説明

マルチ分光分析装置

【課題】 連続処理システムにおける処理流体を、リアルタイムで精度良く分析して、製造ラインを高い精度で監視することができるマルチ分光分析装置を提供する。
【解決手段】 このマルチ分光分析装置1は、、複数の波長の異なる光源24a〜24gを有する光源部24と、被測定液を流通させるフローセル14を構成するケーシング10と、フローセル14において被測定液に近接する複数の発光部20と受光部22と、受光部22から得られた各波長の分光を個々に行う分光器28a〜28gを有する分光部28と、分光器28a〜28gで得られた被測定液の分光情報を演算制御して出力する制御部32とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小空間内で流体どうしを連続流れの場で反応させるマイクロリアクタ装置に用いるマルチ分光分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
数十から数百μmクラスの微小空間流路内ではレイノルズ数は小さく、流れは層流になり、分子拡散による混合が律速になる。有機合成系反応や生化学系反応において、2種類以上の流体を混合させ反応させるプロセスでは反応速度が速い反応では、微小空間を使用した層流拡散の方が従来型機械式攪拌混合よりも混合効率がよい。混合効率が向上すれば、従来の反応釜を使用したバッチ式有機合成反応に比べ、副反応を抑制することができるため反応収率、選択性が格段に向上する。従って、マイクロリアクタは、医薬品やそれに類する製品の製造に好適なものとして、用いられるようになっている。
【0003】
ところで、医薬品やそれに類する製品の製造には、当然のことながら充分な品質管理が要求される。このような場合の管理手法については、例えば、FDA(米国食品医薬品局)においてGMP(適正製造基準)として明文化されてきている。GMPの基本的考えは品質再現性の保証であり、ロット内では品質は均一でなければならい、という点にある。
【0004】
従来のバッチ処理では、技術的に反応釜内の同じロットは品質が均一であることが推定されるので、これを確認するためのサンプリング調査を行えばよかった。しかしながら、マイクロリアクタのような連続処理では、品質が均一であることの推定は働きにくい。そこで、製造された液体製品をリアルタイムに分析する手段が必要となる。そこで、例えば光源から光を照射し、波長吸収特性を測定する分光分析装置を用いることが考えられる。しかしながら、単一の光源を用いる分光分析装置では、光はある波長領域に集中して分布するので、周辺領域における感度は低下するため、予期しにくい副反応生成物の生成等を充分に監視することができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、マイクロリアクタのような連続処理システムにおける処理流体を、リアルタイムで精度良く分析して、製造ラインを高い精度で監視することができるマルチ分光分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のマルチ分光分析装置は、医薬品製薬製造ラインおよび医薬品開発段階の有機合成反応結果を評価するためのマルチ分光分析装置であって、複数の波長の異なる光源を有する光源部と、被測定液を流通させるフローセルを構成するケーシングと、上記フローセルにおいて被測定液に近接する複数の発光部と受光部と、受光部から得られた各波長の分光を個々に行う分光器を有する分光部と、分光器で得られた被測定液の分光情報を演算制御して出力する制御部とを具備したことを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明においては、光源部から波長領域の異なる複数の光を発光させ、これを異なる分光器で受光して、被測定液を通過した各波長の分光が個々に行われる。このような複数の分析情報を組み合わせることにより、精度の高い、漏れの無い分析が行われる。
【0008】
請求項2に記載のマルチ分光分析装置は、請求項1に記載の発明において、前記光源部は、紫外光、可視光、近赤外光、赤外光、遠赤外光のうち、少なくとも2つ以上の波長領域をカバーする光源を有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明においては、光源部からの、紫外光、可視光、近赤外光、赤外光、遠赤外光のうち、少なくとも2つ以上の波長領域をカバーする光源を組み合わせて用いることにより、処理対象や目的に応じた分析情報を得ることができる。
【0009】
請求項3に記載のマルチ分光分析装置は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記フローセルが複数形成され、各フローセルに発光部と受光部がそれぞれ配置されていることを特徴とする。
請求項4に記載のマルチ分光分析装置は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の発明において、前記ケーシングは、仕切によって内部に複数のフローセルを形成するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載のマルチ分光分析装置は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の発明において、前記ケーシングは、内部に1つのフローセルを形成するように構成され、複数の前記ケーシングが基板上に着脱自在に取り付け可能となっていることを特徴とする。
請求項6に記載のマルチ分光分析装置は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の発明において、可視領域から近赤外領域の光源を一つの光源で兼用し、異なる受光部に導くように構成したことを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載のマルチ分光分析装置は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の発明において、前記発光部と受光部間の距離を調整可能であることを特徴とする。
請求項8に記載のマイクロリアクタは、反応領域の下流側に、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のマルチ分光分析装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1ないし請求項7に記載のマルチ分光分析装置によれば、光源部から波長領域の異なる複数の光を異なる分光器で受光して、被測定液を通過した各波長の分光が個々に行うことにより、マイクロリアクタのような連続処理システムにおける処理流体を、リアルタイムで精度良く分析して、製造ラインを精度を高い精度で監視することができる。
