第2のバリエーションを説明する斜視図
【図11】ロール上にレジスト材料を印刷する様子を示す図
【図12】マグネットロールの使われ方について説明する図
【図13】発明者らが特開2003−186307号公報で提案したマグネットロールの一例を示す斜視図
【符号の説明】
【0078】
1 ドラム
2 マグネットロール
3 トナー
4 ケース
5 矢印
6 ロール
7 固定溝
8 中央部
9 周辺部
10 角度
11 可変溝
12 矢印
13 中央部
14 周辺部
15 末端部
16 点線
17 矢印
18 角度
19 内接円
20 溜まり
21 感光性レジスト
22 露光
23 エッチング装置
24 文字等
25 マージン
26 浮出し部
27 印刷部
28 印刷パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールの外表面長手方向に略平行に形成された複数本の溝が、前記ロールの左右両端から任意の位置より一定の角度で曲がっているマグネットロール。
【請求項2】
円弧状の複数本の溝が、ロールの外表面に略平行して形成されているマグネットロール。
【請求項3】
スパイラル状の複数本からなる溝が、ロールの外表面に略並行に形成されているマグネットロール。
【請求項4】
ロールの外表面に文字、数字または記号がエッチングで形成された請求項1から3のいずれか一つに記載のマグネットロール。
【請求項5】
溝はエッチングによって形成され、その幅は0.05mm以上5mm以下、その深さは0.01mm以上0.2mm以下である請求項1から3のいずれか一つに記載のマグネットロール。
【請求項6】
溝断面にR部を設けることを特徴とし、そのR部は30μm以上0.2mm以下である請求項5に記載のマグネットロール。
【請求項7】
溝形成部の表面粗さをRmax10μm以下であることを特徴とする請求項5に記載のマグネットロール。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載のマグネットロールを製造するに際し、先ず所定のロールの表面に所定のレジストパターンを形成し、その後、幅が0.05mm以上5mm以下、深さが0.01mm以上0.2mm以下の溝を複数本、エッチングによって形成するマグネットロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−343542(P2006−343542A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169149(P2005−169149)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】