説明

ミニチャンネル及びマイクロチャンネルにおけるパーシャル沸騰

【課題】 マイクロチャンネル内での流動沸騰を単位操作に組み込み、発熱性反応のための安定した等温境界状況を実現するために利用することが可能なプロセス及び方法を提供することである。
【解決手段】 ミニチャンネル又はマイクロチャンネル内の液体が、前記ミニチャンネル又はマイクロチャンネルの少なくとも15cmの長さにおいてパーシャル沸騰を生じる方法及び装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国仮出願特許番号第60/624,860号の優先権を主張するものであって、一般にミニチャンネルまたはマイクロチャンネル内で液体がパーシャル沸騰(partial boiling)する装置及びシステム(システムとは、単数あるいは複数の流体を収納し、圧力、温度、等のようなパラメータによって更に特徴付け得る装置によって構成される)ミニチャンネルは10mmまたはそれ未満である少なくとも一つの寸法を有し、マイクロチャンネルは2mmまたはそれ未満、ある実施例では0.5mmまたはそれ未満、他の実施例では0.01〜2mmである少なくとも一つの寸法を有する。ミニチャンネルとマイクロチャンネルとは一般には上述した寸法を有するが、幾つかの好ましい実施例ではマイクロチャンネルは直径がDh<2mm(Dhは水力直径)、ミニチャンネルは同2〜10mmのものとして夫々定義される。
【背景技術】
【0002】
パーシャル沸騰の原理:
沸騰は、表面積や容積に基づいて高い熱フラックスを提供する非常に有効な熱伝達メカニズムとして知られている。沸騰には、低クオリティ蒸気流れ、核沸騰、膜沸騰、遷移沸騰、を含む幾つかの異なる形態があり、核沸騰は主に工業用途で使用されている。沸騰は、流体流れ(流動沸騰)及び流体プール(プール沸騰)の伝熱面位置で、または流体容積(減圧沸騰)内で生じる。流動沸騰は、流体の相変化を介し、そうした相変化の間に流体内に等温ヒートシンクを生じさせ得る。流動沸騰では対流伝熱係数は非常に高くなり得るので、等温流体との組み合わせ効果で伝熱壁面は流動方向に沿って疑似的に一定温度に維持される。この伝熱状況は多くの熱プロセス、核プロセス、化学プロセスの各用途にとって望ましいものである。
【0003】
発熱性化学反応のような多くの化学プロセスでは、反応速度は局所温度に大きく依存する。反応体域全体が最適温度であれば、収率、転換が最大化され、所望の選択性が得られることも多くなる。従って、沸騰伝熱は、種々の反応での、単数あるいは複数の発熱性反応による放熱がなされる等温的な熱状況を維持するためのプロセス制御または熱管理において使用される。沸騰プロセス制御と比較した場合、単相流体対流を介した冷却システムでは、一般に、流れを一定温度に保ち且つ対流熱フラックスを増大させる上で必要とされる大きな流量を用いることなく近等温境界状況を実現することはできない。
【0004】
かくして、マイクロチャンネル内沸騰は、以下の問題を含む、仮想のまたは現実的な技術上の様々な問題があることから、マイクロチャンネル化学反応プロセスの温度管理や温度制御では使用されていない。
(1)マイクロチャンネル内での流動沸騰は、蒸気泡がチャンネル直径よりも小さく且つチャンネル壁が液体によって全体的に良好に湿潤化される通常の流動チャンネルにおけるそれとは異なる流動パターンに関連付けされる。通常、マイクロチャンネルの水力直径は蒸気泡の直径よりも小さいので、蒸気及び液体の各層が毛管現象によってマイクロチャンネルの決まった位置を連続流動する(図1)点。
(2)気泡流れ及び環状流れのようなその他の所望の流動パターンは、極めて狭い範囲の流動パラメータまたは限定的な運転条件においてのみ発生可能であるかまたは発生しない点。
(3)蒸気層が存在することで、チャンネル壁に局所的なホットスポットが生じ、それが蒸気と壁面との間の伝熱量を低下させ、その結果温度が非一様化される点。
(4)蒸気層が存在することで、マイクロチャンネル内の流動沸騰時に流れ及び圧力に厳しい変動が生じ得、そうした変動が生じると冷却システムが直ちに不安定化する点。
(5)蒸発による伝熱係数と単一蒸気層対流による伝熱係数との差が大きいので、低熱量時においてさえ伝熱上の危機が生じ得る点。この点は、伝熱を非一様化する極めて低い臨界熱フラックス(CHF)により特徴付けられる(図1)。
(6)所望のプロセス処理能力上、通常は多数の一体化したマイクロチャンネルが必要とされるので、2相流を使用するマイクロチャンネル配列では流量配分やマニホルド操作が困難な点。
【0005】
本発明の方法によれば、マイクロチャンネル内流動沸騰を単位操作に組み込み、発熱性反応のための安定した等温境界状況を実現するために利用することが可能となる。
用語“平衡クオリティ(equilibrium quality)Xeq”はクオリティとしても知られており、または“X”は以下の式(1)のように定義される。

ここで、
z[m]は水の流動方向におけるチャンネル入口からの距離(m)。
q”[W/m2]はチャンネル壁の平均熱フラックス。
P[m]は、流動方向と直交する方向でのチャンネルの周辺長。
A[m2]は、流動方向と直交する方向でのチャンネルの断面積。
G[kg/m2/s]は、流動方向と直交する方向での、チャンネル断面を通るマスフラックス。
fg[j/kg]は、蒸発潜熱、である。
式(1)では次のように仮定する。即ち、
1)Xeq=0の時の核沸騰開始(ONB)はチャンネルの丁度入口の位置であること。実際はチャンネル入口位置では水流れは非凝縮性ガスにより若干過冷却されるので、Xeq=0の位置は、zを流れ方向とし且つz=L(Lは沸騰マイクロチャンネル長さ)をマイクロチャンネルの終端を表すものとした場合にz=0の位置とはならず、他方、チャンネル入口位置での水流れが、チャンネルに入る前に水温維持のために予備加熱されることから過熱(Xeq>0)されてもいる。
2)チャンネル壁の過熱温度Tw−Tsatは、マイクロチャンネルの最初の5%の長さ部分として定義される入口付近で沸騰を開始させるに十分な大きさである。
3)q”はチャンネル周囲及び流動方向に沿って一定である。
【0006】
対流流れの局所クオリティは、チャンネル内の圧力損失を推定する上で必要であり、チャンネル長さに沿ったボイド率及び蒸気クオリティの変動が分かれば、Lockhart及びMartinelliの分離流れモデルを用いてチャンネル内での2相流の圧力損失を算出することができる(Lockhart, R.W.及びMartinelli, R.C.,の“Proposed Correlation of Data for Isothermal Two-Phase, Two-Component Flow in Pipes” 1949年のChemical Engineering Progress 45(1)の第39-48頁)。以下の式(2)は、沸騰の各項目を使用して圧力損失を摩擦損失と加速度に分解するものである。

Dh[m]は、チャンネルの水力直径。
lo[−]は、全マスフラックスが液体である場合のチャンネルの摩擦係数。
l[−]は、マスフラックスがG(1−X)の液体である場合のチャンネルの摩擦係数。
ρv[kg/m3]は、蒸気相密度。
ρl[kg/m3]は、液相密度、である。
【0007】
式(2)中の未定義の各項は、蒸気単相流の圧力勾配に対する液単相流の圧力勾配を定義するMartinelliパラメータχを必要とする。

ここで、pは局所静圧であり、式(2)中のαの、大型管内の乱流流れに対する相関は以下の式(4)で表される。

2相流摩擦損失乗数φ2laの値は、以下の式(5)に表されるように単相流摩擦損失乗数φ2l、摩擦係数及び局所クオリティ、に依存する。

単相流の摩擦損失乗数は以下のMartinelli-Nelson相関式(6)の如く表される。

式(6)の項Cの値は、気液の各流れ形態に依存して下記の如きとなる。
20(液体乱流、気体乱流)
12(液体−粘性、気体−乱流)
5(液体−粘性、気体−粘性)
Lee(2001)は、Dhが〜0.8mmまでのマイクロチャンネルでの係数Cの相関を式(7)の如く示唆した。

【0008】
ここで、“限界熱フラックス”又はCHFとは、伝熱メカニズムが沸騰から蒸気対流に変化することに基づく、壁面温度が維持され得ない局所的な熱フラックスのことである。壁面温度が維持されなくなることで局所ホットスポットが形成される。図9には代表的な沸騰曲線が示され、垂直軸の熱フラックスと、壁面温度(Tw)及び飽和流体温度(Ts)の温度差とが示される。温度差範囲の少ない部分では単相流伝熱であり、熱フラックスは小さい。核沸騰が開始され、温度差が若干拡大して熱フラックスが増大する閾値温度差が存在する。温度差が拡大し、伝熱率によって核/気泡流が局所的にドライアウトし、気相抵抗が伝熱熱量を支配するようになるとCHFが生じる。CHFはドライアウト前に生じる。
【0009】
水力直径が大きい場合に発生するCHFはかなり特徴がある。飽和流体でのCHFは一般に以下の作用の関数である。
1)流量:CHFは入口条件及び入口形状が一定の場合に流量が増大すると大きくなる。
2)圧力:圧力が周囲圧力以上に増大するとCHFは局所最大値にまで増大し、圧力増大に伴って徐々に減少する。
3)チャンネルサイズ:CHFはチャンネルサイズが増大すると増大する。
4)チャンネル長さ:CHFはチャンネルが長いと減少する。
5)蒸気クオリティ:蒸気クオリティXが高いとCHFは減少する。
チャンネルサイズと蒸気クオリティとは飽和沸騰での壁面の平均熱フラックスに関係し、かくして、高いプロセス熱フラックス(平均値での)は、高蒸気発生率及び高蒸気蓄積量とを介して急速に局所CHFに近づく。
【0010】
ボイリング数Boは、マスフラックス及び蒸発潜熱とを伴う無次元の熱フラックスである。

キャピラリー数Caは、表面張力と粘性力との比である。

ここで、
μ[kg/m/s]は、液体粘度。
ρ[kg/m3]は、液体密度。
σ[N/m]は、液体の表面張力、である。
ウェーバー数は慣性力と表面張力との比である。

【0011】
これまで研究された飽和流動沸騰における限界熱フラックスは、マイクロチャンネルよりも大きなチャンネルについてのものであり、例えばKatto及びOhnoの研究がある(1984年のKatto,Y.及びOhno,H.,Int.J.Heat Mass Transfer, v.26(8)の第1641〜1648頁)。

ekはチャンネル長さの長さスケールを使用する、長さをベースとするウェーバー数である。

ここで、
q”co1<q”co2の場合、q”co=q”co1であり、
q”co1>q”co2の場合、
q”co2<q”co3であればq”co=q”co2
q”co2>q”co3であればq”co=q”co3であり、
k1>Kk2の場合、Kk=Kk1
k1Kk2の場合、Kk=Kk2である。

