説明

マルチバンド対応マイクロストリップアンテナ及びそれを用いたモジュールとシステム

【課題】複数の周波数帯に対応するマルチバンド対応アンテナにおいて、スイッチのアイソレーション特性を改善でき、かつスイッチ部での反射を抑制できる小型のアンテナの構造を提供する。
【解決手段】第1の誘電体10の上面に配置された矩形の給電素子13と、給電素子13を取り囲む矩形の無給電素子12がマトリックス状に配置され、給電素子13と無給電素子12、及び隣接した無給電素子12間は第1のスイッチ11によって接続され矩形の放射素子を形成する構造を有し、第1のスイッチ11は隣接した給電素子13または無給電素子12の端部を被覆する絶縁膜24があり、絶縁膜24上には空中に保持された可動電極17があり、隣接した給電素子13または無給電素子12と可動電極17はDCバイアスが印加できる構造を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の周波数規格に対応できる小型アンテナ及び小型無線モジュールとシステムに関し、特に給電素子を取り囲む矩形の無給電素子がマトリックス状に配置されたマルチバンド対応アンテナ,小型無線モジュール及び小型無線システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話ではPDC、FOMA、CDMA2000、PHS、等、無線LANではIEEE802.11a,802.11b,802.11gやBluetooth等、ITSではGPS, VICS,ETC等の無線規格に対応して複数の周波数が用いられており、将来も複数の周波数が並存する環境が続くと予想されている。
従来の無線通信では、単一周波数のアンテナが用いられており、複数の周波数に対応する無線装置では複数のアンテナを設ける必要があり、大型化していた。また、無線装置表面で電波を良好に送受信できる領域は限られており、全てのアンテナを良好な電波環境に設置するには限界があった。そこで、近年では1個のアンテナで複数の周波数に対応できる多周波(マルチバンド)対応アンテナが注目されている。
【0003】
マルチバンド対応アンテナの従来例としては、1つはアンテナに複数の周波数に対応した放射素子を持たせる構造がある。例えば共振長の異なる複数の放射素子を用いた構造としては、『多層板構成の3周波共振アンテナの設計と実測結果(電子情報通信学会技術報告,AP2002-141,p41〜46,2003年)』(非特許文献1参照)、『Multifrequency Microstrip Patch Antenna Using Multiple Stacked Elements (IEEE Microwave and Wireless Components Letters, vol.13, No.3, p123-124,2003年) 』(非特許文献2参照)、『2周波共用マイクロストリップアンテナ構成法の一検討(2003年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会,講演番号B-1-161)』(非特許文献3参照)等に開示されている。
しかしながら、上記のアンテナは複数のアンテナを1箇所に配置した構造であり、無線装置表面で電波を良好に送受信できる領域は限られているため、所望の電波全てを良好に送受信するのは困難であった。
【0004】
また、1つの放射素子に複数の共振長を持たせた構造も提案されており、例えば『変形シルピンスキー型マイクロストリップアンテナの放射特性に関する一検討(2003年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会,講演番号B-1-162)』(非特許文献4参照)、『2周波スロットボウタイアンテナ(2003年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会,講演番号B-1-176)』(非特許文献5参照)等がある。
しかしながら、変形シルピンスキー型マイクロストリップアンテナでは、3つのバンドで放射パターンが異なり、同一エリアにおいて3周波を同じ条件で送受信できないという問題点があった。また、2周波スロットボウタイアンテナは、構造上3周波程度までしか対応できないと思われる。
そこで、アンテナの共振長をスイッチで切替える方法が提案されている。例えば、特開2000-236209号公報(特許文献1参照)、特開2002-261533号公報(特許文献2参照)、特開2003-124730号公報(特許文献3参照)、およびUSパテント6198438号(特許文献4参照)等がある。
【0005】
特開2000-236209号公報では、図13に示すように、金属片56をPINダイオード57で接続してダイポールアンテナを構成している。PINダイオード57にバイアスを印加してPINダイオード57の導通/遮断を切替えて共振長を変化させる。特開2000-236209号公報に用いられるダイポールアンテナは、平衡電流で励振する必要がある。しかしながら、RF回路に用いられる線路はマイクロストリップ線路やコプレナー線路等の不平衡電流を用いる場合が多く、平衡電流58が必要な場合はアンテナと線路の間にバランを設けなければならない。一般にバランは帯域が狭いため、複数の周波数には対応できず、1個の周波数に対して1個ずつバランが必要となる。そのため、マルチバンドに対応するためには、ダイポールアンテナの給電点近傍にマルチバンドの数だけバランを配置する必要があり、バランの設置面積でマルチバンドの数が制限されてしまう。よって、特開2000-236209号公報に記載のものはデュアルバンド等の周波数帯の少ない場合は使えるが、周波数帯の多いマルチバンドには対応できないと思われる。
【0006】
次に、特開2002-261533号公報に記載のものは、図14に示すように、アンテナ素子18Aに1個の給電点19Aと複数の接地点20a,b,c,dを設け、接地点20a−dをスイッチ21a,b,c,dで切替えて共振長を変化させるものである。しかしながら、特開2002-261533号公報では、スイッチ21a-dで短絡点を切替えるため、各周波数でアンテナの入力インピーダンスが変化してしまう。よって、整合の取れる範囲内でしか接地点を動かすことができず、マルチバンドで可変しうる周波数範囲を大きくできないと思われる。実際に、特開2002-261533号公報で開示された可変周波数帯は1.55〜2.2GHzであり、中心周波数1.8GHzに対して30%と小さい。よって、携帯電話等の比較的近接した周波数帯を用いる場合は対応可能であるが、無線LANのように2.4GHz帯と5GHz帯を用いる場合は対応できないと予想される。
【0007】
特開2003-124730号公報に記載のものは、図15(a)(b)に示すように、3つの放射素子102,103,105が切替え可能な給電点106-111と短絡点を共有しており、スイッチSW180,SW182によって給電点106-111と短絡点を切替えることで4つの周波数帯を実現している。しかしながら、特開2003-124730号公報では3つの放射素子102-103を同一平面に配置する必要があり、無線装置表面で電波を良好に送受信できる領域は限られていることから、4つの電波全てを良好に送受信するのは困難である。
【0008】
USパテント6198438号に記載のものは、図16に示すように、マトリックス状に配置された要素素子が各々MEMSスイッチで接続される構造となっている。全てのMEMSスイッチをOFF(遮断状態)にした場合は、個々の要素素子の1辺が共振長となり、高周波に対応する。一方全てのMEMSスイッチをON(導通状態)にした場合は、個々の要素素子は接続されて1個の矩形の放射素子となり、低周波で共振する。
USパテント6198438号では、要素素子を接続するMEMSスイッチの詳細は記述されていないので、一般的なMEMSスイッチの構造(図17参照)を例にしてUSパテント6198438号の動作を説明する。
要素素子203の各辺にはリード201があり、隣接した要素素子203のリード201間にMEMSスイッチ202が設けられている。MEMSスイッチ202は、基板213上に設けられた要素素子203のリード201と固定電極212,その上部に設けられ可動電極からなり、可動電極はヒンジ205によって空中で保持される構造となっている。可動電極にはコンタクト電極204と上部電極206が形成され、絶縁層207によって分離されている。
【0009】
MEMSスイッチ202をONする場合は、上部電極206と固定電極212に逆極性のバイアスを印加して電極間に静電引力を発生させ、可動電極を下方に駆動してコンタクト電極204と要素素子203のリード201を接触させる。その結果、隣接した要素素子203のリード201間はコンタクト電極204を介して導通し、隣接した要素素子203は接続された状態となる。一方、MEMSスイッチ202をOFFする場合は上部電極206と固定電極212のバイアスを遮断して静電引力を無くすと、可動電極はヒンジ205の剛性によって上方に戻り、コンタクト電極204と要素素子203のリード201は遮断される。そのため、隣接した要素素子203のリード201間は遮断されて、要素素子203は遮断状態となる。
