説明

マンガン乾電池

【課題】 鉛を実質的に含まずに、従来の鉛を含有した場合と同等またはそれ以上の機械的強度および耐食性を有する負極缶を用いることにより、耐漏液性および保存性能に優れた環境に優しいマンガン乾電池を提供する。
【解決手段】 マンガン乾電池において、負極缶がインジウムを0.001〜0.01重量%含む亜鉛合金からなり、セパレータが、糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり0.1〜5.0重量部のインジウムおよびビスマスの少なくとも1種を含み、かつインジウムはInCl3として含まれ、ビスマスはBiCl3として含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン乾電池、特に鉛を実質的に含有しない亜鉛合金からなる負極缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マンガン乾電池における負極缶では、材料として用いられている亜鉛の機械的強度を高め、さらに耐食性を向上させるために、亜鉛に鉛を添加していた。
しかし、近年、使用後の乾電池がもたらす環境汚染を防止するため、電池を構成する部材に、水銀、カドミウム、および鉛等の有害物質を使用しない方向で種々の検討が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、負極缶を構成する材料として、カドミウムを含有せず、インジウムを0.001〜0.1重量%含有し、かつマンガンを0.005〜1重量%含有する亜鉛合金を用いることが提案されている。
【0004】
負極缶にマンガンを添加すると、負極缶の強度が向上し、耐漏液性が改善される。しかし、従来の鉛添加の負極缶と比べて、ガス発生量が多いため、長期保存時に正極合剤と負極缶との間にガスが滞留し、正極合剤と負極缶との間の距離が広くなる。これにより、内部抵抗が増大し、電池の長期保存後の放電性能(保存性能)が低下しやすいという問題があった。
【0005】
一方、インジウムを添加した負極缶は、鉛を添加した従来の負極缶とほぼ同等の強度が得られ、耐漏液性が改善する。しかし、インジウムを添加するだけでは、負極缶からのガス発生量を、鉛を添加した負極缶と同等のレベルに抑えることができないため、電池の保存性能は鉛を添加した従来の負極缶を用いた場合よりも低下してしまう。
【特許文献1】特開平5−125470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題を解決するため、鉛を実質的に含まずに、従来の鉛を含有した場合と同等またはそれ以上の機械的強度および耐食性を有する負極缶を用いることにより、耐漏液性および保存性能に優れた、環境に優しいマンガン乾電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のマンガン乾電池は、二酸化マンガンを含む正極合剤と、鉛の含有量が0.03重量%以下の亜鉛合金からなる負極缶と、前記正極合剤と前記負極缶との間に配され、糊材を塗布した紙からなるセパレータとを具備し、前記亜鉛合金が、インジウムを0.001〜0.01重量%含み、前記セパレータが、前記糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり0.1〜5.0重量部のインジウムおよびビスマスの少なくとも1種を含み、かつ前記インジウムはInCl3として含まれ、前記ビスマスはBiCl3として含まれることを特徴とする。
【0008】
前記正極合剤に挿入された炭素棒と、前記炭素棒の嵌合孔および前記負極缶の開口端を嵌合する環状の溝を設けた鍔部を有する合成樹脂製の封口体と、前記封口体と前記負極缶との間および前記封口体と前記炭素棒との間に設けられたポリブテンからなる接着剤層とを有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉛を実質的に含まずに、従来の鉛を含有した場合と同等またはそれ以上の機械的強度および耐食性を有する負極缶を用いることにより、耐漏液性および保存性能に優れた環境に優しいマンガン乾電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、二酸化マンガンを含む正極合剤、鉛を0.03重量%以下含む亜鉛合金からなる負極缶、および前記正極合剤と前記負極缶との間に配され、糊材を塗布した紙からなるセパレータを具備するマンガン乾電池に関する。そして、前記亜鉛合金が、インジウムを0.001〜0.01重量%含み、前記セパレータが、前記糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり0.1〜5.0重量部のインジウムおよびビスマスの少なくとも1種を含み、かつ前記インジウムはInCl3として含まれ、前記ビスマスはBiCl3として含まれる点に特徴を有する。