飽和流動沸騰q”critはq”coに等しい。
SR数は以下の式(15)の如く定義される。

ここで、
Boは、無次元量のボイリング数である。
wallmaxは、ボイリングセクションを包囲する壁面の最大温度である。(K)
satは、所定の圧力及び組成の流体の飽和温度である。(K)
hは、沸騰を生じるチャンネルの水力直径である。(mm)
Lは、沸騰を生じる部分でのチャンネルの長さである。(mm)
壁面温度と飽和温度との差は過熱温度として定義される。
【0012】
局所熱フラックスがチャンネル毎に変化するマイクロチャンネルの整列マトリクスでは先に説明した問題はより大きくなる。連結されたチャンネルからなるマトリクスに渡る熱フラックスプロファイルが変化する可能性のある単位操作には、これに限定しないが、発熱性の化学反応、触媒又は均質的な蒸留塔除熱、吸収又は吸着システムでの脱着ステージ、発熱性の混合プロセスその他、が含まれる。熱フラックスは、マイクロチャンネルが別の単位操作のチャンネルの方向に対する交差流れと整列するとそのプロファイルが変化し得る。チャンネルの熱フラックスが変化する状況下では、チャンネル内の熱フラックスの大きい流れを増やし、熱フラックスの小さい流れを少なくして対流沸騰を維持させる必要が生じ得る。
【0013】
従来技術:
発行された文献にはマイクロチャンネル沸騰の利点に関する共通見解は示されていない。
沸騰形態及び伝熱メカニズム:
ある研究者は、マイクロチャンネル沸騰はユニークであり且つマクロスケールでの相当物のそれに勝る潜在的利益を有するものであることを示唆している。例えば、Kandikar(2002)は、水力直径が3mm未満のチャンネル内での流動沸騰を評論し、その中で、“一般に、ミニチャンネル内での流動沸騰中に3つの流れパターン、即ち、孤立気泡流れ、気泡閉じ込み流れ又はプラグ/スラグ流れ、環状流れ、が発生し”、そして“各相の層間での表面張力作用は最終的な沸騰流動形態を決定する上で極めて重要であり、10〜20ミクロンもの小ささの核生成気泡が生じることが確認された。”と述べている。
【0014】
伝熱作用の観点からは分離気泡は最も望ましいものである。Chedester及びGhiaasiaan(2002)は、マイクロチャンネル内での気泡核生成及び発生は大型のチャンネル相当物でのそれとは根本的に異なるという見解を支持するデータと理論的分析を引用している。サブクール沸騰では、マイクロチャンネルの壁面付近での速度勾配及び温度勾配は非常に大きく、サブクール沸騰又は飽和沸騰により生成する気泡は極めて小さいものであり得る。生成気泡が非常に小さい場合、核沸騰開始点(ONB)、有意ボイド発生点(OSV)、核沸騰限界(例えば、膜沸騰)を含む様々なサブクール沸騰プロセスに大きな影響がある。
【0015】
同じくGhiaasiaan及びChedester(2002)は、マイクロチャンネル内で生じる沸騰は、壁面キャビティでの微小気泡形成を抑制する傾向のある熱毛管力により制御され得るという仮説も提示している。仮にこの仮説が正しいとすると、核沸騰による蒸発潜熱によって著しく増長されるところのマイクロチャンネル内での伝熱作用は、実際は従来サイズのチャンネルにおけるそれよりも低下するはずである。Ghiaasiaan及びChedesterらの研究では、沸騰伝熱のためのマクロスケールモデル並びにその相関は、マイクロチューブ(0.1〜1mmの範囲の直径を有するものとして定義される)内で沸騰が開始されるために必要な熱フラックスが過小予測されているようである。彼らは実験を全乱流形態下に実施したが、殆どの実際のマイクロチャンネル用途は層流形態下に実施されるのである。
【0016】
Haybes及びFletcher(2003)は、小直径の平滑銅管内で選択した冷媒におけるサブクール流れの沸騰伝熱の研究実験を説明している。調査したパラメータ範囲は以下の通り、即ち、管直径が0.92及び1.95mm、熱フラックスが11〜170kW/m2、合計マスフラックスが110〜1840kg/(m2-s)、の如きであった。更には、液体の、データセットに含まれるレイノルズ数は450〜12000であった。この研究では、対流が核沸騰限界点(term)を抑制することや核生成が、層流や移行流においてさえも対流限界点を増長させる証拠は得られなかった。しかしながら、特に層流は未知のメカニズムによって増長される傾向があるとした。
【0017】
Prodanovic他(2002)は、その実験研究において気泡擾乱が核沸騰における主要な伝熱モデルであるとしている。気泡擾乱は、加熱されたチャンネル表面から気泡が離脱するに従い消滅する。
Lee他(2004)は、水力直径が41.3ミクロンの単一の台形マイクロチャンネル内での気泡動力学の実験を行った結果、マイクロチャンネル内での気泡核生成は0.13〜7.08ミクロン/ミリ秒の一定速度で成長することが示され、72.8〜95.2ミクロン/ミリ秒といった非常に速い成長を示す場合もあったとした。マイクロチャンネル壁から脱離する気泡のサイズは、バルク流れの表面張力及び流れ抵抗(壁面の剪断応力とは逆方向の)によって支配され、修正Levy式と良く相関し得ることが分かった。彼らは、マイクロチャンネルにおける気泡発生頻度は通常サイズのチャンネルにおけるそれに匹敵するものであるとも主張している。
【0018】
Thome(2004)は、マイクロチャンネル沸騰における最近の研究の、マイクロチャンネル内蒸発に関する実験及び理論を論評し、最も優勢な流れ形態は細長気泡モードであると思われるとし、この形態が、マイクロチャンネル内での60〜70%もの高い蒸気クオリティまで持続され得、その後、環状流れ形態となると主張し、また、伝熱メカニズムは、核沸騰や乱流対流ではなく、一時的な液膜蒸発によって制御されるとも主張した。流動沸騰伝熱係数は、ある研究によれば、プール核沸騰伝熱と同じように、熱フラックス及び飽和圧力にほぼ排他的に依存し、質量速度や蒸気クオリティに対する依存性は僅かであることが示された。しかしながら、より最近の試験によれば、質量速度や蒸気クオリティには、沸騰伝熱がスラグ流れ又は液膜沸騰により制御されると言う仮説を支持する作用があることが実証された。
【0019】
流れの安定化:
マイクロチャンネル内の沸騰流れの安定化は非常に関心の高い問題であるが、沸騰流れの不安定化開始に関する包括的な理論が未だ無いので、その研究は主に、流れ圧力の変動及び可視化を通して行われている。不安定流れに対する伝熱効率は、不安定な流れパターン、膜沸騰や逆流の形成、流れ分布の低下、を含む数多くの要因によりずっと悪くなる。この問題に関して既存の文献に示された従来技術には以下のものがある。
Brutin他(2003)は、狭隘な矩形マイクロチャンネル内での対流沸騰における2相流れの不安定性を調査した。マイクロチャンネルは水力直径が889ミクロン、チャンネル長さは200mmであった。実験はマスフラックス240kg/(m2−s)、熱フラックス範囲3.3〜9.6W/m2の下で実施されたが、この全条件下に蒸気スラグが形成され、形成された蒸気スラグが2相流を阻止し且つ流れ入口に押し戻した。この実験報告によると、流れ圧力が1kPa未満で且つ固有振動周波数比(ピーク振幅対ノイズ振幅)が20未満であることが変動幅の小さい安定流れの基準であることが立証されたとしている。
【0020】
Wu他(2004)は、色々な熱フラックス及びマスフラックス値においてマイクロチャンネルを流動する水に関する、異なる沸騰安定モードを研究する一連の実験を行った。実験では水力直径186ミクロン、長さ30mm、断面が同じ台形のシリコン製の8本のマイクロチャンネルを使用したが、壁面の熱フラックスが13.5から22.6W/cm2に増大し、時間平均での水のマスフラックスが14.6から11.2g/cm2−sに減少したときマイクロチャンネル内に以下に示す3種類の非安定沸騰モードが観察されたとした。
1.低熱フラックス及び高マスフラックス時の液体/2相交互流(LTAF)
2.中熱フラックス及び中マスフラックス時の連続2相流(CTF)
3.高熱フラックス及び低マスフラックス時の液体/2相/蒸気交互流(LTVAF)
一般に、LTFは熱フラックスが小さく(13.5〜16.6W/cm2)、平均マスフラックスが大きい(14.6〜12.7g/m2−s)と発生し、CTFは熱フラックスが中程度(18.8W/cm2)、平均マスフラックスが中程度(11.9g/m2−s)であると発生し、LTVAFは熱フラックスが大きく(22.6W/cm2)、平均マスフラックスが小さい(11.2g/m2−s)と発生し、3つの不安定沸騰モードの中ではLTVAFにおける変動幅が最も大きく、圧力及びマスフラックスの振幅は位相が異なっていた。
【0021】
L/DH値:
マイクロチャンネルの全実験はある一定のジオメトリーにおいて実施されたが、これらの装置での伝熱性能を集計する目的上、代表的にはチャンネル長さを水力直径で除算した長さ対直径比L/DHが有益な測定基準となることが分かった。大抵の従来技術文献では実験で使用したチャンネルの長さは明確に報告されていないが、チャンネル長さが明記されるL/DHには以下のものがある。
Brutin他(2003):L/DH=100及び250(“流れの安定化”と題した先の説明を参照されたい)
