説明

マルチソース型のプラズマ集束イオン・ビーム・システム

本発明は、複数ガス源を備え、異なるイオン種を用いて多様な操作を実行して、加工物のサブミクロンのフィーチャを生成するかまたは変えるのに用いることのできるプラズマ・イオン・ビーム・システムを提供する。係るシステムは、本発明では、プローブ形成光学素子と組み合わせて多様なイオンのイオン・ビームを発生させるために使用するのに適し、ビーム源によって誘起される運動エネルギーの振動が実質的に生じず、これによって高分解能ビームが形成される、誘導結合型磁気増幅イオン・ビーム源を使用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン・ビーム・システムの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ガリウム液体金属イオン源(LMIS)を用いる典型的な集束イオン・ビーム(FIB)システムは5乃至7ナノメートルの位置分解能(lateral resolution)を提供することができる。このようなシステムはミクロスケールからナノスケールまでの材料の特性評価および処理に幅広く利用されている。ガリウムLMISは典型的には、ガリウムの層で被覆された鋭い針を備えている。この針は、イオン源からイオンを抽出するために電場が印加されている間は、高温に維持されてもよい。
【0003】
ガリウムLMISを備えるFIBシステムは、撮像、ミリング、堆積、および高精度分析の能力があるため、多くの用途に使用されている。ミリングまたは微細機械加工には、表面または表面近傍のバルク材料を除去することを伴う。ミリングはスパッタリングと呼ばれるプロセスにおいてはエッチング支援ガスなしで行うこともできるし、化学的支援イオン・ビーム・エッチングと呼ばれるプロセスにおいてはエッチング支援ガスを用いて行うこともできる。本発明の譲受人に譲渡された米国特許第5,188,705号明細書は化学的支援イオン・ビーム・エッチング法を記載している。化学的支援イオン・ビーム・エッチングでは、エッチング強化ガスがイオン・ビームの存在下で反応して、表面材料と結合して揮発性化合物を形成する。FIB堆積では、有機金属化合物などの前駆体ガスがイオン・ビームの存在下で分解して、材料をターゲット表面上に堆積させる。
【0004】
イオン・ビーム支援型の堆積およびエッチングでは、ガスが試料表面上に吸着され、イオン・ビームの存在下で反応する。材料の除去または堆積の速度は、ターゲット表面に衝突するイオンの数、ガス分子が表面によって吸着される速度、および各イオンによって除去または堆積される原子の数に左右される。
【0005】
上記プロセスのいずれにおいても、ビームにおけるガリウム・イオンの機能は、スパッタリングの際に加工物上の粒子を移動させるか、表面に付着した分子の化学反応を活性化させるために、エネルギーを与えることである。ガリウム自体は典型的には、その反応には関与しない。ガリウムは、融点、イオン化エネルギー、および質量といったその特性により、狭いビームを形成して一般に使用される加工物材料と相互作用するのに適したものになるので、ビームにおいて使用される。
【0006】
LMISを用いることには欠点がある。化学的支援エッチングまたは堆積に関しては、ガリウム自体は反応のためのエネルギーを提供するだけで、他の方法では関与しないので、反応速度は反応分子の吸着速度によって制限される。例えば、FIB堆積では、イオン・ビームがあるポイントに長く滞留し過ぎる場合、吸着されたガス分子はすべて分解され、堆積するというよりは、エッチングを開始する。ミリングまたは堆積させる場合、イオン・ビームは通常、矩形上をラスター・パターンで繰り返し走査される。ビームが走査を終了すると、新たな走査を開始する前に追加のガス分子を表面上に吸着させる時間を提供するために、ビームは典型的には、次の走査を開始する前にかなりの時間遅延させられる。これにより加工時間が長くなる。
【0007】
また、ガリウム原子は加工物に注入され、多数の用途では、加工物の不伝導性または電気特性を変化させるなどの望ましくない悪影響を生じる。ガリウムは衝突領域の結晶構造を破壊することもある。LMISから放出されるイオンのタイプは容易に変更することはできず、このことは、異なるプロセスには異なるイオン種が好ましいことがあるため、不利である。イオン種を変更するには、真空チャンバからイオン源を除去し、異なるイオン源と交換しなければならず、これには時間を要する準備手順を経なければならない。また、非常に狭いビームを発生させるには、LMISからのビームの電流を比較的低く保たねばならず、これはエッチング速度が遅くなり、加工時間が長くなることを意味する。
【0008】
ガリウム原子のビームとは異なり、半導体製造に使用されるプラズマ・エッチング・システムは典型的には、プラズマ中のイオンを用いて、加工物と化学的に反応する。しかし、このようなシステムは典型的には、ウエハの表面全体に亘って反応性プラズマを提供するが、微細なフィーチャを局所的にエッチングしたり、堆積させたりするためには使用されない。
【0009】
イオン・ビームを形成するためにプラズマ・イオン源が用いられてきたが、そういったビームは典型的には、プラズマ・イオン源からのビームは、有用なビーム電流を維持しながら微細なスポットに集束させるのが困難であるので、加工物上に微細なフィーチャをミリングまたは堆積させるのには使用されない。このようなビームは典型的には、透過型電子顕微鏡で観察するための薄い試料などの大きな領域を広くエッチングするため、または例えば二次イオン質量分析のために低ビーム電流で小さなスポット・サイズを発生させるために使用されてきた。また、そういったプラズマ源は特定のタイプのガスに限定され、そういったプラズマ源の寿命は、プラズマが陰極を腐食させるので、いくつかのガスに対しては比較的短い。
【0010】
「Magnetically enhanced,inductively coupled plasma source for a focused ion beam system」に対する米国特許出願公開第2005/0183667号明細書に記載されている磁気増幅誘導結合プラズマ・イオン源を用いて、比較的大きなビーム電流の微細な集束イオン・ビームを発生することができ、これによってガリウムLMISシステムの問題の多くが克服される。米国特許出願公開第2005/0183667号明細書は単一のイオン種を用いるシステムを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,188,705号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0183667号明細書
【特許文献3】米国特許第6,838,380号明細書
【特許文献4】米国特許出願第10/988,745号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0183667号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
