説明

マルチビーム走査光学装置及びそれを用いた画像形成装置

【課題】 合成ビームの光量低下、スポット径の劣化等を抑えることができるマルチビーム走査光学装置及びそれを用いた画像形成装置を得ること。
【解決手段】 出射光が直線偏光で偏光方向が同一方向に揃えて配置された複数の光源手段と複数の光束を合成するビーム合成手段と複数の光束を主走査方向に偏向する偏向手段と複数の光束を被走査面上に導光する結像光学手段とを有し、ビーム合成手段は複数のプリズムが貼り合わされた複合プリズムと複数の光源手段から出射した複数の光束のうち1つの光束が複合プリズムに入射するときの入射側に配置した1/2波長板と複数のプリズムが貼り合わされた面に偏光ビームスプリッタの機能を備えており、1/2波長板は入射光束が1/2波長板の法線に対して2度の範囲でずれた場合に1/2波長板の位相差変化が設計値の位相差(180度)から12度以下となるように構成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチビーム走査光学装置及びそれを用いた画像形成装置に関し、例えばデジタル複写機やレーザビームプリンタやマルチファンクションプリンター(多機能プリンタ)等の画像形成装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりデジタル複写機やレーザビームプリンタやマルチファンクションプリンター等の走査光学装置では走査の高速化が種々と行われている。このうち複数の光束を同時に被走査面上に導光し、副走査方向に所定の間隔で結像させ、複数の走査線を同時に形成して走査の高速化を実現する「マルチビーム走査光学装置」が知られている。
【0003】
ここで複数の光束の生成法としては、複数の発光点を微小間隔に集積したモノリシックなマルチビームレーザを用いる方式がある。この他、複数の光源(レーザー)から出射した複数の光束をビーム合成手段(合成光学系)を用いて略同一方向に出射するように合成する方式がある。
【0004】
前者の方式は発光点を微小間隔で集積するため発光点の位置決め精度が高く、ビーム間の相対的なずれによる走査線間隔のずれが少ない。
【0005】
しかしながら発光点の集積化により相互の熱的、電気的な干渉が発生するため、ビーム品質を安定させることが難しく、集積できる発光点の数に限度がある。
【0006】
一方、後者は複数の独立した光源から出射した複数の光束を合成光学系で合成し近接して合成できるため、該光源を微小間隔で集積するのと同等の効果が得られる。また光源の数にも制限は無くマルチ化による高速化という点で有利である。
【0007】
一般にマルチビーム走査光学装置において良好なる光走査を実現するには被走査面上を走査する走査線の副走査方向の間隔を一定にしなければならない。特にビーム合成手段では光源とコリメータレンズとが相対的に副走査方向にずれたり、または光源とコリメータレンズの複数のペアが相対的に副走査方向へ傾くような姿勢変化が生じることがある。このような場合は複数の走査線の各走査線間隔が異なり、画像が劣化してしまうという問題点が生じてくる。
【0008】
このため合成光学系を用いる方式では走査線の間隔を初期調整において、十分な精度で所定の走査線間隔に合わせることができる機構(調整手段)が必要である。また機械的な振動や昇温などの環境変化による走査線間隔の経時変化に対しても走査線間隔を所定の範囲に維持するための機構が必要である。
【0009】
このような課題に対して本出願人は先に調整敏感度の異なる調整機構を有するマルチビーム走査光学装置を提案している(特許文献1参照)。
【0010】
特許文献1は合成ビームの利用効率を揃えるために合成する複数の半導体レーザから出射される光束の偏光方向を揃えている。そして集束レンズ(コリメータレンズ)で変換された収束光束または発散光束をビーム合成手段としての複合プリズム(合成プリズム)に入射させている。複合プリズムは2つのプリズムが張り合わされて構成されている。そして張り合わせ面に偏光ビームスプリッタとして機能する多層膜が形成されており(以下、この張り合わせ面を「偏光ビームスプリッタ面」と称す。)、P偏光を透過させ、S偏光を反射させて光束を合成している。そのために複合プリズムでは、一方の光束の偏光方向を90度回転させるために複合プリズムの2つの光線入射面のうち一方の光線入射面側に1/2波長板を備えている。
【0011】
さらに複合プリズムから出射する光束の偏光特性を揃えるために光線出射側に1/4波長板を備えている。これによって直線偏光を円偏光に変換して出射している。
【0012】
