マグネトロンスパッタリングカソード及びスパッタリング装置
【課題】 中心磁極と外周磁極の間に中間磁極を配置した磁気発生機構を備え、スパッタリングターゲットの局所的な侵食を低減させ、使用効率を大幅に向上させたマグネトロンスパッタリングカソードを提供する。
【解決手段】 ターゲット表面の磁束密度について、領域A内で中心磁極12からターゲット端部への垂直磁束密度が−50〜+50ガウスの範囲で連続する長さを短辺長さの0.07倍以上に調整する。また、領域Aの長辺方向の中央での中心磁極12からターゲット端部への水平磁束密度の絶対値の極小値を両端での水平磁束密度の絶対値の極小値の0.95〜1.4倍の範囲とし、領域Bの短辺方向の中央での中心磁極12の水平磁束密度の絶対値を垂直磁束密度の絶対値の0.4倍以下とする。
【解決手段】 ターゲット表面の磁束密度について、領域A内で中心磁極12からターゲット端部への垂直磁束密度が−50〜+50ガウスの範囲で連続する長さを短辺長さの0.07倍以上に調整する。また、領域Aの長辺方向の中央での中心磁極12からターゲット端部への水平磁束密度の絶対値の極小値を両端での水平磁束密度の絶対値の極小値の0.95〜1.4倍の範囲とし、領域Bの短辺方向の中央での中心磁極12の水平磁束密度の絶対値を垂直磁束密度の絶対値の0.4倍以下とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタリングカソード、特にスパッタリングターゲットの使用効率の向上を図ったマグネトロンスパッタリングカソード、及びそのマグネトロンスパッタリングカソードを備えたスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマグネトロンスパッタリングカソードは、図1に示すように、ハウジング4とハウジングカバー5で形成された筐体内に磁気発生機構を備える構造になっている。そして、上記磁気発生機構は、略矩形状又は長円形状の外周磁極1の内側に、外周磁極1の長辺方向に沿って略平行に配置された中心磁極2及び必要に応じて中間磁極(図示せず)を備えると共に、これらの磁極を表面に設けた磁気ヨーク6を備えている。
【0003】
ハウジング4の下側面は絶縁部品7を介してアースシールド8に固定され、ハウジング4の上端側のハウジングカバー5にはバッキングプレート9が固定されている。ハウジング4とハウジングカバー5の間にはOリングが配置され、マグネトロンスパッタリングカソード内の気密性を保持すると同時に、マグネトロンスパッタリングカソードが配されるスパッタリング成膜装置の真空チャンバー内の気密性向上に寄与している。
【0004】
スパッタリングターゲット10は、バッキングプレート9を介して、公知のボルトや固着チャックによりハウジングカバー5上に取り付けられている。ハウジングカバー5とバッキングプレート9の間には冷却水が循環する冷却水ジャケットが設けられ、スパッタリング成膜の際にスパッタリングターゲット10を冷却するようになっている。尚、冷却水が真空チャンバー内に流出することを防止するため、ハウジングカバー5とバッキングプレート9の間にもOリングが配置されている。
【0005】
上記構成を有するマグネトロンスパッタリングカソードは、真空チャンバー内にスパッタリングターゲットを成膜用基材表面に対向させて配置される。成膜の際には、これらを配設した真空チャンバー内を真空にしてプロセスガスとしてArガスを導入する。この状態でスパッタリングターゲットに電圧を印加すると、スパッタリングターゲットから放出された電子によりArガスがイオン化し、このイオン化されたArガスがスパッタリングターゲットの表面に衝突してターゲット物質がたたき出され、このターゲット物質が基材表面に堆積することにより薄膜が形成される。
【0006】
その際、スパッタリングターゲットの表面にポロイダル磁場が発生し、スパッタリングターゲットには通常マイナス数百ボルトの電圧が印加される一方で周辺はアース電位に保たれており、この電位差によりスパッタリングターゲットの表面に直交電磁場が生ずる。スパッタリングターゲットの表面から放出された二次電子は、スパッタリングターゲットの表面上の直交電磁場に垂直な方向にサイクロイド軌道を描きながら運動する。この間にArガスと衝突してエネルギーの一部を失った電子は直交電磁場中をトロコイド運動し、ポロイダル磁場の中をドリフトして移動する。
【0007】
この間に電子は再度Arガスと衝突し、Ar+e−→Ar++2e−で示されるように、α作用によりArイオンと電子を生成する。生成したArイオンは、シース領域に拡散すると負に印加したスパッタリングターゲットに向かって急激に加速される。数百eVの運動エネルギーを持ったArイオンがスパッタリングターゲットに衝突すると、スパッタリングターゲットをスパッタすると共にγ作用により二次電子を放出する。以上の現象がなだれ状に発生することによって、プラズマが維持される。
【0008】
従来のマグネトロンスパッタカソードでは、トロコイド軌道を描きながらE(電場)×B(磁場)ドリフトをして移動する電子は、図2に示すように、磁力線(矢印で図示)がスパッタリングターゲット10と水平になる部分(磁力線の山の頂点)、即ち磁力線が電場と直交する部分に集中しやすく、この部分が高電子密度領域となる。これは、磁力線が電場と直交していない領域では、電子はトロコイド軌道を描きながらドリフトをして移動するが、電場はスパッタリングターゲット表面の法線方向であるため、−eEの力により徐々に磁力線の山の頂点に移動して、結果的に磁力線の山の頂点部分に電子が集中しやすいからである。
【0009】
このようにして形成される高電子密度領域にArイオンも集中するため、この領域にスパッタリングが集中してスパッタリングターゲット10が部分的に侵食され、図2に示すようにV字型のエロージョン(侵食)が形成される。更に、このV字の底の部分はより磁石に近くなるため、磁場が強く電子を集中しやすくなる一方、V字の傾斜部分では電場もスパッタリングターゲット10の形状に倣って傾斜するため、磁力線が電場と直交する領域は非常に狭い範囲(V字の底の部分)に限られてくる。そのため、局所的に侵食される部分がスパッタリングターゲット10の消費と共に顕著になる結果、スパッタリングターゲットの使用効率は非常に低く、一般的に20%以下である。
【0010】
ところで、スパッタリングターゲット表面の磁束密度を測定した場合、磁力線がスパッタリングターゲット表面と水平になる領域は、磁束密度の垂直成分がゼロのところに対応する。そのため、スパッタリングターゲットの使用効率を向上させる方策として、磁束密度の垂直成分がゼロに近い領域を広くすることで、エロージョンが局所的にならない工夫がされている。その方法として、例えば特許文献1〜3には、磁気発生機構に補正用の磁石を組み込む技術やヨークを組み込む技術が記載されている。
【0011】
しかしながら、これらの方法では、エロージョンの局所的な進行を防ぐには十分ではなく、スパッタリングターゲットの使用効率を向上させることは難しかった。例えば、エロージョンが形成される領域のターゲット表面における磁束密度の垂直成分が半径方向のいずれの場所でみても同様の形状になるように、補正用の磁石やヨークを組み込んだO字型(小判型)の磁気発生機構があるが、エロージョンの内側より外側の方が侵食されやすくなり使用効率の向上は少ない。これは、O字型のポロイダル磁場空間を電子がドリフトして移動する場合、直線部分からコーナー部分に移行する領域で電子が外側に移動しやすいためと考えられる。
【0012】
また、特許文献4には、磁気発生機構の全体又は一部を移動あるいは回転させる技術が開示されている。この技術によればエロージョンの局所的な進行を防ぐことができるが、磁気発生機構とは別に磁気発生機構の全体又は一部を移動あるいは回転させる機構が必要であるため、構造が極めて複雑になるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平02−034780号公報
【特許文献2】特開平06−021041号公報
【特許文献3】特開平05−025625号公報
【特許文献4】特公平06−069026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、中心磁極と外周磁極の間に補正用の中間磁極を配置した磁気発生機構において、スパッタリングターゲットの局所的な侵食を低減させ、使用効率を大幅に向上させることが可能なマグネトロンスパッタリングカソードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明が提供するマグネトロンスパッタリングカソードは、略矩形状の外周磁極と、該外周磁極の内側に長辺方向xに略平行で且つ短辺方向yの略中央に配置された中心磁極と、該外周磁極と該中心磁極の間に両者に略平行に且つ対をなして1対以上配置された中間磁極とを、磁気ヨークの表面に設けた磁気発生機構を備え、該磁気発生機構を覆う位置にスパッタリングターゲットが装着された構造を有すると共に、スパッタリングターゲット表面の磁場を領域毎に変えることで、スパッタリングターゲット表面の磁束密度が下記条件1〜3を満たすことを特徴とするものである。
【0016】
上記本発明によるマグネトロンスパッタリングカソードにおいて、そのスパッタリングターゲット表面の磁束密度が満たすべき条件1〜3は次の通りである。
<条件1>:磁気発生機構の長辺方向xにおいて中心磁極の両端から外周磁極の短辺の磁極の長さ×1/2の位置より内側の領域A内で、短辺方向yでの中心磁極からターゲット端部への垂直磁束密度が−50ガウス〜+50ガウスの範囲で連続する長さが、磁気発生機構の短辺長さの0.07倍以上である。
<条件2>:前記領域Aの長辺方向xの中央での短辺方向yにおける中心磁極からターゲット端部への水平磁束密度の絶対値の極小値が、領域Aの両端での短辺方向yにおける中心磁極からターゲット端部への水平磁束密度の絶対値の極小値の0.95〜1.4倍の範囲にある。
