説明

マスク蒸着法、およびマスク蒸着装置

【課題】複数のチップを支持基板に固定したマスクを用いた場合でも、チップと被処理基板との密着性を高めることのできるマスク蒸着法、およびマスク蒸着装置を提供すること。
【解決手段】マスク蒸着法およびマスク蒸着装置では、被処理基板200の下面側に、開口部22を備えた複数のチップを支持基板30に接合したマスク10を配置して蒸着を行う。その際、被処理基板200の裏面220のうち、チップ20と重なる領域221に錘18を配置する。従って、マスク10の中央部分が自重により凹んだ状態に撓み、チップ20に撓みや傾きが発生した場合でも、錘18は、被処理基板200の裏面220のうち、チップ20と重なる領域221を下方に押圧するので、被処理基板200において少なくともチップ20と重なる部分は、チップ20の傾きや撓みに正確に倣って変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理基板に対してマスクを重ねた状態で真空蒸着あるいはスパッタ蒸着を行うマスク蒸着法、およびマスク蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種半導体装置や電気光学装置の製造工程では、開口部を備えたマスクを被処理基板に重ね、この状態で真空蒸着法やスパッタ法などの成膜を行うことがある。例えば、電気光学装置として有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELという)装置の製造工程では、発光用の有機EL材料(有機機能層)を所定形状に形成する際にフォトリソグラフィ技術を利用すると、パターニング用のレジストマスクをエッチング液や酸素プラズマなどで除去する際に有機材料が水分や酸素に触れると劣化が起こる。このため、有機機能層を形成するには、レジストマスクを必要としないマスク蒸着法が適している。
【0003】
このようなマスク蒸着法において、被処理基板とマスクとの間に隙間が生じていると、成膜精度が低下してしまう。そこで、マスクを磁性体で形成し、マスクを磁石により吸着して被処理基板に密着させる方法が採用されている。但し、マスクを磁性体で形成すると、大面積のマスクを形成するのが困難であるとして、磁性体以外の材料でマスクを形成すると、磁石による吸着力を利用してマスクと被処理基板に密着させる方法を採用できなくなる。
【0004】
そこで、被処理基板とマスクとを重ねた状態で被処理基板をマスクに向けて力学的に押圧し、被処理基板とマスクとの密着性を確保するという方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
一方、被処理基板が大きい場合には、マスクも大きく形成しなければならないが、このようなマスクを高精度に製作することは非常に困難である。そこで、開口部が形成された複数のチップを支持基板に固定してマスクを構成することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−158571号公報
【特許文献2】特開2005−276480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数のチップを支持基板に固定したマスクを用いた場合に、特許文献1に記載されている方法で被処理基板を押圧すると、逆に、成膜精度が低下するという事態が頻発する。本願発明者は、その理由について種々検討したところ、複数のチップを支持基板に固定したマスクを用いた場合に被処理基板を押圧すると、チップが被処理基板に向けて段差状に突出しているため、被処理基板に対する押圧箇所によっては、被処理基板とチップとの間に大きな隙間が発生するという知見を得た。
【0007】
本発明は、上記知見に基づいて、複数のチップを支持基板に固定したマスクを用いた場合でも、チップと被処理基板との密着性を高めることのできるマスク蒸着法、およびマスク蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、成膜するパターンに対応する開口部が形成されたマスクを被処理基板の被成膜面側に重ねた状態で蒸着するマスク蒸着法において、前記マスクは、前記開口部が形成された複数のチップと、該複数のチップを保持する支持基板とを備え、前記被処理基板において前記被成膜面と反対側に位置する裏面のうち、前記チップと重なる領域の少なくとも一部を前記マスクに向けて押圧した状態で蒸着することを特徴とする。
【0009】