Wu他(2004):L/DH=161(“流れの安定化”と題した先の説明を参照されたい)
Lee他(2003):浅く、ほぼ矩形のマイクロチャンネルからなる一体型のマイクロチャンネルヒートシンクを使用して、マイクロシステムの放出流パターン及び熱的性能に関するマイクロメーターサイズのチャンネル形状の作用を研究し、実験装置では直径DHが同じ24ミクロン、合計全長が19mm、従ってL/DH=792である複数のチャンネルを使用した。局所的な核生成と孤立気泡生成とは無視し得ることが分かった。入力電力に応じた平均位置を取る、上流側の蒸気帯域を下流側の液体帯域に繋ぐ不安定移行領域が支配的な流れパターンとされた。
【0022】
Warrier他(2002):単相強制対流と、サブクール核沸騰及び飽和核沸騰との両実験を、試験流体としてFC−84を使用し、小型の矩形チャンネルを用いて行った。試験セクションは5本の平行チャンネルから構成され、各チャンネルは水力直径DHが0.75mm、長さ対直径の比は409.8であった。実験は、各チャンネルを水平にし、その上部及び底部の各表面に熱フラックスを一様に加える状態下に実施された。実験中に変動するパラメーターには、質量流量、入口液体のサブクール化、熱フラックスが含まれた。サブクール流及び飽和流の沸騰伝熱に対する新規な伝熱相関が生成された。
Pettersen(2004):直径0.8mm、長さ0.5m(L/DH=625)のマイクロチューブ内で液体CO2を蒸発させ、温度範囲0〜25℃、マスフラックス190〜570kg/(m2−s)、熱フラックス5−20kW/m2における蒸気フラクション変動下における伝熱及び圧力損失を測定した。伝熱は、ドライアウト、特に高マスフラックス及び高温時のドライアウトの影響が大きいことが示された。流れの観察によれば、マスフラックスが大きいとエントレインメント(entrainment:単位長さあたりの境界層内流量の増加量)が増大し、環状流(スラグ流れ及び液膜沸騰)が支配的となることが示された。
【0023】
沸騰を増強する工学的機能構造部分:
マイクロチャンネルの沸騰伝熱特性は、マイクロチャンネルの壁面に多孔性コーティング又はある種の工学的多孔性あるいは溝構造を付与することによっても増強され得る。例えば、Ammeman及びYou(2001)らは、幅2mm、長さ8cmのチャンネルに多孔性コーティングを施して行った実験に関し、寸法形状及び流れのマスフラックスが、同じチャンネルでコーティングした場合としなかった場合とでの対流沸騰の伝熱特性を比較し、コーティングしたマイクロチャンネルでは伝熱係数が増大するのみならず、受け入れ可能な限界熱フラックスが増大したと説明している。
Honda及びWei(2004)らは、表面マイクロ構造を使用して、誘電性液体に浸漬した電子部品からの沸騰伝熱を増長させる研究についての報告を行った。開発されたマイクロ構造には、サンドブラスト、SiO2層をスパッタリングし、次いでその表面をウェットエッチングすること、SiO2層等の化学気相成長法、などにより創出させた粗面、ブラシ状構造(樹枝状ヒートシンク)、レーザー削孔キャビティ、凹形キャビティ、マイクロフィン、アルミナ粒噴霧、銀薄片又はダイヤモンド粒塗布、穿孔を有するヒートシンクスタッド、マイクロフィン及びマイクロチャンネル、ピンフィン、が含まれる。この研究は、初期過熱を緩和させ、核沸騰伝熱を増長させ、限界熱フラックスを増大させることを主な目的としており、その研究結果は以下の通りであった。
【0024】
1.複雑な微小粗さ、微小凹隙、そして多孔質構造は沸騰初期過熱を低減させるのに有効である。しかしながら、微小凹隙はチャンネル面がサブクールされるとき液体で充填される傾向がある。沸騰初期過熱が表面微少孔増によって低減されるメカニズムはよく分からない。
2.表面粗化部は核沸騰助成に有効である。しかしながら、伝熱増長への表面粗さパラメータε/DHの直接的関連付けは成し得ておらず、SiO2膜の堆積(マイクロチップ用途における如き)により創出される表面粗さが、限界熱フラックスを増大させる上で有効であることを見出した。
3.表面キャビティは、核沸騰を増長させ、限界熱フラックスを増大させる上で有効である。表面キャビティ口径範囲deqが1.6〜9ミクロンである時は、deqが大きいキャビティほど、気泡核生成を発生させる上で、より有効であることが分かった。
4.微孔質構造は核沸騰を増長させるには最も有効である。しかしながら、微孔質面の沸騰曲線の勾配は、高熱フラックス領域では急激に降下し、CHFポイント位置での壁面過熱温度は特定のマイクロチップ用途での受け入れ可能な最大温度よりも高くなる。
5.研究者等は、限界熱フラックスqCHFを増大させるにはマイクロピン−フィンが最も有効であることを見出した。マイクロピン−フィン付き表面の沸騰曲線はΔTsat(ΔTsat=壁面過熱温度=Twall−Tsat)が高くなると急激に上昇することが示された。qCHFは、ΔTsub(ΔTsub=液体サブクール=Tsat−Tboil)が増大するに従い単調に増加する。qCHFを最大化する最適フィン間隔はΔTsubが増大するに従い小さくなる。
6.表面微小構造は、円滑表面におけるよりも長い時間、成長する気泡をその表面上で保持する作用がある。これは、表面微小構造によって高い伝熱性を得るための重要な要因であると考えられる。
7.最高性能は、先端が水平上方を向いている場合に得られた。研究者等は傾斜角度に対するqCHFの関係を数式化した。
【0025】
研究者等は、マイクロチップ用途での、チャンネルの壁面粗さに基づくqCHF増大の定量的測定値を32.5%及び48%とした。これらの結果は表面粗さの値が1.1nmである基準表面と比較して、表面粗さの平均値が各1.1、18.7、309.3nmである表面について得られたものである。更には、研究者等は、多孔質空隙の孔直径が等しく且つ多孔質性で且つ工学的なピン−フィンデザインにおける種々の値についての沸騰曲線を生成した。所定の壁面過熱温度における熱フラックスは、最も円滑な表面、チップS(ε=1.1nm)に比較し得る増大を示し、また、対流沸騰は、完全に円滑な表面(ε=0)であると仮定した場合のそれであると予測された。
Ramswamy他(2002)は、ウェハーダイシングとウェットエッチングを使用して、10mm×10mmのシリコンウェハーピース上に相互連結したネットを作製したマイクロチャンネル内での表面増強沸騰の研究について述べている。作製した構造物は、マイクロチャンネルを液体プール内に連通する孔を有し、孔の直径は0.12〜0.20mmにおいて、また孔ピッチは0.7〜1.4mmにおいて変化された。システム圧力を1気圧に維持し且つ壁面過熱温度を12Kに増大させるデータが収集された。研究結果は以下のようなものであった。
【0026】
低〜中範囲での壁面過熱温度(4〜12℃)では沸騰は孤立気泡形態で生じた。壁面過熱温度が上昇すると蒸気泡合体が始まり、結局大きな蒸気泡が形成されるようになった。蒸気泡合体減少は孔ピッチによってある程度制御された。
1.離脱蒸気泡径は、孔サイズ(同一の壁面過熱温度に対しての)が増大すると共に増大した。研究者等は、孔ピッチの影響は極めて小さかったことを報告している。特定の孔サイズについては蒸気泡離脱/分離直径は壁面過熱温度の上昇に伴い増大した。
2.蒸気泡発生頻度は壁面過熱温度の上昇に伴い僅かに増大した。中間壁面過熱温度(およそ12℃)では蒸気泡発生頻度は減少傾向を示し、孔ピッチ及び孔径が増大すると減少した。
3.研究者等は、沸騰核密度は壁面過熱温度(全ての構造体についての)の上昇に伴い上昇したことを報告している。孔ピッチが大きいと孔数減少により、蒸気泡発生量は減少した。孔サイズは、蒸気泡発生数が増大する一つの構造体を除き、その影響は無視し得るものであった。研究者等は、沸騰核密度はトンネル内の蒸発容積と蒸気泡の平均脱離直径との関数であり、これら2つのパラメーターが孔サイズの変化と相互作用することで変化すると主張する。
【0027】
壁面過熱温度:
水力直径が小さいと層流のレイノルズ数は代表的には100〜1000の範囲において低下する。そうした低レイノルズ数流れでは、2相マイクロチャンネル用途において良好な伝熱特性を実現するためには核沸騰が一般に必要とされる。しかしながら、壁面過熱温度が大きいとマイクロチャンネル内での核沸騰を“オーバーシュート”、つまり過度に急速に蒸発させる必要がしばしば生じ、結局は、蒸気泡合体、スラグ流れ、そして種々の不安定流れ形態を招くことになり得る。沸騰オーバーシュートを制御する一つの手段は、核沸騰が可能な壁面過熱温度ΔTsat=Twall−Tsat(しばしばΔTsupとして示される)をできるだけ低く維持することである。
Kandlikar(2004)は、チャンネル内での、チャンネル入口位置のサブクール液入口からチャンネル出口位置までの気液混合流れの流動沸騰に関する議論の中で、流体がマイクロチャンネルを通して流動するに従い、所定の流れ状況下で特定範囲内の寸法を有する空隙部分で核沸騰を生じるが、空隙がその範囲の全寸法においてチャンネル壁面に生成すると仮定すると、核沸騰のために必要な壁面過熱温度は、サブクール温度差が同じゼロであると仮定するHsu及びGraham(1961)及び、Sato及びMatsumura(1964)による以下の式(16)で表せ得るとしている。

