説明

ミクログリア活性化の阻害剤としてのピロロ[3,2−E][1,2,4]トリアゾロ[1,5−A]ピリミジン誘導体

本発明は、疾患の治療及び予防に有用な新規化合物に関する。Xがハロゲンであり、独立して塩素及びフッ素から選択される式(I)の化合物及び薬学上許容可能なその塩は、ミクログリアの活性化が原因となる疾患、特にアルツハイマー病の治療及び予防に有用である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患の治療と予防に有用な新規化合物に関する。特に、本発明は、特にその活性化がβ−アミロイドのようなアミロイドタンパク質によって引き起こされるミクログリアの活性化を原因とする疾患の治療と予防に有用な化合物を提供する。
【背景技術】
【0002】
薬学上活性のある化合物の開発において、改善された活性(たとえば、標的部位にて又はモデル系において)を持つ化合物の提供は重要である。しかしながら、活性のある化合物が有用な薬物動態の、薬力学上の及び毒性学上の特性を有することも重要である。たとえば、化合物の高い生体利用効率は、所与の血中レベルを達成するのに少ない化合物を使用すればよいことを意味する。特に、改善された経口の生体利用効率は、経口の投与形態がさらに有効であることを意味する。その結果として、標的における活性の改善は、重要である生体利用効率や生体内の半減期のようなそのほかの特性に対して釣り合いを保ち得る。
【0003】
EP1433480は中枢神経系の疾患の治療についてあるのピリミジン誘導体の使用を開示している。Uryuら、(2002)Brain Research,946(2),298−306及びUryuら、(2003)Biochem.Biophys.Res.Com.,303(1),302−305は、双方とも、EP1433480で唱えられた化合物RS−1178を考察している。US4007189は、降圧剤として有用であると言われるピロロトリアゾロピリミジン誘導体を記載している。JP52116497は、血管拡張剤及び降圧剤として有用であると言われるトリアゾロピリミジンを記載している。Y.Satoら、J.Med.Chem.(1980),23,927−937は、血管拡張剤として有用であると言われる複素環系に縮合した1,2,4−トリアゾロ[1,5−a]ピリミジンを記載している。EP347252は、悪液質の治療に有用なトリアゾロ−及びピラゾロピロロピリミジンを記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、EP1433480には開示されていない、マクロファージの活性化の強力な阻害剤であり、疾患の治療にて医薬有効成分として有用であり、以前開示された化合物を超える改善された活性を有する式(I)の特定の新規化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、本発明の第1の態様は、式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩を提供し、
【化1】