イオン源を交換しなくても、ミリング、エッチング、堆積および撮像などの試料の異なる加工を実行するために異なるイオン種のガスをユーザが選択的に提供できるようにするシステムの必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態は、加工物上で多様な荷電粒子ビーム操作を実行する方法および装置を提供し、加工物上で操作するために異なるタイプの荷電粒子を単一システムにおいて使用する方法を提供する。本発明は異なるイオン種を順次または同時に用いて加工物上で種々のプロセスを実行するのを容易にする。異なるプロセスがその特定のプロセスに最も適した荷電粒子種を用いて実行可能である。
【0014】
例えば、不活性イオン種を用いて、エッチング強化ガスまたは基板上に吸着された堆積前駆体ガスをスパッタリングまたは活性化することができる。別の例では、荷電粒子ビーム自体がエッチング強化ガスまたは堆積前駆体ガスを含むことができ、これにより、1つの種のビームを用いて、ガス注入システムを通して導入される化合物のための活性化エネルギーを提供する必要がなくなる。さらに別の例では、ビーム種は直接堆積される材料を含むことができる。
【0015】
好適なシステムは、磁気増幅誘導結合プラズマ・イオン源を使用する。このイオン源は小さなスポットに集束させることができるとともに、異なるガスをイオン源に入れることによって多様なイオン種のビームを提供することができる高輝度ビームを提供する。
【0016】
上記は以下の本発明の詳細な記載をよりよく理解するために、本発明の特徴および技術的利点を大まかに示したものである。本発明の追加の特徴および利点は以降に記載される。本発明の多くの有益な目的を実施するため、本願に示した概念および特定の実施例を基本として使用して、他の構造に変更したり、設計したりすることが容易にできることは、当業者には明らかであることに留意されたい。また、そのような同等の構成が、添付の特許請求の範囲に記載の本発明の精神および範囲から逸脱しないことは、当業者には明らかであることにも留意されたい。
【0017】
本発明ならびにその利点をさらに完全に理解するために、添付図面に関連してなされた以下の説明をここで参照する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】マルチソース型のRF励起型プラズマ・イオン・チャンバを示す略図である。
【図1B】RF励起型イオン・プラズマ源の一実施形態を示す図である。
【図2】プラズマへの電力伝達を調節するための回路を示す図である。
【図3】集束イオン・ビーム・システムの一実施形態を示す図である。
【図3B】LMISおよび磁気誘導プラズマ・イオン源の性能を示すグラフである。
【図4】マルチソース型磁気誘導イオン・ビーム・システムを用いてミリングおよび堆積するプロセスの一実施形態を示すフロー・チャートである。
【図5】有機金属イオン種を用いてミリングおよび堆積するプロセスの一実施形態を示すフロー・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下は添付図面に示した本発明の例示の実施形態の詳細な説明である。この例示の実施形態は、本発明を明確に伝えるように詳細なものである。しかし、提供される詳細は予期される実施形態の変更を制限しようとするものではない。逆に、添付の特許請求の範囲によって定められた本発明の精神および範囲内に入るすべての変形、同等物、および代替物を包含することを意図している。以下の詳細な説明はそのような実施形態を当業者に明白にしようとするものである。
【0020】
本発明の実施形態は荷電粒子ビームを用いたサブミクロンのフィーチャの加工を提供する。好適な実施形態では、真空チャンバから加工物を取り出さず、またイオン源(ソース)、すなわちプラズマ・チャンバを変更しなくても、異なるイオン種のサブミクロンのビームを用いて比較的高い電流を使用して加工物を順次加工することができる。このイオン種は異なるガスをイオン源に供給することによって変更される。好適な実施形態は異なるタイプの加工のために多様なイオン種を提供することができる。例えば、キセノンまたはヘリウムなどの不活性イオンを用いて、スパッタリングしたり、ヨウ素、塩素、またはニフッ化キセノンなどのエッチング強化ガスを活性化したりすることができる。エッチング強化ガスは典型的にはイオン・ビーム源とは別個のガス注入システムによって真空チャンバに導入される。
【0021】
不活性イオン種を用いて、イオン・ビームの存在下で分解する堆積前駆体ガスを活性化させて導体または絶縁体などの材料を加工物上に堆積させることもできる。不活性イオン種を用いれば、この堆積させた材料および加工物にイオンを注入することによって生じる汚染をなくすことができる。オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラブトキシシランSi(OC49)、六フッ化タングステン(WF6)、ならびにタングステンヘキサカルボニル(W(CO)6)およびC717Ptなどの有機金属化合物など、多数の堆積前駆体ガスが知られている。
【0022】
実施形態は上記のようなエッチング強化ガスまたは堆積前駆体ガスをイオン源に供給して、単独でまたは不活性ガスなどの他のガスと併用して、ビームを形成することもできる。エッチング強化ガスまたは堆積前駆体ガスをイオン種としてビームにおいて用いれば、ガス注入システムを通して1種のガスを導入しなくてもよいし、イオン・ビームによって吸着されたガス分子を排気するという問題もなくなる。
【0023】
実施形態は、ビーム中の材料を用いて加工物を吹付け塗装するのと同様、堆積すべき材料を含むビーム中のイオン種を用いることもできる。例えば、カーボン60(C60)のビームを用いて、炭素を堆積させるか、フォトリソグラフィ・マスクの一部を不透明にするか、保護層を表面上に提供することができる。イオン・ビームは異なる種の混合物を含むことも考えられる。例えば、金属堆積前駆体ガスと絶縁前駆体ガス源とを一緒に用いて、本発明の譲受人に譲渡された「Fabrication of High Resistivity Structures using Focused Ion Beams」に対するBassomらの米国特許第6,838,380号明細書に記載されているような高抵抗性材料を堆積させるビームを提供することができる。
【0024】
本発明は、イオン源を除去せず、真空チャンバを大気に曝露せず、また新たなイオン源を再設置しなくてもイオン種を変更することを可能にすることによって、マルチステップ加工を容易にする。このため、例えば、係るシステムを用いて、エッチング、撮像、堆積、撮像およびエッチングを順番に行うことができる。これらのステップは任意の好ましい順序で実行可能である。イオン種は、イオン源に投入されるガスを切り替えるだけで変更することができる。真空ポンプがプラズマ・チャンバおよび試料チャンバ内に先に存在しているイオン種の残りの量を排出することができる。好適な実施形態では、異なるイオン種を用いる多様な加工ステップのために、加工物は試料チャンバ内に留まることができる。いくつかの実施形態は、例えば電子顕微鏡、電子ビーム支援エッチング、または電子ビーム支援堆積のために、電子ビーム加工も可能にする。
【0025】
