説明

マスクブランク用基板、マスクブランク、フォトマスクおよび半導体デバイスの製造方法

【課題】フォトマスク形状の補正機能を備えた露光装置に対応した平坦度を持つマスクブランク用基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明においては、基板の主表面における実測領域内のチャック前主表面形状を測定し、基板のチャック前主表面形状とマスクステージの形状に基づいて、基板から作製されたフォトマスクを露光装置にセットしたときにおける基板のチャック後主表面形状をシミュレーションにより得て、基板について、チャック後主表面形状の補正領域内で第1の方向に沿う断面形状に近似する第1近似曲線を算出し、第1近似曲線から近似曲面を算出してチャック後主表面形状から差し引く補正を行い、補正後主表面形状を算出し、補正後主表面形状の補正領域内での平坦度が、所定閾値以下であるものを選定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィプロセスにおいて使用されるフォトマスクを作製するためのマスクブランクに用いられるマスクブランク用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスのフォトリソグラフィプロセスにおいて、フォトマスクが用いられている。半導体デバイスの微細化が進むにつれて、このフォトリソグラフィプロセスでの微細化に対する要求が高まっている。特に、微細化に対応するためにArF露光光(193nm)を使用する露光装置の高NA化が進み、さらに液浸露光技術が導入されることによってさらなる高NA化が進んできている。このような、高微細化の要求、および高NA化に対応するために、フォトマスクの平坦度を高くすることが求められる。すなわち、パターン線幅の微細化が進むことによって、平坦度に起因する転写パターンの位置ずれが許容される幅が小さくなったこと、また、高NA化が進むに従い、フォトリソグラフィ工程での焦点深度が少なくなったことから、マスク基板の、特にパターンを形成する側の主表面(以下、この側の主表面を単に主表面または基板主表面という)の平坦度が無視できなくなってきている。
【0003】
図6は、露光装置にフォトマスクをチャックする前(吸着前)とチャックした後(吸着後)のフォトマスクの基板の形状を示す図であり、図6(a)は、吸着前の基板の形状を示す図であり、図6(b)は、吸着後の基板の形状を示す図である。図6(a)から分かるように、基板の4隅の部分がチャックエリアの主表面の高さよりも若干高くなっており、また、中央部に向って徐々に高くなるようになっている。すなわち、吸着前の基板においては、略円状の等高線を示している。吸着後の基板においては、図6(b)から分かるように、略矩形状の等高線を示している。このように、フォトマスクは、露光装置のマスクステージに真空チャックによりチャックされると、マスクステージや真空チャックとの相性により、チャック時に大きく変形したりすることがある。
【0004】
従来から、チャック前のフォトマスクの平坦度で製品管理を行っているので、チャック前の主表面の形状が高い平坦度の良品であっても、マスクステージや真空チャックとの相性によっては、露光装置のマスクステージにチャックしたときに、変形してしまい、フォトマスクの平坦度が大きく悪化する場合がある。特に、主表面の形状の対称性が低く、捩れた形状になる基板においては、その傾向が顕著であった。このため、フォトマスクを真空チャックにチャックしたときの平坦度を考慮する必要が生じてきている。従来、露光装置のマスクステージにチャックした後の平坦度が良好なマスク基板を選択するための方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−50458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のマスク基板の選択方法を用いることで、チャック後の平坦度が所定値以上になるマスク基板を比較的容易に選択できるようにはなる。しかし、転写パターンの微細化に伴って、チャック後のマスク基板の形状に求められる平坦度の条件がますます厳しくなってきている。例えば、152mm角サイズのマスク基板(マスクブランク用基板)の場合では、132mm角内の領域での平坦度が0.16μm、さらには0.08μmとより高いものが求められている。このような平坦度の基板を特許文献1の選択方法で選択すると、合格品の比率は大きく低下してしまい、生産歩留りが悪化するという問題があった。
【0007】
一方、マスクステージにチャックしたときのフォトマスクの基板変形についての課題については、露光装置の供給側でも鋭意研究が進められていた。そして、その成果として、露光時にフォトマスクの形状に対応して、高さ方向(基板の断面方向)の補正を行う機能を持つ露光装置が開発されている。このようなマスクステージにチャックしたときのフォトマスクの形状に対して高さ方向の補正が行える露光装置に用いられるフォトマスクの場合、従来のマスクブランク用基板の選定基準よりも緩和できる余地がある。選定基準を緩和できれば、マスクブランク用基板の生産歩留りも向上する。このような補正機能を備えた露光装置に対応したマスクブランク用基板を選定する方法が望まれている。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、フォトマスク形状の高さ方向の補正機能を備えた露光装置に対応したマスクブランク用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、露光装置のマスクステージにチャックされるフォトマスクに用いられるマスクブランク用基板の製造方法であって、主表面が精密研磨された基板を準備する工程と、前記主表面における実測領域内のチャック前主表面形状を測定する工程と、前記基板のチャック前主表面形状および前記マスクステージの形状に基づいて、前記基板から作製されたフォトマスクを前記露光装置にセットしたときにおける前記基板のチャック後主表面形状をシミュレーションにより得る工程と、前記チャック後主表面形状の仮想算出領域内での平坦度が第1閾値以下である基板を選定する工程と、前記選定された基板について、チャック後主表面形状の補正領域内で第1の方向に沿う断面形状に近似する第1近似曲線を算出し、前記第1近似曲線から近似曲面を算出して前記チャック後主表面形状から差し引く補正を行い、補正後主表面形状を算出する工程と、前記補正後主表面形状の補正領域内での平坦度が、第2閾値以下であるものを選定する工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
この方法によれば、フォトマスクが露光装置のマスクステージにチャックされた時における基板(フォトマスク)のチャック後主表面形状をシミュレーションによって得た後、さらに、実際の露光装置が行う高さ方向(基板の断面方向)の基板の主表面形状の補正と同様の補正を行って、フォトマスクの平坦度を算出することができる。これにより、露光装置の高さ方向の補正を考慮しない場合では、基準の平坦度を満たせなかった不合格品のマスクブランク用基板の中から、補正後の平坦度では基準の平坦度を満たす合格品となる比率が向上する。よって、大幅な生産歩留りの向上を図ることができる。
【0011】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、露光装置のマスクステージにチャックされるフォトマスクに用いられるマスクブランク用基板の製造方法であって、主表面が精密研磨された基板を準備する工程と、前記主表面における実測領域内のチャック前主表面形状を測定する工程と、前記基板のチャック前主表面形状および前記マスクステージの形状に基づいて、前記基板から作製されたフォトマスクを前記露光装置にセットしたときにおける前記基板のチャック後主表面形状をシミュレーションにより得る工程と、前記チャック後主表面形状の仮想算出領域内での平坦度が第1閾値以下である基板を選定する工程と、前記選定された基板について、チャック後主表面形状の補正領域内で第1の方向に沿う断面形状に近似する第1近似曲線を算出し、第1の方向に直交する第2の方向に沿う断面形状に近似する第2近似曲線を算出し、前記第1近似曲線および第2近似曲線から近似曲面を算出して前記チャック後主表面形状から差し引く補正を行い、補正後主表面形状を算出する工程と、前記補正後主表面形状の補正領域内での平坦度が、第2閾値以下であるものを選定する工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
この方法によれば、露光装置の高さ方向の補正が、一方向(第1の方向)だけでなく、その一方向に直交する方向(第2の方向)にも機能する場合においては、露光装置の高さ方向の補正を考慮しない場合では、基準の平坦度を満たせなかった不合格品のマスクブランク用基板の中から、補正後の平坦度では基準の平坦度を満たす合格品となる比率がさらに向上する。
【0013】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、前記第1近似曲線は、2次曲線または4次曲線であることが好ましい。