【0013】
請求項8に記載のマイクロリアクタによれば、マルチ分光分析装置によって得られる精度の高い分析情報を基に、各種の措置を迅速に執ることができ、信頼性の高い製品を産出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1は、この発明の一実施の形態のマルチ分光分析装置1を模式的に示すもので、例えば、一対の基板によって構成されるケーシング10の中に構成されている。この分光分析装置1は、後述する図10に示すように、マイクロリアクタ2の下流側部分を構成する部材の一部に組み込まれ、使用される。
【0015】
ケーシング10には、マイクロリアクタ2の下流側の流路(反応生成物が流れる流路)12につながる複数のフローセル14が形成されている。フローセル14は全体として矩形平板状の内部空間16を複数の仕切18で区画することにより形成され、その両側には発光部20と受光部22とが対向して配置されている。この実施の形態では、複数のフローセル14を一つのケーシング10内の内部空間16に収めることにより寸法を小さくすることができ、また流量のばらつきを抑制して分析精度を向上させることが可能になる。フローセル14内の流路は、できるだけ滞流や通過抵抗が無いような形状とするのが好ましい。
【0016】
ケーシング10を構成する材料は、熱伝導性に優れ、-40〜150℃の広い温度範囲に耐えるものが好ましい。さらに、フローセル14の流路を構成する材料は、液体の高圧に耐えうるものであることが好ましい。これらの点を考慮し、流路を構成する材料の好ましい例として、SUS316、SUS304、Ti、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス等の硬質ガラス、PEEK(polyetheretherketone)、PE(polyethylene)、PVC(polyvinylchloride)、PDMS(Polydimethylsiloxane)、Si、PTFE(polytetrafluoroethylene)、PCTFE(Polychlorotrifluoroethylene)、およびPFA(perfluoroalkoxylalkane)などの樹脂が挙げられる。
【0017】
異なる波長域の光を出力する複数の光源24a〜24gを有する光源部24が、フローセル14の近傍の所定箇所に設置されており、それぞれの出力光は光ファイバ26によって発光部20に導かれている。この実施の形態では、紫外光を出力する光源24aは重水素ランプであり、可視光から近赤外光を出力する光源24b〜24eはハロゲンランプであり、赤外光はニクロム赤外光源24fである。可視光から近赤外光までを1個のハロゲンランプで賄ってもよい。このようにすることにより、装置の大きさをよりコンパクトにすることができる。
【0018】
受光部22は光ファイバ26によって、フローセル14の近傍に設置された分光器28a〜28gを有する分光部28に結合されている。分光器28a〜28gは、例えば、CCD素子によって構成され、それぞれが受光した光を波長帯域ごとに分けて強度を測定することができるようになっている。この実施の形態では7個の分光器28a〜28gを設置しており、各分光器28a〜28gの分担する波長範囲は、200〜400nm(紫外分光器28a)、400〜700nm(可視光分光器28b)、700〜1000nm(第1近赤外分光器28c)、1000〜1700nm(第2近赤外分光器28d)、1700〜2200nm(第3近赤外分光器28e)、2200〜25000nm(赤外分光器28f)及び波長25000nmを超える波長領域(遠赤外分光器28g)のようになっている。これらの組合せは測定物質によってはすべて網羅する必要はなく、2つ以上の適宜の数の組合せであればよい。
【0019】
この実施の形態では発光部20と受光部22の間の光路は流体の流れ方向に形成されており、流路幅に関係なく所定の光路長に合わせて設定することができる。また、各区分流路ごとの光路長の調整は、発光部20と受光部22の突出長さを変えることにより行うことができる。たとえば紫外分光器28aでは、通常サンプル液を希釈してオフラインで分析するが、インライン測定では、濃度が濃い状態のままの測定となるので、不要な反応を回避するために光路長を短くして測定する(たとえば1mm以下)。また、近赤外分光器28c〜28eでは比較的感度が弱いため光路長は長めにしておく(5〜10mm)。後述するように、吸収波長の幅の広い複数の成分を瞬時に同時に測定するには、各波長域の得失に合わせてフローセル14の形状・寸法を設定することが必要である。
【0020】
各分光器28a〜28gからは、事前に設定された波長領域毎の受光強度が出力され、AD変換器30を介して制御部32に入力される。制御部32は、このデータと、事前に入力された各光源24a〜24gの波長領域毎の強度分布データに基づいて透過率(吸収率)を算出し、さらにこれを基に、目的とする反応生成物(正規の製品)の生成量と、反応副生成物の生成量を求め、その結果としてさらに、収率や転化率、及び副次的に溶媒濃度も求める。
【0021】
反応生成物と反応副生成物は、実験段階でなければ事前に絞り込まれているので、生成が予定される成分に対応した波長吸収に備えた光源24a〜24gと分光器28a〜28gの組合せを用いればよい。この場合、反応副生成物が複数有って、生成する可能性が低いものでも、例えばFDA(米国食品医薬品局)のGMP(適正製造基準)をクリアするためには設置することが望ましい。
【0022】
一方、医薬品の開発段階では、試薬の種類や濃度、温度、流速など条件を種々振って、いわゆるスクリーニングと言われる可能性のある反応を見つける作業がある。このように、どのような反応生成物が生じるか予測ができない場合には、任意の生成物を検出可能なように、予め全波長領域の光源24a〜24gと分光器28a〜28gを設置しておき、データが蓄積されてから、不要なものを外したり、適当なものと入れ替える等の措置を行う。
【0023】
制御部32は、反応生成物や反応副生成物の生成量、収率や転化率等のデータをディスプレイ34に表示し、記憶装置36へ記憶するとともに、これらのデータが予め設定した閾値を超えた場合に警報装置38により警報を発生し、さらに閾値を超えた場合には処理を自動的に中止する等の処置を執る。さらに、上記のようなデータと反応条件の相関関係を事前に求めておき、検出データに基づいてマイクロリアクタの反応条件、例えば反応温度、流量、圧力等を制御するようにしてもよい。
【0024】
