説明

マルチスタティックレーダ装置

【課題】送信側のレーダ装置と受信側のレーダ装置と距離が未知の場合であっても直接波の影響を排除できるマルチスタティックレーダ装置を提供する。
【解決手段】送信側のレーダ装置から送信された電波を受信側のレーダ装置で受信して目標を検出するマルチスタティックレーダ装置において、受信側のレーダ装置は、送信側のレーダ装置から送信された電波を受信する主アンテナ1と、送信側のレーダ装置から送信された電波を受信する補助アンテナ11aと、主アンテナからの信号に基づき生成された主チャンネル信号の振幅と補助アンテナまたは主チャンネルからの信号に基づき生成された補助チャンネル信号の振幅とを比較する振幅比較器6と、振幅比較器により主チャンネル信号の振幅が補助チャンネル信号の振幅より大きい場合に、該主チャンネル信号に基づき目標の検出および測角を行う検出/測角器5を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信側のレーダ装置から送信された電波を受信側のレーダ装置で受信して目標を検出するマルチスタティックレーダ装置に関し、特に送信側のレーダ装置からの直接波を排除して目標を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチスタティックレーダ装置は、送信側のレーダ装置と受信側のレーダ装置とを離して設置し、両者間を通信で結んで目標の検出などを行うレーダ装置である。マルチスタティックレーダ装置の詳細については、例えば非特許文献1に説明されている。
【0003】
図11は、このような従来のマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、アンテナ1、第1受信器2、第2受信器2および検出/測角器5aから構成されている。
【0004】
アンテナ1は、複数のアンテナ素子11、このアンテナ素子11と同数の受信モジュール12および給電回路13から構成されている。複数のアンテナ素子11の各々の構成は同じであるので、以下では、1つのアンテナ素子について「アンテナ素子11」と称して説明する。同様に、複数の受信モジュール12の各々の構成は同じであるので、以下では、1つの受信モジュールについて「受信モジュール12」と称して説明する。
【0005】
アンテナ素子11は、空中からの電波、つまり送信側のレーダ装置からの直接波および送信側のレーダ装置から送信されて目標で反射された反射波を受信して電気信号に変換し、高周波受信信号として受信モジュール12に送る。
【0006】
受信モジュール12は、図12に示すように、増幅器121および移相器122から構成されている。増幅器121は、アンテナ素子11から送られてくる高周波受信信号を増幅し、移相器122に送る。移相器122は、増幅器121から送られてくる増幅された高周波受信信号の位相を調整して中間周波信号に変換し、受信信号として給電回路13に送る。
【0007】
給電回路13は、モノパルス比較器を含む受信合成器(図示は省略する)から構成されている。受信合成器は、複数の受信モジュール12から送られてくる受信信号を合成してΣビーム信号(以下、単に「Σビーム」と呼ぶ)およびΔビーム信号(以下、単に「Δビーム」と呼ぶ)を生成する。この給電回路13で生成されたΣビームは、基準ビームとして第1受信器2に送られ、Δビームは第2受信器2に送られる。
【0008】
第1受信器2は、給電回路13から送られてくるΣビームを周波数変換し、さらに直交デジタル(I,Q)信号に変換して検出/測角器5aに送る。第2受信器2は、給電回路13から送られてくるΔビームを周波数変換し、さらに直交デジタル(I,Q)信号に変換して検出/測角器5aに送る。
【0009】
検出/測角器5aは、第1受信器2から送られてくるΣビームを所定のスレッショルドレベルと比較することにより目標を検出するとともに、目標が検出された場合に、このΣビームと、第2受信器2から送られてくるΔビームとに基づき、位相モノパルス測角により目標方向の角度を表す測角値を算出する。なお、位相モノパルス測角の詳細については、例えば非特許文献2に説明されている。検出/測角器5aで検出された目標を表す信号および測角値は、目標情報として外部に出力される。
【0010】
次に、上記のように構成される従来の受信側のレーダ装置の動作を説明する。アンテナ素子11において電波を電気信号に変換することにより得られた高周波受信信号は、受信モジュール12の増幅器121に送られ増幅される。増幅器121で増幅された高周波信号は、移相器122で位相制御された後、受信信号として給電回路13に送られる。給電回路13は、複数の受信モジュール12からの受信信号に基づきΣビームおよびΔビームを生成し、第1受信器2および第2受信器2にそれぞれ送る。
【0011】
第1受信器2は、給電回路13から送られてくるΣビームを、第2受信器2は、給電回路13から送られてくるΔビームを、それぞれ周波数変換し、さらにデジタル信号に変換して検出/測角器5aに送る。
