説明

マーク付きコンタクトレンズの製造方法及びそれによって得られるマーク付きコンタクトレンズ

本発明は、コンタクトレンズにダメージを与えることなく、脱色しない着色であり、且つ、煩雑な工程を実施することなく、モールド成形時に、コンタクトレンズの重合成形と同時に、コンタクトレンズに対してマーキングを行なうことが可能なコンタクトレンズの製造方法の改良した技術を提供することにある。そして、本発明にあっては、着色剤として、コンタクトレンズ構成重合体を与えるモノマー混合液を構成するモノマー成分の少なくとも1種以上からなる媒体に、所定の色素を含有せしめたものを採用する一方、かかる着色剤を付着せしめるに先立って、成形キャビティ面(28)に、スパッタリングによる微細な粗面化加工を施すと共に、成形キャビティ面(28)に付着せしめた着色剤を、モノマー混合物を成形キャビティ内へ充填する以前に、予備重合するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、マーク付きコンタクトレンズの製造方法及びそれによって得られるマーク付きコンタクトレンズに係り、特に、染料や顔料等の色素を用いて、文字、図形、記号等の色付きマークが形成されたコンタクトレンズを有利に製造する方法、及びそれによって得られるマーク付きコンタクトレンズに関するものである。
【背景技術】
従来より、コンタクトレンズには、装用時におけるレンズの表裏や左眼用・右眼用を判別したり、レンズ規格や製造元等を表示したりする等の目的から、文字や図形、記号、模様等からなるマークが、付されている。
そして、そのような文字や図形、記号、模様等からなるマークを付したコンタクトレンズを製造する方法としては、これまでに、各種の手法が採用されてきており、例えば、目的とする最終形状のコンタクトレンズを成形した後、そのコンタクトレンズの表面、つまり、後面(ベースカーブ面)及び/又は前面(フロントカーブ面)に対して、染料や顔料等の色素を有機溶媒に溶解乃至は分散せしめてなるインクを用いて、マークを印刷する手法や、レーザーにより、マークを焼付け、刻印したりする方法等が、知られている。
しかしながら、前者の印刷手法によって形成されたマークにあっては、洗浄時の擦り洗いや、繰り返しの消毒等によって、色素が溶出したり、マークが脱色したり、剥がれたりすることが、懸念されている。しかも、コンタクトレンズを成形した後にマークを印刷すると、製造工程が増えて、煩雑となるといった問題もある。
また一方、後者のレーザーマーキングの場合には、形成されるマークが見難いと共に、レンズ表面に溝乃至は凹部が形成されるところから、刻印部分において、レンズ厚みが薄くなったり、レーザーによるレンズ材料の変性によりレンズの劣化を招くことによって、レンズの機械的強度の低下等のダメージが招来されたり、また、かかる刻印部分の溝乃至は凹部には、汚れが溜まり易いことから、細菌の繁殖の温床となる恐れがある等の問題を内在している。
さらに、特開平2−134612号公報においては、透明な中央視覚部分とそれを取り巻く色付虹彩部分を有する、成形色付コンタクトレンズを製造する方法が提案されており、そこでは、金型の成形キャビティ面の所定の部位を、色付液状物で被覆して、色付フィルムを形成せしめた後、該色付フィルムを金型に保持した状態で、レンズ形成用液状物を導入して、重合することにより、色付フィルムとレンズ本体とを一体化せしめて、該色付フィルムの表面がレンズの外表面の一部となるように構成されたコンタクトレンズが製造されている。また、特開平4−265710号公報には、モールド重合用の成形型の型表面に、少なくとも2つの異なるデザインを設け、これらのデザインを、コンタクトレンズの成形及び硬化中に、型表面と接触するコンタクトレンズ表面に転写することによって、虹彩模様を有するコンタクトレンズを製造する手法が明らかにされている。加えて、特開2000−122004号公報には、派手な外観の着色コンタクトレンズの製造方法が提案されており、そこでは、顔料組成物を、成形型の凹面にプリントした後、この凹面にレンズ材料を滴下して、スピニングさせることにより、コンタクトレンズの半球面(凸面)を形成すると共に、スピニング時の遠心力によって、顔料粒子をレンズ材料内に分布させて、派手な外観の着色コンタクトレンズを製造している。
しかしながら、上述せる如き公報に開示された方法では、染料や顔料等の色素を含む着色剤乃至はインクを、成形型表面へ印刷する際に、かかる着色剤(インク)が、型表面で弾かれる等して、所望とする形状のマークを形成することが出来なくなる恐れがあると共に、型表面にプリントされた着色剤とコンタクトレンズを構成する重合体を与えるモノマー混合液とを接触せしめた際に、着色剤中の色素がモノマー混合液に浸出して、色滲みが発生し、コンタクトレンズに形成されるマークが不鮮明となったり、更には、マーク部分とレンズ本体との一体化が充分に実現され得なくなって、コンタクトレンズの脱型時に、マーク部分が成形型に残ったり、或いは、コンタクトレンズに転写されても、マーク部分が容易に取れてしまうといった転写性不良を生じる等の問題を惹起する恐れがあり、これらの問題が、ひいては、製品の歩留りを低下せしめる原因となり、改善の余地を未だ有するものであった。
【発明の開示】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、コンタクトレンズにダメージを与えることなく、脱色しない着色であり、且つ、煩雑な工程を実施することなく、モールド成形時に、コンタクトレンズの重合成形と同時に、コンタクトレンズに対してマーキングを行なうことが可能なコンタクトレンズの製造方法の改良した技術を提供することにあり、特に、成形型への着色剤の付着性、コンタクトレンズへの転写性及びマークの鮮明性に優れたマーク付きコンタクトレンズの製造方法を提供することにある。
そして、本発明にあっては、上述の如き課題を解決するために、(A)雄型と雌型とを型合わせして、それらの型の間に、コンタクトレンズを与える形状の成形キャビティが形成されるように構成し、該成形キャビティ内において、所定のモノマー混合液を重合せしめることによって、形成される重合体からなるコンタクトレンズがモールド成形されるようにしたモールド重合用成形型を用いて、マークの付されたコンタクトレンズを製造する方法であって、(B)前記モールド重合用成形型を与える雄型と雌型のうちの少なくとも一方の型を、樹脂材料にて構成すると共に、該樹脂材料にて構成された型の成形キャビティ面における少なくともマーク部形成部位に対して、スパッタリングにより、微細な粗面化加工を行なう工程と、(C)かかる微細な粗面化加工が施された成形キャビティ面の部位に対して、前記モノマー混合液を構成するモノマー成分の少なくとも1種以上からなる媒体中に、所定の色素を溶解又は分散せしめてなる着色剤を、所定のマーク形状となるように付着せしめる工程と、(D)該成形キャビティ面に付着せしめられた着色剤からなるマーク部を、予備重合する工程と、(E)該予備重合されたマーク部が付着した状態下において、前記成形キャビティ内に、前記モノマー混合液を充填して、該モノマー混合液を重合せしめることにより、生成する重合体にて目的とするコンタクトレンズを形成すると共に、前記マーク部を構成する着色剤の重合を完結せしめて、それらコンタクトレンズ構成重合体とマーク部構成重合体とを一体化する工程とを、含むマーク付きコンタクトレンズの製造方法を、その特徴としているのである。
このように、本発明に従うマーク付きコンタクトレンズの製造方法にあっては、色素を含有する着色剤を所定のマーク形状となるように成形キャビティ面に付着せしめた状態において、コンタクトレンズ構成重合体を与えるモノマー混合液を、モールド重合用成形型の成形キャビティ内に充填して、重合を行なうようにしているところから、コンタクトレンズの成形と同時に、コンタクトレンズへのマーキングも実施され、製造工程を煩雑とすることなく、簡便にコンタクトレンズへマークを付与することが出来るのである。また、得られるマーク付きコンタクトレンズの表面は、成形型の成形キャビティ面に対応して面一となっており、マーキングによって凹部等が形成されることもないところから、コンタクトレンズに強度低下等のダメージが与えられるようなこともない。