<条件3>:長辺方向xの両端から外周磁極の短辺の磁極の長さ×1/4までの領域Bにおいて、短辺方向yの中央での中心磁極の長辺方向xにおける水平磁束密度の絶対値が、中心磁極の中央での垂直磁束密度の絶対値の0.4倍以下である。
【0017】
更に、本発明は、上記本発明によるマグネトロンスパッタリングカソードを真空チャンバー内に備えることを特徴とするスパッタリング装置を提供する。この本発明のスパッタリング装置は、長尺基材をロールトゥロール方式で搬送しながら該長尺基材の表面にスパッタリングを施すスパッタリング装置において、前記マグネトロンスパッタリングカソードの磁気発生機構の長辺方向xが前記長尺基材の幅方向に略平行となるように配置されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スパッタリングターゲットの局所的な侵食の発生を低減して全体的に侵食させることが可能となるため、スパッタリングターゲットの使用効率の大幅な向上を図ることができる。具体的には、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードは、40%以上のスパッタリングターゲットの使用効率を達成することができる。
【0019】
従って、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードを使用することによって、スパッタリングによる成膜コストの低減を図ることができるうえ、スパッタリングターゲットの交換周期を長く取ることができるので、スパッタリングターゲット交換のために真空チャンバーを開く頻度が減り、外部から真空チャンバー内への異物侵入のリスクを減じることができるので、スパッタリング成膜した製品の品質の向上にもつながる。
【0020】
更には、V字状のエロージョンにより使用不能となるスパッタリングターゲットを減らすことも可能となる。使用不能となった金属のスパッタリングターゲットは溶解して再生することも可能であるが、再生には多くのエネルギーが必要であることから、使用不能なスパッタリングターゲットを減らすことはエネルギー消費を節約し且つ廃棄物を減らす効果も生むため、経済的に極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の一般的なマグネトロンスパッタリングカソードを示す短辺方向からの概略の断面図である。
【図2】従来のマグネトロンスパッタリングカソードにおける磁力線と高電子密度領域及びスパッタリングターゲットのエロージョンの関係を示す概略の断面図である。
【図3】本発明のマグネトロンスパッタリングカソードの一具体例を示す短辺方向からの概略の断面図である。
【図4】本発明のマグネトロンスパッタリングカソードにおける磁気発生機構の一具体例を示す短辺方向からの概略の断面図である。
【図5】本発明のマグネトロンスパッタリングカソードの磁気発生機構における磁極の配置の一具体例を示す概略の平面図である。
【図6】本発明の条件1〜3を満たさないO字型のマグネトロンスパッタリングカソードの磁極の配置と磁束の観測位置を示す概略の平面図である。
【図7】本発明のマグネトロンスパッタリングカソードの一具体例における磁極の配置と磁束の観測位置を示す概略の平面図である。
【図8】マグネトロンスパッタリングカソードを備えたロールツーロール方式のスパッタリング装置を示す概略の断面図である。
【図9】実施例1のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインaでの磁束密度を示すグラフである。
【図10】実施例1のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインbでの磁束密度を示すグラフである。
【図11】実施例1のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインcでの磁束密度を示すグラフである。
【図12】実施例1のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるスパッタリングターゲットのエロージョンを示す概略の断面図である。
【図13】実施例2のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインaでの磁束密度を示すグラフである。
【図14】実施例2のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインbでの磁束密度を示すグラフである。
【図15】実施例2のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインcでの磁束密度を示すグラフである。
【図16】比較例2のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるスパッタリングターゲットのエロージョンを示す概略の断面図である。
【図17】比較例3のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるスパッタリングターゲットのエロージョンを示す概略の断面図である。
【図18】比較例5のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるスパッタリングターゲットのエロージョンを示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のマグネトロンスパッタリングカソードは、図3に一具体例を示すように、略矩形状の外周磁極11と、外周磁極11の内側に長辺方向に略平行に且つ短辺方向の略中央に配置された中心磁極12と、外周磁極11と中心磁極12の間に両者に略平行に且つ対をなして1対以上配置された中間磁極13とを、磁気ヨーク6の表面に設けた磁気発生機構を備え、磁気発生機構を覆う位置にスパッタリングターゲット10を装着した構造を有している。尚、外周磁極11、中心磁極12及び中間磁極13としては、磁気発生機構に通常用いられている希土類磁石などを使用することができる。
【0023】
上記マグネトロンスパッタリングカソードにおけるハウジング4は、絶縁部品7を介してアースシールド8に固定されている。また、ハウジング4とハウジングカバー5の間にはOリングが配置され、マグネトロンスパッタリングカソード内の気密性を保持すると共に、マグネトロンスパッタリングカソードが配置されるスパッタリング成膜装置の真空チャンバー内の気密性向上に寄与している。
【0024】
また、スパッタリングターゲット10は、バッキングプレート9を介してハウジングカバー5上に取り付けられ、結果的に磁気発生機構を覆う位置に配置されている。ハウジングカバー5とバッキングプレート9の間には冷却水が循環する冷却水ジャケットが設けられ、スパッタリングの際にスパッタリングターゲット10を冷却するようになっている。尚、ハウジングカバー5とバッキングプレート9の間にもOリングが配置され、冷却水が真空チャンバー内に流出することを防止している。
【0025】
本発明のマグネトロンスパッタリングカソードにおける磁気発生機構は、図4に一具体例を示すように、略矩形の外周磁極11と中心磁極12の間に両者に略平行に配置した1対以上の中間磁極13を備え、中心磁極12の上方側をS極とすれば、これを囲む略矩形の外周磁極11の上方側はN極となる。外周磁極11と中心磁極12の間に配置された中間磁極13は、図4の具体例では中心磁極12に近い側の磁極の上方側をN極に、外周磁極11に近い側の磁極の上方側をS極としたが、外周磁極11及び中心磁極12と順序があっていればN極とS極の関係は逆であってもよい。
【0026】
スパッタリングターゲット表面の磁束密度が上記した条件1〜3を満たすように制御するため、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードでは、磁気発生機構の各磁極を、例えば図5に示すように配置することが望ましい。即ち、略矩形の外周磁極11が長辺方向xを一致させて配置した中心磁極12と中間磁極13を取り囲み、短辺方向yにおける外周磁極11の略中央に中心磁極12が配置され、短辺方向yにおける外周磁極11と中心磁極12の間にそれぞれ1対以上の中間磁極13が配置されている。また、中心磁極12と中間磁極13の長辺方向xの中央は、外周磁極11の長辺方向xの中央と短辺方向yの同一線上に位置するように配置する。
【0027】
また、外周磁極11の長辺の磁極、中心磁極12、中間磁極13の各磁極は、図5に示すように、外周磁極11の長辺方向xの両端からそれぞれ外周磁極11の短辺の磁極の長さ以上で短辺の磁極の長さの1.5倍までの範囲内の任意の分割位置で、中央部と両端部の3つのユニットに分割されていることが望ましい。即ち、外周磁極11の長辺の磁極、中心磁極12、中間磁極13の各磁極は、それぞれが3分割される分割位置が長辺方向xで略同じ位置にあり、中央の分割分割磁極ユニットの長さも略同じである。このように3分割することで、外周磁極11、中心磁極12、中間磁極13の各分割磁極ユニットを、それぞれ法線方向の位置を変えたり磁石の強さを変えたりすることによって、部分的に望ましい磁場とすることができる。
【0028】
上記磁気発生機構の上に、バッキングプレート9と矩形のスパッタリングターゲット10とを順に配置することにより、本発明による略矩形のマグネトロンスパッタリングカソードを構成することができる。この磁気発生機構を備える本発明のマグネトロンスパッタリングカソードは、スパッタリングターゲット表面の磁束密度に関する上記条件1〜3を備えることが必要である。
【0029】
次に、スパッタリングカソード表面の磁束密度に関する上記条件1〜3について詳しく説明する。まず、<条件1>として、図5に示す磁気発生機構の長辺方向xにおいて中心磁極12の両端から外周磁極11の短辺の磁極の長さ×1/2にあたる距離aの位置より内側の領域A内で、短辺方向yでの中心磁極12からカソード端部への垂直磁束密度Bzが−50ガウス〜+50ガウスの範囲で連続する長さが、磁気発生機構の短辺長さの0.07倍以上であることを満たす必要がある。
【0030】