マルチステップ加工には、例えば、ガス注入システムを通して運ばれた、またはビーム中にあった前駆体ガスと共に第1の不活性イオン種を用いて、保護または伝導性層で材料を被覆するステップ、ガス注入システムを用いて導入されたか、イオン・ビーム中に存在するエッチング強化ガスと共に第2のより重い不活性イオン種を用いて加工物に溝をミリングして断面を露出させるステップ、および軽い不活性原子または電子のビームを用い、走査型イオン顕微鏡法を用いて露出断面の像を形成するステップを含んでもよい。より重い不活性イオン種をビームにおいて用いて、表面をスパッタリングして二次イオン質量分析を実行し、表面組成を決定することができる。
【0026】
本発明の好適な一方法によれば、RF励起型インピーダンス整合プラズマ・チャンバが複数の使用可能なガス源の1つまたは複数からガスを受け取り、チャンバからイオン・ビームを抽出する。イオンを基板に注入して、AsH3、PH3およびBF3などのガスを用いてその電気的特性を変えることもできる。係る方法は、第1の操作を行うための第1のガスを導入およびイオン化するステップと、第1のガスのイオン化粒子から形成されたビームを用いて第1の操作を実行するステップとをさらに含む。次いで、試料を保持するチャンバから第1のガスおよびイオン化粒子が実質的に真空排気され、第2の操作のための第2のガスが導入され、イオン化される。
【0027】
別の実施形態は、プラズマ・チャンバに選択的に結合される複数の異なるガス源を提供するステップを含む。複数のガスの1つが第1のプロセスのためにプラズマ・チャンバに選択的に提供され、次いで後続のプロセスのために、別のガスがプラズマ・チャンバに選択的に提供される。チャンバ内の選択されたガスにエネルギーを結合するアンテナに高周波(RF)源が印加され、ガスのイオン化を誘起してイオン・プラズマを発生させる。プラズマ電位の変調を低減させるためにRF源をアンテナに結合する回路が設けられる。抽出機構がアンテナ近傍の抽出領域からイオン化ビームを抽出する。
【0028】
別の実施形態は、異なるイオン種を含んだビームを用いて加工物を処理するイオン・ビーム・システムである。この実施形態はプラズマ・チャンバ周囲に位置決めされ、プラズマ・チャンバ内のガスをイオン化するように励起される螺旋アンテナからの電場に提供されたガスを含む。アンテナを含んだネットワーク内の回路が、励起源をアンテナとインピーダンス整合させる。抽出機構が試料上に誘導されるイオン化ビームを抽出する。第1の加工操作のために第1のガスがイオン・チャンバに選択的に導入され、次いで、第2の操作のために第2のガスがイオン・チャンバに選択的に導入される。
【0029】
本発明の好適な実施形態は、プローブ形成光学素子と共に使用しイオン・ビームを生成するのに適した、マルチソース型の誘導結合型磁気増幅イオン・ビーム源を含み、このビーム源によって誘起される運動エネルギーの振動が実質的に生じない。プローブ形成光学素子との使用に適する誘導結合型磁気増幅イオン・ビーム源用を使用することの多数の利点の1つは、真空チャンバから試料を取り出さなくても、またイオン源を交換しなくても、異なる目的のために異なるイオン種を適用できることである。多数の利点のうちの別の利点は、ガスのイオン化用の陰極源と比較して、本発明の装置の寿命が比較的長いことである。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態の別の利点は、ガス注入システムを通して試料真空チャンバに導入された前駆体ガスの反応を誘起するだけのためにビームを用いることとは対照的に、直接堆積のために異なるイオン種を用いて実現可能な速い堆積速度を実現できることである。本発明のいくつかの実施形態の別の利点は、前駆体ガスまたはエッチング強化ガスをガス注入システムを通して試料真空チャンバに導入することとは対照的に、イオン・ビーム自体の前駆体ガスまたはエッチング強化ガスを用いて実現可能な高い堆積速度またはエッチング速度である。本発明のいくつかの実施形態の別の利点は、金属イオンを用いた場合とは対照的に、ガス注入システムを通して導入される前駆体ガスまたはエッチング強化ガスと一緒に不活性イオンのビームを用いるときに、汚染が低減または除去されることである。本発明のいくつかの実施形態の別の利点は、加工物表面近傍の材料を取り除くことが望まれるときには比較的重いイオン種など、あるいはビームが加工物のさらに深くまで貫通することが望ましい場合には軽いイオン種など、加工のために適した質量のイオン種を選択できることである。その他の利点は以下の説明から明らかとなろう。
【0031】
種々の実施形態では、加工操作には、例えば、堆積、ミリング、撮像、分析、注入、または他の操作が含まれ得る。ビームは、例えば、加工物材料と化学的に相互作用するイオン、スパッタリングまたは化学反応の誘起のためにエネルギーを提供するイオン、またはこれら両方のイオンから構成することができる。本明細書で用いられる場合、「ガス」とは異なる化合物の混合物を含むことがあり、単一の分子種または原子種に限定されるものではない。このイオン・ビームは、例えば、不活性ガス、分解して材料を堆積させる前駆体、直接堆積されるべき材料、加工物表面材料と結合して、真空ポンプによってシステムから除去される揮発性化合物を形成する反応性材料、加工物表面材料と結合して、酸化物もしくは窒化物など表面に残存する不揮発性化合物を形成する反応性材料、または他のイオン種の組み合わせを含むことができる。
【0032】
図1Aはマルチソース型のRF励起型プラズマ・イオン・チャンバの略図を示す。セラミック・プラズマ・イオン・チャンバ100にはコイル102が巻き付けられている。コイルはRF源(図1Aには示さず)によって励起される。セラミック・プラズマ・イオン・チャンバ100は一端に開口電極104を有するシリンダである。開口電極104はセラミック・プラズマ・イオン・チャンバ100のシリンダ軸に中心がある開口を示す。イオン・ビームは、電極104の開口を通ってセラミック・プラズマ・イオン・チャンバ100を出て、イオン・ビーム集束カラム106を通過し、偏向可能な集束イオン・ビーム108が生成される。
【0033】
セラミック・プラズマ・イオン・チャンバ100は、バルブ109を通して複数の供給源110、112、114のうちの1つまたは複数からガスを受け取る。供給源は、キセノン(Xe)もしくはヘリウム(He)などの不活性ガス、酸素(O2)などの反応性ガス、または前述のような前駆体ガスもしくはエッチング強化ガスを含むことができる。供給源からの複数の異なるガスの各々を順次または組み合わせて選択するために、バルブ109を設けることができる。したがって、ミリングまたはエッチングのためにあるイオン種を選択し、堆積のために第2の異なるイオン種を選択することができる。
【0034】