【0011】
すなわち、前記セパレータが、前記糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり、InCl3およびBiCl3の少なくとも1種を合計で0.15〜12.2重量部含む。
糊材は、架橋デンプンと酢酸ビニルを主とする結着剤とをアルコール系溶媒に溶かしたものからなる。
【0012】
上記の構成とすることにより、負極缶の強度を改善しつつ、ガス発生量を従来の鉛を添加した負極缶と同等のレベルに抑制して、耐食性を向上させ、電池の耐漏液性および保存性能を向上させることができる。
【0013】
亜鉛合金中のインジウム含有量が0.001重量%未満であると、インジウムを含有することによる効果が不充分となる。一方、亜鉛合金中のインジウム含有量が0.01重量%を超えると、負極缶作製時において、インジウム量が多いため、亜鉛ブスバーにクラックが発生し、ペレットの作製が困難となる。
【0014】
セパレータが、糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり0.1重量部未満のインジウムおよびビスマスの少なくとも1つを、InCl3およびBiCl3の少なくとも1つとして含むと、ガス発生量が多くなり、負極缶の耐食性が低下する。セパレータが、糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり5.0重量部を越えるインジウムおよびビスマスの少なくとも1つを、InCl3およびBiCl3の少なくとも1つとして含むと、内部抵抗が増大し、放電性能が低下する。
【0015】
インジウムおよびビスマスは、セパレータ中に0.0〜5.0:5.0〜0.0の重量比で含まれるのが好ましい。
セパレータ中にBiCl3やInCl3を添加することにより、負極缶(亜鉛)表面にビスマス層やインジウム層が形成されるため、保存時の亜鉛の溶出(腐食)、すなわちガス発生量が、亜鉛に鉛を添加した場合と同等レベルにまで抑制されて負極缶の耐食性が向上する。BiCl3を用いた場合は、ビスマス層がすぐに形成されるため、特に初期段階において亜鉛の腐食が抑制され、保存性能が向上する。InCl3を用いた場合は、亜鉛表面にゆっくりとインジウム層が形成されるため、特に長期保存時の放電性能が向上する。セパレータ中にBiCl3およびInCl3の両方を添加すると、両者の効果が発揮され、初期から長期にわたって優れた保存性能が得られる。
【0016】
上記のマンガン乾電池は、さらに、正極合剤に挿入された炭素棒、および中央に炭素棒の嵌合孔を有し、周縁部に前記負極缶の開口端を嵌合する環状の溝を下面に設けた鍔部を有する合成樹脂製の封口体を具備する。
そして、電池の耐漏液性をさらに向上させるために、前記封口体と前記負極缶との間(封口体の溝の部分)、および前記封口体と前記炭素棒との間(封口体の孔の部分)にポリブテン系の封止剤を塗布することが好ましい。従来、接着剤として用いられていたアスファルトでは、保存時に上記の塗布部分において隙間が生じやすく、封止性が低下する場合があった。これに対して、本発明では、ポリブテンを接着剤に用いるため、優れた封止性が確保され、電池内部への酸素ガスの侵入を完全に防止し、負極缶の酸化を防ぐことができる。
【0017】
この負極缶を用いたマンガン乾電池では、負極缶に有害な鉛が実質的に含まれないため、環境汚染を抑制することができる。ただし、負極缶中に鉛を不純物として0.03重量%以下含んでいてもよい。
前記セパレータとしては、例えば、クラフト紙に、架橋デンプンと酢酸ビニルを主とする結着剤とをアルコール系溶媒に溶かした糊材を塗布し乾燥させたものが用いられる。
【0018】
糊材の乾燥固形成分は、例えば、クラフト紙に塗布された糊材を、クラフト紙ごと熱風をあてて乾燥させることにより得られる。
InやBiを含むセパレータは、紙に塗布する糊材にInやBiを含ませることにより得られる。抄紙時にIn等を紙に含ませてもよいが、保存性能の観点からIn等を糊材に含ませたほうが有効である。
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
《実施例1〜34および比較例1〜18》
(1)負極缶の作製
低周波誘導炉を使用して純度99.99重量%の亜鉛を約500℃で溶融し、これに表1〜3に示す所定量の元素を添加し、亜鉛合金溶湯を得た。そして、これらの亜鉛合金溶湯を冷却しながら所定の厚さの板状に圧延し、合金板を得た。これらの合金板をプレスで打ち抜くことにより、所定の大きさの小片を得た。この小片を用いてインパクト成形法により単1形マンガン乾電池用(R20サイズ)の有底円筒形の負極缶を得た。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