【0010】
上記の構造では、隣接した要素素子203間にリード201と、可動電極を駆動する(上部電極206と静電引力を発生させる)ための固定電極212を配置する必要がある。そのため隣接した要素素子203では対向する辺の全面で接続することは出来ず、要素素子203間は線幅の細いリード201で接続されることになる。その結果、全てのMEMSスイッチ202をONにして1個の矩形の放射素子を形成した場合、放射素子の内部には大きな空隙が生じる。放射素子を流れる電流は空隙によって制限され、低周波で動作させる場合は帯域幅が減少する問題が生じる。MEMSスイッチ202が非常に多くなった場合は、低周波で動作させると通信に必要な帯域幅を確保できなくなり、マルチバンドの数が制限される問題も発生する。
【0011】
帯域幅を減少させないためには、隣接する要素素子203は対向する辺の全面で導通することが望ましい。例えば、上部電極206とコンタクト電極204を積層化した可動電極を用いたMEMSスイッチ202が考えられる(図18参照)。図18のMEMSスイッチ202では隣接した要素素子203の間には固定電極212のみが設けられており、固定電極212の上部には上部電極206とコンタクト電極204が積層された可動電極がヒンジ205によって空中で支持される構造となっている。コンタクト電極204の幅は要素素子203の辺とほぼ同じ長さである。尚、上部電極206とコンタクト電極204の間には、図示されていない絶縁層によって絶縁されている。
【0012】
MEMSスイッチ202をONする場合は、上部電極206と固定電極212に逆極性のバイアスを印加して電極間に静電引力を発生させ、可動電極を下方に動かしてコンタクト電極204と要素素子203を接触させる。コンタクト電極204の幅は要素素子203の一辺とほぼ等しいので、MEMSスイッチ202がON状態になった場合は、隣接した要素素子203はコンタクト電極204を介して対向する辺の全面で接続された状態となる。一方、MEMSスイッチ202をOFFする場合は、上部電極206と固定電極212のバイアスを遮断して静電引力を無くすと可動電極はヒンジ205の剛性によって上方に戻り、コンタクト電極204と要素素子203は遮断され、隣接した要素素子203は遮断状態となる。
【0013】
上記の構造では、隣接した要素素子203は対向する辺の全面で接続することが出来るため、全てのMEMSスイッチ202をONにして1個の矩形の放射素子を形成した場合も、放射素子の内部には大きな空隙は生じない。そのため、放射素子を流れる電流は空隙によって制限されず、低周波で動作させる場合も帯域幅の減少は起こりにくい。
しかしながら、上記の構造では隣接した要素素子203の間に固定電極212が配置され、要素素子203の辺の全長に渡って固定電極212の辺が近接する形となり、要素素子203と固定電極212の間には比較的大きな寄生容量Cpが付く。そのため、MEMSスイッチ202をOFFした場合も、要素素子203と固定電極212間のCpによってRF信号がリークして十分なアイソレーション特性が得られ難いという問題が発生する。
【0014】
また、MEMSスイッチ202をONした状態では、コンタクト電極204も放射素子の一部として機能するが、コンタクト電極204の領域では固定電極212や上部電極206が地板として作用する。通常、コンタクト電極204と上部電極206との間は数um以下の薄い絶縁膜であり、コンタクト電極204と固定電極212の間も非常に近接しているため、コンタクト電極204の領域での誘電体の実効誘電率,誘電体厚さは要素素子203を形成している基板の実効誘電率や厚さと大きく異なることになり、MEMSスイッチ202の部分で大きな反射損失が生じてしまう。
反射損失を抑制するためには、上部電極206とコンタクト電極204を一体化し、基板の下部に設けられた地板を固定電極212に採用することが考えられるが、一般的にアンテナに使用される基板は0.5〜2mm程度であり、可動電極を動かすための静電引力を上部電極206と固定電極212間に生じさせるためには非常に大きなDCバイアスが必要となり、実用的な電圧範囲ではMEMSスイッチ202のON/OFF動作が不可能になる。
【0015】
更にUSパテント6198438では線路の特性インピーダンス(通常は50Ωを用いる)と整合するため高周波と低周波で異なる給電点を用いている。そのためマトリックス状に配置されたアレイアンテナに配置できる給電点の数によって対応できるマルチバンドの数が限定される欠点がある。
また、MEMSスイッチ202上には給電点を設けることが困難といった欠点もある。図16の例では、1個の要素素子203で共振させる給電点(High frequency feed point)と3×3アレイで共振させる給電点(Low frequency feed point)は要素素子上に配置できるが、2×2アレイを共振させたい場合はMEMSスイッチ上に給電点が来るため、3×3アレイを使っても2周波のみにしか対応できない。
【0016】
一方、本出願人は、テーパードスロットアンテナに関して、提案を行っている。(例えば、特開平10-13141号公報(特許文献5参照),特開平10-13143号公報(特許文献6参照),特開平10-173432号公報(特許文献7参照),特開平11-163626号公報(特許文献8参照))を行っている。テーパードスロットアンテナは、入力インピーダンスが広帯域に渡り一定であり、広帯域アンテナに区分される。比較的広い周波数帯で送受信が可能であるが、帯域幅には限界があり、一般的には数倍の周波数帯で使用されている。
【0017】
【特許文献1】特開2000-236209号公報
【特許文献2】特開2002-261533号公報
【特許文献3】特開2003-124730号公報
【特許文献4】USパテント6198438号
【特許文献5】特開平10-13141号公報
【特許文献6】特開平10-13143号公報
【特許文献7】特開平10-173432号公報
【特許文献8】特開平11-163626号公報
【0018】
【非特許文献1】『多層板構成の3周波共振アンテナの設計と実測結果(電子情報通信学会技術報告,AP2002-141,p41〜46,2003年)』、
【非特許文献2】『Multifrequency Microstrip Patch Antenna Using Multiple Stacked Elements (IEEE Microwave and Wireless Components Letters, vol.13, No.3, p123-124,2003年) 』、
【非特許文献3】『2周波共用マイクロストリップアンテナ構成法の一検討(2003年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会,講演番号B-1-161)』
【非特許文献4】『変形シルピンスキー型マイクロストリップアンテナの放射特性に関する一検討(2003年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会,講演番号B-1-162)』
【非特許文献5】『2周波スロットボウタイアンテナ(2003年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会,講演番号B-1-176)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前述のように、従来、多周波アンテナは種々提案されていたが、その殆んどはデュアルバンド等の周波数帯の少ない場合は使えるが、周波数帯の多いマルチバンドには対応できないものが多く、また、マトリックス状のアンテナも、マトリックス状に配置されたアレイアンテナに配置できる給電点の数によって対応できるマルチバンドの数が限定される欠点があった。また、テーパードスロットアンテナの場合には、比較的広い周波数帯で送受信が可能であるが、帯域幅には限界があった。
【0020】
(目的)
本発明の目的は、上記のような従来の問題点を解消することである。すなわち、
請求項1,2の目的は、スイッチによって複数の素子(給電素子、無給電素子)を接続して放射素子を形成し、複数の周波数帯に対応するマルチバンド対応アンテナにおいて、スイッチのアイソレーション特性を改善でき、かつスイッチ部での反射を抑制できる小型のアンテナの構造を提供することである。
請求項3,4の目的は、請求項1,2のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナを複数の周波数帯で使用するための制御方法を提供することである。
