説明

マルチメディア情報ネットワーク品質モニタプログラム

【課題】ネットワーク上で起きるどのような事象がマルチメディア情報伝送時のユーザ体感品質に大きな影響を及ぼすかを明らかにし,ユーザの体感品質に応じた,効率的なネットワーク設計を可能とする。
【解決手段】ネットワークにおけるパケット流とマルチメディアの出力品質とを視覚的に結びつけることにより,ユーザ体感品質低下に結びつくパケットネットワークにおける性能劣化要因を可視化する。ネットワークパケット流モニタ,マルチメディア体感品質推定表示,および音声・ビデオ出力を同期した状態で見ることができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,マルチメディア情報ネットワークの品質モニタに関するものである.
【背景技術】
【0002】
これまでに,マルチメディア伝送時のユーザの体感品質をリアルタイムに推定表示できるマルチメディア品質モニタが発明されている(特許文献1).これは,ネットワーク上を流れるマルチメディア情報のアプリケーションレベルQoS(メディア同期品質)からユーザ体感品質を推定し,音声・ビデオの提示とともに,推定したユーザ体感品質をリアルタイムで表示できるものである.しかし,この発明では,最終的にユーザが得る音声・ビデオの品質を知ることはできるものの,ネットワーク上で性能劣化につながるどのような事象が生じているかを容易に知ることはできなかった.
ユーザ体感品質の推定方式としては,特許文献1で用いられている手法以外にも,さまざまな発明がなされている(たとえば,特許文献2,3など).しかし,それらの発明では,推定結果のユーザへの提示に関して,検討の対象とされていない.
ネットワーク上での性能劣化要因を調べるツールとして,ネットワークシミュレータ(たとえば,非特許文献1など)が利用される.ネットワークシミュレータのいくつかには,ネットワーク上でのパケット流をアニメーション表示できるネットワークモニタが付属している(たとえば,非特許文献2など).しかし,これらでは,実際にユーザに見えるマルチメディア品質への考慮がほとんどなされていない.
マルチメディア品質モニタとネットワークモニタは,従来でも同時に起動させることができた.しかし,それらを同時に起動したとしても,互いのモニタの時間を手動で合わせるのは非常に困難であり,互いの関係を結びつけることはできなかった.
【特許文献1】特開2006−262453号公報
【特許文献2】特開2006−80783号公報
【特許文献3】特開2006−80683号公報
【非特許文献1】The Network Simulator - ns-2,http://www.isi.edu/nsnam/ns/
【非特許文献2】Nam: Network Animator, http://www.isi.edu/nsnam/nam/index.html
【非特許文献3】S. Tasaka and Y. Watanabe, ``Real-time estimation of user-level QoS in audio-video IP transmission by using temporal and spatial quality,’’ Conf. Rec. IEEE GLOBECOM 2007, Nov. 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ユーザ体感品質低下に結びつくパケットネットワークにおける性能劣化要因を可視化することにより,ネットワーク上で起きるどのような事象がマルチメディア情報伝送時のユーザ体感品質に大きな影響を及ぼすかを明らかにする.
【課題を解決するための手段】
【0004】
ネットワークの構成ならびにネットワークを流れるパケットの大きさ,送信時刻,受信可否の情報から,ネットワーク上のトラヒックの流れを可視化できるネットワークモニタプログラムであって,トラヒックの流れを可視化するサブプログラムの他に,音声・ビデオといったマルチメディアトラヒックに対して,その構造情報ならびに出力タイミング情報とから,それを視聴するユーザの体感品質を推定・表示するサブプログラムを備え,前述のトラヒックの流れと同時に表示することを特徴としたネットワークモニタプログラムとする.
本発明のネットワークモニタプログラムは,トラヒックの流れを可視化するサブプログラムを含んでいる.このサブプログラムは,パケットネットワーク上でさまざまな種類のトラヒックを送信した際のパケットの大きさ,送信時刻,および受信可否の情報が記述されたパケット流のトレースファイルから,ネットワーク上でのパケットの流れをアニメーション表示することが可能である.
一方,本発明のネットワークモニタプログラムは,パケット流のトレースファイルと同時に取得された音声・ビデオといったマルチメディア情報の構造情報ならびに出力タイミング情報とから,そのマルチメディア情報の受け手となるユーザの体感品質を推定・表示するサブプログラムを備える.そして,これら二つのサブプログラムを同時に起動することにより,ユーザの体感品質とパケットネットワークにおける性能劣化要因との関係を視覚的に確認することができるようになる.
また,本発明のネットワークモニタプログラムでは,音声・ビデオの構造情報ならびに出力タイミング情報をもとに音声・ビデオ再生出力を行うサブプログラムを組み合わせ,それらを同時に提示することができる.
これにより,実際の音声・ビデオ再生出力とユーザ体感品質の推定表示との整合性を確かめることが可能となる.また,ユーザ体感品質の推定結果に現れにくい,微小な時間間隔におけるユーザ体感品質劣化とパケットネットワークにおける性能劣化要因とを視覚的に結びつけることを可能とする.