(2)正極合剤の作製
二酸化マンガンと、導電性カーボンブラックと、塩化亜鉛30重量部および水70重量部を含む電解液とを、50:10:40の重量比で混合し、この混合物を成形して正極合剤を得た。
【0024】
(3)マンガン乾電池の組み立て
上記で得られたR20サイズの負極缶を用い、以下に示す手順で図1に示す構成の単1形マンガン乾電池を作製した。
上記で得られた有底円筒形の負極缶1内にセパレータ2を介して円筒形の正極合剤3を収納した。正極合剤3の中央部に、カーボン粉末を固めた炭素棒4を差し込んだ。セパレータ2には、クラフト紙に、架橋デンプンと酢酸ビニルを主とする結着剤とをアルコール系溶媒に溶かした糊材を塗布し乾燥させたものを用いた。なお、糊材の乾燥は、糊材を塗布したクラフト紙に100℃の熱風を1分間あてることにより行われた。
【0025】
封口体6は、ポリオレフィン系樹脂で作製し、中央部に炭素棒4を挿入させる孔11を設けた。鍔紙5は、板紙を中心孔を有する環状に打ち抜いて得たものであり、正極合剤1の上部に配置した。封口体6および鍔紙5の中心孔を貫通する炭素棒4は、正極の集電体として作用するように、その上部を正極端子8と接触させた。封口体6の孔11の周縁部に形成された鍔部12の下面に設けられた環状の溝13に、負極缶1の開口端部を嵌合させた。
負極缶1の外周には、絶縁を確保するための熱収縮性を有する樹脂フィルムからなる樹脂チューブ7を配し、その上端部で、封口体6の外周部上面を覆い、その下端部でシールリングの下面を覆った。
【0026】
ブリキ板で作製した正極端子8には、炭素棒4の上端部に被せるキャップ状の中央部および平板状の鍔部を有する形状を持たせた。この正極端子8の平板状の鍔部には、樹脂製の絶縁リング9を配した。正極合剤3の底部と負極缶1の間には、絶縁を確保するために、底紙を設けた。負極端子の平板状外周部の外面側にはシールリングを配置した。
【0027】
筒状のブリキ板で作製した金属外装缶10を、樹脂チューブ7の外側に配置し、その下端部を内側に折り曲げ、その上端部を内方にカールさせるとともに、その上端部の先端を絶縁リング9に接触させた。このようにして、絶縁リング9、正極端子8の平板状の鍔部、樹脂チューブ7の上端部、封口体6の外周部、および負極缶1の開口端部、ならびに樹脂チューブ7の下端部、シールリング、および負極端子がそれぞれ所定位置に固定された。
【0028】
上記マンガン乾電池の作製時において、セパレータの糊材中にInCl3およびBiCl3の少なくとも1つを表1〜3に示す種々の割合で添加した。なお、表1〜3中のInCl3およびBiCl3の添加量は、糊材中の乾燥固形成分100重量部あたりのインジウムおよびビスマスの量を示す。
【0029】
また、上記のマンガン乾電池作製時において、封口体と負極缶との間(封口体の溝)、および封口体と炭素棒との間(封口体の孔)に塗布する封止剤には、アスファルトまたはポリブテンを用いた。表1〜3の実施例1〜28および比較例1〜18では、アスファルトを用い、表3の実施例29〜34では、ポリブテンを用いた。
そして、InCl3およびBiCl3含有量の異なるセパレータと、亜鉛合金組成の異なる負極缶と種類の異なる封止剤とを組み合わせて、実施例1〜34および比較例1〜18のマンガン乾電池を作製した。
【0030】
上記で得られた各負極缶およびマンガン乾電池について以下のような評価を行った。
[評価]
(4)負極缶の機械的強度
図2に示すように有底円筒形のR20サイズの負極缶14をVブロック15上に設置した。そして、負極缶14の開口部から10mmの外側面上に円錐状の圧力端子16を押し当てた。この圧力端子16の押し当てた点が移動したときの変位量と、この点に掛かる力を記録計で記録した。R20サイズの負極缶14では約4mmでほぼ一定値を示すので、4mm変位時に測定点に掛かる力を、便宜上、負極缶14の機械的強度とした。
【0031】
(5)マンガン乾電池の耐漏液性
10個の電池および2.2Ωの抵抗を直列に接続した後、4週間放置した。このとき、漏液した電池の数を調べた。
【0032】
(6)マンガン乾電池の放電性能および保存性能
初度および45℃で3ヶ月間保存後の電池について、20±2℃の環境下で、2.2Ωの負荷で、閉路電圧が0.8Vに達するまで連続放電した。そして、この時の放電時間を測定した。
そして、初度の電池の放電時間が550min以上であれば、放電性能が良好であり、45℃で3ヶ月間保存した後の電池の放電時間が470min以上であれば、保存性能が良好であると判断した。
上記の試験結果を表4〜6に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【0035】
【表6】

【0036】
表4に示すように、負極缶中の鉛含有量が0.03重量%以下に減少すると、保存性能が低下した。また、亜鉛合金中にインジウムを添加しただけでは、負極缶の強度は改善されたが、従来レベルの保存性能は得られなかった。
