説明

マルチセンサ制御システム

【課題】種類の異なる複数のセンサを適切に制御して、観測を行う。
【解決手段】センサ200a〜200cが出力した探知データを、データ相関・統合部120が入力し、相関・統合して目標情報を生成する。センサ制御方法決定部150は、センサ情報設定・管理部170が記憶したセンサの能力や、制御ルール設定・管理部180が記憶した制御ルールに基づいて、目標情報からセンサ制御方法を決定する。センサ制御方法決定部150が決定したセンサ制御方法に基づいて、制御コマンド発行部190がセンサ200a〜200cに対して、センサ制御コマンドを送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のセンサを利用して目標物を観測する観測システムにおいて、複数センサの制御を行うマルチセンサ制御システム100に関する。
【背景技術】
【0002】
観測システムでは、複数の異種または同種のセンサを組み合わせることにより、観測能力を向上できる。
【特許文献1】特開平9−257923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
複数のセンサを利用する観測システムにおいては、複数のセンサが観測した観測情報を相関・統合する必要があるとともに、複数のセンサが連携した動作をするように、複数のセンサを制御する必要がある。
センサの個数が増えると、その制御の手間が増加する。特に、1人乗りの航空機などに搭載した観測システムでは、複数のセンサに対する制御を自動化したり、少ない指示で複数のセンサを制御できるようにする要請が強い。
【0004】
また、センサには、電波を放射し、反射波を観測することにより観測するタイプのものや、相手が放射した電波を受信することにより観測するタイプのものがある。
電波を放射するタイプのセンサは、距離が観測できるなどの利点がある一方、相手に発見される危険がある。
【0005】
この発明は、例えば、上記のような課題を解決するためになされたものであり、異なる種類の複数のセンサを最適に制御し、観測システムの観測能力を高めるとともに、被探知性(相手に発見されやすさ)を低く抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかるマルチセンサ制御システムは、
データ相関・統合部と、センサ情報設定・管理部と、運用レベル設定・管理部と、制御ルール設定・管理部と、センサ制御方法決定部と、制御コマンド発行部とを有し、
上記データ相関・統合部は、複数のセンサから目標物の観測データを入力し、入力した複数の観測データを相関・統合して目標情報を生成し、
上記センサ情報設定・管理部は、上記複数のセンサの能力及び実施可能な制御を表わす情報を記憶し、
上記運用レベル設定・管理部は、運用要求を基準に必要な観測精度を求めるための判断条件を表わす情報を記憶し、
上記制御ルール設定・管理部は、上記複数のセンサの制御方法を決定するためのルールを表わす情報を記憶し、
上記センサ制御方法決定部は、上記データ相関・統合部が生成した目標情報と、上記センサ情報設定・管理部が記憶した上記複数のセンサの能力及び実施可能な制御を表わす情報と、上記運用レベル設定・管理部が記憶した上記判断条件を表わす情報と、上記制御ルール設定・管理部が記憶した上記複数のセンサの制御方法を決定するためのルールとに基づいて、上記複数のセンサの制御方法を決定し、
上記制御コマンド発行部は、上記センサ制御方法決定部が決定した制御方法に基づいて、上記複数のセンサに対して、センサ制御コマンドを出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明にかかるマルチセンサ制御システムによれば、制御ルール設定・管理部があらかじめ記憶したルールに基づいて、複数のセンサが観測した観測結果に応じて、センサ制御方法決定部150が複数のセンサの制御方法を決定するので、複数のセンサを状況に応じて適切に制御することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
実施の形態1について、図1〜図7を用いて説明する。
【0009】
図1は、この実施の形態における観測システム800の全体構成の一例を示すシステム構成図である。
観測システム800は、マルチセンサ制御システム100と、複数のセンサ200a〜200cと、インタフェース部300とを有する。
【0010】
センサ200a〜200cは、例えば、レーダ、赤外線センサ(Infrared Sensor、IRセンサともいう)、パッシブ電波センサ(ESM:Electronic Support Measures、電子支援手段ともいう)などである。
センサ200a〜200cは、同種のセンサであってもよいし、異種のセンサであってもよい。
また、センサの数は3つに限らず、もっと多くてもよいし、少なくてもよい。
【0011】
以下、センサ200aについて説明する。センサ200b,200cは、センサ200aと同様なので、ここでは説明を省略する。
【0012】
センサ200aは、観測部210aと、探知部220aと、センサ制御部230aとを有する。
【0013】
観測部210aは、センサ200aの内部にあり、電波や赤外線などを送受信する装置である。観測部210aは、観測制御信号を入力し、観測信号を出力する。
観測制御信号は、センサ制御部230aが出力する信号であり、観測部210aを制御する情報を含む。観測制御信号は、例えば、レーダが電波を発射する方向、発射する電波の強度などを指示する情報を含む。
観測部210aは、観測制御信号にしたがって、観測を行う。
観測信号は、センサが受信した電波や赤外線の強度などを表わす信号である。
【0014】
探知部220aは、センサ200aの内部にあり、観測部210aが観測した結果に基づいて、方向などを計算する装置である。探知部220aは、観測制御信号と、観測部210aが出力した観測信号とを入力し、探知データを出力する。
探知部220aは、例えば、入力した観測制御信号に基づいて、観測部210aが電波を発射した時刻及び方向を求め、入力した観測信号に基づいて、反射波を受信した時刻を求め、これらの情報に基づいて、方向や距離を計算する。
探知データは、探知部220aが計算した方向などを表わすデータである。また、探知データには、観測部210aが観測した観測時刻を表わすデータも含まれる。
【0015】
センサ制御部230aは、センサ200aの内部にあり、センサ200a全体を制御する装置である。
センサ制御部230aは、センサ制御コマンドを入力し、観測制御信号を出力する。
制御コマンドは、マルチセンサ制御システム100がセンサの動作を制御する命令を表わすデータであり、マルチセンサ制御システム100が出力する。
制御コマンドは、例えば、センサモードの変更、捜索覆域、センサ指向方向などを指示する命令である。
センサ制御部は、入力した制御コマンドに基づいて、観測部の具体的な動作を決定し、決定した動作を指示する観測制御信号を出力する。
【0016】
インタフェース部300は、利用者との間で情報をやり取りする装置である。
インタフェース部300は、例えば、目標情報管理部124の目標情報などを表示する。
インタフェース部300は、また、入力装置を用いて、利用者からの指示を入力し、マルチセンサ制御システム100へ伝達することもできる。
なお、インタフェース部300を含まない構成としてもよい。マルチセンサ制御システム100は、ユーザへの情報提示や操作を提供しないものとしても実現可能である。
【0017】
マルチセンサ制御システム100は、複数のセンサ200a〜200cから探知データを収集し、収集した探知データが表わす観測結果などを利用して、センサ200a〜200cへの制御指示を行うシステムである。
マルチセンサ制御システム100は、データ相関・統合部120と、センサ制御方法決定部150と、運用レベル設定・管理部160と、センサ情報設定・管理部170と、制御ルール設定・管理部180と、制御コマンド発行部190とを有する。
【0018】
データ相関・統合部120は、センサ200a〜200cが出力した探知データを入力する。
データ相関・統合部120は、入力した探知データが表わす位置などの観測結果を相関・統合して目標情報を生成する。
データ相関・統合部120は、生成した目標情報を管理する。
【0019】
データ相関・統合部120は、探知データ相関・統合部123と、目標情報管理部124とを有する。
【0020】
探知データ相関・統合部123は、センサ200a〜200cが出力した探知データを1箇所に集めて、複数のセンサの観測情報を相関・統合し、同時に追尾処理(追尾フィルタの処理)を実行する。すなわち、複数センサで観測した探知情報を使って追尾処理を実施し、航跡を生成する。
相関とは複数の情報の対応関係を決定する処理であり、統合とは相関の結果に基づいて対応する情報をまとめて統合した情報を生成する処理である。複数センサの情報を利用するシステムでは、複数のセンサの情報間での相関・統合と、同一センサの時系列の情報間での相関・統合がある。以下の説明では、複数のセンサの情報間での相関・統合を、相関・統合として説明する。
追尾処理は、センサの時系列の探知情報間で相関・統合を実施する。対応があるとした時系列の情報を利用して平滑化等を行い、目標の時間変化の微分から速度を算出したり、予測位置を算出したりする処理である。追尾処理の結果として出力される情報が航跡情報である。航跡情報には、観測対象の位置、速度等が含まれる。
【0021】
従来の単一センサのシステムでは、同じセンサからの時系列の探知データを使用して、追尾処理で航跡情報を生成する。ここでは、同じセンサの時系列の探知データを元に航跡情報が生成され、航跡情報と新規に入力された探知データの情報の間で相関判定を行い、統合(対応有りとした探知データを新たに追加した航跡情報の生成)が行われる。
探知データ相関・統合部123では、相関・統合と追尾処理を同時に実施する。ここでは、探知データ相関・統合部123では、複数センサの探知情報が混在した航跡情報を生成する。この航跡と複数センサからの探知データの情報の間で相関判定を行い、統合(対応有りとした探知データを新たに追加した航跡情報の生成)を行う。このような処理を実行することで、複数センサ間での相関・統合と、追尾処理(時系列の情報間での相関・統合)を同時に実施する。
相関・統合と追尾処理で利用するアルゴリズムには、例えば、NN(Nearest Neighbor)方式や、航跡型MHT(Multiple Hypothesis Tracking)などがある。
【0022】
追尾処理では、算出した航跡情報に対する観測精度を予測することが可能である。また、航跡に対して相関となった探知データから、各航跡情報に対して、探知データを使って更新が行われた時刻を管理することも可能である。
探知データ相関・統合部123は、目標情報を生成する。目標情報には、航跡情報と、航跡情報の観測精度と観測に利用したセンサ別の最終観測時刻を含む。
航跡情報と、航跡情報の観測精度に含まれる項目は、航跡算出で利用した探知データ(観測源のセンサ)に依存する。例えば、レーダの探知データを含む目標情報では距離と角度の情報を含むが、距離を観測不可能な光学センサの探知データのみの目標情報では角度の情報だけになる。
【0023】
探知データ相関・統合部123は、相関・統合した探知データを相関・統合し、同時に追尾処理を実行して、位置・速度などを算出する。
探知データ相関・統合部123は、目標情報を生成する。目標情報とは、算出した位置・速度などを表わす情報である。
探知データ相関・統合部123は、生成した目標情報を出力する。
【0024】
図2は、この実施の形態における探知データ相関・統合部123が生成する目標情報の一例を示す図である。
目標情報は、たとえば、観測結果、観測精度、最終観測時刻などからなる。観測結果には、例えば、距離、角度、速度、識別情報などがある。観測精度は、観測結果の精度を表わす。最終観測時刻は、最後に観測した時刻を表わす。センサの種類によっては、観測項目の一部しか観測できないものもあり、観測精度や最終観測時刻は、観測項目ごとに異なる場合がある。