直径1mm以上のチャンネルの場合は式(16)による壁面過熱温度は非常に低くなることが予測されるが、チャンネルの水力直径が小さくなる程、核沸騰開始に要する壁面過熱温度は高くなる。例えば、水力直径200ミクロンのチャンネルでは核沸騰は壁面過熱温度が2℃にならないと開始されない。
【0028】
水力直径が50ミクロン未満のチャンネルでは壁面過熱温度は水の場合は10℃以上、冷媒では2〜3℃であることが条件となる。水力直径が10ミクロンより小さいチャンネルでの流動沸騰では核沸騰を生じさせるのは非常に困難となる。
壁面過熱温度が、チャンネル壁面上に核沸騰キャビティを生じさせるために必要な温度を超えるとマイクロチャンネル内で核沸騰が開始される。適宜寸法の気泡核が存在しないと気泡核生成は遅くなる。核沸騰は、例えば、鋭角角部、流体振動、溶解ガス、などのその他の要因によってもその挙動に影響が出る。夫々大気圧条件下においてR−134a及び水を使用する場合、水力直径が50〜100ミクロン未満のチャンネルの場合に必要な壁面過熱温度は2〜10℃になると考えられる。
【0029】
先の式(16)を用いて全ての壁面過熱温度を推定する場合、この式は従来のチャンネル沸騰伝熱相関に基づくことを考慮することが重要である。式(16)は、マイクロチャンネル内での沸騰現象の研究に関する全ての文献に先立って参照されており、従って、マイクロチャンネルの壁面過熱温度を予測するために適しているとは言えないのである。
Peng他(1997)は、図3に例示する如く、水力直径が同じである場合に壁面過熱温度が高くなる場合の研究結果について説明し、その中で、マイクロチャンネル内で核沸騰を発生させるのは、流体が高度に非平衡な状態にあり且つ熱エネルギーの吸収及び移送能力が非常に大きいことをも前提とした上で、従来サイズのチャンネルよりも遙かに困難であると主張した。
Ramaswamy他(2002)は、沸騰を増長させるための工学的機能構造部分を有するマイクロチャンネル内での、壁面過熱温度に対する平均熱フラックスの実験結果について説明し、水力直径が0.134mm〜0.287mmに変化する場合、壁面過熱温度は4.5℃での約4W/cm2から同13℃での約19W/cm2の範囲であったとしている。Honda及びWei(2004)らは、工学的機能構造部分を持つ壁面での所定の壁面過熱温度に対する平均熱フラックスを測定した。図4にはマイクロピン−フィン付きチップの沸騰曲線におけるフィン厚さ及びフィン高さの組み合わせ作用が示される。比較上、その他のチップデザイン(チップSOktay及びSchmekenbecher,O'Connor他、及び、Anderson及びMudawar)も示される。図4ではチップPFa−h(a=30及び50、h=60〜270)が、ミクロン厚及びミクロン高さの四角形のh枚のピンフィンを設けたマイクロピン−フィン付きチップを表している。フィン間隔はフィン厚と同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】米国特許出願公開番号第2004/0182551号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開番号第2004/104012号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開番号第2004/0082804号明細書
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】Ammermann, CN. and S. M. You, 2001 ,“Enhancing Small-Channel Convective Boiling Performance Using a Microporous Surface Coating,”Journal of Heal Transfer 123(5), 976-983.
【非特許文献2】Brutin, D., F. Topin, and L. Tadrist, 2003,“Experimental study of unsteady convective boiling in heated minichannels,”International Journal of Heat and Mass Transfer 46, 2957-2965.
【非特許文献3】Chedester, R. C. and S. M. Ghiaasiaan, 2002,“A proposed mechanism for hydrodynamically- controlled onset of significant void in microtubes,”International Journal of Heat and Fluid Flow 23, 769-775.
【非特許文献4】Ghiaasiaan, S. M. and R. C. Chedester, (2002),“Boiling incipience in icrochannels,”International Journal of Heat and Mass Transfer 45, 4599-4606.
【非特許文献5】Honda, H and J.J. Wei, 2004,“Enhanced boiling heat transfer from electronic components by use of surface microstructures,”Experimental Thermal and Fluid Science 28, 159-169.
【非特許文献6】Hus, Y.Y., and Graham,R.W.,1961,“An Analytical and Experimental Study of the Thermal Boundary Layer and Ebullition Cycle in Nucleate Boiling,”NASA TN-D594.
【非特許文献7】Kandlikar,S.G.,2002.“Fundamental issues related to flow boiling in minichannels and microchannels,”Experimental Thermal and Fluid Science 26(2002)389-407.
【非特許文献8】Kandlikar, S. G., 2004.“Heat Transfer Mechanisms During Flow Boiling in Microchannels,”Transactions of the ASME. Vol 126, February 2004.
【非特許文献9】Lockhart, R. W. and Martinelli. R. C,“Proposed Correlation of Data for Isothermal Two-Phase, Two-Component Flow in Pipes”, Chemical Engineering Progress 45( 1 ), pp.39-48, 1949.
【非特許文献10】Lee,M.,Y.Y.Wong,M.Wong,and Y.Zohar,2003,“Size and shape effects on two-phase flow patterns in microchannel forced convection boiling,” Journal OF Micromechanics and Microengineering 13, 155-164.
【非特許文献11】Lee, P.C.,F.G.,Tseng,and Chin Pan, 2004,“Bubble dynamics in microchannels. Part 1:single microchannel,”International Journal of Heat and Mass Transfer 47,5575-5589.
【非特許文献12】Peng,X.F.,H.Y.Hu, and B.X.Wang,1998,“Boiling Nucleation during liquid flow in microchannels,”International Journal of Heat and Mass Transfer 41(l), 101-106.
【非特許文献13】Pettersen, J., 2004,“Flow vaporization of CO2 in microchannel tubes.”Experimental Thermal and Fluid Science 28, 111-121.
【非特許文献14】Ramaswamy. C, Y. Joshi, W. Nakayama, and W. B. Johnson, 2002,“High-speed visualization of boiling from an enhanced structure.”International Journal of Heat and Mass Transfer 45, 4761-4771.
【非特許文献15】Sato, T., and Matsumura, H., 1964,“On the Conditions of Incipient Subcooled Boiling with Forced Convection.”Bull, JSME, 7(26), pp.392-398.
【非特許文献16】Thome, J. R., 2004,“Boiling in microchannels: a review of experiment and theory,”International Journal of Heat and Fluid Flow 25, 128-139.
【非特許文献17】Warrier, G. R., V. K. Dhir, and L.A. Momoda, 2002,“Heat transfer and pressure drop in narrow rectangular channels,”Experimental Thermal and Fluid Science 26, 53-64.
【非特許文献18】Wu, H. Y. and P. Cheng. 2003,“An experimental study of convective heat transfer in silicon microchannels with different surface conditions,”International Journal of Heat and Mass Transfer 46, 2547-2556.
【非特許文献19】Wu, H. Y. and P. Cheng, 2004,“Boiling instability in parallel silicon microchannels at different heat flux,”International Journal of Heat and Mass Transfer 47, 3631-3641.
【非特許文献20】High flux boiling in low flow rate, low pressure drop mini-channel and micro-channel heat sinks, Bowers et aL International Journal of Heat and Mass Transfer; Jan. 1994; v.37. No.2, p.321-332. (12 pages) “Forced convection boiling in a microchannel heat sink”.
【非特許文献21】Jiang et al., Journal of Microelectromechanical Systems: Mar. 2001 ; v.10, No. 1 , p.80-87. (8 pages) “Forced convection and flow boiling heat transfer for liquid flowing through microchannels”.
【非特許文献22】Peng et al., International Journal of Heat and Mass Transfer; Sep. 1993; v.36, No.14, pp.3421-2427. (7 pages)
【非特許文献23】Anderson et al.; Microelectronic Cooling by Enhanced Pool Boiling of a Dielectric Fluorocarbon Liquid; 1988.
【非特許文献24】Fujii et al.; Nucleate Pool Boiling Heat Transfer from MicroPoroiis Heating Surface; 1983.
【非特許文献25】Park et al.; Effects of Size of Simulated Microelectronic Chips on Boiling & Critical Heat Flux; 1986.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