本発明において、成膜するパターンに対応する開口部が形成されたマスクを被処理基板の被成膜面側に重ねた状態で蒸着するマスク蒸着装置において、前記マスクは、前記開口部が形成された複数のチップと、該複数のチップを保持する支持基板とを備え、前記被処理基板において前記被成膜面と反対側に位置する裏面のうち、前記チップと重なる領域の少なくとも一部を前記マスクに向けて押圧する押圧具を備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明では、複数のチップを支持基板に固定したマスクを被処理基板に重ねた状態でマスク蒸着する際、被処理基板において被成膜面と反対側に位置する裏面のうち、チップと重なる領域の少なくとも一部をマスクに向けて押圧するため、被処理基板とチップとの間に隙間が発生しない。すなわち、複数のチップを支持基板に固定したマスクでは、チップが支持基板から被処理基板の方に段差状に突出しているが、本発明では、被処理基板の裏面のうち、チップと重なる領域をマスクに向けて押圧するため、被処理基板とチップとの間に隙間が発生しない。それ故、成膜精度を向上することができる。
【0011】
本発明において、前記被処理基板は、前記被成膜面を下側に向けて配置される場合が多く、この場合、前記被処理基板の裏面のうち、前記チップと重なる領域の少なくとも一部を下方に押圧した状態で蒸着する。被処理基板を下側に向けて配置すると、マスクは自重により中央が凹んだ状態に撓み、チップに撓みや傾きが発生するが、本発明では、被処理基板の裏面のうち、チップと重なる領域をマスクに向けて押圧するため、被処理基板をチップの撓みや傾きに倣って変形させるため、被処理基板とチップとの間に隙間が発生しない。それ故、成膜精度を向上することができる。
【0012】
本発明において、前記チップは、前記開口部が形成されている領域の周りに外枠部を備え、前記被処理基板の裏面のうち、前記チップの外枠部と重なる領域を押圧した状態で蒸着することが好ましい。このように構成すると、被処理基板の裏面のうち、チップと重なる領域を押圧しても開口部に変形や損傷が発生しない。
【0013】
本発明において、前記チップが長方形の平面形状を備えている場合、前記被処理基板の裏面のうち、少なくとも前記チップの長辺に沿って押圧した状態で蒸着することが好ましい。チップが長方形の平面形状を備えている場合、短辺方向よりも長辺方向でマスクが大きく撓むので、チップの長辺に沿って被処理基板を押圧すると、被処理基板とチップとの間に隙間が発生することを確実に防止することができる。
【0014】
本発明において、前記被処理基板の裏面のうち、前記チップと重なる領域内の複数箇所を押圧した状態で蒸着する構成を採用することができる。このように構成すると、被処理基板とチップとの間に隙間が発生することをより確実に防止することができる。
【0015】
この場合、前記被処理基板に対する複数の押圧箇所は、互いに10mm以上離間していることが好ましい。このように構成すると、被処理基板の裏面のうち、特定箇所を集中して押圧することがないので、被処理基板とチップとの間に隙間が発生することをより確実に防止することができる。
【0016】
本発明において、前記被処理基板の裏面のうち、前記チップと重なる領域に対して、当該チップと平面形状およびサイズが同一の錘を配置することにより、前記被処理基板を下方に押圧する構成を採用することができる。このように構成すると、マスクが撓んだ状態において、少なくとも錘の外周縁が被処理基板を下方に押圧するので、被処理基板とチップとを密着させることができる。
【0017】
本発明において、前記被処理基板の裏面のうち、前記チップと重なる領域に対して当該チップよりサイズの小さな錘を複数、配置することにより、前記被処理基板を下方に押圧することが好ましい。このように構成すると、マスクが撓んだ状態において、少なくとも錘の外周縁が被処理基板を下方に押圧するので、被処理基板とチップとを密着させることができる。その際、チップと重なる領域に対して錘を複数、配置するので、被処理基板をその全体にわたって押圧することができる。
【0018】
本発明において、前記被処理基板の裏面のうち、前記チップと重なる領域を押圧可能な突起が平板部から突出した錘を前記被処理基板の裏面側に配置することにより、前記被処理基板を下方に押圧することが好ましい。このように構成すると、マスクが撓んだ状態において、平板部の縁や突起の縁などで被処理基板の複数箇所を押圧することができるので、被処理基板をその全体にわたって押圧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明を適用したマスク蒸着法、およびマスク蒸着装置について説明する。なお、以下の説明では、各実施の形態で共通の構成を説明した後、各実施の形態の特徴部分を説明する。説明に用いる各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせてある。また、以下の実施の形態では、本発明が適用される対象として有機EL装置を例示する。