請求項5,6の目的は、請求項1,2の目的に加え、1個の給電点をもつアンテナにおいて、複数の周波数帯で良好な送受信が行えるマルチバンド対応アンテナの構造を提供することである。
【0021】
また、請求項7,8の目的は、請求項1,2,5,6のマルチバンド対応アンテナにおいて、低周波または中周波でアンテナを使用する場合に、帯域幅を改善できる構造を提供することである。
請求項9の目的は、請求項1,2,5〜8のマルチバンド対応アンテナにおいて、指向性制御を実現できる構造を提供することである。
請求項10の目的は、複数の周波数規格に対応できる安価で小型な無線モジュールの構造を提供することである。
請求項11の目的は、複数の周波数規格に対応できる安価で小型な無線システムの構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの特徴は、以下の通りである。
請求項1のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナでは、第1の誘電体の上面に矩形の給電素子と、給電素子を取り囲む矩形の無給電素子がマトリックス状に配置され、給電素子と無給電素子、及び隣接した無給電素子間は第1のスイッチによって接続され矩形の放射素子を形成する構造を有し、更に前記の第1のスイッチは隣接した素子(給電素子または無給電素子)の端部を被覆する絶縁膜があり、かつ絶縁膜上には空中に保持された可動電極があり、更に前記の隣接した素子(給電素子または無給電素子)と可動電極はDCバイアスが印加できる構造を有している。
請求項2のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナでは、前記の隣接した素子(給電素子または無給電素子)、可動電極に設けられたDCバイアスを印加できる構造はビアホールとインダクタからなり、かつ前記のインダクタはマルチバンド対応マイクロストリップアンテナで使用される周波数でほぼ絶縁性となるインダクタンスを持っている。
【0023】
請求項3のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの制御方法では、前記の第1のスイッチをON状態にする場合、前記の第1のスイッチに隣接した素子(給電素子または無給電素子)と可動電極に逆極性のDCバイアスを印加するので、可動電極と素子は逆極性になって素子と可動電極間に静電引力が発生し、可動電極は変形して前記の素子端部を被覆する絶縁膜と接触する。
請求項4のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの制御方法では、前記の第1のスイッチをON状態にする場合、前記の第1のスイッチに隣接した素子(給電素子または無給電素子)と可動電極の一方に0Vを印加し、他方に正または負のDCバイアスを印加するので、可動電極と素子には大きな電位差が生じて素子と可動電極間に静電引力が発生し、可動電極は変形して前記の素子端部を被覆する絶縁膜と接触する。
【0024】
請求項5のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナでは、給電点に切り替えスイッチによって接続される整合回路を設けている。そのため、本発明のアンテナを高周波と低周波の2周波で用いる場合、両方の周波数で整合が実現でき良好な送受信が行える。
例えば第1のスイッチを全てOFF状態として高周波対応とした場合のアンテナの入力インピーダンスがRF回路の出力インピーダンスと一致するように給電点の位置を設定した場合、第1のスイッチを全てON状態にし全ての素子が接続されて低周波対応になる場合のアンテナの入力インピーダンスが整合回路によってRF回路の出力インピーダンスと整合されるように整合回路の定数を予め設定しておく。
【0025】
請求項6のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナでは、給電素子の給電点に定数が可変できる整合回路を設けている。
請求項7のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナでは、前記の第1のスイッチは隣接する素子(給電素子または無給電素子)の対向する辺のほぼ全面で接続される構造となっている。そのため、第1のスイッチのON/OFFの組み合わせによって給電素子と無給電素子を接続して矩形の放射素子を形成した場合、放射素子内部に発生する4個の第1のスイッチで囲まれる空隙は小さくなる。
請求項8のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナでは、前記の第1のスイッチは他の第1のスイッチと対向する先端部分の形状をV字形状に延長し、対向する4つの第1のスイッチの間隔がX字状になっている。
【0026】
請求項9のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナでは、前記の無給電素子の少なくと一部には容量結合によって地板と短絡する第2のスイッチが設けられている。
全ての第1のスイッチをOFFとして、給電素子のみで動作させる場合について考える。
給電素子と無給電素子が近接している場合は、給電素子と無給電素子には大きな相互結合が生じ、無給電素子は給電素子から放射される偏波を受けて給電素子と同じ共振周波数を持つ偏波を生じる。
ここで、複数の無給電素子のうち給電素子に対し+X方向にある無給電素子に接続された第2のスイッチのみをOFFとし他の第2のスイッチをONとすると、給電素子の+X側にある無給電素子のみが地板と開放され、他の無給電素子は地板と短絡する。地板と短絡された無給電素子は給電素子との相互結合によって励起される電圧が小さくなるため、放射パターンは主に給電素子と+X側にある無給電素子のみで決まり、放射パターンは天頂からX方向に傾くようになる。
【0027】
請求項10の無線モジュールは請求項1,2,5〜9のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナのいずれかを用いているため、1個の無線モジュールで複数の周波数規格に対応できる。
請求項11の無線システムは、請求項10の無線モジュールを使用している。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、以下のような効果を奏する。
(請求項1)
素子(給電素子,無給電素子)と可動電極が同一電位になるようなDCバイアスを印加すると、素子(給電素子と無給電素子)と可動電極間には静電引力が発生しない。そのため、可動電極は絶縁膜との間にair gapを保持したまま配置されることになり、給電素子と無給電素子の間は遮断状態となる。同様にして、全ての第1のスイッチをOFF状態とすると、給電素子は全ての無給電素子と分離されてアンテナは給電素子のみで動作し、高周波に対応する。
【0029】
一方、素子(給電素子,無給電素子)と可動電極に逆極性の電位あるいはOVと正負の一方のDCバイアスを印加すると、素子(給電素子と無給電素子)と可動電極間には静電引力が発生し、可動電極は変形して絶縁膜と接触してair gapがなくなる。その結果、容量結合によって可動電極と素子は導通し、隣接した素子(給電素子と無給電素子)は第1のスイッチを介して接続された状態となる。同様にして、全ての第1のスイッチをON状態とすると、給電素子と無給電素子は全て接続されて1個の矩形の放射素子を形成し、低周波に対応できる。
また、一部の第1のスイッチのみをON状態として給電素子と一部の無給電素子を接続して矩形の放射素子を形成すると、中間の周波数で動作することができる。
以上のように、請求項1の構造を採用すると、第1のスイッチのON/OFFの組み合わせによってマルチバンドに対応することができる。
【0030】
また、請求項1の構造では、隣接した素子(給電素子または無給電素子)間に固定電極がないため、隣接した素子をある程度離すことによって寄生容量Cpを十分低減でき、従来のMEMSで見られたような固定電極を介してのRF信号のリークを抑制できる。その結果、給電素子や無給電素子を接続するスイッチ(つまり第1のスイッチ)のアイソレーション特性を改善でき、第1のスイッチを全てOFFにして高周波で動作させた場合の損失を小さくでき、受信アンテナとして用いる場合は大きな受信電力が得られ、送信アンテナとして用いる場合は大きな送信電力が得られる。
更に、第1のスイッチのONにして可動電極も放射素子の一部として機能させた場合、可動電極に対して誘電体に相当する部材は第1の基板と絶縁膜であるが、絶縁膜は第1の基板に対して非常に薄いので、第1のスイッチの領域での誘電体の実効誘電率や厚さは給電素子あるいは無給電素子を形成している基板の実効誘電率や厚さとほぼ同じとなり、第1のスイッチの部分での反射が抑制できる。
【0031】
(請求項2)