また、本発明においては、雄型と雌型からなるモールド重合用成形型のうち、樹脂材料からなる少なくとも一方の型の成形キャビティ面の一部若しくは全面が、スパッタリング処理により、微細な粗面とされ、そして、その微細に粗面化された部位に対して、着色剤が付与されるようになっているところから、着色剤が成形キャビティ面で弾かれることなく、有利に付着せしめられるようになっている。つまり、成形キャビティ面における少なくともマーク部形成部位に対して、スパッタリングが施されているところから、その樹脂表面が、分子や原子レベルの非常に小さなオーダーで物理的に凹凸化せしめられて、微細な粗面とされるのである。このため、スパッタリングされた部位における液体の保持力が効果的に高められ、これにより、液状物である着色剤の付着性が改善され、着色剤を所定のマーク形状となるように有利に付着せしめることが可能となっているのである。
さらに、本発明においては、特定のモノマー成分を媒体とする着色剤、具体的には、コンタクトレンズ構成重合体(コンタクトレンズ本体を構成する重合体)を与えるモノマー混合液中の少なくとも1種以上のモノマー成分を媒体とする着色剤を採用すると共に、成形キャビティへのモノマー混合液の導入に先立って、予め、かかる着色剤を、予備重合するようにしているところから、着色剤からなるマーク部が付着した状態で、モノマー混合液を、成形キャビディ内に充填しても、色滲みが発生するようなことが効果的に防止され、以てコンタクトレンズに鮮明なマークが付与されるようになっている。また、着色剤中に含有される色素は、重合体中に取り込まれることから、得られたマーク付きコンタクトレンズを、水等の水系媒体に浸漬しても、マークの色が抜けるようなこともない。
加えて、着色剤とモノマー混合液には、同一のモノマー成分が存在しているところから、マーク部構成重合体とコンタクトレンズ構成重合体の一体化が、極めて有利に実現されることとなり、換言すれば、それぞれの構成重合体を与えるモノマー成分同士が重合することによって、マーク部構成重合体とコンタクトレンズ構成重合体とが相互に化学的に強固に結合されることとなり、これにより、コンタクトレンズの脱型時に、マーク部が樹脂型の成形キャビティ面に残って転写されなかったり、コンタクトレンズに転写されてもマーク部分が簡単に取れてしまうようなことが効果的に防止されているのである。つまり、優れた転写性が有利に実現されるようになっている。
なお、かかる本発明に従うマーク付きコンタクトレンズの製造方法の好ましい態様の一つによれば、前記着色剤に含まれる色素として、下記一般式(I)にて示される銅フタロシアニン誘導体を好適に用いることが出来る。このような銅フタロシアニン誘導体にあっては、生物学的安全性が担保されており、また、重合性を有する官能基、即ち、メタクリロイル化されたアミノ基、又はアクリロイル化されたアミノ基を、少なくとも1つ以上有しているところから、色素自体が、コンタクトレンズ構成重合体乃至はマーク部構成重合体を与えるモノマー成分と共重合され、化学的に結合せしめられた状態で、存在することとなる。このために、マークの脱色が極めて有利に防止され、マークの鮮明性が長期に亘って持続するのである。また、本発明に従って得られるマーク付きコンタクトレンズを、例え有機溶媒に浸漬しても、色素が有機溶媒中に抽出されるようなこともないといった特徴がある。

[上記一般式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は−CO−A基を示し、−CO−A基中のAは、炭素数1〜17のアルキル基、ビニル基、又は1−メチルビニル基を示す。但し、R〜Rのうちの少なくとも1つは、メタクリロイル基又はアクリロイル基である。]
また、本発明に従うマーク付きコンタクトレンズの製造方法の他の好ましい態様の一つによれば、前記銅フタロシアニン誘導体の中でも、特に、下記一般式(II)にて示される化合物(メタクリロイル化テトラアミノ銅フタロシアニン)にあっては、モノマー成分への溶解性、つまり、着色剤媒体への溶解性が良好であるところから、より一層好適に採用され得る。

さらに、本発明に従うマーク付きコンタクトレンズの製造方法の更に他の好ましい態様によれば、前記着色剤に含まれる色素として、青色204号(3,3′−ジクロルインダンスレン)又は青色404号(フタロシアニンの銅錯塩)もまた、生物学的安全性が担保されているところから、好適に採用され得る。
更にまた、本発明の異なる望ましい態様によれば、前記着色剤を構成する媒体が、前記コンタクトレンズ構成重合体を与えるモノマー混合液であることが望ましい。このように、着色剤を構成する媒体が、モノマー混合液と、同一のモノマー組成とされれば、上記したマーク部構成重合体とコンタクトレンズ構成重合体との一体化がより一層有利に実現されることとなる。
加えて、本発明における別の好ましい態様の一つによれば、前記着色剤に含まれる色素は、超音波照射を行なうことにより、前記媒体中に溶解又は分散せしめられる。
また、本発明における更に別の好ましい態様の一つによれば、前記着色剤に含まれる色素は、界面活性剤にて、前記媒体中に溶解又は分散せしめられる。
さらに、本発明に従うマーク付きコンタクトレンズの製造方法の他の好ましい態様の一つによれば、前記着色剤の予備重合後における粘度は、25℃において、100〜27000mPa・sであることが望ましく、これにより、小さなマークでも、極めて鮮明に形成することが出来る。
更にまた、本発明に従うマーク付きコンタクトレンズの製造方法の別の好ましい態様の一つによれば、前記着色剤の予備重合後における比重は、0.90〜2.00とされることが望ましく、これにより、小さなマークでも、極めて鮮明に形成することが可能となっている。
加えて、本発明における他の好ましい態様の一つによれば、前記着色剤の成形キャビティ面への付着は、接触又は非接触方式にて行なわれる。
また、本発明は、上述せる如きマーク付きコンタクトレンズの製造方法に従って製造されるマーク付きコンタクトレンズをも、その要旨とするものである。このようにして得られるマーク付きコンタクトレンズにあっては、上述せるように、色滲みのない、鮮明なマークが形成されているのである。また、かかるマークは、コンタクトレンズ本体に強固に固着されており、極めて取れ難いものとなっている。更に、水等の水系媒体に浸漬しても、マークの色が抜けるようなこともない。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明に従うマーク付きコンタクトレンズの製造に用いられるモールド重合用成形型の一例を示す断面説明図である。
第2図は、第1図に示された成形型を構成する雄型の断面説明図である。
第3図は、第1図に示された成形型を構成する雌型の断面説明図である。
第4図は、第3図に示される雌型の平面説明図である。
第5図は、本発明手法に従って、モールド重合用成形型を用いてマーク付きコンタクトレンズを製造する工程の一例を示す説明図であって、第3図に示される雌型の凹面に、着色剤をプリントした状態を示している。
第6図は、第5図に示される雌型の平面説明図である。
第7図は、本発明手法に従って、モールド重合用成形型を用いてマーク付きコンタクトレンズを製造する工程の別の一例を示す説明図であって、型開き状態下において雌型の半球状部内にモノマー混合液を収容させた状態を示している。
第8図は、本発明手法に従って、モールド重合用成形型を用いてマーク付きコンタクトレンズを製造する工程の更に別の一例を示す説明図であって、雄型と雌型との間に形成された成形キャビティ内で、目的とするマーク付きコンタクトレンズをモールド成形した状態を示している。
第9図は、本発明手法に従って、モールド重合用成形型を用いてマーク付きコンタクトレンズを製造する工程の他の一例を示す説明図であって、モールド成形後、モールド重合用成形型を型開きした状態を示している。
第10図は、本発明手法に従って製造されたマーク付きコンタクトレンズの一例を示す平面説明図であって、かかるコンタクトレンズを、後面側から見た状態を示している。
第11図は、モールド重合用成形型を与える雌型の平面説明図であり、スパッタリングによる微細な粗面化加工が、円環状に行なわれた状態を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係るマーク付きコンタクトレンズの製造方法の具体例について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