マイクロチャンネル内での流動沸騰を単位操作に組み込み、発熱性反応のための安定した等温境界状況を実現するために利用することが可能なプロセス及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
マイクロチャンネル又はミニチャンネル内での液体のパーシャル沸騰はその他の単位操作を制御する上で非常に有用である。マイクロチャンネルはミニチャンネルよりも好ましく且つその結果はミニチャンネルよりも優れ、また従来サイズのチャンネルよりも大幅に優れている。パーシャル沸騰用のマイクロチャンネル又はミニチャンネルは一つの単位操作プロセスチャンネルに隣り合って位置付けされ得、あるいは、一つのパーシャル沸騰用ミニチャンネル又はマイクロチャンネルを2つ、3つ、4つあるいはそれ以上のプロセスチャンネルとして作用させ得る。プロセスチャンネルはマイクロチャンネル(Dh<2mm)又はミニチャンネル(Dhが2〜10mm)であり得る。沸騰のような相変化に対する熱フラックスは単相伝熱流体に対するそれよりもずっと高く、従ってプロセスチャンネル内での発熱率は非常に高くなるので、一体型システムでは生産性全体は高いままに維持される。
【0034】
本発明の冷却材マイクロチャンネルは従来よりパーシャル沸騰用と考えられてきた相当サイズのチャンネルよりも実質的に長い。従来は長いチャンネルは、圧力損失量が大きいことやドライアウトの問題から技術的に問題があると思われていたため、パーシャル沸騰用途には向かないと考えられてきた。驚くべきことに、長いマイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を用いることで、高キャパシティ、受け入れ可能な圧力損失、ドライアウト傾向の無い安定性、を含む優れた結果が得られた。更には、プロセスチャンネル容積に対するマニホルド容積比が小さい方が装置容積の利用度が高かった。
本発明の一様相によれば、発熱性プロセスからの除熱プロセスであって、プロセスチャンネル内で発熱性プロセスを実施すること、プロセスチャンネル内での発熱性プロセスから、隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルへの除熱を実施すること、前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルを通して冷却流体を通し、その際、該隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルの少なくとも15cmの長さ部分に渡り冷却流体をパーシャル沸騰させること、を含む除熱プロセスが提供される。この様相において、隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルは、これらの隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルをプロセスチャンネルから分離するチャンネルの壁面であるところの内壁面を含み、この内壁面における流体の、前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルの長さ少なくとも1cm当たりの平均剪断応力は実測又は計算の何れにおいても少なくとも1パスカル(Pa)である。
【0035】
本発明の別の様相において、発熱性プロセスの冷却プロセスであって、プロセスチャンネル内で発熱性プロセスを実施すること、長さが少なくとも15cmの隣り合うマイクロチャンネルに伝熱することにより該プロセスチャンネルにおける発熱性プロセスを冷却すること、少なくとも0.1m/sの流速で冷却流体を前記隣り合うマイクロチャンネルを通過させて冷却流体をパーシャル沸騰させること、を含み、前記隣り合うマイクロチャンネルが、プロセスチャンネルから該隣り合うマイクロチャンネルを分離するチャンネル壁上の面である内壁面を含み、プロセス中における該内壁面の温度が、マイクロチャンネル内の条件下での該冷却流体の沸騰温度よりも5℃以上は高くない温度において高い冷却プロセスが提供される。
【0036】
種々の実施例において、本発明は以下の特徴、即ち、壁面応力が少なくとも1Pa、10Pa、50Pa又は100Paであること、隣り合う冷却材マイクロチャンネルの全体長さにおけるパーシャル沸騰を生じる長さが少なくとも15cmであること、層流であること、プロセスチャンネルがミニチャンネル又はマイクロチャンネルであること、パーシャル沸騰流体の蒸気泡径が、隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルの間隙よりも小さい(蒸気泡径はチャンネル高さの90%を超えないのが好ましく、75%、50%、20%を越えないことが更に好ましい)こと、隣り合うチャンネルの水力直径が5mmであること、隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネル内の温度が、該チャンネル内のパーシャル沸騰発生領域位置に配置した熱電対で測定したものとしての5℃、3℃、1℃よりは大きくない値において変化すること、隣り合うチャンネルに流入する冷却材が単相流体であること、冷却材温度が、チャンネル内の条件下での沸騰温度よりも少なくとも1℃、より好ましくは少なくとも3℃、5℃、10℃低いこと、パーシャル沸騰を生ずる部分の長さが少なくとも25cm、50cm、100cmであること、隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルがマイクロチャンネルであること、沸騰開始位置における表面の温度が沸騰温度よりも1.5℃又はそれ未満の温度高く且つ隣り合うマイクロチャンネルの水力直径が50〜700μmであること、隣り合うマイクロチャンネルが、1mm又はそれ未満の間隙幅を有する円滑なマイクロチャンネルであり、平均熱フラックスが表面の少なくとも2、好ましくは5、より好ましくは少なくとも10W/cm2であること、冷却材マイクロチャンネル当たりの流量が少なくとも5mL/分であり、チャンネル長さが少なくとも25cmであり、壁面温度がチャンネル条件下での沸騰温度よりも5℃又はそれ未満の温度高いこと、圧力ゲージで測定した値としてのマイクロチャンネル内の圧力振動が規定圧力の5%又はそれ未満であること、冷却流体に界面活性材が加入されること、マイクロチャンネル内での圧力損失量は少なくとも2W/cm2の流束に対して2068.5Pa(0.3psig)/2.5cm未満であること、冷却用のマイクロチャンネルが少なくとも30cm(好ましくは45cm、60cm)において、チャンネル出口位置で圧力ゲージを使用して測定したものとしての圧力損失変動量が5%、3%又は1%を越えないような安定したパーシャル沸騰を生じること、FT反応が、パーシャル沸騰の冷却を伴い、<15%、<12%、<10%、<8%、<5%のメタン選択性が、該選択性が低くなるように温度を良好に制御することにより達成されること、マイクロチャンネル内のパーシャル沸騰流体が、従来は垂直方向流れよりもずっと問題があると考えられていた水平方向流れであること、水平方向の冷却材マイクロチャンネルが垂直方向に積層され、パーシャル沸騰が交差流れ又は向流方向流れ、又は共方向流れ、又は斜行方向流れ、において生じること、流れが、マイクロチャンネルに流入するに先立ってサブマニホルド内で分離されること、操作時に20時間以上冷却材流れが停止してもパーシャル沸騰マイクロチャンネル内の伝熱性能が変化せず、操作中に発熱性プロセスチャンネル内での主たるプロセス流れが2時間以上停止してもパーシャル沸騰マイクロチャンネルにおける伝熱性能が変化しないこと、Fischer-Tropsh反応を含む発熱性の反応が、伝熱チャンネルの入口から出口にかけての沸騰側の温度が<3℃、<1℃において変化すること。冷却材マイクロチャンネルの第1単相伝熱セクションにおける伝熱係数が、パーシャル沸騰の生じる冷却材マイクロチャンネルの第2セクションにおける伝熱係数の<80%、<50%、<25%又は<10%であること、パーシャル沸騰マイクロチャンネルが発熱性の単位操作と組み合わされ、プロセスチャンネルの第1部分における熱フラックス又は負荷が、プロセスチャンネルの第2部分における熱フラックス又は負荷とは実質的に異なること、及び又は、パーシャル沸騰が高圧力下、>ゲージ圧での689500Pa>2.0685E6Pa>3.4475E6Pa(>100psig、>300psig、>500psig)において生じること、を含む各特徴の一つ以上を有し得る。
【0037】
本発明の特徴には以下のものが含まれる。冷却材マイクロチャンネルのアスペクト比は幅対高さ比において少なくとも5、より好ましくは少なくとも10、最も好ましくは少なくとも20である。高さ方向は正味の流れ方向と直交され、幅方向は高さ方向及び長さ方向(チャンネルを通る正味の流れの方向)に直交される。複数のプロセスチャンネル(好ましくは平坦な列を成す)及び冷却チャンネル(同じく好ましくは平坦な列を成し、好ましくはプロセスチャンネル及び冷却材マイクロチャンネルと相互綴じ込みされた)が、プロセスチャンネルに関して交差流れ状況とされる。冷却材マイクロチャンネルは水平方向流れ(流れ部分の長さの少なくとも50%が水平方向の)とされる。冷却材マイクロチャンネルは、可変断面を有し、流体が沸騰しない前方位置に比較的大きな間隙(断面積よりも少なくとも10%大きい)を有し、パーシャル沸騰領域の断面が比較的小さく、端部近辺の断面積が比較的大きい。以下に、多数の平行チャンネルに対する流量配分を説明する。連結用チャンネルの水力直径よりも10%以上、他の好ましい実施例では>20%、>40%、>50%以上大きいオリフィス径(オリフィスは入口領域又は狭隘開口を形成するバリヤ、チャンネルに対する1対1バリヤ)を形成するバリヤが使用される。オリフィスの好ましい長さは、好ましくは少なくとも50マイクロメーターで且つチャンネル長さの90%を超えない長さとされる。TDS>1ppmとなると(チャンネル内流速が速く、他方、ヘッダ内の流量が小さいことによって生じる)パーシャル沸騰用チャンネルのヘッダ又はフッタにファウリングが生じる。第1配分において、平行なマイクロチャンネル列の入口フェースを横断する少なくとも4つ又はそれ以上の帯域に流れが分与され、次いで第2配分において、前記平行なマイクロチャンネル列の少なくとも4つ以上に流れが分与される。
パーシャル沸騰は、液体を蒸発させて気液混合を実現するプロセスとして定義される。
発熱性の反応には、Fisher-Tropsch反応、アルキル化、酸素化又はニトリルのための酸化、二量体化、重合、水素化、水素脱硫、水素化処理、又は水素分解、水素及び酸素を直接組み合わせての過酸化水素化、が含まれる。
発熱性プロセスには、例えば、吸収又は吸着、相転移、発熱性化学反応、のような分離を含む、エネルギー釈放のための単位操作が含まれる。
【0038】
本発明はその種々の様相において、沸騰用流体を含むチャンネル(径10mm又はそれ以下の)に熱を移行させる発熱性プロセスを含み、また、以下のコンセプト又はそれらコンセプトの任意組み合わせを含み得る。
1.隣り合う反応チャンバ内での化学反応を伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
2.隣り合う反応マイクロチャンネル内での化学反応を伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
3.隣り合う反応チャンバ内での化学反応を伴い、反応チャンバの長さ方向に沿っての触媒温度の上昇が30℃未満(もっと好ましくは10℃未満、5℃未満、3℃未満)であり、反応接触時間が300ミリ秒である、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
4.隣り合うプロセスチャンバ内での相変化を含むプロセスを伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
5.隣り合うプロセスマイクロチャンネル内での相変化を含むプロセスを伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
6.隣り合うプロセスマイクロチャンネル内での少なくとも2つの流体成分を含む流体混合物の蒸留を含むプロセスを伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
7.隣り合うプロセスチャンバ内での相変化を含むプロセスを伴い、プロセスチャンバ内における温度上昇が10℃未満である、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
8.隣り合うプロセスチャンバ内での混合プロセスを伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
9.隣り合うプロセスマイクロチャンネル内での混合プロセスを伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
10.隣り合うプロセスチャンバ内での混合プロセスを伴い、混合チャンバ内における温度上昇が5℃未満である、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