【0014】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、前記第2近似曲線は、2次曲線または4次曲線であることが好ましい。
【0015】
露光装置のマスクステージにフォトマスクがチャックされたとき、チャックの吸着力によって、基板は2次曲面に変形させられる傾向がある。フォトマスクブランク用基板を研磨する工程においては、この変形を見込んで基板主表面の形状を中央部で相対的に高く周縁部で相対的に低い凸形状を目指して加工している。しかし、研磨の加工精度にばらつきや凹形状を避ける用に加工すること等に起因し、大きな2次成分を有する主表面の形状の基板ができてしまう場合が多く、マスクステージにフォトマスクがチャックされた後の基板のチャック後主表面形状に2次成分が残ってしまい、平坦度が所定値を満たさない場合が多い。第1近似曲線や第2近似曲線に2次曲線を適用し、チャック後主表面形状の2次成分を補正することで、所定値以上の平坦度とすることができ、合格品となる基板の比率がより向上する。
【0016】
また、4次成分の強い(4次曲面の傾向が強い)チャック前主表面形状の基板の場合においては、フォトマスクがマスクステージにチャックされるときに2次曲面の傾向の変形が加わることから、チャック後主表面が4次成分の残った(4次曲面の傾向の)形状となりやすい。このような場合に、第1近似曲線や第2近似曲線に4次曲線を適用し、チャック後主表面形状の4次成分を補正することで、所定値以上の平坦度とすることができ、合格品となる基板の比率がより向上する。
【0017】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、前記第1閾値が0.32μmであり、前記第2閾値が0.16μmであることが好ましい。
【0018】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、前記第1閾値が0.24μmであり、前記第2閾値が0.08μmであるとより好ましい。
【0019】
第1近似曲線や第2近似曲線による基板主表面の平坦度補正量が0.16μmを超えるような露光装置の光学補正を許容すると、実際に露光装置でフォトマスク上の転写パターンを半導体ウェハ上のレジスト膜に転写する際の非点収差が大きくなってしまい、転写パターンの結像が悪化して所定以上のパターン解像性を満たさなくなる恐れがあり、好ましくないためである。
【0020】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、前記実測領域は、前記仮想算出領域および補正領域を含む領域であり、前記仮想算出領域は、補正領域を含む領域であることが好ましい。
【0021】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、前記仮想算出領域は、142mm角内の領域であるとより好ましい。
【0022】
基板の変形は、露光装置がフォトマスクをチャックすることに起因することから、転写パターンを形成する領域よりも外側の領域まで考慮する必要がある。フォトマスクの薄膜に転写パターンを形成する領域は、一般に132mm×104mmの内側とする場合が多く、132mm角内の領域の平坦度が良好であれば問題ないことも多いが、その外側の領域の平坦度が悪い場合、チャック前後での基板変形量が大きい可能性がある。基板の変形量が大きいと、基板主表面上に形成されている転写パターンの移動量が大きく、パターン位置精度が低下してしまう。これらのことを考慮すると、シミュレーションを行う基板を選定するときの仮想算出領域を142mm角内の領域とすることが好ましい。
【0023】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、前記補正領域が132mm角内の領域であるとより好ましい。
【0024】
フォトマスクの薄膜に転写パターンを形成する領域は、一般に132mm×104mmの内側とする場合が多い。どの方向に転写パターンを形成してもよいように、前記の領域に補正領域を設定してチャック後の基板主表面の平坦度を所定値以内に保証することが好ましいためである。
【0025】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、前記チャック前主表面形状の実算出領域での平坦度が0.4μm以下である基板を選定する工程を有することが好ましい。
【0026】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、前記実算出領域は、前記仮想算出領域および補正領域を含む領域であることが好ましい。
【0027】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、前記実算出領域は、142mm角内の領域であるとより好ましい。
【0028】
基板のチャック後主表面形状が第1閾値を満たせば、チャック前主表面形状の平坦度はいくら悪くてもよいという訳ではない。チャック後主表面形状が良好であり、かつチャック前主表面形状の平坦度が悪い基板は、チャックの前後での基板変形量が大きい。それにより基板主表面上に形成されている転写パターンの移動量も大きくなってしまい、パターン位置精度が低下してしまう。シミュレーションを行う基板には、実算出領域内の平坦度が0.4μm以下の基板を選定するとよい。また、実算出領域は、シミュレーション後のチャック後主表面形状から平坦度を算出するときの領域である仮想算出領域と、近似曲面を差し引く補正を行う領域である補正領域を含む領域であると好ましい。さらに、平坦度を測定する装置の測定精度や、シミュレーションの精度等を考慮すると、実算出領域は142mm角内の領域であることがより好ましい。
【0029】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、第1の方向に移動可能であって第2の方向に延在するスリットを介してフォトマスクに対して露光光を照射する露光装置に対し、より好適である。
【0030】
本発明のマスクブランクの製造方法は、上記方法で得られたマスクブランク用基板のチャック前主表面形状を測定した側の主表面に薄膜を形成することを特徴とする。
【0031】
本発明のフォトマスクの製造方法は、上記方法で得られたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、露光装置のマスクステージにチャックされるフォトマスクに用いられるマスクブランク用基板の製造方法であって、基板の主表面における実測領域内のチャック前主表面形状を測定する工程と、前記基板のチャック前主表面形状および前記マスクステージの形状に基づいて、前記基板から作製されたフォトマスクを前記露光装置にセットしたときにおける前記基板のチャック後主表面形状をシミュレーションにより得る工程と、前記基板について、チャック後主表面形状の補正領域内で第1の方向に沿う断面形状に近似する第1近似曲線を算出し、前記第1近似曲線から近似曲面を算出して前記チャック後主表面形状から差し引く補正を行い、補正後主表面形状を算出する工程と、前記補正後主表面形状の補正領域内での平坦度が、所定閾値以下であるものを選定する工程と、を有する。この方法によれば、フォトマスクが露光装置のマスクステージにチャックされた時における基板(フォトマスク)のチャック後主表面形状をシミュレーションによって得た後、さらに、実際の露光装置が行う高さ方向(基板の断面方向)の基板の主表面形状の補正と同様の補正を行って、フォトマスクの平坦度を算出することができる。これにより、露光装置の高さ方向の補正を考慮しない場合では、基準の平坦度を満たせなかった不合格品のマスクブランク用基板の中から、補正後の平坦度では基準の平坦度を満たす合格品となる比率が向上する。よって、大幅な生産歩留りの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】フォトマスク形状の補正機能を備えた露光装置の一部を説明するための図であり、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るマスクブランク用基板の製造方法を説明するためのフロー図である。
【図3】スキャン方向における主表面形状補正を説明するための図であり、(a)は基板の断面形状を取得する位置を示す図であり、(b)は基板の断面形状を示す図である。
【図4】スリット方向における主表面形状補正を説明するための図であり、(a)は基板の断面形状を取得する位置を示す図であり、(b)は基板の断面形状を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るマスクブランクを製造する際に用いられるスパッタリング装置の概略構成を示す図である。
【図6】露光装置に基板をチャックする前とチャックした後のフォトマスクの基板の形状を示す図であり、(a)は、チャック前主表面形状を示す図であり,(b)は、チャック後主表面形状を示す図である。