先ず、第1図には、コンタクトレンズを成形するためのモールド重合用成形型の一具体例が示されている。そこにおいて、本実施形態のモールド重合用成形型10は、断面図として示されており、雄型(上型)12と雌型(下型)14とから構成されている。そして、それら雄型12と雌型14とが型合わせされることにより、それらの型の間に、目的とするコンタクトレンズを与える形状の成形キャビティ16が形成されるようになっている。
より具体的には、かかるモールド重合用成形型10を構成する雄型12は、第2図に示されるように、全体として、上方が開口された有底円筒形状を呈しており、その下部に位置する底部18が、外方に凸なる湾曲面形状とされており、かかる底部18の外面(凸面)が、目的とするコンタクトレンズの後面(ベースカーブ面)に対応した形状の後面成形キャビティ面20を与えるように構成されている。また、筒壁部21の上側の開口部側の外周部には、径方向外方に突出する外フランジ部22が、一体的に形成されている。
一方、モールド重合用成形型10を構成する雌型14は、第3図に示される如く、全体として、ボール形状、換言すれば、略半球面状に窪んだ形状を呈しており、かかる半球状の凹部24の深さ方向中間部分に段差26が設けられて、この段差26よりも下側の底部側部位の内面(凹面)が、目的とするコンタクトレンズの前面(フロントカーブ面)に対応した前面成形キャビティ面28とされている一方、該段差26よりも上側の開口部側部位の内面は、後述する液溜部30を構成する液溜部形成面32とされている。また、凹部24の上側の開口部側の外周部には、径方向外方に突出する外フランジ部34が、一体的に形成されている。
そして、それら雄型12と雌型14とは、第1図に示される如く、雄型12の筒壁部21の底部側角部と雌型14の段差26の角部とにおいて互いに当接するように、また、雄型12の外フランジ部22の下面と雌型14の外フランジ部34の上面とが互いに当接するように、組み付けられて、型合わせされることにより、雄型12の後面成形キャビティ面20と雌型14の前面成形キャビティ面28との間の空間にて、目的とするコンタクトレンズを与える形状の成形キャビティ16が形成されるようになっている。また、雄型12の筒壁部21の底部側角部と雌型14の段差26の角部との当接部位の上側には、成形キャビティ16内に供給されるモノマー混合液のうち、該成形キャビティ16から溢れ出た余剰のモノマー混合液を溜める液溜部30が、雄型12の筒壁部21の外周面と雌型14の凹部24における開口部側部位の内周面からなる液溜部形成面32との間に形成される空間にて、形成されるようになっている。
ところで、本実施形態においては、上述の如き構成を有する雄型12と雌型14とが、何れも、所定の樹脂材料からなる樹脂型とされている。かかる樹脂型を構成する樹脂材料としては、コンタクトレンズ構成重合体やそれを与えるモノマー混合液との親和性、コスト、成形性、更には、コンタクトレンズ構成重合体を与えるモノマー混合液を光重合する場合にあっては、光透過性を勘案して、公知の樹脂材料の中より適宜に選択されるのであり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド;ポリスチレン;ポリカーボネート;ポリメチルメタクリレート;エチレン−ビニルアルコール共重合体;ポリアセタール;ポリイミド;ポリエステル;ポリスルホン等を挙げることが出来る。これらの中でも、経済性や成形性を考慮すると、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミドが望ましい。また、上述せる如き雄型12と雌型14は、同一の樹脂材料から形成されても、或いは、それぞれ別個に異なる樹脂材料から形成されていても良い。なお、かかる雄型12や雌型14は、それぞれ、従来から公知の手法にて形成され、例えば、所定形状の成形キャビティを有する金型内に、上記した樹脂材料を射出成形すること等によって、容易に得ることが出来る。
そして、本実施形態にあっては、第4図に示される如く、それら樹脂型とされた雄型12と雌型14のうち、雌型14の上面の全面が、つまり、前面成形キャビティ面28、液溜部形成面32及び外フランジ部34の上面が、スパッタリングにより、微細に粗面化されて、後述する着色剤の乗り乃至は付着性が効果的に高められたスパッタリング処理部36とされているのである。なお、第4図においては、理解を容易と為すために、スパッタリングによって微細な粗面化加工が施された部位(スパッタリング処理部36)に対して、ドットを付したが、スパッタリング処理部36は、分子や原子レベルの非常に小さなオーダーで物理的に凹凸化せしめられているところから、目視にて観察すると、その外観は、スパッタリングによる微細な粗面化加工が為されていない部位の表面の外観と何等異なるものではない。
なお、ここにおいて、スパッタリングによる微細な粗面化加工の具体的な手法としては、例えば、減圧プラズマの照射、大気圧プラズマの照射、エキシマ紫外光の照射、コロナ放電等が挙げられる。これらの中でも、常圧下において実施することが可能な、大気圧プラズマ照射、エキシマ紫外光照射、及びコロナ放電にあっては、より一層均一な処理が可能であるところから、更に好適に採用され得る。
より具体的に、減圧プラズマの照射は、例えば、プラズマ照射装置を用いて、酸素又はヘリウム等の不活性ガス雰囲気下、0.1〜2.0Torr(13.3〜267Pa)の減圧、出力が10〜100Wの条件下で、樹脂型(本実施形態では、雌型14)に、5〜300秒間、プラズマ照射を行なうことによって、実施することが出来る。なお、この減圧プラズマ照射に用いられるプラズマ照射装置としては、例えば、京都電子計測株式会社製のMODEL PA−102AT等、市販の装置が適宜に採用され得る。
また、大気圧プラズマの照射は、例えば、プラズマ照射装置を用いて、大気圧下、出力が10〜100W、電極−試料間距離が1〜20mmの条件下で、電極下に樹脂型(本実施形態では、雌型14)を載置して、1〜180秒間、プラズマ照射を行なうことによって、効果的に実施される。なお、この大気圧プラズマの照射に用いられるプラズマ照射装置としては、例えば、岡谷精立工業株式会社製大気圧プラズマ照射装置等、市販の装置が適宜に採用され得る。
さらに、エキシマ紫外光の照射は、例えば、エキシマレーザー装置を用いて、出力が10〜100W、光源距離が1〜20mmの条件下で、光源下に樹脂型(本実施形態では、雌型14)を載置して、1〜180秒間、エキシマ紫外光を照射することによって実施され得る。また、かかるエキシマ紫外光の照射は、例えば、クオークシステムズ株式会社製エキシマレーザー装置等、市販の装置を用いて有利に実現することが出来る。
更にまた、コロナ放電は、例えば、コロナ放電装置を用いて、出力が10〜1000W、電極長が100〜500mm、スパンが1〜20mm、処理速度が0.1〜10m/minの条件下で、ワイヤー電極下に樹脂型(本実施形態では、雌型14)を搬送して、1〜10回ワイヤー電極下を通過させることにより、実施することが出来る。また、かかるコロナ放電は、例えば、コロナ放電表面処理装置(春日電機株式会社製特殊高周波電源CTシリーズ:CT−0212)等、市販の装置を用いて有利に実現され得る。
なお、かかるスパッタリングによる微細な粗面化加工は、雌型14の上面の全面(前面成形キャビティ面28、液溜部形成面32及び外フランジ部34の上面)に亘って行なう必要は必ずしもなく、雌型14における前面成形キャビティ面28のみや、かかる前面成形キャビティ面28の一部のみ(第11図参照)を、前述の如き要領で、スパッタリングするようにしても良く、また、雌型14を何等処理することなく、雄型12のみを、少なくとも後面成形キャビティ面20の一部或いは全面において処理したりすることも可能である。要するに、雄型12と雌型14のうち、後述する着色剤を付着せしめたい部位(マーク部形成部位)に対して、スパッタリングによる微細な粗面化加工を施せば良いのであり、本実施形態にあっては、上述せるように、雌型14の上面の全面に、微細な粗面化加工が施されているのである。なお、第11図には、雌型14における前面成形キャビティ面28の外周部位、つまり、目的とするコンタクトレンズのフロントカーブ面における光学領域を除いた、該光学領域の周辺領域を与える前面成形キャビティ面28の周辺領域成形面のみを、スパッタリングにより、微細な粗面とした例を示したが、これは、雌型14における前面成形キャビティ面28の外周部位を除いた部位の全面を、例えば、公知のマスク部材を用いて、被覆乃至は遮蔽した状態下で、雌型14に対して、スパッタリングを施すこと等によって、有利に実現され得る。