【0020】
[共通の構成]
(有機EL装置の構成例)
図1は、本発明が適用される有機EL装置の要部断面図である。図1に示す有機EL装置1は、表示装置や、電子写真方式を利用したプリンタに使用されるラインヘッドとして用いられるものであり、複数の有機EL素子3を配列してなる発光素子群3Aを備えている。有機EL装置1が、発光層7で発光した光を画素電極4側から出射するボトムエミッション方式の場合には、素子基板2側から発光光を取り出す。このため、素子基板2としては透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。また、素子基板2上には、画素電極4に電気的に接続された駆動用トランジスタ5a(薄膜トランジスタ)などを含む回路部5が、発光素子群3Aの下層側に形成されており、その上層側に有機EL素子3が形成されている。有機EL素子3は、陽極として機能する画素電極4と、この画素電極4からの正孔を注入/輸送する正孔輸送層6と、有機EL物質からなる発光層7(有機機能層)と、電子を注入/輸送する電子注入層8と、陰極9とがこの順に積層された構造になっている。
【0021】
このような有機EL装置1を製造するには、素子基板2に対して成膜工程、レジストマスクを用いてのパターニング工程などといった半導体プロセスを利用して各層が形成されるが、正孔輸送層6、発光層7、電子注入層8などの有機機能層は、水分や酸素により劣化しやすい。このため、発光層7などの有機機能層を形成する際、さらには、陰極9を形成する際、レジストマスクを用いてのパターニング工程を行うと、レジストマスクをエッチング液や酸素プラズマなどで除去する際に有機機能層が水分や酸素により劣化してしまう。そこで、本形態では、発光層7などの有機機能層を形成する際、さらには陰極9を形成する際には、マスク蒸着法を利用して、素子基板2に所定形状の薄膜を形成し、レジストマスクを用いてのパターニング工程を行わない。このマスク蒸着法では、大型基板(素子基板2/被処理基板)の下面側の所定位置にマスクを重ねた状態で蒸着を行う。発光層7を形成する場合には、低分子有機EL材料を加熱、蒸発させ、マスクの開口部を介して大型基板の下面に発光層7をストライプ状に形成する。正孔輸送層6、電子注入層8、陰極9などの形成も略同様に行う。
【0022】
(マスクおよびマスク蒸着装置の構成例)
図2は、本発明を適用したマスクの概略斜視図である。図3は、本発明を適用したマスク蒸着装置の概略構成図である。
【0023】
図2に示すマスク10は、マスク蒸着に用いるマスクであり、ベース基板をなす矩形の支持基板30に、複数のチップ20を複数、取り付けた構成を有している。本形態では、チップ20はシリコンからなるものとする。各チップ20は各々、アライメントされて支持基板30に陽極接合や紫外線硬化型接着剤などにより接合されている。
【0024】
チップ20には、成膜パターンに対応する長孔形状の開口部22が複数一定間隔で平行に設けられており、開口部22の形成領域の周りに外枠部25が形成されている。支持基板30には、長方形の貫通穴からなる複数の開口領域32が平行、かつ一定間隔で設けられており、複数のチップ20は、支持基板30の開口領域32を塞ぐように支持基板30上に固定されている。支持基板30には、アライメントマーク39を備えた基板40も接合されている。アライメントマーク39は、マスク10を使用して蒸着などを行うときに、マスク10の位置合わせを行うためのものである。なお、チップ20の外枠部25にアライメントマーク39を形成してもよい。
【0025】
ここで、チップ20の開口部22は、被処理基板の被成膜面に形成される薄膜パターンの形状に対応した形状となっている。なお、マスク10は、被処理基板に対する被成膜領域と同一サイズを有している構成、および被成膜領域よりも小さなサイズを有している構成のいずれであってもよい。後者の場合には、マスク10を用いて被成膜領域の所定領域に成膜を行った後、マスク10をずらしながら複数回、成膜することにより、被成膜領域全体への成膜を行う。また、後者の場合、複数枚のマスク10を用いて、被成膜領域全体への成膜を行ってもよい。
【0026】