11.隣り合うプロセスチャンバ内での擾乱プロセスを伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
12.隣り合うプロセスマイクロチャンネル内での擾乱プロセスを伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
13.隣り合うプロセスチャンバ内での擾乱プロセスを伴い、混合チャンバ内での温度上昇が10℃未満である、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
14.隣り合うプロセスチャンバ内での吸着プロセスを伴い、混合チャンバ内での温度上昇が10℃未満であり、熱スゥイング吸着のためのサイクルタイムの少なくとも80%に渡る温度範囲が5℃又はそれ未満であり、脱着時間の少なくとも80%に渡る温度範囲が5℃又はそれ未満である、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
15.>10のチャンネルと、流れ分与クオリティファクターが<20%、より好ましくは10%未満、尚好ましくは5%未満である、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰プロセス。
16.隣り合うチャンバ内での吸着プロセスを伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
17.隣り合うマイクロチャンネル内での吸着プロセスを伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を含むプロセス。
【0039】
本発明はその種々の様相において、溶解固形物を有するパーシャル沸騰流体(例えば水道水)を含むマイクロチャンネルに熱を伝達する発熱性プロセスを含み、また、以下に述べるコンセプト又はその任意の組み合わせを含み得る。
1)熱交換器効率が、サイクル前後と比較して、>0.01ppmTDS沸騰流体<15ppmの範囲で2%未満において変化する3つ以上のサイクルを伴う、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰プロセス。
2)隣り合うプロセスマイクロチャンネルでの出口温度が5%又はそれ未満(好ましくは2%又はそれ未満)において変化する状態での、0.01ppm>TDS沸騰流体<5ppmの範囲における、少なくとも1000時間に渡る、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰プロセス。
3)隣り合うプロセスマイクロチャンネルでの出口温度が5%又はそれ未満(好ましくは2%又はそれ未満)において変化する状態での、0.01ppm>TDS沸騰流体<1ppmの範囲における、少なくとも1000時間に渡る、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰プロセス。
4)隣り合うプロセスマイクロチャンネルの出口温度が5%又はそれ未満(好ましくは2%又はそれ未満)において変化する状態での、0.01ppm>TDS沸騰流体<15ppmの範囲における、少なくとも100時間に渡るマイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰プロセス。
5)隣り合うプロセスマイクロチャンネルの出口温度が5%又はそれ未満(好ましくは2%又はそれ未満)において変化する状態での、P>ゲージ圧での689500Pa(100psig)における、少なくとも1000時間に渡るマイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰プロセス。
6)隣り合うプロセスマイクロチャンネルの出口温度が5%又はそれ未満(好ましくは2%又はそれ未満)において変化する状態での、<50%における、少なくとも1000時間に渡るマイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰プロセス。
上述した任意の様相において、沸騰流体の全溶含有濃度(TDS)は、特に断りのない限り少なくとも0.01である。
他の様相において、本発明によれば、長さ約10cm(4.0インチ)のマイクロチャンネルのための、SR数が約0.001未満であるマイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰のためのプロセスが提供される。
【0040】
本発明は、発熱性反応の生じる隣り合うプロセスチャンネルにおける温度変化を、プロセス入口流れ温度(K、絶対温度目盛での)よりも5%未満の上昇に維持するためのパーシャル沸騰プロセス、又は、単相対流伝熱(K、絶対温度目盛での)と比較して50%以上、プロセス側における温度上昇が低下するパーシャル沸騰プロセスとしても特徴付け得る。
本発明には、チャンネル長さ対水力直径比が1000に等しい又はそれ以上であり且つ長さが15cm又はそれ以上であるチャンネル内での安定したパーシャル沸騰伝熱(以下の例3の定義に従う)を実施するためのマイクロチャンネルの使用も含まれる。
また、本発明によれば、壁面過熱温度(Tw−Ts)が、以下の式、即ち、
56353×Bo+1.4315
と等しい又はそれ未満である、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰方法をも提供する。
ここで、Boは、長さが各Lであって且つ15cm以上である3つあるいはそれ以上のチャンネルに対して、1.0E−06〜1E−04である。
【0041】
本発明によれば、壁面過熱温度(Tw−Ts)が、以下の式、即ち、
56353×Bo+1.4315
と等しい又はそれ未満である、マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰システムをも提供する。
ここで、Boは、3つあるいはそれ以上のチャンネルにおいて、また、最大熱フラックス対最小熱フラックスの平均値の比が3:1又はそれ以上であり且つ各チャンネル長さが少なくとも15cm(好ましくは20cm以上)である場合に1.0E−06〜1E−04である。あるいは壁面過熱温度は、マイクロチャンネル内沸騰に対しては、4.84E9*SR数+2.15C+/−2Cに等しいとも定義し得る。
本発明は、ミニチャンネル又はマイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰を制御するための装置をも提供する。装置はその好ましい実施例において、チャンネル又はチャンネル列の下流側に位置付けた圧力制御体及び又は安定化装置を含む。本発明によれば、パーシャル沸騰用のチャンネル列に隣り合うプロセスチャンネル列を有する装置の、チャンネル列温度を制御するための方法(又はシステム)であって、流体をマニホルドに流入させ、マニホルドから、発熱性プロセスを含むプロセスチャンネル列に隣り合う熱交換器チャンネル列内に送ること、を含む方法(又はシステム)も提供される。熱交換流体の流れが、熱交換器への流入流れが、プロセスチャンネル列の各チャンネルによる変化する熱出力に相当して変化するように制御される。熱交換器チャンネルへの流入流れが、変化する熱量を受ける熱交換器チャンネル列でのパーシャル沸騰が安定化されるように制御される。好ましい実施例では、熱交換器チャンネル列はプロセスチャンネル列に関して交差流れ状態とされる。前記システムの一例が例12に例示される。
【0042】
速度uの方向における剪断応力は式Fx=mu*du/dyにより算出され得る。ここで、muは粘度であり、du/dyはマイクロチャンネル壁と直交する液体流れの速度勾配である。しかしながら、液体の位置(制御要素により表される)におけるように、速度は一般に3成分を有し、剪断応力も3成分を有する。表面位置及びその付近でのチャンネル流れは一次元と仮定し得、Fxは概略、液体の要素面位置での正味の剪断力とし得る。Fluent又はFEMLAB(登録商標名)の如き市販ソフトを含む流体解析ソフトを用いて必要な輸送方程式を解き、例えば表面剪断応力を算出することができる。表面剪断応力は、流れ方向と平行な方向でのチャンネル長さに沿って算出され得る。壁面位置での剪断応力は平行なチャンネル間においても計算可能であり、この場合、チャンネル及びマニホルドの詳細な形状寸法の関数としての各平行チャンネルへのマスフラックスを決定するために、流れ分布条件(effects)が組み入れられる。例えば、“Fundamentals of Fluid Mechanics,”3rd Ed., B.R.Munson, D.F.Young及びT.H.Okiishi,John Wiley&Son, Inc.,Weinheim,1998には更に別の計算方法が記載される。
【0043】
ある実施例では、単一のプロセスマイクロチャンネルを使用するプロセスのための剪断力又は応力偏倚係数(SFDF)は、多重プロセスマイクロチャンネルの関与するスケールアッププロセスのそれの約50%以内であり得る。SFDFは以下の式から求められる。
SFDF=(Fmax−Fmin)(2Fmean
ここで、Fmaxは特定流体のためのプロセスマイクロチャンネルにおける最大剪断応力であり、Fminは特定流体のためのプロセスマイクロチャンネルにおける最小剪断応力であり、Fmeanは、マイクロチャンネル壁面位置での流体の算術平均値である。本発明のプロセスに従い操作される単一プロセスマイクロチャンネル内でのSFDFは約2未満であり得、ある実施例では約1未満、他の実施例では約0.5未満、更に他の実施例では約90.2未満であり得る。
本発明の1実施例によれば、多重のプロセスマイクロチャンネルを使用する一方で比較的剪断応力が一様なプロセスが提供される。多重のプロセスマイクロチャンネルにおける剪断応力の一様性を測定するために、各チャンネルの平均剪断応力を計算し、比較した。Fmaxはチャンネル剪断応力の平均値の最大値であり、Fminは同最小値であり、Fmeanは全チャンネルの平均剪断応力の平均値であり、これらの値からSFDFが算出され得る。本発明の多重プロセスマイクロチャンネルを使用するプロセスの少なくとも1つの実施例において、SFDFは約2未満であり、他の実施例では約1未満、更に他の実施例では約0.5未満、又別の実施例では約0.2未満である。
【0044】
マイクロチャンネルにおける剪断応力は全体的には大型のチャンネルにおけるそれよりもずっと大きい。マイクロチャンネル壁面の剪断応力の最小値は、平均値では少なくとも1Paであるのが好ましく、10Pa以上であるのがより好ましい。
パーシャル沸騰は、沸騰流体と、交互する単位操作との間における壁温管理を極めて良好化することが可能となる。マイクロチャンネル壁面温度はその長さ方向に沿ってほぼ等温であるとともに、流量、入口温度、入口圧力その他を含むプロセス制御運転ウィンドー内のプロセス条件の乱れに対しても安定している。発熱性化学反応、蒸留、吸収、吸着、凝縮、エマルジョンの混合、溶解度向上のための混合、擾乱、を含む単位操作はその多くが、パーシャル沸騰によってもたらされる良好な壁温管理によって効果的に実施されるようになる。
【0045】
発熱性の化学反応は、高温時に生じる所望されざる副産物にしばしば悩まされる。従来の熱交換装置では、一次の、且つ所望の反応経路で生じる熱を発生時と同じ割合で除去することがしばしば出来ない。パーシャル沸騰を用いると除熱がずっと速くなるので発熱性反応を近等温状態下に実施し得るようになり、所望されざる副産物量が減少する。更に、多くの発熱性反応は高温下では平衡限定度が高まるが、その一例には水ガスシフト反応がある。高温時には反応器の前端位置で高温下に反応を生じさせ、反応器出口付近ではもっと低い温度下に反応を生じさせるようにするのが望ましい。多数の熱交換帯域を反応長さに沿って配置し、各帯域で異なる温度下にパーシャル沸騰を使用し、前記反応長さに沿った反応温度を低下させることができる。発熱性反応は触媒性又は均質性の何れかのものであり得る。
【0046】
反応体又は複数の反応体と触媒とは、例えば、アセチル化反応、付加反応、アルキル化反応、脱アルキル化反応、水素脱アルキル化反応、還元的アルキル化反応、アミノ化反応、アンモ酸化反応、アンモニア合成反応、芳香族化反応、アリル化反応、自己熱改質反応、カルボニル化反応、脱カルボニル化反応、還元的脱カルボニル化反応、カルボキシル化反応、還元的カルボキシル化反応、還元的カップリング反応、凝縮反応、クラッキング反応、水素化分解反応、還化反応、シクロオリゴメリゼーション、脱ハロゲン化反応、二量化反応、エポキシ化反応、エステル化反応、交換反応、Fischer-Tropsch反応、ハロゲン化反応、水素ハロゲン化反応、ホモロゲーション反応、水和反応、脱水反応、水素添加反応、脱水素添加反応、ヒドロカルボキシル化反応、ヒドロホルミル化、水素化分解反応、ヒドロメタル化反応、ヒドロシリル化反応、加水分解反応、水素化反応(HDS/HDN)、異性化反応、メチル化反応、ジメチル化反応、複分解反応、ニトロ化反応、重合化反応、還元化反応、改質化反応、逆水ガスシフト反応、サバティエ反応、スルホン化反応、テロマー化反応、エステル交換反応、三量化反応、水ガスシフト反応、の様な反応から選択され得る。