特許文献1における走査線間隔(ライン間隔)の調整はビーム合成手段としての複合プリズムを所定方向へ回転させることで、該複合プリズムから出射する複数の光束に副走査方向の高さの差を与えている。これにより走査線間隔を精度良く調整している。
【特許文献1】特開2004-163740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1では集束レンズから射出した収束光束または発散光束が複合プリズムの一方の光線入射面側に配された波長板に入射する。このため、該波長板に入射する光束の周辺光束はある角度(入射角≠0度)をもって入射する、即ち周辺光束は波長板に垂直入射しない。
【0014】
また光源(レーザー)が複数の発光点を有するモノリシックな光源を用いた場合は、集束レンズの光軸上にない光源が存在する。この光源からの光束は波長板へ垂直入射しない。さらに複数の発光点からの光束は書き出し位置タイミングをとるためにそれぞれ被走査面上において主走査方向に異なる位置に結像するよう調整されている。よって単一の発光点を有する光源を用いた場合でも集束レンズの光軸上にない発光点がどうしても存在してしまうので波長板へ垂直入射しない光束が発生する。
【0015】
さらに複合プリズムを主走査方向に平行な軸回りに回転して走査線間隔を調整する。このため、その調整により、該複合プリズムと一体化された波長板への入射光束は垂直入射の条件から外れてくる。
【0016】
一般に波長板は垂直入射する光束(入射角=0度)に対して所望の位相差が生じて出射するように設計、製造されているので入射角がδ(δ≠0度)の光束は所望の位相差からずれてくる。例えば1/2波長板は通過光束に位相差が180度(=λ/2)生ずるように設計されている。このため直線偏光を偏光方向が波長板の光学軸(進相軸または遅相軸)に対して45゜傾けて垂直入射させると90゜回転した直線偏光へ変換される。入射角δで入射する光束に対しては波長板を通過したときの位相差が(180+α)度(尚、αは位相差変化量)となり、90゜方向の直線偏光からわずかにずれた楕円偏光に変換される。この結果、複合プリズムの偏光ビームスプリッタ面を透過または反射する光束の光量損失ΔP(%)はΔP=(Sinα)2となる。
【0017】
光走査装置において収束光束または発散光束が波長板を透過する場合は1光束中において、このような光学的作用を受けるため周辺光束の光強度が低下し、被走査面における結像スポット径が大きくなる等の問題点が生じてくる。
【0018】
本発明は合成ビームの光量低下、スポット径の劣化等を抑えることができるマルチビーム走査光学装置及びそれを用いた画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1の発明のマルチビーム走査光学装置は、
出射光が直線偏光で偏光方向が同一方向に揃えて配置された複数の光源手段と、該複数の光源手段から出射した複数の光束を合成するビーム合成手段と、該ビーム合成手段から出射した複数の光束を主走査方向に偏向する偏向手段と、該偏向手段で偏向された複数の光束を被走査面上に導光する結像光学手段と、を有するマルチビーム走査光学装置において、
該ビーム合成手段は、複数のプリズムが貼り合わされた複合プリズムと該複数の光源手段から出射した複数の光束のうち1つの光束が該複合プリズムに入射するときの入射側に配置した1/2波長板と、該複数のプリズムが貼り合わされた面に偏光ビームスプリッタの機能を備えており、
該1/2波長板は、入射光束が該1/2波長板の法線に対して2度の範囲でずれた場合に該1/2波長板の位相差変化が設計値の位相差(180度)から12度以下となるように構成されていることを特徴としている。
【0020】
請求項2の発明は請求項1の発明において、
前記ビーム合成手段は主走査断面に平行な面内で回転調整可能な機構を有していることを特徴としている。
【0021】
請求項3の発明は請求項1の発明において、
前記1/2波長板に入射する光束と該1/2波長板の法線の成す入射角をδ(度)とするとき、
δ≦22(度)
なる条件を満足することを特徴としている。
【0022】
請求項4の発明は請求項1の発明において、
前記1/2波長板は、複数枚の複屈折性の光学部材を、その進相軸と遅相軸との向きを一致するように交互に重ねて形成されていることを特徴としている。
【0023】
請求項5の発明は請求項1乃至4の何れか1項の発明において、
前記ビーム合成手段は光線出射側に1/4波長板を備え、該1/4波長板に入射する光束と該1/2波長板の法線の成す入射角をγ(度)とするとき、
γ≦22(度)