本形態において、チップ20は、面方位(100)を有する単結晶シリコンや、面方位(110)を有する単結晶シリコン等をフォトリソグラフィ技術、ウエットエッチング、ドライエッチングなどを用いて、貫通溝からなる開口部22を形成することにより、製造される。また、複数のチップ20の各々において、外枠部25にはアライメントマーク24が少なくとも2ヶ所形成されている。これらのアライメントマーク24は、支持基板30にチップ20を固定する際の位置合わせに使用される。アライメントマーク24は、フォトリソグラフィ技術または結晶異方性エッチングなどにより形成される。
【0027】
支持基板30の構成材料は、チップ20の構成材料の熱膨張係数と同一又は近い熱膨張係数を有するものが好ましい。チップ20はシリコンであるので、シリコンの熱膨張係数と同一又は近い熱膨張係数をもつ材料で支持基板30を構成する。このようにすることにより、支持基板30とチップ20との熱膨張量の違いによる「歪み」又は「橈み」の発生を抑えることができる。本形態では、支持基板30としては、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、石英などからなる透明基板が用いられている。
【0028】
支持基板30には、支持基板30にチップ20を貼り合わせる際、チップ20側のアライメントマーク24と位置合わせされるアライメントマーク34が開口領域32の周りに形成されている。また、支持基板30には、基板40側のアライメントマーク39と位置合わせされるアライメントマーク33も形成されている。アライメントマーク33、34は、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチングにより、クロム(Cr膜)などの金属膜(薄膜)で形成することができる。また、アライメントマーク33、34は、支持基板30に対して、レーザ照射や、ドライエッチングあるいはウエットエッングにより、凹部として形成することもできる。
【0029】
このような構成のマスク10を備えたマスク蒸着装置は、例えば、図3(a)、(b)に示す構成を備えている。図3(a)、(b)に示すマスク蒸着装置100は、蒸着チャンバー110の内部の底面側に蒸着源120が配置されており、蒸着チャンバー110の内部において、蒸着源120の上方位置には被処理基板200が被成膜面210を下方に向けて水平に配置されている。被処理基板200の下面側には、図2を参照して説明したマスク10が重ねて配置されており、マスク10のうち、チップ20が被処理基板200の下面(被成膜面210)に当接している。本形態において、蒸着チャンバー110の内部には、マスク10の下面の外周領域、あるいはマスク10の下面の相対向する両端部分を支持するホルダ部130が構成されており、このホルダ部130によって、マスク10および被処理基板200が水平に保持された状態にある。
【0030】
この状態で、マスク10は自重により中央が凹んだ状態に撓み、チップ20に撓みや傾き発生することがある。例えば、支持基板30の外形寸法が440×540mm、厚さが3mmである場合、支持基板30の開口領域32の開口寸法にもよるが、0.1〜1mm程度の範囲で撓みが発生する。
【0031】
そこで、本発明では、被処理基板200の上面(裏面220)の側には押圧具180が配置されており、この押圧具180によって、被処理基板200を下方(マスク10の側)に押圧するようになっている。また、本形態では、以下に実施の形態1〜5として説明するように、押圧具180は、被処理基板200の裏面220のうち、チップ20と重なる領域の少なくとも一部を押圧するようになっている。
【0032】
ここで、押圧具180は、例えば、図3(a)に示すように、複数の錘18のみからなる構成を採用することができるとともに、図3(b)に示すように、複数の錘18が各々、変形自在な支持部材185によって共通のホルダ187に支持されている構成を採用することができる。これらの構成のうち、図3(b)に示す構成の場合、複数の錘18を一括して被処理基板200の裏面220の側に配置した状態と被処理基板200の裏面220の側から退避した状態に切り替えることができるので、被処理基板200のローディング、アンローディングが容易であるという利点がある。これに対して、図3(a)に示す構成の場合、例えば、被処理基板200を回転させながら、あるいは直線移動させながら成膜するのに適している。なお、図3(b)に示す構成の場合、支持部材185としては、ワイヤーなどの線状体の他、コイルバネなどを用いてもよい。
【0033】