さらに,本発明のネットワークモニタプログラムは,パケット流表示,ユーザ体感品質表示,ならびに音声・ビデオ出力を行う各サブプログラムに対して,表示時刻,表示速度に関する制御信号をやり取りすることで,サブプログラム間の相互連携を図り,表示タイミングの同期を図る表示装置メインプログラムを持つことを特徴とする.
三つのサブプログラムを用いたとしても,それらが表示しているネットワーク状態の時間関係が一致していなければ,同時に表示する意味をなさない.このため,制御信号をやり取りすることで三つのサブプログラムの状態を管理し,相互連携および表示タイミングの同期を司る表示装置メインプログラムを設ける.
このネットワークモニタプログラムについて,各サブプログラムの時間粒度の違いを吸収するために,時間粒度の細かい情報の間引きを行うことで,任意の表示速度での3者間の同期出力を可能とする機能を備える.
各サブプログラムが用いる情報は,時間粒度が異なる.パケット流トレースファイルはネットワークを流れるパケット一つ一つを記述するものであるため,非常に高い時間粒度を持っている.一方,ユーザ体感品質表示サブプログラムで扱うのは,人間の知覚に対する推定結果である.人間の知覚反応速度は,ネットワークの伝送速度に比べて緩やかなため,体感品質の時間粒度は,パケット流のそれに比べて低いものとなる.
この差異に対処するため,本発明のプログラムは,時間粒度の差を吸収し,ユーザが希望する時間粒度での表示を可能とする機能を有する.サブプログラム間で時間の情報を共有する仕組みを持つ.
また,実時間での表示など,単位時間当たりに処理される情報量が多くなる場合には,処理速度が追いつかないという事態が生じうる.このため,ユーザが希望する時間粒度に応じて,提示する情報量の間引きを行う機能を有する.この間引き量は,ネットワーク内で起きるイベントの種類に応じて変わるものとする.
以上,本発明を使用することで,ネットワークパケット流モニタ,マルチメディア体感品質推定表示,および音声・ビデオ出力を3者が同期した状態で見ることができる.
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下,本発明の実施例について,図面とともに説明する.
【実施例1】
【0006】
本発明の構成を図1に示す.本発明のプログラム1は,ネットワークパケット流表示サブプログラム13,ユーザ体感品質推定サブプログラム12,音声・ビデオ出力サブプログラム11,ならびにこれらの間の相互連携とタイミング同期を司る表示装置メインプログラム10から構成される.
本発明の入力として,ネットワークシミュレータ20により得られる音声・ビデオ出力タイミング情報とパケット流情報を用いる.ネットワークシミュレータは,音声・ビデオの構造情報とシミュレーションシナリオとから,ネットワーク上での音声・ビデオ伝送を模擬し,前述した情報を出力する.このシミュレータとしては,例えばns-2 (非特許文献1)を使用することが考えられる.シミュレーションシナリオには,音声・ビデオ情報を含むトラヒックの伝送開始時刻,伝送終了時刻,トラヒックの性質,ネットワークトポロジーを記述することが可能である.
この発明により得られる画面表示例が図2である.本発明の使用者は,ネットワークパケット流モニタ101,マルチメディア体感品質推定表示100,および音声・ビデオ出力103,102を3者が同期した状態で,同時に視聴することが可能である.
図3は,表示装置メインプログラムのフローチャートである.プログラム開始後,オプション処理(S10)ならびに初期化処理(S12)を行う.次に,パケット流表示,音声・ビデオ出力,ユーザ体感品質推定を司る各サブプログラムを起動する(S14,S16).ユーザからの表示開始命令を受け取ると(S18),サブプログラムへ出力の開始を指示する(S20).また,ユーザ操作の監視を行い(S22),表示出力速度の変更指示がなされた場合(S24)には,それをサブプログラムへ指示する(S26).入力データが終わる(S28)と終了処理(S30)の後にプログラムを終了する.
図4は,パケット流表示サブプログラムのフローチャートである.表示装置メインプログラムのサブプログラム起動(S14)によりプログラムが開始される.オプション処理(S50),初期化処理(S52)の後に,オプション部で指定されたパケット流ファイルを読み込む.その後,メインプログラムからの出力開始指示を待ち(S56),指示があった時点から,パケット流の表示出力を開始する(S58).また,メインプログラムから表示出力速度の変更指示があった場合(S60)には,全数処理が可能な場合は,新しい表示速度でパケット流を表示し(S62),全数処理が不可能であれば,間引き処理を行ったうえで新しい表示速度での表示を行う(S64).入力データが終わる(S66)と終了処理(S68)の後にプログラムを終了する.