なる条件を満足することを特徴としている。
【0024】
請求項6の発明の画像形成装置は、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のマルチビーム走査光学装置と、前記被走査面に配置された感光体と、前記マルチビーム走査光学装置で走査された光ビームによって前記感光体上に形成された静電潜像をトナー像として現像する現像器と、現像されたトナー像を被転写材に転写する転写器と、転写されたトナー像を被転写材に定着させる定着器とを有することを特徴としている。
【0025】
請求項7の発明の画像形成装置は、
請求項1乃至5の何れか1項に記載のマルチビーム走査光学装置と、外部機器から入力したコードデータを画像信号に変換して前記マルチビーム走査光学装置に入力せしめるプリンタコントローラとを有していることを特徴としている。
【0026】
請求項8の発明のカラー画像形成装置は、
各々が請求項1乃至5の何れか1項に記載のマルチビーム走査光学装置の被走査面に配置され、互いに異なった色の画像を形成する複数の像担持体とを有することを特徴としている。
【0027】
請求項9の発明は請求項8の発明において、
外部機器から入力した色信号を異なった色の画像データに変換して各々の光走査装置に入力せしめるプリンタコントローラを有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば合成ビームの光量低下、およびスポット径の劣化等を抑えることができるマルチビーム走査光学装置及びそれを用いた画像形成装置を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0030】
図1(A)は本発明の実施例1の主走査方向の要部断面図(主走査断面図)、図1(B)は図1(A)の副走査方向の要部断面図(副走査断面図)である。図2(A)は図1(A)に示した光学ユニット(マルチビーム光源ユニット)の主走査方向の要部断面図、図2(B)は図2(A)の副走査方向の要部断面図である。
【0031】
尚、以下の説明において、主走査方向とは回転多面鏡の回転軸及び結像光学系の光軸に垂直な方向(回転多面鏡で光束が反射偏向(偏向走査)される方向)である。副走査方向とは回転多面鏡の回転軸と平行な方向である。また主走査断面とは主走査方向と結像光学系の光軸を含む平面である。また副走査断面とは主走査断面と垂直な断面である。
【0032】
図中、31は光源ユニットであり、副走査方向に所定の間隔で並んで配置された第1、第2の2つの光源手段1,2と、2つの集束光学素子(集束レンズ)3,4を有する第1の光学系33とを有している。本実施例では第1、第2の2つの光源手段1,2と2つの集束レンズ3,4は一体化されて構成されている。尚、光源手段及びそれに対応する集束光学素子は3つ以上でも良い。
【0033】
第1、第2の光源手段1,2は各々半導体レーザより成り、共に図1(A)の紙面と平行方向に直線偏光(P偏光)を出射するように配置している。
【0034】
第1の光学系33を構成する集束レンズ3、4は各々対応する第1、第2の光源手段1,2から出射した光束を発散光束もしくは収束光束に変換している。本実施例では2つの集束レンズ3、4の光軸Lが互いに平行になるように配置している。
【0035】
5は開口絞りであり、入射光束を制限している。本実施例ではこの開口絞り5により光束を絞り、光束が不要な領域に出射しないようにしてフレアや散乱光が発生するのを防いでいる。
【0036】
6は1/2波長板であり、後述する平行プリズム7の入射面7aに配置されており、図3に示すように第1の光源手段1から出射した光束(P偏光)の偏光方向を紙面と垂直方向の直線偏光(S偏光)に変換している。
【0037】
本実施例における1/2波長板6は、垂直入射光に対する設計上の基準位相差を180゜とするとき、光線入射角±2度の範囲において、基準位相差からの位相差変化が±12度以下となるように形成されている。またこの1/2波長板6は、例えば2枚の複屈折性の光学部材を、その進相軸(光学軸)と遅相軸(光学軸)との向きを一致するように交互に重ねて形成されている。
【0038】
9はビーム合成手段(合成光学系)としての複合プリズム(合成プリズム)であり、光源ユニット31内の2つの光源1,2を出射した2つの光束を近接した2つの光束に合成している。本実施例におけるビーム合成手段9は平行プリズム7と三角プリズム8とが張り合わされた複合プリズムを有している。この平行プリズム7と三角プリズム8とが張り合わされた面7cには図3に示すように紙面に垂直な直線偏光(S偏光)を反射し、紙面に平行な直線偏光(P偏光)を透過する偏光ビームスプリッタとして機能する多層膜が形成されている。本実施例では平行プリズム7の射出面7dと三角プリズム8の入射面8aとが互いに平行と成るように構成している。