いずれの場合も、複数の錘18は各々、被処理基板200の裏面220のうち、チップ20と重なる領域の少なくとも一部を押圧するようになっている。このため、マスク10の中央部分が自重により凹んだ状態に撓み、チップ20に撓みや傾きが発生した場合でも、かかるチップ20の傾きや撓みに倣って被処理基板200を変形させることができるので、被処理基板200とチップ20との間に隙間が発生しない。また、複数のチップ20を支持基板30に固定したマスク10では、チップ20が支持基板30から被処理基板200の方に段差状に突出しているが、このような場合でも、本形態では、被処理基板200の裏面220のうち、チップ20と重なる領域をマスク10に向けて押圧するため、被処理基板200とチップ20との間に隙間が発生しない。それ故、成膜精度を向上することができる。
【0034】
[実施の形態1]
図4(a)、(b)は、それぞれ、本発明の実施の形態1に係るマスク蒸着法およびマスク蒸着装置において、マスク、被処理基板および錘の位置関係を示す斜視図、およびその断面図である。なお、図4(b)には、マスクなどが湾曲した状態を誇張して示してある。
【0035】
本形態のマスク蒸着法およびマスク蒸着装置では、図4(a)、(b)に示すように、被処理基板200の被成膜面210(下面)側にマスク10を重ねて配置し、この状態で真空蒸着を行う。その際、被処理基板200の裏面220(上面)のうち、チップ20と重なる領域221(図4(b)に太線で示した領域)の各々に錘18を配置する。ここで、チップ20は長方形であり、錘18は、チップ20と平面形状およびサイズが同一のアルミニウム製などの平板である。
【0036】
従って、本形態では、マスク10の中央部分が自重により凹んだ状態に撓み、チップ20に撓みや傾きが発生した場合でも、錘18は、被処理基板200の裏面220のうち、チップ20と重なる領域221を下方に押圧するので、被処理基板200は、チップ20の傾きや撓みに倣って変形する。その際、錘18の外周縁は、チップ20の外周縁に対応する箇所を押圧するので、被処理基板200に加わる荷重点は矢印Gで示すように表わされる。ここで、錘18は、チップ20と平面形状およびサイズが同一であるため、錘18の外周縁全体(長辺部分および短辺部分)がチップ20の外周縁全体(長辺部分および短辺部分)に対応する箇所を押圧する。従って、被処理基板200において少なくともチップ20と重なる部分は、チップ20の傾きや撓みに正確に倣って変形する。それ故、被処理基板200とチップ20との間に隙間が発生しないので、成膜精度を向上することができる。
【0037】
また、錘18は、チップ20の外枠部25と重なる箇所を押圧するので、開口部22が変形することがない。それ故、本形態によれば、成膜精度をより向上することができる。
【0038】
[実施の形態2]
図5(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態2に係るマスク蒸着法およびマスク蒸着装置において、マスク、被処理基板および錘の位置関係を示す斜視図、およびその断面図である。なお、図5(b)には、マスクなどが湾曲した状態を誇張して示してある。
【0039】
本形態のマスク蒸着法およびマスク蒸着装置では、図5(a)、(b)に示すように、実施の形態1と同様、被処理基板200の被成膜面210(下面)側にマスク10を重ねて配置し、この状態で真空蒸着を行う。その際、被処理基板200の裏面220(上面)のうち、チップ20と重なる領域221(図5(b)に太線で示した領域)の各々にアルミニウム製などの錘18を配置する。ここで、チップ20は長方形であり、錘18は、チップ20と同一形状の平板部18pと、この平板部18pの下面において、長さ方向の略中央位置に台状に形成された突起18aとを備えている。
【0040】
従って、本形態では、マスク10の中央部分が自重により凹んだ状態に撓み、チップ20に撓みや傾きが発生した場合でも、錘18は、被処理基板200の裏面220のうち、チップ20と重なる領域221を下方に押圧するので、被処理基板200は、チップ20の傾きや撓みに倣って変形する。特に、本形態では、錘18の平板部18pの長手方向の両端部、および突起18aの外周縁が各々、チップ20の外周縁に対応する箇所を押圧するので、被処理基板200に加わる荷重点は、矢印Gで示すように、実施の形態1よりも多い。しかも、錘18は、大きな撓みが発生するチップ20の長辺方向で多くの箇所(本形態では4箇所)で被処理基板200を押圧する。従って、被処理基板200において少なくともチップ20と重なる部分は、チップ20の傾きや撓みに正確に倣って変形する。それ故、被処理基板200とチップ20との間に隙間が発生しないので、成膜精度を向上することができる。
【0041】