一般に、単一の光源を用いる分光分析装置1では、光はある波長領域に集中して分布するので、周辺領域における感度は低下する。このマルチ分光分析装置1では、複数の波長域の異なる光源24a〜24gと分光器28a〜28gを設けているので、広い波長領域に渡って正確なデータを得ることができる。以下、各分光器28a〜28gの特徴と、それに基づく組合せの方法を、表1を参照しつつ説明する。表1は、それぞれの官能基、分子等の吸収スペクトル波長を例示する。
【0025】
【表1】

【0026】
紫外分光器28aは、全成分の吸収スペクトル傾向を読み、収率変化や不純物量変化を検知するのに適している。赤外分光器28fは、個々の物質の多くの有機官能基に対応可能であるが、強度が強すぎて妨害物質が出る場合が有る。その場合は近赤外分光器28c〜28eを代用する。また、溶媒が水の場合には、赤外分光器28fでは水が妨害物質になる場合がある。可視光分光器28bは、クロロフィルやカロチンなど有色物質を検出するのに好適である。この実施の形態において、3つの近赤外分光器28c〜28eを使い分けしている理由は、近赤外の領域700〜2200nmの範囲で測定能力の弱い部分を作らず、たとえば反応によって共役系が長くなったり、結合の微妙な変化によるピークの小さなシフトを、精度良く読み取るためある。
【0027】
以下、さらに具体的な反応について、図2を参照して説明する。図2(a)の反応は、溶媒ピリジン中で行われるオーバーリアクション反応で、マイクロ流路効果に基づいて正反応が行われればモノベンゾイルレゾルシノールが生じるが、マイクロ流路中の濃度のアンバランスが生じるとさらに反応が進んで副反応であるジベンゾイルレゾルシノ−ルが生じる。ベンゼン環、CO、OH、などの官能基の生成を吸収域を測定することにより求めて、モノ体とジ体の比を検出することができる。ベンゼン環は赤外分光器28fで測定可能であるが、溶媒ピリジンがバックグランドとして検出される可能性が有り、測定不能、またはピークが重なり合って判別しにくい場合も有る。その場合は、近赤外分光器28c〜28eを用いればよい。
【0028】
なお、上記の場合、ベンゾイル基の個数が1個と2個の場合で吸収強度の差が充分に出るような特定の波長領域が、例えば近赤外分光器28c〜28eまたは赤外分光器28fの領域に存在する場合には、これを選択すればよい。この場合も、反応系全体液の吸収スペクトルは紫外分光器28aで監視し、反応の変化があった場合は警報を発したり、処理を停止する等の処置を執る。
【0029】
図2(b)の反応は、ベンジルフェニールアラニンをメタノール中で水素ガスと反応させ、還元してフェニールアラニンメチルエステルを生じさせる。これは、保護基の接触水素による脱保護反応であって、Pd触媒が使用される。NH2とNHの比を読めば、反応率が分かる。強度のあるNH2は近赤外分光器28c〜28eで、弱いNHは赤外分光器28fで読むことが可能であり、妨害物質のオーバーラップ次第で近赤外分光器28c〜28eと赤外分光器28fを使い分けすることが可能である。もちろん、両成分を個別にそれぞれの波長域で測定してもよい。この場合も、全体液の吸収スペクトルは紫外分光器28aで監視し、反応の変化があった場合は、警報を発したり、処理を停止する等の処置を執る。
【0030】
図2(c)の反応は、ポリペプチド合成の一工程で、グリシン無水物に水が加わり、塩酸が触媒になってグリシルグリシンに変わる加水分解反応である。生成物中に水が存在する反応であるので、水が吸収妨害しやすい赤外分光器28fを避け、近赤外分光器28c〜28e領域の弱い感度でかつ水の影響を受けない領域を使用して測定すればよい。
【0031】
図3は、図1の実施の形態の変形例を示すもので、フローセル14をケーシング10内に個別に形成し、流体流路を各フローセル14に分岐して導くようにしたものである。これにより、各フローセル14が他のフローセル14の影響を受けず、流路抵抗も少ないので流体の流れがより均一になる。また、図示するように、フローセル14への分岐流路40には流量調整弁42を個別に設置することにより、各分光器28a〜28gの特性に合わせて適当な流量に調整することができる。
【0032】
図4は、同じく図1の実施の形態の変形例を示すもので、フローセル14をケーシング10内に個別に形成しているが、各分岐流路40に開閉弁44が設置されている。これにより、必要な波長のフローセル14の開閉弁44のみを開とし、不要なフローセル14の開閉弁44を閉じることで、余分な流路抵抗の発生を防止している。また、図5の実施の形態は、各フローセル14を直列につなげたものである。この実施の形態では、分流の必要がないので流路抵抗さえ配慮すれば扱いやすいという利点が有る。
【0033】
図6は、他の実施の形態のマルチ分光分析装置1の構造を示すもので、内部に1つのフローセル14を構成するケーシング46が基板47上に複数配置されている。各ケーシング46はたとえば石英ガラスのような透明な素材で形成され、内部に流路48が形成され、この流路48は側面で開口して継手部50となっている。ケーシング46内には、流路48を挟んで発光部20と受光部22が置かれ、これらは光ファイバ26により外部の光源と分光器(図示略)に連結されている。
【0034】
この場合は流路48の幅が光が横断する光路長になる。継手部50はマイクロリアクタ等と配管により接続する。ケーシング46の材料は耐薬品性を持ったPCTFE、PTFE、PEEKでもよく、この場合の発光部20、受光部22は直接接液せぬよう石英で保護される。この実施の形態では、流路48への接続は継手部50を介して行うので、接続は自由に変更することができる。各フローセル14への流体の流れは並列分流でもよく、直列でもよく、フローセル14個々に開閉弁44を設け選択的に流しても良い。
【0035】
図7は、図6の変形例を示すもので、光路長を短く設定するために、発光部20と受光部22を流路48中に突出させているものである。この場合フローセル14内の滞流や流路抵抗を少なくするために、流路48を徐々に拡径するテーパ部49を形成している。
【0036】
図8は、図6の変形例を示すもので、基板47上に複数配置された各ケーシング46において、光路長を自由に調整することが可能になっている。フローセル14中の流路48を挟んで発光ケース52と受光ケース54を対向させて配置されている。発光ケース52、受光ケース54とも石英で作られ、発光ケース52内には発光部20が、受光ケース54内には受光部22が取り付けられる。発光ケース52、受光ケース54の外形は少なくとも一方がねじになっており、ケース46の外面に取り付けられた固定ナット56に螺合されている。これにより、光路長の長さを自在に調節することが可能である。片側固定で反対側調整してもいいし、両側とも調整可能にしてもよい。これによって、各波長域の感度、分子濃度、溶媒物質の情報から個別に現場で自在に調節することが可能になる。インラインで一般に濃度の高い液を分析するので、光路長は、オフラインの場合より短くし、10mm〜0.1mm、好ましくは5mm〜0.5mmに設定する。