【0025】
目標情報管理部124は、目標情報を管理する。
すなわち、目標情報管理部124は、探知データ相関・統合部123が出力した目標情報を入力する。
目標情報管理部124は、入力した目標情報を、対応する目標ごとに分類して保管する。
【0026】
また、目標情報管理部124は、目標情報への操作や状態変更の情報などを記録する。
例えば、インタフェース部300が利用者の操作を入力することにより、目標の運用レベルや制御モードなどを入力する。目標情報管理部124は、インタフェース部300が入力した目標の運用レベルや制御モードなどの情報を入力し、記憶する。
【0027】
運用レベル設定・管理部160は、運用要求を基準として事前に設定した観測精度などの判断条件を記憶する。
【0028】
図3は、この実施の形態における運用レベル設定・管理部160が記憶する判断条件と観測精度との関係の一例を示す図である。
なお、この図は表形式となっているが、運用レベル設定・管理部160が記憶する判断条件は、表形式に限らず、他の形式であってもよい。
【0029】
この例において、運用レベル設定・管理部160は、目標の運用レベル(運用要求)と、観測項目とに基づいて、必要な観測精度のレベルを判断する判断条件を記憶している。
目標運用レベル条件531は、目標の運用レベルについての条件を表わす。目標の運用レベルには、例えば、「分離移動体誘導対象」「状況認識対象(プライマリ)」「状況認識対象(ペア内)」「状況認識対象(グループ内)」「状況認識対象(空域内)」「状況認識対象外」「無視」などがある。
観測項目条件532は、センサ200a〜200cのいずれかが観測できる項目の種類についての条件を表わす。観測項目には、例えば、「距離」「角度」「速度」「識別情報」などがある。
必要観測レベル533は、その目標について要求される観測精度のレベルを表わすものであり、目標運用レべル条件531と観測項目条件532とに基づいて判断される。この例では、目標運用レベル条件531のうち目標の運用レベルが該当する行と、観測項目条件532のうち観測項目が該当する列との交点が、その条件を満たす場合の必要観測レベルを表わしている。例えば、目標の運用レベルが「分離移動体誘導対象」で、観測項目が「距離」なら、必要観測レベル「A」の観測精度が必要であることを表わす。必要観測レベルには、例えば、「A」「B」「C」「D」「E」などがある。この例では、必要観測レベル「A」が最も高い精度が必要なことを表わし、必要観測レベル「B」、「C」、「D」となるにつれて必要な精度が低くなる。また、必要観測レベル「E」は、観測不要であることを表わす。
【0030】
目標の運用レベルは、例えば、利用者がインタフェース部300から入力する。あるいは、目標の位置、速度、識別情報など目標情報に含まれる情報に基づいて、センサ制御方法決定部150が判別してもよい。入力あるいは判別した目標の運用レベルは、目標情報管理部124が目標情報の一部として記憶する。
センサ制御方法決定部150が目標の運用レベルを自動的に判別する構成のほうが、利用者の負荷を減らずことができ、好ましい。
【0031】
図1に戻り、マルチセンサ制御システム100の機能ブロックの説明を続ける。
【0032】
センサ情報設定・管理部170は、制御対象のセンサ200a〜200cの能力及び実施可能な制御を表わす情報を記憶する。センサ情報設定・管理部170は、事前に設定されたセンサの能力及び実施可能な制御を表わす情報を記憶している。
【0033】
図4は、この実施の形態におけるセンサ情報設定・管理部170が記憶するセンサの能力及び実施可能な制御を表わす情報の一例を示す図である。
なお、この図は表形式となっているが、センサ情報設定・管理部170が記憶するセンサ能力は、表形式に限らず、他の形式であってもよい。
【0034】
センサ情報設定・管理部170は、センサの能力として、覆域、観測可能な項目、精度、分解能、電波放射の有無、センサ指向方向の切り替え方式等の情報を記憶している。また、実施可能な制御として、各センサに対する制御コマンドの情報を記憶している。
【0035】
センサ指向方向の切り替え方式とは、レーダのAPPA(Active Phased Array Antenna)のように電気的な制御などを利用してセンサの指向方向を瞬時に任意に変更できる方式や、機械的な制御などを利用してセンサの指向方向を連続した領域にのみ変更できる方式がある。
この例では、センサの方向を瞬時に任意に変更できる方式を「指向性あり」とし、指向方向を連続した領域にのみ変更できる方式を「指向性なし」として示している。
【0036】
覆域とは、そのセンサが観測できる方向の範囲である。センサ情報設定・管理部1709は、センサを中心とした座標系で三次元の角度情報として覆域を記憶している。
この例では、覆域を簡易に説明するため、センサ200a〜200cの覆域を方位角と仰角とによって表わしている。例えば、センサ200aは、正面方向に向けて取り付けられており、正面(方位角0度、仰角0度)を中心として、方位角±45度、仰角±45度の範囲を観測できる。
【0037】
観測可能な項目とは、そのセンサが観測できる項目である。センサの種類などによって観測できる項目が異なる。また、観測項目ごとに観測精度や分解能などが異なるので、センサ情報設定・管理部170は、観測項目ごとの観測精度や分解能などの情報も記憶している。
【0038】
センサ情報設定・管理部170がこのような情報を記憶していることにより、目標の観測に利用できるセンサリソースを把握することができる。
【0039】
実施可能な制御を表わす情報とは、そのセンサに対して送付することができるセンサ制御コマンドである。センサ制御コマンドには、例えば、センサモードの変更、捜索覆域、センサ指向方向などがある。センサ制御コマンドは、装置としてのセンサに対する制御入力信号である。
代表的なセンサモードの例として、捜索、追尾などがある。捜索モードでは、指定された覆域内を走査し、目標の探知結果を出力する。追尾モードでは、指定された方向にセンサを指向する。その後、継続して目標を観測できるように、目標の予測位置方向にセンサを指向する制御を継続して実施する。なお、捜索と追尾では、捜索範囲、制御タイミング、パルス繰り返し周期等、様々な条件を組み合わせたモードとして実現されることもある。
【0040】
センサ情報設定・管理部170がこのような情報を記憶していることにより、各センサに対してどのようなセンサ制御コマンドを送付したらよいかがわかる。
【0041】
図1に戻り、マルチセンサ制御システム100の機能ブロックの説明を続ける。
【0042】
制御ルール設定・管理部180は、事前に設定されたセンサ制御のルールを記憶している。センサ制御のルールは、センサ制御のトリガになる条件と、条件が成立した時に実施の形態する制御公報の対応関係をルール化した情報である。
【0043】
図5は、この実施の形態におけるセンサ制御ルールの一部であるセンサ制御モードの一例を示す図である。センサ制御モードは、センサ制御方法の判断基準として利用するため、センサ制御方法決定部150が内部で記憶する情報である。
この例は、センサ制御モードを大きく3つに分け、それぞれのモードから他のモードへ遷移する条件を状態遷移図によって表わしている。
【0044】
この例において、センサ制御モードには、「電波封止」「観測優先」「バランス」の3つがある。
「電波封止」とは、電波の放射をできるだけ抑えるモードである。電波を放射すると、目標のパッシブ電波センサに発見される可能性が高くなるからである。そのため、例えば、電波を放射するレーダなどのセンサの使用を抑えるなどのセンサ制御をする。
「観測優先」とは、目標を正確に観測することを優先するモードである。そのため、電波を放射するレーダなども積極的に使う制御をする。
「バランス」とは、「電波封止」と「観測優先」との間の中間的なモードである。
【0045】
この例では、「電波封止」を初期状態とし、「電波封止」から開始する。
センサ制御モードは、利用者が操作することにより切り替えることができる。この場合、利用者の操作は、インタフェース部300が入力する。
センサ制御モードは、目標の観測状況によっても遷移する。パッシブ電波センサの観測結果から、目標に発見されたと推定された場合には、センサ制御モードを、「電波封止」から「観測優先」に変更する。既に発見され、電波の放射を抑える意味がないと判断したためである。
なお、運用条件と観測した目標情報などを利用して、センサ制御モードの遷移の判定条件を設け、マルチセンサ制御システム100内部で自動的に遷移するよう構成することもできる。
【0046】
図6は、この実施の形態における制御ルール設定・管理部180が記憶するセンサ制御ルールの一例を示す図である。
この例において、必要観測レベル、センサ制御モード及び目標との相対距離が、センサ制御のトリガになる条件である。また、条件が成立したときに実施する制御方法を、ルールとして記載している。なお、センサ制御のトリガになる条件としては、この他に、目標情報管理部124が出力した目標情報に含まれる観測結果、観測精度や最終観測時刻の情報がある。
各ルールでは、適用時に目標情報管理部124が出力する目標情報に含まれる情報を基準に、センサ200a〜200cで実施するセンサ制御方法が記載されている。
この図は、図3に示した判断条件に基づいて判断した必要観測レベルと、図5に示したセンサ制御ルールに基づいて判断したセンサ制御モードと、目標との距離との3つの条件に基づいて、適用するルールを選択することを表わしている。
この例では、必要観測レベルが5段階、センサ制御モードが3種類、目標との距離が3段階に分かれているので、この3つの条件に基づいて、45通りのルールのなかから適用するルールを選択する。
なお、これは一例であって、必要観測レベルは5段階でなくてもよいし、センサ制御モードは3種類でなくてもよいし、目標との距離は3段階でなくてもよい。任意の段階数で異なる条件を設定することも可能である。また、対象の種類や項目を変更することも可能である。
また、記載するルールは、すべて異なる必要はない。45通りのルールがすべて異なる必要はなく、異なる条件で同じルールを選択することとしてもよい。
【0047】
例えば、制御ルール設定・管理部180は、必要観測レベル「A」、センサ制御モード「観測優先」、目標との距離「短距離」の場合に適用するルールである「ルール3」として、以下のルールを記憶する。
「ルール3」においては、必要観測レベルが「A」なので、電波放射の有無を考慮せず、観測精度など、観測に有利なセンサリソースを集中して対象の目標に対する観測を行う制御を実施する。
各ルールでセンサ制御を決定するときには、目標情報に含まれる観測結果、観測精度や最終観測時刻の情報を考慮したセンサ制御を行う。例えば角度情報の精度が低い時には、角度の観測で有利なセンサを指向して目標の観測を行う制御を行う。例えば、図4の例において、センサ200bが角度精度で有利ならば、センサ200bを指向する制御を実施する。
また、距離精度の精度が低い時には、距離の観測で有利なセンサを指向して目標の観測を行う制御を行う。図4の例においては、距離はセンサ200aでのみ観測可能なため、センサ200aを指向する制御を実施する。
【0048】
また、制御ルール設定・管理部180は、必要観測レベル「A」、センサ制御モード「電波封止」、目標との距離「中距離」の場合に適用するルールである「ルール9」として、以下のルールを記憶する。
「ルール9」においては、必要観測レベルが「A」、センサ制御モードが「電波封止」なので、電波放射ありのセンサ使用を極力抑えて、観測精度など、観測に有利なセンサリソースを集中して対象の目標に対する観測を行う制御を実施する。
【0049】
このように、制御ルール設定・管理部180が記憶するセンサ制御ルールは、状況に基づいて、どのセンサを使用して観測するかを判断するためのルールである。
【0050】
図1に戻り、マルチセンサ制御システム100の機能ブロックの説明を続ける。
【0051】
センサ制御方法決定部150は、センサの制御方法を決定する。
