説明

マリモカーボンおよびその製造方法

【課題】目的とする触媒の担持状態に応じたグラフェンシートの微細構造を設計することが可能なマリモカーボンの製造技術を提供すること。
【解決手段】表面が酸化されたダイヤモンド微粒子と、このダイヤモンド微粒子の表面に担持された遷移金属触媒と、この遷移金属触媒から等方向的に放射伸長しマリモ状に成長した多数のカーボンナノフィラメントからなる、ほぼ球状形態を有するマリモカーボンであって、
前記カーボンナノフィラメントは、ほぼ円錐カップ形状からなるグラフェンシートが該円錐の軸方向に積層して線状に成長してなる1次構造を有し、
前記前記グラフェンシートの前記円錐の半頂角の角度分布が比較的揃った分布を有するカーボンナノフィラメントによって構成されることを特徴とする、マリモカーボン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次世代触媒担体として有用なマリモカーボンおよびその製造技術ならびにこのマリモカーボンを担体とするマリモカーボン触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素の六員環ネットワーク(グラフェンシート)によって構成されるフラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等のナノメートル(nm)サイズの微細構造を有する炭素材料が、次世代の機能性材料として注目されている。これらのナノ炭素材料は、強度補強材料、電子材料、電磁波吸収材料、触媒材料あるいは光学材料としての幅広い応用が期待されている。
【0003】
たとえば、固体高分子形燃料電池(PEFC)に代表される燃料電池は、発電時において電力、水および熱のみを発生することから、環境に優しいエネルギー変換装置として期待され、研究開発が精力的に進められている。現在、このような燃料電池の電極触媒としては、稀少で高価な白金が用いられている。このような高価な白金を触媒金属として用いる場合は、少量で高い触媒能を得るために、粒径を小さくしたり高分散密度の状態に担持する技術が必要であり、さらに触媒担体の選定方法や担持方法など多方面からの開発が進められている。
【0004】
そして、従来の活性炭に代わる新しい触媒用担体として、カーボンナノチューブ(CNTs)に代表される炭素系ナノ材料が注目されている。しかしながら、カーボンナノチューブ(CNTs)は、嵩密度が比較的大きく取り扱いが必ずしも容易ではなく、また製造コスト的にも十分満足の行くものではないのが現状である。
【0005】
さらに、CNTsを触媒担体として用いる場合、予め酸処理や熱処理を施し、触媒を担持させる部位となるエッジを得るためにグラフェンシートの微細構造を破壊する前処理を行うことが通常行われている。
【0006】
一方、比較的低コストで合成可能なカーボンナノフィラメント(CNFs)系のナノ炭素材料として、マリモカーボンが知られている。マリモカーボンは、ダイヤモンド微粒子を核として繊維状のカーボンナノフィラメント(CNFs)を放射状に成長させて得られるマリモのような球状形態のナノ炭素材料である。
【0007】
このようなマリモカーボンの製造方法については、従来、さまざま方法が提案されている(特許文献1〜4参照)。
【0008】
しかしながら、従来のマリモカーボンの製造技術においては、製造されるマリモカーボンを構成するフィラメントの微細構造が比較的不均一で不規則なものしか得られていないのが現状である。たとえば、マリモカーボンに担持させる触媒粒子の担持特性を決定すると考えられる、カーボンフィラメントを構成するグラフェンシートのエッジの出現形態についても、これを適切に制御する技術については従来検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3698263号
【特許文献2】特許第4644798号
【特許文献3】特許第3968439号