【図7】実施例1における主表面形状補正を説明するための図であり、(a)は基板の断面形状を取得する位置を示す図であり、(b)は基板の断面形状を示す図であり、(c)は、近似曲面を示す図であり、(d)は補正後主表面形状を示す図である。
【図8】実施例2における主表面形状補正を説明するための図であり、(a)は基板の断面形状を取得する位置を示す図であり、(b)は基板の断面形状を示す図であり、(c)は、近似曲面を示す図であり、(d)は補正後主表面形状を示す図である。
【図9】実施例3における主表面形状補正を説明するための図であり、(a)は近似曲面を示す図であり、(b)は補正後主表面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、フォトマスク形状の補正機能を備えた露光装置に用いることができるフォトマスクのマスクブランク用基板を得るものである。ここで、フォトマスク形状の補正機能を備えた露光装置について説明する。
【0035】
図1は、フォトマスク形状の補正機能を備えた露光装置の一部を説明するための図であり、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。この露光装置において、マスクステージ1上にフォトマスク2が載置され、フォトマスク2はチャック1aによりマスクステージ1にチャッキングされる。このマスクステージ1の上方には、照明光学系5、スリット3aを有するスリット部材3が配設されており、このスリット部材3の上方に光源4が配設されている。また、マスクステージ1の下方には、縮小光学系6、ウェハステージ7に載置された半導体ウェハWが位置する。
【0036】
このような露光装置においては、フォトマスク2をチャックしたマスクステージ1をスキャン方向に移動させ、かつウェハステージ7をマスクステージ1の移動方向とは逆の方向に移動させながら半導体ウェハWに対する露光が行われる。このとき、光源4からの光がスリット3aを通ってマスクステージ1にチャックされたフォトマスク2に照射され、フォトマスク2を通って半導体ウェハWに照射される。これにより、半導体ウェハW上に設けられたフォトレジストに転写パターンを露光する。なお、マスクステージ1の移動方向(スキャン方向)と、スリット3aの延在方向(長手方向)とは略直交している。
【0037】
この露光装置においては、予め測定して得られたフォトマスクの形状に応じて主表面形状補正を行うことができる。主表面形状補正において、スキャン方向では、マスクステージと、半導体ウェハWを載置するウェハステージ7との相対距離を変えることによりスキャン軌道を変えて主表面形状補正を行う。一方、スリット方向では、非点収差を変えて照明光の形を変えることにより主表面形状補正を行う場合がある。なお、この露光装置の場合、主表面形状補正がスキャン方向とスリット方向の2つの方向で補正できるタイプのものについて説明したが、露光装置によっては、主表面形状補正がスキャン方向のみの場合や、スリット方向のみの場合のものもある。
【0038】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、露光装置のマスクステージにチャックされるフォトマスクに用いられるマスクブランク用基板の製造方法であって、主表面が精密研磨された基板を準備する工程と、前記主表面における実測領域内のチャック前主表面形状を測定する工程と、前記基板のチャック前主表面形状および前記マスクステージの形状に基づいて、前記基板から作製されたフォトマスクを前記露光装置にセットしたときにおける前記基板のチャック後主表面形状をシミュレーションにより得る工程と、前記チャック後主表面形状の仮想算出領域内での平坦度が第1閾値以下である基板を選定する工程と、前記選定された基板について、チャック後主表面形状の補正領域内で第1の方向に沿う断面形状に近似する第1近似曲線を算出し、前記第1近似曲線から近似曲面を算出して前記チャック後主表面形状から差し引く補正を行い、補正後主表面形状を算出する工程と、前記補正後主表面形状の補正領域内での平坦度が、第2閾値以下であるものを選定する工程と、を有することを特徴とする。
【0039】
あるいは、本発明のマスクブランク用基板の製造方法においては、露光装置のマスクステージにチャックされるフォトマスクに用いられるマスクブランク用基板の製造方法であって、主表面が精密研磨された基板を準備する工程と、前記主表面における実測領域内のチャック前主表面形状を測定する工程と、前記基板のチャック前主表面形状および前記マスクステージの形状に基づいて、前記基板から作製されたフォトマスクを前記露光装置にセットしたときにおける前記基板のチャック後主表面形状をシミュレーションにより得る工程と、前記チャック後主表面形状の仮想算出領域内での平坦度が第1閾値以下である基板を選定する工程と、前記選定された基板について、チャック後主表面形状の補正領域内で第1の方向に沿う断面形状に近似する第1近似曲線を算出し、第1の方向に直交する第2の方向に沿う断面形状に近似する第2近似曲線を算出し、前記第1近似曲線および第2近似曲線から近似曲面を算出して前記チャック後主表面形状から差し引く補正を行い、補正後主表面形状を算出する工程と、前記補正後主表面形状の補正領域内での平坦度が、第2閾値以下であるものを選定する工程と、を有することを特徴とする。
【0040】
図2は、本発明の実施の形態に係るマスクブランク用基板の製造方法を説明するためのフロー図である。この製造方法においては、まず、主表面が精密研磨されたマスクブランク用基板を製造する(ST11)。
【0041】
本発明において、マスクブランク用基板としては、ガラス基板を用いることができる。ガラス基板としては、マスクブランクとして用いられるものであれば、特に限定されない。例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、無アルカリガラスなどが挙げられる。
【0042】
このようなマスクブランク用基板は、例えば、粗研磨工程、精密研磨工程及び超精密研磨工程を経て製造することができる。
【0043】
次いで、マスクブランク用基板の主表面における実測領域内の高さ情報を取得し、この高さ情報からマスクブランク用基板の断面視におけるチャック前の主表面の形状、すなわちチャック前主表面形状の情報を取得する(ST12)。ここでいう高さ情報とは、マスクブランク用基板の主表面内に設けられた実測領域内における複数の測定点での基準面からの高さ情報をいう。実測領域としては、例えば、マスクブランクの大きさが152mm×152mmの場合、146mm×146mmの内側の領域とすることができる。実測領域は、少なくとも後に述べる仮想算出領域や補正領域を包含する広い領域とする。
【0044】
なお、マスクブランク用基板のチャック前主表面形状は、波長変調レーザーを用いた波長シフト干渉計で測定することにより求める。この波長シフト干渉計は、マスクブランク用基板の被測定面及び裏面からそれぞれ反射した反射光と測定機基準面(前方基準面)との干渉縞から、被測定面の高さの差を位相差として算出し、各干渉縞の周波数の違いを検出し、マスクブランク用基板の被測定面及び裏面からそれぞれ反射した反射光による測定機基準面(前方基準面)との干渉縞を分離し、被測定面の凹凸形状を測定するものである。
【0045】
また、後述するシミュレーションを高精度に行うためには、高さ情報を取得する測定点をなるべく多くすることが望ましい。しかしながら、測定点を多くするとより正確なシミュレーション結果が得られるが、シミュレーションの所要時間がかかってしまうので、これらの点を考慮して測定点を決定することが好ましい。例えば、測定点は256×256ポイントとすることができる。
【0046】
次いで、測定によって得られた基板のチャック前主表面形状に基づいて、フォトマスクの転写領域を含む実算出領域における最大値と最小値との差からマスクブランク用基板の平坦度を算出する(ST13)。さらに、このようにして得られた平坦度が許容値以下であるか否かを判定する(ST14)。平坦度が許容値よりも大きいマスクブランク用基板は不合格として後工程には供給しない。この製造方法で製造されたマスクブランク用基板フォトマスクのチャック後主表面形状の平坦度が良好であっても、チャック前主表面形状の平坦度が悪いと問題が生じる場合がある。チャック前後での平坦度変化量が大きい基板は、基板変形量が大きい。基板変形量が大きい基板から作製されたフォトマスクは、基板主表面上に形成される転写パターンのチャック前後での移動量が大きくなる可能性があり、チャック後のパターン位置精度が低下する恐れがある。この点を考慮し、チャック前の基板の平坦度が許容値以下のものを選定する。チャック前の平坦度の許容値は、高すぎると生産歩留りが悪化してしまって本願の目的を達成できなくなり、低すぎると基板変形量の大きい基板からフォトマスクが作製されてしまう可能性が生じる。これらのバランスを考慮し、チャック前における基板の平坦度の許容値を0.4μm以下とする。また、高いパターン位置精度が要求されるフォトマスクに使用されるマスクブランク用基板を製造する場合においては、基板変形量がより小さいことが必要とされるので、基板の平坦度の許容値を0.3μm以下とするとよい。