【0037】
図9(a)は、この発明のマルチ分光分析装置1の用い方の実施の形態を示すもので、マイクロリアクタ2の混合・反応部58の下流側に、反応の継続を停止させるために急冷を行うマイクロクエンチ部60を設置したものである。マイクロクエンチ部60は、例えば、図示するように水冷ジャケット61の構造とすることができる。この実施の形態では、混合・反応部58とマイクロクエンチ部60の間にマルチ分光分析装置1を設置することにより、反応の進行度合いを確認した上でマイクロクエンチを行うことで、目的とする製品を安定に製造することができる。
【0038】
図9(b)は、この発明のマルチ分光分析装置1の用い方の他の実施の形態を示すもので、マイクロリアクタ2の混合・反応部58の下流側に、マルチ分光分析装置1を設置し、さらにその下流側に3方切換弁62を設置している。3方切換弁62はマルチ分光分析装置1からのラインを通常の製品貯蔵ライン64と、予備タンク66につながる予備ライン68に選択的に接続するように切り換えるものである。マルチ分光分析装置1の出力信号は制御部32に送られ、制御部32が成分に異常が有ると判断した場合には、3方切換弁62を予備タンク66側に切り換える。これにより、異常成分が製品貯蔵ライン64に混入するのを防止することができる。
【0039】
次に、上述した本発明の一実施形態に係るマルチ分光分析装置1を組み込んだ流体反応装置(マイクロリアクタ)2について説明する。図10ないし図12(b)はこの流体反応装置2の全体構成を示す図である。なお、以下に述べる流体反応装置2は、2種類またはそれ以上の液体を混合し、反応させるために用いられる装置である。
【0040】
図10,図11,図12(a),および図12(b)に示すように、流体反応装置2は、全体が1つの設置スペースに設置されてパッケージ化されている。この構成例では、この設置スペースは長方形であり、長手方向に沿って4つの領域に区画される。すなわち、一端側の第1の領域は、原料液を貯留する複数の貯留容器110(図10では2つの貯留容器110A,110Bのみを示す)が設置された原料貯留部101であり、それに隣接する第2の領域は、貯留容器110の原料液を移送するポンプ116A,116Bなどが設置された配液部102となっている。第2の領域に隣接する第3の領域は、原料液を混同させる混合部(混合チップ)140および混合された原料液を反応させる反応部(反応チップ)142を有する処理部103となっている。他端側の第4の領域は、処理の結果得られた生成物を導出して貯留する生成物貯留部(回収容器設置スペース)104である。
【0041】
また、この流体反応装置2は、各部の動作の制御を行うコンピュータである動作制御部106と、温度調整ケース146に熱媒体を流して処理部103の温度調整を行う熱媒体コントローラ107を備えている。また、動作制御部106には、図10に示すように、液体の流量と温度をモニタできる流量モニタ270および温度モニタ272が搭載されている。なお、この構成例では、動作制御部106と熱媒体コントローラ107は流体反応装置2と別置きになっているが、勿論一体でも良い。図11に示すように、第2〜第4の領域の床下部分には配管室105が形成され、ここには混合部140および反応部142へ加熱又は冷却用の熱媒体を送るための配管が設けられている。動作制御部106とマルチ分光分析装置1の制御部32は別になっているが、勿論一体でも良い。
【0042】
このように、上流側から下流側へと各部を配置することによって液体の流れを円滑にし、かつ装置全体をコンパクトにまとめることができる。この構成例では、各部の配列を直線状にしたが、例えば、全体が正方形に近いスペースであれば、各部を液体の流れがループを形成するように構成してもよい。
【0043】
図11において、符号250は装置下部に設けられた液溜めパンであり、符号252は液溜めパン250上に設置された漏液センサを示す。またこの装置例では、配液部102、処理部103、生成物貯留部104は隔壁254,256により区画されており、各部にはカバー258,260,262が取り付けられて装置外部とこれらを隔離している。符号264は排気ポートであり、図示しない排気ファンに接続されている。そして、装置内の圧力を装置外より負とすることで装置内の有毒ガスが外部に漏出することを防いでいる。
【0044】
図10に示す原料貯留部101には、2つの貯留容器110A,110Bが設置されているが、必要に応じて3つまたはそれ以上の貯留容器を使用してもよい。例えば、同じ液体を2つの貯留容器に収容し、これらを交互に切り換えて用いることにより、処理を継続的に行うことができる。なお、原料貯留部101に、ライン洗浄用のアセトンなどの有機溶剤、塩酸、純水などが入った洗浄液容器112や、パージ用の窒素ガスが封入された圧力源114を設けてもよい。また、廃液容器136を原料貯留部101に置いてもよい。
【0045】
配液部(導入部)102には、貯留容器110A,110Bに輸送管121A,121Bを介して接続されたポンプ116A,116Bが設置されている。図10におけるポンプ116A,116Bには遠心式ポンプが使用されている。また、配液部102は、ポンプ116A,116Bの下流側に配置された流量調整装置300A,300B、リリーフ弁122A,122B、圧力測定センサ124A,124B、流路切換弁126A,126B、および逆洗ポンプ130を有している。流路切換弁126A,126Bは、輸送管121A,121Bの他に、洗浄液容器112や、圧力源114にそれぞれ接続されている。逆洗ポンプ130は、混合部140や反応部142の流路内が生成物によって閉塞した場合に用いられる。逆洗ポンプ130は洗浄液を貯留する洗浄液容器112に接続され、さらに流路切換弁132を介して反応部142の出口に接続される。逆洗ポンプ130により移送される洗浄液は通常の流れと逆に流れる。すなわち、洗浄液は、反応部142の出口から混合部140の入口に向かって流れ、流路切換弁126A,126Bを経て廃液口134から図示しない配管を通って廃液貯留容器136に入れられる。
【0046】
逆洗ポンプ130は吐出圧力が高く、洗浄液に脈動を起こさせて生成物を除去することが可能なように1本ピストン型のポンプが好ましい。洗浄液としては、有機溶剤、塩酸、硝酸、りん酸、有機酸、純水などが好適に用いられる。有機溶剤の例としては、アセトン、エタノール、メタノールなどが挙げられる。図10に示す導入口240は、外部から純水や水素水を導入する場合に設けられたもので、洗浄液容器112内の洗浄液の代わりに洗浄に使用できる。