【特許文献4】特開2005−335968号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、目的とする触媒の担持状態に応じたグラフェンシートの微細構造を設計することが可能なマリモカーボンの製造技術を提供することに向けられたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための本発明に係るマリモカーボンは、表面が酸化されたダイヤモンド微粒子と、このダイヤモンド微粒子の表面に担持された遷移金属触媒と、この遷移金属触媒から等方向的に放射伸長しマリモ状に成長した多数のカーボンナノフィラメントからなる、ほぼ球状形態を有するマリモカーボンであって、前記カーボンナノフィラメントは、ほぼ円錐カップ形状からなるグラフェンシートが該円錐の軸方向に積層して線状に成長してなる1次構造を有し、前記グラフェンシートの前記円錐の半頂角の角度分布が比較的揃った分布を有するカーボンナノフィラメントによって構成されることを特徴とするものである。
【0012】
上記構成の本発明の更なる具体的態様においては、前記グラフェンシートの前記円錐の半頂角の平均値をθとし、θ±10°の半頂角を有するグラフェンシートの割合が、該マリモカーボンの全質量に対して70質量%以上、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99.7質量%以上である。
【0013】
本発明の好ましい態様においては、前記遷移金属触媒がNiであるか、あるいはCoまたはPdである。
【0014】
また、本発明は、上記のマリモカーボンを担体として、該マリモカーボンの前記円錐カップ形状からなるグラフェンシートのエッジ部分に触媒微粒子が担持されてなるマリモカーボン触媒を包含する。
【0015】
さらに、本発明は、上記マリモカーボンの前記円錐カップ形状からなるグラフェンシートのエッジ部分が化学修飾されてなる化学センサー、ならびに上記マリモカーボンのキャパシタとしての使用を包含する。
【0016】
本発明に係るマリモカーボンは、種々の触媒担体として好適であり、特に固体高分子形燃料電池(PEFC)などの燃料電池用触媒担体として有効に適用することが可能である。
【0017】
さらに、本発明に係るマリモカーボンの製造方法は、表面が酸化されたダイヤモンド微粒子の表面に遷移金属触媒が担持されたダイヤモンド触媒微粒子を、炭化水素を含む気相中において加熱し反応させることによって前記ダイヤモンド触媒微粒子を核として該微粒子からカーボンナノフィラメントを等方向的かつ放射状に成長させることによって、マリモ状に成長した多数のカーボンナノフィラメントからなる、ほぼ球状形態を有するマリモカーボンを製造する方法であって、前記反応温度を400℃〜600℃の範囲で選択し、その選択した温度に一定に保持することによって、上記本発明のマリモカーボンを得ることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記の方法によって得られたマリモカーボンの前記円錐カップ形状からなるグラフェンシートのエッジ部分に触媒微粒子を担持する工程を含むマリモカーボン触媒の製造方法を包含する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、微細構造の揃った形態を有するマリモカーボンが提供される。さらに、本発明によれば、目的とする触媒担持状態に適合するマリモカーボンを簡易かつ低コストで提供することができるので、触媒担体としてのマリモカーボンの付加価値を高めることができる点で工業上すこぶる有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る炭素材料は、ダイヤモンド微粒子を核として、この核から放射状かつ等方向的にカーボンナノフィラメントが成長し、毬藻状の球状微粒子形態を呈することから、一般に「マリモカーボン」と呼ばれており、本発明においてもこの技術的呼称を用いる。
【0021】
本発明に係るマリモカーボンは、表面が酸化されたダイヤモンド微粒子と、このダイヤモンド微粒子の表面に担持された遷移金属触媒と、この遷移金属触媒から等方向的に放射伸長しマリモ状に成長した多数のカーボンナノフィラメントからなる、ほぼ球状形態を有するマリモカーボンであって、前記カーボンナノフィラメントは、ほぼ円錐カップ形状からなるグラフェンシートが該円錐の軸方向に積層して線状に成長してなる1次構造を有し、前記前記グラフェンシートの前記円錐の半頂角の角度の角度分布が比較的揃った分布を有するカーボンナノフィラメントによって構成されることを特徴とするものである。