【0047】
一方、基板のチャック前後の変形量は、平坦度を算出する領域である実算出領域の広さによっても変わってくる。実算出領域が広いほど、その基板のチャック前後の変形量は小さくなる傾向がある。まず、チャック前の平坦度を算出する実算出領域は、測定領域である実測領域と同じかそれよりも狭い領域であり、かつ仮想算出領域よりも広い領域とする必要がある。フォトマスクの転写領域を含む所定領域は、露光波長や半導体ウェハ上に形成する微細パターン(回路パターン)の種類などによって決められる。マスクブランクの大きさが152mm角の場合、フォトマスクの転写領域は、104mm×132mmの内側領域である場合が多い。このことを考慮すると、仮想算出領域を132mm角の内側の正方形状の領域とすることもできる。ただ、その外側の領域の平坦度が悪い場合、チャック前後での基板変形量が大きい基板である可能性が高くなる。このことも考慮すると、マスクブランク(フォトマスク)の大きさが152mm角の場合、実算出領域は、少なくとも142mm角の内側領域とすることが好ましい。さらに、チャック前主表面形状の測定精度やシミュレーションの精度が高い場合は、146mm角の内側領域、あるは148mm角の内側領域とすることが好ましい。
【0048】
次いで、得られたチャック前主表面形状と、マスクステージの形状とに基づいて、この基板から作製されたフォトマスクを露光装置にセットしたときにおける高さ情報をシミュレーションにより得て、この高さ情報からマスクブランク用基板の断面視におけるチャック後主表面形状を得る(ST15)。このシミュレーション工程では、フォトマスクを露光装置のマスクステージにセットした状態をシミュレーションして、基板の主表面における複数の測定点で、基準面からの高さ情報を求める。ここで、露光装置にフォトマスクをセットしたときの、該基板における複数の測定点の高さ情報をシミュレーションして得る際に必要な情報は、上記チャック前主表面形状の情報を取得する際に得られた、基板の主表面における複数の測定点の基準面からの高さ情報と、露光装置のマスクステージが該基板の主表面に当接する領域を含む当該マスクステージの形状情報とである。これらの情報を用いて、材料力学における撓み微分方程式によって、露光装置のマスクステージにフォトマスクをセットしたときの、基板の主表面における複数の測定点での基準面からの高さ情報をシミュレーションして得ることができる。そして、得られた高さ情報から基板の断面視におけるチャック後主表面形状を得る。
【0049】
なお、この工程では、基板のチャック前主表面形状の情報を基に、この基板から作製したフォトマスクを露光装置のマスクステージにチャックさせたときのシミュレーションを行っている。後工程でマスクブランク用基板の表面に形成される転写パターンを形成する薄膜はスパッタリング法によって高い精度で形成されるため、この薄膜の主表面方向での膜厚変化は基板の平坦度に比べて微小で無視できる範囲である。マスクブランク用基板のチャック前主表面形状を基にシミュレーションを行っても影響するまでの大きな相違は生じないといえる。
【0050】
上記撓み微分方程式は、重力の方向にZ軸の正の方向をとり、次のようにして求める。
=H+B+B−HAB
:チャック後の基板主表面における高さ情報
:チャック前の基板主表面における高さ情報
:マスクステージを支点とした基板の反り(てこの効果)
:基板の重力による撓み(≒基板中心で最大値が0.1μm)
AB:基板がマスクステージに当接するスキャン方向に沿う領域で当該基板が有する高さ情報の平均値
【0051】
なお、上述のマスクステージの形状情報としては、マスクステージが基板の主表面に当接する位置や領域(スリット方向の幅及びスキャン方向の幅を有する領域)に加え、マスクステージが基板の主表面に当接する上記領域(面)における当該マスクステージの平坦度の情報を含んでも良い。さらに、シミュレーション方法については、上述に限定されるものではなく、一般的な有限要素法を用いたシミュレーションであってもよい。
【0052】
次いで、シミュレーションにより得たチャック後形状に基づいて、フォトマスクの転写領域を含む仮想算出領域における最大値と最小値との差からマスクブランク用基板の平坦度を算出する(ST16)。この平坦度は、露光装置を用いたパターン転写時に良好な転写パターンの形成に寄与するものである。上記フォトマスクの転写領域を含む仮想算出領域は、露光波長や半導体ウェハ上に形成する微細パターン(回路パターン)の種類などによって決められる。マスクブランクの大きさが152mm角の場合、マスクの転写領域は、104mm×132mmの内側領域である場合が多い。このことを考慮すると、132mm角の内側の正方形状の領域とすることもできる。ただ、その外側の領域の平坦度が悪い場合、チャック前後での基板変形量が大きい基板である可能性がある。そのような基板から作製されたフォトマスクは、基板主表面上に形成されている転写パターンの移動量が大きく、チャック後のパターン位置精度が低くなる可能性がある。このことも考慮すると、マスクブランク(フォトマスク)の大きさが152mm角の場合、少なくとも142mm角の内側領域とすることが好ましい。さらに、チャック前主表面形状の測定精度やシミュレーションの精度が高い場合は、146mm角の内側領域、あるは148mm角の内側領域とすることが好ましい。
【0053】
次いで、このようにして得られた平坦度が第1閾値以下であるか否かを判定する(ST17)。この平坦度の第1閾値は、そのマスクブランク用基板から作製されるフォトマスクに求められる補正後主表面形状の平坦度と、露光装置による高さ方向の補正によって半導体ウェハ上のレジスト膜上での転写パターンの結像が所定のパターン解像性を満たすことができる平坦度補正量の許容値とから選定される。フォトマスク(マスクブランク用基板)に求められるチャック後の主表面の平坦度が0.16μm以下であり、露光装置の平坦度補正量の許容値が0.16μmである場合、第1閾値はこの合計である0.32μmとすることができる。フォトマスク(マスクブランク用基板)に求められるチャック後の主表面の平坦度が0.08μm以下であり、露光装置の平坦度補正量の許容値が0.16μmである場合、第1閾値はこの合計である0.24μmとすることができる。
【0054】
なお、露光装置の補正技術が向上し、許容される平坦度補正量が大きくなった場合には、その補正量の上限に合わせて第1閾値を大きくすることができる。例えば、平坦度補正量が0.24μm,0.32μm等のように大きくなり、フォトマスクのチャック後の主表面に求められる平坦度が0.16μm以下である場合には、第1閾値は、0.40μm,0.48μmと大きくすることができる。また、フォトマスクのチャック後の主表面に求められる平坦度が0.08μm以下である場合には、第1閾値は、0.32μm,0.40μmと大きくすることができる。
【0055】
逆に、露光装置の補正技術が向上せず、露光装置の高NA化がさらに進んだ場合、縮小光学系と半導体ウェハとの焦点裕度がより小さくなり、許容される平坦度補正量は小さくなることから、第1閾値を小さくする必要がある。例えば、平坦度補正量が0.12μm,0.10μmm,0.08μm等のように大きくなり、フォトマスクのチャック後の主表面に求められる平坦度が0.16μm以下である場合には、第1閾値は、0.28μm,0.26μm,0.24μmと小さくする必要がある。また、フォトマスクのチャック後の主表面に求められる平坦度が0.08μm以下である場合には、第1閾値は、0.20μm,0.18μm,0.16μmと小さくする必要がある。
【0056】
次いで、チャック後主表面形状の補正領域において、第1の方向に沿った断面形状に近似する第1近似曲線を算出し、この第1近似曲線から近似曲面を算出し、さらにチャック後主表面形状から近似曲面を差し引く形状補正をおこなって、補正後主表面形状を算出する(ST18)。また、スキャン方向とスリット方向の2方向での主表面形状補正が可能なタイプの露光装置を対象とする場合は、第1の方向に沿った断面形状に近似する第1近似曲線を算出し、補正領域の第1の方向に直交する第2の方向に沿った断面形状に近似する第2近似曲線を算出し、この第1近似曲線と第2近似曲線とから近似曲面を算出し、さらにチャック後主表面形状から近似曲面を差し引く形状補正をおこなって、補正後主表面形状を算出する。
【0057】
この主表面形状補正について、図3及び図4を用いて説明する。なお、ここでは、第1の方向を露光装置のスキャン方向、第2の方向を露光装置のスリット方向、第1近似曲線を4次曲線、第2近似曲線を2次曲線とした場合について説明する。図3は、スキャン方向における主表面形状補正を説明するための図であり、(a)は基板の断面形状を取得する位置を示す図であり、(b)は基板の断面形状を示す図である。また、図4は、スリット方向における主表面形状補正を説明するための図であり、(a)は基板の断面形状を取得する位置を示す図であり、(b)は基板形状を示す図である。
【0058】