例えば、スパッタリングのためのXeなどのガスを最初に導入することができる。このXeガスはセラミック・プラズマ・イオン・チャンバ100内でイオン化され、イオン化されたXeビームが形成される。スパッタリングはイオン化されたXe原子がミリングされる基板と衝突するときに起こる。ミリングが終了すると、プラズマ・チャンバを真空排気することができる。次いで、二フッ化キセノン(XeF2)などのエッチング強化ガス流をガス注入システムを通して試料チャンバに導入し、Heなどの軽い不活性元素をプラズマ・チャンバに供給することができる。エッチング強化ガスが典型的には選択可能で、いくつかの材料のエッチング速度を上げる一方で、その他の材料のエッチング速度を下げ得る。Heガスはセラミック・プラズマ・イオン・チャンバ100内でイオン化され、イオン化されたHeビームが形成される。イオン化されたHe原子が、表面に吸着された分子に衝突し、フッ素(F)原子からXeを分離させる。基板では、このイオン化されたヘリウムビームが基板の表面に衝突し、解離したフッ素原子が基板のシリコン(Si)原子と結合して揮発性SiFを形成する。F原子と結合しているSi原子は基板の表面から出て行く。こうして、基板はこのイオン化されたHeビームが衝突する所で化学的にエッチングされる。XeガスおよびSiFガスはチャンバから真空排気される。したがって、いくつかの実施形態は加工物の異なる連続処理を行うためにマルチステップ・プロセスを提供する。例えば、第1のステップでは、第1のイオン化ガスを導入してスパッタリングし、第2のステップでは、第2のイオン化ガスを導入してエッチングまたは堆積させることができる。
【0035】
ガリウム(Ga)などの元素を提供するLMISを用いることに比べ、ミリングのためにXeなどのイオン化ガスを用いることには利点がある。例えば、石英ガラスをミリングして光透過性のマスクを形成しようとする場合を仮定する。ガリウムLMISを用いてミリングする場合、一部のガリウム原子が石英に埋め込まれることになり、ガラスの光透過性を妨げるので好ましくない。対照的に、Xeなどの重い非反応性ガスを用いる場合、このイオンは石英中に残らず、石英の表面には光透過性の非晶質層が形成される。本発明とは対照的に、LMISの別の欠点はイオン種を変えられないことである。
【0036】
係るガスをイオン化する電子を発生するために陰極放出に依存するイオン源によっては、RF界によって励起されるイオン源を使用することが好ましい。陰極−陽極システムでは、陽イオン化されたガス原子の一部が陰極と衝突し、陰極をスパッタリングする。また、反応性ガスを用いれば、結果的に陰極が劣化する。これにより、陰極の寿命は比較的短くなる。対照的に、本願明細書に記載の実施形態によるRF励起型システムは陰極を有さない。むしろ、時間で変化する電圧を開口電極に印加することによって自由電子が発生する。プラズマ・チャンバ周囲のコイルによって発生するRF界があるので、これらの自由電子はプラズマ・チャンバ内の周囲を移動する。この自由電子が他のガス分子と衝突して、さらにイオン化原子を発生させる。これにより、続いて非常に高いイオン密度のプラズマが発生する。また、既知のビーム成形技術を用いれば、サブミクロンのガウス形状のスポットあるいは矩形などの非ガウス形状にビームを集束させることが可能である。
【0037】
このため、実施形態は複数のガス供給源をRFプラズマ誘導と組み合わせて、ミリング、堆積、撮像、分析、および他の用途のためにさらなる自由度を提供する。このガス源は単一の原子種、分子、またはガス混合物を含み得る。絶縁体の堆積のため、例えば、高抵抗率の層を生成するために、酸素一次イオン種を用いて、加工物表面材料と反応させて、二酸化珪素などの酸化物材料を形成することもできるし、Xeなどの大きなイオンをTEOSまたはTMOSなどの適した前駆体ガスと一緒に用いて、ガリウム・ビームからガリウムが注入された酸化物層よりも大きな抵抗率を有するガリウム・フリーな酸化物を堆積させることも考えられる。石英を堆積させるため、例えば、高い光透過性を実現するために、不活性または酸素およびシリコン化合物による一次イオン種が用いられてもよい。
【0038】
基板の損傷を最小にするために、例えば、フォトレジスト用途においては、スパッタリングを最小に抑え、二次電子収率を高めるために、Heなどの低質量の一次イオンを用いてもよい。別の例としては、一次イオンのタイプとしてカーボン60(C60)(またはC70、C76およびC84といった他の構造)を用いれば、ナフタレンを用いなくても直接炭素堆積を行うことができる。C60を用いたカーボン塗布は、加工物上にそのカーボンを吹付け塗装するのと類似する。
【0039】
堆積速度およびミリング速度の強化は、XeF2またはSF6プラズマ・ガスを用いて実現し得る。試料上にこれらのガスのいずれかを溢れさせると、結果的にエッチングが強化されるものと考えられる。堆積速度の増大は、フッ素化された表面の二次電子収率がより高いことに起因して達成されてもよい。つまり、実施形態によって、ユーザは、二次電子収率、イオン質量、二次イオン収率、スパッタリング収率等の各種要因の最良の組み合わせの一次イオン種を選択することが可能となる。
【0040】
特に、撮像のためには、撮像時の試料のスパッタリングを最小にし得るので、Heイオン・ビームを用いることが非常に有利である。しかし、ヘリウムイオン・ビームと共にエッチングまたは堆積ガスを使用すれば、エッチングまたは堆積の機能性を得られると共に、イオン・ビームを用いた撮像にダメージを与えない。より広い領域をエッチングまたは堆積するためには、Xeなどのより重いガスを使用して、イオン1個当たりの表面層にさらにエネルギーを送り届け、故にイオン1個当たりの収量を増大することができるものと考えられる。
【0041】
このため、実施形態は物質の処理のためのイオン種の最適な選択をもたらす。ある種をミリングに用い、別の種を堆積に用い、他の種をエッチングに用い、さらに別の種を撮像に用いることができる。先行技術において単一種のLMISを用いることに比べ、異なる処理のために最適な種を選択できることは大きな利点である。ミリングのためにLMISを用いれば、試料の金属汚染が生じることになる。対照的に、本発明の実施形態により、ミリングに不活性ガスを使用することが可能になる。堆積のためにLMISを用いれば、汚染が生じ、堆積速度は遅くなり、さらには望ましくない腐食が起こることにもなる。対照的に、本発明の実施形態では、堆積のために不活性ガスを使用し、前駆体ガスを用いずに直接堆積するために有機金属種を使用することも可能になるので、堆積速度は速くなる。
【0042】
図1Bは好適なイオン・プラズマ源14の一実施形態の詳細な図を示す。このようなシステムは、参照により本願に援用される、「Magnetically enhanced,inductively coupled plasma source for a focused ion beam system」と題する米国特許出願公開2005/0183667号明細書として発行された米国特許出願第10/988,745号明細書に記載されている。コイル1000は、インピーダンス210を介してRF源200に静電結合されている。図1Bに示す容量は公称値であり、以下に詳細を示すように、当業者はコイルの作動周波数に応じてこの公称値を容易に選択することができることに留意されたい。コイル1000は、誘電プラズマ管2000の周囲に巻かれた複数巻きのコイルであることが好ましく、コイルの軸はチャンバ2000の軸およびビーム軸と実質的に一致している。
【0043】