上記垂直磁束密度Bzが−50ガウス〜+50ガウスの範囲で連続する長さを磁気発生機構の短辺の長さ、即ちスパッタリングターゲット10の短辺の長さの0.07倍以上とするのは、スパッタリングターゲット10の面方向に広がる楕円状のポロイダル磁場の範囲を広くするためである。中心磁極12上と外周磁極11上の垂直磁束密度Bzは、スパッタリングターゲット10上を電子がトロコイド軌道を描きながらE(電場)×B(磁場)ドリフトして移動するのに充分な磁束密度を持ちつつ、中心磁極12から外周磁極11の間に垂直磁束密度Bzが−50ガウス〜+50ガウスで連続する範囲ができる限り広がることが理想的であり、そのためには上記垂直磁束密度Bzが−50ガウス〜+50ガウスで連続する範囲はスパッタリングターゲット10の短辺の長さの0.3倍以下であることが好ましい。
【0031】
この条件1は、略矩形の外周磁極11と中心磁極12の間に1対以上の中間磁極13を挿入し、これら外周磁極11、中心磁極12、及び中間磁極13の材質と形状及び配置を適切にすることによって満たすことができる。
【0032】
次の<条件2>では、領域Aの長辺方向xの中央での短辺方向yにおける中心磁極12からターゲット端部への水平磁束密度Byの絶対値の極小値が、領域Aの両端での短辺方向yにおける中心磁極12からターゲット端部への水平磁束密度Byの絶対値の極小値の0.95〜1.4倍の範囲にあることを満たす必要がある。
【0033】
即ち、水平磁束密度Byを絶対値で表したときに谷となる部分の値を比較したとき、ターゲット端部での値を中央部での値の0.95〜1.4倍の範囲とする。この割合が0.95より小さくなった場合には、エロージョンの形状が変化する。例えば、電子はポロイダル磁場空間をドリフトして移動しているが、直線移動領域から曲線移動領域に移行するあたりでスパッタリングターゲットの掘れ方が少なくなり、膜厚分布が不均一になる。一方、上記割合が1.4より大きくなるにつれて、中央部と端部でのスパッタリングターゲットの掘れ方の差が大きくなるため使用効率が低下する。
【0034】
この条件2を満たすためには、外周磁極11の長辺の磁極、中心磁極12及び中間磁極13について、長辺方向xにおける中央部の磁場を両端部の磁場より弱めることが有効である。そのための手段としては、上述したように外周磁極11の長辺の磁極と、中心磁極12及び中間磁極13を長辺方向xに沿って3つのユニットに分割し、中央部の分割磁極ユニットの磁極について、その高さを低くするか又はサイズを小さくする、あるいは弱い磁石を用いる等の方法がある。また、中間磁極13で調整する場合は、中央部の分割磁極ユニットの磁場を両端部の分割磁極ユニットよりも強くすること、中央部の分割磁極ユニットの高さを両端部の分割磁極ユニットよりも高くするか又はサイズを大きくし、あるいは強い磁石を用いる等の方法がある。
【0035】
最後の<条件3>として、磁気発生機構の長辺方向xの両端から外周磁極11の短辺の磁極の長さ×1/4までの領域Bにおいて、短辺方向yの中央での中心磁極12の長辺方向xにおける水平磁束密度Bxの絶対値が、中心磁極12の中央での垂直磁束密度Bzの絶対値の0.4倍以下であることを満たす必要がある。
【0036】
上記領域Bでの水平磁束密度Bxが中心磁極12の中央での垂直磁束密度Bzの0.4倍を超えると、B領域でスパッタリングターゲットが局所的に侵食されやすくなるだけでなく、電子の直線移動領域に相当する部分でも外側が掘れやすくなる傾向にある。ただし、領域Bの水平磁束密度Bxを極端に弱くすると、圧力によってはプラズマのインピーダンスが高くなり、放電を維持することが困難になる場合がある。そのため望ましくは、上記B領域での短辺方向中央での中心磁極12の水平磁束密度Bxの絶対値を中央での垂直磁束密度Bzの0〜0.4倍の範囲とする。
【0037】
本発明のマグネトロンスパッタリングカソードが上記条件1〜3を満たしやすい構成として、外周磁極と中心磁極及び中間磁極は更に以下の関係を有することが望ましい。まず、図5において、外周磁極11の長辺の磁極の長さは、短辺の磁極の長さの2倍以上であること、また、中心磁極12の長さは、外周磁極11の長辺の磁極の長さと短辺の磁極の長さの差の0.6〜1.1倍であることが好ましい。
【0038】
また、各中間磁極13の長さが外周磁極11の長辺の磁極の長さより短く且つ中央磁極12の長さよりも長く配置されると共に、各中間磁極13と中央磁極12の中央が外周磁極11の長辺の磁極の中央と揃えて配置されていることが好ましい。更に、長辺方向xにおける各中間磁極13と中心磁極12の長さの関係は、中心磁極12が最も短く、各中間磁極13は中心磁極12に近いほど短くなっていることが好ましい。
【0039】
また、磁気発生機構の各中間磁極13の長さは、外周磁極11の長辺の磁極の長さと短辺の磁極の長さの差の0.8〜1.2倍であることが好ましい。各中間磁極の長さが上記の関係を満たすことにより、磁気発生機構が上記条件1〜3を満たしやすくなる。更に、対をなす各中間磁極13の長さは、外周磁極11に近い磁極が中心磁極12に近い磁極より長くてもよいし略同じ長さでもよい。尚、中間磁極13の各磁極の長さが異なっていても、上記した関係を満たすことが望ましい。
【0040】
更に、外周磁極11、中心磁極12及び中間磁極13の短辺方向yの間隔は、次の関係になることが望ましい。即ち、中心磁極12と中間磁極13のうち中心磁極12側の磁極との間隔をA、各中間磁極12の間隔をB、中間磁極13の中心磁極12側の磁極と外周磁極11の間隔をCとするとき、B/A=0.6〜0.8及びC/A=0.7〜0.9であることが好ましい。
【0041】
磁束密度の関係では、外周磁極11の長辺方向xにおける中央部の垂直磁束密度は、その両端部に対して30%以内の範囲で弱くすることが望ましい。また、中心磁極12の中央部の垂直磁束密度も、その両端部に対して30%以内の範囲で弱くすることが望ましい。このように外周磁極11の長辺方向xの垂直磁束密度に差を生じさせることと、中心磁極12も外周磁極11と同様に垂直磁束密度に差を生じさせることは、連動させる必要はなく、上記条件1〜3の達成が可能であれば外周磁極11のみ垂直磁束密度に差を生じさることもできる。
【0042】
更に、上記条件1〜3を満たすために、中間磁極13の中央部の水平磁束密度は、その両端に対して−15%〜+15%の範囲となるように調整することが好ましい。また、外周磁極11の長辺の磁極の中央部における垂直磁束密度は、中心磁極12の中央部における垂直磁束密度の0.5〜0.7倍とすることが望ましい。このとき、中間磁極13は上記条件1〜3を満たす磁石を選択すればよく、また外周磁極11の短辺の磁極の垂直磁束密度は長辺の端部の磁極の垂直磁束密度の50%以上の範囲で小さいことが望ましい。
【0043】
ところで、上記条件1〜3を満たさない磁気発生機構を備えた従来のマグネトロンスパッタリングカソードの一例として、例えば図6に示すように、法線方向から見た磁極の配置(点線で示す)がO字型(小判型)の磁気発生機構がある。尚、磁束を観測した位置をラインe、ラインf、ラインgで示す。このO字型の磁気発生機構では、外周磁極1と1対の中間磁極3が中心磁極2を囲み、各磁極間の間隔は略一定となるように配置されている。
【0044】
このような磁極の配置をした場合、スパッタリングターゲット上の中心磁極2から外周磁極1へ向かう磁束密度は、ラインe、ラインf、ラインgのどの位置でも略同じであり、ポロイダル磁場の大きさ及び形状も略同じである。この磁場の中をO字型のレーストラック状にドリフトする電子の運動は略同じ箇所を回転し、スパッタリングターゲット上の電子のドリフト運動は外周磁極1に沿って略同じ位置を運動し続ける。
【0045】
このような電子の運動から、スパッタリングターゲットの略同じところばかりが彫れてしまう問題が生じ、前述したようにスパッタリングターゲットには図2に示すV字状のエロージョンが生じて使用効率は向上しない。即ち、スパッタリングターゲット上の電子のドリフト運動は略同じ場所をレーストラック状に回転するので、スパッタリングターゲットの彫られる箇所も略同じ場所に集中してV字状のエロージョンが生じるのである。
【0046】
一方、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードの磁気発生機構は、上記した条件1〜3を満たす磁極の配置、例えば図5に示す配置を有している。この図5に示す磁極の配置では、中心磁極12から外周磁極11へ向かう磁束密度は図7に示すラインa、ラインb、ラインc、ラインdで異なり、各ラインでのポロイダル磁場はスパッタリングターゲット方向に広がった楕円状で大きさ形状も異なる。
【0047】
この磁場の中での電子の運動は、スパッタリングターゲット上を周回するようにドリフト運動するが、各ラインa、b、c、dでのポロイダル磁場の形状が異なることから、スパッタリングターゲット上での電子のドリフト運動の経路はO字型のレーストラック状で且つレーストラックの幅が広くなる。その結果、上記図6の配置に比べてスパッタリングターゲット上の広範囲の領域で電子が運動するためエロージョンが局在化し難く、スパッタリングターゲットの局所的な侵食の発生が抑えられる。
【0048】
上記した本発明のマグネトロンスパッタリングカソードは、ロールトゥロール方式で搬送される長尺基材の表面にスパッタリングを施すスパッタリング装置の真空チャンバー内に配置して使用される。例えば、マグネトロンスパッタリング装置では、図8に示すように、減圧した真空チャンバー15内において、長尺基材である樹脂フィルムFを巻出ロール16から巻出し、ガイドロールや冷却ドラム17で搬送して巻取ロール18に巻取りながら、マグネトロンスパッタリングカソード19a、19b、19cにより樹脂フィルムFの表面に成膜される。
【0049】
尚、マグネトロンスパッタリングカソード19a、19b、19cは、それぞれスパッタリングターゲット10a、10b、10cを冷却ドラム17に対向させて配置し、その長辺方向は長尺の樹脂フィルムFの幅方向と略平行に配置されている。また、冷却ドラム17の内部には真空チャンバー15の外部から供給される冷却水等の冷媒が供給され、成膜の際に樹脂フィルムFを冷却するようになっている。更に、隣接するマグネトロンスパッタリングカソード19aと19b、19bと19cの間には、スパッタリング粒子の混入や成膜雰囲気ガスの混入を防ぐための仕切板20、20が配置してある。