スキャン方向(第1の方向)における主表面形状補正においては、図3(a)に示すように、マスクブランク用基板のチャック後主表面形状の補正領域Xのスキャン方向に平行な右端、中央、左端の各直線Yにおける高さ情報からスキャン方向の基板の断面形状を求め、この3か所の断面形状に対して4次曲線を最小二乗法で算出することにより、図3(b)に示すように、スキャン方向の近似曲線(第1近似曲線)Zを算出する。次に、スリット方向(第2の方向)における主表面補正においては、図4(a)に示すように、マスクブランク用基板のチャック後主表面形状の補正領域Xのスリット方向に平行な上端、中央、下端の各直線Yにおける高さ情報からスリット方向の基板の断面形状を求め、この3か所の断面形状に対して2次曲線を最小二乗法で算出することにより、図4(b)に示すように、スリット方向の近似曲線(第2近似曲線)Zを算出する。そして、スキャン方向(第1の方向)のみの補正を行う露光装置を対象とする場合には、第1近似曲線Zから近似曲面を算出し、スリット方向(第2の方向)のみの補正を行う露光装置を対象とする場合には、第2近似曲線Zから近似曲面を算出し、この近似曲面を上記シミュレーションで得られたチャック後形状から差し引く補正を行うことで補正後主表面形状を算出する。
【0059】
また、スキャン方向(第1の方向)とスリット方向(第2の方向)の両方向からの補正を行う露光装置を対象とする場合には、第1近似曲線Zと第2近似曲線Zから近似曲面を算出し、この近似曲面を上記シミュレーションで得られたチャック後形状から差し引く補正を行うことで補正後主表面形状を算出する。あるいは、上記シミュレーションで得られたチャック後形状から、第1近似曲線Zから算出した近似曲面を差し引く補正を行い、さらに、第2近似曲線Zから算出した近似曲面を差し引く補正を行って、補正後主表面形状を算出する。
【0060】
この主表面形状補正は、補正機能を持つ露光装置で行われる主表面形状補正をシミュレーションするものであり、これにより得られた補正後主表面形状は、そのシミュレーションした基板から作製されたフォトマスクを露光装置にチャックし、主表面形状補正を行った後の基板形状と基本的に同じになる(露光装置の機械誤差、平坦度測定との誤差、シミュレーションの誤差、ペリクル貼付での形状変化等から全く同じとはならないが判定には影響を与えない程度の差)。
【0061】
なお、補正領域Xであるが、フォトマスクの転写パターンが形成される転写領域は、露光波長や半導体ウェハ上に形成する微細パターン(回路パターン)の種類などによって決められる。マスクブランクの大きさが152mm角の場合、マスクの転写領域は、104mm×132mmの内側領域である場合が多い。このことを考慮すると、補正領域Xは132mm角の内側の正方形状の領域とすることが好ましい。フォトマスクにより高い精度が求められる場合には、142mm角の内側領域とするとよい。
【0062】
また、ここでは、補正領域Xのスキャン方向(第1の方向)およびスリット方向(第2の方向)での基板断面形状を3か所ずつ求めたが、第1近似曲線、第2近似曲面、およびこれらから算出される近似曲面のより高いシミュレーション精度を求める場合においては、4か所以上ずつの基板断面形状から算出してもよい。さらに、ここでは、第1近似曲線に4次曲線を、第2近似曲線に2次曲線をそれぞれ用いたが、これに限定されない。第1近似曲線に2次曲線を、第2近似曲線に4次曲線を適用してもよいし、第1近似曲線、第2近似曲線ともに2次曲線(この場合、合成した近似曲面は2次曲面になる)、あるいは4次曲線(この場合、合成した近似曲面は4次曲面になる)でもよい。フォトマスクを実際にチャックする露光装置の主表面形状補正機能に最も近い補正シミュレーションになるものを選択するのが最適である。
【0063】
次いで、主表面形状補正により得た補正後主表面形状に基づいて、フォトマスクの転写領域を含む補正領域における高さ情報の最大値と最小値との差からマスクブランク用基板の補正後の平坦度を算出し、その平坦度が第2閾値以下であるか否かを判定する(ST19)。
【0064】
補正後主表面形状は、フォトマスク(マスクブランク用基板)を露光装置のマスクステージにチャックし、補正機能により主表面形状補正を行った後の基板主表面形状をシミュレーションによって得たものである。すなわち、この補正後主表面形状が、そのマスクブランク用基板を用いて作製されるフォトマスクに求められるパターン転写領域(補正領域は、少なくともパターン転写領域を含む領域である。)の平坦度を満たしていれば、合格品のマスクブランク用基板と判定してもよいことになる。よって、ここでの第2閾値は、マスクブランクを用いて作製されるフォトマスクに求められるパターン転写領域の平坦度を選定することが望ましい。例えば、補正領域が132mm角内の領域であり、第2閾値を0.16μmとする。さらに高い精度が求められるフォトマスクに用いられるマスクブランク用基板の場合では、補正領域が132mm角内の領域であり、第2閾値を0.08μmとするとよい。この第2閾値の平坦度に適合すると判定されたマスクブランク用基板についてのみ、後述するマスクブランク製造、フォトマスク製造の工程に供給される。
【0065】
第2閾値以下の平坦度の合格品と判定されたマスクブランク用基板の主表面上に少なくとも遮光膜を形成することによりマスクブランクとすることができる(ST20)。この遮光膜を構成する材料としては、クロム、金属シリサイド、タンタルを挙げることができる。また、フォトマスクの用途や構成により、その他の膜、反射防止膜や位相シフト膜などを適宜形成しても良い。反射防止膜の材料としては、クロム系材料であれば、CrO、CrON、CrOCNなど、MoSi系材料であれば、MoSiON、MoSiO、MoSiN、MoSiOC、MoSiOCN、タンタル系材料であれば、TaO、TaON、TaBO,TaBONなどを用いることが好ましい。また、位相シフト膜の材料としては、MSiON、MSiO、MSiN、MSiOC、MSiOCN(M:Mo,W,Ta,Zr等)などを用いることが好ましい。
【0066】
遮光膜はスパッタリング法により成膜することができる。スパッタリング装置としては、DCマグネトロンスパッタ装置やRFマグネトロンスパッタ装置などを用いることができる。マスクブランク用基板への遮光性膜のスパッタリングの際に、基板を回転させ、かつ、スパッタターゲットを基板の回転軸から所定角度傾斜させた位置にターゲットを配置して成膜することが好ましい。このような成膜法により、遮光膜の面内のばらつきを小さくし、均一に形成することができる。
【0067】
基板を回転させ、かつ、スパッタターゲットを基板の回転軸から所定角度傾斜させた位置にターゲットを配置して成膜する場合においては、位相角および透過率の面内の分布は、基板とターゲットの位置関係によっても変化する。ターゲットと基板の位置関係について、図5を用いて説明する。オフセット距離(基板の中心軸と、ターゲットの中心を通りかつ前記基板の中心軸と平行な直線との間の距離)は、位相角および透過率の分布を確保すべき面積によって調整される。一般には分布を確保すべき面積が大きい場合に、必要なオフセット距離は大きくなる。本実施例の形態においては、142mm角内の基板内で位相角分布±2°以内及び透過率分布±0.2%以内を実現するために、オフセット距離は200mmから350mm程度が必要であり、好ましいオフセット距離は240mmから280mmである。ターゲット−基板間垂直距離(T/S)は、オフセット距離により最適範囲が変化するが、142mm角内の基板内で位相角分布±2°以内および透過率分布±0.2%以内を実現するために、ターゲット−基板間垂直距離(T/S)は、200mmから380mm程度が必要であり、好ましいT/Sは210mmから300mmである。ターゲット傾斜角は成膜速度に影響し、大きな成膜速度を得るために、ターゲット傾斜角は、0°から45°が適当であり、好ましいターゲット傾斜角は10°から30°である。
【0068】
上述した少なくとも遮光膜をフォトリソグラフィ及びエッチングによりパターニングを行って転写パターンを設けることによりフォトマスクを製造することができる(ST21)。なお、エッチングのエッチャントについては、被エッチング膜の材料に応じて適宜変更する。
【0069】
得られたフォトマスクを露光装置のマスクステージにセットし、このフォトマスクを使用し、ArFエキシマレーザーを露光光としてフォトリソグラフィを用い、半導体ウェハに形成されているレジスト膜にフォトマスクのマスクパターンを転写して、この半導体ウェハ上に所望の回路パターンを形成し、半導体デバイスを製造する。
【0070】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。なお、以下の実施例においては、マスクブランク用基板がガラス基板である場合について説明する。
【0071】
(実施例1)
合成石英ガラス基板に対してラッピング加工及びチャンファリング加工を施したガラス基板(約152mm×152mm×6.45mm)に対して、両面研磨装置に所定枚数セットし、以下の研磨条件で粗研磨工程を行った。粗研磨工程後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するためにガラス基板を超音波洗浄した。なお、加工圧力、上下定盤の各回転数、研磨時間等の研磨条件は、適宜調整して行った。