請求項2によれば、インダクタとビアホールを介して素子(給電素子,無給電素子)や可動電極にはDCバイアスを印加できるが、RF信号はインダクタによって遮断される。その結果、インダクタが接続されている制御回路にはRF信号が入らないので、制御回路で誤動作が起こりにくく、第1のスイッチのON/OFFの誤動作を抑制できる。
【0032】
(請求項3,4)
請求項3,4によけば、容量結合によって素子と可動電極は導通するので、第1のスイッチを介して素子間を導通させることができる。
(請求項5)
高周波対応(第1のスイッチを全てOFFにして給電素子のみで動作)では、RF回路とアンテナが直結するように切り替えスイッチを設定すると、アンテナの入力インピーダンスはRF回路の出力インピーダンスと一致するので反射を抑制できる。一方、低周波対応(第1のスイッチを全てON状態にして1個の放射素子を形成する)の場合は、RF回路とアンテナの間に整合回路が入るように切り替えスイッチを設定すると、アンテナの入力インピーダンスは整合回路によってRF回路の出力インピーダンスに整合されるので、低周波対応でも反射を抑制できる。
以上のように、本発明の構造を採用すると、給電点を1個とした場合も低周波と高周波の両方で整合が可能となり、2周波で良好な送受信が実現できる。
【0033】
(請求項6)
請求項6によれば、第1のスイッチのON/OFFの組み合わせによって、給電素子と無給電素子を接続して励振長の異なる複数の矩形の放射素を形成した場合、整合回路の定数を適切に選択することによって、各放射素子での入力インピーダンスをRF回路の出力インピーダンスと整合することができ、全ての周波数帯で反射が抑制でき、良好な送受信が行える。
その結果、請求項5のアンテナよりも多くの周波数帯に対応できるようになる。
(請求項7)
請求項7によれば、放射素子を流れる電流は空隙によって制限されにくくなり、請求項1,2,5,6のアンテナよりも第1のスイッチによって給電素子と無給電素子を接続して矩形の放射素子を形成した場合の帯域幅を改善できる。
【0034】
(請求項8)
請求項8によれば、第1のスイッチのON/OFFの組み合わせによって給電素子と無給電素子を接続して矩形の放射素子を形成した場合、放射素子内部に発生する4個の第1のスイッチで囲まれる空隙はほとんど発生しない。そのため、放射素子を流れる電流は更に制限されにくくなり、請求項7のアンテナよりも第1のスイッチによって給電素子と無給電素子を接続して矩形の放射素子を形成した場合の帯域幅を改善できる。
【0035】
(請求項9)
請求項9によれば、全ての第1のスイッチをOFFとして給電素子のみで動作させた場合(高周波対応)には、第2のスイッチのON/OFFの組み合わせによって、放射パターンを天頂から傾かせることができ、指向性制御が実現できる。
また、第1のスイッチのON/OFFの組み合わせによって、給電素子と一部の無給電素子を接続して矩形の放射素子を形成して中間周波数対応とした場合は、第1のスイッチによって無給電素子同士を接続して前記の矩形の放射素子と同じ励振長を持った無給電素子を形成し、その無給電素子に接続された第2のスイッチをON/OFFすることによって、中周波数対応においても指向性制御が可能となる。
その結果、所望波の方向に対して利得を増加させることができ、より良好な送受信が行える。
【0036】
(請求項10)
請求項10によれば、無線モジュールを低コスト化できる。また、請求項9のアンテナを用いると、所望波の方向にアンテナの最大放射角を向けることによって、大きな利得を実現でき、更に良好な送受信が行える。更に、請求項1,2,5〜9のアンテナは、マイクロストリップアンテナ構造であり、平面構造をしているため、無線モジュールを小型化できる。
(請求項11)
請求項11によれば、1個の無線システムで複数の周波数規格に対応でき、無線システムを低コスト化できる。また、請求項9のアンテナを用いた無線モジュールを使用した場合は、所望波の方向にアンテナの最大放射角を向けることによって大きな利得を実現できるので、更に良好な送受信が行える。加えて、本発明のアンテナはマイクロストリップアンテナであり、平面構造をしているため、無線システムも小型になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施例を、図面により詳細に説明する。
(実施例1)
図1(a)(b)は、本発明の実施例1に係るマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの構造図である。(a)は上面図、(b)は断面図を示している。
本実施例1のマルチバンド対応マイクロストリップアンテは、17GHzと63GHzの2周波に対応しており、比誘電率3.9,厚さ525umの石英基板からなる第1の基板10の下面にCuからなる地板25が形成されており、地板25の下にはSiO2からなる絶縁層26が形成されている。また、第1の基板10の上面にはAu/Cuパターンからなる1個の矩形の給電素子13と、給電素子13を取り囲む矩形の無給電素子12がマトリックス状に8個配置されている。給電素子13と無給電素子12の大きさは同一であり、励振方向(Y方向)の長さをL1,励振方向と直交する方向(X方向)の長さをW1とすると、L1=W1=1.1mmとなっている。
【0038】
また、給電素子13と無給電素子12、及び隣接した無給電素子12間は第1のスイッチ11によって接続できる構造となっており、全てのスイッチがONになった場合は励振長がL3となる矩形の放射素子が形成される。第1のスイッチ11は、隣接した素子(給電素子13または無給電素子12)の端部がSiO2によって被覆されており、かつ絶縁膜26上には空中に保持されたAu/Cuからなる可動電極17が設けられている。尚、可動電極17の幅(短手方向の長さ)は第1のスイッチ11に隣接した素子(給電素子13または無給電素子12)の端部とオーバーラップするようにしておく。
また、第1のスイッチ11に隣接した素子(給電素子13または無給電素子12)と可動電極17にはビアホール(可動電極17のビアホール14,素子12,13のビアホール16)が設けられており、前記のビアホール14,16は地板25の下にある絶縁層26上に形成されたインダクタ(図2参照)に接続され、制御回路(図2参照)によって第1のスイッチ11に隣接した素子と可動電極17に各々別のDCバイアスが印加できる構造となっている。
【0039】
図2は、図1における給電素子と無給電素子の間に設けられた第1のスイッチの詳細を示す図である。
給電素子13と無給電素子12の端部はSiO2からなる絶縁膜19(厚さ0.3um)で被覆されており、素子間にも前記の絶縁膜19が形成されている。前記絶縁膜19の両端には、Si3N4(厚さ3um)からなる四角柱状の可動電極支持部18が設けられており、絶縁膜19上に3umのair gapを介してAu/Cuからなる可動電極17を空中で保持する構造となっている。
また、可動電極17には可動電極支持部18,絶縁膜19,第1の基板10,絶縁層26を貫通した直径50umのビアホール(可動電極のビアホール14)が接続されており、ビアホール14はメアンダラインからなるインダクタ29に接続され、制御回路30によって可動電極17にDCバイアスを印加する構造となっている。可動電極17のビアホール14に接続されるインダクタ29は本実施例1のアンテナで使用される周波数帯(17GHzと63GHz)では、ほぼ絶縁性となるインダクタンスを持っている。
【0040】
また、給電素子13,無給電素子12にも第1の基板10,絶縁層26を貫通した直径50umのビアホール(素子のビアホール16)が接続されており、ビアホール16はメアンダラインからなるインダクタ29に接続され、制御回路30によって給電素子13と無給電素子12にDCバイアスを印加する構造となっている。尚、インダクタ29は本実施例1のアンテナで使用される周波数帯(17GHzと63GHz)では、ほぼ絶縁性となるインダクタンスを持つ形状となっている。
図3は、第1のスイッチのON/OFF動作の一例を示す説明図である。
第1のスイッチ11をOFF状態にするためには、制御回路30によりインダクタ29とビアホールを介して給電素子13と無給電素子12にOVを印加し、可動電極17にも0Vを印加する。これにより、素子(給電素子13と無給電素子12)と可動電極17は、同一電位になり静電引力が発生しない。その結果、可動電極21は絶縁膜24との間に3umのair gapを保持したまま配置されることになり、給電素子13と無給電素子12の間は遮断状態となる。同様にして、全ての第1のスイッチをOFF状態とすると、給電素子13は全ての無給電素子12と分離され、本実施例1のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナは給電素子13のみで動作する。その結果、共振長はL1となり、高周波(63GHz)対応が可能になる。
【0041】