【0012】
この状態において、図13のフローチャートに示すように、検出/測角処理が実行される(ステップS51)。すなわち、検出/測角器5aは、上述したように、Σビームに基づき目標を検出し、さらに、ΣビームおよびΔビームに基づき測角を行う。検出/測角器5aで検出された目標を表す信号および測角値は、目標情報として外部に出力される。
【0013】
上述したように、従来の受信側のレーダ装置においては、Σビームを用いて目標を検出し、目標が検出されたレンジセルでΣビームとΔビームとを用いて位相モノパルス測角により測角している。そのため、受信側のレーダ装置において、送信側のレーダ装置からの直接波が受信されると、目標からの反射波と誤って検出する可能性があった。
【非特許文献1】MERRILL I SKOLNIK, "Radar Handbook second Edition", chap25, pp.25.1-25.29 (1990)
【非特許文献2】吉田孝監修、「改訂レーダ技術」、社団法人電子情報通信学会、pp.262-264(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、従来のマルチスタティックレーダ装置において、送信側のレーダ装置からの直接波が受信側のレーダ装置に入力されると、この直接波による信号の振幅は、一般に、目標からの反射波による信号の振幅よりも大きいため、目標を観測できないという問題があった。
【0015】
これを避けるためには、送信側のレーダ装置と受信側のレーダ装置との間の距離が正確にわかっていれば、この距離を用いて直接波と反射波とを分離することができる。しかしながら、例えば飛翔体に搭載されるマルチスタティックレーダ装置などの場合は、両者間の距離をリアルタイムに認識することが困難な場合があり、この場合、目標を観測できないという問題がある。
【0016】
本発明の課題は、送信側のレーダ装置と受信側のレーダ装置と距離が未知の場合であっても直接波の影響を排除できるマルチスタティックレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、第1の発明は、送信側のレーダ装置から送信された電波を受信側のレーダ装置で受信して目標を検出するマルチスタティックレーダ装置において、受信側のレーダ装置は、送信側のレーダ装置から送信された電波を受信する主アンテナと、送信側のレーダ装置から送信された電波を受信する補助アンテナと、主アンテナからの信号に基づき生成された主チャンネル信号の振幅と補助アンテナまたは主チャンネルからの信号に基づき生成された補助チャンネル信号の振幅とを比較する振幅比較器と、振幅比較器により主チャンネル信号の振幅が補助チャンネル信号の振幅より大きい場合に、該主チャンネル信号に基づき目標の検出および測角を行う検出/測角器を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、第2の発明は、第1の発明において、主アンテナからの信号に基づき生成された主チャンネル信号および補助アンテナまたは主アンテナからの信号に基づき生成された補助チャンネル信号を、送信側のレーダ装置からのパルス圧縮係数に基づきパルス圧縮するパルス圧縮器を備え、振幅比較器は、パルス圧縮器で圧縮された主チャンネル信号の振幅とパルス圧縮器で圧縮された補助チャンネル信号の振幅とを比較することを特徴とする。
【0019】
また、第3の発明は、第1の発明において、パルス幅およびチャープ帯域を含むパルス圧縮係数を記憶したデータベースと、主アンテナからの信号に基づき生成された主チャンネル信号および補助アンテナまたは主アンテナからの信号に基づき生成された補助チャンネル信号を、データベースから取得したパルス圧縮係数のうち最も高い利得が得られるパルス圧縮係数を用いてパルス圧縮するパルス圧縮器とを備え、振幅比較器は、パルス圧縮器で圧縮された主チャンネル信号の振幅とパルス圧縮器で圧縮された補助チャンネル信号の振幅とを比較することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、送信側の直接波の影響を抑圧して目標から反射波のみを検出するので、送信側のレーダ装置と受信側のレーダ装置と距離が未知の場合であっても直接波の影響を排除できる。
【0021】
より詳しくは、第1の発明によれば、主チャンネルの目標からの反射波範囲以外の方向からの直接波を抑圧することができる。
【0022】
また、第2の発明によれば、パルス圧縮レーダの場合に、パルス圧縮後の主チャンネル信号の振幅と補助チャンネル信号の振幅とを比較することにより、レンジセル単位で直接波を抑圧することができる。
【0023】