このように、本実施形態のモールド重合用成形型10にあっては、雌型14の前面成形キャビティ面28が、スパッタリングにより処理されて、着色剤の付着性が効果的に高められたスパッタリング処理部36とされているところから、着色剤が前面成形キャビティ面28で弾かれることなく、所定のマーク形状となるように有利に付着乃至はプリントされるようになるのである(第6図参照)。
而して、上述せる如き構造とされたモールド重合用成形型10を用いて、目的とするマーク付きコンタクトレンズを製造するに際しては、例えば、以下の如き工程を経由する手法が、採用されることとなる。
すなわち、先ず、第5図及び第6図に示される如く、雌型14の微細な粗面化加工が施された前面成形キャビティ面28におけるスパッタリング処理部36に対して、液状の着色剤を、所定のマーク形状となるように、本実施形態においては、最終的に、レンズ規格やロット番号、品質保持期限、左眼用・右眼用の判別記号、商標等がコンタクトレンズに付与され得るように、付着乃至はプリントして、マーク部38を形成する。この際、着色剤を、スパッタリング処理部36に付着乃至はプリントする手法としては、特に限定されることはなく、パッド印刷に代表される接触方式や、インクジェット式マーキング装置を用いた非接触方式のマーキング手法等、従来から公知の手法が何れも有利に採用されることとなる。
なお、ここで用いられる着色剤としては、コンタクトレンズ構成重合体を与えるモノマー混合液を構成するモノマー成分の少なくとも1種以上からなる媒体中に、所定の色素を溶解又は分散せしめてなるものが採用される。
このため、着色剤の主成分である媒体は、用いるモノマー混合液に応じて適宜に選択されることとなり、使用するモノマー混合液中に含まれる少なくとも1種のモノマー成分が、単独で、或いは、2種以上のモノマー成分の組合せにおいて、媒体として用いられるのである。このように、着色剤とモノマー混合液とにおいて、共通するモノマー成分が存在すると、後述するように、マーク部がレンズ本体に強固に結合するようになって、優れた転写性が有利に実現されるようになるのである。中でも、特に、媒体としては、モノマー混合液と同一のモノマー組成とされたものが、より一層好適に採用される。換言すれば、モノマー混合液を、着色剤の媒体として使用することがより一層望ましい。これにより、マーク部が更に強固にレンズ本体(コンタクトレンズ構成重合体)に結合することとなって、優れた転写性が更に有利に実現されるようになる。
因みに、コンタクトレンズ構成重合体を与えるモノマー混合液としては、目的とするコンタクトレンズの種類(例えば、ハード、ソフト、非含水性、含水性等)や、コンタクトレンズに必要とされる特性(例えば、酸素透過性等)に応じて、従来から公知の各種のモノマー成分のうちの2種以上を適宜に選択して、混合してなるものを用いることが出来る。具体的に、モノマー混合物を構成するモノマー成分としては、特に限定されるものではなく、例えば、シリコン含有(メタ)アクリレートやシリコン含有スチレン誘導体、シリコン含有マクロモノマー等のケイ素含有モノマー;フッ素含有スチレン誘導体、フッ素含有アルキル(メタ)アクリレート等のフッ素含有モノマー;(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸;架橋性モノマー等、従来から公知の各種のものを例示することが出来る。なお、上記「・・・(メタ)アクリレート」なる表記は、「・・・アクリレート」及び「・・・メタクリレート」を含む総称として用いられており、また、その他の(メタ)アクリル誘導体についても同様である。
また一方、着色剤に含有せしめられる色素としては、重合性や非重合性を問わず、従来から周知の染料又は顔料を使用することが出来る。
具体的に、重合性色素としては、例えば、1−フェニルアゾ−4−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−フェニルアゾ−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−ナフチルアゾ−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(α−アントリルアゾ)−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−((4′−(フェニルアゾ)−フェニル)アゾ)−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(2′,4′−キシリルアゾ)−2−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(o−トリルアゾ)−2−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、2−(m−(メタ)アクリロイルアミド−アニリノ)−4,6−ビス(1′−(o−トリルアゾ)−2′−ナフチルアミノ)−1,3,5−トリアジン、2−(m−ビニルアニリノ)−4−(4′−ニトロフェニルアゾ)−アニリノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン、2−(1′−(o−トリルアゾ)−2′−ナフチルオキシ)−4−(m−ビニルアニリノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン、2−(p−ビニルアニリノ)−4−(1′−(o−トリルアゾ)−2′−ナフチルアミノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン、N−(1′−(o−トリルアゾ)−2′−ナフチル)−3−ビニルフタル酸モノアミド、N−(1′−(o−トリルアゾ)−2′−ナフチル)−6−ビニルフタル酸モノアミド、3−ビニルフタル酸−(4′−(p−スルホフェニルアゾ)−1′−ナフチル)モノエステル、6−ビニルフタル酸−(4′−(p−スルホフェニルアゾ)−1′−ナフチル)モノエステル、3−(メタ)アクリロイルアミド−4−フェニルアゾフェノール、3−(メタ)アクリロイルアミド−4−(8′−ヒドロキシ−3′,6′−ジスルホ−1′−ナフチルアゾ)−フェノール、3−(メタ)アクリロイルアミド−4−(1′−フェニルアゾ−2′−ナフチルアゾ)−フェノール、3−(メタ)アクリロイルアミド−4−(p−トリルアゾ)フェノール、2−アミノ−4−(m−(2′−ヒドロキシ−1′−ナフチルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(N−メチル−p−(2′−ヒドロキシ−1′−ナフチルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(m−(4′−ヒドロキシ−1′−フェニルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(N−メチル−p−(4′−ヒドロキシフェニルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(m−(3′−メチル−1′−フェニル−5′−ヒドロキシ−4′−ピラゾリルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(N−メチル−p−(3′−メチル−1′−フェニル−5′−ヒドロキシ−4′−ピラゾリルアゾ)アニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4−(p−フェニルアゾアニリノ)−6−イソプロペニル−1,3,5−トリアジン、4−フェニルアゾ−7−(メタ)アクリロイルアミド−1−ナフトール等のアゾ系重合性色素;1,5−ビス((