【0039】
26,30は各々第1、第2の調整手段であり、後述する第2の光学系としてのレンズ系(シリンドリカルレンズ)15に入射する2つの光束の各主光線の副走査方向の相対的間隔を変化させている。第1、第2の調整手段26,30は互いに異なる敏感度を有している。
【0040】
尚、敏感度とは単位回転角とそれに対する副走査方向のビーム位置の移動量との比のことである。
【0041】
第1の調整手段26は、光源ユニット31を集束レンズ3、4の光軸Lと平行な軸を回転軸として回転調整している。これにより第1、第2の光源手段1,2から出射した2つの光束の主光線の副走査方向の相対的間隔を変化させて、組み立て誤差等で生じる走査線間隔誤差を初期調整している。
【0042】
第2の調整手段30は、駆動機構を構成する駆動モータ27、駆動手段28、そして制御手段29を有し、複合プリズム9を後述する走査線間隔検出手段22からの信号により、該駆動機構で自動制御している。そして所定の走査線間隔が保持できるように主走査方向と平行な軸10を回転軸として回転調整することにより、環境変動や組立誤差による走査線間隔誤差を自動補正している。
【0043】
尚、複合プリズム9の回転は三角推状のネジを送ることにより、該複合プリズム9を保持するアームの高さを変える機構により所望の敏感度を確保し、十分な精度の初期調整を可能とする。
【0044】
11は1/4波長板であり、平行プリズム7の出射面7dに配置されており、図3に示すように偏光ビームスプリッタ面7cで合成された直交するP偏光とS偏光の2つの直線偏光を逆回りの2つの円偏光(右円偏光と左円偏光)に変換する機能を有している。合成されたビームを円偏光に変換しておくと偏向走査後に通過する光学部品の透過率、反射率の相対差を減少させ、被走査面上の同一像高に到達する2ビームの光量を揃えることができる。
【0045】
尚、1/2波長板6、平行プリズム7、三角プリズム8、偏光ビームスプリッタ面7c、1/4波長板11等の各要素はビーム合成手段9の一要素を構成している。
【0046】
また光源ユニット31、開口絞り5、ビーム合成手段9等の各要素は光学ユニット32の一要素を構成している。
【0047】
13は負の屈折力を有する負レンズであり、光学ユニット32を射出した光束を発散光束としている。14は開口絞りであり、通過光束を規制してビーム形状を成形している。15は第2の光学系としてのレンズ系(シリンドリカルレンズ)であり、副走査方向にのみ所定の屈折力を有している。16は折り返しミラーであり、シリンドリカルレンズ15を通過した光束の光路を光偏向器17側へ折り曲げている。17は偏向手段としてのポリゴンミラー(光偏向器)であり、モータ等の駆動手段(不図示)により図中矢印A方向に一定速度で回転している。
【0048】
24は第3の光学系としての結像光学系であり、第1、第2のfθレンズ18,19を含むfθレンズ系23とプラスチック材より成る長尺のシリンドリカルレンズ(長尺シリンドリカルレンズ)20とを有している。本実施例における第1のfθレンズ18は球面形状の負レンズより成っている。第2のfθレンズ19は主に主走査方向に屈折力を有するシリンドリカルレンズより成っている。fθレンズ系23はfθ特性と主走査方向の像面湾曲を有効走査領域にわたって良好に補正している。長尺シリンドリカルレンズ20は主に副走査方向に屈折力を有しており、ポリゴンミラー17の偏向面17aと被走査面21とを副走査断面内において共役関係にしている。これにより偏向面の面倒れによって被走査面としての感光ドラム面21上の照射位置がズレ、画像ピッチムラになることを防いでいる。また長尺シリンドリカルレンズ20は感光ドラム面21上における副走査方向の像面湾曲を抑え、かつ倍率を略一定に保ってスポット径の変動を抑えている。
【0049】
21は被走査面としての感光ドラム面である。
【0050】
22は走査線間隔検出手段であり、被走査面21近傍の走査領域外に設けており、走査線間隔(被走査面上に結像する複数の光束の副走査方向の間隔)を検出している。本実施例では走査線間隔検出手段22からの信号(誤差信号)に基づいて第2の調整手段30が複合プリズム9を回転させることにより走査線間隔を自動的に調整し、常に所定の走査線間隔が保たれるようにしている。
【0051】
ここで走査線間隔検出手段22は、例えば特開2000−180745号公報で開示されている方法が適用できる。