すなわち、センサ制御方法決定部150は、目標情報管理部124が記憶した目標情報を入力する。
センサ制御方法決定部150は、運用レベル設定・管理部160が事前に記憶した判断条件と、センサ情報設定・管理部170が事前に記憶したセンサ能力と、制御ルール設定・管理部180が事前に記憶したセンサ制御ルールとを入力する。
センサ制御方法決定部150は、入力した判断条件と、センサ能力と、センサ制御ルールとを基準にして、データ相関・統合部120が生成した目標情報から現在の状況を判断し、複数のセンサに対して実施するセンサの制御方法を決定する。
センサ制御方法決定部150は、決定したセンサ制御方法を表わす情報を出力する。
【0052】
制御コマンド発行部190は、センサ制御方法決定部150が決定したセンサの制御方法に基づいて、センサ200a〜200cに対して送付するセンサ制御コマンドを生成する。
【0053】
すなわち、制御コマンド発行部190は、センサ制御方法決定部150が出力したセンサ制御方法を表わす情報を入力する。
制御コマンド発行部190は、センサ情報設定・管理部170が記憶したセンサ能力のうち、各センサ200a〜200cに対して送付可能なコマンドを表わす情報を入力する。
制御コマンド発行部190は、入力した情報が表わす送付可能なコマンドに基づいて、入力した情報が表わすセンサ制御方法を、センサ200a〜200cに対して具体的に指示するセンサ制御コマンドを生成する。
制御コマンド発行部190は、センサ200a〜200cに対して、生成したセンサ制御コマンドを送付する。
【0054】
なお、センサ制御方法決定部150が決定したセンサ制御方法をインタフェース部300が表示することにより、利用者に通知してもよい。
その場合、利用者が表示したセンサ制御方法を承諾するか否かをインタフェース部300が入力してもよい。
利用者が表示したセンサ制御方法を承諾しない場合、インタフェース部300は、利用者の操作を入力することにより、利用者が選択したセンサ制御方法を入力する。
その場合、制御コマンド発行部190は、インタフェース部300が入力したセンサ制御方法に基づいて、センサ制御コマンドを生成する。
これにより、センサ制御方法決定部150が決定したセンサ制御方法に利用者が不満な場合など、利用者が強制的にセンサ制御方法の変更を指示できる。
【0055】
次に、この実施の形態における観測システム800の動作について説明する。
【0056】
図7は、この実施の形態における観測システム800が観測をする目標観測処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
【0057】
まず、観測工程S21において、センサ200aの観測部210aは、センサ制御部230aが出力した観測制御信号を入力する。観測部210aは、入力した観測制御信号にしたがって、観測を行う。観測部210aは、観測信号を出力する。
センサ200b・200cでも同様に、観測部210b・210cが観測を行う。
【0058】
探知工程S22において、センサ200aの探知部220aは、観測工程S21で観測部210aが出力した観測信号を入力する。探知部220aは、入力した観測信号に基づいて、探知データを生成する。例えば、探知部220aは、観測部210aが観測した電波の強度を表わす観測信号を信号処理することにより、探知データを生成する。探知部220aは、生成した探知データをマルチセンサ制御システム100に対して出力する。
センサ200b・200cでも同様に、観測部210b・210cが出力した観測信号に基づいて、探知部220b・220cが探知データを生成する。
【0059】
次に、相関統合工程S11において、探知データ相関・統合部123は、探知工程S22でセンサ200a〜200cの探知部220a〜220cが出力した探知データを入力する。
探知データ相関・統合部123は、入力された探知データを利用して、相関・統合と追尾処理を同時に実行する。相関・統合と追尾処理の結果として、航跡情報と、航跡情報の観測精度と観測に利用したセンサ別の最終観測時刻を含む目標情報を出力する。
【0060】
探知データ相関・統合部123が生成する目標情報には、複数のセンサ200a〜200cが探知した情報が含まれる。また、追尾処理の時間微分により算出した速度情報も含まれる。この他、目標の観測精度やセンサ別の最終観測時刻も含まれる。これらの情報は、各目標別に1セットで出力する。
【0061】
目標情報管理部124は、探知データ相関・統合部123が出力した目標情報を入力する。
目標情報管理部124は、入力した目標情報を記憶する。
【0062】
制御方法決定工程S13において、センサ制御方法決定部150は、相関統合工程S11で目標情報管理部124が記憶した目標情報と、センサ制御モードとを入力する。
目標運用レベルは、利用者がインタフェース部300から指定してもよいし、マルチセンサ制御システム100内部で、目標情報を基準に算出してもよい。
センサ制御方法決定部150は、運用レベル設定・管理部160が記憶した判定条件を入力する。
センサ制御方法決定部150は、入力あるいは算出した目標運用レベルに基づいて、判定条件を参照して、必要観測レベルを算出する。
センサ制御方法決定部150は、入力した目標情報に基づいて、目標との相対距離(近距離、中距離または遠距離)を取得する。
【0063】
センサ制御方法決定部150は、制御ルール設定・管理部180が記憶したセンサ制御ルールを入力する。
センサ制御方法決定部150は、入力したセンサ制御モードと、算出した必要観測レベルと、取得した目標との距離とを、入力したセンサ制御ルールに当てはめて、現在の状況に適用するルールを取得する。
センサ制御方法決定部150は、センサ情報設定・管理部170が記憶したセンサの能力を入力する。
センサ制御方法決定部150は、入力した目標情報に基づいて取得した目標の方向や項目ごとの予測誤差、入力したセンサの能力などを、取得したルールに当てはめて、センサ制御方法を決定する。
【0064】
上述したように、センサ制御ルールでは、目標情報管理部124が管理する目標情報が表わす現在の目標の観測の精度などの情報、運用レベル設定・管理部160が管理する運用レベル別に必要な観測精度、及び、センサ情報設定・管理部170が管理する制御リソースとしてのセンサ能力などの条件を組み合せることにより、適切なセンサ制御方法を算出するルールが設定されている。
センサ制御方法決定部150は、このルールにしたがって、各センサ200a〜200cの制御方法を決定する。
【0065】
センサ制御方法決定部150は、決定したセンサ制御方法を表わす情報を、制御コマンド発行部190に対して出力する。
【0066】
コマンド発行工程S14において、制御コマンド発行部190は、制御方法決定工程S13でセンサ制御方法決定部150が出力したセンサ制御方法を表わす情報を入力する。
制御コマンド発行部190は、センサ情報設定・管理部170が記憶したセンサの能力のうち、センサに対して送付可能なコマンドを表わす情報を入力する。
制御コマンド発行部190は、入力した情報が表わす送付可能コマンドに基づいて、入力した情報が表わすセンサ制御方法を各センサ200a〜200cに対して具体的に指示するセンサ制御コマンドを生成する。
制御コマンド発行部190は、センサ200a〜200cに対して、生成したセンサ制御コマンドを出力する。
【0067】
その後、マルチセンサ制御システム100は、相関統合工程S11に戻り、処理を繰り返す。
【0068】
制御工程S23において、センサ200aのセンサ制御部230aは、コマンド発行工程S14で制御コマンド発行部190がセンサ200aに対して出力したセンサ制御コマンドを入力する。
センサ制御部230aは、入力したセンサ制御コマンドにしたがって、観測部210aを制御する観測制御信号を生成する。
センサ制御部230aは、生成した観測制御信号を出力する。
同様に、センサ200b・200cでは、センサ制御部230b・230cが、制御コマンド発行部190がセンサ200b・200cに対してそれぞれ出力したセンサ制御コマンドにしたがって、観測制御信号を出力する。
【0069】
その後、センサ200a〜200cは、観測工程S21に戻り、制御工程S23でセンサ制御部230a〜230cが出力した観測制御信号を、観測部210a〜210cがそれぞれ入力し、入力した観測制御信号にしたがって、観測を行う。
【0070】
このように、この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、運用レベル設定・管理部160が記憶した判定条件や、制御ルール設定・管理部180が記憶したセンサ制御ルールを変更することにより、様々なタイプのセンサ制御を実現することができる。
また、運用レベル設定・管理部160や制御ルール設定・管理部180が、あらかじめ設定した判定条件やセンサ制御ルールを記憶しておくことにより、センサ制御方法決定部150が自動的にセンサ制御方法を決定するので、利用者が各センサ別に詳細な制御を実施する必要がなく、利用者の制御負荷を低減したマルチセンサ制御システムを実現することができる。
【0071】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、
データ相関・統合部120と、センサ情報設定・管理部170と、運用レベル設定・管理部160と、制御ルール設定・管理部180と、センサ制御方法決定部150と、制御コマンド発行部190とを有することを特徴とする。
データ相関・統合部120は、複数のセンサ200a〜200cから目標物の観測データ(探知データ)を入力し、入力した複数の観測データ(探知データ)を相関・統合して、目標情報を生成することを特徴とする。
センサ情報設定・管理部170は、複数のセンサ200a〜200cの能力及び実施可能な制御を表わす情報を記憶することを特徴とする。
制御ルール設定・管理部180は、複数のセンサ200a〜200cの制御方法を決定するためのルールを表わす情報(センサ制御ルール)を記憶することを特徴とする。
センサ制御方法決定部150は、データ相関・統合部120が生成した目標情報と、センサ情報設定・管理部170が記憶した複数のセンサ200a〜200cの能力及び実施可能な制御を表わす情報と、運用レベル設定・管理部160が記憶した判断条件を表わす情報と、制御ルール設定・管理部180が記憶した複数のセンサ200a〜200cの制御方法を決定するためのルール(センサ制御ルール)とに基づいて、複数のセンサ200a〜200cの制御方法を決定することを特徴とする。
制御コマンド発行部190は、センサ制御方法決定部150が決定した制御方法に基づいて、複数のセンサ200a〜200cに対して、センサ制御コマンドを出力することを特徴とする。
【0072】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100によれば、制御ルール設定・管理部180があらかじめ記憶したルールに基づいて、複数のセンサが観測した観測結果に応じて、センサ制御方法決定部150が複数のセンサの制御方法を決定するので、複数のセンサを状況に応じて適切に制御することができるという効果を奏する。
【0073】
以上説明したマルチセンサ制御システム100は、
センサ200a〜200cから入力される観測情報(探知データ)を相関・統合して目標情報を生成するデータ相関・統合部120と、
事前に設定した制御の判断条件、センサの能力及び制御ルール等を基準に、生成した目標情報から現在の状況を判断し、複数のセンサに対して実施するセンサの制御方法を決定するセンサ制御方法決定部150と、
運用要求を基準に必要な観測精度等の判断条件を事前に設定する運用レベル設定・管理部160と、
制御対象のセンサの能力(観測可能な領域や項目、観測精度等)及び制御対象のセンサに対して実施可能な制御(送付可能な制御コマンド)の情報を事前に設定するセンサ情報設定・管理部170と、
決定した制御内容に従ってセンサ制御コマンドを発行するセンサコマンド発行部(制御コマンド発行部190)とを有することを特徴とする。
【0074】
実施の形態2.