【実施例】
【0050】
ロールトゥロール方式のマグネトロンスパッタリング装置において、長尺基材としてポリイミドフィルムを搬送しながらスパッタリングによる成膜を実施した。マグネトロンスパッタリングカソードのターゲット材料には銅を用い、真空チャンバー内を到達圧力5.0×10−4Paまで真空引き後、圧力が0.4PaとなるようにArガスを導入して、スパッタリングにより成膜を行った。
【0051】
下記実施例1〜3で用いたマグネトロンスパッタリングカソードは、図3に示すように、スパッタリングターゲット10をボンディングしたバッキングプレート9の裏面側に冷却水ジャケットを備えたハウジングカバー5を配置し、更にその裏面側に磁気発生機構が配置されている。磁気発生機構は、矩形の外周磁極11の内側に中心磁極12を備え、外周磁極11と中心磁極12の間に各1対の中間磁極13が挿入されている。尚、これらの外周磁極11、中心磁極12及び中間磁極13の極性は図4に示すようになっている。
【0052】
上記マグネトロンスパッタリングカソードは、長辺と短辺の比が5:1である。各磁極の長辺方向における長さの比は、外周磁極:中心磁極=1.2:1、中間磁極の外周側の磁極:外周磁極=0.9:1、中間磁極の外周側の磁極:中間磁極の中心磁極側の磁極=1.1:1である。これら各磁極の間隔は、中間磁極のうち中心磁極側の磁極と外周磁極の短辺の磁極との間隔をA、1対の中間磁極の間隔をB、中間磁極のうち外周磁極側の磁極と外周磁極の間隔をCとしたとき、A/B/C=1/0.7/1であった。
【0053】
更に、外周磁極の長辺方向の磁極及び中心磁極と中間磁極は、両端部と中央部の3つのユニットに分割した。外周磁極の長辺方向における磁極の両端部と中央部を分割する分割位置は、両端から長辺方向における長さで20%までを両端部とした。また、中心磁極及び中間磁極を分割する位置は、外周磁極の長辺方向における分割位置に揃えた。このように3分割された各分割磁極ユニットは長辺方向に沿って磁極が7列並んで配置され、いずれのユニットも高さ方向の位置を調整できる機構を備えている。
【0054】
[実施例1]
上記外周磁極の中央部の分割磁極ユニットの高さを両端部の分割磁極ユニットよりも2mm低く設置してスパッタリングを行った。この外周磁極の長辺方向の中央部での垂直磁束密度は、両端部の垂直磁束密度の80%であった。
【0055】
また、このときのスパッタリングターゲット表面の磁場分布は図9及び図10のようになり、条件1に関して領域Aで垂直磁束密度が−50〜+50ガウスで連続する長さは約20mmであり、条件2に関して谷部での磁束密度の絶対値の比は1.05となった。また、条件3に関しては、領域Bで中心磁極の長辺方向における水平磁束密度の絶対値が中央での垂直磁束密度の0.34倍となった。
【0056】
また、図11に示すように、領域Bでの水平磁束密度は250ガウス以下であり、図7に示すX−Xにおけるターゲット断面は図12のようになった。このときの、スパッタリングターゲットの使用効率は51%であった。上記した条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を、下記表1にまとめて示した。
【0057】
[実施例2]
外周磁極の分割磁極ユニットの高さを中央部と両端部で同一にし、中間磁極の中央部の分割磁極ユニットの高さを両端部より1mm高くして設置したこと以外は上記実施例1と同様にしてスパッタリングを行った。この中間磁極の中央部での水平磁束密度は、両端部の水平磁束密度の97%であった。
【0058】
このときのスパッタリングターゲット表面の磁場分布は図13及び図14のようになり、条件1に関して垂直磁束密度が−50〜+50ガウスで連続する長さは約20mmであった。条件2の谷部での磁束密度の絶対値の比は1.2となり、条件3については領域Bで中心磁極の長辺方向における水平磁束密度の絶対値が中央での垂直磁束密度の0.36倍となった。更に、図15に示すように、領域Bでの水平磁束密度は250ガウス以下であり、スパッタリングターゲットの使用効率は48%であった。上記条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0059】
[比較例1]
図1に示す従来の磁気発生機構を用いてスパッタリングを実施した。ターゲットの断面形状は図2のようになり、ターゲットの使用効率は18%であった。上記条件1〜3に関する値(ただし、条件2には該当しない)並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0060】
[比較例2]
図6に示すO字型の磁気発生機構を用いてスパッタリングを実施した。図6に示すY―Yでのターゲット断面は図16のようになった。エロージョンの外側の部分で局所的に侵食されており、ターゲット使用効率は25%であった。上記条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0061】
[比較例3]
長辺方向の2対の中間磁極について、中央部の分割磁極ユニットの高さを両端部より2mm低くして設置した。中間磁極の中央部水平磁束密度は、両端部の120%であった。尚、中間磁極以外の各磁極では高さの調整は行わなかった。
【0062】
条件2での谷部での磁束密度の比は0.9であった。図7に示すX―X線でのターゲット断面は図17のようになり、ターゲット使用効率は30%であった。また、フィルムの端部の膜厚が減少し、膜厚分布が不均一になった。上記条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0063】
[比較例4]
長辺方向の2対の中間磁極について、中央部の分割磁極ユニットの高さを両端部より3mm高くして設置したこと以外は上記実施例1と同様にしてスパッタリングを行った。このとき中間磁極の中央部の水平磁束密度は両端部の80%であり、条件2の谷部での磁束密度の比は1.5であった。また、スパッタリングターゲット使用効率は33%であった。上記条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0064】
[比較例5]
外周磁極の短辺の磁極サイズを大きくしたところ、領域BでのBxの絶対値が300ガウスになるところがあった。図7に示すX―X線でのターゲット断面は図18のようになり、このときターゲット使用効率は32%であった。上記条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0065】
【表1】
【符号の説明】
【0066】
1、11 外周磁極
2、12 中心磁極
4 ハウジング
5 ハウジングカバー
6 磁気ヨーク
7 絶縁部品
8 アースシールド
9 バッキングプレート
10 スパッタリングターゲット
13 中間磁極
15 真空チャンバー
16 巻出ロール
17 冷却ロール
18 巻取ロール
19a、19b、19c マグネトロンスパッタリングカソード
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタリングカソード、特にスパッタリングターゲットの使用効率の向上を図ったマグネトロンスパッタリングカソード、及びそのマグネトロンスパッタリングカソードを備えたスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマグネトロンスパッタリングカソードは、図1に示すように、ハウジング4とハウジングカバー5で形成された筐体内に磁気発生機構を備える構造になっている。そして、上記磁気発生機構は、略矩形状又は長円形状の外周磁極1の内側に、外周磁極1の長辺方向に沿って略平行に配置された中心磁極2及び必要に応じて中間磁極(図示せず)を備えると共に、これらの磁極を表面に設けた磁気ヨーク6を備えている。
【0003】
ハウジング4の下側面は絶縁部品7を介してアースシールド8に固定され、ハウジング4の上端側のハウジングカバー5にはバッキングプレート9が固定されている。ハウジング4とハウジングカバー5の間にはOリングが配置され、マグネトロンスパッタリングカソード内の気密性を保持すると同時に、マグネトロンスパッタリングカソードが配されるスパッタリング成膜装置の真空チャンバー内の気密性向上に寄与している。
【0004】
スパッタリングターゲット10は、バッキングプレート9を介して、公知のボルトや固着チャックによりハウジングカバー5上に取り付けられている。ハウジングカバー5とバッキングプレート9の間には冷却水が循環する冷却水ジャケットが設けられ、スパッタリング成膜の際にスパッタリングターゲット10を冷却するようになっている。尚、冷却水が真空チャンバー内に流出することを防止するため、ハウジングカバー5とバッキングプレート9の間にもOリングが配置されている。
【0005】
上記構成を有するマグネトロンスパッタリングカソードは、真空チャンバー内にスパッタリングターゲットを成膜用基材表面に対向させて配置される。成膜の際には、これらを配設した真空チャンバー内を真空にしてプロセスガスとしてArガスを導入する。この状態でスパッタリングターゲットに電圧を印加すると、スパッタリングターゲットから放出された電子によりArガスがイオン化し、このイオン化されたArガスがスパッタリングターゲットの表面に衝突してターゲット物質がたたき出され、このターゲット物質が基材表面に堆積することにより薄膜が形成される。
【0006】
その際、スパッタリングターゲットの表面にポロイダル磁場が発生し、スパッタリングターゲットには通常マイナス数百ボルトの電圧が印加される一方で周辺はアース電位に保たれており、この電位差によりスパッタリングターゲットの表面に直交電磁場が生ずる。スパッタリングターゲットの表面から放出された二次電子は、スパッタリングターゲットの表面上の直交電磁場に垂直な方向にサイクロイド軌道を描きながら運動する。この間にArガスと衝突してエネルギーの一部を失った電子は直交電磁場中をトロコイド運動し、ポロイダル磁場の中をドリフトして移動する。