【0022】
まず、上記本発明に係るマリモカーボンを、その製造方法に即して説明する。
【0023】
成長核となる、表面が酸化されたダイヤモンド微粒子の表面に遷移金属触媒が担持されたダイヤモンド触媒微粒子を用意する。次いで、炭化水素を含む気相中において加熱し反応させることによって前記ダイヤモンド触媒微粒子を核として該微粒子からカーボンナノフィラメントを等方向的かつ放射状に成長させることによって、マリモ状に成長した多数のカーボンナノフィラメントからなる、ほぼ球状形態を有するマリモカーボンを製造することができる。
【0024】
このようなマリモカーボン自体を製造する技術は公知であり、たとえば特開2005−335968号公報に記載の装置と方法に従って製造することができる。すなわち、ダイヤモンド触媒微粒子を装入した反応槽に炭化水素を含むガスを導入し、この反応槽を取り囲んで配設される加熱装置によって反応槽内部を所定温度に加熱する。このときの反応態様は、固定床式であっても流動床式であってもよい。流動床式の反応槽の場合は、ダイヤモンド触媒微粒子は通過させず、ガスは通過させるフィルターを反応槽のガス導入部分に配置して、効率的に流動接触状態にすることができる。また、上記の基本的構成に更に反応補助ガスや希釈ガス等を混合するための手段を設けることもできる。
【0025】
上記のような流動床により反応を行う場合は、まず、表面が酸化された酸化ダイヤモンド微粒子の表面を遷移金属触媒で担持したダイヤモンド触媒微粒子を、上記のフィルター上に配置し、炭化水素含有ガスを反応槽の導入口から所定流量で導入すると共に、排出口から排出する。ガスの所定流量は、ダイヤモンド触媒微粒子が反応槽中で浮遊しかつ撹拌されるような流動接触状態となる流量であって、反応槽のサイズや形状、ならびにダイヤモンド触媒微粒子の量によって適宜選択され得る。
【0026】
成長核となるダイヤモンド微粒子の粒径は、200nm〜800nmの範囲が好ましく、さらに好ましくは200nm〜500nmの範囲である。
【0027】
反応温度は、後述するように、本発明において極めて重要な制御因子であるが、一般的には、触媒としてNi、CrまたはPdを用い、炭化水素ガスとしてメタンを用いた場合にあっては、400℃〜600℃の範囲が好ましい。
【0028】
使用する炭化水素ガスとしては、メタンおよび/またはエタンが好ましく用いられる。炭化水素ガスの他に、必要に応じて反応補助ガスや希釈ガス等を適宜混合することができる。
【0029】
本発明においては、反応温度を400℃〜600℃の範囲で選択し、かつ、その選択した温度に一定かつ厳格に保持することによって、微細構造の揃った形態を有するマリモカーボンを得ることができる。後述する実施例に示されているように、反応温度を選択し、かつ、この選択した温度に厳格に保持することによって、1次構造としてのコーン(円錐カップ)状グラフェンシートの半頂角を定量的に制御することができ、しかも半頂角の比較的揃った分布を有するマリモカーボンを得ることができる。このことは従来知られていなかったことである。
【0030】
実施例の結果に示されているように、反応温度400℃〜600℃の範囲での一般的な傾向としては、マリモカーボン生成の際の反応温度が相対的に低くなればなるほど、コーン(円錐カップ)状グラフェンシートの半頂角を大きくする(より開いた状態にする)ことができ、反対に反応温度が相対的に高くなればなるほど、当該半頂角を小さくする(より閉じた状態)に制御することができる。
【0031】
さらに上記の微細形態(1次構造)の制御において重要なことは、半頂角を大きくすることによって積層した各グラフェンシートのエッジ間距離は接近することから、単位距離当たりのエッジ数は増大し、一方、半頂角を小さくすることによって反対に単位距離当たりのエッジ数を減少させることができる点も新たな発見であった。そして、グラフェンシートのエッジは触媒成分の担持サイトとして機能することから、上記のような半頂角度を制御することができるという発見は極めて重要である。
【0032】