【0052】
また走査線間隔検出手段22は被走査面21上の走査開始のタイミングを2つの光束毎に制御する同期信号検出手段としての機能も兼ねており、これにより保持部品などを削減でき、部品点数の削減を図っている。
【0053】
本実施例において第1の光源手段1から出射した光束(P偏光)は集束レンズ3により発散光束もしくは収束光束に変換され、絞り5により制限され、1/2波長板6により紙面内の直線偏光(S偏光)に変換され、平行プリズム7の入射面7aから入射する。そして入射面7aから入射した光束は反射面7b、そして偏光ビームスプリッタ面7cで反射され、出射面7dから入射光束と平行な方向から出射する。
【0054】
一方、第2の光源手段2から出射した光束(P偏光)は集束レンズ4により発散光束もしくは収束光束に変換され、絞り5により制限されて三角プリズム8の入射面8aから入射する。そして入射面8aから入射した光束は偏光ビームスプリッタ面7cを透過し、平行プリズム7の出射面7dから出射する。
【0055】
そしてビーム合成手段9で合成された直交する2つの直線偏光は各々1/4波長板11により逆回りの2つの円偏光に変換され、負レンズ13を通って発散光束に変換され、絞り14によって制限され、シリンドリカルレンズ15を透過する。そしてシリンドリカルレンズ15を透過した2つの光束は折り返しミラー16で折り曲げられ、第2、第1のfθレンズ19,18の光軸上(ポリゴンミラーの偏向角の中央)からポリゴンミラー17に入射する(正面入射)。
【0056】
2つの入射光束は図1(B)に示すように副走査断面内においてθ/2の角度をもってポリゴンミラー17の偏向面17aへ入射し、第1、第2のfθレンズ18,19に偏向走査の前後で2回透過する。
【0057】
主走査断面内においてポリゴンミラー17の偏向面17aへ入射する2つの光束は第2、第1のfθレンズ19、18を透過することによって平行光束に変換され、偏向面17aより広い光束幅となって入射する。このように入射光束幅がポリゴンミラー17の偏向面17aより広く、入射光束の中を偏向面が移動する走査方式はオーバーフィルド走査光学系(OFS走査光学系)と呼ばれる。
【0058】
オーバーフィルド走査光学系ではポリゴンミラー17の1偏向面が主走査方向の光束幅を制限する絞りとなり、絞り13の代わりとなる。即ち、ポリゴンミラー17の偏向面17aが絞りと一致する2ビーム間のジッターや2ビームの副走査方向の間隔差に対して理想的な絞りとして作用する。
【0059】
ポリゴンミラー17で反射され偏向走査された2つの光束は第1、第2のfθレンズ18,19、長尺シリンドリカルレンズ20により被走査面21上にスポットとして各々結像し略等速度で走査される。長尺シリンドリカルレンズ20は主に副走査方向に結像する機能を有し、入射する2ビームを被走査面21上に所定の走査線間隔で結像させている。
[数値実施例]
表1に本実施例におけるマルチビーム走査光学装置の光学系の諸特性を示す。表1にはポリゴンミラー(10)から被走査面(12)までの光学系の構成を示した。表1において面番号は偏向器側から数えたレンズ面の番号、rは曲率半径で特にrmは主走査方向の曲率半径、rsは副走査方向の曲率半径を示す。dは主走査断面上における次の面までの距離、nは屈折率。5s、6sは非球面係数D2で表現される非球面である。非球面のは式、r(y)=ro(1+D2*y2)で定義され、roは光軸上の曲率半径、r(y)は主走査方向の位置yにおける曲率半径である。
【0060】
【表1】

【0061】
1/2波長板に入射する光束と1/2波長板の法線の成す入射角をδ(度)と定義する。
【0062】
本実施例においては上記の如く入射角δ(δ≠0度)で1/2波長板6に入射する光束に対して、該1/2波長板6の位相差は(180+α)度となり、出射光が90゜方向の直線偏光からわずかにずれた楕円偏光に変換される。この結果、複合プリズム9の偏光ビームスプリッタ面7cを透過または反射する光束の光量損失ΔPは(Sinα)2となる。
【0063】
そこで本実施例では1/2波長板6の位相差の変化が入射角±2度において基準位相差より±12度以下となるように構成することにより、合成ビームの光量低下、およびスポット径の劣化等を抑えている。
【0064】
この1/2波長板6は上述の如く2枚の複屈折性の光学部材を、その進相軸(光学軸)と遅相軸(光学軸)との向きを一致するように交互重ねて形成すれば達成できる。
【0065】
次に1/2波長板6の位相差の入射角依存性について図4を用いて説明する。
【0066】