一方、第1のスイッチ11をON状態にするためには、制御回路30によってインダクタ29とビアホール14,16を介して給電素子13と無給電素子12に+15Vを印加し、可動電極17には-15Vを印加する。これにより、素子(給電素子13と無給電素子12)と可動電極17は逆極性となり静電引力が発生し、可動電極17は長手方向の中心部が凹型に変形して絶縁膜19と接触してair gapがなくなる。ここで、可動電極17の幅は給電素子13,無給電素子12の端部とオーバーラップしているため、容量結合によって可動電極17と素子12,13は導通する。その結果、隣接した素子(給電素子13と無給電素子12)は第1のスイッチ11を介して接続された状態となる。同様にして、全ての第1のスイッチ11をON状態とすると、給電素子13と無給電素子12は全て接続されて1個の矩形の放射素子を形成し、本実施例1のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナは共振長がL3となり、低周波(17GHz)に対応できる。
以上のように、本実施例1の構造を採用すると、第1のスイッチ11のON/OFFの組み合わせによって2周波に対応できる。
【0042】
また、本実施例1の第1のスイッチ11のON/OFF比は約40であり、17GHzと63GHzの両方で良好なON/OFF比が得られた。本実施例1の第1のスイッチ11では隣接した素子(給電素子13または無給電素子12)間に固定電極がなく、素子(給電素子13,無給電素子12)自体を固定電極として用いる。そのため、隣接した素子をある程度離すことによって寄生容量Cpを十分低減でき、従来のMEMSスイッチ(図18参照)で見られたような固定電極を介してのRF信号のリークを抑制できる。その結果、給電素子13や無給電素子12を接続するスイッチ(つまり第1のスイッチ11)のアイソレーション特性が改善され、第1のスイッチ11を全てOFFにして高周波で動作させた場合も損失を小さくでき、受信アンテナとして用いる場合は大きな受信電力が得られ、送信アンテナとして用いる場合は大きな送信電力が得られる。
【0043】
更に、第1のスイッチ11をONにして可動電極21を放射素子の一部として機能させた場合、可動電極21に対して誘電体に相当する部材は第1の基板10と絶縁膜19であるが、絶縁膜19は第1の基板10に対して非常に薄いため第1の基板10のみを誘電体として考えても良い。そのため、ON状態では第1のスイッチ11の領域での誘電体の実効誘電率や厚さは給電素子13あるいは無給電素子12を形成している基板の実効誘電率や厚さとほぼ同じとなり、第1のスイッチ11の部分での反射が抑制できる。
また、本実施例1で用いられたビアホール14,16に接続されるインダクタ29は、本実施例1のアンテナで使用する周波数でほぼ絶縁性を示すため、インダクタ29を介して素子12,13や可動電極17にはDCバイアスは印加できるが、RF信号はインダクタ29で遮断される。そのため、インダクタ29が接続されている制御回路30にRF信号が入らないので、制御回路30で誤動作が起こりにくく、第1のスイッチ11のON/OFFをCPU等の演算回路の命令通りに実行できる。
【0044】
尚、本実施例1では、第1のスイッチ11をON状態にするために素子12,13と可動電極17に逆極性のDCバイアスを印加したが、一方の電極に0Vを印加し他方の電極に正または負のDCバイアスを印加して駆動電極と素子間の静電引力によって駆動電極を素子端部を被覆する絶縁膜と接触させ、容量結合によって素子間を導通させても良い。例えば、給電素子13と無給電素子12にOVを印加し可動電極21に+30Vを印加すると、素子(給電素子13と無給電素子12)と可動電極21間には同等の静電引力が発生するので、可動電極21は長手方向の中心部が凹型に変形して絶縁膜24と接触してair gapがなくなり、容量結合によって導通してON動作を実現できる。同様に、給電素子13と無給電素子12に-3OVを印加し、可動電極21に0Vを印加してもON動作が可能である。
【0045】
(実施例2)
図4は、本発明の実施例2に係るマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの構造図である。
本実施例2のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナは、実施例1のアンテナの給電点15に切替スイッチ23によって接続される整合回路22を設けたものである。整合回路22はスタブによるキャパシタ,インダクタ,キャパシタ(C,L,C)を用いたπ型整合回路を用いた。
実施例1のアンテナは、第1のスイッチ11のON/OFFの組み合わせによって高周波(63GHz)と低周波(17GHz)に対応可能であるが、給電点15が1箇所であるため1つのバンドでしか整合を取ることができず、他方のバンドでは大きな反射損失が生じる。本実施例2では、給電点15に切り替えスイッチ23よって接続される整合回路22を設けているので、高周波と低周波の両方で整合が実現できる。
【0046】
例えば、第1のスイッチ11を全てOFF状態として63GHz対応とした場合のアンテナの入力インピーダンスがRF回路36の出力インピーダンスと一致するように給電点15の位置を設定した場合、整合回路22のC,L,Cの各定数を低周波対応(第1のスイッチ11を全てON状態にする)にした場合のアンテナの入力インピーダンスをRF回路36の出力インピーダンスと整合するように予め設定しておく。
63GHz対応(第1のスイッチ11を全てOFFにして給電素子13のみで動作)では、RF回路36とアンテナが直結するように切り替えスイッチ23を設定すると、本実施例2のアンテナの入力インピーダンスはRF回路36の出力インピーダンスと一致するので反射を抑制できる。
一方、17GHz対応(第1のスイッチ11を全てON状態にして1個の放射素子を形成する)の場合は、RF回路36とアンテナの間に整合回路22が入るように切り替えスイッチ23を設定すると、アンテナの入力インピーダンスは本実施例2の整合回路22によってRF回路36の出力インピーダンスに整合されるので、低周波対応でも反射を抑制できる。
【0047】
以上のように、本実施例2の構造を採用すると、給電点15を1個とした場合も低周波(17GHz)と高周波(63GHz)の両方で整合が可能となり、2周波で良好な送受信が可能となる。
本実施例2ではπ型整合回路を用いたが、本発明に使用できる整合回路22としては比較的周波数が低い場合はキャパシタやインダクタの集中定数素子をL型,π型,T型に構成した回路を用いることができ、高周波の場合はスタブ等の分布定数回路をL型,π型,T型に構成した回路やλ/4変成器を用いることができる。また、移相器とキャパシタによって整合回路22を構成してもよく、一般的に知られている整合回路22をアンテナの共振周波数に合わせて使い分ければ良い。
【0048】
(実施例3)
図5は、本発明の実施例3に係るマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの構造図である。
本実施例3のアンテナは3周波(17GHz,28GHz,63GHz)に対応し、全ての周波数帯で整合が可能である。
本実施例3のマルチバンド対応マイクロストリップアンテは、実施例1のアンテナの給電点15に定数が可変できる整合回路35を設けたアンテナであり、整合回路35は可変移相器とバラクタダイオードから構成されている。
全ての第1のスイッチ11をOFF状態にすると、給電素子13のみで動作する。その時の放射素子を放射素子A(図中の点線で囲まれた領域)32とすると、放射素子A共振長はL1で63GHz対応となる。
【0049】
第1のスイッチ11のON/OFFの組み合わせによって、給電素子13を含み3×2素子アレイを接続して矩形の放射素子B(図中の一点鎖線で囲まれた領域)33を形成した場合、共振長はL2で共振周波数は28GHzとなる。また、全ての第1のスイッチ11をON状態にすると、3×3素子アレイが接続されて矩形の放射素子C(図中の二点鎖線で囲まれた領域)34が形成される。放射素子Cの共振長はL3で、共振周波数は17GHzである。
本実施例3では、整合回路35を構成する可変移相器とバラクタダイオードの定数が可変にできるため、第1のスイッチ11のON/OFFの組み合わせによって放射素子A〜Cを形成した場合も、可変移相器,バラクタダイオードの定数を適切に選択することによって各放射素子の入力インピーダンスをRF回路36の出力インピーダンスと整合することができ、3周波で反射が抑制でき良好な送受信が行える。
【0050】
以上のように、本実施例3の構造を採用すると、実施例2のアンテナよりも多くの周波数帯に対応できるようになる。尚、本実施例3では3×3素子アレイを用いたため3周波対応となっているが、給電素子13の回りにより多くの無給電素子12を配置し、第1のスイッチ11によって給電素子13,無給電素子12を接続できる構造とすると、より多くの周波数帯に対応できるマルチバンド対応アンテナが実現でき、USパテント第6198438号のように給電点15の数によって対応できる周波数の数が制限されることはない。