すなわち、上記本発明によって、触媒担持サイトとして働くと考えられるグラフェンシートのエッジ数を任意に増加ないし減少させることが可能である。さらに、実施例の結果に示されているように、グラフェンシートのエッジ数を多くすることによって触媒粒子の粒径は凝集等に起因して大きくなり、担持される触媒の量を増加させることも可能である。よって、上記方法によってグラフェンシートのエッジ数を制御することにより、担持させる触媒粒子の粒径ならびに担持密度を制御することができる。
【0033】
なお、本発明において、上述した流動床式の反応方法を採用することによって、ダイヤモンド触媒微粒子が反応槽中で浮遊しかつ流動接触しながら撹拌されるので、ダイヤモンド触媒微粒子の全表面に亘って触媒反応が均等に起こり、その結果、ダイヤモンド触媒微粒子の全表面に亘って長さの揃ったカーボンナノフィラメントを成長させることができるので、この方法は、3次構造の形態(球状形態)が揃ったマリモカーボンを得ることができる点で好ましい。
【0034】
上述した方法で得られる本発明によるマリモカーボンの具体的態様においては、前記グラフェンシートの前記円錐の半頂角の平均値をθとし、θ±10°の半頂角を有するグラフェンシートの割合が、該マリモカーボンの全質量に対して70質量%以上、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99.7質量%以上であることが望ましい。
【0035】
また、半頂角の平均値θからのばらつきを示す標準偏差に着目すると、本発明においては、標準偏差が15°以下、好ましくは10°以下、さらに好ましくは5°以下、特に好ましくは3°以下であることが望ましい。
【0036】
さらに、本発明は、上述した本発明のマリモカーボンを担体として、該マリモカーボンの前記円錐カップ形状からなるグラフェンシートのエッジ部分に触媒微粒子が担持されてなるマリモカーボン触媒を包含する。
【0037】
担持させる触媒成分としては、目的に応じて適宜選択され得るが、たとえば、金、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウムなどの貴金属触媒、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガンなどの金属微粒子、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化クロム、酸化マンガン、二酸化チタンなどの金属酸化物微粒子が適宜用いられ得る。さらに、必要に応じて、触媒金属の分散安定剤(たとえば、有機酸、無機酸、コロイド化剤など)や還元剤(たとえば、水素化金属など)を適宜用いることができる。
【0038】
本発明においては、さらに、上記本発明のマリモカーボンの前記円錐カップ形状からなるグラフェンシートのエッジ部分を化学修飾することによって化学センサーとして機能させることができる。
【0039】
さらに、本発明のマリモカーボンは様々な用途に活用することが可能であり、固体高分子形燃料電池(PEFC)などの燃料電池用触媒担体ないし燃料電池用触媒やキャパシタなどの電子部品用素材として応用が可能である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は下記の実施例の記載に限定されるものではない。
【0041】
<マリモカーボンの合成>
触媒担体として予め熱酸化処理(450 ℃ ,0.5 h)したダイヤモンド粉体(以下、O-dia.と表記)を用い、含浸法によりNiを担持してNi/O-dia.触媒とした。担体へのNi担持量は、1-5 wt%とした。マリモカーボンの合成には、固定床流通式反応装置を用いた。原料ガスは、CH430 mL/minを用いた。反応温度は、400-600 ℃、反応時間は、10分-600分とした。
【0042】
反応後に得られた生成物の炭素析出量は、反応前後の重さを電子天秤により測定し、Ni 1 molあたりの重量増加を算出した値とした。生成物の形態及び微細構造は、SEM及びTEMにより観察した。SEM像を用いて繊維状ナノ炭素の繊維径を測定し、ヒストグラムを作成して、繊維状ナノ炭素の平均繊維径及び繊維径分布を調べた。
【0043】
図1は、TEM像より測定した数値の意味を示すものである。TEM像を用いて、繊維の成長方向に対するグラフェンシートの半頂角(θ)、グラフェンシートの長さ(L)及び繊維状構造の側面10 nmあたりのグラフェンシートのエッジ数を測定し、マリモカーボン合成の際の反応温度がCNFsの微細構造に及ぼす影響を調べた。