また、第3の発明によれば、パルス圧縮レーダの場合に、パルス圧縮係数が未知の場合であっても、効率よくパルス圧縮し、圧縮後の主チャンネル信号の振幅と補助チャンネル信号の振幅とを比較することにより、レンジセル単位で直接波を抑圧することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下においては、背景技術の欄で説明した従来のレーダ装置の構成部分に相当する部分には、背景技術の欄で使用した符号と同じ符号を付して説明を省略または簡単化する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の原理を説明するための図である。送信側のレーダ装置から送信された電波は、目標で反射して反射波として受信側のレーダ装置で受信される他に、直接波として受信側のレーダ装置で受信される。このような状況において、主チャンネル信号(以下、「主CH」と略する)と補助チャンネル信号(以下、「補助CH」と略する)とを用いて、直接波の抑圧が行われる。
【0026】
図2は、本発明に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置で行われる直接波を抑圧するための処理の概念を示す図である。受信側のレーダ装置は、図2(a)に示すように、主アンテナからの主CH(Σ(主CH))の振幅と、補助アンテナ11aからの補助CH(AUX(補助CH))の振幅とを比較し、図2(b)のアンテナパターンに示すように、主CHの振幅が補助CHの振幅より大きい場合には、反射波である旨を認識してスイッチをオンして主CHを出力する。
【0027】
逆に、主CHの振幅が補助CHの振幅以下の場合には、直接波である旨を認識してスイッチをオフして主CHの出力を阻止し、または、主CHにリミットをかけて出力することにより、直接波を抑圧する。
【0028】
図3は、以上の直接波の抑圧の様子をレンジ軸で表現したものである。すなわち、反射波の場合には、図3(a)に示す主CHの振幅が、図3(b)に示す補助CHの振幅より大きいので、図3(c)に示すように主CHが出力される。一方、直接波の場合には、主CHの振幅が補助CHの振幅以下であるので、図3(c)に示すように主CHの出力が阻止され、または、主CHにリミットがかけられ、直接波の出力が抑圧される。
【0029】
本発明の実施例1に係るマルチスタティックレーダ装置は、パルス圧縮をしない単パルスを用いて目標の検出および測角を行う。図4は、本発明の実施例1に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【0030】
受信側のレーダ装置は、図11に示した従来のレーダ装置における検出/測角器5aが新たな検出/測角器5に置き換えられるとともに、補助アンテナ11a、受信モジュール12a、第3受信器2、データ保存部3、補助ビーム形成部9および振幅比較器6が追加されて構成されている。なお、従来のレーダ装置における「アンテナ1」は、「主アンテナ1」に名称が変更されているが、構成および機能などは従来のそれらと同じである。
【0031】
補助アンテナ11aは、空中からの電波、つまり送信側のレーダ装置からの直接波および送信側のレーダ装置から送信されて目標で反射された反射波を受信して電気信号に変換し、高周波受信信号として受信モジュール12aに送る。
【0032】
受信モジュール12aは、補助アンテナ11aから送られてくる高周波受信信号を増幅し、さらに位相を調整した後に中間周波信号に変換し、受信信号として第3受信器2に送る。
【0033】
第3受信器2は、受信モジュール12aから送られてくる信号を周波数変換し、さらに直交デジタル(I,Q)信号に変換し、AUXビーム信号(以下、単に「AUXビーム」という)としてデータ保存部3に送る。なお、第1受信器2から出力されるΣビームおよび第2受信器2から出力されるΔビームもデータ保存部3に送られる。
【0034】
データ保存部3は、第1受信器2から送られてくるΣビーム、第2受信器2から送られてくるΔビームおよび第3受信器2から送られてくるAUXビームを保存する。このデータ保存部3に保存されたΣビームは、主CHとして検出/測角器5および振幅比較器6に送られ、Δビームは補助ビーム形成部9および検出/測角器5に送られ、AUXビームは補助ビーム形成部9に送られる。
【0035】
補助ビーム形成部9は、データ保存部3から送られてくるAUXビームまたはΔビームに基づき補助ビームを形成し、補助CHとして振幅比較器6に送る。補助ビームとしては、指向性の広い補助アンテナ11aから得られるAUXビームのみを用いて形成することもできるが、Σビームのメインローブ付近の直接波を抑圧するために、Δビームを用いて形成することもできる。位相モノパルス測角を行う場合のΣビームとΔビームを定式化すると次の通りである。
【数1】

【0036】
ここで、
j ;虚数単位
k ;波数(2π/λ)
λ ;波長
dn;位相中心からの各素子の距離
θp;走査角
N ;素子数
振幅比較器6は、データ保存部3から送られてくる主CHの振幅と、補助ビーム形成部9から送られてくる補助CHの振幅とを比較する。主CHと補助CHのアンテナパターンは、図3(b)に示した通りである。補助CHとして、補助アンテナ11aの出力とΔビームの両者を用いる場合は、補助ビーム形成器9は、補助CHを合成して出力し、振幅比較器6は、合成された補助CHの振幅と主CHの振幅とを比較するように構成できる。