【0007】
この間に電子は再度Arガスと衝突し、Ar+e−→Ar++2e−で示されるように、α作用によりArイオンと電子を生成する。生成したArイオンは、シース領域に拡散すると負に印加したスパッタリングターゲットに向かって急激に加速される。数百eVの運動エネルギーを持ったArイオンがスパッタリングターゲットに衝突すると、スパッタリングターゲットをスパッタすると共にγ作用により二次電子を放出する。以上の現象がなだれ状に発生することによって、プラズマが維持される。
【0008】
従来のマグネトロンスパッタカソードでは、トロコイド軌道を描きながらE(電場)×B(磁場)ドリフトをして移動する電子は、図2に示すように、磁力線(矢印で図示)がスパッタリングターゲット10と水平になる部分(磁力線の山の頂点)、即ち磁力線が電場と直交する部分に集中しやすく、この部分が高電子密度領域となる。これは、磁力線が電場と直交していない領域では、電子はトロコイド軌道を描きながらドリフトをして移動するが、電場はスパッタリングターゲット表面の法線方向であるため、−eEの力により徐々に磁力線の山の頂点に移動して、結果的に磁力線の山の頂点部分に電子が集中しやすいからである。
【0009】
このようにして形成される高電子密度領域にArイオンも集中するため、この領域にスパッタリングが集中してスパッタリングターゲット10が部分的に侵食され、図2に示すようにV字型のエロージョン(侵食)が形成される。更に、このV字の底の部分はより磁石に近くなるため、磁場が強く電子を集中しやすくなる一方、V字の傾斜部分では電場もスパッタリングターゲット10の形状に倣って傾斜するため、磁力線が電場と直交する領域は非常に狭い範囲(V字の底の部分)に限られてくる。そのため、局所的に侵食される部分がスパッタリングターゲット10の消費と共に顕著になる結果、スパッタリングターゲットの使用効率は非常に低く、一般的に20%以下である。
【0010】
ところで、スパッタリングターゲット表面の磁束密度を測定した場合、磁力線がスパッタリングターゲット表面と水平になる領域は、磁束密度の垂直成分がゼロのところに対応する。そのため、スパッタリングターゲットの使用効率を向上させる方策として、磁束密度の垂直成分がゼロに近い領域を広くすることで、エロージョンが局所的にならない工夫がされている。その方法として、例えば特許文献1〜3には、磁気発生機構に補正用の磁石を組み込む技術やヨークを組み込む技術が記載されている。
【0011】
しかしながら、これらの方法では、エロージョンの局所的な進行を防ぐには十分ではなく、スパッタリングターゲットの使用効率を向上させることは難しかった。例えば、エロージョンが形成される領域のターゲット表面における磁束密度の垂直成分が半径方向のいずれの場所でみても同様の形状になるように、補正用の磁石やヨークを組み込んだO字型(小判型)の磁気発生機構があるが、エロージョンの内側より外側の方が侵食されやすくなり使用効率の向上は少ない。これは、O字型のポロイダル磁場空間を電子がドリフトして移動する場合、直線部分からコーナー部分に移行する領域で電子が外側に移動しやすいためと考えられる。
【0012】
また、特許文献4には、磁気発生機構の全体又は一部を移動あるいは回転させる技術が開示されている。この技術によればエロージョンの局所的な進行を防ぐことができるが、磁気発生機構とは別に磁気発生機構の全体又は一部を移動あるいは回転させる機構が必要であるため、構造が極めて複雑になるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平02−034780号公報
【特許文献2】特開平06−021041号公報
【特許文献3】特開平05−025625号公報
【特許文献4】特公平06−069026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、中心磁極と外周磁極の間に補正用の中間磁極を配置した磁気発生機構において、スパッタリングターゲットの局所的な侵食を低減させ、使用効率を大幅に向上させることが可能なマグネトロンスパッタリングカソードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明が提供するマグネトロンスパッタリングカソードは、略矩形状の外周磁極と、該外周磁極の内側に長辺方向xに略平行で且つ短辺方向yの略中央に配置された中心磁極と、該外周磁極と該中心磁極の間に両者に略平行に且つ対をなして1対以上配置された中間磁極とを、磁気ヨークの表面に設けた磁気発生機構を備え、該磁気発生機構を覆う位置にスパッタリングターゲットが装着された構造を有すると共に、スパッタリングターゲット表面の磁場を領域毎に変えることで、スパッタリングターゲット表面の磁束密度が下記条件1〜3を満たすことを特徴とするものである。
【0016】
上記本発明によるマグネトロンスパッタリングカソードにおいて、そのスパッタリングターゲット表面の磁束密度が満たすべき条件1〜3は次の通りである。
<条件1>:磁気発生機構の長辺方向xにおいて中心磁極の両端から外周磁極の短辺の磁極の長さ×1/2の位置より内側の領域A内で、短辺方向yでの中心磁極からターゲット端部への垂直磁束密度が−50ガウス〜+50ガウスの範囲で連続する長さが、磁気発生機構の短辺長さの0.07倍以上である。
<条件2>:前記領域Aの長辺方向xの中央での短辺方向yにおける中心磁極からターゲット端部への水平磁束密度の絶対値の極小値が、領域Aの両端での短辺方向yにおける中心磁極からターゲット端部への水平磁束密度の絶対値の極小値の0.95〜1.4倍の範囲にある。
<条件3>:長辺方向xの両端から外周磁極の短辺の磁極の長さ×1/4までの領域Bにおいて、短辺方向yの中央での中心磁極の長辺方向xにおける水平磁束密度の絶対値が、中心磁極の中央での垂直磁束密度の絶対値の0.4倍以下である。
【0017】
更に、本発明は、上記本発明によるマグネトロンスパッタリングカソードを真空チャンバー内に備えることを特徴とするスパッタリング装置を提供する。この本発明のスパッタリング装置は、長尺基材をロールトゥロール方式で搬送しながら該長尺基材の表面にスパッタリングを施すスパッタリング装置において、前記マグネトロンスパッタリングカソードの磁気発生機構の長辺方向xが前記長尺基材の幅方向に略平行となるように配置されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スパッタリングターゲットの局所的な侵食の発生を低減して全体的に侵食させることが可能となるため、スパッタリングターゲットの使用効率の大幅な向上を図ることができる。具体的には、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードは、40%以上のスパッタリングターゲットの使用効率を達成することができる。
【0019】
従って、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードを使用することによって、スパッタリングによる成膜コストの低減を図ることができるうえ、スパッタリングターゲットの交換周期を長く取ることができるので、スパッタリングターゲット交換のために真空チャンバーを開く頻度が減り、外部から真空チャンバー内への異物侵入のリスクを減じることができるので、スパッタリング成膜した製品の品質の向上にもつながる。
【0020】
更には、V字状のエロージョンにより使用不能となるスパッタリングターゲットを減らすことも可能となる。使用不能となった金属のスパッタリングターゲットは溶解して再生することも可能であるが、再生には多くのエネルギーが必要であることから、使用不能なスパッタリングターゲットを減らすことはエネルギー消費を節約し且つ廃棄物を減らす効果も生むため、経済的に極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の一般的なマグネトロンスパッタリングカソードを示す短辺方向からの概略の断面図である。
【図2】従来のマグネトロンスパッタリングカソードにおける磁力線と高電子密度領域及びスパッタリングターゲットのエロージョンの関係を示す概略の断面図である。
【図3】本発明のマグネトロンスパッタリングカソードの一具体例を示す短辺方向からの概略の断面図である。
【図4】本発明のマグネトロンスパッタリングカソードにおける磁気発生機構の一具体例を示す短辺方向からの概略の断面図である。
【図5】本発明のマグネトロンスパッタリングカソードの磁気発生機構における磁極の配置の一具体例を示す概略の平面図である。
【図6】本発明の条件1〜3を満たさないO字型のマグネトロンスパッタリングカソードの磁極の配置と磁束の観測位置を示す概略の平面図である。
【図7】本発明のマグネトロンスパッタリングカソードの一具体例における磁極の配置と磁束の観測位置を示す概略の平面図である。
【図8】マグネトロンスパッタリングカソードを備えたロールツーロール方式のスパッタリング装置を示す概略の断面図である。
【図9】実施例1のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインaでの磁束密度を示すグラフである。
【図10】実施例1のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインbでの磁束密度を示すグラフである。
【図11】実施例1のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインcでの磁束密度を示すグラフである。
【図12】実施例1のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるスパッタリングターゲットのエロージョンを示す概略の断面図である。