【0044】
<Pt/マリモカーボン触媒の調製>
触媒担体として用いたマリモカーボンは、それぞれ反応温度、500 ℃及び590 ℃で合成したものとした。
【0045】
図2は、マリモカーボン担持Pt触媒調製のフローチャートを示す。このフローチャートの工程に従って、ナノコロイド法により白金微粒子を担持し、Pt/マリモカーボン触媒を調製した。この実施例においては白金の分散安定化剤としてクエン酸を用いた。金属塩は、塩化白金酸を用い、濃度は3.6 mMとした。
【0046】
担持量は、カーボンの重さを基準として白金を担持すると考え、5-50 wt%の範囲で調製を行った。白金の還元剤として167.38 mMのNaBH4を用いた。白金微粒子の担持状態は、SEM及びTEMで観察した。その後、TEM像を用いて、白金粒子径ヒストグラムを作成し、CNFsの微細構造と白金の担持状態の関係を調べた。
【0047】
<反応温度が炭素析出量に及ぼす影響について>
図3は、反応温度とNi 1molあたりの炭素析出量(カーボン収率)の関係を示す。Niの担持量は、それぞれ◇は、1 wt%、□は、3 wt%、○は、5 wt% である。いずれの担持量においても炭素析出は、反応温度が400 ℃よりも高い反応温度で確認できた。Ni 1wt%の場合、炭素析出は、500 ℃までは、反応温度の上昇とともに増加する傾向が見られる。反応温度500 ℃で炭素析出量の最大値704.3 g mol-1h-1が得られた。さらに反応温度を上昇させると、緩やかに炭素析出量が減少した。
【0048】
一方、Ni 3 wt%の場合、図3に示すように、炭素析出は、575 ℃までは、反応温度の上昇と共に増加した。反応温度575 ℃で炭素析出量の最大値3017.6 g mol-1h-1が得られた。さらに反応温度を上昇させると、急激に炭素析出量が減少し、590 ℃になると、炭素析出量がゼロになった。このように、Ni 3 wt%の場合のマリモカーボンの生成温度領域(Tr)は、400 ℃<Tr<590 ℃であることがわかった。
【0049】
さらに、Ni5 wt%の場合、炭素析出量は、反応温度575 ℃までは反応温度の上昇と共に増加した。反応温度575 ℃で、炭素析出量の最大値2108.9 g mol-1h-1が得られた。さらに反応温度を上昇させると、急激に炭素析出量が減少し、600 ℃になると、炭素析出量がゼロになった。このことから、Ni 5 wt%の場合のマリモカーボンのTrは、400 ℃<Tr<600 ℃であることが認められる。
【0050】
また上記の結果から、Ni担持量が増加すると、最大の炭素析出量が得られる温度が高くなることが認められる。さらに、この実施例においては、Ni 3 wt%、575 ℃の条件で最大の炭素析出量が得られたことから、Ni/O-dia.触媒を用いたメタン接触反応においては、この条件において最大の触媒活性を有するマリモカーボンが得られることが判明した。
【0051】
<反応時間が炭素析出量に及ぼす影響について>
図4は、反応時間と炭素析出量(カーボン収率)の関係を示す。使用した触媒は、Ni(5 wt%)/O-dia.とした。反応時間が60 分までは、反応時間の増加と共に炭素析出量が増加した。さらに反応時間を増加すると300 分までは、反応時間の増加と共に緩やかに炭素析出量が増加した。反応時間が300 分及び600 分の炭素析出量を比較すると変化が見られないことから、300 分付近で炭素析出量の最大値が得られることがわかった。
【0052】
<反応温度が繊維状ナノ炭素の形態に及ぼす影響について>
図5は、Ni(5 wt%)/O-dia.触媒を用いて異なる反応温度で合成したマリモカーボンのSEM像である。さらに、図6は繊維径ヒストグラムを示す。
【0053】
まず、図5(a)は、500 ℃、図5(b)は、575 ℃、図5(c)は、590 ℃の条件で得られた、各々のマリモカーボンのSEM像である。一方、図6(a)、(b)および(c)は、それぞれ、図5(a)、5(b)および5(c)に対応する繊維径ヒストグラムである。
【0054】