研磨液:酸化セリウム(平均粒径2μm〜3μm)+水
研磨パッド:硬質ポリシャ(ウレタンパッド)
【0072】
次いで、粗研磨後のガラス基板に対して、両面研磨装置に所定枚数セットし、以下の研磨条件で精密研磨工程を行った。精密研磨工程後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するためにガラス基板を超音波洗浄した。なお、加工圧力、上下定盤の各回転数、研磨時間等の研磨条件は、適宜調整して行った。この精密研磨工程後のガラス基板の転写パターンを形成する側の主表面形状は、4隅が凸になるように諸条件を調整して研磨を行う。これは、次の超精密研磨工程では、基板主表面の4隅が優先的に研磨されてしまう特性があるためであり、これにより、4隅の縁ダレを抑制することができ、基板主表面の142mm角内における平坦度を0.4μm以下とすることができる。
研磨液:酸化セリウム(平均粒径1μm)+水
研磨パッド:軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
【0073】
次いで、精密研磨後のガラス基板に対して、両面研磨装置に所定枚数セットし、以下の研磨条件で超精密研磨工程を行った。超精密研磨工程後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するためにガラス基板を超音波洗浄した。なお、加工圧力、上下定盤の各回転数、研磨時間などの研磨条件は、適宜調整して行った。この超精密研磨工程では、基板形状が方形であることに起因して4隅が優先的に研磨されやすい特性を有している。基板主表面の表面粗さを所定の粗さ0.4nm以下となるようにしつつ、基板主表面の142mm角内における平坦度が0.4μmよりも大きくならないように、研磨条件を設定している。このようにして本発明に係るガラス基板を作製した(ST11)。
研磨液:コロイダルシリカ(平均粒径100nm)+水
研磨パッド:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
【0074】
このようにして得られたガラス基板の主表面について、波長変長レーザーを用いた波長シフト干渉計を用いて、基板の主表面(薄膜が形成される主表面)の実測領域(150mm×150mm)において、256×256の各測定点につきチャック前主表面形状の情報(最小二乗法により算出される焦平面(仮想絶対平面)からの高さ情報)を取得(図6(a)チャック前主表面形状を参照)し、コンピュータに保存した(ST12)。そして、測定した実測領域のチャック前主表面形状の高さ情報から、実算出領域(142mm×142mm)での平坦度を求め(ST13)、許容値(0.4μm)以下の基板を選定した(ST14)。その結果、この条件を満たすガラス基板は、100枚中99枚であった。なお、この高さ情報により、基板の主表面の表面形状は、この主表面の高さが中心領域から周縁部へ向かって漸次低くなる形状であった。
【0075】
次いで、得られたチャック前主表面形状の情報と、露光装置のマスクステージの形状情報とから、前述の撓み微分方程式を用い各測定点について、露光装置に基板をセットしたときの基準面からの高さの情報であるチャック後主表面形状をシミュレーションにより算出(図6(b)チャック後主表面形状を参照)した(ST15)。そして、このシミュレーション結果から、フォトマスクの転写領域を含む仮想算出領域(142mm×142mm)における基準面からの最大値と最小値との差を求めて、この仮想算出領域における平坦度を算出した(ST16)。そして、その平坦度が第1閾値(0.32μm)以下の基板を選定した(ST17)。その結果、この条件を満たす基板は、99枚中98枚であった。
【0076】
次いで、スキャン方向(第1の方向)における主表面形状補正を行う(ST18)。図6(b)に示すチャック後主表面形状のガラス基板に対し、図7(a)に示すように、マスクブランク用基板のチャック後主表面形状の補正領域Xのスキャン方向に平行な右端、中央、左端の各直線Yにおける高さ情報からスキャン方向の基板の断面形状を求め、この3か所の断面形状に対して4次曲線を最小二乗法で算出することにより、図7(b)に示すスキャン方向の近似曲線(第1近似曲線)Zを算出する。そして、近似曲線Zから図7(c)に示すような近似曲面を算出し、上記シミュレーションで得られたチャック後形状から差し引く。近似曲面Zを差し引いた後のガラス基板の補正後主表面形状を図7(d)に示す。
【0077】
次いで、算出した補正後主表面の補正領域(132mm×132mm)内の平坦度を算出し、第2閾値(0.16μm)以下の基板を選定した(ST19)。この第2閾値は、このマスクブランク用基板が求められている基準の平坦度である。その結果、この条件を満たすガラス基板は、98枚中96枚であった。従来のシミュレーション(ST15)で算出した基板のチャック後主表面形状から求められる平坦度(ST16)に対し、第2閾値と同じ0.16μm以下の条件を満たす基板を選定すると、98枚中90枚であることから、主表面形状補正(ST18)を行うことにより、生産歩留りが大幅に向上することがわかる。
【0078】
次いで、上記のようにして得られたガラス基板上に、転写パターンを形成するための薄膜(遮光膜)として、裏面反射防止層、遮光層、表面反射防止層をその順で形成した(ST20)。具体的には、スパッタターゲットとしてCrターゲットを用い、Ar,CO,N,Heの混合ガスをスパッタリングガス(ガス流量比Ar:CO:N:He=24:29:12:35)とし、ガス圧0.2Pa、DC電源の電力を1.7kWで、裏面反射防止層としてCrOCN膜を39nmの膜厚に成膜した。次に、スパッタターゲットとしてCrターゲットを用い、Ar,NO,Heの混合ガスをスパッタリングガス(ガス流量比Ar:NO:He=27:18:55)とし、ガス圧0.1Pa、DC電源の電力を1.7kWで、遮光層としてCrON膜を17nmの膜厚に成膜した。次に、スパッタターゲットとしてCrターゲットを用い、Ar,CO,N,Heの混合ガスをスパッタリングガス(ガス流量比Ar:CO:N:He=21:37:11:31)とし、ガス圧0.2Pa、DC電源の電力を1.8kWで、表面反射防止層としてCrOCN膜を14nmの膜厚に成膜した。この条件で成膜された裏面反射防止層、遮光層および表面反射防止層は、遮光膜全体で非常に低応力であり、基板の形状変化を最小限に抑制できた。このようにして、マスクブランクを製造した。
【0079】
このようにして得られたマスクブランクの遮光膜を所定のパターンにパターニングすることにより、フォトマスク(バイナリーマスク)を作製した(ST21)。得られたフォトマスクを、少なくともスキャン方向の主表面形状補正が行うことが可能な露光装置で検証を行った。露光装置のマスクステージにチャックし、スキャン方向の主表面形状補正を行った後、半導体ウェハWのレジスト膜上に露光してフォトマスクのパターンを転写した。レジスト膜に転写されたパターンのCD精度およびパターン位置精度を検証したところ、このフォトマスクは、DRAM hp32nm世代に十分対応可能であることが確認できた。
【0080】
(実施例2)
実施例1と同様に、ST11からST17までの工程を行い、ガラス基板を98枚選定した。次いで、スリット方向(第2の方向)における主表面形状補正(ST18)を行う。図6(b)に示すチャック後主表面形状のガラス基板に対し、図8(a)に示すように、マスクブランク用基板のチャック後主表面形状の補正領域Xのスリット方向に平行な上端、中央、下端の各直線Yにおける高さ情報からスリット方向の基板の断面形状を求め、この3か所の断面形状に対して2次曲線を最小二乗法で算出することにより、図8(b)に示すスリット方向の近似曲線(第2近似曲線)Zを算出する。そして、近似曲線Zから図8(c)に示すような近似曲面を算出し、上記シミュレーションで得られたチャック後形状から差し引く。近似曲面Zを差し引いた後の基板形状を図8(d)に示す。
【0081】
次いで、算出した補正後主表面の補正領域(132mm×132mm)内の平坦度を算出し、第2閾値(0.16μm)以下の基板を選定した(ST19)。この第2閾値は、このマスクブランク用基板が求められている基準の平坦度である。その結果、この条件を満たすガラス基板は、98枚中95枚であった。従来のシミュレーション(ST14)で算出した基板のチャック後主表面形状(ST15)から求められる平坦度に対し、第2閾値と同じ0.16μm以下の条件を満たす基板を選定すると、98枚中90枚であることから、主表面形状補正(ST18)を行うことにより、生産歩留りが大幅に向上することがわかる。
【0082】