RF源200によって駆動されると、コイル1000は螺旋RFアンテナを形成する。RF源でコイルを駆動することによって、静電結合に起因して、プラズマに時間で変化する電位が印加される。すなわち、コイルは、プラズマを変調する放射状の電場を形成し得る。これは、ビーム・エネルギーが拡散する結果、色収差が生じるので好ましくない。しかし、一実施形態では、アンテナは一端にて反対側の端部の信号の位相から180゜ずれた信号によって駆動される。これにより、常に電位変動が実質的にゼロの領域がコイルの内側に形成される。この領域では、コイル1000の両端間の時間で変化する電圧によって生じるプラズマの時間依存的な変調は実質的に生じない。したがって、アンテナの位相は、印加加速電場に応じてイオンが抽出される領域内のプラズマのイオン化電位の変動を最小化するように調整することができる。この方法に従ってプラズマから抽出されたイオンのエネルギーは、アンテナの両端間のRF電圧によって実質的に変調されない。
【0044】
しかし、RF源200は実際には電子の移動を生じさせる。コイルの配向のため、プラズマ内の自由電子がプラズマ外周部を周回し、この電子が原子に衝突して、イオンが生成される。これにより、比較的低熱のイオンエネルギーで、イオン密度が極めて大きなプラズマが形成される。約5乃至10mmの厚さの一定強度の環状磁石、または公称値で200乃至1000ガウスの軸方向の磁場強度を形成する可変強度の電磁石3000は、コイルの端部と抽出領域3500の間に設置され、これによりプラズマ密度が向上する。磁石は、プラズマ・チャンバの壁への電子の拡散および消失を低減する。このため、RF源はプラズマに誘導結合され、環状磁石は抽出領域でのプラズマ密度を高める。
【0045】
分割ファラデー・シールド6000を用いてコイルの静電場を排除することができるが、これは主に2つの理由により好ましくない。第1に、プラズマを発生させるためにはある程度の静電結合が必要である。分割ファラデー・シールドを使用するには通常、プラズマを発生するのに別の外部電源(例えば、テスラ・コイル)が必要となる。第2に、分割ファラデー・シールドでは通常、シールド内に誘起される渦電流のために、ある程度のエネルギー損が生じる。分割ファラデー・シールドが存在しない場合、均衡化されたアンテナ法では、プラズマ・チャンバの領域に、十分な時間依存性の電場がプラズマ・チャンバの諸領域に生じて、プラズマを発生するために必要な初期の電場のイオン化を生じさせ得る。
【0046】
ビーム電圧400がビーム・エネルギー・キャップ420に電気的に接続されており、このキャップはビーム電圧に対するRFの影響を無視することができるように追加のロー・パス・フィルタ410を有する。ソース電極4000に印加される電位に対して負である抽出電圧源600が、抽出電極4500に印加される。スキマー(skimmer)電極5000はアース電位であり、高密度のイオン・ビームが通過する開口を提供し、適した光学素子を用いて集束させることができるイオン・ビームを生成する。このように、ビームは、スキマー電極5000開口によって形成されたビーム・ウエストを有した状態で抽出領域3500から抽出され、印加加速電圧に応じてビーム軸に沿って伝播する。あるいは、ビーム電圧400は、ビーム・エネルギー・キャップ420ではなくソース電極4000と電気的に直接接続されてもよい。
【0047】
図2は未知のコイル・インダクタンス特性1010と並列接続されたプラズマ・インピーダンスZp2010を有する好適な実施形態の回路を示す。プラズマ・インピーダンス2010とコイル・インダクタンス1010との並列の組み合わせに、キャパシタンス8000が直列接続されている。この並列−直列−並列の組み合わせは第2のキャパシタンス7000と並列接続されている。この直列−並列の組み合わせは第3のキャパシタンス210と直列接続されている。この回路全体はRF源200と並列接続されている。コイルとプラズマ・インピーダンスの間の位相シフトは、キャパシタンス210、7000および8000の値を選択することによって制御することができることは明白である。
【0048】
したがって、キャパシタンス210、7000および8000の値を選択し、コイルとプラズマの間で180゜の位相シフトを得ることができる。このように、いくつかの実施形態は、プラズマ電位の変動を無視でき、その結果として抽出イオンの軸方向のエネルギーの拡散が極めて小さい、プラズマに最大出力を伝達するような回路調整を提供する。
【0049】
上記実施形態はイオンに及ぼす静電結合の影響が最小化し、プレシース(pre−sheath)の電位勾配の影響のみが残る。プレシース領域の電位勾配は有限であるが小さいものであり、平均電子エネルギー(Te)の約半分である。ここで、Teは、上記タイプの供給源では僅か3eVであり、回避できない軸方向のエネルギーの拡散(ΔE)の下限は〜1.5eVである。
【0050】
実施形態は、公称値で25Wをプラズマに印加することにより、低RF出力にて適切に作動し得る。この出力レベルでは、僅か5keVにてイオン電流密度が19.6mAcm-2の場合、〜200Acm-2sr-1(アンペア/平方センチメートル/ステラジアン)の輝度を得ることができる。これは、熱エネルギーが0.15eV以下であり、プラズマ密度が〜8×1011cm-3であることを意味する。このような供給源を使用することにより、1×1014イオンcm-3のパルス・プラズマ密度が得られる。これは、ビーム・エネルギーが50keVで、電流密度が、
【0051】
【数1】

【0052】
のときに、1×105Acm-2sr-1より大きいソース輝度が得られることを意味する。式中、
【0053】
【数2】

【0054】
である。これにより、
【0055】
【数3】

【0056】
のビーム輝度が得られる。
【0057】
このため、一実施形態は第1のガス、次いで少なくとも第2のガスが、プラズマ領域を封入する容器に順次混合される複数のソース・ガスを備えるイオン・ビーム・システムである。容器近傍のアンテナが、RF電源によって励起されてプラズマのイオン化を誘起する。補償回路がアンテナを電源に結合して、イオン化プラズマ中の振動を実質的に低減する。抽出機構がイオン化プラズマを高い電流のビームに抽出する。
【0058】
図3は真空外囲器10を有する集束イオン・ビーム・システム101を示す。真空外囲器には、RF供給源33を有するRFアンテナと前述のように実装されたインピーダンス整合回路27とを有するプラズマ源11が設置され、イオン・ビーム集束カラム16に高密度プラズマを供給する。ソースのバンク13がプラズマ源11に接続され、イオン化のための異なるイオン化ガスを提供する。イオン・ビーム18は、プラズマ源11からカラム16と、静電偏向機構20を通り、試料22に向かって進む。試料は、例えば、下側チャンバ26内の可動X−Yステージ24に設置された半導体装置を有する。
【0059】
ターボ分子ポンプ8を用いてプラズマ源が真空排気され、上部カラムの光学素子領域では、高真空が維持される。真空システムは、通常約1×10-7Torr(1.3×10-7mbar)から5×10-4Torr(6.5×10-4mbar)の間の真空を下側チャンバ26内に提供し、プラズマ源内では公称10mTorr(1.3×10-3mbar)、またカラム光学素子チャンバ内では1×10-6Torr(1.3×10-6mbar)未満の真空が得られる。
【0060】