式中、Xはハロゲンであり、独立して塩素及びフッ素から選択され、フッ素が好ましい。好まれる薬学上許容可能な塩には、たとえば、塩酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、のような強酸、特に塩酸及びメタンスルホン酸と形成されるものが挙げられる。
【0006】
本発明の第2の実施形態は、治療法における式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩の使用を提供する。
【0007】
式(I)の化合物は、リポ多糖類及びザイモサンが作用する(EP1433480)ものとは異なる経路を介した、試験管内でのマクロファージの活性化の強力な阻害剤である。この系をミクログリア活性化のモデルとして用いる(Uryu et al (2002) Brain
Research, 946(2), 298-306)。従って、本発明の化合物は、ミクログリアの活性化が役割を担う状態にて有用である。ミクログリアの活性化は、多数の哺乳類の神経変性状態、特に、アルツハイマー病、パーキンソン病(たとえば、Teisman and Schulz 2004)、ハンチントン舞踏病(たとえば、Bonifati and Kishore 2006)及びピック病(たとえば、Schofield et al 2003)で提案されている。式(I)の化合物は特に、アミロイドタンパク質によるマクロファージの活性化の阻害剤であることが示されているので、活性化がアミロイドタンパク質によって誘導される状態、特にパーキンソン病及びアルツハイマー病で特に有用である。
【0008】
本発明の化合物は、組成物へのさらなる成分なしで使用されてよく、換言すれば、組成物は本質的に本発明の化合物から成るが、一般に薬学上許容可能な組成物として使用され、それは、任意で1以上の薬学上許容可能なキャリア又は希釈剤を含む。化合物は一般に、無菌であり、発熱物質を含まない組成物で提供される。
【0009】
たとえば、経口、直腸内、鼻内、局所又は非経口のような一般に使用される投与経路のいずれかに好適な製剤は、製薬学の技術で周知の方法によって調製されてもよい。これらは、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、粉剤、徐放性製剤などの形態を取ってもよい。
【0010】
本発明の化合物の好適な用量は、体重kg当たり0.1mgの化合物〜100mg/kg、好ましくは1mg/kg〜100mg/kg、さらに好ましくは1mg/kg〜10mg/kgである。
【0011】
本発明の第3の実施形態は、好ましくは、薬学上許容可能なキャリア又は希釈剤との組み合わせで式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩を含む医薬組成物を提供する。
【0012】
加えて、本発明の化合物は、1以上の追加の治療用化合物と共に投与されてもよい。たとえば、神経変性疾患の発症を遅らせることが示されている1以上の抗炎症性化合物(たとえば、NSAIDS);アルツハイマー病の治療に好適な1以上の化合物(たとえば、β−アミロイド凝集阻害剤、γ−セクレターゼ阻害剤、γ−セクレターゼ調節剤、又はβ−セクレターゼ阻害剤);又はパーキンソン病の治療のための化合物。従って、本発明の医薬製剤はさらにそのような化合物を含むことができる。しかしながら、当然、そのような化合物を別々に、本発明の化合物と同時に、又は逐次に投与することが可能である。
【0013】
従って、第4の態様では、本発明は、同時に、逐次に又は別々に使用するための1以上の追加の治療用化合物と一緒に本発明の化合物を含む組成物を提供する。1以上の追加の化合物は上記で議論した例から選択することができる。
【0014】
本発明の第5の態様は、それを必要とする患者に治療上有用な量の式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩を投与することを含む、ミクログリアの活性化が関与する(特にアミロイドタンパク質によってミクログリアが活性化される)疾患の治療方法を提供する。
【0015】
本発明の第6の態様は、ミクログリアの活性化が関与する(特にアミロイドタンパク質によってミクログリアが活性化される)疾患の治療のための薬物の製造における式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩の使用を提供する。
【0016】
本発明の第7の態様は、ミクログリアの活性化が関与する(特にアミロイドタンパク質によってミクログリアが活性化される)疾患の治療のための式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩を提供する。
【0017】
以下の実施例、スキーム及び図の助けを借りて本発明をさらに説明する。本発明の範囲内にあるさらなる実施形態は、これらの観点で熟練者に明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0018】
合成実施例
(S)−8−[1−(4−フルオロフェニル)エチル]−5−メチル−7,8−ジヒドロ−6H−ピロロ[3,2e][1,2,4]トリアゾロ[1,5−α]ピリミジン[化合物1]
【化2】