【0037】
また、補助ビーム形成器9は、補助CHを順次に出力し、振幅比較器6は、補助ビーム形成器9から順次に出力される補助CHの振幅と主CHの振幅とを順次に比較するように構成できる。この場合、主CHの振幅が、いずれかの補助CHの振幅以下になった場合に、検出/測角器5において、その主CHは、直接波によるものと判断される。この振幅比較器6における比較結果は、検出/測角器5に送られる。
【0038】
検出/測角器5は、データ保存部3から読み出したΣビームから、振幅比較器6から送られてくる比較結果にしたがって反射波のΣビームのみを抽出して所定のスレッショルドレベルと比較することにより目標を検出するための処理を実行し、目標が検出された場合に、そのΣビームと、データ保存部3から読み出したΔビームとに基づき、位相モノパルス測角により目標方向の角度を表す測角値を算出する。
【0039】
この検出/測角器5で検出された目標を表す信号および測角値は、目標情報として外部に出力される。測角値の算出は、(1)式と(2)式を用いて、Es、Edにより、次式により誤差電圧εを算出し、測角用テーブルと照合することにより行うことができる。
【数2】

【0040】
ここで、
Re;複素数の実数部
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の動作を、目標検出測角処理を中心に、図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。この目標検出測角処理を開始するに先立って、処理対象とするレンジが初期化されているものとする。
【0041】
まず、主CHと補助CHのレベルとが比較される(ステップS11)。すなわち、振幅比較器6は、データ保存部3から送られてくる主CHの振幅と、補助ビーム形成部9から送られてくる補助CHの振幅とを比較する。
【0042】
次いで、主CHが補助CHより大きいかどうかが調べられる(ステップS12)。すなわち、振幅比較器6は、ステップS11において比較した結果が、主CHの振幅が補助CHの振幅より大きいことを示しているかどうかを調べる。
【0043】
ステップS12において、主CHが補助CHより大きいことが判断されると、主CHは反射波であることが認識され、主CHが取り込まれる(ステップS13)。すなわち、検出/測角器5は、データ保存部3から主CHを取り込んで自己の内部に保存する。一方、ステップS12において、主CHが補助CHより大きくないことが判断されると、主CHは直接波であることが認識され、ステップS13の処理はスキップされる。
【0044】
次いで、全てのレンジに対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS14)。すなわち、ステップS14において、全てのレンジに対する処理が終了していないことが判断されると、次いで、レンジセルの変更が行われる(ステップS15)。その後、ステップS11に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0045】
一方、ステップS13において、全てのレンジに対する処理が終了したことが判断されると、検出/測角処理が実行される(ステップS15)。すなわち、ステップS13で保存した主CH(Σビーム)を所定のスレッショルドレベルと比較することにより目標を検出するための処理を実行し、目標が検出された場合に、そのΣビームと、データ保存部3から読み出したΔビームとに基づき、位相モノパルス測角により目標方向の角度を表す測角値を算出し、検出した目標を表す信号および測角値を、目標情報として外部に出力する。以上により、目標検出測角処理は終了する。
【0046】
以上説明したように、本発明の実施例1に係るマルチスタティックレーダ装置によれば、主CHの目標からの反射波範囲以外の方向からの直接波を抑圧することができる。
【実施例2】
【0047】
本発明の実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置は、パルス圧縮を用いて目標の検出および測角を行う。この実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置において、パルス圧縮を行う前の反射波および直接波は、図6に破線で示すように、レンジ方向に広がっているので、パルス圧縮を行う前に主CHの振幅と補助CHの振幅を比較すると、直接波を抑圧するための期間が長くなるという問題がある。
【0048】
この問題を解消するために、実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置においては、主CHの振幅と補助CHの振幅とを比較する前に、パルス圧縮を実施するようにしたものである。
【0049】
