説明

ミスト冷却装置、熱処理装置及び冷却方法

【課題】冷却の不均一性を解消でき、冷却の不均一性を原因とする被処理物における歪みや曲がり等の発生を防止できるミスト冷却装置、熱処理装置及び冷却方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、加熱されて冷却炉10内に設けられた被処理物Mに対して冷却用ミストを噴射して冷却するミスト冷却装置3であって、加熱された被処理物Mに対する冷却用ミストの噴射時に、被処理物Mと冷却用ミストを噴射するノズル30とを相対移動させる移動装置20を有する、という構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスト冷却装置、熱処理装置及び冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属等の被処理物に対する熱処理に用いられ、被処理物を冷却するためのミスト冷却装置が開示されている。ミスト冷却装置は、加熱された被処理物にミスト状の冷却液を噴射し、冷却液の気化潜熱を利用して冷却を行うため、従来のガス噴射型冷却装置に比べその冷却能力は高い。また、ミストの噴射量を調整することで、従来の浸漬型冷却装置では難しかった被処理物の冷却速度の制御を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−153386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術には、以下のような課題が存在する。
冷却液をミスト状に噴射しても、被処理物の形状や大きさによってはミストの当たりにくい箇所が生じてしまい、被処理物に対する冷却の不均一性が生じる可能性があった。冷却が不均一になることで、被処理物に歪みや曲がりが生じる虞があった。
【0005】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、冷却の不均一性を解消でき、冷却の不均一性を原因とする被処理物における歪みや曲がり等の発生を防止できるミスト冷却装置、熱処理装置及び冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、加熱されて冷却炉内に設けられた被処理物に対して冷却用ミストを噴射して冷却するミスト冷却装置であって、加熱された被処理物に対する冷却用ミストの噴射時に、被処理物と冷却用ミストを噴射するノズルとを相対移動させる移動装置を有する、という構成を採用する。
本発明では、冷却用ミストの噴射時に被処理物とノズルとの相対位置が変化するため、被処理物の形状や大きさに応じて生じる、ミストを当てることが難しい箇所に対してもミストを当てることが可能となる。
【0007】
また、本発明は、移動装置が被処理物を移動させる被処理物移動部を有する、という構成を採用する。
本発明では、冷却炉内で被処理物を取り囲むようにして複数設けられているノズルを移動させる装置を設置することに比べ、被処理物を移動させる被処理物移動部は容易に設けられる。
【0008】
また、本発明は、冷却用ミストの噴射開始後、所定の時間が経過してから被処理物移動部を作動させる制御部を有する、という構成を採用する。
被処理物の温度が高いと被処理物の強度は減少する。本発明では、冷却用ミストの噴射開始後、所定の時間が経過してから被処理物の移動が開始されるため、被処理物の強度が十分に上昇してからその移動が開始される。
【0009】
また、本発明は、被処理物の温度を計測する温度計測器と、温度計測器が計測した被処理物の温度の値を取得し被処理物の温度が所定の温度以下になってから被処理物移動部を作動させる制御部とを有する、という構成を採用する。
被処理物の温度が高いと被処理物の強度は減少する。本発明では、被処理物の温度が所定の温度以下になってから被処理物の移動が開始されるため、被処理物の強度が十分に上昇してからその移動が開始される。
【0010】
また、本発明は、被処理物移動部が被処理物を冷却炉内に向けて搬送する搬送部を備えている、という構成を採用する。
本発明では、被処理物を冷却炉内に向けて搬送する搬送部を、冷却用ミストの噴射時に被処理物移動部として作動させるため、新たな被処理物移動部を設ける必要がない。
【0011】
また、本発明は、被処理物移動部が被処理物を上下方向で移動させる上下移動部を備えている、という構成を採用する。
本発明では、被処理物を上下方向で移動させる上下移動部は容易に設けられる。