【0047】
図13は、原料液の予備加熱(予備温度調整)と混合を行うための混合部140を示すもので、3枚の薄板状の基材である上板144a、中板144b、下板144cが接合されて全厚さ5mmの混合部140が形成されている。なお、以下に説明する流路はいずれも中板144bの表面に形成された溝である。上板144aを貫通して形成された2つの流入ポート147A,147Bは、中板144bの上面に形成されたそれぞれ2つの予備加熱流路148A,148Bに連通する。これらの予備加熱流路148A,148Bはそれぞれ途中で分岐しかつそれぞれ拡大し、再度合流する。さらに、予備加熱流路148A,148Bはそれぞれ出口流路150A,150Bに連通し、これらの出口流路150A,150Bは合流部152に通じている。出口流路150Aは、中板144bの上面に、出口流路150Bは中板144bの下面に形成されている。
【0048】
図14は図13に示す合流部の拡大図である。図14に示すように、合流部152は、出口流路150A,150Bに通じる円弧状の溝として中板144bの上下面にそれぞれ形成されたヘッダ部154,155と、このヘッダ部154,155から円弧の中心に向かって延びる複数の分液流路156,157と、これらの分液流路156,157が合流する合流空間158とを有している。分液流路156,157と合流空間158は中板144bの上面に形成され、分液流路156,157は交互に配置されている。下面側のヘッダ部155と分液流路157とは、中板144bを貫通する連絡孔157aにより連通している。合流空間158は、下流側に向けて幅が徐々に小さくなるように形成され、中板144bおよび下板144cを貫通して形成された流出ポート160に連通している。
【0049】
図14に示す例では、合流空間158の入口側の開口面159において分液流路156が5本、分液流路157が4本、交互に配置されている。分液流路156,157からそれぞれ流出した2種類の液体は、合流空間158内で縞状の流れを形成しつつ下流側に流れ、合流空間158の流路幅が徐々に縮小するに従い、強制的に両液が混合される。この例では、合流空間158の流路幅は最終的に40μmに達する。加工技術精度を上げれば、流路幅を10μmにすることも可能である。
【0050】
図15(a)は図10に示す反応部を示す平面図、図15(b)は図15(a)に示す反応部の断面図である。この例では、2枚の基材144d,144eが接合されて厚さ5mmの反応部142が構成されている。この反応部142では、反応流路162が蛇行しており、長い流路を効率的に提供している。反応流路162は、入口ポート164および出口ポート165にそれぞれつながる連絡部162a,162cと、連絡部162a,162cに連通する蛇行部分162bとを有しており、連絡部162a,162cの幅は狭く、蛇行部分162bの幅が広く形成されている。したがって、出入口部分では液体が急速に流れ、副生成物の付着を防止しており、蛇行部分162bでは緩やかに流れて、加熱と反応の時間を長く取ることができるようになっている。
【0051】
図16(a)および図16(b)に示すのは、反応流路の幅が除々に小さくなる部分163aと除々に大きくなる部分163bを持つ反応部の他の構成例である。この反応部142aには、基材144d,144eの間に、幅寸法が最大aから最小bの範囲で増減する反応流路163が形成されている。幅寸法の増減に合わせ、深さを増減させてもよい。この例では、反応流路163の断面積が一定になるよう深さが最大cから最小dの範囲で変化するようになっている。
【0052】
図16(c)は、反応流路の他の構成例を示す横断面図である。この反応部142bでは、反応流路163cは、その幅eが深さfより大きい扁平形状を有しており、熱触媒からの熱の伝達方向(矢印で表示)に交差する広い伝熱面を有するので、反応流路163c内の液体に熱の伝達が有効に行われる。なお、合流空間158や反応流路162,163に、適当な触媒を配置することは反応を促進するために有効である。このような触媒は反応の種類に応じて選択される。配置の仕方は、例えば、流路の内面に塗布したり、後述するような流路の障害物として配置することができる。
【0053】
混合部140および反応部142の少なくとも流路を形成する素材としては、例えば、SUS316、SUS304、Ti、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス等の硬質ガラス、PEEK(polyetheretherketone)、PE(polyethylene)、PVC(polyvinylchloride)、PDMS(Polydimethylsiloxane)、Si、PTFE(polytetrafluoroethylene)、PCTFE(PolyChloroTriFluoroEthylene)の内から、耐薬品性、耐圧性、熱伝導性、耐熱性等を考慮して、好ましいものを選択する。混合部140および反応部142の接液部の材質は、表面からの溶出が少なく表面触媒修飾が可能で、ある程度の耐薬品性を持ち、−40〜150?の広い温度範囲に耐えるものが望ましい。
【0054】
図17は、混合部および反応部の温度を調整する温度調整ケースの構成を示す斜視図である。なお、以下の説明では、反応部142の温度を調整する温度調整ケース146についてのみ述べるが、混合部140のための温度調整ケース146も同様の構成を有しており、その重複する説明を省略する。温度調整ケース146は、内部に反応部142を収容する空間170が形成されたケース本体172と該空間170を覆う蓋部174とを備えており、これらの内面には、平行に延びる複数の熱媒体流路を構成する溝176が形成されている。ケース本体172には、溝176に連通する給液路178と排液路180(図10参照)が形成され、これらの給液路178と排液路180はそれぞれ熱媒体コントローラ107に接続されている。給液路178は、蓋部174の溝176に開口179を介して連通し、排液路180も蓋部174の溝176に図示しない開口を介して連通している。この例では、溝176を流れる熱媒体は反応部142の表裏面に直接接触し、反応部142は温度調整ケース146に完全に収容された状態で加熱(または冷却)される。
【0055】
図示しないが、熱媒体コントローラ107には、熱媒体の温度を制御する制御機構と熱媒体を移送するポンプが内蔵されている。図10に示すように、熱媒体は熱交換器182を通過後、混合部140および反応部142の温度調整ケース146に供給されるようになっている。熱交換器182は例えば冷却用の市水の量を変えることで混合部140および反応部142に供給される熱媒体の温度を独立に変えられるようになっている。