図7は、本発明の実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の構成を示すブロック図である。この受信側のレーダ装置は、実施例1に係る受信側のレーダ装置に、パルス圧縮器4およびデータリンク部8が追加されて構成されている。
【0050】
パルス圧縮器4は、データ保持部3からのΣビームおよびΔビームならびに補助ビーム形成部9からの補助ビームに対し、データリンク部8からのパルス圧縮係数にしたがってパルス圧縮を実施し、結果を自己の内部に保存する。パルス圧縮は、例えば次式により実施することができる。
【数3】

【0051】
ここで、
FTr :レンジセルrに関するフーリエ変換
FT :フーリエ変換
IFTf :fに対する逆フーリエ変換
* :複素共役
f :周波数
x(r) :受信信号
r :レンジセル番号(r=1〜R)
X(f) :x(r)のフーリエ変換
Rf(f):refのフーリエ変換
W(f) :パルス圧縮時の複素ウェイト(f=1〜R)
xr(r) :パルス圧縮後の波形
ref :パルス圧縮用参照信号
パルス圧縮用参照信号は、次式で表すことができる。
【数4】

【0052】
ここで、
B:チャープ帯域幅
τ:パルス幅
t:時間
このパルス圧縮器4でパルス圧縮されたΣビームは、主CHとして検出/測角器5および振幅比較器6に送られ、Δビームは検出/測角器5に送られ、補助ビームは、補助CHとして振幅比較器6に送られる。
【0053】
なお、パルス圧縮については、『吉田孝監修、「改訂レーダ技術」、社団法人電子情報通信学会、pp.275-278(1996)』、『Donald R.Wehner,”High-Resolution Radar Second Edition”,Artech House,pp.149-153(1995)』または『Donald R.Wehner,”High-Resolution Radar Second Edition”,Artech House,pp.174-177(1995)』などに説明されている。
【0054】
データリンク部8は、送信側のレーダ装置から送られてくるパルス圧縮係数を受信し、パルス圧縮用参照信号として、パルス圧縮器4に送る。これにより、パルス圧縮器4は、上述した(4)式にしたがってパルス圧縮を実施することができる。
【0055】
次に、上記のように構成される本発明の実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の動作を、目標検出測角処理を中心に、図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0056】
この目標検出測角処理を開始するに先立って、処理対象とするレンジが初期化されているものとする。目標検出測角処理では、まず、主CHのパルス圧縮が行われる(ステップS21)。すなわち、パルス圧縮器4は、データ保持部3からのΣビームに対し、データリンク部8からのパルス圧縮係数にしたがってパルス圧縮を実施し、自己の内部に保存する。
【0057】
次いで、補助CHパルス圧縮が行われる(ステップS22)。すなわち、パルス圧縮器4は、補助ビーム形成部9からの補助ビームに対し、データリンク部8からのパルス圧縮係数にしたがってパルス圧縮を実施し、自己の内部に保存する。
【0058】
次いで、主CHと補助CHのレベルとが比較される(ステップS23)。すなわち、振幅比較器6は、パルス圧縮器4から取得した主CHの振幅と補助CHの振幅とを比較する。
【0059】
次いで、主CHが補助CHより大きいかどうかが調べられる(ステップS24)。すなわち、振幅比較器6は、ステップS23において比較した結果が、主CHの振幅が補助CHの振幅より大きいことを示しているかどうかを調べる。
【0060】
ステップS24において、主CHが補助CHより大きいことが判断されると、主CHは反射波であることが認識され、主CHが取り込まれる(ステップS25)。すなわち、検出/測角器5は、パルス圧縮器4から主CHを取り込んで自己の内部に保存する。一方、ステップS24において、主CHが補助CHより大きくないことが判断されると、主CHは直接波であることが認識され、ステップS25の処理はスキップされる。
【0061】
次いで、全てのレンジに対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS26)。すなわち、ステップS26において、全てのレンジに対する処理が終了していないことが判断されると、次いで、レンジセルの変更が行われる(ステップS27)。その後、ステップS23に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0062】
一方、ステップS25において、全てのレンジに対する処理が終了したことが判断されると、検出/測角処理が実行される(ステップS28)。すなわち、ステップS25で保存した主CH(Σビーム)を所定のスレッショルドレベルと比較することにより目標を検出するための処理を実行し、目標が検出された場合に、そのΣビームと、パルス圧縮器4から読み出したΔビームとに基づき、位相モノパルス測角により目標方向の角度を表す測角値を算出し、検出した目標を表す信号および測角値を、目標情報として外部に出力する。以上により、目標検出測角処理は終了する。