また、本形態では、1つの錘18が被処理基板200を複数箇所で押圧するが、かかる押圧箇所は互いに10mm以上、離間している。このため、被処理基板200に対して局所的に大きな荷重が加わらず、被処理基板200においてチップ20と重なる箇所の全体に荷重が印加されるので、被処理基板200において少なくともチップ20と重なる部分は、チップ20の傾きや撓みにより正確に倣って変形するという利点がある。
【0042】
[実施の形態3]
図6(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態3に係るマスク蒸着法およびマスク蒸着装置において、マスク、被処理基板および錘の位置関係を示す斜視図、およびその断面図である。なお、図6(b)には、マスクなどが湾曲した状態を誇張して示してある。
【0043】
本形態のマスク蒸着法およびマスク蒸着装置では、図6(a)、(b)に示すように、被処理基板200の被成膜面210(下面)側にマスク10を重ねて配置し、この状態で真空蒸着を行う。その際、被処理基板200の裏面220(上面)のうち、チップ20と重なる領域221(図6(b)に太線で示した領域)の各々にアルミニウム製などの錘18を配置する。ここで、チップ20は長方形であり、錘18は、チップ20を長手方向に略2分割したサイズである。
【0044】
従って、本形態では、マスク10の中央部分が自重により凹んだ状態に撓み、チップ20に撓みや傾きが発生した場合でも、錘18は、被処理基板200の裏面220のうち、チップ20と重なる領域221を下方に押圧するので、被処理基板200は、チップ20の傾きや撓みに倣って変形する。特に本形態では、錘18が1枚のチップ20当たり、2枚、配置されるので、被処理基板200に加わる荷重点は、矢印Gで示すように、実施の形態1よりも多い。しかも、錘18は、大きな撓みが発生するチップ20の長辺方向で多くの箇所(本形態では4箇所)で被処理基板200を押圧する。従って、被処理基板200において少なくともチップ20と重なる部分は、チップ20の傾きや撓みに正確に倣って変形する。それ故、被処理基板200とチップ20との間に隙間が発生しないので、成膜精度を向上することができる。
【0045】
また、本形態では、2枚の錘18が1枚のチップ20に対して配置されるので、2枚の錘18が被処理基板200を複数箇所で押圧するが、かかる押圧箇所は互いに10mm以上、離間している。このため、被処理基板200に対して局所的に大きな荷重が加わらず、被処理基板200においてチップ20と重なる箇所の全体に荷重が印加されるので、被処理基板200において少なくともチップ20と重なる部分は、チップ20の傾きや撓みにより正確に倣って変形するという利点がある。
【0046】
[実施の形態4]
図7(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態4に係るマスク蒸着法およびマスク蒸着装置において、マスク、被処理基板および錘の位置関係を示す斜視図、およびその断面図である。なお、図7(b)には、マスクなどが湾曲した状態を誇張して示してある。
【0047】
本形態のマスク蒸着法およびマスク蒸着装置では、図7(a)、(b)に示すように、被処理基板200の被成膜面210(下面)側にマスク10を重ねて配置し、この状態で真空蒸着を行う。その際、被処理基板200の裏面220(上面)のうち、チップ20と重なる領域221(図7(b)に太線で示した領域)の各々にアルミニウム製などの錘18を配置する。ここで、チップ20は長方形であり、錘18は、チップ20と同一形状の平板部18pと、この平板部18pの下面の両側で長辺に沿って延びた2本の突起18bとを備えている。
【0048】
従って、本形態では、マスク10の中央部分が自重により凹んだ状態に撓み、チップ20に撓みや傾きが発生した場合でも、錘18は、被処理基板200の裏面220のうち、チップ20と重なる領域221を下方に押圧するので、被処理基板200は、チップ20の傾きや撓みに倣って変形する。特に本形態では、錘18の平板部18pの長手方向の両端部、および突起18aの外周縁が各々、チップ20の外周縁に対応する箇所を押圧するので、被処理基板200に加わる荷重点は、矢印Gで示すように、実施の形態1よりも多い。しかも、錘18は、大きな撓みが発生するチップ20の長辺方向で多くの箇所(本形態では4箇所)で被処理基板200を押圧する。従って、被処理基板200において少なくともチップ20と重なる部分は、チップ20の傾きや撓みに正確に倣って変形する。それ故、被処理基板200とチップ20との間に隙間が発生しないので、成膜精度を向上することができる。
【0049】