亜鉛合金がインジウムを0.1〜5重量%含み、セパレータが糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり0.1〜5重量部のインジウムまたはビスマスをInCl3またはBiCl3として含む実施例1〜6の電池では、負極缶の強度が改善されるとともに、優れた耐漏液性および保存性能が得られた。
【0037】
セパレータが、糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり0.05重量部のインジウムまたはビスマスをInCl3またはBiCl3として含むと、保存性能が低下した。一方、セパレータが、糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり10重量部を超えるインジウムまたはビスマスをInCl3またはBiCl3として含むと、インジウムまたはビスマスの含有量が多いため、内部抵抗が大きくなり、初度の放電性能が低下した。
【0038】
表5に示すように、セパレータが、インジウムおよびビスマスの両方をInCl3またはBiCl3として含む場合では、ビスマスおよびインジウムを合計して1.05〜5重量部含むと、良好な耐漏液性および保存性能が得られた。特に、実施例11〜13、15および16では、インジウムとビスマスの両方の効果により、優れた耐漏液性および保存性能が得られた。また、セパレータが、糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり1重量部のインジウムをInCl3として含む場合、負極缶の亜鉛合金中のインジウム含有量は0.001〜0.01重量%であると、負極缶の強度が改善されるとともに、優れた耐漏液性および保存性能が得られた。
【0039】
表6に示すように、負極缶中の鉛含有量を0.01とさらに減らした場合、および鉛を無添加とした場合においても、負極缶に用いられる亜鉛合金中のインジウム含有量が0.005であり、セパレータが、糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり0.1〜5重量部のインジウムまたはビスマスをInCl3またはBiCl3として含むと、負極缶の強度が改善されるとともに、優れた耐漏液性および保存性能が得られた。
また、封止剤にポリブテンを用いた実施例29〜34では、封止剤にアスファルトを用いた実施例23〜28よりも、封止性が優れているため、負極缶の腐食が抑制され、保存性能が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のマンガン乾電池は、情報機器や携帯機器等の電子機器の電源として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のマンガン乾電池の一部を断面にした正面図である。
【図2】負極缶の機械的強度の測定法を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1、14 負極缶
2 セパレータ
3 正極合剤
4 炭素棒
5 鍔紙
6 封口体
7 樹脂チューブ
8 正極端子
9 絶縁リング
10 金属外装缶
11 孔
12 鍔部
13 溝
15 Vブロック
16 圧力端子





【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化マンガンを含む正極合剤と、鉛の含有量が0.03重量%以下の亜鉛合金からなる負極缶と、前記正極合剤と前記負極缶との間に配され、糊材を塗布した紙からなるセパレータとを具備したマンガン乾電池であって、
前記亜鉛合金が、インジウムを0.001〜0.01重量%含み、
前記セパレータが、前記糊材中の乾燥固形成分100重量部あたり0.1〜5.0重量部のインジウムおよびビスマスの少なくとも1種を含み、かつ前記インジウムはInCl3として含まれ、前記ビスマスはBiCl3として含まれることを特徴とするマンガン乾電池。
【請求項2】
前記正極合剤に挿入された炭素棒と、前記炭素棒の嵌合孔および前記負極缶の開口端を嵌合する環状の溝を設けた鍔部を有する合成樹脂製の封口体と、前記封口体と前記負極缶との間および前記封口体と前記炭素棒との間に設けられたポリブテンからなる接着剤層とを有する請求項1記載のマンガン乾電池。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−48534(P2007−48534A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230208(P2005−230208)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】