実施の形態2について、図8を用いて説明する。
【0075】
この実施の形態における観測システム800の全体構成、マルチセンサ制御システム100のハードウェア資源及び機能ブロックの構成は、実施の形態1で説明したものと同様なので、ここでは説明を省略する。
【0076】
実施の形態1で説明したように、マルチセンサ制御システム100は、運用レベル設定・管理部160が記憶した判定条件や、制御ルール設定・管理部180が記憶したセンサ制御ルールを書き換えることにより、様々なタイプのセンサ制御を実現することができる。
この実施の形態では、好ましいセンサ制御を実現するセンサ制御ルールの一例について説明する。
【0077】
図8は、この実施の形態におけるセンサ200a〜200cの配置の一例を示す図である。
この例において、センサ200a〜200cは、同種のセンサである。
センサ200a〜200cは、取り付けられている位置が異なるため、覆域が異なる。
センサ200aは、方位角−60度〜+60度の範囲を観測できる。
センサ200bは、方位角−180度〜−60度の範囲を観測できる。
センサ200cは、方位角+60度〜+180度の範囲を観測できる。
センサの覆域は、センサ情報設定・管理部170がセンサの能力の一種として記憶している。
【0078】
センサ制御方法決定部150は、センサ情報設定・管理部170が記憶したセンサの能力(覆域)に基づいて、そのセンサが、観測できるか否かを判断する。
その方向を観測できるセンサが見つかった場合、そのセンサを使用するというセンサ制御方法を決定する。見つからない場合は、他のセンサがその方向を観測できるか否かを判断する。
【0079】
これにより、センサ制御方法決定部150が状況に合ったセンサ制御方法を自動的に決定し、センサを最適に制御することができる。
【0080】
この実施の形態では、単純に排他的な覆域の複数センサの例について説明したが、複数のセンサの覆域が相互に重複する場合も、同様の効果を奏することができる。例えば、電波の放射方向を電気的に切り替えることができるAPAAを有するレーダでは、放射方向の切替が瞬時にできるという利点を有する反面、覆域の端に近い領域では、観測が不利になる。マルチセンサ制御システム100を利用することで、重複した覆域内の目標に対して、観測で有利なセンサを選択して指向させるような制御が可能になる。この場合に、有利なセンサを選択して観測を実施できるマルチセンサ制御を実現できる効果がある。
【0081】
実施の形態3.
実施の形態3について、図9〜図10を用いて説明する。
図9は、この実施の形態における観測システム800の全体構成の一例を示すブロック構成図である。
なお、実施の形態1で説明した観測システム800の機能ブロックと共通するブロックについては、同一の符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0082】
センサ200bは、更に、追尾部240bを有する。
追尾部240bは、探知部220bが出力した探知データに基づいて、追尾を実施し、航跡を算出する。この追尾処理は、実施の形態1で説明した探知データ相関・統合部123の追尾処理と、基本的に同様であり、既存の航跡データに観測した探知データを追加して航跡を生成していく。ただし、追尾部240bが利用する探知データは、同じセンサ200bの探知部220bが出力した探知データだけである点が異なる。追尾部240bが算出する航跡情報は、探知部220bが出力した時系列の探知データの集合になる。
追尾部240bは、追尾データを出力する。追尾データとは、推定した目標物の位置・速度など目標物の航跡を表わすデータである。
【0083】
追尾部240bが出力した追尾データは、センサ制御部230bが入力する。
センサ制御部230bは、入力した航跡情報に基づいて、センサ指向時の目標物の位置を予測し、観測部210bへ予測位置にセンサを指向する観測制御信号を生成する。
【0084】
センサ200cも同様に、追尾部240cを有する。追尾部240cは、追尾部240bと同様なので、説明は省略する。
【0085】
データ相関・統合部120は、更に、航跡相関・統合部125を有する。
航跡相関・統合部125は、センサ200cが出力した航跡情報を入力する。
航跡相関・統合部125は、探知データ相関・統合部123が出力した目標情報を入力する。
航跡相関・統合部125は、入力した追尾データが表わす航跡と、入力した目標情報が表わす航跡とを、相関・統合する。航跡情報は、時系列の探知情報を使用して生成するため、速度情報を有する。航跡相関・統合部125は、速度情報と航跡を生成した時刻から、相関・統合を実施する時刻での予測位置を算出し、予測位置の差から、異なるセンサで観測した航跡情報の相関を決定し、相関対象となった航跡同士を統合する。この統合では、観測不可能な項目の情報を補完したり、観測精度を基準に航跡間の情報を合成する処理を実施して、統合航跡を算出する。
航跡相関・統合部125は、算出した統合航跡を、目標情報管理部124へ出力する。なお、探知データ相関・統合部123及び追尾部240cが出力する航跡情報には、実施の形態1と同様に観測精度等の情報が含まれる。この情報と算出した統合航跡の情報をまとめて目標情報として、目標情報管理部124へ出力する。
【0086】
図10は、この実施の形態における観測システム800が観測をする目標観測処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
なお、実施の形態1で説明した目標物観測処理の工程と共通する工程については、同一の符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0087】
追尾工程S24において、センサ200bの追尾部240bは、探知部220bが出力した探知データを入力する。
追尾部240bは、入力した探知データに基づいて、追尾処理を実施し、航跡情報を算出する。
追尾部240bは、推定した目標物の航跡を表わす航跡情報を出力する。
センサ200cでも同様に、追尾部240cが追尾処理を実施し、航跡情報を算出する。
【0088】
航跡相関統合工程S12において、航跡相関・統合部125は、追尾工程S24でセンサの200cが出力した航跡情報を入力する。
航跡相関・統合部125は、相関統合工程S11で探知データ相関・統合部123が出力した目標情報を入力する。
【0089】
航跡相関・統合部125は、入力したセンサ200cが出力した航跡情報と、探知データ相関・統合部123が出力した目標情報の間で、航跡同士の相関・統合処理を実施する。航跡同士の相関・統合処理の結果、統合航跡を算出する。
この統合航跡を、目標情報管理部124へ出力する。なお、探知データ相関・統合部123及び追尾部240cが出力する航跡情報には、実施の形態1と同様に観測精度等の情報が含まれる。この情報と算出した統合航跡の情報をまとめて目標情報として、目標情報管理部124へ出力する。
【0090】
このように、センサ側で追尾機能を有するセンサを接続した場合に、探知データを入力したセンサでも、追尾処理結果の航跡情報を入力した場合でも、運用条件、目標の観測状況、センサの能力や制御方法等を判断基準として、複数のセンサを適切に制御可能なマルチセンサ制御システムを実現できる。
この実施の形態では、探知結果を入力するセンサ200bと追尾情報だけを入力するセンサ200cが混在する例について説明したが、追尾情報だけを入力する複数センサの構成でもよい。その場合も、実施の形態1と同様の効果を奏する。その場合には、探知データ相関・統合部123に入力するデータが存在しないため、探知データ相関・統合部123を含まないデータ相関・統合部120として構成してもよい。
【0091】
このように、この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、探知データ相関・統合部123と航跡相関・統合部125により、探知データを入力するセンサ及び航跡情報を入力するセンサの情報を相関・統合し、その結果の目標情報に基づいて複数センサの制御が可能である。このため、探知データを入力するセンサ及び航跡情報を入力するセンサを任意に組合せて、複数のセンサを適切に制御可能なマルチセンサ制御システムを実現できる。
【0092】
このように、この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、センサ200a,200bが出力した探知データを1箇所に集めて相関・統合を行う探知データ相関・統合部123と、センサ200cが出力した追尾データを集めて相関・統合を行う航跡相関・統合部125とを組み合せることにより、多種多様なタイプのセンサを使用した観測システム800を実現する。
利用する複数のセンサ間で、センサが観測できる項目や、観測精度、観測周期等に差がある場合には、探知データ相関・統合と航跡相関・統合とを適材適所に適用して、組み合わせたシステム構成が有効である。このため、本装置は適用範囲が広い利点がある。
【0093】
また、センサは、複数のセンサの機能を1つのセンサとして統合したセンサであってもよい。このようなセンサには、例えば、1つの開口面をレーダとパッシブ電波センサとで共有した電波センサなどがある。
このように、内部に複数のセンサの機能を有したセンサを組合わせたマルチセンサシステムでも、同様の効果を発揮できる。
以上説明したマルチセンサ制御システム100は、更に、航跡・相関統合実施部(航跡相関統合部)を有するので、探知データだけでなく、航跡情報(追尾データ)も利用可能である。
【0094】
実施の形態4.
実施の形態4について、図11〜図12を用いて説明する。
【0095】
図11は、この実施の形態における観測システム800の全体構成の一例を示すブロック構成図である。
なお、実施の形態1で説明した観測システム800の機能ブロックと共通するブロックについては、同一の符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0096】
マルチセンサ制御システム100は、更に、センサ状況管理部136、観測状況判定部137、電波放射量記録部147を有する。
【0097】
センサ状況管理部136は、センサの現在の状況を管理する。
【0098】
センサ200a〜200cは、センサ制御部230a〜230cが、センサの現在の状況を表わすセンサ状況信号を、定期的に出力する。
センサ状況管理部136は、センサ状況信号を入力する。
センサ状況管理部136は、入力したセンサ状況信号に基づいて、各センサ200a〜200cの現在の状況を取得する。
センサ状況管理部136は、取得した各センサ200a〜200cの現在の情報を表わす情報を記憶する。
【0099】
また、センサ状況管理部136は、各センサ200a〜200cそれぞれについてのセンサ状況信号を入力した時刻を記憶する。センサ200a〜200cは定期的にセンサ状況信号を出力するはずなので、前回のセンサ状況信号を入力してから所定の時間が経過しても、次のセンサ状況信号を入力しない場合には、センサ状況管理部136は、そのセンサが故障したと判断し、判断結果を記憶する。
【0100】
センサ制御方法決定部150は、センサ状況管理部136が記憶したセンサの現在の状況を表わす情報を入力する。
センサ制御方法決定部150は、入力した信号に基づいて、センサの現在の状況を取得する。
センサ制御方法決定部150は、取得したセンサの現在の状況に基づいて、センサの制御方法を決定する。
【0101】
例えば、センサ制御方法決定部150は、入力した信号に基づいて、センサ200aが故障しているか否かを判定する。センサ200aが故障していると判定した場合、センサ制御方法決定部150は、センサ200aを使わないように、センサの制御方法を決定する。
【0102】
あるいは、センサ200bが観測方向を機械式で切り替える機械式レーダである場合、センサ制御方法決定部150は、入力した信号に基づいて、センサ200bの指向方向を取得する。
機械式レーダは、機械制御でセンサを搭載した制御板などの向きを変えて、指向方向を変える。このため、現在の指向方向と指示された指向方向との差異が大きいと、指向方向の変更に時間がかかる。
センサ制御方法決定部150は、センサ200bの現在の指向方向から、指向方向の変更にかかる時間も考慮して、観測に有利なセンサ制御方法を選択する。
目標の情報を継続して観測するには、目標方向に継続してセンサを指向する必要がある。目標は単純に等速直線運動しない可能性がある。高機動目標に対処する場合、観測からセンサの指向までに時間が掛かると、目標の移動可能な範囲が広くなり、センサを目標に指向できる確率が低下する。