【図13】実施例2のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインaでの磁束密度を示すグラフである。
【図14】実施例2のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインbでの磁束密度を示すグラフである。
【図15】実施例2のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるラインcでの磁束密度を示すグラフである。
【図16】比較例2のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるスパッタリングターゲットのエロージョンを示す概略の断面図である。
【図17】比較例3のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるスパッタリングターゲットのエロージョンを示す概略の断面図である。
【図18】比較例5のマグネトロンスパッタリングカソードにおけるスパッタリングターゲットのエロージョンを示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のマグネトロンスパッタリングカソードは、図3に一具体例を示すように、略矩形状の外周磁極11と、外周磁極11の内側に長辺方向に略平行に且つ短辺方向の略中央に配置された中心磁極12と、外周磁極11と中心磁極12の間に両者に略平行に且つ対をなして1対以上配置された中間磁極13とを、磁気ヨーク6の表面に設けた磁気発生機構を備え、磁気発生機構を覆う位置にスパッタリングターゲット10を装着した構造を有している。尚、外周磁極11、中心磁極12及び中間磁極13としては、磁気発生機構に通常用いられている希土類磁石などを使用することができる。
【0023】
上記マグネトロンスパッタリングカソードにおけるハウジング4は、絶縁部品7を介してアースシールド8に固定されている。また、ハウジング4とハウジングカバー5の間にはOリングが配置され、マグネトロンスパッタリングカソード内の気密性を保持すると共に、マグネトロンスパッタリングカソードが配置されるスパッタリング成膜装置の真空チャンバー内の気密性向上に寄与している。
【0024】
また、スパッタリングターゲット10は、バッキングプレート9を介してハウジングカバー5上に取り付けられ、結果的に磁気発生機構を覆う位置に配置されている。ハウジングカバー5とバッキングプレート9の間には冷却水が循環する冷却水ジャケットが設けられ、スパッタリングの際にスパッタリングターゲット10を冷却するようになっている。尚、ハウジングカバー5とバッキングプレート9の間にもOリングが配置され、冷却水が真空チャンバー内に流出することを防止している。
【0025】
本発明のマグネトロンスパッタリングカソードにおける磁気発生機構は、図4に一具体例を示すように、略矩形の外周磁極11と中心磁極12の間に両者に略平行に配置した1対以上の中間磁極13を備え、中心磁極12の上方側をS極とすれば、これを囲む略矩形の外周磁極11の上方側はN極となる。外周磁極11と中心磁極12の間に配置された中間磁極13は、図4の具体例では中心磁極12に近い側の磁極の上方側をN極に、外周磁極11に近い側の磁極の上方側をS極としたが、外周磁極11及び中心磁極12と順序があっていればN極とS極の関係は逆であってもよい。
【0026】
スパッタリングターゲット表面の磁束密度が上記した条件1〜3を満たすように制御するため、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードでは、磁気発生機構の各磁極を、例えば図5に示すように配置することが望ましい。即ち、略矩形の外周磁極11が長辺方向xを一致させて配置した中心磁極12と中間磁極13を取り囲み、短辺方向yにおける外周磁極11の略中央に中心磁極12が配置され、短辺方向yにおける外周磁極11と中心磁極12の間にそれぞれ1対以上の中間磁極13が配置されている。また、中心磁極12と中間磁極13の長辺方向xの中央は、外周磁極11の長辺方向xの中央と短辺方向yの同一線上に位置するように配置する。
【0027】
また、外周磁極11の長辺の磁極、中心磁極12、中間磁極13の各磁極は、図5に示すように、外周磁極11の長辺方向xの両端からそれぞれ外周磁極11の短辺の磁極の長さ以上で短辺の磁極の長さの1.5倍までの範囲内の任意の分割位置で、中央部と両端部の3つのユニットに分割されていることが望ましい。即ち、外周磁極11の長辺の磁極、中心磁極12、中間磁極13の各磁極は、それぞれが3分割される分割位置が長辺方向xで略同じ位置にあり、中央の分割分割磁極ユニットの長さも略同じである。このように3分割することで、外周磁極11、中心磁極12、中間磁極13の各分割磁極ユニットを、それぞれ法線方向の位置を変えたり磁石の強さを変えたりすることによって、部分的に望ましい磁場とすることができる。
【0028】
上記磁気発生機構の上に、バッキングプレート9と矩形のスパッタリングターゲット10とを順に配置することにより、本発明による略矩形のマグネトロンスパッタリングカソードを構成することができる。この磁気発生機構を備える本発明のマグネトロンスパッタリングカソードは、スパッタリングターゲット表面の磁束密度に関する上記条件1〜3を備えることが必要である。
【0029】
次に、スパッタリングカソード表面の磁束密度に関する上記条件1〜3について詳しく説明する。まず、<条件1>として、図5に示す磁気発生機構の長辺方向xにおいて中心磁極12の両端から外周磁極11の短辺の磁極の長さ×1/2にあたる距離aの位置より内側の領域A内で、短辺方向yでの中心磁極12からカソード端部への垂直磁束密度Bzが−50ガウス〜+50ガウスの範囲で連続する長さが、磁気発生機構の短辺長さの0.07倍以上であることを満たす必要がある。
【0030】
上記垂直磁束密度Bzが−50ガウス〜+50ガウスの範囲で連続する長さを磁気発生機構の短辺の長さ、即ちスパッタリングターゲット10の短辺の長さの0.07倍以上とするのは、スパッタリングターゲット10の面方向に広がる楕円状のポロイダル磁場の範囲を広くするためである。中心磁極12上と外周磁極11上の垂直磁束密度Bzは、スパッタリングターゲット10上を電子がトロコイド軌道を描きながらE(電場)×B(磁場)ドリフトして移動するのに充分な磁束密度を持ちつつ、中心磁極12から外周磁極11の間に垂直磁束密度Bzが−50ガウス〜+50ガウスで連続する範囲ができる限り広がることが理想的であり、そのためには上記垂直磁束密度Bzが−50ガウス〜+50ガウスで連続する範囲はスパッタリングターゲット10の短辺の長さの0.3倍以下であることが好ましい。
【0031】
この条件1は、略矩形の外周磁極11と中心磁極12の間に1対以上の中間磁極13を挿入し、これら外周磁極11、中心磁極12、及び中間磁極13の材質と形状及び配置を適切にすることによって満たすことができる。
【0032】
次の<条件2>では、領域Aの長辺方向xの中央での短辺方向yにおける中心磁極12からターゲット端部への水平磁束密度Byの絶対値の極小値が、領域Aの両端での短辺方向yにおける中心磁極12からターゲット端部への水平磁束密度Byの絶対値の極小値の0.95〜1.4倍の範囲にあることを満たす必要がある。
【0033】
即ち、水平磁束密度Byを絶対値で表したときに谷となる部分の値を比較したとき、ターゲット端部での値を中央部での値の0.95〜1.4倍の範囲とする。この割合が0.95より小さくなった場合には、エロージョンの形状が変化する。例えば、電子はポロイダル磁場空間をドリフトして移動しているが、直線移動領域から曲線移動領域に移行するあたりでスパッタリングターゲットの掘れ方が少なくなり、膜厚分布が不均一になる。一方、上記割合が1.4より大きくなるにつれて、中央部と端部でのスパッタリングターゲットの掘れ方の差が大きくなるため使用効率が低下する。
【0034】
この条件2を満たすためには、外周磁極11の長辺の磁極、中心磁極12及び中間磁極13について、長辺方向xにおける中央部の磁場を両端部の磁場より弱めることが有効である。そのための手段としては、上述したように外周磁極11の長辺の磁極と、中心磁極12及び中間磁極13を長辺方向xに沿って3つのユニットに分割し、中央部の分割磁極ユニットの磁極について、その高さを低くするか又はサイズを小さくする、あるいは弱い磁石を用いる等の方法がある。また、中間磁極13で調整する場合は、中央部の分割磁極ユニットの磁場を両端部の分割磁極ユニットよりも強くすること、中央部の分割磁極ユニットの高さを両端部の分割磁極ユニットよりも高くするか又はサイズを大きくし、あるいは強い磁石を用いる等の方法がある。
【0035】
最後の<条件3>として、磁気発生機構の長辺方向xの両端から外周磁極11の短辺の磁極の長さ×1/4までの領域Bにおいて、短辺方向yの中央での中心磁極12の長辺方向xにおける水平磁束密度Bxの絶対値が、中心磁極12の中央での垂直磁束密度Bzの絶対値の0.4倍以下であることを満たす必要がある。
【0036】
上記領域Bでの水平磁束密度Bxが中心磁極12の中央での垂直磁束密度Bzの0.4倍を超えると、B領域でスパッタリングターゲットが局所的に侵食されやすくなるだけでなく、電子の直線移動領域に相当する部分でも外側が掘れやすくなる傾向にある。ただし、領域Bの水平磁束密度Bxを極端に弱くすると、圧力によってはプラズマのインピーダンスが高くなり、放電を維持することが困難になる場合がある。そのため望ましくは、上記B領域での短辺方向中央での中心磁極12の水平磁束密度Bxの絶対値を中央での垂直磁束密度Bzの0〜0.4倍の範囲とする。
【0037】
本発明のマグネトロンスパッタリングカソードが上記条件1〜3を満たしやすい構成として、外周磁極と中心磁極及び中間磁極は更に以下の関係を有することが望ましい。まず、図5において、外周磁極11の長辺の磁極の長さは、短辺の磁極の長さの2倍以上であること、また、中心磁極12の長さは、外周磁極11の長辺の磁極の長さと短辺の磁極の長さの差の0.6〜1.1倍であることが好ましい。
【0038】