高電圧源34は、プラズマ源11および集束カラム16内の電極に接続され、約0.1keV乃至50keVのイオン・ビーム18が形成され、このビームが下方に誘導される。前述のように、プラズマ・イオン源11のコイルを活性化させるため、RF電源33とインピーダンス整合回路27も提供される。パターン発生器38により提供された所定のパターンに対応して作動する偏向制御器および増幅器36が偏向板20に結合され、これにより、ビーム18は、対応するパターンを試料22の上表面にトレースするように制御され得る。いくつかのシステムでは、偏向板は当該技術分野で周知のように最終レンズの前に設置される。
【0061】
イオン・プラズマ源11からのビームは、表面22を改質するため、または表面22を撮像するため、試料22に焦点を合わせる。撮像のために、二次イオンまたは電子放出を検出するのに使用される荷電粒子増倍器40がビデオ回路42に接続される。後者は、同様に制御器36から偏向信号を受信するビデオ・モニタ44用の駆動を提供する。下側チャンバ26内の荷電粒子増倍器40の位置は、異なる実施形態では異なることがある。例えば、好適な荷電粒子増倍器40はイオン・ビームと同軸上にあり、イオン・ビームが通過できる穴を含むことができる。場合によっては、その電力供給/制御器45と共に走査用電子顕微鏡41が、FIBシステム101に設置される。
【0062】
偏向制御器および増幅器36に印加された信号は、パターン発生器38により制御されたパターンに従って撮像またはミリングを行うターゲット領域内に集束イオン・ビームを移動させる。各サンプル点からの放出は荷電粒子増倍器40によって収集され、ビデオ回路42によってビデオ・モニタ44に像が表示される。像を観察するオペレータは、カラム16内の種々の光学素子に印加される電圧を調整し、ビームを集束させて各収差のビームを調整することができる。
【0063】
カラム16内の集束光学素子は、当該技術分野で知られた焦点化機構または将来開発される方法を備え得る。例えば、2つの円筒状対称静電レンズを実装して、丸い仮想源の縮小像を生成することができる。抽出ビームの軸方向の低エネルギーの広がりがあるため、色むらが最小化され、加速電圧が低くても(すなわち低ビーム・エネルギーでも)、有効なビームの集束化が実現できる。これらの特性を適した集束光学素子と共に使用し、ある範囲の運動エネルギー(0.1keV乃至50keV)およびビーム電流で、ナノメートル乃至マイクロメートルスケールのスポット・サイズを生成することができる。
【0064】
極めて高いプラズマ密度(最大約1014/cm3)、低い熱イオンエネルギー(約0.1eV以下)、低い軸方向のエネルギーの拡散(約1.5乃至約3eV)、および不活性または反応ガスを用いて作動する能力の実現、ならびにソース材料の腐食を最小にした極めて長寿命の電位の実現により、プローブ形成FIB光学素子と組み合わせて使用されるのに理想的な磁気増幅誘導結合プラズマ源が得られる。
【0065】
実施形態は約数ピコアンペアから約数マイクロアンペアまでのビーム電流を提供することができる。ソースの輝度は約50keVで、少なくとも約104A/cm2/sr、最大で約106A/cm2/srとすることができる。軸方向のエネルギーの拡散は約3eV未満であり、約1.5eVと低いと考えられる。これは現在のLMISとは大きく異なっている。LMISでは約106A/cm2/sr程度のビーム輝度が得られるが、エネルギーの拡散は、約5eV程度である。また、通常LMISはピコ乃至ナノアンペアの範囲のビーム電流の発生にのみ適している。
【0066】
このため、上記プラズマ源は、103乃至105Acm-2Sr-1より大きいビーム輝度および約1.5乃至3.0eV未満の軸方向のエネルギー拡散を有するサブミクロンのスポット・サイズを提供することができ、このことによりサブミクロンのフィーチャの微細機械加工または堆積に適したプラズマ源となる。図3BはLMISおよび本願に記載の磁気誘導型プラズマ・イオン源の性能を示すグラフである。横軸は材料(ここではシリコン)の材料除去速度である。縦軸はビームのサイズの寸法である。白い曲線302はガリウムLMIS集束イオン・ビームに関するビーム・サイズに対する材料除去の速度を示す。黒い曲線304は磁気誘導型プラズマ・イオン源に関するビーム・サイズに対する除去の速度を示す。左側では曲線302は曲線304の下側にあり、右側では曲線304より上側に上昇する。曲線304が曲線302の下にある領域では、磁気誘導型集束イオン・ビームにより、所定のビーム・サイズに対するミリング速度は著しく大きくなることは明白である。磁気誘導型プラズマ・イオン・ビームを用いれば、50ナノアンペアを超えるビーム電流で200ナノメートル未満のスポット・サイズを実現することができる。
【0067】
本発明の実施形態のさらなる利点は、不活性ガスおよび多くの反応性ガス(例えば、O2、N2、SF6等)を用いて作動する能力にある。イオン・ビームは、数ナノメートル(サブミクロン)から数十マイクロメートルまでのビーム径に集束することが可能である。本発明を、ガリウムまたは他の金属イオン・ビームでは困難と思われる用途に適するようにすることにより、不活性ガス・ビームを容易に形成することができる。
【0068】
図4はマルチソース型の磁気誘導型イオン・ビーム・システムを用いてミリングまたはエッチング、および堆積するためのプロセスの一実施形態のフロー・チャートを示す。まず、係るシステムは試料を入れたチャンバを真空排気する(要素402)。次いで、係るシステムはミリングのためにユーザが選択したXeなどの第1のイオン種を導入する(要素404)。一実施形態では、第1のイオン種を加工物に誘導しながら、XeF2またI2などのエッチング強化ガスを加工物へ誘導できることに留意されたい。係るシステムは集束または成形イオン・ビームを発生し(要素406)、このイオン種を用いてミリングが実行される(要素408)。ミリングが終了すると、係るシステムはチャンバを真空排気する(要素410)。次いで、係るシステムがタングステンヘキサカルボニルなどの前駆体ガスを導入し得る(要素412)。次いで、ユーザが堆積に用いるHeなどの第2のイオン種を選択する(要素414)。係るシステムは、集束イオン・ビームを発生し(要素416)、試料上にタングステンが堆積するようにタングステンヘキサカルボニルを解離させるエネルギーを与えるヘリウム・イオンを用いて堆積を実行する(要素418)。別の試料を処理する場合(要素420)、このプロセスが再度開始される(要素402)。そうでない場合、このプロセスは終了する(要素422)。異なるプロセスでは、堆積に続いてエッチングが行われてもよいことに留意されたい。
【0069】
実施形態は金属原子を含んだイオン化ガスを用いた金属の堆積法も提供する。例えば、タングステンヘキサカルボニルをイオン化することによってタングステンを堆積させることができる。このガスをイオン化すれば、ガス注入システムを通してタングステンを堆積させ、次いで、イオン・ビームによって衝突させて炭素からタングステンを解離させる振動を引き起こして、表面にタングステンを残すことに比べ、タングステン堆積は比較的速くなる。
【0070】
このため、試料を処理するためのイオン・ビーム・システムの一実施形態はプラズマ・チャンバに結合された有機金属ガスを含む。螺旋アンテナがプラズマ・チャンバ周囲に位置決めされており、励起されてプラズマ・チャンバ内の有機金属ガスをイオン化する。このアンテナを含んだネットワーク内の回路が、励起源をアンテナとインピーダンス整合させる。抽出機構が、ビームの金属を試料上に堆積させるためのイオン化された有機金属ビームを抽出する。