本実施例3では、可変移相器とバラクタダイオードによって整合回路35を構成したが、定数が可変できる素子としては近年ではMEMSによる可変キャパシタや可変インダクタも鋭意研究されている。MEMSによる可変キャパシタ,可変インダクタの可変範囲が整合回路として要求される範囲を満たしていれば、可変キャパシタ,可変インダクタも本発明の整合回路35に使用可能である。
【0051】
(実施例4)
本実施例4のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナは、実施例3と同様の構造において、第1のスイッチ11は隣接する素子(給電素子13または無給電素子12)の対向する辺のほぼ全面で接続できる構造を持つアンテナである。
本実施例4のマルチバンド対応マイクロストリップアンテは、18GHz,29GHz,63GHzの3周波に対応しており、比誘電率3.9,厚さ525umの石英基板からなる第1の基板10の下面にCuからなる地板25が形成されており、地板25の下にはSiO2からなる絶縁層26が形成されている。
また、第1の基板10の上面には、Au/Cuパターンからなる1個の矩形の給電素子13と、給電素子13を取り囲む矩形の無給電素子12がマトリックス状に8個配置されている。給電素子13と無給電素子12の大きさは同一であり、励振方向の長さ(L1)は1.1mm,励振方向と直交する方向の長さ(W1)も1.1mmとなっている。
【0052】
給電素子13と無給電素子12、及び隣接した無給電素子12間は第1のスイッチ11によって接続できる構造となっており、第1のスイッチ11は隣接した素子(給電素子13または無給電素子12)の端部がSiO2によって被覆されており、かつ絶縁膜24上には空中に保持されたAu/Cuからなる可動電極17が設けられている。可動電極17の幅(短手方向の長さ)は第1のスイッチ11に隣接した素子(給電素子13または無給電素子12)の端部とオーバーラップしている。
また、第1のスイッチ11に隣接した素子(給電素子13または無給電素子12)と可動電極17にはビアホール14,16が設けられており、前記のビアホール14は地板25の下にある絶縁層26上に形成されたスパイラルインダクタ29に接続され、制御回路30によって第1のスイッチ11に隣接した素子と可動電極17に各々別のDCバイアスが印加できる構造となっている。
また、給電点には可変移相器とバラクタダイオードから構成された整合回路が接続されており、可変移相器,バラクタダイオードの定数を適切に選ぶことによって3周波とも整合が可能である。
【0053】
図6は、本発明の実施例4に係る第1のスイッチの詳細構造図である。
給電素子13と無給電素子12の端部はSiO2からなる絶縁膜24(厚さ0.3um)で被覆されており、素子12,13間にも前記の絶縁膜24が形成されている。前記絶縁膜24の両端にはSi3N4(厚さ3um)からなる四角柱状の可動電極支持部18が設けられており、絶縁膜24上に3umのair gapを介してAu/Cuからなる可動電極17を空中で保持する構造となっている。ここで可動電極31と素子のオーバーラップする面積は5×1100umであり、隣接する素子12,13の一辺と同じ長さになっている。
また、可動電極17,給電素子13,無給電素子12には直径50umのビアホール(可動電極のビアホール16と素子のビアホール14)が接続されており、ビアホール14,16はスパイラルインダクタ29に接続され、制御回路30によって可動電極17,素子12,13にDCバイアスを印加する構造となっている。尚、上記スパイラルインダクタ29は、本実施例4のアンテナで使用される周波数帯(18GHz,29GHz,63GHz)でほぼ絶縁性となるインダクタンス値となっている。
【0054】
制御回路30により給電素子13と無給電素子12に+15Vを印加し、可動電極17には-15Vを印加する。これにより、素子(給電素子13と無給電素子12)と可動電極17は逆極性となり静電引力が発生し、可動電極17は長手方向の中心部が凹型に変形して絶縁膜24と接触してair gapがなくなる。ここで、可動電極17と隣接する素子のオーバーラップする長さは素子の一辺の長さと等しいので、容量結合によって可動電極31と素子12,13は素子の辺の全てで導通することになり、隣接する素子12,13は第1のスイッチ11を介して対向する辺のほぼ全面で接続される。
その結果、本実施例4のアンテナを低周波対応(第1のスイッチ11によって3×3素子を接続、共振周波数は18GHz)、あるいは、中周波対応(第1のスイッチによって3×2素子を接続、共振周波数は29GHz)で用いた場合、接続された素子によって形成される矩形の放射素子の内部に発生する4個の第1のスイッチで囲まれた空隙は実施例3よりも小さくなる。そのため、第1のスイッチ11のON/OFFによって形成される矩形の放射素子に流れる電流は放射素子内部の空隙で制限されにくくなり、実施例3よりも低周波帯,中周波数帯での帯域幅を改善できる。
【0055】
(実施例5)
図7は、本発明の実施例5に係るマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの構造図である。
本実施例5のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナは、実施例4を更に改良したアンテナであり、第1のスイッチ11は他の第1のスイッチ11と対向する先端部分の形状をV字形状に延長し、対向する4つの第1のスイッチ11の間隔がX字状になっている。
給電素子13と無給電素子12の端部は、SiO2からなる絶縁膜24で被覆されている。前記絶縁膜24の両端には、Si3N4からなる四角柱状の可動電極支持部20が設けられており、絶縁膜24上に3umのair gapを介してAu/Cuからなる可動電極17を空中で保持している。ここで、可動電極17は他の第1のスイッチと対向する先端部分の形状がV字形状に延長されており、対向する4つの第1のスイッチの間隔はX字状になっている。
【0056】
制御回路30により給電素子13と無給電素子12に+15Vを印加し、可動電極17には-15Vを印加すると、素子(給電素子13と無給電素子12)と可動電極17は逆極性となり静電引力が発生して、可動電極17は長手方向の中心部が凹型に変形して絶縁膜24と接触してair gapがなくなる。ここで、可動電極17は他の第1のスイッチ11と対向する先端部分の形状がV字形状に延長されており、対向する4つの第1のスイッチ11の間隔はX字状になっているため、第1のスイッチ11のON/OFFの組み合わせによって形成される矩形の放射素子の内部には4個の第1のスイッチ11によって囲まれる空隙がほとんど発生しない。その結果、本実施例5のアンテナを低周波対応(第1のスイッチ11によって3×3素子を接続,共振周波数は18GHz) ,中周波対応(第1のスイッチ11によって3×2素子を接続,共振周波数は29GHz)で用いた場合、矩形の放射素子に流れる電流は空隙による制限が更に小さくなり、実施例4よりも低周波帯,中周波数帯での帯域幅を更に改善できる。
【0057】
(実施例6)
図8(a)(b)は、本発明の実施例6に係るマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの構造図である。(a)は上面図、(b)は断面図を示している。
本実施例の6アンテナは、実施例3の構造に加え、各無給電素子12に容量結合によって地板25と短絡する第2のスイッチ21が設けられている。
アンテナの構造を説明すると、比誘電率3.9,厚さ525umの石英基板からなる第1の基板10の下面にCuからなる地板25が形成されており、地板25の下にはSiO2からなる絶縁層26が形成されている。また、第1の基板10の上面にはAu/Cuパターンからなる1個の矩形の給電素子13と、給電素子13を取り囲む矩形の無給電素子12がマトリックス状に8個配置されている。給電素子13と無給電素子12の大きさは同一であり、励振方向(L1),励振方向と直交する方向(W1)とも1.1mmとなっている。尚、給電素子13と無給電素子12のピッチは63GHz対応の波長λoで0.40λoである。
また、給電素子13の給電点15には可変移相器とバラクタダイオードから構成された整合回路(図示なし)が設けられており、可変移相器やバラクタダイオードの定数を適切に選ぶことによって、3周波(17,28,63GHz)の全てで整合を取ることができる。
【0058】