また、各中間磁極13の長さが外周磁極11の長辺の磁極の長さより短く且つ中央磁極12の長さよりも長く配置されると共に、各中間磁極13と中央磁極12の中央が外周磁極11の長辺の磁極の中央と揃えて配置されていることが好ましい。更に、長辺方向xにおける各中間磁極13と中心磁極12の長さの関係は、中心磁極12が最も短く、各中間磁極13は中心磁極12に近いほど短くなっていることが好ましい。
【0039】
また、磁気発生機構の各中間磁極13の長さは、外周磁極11の長辺の磁極の長さと短辺の磁極の長さの差の0.8〜1.2倍であることが好ましい。各中間磁極の長さが上記の関係を満たすことにより、磁気発生機構が上記条件1〜3を満たしやすくなる。更に、対をなす各中間磁極13の長さは、外周磁極11に近い磁極が中心磁極12に近い磁極より長くてもよいし略同じ長さでもよい。尚、中間磁極13の各磁極の長さが異なっていても、上記した関係を満たすことが望ましい。
【0040】
更に、外周磁極11、中心磁極12及び中間磁極13の短辺方向yの間隔は、次の関係になることが望ましい。即ち、中心磁極12と中間磁極13のうち中心磁極12側の磁極との間隔をA、各中間磁極12の間隔をB、中間磁極13の中心磁極12側の磁極と外周磁極11の間隔をCとするとき、B/A=0.6〜0.8及びC/A=0.7〜0.9であることが好ましい。
【0041】
磁束密度の関係では、外周磁極11の長辺方向xにおける中央部の垂直磁束密度は、その両端部に対して30%以内の範囲で弱くすることが望ましい。また、中心磁極12の中央部の垂直磁束密度も、その両端部に対して30%以内の範囲で弱くすることが望ましい。このように外周磁極11の長辺方向xの垂直磁束密度に差を生じさせることと、中心磁極12も外周磁極11と同様に垂直磁束密度に差を生じさせることは、連動させる必要はなく、上記条件1〜3の達成が可能であれば外周磁極11のみ垂直磁束密度に差を生じさることもできる。
【0042】
更に、上記条件1〜3を満たすために、中間磁極13の中央部の水平磁束密度は、その両端に対して−15%〜+15%の範囲となるように調整することが好ましい。また、外周磁極11の長辺の磁極の中央部における垂直磁束密度は、中心磁極12の中央部における垂直磁束密度の0.5〜0.7倍とすることが望ましい。このとき、中間磁極13は上記条件1〜3を満たす磁石を選択すればよく、また外周磁極11の短辺の磁極の垂直磁束密度は長辺の端部の磁極の垂直磁束密度の50%以上の範囲で小さいことが望ましい。
【0043】
ところで、上記条件1〜3を満たさない磁気発生機構を備えた従来のマグネトロンスパッタリングカソードの一例として、例えば図6に示すように、法線方向から見た磁極の配置(点線で示す)がO字型(小判型)の磁気発生機構がある。尚、磁束を観測した位置をラインe、ラインf、ラインgで示す。このO字型の磁気発生機構では、外周磁極1と1対の中間磁極3が中心磁極2を囲み、各磁極間の間隔は略一定となるように配置されている。
【0044】
このような磁極の配置をした場合、スパッタリングターゲット上の中心磁極2から外周磁極1へ向かう磁束密度は、ラインe、ラインf、ラインgのどの位置でも略同じであり、ポロイダル磁場の大きさ及び形状も略同じである。この磁場の中をO字型のレーストラック状にドリフトする電子の運動は略同じ箇所を回転し、スパッタリングターゲット上の電子のドリフト運動は外周磁極1に沿って略同じ位置を運動し続ける。
【0045】
このような電子の運動から、スパッタリングターゲットの略同じところばかりが彫れてしまう問題が生じ、前述したようにスパッタリングターゲットには図2に示すV字状のエロージョンが生じて使用効率は向上しない。即ち、スパッタリングターゲット上の電子のドリフト運動は略同じ場所をレーストラック状に回転するので、スパッタリングターゲットの彫られる箇所も略同じ場所に集中してV字状のエロージョンが生じるのである。
【0046】
一方、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードの磁気発生機構は、上記した条件1〜3を満たす磁極の配置、例えば図5に示す配置を有している。この図5に示す磁極の配置では、中心磁極12から外周磁極11へ向かう磁束密度は図7に示すラインa、ラインb、ラインc、ラインdで異なり、各ラインでのポロイダル磁場はスパッタリングターゲット方向に広がった楕円状で大きさ形状も異なる。
【0047】
この磁場の中での電子の運動は、スパッタリングターゲット上を周回するようにドリフト運動するが、各ラインa、b、c、dでのポロイダル磁場の形状が異なることから、スパッタリングターゲット上での電子のドリフト運動の経路はO字型のレーストラック状で且つレーストラックの幅が広くなる。その結果、上記図6の配置に比べてスパッタリングターゲット上の広範囲の領域で電子が運動するためエロージョンが局在化し難く、スパッタリングターゲットの局所的な侵食の発生が抑えられる。
【0048】
上記した本発明のマグネトロンスパッタリングカソードは、ロールトゥロール方式で搬送される長尺基材の表面にスパッタリングを施すスパッタリング装置の真空チャンバー内に配置して使用される。例えば、マグネトロンスパッタリング装置では、図8に示すように、減圧した真空チャンバー15内において、長尺基材である樹脂フィルムFを巻出ロール16から巻出し、ガイドロールや冷却ドラム17で搬送して巻取ロール18に巻取りながら、マグネトロンスパッタリングカソード19a、19b、19cにより樹脂フィルムFの表面に成膜される。
【0049】
尚、マグネトロンスパッタリングカソード19a、19b、19cは、それぞれスパッタリングターゲット10a、10b、10cを冷却ドラム17に対向させて配置し、その長辺方向は長尺の樹脂フィルムFの幅方向と略平行に配置されている。また、冷却ドラム17の内部には真空チャンバー15の外部から供給される冷却水等の冷媒が供給され、成膜の際に樹脂フィルムFを冷却するようになっている。更に、隣接するマグネトロンスパッタリングカソード19aと19b、19bと19cの間には、スパッタリング粒子の混入や成膜雰囲気ガスの混入を防ぐための仕切板20、20が配置してある。
【実施例】
【0050】
ロールトゥロール方式のマグネトロンスパッタリング装置において、長尺基材としてポリイミドフィルムを搬送しながらスパッタリングによる成膜を実施した。マグネトロンスパッタリングカソードのターゲット材料には銅を用い、真空チャンバー内を到達圧力5.0×10−4Paまで真空引き後、圧力が0.4PaとなるようにArガスを導入して、スパッタリングにより成膜を行った。
【0051】
下記実施例1〜3で用いたマグネトロンスパッタリングカソードは、図3に示すように、スパッタリングターゲット10をボンディングしたバッキングプレート9の裏面側に冷却水ジャケットを備えたハウジングカバー5を配置し、更にその裏面側に磁気発生機構が配置されている。磁気発生機構は、矩形の外周磁極11の内側に中心磁極12を備え、外周磁極11と中心磁極12の間に各1対の中間磁極13が挿入されている。尚、これらの外周磁極11、中心磁極12及び中間磁極13の極性は図4に示すようになっている。
【0052】
上記マグネトロンスパッタリングカソードは、長辺と短辺の比が5:1である。各磁極の長辺方向における長さの比は、外周磁極:中心磁極=1.2:1、中間磁極の外周側の磁極:外周磁極=0.9:1、中間磁極の外周側の磁極:中間磁極の中心磁極側の磁極=1.1:1である。これら各磁極の間隔は、中間磁極のうち中心磁極側の磁極と外周磁極の短辺の磁極との間隔をA、1対の中間磁極の間隔をB、中間磁極のうち外周磁極側の磁極と外周磁極の間隔をCとしたとき、A/B/C=1/0.7/1であった。
【0053】
更に、外周磁極の長辺方向の磁極及び中心磁極と中間磁極は、両端部と中央部の3つのユニットに分割した。外周磁極の長辺方向における磁極の両端部と中央部を分割する分割位置は、両端から長辺方向における長さで20%までを両端部とした。また、中心磁極及び中間磁極を分割する位置は、外周磁極の長辺方向における分割位置に揃えた。このように3分割された各分割磁極ユニットは長辺方向に沿って磁極が7列並んで配置され、いずれのユニットも高さ方向の位置を調整できる機構を備えている。
【0054】
[実施例1]
上記外周磁極の中央部の分割磁極ユニットの高さを両端部の分割磁極ユニットよりも2mm低く設置してスパッタリングを行った。この外周磁極の長辺方向の中央部での垂直磁束密度は、両端部の垂直磁束密度の80%であった。
【0055】
また、このときのスパッタリングターゲット表面の磁場分布は図9及び図10のようになり、条件1に関して領域Aで垂直磁束密度が−50〜+50ガウスで連続する長さは約20mmであり、条件2に関して谷部での磁束密度の絶対値の比は1.05となった。また、条件3に関しては、領域Bで中心磁極の長辺方向における水平磁束密度の絶対値が中央での垂直磁束密度の0.34倍となった。
【0056】
また、図11に示すように、領域Bでの水平磁束密度は250ガウス以下であり、図7に示すX−Xにおけるターゲット断面は図12のようになった。このときの、スパッタリングターゲットの使用効率は51%であった。上記した条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を、下記表1にまとめて示した。
【0057】
[実施例2]
外周磁極の分割磁極ユニットの高さを中央部と両端部で同一にし、中間磁極の中央部の分割磁極ユニットの高さを両端部より1mm高くして設置したこと以外は上記実施例1と同様にしてスパッタリングを行った。この中間磁極の中央部での水平磁束密度は、両端部の水平磁束密度の97%であった。
【0058】
このときのスパッタリングターゲット表面の磁場分布は図13及び図14のようになり、条件1に関して垂直磁束密度が−50〜+50ガウスで連続する長さは約20mmであった。条件2の谷部での磁束密度の絶対値の比は1.2となり、条件3については領域Bで中心磁極の長辺方向における水平磁束密度の絶対値が中央での垂直磁束密度の0.36倍となった。更に、図15に示すように、領域Bでの水平磁束密度は250ガウス以下であり、スパッタリングターゲットの使用効率は48%であった。上記条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0059】