センサ指向までの時間が少ないセンサ制御を選択することで、目標方向に継続してセンサを指向し、観測能力の高いセンサシステムを実現できる利点がある。
【0103】
観測状況判定部137は、センサによる観測の有効性(観測状況)を判定する。
【0104】
観測状況判定部137は、目標情報管理部124が記憶した目標情報を入力する。観測状況判定部137は、センサ状況管理部136が記憶したセンサの現在の状況を表わす情報を入力する。
観測状況判定部137は、センサの現在状況と目標の観測情報を比較し、センサの観測の有効性を判定し、センサ制御方法決定部150に出力する。
例えば、レーダでは、ドップラ(目標の接近速度。目標方向の速度成分)が小さくなると観測が不利になる場合がある(このように観測が不利になる目標の機動方法をビーム機動と呼ぶ)。観測状況判定部137は、センサの現在状況と目標の観測情報を比較し、レーダがドップラが0に近い目標を観測するようなケースでは、レーダの観測が不利になる情報を、センサ制御方法決定部150に出力する。
【0105】
このように、センサの現在の状況に応じてセンサの利用方法を変更できる利点がある。
【0106】
電波放射量記録部147は、センサが放射した電波の放射量を記録する。
【0107】
電波放射量記録部147は、センサ制御方法決定部150が出力したセンサの制御方法を表わす情報を入力する。
電波放射量記録部147は、入力したセンサの制御方法に基づいて、センサが放射した電波放射量の情報(放射電力、放射時間など)を算出して記録する。
【0108】
電波放射量記録部147は、目標情報管理部124が記憶した目標情報を入力する。
電波放射量記録部147は、入力した目標情報に基づいて、目標別の電波放射量(放射電力、放射時間など)を算出して記録する。
【0109】
また、電波放射量記録部147は、記録した電波の放射量を積算し、それぞれの目標に対して放射した電波の総放射量や放射時間(総放射時間、放射の間隔、放射からの経過時間など)を算出する。
電波放射量記録部147は、算出した目標別の電波の総放射量や放射時間を表わす情報を出力する。
【0110】
センサ制御方法決定部150は、電波放射量記録部147が出力したそれぞれの目標に対する電波の総放射量や放射時間を表わす情報を入力する。
センサ制御方法決定部150は、入力した情報に基づいて、それぞれの目標に対する電波の総放射量が所定の値を超えないように、センサの制御方法を決定する。
【0111】
電波の総放射量の上限値は、例えば、制御ルール設定・管理部180が記憶したセンサ制御ルールに基づいて、センサ制御方法決定部150が判断する。
なお、センサ制御方法決定部150は、目標情報管理部124が記憶した目標情報に基づいて、目標の識別情報(種類・機種など)を取得し、目標の種類に応じて、電波の総放射量の上限値を変化させてもよい。例えば、パッシブ電波センサを搭載していない種類の目標と判断した場合は、電波の総放射量の上限値を大きくし、あるいは、制限しないこととする。逆に、高感度のパッシブ電波センサを搭載している種類の目標と判断した場合は、電波の総放射量の上限値を小さくする。
これにより、目標に探知される確率を最小限に抑えることができる。
【0112】
なお、目標に対して同じ量の電波を放射したとしても、目標との距離が遠ければ、目標に届く電波は弱くなり、探知される確率は少なくなる。そこで、電波放射量記録部147は、目標との距離を考慮して、目標に届く電波の総量を算出してもよい。
【0113】
この例では、目標別に電波の放射量を制御する例について説明したが、電波放射量記録部147は、目標ごとの電波放射量ではなく、方向ごとの電波放射量を表わす情報を出力し、センサ制御方法決定部150は、それぞれの方向に対する電波の総放射量が所定の値を超えないように、センサの制御方法を決定してもよい。
これにより、例えば、まだ探知できていない目標が存在したとしても、その目標に探知される危険を減らすことができる。また、脅威が存在すると予測する方向への電波放射量を低減することができるという効果を奏する。
【0114】
なお、電波放射量記録部147の代わりに、センサ制御方法決定部150が決定したセンサ制御方法を記録するセンサ制御記録部を設け、センサ制御記録部が記録したセンサ制御方法に基づいて、センサ制御方法決定部150が電波放射量を算出してもよい。
【0115】
図12は、この実施の形態における観測システム800が観測をする目標観測処理の流れの一例を示すフローチャート図である。
なお、実施の形態1で説明した目標観測処理と共通する工程については、同一の符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0116】
報告工程S25において、センサ200aのセンサ制御部230aは、マルチセンサ制御システム100に対してセンサ状況信号を出力し、センサの現在の状況を報告する。
センサ200b・200cでも同様に、センサ制御部230b・230cが、センサ状況信号を出力する。
【0117】
状況把握工程S16において、センサ状況管理部136は、報告工程S25でセンサ200a〜200cが出力したセンサ状況信号を入力する。
センサ状況管理部136は、入力したセンサ状況信号に基づいて、センサ200a〜200cの状況を把握する。
センサ状況管理部136は、把握したセンサ200a〜200cの状況を表わす情報を記憶する。
【0118】
有効性判定工程S17において、観測状況判定部137は、制御方法決定工程S13でセンサ制御方法決定部150が出力したセンサの制御方法を表わす情報と、追尾工程S12で目標情報管理部124が記憶した目標情報と、状況把握工程S16でセンサ状況管理部136が記憶したセンサ200a〜200cの状況を表わす信号とを入力する。
観測状況判定部137は、入力した情報に基づいて、観測の有効性を判定する。
観測状況判定部137は、判定した観測の有効性を表わす情報を出力する。
【0119】
放射量算出工程S18において、電波放射量記録部147は、制御方法決定工程S13でセンサ制御方法決定部150が出力したセンサの制御方法を表わす情報と、追尾工程S12で目標情報管理部124が記憶した目標情報とを入力する。
電波放射量記録部147は、入力した情報に基づいて、目標に対して放射した電波の放射量を算出する。
電波放射量記録部147は、算出した電波の放射量を表わす情報を出力する。
【0120】
制御方法決定工程S13において、センサ制御方法決定部150は、更に、状況把握工程S16でセンサ状況管理部136が記憶したセンサ200a〜200cの状況を表わす情報と、有効性判定工程S17で観測状況判定部137が出力した観測の有効性を表わす情報と、放射量算出工程S18で電波放射量記録部147が出力した電波の放射量を表わす情報とを入力する。
センサ制御方法決定部150は、入力した情報に基づいて、センサの制御方法を決定する。
【0121】
この例では、状況把握工程S16、有効性判定工程S17、放射量算出工程S18の順に実施し、制御方法決定工程S13を実施する例について説明したが、次のような工程で実施することで、個別の効果を得ることもできる。
状況把握工程S16の後に制御方法決定工程S13を実施することにより、センサ状況管理部136を加えた構成で、センサ状況管理部136の効果を得ることができる。
状況把握工程S16、有効性判定工程S17の後に制御方法決定工程S13を実施することにより、センサ状況管理部136と観測状況判定部137を加えた構成で、センサ状況管理部136と観測状況判定部137の効果を得ることができる。
放射量算出工程S18(状況把握工程S16と有効性判定工程S17はなし)の後に制御方法決定工程S13を実施することにより、電波放射量記録部147を加えた構成で、電波放射量記録部147の効果を得ることができる。
【0122】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、センサの現在の状況を考慮してセンサ制御を実施できる利点がある。このため、センサが故障や損傷を受けたときには、対象のセンサを除いたセンサで最適のセンサ制御をできる利点がある。
【0123】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、現在のセンサの観測が有効か否かを考慮してセンサ制御を実施できる利点がある。例えば、レーダのビーム機動等、一時的に観測が不利になる状況下では、他のセンサで観測する等、適切なセンサ制御を行える利点がある。
【0124】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、各目標に対して電波を放射した時間、電力を記録し、その情報を考慮してセンサの制御を実施する。このため、目標に対して被探知性を詳細に考慮したセンサ制御を実施できる利点がある。
【0125】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、更に、電波放射量記録部147を有することを特徴とする。
電波放射量記録部147は、複数のセンサ200a〜200cが目標を観測するために上記目標に対して放射した電波の量を記録することを特徴とする。
センサ制御方法決定部150は、電波放射量記録部147が記録した電波の量に基づいて、上記目標に対して放射する電波の量が所定の値以下となるように、複数のセンサ200a〜200cの制御方法を決定することを特徴とする。
【0126】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100によれば、電波放射量記録部147が記録した電波の量に基づいて、上記目標に対して放射する電波の量が所定の値以下となるよう、センサ制御方法決定部150がセンサ制御方法を決定するので、目標に発見される確率を最小限に抑えることができるという効果を奏する。
【0127】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、更に、観測状況判定部137を有することを特徴とする。
観測状況判定部137は、複数のセンサ200a〜200cによる観測が有効であるか否かを判定することを特徴とする。
センサ制御方法決定部150は、観測状況判定部137が判定した判定結果に基づいて、観測が有効でないセンサを使用しないように、上記複数のセンサの制御方法を決定することを特徴とする。
【0128】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100によれば、観測が有効でないと観測状況判定部137が判定したセンサを使用しないよう、センサ制御方法決定部150がセンサ制御方法を決定するので、センサが故障した場合などであっても、残りのセンサを適切に制御できるという効果を奏する。
以上説明したマルチセンサ制御システム100は、更に、目標に対する電波放射量を記録する電波放射量記録部を有するので、電波放射量による被探知性を考慮したセンサ制御を行える。
【0129】
以上説明したマルチセンサ制御システム100は、更に、センサの制御実施内容を記録するセンサ制御記録部を有するので、過去のセンサ制御を考慮したセンサ制御を行える。
【0130】
以上説明したマルチセンサ制御システム100は、センサの現在の状態を管理するので、センサの現在状態に応じたセンサ制御を実施可能である。
【0131】
実施の形態5.
実施の形態5について説明する。
この実施の形態における観測システム800の全体構成は、実施の形態1で説明したものと同様なので、ここでは説明を省略する。
【0132】
制御ルール設定・管理部180は、連続した時刻に対する時系列のセンサ制御方法を考慮したセンサの制御ルールを記憶する。
単体のセンサの中には、センサの捜索と追尾を時分割で切り替えて観測するような、連続した時刻に対する時系列の制御を実施できるものがある。ただし、複数センサの制御を、事前に設定した時分割の制御手順で制御する機能はない。
例えば、複数の目標に対処しながら、複数領域の捜索を時間の間隔がないように実施するために、センサ200aとセンサ200bを組み合わせて、4周期の捜索と1周期の追尾などを時分割の制御手順として、制御ルール設定・管理部180に登録し、実施することとができる。
【0133】
このように、この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、複数センサに対する制御で、複数の時刻に跨った時系列のセンサ制御を実施するので、センサを時分割で利用できる利点がある。
【0134】
実施の形態6.