【0012】
また、本発明は、被処理物移動部が被処理物を所定の回転軸周りで回転移動させる回転移動部を備えている、という構成を採用する。
本発明では、被処理物を所定の回転軸周りで回転移動させる回転移動部は容易に設けられる。
【0013】
また、本発明は、被処理物に対して熱処理を行う熱処理装置であって、請求項1から7のいずれか一項に記載のミスト冷却装置を有する、という構成を採用する。
本発明では、冷却用ミストの噴射時に被処理物とノズルとの相対位置が変化するため、被処理物の形状や大きさに応じて生じる、ミストを当てることが難しい箇所に対してもミストを当てることが可能となる。
【0014】
また、本発明は、加熱された被処理物に対して冷却用ミストを噴射して冷却する冷却方法であって、加熱された被処理物に対する冷却用ミストの噴射時に、被処理物と冷却用ミストを噴射するノズルとを相対移動させる、という方法を採用する。
本発明では、冷却用ミストの噴射時に被処理物とノズルとの相対位置が変化するため、被処理物の形状や大きさに応じて生じる、ミストを当てることが難しい箇所に対してもミストを当てることが可能となる。
【0015】
また、本発明は、被処理物に対する冷却用ミストの噴射時に被処理物を移動させる移動工程を有する、という方法を採用する。
本発明では、冷却炉内で被処理物を取り囲むようにして複数設けられているノズルを移動させることに比べ、被処理物を移動させることは容易に実施される。
【0016】
また、本発明は、移動工程では、被処理物に対する冷却用ミストの噴射開始後、所定の時間が経過してから被処理物を移動させる、という方法を採用する。
被処理物の温度が高いと被処理物の強度は減少する。本発明では、冷却用ミストの噴射開始後、所定の時間が経過してから被処理物の移動が開始されるため、被処理物の強度が十分に上昇してからその移動が開始される。
【0017】
また、本発明は、被処理物の温度を計測する計測工程を有し、移動工程では、計測工程で計測した被処理物の温度が所定の温度以下になってから被処理物を移動させる、という方法を採用する。
被処理物の温度が高いと被処理物の強度は減少する。本発明では、被処理物の温度が所定の温度以下になってから被処理物の移動が開始されるため、被処理物の強度が十分に上昇してからその移動が開始される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明によれば、被処理物の形状や大きさに応じて生じる、ミストを当てることが難しい箇所に対してもミストを当てることができることから、冷却の不均一性を解消できる。よって、冷却の不均一性を原因とする被処理物における歪みや曲がり等の発生を防止できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】熱処理装置1の全体構成図である。
【図2】冷却室3の構成を示す概略図である。
【図3】ステンレス(SUS304)のクリープ強さを示すグラフである。
【図4】冷却室3Aの構成を示す概略図である。
【図5】冷却室3Aの冷却動作を示す概略図である。
【図6】熱処理装置1Aの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図1から図5を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。また、以下の説明では、熱処理装置として2室型の熱処理装置の例を示す。
【0021】
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態に係る熱処理装置1の全体構成図である。
熱処理装置1は、被処理物Mに対して焼き入れ等の熱処理を施すものであって、加熱室2と、冷却室(ミスト冷却装置)3とを有している。加熱室2と冷却室3とは、略水平方向に並んで配置されている。加熱室2と冷却室3との間には隔壁4が設けられ、隔壁4の開放時に、加熱室2において加熱された被処理物Mを冷却室3へ移動させ、冷却室3内で被処理物Mを冷却する。
【0022】
被処理物Mは、熱処理装置1によって熱処理が施されるものであって、所定量の炭素を含有した鋼等の金属材料(合金含む)からなる。以下の説明に用いる各図面では、被処理物Mを直方体形状に表しているが、その形状や大きさ、一度に処理する個数等は様々なものが存在する。
【0023】
次に、冷却室3の構成を、図2を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係る冷却室3の構成を示す概略図であって、(a)は冷却室3の側方からの断面図、(b)は(a)のA−A線視断面図である。