また、本形態では、1つの錘18が被処理基板200を複数箇所で押圧するが、かかる押圧箇所は互いに10mm以上、離間している。このため、被処理基板200に対して局所的に大きな荷重が加わらず、被処理基板200においてチップ20と重なる箇所の全体に荷重が印加されるので、被処理基板200において少なくともチップ20と重なる部分は、チップ20の傾きや撓みにより正確に倣って変形するという利点がある。
【0050】
さらに、錘18は、チップ20の外枠部25と重なる箇所のみを押圧するので、開口部22が変形することがない。それ故、本形態によれば、成膜精度をより向上することができる。
【0051】
[実施の形態5]
図8(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態5に係るマスク蒸着法およびマスク蒸着装置において、マスク、被処理基板および錘の位置関係を示す斜視図、およびその断面図である。なお、図8(b)には、マスクなどが湾曲した状態を誇張して示してある。
【0052】
本形態のマスク蒸着法およびマスク蒸着装置では、図8(a)、(b)に示すように、被処理基板200の被成膜面210(下面)側にマスク10を重ねて配置し、この状態で真空蒸着を行う。その際、被処理基板200の裏面220(上面)のうち、チップ20と重なる領域221(図8(b)に太線で示した領域)の各々にアルミニウム製などの錘18を配置する。ここで、チップ20は長方形であり、錘18は、チップ20を長手方向に略2分割したサイズである。また、錘18は、矩形の平板部18pと、この平板部18pの下面の4つの角部分で突出する4つの突起18cとを備えている。
【0053】
従って、本形態では、マスク10の中央部分が自重により凹んだ状態に撓み、チップ20に撓みや傾きが発生した場合でも、錘18は、被処理基板200の裏面220のうち、チップ20と重なる領域221を下方に押圧するので、被処理基板200は、チップ20の傾きや撓みに倣って変形する。特に本形態では、錘18が1枚のチップ20当たり、2枚、配置され、かつ、各々の下面に突起18cが形成されているので、被処理基板200に加わる荷重点は、矢印Gで示すように、実施の形態1よりも多い。しかも、錘18は、大きな撓みが発生するチップ20の長辺方向で多くの箇所(本形態では4箇所)で被処理基板200を押圧する。従って、被処理基板200において少なくともチップ20と重なる部分は、チップ20の傾きや撓みに正確に倣って変形する。それ故、被処理基板200とチップ20との間に隙間が発生しないので、成膜精度を向上することができる。
【0054】
また、本形態では、1つの錘18が被処理基板200を複数箇所で押圧するが、かかる押圧箇所は互いに20mm離間しており、10mm以上は離間している。このため、被処理基板200に対して局所的に大きな荷重が加わらず、被処理基板200においてチップ20と重なる箇所の全体に荷重が印加されるので、被処理基板200において少なくともチップ20と重なる部分は、チップ20の傾きや撓みにより正確に倣って変形するという利点がある。
【0055】
さらに、錘18は、チップ20の外枠部25と重なる箇所のみを押圧するので、開口部22が変形することがない。それ故、本形態によれば、成膜精度をより向上することができる。
【0056】
[その他の実施の形態]
本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記形態では、被処理基板200の被成膜面210を下向きに配置した例であったが、被処理基板200の被成膜面210を上向きに配置した場合や、被処理基板200を立てて蒸着した場合において、被処理基板200とマスク10とを密着させる場合に本発明を適用してもよい。
【0057】
また、上記形態では、真空蒸着法を例に説明したが、スパッタ蒸着法に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明を適用した有機EL装置の要部断面図である。
【図2】本発明を適用したマスクの概略斜視図である。
【図3】本発明を適用したマスク蒸着装置の概略構成図である。
【図4】(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態1に係るマスク蒸着法およびマスク蒸着装置において、マスク、被処理基板および錘の位置関係を示す斜視図、およびその断面図である。
【図5】(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態2に係るマスク蒸着法およびマスク蒸着装置において、マスク、被処理基板および錘の位置関係を示す斜視図、およびその断面図である。