次いで、上記のようにして得られたガラス基板上に、転写パターンを形成するための薄膜として、位相シフト膜と、裏面反射防止層、遮光層、及び表面反射防止層からなる遮光膜を形成し、マスクブランクを製造した(ST20)。具体的には、Mo:Si=10:90(原子%比)のターゲットを用い、Ar,N,Heの混合ガスをスパッタリングガス(ガス流量比Ar:N:He=5:49:46)とし、ガス圧0.3Pa、DC電源の電力を2.8kWで、位相シフト膜としてMoSiN膜を69nmの膜厚に成膜した。次に、位相シフト膜が成膜された基板を250℃で5分間加熱処理(アニール処理)した。
【0083】
次に、裏面反射防止層、遮光層、及び表面反射防止層からなる遮光膜を形成した。具体的には、最初に、スパッタターゲットとしてCrターゲットを用い、Ar,CO,N,Heの混合ガスをスパッタリングガス(ガス流量比Ar:CO:N:He=22:39:6:33)とし、ガス圧0.2Pa、DC電源の電力を1.7kWで、裏面反射防止層としてCrOCN膜を30nmの膜厚に成膜した。次に、スパッタターゲットとしてCrターゲットを用い、Ar,Nの混合ガスをスパッタリングガス(ガス流量比 Ar:N=83:17)とし、ガス圧0.1Pa、DC電源の電力を1.7kWで、遮光層としてCrN膜を4nmの膜厚に成膜した。次に、スパッタターゲットとしてCrターゲットを用い、Ar,CO,N,Heの混合ガスをスパッタリングガス(ガス流量比Ar:CO:N:He=21:37:11:31)とし、ガス圧0.2Pa、DC電源の電力を1.8kWで、表面反射防止層としてCrOCN膜を14nmの膜厚に成膜した。この条件で成膜された裏面反射防止層、遮光層および表面反射防止層は、遮光膜全体で非常に低応力であり、また、位相シフト膜も非常に低応力であり、基板の形状変化を最小限に抑制できた。
【0084】
さらに、そのマスクブランクの遮光膜および位相シフト膜を所定のパターンにパターニングすることにより、フォトマスク(位相シフトマスク)を作製した(ST21)。得られたフォトマスクを、少なくともスリット方向の主表面形状補正が行うことが可能な露光装置で検証を行った。露光装置のマスクステージにチャックし、スリット方向の主表面形状補正を行った後、半導体ウェハWのレジスト膜上に露光してフォトマスクのパターンを転写した。レジスト膜に転写されたパターンのCD精度およびパターン位置精度を検証したところ、このフォトマスクは、DRAM hp32nm世代に十分対応可能であることが確認できた。
【0085】
(実施例3)
実施例1と同様に、ST11からST17までの工程を行い、ガラス基板を98枚選定した。次いで、スキャン方向(第1の方向)およびスリット方向(第2の方向)の両方向からのに主表面形状補正(ST18)を行う。図6(b)に示すチャック後主表面形状のガラス基板に対し、図7(a)に示すように、マスクブランク用基板のチャック後主表面形状の補正領域Xのスキャン方向に平行な右端、中央、左端の各直線Yにおける高さ情報からスキャン方向の基板の断面形状を求め、この3か所の断面形状に対して4次曲線を最小二乗法で算出することにより、図7(b)に示すスキャン方向の近似曲線(第1近似曲線)Zを算出する。また、図8(a)に示すように、マスクブランク用基板のチャック後主表面形状の補正領域Xのスリット方向に平行な上端、中央、下端の各直線Yにおける高さ情報からスリット方向の基板の断面形状を求め、この3か所の断面形状に対して2次曲線を最小二乗法で算出することにより、図8(b)に示すスリット方向の近似曲線(第2近似曲線)Zを算出する。そして、スキャン方向の近似曲線(第1近似曲線)Zとスリット方向の近似曲線(第2近似曲線)Zとから図9(a)に示すような近似曲面Zを算出し、上記シミュレーションで得られたチャック後形状から差し引く。近似曲面Zを差し引いた後の基板形状を図9(b)に示す。
【0086】
次いで、算出した補正後主表面の補正領域(132mm×132mm)内の平坦度を算出し、第2閾値(0.16μm)以下の基板を選定した(ST19)。この第2閾値は、このマスクブランク用基板が求められている基準の平坦度である。その結果、この条件を満たすガラス基板は、98枚中97枚であった。従来のシミュレーション(ST14)で算出した基板のチャック後主表面形状(ST15)から求められる平坦度に対し、第2閾値と同じ0.16μm以下の条件を満たす基板を選定すると、98枚中90枚であることから、主表面形状補正(ST18)を行うことにより、生産歩留りが大幅に向上することがわかる。
【0087】
次いで、上記のようにして得られたガラス基板上に、転写パターンを形成するための薄膜(遮光膜)として、MoSiON膜(裏面反射防止層)、MoSi(遮光層)、MoSiON膜(反射防止層)を形成し、マスクブランクを製造した(ST20)。具体的には、Mo:Si=21:79(原子%比)のターゲットを用い、ArとOとNとHeをスパッタリングガス圧0.2Pa(ガス流量比Ar:O:N:He=5:4:49:42)とし、DC電源の電力を3.0kWで、モリブデン、シリコン、酸素、窒素からなる膜(MoSiON膜)を7nmの膜厚で形成し、次いで、同じターゲットを用い、ArとHeをスパッタリングガス圧0.3Pa(ガス流量比Ar:He20:120)とし、DC電源の電力を2.0kWで、モリブデン及びシリコンからなる膜(MoSi膜:膜中のMoとSiの原子%比は約21:79)を30nmの膜厚で形成し、次いで、Mo:Si=4:96(原子%比)のターゲットを用い、ArとOとNとHeをスパッタリングガス圧0.1Pa(ガス流量比Ar:O:N:He=6:5:11:16)とし、DC電源の電力を3.0kWで、モリブデン、シリコン、酸素、窒素からなる膜(MoSiON膜)を15nmの膜厚で形成した。薄膜(遮光膜)の合計膜厚は52nmとした。この条件で成膜された裏面反射防止層、遮光層および表面反射防止層は、遮光膜全体で非常に低応力であり、基板の形状変化を最小限に抑制できた。
【0088】
さらに、そのマスクブランクの遮光膜及び反射防止膜を所定のパターンにパターニングすることにより、フォトマスク(バイナリーマスク)を作製した(ST21)。得られたフォトマスクを、スキャン方向およびスリット方向の主表面形状補正が行うことが可能な露光装置で検証を行った。露光装置のマスクステージにチャックし、スキャン方向およびスリット方向の主表面形状補正を行った後、半導体ウェハWのレジスト膜上に露光してフォトマスクのパターンを転写した。レジスト膜に転写されたパターンのCD精度およびパターン位置精度を検証したところ、このフォトマスクは、DRAM hp32nm世代に十分対応可能であることが確認できた。
【0089】
(実施例4)
実施例1と同様に、ST11からST17までの工程を行い、ガラス基板を98枚選定し、スキャン方向(第1の方向)における主表面形状補正(ST18)を行った。次いで、算出した補正後主表面の補正領域(132mm×132mm)内の平坦度を算出し、第2閾値(0.08μm)以下の基板を選定した(ST19)。この第2閾値は、このマスクブランク用基板が求められている基準の平坦度である。その結果、この条件を満たすガラス基板は、98枚中92枚であった。従来のシミュレーション(ST14)で算出した基板のチャック後主表面形状(ST15)から求められる平坦度に対し、第2閾値と同じ0.08μm以下の条件を満たす基板を選定すると、98枚中84枚であることから、主表面形状補正(ST18)を行うことにより、生産歩留りが大幅に向上することがわかる。
【0090】
次いで、上記のようにして得られたガラス基板上に、実施例1と同様、転写パターンを形成するための薄膜として、裏面反射防止層、遮光層、及び表面反射防止層からなる遮光膜を形成し、マスクブランクを製造した(ST20)。さらに、そのマスクブランクの遮光膜を所定のパターンにパターニングすることにより、フォトマスク(バイナリーマスク)を作製した(ST21)。得られたフォトマスクを、少なくともスキャン方向の主表面形状補正が行うことが可能な露光装置で検証を行った。露光装置のマスクステージにチャックし、スキャン方向の主表面形状補正を行った後、半導体ウェハWのレジスト膜上に露光してフォトマスクのパターンを転写した。レジスト膜に転写されたパターンのCD精度およびパターン位置精度を検証したところ、このフォトマスクは、DRAM hp22nm世代に十分対応可能であることが確認できた。
【0091】
(実施例5)
実施例2と同様に、ST11からST17までの工程を行い、ガラス基板を98枚選定し、スリット方向(第2の方向)における主表面形状補正(ST18)を行った。次いで、算出した補正後主表面の補正領域(132mm×132mm)内の平坦度を算出し、第2閾値(0.08μm)以下の基板を選定した(ST19)。この第2閾値は、このマスクブランク用基板が求められている基準の平坦度である。その結果、この条件を満たすガラス基板は、98枚中91枚であった。従来のシミュレーション(ST14)で算出した基板のチャック後主表面形状(ST15)から求められる平坦度に対し、第2閾値と同じ0.08μm以下の条件を満たす基板を選定すると、98枚中84枚であることから、主表面形状補正(ST18)を行うことにより、生産歩留りが大幅に向上することがわかる。
【0092】