【0024】
冷却室3は、容器(冷却炉)10と、搬送部(被処理物移動部、移動装置)20と、ノズル30と、温度計測器40と、制御部50とを有している。
容器10は、冷却室3の外殻を構成し、内部に密閉した空間を形成可能な略円筒状の容器である。容器10は、複数の支持脚11によって床面に設置されている。
【0025】
搬送部20は、被処理物Mを加熱室2から冷却室3へ搬入し、さらに冷却室3から外部に搬出するためのものであって、容器10の中心軸と平行する方向で被処理物Mを搬送するものである。搬送部20は、一対の支持フレーム21と、複数の搬送ローラ22と、モータ23とを有している。
【0026】
一対の支持フレーム21は、容器10の内側底部に立設され、複数の搬送ローラ22を介して被処理物Mを下方から支持するものである。一対の支持フレーム21は、被処理物Mの搬送方向に延在して設けられている。複数の搬送ローラ22は、回転することで被処理物Mを円滑に搬送するものであり、一対の支持フレーム21の互いに対向する面に、搬送方向に所定の間隔をあけて回転自在に設けられている。なお、本実施形態の被処理物Mは直接に搬送ローラ22に載置されず、トレー24を介して搬送ローラ22に載置される。
【0027】
モータ23は、搬送ローラ22を回転させて、被処理物Mを搬送するための駆動部である。モータ23は、ブラケット25を介して容器10に一体的に取り付けられている。モータ23の出力軸と、搬送ローラ22とは、駆動軸26を介して一体的に連結されている。また、モータ23は後述する制御部50と電気的に接続され、制御部50によってその駆動が制御される。
【0028】
ノズル30は、加熱されて容器10内に設けられた被処理物Mに対して冷却液をミスト状に噴射して、被処理物Mを冷却するものである。ノズル30は、容器10の内壁に被処理物Mを取り囲むようにして複数設けられている。これは、被処理物Mにおけるミストの当たりにくい部分を極力無くすためである。なお、使用される冷却液としては、例えば水、油、ソルト又はフッ素系不活性液体等が用いられる。
【0029】
また、ノズル30は、冷却室3に設けられる不図示の冷却システムを構成する一要素である。冷却システムを構成する他の要素としては、例えば、容器10内に供給された冷却液を回収する回収管と、回収された冷却液を冷却する熱交換器と、回収された冷却液をノズル30に向けて送り出すポンプと、ポンプとノズル30との間に設けられる供給管等が挙げられる。
【0030】
温度計測器40は、容器10内に設けられ、冷却中の被処理物Mの温度を非接触で計測できる計測器である。温度計測器40は制御部50と電気的に接続されており、制御部50に対して温度の計測値が出力される。
【0031】
制御部50は、モータ23の駆動を制御するものである。被処理物Mの冷却室3への搬入時及び冷却室3からの搬出時においては、制御部50がモータ23の駆動を制御して被処理物Mの搬入・搬出動作を行う。さらに、制御部50は、被処理物Mの冷却中においても、温度計測器40から入力される被処理物Mの温度に基づいて、モータ23の駆動を制御して被処理物Mを移動させる。
【0032】
ここで、制御部50が被処理物Mを移動させるための、被処理物Mの温度の基準を、図3を参照して説明する。
図3は、ステンレス(SUS304)のクリープ強さを示すグラフである。
図3は、ステンレス材料の温度と、単位時間で所定の歪み(1×10−4%/hr)を上記材料に生じさせる応力との関係を示したものである。温度が上昇すれば材料強度は低下するため、移動させることによる被処理物Mの歪みや曲がりを防止するためには、被処理物Mが所定の温度以下となるまで静止させておく必要がある。本実施形態における制御部50は、例えば被処理物Mがステンレスの場合には、クリープ強さが5.3kg/mm以上となる温度、すなわち660℃以下になったときに、モータ23を駆動させて被処理物Mを移動させる制御方法を採用している。
【0033】
続いて、本実施形態に係る冷却室3の被処理物Mに対する冷却動作を、図1から図3を参照して説明する。
被処理物Mは加熱室2において加熱される。加熱室2における加熱が終了した後、隔壁4が開放され、搬送部20の駆動により加熱された被処理物Mが冷却室3内に搬入される。
【0034】