メタ)アクリロイルアミノ)−9,10−アントラキノン、1−(4′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、4−アミノ−1−(4′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、5−アミノ−1−(4′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、8−アミノ−1−(4′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、4−ニトロ−1−(4′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、4−ヒドロキシ−1−(4′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−(3′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−(2′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−(4′−イソプロペニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−(3′−イソプロペニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−(2′−イソプロペニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1,4−ビス(4′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1,4−ビス−(4′−イソプロペニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1,5′−ビス−(4′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1,5−ビス−(4′−イソプロペニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−メチルアミノ−4−(3′−ビニルベンゾイルアミド)−9,10−アントラキノン、1−メチルアミノ−4−(4′−ビニルベンゾイルオキシエチルアミノ)−9,10−アントラキノン、1−アミノ−4−(3′−ビニルフェニルアミノ)−9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、1−アミノ−4−(4′−ビニルフェニルアミノ)−9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、1−アミノ−4−(2′−ビニルベンジルアミノ)−9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、1−アミノ−4−(3′−(メタ)アクリロイルアミノフェニルアミノ)−9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、1−アミノ−4−(3′−(メタ)アクリロイルアミノベンジルアミノ)−9,10−アントラキノン−2−スルホン酸、1−(β−エトキシカルボニルアリルアミノ)−9,10−アントラキノン、1−(β−カルボキシアリルアミノ)−9,10−アントラキノン、1,5−ジ−(β−カルボキシアリルアミノ)−9,10−アントラキノン、1−(β−イソプロポキシカルボニルアリルアミノ)−5−ベンゾイルアミド−9,10−アントラキノン、2−(3′−(メタ)アクリロイルアミド−アニリノ)−4−(3′−(3″−スルホ−4″−アミノアントラキノン−1″−イル)−アミノ−アニリノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン、2−(3′−(メタ)アクリロイルアミド−アニリノ)−4−(3′−(3″−スルホ−4″−アミノアントラキノン−1″−イル)−アミノ−アニリノ)−6−ヒドラジノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス−((4″−メトキシアントラキノン−1″−イル)−アミノ)−6−(3′−ビニルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2−(2′−ビニルフェノキシ)−4−(4′−(3″−スルホ−4″−アミノアントラキノン−1″−イル−アミノ)−アニリノ)−6−クロロ−1,3,5−トリアジン等のアントラキノン系重合性色素;o−ニトロアニリノメチル(メタ)アクリレート等のニトロ系重合性色素等の他、前記一般式(I)にて示される銅フタロシアニン誘導体、具体的には、(メタ)アクリロイル化テトラアミノ銅フタロシアニン、(メタ)アクリロイル化(ドデカノイル化テトラアミノ銅フタロシアニン)等のフタロシアニン系重合性色素等が挙げられる一方、非重合性色素としては、例えば、青色204号(3,3′−ジクロルインダンスレン)、青色404号(フタロシアニンの銅錯塩)等の法定色素を挙げることが出来、これらの色素は、単独で、又は2種以上を混合して用いることが出来る。
本発明においては、上述せる如き色素の中でも、前記一般式(I)にて示される銅フタロシアニン誘導体や、青色204号、青色404号が、好適に用いられることとなる。
何故なら、一般式(I)にて示される銅フタロシアニン誘導体にあっては、他の重合性色素に比して、堅牢であるという特徴を有していると共に、生物学的安全性が担保されている。また、重合性を有する官能基を、少なくとも1つ以上有しているところから、色素自体が、モノマー成分と共重合して、化学的に結合せしめられた状態で、存在せしめられることとなる。このため、マークの脱色が極めて有利に防止され、マークの鮮明性が長期に亘って持続するのである。また、化学的に結合せしめられた状態で存在するところから、例え有機溶媒中に浸漬しても、色素が有機溶媒中に溶出するようなことも無くなるのである。なお、かかる一般式(I)にて示される銅フタロシアニン誘導体の中でも、特に、前記一般式(II)にて示される銅フタロシアニン誘導体、即ち、メタクリロイル化テトラアミノ銅フタロシアニン(以下、APMAと略記する。)にあっては、重合性の官能基を4つ有することで、モノマー成分への溶解性、つまり、媒体への溶解性が良好であるところから、より一層好適に採用され得る。
また一方、青色204号や青色404号にあっても、生物学的安全性が担保されているところから、好適に用いることが出来るのである。
そして、かくの如き色素を、上述せる如き媒体に添加、含有せしめることにより、着色剤が調製されることとなるのであるが、色素は、着色剤中に、溶解した状態において、或いは、分散した状態において、含有せしめられることとなる。なお、かかる着色剤の調製に際して、色素が容易に溶解乃至は分散し難いような場合には、着色剤に対して超音波を照射せしめたり、或いは、両親媒性を有する公知の界面活性剤を添加したり、或いは、超音波照射と界面活性剤の添加の両方を行なって、色素を着色剤中に均一に溶解乃至は分散せしめるようにすることが、望ましい。
また、着色剤における色素の濃度としては、特に制限されるものでないものの、色素濃度が低過ぎると、肉眼による判別可能なマークが形成されない一方、高過ぎると、マークが濃くなり過ぎて、コンタクトレンズ装用者の視界を妨げる恐れがあるところから、用いる色素に応じて、0.01〜50重量%、より好ましくは0.10〜40重量%、更に好ましくは0.20〜30重量%の範囲で適宜に設定することが望ましい。
さらに、着色剤には、熱及び/又は光による重合が有利に実現されるように、従来から公知のラジカル重合開始剤や光重合開始剤、光増感剤等が適宜に選択されて、通常の濃度範囲において添加されることとなる。
かくして、上述せる如き着色剤が前面成形キャビティ面28に対して付着乃至はプリントされてマーク部38が形成されると、それに引き続いて、前面成形キャビティ面28に付着された着色剤からなるマーク部38の予備重合が行なわれることとなる。