次いで、上記のようにして得られたガラス基板上に、実施例2と同様、転写パターンを形成するための薄膜として、位相シフト膜と、裏面反射防止層、遮光層、及び表面反射防止層からなる遮光膜を形成し、マスクブランクを製造した(ST20)。さらに、そのマスクブランクの遮光膜および位相シフト膜を所定のパターンにパターニングすることにより、フォトマスク(位相シフトマスク)を作製した(ST21)。得られたフォトマスクを、少なくともスリット方向の主表面形状補正が行うことが可能な露光装置で検証を行った。露光装置のマスクステージにチャックし、スリット方向の主表面形状補正を行った後、半導体ウェハWのレジスト膜上に露光してフォトマスクのパターンを転写した。レジスト膜に転写されたパターンのCD精度およびパターン位置精度を検証したところ、このフォトマスクは、DRAM hp22nm世代に十分対応可能であることが確認できた。
【0093】
(実施例6)
実施例3と同様に、ST11からST17までの工程を行い、ガラス基板を98枚選定し、スキャン方向(第1の方向)およびスリット方向(第2の方向)における主表面形状補正(ST18)を行った。次いで、算出した補正後主表面の補正領域(132mm×132mm)内の平坦度を算出し、第2閾値(0.08μm)以下の基板を選定した(ST19)。この第2閾値は、このマスクブランク用基板が求められている基準の平坦度である。その結果、この条件を満たすガラス基板は、98枚中93枚であった。従来のシミュレーション(ST14)で算出した基板のチャック後主表面形状(ST15)から求められる平坦度に対し、第2閾値と同じ0.08μm以下の条件を満たす基板を選定すると、98枚中84枚であることから、主表面形状補正(ST18)を行うことにより、生産歩留りが大幅に向上することがわかる。
【0094】
次いで、上記のようにして得られたガラス基板上に、実施例3と同様、転写パターンを形成するための薄膜として、裏面反射防止層、遮光層、及び表面反射防止層からなる遮光膜を形成し、マスクブランクを製造した(ST20)。さらに、そのマスクブランクの遮光膜を所定のパターンにパターニングすることにより、フォトマスク(バイナリーマスク)を作製した(ST21)。得られたフォトマスクを、スキャン方向およびスリット方向の両方の主表面形状補正が行うことが可能な露光装置で検証を行った。露光装置のマスクステージにチャックし、スキャン方向およびスリット方向の主表面形状補正を行った後、半導体ウェハWのレジスト膜上に露光してフォトマスクのパターンを転写した。レジスト膜に転写されたパターンのCD精度およびパターン位置精度を検証したところ、このフォトマスクは、DRAM hp22nm世代に十分対応可能であることが確認できた。
【0095】
本発明は上記実施の形態に限定されず、適宜変更して実施することができる。例えば、上記実施の形態における材料、サイズ、処理手順などは一例であり、本発明の効果を発揮する範囲内において種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 マスクステージ
1a チャック
2 フォトマスク
3 スリット部材
3a スリット
4 光源
5 照明光学系
6 縮小光学系
7 ウェハステージ
W 半導体ウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光装置のマスクステージにチャックされるフォトマスクに用いられるマスクブランク用基板の製造方法であって、
基板の主表面における実測領域内のチャック前主表面形状を測定する工程と、
前記基板のチャック前主表面形状および前記マスクステージの形状に基づいて、前記基板から作製されたフォトマスクを前記露光装置にセットしたときにおける前記基板のチャック後主表面形状をシミュレーションにより得る工程と、
前記基板について、チャック後主表面形状の補正領域内で第1の方向に沿う断面形状に近似する第1近似曲線を算出し、前記第1近似曲線から近似曲面を算出して前記チャック後主表面形状から差し引く補正を行い、補正後主表面形状を算出する工程と、
前記補正後主表面形状の補正領域内での平坦度が、所定閾値以下であるものを選定する工程と、
を有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項2】
前記補正後主表面形状を算出する工程は、第1の方向に直交する第2の方向に沿う断面形状に近似する第2近似曲線を算出し、前記第2近似曲線から近似曲面を算出し、第1の近似曲線から算出された近似曲面を差し引く補正を行った後のチャック後主表面形状からさらに前記第2近似曲面から算出された近似曲面を差し引く補正を行うことを特徴とする請求項1記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項3】
露光装置のマスクステージにチャックされるフォトマスクに用いられるマスクブランク用基板の製造方法であって、
基板の主表面における実測領域内のチャック前主表面形状を測定する工程と、
前記基板のチャック前主表面形状および前記マスクステージの形状に基づいて、前記基板から作製されたフォトマスクを前記露光装置にセットしたときにおける前記基板のチャック後主表面形状をシミュレーションにより得る工程と、
前記基板について、チャック後主表面形状の補正領域内で第1の方向に沿う断面形状に近似する第1近似曲線を算出し、第1の方向に直交する第2の方向に沿う断面形状に近似する第2近似曲線を算出し、前記第1近似曲線および第2近似曲線から近似曲面を算出して前記チャック後主表面形状から差し引く補正を行い、補正後主表面形状を算出する工程と、
前記補正後主表面形状の補正領域内での平坦度が、所定閾値以下であるものを選定する工程と、
を有することを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項4】
前記第1近似曲線は、2次曲線または4次曲線であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項5】
前記第2近似曲線は、2次曲線または4次曲線であることを特徴とする請求項2から求項4のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項6】
前記所定閾値が0.16μmであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項7】
前記所定閾値が0.08μmであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項8】
前記実測領域は、前記補正領域を含む領域であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項9】
前記補正領域は、132mm角内の領域であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項10】
前記チャック前主表面形状の実算出領域内での平坦度が0.4μm以下である基板を選定する工程を有することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項11】
前記実算出領域は、前記補正領域を含む領域であることを特徴とする請求項10記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項12】
前記実算出領域は、142mm角内の領域であることを特徴とする請求項10記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項13】
前記露光装置は、第1の方向に移動可能であって第2の方向に延在するスリットを介してフォトマスクに対して露光光が照射されることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれかに記載の方法で得られたマスクブランク用基板のチャック前主表面形状を測定した側の主表面に薄膜を形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法で得られたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成することを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法で得られたフォトマスクを主表面形状補正を行うことが可能な露光装置のマスクステージにチャックし、フォトマスクのパターンをウェハのレジスト膜に露光転写する工程を有することを特徴とする半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−175279(P2011−175279A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90021(P2011−90021)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【分割の表示】特願2009−74997(P2009−74997)の分割
【原出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】