冷却室3への搬入終了後、ノズル30から被処理物Mに対してミスト状の冷却液が噴射され、被処理物Mの冷却が開始される。加熱された被処理物Mに付着した冷却液は被処理物Mから気化潜熱を奪い気化する。冷却液の気化潜熱を利用することで、被処理物Mを迅速に冷却することができる。
【0035】
なお、被処理物Mの形状や大きさ等によっては、ミストの当たりにくい箇所が生じてしまい、被処理物Mに対する冷却の不均一性が生じる可能性がある。そこで、本実施形態では、冷却中の被処理物Mを移動させ被処理物Mとノズル30との相対位置を変化させる。
【0036】
冷却中の被処理物Mの温度は、温度計測器40によって計測される。計測された被処理物Mの温度の値は、温度計測器40から制御部50に対して出力される。制御部50は、温度計測器40から被処理物Mの温度の値を取得し、被処理物Mが所定の温度以下となってからモータ23を駆動させて、被処理物Mを移動させる。上述したように、被処理物Mの温度が高いと被処理物Mの強度は低下する。本実施形態では、被処理物Mの温度が所定の温度以下になってから被処理物Mの移動が開始されるため、被処理物Mの強度が十分に上昇してからその移動を開始することができる。よって、移動させることによる被処理物Mの歪みや曲がりを防止することができる。
【0037】
加熱された被処理物Mに対してノズル30から冷却液をミスト状に噴射している間、すなわち冷却中に被処理物Mを移動させることで、被処理物Mとノズル30との相対位置が変化する。そのため、被処理物Mの形状や大きさに応じて生じる、ミストを当てることが難しい箇所に対してもミストを当てることができるため、被処理物Mにおける冷却の不均一性を解消できる。よって、冷却の不均一性を原因とする被処理物Mにおける歪みや曲がり等の発生を防止できる。
【0038】
また、本実施形態では、冷却中に被処理物Mを移動させているため、容器10の内壁に被処理物Mを取り囲むようにして複数設けられているノズル30を移動させる装置を設置することに比べ、低コストに被処理物Mとノズル30との相対位置を変化させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、搬送部20を駆動することで冷却中の被処理物Mを移動させているため、被処理物Mを移動させるための装置を新たに設ける必要がない。
【0040】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、被処理物Mの形状や大きさに応じて生じる、ミストを当てることが難しい箇所に対してもミストを当てることができることから、冷却の不均一性を解消できる。よって、冷却の不均一性を原因とする被処理物Mにおける歪みや曲がり等の発生を防止できるという効果がある。
【0041】
〔第2実施形態〕
本実施形態に係る冷却室3Aの構成を、図4を参照して説明する。
図4は、本実施形態に係る冷却室3Aの構成を示す概略図であって、(a)は冷却室3Aの側方からの断面図、(b)は(a)のB−B線視断面図である。また、図4において、図2に示す第1の実施形態の構成要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
本実施形態に係る冷却室(ミスト冷却装置)3Aは、第1の実施形態と同じく、熱処理装置1に設けられるものである。冷却室3Aは、容器10と、搬送部20と、ノズル30と、温度計測器40と、制御部50と、回転移動部(被処理物移動部、移動装置)60とを有している。なお、図4において、搬送部20におけるモータ23、ブラケット25及び駆動軸26の記載は省略している。
【0043】
回転移動部60は、搬送部20に載置された被処理物Mを、搬送部20から上昇させた後に回転させるための移動装置である。回転移動部60は、支持板61と、アクチュエータ62と、第2駆動軸63とを有している。
【0044】
支持板61は、被処理物Mが載置されるトレー24を下方から支持するための板部材である。アクチュエータ62は、支持板61を上昇させ且つ回転させるための駆動装置であって、制御部50と電気的に接続され、制御部50によってその駆動が制御される。第2駆動軸63は、アクチュエータ62の駆動軸であり、支持板61と一体的に接続されている。
【0045】
続いて、本実施形態に係る冷却室3Aの被処理物Mに対する冷却動作を、図5を参照して説明する。
図5は、冷却室3Aの冷却動作を示す概略図であって、(a)は冷却室3Aの側方からの断面図、(b)は(a)のC−C線視断面図である。
【0046】