中間体(A)はY.Satoら、J.Med.Chem.(1980)23,927−937の方法によって合成されてもよい。
【0019】
1.6−(2−ヒドロキシエチル)−5−メチル[1,2,4]トリアゾロ[1,5−α]ピリミジン−7(4H)−オン
IMS(2.8L)にて3−アミノトリアゾール(350g、4.1モル)とα−アセチル−γ−ブチロラクトン(524.8g、4.1モル)の混合物を撹拌し、BF.EtO(85mL、0.6モル)を15分間かけて加えた。常温で3日間撹拌した後、濾過によって固形物を回収し、濾紙上で乾燥させた。
H−NMR(d6−DMSO)δ13.6(1H,br),10.37(1H,s),8.40(1H,s),4.30(2H,t),2.88(2H,t)及び2.50(3H,s)
【0020】
水(1.7L)にて固形物を撹拌し、トリエチルアミン(422mL、4.1モル)を加え、その後、固形物を溶解した。常温で2日間撹拌した後、酢酸(1当量、90mL)を加えた。混合物を1時間撹拌し、固形物を濾過し、濾紙上にて及び40℃での真空下にて4時間乾燥させて、白色固形物、430g、2.2モル(54%)としてジヒドロキシ化合物を得た。
H−NMR(d6−DMSO)δ8.16(1H,s),3.48(2H,t),2.62(2H,t)及び2.36(3H,s).ES195(100%),M+H
【0021】
2.7−クロロ−6−(2−クロロエチル)−5−メチル[1,2,4]トリアゾロ[1,5−α]ピリミジン
6−(2−ヒドロキシエチル)−5−メチル[1,2,4]トリアゾロ[1,5−α]ピリミジン−7(4H)−オン(111g、0.57モル)にPOCl(130mL)を一気に加え(発熱を生じる)、混合物を撹拌し、40℃ずつ段階的に120℃に加熱した(70〜80℃にて固形物はすべて溶解した)。5時間後、加熱を止め、混合物を一晩冷却した。真空下で一部残留のPOClを取り除き、残留物をよく撹拌した水(1L)に40分かけて加えた。添加の際、温度が上昇したが、氷を定期的に加えて25℃未満を保ち、注意して水の下にゴムが溜まるのを回避した。混合物を氷槽で冷却し、撹拌し、アンモニア水でpHを約7に合わせ、固形物を回収した。固形物をジクロロメタン(150mL)に入れ、分離した水を取り除き、固形物を濾過によって取り除き、有機溶液をMgSO上で乾燥させた。濃縮の後、シリカを介した真空下の溶出(溶離液:1.5〜2%のメタノール/ジクロロメタン)によって粗精製物質を精製して白色固形物(62g、0.27モル)としてジクロロ化合物を得た。
H−NMR(d6−DMSO)δ8.66(1H,s),3.90(2H,t),3.33(2H,t)及び2.75(3H,s).ES231(100%),M+H
【0022】
3.(S)−8−[1−(4−フルオロフェニル)エチル]−5−メチル−7,8−ジヒドロ−6H−ピロロ[3,2e][1,2,4]トリアゾロ[1,5−α]ピリミジン
エタノール(5mL)中の7−クロロ−6−(2−クロロエチル)−5−メチル[1,2,4]トリアゾロ[1,5−α]ピリミジン(390mg、1.7ミリモル)と(S)−4−フルオロ−α−メチルベンジルアミン(378mg、2.7ミリモル)と炭酸ナトリウム(324mg、3.0ミリモル)の混合物を還流下で5時間加熱した。混合物を室温に冷却し、濾過し、濾液から溶媒を除いた。ジイソプロピルエーテルで粗生成物を粉末化し、黄色の固形物(430mg、85%)として8−[(S)−1−(4−フルオロフェニル)エチル]−5−メチル−7,8−ジヒドロ−6H−ピロロ[3,2e][1,2,4]トリアゾロ[1,5−α]ピリミジンを得た。
H−NMR(CDCl)δ1.71(3Η,d),2.39(3Η,s),3.06(2Η,m),3.44(1Η,m),3.84(1Η,m),6.85(1Η,q),7.03(2Η,m),7.34(2Η,m)及び8.30(1Η,s)
LCMS(ES):298(MH,100%)
【0023】
比較例
(S)−8−[1−(フェニル)エチル]−5−メチル−7,8−ジヒドロ−6H−ピロロ[3,2e][1,2,4]トリアゾロ[1,5−α]ピリミジン[化合物3]
この化合物は、Uryuら、(2002)Brain Research,946(2),298−306及びUryuら、(2003)Biochem.Biophys.Res.Com.,303(1),302−305にて以前議論されたRS−1178[化合物2]の(S)−エナンチオマーである。この化合物の一般的な合成経路はSatoら、J.Med.Chem.(1980),23,927−937に開示されている。化合物は、(S)−4−フルオロ−α−メチルベンジルアミンの代わりに(S)−α−メチルベンジルアミンを使用することを除いて(S)−8−[1−(4−フルオロフェニル)エチル]−5−メチル−7,8−ジヒドロ−6H−ピロロ[3,2e][1,2,4]トリアゾロ[1,5−α]ピリミジンの調製で使用されるのと同じ方法によって調製した。
H−NMR(CDCl)δ1.71(3Η,d),2.35(3Η,s),3.10(2Η,m),3.50(1Η,m),4.00(1Η,m),6.73(1Η,q),7.30−7.45(5Η,m)及び8.48(1Η,s)
MS(ES):280(MH,100%)
【0024】
(R)エナンチオマー[化合物4]は、(R)−α−メチルベンジルアミンを用いて同様に調製する。
実験実施例
1.β−アミロイドが誘導する活性化の阻害
【0025】
細胞培地(10%FBSと1%のL−グルタミンと1%のペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM)にてBALB/cマウスの単球マクロファージJ774.2,{ECACC85011428}を増殖させ、継代培養した。96穴プレートにて50μLの細胞培地に100,000個の細胞/ウェルでJ774細胞を入れ、実験に先立って一晩、37℃で5%COのインキュベータに入れた。
【0026】
Biotekの精密2000液体操作機器を用いてAβ(1−42)と化合物のJ774細胞への添加を実施した。294μLの細胞培地を含有する「娘プレート」に8μMから6mMに及ぶDMSO中の化合物3μLをピペットで入れ、十分に混合した。次いで4mMでのDMSO中のAβ(1−42)を3μL「娘プレート」に加え、十分に混合した。次いで「娘プレート」から50μLを取り出し、プレートに入れたJ774細胞に加えた。100μLの細胞培地を含有するウェルにおける最終濃度は、1%DMSO中の20μMのAβ(1−42)と約40nM〜30μMの範囲の化合物であり、また50U/mLのインターフェロンγが存在した。プレートを37℃で5%COのインキュベータにて24時間インキュベートした。24時間のインキュベートの後、培地をウェルから回収し、試験に必要とされるまで−20℃で保存した。
【0027】
製造元の指示書を用いてGriessアッセイ(Promega G2930)を用い、培地中の一酸化窒素のレベルを調べた。
【0028】
製造元の指示書を用いて、TNF−αELISA(R&D Systems MTA00)又はMeso Scale Discovery MS6000マウスProinflammatory−7キットを用い、培地におけるTNFαのレベルを調べた。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