図5および図6から分かるように、得られた繊維状ナノ炭素の繊維径分布は、500 ℃の場合、48 nm以下、最も多く観察できた繊維径(dmax)は、 8-24 nmであった。575 ℃では、繊維径分布は、8-80 nm、dmaxは、24-40 nm、590 ℃では、繊維径分布は、32 nm以下、dmaxは、8-16 nmであった。
【0055】
これらの結果から、炭素析出量が少ない反応温度領域で得られた繊維状ナノ炭素の繊維径は、析出量の多い反応温度領域と比較して細く均一になることがわかった。
【0056】
<反応温度が繊維状ナノ炭素の微細構造に及ぼす影響について>
図7および図8は、それぞれ異なる反応温度で合成したマリモカーボンのTEM像、および繊維の成長方向に対するグラフェンシートのなす角度(半頂角θ)を示す。図8(a)は500 ℃、図8(b)は575 ℃、図8(c)は590 ℃である。
【0057】
これらのTEM像より、いずれの条件においても繊維状ナノ炭素の微細構造は、繊維状構造の側面にグラフェンシートのエッジがあらわれるコーン形状カップ積層型であることが確認できた。繊維状ナノ炭素の内部構造について、グラフェンシートの積層構造に注目して、500 ℃、575 ℃及び590 ℃の場合を比較すると、半頂角θの平均値は、図8(a)の500 ℃の場合44.3 °、図8(b)の575 ℃では26.0 °、図8(c)の590 ℃では19.6 °であった。半頂角θの値がより小さい積層構造により、CNTsのような中空構造に近い内部構造が生成した。従って、図8(c)に示したθ=19.6 °のCNFsの方が図8(a)及び図8(b)に比べて、繊維の中心付近の電子線透過度が高く、空間がより大きく観察された。
【0058】
図8(a)の500 ℃の場合、半頂角の平均値は44.3 °であり、標準偏差は14.2°である。また、この実施例の角度分布から、半頂角の平均値をθとし、θ±10°の半頂角を有するグラフェンシートの割合は、該マリモカーボンの全質量に対して約70質量%以上の比較的揃った角度分布であることがわかる。
【0059】
さらに、図8(b)の575 ℃では半頂角の平均値は26.0 °であり、標準偏差は9.6°である。また、この実施例の角度分布から、半頂角の平均値をθとし、θ±10°の半頂角を有するグラフェンシートの割合は、該マリモカーボンの全質量に対して約95質量%以上の比較的揃った角度分布であることがわかる。
【0060】
また、図8(c)の590 ℃では半頂角の平均値は19.6 °であり、標準偏差は9.3°である。また、この実施例の角度分布から、半頂角の平均値をθとし、θ±10°の半頂角を有するグラフェンシートの割合は、該マリモカーボンの全質量に対して約95質量%以上の比較的揃った角度分布であることがわかる。
【0061】
このことからマリモカーボン生成の際の反応温度は、繊維状ナノ炭素を構成するグラフェンシートの成長角とその分布に影響を及ぼす因子であることがわかった。
【0062】
また、上記のように、図8(a)、図8(b)および図8(c)のヒストグラフの結果から、マリモカーボンを構成するグラフェンシートの成長角(円錐の半頂角)を反応温度によって制御することができ、かつ、その角度分布を比較的揃った分布を有する状態にすることができることが分かった。
【0063】
図9は、反応温度とグラフェンシートの長さ(L)の関係を示す。反応温度が500 ℃の場合、Lは、18 nm、575 ℃及び590 ℃の場合は、45 nmであった。グラフェンシートの長さは、反応温度が500 ℃の場合575 ℃及び590 ℃の場合と比較して、短いことがわかった。反応温度は、グラフェンシートの長さに違いをもたらす因子であることが確認できた。
【0064】
図10は、反応温度と繊維状構造の側面10 nm当たりのグラフェンシートのエッジ数の関係を示す。グラフェシートのエッジ数は、500 ℃の場合、14本、575 ℃では、7本、さらに590 ℃では、3本だった。このことから、反応温度を高くすると、グラフェンシートのエッジ数が減少することがわかった。ここでCNTsのエッジ数は、0本であるのに対して、本発明においては、反応温度を低く制御することによって、白金が担持されるサイトとして働くと考えられるグラフェンシートのエッジ数を増加させることができることが判明した。