冷却中の被処理物Mの温度は、温度計測器40によって計測される。計測された被処理物Mの温度の値は、温度計測器40から制御部50に対して出力される。制御部50は、温度計測器40から被処理物Mの温度の値を取得し、被処理物Mが所定の温度以下となってからアクチュエータ62を駆動させて、被処理物Mを移動させる。まず、アクチュエータ62の駆動によって、被処理物Mが載置されるトレー24を、支持板61が下方から支持して上方へ移動させる。その後、アクチュエータ62の駆動によって、被処理物Mが、搬送部20の上方で、鉛直方向に延びる所定の軸周りで回転する。
【0047】
被処理物Mの温度が高いと被処理物Mの強度は低下する。本実施形態では、被処理物Mの温度が所定の温度以下になってから被処理物Mの上方への移動が開始されるため、被処理物Mの強度が十分に上昇してからその移動を開始することができる。よって、移動させることによる被処理物Mの歪みや曲がりを防止することができる。
【0048】
加熱された被処理物Mに対してノズル30から冷却液をミスト状に噴射している間、すなわち冷却中に被処理物Mを上下移動及び回転移動させることで、被処理物Mとノズル30との相対位置が変化する。そのため、被処理物Mの形状や大きさに応じて生じる、ミストを当てることが難しい箇所に対してもミストを当てることができるため、被処理物Mにおける冷却の不均一性を解消できる。よって、冷却の不均一性を原因とする被処理物Mにおける歪みや曲がり等の発生を防止できる。
【0049】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、被処理物Mの形状や大きさに応じて生じる、ミストを当てることが難しい箇所に対してもミストを当てることができることから、冷却の不均一性を解消できる。よって、冷却の不均一性を原因とする被処理物Mにおける歪みや曲がり等の発生を防止できるという効果がある。
【0050】
〔第3実施形態〕
本実施形態に係る熱処理装置1Aの構成を、図6を参照して説明する。
図6は、本実施形態に係る熱処理装置1Aの全体構成図である。また、図6において、図2に示す第1の実施形態の構成要素と同一の要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0051】
熱処理装置1Aは、被処理物Mに対して焼き入れ等の熱処理を施すものであって、加熱室2と、冷却室(ミスト冷却装置)3Bとを有している。加熱室2と冷却室3Bとは、鉛直方向に並んで配置されている。なお、加熱室2が上側に、冷却室3Bが下側に配置されている。加熱室2の上面には、被処理物Mを加熱室2内に搬入するときに用いられる開閉扉2aが設けられている。
【0052】
冷却室3Bは、加熱室2で加熱された被処理物Mを冷却するものである。冷却室3Bは、容器10と、ノズル30と、温度計測器40と、制御部50と、上下移動部(被処理物移動部、移動装置)70とを有している。
【0053】
上下移動部70は、被処理物Mを上下移動させるものである。また、上下移動部70は、被処理物Mを熱処理装置1Aの外部から加熱室2内に搬入し、さらに加熱室2で加熱された被処理物Mを冷却室3B内に移動させるものである。上下移動部70は、第2支持板71と、第2モータ72と、上下駆動軸73とを有している。
【0054】
第2支持板71は、被処理物Mを下方から支持するための板部材である。第2モータ72は、第2支持板71を上下移動させるための駆動装置であって、制御部50に電気的に接続され、制御部50によってその駆動が制御される。上下駆動軸73は、第2モータ72の作動により上下移動する軸部材であって、第2支持板71と第2モータ72とを連結するものである。
【0055】
続いて、本実施形態に係る冷却室3Bの被処理物Mに対する冷却動作を、図6を参照して説明する。
隔壁4が開放されているときに、第2モータ72の作動によって、加熱室2で加熱された被処理物Mが下降して冷却室3B内に移動する。冷却室3Bへの移動完了後、被処理物Mが停止してから、ノズル30から被処理物Mに対してミスト状の冷却液が噴射され、被処理物Mの冷却が開始される。
【0056】
制御部50は、温度計測器40から被処理物Mの温度の値を取得し、被処理物Mが所定の温度以下となってから第2モータ72を駆動させて、被処理物Mを上下移動させる。被処理物Mは、冷却室3B内で上下移動する。
【0057】