従って、本発明の化合物はその部類の他の化合物に比べて改善された半減期及び生体利用効率を有する。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩:
【化1】

(式中、Xはフッ素及び塩素から選択される)。
【請求項2】
Xがフッ素である請求項1に記載の化合物又は薬学上許容可能なその塩。
【請求項3】
薬学上許容可能なキャリア又は希釈剤との組み合わせで式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩を含む医薬組成物。
【請求項4】
抗炎症性化合物(たとえば、NSAIDS)、アルツハイマー病の治療に好適な化合物(たとえば、β−アミロイド凝集阻害剤、γ−セクレターゼ阻害剤、γ−セクレターゼ調節剤、又はβ−セクレターゼ阻害剤)又はパーキンソン病の治療のための化合物から選択される1以上の化合物をさらに含む請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
同時に、逐次に、又は別々に使用するための1以上の追加の治療用化合物と一緒に請求項1に記載の化合物を含む組成物。
【請求項6】
追加の治療用化合物が、抗炎症性化合物(たとえば、NSAIDS)、アルツハイマー病の治療に好適な化合物(たとえば、β−アミロイド凝集阻害剤、γ−セクレターゼ阻害剤、γ−セクレターゼ調節剤、又はβ−セクレターゼ阻害剤)又はパーキンソン病の治療のための化合物から選択される請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
治療法における請求項1に記載の式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩の使用。
【請求項8】
それを必要とする患者に治療上有効な量の請求項1に記載の式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩を投与することを含む、ミクログリアの活性化が関与する疾患の治療方法。
【請求項9】
ミクログリアの活性化が関与する疾患がアルツハイマー病である請求項8に記載の治療方法。
【請求項10】
ミクログリアの活性化が関与する疾患の治療のための薬物の製造における請求項1に記載の式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩の使用。
【請求項11】
ミクログリアの活性化が関与する疾患がアルツハイマー病である請求項10に記載の使用。
【請求項12】
ミクログリアの活性化が関与する疾患の治療のための請求項1に記載の式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩
【請求項13】
アルツハイマー病の治療のための請求項1に記載の式(I)の化合物又は薬学上許容可能なその塩。

【公表番号】特表2013−507340(P2013−507340A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532593(P2012−532593)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065002
【国際公開番号】WO2011/042497
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(500431508)ビーティージー・インターナショナル・リミテッド (41)
【Fターム(参考)】