【0056】
図18(a)ないし図18(d)には、温度調整ケース146の他の例が示されており、ここでは、熱媒体流路192はケース本体172と蓋部174のそれぞれの内部に形成されている。給液路178は、図18(c)に示すように、給液配管188の先端が挿入された二重管の構成となっており、細い連通路190を介して熱媒体流路192に連通している。排液側も同様の構成である。図18(b)に示すように、混合部140を収容する温度調整ケース146と反応部142を収容する温度調整ケース146とは、ボルト194、ナット195およびスペーサ196を介して積層して結合されている。
【0057】
図18(b)には、温度調整ケース146に収容された混合部140および反応部142への液体の供給・排出の経路が示されている。すなわち、それぞれの液体は、温度調整ケース146を貫通して形成された流通路198を介して混合部140へ流出入する。また、混合部140と反応部142との間の液体の流通は、温度調整ケース146の流通路198を連絡する連絡通路200を介して行う。図18(d)には、反応部142の液の流入部と流出部の構造が説明されている。液の流れを下方向へ向かわせるために、通常は混合部140および反応部142の液の入口は上面に、出口は下面にそれぞれ形成する。
【0058】
図10に示すように、反応部142の流出口202は、回収配管204を介して生成物貯留部104に接続されている。生成物貯留部104には、冷却用の熱交換器206、流路切換弁132の下流側に回収容器208が設けられている。回収容器208が置かれる生成物貯留部104は、他の領域から温度等の影響を受けないように、また生成物から発生する可能性のある有毒ガスが外部に漏洩しないように隔離されている。
【0059】
図19は、生成物貯留部104の他の構成例を示すもので、複数の回収容器208が回転テーブル212上に設置されている。この例では、回収容器208は2個であり、回転テーブル212を移動させるアクチュエータ214は180度回転型ロータリーアクチュエータである。勿論、回収容器208の数やアクチュエータ214の種類は適宜に選択可能である。図10に示す動作制御部106は、回収容器208の液面を検知する液面検知センサ211bからの信号により、回収容器208の交換時期を判断し、流路切換弁132(図10参照)により液流を止め、回収口210の下流に設けた光学的流体検知センサ211aにより液流の停止を確認して、アクチュエータ214を作動させて他の回収容器208を回収口210の下方に移動させる。
【0060】
次に、上記のように構成された流体反応装置2により、薬液等の液体(原料液)を反応させる工程について説明する。なお、流体反応装置2の動作は基本的に動作制御部106によって自動制御される。まず、原料貯留部101において、原料液を貯留した貯留容器110A,110Bに用意しておく。熱媒体コントローラ107により熱媒体の温度を設定し、熱交換器182を通過させる市水の量を調整して各熱媒体の温度をそれぞれ調整し、混合部140および反応部142の温度調整ケース146へ熱媒体を流通させてこれらを所定の温度に維持する。熱媒体の温度は、温度調整ケース146の入口に設けた温度センサ216,218により測定される。
【0061】
この例では、原料液を処理部103に供給する前に、混合部140および反応部142内の流路に純水等の洗浄液を流して予め洗浄する。流路を洗浄している間、洗浄液の温度を混合部140の出口の温度センサ220および反応部142の出口の温度センサ222で測定し、洗浄液の温度を熱媒体コントローラ107にフィードバックする。このようにして、混合部140および反応部142を所定の温度に調整する。
【0062】
混合部140および反応部142の温度が調整され、流路の洗浄を終えてから、流路切換弁132を切り換え、ポンプ116A,116Bを駆動して、貯留容器110A,110B内の原料液をそれぞれ移送する。原料液は、流量調整装置300A,300Bにより所定の流量に調整され、その後、混合部140、反応部142、流出口202、回収口210を経て回収容器208に至る。なお、流路切換弁132はアクチュエータにより作動する自動弁としており、この動作は自動運転も可能である。
【0063】
混合部140においては、原料液は予備加熱流路148A,148B(図13参照)において所定の温度に加熱された後、合流部152において合流し、混合する。その際、各液は、図14に示すように、ヘッダ部154,155から分液流路156,157を経由して合流空間158に流入する。合流空間158の断面は下流へ向かうに従い徐々に減少するので、マイクロサイズの流れが規則的に混在し、フィックの法則に則って迅速に混合する。その状態で、所定の温度に維持された反応部142の反応流路162に流入すると、反応は、物質移動や熱伝導の制約を受けずに迅速に進行する。したがって、量産手段として充分実用的であるとともに、反応速度の早い爆発性の反応でも低温下で行う必要がなくなる。また、この例では、反応流路162の幅が合流空間158の幅に比べて充分広く形成されているので、反応速度が遅い場合でも充分な時間をかけて行うことができ、高い収率を得ることができる。
【0064】
得られた生成物は、反応流路162の流出口202から回収配管204を経由してマルチ分光分析装置1に送られ、光源部24から波長領域の異なる複数の光を異なる分光部28で受光して、被測定液を通過した各波長の分光が行われ、その結果に基づいてその含有成分が測定され、さらにその結果に基づいて、記述したような種々の措置が執られる。
【0065】
マルチ分光分析装置1を通過した処理液体は、熱交換器206に送られ、ここで冷却されて、回収口210より回収容器208に流入する。貯留容器110A,110Bが空になったり、回収容器208が満杯になったら、動作制御部106によりポンプ116A,116Bの運転を停止させて処理を終了させる。この場合、貯留容器110A,110Bの他に、追加の貯留容器を原料貯留部101に予め用意しておけば、流路切換弁126A,126Bを切り換えることにより、運転を停止させることなく連続的な処理が可能である。なお、反応に時間が掛かる場合には、混合部140および反応部142内に液を一定時間閉じ込めてバッチ運転することも可能である。流路切換弁126A、126Bも自動弁であるのでこれらの動作は自動運転も可能である。
【0066】