基準入射角(0度)とは、1/2波長板6へ光線が垂直に入射する形態と定義される。
【0067】
つまり、1/2波長板6に入射する光線が1/2波長板6の法線と同一方向である場合、基準入射角(0度)となる。
【0068】
図4は本発明の実施例1において1/2波長板6への基準入射角(0度)からのずれたときの入射角に対する位相差の変化を示したグラフである。同図において縦軸は位相差の変化量α(rad)、横軸は1/2波長板6に入射する基準入射角からのずれた光線入射角δ(度)である。
【0069】
同図において位相差の変化量αは、直線近似により(線形性)、
α=0.01δ
と表現できる。
ここで光量損失をΔPとするとき、
ΔP=(sinα)2
≒α2
と表わせるから、
ΔP=(0.01δ)2
となる。光量損失ΔPは5%を許容値とすると、
(0.01δ)2≦0.05
となる。よって入射角δ(度)は、
δ≦22(度)
となり、22度まで許容できる。
【0070】
また位相差の変化量αは、度で表すと、
α≦12.6(度)
となり、12.6度まで許容できる。
【0071】
本実施例において走査線間隔調整に対する複合プリズム9の回転角の敏感度は18μm/1度である。
【0072】
複合プリズム9の回転角を入射角で考えると、該複合プリズム9による走査線間隔調整は0.4mmまで可能となり、合成ビームの間隔を補正するには十分な調整範囲を確保することができる。
【0073】
尚、参考までに単板タイプの1/2波長板の位相差の変化量αは、
α=0.1δ
である。したがって光量損失5%を許容する複合プリズムの回転角は、
(0.1δ)2≦0.05
となる。よって入射角δ(度)は、
δ≦2.2(度)
となる。位相差の変化量αは、度で表すと、
α≦12.6(度)
となり、プリズム回転調整に置き換えると0.04mmまでしか調整できないことになる。
【0074】
ただし、位相差の変化は12度以下の使用条件であれば光量損失ΔPは5%以下を満足することができる。
【0075】
更に本実施例では1/4波長板11に入射する光束の光線入射角をγ(度)とするとき、
γ≦22(度)
なる条件を満足させている。これにより合成ビームの光量低下、およびスポット径の劣化等を抑えている。
【0076】
このように本実施例においては上記の如く1/2波長板6の位相差の変化が入射角±2度の変化において位相差180゜±12度以下となるように波長板を構成することにより、合成ビームの光量低下、およびスポット径の劣化等を抑えることができる。
【0077】
[画像形成装置]
図5は、本発明の画像形成装置の実施例を示す副走査方向の要部断面図である。図において、符号104は画像形成装置を示す。この画像形成装置104には、パーソナルコンピュータ等の外部機器117からコードデータDcが入力する。このコードデータDcは、装置内のプリンタコントローラ111によって、画像データ(ドットデータ)Diに変換される。この画像データDiは、実施例1に示した構成を有する光走査ユニット(マルチビーム走査光学装置)100に入力される。そして、この光走査ユニット100からは、画像データDiに応じて変調された複数の光ビーム103が射出され、この複数の光ビーム103によって感光ドラム101の感光面が主走査方向に走査される。
【0078】
静電潜像担持体(感光体)たる感光ドラム101は、モータ115によって時計廻りに回転させられる。そして、この回転に伴って、感光ドラム101の感光面が複数の光ビーム103に対して、主走査方向と直交する副走査方向に移動する。感光ドラム101の上方には、感光ドラム101の表面を一様に帯電せしめる帯電ローラ102が表面に当接するように設けられている。そして、帯電ローラ102によって帯電された感光ドラム101の表面に、前記光走査ユニット100によって走査される複数の光ビーム103が照射されるようになっている。
【0079】
先に説明したように、複数の光ビーム103は、画像データDiに基づいて変調されており、この複数の光ビーム103を照射することによって感光ドラム101の表面に静電潜像を形成せしめる。この静電潜像は、上記複数の光ビーム103の照射位置よりもさらに感光ドラム101の回転方向の下流側で感光ドラム101に当接するように配設された現像器107によってトナー像として現像される。
【0080】
現像器107によって現像されたトナー像は、感光ドラム101の下方で、感光ドラム101に対向するように配設された転写ローラ108によって被転写材たる用紙112上に転写される。用紙112は感光ドラム101の前方(図5において右側)の用紙カセット109内に収納されているが、手差しでも給紙が可能である。用紙カセット109端部には、給紙ローラ110が配設されており、用紙カセット109内の用紙112を搬送路へ送り込む。