図5は,音声・ビデオ出力サブプログラムのフローチャートである.基本的な構成は,パケット流表示プログラムと同様である.表示装置メインプログラムのサブプログラム起動(S14)によりプログラムが開始される.オプション処理(S100),初期化処理(S102)の後に,オプション部で指定された音声・ビデオファイルならびに音声・ビデオ時間構造情報(出力タイミング情報)ファイルを読み込む(S104,S106).その後,メインプログラムからの出力開始指示を待ち(S108),指示があった時点から,音声・ビデオの再生出力を開始する(S110).また,メインプログラムから表示出力速度の変更指示があった場合(S112)には,表示出力速度を変更する(S114).入力データが終わる(S116)と終了処理(S118)の後にプログラムを終了する.
図6は,ユーザ体感品質推定サブプログラムのフローチャートである.これについても,基本的な構成は,他のサブプログラムと同様のものになる.表示装置メインプログラムのサブプログラム起動(S14)によりプログラムが開始される.オプション処理(S150),初期化処理(S152)の後に,オプション部で指定された音声・ビデオ時間構造情報(出力タイミング情報)ファイルを読み込む(S154).その後,メインプログラムからの出力開始指示を待ち(S156),指示があった時点から,ユーザ体感品質推定結果の表示出力を開始する(S158).また,メインプログラムから表示出力速度の変更指示があった場合(S160)には,表示出力速度を変更する(S162).入力データが終わる(S164)と終了処理(S166)の後にプログラムを終了する.
以上が本発明の実施例であるが,シミュレーションによらず,実ネットワークにおける測定結果をもとにモニタ表示することも可能である.
ユーザ体感品質推定ならびに音声・ビデオ再生出力に使用する音声・ビデオの時間構造情報(出力タイミング情報)とパケット流表示のための情報とを別々に与える形態だけでなく,パケット流表示のための情報から音声・ビデオの時間構造情報を計算し,ユーザ体感品質の推定を行う形態も考えられる.
ユーザ体感品質の推定サブプログラムにおいては,特許文献1で用いられる時間品質(メディア同期品質)による推定に加えて,非特許文献3で議論されている時間品質とビデオ空間品質とを組み合わせて推定する形態も利用できる.
音声・ビデオ情報に限らず,例えばネットワークゲーム利用時など,さまざまな連続メディア情報の伝送時に,同様の手法が利用可能である.
【産業上の利用可能性】
【0007】
本発明を用いることで,ユーザの体感品質の観点からのネットワーク性能劣化要因の特定が容易になり,ユーザ本位のネットワーク構築を手助けするものとして利用が期待される.
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の構成を示す説明図である.
【図2】本発明により得られる画面表示例である.
【図3】表示装置メインプログラムのフローチャートである.
【図4】パケット流表示サブプログラムのフローチャートである.
【図5】音声・ビデオ出力サブプログラムのフローチャートである.
【図6】ユーザ体感品質推定サブプログラムのフローチャートである.
【符号の説明】
【0009】
1 発明したプログラム, 10 表示装置メインプログラム, 11 音声・ビデオ出力サブプログラム, 12 ユーザ体感品質推定サブプログラム, 13 パケット流表示サブプログラム, 20 ネットワークシミュレータ, 100 ユーザ体感品質推定結果表示部, 101 パケット流表示部, 102 ビデオ出力部, 103 音声出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークの構成ならびにネットワークを流れるパケットの大きさ,送信時刻,受信可否の情報をパケット単位で記述したファイルから,ネットワーク上のトラヒックのパケット流を可視化できるネットワークモニタプログラムであって,パケット流を可視化するサブプログラムの他に,音声・ビデオといったマルチメディアトラヒックに対して,その構造情報ならびに出力タイミング情報とをそのマルチメディア情報の構成単位ごとに記述したファイルから,それを視聴するユーザの体感品質を推定・表示するサブプログラムを備え,前述のトラヒックの流れと同時に表示することを特徴としたネットワークモニタプログラム.
【請求項2】
請求項1に記載のネットワークモニタを,ファイルに記録された音声・ビデオの構造情報ならびに出力タイミング情報にしたがって実際の音声・ビデオファイルの再生出力を行うサブプログラムと組み合わせ,それらを同時に提示することのできるネットワークモニタプログラム.
【請求項3】
請求項1,2に含まれるパケット流表示,ユーザ体感品質表示,ならびに音声・ビデオ出力を行う各サブプログラムに対して表示時刻,表示速度に関する制御信号をやり取りすることで,サブプログラム間の相互連携を図り,表示タイミングの同期を図る表示装置メインプログラムを持つことを特徴とするネットワークモニタプログラム.
【請求項4】
請求項1乃至3に記載のネットワークモニタプログラムについて,各サブプログラム間の時間粒度の違いを吸収するために,時間粒度の細かい情報の間引きを行うことで,任意の表示速度での3者間の同期出力を可能とする機能を備えたネットワークモニタプログラム.


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−141452(P2009−141452A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313037(P2007−313037)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】