バッチ運転の方法は、ポンプ116A,116Bを一時停止してもよいし、流路切換弁126A,126Bを切り換えて、処理部103への液体の流入を停止させてもよい。これにより、液体の反応時間が長い場合でも反応流路162の長さを長くする必要がなくなる。バッチ運転の際は、合流空間158および/または反応流路162に液体が充満されたことを検知する充満検知手段を用いて運転制御を行うことが好ましい。これは、例えば、図19に示すような光学的流体検知センサが用いられる。これにより、合流空間158および/または反応流路162に液体が充満されたと判断した時点で、ポンプ116A,116Bを停止させまたは第1の流路切換弁を切換え、液体を反応終結時間に適応する一定時間合流空間158および/または反応流路162に滞留させておく。
【0067】
図20(a)および図20(b)は、混合部140における合流部の他の構成例を示すものである。この合流部152aは、Y字状の合流空間158aに、障害物224を一定間隔aで所定の距離Lに亘って配置したものである。この例では、直径50μm以下である柱状の障害物224を、合流点からL=5mmに亘って配置した。図20(b)に示すように、各障害物224は隣接するものが流れ方向にピッチの半分だけずれるように、千鳥状に配置されている。これによって液体Aおよび液体Bの界面125が蛇行するので2つの液体の界面面積(接触面積)を大きくすることができる。図21に示す合流部152bでは、合流空間158bの中央部に一列の障害物224を流れ方向に沿って千鳥状に配置したもので、同様に界面面積を大きくすることができる。これは、狭い合流空間158bで採用するのに好適である。
【0068】
図22は、流体反応装置2の処理部103の他の構成例を示すものである。これは、図10の処理部103において、混合部140と反応部142との組み合わせをそれぞれ有する2系統R1,R2設け、さらに配液部102の流路切換弁126A,126Bを用いて2種類の原料液をいずれの系統R1,R2にも供給可能にしたものである。このように、2系統を用いることで、必要に応じて処理量を増やすことができるが、その他にも種々の使用方法が有る。例えば、反応生成物が固体粒子を析出しやすく、配管途中で詰まりやすい場合などでは、一方の系統を予備として使用する。また、流路切換弁126A,126Bで移送ラインを交互に切り換えて、上述したバッチ運転を連続的に行うことができる。勿論、3系統以上の移送ラインを適宜に並列して設けることができる。この場合も流路切換弁126A,126Bは自動操作が可能である。
【0069】
図23は、処理部103において反応部を複数直列に配置した例を示す。この例では、1つの混合部140と3つの反応部142a,142b,142cが直列に接続されており、それぞれに温度センサ220,222a,222b,222cが設けられている。この例では、反応の段階に応じて反応部142a,142b,142cを独立して温度制御することが可能となっている。この構成は、生化学反応のように反応時間と反応温度を大胆に且つ瞬時に変化させたい反応に適している。たとえば反応部142aでは100℃で反応させ、反応部142bでは−20℃で反応させるというような反応もこのシステムでは可能になる。
【0070】
図24は、処理部103において混合部を複数設けた例である。この構成例では、A液とB液を混合し反応させる第1の混合部140および反応部142が設けられ、この反応部142の下流側に第2の混合部140aが設けられている。この混合部140aではポンプ116Cから輸送された第3の原料液または反応剤であるC液がA液とB液と合流し、混合する。これらの2つの混合部140,140aと1つの反応部142の温度は個別に制御される。なお、C液は反応停止剤でもよい。
【0071】
この構成例では、インライン収率評価器226が第2の混合部140aの流出口202に直接接続されている。これにより、化学反応の結果の収率をリアルタイムで確認でき、直ぐにプロセスパラメータへフィードバックすることが可能となる。インライン収率評価器226としては、被測定物を分離せずに測定可能な方法として赤外分光、近赤外分光、紫外吸光等の方法がある。
【0072】
この構成例では、さらに、反応生成物の中から不要な物質と必要な物質を分離する分離抽出部228が第2の混合部140aの下流側に設けられている。図示するように、分離抽出部228は、Y字形の分離流路234を有している。第2の混合部140aからの液体は分離流路234により2つの流れに分岐され、1つは物質内の疎水性分子のみを通過させる疎水性壁面230から形成された流路に、他方は物質内の親水性分子のみを通過させる親水性壁面232から形成された流路に流れ込む。分離した物質は、それぞれ回収配管204,204aを介して回収容器208,208aに回収される。分離抽出部228としては、その他に、疎水性物質だけを吸着可能な膜やポーラスフリットを使用することも考えられる。
【0073】
図25は、混合・反応と分離抽出を繰り返して連続処理するための構成例である。すなわち、A液とB液を処理する混合部140a、反応部142a、および分離抽出部228aが上流側に配置され、分離抽出部228aから抽出された液体とC液を処理する混合部140b、反応部142b、および分離抽出部228bが下流側に配置されている。A液とB液が反応した後の不要物質は分離抽出部228aの排出口234aから系外に出され、C液を加えた第2の反応における不要物質は分離抽出部228bの排出口234bから系外に出される。さらに、分離抽出部228bから抽出された液体と第4の液であるD液を混合させる混合部140cが設けられている。なお、D液は反応停止剤でもよく、他の原料溶液でも良い。混合部140cの下流側にインライン収率評価器226を設けても良い。
【0074】
図26(a)には、図25の各部を積層化した構成が示されている。液体は下方へ流れる。混合部140a、反応部142a、分離抽出部228a、混合部140b、反応部142b、分離抽出部228b、および混合部140cは、温度調整ケース146にそれぞれ収容され、さらにボルト194、ナット195、スペーサ196によって所定の間隔をおいて積層化されている。各部間の液の移動は連絡通路200(図13(b)参照)を介して行われる。各部の間には空気を介在させ、空気の断熱性を利用して他の部の熱影響を受けないようにして、温度制御の精度を向上させている。図26(b)に示すように、各温度調整ケース146の周りを気泡を含んだクリーンなシリコン部材236等の断熱材で覆うのが好ましい。
【0075】