【0063】
以上説明したように、本発明の実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置によれば、パルス圧縮レーダの場合において、パルス圧縮後の主CHの振幅と補助CHの振幅とを比較することにより、レンジセル単位で直接波を抑圧することができるので、主CHの目標からの反射波範囲以外の方向からの直接波を抑圧することができる。
【実施例3】
【0064】
本発明の実施例3に係るマルチスタティックレーダ装置は、パルス圧縮係数が未知の場合に、パルス幅およびパルス圧縮係数を格納したデータベースの中から、主CHまたは補助CHを用いて、パルス圧縮を順次に実施して、最もレベルが高くなるパルス圧縮係数を用いてパルス圧縮するようにしたものである。
【0065】
図9は、本発明の実施例3に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の構成を示すブロック図である。この受信側のレーダ装置は、実施例2に係る受信側のレーダ装置のデータリンク部8がデータベース7に置き換えられて構成されている。
【0066】
データベース7は、各々がパルス幅およびチャープ帯域を含む複数のパルス圧縮係数を格納している。このデータベース7に格納されているパルス圧縮係数は、パルス圧縮器4によって読み出される。
【0067】
次に、上記のように構成される本発明の実施例3に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の動作を、目標検出測角処理を中心に、図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、図8のフローチャートに示した実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の処理と同一または相当する処理を実行するステップには、図8で使用した符号を付して説明を省略する。
【0068】
この目標検出測角処理を開始するに先立って、処理対象とするレンジが初期化されているものとする。目標検出測角処理では、まず、パルス圧縮が行われる(ステップS31)。すなわち、パルス圧縮器4は、1つのパルス圧縮係数を用いてパルス圧縮を実施する。次いで、パルス圧縮(PC)の結果が保存される(ステップS32)。すなわち、パルス圧縮器4は、ステップS31でパルス圧縮した結果を自己の内部に保存する。
【0069】
次いで、全てのパルス圧縮(PC)係数に対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS33)。このステップS33において、全てのパルス圧縮(PC)係数に対する処理が終了していないことが判断されると、次いで、パルス圧縮(PC)係数が変更される(ステップS34)。その後、ステップS31に戻り、次のパルス圧縮係数に対して上述した処理が繰り返される。
【0070】
一方、ステップS33において、全てのパルス圧縮(PC)係数に対する処理が終了したことが判断されると、主CHのパルス圧縮(PC)の結果の中から最大値が抽出され、主CHとされる。
【0071】
次いで、補助CHパルス圧縮が行われる(ステップS37)。すなわち、パルス圧縮器4は、補助ビーム形成部9からの補助ビームに対し、データリンク部8からのパルス圧縮係数にしたがってパルス圧縮を実施し、自己の内部に保存する。
【0072】
以下、上述した実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置と同様の処理(図8参照)が行われる。
【0073】
以上説明したように、本発明の実施例3に係るマルチスタティックレーダ装置によれば、パルス圧縮レーダの場合において、パルス圧縮係数が未知であっても、効率よくパルス圧縮を実施し、圧縮後の主CHと補助CHを比較することにより、レンジセル単位で直接波を抑圧することができる。
【0074】
なお、上述した実施例1〜実施例3においては、マルチスタティックレーダ装置として説明したが、本発明のマルチスタティックレーダ装置には、送信源が1個のバイスタティックレーダ装置も含まれる。
【0075】
また、上述した実施例1〜実施例3に係るマルチスタティックレーダ装置においては、受信器2〜2から得られるデータを一旦データ保存部3に保存し、その後、データ保存部3に保存されているデータを用いて処理を実施するように構成したが、リアルタイムに処理できる場合には、データ保存部3を除去することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、移動体に搭載されるレーダ装置などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の原理を説明するための図である。