実施の形態6について、図13を用いて説明する。
【0135】
図13は、この実施の形態における観測システム800の全体構成の一例を示すブロック構成図である。
なお、実施の形態1で説明した機能ブロックと共通するブロックについては、同一の符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0136】
マルチセンサ制御システム100は、更に、移動体位置姿勢管理部111、移動体運動予測部112、移動体機動制御部115、電波放射量記録部147を有する。
【0137】
この実施の形態において、センサ200a〜200c(または、マルチセンサ制御システム100を含めた観測システム800全体)は、図示していない移動体821に搭載されている。なお、移動体821は、マルチセンサ搭載プラットフォームともいう。マルチセンサ搭載プラットフォームとは、マルチセンサ制御システム100及び各センサ200a〜200cを搭載した移動体のことである。
【0138】
移動体位置姿勢管理部111は、移動体821の位置、速度、向き、姿勢などを観測する。移動体位置姿勢管理部111は、例えば、GPS(Global Positioning System)受信機や、加速度センサ、角速度センサなどを有し、移動体821の位置などを観測する。
移動体位置姿勢管理部111は、観測した移動体821の位置などを表わす情報を出力する。
【0139】
移動体運動予測部112は、移動体位置姿勢管理部111が出力した移動体821の位置などを表わす情報を入力する。
移動体運動予測部112は、移動体機動制御信号を入力する。移動体機動制御信号とは、移動体821の運動を制御する信号である。移動体機動制御信号は、例えば、加速、減速、左旋回、右旋回、上昇、下降などの指示を表わす。移動体制御信号は、例えば、利用者がインタフェース部300などから入力する。あるいは、後述する移動体機動制御部115が出力する。
移動体821は、移動体機動制御信号に基づいて運動し、位置、速度、向き、姿勢などを変化する。移動体821の位置などの変化は、移動体位置姿勢管理部111が観測するが、前もってどのような指示が出ているかを知ることにより、移動体位置姿勢管理部111が観測する前に、予測することができる。
【0140】
移動体運動予測部112は、入力した移動体軌道制御信号に基づいて、入力した情報が表わす移動体821の位置などがどのように変化するかを予測する。具体的には、センサ制御方法決定部150が決定した制御方法に基づいて、センサ200a〜200cが目標を観測する時刻における移動体821の位置などを予測する。
移動体に搭載されたセンサの制御では、移動体自身の姿勢の変化量を補正してセンサを目標に指向する。移動体自身の姿勢の変化量は、移動体位置姿勢管理部111が取得し、センサに送信されるが、この情報伝送にかかる時間により、姿勢変化量の補正計算結果がずれ、センサを目標に指向できない場合がある。
そこで、未来の時刻における移動体821の位置などを予測し、センサ200a〜200cが実際に目標に観測する時刻における移動体821の位置などに基づいてセンサの制御方法を決定したほうが、最適な制御方法を決定できる。
【0141】
移動体運動予測部112は、予測した移動体821の位置などを表わす情報を出力する。
【0142】
センサ制御方法決定部150は、移動体位置姿勢管理部111及び移動体運動予測部112が出力した移動体821の位置などを表わす情報を入力する。移動体位置姿勢管理部111が出力した情報は、現在(または少し過去)において観測した移動体821の位置などを表わす情報である。移動体運動予測部112が出力した情報は、少し未来の時刻について予測した移動体821の位置などを表わす情報である。センサ制御方法決定部150は、現在及び未来の移動体821の位置などを表わす情報を両方入力してもよいし、どちらか一方のみを入力してもよい。
【0143】
センサ制御方法決定部150は、入力した情報が表わす移動体821の位置、速度、向き、姿勢などに基づいて、センサの制御方法を決定する。
例えば、移動体821の向きが変化すれば、目標の方向は同一であっても、その目標の方向を観測できるセンサが変わる場合がある。
センサ制御方法決定部150は、移動体821の位置などを考慮してセンサの制御方法を決定する。これにより、最適なセンサ制御を実施できる。
【0144】
電波放射量記録部147は、センサが放射した電波の放射量を記録する。
電波放射量記録部147は、実施の形態4で説明した電波放射量記録部147と同様であるが、以下の点が異なる。
電波放射量記録部147は、更に、移動体位置姿勢管理部111が出力した移動体821の位置などを表わす情報を入力する。
電波放射量記録部147は、入力した情報に基づいて、目標に対して放射した電波の放射量を算出する。
移動体821の位置、向きなどが変化すれば、方向に対する基準が変化する。したがって、電波放射量記録部147は、移動体821の位置、向きなどを考慮して、電波の放射量を算出し、記録する。
【0145】
センサ制御方法決定部150は、電波放射量記録部147が出力した電波の放射量を表わす情報を入力する。
センサ制御方法決定部150は、入力した情報に基づいて、それぞれの方向に対する電波の放射量が所定の値を超えないように、センサの制御方法を決定する。
【0146】
センサ制御方法決定部150は、更に、移動体制御方法を決定する。移動体制御方法とは、例えば、ある目標地点まで移動するルートが複数ある場合にどのルートを選択するか、移動するときの移動体821の向き、高度など、移動体の運動を制御する方法のことである。
センサ制御方法決定部150は、センサ200a〜200cによる観測が有利になるように、移動体制御方法を決定する。例えば、センサ制御方法決定部150は、ある目標についてある項目を観測したい場合、その項目を観測できるセンサをその目標の方向に向けるよう、移動体制御方法を決定する。
あるいは、センサ制御方法決定部150は、目標との距離が遠すぎて必要な項目が観測できない場合に、その目標に近づいて、観測したい項目を観測できるよう、移動体制御方法を決定する。逆に、目標との距離が近すぎる場合に、目標に発見される危険を小さくするため、センサが観測できるギリギリの距離まで遠ざかるように、移動体制御方法を決定してもよい。
【0147】
センサ制御方法決定部150は、決定した移動体制御方法を表わす情報を出力する。
【0148】
移動体機動制御部115は、センサ制御方法決定部150が出力した移動体制御方法を表わす情報を入力する。
移動体機動制御部115は、入力した情報が表わす移動体制御方法に基づいて、移動体機動制御信号を生成する。
移動体機動制御部115は、生成した移動体機動制御信号を出力する。
移動体機動制御部115が出力した移動体機動制御信号は、移動体821の推進装置や操舵装置が入力し、移動体821の加速、減速、方向転換などが行われる。これにより、移動体機動制御部115は、移動体821の位置、速度、向き、姿勢などを制御する。
【0149】
なお、移動体機動制御部115が生成する移動体機動制御信号は、センサ制御方法決定部150が決定した移動体制御方法に完全に従うものでなくてもよい。例えば、センサ制御方法決定部150が決定した移動体制御方法と異なる操作を利用者(操縦者)がした場合には、インタフェース部300が利用者の操作を入力し、移動体機動制御部115が利用者の操作に従った移動体機動制御信号を生成してもよい。
【0150】
センサ制御方法決定部150が決定した移動体制御方法は、インタフェース部300が表示して、利用者に通知してもよい。利用者はその移動体制御方法に異存がある場合のみ操作を入力し、異存がなければ特に操作をしない。これにより、半自動運転が可能になる。
【0151】
また、移動体制御方法をインタフェース部300が表示するだけに留めてもよい。利用者は、表示された移動体制御方法を参考にして移動方法を決定し、インタフェース部300が入力した利用者の操作に基づいて、移動体機動制御部115が移動体機動制御信号を生成する。
【0152】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、現在の移動体の位置、速度、姿勢等を考慮してセンサ制御を実施できる利点がある。移動体では、自身の姿勢が変化することでセンサの観測可能な領域が変化する。マルチセンサ制御システム100は、移動体に搭載した場合でも適切なセンサ制御を実施できる利点がある。
【0153】
以上説明したマルチセンサ制御システム100は、更に、移動体821の現在の位置・速度・姿勢を管理する移動体位置姿勢管理部111を有するので、移動体の位置・速度・姿勢を考慮したセンサ制御が可能である。
【0154】
以上説明したマルチセンサ制御システム100は、更に、移動体821の将来の位置・速度・姿勢を予測する移動体運動予測部112を有し、予測した移動体821の運動を考慮したセンサ制御が可能である。
【0155】
以上説明したマルチセンサ制御システム100は、更に、センサの観測に有利な移動体821の運動方法を提示し、または自動的に移動する移動体機動制御部115を有するので、移動体821を自動的に操縦し、観測に優位な位置へ移動可能である。
【0156】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、予測した移動体821の位置、速度、向き、姿勢などを考慮してセンサ制御を実施できる利点がある。特に、運動能力の優れた移動体821では、現在のプラットフォーム位置、速度、向き、姿勢に基づいてセンサの制御方法を決定したのでは、センサの制御が遅れる危険がある。このため、予測した位置などに基づいてセンサを制御することが有効である。
【0157】
移動体821は、位置、速度、向き、姿勢などにより、電波を放射する方向が変化する。
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、移動体821に搭載した場合であっても、方位ごとの電波放射量を把握してセンサ制御を実施できる利点がある。
【0158】
また、この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、センサの観測に適した移動方法をセンサ制御方法決定部150が決定し、インタフェース部300が提示することで、移動体の操縦者や指揮者に観測に適した移動方法を通知することができる。
【0159】
更に、この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、センサの観測に適した移動方法をセンサ制御方法決定部150が決定し、移動体機動制御部115が移動体機動制御信号を生成することにより、移動体821の自動運転制御を実施できる利点がある。これにより、移動体821の無人化も可能となる。
【0160】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、更に、移動体位置姿勢管理部111を有することを特徴とする。
移動体位置姿勢管理部111は、複数のセンサ200a〜200cが設置された移動体821の位置及び向きの少なくともいずれかを表わす情報を取得することを特徴とする。
センサ制御方法決定部150は、移動体位置姿勢管理部111が取得した移動体821の位置及び向きの少なくともいずれかを表わす情報に基づいて、複数のセンサ200a〜200cの制御方法を決定することを特徴とする。
【0161】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100によれば、移動体位置姿勢管理部111が取得した移動体821の位置や向きを表わす情報に基づいて、センサ制御方法決定部150がセンサ制御方法を決定するので、移動体821の位置や向きの変化により、センサが観測可能な範囲が変化した場合であっても、適切に制御できるという効果を奏する。
【0162】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、更に、移動体機動制御部115を有することを特徴とする。
センサ制御方法決定部150は、複数のセンサ200a〜200cによる観測が有利になるように、移動体821の位置及び向きの少なくともいずれかを制御する移動体制御方法を決定することを特徴とする。
移動体機動制御部115は、センサ制御方法決定部150が決定した移動体制御方法に基づいて、移動体821の位置及び向きの少なくともいずれかを制御することを特徴とする。
【0163】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100によれば、観測したい方向にセンサを向けられるように移動体821の位置や向きを制御するなど、センサによる観測が有利になるよう、センサ制御方法決定部150が移動体制御方法を決定するので、センサを有効に活用して有利な観測ができるという効果を奏する。
【0164】
実施の形態7.