[比較例1]
図1に示す従来の磁気発生機構を用いてスパッタリングを実施した。ターゲットの断面形状は図2のようになり、ターゲットの使用効率は18%であった。上記条件1〜3に関する値(ただし、条件2には該当しない)並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0060】
[比較例2]
図6に示すO字型の磁気発生機構を用いてスパッタリングを実施した。図6に示すY―Yでのターゲット断面は図16のようになった。エロージョンの外側の部分で局所的に侵食されており、ターゲット使用効率は25%であった。上記条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0061】
[比較例3]
長辺方向の2対の中間磁極について、中央部の分割磁極ユニットの高さを両端部より2mm低くして設置した。中間磁極の中央部水平磁束密度は、両端部の120%であった。尚、中間磁極以外の各磁極では高さの調整は行わなかった。
【0062】
条件2での谷部での磁束密度の比は0.9であった。図7に示すX―X線でのターゲット断面は図17のようになり、ターゲット使用効率は30%であった。また、フィルムの端部の膜厚が減少し、膜厚分布が不均一になった。上記条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0063】
[比較例4]
長辺方向の2対の中間磁極について、中央部の分割磁極ユニットの高さを両端部より3mm高くして設置したこと以外は上記実施例1と同様にしてスパッタリングを行った。このとき中間磁極の中央部の水平磁束密度は両端部の80%であり、条件2の谷部での磁束密度の比は1.5であった。また、スパッタリングターゲット使用効率は33%であった。上記条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0064】
[比較例5]
外周磁極の短辺の磁極サイズを大きくしたところ、領域BでのBxの絶対値が300ガウスになるところがあった。図7に示すX―X線でのターゲット断面は図18のようになり、このときターゲット使用効率は32%であった。上記条件1〜3に関する値並びにターゲットの使用率を下記表1にまとめて示した。
【0065】
【表1】
【符号の説明】
【0066】
1、11 外周磁極
2、12 中心磁極
4 ハウジング
5 ハウジングカバー
6 磁気ヨーク
7 絶縁部品
8 アースシールド
9 バッキングプレート
10 スパッタリングターゲット
13 中間磁極
15 真空チャンバー
16 巻出ロール
17 冷却ロール
18 巻取ロール
19a、19b、19c マグネトロンスパッタリングカソード
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略矩形状の外周磁極と、該外周磁極の内側に長辺方向xに略平行で且つ短辺方向yの略中央に配置された中心磁極と、該外周磁極と該中心磁極の間に両者に略平行に且つ対をなして1対以上配置された中間磁極とを、磁気ヨークの表面に設けた磁気発生機構を備え、該磁気発生機構を覆う位置にスパッタリングターゲットが装着され、該スパッタリングターゲット表面の磁束密度が下記条件1〜3を満たすことを特徴とするマグネトロンスパッタリングカソード。
条件1:磁気発生機構の長辺方向xにおいて中心磁極の両端から外周磁極の短辺の磁極の長さ×1/2の位置より内側の領域A内で、短辺方向yでの中心磁極からターゲット端部への垂直磁束密度が−50ガウス〜+50ガウスの範囲で連続する長さが、磁気発生機構の短辺長さの0.07倍以上である。
条件2:前記領域Aの長辺方向xの中央での短辺方向yにおける中心磁極からターゲット端部への水平磁束密度の絶対値の極小値が、領域Aの両端での短辺方向yにおける中心磁極からカソード端部への水平磁束密度の絶対値の極小値の0.95〜1.4倍の範囲にある。
条件3:長辺方向xの両端から外周磁極の短辺の磁極の長さ×1/4までの領域Bにおいて、短辺方向yの中央での中心磁極の長辺方向xにおける水平磁束密度の絶対値が、中心磁極の中央での垂直磁束密度の絶対値の0.4倍以下である。
【請求項2】
前記外周磁極の長辺方向xにおいて、前記中心磁極の長さが外周磁極における長辺の磁極の長さと短辺の磁極の長さとの差の0.6〜1.1倍であって、前記中間磁極の長さが外周磁極の長辺の磁極の長さより短く且つ中心磁極の長さよりも長く、且つ中間磁極及び中心磁極の中央が外周磁極の長辺の磁極の中央と揃えて配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
【請求項3】
前記外周磁極の長辺方向xにおける各中間磁極と中心磁極の長さは、中心磁極が最も短く、各中間磁極は中心磁極に近いほど短くなっていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
【請求項4】
前記外周磁極の長辺の磁極、前記各中間磁極及び前記中心磁極は、それぞれ長辺方向xにおいて3分割された分割磁極ユニットからなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
【請求項5】
前記外周磁極の長辺の磁極、前記各中間磁極及び前記中心磁極を構成する各分割磁極ユニットは、スパッタリングターゲットの法線方向における位置の調整が可能であることを特徴とする、請求項4に記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリングカソードを、真空チャンバー内に備えることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項7】
長尺基材をロールトゥロール方式で搬送しながら該長尺基材の表面にスパッタリングを施すスパッタリング装置において、前記マグネトロンスパッタリングカソードの磁気発生機構の長辺方向xが前記長尺基材の幅方向に略平行となるように配置されていることを特徴する、請求項6に記載のスパッタリング装置。
【請求項1】
略矩形状の外周磁極と、該外周磁極の内側に長辺方向xに略平行で且つ短辺方向yの略中央に配置された中心磁極と、該外周磁極と該中心磁極の間に両者に略平行に且つ対をなして1対以上配置された中間磁極とを、磁気ヨークの表面に設けた磁気発生機構を備え、該磁気発生機構を覆う位置にスパッタリングターゲットが装着され、該スパッタリングターゲット表面の磁束密度が下記条件1〜3を満たすことを特徴とするマグネトロンスパッタリングカソード。
条件1:磁気発生機構の長辺方向xにおいて中心磁極の両端から外周磁極の短辺の磁極の長さ×1/2の位置より内側の領域A内で、短辺方向yでの中心磁極からターゲット端部への垂直磁束密度が−50ガウス〜+50ガウスの範囲で連続する長さが、磁気発生機構の短辺長さの0.07倍以上である。
条件2:前記領域Aの長辺方向xの中央での短辺方向yにおける中心磁極からターゲット端部への水平磁束密度の絶対値の極小値が、領域Aの両端での短辺方向yにおける中心磁極からカソード端部への水平磁束密度の絶対値の極小値の0.95〜1.4倍の範囲にある。
条件3:長辺方向xの両端から外周磁極の短辺の磁極の長さ×1/4までの領域Bにおいて、短辺方向yの中央での中心磁極の長辺方向xにおける水平磁束密度の絶対値が、中心磁極の中央での垂直磁束密度の絶対値の0.4倍以下である。
【請求項2】
前記外周磁極の長辺方向xにおいて、前記中心磁極の長さが外周磁極における長辺の磁極の長さと短辺の磁極の長さとの差の0.6〜1.1倍であって、前記中間磁極の長さが外周磁極の長辺の磁極の長さより短く且つ中心磁極の長さよりも長く、且つ中間磁極及び中心磁極の中央が外周磁極の長辺の磁極の中央と揃えて配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
【請求項3】
前記外周磁極の長辺方向xにおける各中間磁極と中心磁極の長さは、中心磁極が最も短く、各中間磁極は中心磁極に近いほど短くなっていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
【請求項4】
前記外周磁極の長辺の磁極、前記各中間磁極及び前記中心磁極は、それぞれ長辺方向xにおいて3分割された分割磁極ユニットからなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
【請求項5】
前記外周磁極の長辺の磁極、前記各中間磁極及び前記中心磁極を構成する各分割磁極ユニットは、スパッタリングターゲットの法線方向における位置の調整が可能であることを特徴とする、請求項4に記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリングカソードを、真空チャンバー内に備えることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項7】
長尺基材をロールトゥロール方式で搬送しながら該長尺基材の表面にスパッタリングを施すスパッタリング装置において、前記マグネトロンスパッタリングカソードの磁気発生機構の長辺方向xが前記長尺基材の幅方向に略平行となるように配置されていることを特徴する、請求項6に記載のスパッタリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−237047(P2012−237047A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108072(P2011−108072)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】
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