かかる予備重合は、通常の熱重合法及び/又は通常の光重合法に従って行なわれることとなる。熱重合にてマーク部38の予備重合を行なう場合は、例えば、恒温乾燥器を用いて、マーク部38が形成された雌型14を、常圧下で、又は、ラジカル重合阻害を考慮に入れ、窒素雰囲気下で、温度:20〜80℃、好ましくは30〜70℃、重合時間:10〜60分、好ましくは20〜50分で予備重合を行なうようにすれば良い。また、光重合にてマーク部38の予備重合を行なう場合には、例えば、常温・常圧下、ブラックライト(波長:350〜400nm)若しくは高圧水銀灯(波長:350〜450nm)下で、5〜300秒間、光を照射すれば良い。なお、射出成形等によって形成される樹脂型に対して、マーク部38を形成する場合には、射出成形等により形成された樹脂型(雌型14)に成形熱が残存している状態において、前述せる如きスパッタリングによる微細な粗面化加工と、それによって形成されたスパッタリング処理部36に対する着色剤の付着(マーク部38の形成)とを実施するようにすれば、加熱や光照射を行なうことなく、樹脂型(雌型14)に残存する成形熱のみで予備重合を有利に実施することが可能となる。
なお、かかる予備重合は、マーク部38を構成する着色剤の重合が完結する前の状態で、重合が停止されるように、言い換えれば、着色剤中のモノマー成分が完全に重合して固体化する前に、その重合操作が終了せしめられることとなる。より好適には、着色剤が流動性を失って、多少の弾性と固さをもってゼリー状に固化したゲル状乃至は半ゲル状の状態、換言すれば、オリゴマー領域と推測される分子量となるまで、予備重合が行なわれるのである。
より具体的には、予備重合後における着色剤の粘度(マーク部38の粘度)が、25℃において、100〜27000mPa・s、より好ましくは500〜20000mPa・s、更に好ましくは1000〜10000mPa・sとなるように、予備重合が行なわれることが望ましい。何故ならば、予備重合後における着色剤の粘度が低過ぎると、成形キャビティ16内にモノマー混合液を充填した際に、着色剤中の色素がモノマー混合液に浸出して、色滲みが発生して、コンタクトレンズに形成されるマークが不鮮明となるからであり、また一方、予備重合後における着色剤の粘度が27000mPa・sを超えて、着色剤が固体化すると、モールド成形後、得られるコンタクトレンズ(重合体)の表面が面一とならず、コンタクトレンズ表面からマーク部38が突出する恐れがあり、これにより、コンタクトレンズ装用時に、装用者が異物感等を感じて、装用感が悪くなる恐れがあるからである。
また、予備重合後における着色剤の比重は、上記粘度の上昇に伴って高くなるが、比重が低過ぎると、色滲みすることとなり、鮮明なマークを形成することが出来ず、また、高過ぎると、マーク部38とレンズ本体とを有利に一体化せしめることが出来なくなるところから、0.90〜2.00、より好ましくは0.95〜1.50、更に好ましくは1.00〜1.20とされることが望ましい。
次いで、上述せる如き予備重合の後、該予備重合されたマーク部38が付着した状態下において、第7図に示される如く、雌型14の凹部24内に、図示しない所定の供給装置から、目的とするコンタクトレンズを構成する重合体を与えるモノマー混合液40を、所定量において供給する。
この際、モノマー混合液40と着色剤には、少なくとも1種以上の同じモノマー成分が含有せしめられているところから、モノマー混合液40は、予備重合された着色剤からなるマーク部38に対して、良好な親和性を有しており、モノマー混合液40がマーク部38に対して、よく馴染む。また、モノマー混合液40の一部は、マーク部38に含浸する。
その後、雌型14における前記段差26の角部に対して、雄型12における筒壁部21の外周面の底部18側角部が当接するように、また、雄型12の外フランジ部22の下面と雌型14の外フランジ部34の上面とが互いに当接するように、雄型12と雌型14とを組み付けて、型合わせを行なうことにより、それら雄型12と雌型14との間に成形キャビティ16を形成すると共に、該成形キャビティ16内にモノマー混合液が充填される(第8図参照)。この型合わせにより、成形キャビティ16から溢れ出た余剰のモノマー混合液40は、成形キャビティ16の上方に形成される液溜部30内に収容されることとなる。
なお、ここにおいて、モールド重合用成形型10の成形キャビティ16内に充填されるモノマー混合液40としては、特に限定されるものではなく、前述せるように、目的とするコンタクトレンズの種類(例えば、ハード、ソフト、非含水性、含水性等)や、コンタクトレンズに必要とされる特性(例えば、酸素透過性等)に応じて、従来から公知の各種のモノマー成分を適宜に選択して配合してなる、各種の配合組成のモノマー混合液を用いることが出来る。
また、かかるモノマー混合液40には、必要に応じて、従来から一般的に用いられている各種の添加剤、例えば、紫外線吸収剤や色素等が、従来と同様に、適量において、添加せしめられても何等差支えなく、更には、非重合性の溶媒が、重合の妨げにならない程度の量において添加されていてもよい。
そして、そのようなモノマー混合液40は、公知の重合開始剤等が添加された状態で、モールド重合用成形型10の成形キャビティ16内に充填され、通常の重合手法に従って重合せしめられることとなる。
かかる重合手法としては、例えば、重合開始剤をモノマー混合液に配合した後、該モノマー混合液40を室温〜約130℃の温度範囲で徐々に或いは段階的に加熱して重合せしめる熱重合法や、マイクロ波、紫外線、放射線(γ線)等の電磁波を照射して重合を行なう光重合法等が挙げられる。また、重合は、塊状重合法によって行なわれても良いし、溶媒等を用いた溶液重合法によって行なわれても良く、またその他の方法によって行なわれても良い。
なお、上記した重合開始剤としては、採用する重合手法に見合ったものを、適宜選択すれば良く、一般に、熱重合の場合には、ラジカル重合開始剤が使用される一方、電磁波照射にて重合する場合には、光重合開始剤や増感剤が好適に使用されることとなる。
具体的には、ラジカル重合開始剤としては、従来から公知の各種のラジカル重合開始剤が適宜に選択されて用いられ得、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等を挙げることが出来る。
また、光重合開始剤としては、従来から公知の各種の光重合開始剤が採用され得、例えば、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル等のベンゾイン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノン等のフェノン系光重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム;2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤;ジベンゾスバロン;2−エチルアンスラキノン;ベンゾフェノンアクリレート;ベンゾフェノン;ベンジル等が挙げられる。
そして、上述せる如き重合開始剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることが出来、その使用量としては、充分な速度で重合反応を進行させるために、全モノマー成分(モノマー成分の総量)の100重量部に対して、0.002重量部以上、より好適には、0.01重量部以上の割合となるように調節することが望ましい。また、得られる重合体に気泡が発生する恐れを無くすために、重合開始剤の添加量の上限としては、全モノマー成分の100重量部に対して、通常、10重量部以下、より好ましくは、1重量部以下の割合となるように調整することが望ましい。
このようにして、モノマー混合液40が重合せしめられることにより、目的とするマーク付きコンタクトレンズがモールド成形されることとなるのであるが、本実施形態においては、第8図に示されるように、紫外光を、光透過性を有する透明な雄型12を通じて、成形キャビティ16内に導入している。
これにより、モノマー混合液40が光重合せしめられ、生成する重合体にて目的とするコンタクトレンズ本体(コンタクトレンズ構成重合体42)が形成されると共に、前述せる如くして、予備重合されたマーク部38を構成する着色剤の重合が完結する。また、この重合の際、マーク部38を構成する着色剤に存在する重合性基と、モノマー混合液40のモノマー成分とが重合乃至は共重合することにより、それらが化学的に結合せしめられ、以てコンタクトレンズ構成重合体42とマーク部構成重合体44とが強固に一体化せしめられるのである。