この流体反応装置2に導入される流体は液体、気体であり、回収される物質は液体、気体、固体またはこれらの混合体である。導入物質が粉体などの固体の場合は原料貯留部101に粉体溶解器を設置することも可能である。図27は、2つの原料液のうち、一方が粉体を溶解した溶液、他方は元々液体の場合の原料貯留部101の構成例である。原料の粉体と溶媒は粉体溶解器240の原料導入口242から導入される。この例では、原料粉体をヒータ244による加熱と攪拌器246による攪拌によって溶解し、生成した原料液を、取出し口148に引き込まれた配管249より、ポンプ116Aによって、混合部140および反応部142に送り込むようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】この発明の一実施の形態のマルチ分光分析装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】この装置で分析する反応の例を示す図である。
【図3】この発明のマルチ分光分析装置の他の実施の形態の構成を模式的に示す図である。
【図4】この発明のマルチ分光分析装置の他の実施の形態の構成を模式的に示す図である。
【図5】この発明のマルチ分光分析装置の他の実施の形態の構成を模式的に示す図である。
【図6】この発明のマルチ分光分析装置の他の実施の形態の構成を模式的に示す図である。
【図7】図6の実施の形態の変形例の構成を示す図である。
【図8】図6の実施の形態の他の変形例の構成を示す図である。
【図9】(a)及び(b)は、この発明の一実施の形態のマルチ分光分析装置の使用形態を模式的に示す図である。
【図10】流体反応装置の全体を示す模式図である。
【図11】図10の流体反応装置の全体の構成を示す斜視図である。
【図12】図12(a)は図10の流体反応装置の全体の構成を示す平面図、図12(b)は正面図である。
【図13】図13(a)は混合部の構成を示す平面図、図13(b)は断面図である。
【図14】混合部の合流部を拡大して示す図である。
【図15】図15(a)は反応部の構成を示す平面図、図15(b)は断面図である。
【図16】図16(a)は反応部の他の構成を示す縦断面図、図16(b)は図16(a)におけるXVIII-XVIII線断面図、図16(c)は反応部のさらに他の構成を示す横断面図である。
【図17】温度調整ケースの構成を示す斜視図である。
【図18】図18(a)は処理部の平面断面図、図18(b)は側面断面図、図18(c)は図18(a)の部分拡大図、図18(d)は図18(b)の部分拡大図である。
【図19】生成物貯留部の他の構成を示す図である。
【図20】図20(a)は合流部の他の構成を示す平面図、図20(b)は図20(a)の要部を拡大して示す図である。
【図21】合流部のさらに他の構成を示す平面図である。
【図22】流体反応装置の他の構成を示す模式図である。
【図23】流体反応装置の他の構成を示す模式図である。
【図24】流体反応装置の他の構成を示す模式図である。
【図25】流体反応装置の他の構成を示す模式図である。
【図26】図25の処理部の構成を示す斜視図である。
【図27】流体反応装置の他の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0077】
1 マルチ分光分析装置
2 マイクロリアクタ(流体反応装置)
10 ケーシング
14 フローセル
16 内部空間
18 仕切
20 発光部
22 受光部
24 光源部
24a-24g 光源
26 光ファイバ
28 分光部
28a-28g 分光器
28a 紫外分光器
28b 可視光分光器
28c-28e 近赤外分光器
28f 赤外分光器
28g 遠赤外分光器
30 AD変換器
32 制御部
34 ディスプレイ
36 記憶装置
38 警報装置
40 分岐流路
42 流量調整弁
44 開閉弁
46 ケーシング
47 基板
48 流路
50 継手部
52 発光ケース
54 受光ケース
56 固定ナット
58 混合・反応部
60 マイクロクエンチ部
61 水冷ジャケット
62 3方切換弁
64 製品貯蔵ライン
66 予備タンク
68 予備ライン
140 混合部
142 反応部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品製薬製造ラインおよび医薬品開発段階の有機合成反応結果を評価するためのマルチ分光分析装置であって、
複数の波長の異なる光源を有する光源部と、
被測定液を流通させるフローセルを構成するケーシングと、
上記フローセルにおいて被測定液に近接する複数の発光部と受光部と、
受光部から得られた各波長の分光を個々に行う分光器を有する分光部と、
分光器で得られた被測定液の分光情報を演算制御して出力する制御部とを具備したことを特徴とするマルチ分光分析装置。
【請求項2】
上記光源部は、紫外光、可視光、近赤外光、赤外光、遠赤外光のうち、少なくとも2つ以上の波長領域をカバーする光源を有することを特徴とする請求項1に記載のマルチ分光分析装置。
【請求項3】
前記フローセルが複数形成され、各フローセルに発光部と受光部がそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマルチ分光分析装置。
【請求項4】
前記ケーシングは、仕切によって内部に複数のフローセルを形成するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のマルチ分光分析装置。
【請求項5】
前記ケーシングは、内部に1つのフローセルを形成するように構成され、複数の前記ケーシングが基板上に着脱自在に取り付け可能となっていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のマルチ分光分析装置。
【請求項6】
可視領域から近赤外領域の光源を一つの光源で兼用し、異なる受光部に導くように構成したことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のマルチ分光分析装置。
【請求項7】
前記発光部と受光部間の距離を調整可能であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のマルチ分光分析装置。
【請求項8】
反応領域の下流側に、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のマルチ分光分析装置を有することを特徴とするマイクロリアクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2007−113979(P2007−113979A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303850(P2005−303850)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】