【0081】
以上のようにして、未定着トナー像を転写された用紙112はさらに感光ドラム101後方(図5において左側)の定着器へと搬送される。定着器は内部に定着ヒータ(図示せず)を有する定着ローラ113とこの定着ローラ113に圧接するように配設された加圧ローラ114とで構成されており、転写部から搬送されてきた用紙112を定着ローラ113と加圧ローラ114の圧接部にて加圧しながら加熱することにより用紙112上の未定着トナー像を定着せしめる。更に定着ローラ113の後方には排紙ローラ116が配設されており、定着された用紙112を画像形成装置の外に排出せしめる。
【0082】
図5においては図示していないが、プリントコントローラ111は、先に説明したデータの変換だけでなく、モータ115を始め画像形成装置内の各部や、後述する光走査ユニット内のポリゴンモータなどの制御を行う。
【0083】
[カラー画像形成装置]
図6は本発明の実施例のカラー画像形成装置の要部概略図である。本実施例は、光走査装置(マルチビーム走査光学装置)を4個並べ各々並行して像担持体である感光ドラム面上に画像情報を記録するタンデムタイプのカラー画像形成装置である。図6において、260はカラー画像形成装置、211,212,213,214は各々実施例1に示した構成を有する光走査装置、211,212,213,214は各々像担持体としての感光ドラム、231,232,233,234は各々現像器、51は搬送ベルトである。
【0084】
図6において、カラー画像形成装置260には、パーソナルコンピュータ等の外部機器252からR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各色信号が入力する。これらの色信号は、装置内のプリンタコントローラ253によって、C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)、B(ブラック)の各画像データ(ドットデータ)に変換される。これらの画像データは、それぞれ光走査装置211,212,213,214に入力される。そして、これらの光走査装置からは、各画像データに応じて変調された光ビーム241,242,243,244が射出され、これらの光ビームによって感光ドラム221,222,223,224の感光面が主走査方向に走査される。
【0085】
本実施例におけるカラー画像形成装置は光走査装置(211,212,213,214)を4個並べ、各々がC(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー)、B(ブラック)の各色に対応し、各々平行して感光ドラム221,222,223,224面上に画像信号(画像情報)を記録し、カラー画像を高速に印字するものである。
【0086】
本実施例におけるカラー画像形成装置は上述の如く4つの光走査装置211,212,213,214により各々の画像データに基づいた光ビームを用いて各色の潜像を各々対応する感光ドラム221,222,223,224面上に形成している。その後、記録材に多重転写して1枚のフルカラー画像を形成している。
【0087】
前記外部機器252としては、例えばCCDセンサを備えたカラー画像読取装置が用いられても良い。この場合には、このカラー画像読取装置と、カラー画像形成装置260とで、カラーデジタル複写機が構成される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施例1の主走査断面図及び副走査断面図
【図2】本発明の実施例1の光学ユニットの主走査断面図及び副走査断面図
【図3】本発明の実施例1の複合プリズムの構成を示す図
【図4】本発明の実施例1の1/2波長板の位相差の入射角依存性を示す図
【図5】本発明の画像形成装置の実施例を示す副走査断面図
【図6】本発明のカラー画像形成装置の実施例を示す副走査断面図
【符号の説明】
【0089】
1、2 半導体レーザ
3、4 集束光学素子
5 開口絞り
6 1/2波長板
7、8 プリズム
9 ビーム合成手段(複合プリズム)
11 1/4波長板
13 凹レンズ
14 絞り
15 レンズ系(シリンドリカルレンズ)
16 ミラー
17 偏向手段(ポリゴンミラー)
18、19、20 結像レンズ
21 被走査面
22 走査線間隔検出手段
26 第1の調整手段
30 第2の調整手段
31 光源ユニット
32 光学ユニット
33 第1の光学系