また、コンタクトレンズ構成重合体42とマーク部構成重合体44とが強固に一体化せしめられた重合体には、雄型12の後面成形キャビティ面20に対応したベースカーブ面と、雌型14の前面成形キャビティ面28に対応したフロントカーブ面が付与されているのである。
そして、第9図に示されるように、雄型12を雌型14から取り外すことにより、型開きを行なう。そして、かかる型開きの後、従来と同様な離型操作で、コンタクトレンズを脱型することにより、第10図に示される如く、マーク部38がコンタクトレンズ本体(42)に転写され、マーク付きコンタクトレンズ46が、得られるのである。
このように、本実施形態にあっては、重合時におけるコンタクトレンズ構成重合体42とマーク部構成重合体44との強固な一体化が有利に実現されているところから、雌型14の前面成形キャビティ面28に、マーク部構成重合体44(マーク部38)が残って、マークがコンタクトレンズに転写されなかったり、コンタクトレンズに転写されてもマーク部38が簡単に取れてしまうようなことが、効果的に防止され、優れた転写性が実現され得ているのである。
また、コンタクトレンズ46に形成されたマークは、前記した着色剤の予備重合によって、色滲みが惹起されず、極めて鮮明且つ明瞭となっている。更に、モールド重合用成形型10の前面成形キャビティ面28におけるマーク部形成部位には、着色剤の付着乃至はプリントに先立って、スパッタリングによる微細な表面加工が施されるところから、前面成形キャビティ面28への、着色剤の付着性乃至はプリント性が効果的に高められ、以てコンタクトレンズ46には、所期の形状のマークが確実に形成されるようになっている。
さらに、着色剤中に含有されていた色素は、マーク部構成重合体44中に、重合結合した状態において、或いは非結合状態において、取り込まれているところから、得られたマーク付きコンタクトレンズ46を水等の水系媒体に浸漬しても、色素が溶出せず、以てマークが脱色されるようなことも、有利に防止されている。
加えて、マーク付きコンタクトレンズ46のベースカーブ面及びフロントカーブ面は、それぞれ、モールド重合用成形型10の後面成形キャビティ面20及び前面成形キャビティ面28に対応して、面一とされており、従来の凹部形成によって惹起される、機械的強度の低下や細菌の繁殖等の心配もない。
しかも、上述せる如くしてコンタクトレンズを製造すれば、コンタクトレンズの成形と同時に、コンタクトレンズへのマーキングも行なわれるところから、従来、コンタクトレンズの成形後に行なっていたマーキング工程を、コンタクトレンズの一貫した製造工程の中に組み入れることが可能となり、これにより、マーク付きコンタクトレンズを、安価に製造することが可能となる。
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
例えば、上記の実施形態では、モールド重合用成形型10を与える雄型12と雌型14が、何れも、樹脂材料にて形成されていたが、本発明にあっては、このような構成に何等限定されず、少なくともスパッタリングによる微細な粗面化加工が施される型、言い換えれば、着色剤がプリントされる成形キャビティ面を有する型が、樹脂材料にて形成されておれば、本発明による上述せる如き効果が、充分に享受され得るのである。例えば、マーク部38が形成される一方の型を樹脂材料にて構成し、他方の型を、ガラスや石英、溶融石英、金属等の材料にて構成することも、可能である。なお、成形型は、射出成形や切削加工等の公知の手法によって得ることが出来る。
加えて、上例では、コンタクトレンズの光学領域を除いた、該光学領域の周辺領域にマークが形成されるように、前面成形キャビティ面28の外周部位のみにマーク部38が形成されていたが、コンタクトレンズ装用者の視界が妨げられない限り、マーク部38は、前面成形キャビティ面28の如何なる部位に形成されても良い。
また、上記実施形態では、雌型14における前面成形キャビティ面28に対して、着色剤が付着されるようになっていたが、これに代えて、雄型12における後面成形キャビティ面20に対して着色剤を付着しても、或いは、雌型14における前面成形キャビティ面28と雄型12における後面成形キャビティ面20との両面に対して、着色剤を付着せしめることも可能である。但し、着色剤が付着される部位、即ち、マーク部形成部位は、少なくとも、スパッタリングによる微細な粗面化加工を施す必要があることは、前記した通りである。
さらに、上例では、第10図に示されるように、マークとして、レンズ規格やロット番号、品質保持期限、左右の判別記号、商標等が形成されていたが、本発明に従って形成されるマークの形状は、特に限定されるものではなく、例えば、コンタクトレンズの表裏の判別、左眼用・右眼用の判別等が可能なマーク、文字、記号の他にも、虹彩模様を形成することも出来る。
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
【実施例1】
(1)下記表1に示される配合組成の媒体(CL配合液)に、前記一般式(II)にて示される色素(APMA)を溶解させて、色素濃度が0.27重量%の着色剤を準備した。
(2)ポリアミド製のモールド重合用成形型を3組準備し、この樹脂型のうちの雌型の凹面の全面に対して、それぞれ、スパッタリングにより微細な粗面化加工を施した。なお、スパンタリング処理としては、下記(a)〜(c)の3種の処理を、それぞれ別個の雌型の凹面に対して実施した。
(a)エキシマ紫外光照射
光源下に雌型を載置して、クオークシステム株式会社製エキシマレーザー装置を用いて、出力:50W、光源距離:1.5mmで30秒間、エキシマ紫外光を雌型の凹面全面に対して照射した。
(b)大気圧プラズマ照射
電極下に雌型を載置して、岡谷精立工業株式会社製大気圧プラズマ照射装置を用いて、出力:50W、電極−試料間距離:10mmで20秒間、雌型の凹面全面に対して、大気圧プラズマ照射を行なった。
(c)コロナ放電
ワイヤー電極下に雌型を載置して、春日電機株式会社製コロナ放電処理装置(特殊高周波電源CTシリーズ:CT−0212)を用いて、処理速度:1m/min、電極長:330mm、出力:480W、スパン(ワイヤー電極と雌型との最短距離):1mmの条件で、8回ワイヤー電極下を通過させ、雌型の凹面全体に対してコロナ放電を行なった。
(3)上記(2)のスパッタリングによる微細な粗面化加工の施された凹面に、マーキング印字用スタンプを用いて、着色剤を塗布した。
(4)着色剤の塗布された雌型を、50℃の恒温乾燥機内に30分間静置することにより、着色剤を予備重合した。
(5)上記(4)の雌型に、下記表1に示される配合組成のモノマー混合液を充填した後、雄型を嵌合して型合わせを行ない、これを、90℃の恒温乾燥器内に30分間静置することにより、重合した。
(6)重合完了後、モールド重合用成形型からコンタクトレンズを脱型し、コンタクトレンズを構成する重合体の1g当たり250mLの蒸留水を用いて、溶出処理を行ない、その後、高圧蒸気滅菌を行なうことにより、マーク付きコンタクトレンズを得た。

【実施例2〜6】
上記実施例1において、着色剤として、下記表2に示される色素及び/又は色素濃度を採用した以外、上記実施例1と同様にして、マーク付きコンタクトレンズを製造した。
<比較例1,3,5>
下記表3に示されるように、比較例1,3,5においては、それぞれ、上記実施例1,2,3において、(4)の予備重合を実施しなかった以外、それらの実施例と同様にして、マーク付きコンタクトレンズを製造した。
<比較例2,4,6〜8>
下記表3又は表4に示されるように、比較例2,4,6,7,8においては、それぞれ、上記実施例1,2,3,5,6において、(2)のスパッタリングによる微細な粗面化加工を実施しなかった以外、それらの実施例と同様にして、マーク付きコンタクトレンズを製造した。
<比較例9〜12>
下記表4に示されるように、比較例9〜12においては、着色剤の媒体として、テトラヒドロフラン(THF)を採用したことから、予備重合を実施することは不可能であった。それ以外は、上記実施例1〜4と同様にして、マーク付きコンタクトレンズを製造した。