【0071】
図5はミリングに続いて有機金属イオン種を用いて堆積させるための一実施形態のフロー・チャートを示す。まず、係るシステムは試料を入れたチャンバを真空排気する(要素502)。次いで、係るシステムはミリングのためにユーザが選択した第1のイオン種を導入する(要素504)。係るシステムは集束イオン・ビームを発生し(要素506)、このイオン種を用いてミリングが実行される(要素508)。ミリングが終了すると、係るシステムはチャンバを真空排気する(要素510)。次いで、ユーザが堆積のために使用されるタングステンヘキサカルボニルなどの有機金属イオン種を選択する(要素514)。別の実施形態では、試料上に抵抗層を堆積させるためにC60が用いられてもよい。このため、前駆体ガスを導入するステップを省くことができる。係るシステムは集束有機金属イオン・ビームを発生し(要素516)、試料上で直接堆積法を実行する(要素518)。別の試料を処理する場合(要素520)、このプロセスが再度開始される(要素502)。そうでない場合、このプロセスは終了する(要素522)。
【0072】
別例として、本発明は、集積回路が一連のステップにおいて修正される「回路編集」に使用可能である。例えば、酸化物を選択的にエッチングして露出させる不活性イオンおよびエッチング強化ガス(ビームに存在するか、別個に導入される)の集束イオン・ビームを用いて回路に穴をミリングすることによって、埋込導体を露出してもよい。埋込導体は不活性ガスおよび金属エッチングに選択できるエチング強化ガスの集束イオン・ビームを用いて切断できる。次いで、例えば前駆体ガスとして不活性イオンおよびTEOSを用いて、絶縁体のイオン・ビーム堆積法により穴を充填する。
【0073】
回路編集の別例では、前述のように2つの埋込導体を露出させてもよく、そうして、不活性イオンおよび有機金属前駆体ガスを使用する金属のイオン・ビーム堆積を用いてこの導体を接続することができる。必要があれば、穴をミリングする前に、絶縁層を堆積させて、表面上の任意の導体を被覆することができる。
【0074】
本発明ならびにその利点のいくつかを詳細に示したが、特許請求の範囲に記載の本発明の精神および範囲から逸脱しないで、本明細書において、各種変更、置換および代替が可能であることに留意されたい。例えば、大半の実施形態は集束イオン・ビームを用いて説明されているが、この用語は成形イオン・ビームを包含するものと理解されたい。本発明は、異なる用途に異なる目的で使用することが可能であるため、特許請求の範囲内にある、あらゆる実施形態が各目的を達成するわけではない。また、本願の範囲は、本明細書に記載のプロセス、機械、製造、材料組成、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば容易に理解するように、本発明の開示から、既存のまたは将来開発されるものと実質的に同じ機能を果たし、あるいはここに示された対応する実施形態と実質的に同様の結果が得られるプロセス、機械、製造、材料組成、手段、方法またはステップを、本発明に従って使用することができる。したがって、そのようなプロセス、機械、製造、材料組成、手段、方法またはステップは、特許請求の範囲の記載の範囲内に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム加工の方法であって、
第1のガス供給源と、第2のガス供給源と、を有するイオン・ビーム・システムを提供することであって、前記第1および第2のガス供給源が第1のタイプのイオンまたは第2のタイプのイオンを発生するイオン源のプラズマ・チャンバにそれぞれ選択的に接続されており、前記プラズマ・チャンバから抽出されたイオンのビームを形成する集束化光学素子を備える前記イオン・ビーム・システムを提供することと、
前記第1のガス供給源からのガスを前記プラズマ・チャンバに選択的に導入することと、
前記プラズマ・チャンバから抽出された前記第1のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することと、
前記第2のガス供給源からのガスを前記プラズマ・チャンバに選択的に導入することと、
前記プラズマ・チャンバから抽出された前記第2のタイプのイオンのビームを用いて前記加工物を加工することと
を含み、前記加工物を前記真空チャンバから取り出さず、前記真空チャンバを、第1のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することと第2のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することとの間で大気に曝露させない方法。
【請求項2】
前記イオン源が、イオン種を受け取り前記チャンバからイオン・ビームを抽出するためのRF励起型インピーダンス整合プラズマ・チャンバを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インピーダンス整合プラズマ・チャンバが、選択された特定のイオン種のために前記プラズマに伝達される出力量を変化させるように調整可能なインピーダンス整合回路に結合された、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することが、サブミクロンのスポット・サイズを有するビームを前記加工物に向けて誘導することを含み、前記第2のタイプのイオンのビームを局所的に用いて加工物を加工することが、サブミクロンのスポット・サイズを有するビームを前記加工物に向けて誘導することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することが、ガウス形状イオン・ビームまたは非ガウス形状イオン・ビームを用いて前記加工物を加工することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第1のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することまたは第2のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することが、
イオン・ビーム誘導堆積または直接材料堆積を用いて材料を堆積させることと、
イオン・ビーム・スパッタリングまたは化学的強化イオン・ビーム・エッチングを用いて材料を除去することと、
イオン・ビーム・撮像を用いて前記加工物の像を形成すること、または
二次イオン質量分析法を用いて前記加工物の組成を分析することのうちの1つによって前記加工物を加工することと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第1のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することまたは第2のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することが、不活性イオンのビームまたは反応性イオンのビームを前記加工物に誘導することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することまたは前記第2のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することが、イオンのビームを誘導して前記加工物表面上に材料を堆積させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