また、隣接した素子(給電素子13または無給電素子12)間は、第1のスイッチ11によって接続できる構造となっており、全ての第1のスイッチ11がOFFの場合は共振長がL1の放射素子A、第1のスイッチ11のON/OFFの組み合わせによって給電素子13を含み3×2素子アレイが接続された場合は共振長がL2の矩形の放射素子B、全ての第1のスイッチ11がONとなり3×3素子アレイが接続された場合は共振長がL3となる矩形の放射素子Cが形成される。
第1のスイッチ11は、実施例3と同様に隣接した素子の端部がSiO2からなる絶縁膜A24によって被覆されており、かつ絶縁膜A24上にはSi3N4からなる四角柱状の2個の可動電極支持部A(図示せず)があり、Au/Cuからなる可動電極A17の両端を空中で保持する構造となっている。可動電極A17の幅(短手方向の長さ)は第1のスイッチ11に隣接した素子の端部とオーバーラップしている。
【0059】
また、第1のスイッチ11に隣接した素子と可動電極A17にはビアホール(可動電極Aのビアホール14,素子のビアホール16)が設けられており、前記ビアホール14,16は実施例3と同様に絶縁層26上に形成されたメアンダラインからなるインダクタ(図示せず)に接続され、制御回路(図示せず)によって第1のスイッチ11に隣接した素子と可動電極A17に各々別のDCバイアスが印加できる構造となっている。尚、インダクタは本実施例6のアンテナで使用される周波数帯(17GHz,28GHz,63GHz)では、ほぼ絶縁性を示すインダクタンス値となっている。
更に、無給電素子12には、地板25と短絡する第2のスイッチ21が設けられている。
【0060】
図9は、第2のスイッチ21の詳細な構造図である。(a)は正面図、(b)はA−A’断面図、(c)はB−B’断面図である。
第2のスイッチ21は、絶縁層26上に形成されたAu/Cuからなる固定電極B46と、第2のスイッチのビアホール44によって無給電素子12と接続されたリードB42と第2のスイッチのビアホール44によって地板25と接続されたリードB42と、リードB42,Bの端部を被覆するSiO2からなる絶縁膜B24と、絶縁膜B24上に2umのair gapを介して保持されている可動電極B17から構成されている。可動電極B17はコンタクト電極B41と上部電極B45が絶縁層B24を介して接続されており、ヒンジB47によって空中に保持されている。
【0061】
ここでコンタクト電極B41はリードB42,B'43とオーバーラップするように形成しておく。
また、可動電極B17の上部電極B45と固定電極B46は対向して設置されており、図示されていない別々のDCバイアスラインによって別々のDCバイアスが印加できる構造となっている。
次に、第2のスイッチ21をON/OFFの動作について説明する。
上部電極B45に+15V, 固定電極B46に-15Vを印加すると、上部電極B45と固定電極B46は逆極性になるため静電引力が発生する。その結果、ヒンジB47が変形し、コンタクト電極B41が絶縁膜B24に接触しair gapが無くなる。ここで、コンタクト電極B41とリードB42,B'43はオーバーラップしているので、容量結合によって導通する。そのため、リードB42に接続された無給電素子12はリードB42と接続された地板25と容量結合によって短絡するようになる。一方、上部電極B45に0V, 固定電極B46に0Vを印加すると、上部電極B45と固定電極B46には電位差がなくなり、上部電極B45と固定電極B46間に静電引力が発生しないので、ヒンジの剛性によって可動電極が元に戻り、コンタクト電極B41と絶縁膜B24の間に2umのair gapが生じて第2のスイッチ21はOFFとなり、リードB42に接続された無給電素子12はリードB42と接続された地板25と開放状態となる。
尚、第2のスイッチ21は絶縁膜B24を介して容量結合によってON/OFF動作をするため、無給電素子13に供給される第1のスイッチ11をON/OFF動作するためのDCバイアス(無給電素子のビアホール14を介して無給電素子12に供給されるDCバイアス)には影響を与えない。
【0062】
ここで、全ての第1のスイッチ11をOFFとして給電素子A13のみで動作させるについて考える。給電素子13と無給電素子12は0.40λoで配置されているので、給電素子13と無給電素子12には大きな相互結合が生じ、無給電素子12には給電素子13から放射されるY方向の直線偏波を受けてY方向で励振され、給電素子13と同じ共振周波数を持つY方向の直線偏波を生じる。給電素子13と無給電素子12のピッチが0.40λoの場合は無給電素子13の電圧は給電素子13の電圧よりも位相が遅れ、無給電素子12は導波器として作用する。
ここで、第2のスイッチ21が全てOFFの場合は、給電素子13を取り囲む8個の無給電素子12は給電素子13と対称に配置されているので各々の無給電素子12の影響は打ち消され、本実施例6のアンテナの放射パターンは天頂方向を向くことになる。
【0063】
図10は、本発明の実施例6に係るアンテナの指向制御の説明図である。
図10に示すように、8個の無給電素子12のうち給電素子13に対し+X方向にある無給電素子12に接続された第2のスイッチ21のみをOFFとし、他の第2のスイッチ21をONとすると、給電素子13の+X側にある無給電素子12のみが地板25と開放され、他の無給電素子12は地板25と短絡する。地板25と短絡された無給電素子12は給電素子13との相互結合によって励起される電圧が小さくなるため、本実施例6のアンテナの放射パターンは主に給電素子13と+X側にある無給電素子12のみで決まり、放射パターンは天頂から+X側に20〜30°傾くようになる。
以上のように、本実施例6の構造を採用すると、高周波対応(全ての第1のスイッチ11をOFFとして給電素子13のみで動作,共振周波数は63GHz)とした場合は、第2のスイッチ21のON/OFFの組み合わせによって放射パターンを天頂から傾かせることができ、指向性制御が実現でき、所望波の方向に対して利得を増加させることができ、より良好な送受信が行える。
【0064】
尚、本実施例6では3×3素子アレイを用いたため、高周波対応の場合にのみ第2のスイッチ21によって指向性制御が実現できるが、給電素子13の周りにより多くの無給電素子12でマトリックス状に配置し、無給電素子12に第2のスイッチ21を設けると、第1のスイッチ11によって給電素子13と無給電素子12を接続して矩形の放射素子を形成して中間周波数対応とした場合、第1のスイッチ11によって無給電素子同士を接続して、前記の矩形の放射素子と同じ励振長を持たせた無給電素子12を形成し、その無給電素子12に接続された第2のスイッチ21をON/OFFすることによって、中周波数対応においても指向性制御が可能となる。
更に、本実施例6では8個の無給電素子全てに第2のスイッチ21を設けたが、無給電素子12の一部のみに第2のスイッチ21を設けても、ある程度の指向性制御が可能であるので、本発明に含まれるものとする。
【0065】
(実施例7)
図11は、本発明の実施例7に係る無線モジュールの構造図である。
本実施例7の無線モジュールは、実施例6のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナを用いている。また、アンテナを構成している絶縁層25の下層にはGaAs基板からなる第2の基板40が積層された構造を持ち、第2の基板40上には17,28,63GHzに対応したフロントエンド回路39が構成され、絶縁層26と第2の基板40を貫通するビアホール38によってフロントエンド回路39と給電素子13が接続されている。
本実施例7の無線モジュールは、実施例6のアンテナを用いているので、第1のスイッチ11のON/OFFによって3周波(17,28,63GHz )に対応できる。また、17GHz対応ではX,Yの2次元で指向性制御が可能である。
【0066】
そのため、1個の無線モジュールで複数の周波数規格に対応でき、無線モジュールを低コスト化できる。また、17GHzの規格では所望波の方向にアンテナの最大放射角を向けることによって大きな利得を実現でき、更に良好な送受信が行える。また、アンテナはマイクロストリップアンテナ構造であり、平面構造をしているため無線モジュールを小型化できる。更に、アンテナの下方に第2の基板を積層し、第2の基板にフロントエンド回路を設けているため、更に小型な無線モジュールを実現できる。
尚、本実施例7では第2の基板40にフロントエンド回路39のみを実装したが、フロントエンド回路39とベースバンド回路の両方を実装してもよく、フロントエンド回路39とベースバンド回路の一部を実装しても同様に無線モジュールを小型化できる。
【0067】
図12は、本発明の無線システム一例を示す図である。