加熱された被処理物Mに対してノズル30から冷却液をミスト状に噴射している間、すなわち冷却中に被処理物Mを上下移動させることで、被処理物Mとノズル30との相対位置が変化する。そのため、被処理物Mの形状や大きさに応じて生じる、ミストを当てることが難しい箇所に対してもミストを当てることができるため、被処理物Mにおける冷却の不均一性を解消できる。よって、冷却の不均一性を原因とする被処理物Mにおける歪みや曲がり等の発生を防止できる。
【0058】
本実施形態では、熱処理装置1Aの外部と加熱室2との間、及び加熱室2と冷却室3Bとの間で被処理物Mを移動させるための上下移動部70を用いて、冷却中の被処理物Mを上下移動させている。そのため、冷却中の被処理物Mを移動させるための移動装置を他に設ける必要がない。
また、このような上下移動部70を用いることで、熱処理装置1Aにおいて被処理物Mを移動させる移動装置を簡略化でき、熱処理装置1Aを小型化することができる。小型化された熱処理装置1Aの熱容量は小さくなるため、被処理物Mの品種を変更するときにも温度設定等を迅速に変更でき、速やかに次の被処理物Mに対する熱処理を開始することが可能となる。そのため、本実施形態における熱処理装置1Aは、単品処理や多品種少量生産の小ロット処理に適している。
【0059】
また、本実施形態における熱処理装置1Aの加熱室2では、被処理物Mを加熱する加熱装置として例えばセラミックヒータが用いられるが、このようなヒータの代わりに、被処理物Mを高周波により加熱するいわゆる高周波加熱装置(高周波誘導加熱装置)を用いてもよい。
高周波加熱装置は被処理物Mを短時間で加熱でき、迅速に冷却工程を開始できるため、被処理物Mの処理時間を短縮できる。また、高周波加熱装置は、高周波により被処理物Mを自己発熱させるため、被処理物Mを内部と外部とで均一に加熱できる。そのため、被処理物Mにおける処理ムラ等の発生を防止・抑制することができる。さらに、被処理物Mの自己発熱を利用することから、加熱のON/OFFを繰り返すいわゆるパルス加熱を高い追従性で実施することができる。
上述したように、高周波加熱装置は高周波により被処理物Mの自己発熱させるため、被処理物Mの品種を変更しても速やかに次の被処理物Mに対する熱処理を開始できる。よって、高周波加熱装置を備える熱処理装置1Aは小ロット処理に適している。なお、処理時間をさらに短縮するために、高周波加熱装置と共に一般的なセラミックヒータ等を使用してもよい。
【0060】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、被処理物Mの形状や大きさに応じて生じる、ミストを当てることが難しい箇所に対してもミストを当てることができることから、冷却の不均一性を解消できる。よって、冷却の不均一性を原因とする被処理物Mにおける歪みや曲がり等の発生を防止できるという効果がある。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0062】
例えば、上記実施形態では、冷却中に被処理物Mを移動させているが、これに限定されるものではなく、ノズル30を移動させる移動装置を設け、被処理物Mの冷却中にノズル30を移動させてもよい。このような構成によっても、冷却中の被処理物Mとノズル30との相対位置を変化させることができる。
【0063】
また、上記実施形態では、温度計測器40が冷却中の被処理物Mの温度を計測し、制御部50は被処理物Mの温度に応じて被処理物Mの移動を開始しているが、これに限定されるものではなく、制御部50が、被処理物Mの冷却開始後、所定の時間が経過してから被処理物Mを移動させる構成であってもよい。この時間は、被処理物Mの材質及び必要とする強度等によって決定される。このような構成によっても、被処理物Mの強度が十分に上昇してからその移動を開始することができる。
【0064】
また、第2の実施形態では、回転移動部60は被処理物Mを搬送部20から上昇させた後に回転させているが、これに限定されるものではなく、被処理物Mの冷却中に上下移動を行う上下移動部のみを有する構成であってもよい。
【0065】
また、第3の実施形態では、上下移動部70は被処理物Mを上下移動のみさせているが、これに限定されるものではなく、被処理物Mを鉛直方向に延びる所定の軸周りで回転させる回転駆動装置を上下移動部70に設け、被処理物Mの冷却中に、被処理物Mの上下移動とともに回転させ、又は上下移動と回転動作とを順次行うようにしてもよい。
【0066】