100 マルチビーム走査光学装置
101 感光ドラム
102 帯電ローラ
103 光ビーム
104 画像形成装置
107 現像装置
108 転写ローラ
109 用紙カセット
110 給紙ローラ
111 プリンタコントローラ
112 転写材(用紙)
113 定着ローラ
114 加圧ローラ
115 モータ
116 排紙ローラ
117 外部機器
211、212、213、214 マルチビーム走査光学装置
221、222、223、224 像担持体(感光ドラム)
231、232、233、234 現像器
241 搬送ベルト
251 マルチビームレーザー
252 外部機器
253 プリンタコントローラ
260 カラー画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出射光が直線偏光で偏光方向が同一方向に揃えて配置された複数の光源手段と、該複数の光源手段から出射した複数の光束を合成するビーム合成手段と、該ビーム合成手段から出射した複数の光束を主走査方向に偏向する偏向手段と、該偏向手段で偏向された複数の光束を被走査面上に導光する結像光学手段と、を有するマルチビーム走査光学装置において、
該ビーム合成手段は、複数のプリズムが貼り合わされた複合プリズムと該複数の光源手段から出射した複数の光束のうち1つの光束が該複合プリズムに入射するときの入射側に配置した1/2波長板と、該複数のプリズムが貼り合わされた面に偏光ビームスプリッタの機能を備えており、
該1/2波長板は、入射光束が該1/2波長板の法線に対して2度の範囲でずれた場合に該1/2波長板の位相差変化が設計値の位相差(180度)から12度以下となるように構成されていることを特徴とするマルチビーム走査光学装置。
【請求項2】
前記ビーム合成手段は主走査断面に平行な面内で回転調整可能な機構を有していることを特徴とする請求項1に記載のマルチビーム走査光学装置。
【請求項3】
前記1/2波長板に入射する光束と該1/2波長板の法線の成す入射角をδ(度)とするとき、
δ≦22(度)
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載のマルチビーム走査光学装置。
【請求項4】
前記1/2波長板は、複数枚の複屈折性の光学部材を、その進相軸と遅相軸との向きを一致するように交互に重ねて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマルチビーム走査光学装置。
【請求項5】
前記ビーム合成手段は光線出射側に1/4波長板を備え、該1/4波長板に入射する光束と該1/2波長板の法線の成す入射角をγ(度)とするとき、
γ≦22(度)
なる条件を満足することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のマルチビーム走査光学装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のマルチビーム走査光学装置と、前記被走査面に配置された感光体と、前記マルチビーム走査光学装置で走査された光ビームによって前記感光体上に形成された静電潜像をトナー像として現像する現像器と、現像されたトナー像を被転写材に転写する転写器と、転写されたトナー像を被転写材に定着させる定着器とを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のマルチビーム走査光学装置と、外部機器から入力したコードデータを画像信号に変換して前記マルチビーム走査光学装置に入力せしめるプリンタコントローラとを有していることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
各々が請求項1乃至5の何れか1項に記載のマルチビーム走査光学装置の被走査面に配置され、互いに異なった色の画像を形成する複数の像担持体とを有することを特徴とするカラー画像形成装置。
【請求項9】
外部機器から入力した色信号を異なった色の画像データに変換して各々の光走査装置に入力せしめるプリンタコントローラを有していることを特徴とする請求項8に記載のカラー画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−140263(P2007−140263A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335734(P2005−335734)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】