【0065】
<マリモカーボン(CNFs)の微細構造がPtの担持状態に及ぼす影響について>
図11(a)、11(b)は、マリモカーボンの微細構造(CNFs)がPtの担持状態に及ぼす影響を示す。図11(a)及び図11(b)は、それぞれ500℃及び590 ℃で合成したマリモカーボンを担体として用いたPt/マリモカーボンのTEM像を示す。
【0066】
上記両条件のいずれにおいても、マリモカーボンにPtが有効に担持されていることがわかった。500 ℃合成マリモカーボンを担体として用いた場合Ptの担持密度及び粒径は大きかった。一方、590 ℃合成マリモカーボンを担体として用いた場合Ptの担持密度及び粒径は、500 ℃合成マリモカーボンを使用した場合と比較して、粒径が小さいことが認められる。このことから、Ptが担持されるサイトとして働くと考えられるグラフェンシートのエッジの数が多くなると、Ptの粒径は大きくなり、担持される数が多くなることがわかった。CNFsの微細構造つまり、白金が担持されるサイトとして働くと考えられるグラフェンシートのエッジ数は、Ptの粒径及び担持される数に影響を及ぼす可能性がある。
【0067】
<実施例の評価のまとめ>
上記実施例においては、新しいPEFC用電極触媒担体材料として有望なマリモカーボンの微細構造とPtの担持状態との関係を調べるために、合成条件を変化させてマリモカーボンを合成した。
【0068】
さらに、ナノコロイド法を用いて、得られたマリモカーボンに白金微粒子の担持を試みることにより、白金の担持サイトとして働くと考えられるグラフェンシートのエッジの数と白金の担持状態の関係を調べた。得られた生成物の形態、微細構造及び白金の担持状態は、SEM及びTEMを用いて観察し評価したところ、マリモカーボンの生成反応温度領域(Tr)は、400 ℃<Tr<600 ℃の温度範囲にあることがわかった。
【0069】
遷移金属触媒としてニッケルを用いた場合、Ni 1molあたりの炭素析出量は、反応温度575 ℃までは反応温度の上昇と共に増加した。反応温度575 ℃で、炭素析出量の最大値が得られた。さらに反応温度を上昇させると、急激に炭素析出量が減少し、600 ℃になると、炭素析出量がゼロになった。
【0070】
さらに、SEM観察より、炭素析出量の少ない反応温度領域で合成した繊維状ナノ炭素の繊維径は、炭素析出量が多い反応温度領域と比較して細く均一になることがわかった。TEM観察より、マリモカーボンを構成する繊維状ナノ炭素のグラフェンシートの微細構造は、繊維状構造の側面にグラフェンシートのエッジがあらわれるコーン形状カップ積層型であることが確認できた。反応温度を高くすることで、コーン形状の半頂角θの値は、小さくなり、中空構造を明瞭に観察することができた。反応温度を低くすると、グラフェンシートの長さは短くなり、グラフェンシートのエッジ数は増加することが認められた。
【0071】
以上の結果から、マリモカーボン生成の際の反応温度を低くすることによって、Pt担持サイトとして働くと考えられるグラフェンシートのエッジ数を任意に増加させることが可能である。さらに、グラフェンシートのエッジ数を多くすることで、Ptの粒径は大きく、担持されるPtの量を増加させることも可能である。これらの結果は、グラフェンシートのエッジ数を制御することによって、担持させるPtの粒径ならびにPt担持密度を制御できる可能性があることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係るマリモカーボンを構成するグラフェンシートの断面形態を示す概念図。
【図2】本発明に係るマリモカーボン触媒の調製工程を示すフローチャート。
【図3】反応温度とNi 1molあたりの炭素析出量の関係を示すグラフ。
【図4】反応時間と炭素析出量の関係を示すグラフ。
【図5】異なる反応温度で合成したマリモカーボンのSEM画像。
【図6】異なる反応温度で合成したマリモカーボンの繊維径ヒストグラム。
【図7】異なる反応温度で合成したマリモカーボンのTEM画像。
【図8】繊維の成長方向に対するグラフェンシートの半頂角のヒストグラム。
【図9】反応温度とグラフェンシートの長さ(L)の関係を示すグラフ。
【図10】反応温度と繊維状構造の側面10 nm当たりのグラフェンシートのエッジ数の関係を示すグラフ。