【図6】(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態3に係るマスク蒸着法およびマスク蒸着装置において、マスク、被処理基板および錘の位置関係を示す斜視図、およびその断面図である。
【図7】(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態4に係るマスク蒸着法およびマスク蒸着装置において、マスク、被処理基板および錘の位置関係を示す斜視図、およびその断面図である。
【図8】(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態5に係るマスク蒸着法およびマスク蒸着装置において、マスク、被処理基板および錘の位置関係を示す斜視図、およびその断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1・・有機EL装置、2・・素子基板、3・・有機EL素子、7・・発光層、10・・マスク、18・・錘、20・・チップ、30・・支持基板、100・・マスク蒸着装置、110・・蒸着室、120・・蒸着源、180・・押圧具、200・・被処理基板、210・・被処理基板の被成膜面、220・・被処理基板の裏面、221・・被処理基板の裏面のうちチップと重なる領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜するパターンに対応する開口部が形成されたマスクを被処理基板の被成膜面側に重ねた状態で蒸着するマスク蒸着法において、
前記マスクは、前記開口部が形成された複数のチップと、該複数のチップを保持する支持基板とを備え、
前記被処理基板において前記被成膜面と反対側に位置する裏面のうち、前記チップと重なる領域の少なくとも一部を前記マスクに向けて押圧した状態で蒸着することを特徴とするマスク蒸着法。
【請求項2】
前記被処理基板は、前記被成膜面を下側に向けて配置され、
前記被処理基板の裏面のうち、前記チップと重なる領域の少なくとも一部を下方に押圧した状態で蒸着することを特徴とする請求項1に記載のマスク蒸着法。
【請求項3】
前記チップは、前記開口部が形成されている領域の周りに外枠部を備え、
前記被処理基板の裏面のうち、前記チップの前記外枠部と重なる領域を押圧することを特徴とする請求項2に記載のマスク蒸着法。
【請求項4】
前記チップは、長方形の平面形状を備え、
前記被処理基板の裏面のうち、少なくとも前記チップの長辺に沿って押圧した状態で蒸着することを特徴とする請求項2または3に記載のマスク蒸着法。
【請求項5】
前記被処理基板の裏面のうち、前記チップと重なる領域内の複数箇所を押圧した状態で蒸着することを特徴とする請求項2乃至4の何れか一項に記載のマスク蒸着法。
【請求項6】
前記被処理基板に対する複数の押圧箇所は、互いに10mm以上離間していることを特徴とする請求項5に記載のマスク蒸着法。
【請求項7】
前記被処理基板の裏面のうち、前記チップと重なる領域に対して、当該チップと平面形状およびサイズが同一の錘を配置することにより、前記被処理基板を下方に押圧することを特徴とする請求項2乃至4の何れか一項に記載のマスク蒸着法。
【請求項8】
前記被処理基板の裏面のうち、前記チップと重なる領域に対して当該チップよりサイズの小さな錘を複数、配置することにより、前記被処理基板を下方に押圧することを特徴とする請求項2乃至6の何れか一項に記載のマスク蒸着法。
【請求項9】
前記被処理基板の裏面のうち、前記チップと重なる領域を押圧可能な突起が平板部から突出した錘を前記被処理基板の裏面側に配置することにより、前記被処理基板を下方に押圧することを特徴とする請求項2乃至6の何れか一項に記載のマスク蒸着法。
【請求項10】
成膜するパターンに対応する開口部が形成されたマスクを被処理基板の被成膜面側に重ねた状態で蒸着するマスク蒸着装置において、
前記マスクは、前記開口部が形成された複数のチップと、該複数のチップを保持する支持基板とを備え、
前記被処理基板において前記被成膜面と反対側に位置する裏面のうち、前記チップと重なる領域の少なくとも一部を前記マスクに向けて押圧する押圧具を備えていることを特徴とするマスク蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−108596(P2008−108596A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290813(P2006−290813)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】