また、上記実施形態における冷却液は、その沸点と被処理物Mの温度との差に応じた熱量を吸熱するため、被処理物Mからの吸熱量のばらつきを抑えることを考慮すると、ミスト状冷却液の供給温度と冷却液の沸点の温度差が一定であることが望ましい。具体的には、ミスト状冷却液の供給温度が下がった場合には、その分だけ冷却液の沸点も低くするように雰囲気調整圧を高くすることが望ましい。一方、ミスト上冷却液の供給温度が上がった場合には、その分だけ冷却液の沸点も高くするように雰囲気調整圧を低くすることが望ましい。なお、図示しない真空排気装置により容器内の気体を排気することにより雰囲気調整圧を低くする。
【符号の説明】
【0067】
1,1A…熱処理装置、3,3A,3B…冷却室(ミスト冷却装置)、10…容器(冷却炉)、20…搬送部(被処理物移動部、移動装置)、30…ノズル、40…温度計測器、50…制御部、60…回転移動部(被処理物移動部、移動装置)、70…上下移動部(被処理物移動部、移動装置)、M…被処理物、


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されて冷却炉内に設けられた被処理物に対して冷却用ミストを噴射して冷却するミスト冷却装置であって、
加熱された前記被処理物に対する冷却用ミストの噴射時に、前記被処理物と冷却用ミストを噴射するノズルとを相対移動させる移動装置を有することを特徴とするミスト冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載のミスト冷却装置において、
前記移動装置は、前記被処理物を移動させる被処理物移動部を有することを特徴とするミスト冷却装置。
【請求項3】
請求項2に記載のミスト冷却装置において、
冷却用ミストの噴射開始後、所定の時間が経過してから前記被処理物移動部を作動させる制御部を有することを特徴とするミスト冷却装置。
【請求項4】
請求項2に記載のミスト冷却装置において、
前記被処理物の温度を計測する温度計測器と、
前記温度計測器が計測した前記被処理物の温度の値を取得し、前記被処理物の温度が所定の温度以下になってから前記被処理物移動部を作動させる制御部と、を有することを特徴とするミスト冷却装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載のミスト冷却装置において、
前記被処理物移動部は、前記被処理物を前記冷却炉内に向けて搬送する搬送部を備えていることを特徴とするミスト冷却装置。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか一項に記載のミスト冷却装置において、
前記被処理物移動部は、前記被処理物を上下方向で移動させる上下移動部を備えていることを特徴とするミスト冷却装置。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか一項に記載のミスト冷却装置において、
前記被処理物移動部は、前記被処理物を所定の回転軸周りで回転移動させる回転移動部を備えていることを特徴とするミスト冷却装置。
【請求項8】
被処理物に対して熱処理を行う熱処理装置であって、
請求項1から7のいずれか一項に記載のミスト冷却装置を有することを特徴とする熱処理装置。
【請求項9】
加熱された被処理物に対して冷却用ミストを噴射して冷却する冷却方法であって、
加熱された前記被処理物に対する冷却用ミストの噴射時に、前記被処理物と冷却用ミストを噴射するノズルとを相対移動させることを特徴とする冷却方法。
【請求項10】
請求項9に記載の冷却方法において、
前記被処理物に対する冷却用ミストの噴射時に、前記被処理物を移動させる移動工程を有することを特徴とする冷却方法。
【請求項11】
請求項10に記載の冷却方法において、
前記移動工程では、前記被処理物に対する冷却用ミストの噴射開始後、所定の時間が経過してから前記被処理物を移動させることを特徴とする冷却方法。
【請求項12】
請求項10に記載の冷却方法において、
前記被処理物の温度を計測する計測工程を有し、
前記移動工程では、前記計測工程で計測した前記被処理物の温度が、所定の温度以下になってから前記被処理物を移動させることを特徴とする冷却方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−196621(P2011−196621A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64403(P2010−64403)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000198329)株式会社IHI機械システム (27)
【Fターム(参考)】