【図11】マリモカーボンを担体として用いたPt/マリモカーボンのTEM画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が酸化されたダイヤモンド微粒子と、このダイヤモンド微粒子の表面に担持された遷移金属触媒と、この遷移金属触媒から等方向的に放射伸長しマリモ状に成長した多数のカーボンナノフィラメントからなる、ほぼ球状形態を有するマリモカーボンであって、
前記カーボンナノフィラメントは、ほぼ円錐カップ形状からなるグラフェンシートが該円錐の軸方向に積層して線状に成長してなる1次構造を有し、
前記前記グラフェンシートの前記円錐の半頂角の角度分布が比較的揃った分布を有するカーボンナノフィラメントによって構成されることを特徴とする、マリモカーボン。
【請求項2】
前記グラフェンシートの前記円錐の半頂角の平均値をθとし、θ±10°の半頂角を有するグラフェンシートの割合が、該マリモカーボンの全質量に対して70質量%以上、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99.7質量%以上である、請求項1に記載のマリモカーボン。
【請求項3】
前記遷移金属触媒がNiである、請求項1に記載のマリモカーボン。
【請求項4】
前記遷移金属触媒がCoまたはPdである、請求項1に記載のマリモカーボン。
【請求項5】
請求項1に記載のマリモカーボンの前記円錐カップ形状からなるグラフェンシートのエッジ部分に触媒微粒子が担持されてなる、マリモカーボン触媒。
【請求項6】
前記触媒微粒子が白金である、請求項5に記載のマリモカーボン触媒。
【請求項7】
前記触媒微粒子が金属微粒子である、請求項5に記載のマリモカーボン触媒。
【請求項8】
前記触媒微粒子が金属酸化物微粒子である、請求項5に記載のマリモカーボン触媒。
【請求項9】
請求項1に記載のマリモカーボンの前記円錐カップ形状からなるグラフェンシートのエッジ部分が化学修飾されてなる、化学センサー。
【請求項10】
請求項1に記載のマリモカーボンからなる、燃料電池用触媒担体。
【請求項11】
前記燃料電池が、固体高分子形燃料電池(PEFC)である、請求項10に記載の燃料電池用触媒担体。
【請求項12】
請求項1に記載のマリモカーボンのキャパシタとしての使用。
【請求項13】
表面が酸化されたダイヤモンド微粒子の表面に遷移金属触媒が担持されたダイヤモンド触媒微粒子を、炭化水素を含む気相中において加熱し反応させることによって前記ダイヤモンド触媒微粒子を核として該微粒子からカーボンナノフィラメントを等方向的かつ放射状に成長させることによって、マリモ状に成長した多数のカーボンナノフィラメントからなる、ほぼ球状形態を有するマリモカーボンを製造する方法であって、
前記反応温度を400℃〜600℃の範囲で選択し、その選択した温度に一定に保持することによって、請求項1または2に記載のマリモカーボンを得ることを特徴とする、マリモカーボンの製造方法。
【請求項14】
前記遷移金属触媒がNiである、請求項1に記載のマリモカーボンの製造方法。
【請求項15】
前記反応温度を制御することによって、前記カーボンナノフィラメントを構成する前記グラフェンシートの長さおよび/またはエッジ数を制御する、請求項13に記載のマリモカーボンの製造方法。
【請求項16】
前記炭化水素が、メタンおよび/またはエタンである、請求項13に記載のマリモカーボンの製造方法。
【請求項17】
前記気相中での反応を、流動床または固定床で行う、請求項13に記載のマリモカーボンの製造方法。
【請求項18】
請求項13に記載の方法によって得られたマリモカーボンの前記円錐カップ形状からなるグラフェンシートのエッジ部分に触媒微粒子を担持する工程を含むことを特徴とする、マリモカーボン触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−47160(P2013−47160A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186146(P2011−186146)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【Fターム(参考)】