そして、実施例1〜6及び比較例1〜12において、着色剤の粘度、着色剤の比重、型へのプリント性、コンタクトレンズ(CL)への転写性及びマークの鮮明性を、それぞれ、後述するように、測定乃至は評価して、得られた結果を、下記表2〜4に併せて示した。なお、スパッタリングを行なった実施例1〜6及び比較例1,3,5,9〜12にあっては、それぞれ、上記(a)〜(c)の3種類のスパッタリング処理をそれぞれ別個に実施しているが、どのスパッタリング手法によっても、結果が同等であったところから、下記表2〜4では、それらの結果を纏めて記載した。
−着色剤の粘度測定−
株式会社東京計器製E型粘度計VISCONIC ED型(回転型粘度計)により、25℃における着色剤の粘度を測定した。なお、測定は、JIS K7117−2「プラスチック−液状、乳濁状又は分散状の樹脂−回転粘度計による定せん断速度での粘度の測定方法」の「付属書B(規定) 円すい−平板システム」)に準拠して行なった。また、予備重合を行なった実施例1〜6及び比較例2,4,6〜8に係る着色剤にあっては、雌型に付着した予備重合後の粘度を測定することが困難であるところから、それらの着色剤を、それぞれ、上述せる如き予備重合と同様の条件(50℃、30分間)で予備重合せしめた後、25℃において、粘度を測定した。
−着色剤の比重測定−
ワードン型比重瓶を用いて、常法に従って、着色剤の比重を測定した。また、予備重合を行なった実施例1〜6及び比較例2,4,6〜8に係る着色剤にあっては、雌型に付着した予備重合後の比重を測定することが困難であるところから、それらの着色剤を、それぞれ、上述せる如き予備重合と同様の条件(50℃、30分間)で予備重合せしめた後、25℃において、比重を測定した。
−型へのプリント性(付着性)の評価−
着色剤の雌型凹面へのプリント性(付着性)を、以下の基準にて評価した。
◎:極めて良好 ○:良好 △:やや不良 ×:不良
−CLへの転写性の評価−
マーク部のコンタクトレンズ本体への転写性を、以下の評価基準にて評価した。
◎:極めて良好 ○:良好 △:やや不良 ×:不良
−マークの鮮明性−
脱型されたコンタクトレンズを目視にて確認して、コンタクトレンズ面に形成されたマークの鮮明性を、以下の評価基準にて評価した。
◎:極めて良好 ○:良好 △:やや不良 ×:不良



かかる表2〜4の結果からも明らかなように、実施例1〜6にあっては、型へのプリント性、コンタクトレンズへの転写性及びマークの鮮明性が何れも、◎若しくは○となっており、マーク付きのコンタクトレンズが有利に製造されていることが分かる。これら実施例の中でも、色素として、APMAが用いられた実施例1及び2にあっては、特に優れた結果が得られている。
これに対して、予備重合又はスパッタリングが実施されていない比較例1〜8にあっては、型へのプリント性、コンタクトレンズへの転写性及びマークの鮮明性が何れも△となっており、予備重合及びスパッタリングのうちの何れか一方が実施されないだけでも、マーク付きコンタクトレンズを有利に製造することが出来ないことが、認められる。また、媒体として、THFが用いられた比較例9〜12にあっては、型へのプリント性、コンタクトレンズへの転写性及びマークの鮮明性が何れも×となっており、実用的ではない。
【産業上の利用可能性】
以上の説明から明らかなように、本発明に従ってマーク付きコンタクトレンズを製造すれば、煩雑な工程を実施することなく、モールド成形時に、コンタクトレンズの成形と同時に、コンタクトレンズに対してマーキングを行なうことが可能であり、しかも、成形型への着色剤の付着性、コンタクトレンズへの転写性及びマークの鮮明性が優れているところから、コンタクトレンズに対して、多種多様のデザインを描くことが出来る。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄型と雌型とを型合わせして、それらの型の間に、コンタクトレンズを与える形状の成形キャビティが形成されるように構成し、該成形キャビティ内において、所定のモノマー混合液を重合せしめることによって、形成される重合体からなるコンタクトレンズがモールド成形されるようにしたモールド重合用成形型を用いて、マークの付されたコンタクトレンズを製造する方法であって、
前記モールド重合用成形型を与える雄型と雌型のうちの少なくとも一方の型を、樹脂材料にて構成すると共に、該樹脂材料にて構成された型の成形キャビティ面における少なくともマーク部形成部位に対して、スパッタリングにより、微細な粗面化加工を行なう工程と、
かかる微細な粗面化加工が施された成形キャビティ面の部位に対して、前記モノマー混合液を構成するモノマー成分の少なくとも1種以上からなる媒体中に、所定の色素を溶解又は分散せしめてなる着色剤を、所定のマーク形状となるように付着せしめる工程と、
該成形キャビティ面に付着せしめられた着色剤からなるマーク部を、予備重合する工程と、
該予備重合されたマーク部が付着した状態下において、前記成形キャビティ内に、前記モノマー混合液を充填して、該モノマー混合液を重合せしめることにより、生成する重合体にて目的とするコンタクトレンズを形成すると共に、前記マーク部を構成する着色剤の重合を完結せしめて、それらコンタクトレンズ構成重合体とマーク部構成重合体とを一体化する工程とを、
含むことを特徴とするマーク付きコンタクトレンズの製造方法。
【請求項2】
前記着色剤に含まれる色素が、下記一般式(I)にて示される銅フタロシアニン誘導体である請求の範囲第1項に記載のマーク付きコンタクトレンズの製造方法。

[上記一般式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は−CO−A基を示し、−CO−A基中のAは、炭素数1〜17のアルキル基、ビニル基、又は1−メチルビニル基を示す。但し、R〜Rのうちの少なくとも1つは、メタクリロイル基又はアクリロイル基である。]
【請求項3】
前記銅フタロシアニン誘導体が、下記一般式(II)にて示される化合物である請求の範囲第2項に記載のマーク付きコンタクトレンズの製造方法。

【請求項4】
前記着色剤に含まれる色素が、青色204号又は青色404号である請求の範囲第1項に記載のマーク付きコンタクトレンズの製造方法。
【請求項5】
前記着色剤を構成する媒体が、前記コンタクトレンズ構成重合体を与えるモノマー混合液である請求の範囲第1項乃至第4項の何れかに記載のマーク付きコンタクトレンズの製造方法。
【請求項6】
前記着色剤に含まれる色素が、超音波照射を行なうことにより、前記媒体中に溶解又は分散せしめられている請求の範囲第1項乃至第5項の何れかに記載のマーク付きコンタクトレンズの製造方法。
【請求項7】
前記着色剤に含まれる色素が、界面活性剤にて、前記媒体中に溶解又は分散せしめられている請求の範囲第1項乃至第6項の何れかに記載のマーク付きコンタクトレンズの製造方法。
【請求項8】
前記着色剤の予備重合後における粘度が、25℃において、100〜27000mPa・sである請求の範囲第1項乃至第7項の何れかに記載のマーク付きコンタクトレンズの製造方法。
【請求項9】
前記着色剤の予備重合後における比重が、0.90〜2.00である請求の範囲第1項乃至第8項の何れかに記載のマーク付きコンタクトレンズの製造方法。
【請求項10】
前記着色剤の成形キャビティ面への付着が、接触又は非接触方式にて行なわれる請求の範囲第1項乃至第9項の何れかに記載のマーク付きコンタクトレンズの製造方法。
【請求項11】
請求の範囲第1項乃至第10項の何れかに記載のマーク付きコンタクトレンズの製造方法に従って製造されるマーク付きコンタクトレンズ。

【国際公開番号】WO2005/016617
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【発行日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507769(P2005−507769)
【国際出願番号】PCT/JP2003/010466
【国際出願日】平成15年8月19日(2003.8.19)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】