イオンのビームを誘導して前記加工物表面上に材料を堆積させることが、堆積させる材料以外の原子を含み、分解して前記所望の堆積材料の前記原子を堆積させる、イオンのビームを誘導することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
イオンのビームを誘導して前記加工物表面上に材料を堆積させることが、堆積させる材料のみの原子を含むイオンのビームを誘導することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
第1のタイプのイオンのビームを用いて加工物を加工することが、少なくとも2種の化学組成から成るイオンを含むビームを誘導することを含むか、または第2のタイプのイオンのビームを用いて加工物を局所的に加工することが、少なくとも2種の化学組成から成るイオンを含むビームを誘導することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
第1のタイプのイオンのビームを用いて加工物を局所的に加工することまたは第2のタイプのイオンのビームを用いて加工物を局所的に加工することが、ガス注入システムから前記加工物に向けてガスを誘導することを含み、前記ガスが、イオン・ビームの存在下で分解して前記加工物表面上に材料を堆積させる前駆体ガス、または前記イオン・ビームの存在下で反応して前記表面から材料を除去するエッチング強化ガスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
イオン・ビーム・システムであって、
プラズマ領域を封入する容器に複数の供給源ガスを提供する複数の供給源ガス接続と、
前記プラズマ領域を封入する容器と、
前記プラズマのイオン化を誘起するためにRF電源によって励起される前記容器近傍のアンテナと、
前記イオン化プラズマ内の振動を実質的に低減するため、前記アンテナを前記電源に結合する回路と、
前記イオン化プラズマをビームの中に抽出するための抽出機構と
を備えるイオン・ビーム・システム。
【請求項14】
前記ビームをガウス形状または非ガウス形状に集束させる荷電粒子ビーム光学素子をさらに備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記供給源ガス接続が、不活性ガス源または反応性ガス源を前記プラズマ・チャンバに選択的に結合する、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記供給源ガス接続が、堆積に用いられる第1のガスおよびエッチングに用いられる第2のガスを前記容器に選択的に提供する、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
前記容器に提供されたガスが、前記加工物表面上で分解して材料を堆積させる、あるいは前記表面上の前記材料と結合して、それにより前記表面をエッチングする揮発性反応産物を形成するか、または前記表面に残る不揮発性反応産物を形成するガスとを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
約4eV未満のエネルギー拡散を示す、請求項13に記載のシステム。
【請求項19】
1000A/cm2/srを超える高輝度のビームを発生する集束化機構をさらに備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項20】
抽出されたビームが、約8keV以上の抽出されたビーム・エネルギーを示す、請求項13に記載のシステム。
【請求項21】
抽出されたビームが、約50ナノアンペアを超える電流を示し、200ナノメートル未満のスポット・サイズに集束される、請求項13に記載のシステム。
【請求項22】
選択されたガスから形成された前記ビームが、サブミクロンのスポット・サイズに集束される、請求項13に記載のシステム。
【請求項23】
試料を処理するためのイオン・ビーム・システムであって、
プラズマ・チャンバに結合された有機金属ガスと、
前記有機金属ガスが結合されたプラズマ・チャンバと
前記プラズマ・チャンバ周囲に位置決めされ、前記プラズマ・チャンバ内の前記有機金属ガスをイオン化するように励起される螺旋アンテナと、
励起源を前記アンテナとインピーダンス整合させるための、前記アンテナを含むネットワーク内の回路と、
前記ビームの金属を試料上に堆積させるためのイオン化された有機金属ビームを抽出する抽出機構と
を備える、イオン・ビーム・システム。
【請求項24】
前記回路が、キャパシタンスと前記螺旋アンテナとの並列の組み合わせと直列接続されたキャパシタンスを含む、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記有機金属ガスがタングステンヘキサカルボニルである、請求項23に記載のシステム。
【請求項26】
前記ビームがサブミクロンのスポット・サイズに集束される、請求項23に記載のシステム。
【請求項27】
イオン・ビームを発生する方法であって、
個別におよび順次選択されてプラズマ・チャンバに結合される複数のガス源を提供することと、
プラズマ電位の変調を低減するために、前記アンテナに結合された回路を提供することと、
複数のガスの中から第1のガスおよび次に少なくとも第2のガスを前記プラズマ・チャンバに選択的に提供することと、
前記チャンバ内の前記選択されたガスにエネルギーを結合するアンテナにRF出力を印加して、ガスのイオン化を誘起してイオン・プラズマを発生させることと、
前記アンテナ近傍の抽出領域からイオン化ビームを抽出することと
を含む、方法。
【請求項28】
選択された1つのガスがエッチングに使用され、選択された別のガスが堆積に使用される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記回路が、特定の選択されたガスについて、前記プラズマに伝達される出力量を変化させるように調整可能である、請求項27に記載の方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−544120(P2009−544120A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519718(P2009−519718)
【出願日】平成19年7月16日(2007.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/073618
【国際公開番号】WO2008/094297
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(501419107)エフ・イ−・アイ・カンパニー (78)
【Fターム(参考)】