本実施例では、図11に示す無線モジュールを使用しており、アンテナ50は送信系・受信系を切替える送受信切替えスイッチ56に接続されている。所望の周波数,指向性に従って制御回路53によって第1,第2のスイッチのON/OFFの組み合わせを設定する。その後、制御回路53から制御信号Aを第1のスイッチのバイアス発生回路51に与えて所定のバイアスを発生し、第1のスイッチのON/OFFを行い、給電素子13,無給電素子12の接続/遮断を行ない、所望の周波数で共振する矩形の放射素子を形成する。また、17GHz対応の場合は制御回路53から制御信号Bを第2のスイッチのバイアス発生回路52に与えて所定のバイアスを発生し、第2のスイッチのON/OFFを行い、所望の無給電素子12を地板と短絡する。また、制御回路53から制御信号Cを送受信切替えスイッチ56に与えて17,28,63GHzの送受信回路から所望の回路を選択する。
【0068】
以上のように、本実施例の無線システムは、第1〜第2のスイッチのON/OFFの組み合わせによって3周波対応が可能であり、17GHz対応では2次元での指向性制御も実現できる。そのため、1個の無線システムで3個の周波数規格に対応でき、無線システムを低コスト化できる。更に、17GHzの規格では高い利得を実現でき、良好な送受信が行える。また、本実施例の無線システムは、マイクロストリップアンテナから構成される小型な無線モジュールを用いているため小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施例1に係るマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの構造図である。
【図2】実施例1の第1のスイッチの詳細を示す構造図である。
【図3】実施例1の第1のスイッチのON/OFF動作を説明する図である。
【図4】本発明の実施例2に係るマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの構造図である。
【図5】本発明の実施例3に係るマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの構造図である。
【図6】本発明の実施例4に係る第1のスイッチの詳細を示す構造図である。
【図7】本発明の実施例5に係る第1のスイッチの詳細を示す構造図である。
【図8】本発明の実施例6に係るマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの構造図である。
【図9】実施例6に係る第2のスイッチの詳細構造図である。
【図10】実施例6の指向性制御の説明図である。
【図11】本発明の実施例7に係る無線モジュールの構造図である。
【図12】本発明の実施例8に係る無線システムの構造図である。
【図13】従来例(特開2000-236209号公報)の説明図である。
【図14】従来例(特開2002-261533号公報)の説明図である。
【図15】従来例(特開2003-124730号公報)の説明図である。
【図16】従来例(USパテント6198438号)の説明図である。
【図17】従来のMEMSスイッチの構造の一例を示す図である。
【図18】従来のMEMSスイッチの構造の別の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
10 第1の基板
11 第1のスイッチ
12 無給電素子
13 給電素子
14 可動電極のビアホール
15 給電点
16 素子のビアホール
17 可動電極
18 可動電極支持部
21 絶縁膜B
22 整合回路
23 切替スイッチ
24 絶縁膜
25 地板
26 絶縁層
27 第1の基板
28 給電線
29 絶縁層上のインダクタ
30 制御回路
32 放射素子A
33 放射素子B
34 放射素子C
35 定数が可変の整合回路
36 RF回路
37 整合回路
38 ビアホール
39 フロントエンド回路
40 第2の基板
41 コンタクト電極B
42 リードB
43 リードB’
44 第2のスイッチのビアホール
45 上部電極B
46 固定電極B
47 ヒンジB
48 無給電素子
49 素子のビアホール
50 アンテナ
51 第1のスイッチのバイアス発生回路
52 第2のスイッチのバイアス発生回路
53 制御回路
54 受信系
55 送信系
56 送受信切替スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の誘電体の上面に配置された矩形の給電素子と、該給電素子を取り囲む矩形の無給電素子とがマトリックス状に配置され、該給電素子と該無給電素子、及び隣接した該無給電素子間は第1のスイッチによって接続され、矩形の放射素子を形成する構造を有するマルチバンド対応マイクロストリップアンテナにおいて、
前記第1のスイッチは、隣接した給電素子または無給電素子の端部を被覆する絶縁膜、および、該絶縁膜上に空中に保持された可動電極を備え、
更に、前記隣接した給電素子または無給電素子と可動電極は、DCバイアスが印加できる構造を有することを特徴とするマルチバンド対応マイクロストリップアンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナにおいて、
前記隣接した給電素子または無給電素子、可動電極に設けられたDCバイアスを印加できる構造は、ビアホールとインダクタからなり、かつ前記インダクタはマルチバンド対応マイクロストリップアンテナで使用される周波数でほぼ絶縁性となるインダクタンスを持つことを特徴とするマルチバンド対応マイクロストリップアンテナ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの制御方法において、
前記第1のスイッチをON状態にする場合、前記第1のスイッチに隣接した給電素子または無給電素子と可動電極に逆極性のDCバイアスを印加し、該可動電極と素子間の静電引力によって該可動電極を前記素子端部を被覆する絶縁膜と接触させ、容量結合によって素子間を導通させることを特徴とするマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの制御方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの制御方法において、
前記第1のスイッチをON状態にする場合、前記第1のスイッチに隣接した給電素子または無給電素子と可動電極の一方に0Vを印加し、他方に正または負のDCバイアスを印加し、該可動電極と素子間の静電引力によって該可動電極を前記素子端部を被覆する絶縁膜と接触させ、容量結合によって素子間を導通させることを特徴とするマルチバンド対応マイクロストリップアンテナの制御方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナにおいて、
前記給電素子の給電点には、切り替えスイッチによって該給電点に接続される整合回路を設けたことを特徴とするマルチバンド対応マイクロストリップアンテナ。
【請求項6】
請求項1または2に記載のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナにおいて、
前記給電素子の給電点には、定数が可変できる整合回路を接続したことを特徴とするマルチバンド対応マイクロストリップアンテナ。
【請求項7】
請求項1,2,5,6のいずれかに記載のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナにおいて、
前記第1のスイッチは、隣接する給電素子または無給電素子の対向する辺のほぼ全面で接続される構造を有することを特徴とするマルチバンド対応マイクロストリップアンテナ。
【請求項8】
請求項7に記載のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナにおいて、
前記第1のスイッチは、他の第1のスイッチと対向する先端部分の形状をV字形状に延長し、対向する4つの第1のスイッチの間隔がX字状になるようにしたことを特徴とするマルチバンド対応マイクロストリップアンテナ。
【請求項9】
請求項1,2,5〜8のいずれかに記載のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナにおいて、
前記無給電素子の少なくと一部には、容量結合によって地板と短絡する第2のスイッチが設けられていることを特徴とするマルチバンド対応マイクロストリップアンテナ。
【請求項10】
請求項1,2,5〜9のいずれかに記載のマルチバンド対応マイクロストリップアンテナを用いたことを特徴とする無線モジュール。
【請求項11】
請求項10の無線モジュールを使用したことを特徴とする無線システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−261801(P2006−261801A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73421(P2005−73421)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】