実施の形態7について、図14〜図18を用いて説明する。
図14は、この実施の形態における観測システム800の全体構成の一例を示すブロック構成図である。
なお、実施の形態1で説明した機能ブロックと共通するブロックについては、同一の符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0165】
データ相関・統合部120は、更に、追尾諸元制御部126を有する。
【0166】
追尾諸元制御部126は、探知データ相関・統合部123が相関・統合・追尾処理をするためのパラメータを制御する。
以下、相関・統合・追尾処理をするためのパラメータの一例を説明するため、追尾処理を実現するアルゴリズムとして、航跡型MHTを用いる場合について説明する。
【0167】
図15は、この実施の形態におけるセンサ200a〜200cの観測部210a〜210cが出力する観測信号と、探知部220a〜220cが出力する探知データとの間の関係の一例を示す図である。
センサの観測(探知部220a〜220cでの探知処理)では、クラッタ(clutter)の探知確率(誤警報確率)を低減し、目標の探知確率だけを高くするため、センサが観測した信号強度に対して、一定のスレッショルド(閾値)以上の観測結果だけを探知データとする。
図15に示すように、この閾値の値を大きくすると、観測される探知データの個数が減少し、誤警報確率が低下するが、目標の探知確率も低下する。一方で、この閾値の値を小さくすると、観測される探知データの個数が増加し、目標の探知確率が高くなるが、誤警報確率も増加する。なお、また、誤警報確率が高い環境で追尾処理を行う場合には、航跡型MHTのような高度な追尾アルゴリズムが有効であることが知られている。
センサの探知処理での閾値では、このようなトレードオフの関係にあるため、このスレッショルドの値は、一般に観測に利用するセンサの諸元と、採用する追尾アルゴリズムを考慮して事前に算出した値を設定する。
これに対して、この実施の形態における探知部220a〜220cでは、このスレッショルドの値(探知閾値)をパラメータとして設定する。各センサの諸元や能力から、探知閾値のパラメータには、デフォルト設定の初期値を設定している。
【0168】
航跡型MHTでは、入力された探知データから航跡を生成する時に、航跡の候補(以下、仮航跡とする)を生成する。生成した仮航跡毎に、観測の状況(探知データと予測位置との差異や探知データの信号強度等)から信頼度を算出して付与する。この信頼度が一定の閾値を越えた時に、システムとして正式な航跡(以下、本航跡)として扱う。仮航跡はアルゴリズム内部で保持されるデータであり、例えば探知データ相関・統合部123から目標情報管理手段に出力されるのは、正式な航跡として認めた本航跡のみになる。
【0169】
航跡型MHTの追尾処理制御用のパラメータには、例えば、新航跡生成パラメータ、航跡維持パラメータなどがある。
新航跡生成パラメータとは、仮航跡を本航跡に格上げする信頼度の閾値を表わすパラメータである。すなわち、仮航跡の信頼度が、新航跡生成パラメータが表わす閾値を超えた場合に、その航跡を本航跡として扱う。新航跡生成パラメータ(閾値)が高いと、本航跡が生成しにくくなり、誤警報により誤った航跡を生成する確率が低くなるが、探知データから本航跡(目標情報)する時間(追尾開始)が遅くなる。一方で、新航跡生成パラメータが低いと、本航跡が生成し易くなり、追尾開始が早くなるが、誤航跡の生成確率も増加する。
【0170】
一般に追尾処理では、一定時間探知データの入力が無くても航跡情報を維持する機能を有している(メモリトラックと呼ばれる)。航跡型MHTでは、一度生成した本航跡の信頼度が一定以下になると、本航跡を削除する。この削除の判定条件となる閾値が、航跡維持パラメータである。
追尾維持パラメータの値を上げると本航跡が削除されやすくなるが、クラッタの影響等で追尾が外れた時に、メモリトラックで間違った位置に情報を提示する時間を短くできる。一方で、追尾維持パラメータの値を下げると本航跡が削除されにくくなり、目標を長い時間継続して追尾できる利点があるが、メモリトラックが長くなる欠点がある。
【0171】
新航跡生成パラメータや追尾維持パラメータは、トレードオフとなるパラメータのため、観測に利用するセンサの諸元等から事前に固定値として設定されることが多い。実施の形態1〜実施の形態6では、パラメータに固定値を設定した場合について説明している。
これに対し、この実施の形態では、追尾諸元制御部126を設け、新航跡生成パラメータや追尾維持パラメータを変更する制御をする。
また、探知データ相関・統合部123は、新航跡生成パラメータや追尾維持パラメータを変更可能なパラメータとして管理している。このパラメータには、デフォルト設定の初期値を設定しておき、追尾諸元制御部126の指示で変更できる。
【0172】
センサ制御方法決定部150は、目標情報が示す観測状況等に基づいて、追尾諸元パラメータを決定する。
追尾諸元制御部126は、センサ制御方法決定部150が決定した追尾諸元パラメータに基づいて、探知データ相関・統合部123が相関・統合・追尾処理をするためのパラメータを制御する。
【0173】
また、センサ制御方法決定部150は、センサの探知閾値を制御するセンサ制御方法を決定する。
ここで、センサの探知閾値とは、探知部220a〜220cが探知データを生成する処理で参照するパラメータのことである。
【0174】
センサ制御方法決定部150が決定したセンサ制御方法に基づいて、制御コマンド発行部190がセンサ制御コマンドを生成し、探知部220a〜200cが探知閾値を、センサ制御部230a〜230cが制御する。
【0175】
次に、追尾諸元制御の具体例について説明する。
【0176】
図16は、この実施の形態における制御ルール設定・管理部180が記憶する制御ルールの一例を示す図である。
【0177】
なお、長距離観測システムや前方の観測システムが観測した結果により、ある方向から観測システム800に近づきつつある目標が存在すること及びその数(目標推測数)が事前情報としてわかっていると仮定する。
【0178】
利用者がインタフェース部300を操作することにより、インタフェース部300がその情報を入力する。センサ制御方法決定部150は、インタフェース部300が入力した情報から、目標推測数を取得する。
【0179】
センサ制御方法決定部150は、制御ルール設定・管理部180が記憶したルールに基づいて、目標推測数と、データ相関・統合部120が生成した本航跡の数とを比較する。
目標推測数のほうが多い場合、センサ制御方法決定部150は、探知閾値を下げるセンサ制御方法を決定する。また、センサ制御方法決定部150は、新航跡生成の閾値を下げる追尾諸元パラメータを決定する。
目標推測数と、生成した本航跡の数とが等しい場合や、生成した本航跡の数のほうが多い場合、センサ制御方法決定部150は、探知データ生成の閾値を上げるセンサ制御方法を決定する。また、センサ制御方法決定部150は、新航跡生成の閾値を上げる追尾諸元パラメータを決定する。
【0180】
初期状態においては、まだ探知データが存在しないので、データ相関・統合部120が生成した本航跡の数は0である。したがって、目標推測数のほうが多い。
この条件では、探知閾値を下げて、目標に対する探知データ取得の確率を上げる。同時に、新航跡生成の閾値を下げて、入力された探知データから本航跡の生成を容易にする制御を行う。これにより、追尾開始を早くすることができる。
センサを搭載したシステムでは、追尾開始により航跡情報を出力した後でのみ、目標に対する制御を実施可能になる場合が多い。追尾開始を早くすることで、センサシステム及びセンサシステムを搭載したシステム全体の能力向上が行える効果がある。
【0181】
次に、追尾開始を早くする制御を実施した後、本航跡の個数が目標推測数に達した状態での制御について説明する。
探知閾値及び新航跡生成の閾値を下げた状態では、クラッタの探知確率が高く、また、本航跡が生成されやすい状態であり、クラッタによる誤航跡を生成しやすい状態である。このため、本航跡の個数が目標推測数に到達した後は、探知閾値及び新航跡生成の閾値を上げて通常の設定値に戻す。
この制御を実施することで、本航跡が目標推測数に到達した後は、クラッタの探知確率を抑制し、かつ、新しい本航跡の生成を抑えることができ、誤航跡の発生を抑えることができる。
【0182】
このように、この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、センサの観測スレッショルドの値(探知閾値)と、新航跡生成の閾値とを、観測条件に応じて同時に連携制御する。これにより、追尾開始を早くし、かつ、誤航跡発生を抑制することができる。この2つの性能要件は、通常トレードオフとなり、一方を改善すると他方が悪くなるものであるが、2つの性能要件の両方を、同時に改善できる効果がある。
【0183】
図17は、この実施の形態における制御ルール設定・管理部180が記憶する制御ルールの別の例を示す図である。
【0184】
図16の例と同様、目標の数があらかじめわかっているものとする。
【0185】
この例において、探知データ相関・統合部123は、センサ200a〜200cから入力した探知データ数の情報も目標情報の一部として、センサ制御方法決定部150へ出力する。
センサ制御方法決定部150は、目標推測数と、センサ200a〜200cから入力した探知データの数とを比較する。
目標推測数が探知データ数より多い場合、センサ制御方法決定部150は、探知データ生成の閾値を下げるセンサ制御方法を決定する。また、センサ制御方法決定部150は、新航跡生成の閾値を上げる追尾諸元制御方法を決定する。
探知データ数が目標推測数より多い場合、センサ制御方法決定部150は、探知データ生成の閾値を上げるセンサ制御方法を決定する。また、センサ制御方法決定部150は、新航跡生成の閾値を下げる追尾諸元制御方法を決定する。
【0186】
探知データ数が目標推測数より少ない場合には、目標の観測が困難な状況になっている可能性が高く、このような状況に対応して、探知条件を緩和して、目標の探知確率を高くし、かつ、本航跡の生成を容易にして追尾開始を早くできる効果がある。
【0187】
探知データの数が目標推測数より多い場合には、センサが誤警報を探知している可能性が高く、このような状況に対応して、探知条件を厳しくして誤警報の探知確率を抑制でき、かつ、誤航跡の生成を抑制できる制御を実施できる効果がある。
【0188】
なお、目標推測数は、利用者がインタフェース部300を操作して入力するのではなく、マルチセンサ制御システム100及びセンサ200a〜200cで取得可能な内部情報から目標推測数を算出してもよい。このような制御を実施しても、同様の効果を得ることができる。
目標推測数の算出方法としては、センサ200a〜200cで同時に探知した目標の個数や、目標推測数用にセンサの探知閾値を設定し、設定値を超えた目標の観測数を利用する方法がある。また、今回の制御に関与しない他のセンサが出力した対象の方位の航跡数を目標推測数に設定する方法などがある。
【0189】
図18は、この実施の形態における制御ルール設定・管理部180が記憶する制御ルールの更に別の例を示す図である。
【0190】
この例では、データ相関・統合部120が生成した目標情報を用いて、被誘導物体を、誘導目標である目標の位置まで誘導している状況について説明する。
【0191】
センサ制御方法決定部150は、制御ルール設定・管理部180が記憶した制御ルールに基づいて、誘導目標に対応した本航跡の信頼度と、追尾維持パラメータが表わす閾値とを比較する。
誘導目標の航跡の信頼度が低下し、追尾維持パラメータの閾値に近づいた場合、センサ制御方法決定部150は、追尾維持パラメータの閾値を低下させ、かつ、探知閾値も低下させる制御を決定する。
追尾維持パラメータの閾値と探知閾値とを低下させたのち、誘導目標の航跡の信頼度が高くなり、当初設定していた追尾維持パラメータの閾値より十分大きくなった場合には、センサ制御方法決定部150は、追尾維持パラメータの閾値及び探知閾値を上げて元に戻す。
【0192】
被誘導物体を、誘導目標である目標の位置まで誘導している状況において、追尾を維持できないと、誘導も継続できない。特に、被誘導物体が飛行物体である場合、目標を見失ったからといって一時停止することはできないので、追尾を維持することが重要である。
そこで、誘導目標の航跡の信頼度が低下し、追尾維持パラメータの閾値に近づいた場合には、追尾維持パラメータの閾値を低下させ、本航跡を削除されにくくして、追尾の維持に努める。同時に、探知閾値も低下させて探知確率を上げ、追尾を維持するとともに、誘導目標の航跡に対する信頼度の回復を図る。
【0193】
これにより、追尾を維持することができるので、被誘導物体を誘導することができる。その一方、追尾維持パラメータの閾値を低下させると、メモリトラックにより本航跡を維持する確率が上がり、誤った目標を追尾し続けるリスクがある。
【0194】
そこで、追尾維持パラメータの閾値及び探知閾値を低下させたのち、誘導目標の航跡の信頼度が高くなり、当初設定していた追尾維持パラメータの閾値より十分大きくなった場合には、追尾維持パラメータの閾値を上げて元に戻す制御を実施してメモリトラックによる誤った目標を追尾し続けるリスクを低減させる。また、誘導目標に対する観測条件も改善したと考えられるため、探知閾値を上げて元に戻す制御を実施して、クラッタの観測を抑制する制御を実施する。
【0195】
このように、この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、センサの観測スレッショルドの値(探知閾値)と、追尾維持の閾値とを、観測条件に応じて同時に連携制御する。これにより、追尾を維持し、かつ、誤目標に対するメモリトラックの時間を短くすることができる。この2つの性能要件は、通常トレードオフとなり、一方を改善すると他方が悪くなるものであるが、2つの性能要件の両方を、同時に改善できる効果がある。
【0196】
このように、センサ制御方法決定部150が、センサの探知閾値を制御する制御方法を決定することにより、状況に応じた観測が可能になる。
また、センサ制御方法決定部150は、データ相関・統合部120が目標の位置などの状態を推定するためのパラメータを決定することにより、状況に応じた観測が可能になる。
更に、センサ制御方法決定部150が、センサの感度を制御する制御方法と、データ相関・統合部120が目標の位置などの状態を推定するためのパラメータとを、関連づけて決定することにより、更に状況に最適な観測が可能になる。
【0197】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、以下の点を特徴とする。
センサ制御方法決定部150は、複数のセンサ200a〜200cがそれぞれ有する観測の閾値を制御する制御方法を決定し、決定した制御方法により制御される複数のセンサ200a〜200cの観測の閾値に基づいて、データ相関・統合部120が相関・統合するためのパラメータ(新航跡生成パラメータ・追尾維持パラメータ)を決定することを特徴とする。
データ相関・統合部120は、センサ制御方法決定部150が決定したパラメータに基づいて、複数のセンサ200a〜200cから入力した複数の観測データを相関・統合することを特徴とする。
【0198】
この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100によれば、センサ制御方法決定部150が複数のセンサ200a〜200cの観測の閾値を制御する制御方法を決定し、それにしたがって、データ相関・統合部120が相関・統合するためのパラメータ(新航跡生成パラメータ・追尾維持パラメータ)を決定するので、状況に応じた最適のセンサ制御をすることができるという効果を奏する。
以上説明したマルチセンサ制御システム100は、センサの閾値と、追尾処理のパラメータを同時に制御可能である。
【0199】
実施の形態8.