【図2】本発明に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置で行われる直接波を抑圧するための処理の概念を示す図である。
【図3】本発明に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置で行われる直接波を抑圧する様子をレンジ軸で表現した図である。
【図4】本発明の実施例1に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例1に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の動作を、目標検出測角処理を中心に示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置で行われる直接波を抑圧する処理を説明するための図である。
【図7】本発明の実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例2に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の動作を、目標検出測角処理を中心に示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例3に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施例3に係るマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の動作を、目標検出測角処理を中心に示すフローチャートである。
【図11】従来のマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図12】従来のマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の受信モジュールの構成を示す回路図である。
【図13】従来のマルチスタティックレーダ装置の受信側のレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0078】
1 アンテナ(主アンテナ)
11 アンテナ素子
11a 補助アンテナ
12、12a 受信モジュール
13 給電回路
第1受信器
第2受信器
第3受信器
3 データ保存部
4 パルス圧縮器
5 検出/測角器
6 振幅比較器
7 データベース
8 データリンク部
9 補助ビーム形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信側のレーダ装置から送信された電波を受信側のレーダ装置で受信して目標を検出するマルチスタティックレーダ装置において、
前記受信側のレーダ装置は、
前記送信側のレーダ装置から送信された電波を受信する主アンテナと、
前記送信側のレーダ装置から送信された電波を受信する補助アンテナと、
前記主アンテナからの信号に基づき生成された主チャンネル信号の振幅と前記補助アンテナまたは前記主チャンネルからの信号に基づき生成された補助チャンネル信号の振幅とを比較する振幅比較器と、
前記振幅比較器により主チャンネル信号の振幅が補助チャンネル信号の振幅より大きい場合に、該主チャンネル信号に基づき目標の検出および測角を行う検出/測角器と、
を備えたことを特徴とするマルチスタティックレーダ装置。
【請求項2】
前記主アンテナからの信号に基づき生成された主チャンネル信号および前記補助アンテナまたは前記主アンテナからの信号に基づき生成された補助チャンネル信号を、前記送信側のレーダ装置からのパルス圧縮係数に基づきパルス圧縮するパルス圧縮器を備え、
前記振幅比較器は、前記パルス圧縮器で圧縮された主チャンネル信号の振幅と前記パルス圧縮器で圧縮された補助チャンネル信号の振幅とを比較することを特徴とする請求項1記載のマルチスタティックレーダ装置。
【請求項3】
パルス幅およびチャープ帯域を含むパルス圧縮係数を記憶したデータベースと、
前記主アンテナからの信号に基づき生成された主チャンネル信号および前記補助アンテナまたは前記主アンテナからの信号に基づき生成された補助チャンネル信号を、前記データベースから取得したパルス圧縮係数のうち最も高い利得が得られるパルス圧縮係数を用いてパルス圧縮するパルス圧縮器とを備え、
前記振幅比較器は、前記パルス圧縮器で圧縮された主チャンネル信号の振幅と前記パルス圧縮器で圧縮された補助チャンネル信号の振幅とを比較することを特徴とする請求項1記載のマルチスタティックレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−198307(P2009−198307A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40121(P2008−40121)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】