実施の形態8について、図19を用いて説明する。
【0200】
図19は、この実施の形態における観測システム800の全体構成の一例を示すブロック構成図である。
なお、実施の形態1で説明した観測システム800の機能ブロックと共通するブロックについては、同一の符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0201】
マルチセンサ制御システム100は、更に、情報送受信部127を有する。
情報送受信部127は、通信装置915を用いて、他の観測システム800や基地局との間でデータの送受信をする。
【0202】
情報送受信部127は、例えば、他の観測システム800のセンサが出力した探知データを、他の観測システム800や基地局から受信する。情報送受信部127は、受信した探知データを出力する。情報送受信部127が出力した探知データは、探知データ相関・統合部123が入力する。探知データ相関・統合部123は、入力した探知データを、センサ200a〜200cから入力した探知データと同様に取り扱い、両者を合わせて相関・統合処理をする。
あるいは、情報送受信部127は、センサ200a〜200cが出力した探知データを入力し、他の観測システム800や基地局に対して送信する。
【0203】
また、情報送受信部127は、他の観測システム800が生成した目標情報を、他の観測システム800や基地局から受信する。情報送受信部127は、受信した目標情報を出力する。情報送受信部127が出力した目標情報は、目標情報管理部124が入力する。目標情報管理部124は、入力した目標情報を、探知データ相関・統合部123から入力した目標情報と同様に取り扱い、両者をともに管理する。
あるいは、情報送受信部127は、目標情報管理部124が管理する目標情報のうち、探知データ相関・統合部123が生成した目標情報を入力し、他の観測システム800や基地局に対して送信する。
【0204】
このように、この実施の形態におけるマルチセンサ制御システム100は、センサの観測情報を通信機能を使って外部に送付する。また、通信機能により、外部で観測した情報を入力し、センサ制御に利用する。
【0205】
あるいは、情報送受信部127は、他の観測システム800が生成した追尾データを受信してもよい。その場合、情報送受信部127が受信した追尾データを、実施の形態3で説明した航跡相関・統合部125が入力し、目標情報を生成する。
【0206】
これにより、外部からの入力される観測情報が追尾データであっても同様の効果を発揮できる。
あるいは、情報送受信部127は、基地局が決定したセンサ制御方法を表わす情報を受信してもよい。その場合、情報送受信部127が受信したセンサ制御方法を表わす情報を、センサ制御方法決定部150が入力する。センサ制御方法決定部150は、情報送受信部127がセンサ制御方法を受信した場合には、基地局の指示にしたがってセンサ制御方法を決定し、情報送受信部127がセンサ制御方法を受信しなかった場合には、独自にセンサ制御方法を決定する。
【0207】
これにより、外部からのセンサ制御指示にしたがって、センサを制御することができる。
【0208】
このように、観測システム800が複数ある場合、情報送受信部127が他の観測システム800や基地局とデータを送受信することにより、複数の観測システム800が有するすべてのセンサが観測したデータを総合して、センサ制御方法を決定し、最適な観測をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0209】
【図1】実施の形態1における観測システム800の全体構成の一例のを示すシステム構成図。
【図2】実施の形態1における探知データ相関・統合部123が生成する目標情報の一例を示す図。
【図3】実施の形態1における運用レベル設定・管理部160が記憶する判断条件と観測精度との関係の一例を示す図。
【図4】実施の形態1におけるセンサ情報設定・管理部170が記憶するセンサの能力及び実施可能な制御を表わす情報の一例を示す図。
【図5】実施の形態1におけるセンサ制御ルールの一部であるセンサ制御モードの一例を示す図。
【図6】実施の形態1における制御ルール設定・管理部180が記憶するセンサ制御ルールの一例を示す図。
【図7】実施の形態1における観測システム800が観測をする目標観測処理の流れの一例を示すフローチャート図。
【図8】実施の形態2におけるセンサ200a〜200cの配置の一例を示す図。
【図9】実施の形態3における観測システム800の全体構成の一例を示すブロック構成図。
【図10】実施の形態3における観測システム800が観測をする目標観測処理の流れの一例を示すフローチャート図。
【図11】実施の形態4における観測システム800の全体構成の一例を示すブロック構成図。
【図12】実施の形態4における観測システム800が観測をする目標観測処理の流れの一例を示すフローチャート図。
【図13】実施の形態6における観測システム800の全体構成の一例を示すブロック構成図。
【図14】実施の形態7における観測システム800の全体構成の一例を示すブロック構成図。
【図15】実施の形態7におけるセンサ200a〜200cの観測部210a〜210cが出力する観測信号と、探知部220a〜220cが出力する探知データとの間の関係の一例を示す図。
【図16】実施の形態7における制御ルール設定・管理部180が記憶する制御ルールの一例を示す図である。
【図17】実施の形態7における制御ルール設定・管理部180が記憶する制御ルールの別の例を示す図。
【図18】実施の形態7における制御ルール設定・管理部180が記憶する制御ルールの更に別の例を示す図。
【図19】実施の形態8における観測システム800の全体構成の一例を示すブロック構成図。
【符号の説明】
【0210】
100 マルチセンサ制御システム、111 移動体位置姿勢管理部、112 移動体運動予測部、115 移動体機動制御部、120 データ相関・統合部、123 探知データ相関・統合部、124 目標情報管理部、125 航跡相関・統合部、126 追尾諸元制御部、127 情報送受信部、136 センサ状況管理部、137 観測状況判定部、147 電波放射量記録部、150 センサ制御方法決定部、160 運用レベル設定・管理部、170 センサ情報設定・管理部、180 制御ルール設定・管理部、190 制御コマンド発行部、200a〜200c センサ、210a〜210c 観測部、220a〜220c 探知部、230a〜230c センサ制御部、240a〜240c 追尾部、300 インタフェース部、511〜516 探知データ、520〜526 目標情報、611〜614 閾値、800 観測システム、821 移動体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ相関・統合部と、センサ情報設定・管理部と、運用レベル設定・管理部と、制御ルール設定・管理部と、センサ制御方法決定部と、制御コマンド発行部とを有し、
上記データ相関・統合部は、複数のセンサから目標物の観測データを入力し、入力した複数の観測データを相関・統合して目標情報を生成し、
上記センサ情報設定・管理部は、上記複数のセンサの能力及び実施可能な制御を表わす情報を記憶し、
上記運用レベル設定・管理部は、運用要求を基準に必要な観測精度を求めるための判断条件を表わす情報を記憶し、
上記制御ルール設定・管理部は、上記複数のセンサの制御方法を決定するためのルールを表わす情報を記憶し、
上記センサ制御方法決定部は、上記データ相関・統合部が生成した目標情報と、上記センサ情報設定・管理部が記憶した上記複数のセンサの能力及び実施可能な制御を表わす情報と、上記運用レベル設定・管理部が記憶した上記判断条件を表わす情報と、上記制御ルール設定・管理部が記憶した上記複数のセンサの制御方法を決定するためのルールとに基づいて、上記複数のセンサの制御方法を決定し、
上記制御コマンド発行部は、上記センサ制御方法決定部が決定した制御方法に基づいて、上記複数のセンサに対して、センサ制御コマンドを出力する
ことを特徴とするマルチセンサ制御システム。
【請求項2】
上記マルチセンサ制御システムは、更に、電波放射量記録部を有し、
上記電波放射量記録部は、放射した電波の量を記録し、
上記センサ制御方法決定部は、上記電波放射量記録部が記録した電波の量に基づいて、上記複数のセンサの制御方法を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチセンサ制御システム。
【請求項3】
上記マルチセンサ制御システムは、更に、センサ制御記録部を有し、
上記センサ制御記録部は、上記センサ制御方法決定部が決定した上記複数のセンサの制御方法を記録し、
上記センサ制御方法決定部は、上記センサ制御記録部が記録した過去の制御方法に基づいて、上記複数のセンサの制御方法を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチセンサ制御システム。
【請求項4】
上記制御ルール設定・管理部は、上記複数のセンサの時系列の制御方法を決定するためのルー路を表わす情報を記憶し、
上記センサ制御方法決定部は、上記制御ルール設定・管理部が記憶した上記複数のセンサの時系列の制御方法を決定するためのルールに基づいて、上記複数のセンサの制御方法を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチセンサ制御システム。
【請求項5】
上記マルチセンサ制御システムは、更に、移動体位置姿勢管理部を有し、
上記移動体位置姿勢管理部は、上記複数のセンサが設置された移動体の位置及び速度及び姿勢を表わす情報を取得し、
上記センサ制御方法決定部は、上記移動体位置姿勢管理部が取得した上記移動体の位置及び速度及び姿勢を表わす情報に基づいて、上記複数のセンサの制御方法を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチセンサ制御システム。
【請求項6】
上記マルチセンサ制御システムは、更に、観測状況判定部を有し、
上記観測状況判定部は、上記複数のセンサによる観測状況を判定し、
上記センサ制御方法決定部は、上記観測状況判定部が判定した判定結果に基づいて、観測が有利になるように、上記複数のセンサの制御方法を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチセンサ制御システム。
【請求項7】
上記センサ制御方法決定部は、上記複数のセンサがそれぞれ有する観測の閾値を制御する制御方法を決定し、決定した制御方法により制御される複数のセンサの観測の閾値に基づいて、上記データ相関・統合部が相関・統合するためのパラメータを決定し、
上記データ相関・統合部は、上記センサ制御方法決定部が決定したパラメータに基づいて、上記複数のセンサから入力した複数の観測データを相関・統合する
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチセンサ制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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