蒸留は、蒸留ユニットの長さ方向に沿った多数のステージ内での相平衡温度が注意深く制御されると言う特徴がある。パーシャル沸騰を用いれば、各ステージで非常に等温に近い状態で運転することが可能となる。これにより、各ステージに付加されるエネルギー量を調節して全入力エネルギー量を低減させることが可能となる。
【0047】
吸着反応、特に熱スィング吸着反応は、脱着及び吸着の各ステージ中に熱が急速に付加又は除去されると言う特徴がある。パーシャル沸騰を用いれば、脱着ステージを、そのサイクル範囲に渡り流体を使用して熱を対流的に除去することで生じる温度範囲ではなく、ずっと等温に近い状態で運転することが出来るようになる。脱着ステージ中の温度プロファイルが一段と等温化されることで、吸着反応による吸着物回収量が増え、システムの全体効率が高くなる。
吸収プロセスは、脱着ユニットに流動するに先立つ吸着反応中に作動流体中に吸着物を可溶化させるプロセスである。流体取り込み中に放出される吸収熱は無視できないほどのものであって、作動流体の全体的な能力を低下させる恐れがある。吸収反応操作を等温下に実施できれば吸収量やシステム効率が増大され、脱着中にパーシャル沸騰を用いれば脱着サイクルをほぼ等温下に実施し、伝熱が効率化され、脱着に要する時間も短縮される可能性がある。
パーシャル沸騰を凝縮反応に使用すれば伝熱効率が向上し、ハードウェアが小型化される利益がある。商業的化学プラントにおける熱統合は、資本及び運転の両コストを最適化する上で重要な要素である。凝縮流体及び沸騰流体の伝熱を統合させれば、各単位操作のために作動流体を追加する必要性が減少され得る。
【0048】
マイクロチャンネル内パーシャル沸騰により助成され得る発熱性反応には重合反応が含まれる。ここで説明する本発明のコンセプトは、重合プロセスで必要な長い距離での伝熱率を高め得るものである。パーシャル沸騰は、Trommsdorff効果おいて見られる反応体の大きな発熱量を除去可能であるため、バルク重合及び溶液重合の危険性を高めるプロセスアップセットを阻止する上で役立ち得る。Trommsdorff効果が生じると、重合化流れは重合体の塊状連鎖による粘性変化を生じ、結局は連鎖停止反応における発熱量が大きくなり且つ反応量が劇的に低下し、重合化流れの粘性が高まり、かくして流れのポンピングが困難となるばかりか、重合分子重量が大きくなって分子重量分布の偏倚あるいは流れ中の不溶性ポケットが生じ得る。
混合操作中に放出される熱量は多くの流体混合において無視できる程のものとは言えない。流体混合物の温度が上昇するに従い、流体混合物の、溶解性、相安定性、熱特性及び流体工学的特性も変化するが、この熱をパーシャル沸騰によって除去すれば操作はずっと等温化され、最終的な流体混合物特性を調整できるようになる。
【0049】
発酵プロセスは、パーシャル沸騰によってその操作をより等温的なものとすることで最適化される。除熱が不適切であると発酵プロセス中の温度が上昇し、結局、一連の酵素触媒反応後における関連する酵素又はイーストの安定性を低下させる。一例として、ワイン製造時の発酵中に発生する熱量は、最終製品の品質を維持するために低減されるべきである。パーシャル沸騰を使用してより速く且つより制御された状態下に除熱することで、数週間を要するワイン製造期間を数日又はそれ未満に短縮することができる。更には、活性イーストをマイクロチャンネル壁面に取り付け、発酵反応を、隣り合う壁面でのマイクロチャンネル除熱(パーシャル沸騰を含む)と共に開始させるようにしたマイクロチャンネル式のワイン製造装置も想定できる。また、イーストはオークその他の木製品を含む様式下にマイクロチャンネルに用い得、マイクロチャンネル壁のワイン製造側面を、ワイン合成用のチャンネル列からなる使い捨て式のオークその他木製品で製作することもできる。あるいは、装置全体を木製とし、又は製品品質を増長させる材料で作製することができる。
【0050】
マイクロチャンネルの整列マトリクスを通して流動する冷却材を使用して飽和入口流れから熱フラックスを一定除去するシステムでは、入口チャンネルの質量流量の、平均値又は調整分布における目標値からの僅かのずれが出口蒸気品質を大きく異ならせ、冷却材の流れ分布にも悪影響を及ぼす。壁面の熱フラックスが同じで、質量流量が仕様以下である同等の連結用チャンネルマトリクスを通しての、クオリティ指標ファクターが10%未満(クオリティ指標ファクターに関しては米国発行特許番号第2005/0087767号に記載されている)での同流量流れ又はほぼ同流量流れがマニホルドの設計形状によって保証されないとした場合、熱入力量が一定の時はチャンネル全体のローカルクオリティが増大し、圧力損失が増大すると考えられる。この点は、第1及び第2オーダーにおいてローカルクオリティに依存する前記Lockhart-Martinelliの圧力損失式である式(2)で示される。マニホルドからの流量が多いチャンネルでは出口クオリティは仕様値よりも大きくなり、チャンネル全体のローカルクオリティは逆に低くなる。更には、フィードバック機構が低クオリティのチャンネルの流量を増大させ、高クオリティのチャンネル流量を低下させるので流量の不均衡配分がますます悪化する。フィードバック機構による影響は、所望の運転範囲が設計流量の限界熱フラックスに近い場合、流れが不均衡配分されるとローカル除熱を不安定化させ、パーシャル沸騰による単位操作の制御性を危うくする。この点は、パーシャル沸騰システム開発上の主たる開発課題である。
【0051】
パーシャル沸騰が温度制御上重要となり得る他の用途には核反応路内での対流沸騰による蒸気生成がある。対流沸騰は核反応路冷却で使用されるが、本発明によればシステムで取り扱い得る限界熱フラックスが増大され得、反応器操作の危険度を高める大きな熱フラックスを除去するための適切な設計形状のマニホルドの使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】代表的な沸騰曲線を示すグラフである。
【図2】マイクロチャンネル内の沸騰流れパターンの概略図である。
【図3】核形成用の壁面過熱温度のグラフである。
【図4】多孔質構造及びピンフィンの影響を示す沸騰曲線のグラフである。
【図5】プロセス側熱フラックス曲線とCHF曲線との関係を示すグラフである。
【図6】CHF増大のための冷却材マイクロチャンネル分割の例示図である。
【図7】3分割され、図で上方及び又は下方にプロセスチャンネルを配置した冷却材マイクロチャンネルの例示図である。
【図8】間隙寸法の変化する冷却材マイクロチャンネルの例示図である。
【図9】パーシャル沸騰のための装置の概略図である。
【図10】図9の装置の熱電対位置を示す概略図である。
【図11】図9の装置の、パーシャル沸騰試験用の試験ループの概略図である。
【図12】異なる熱フラックスでの、流動方向長さに沿った壁面温度変化を示すグラフである。
【図13】熱フラックスに対する出口クオリティ又はボイド率を示すグラフである。
【図14】壁面温度プロファイルにおける質量流量の影響を示すグラフである。
【図15】約61cm(24インチ)のパーシャル沸騰試験装置における平均熱フラックスの関数としての圧力損失を表すグラフである。
【図16】壁面過熱温度と沸騰係数との関係を示すグラフである。
【図17】壁面過熱温度とSR比との関係を示すグラフである。
【図18】VAM生成のためのマイクロチャンネル反応器の例示図である。
【図19】チャンネル壁での熱フラックスプロファイル(プロセス側での質量流量は146.2Kg/m2s)である。
【図20】異なる除熱スキームを使用する、反応器長さ方向に沿った温度プロファイル(プロセス側での質量流量は146.2Kg/m2s、Tin=160℃)である。
【図21】マイクロチャンネルVAM反応器のための、触媒床の中央線に沿った温度曲線(単相対流とパーシャル沸騰との伝熱比較であり、Tin(プロセス)=180℃、Tin(冷却)=180℃、V(冷却)=0.3m/s)である。
【図22a】例5に従う、上面の孔に熱電対を配置したFT反応器の主要胴部の斜視図である。
【図22b】例5の反応器及び溶接物の分解斜視図である。
【図22c】例5の多重チャンネル交差流れFisher-Tropsch反応器のための流れ温度に関する時間を示す、熱電対をTCとして示すグラフである。
【図23】水側ヘッダ及びフッタを備える低圧蒸発装置の胴部の、空気側ヘッダ及びフッタを示さない状態での例示図である。
【図24】空気ヘッダ及びフッタを備える低圧蒸発装置の胴部の、水側ヘッダ及びフッタを示さない状態での例示図である。
【図25】低圧蒸発器の水側ヘッダの斜視図である。
【図26】パーシャル蒸発器システムの概略図である。
【図27】固形物全溶解量が1−2ppmである低圧蒸発器の運転時間に関連するグラフである。
【図28】汚水送給時の低圧蒸発器の運転時間に関連するグラフである。
【図29】マイクロチャンネル蒸発器の概略断面図である。
【図30a】マイクロチャンネル蒸発器における壁面及び流体の温度プロファイルを示すグラフである。
【図30b】マクロチャンネル蒸発器における壁面及び流体の温度プロファイルを示すグラフである。
【図31a】マイクロチャンネル蒸発器における蒸気クオリティプロファイルを示すグラフである。
【図31b】マクロチャンネル蒸発器における蒸気クオリティプロファイルを示すグラフである。
【図32】マイクロチャンネルで小蒸気泡が生じる状況を示す例示図である。
【図33】大型の冷却材マイクロチャンネルで大蒸気泡が生じる状況を示す例示図である。
【図34a】マルチチャンネル反応器における形態及び流れの配列構成を示す斜視図である。
【図34b】ヘッダの外部オリフィスプレートの例示図である。
【図35】出口クオリティ値X=0.3である場合の所定の熱フラックスプロファイルにおける圧力損失及びオリフィス径を示すグラフである。
【図36】交差流れ型反応器の斜視図である。
【図37】非縮尺モデルでの構造定義及びチャンネル寸法の例示図である。
【図38】ある場合(3.0LPM)における、区分チャンネルマスフラックス(下方x軸)及び区分出口温度(上方x軸)のグラフである。
【図39】蒸気クオリティに関するLockhart-MartenelliファクターCの値の変化を示すグラフである。
【図40】単相入口伝熱係数に対する測定伝熱係数の比をチャンネル出口クオリティに関してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
例1:沸騰流体特性の改変
多くの用途において、沸騰流体を用いた除熱は閉ループ状態下に実施される。沸騰流体は沸騰ユニットと凝縮ユニットとの間で循環され、沸騰ユニットで熱を捕捉し、凝縮ユニットでは捕捉した熱を第2作動流体又は環境に放熱する。こうしたシステムでは、沸騰作動流体に界面活性材を添加するのが望ましい場合がある。界面活性材はマイクロチャンネル単位操作での長い核沸騰中に生成する小さい蒸気泡を安定化させる作用がある。生成される小蒸気泡が安定化されるとパーシャル沸騰ユニットの運転中にそこを通過する液体の沸騰度が高くなる。言い換えると、プロセス操作時の単一パスの沸騰における蒸発率が10%、又は30%、又は50%あるいはそれ以上となり、一方、ドライアウト又はホットスポット生成が防止される。これにより沸騰流体の合計流量が低下するので、ポンプ及び弁を含む関連補助装置の寸法が低減される。
【0054】
例2:マイクロチャンネルでの分散されたパーシャル沸騰
マイクロチャンネル内におけるパーシャル沸騰伝熱が、発熱性反応を実施するためのマイクロチャンネル反応器と一体化される。冷却材マイクロチャンネルは、反応熱を効率的に除去するための様々な連結パターンで配列され得る。パーシャル沸騰曲線によると、熱フラックスは単相冷却セクション以降の正の勾配が大きい。発熱性化学反応を生じるプロセス側からは、代表的には反応帯域の開始部分の直ぐ後方の部分に熱フラックスのピークが現れる。熱フラックスピークの正確な位置は、反応体流量、反応体寸法、反応体で触媒を使用する場合は触媒充填床の特性、から決定される。プロセス側からの代表的な熱フラックス曲線によれば、熱フラックスは反応体の始点部分付近でピークとなることが示される。冷却材マイクロチャンネルに様々の形式の連結部を設けることで、プロセス側及び冷却側の双方からの熱フラックス曲線を、望ましいローカル除熱能力にパーシャル沸騰冷却を合致させ得るように整合させ得る。
【0055】
図5には、パーシャル沸騰伝熱を発熱性マイクロチャンネル反応器用に設計する場合の問題が例示される。プロセス側からの熱フラックス(等温運転のための条件)は、反応体域開始位置から少し進んだ位置でピークとなる。代表的なCHF曲線は冷却材マイクロチャンネルに沿って負の勾配を有する。冷却材マイクロチャンネルの圧力、冷却材流量、冷却材入口温度、チャンネル間隙寸法、の条件下の点線で示すCHF曲線の場合、ピーク熱フラックス条件付近でドライアウトが生じる。パーシャル沸騰を安定化させるために、各パラメータを調節してCHF曲線が熱フラックス曲線の長さ方向の全てに沿ってこの熱フラックス曲線よりも上になるようにすることができる。
【0056】
形態1:
パーシャル沸騰の性能を改善するために冷却材マイクロチャンネルが分割され得る。冷却材マイクロチャンネルは、単相冷却を伴う初期領域と、この初期領域に続く更に分割された領域にして、冷却材マイクロチャンネルをパーシャル沸騰の生じるサブチャンネルに分ける1つ、2つ又はそれ以上の壁を有し得る第2領域とを有し得る。第2領域は、例えば2つのチャンネルに分割され、各チャンネルが伝熱壁を反応チャンネルと共有する。伝熱壁は平行であり得、あるいはもっと好ましくは、反応チャンネルの高さ方向に直交し、かくして熱がこの伝熱壁を介して反応チャンネルから冷却材マイクロチャンネルに直接伝導され得る。
形態2:
単一の冷却材マイクロチャンネルが幾つかの冷却サブチャンネルに分割される。図7を参照されたい。分割位置は、プロセス側からの熱フラックスプロファイルのピーク位置と整列するように設計される。平行な冷却材マイクロチャンネルの間隙寸法は、それが小さい程高い限界熱フラックス(CHF)を達成し得る。その他の設計パラメータは冷却サブチャンネルの寸法、幅(W)、間隙高さ(H)である。W/Hのアスペクト比は5〜10である。単一の冷却材マイクロチャンネルを幾つかのもっと小さい冷却材マイクロチャンネルに分割させることで、各冷却材マイクロチャンネルの全ての側面が伝熱表面となり、同じ寸法の反応チャンネルと比較した場合の反応器容積の単位当たりの伝熱面積は2〜3倍に増大する。
【0057】
形態3:
冷却材マイクロチャンネルが、冷却材マイクロチャンネルに沿った間隙寸法が変化するような設計のものとされる。冷却流体流れは間隙寸法が小さい場所では増速され、間隙寸法が小さい場所では限界熱フラックスが高くなる。正確な間隙寸法プロファイルはプロセス側からの除熱の必要性に応じて設計される。図8を参照されたい。
例3:マイクロチャンネルでのパーシャル沸騰
マイクロチャンネルにおけるパーシャル沸騰試験のためのステンレス鋼製の装置を作製した。装置は、組み立て時にマイクロチャンネルを構成するマイクロ機能構造部分を平削り加工した2枚のステンレス鋼プレートを溶接して作製した。ステンレス鋼プレート1をステンレス鋼プレート2と組み合わせてマイクロチャンネル流路を創出させた。各プレートの合計長さ、つまりマイクロチャンネル長さは60cmであり、各プレートの合計幅は約3.8cm(1.5インチ)とした。2枚のステンレス鋼プレートの公称厚は約8mm(5/16インチ)とした。各プレートはプレート溶接を容易化するべく外側縁部位置で面取り処理した。
【0058】
図1に示す如き、2枚のプレートを組み合わせて形成したマイクロチャンネルはその断面寸法が約0.76×0.45mm(0.030インチ×0.018インチ)であり、長さ対水力直径比は1067であった。各マイクロチャンネルは厚さ約0.45mm(0.018インチ)の金属壁で仕切られ、合計14本のそうしたマイクロチャンネルを形成した。ステンレス鋼プレートの、マイクロチャンネルの長さ方向に沿って図9に示すように孔(正面位置で何れも0.8cm×60cm)を穿孔した。
孔は、熱電対を挿通し、測定温度を使用して熱フラックスを評価するためのものであり、全ての孔の直径は約0.6mm(0.022インチ)であり、温度測定用のタイプK0.020インチ型の熱電対を使用した。図13にはステンレス鋼プレート上に置ける熱電対の概略配置状況を示す。
熱電対はマイクロチャンネルの長さ方向に沿って両ステンレス鋼プレート上に合計9つの位置に配置した。各熱電対間の距離は約0.75cm(2.95インチ)とした。1〜9番目の各位置に2つの熱電対は、ステンレス鋼プレート内の深さ約1.9cm(0.75インチ)の深さに配置した。前記各位置での2つの熱電対は図10の線I−I方向から見て各プレートの縁部から約0.25mm(0.01インチ)の距離に位置付けた。
【0059】
番号1、5、9の位置には4つの熱電対を追加配置した。これらの熱電対は、図2に示すように、前記ステンレス鋼プレート内の深さ約1.9cm(0.75インチ)の深さで配置した熱電対から約1mm(0.04インチ)の距離離してステンレス鋼プレート内の深さ約7.6mm(0.3インチ)に配置した。番号1、5、9の各位置では、図10の線II−IIの方向から見た場合に、4つの熱電対の内の2つを、前記ステンレス鋼プレート内の深さ約1.9cm(0.75インチ)の深さで配置した熱電対と同じ側に配置し、他の2つを反対側に配置した。チューブ状のヘッダ及びフッタはその寸法形状が同一であり、入口流量を一様に配分させるような設計とした。
図9に示すように、長さ60cm、幅3.8cmの分離状態の2つのヘッダを溶接したステンレス鋼プレートの両側に配置した。各ヘッダは、マイクロチャンネル内の流体に沸騰用の熱を提供する。図11には装置の性能を試験するための試験ループが示される。本試験ループは閉ループである。流体としては水を使用した。水はしばしば冷却材とも称される。装置の入口位置でのシステム圧力をゲージ圧での約3.49577E6Pa(507psig)に維持した。水は飽和温度に予熱され、発生した蒸気は装置入口位置で除去させた。ストリップヒーターを使用して流体に熱を提供させ、流体を部分的に沸騰させた。部分的に沸騰した流体を凝縮器に通して凝縮温度以下に冷却し、次いで、ポンプに戻して再度加圧した後、予熱器に送り、かくして閉ループシステムを形成した。システム圧力を調節するためのインライン型の圧力コントローラを組み込んだ。
【0060】
試験を、チャンネル当たりの毎分流量を12mlとして試験を実施した。図12に示すように、水を冷却材として使用する非常に長尺のマイクロチャンネル配列において安定したパーシャル沸騰運転が実現された。装置は、ストリップメーター(図12参照)からの種々の熱フラックス下に運転され、チャンネルの壁面付近での温度が一定であることは、パーシャル沸騰が満足裡に生じていることの証である。q”=5.8W/cm2における沸騰数は7.2×10-5であった。SR数は7.8×10-10と算出された。装置の出口位置での蒸気クオリティの変化を図13に示す。
チャンネルの長さ方向に沿った壁温度プロファイルの、入口質量流量に関する変化を図14に示す。図示されるように、チャンネル当たりの毎分流量が12、10、7.9mlの時、壁温は各チャンネル内でパーシャル沸騰が生じていることを表す3℃分の狭い温度帯域幅内に維持されている。しかし、流量が5.7mlに低下すると壁温は上昇し始め、チャンネル内で完全蒸発が生じていることを示すようになる。
【0061】
ゲージ圧での約13790Pa(2psig)の揺れ幅で25秒間揺動する背圧調節器を使用した。グラフの性能曲線の緩やかな振動はこの背圧調節器によって生じたものであり、パーシャル沸騰プロセスによるものではない。圧力変動が極めて小さい(約13790Pa(2psi)未満)ことが、その間の性能が安定していることを実証している。
本発明の各プロセスは安定化されるべきであるが、マイクロチャンネル沸騰プロセスのための安定性とは、パーシャル沸騰の流れの圧力における振幅変動がシステムの絶対運転圧力の5%未満に等しく且つ固有振動周波数が20(ピーク振幅対ノイズ振幅)未満である場合として定義される。従って、例えば、圧力の最大ピーク間の振幅が差圧での約34475Pa(5psid)であり、平均運転圧力がゲージ圧での約3.48198E6Pa(505psig)、即ち絶対値での約3.5854E6(520psia)であれば、運転圧力に対する振動の比は差圧での約34475Pa/差圧での約3.5854E6(5psid/520psid)=0.96%<5%となる。更には、本実験で使用した圧力タップトランスデューサーの、絶対値での約6.895E6Pa(1000psia)つまり約34475Pa(5psi)下での精度は全圧力負荷の最大でも0.5%であり、従ってピーク振幅対ノイズ振幅の比は、差圧での約34475Pa/約34475pa(5psid/5psi)=1<20である。
【0062】
安定したパーシャル沸騰に関する他の考慮事項はチャンネルアスペクト比(幅対高さ)である。チャンネルアスペクト比の小さいチャンネルでは、核沸騰開始中における表面位置での蒸気泡閉じ込み量が多くなって蒸気泡合体状況が生じ、Taylor気泡又は蒸気スラグがチャンネルの断面積のほぼ全体を占有するようになる。こうした状況は2相流れシステムを不安定化させ得る。他方、チャンネルアスペクト比の高いチャンネルでは、蒸気泡が、表面脱離に先立って近くの別の蒸気泡と遭遇すること無くチャンネル幅方向に膨張する自由度が大きくなる。又、Taylor気泡又は蒸気スラグの持続性は、部分的には蒸気泡の形状寸法に依存するが、例えばチューブ内流れに生じる円筒状の気泡スラグは非常に安定したものであり、長時間持続する。高アスペクト比のチャンネル内で生じせしめられたTaylor気泡は大きく且つ比較的平坦な表面(例えば、平行な2つの平面間で押しつぶされた気泡の如き)を有し得る。平坦なTaylor気泡は、その表面が、自由表面エネルギーを最小化するもっと安定した円筒形又は球形形状を取り得無いことから、流れ部分の僅かな乱れによって不安定化され、小気泡に分断される。従って、高アスペクト比チャンネル、つまりアスペクト比が5又はそれ以上、好ましくは10又はそれ以上のチャンネルではパーシャル沸騰の安定化がより促進される。
【0063】
図15には装置の平均熱フラックスかにおける圧力損失量の変動が示される。熱フラックスが増大するに従い、より多くの液体が蒸発し、かくして圧力損失量は増大する。
図16及び図17は、図12及び図14に説明されるデータの、平均(両端部を除く)壁温度(Tw)及び飽和温度(Ts)ほ平均値に対する、夫々ボイリング数Bo及びSR数の関係を示すものである。このデータセットでは、図14で生じるドライアウト発生データ点は、それがその他のデータで見られる高伝熱性の対流沸騰を示すものではないことから除外される。図16及び図17では安定した核沸騰状況は各データ点よりも下側の領域で示される。
本例では直径約61cm(24インチ)のマイクロチャンネル当たりの毎分流量が12mlである場合の沸騰中の剪断応力は、平均値で7.5Pa、最大で10.6Pa、最小で1.7Paであった。この場合、積層流れに関するレイノルズ数が2000未満である状態でのチャンネル長さに渡る剪断速度は、平均値で7425hzであり、最大で10253hz、最小で2036hzであった。剪断応力及び剪断速度は、チャンネル寸法、チャンネル当たりの流量及び流れ形態に基づいて計算流体力学により算出された。
【0064】
例4:
マイクロチャンネル内でのビニルアセテートモノマー(VAM)製造に対してパーシャル沸騰伝熱が適用された。プレートと組み合わせたマイクロチャンネルは断面が0.05cm×1.3cmであった。反応側の間隙は1mm、冷却側の間隙も1mmであった。反応側ではエチレン(C24)、酸性ガス(CH3COOH)及び酸素(O2)の混合物を、温度160℃、圧力8atmの下に供給した。マイクロチャンネルに、ボイド率が0.4程度であるマイクロペレット触媒を充填した。
VAM製造反応により、充填床内への放熱がなされ、放熱された熱がチャンネル壁を介して、冷却材が蒸発する冷却側表面に伝導された。本例では水を冷却材として使用した。触媒床の開始位置では反応体濃度レベルは最高であり、反応率は最大であった。これにより、触媒床に沿った温度プロファイルは非対称化された。従って、チャンネル壁での熱フラックスプロファイルは反応器入口付近でピークを示した(図19)。
【0065】
触媒床の開始位置付近のホットスポットは所望の製品であるVAMの選択性や製品歩留まりにとって有害である。高温により触媒有効寿命も短縮される。VAM反応器を等温状況下、又は反応通路に沿った温度変動範囲を狭くして運転することが望ましい。図20では、様々の除熱スキームを使用した場合の、反応器に沿った温度プロファイルが比較される。図20によれば、反応器の長さ方向に沿った温度変化範囲は、パーシャル沸騰を除熱に適用した場合にずっと狭くなることが明らかである。パーシャル沸騰を除熱に適用する上での別の利益は、高活性の触媒を使用して大きなスパイクのない温度プロファイルを得る一方、単相流れの冷却が生じないようにできることである。
パーシャル沸騰伝熱をマイクロチャンネルVAM反応器と一体化すればずっと大きなプロセス出力下で運転することが可能となる。図21には、除熱方法として単一相対流として使用する、4つの接触時間レベルでの、触媒床の中心線に沿った温度プロファイルが示される。冷却材マイクロチャンネルの間隙寸法は1mm、壁厚は0.5mm、プロセス側のチャンネル間隙は1mmであった。冷却材流れの平均速度は毎秒0.3mであった。接触時間が少ない、又はスループットが大きい場合、触媒床の温度上昇度は大きかった。温度上昇の設計条件は入口温度から10℃であり、本例では180℃である。単相熱対流を除熱方法とする場合、反応器は毎秒250mより短い接触時間では動作しない。プロセス側の接触時間が毎秒250mである場合、パーシャル沸騰を除熱方法とすると、触媒床の温度上昇幅は10℃未満であり、十分に許容設計範囲内に入る。
【0066】
例5:
多チャンネル型のFischer-Tropsch合成反応器の試験を実施した。本反応器は、反応器マイクロチャンネル用の、重力方向流れ形式の垂直の単位操作チャンネルを有し、反応器マイクロチャンネルはプロセスチャンネルと交差流れする方向で水平に配置される。図22aには反応器の主胴部の組み合わせ状態の両チャンネルが示される。反応器はステンレス鋼316であり、高さ0.05cm、長さ12.5cm、幅11.3cmでその内7.5cm分が触媒床として使用される9本のプロセスチャンネルを有している。触媒床はコバルトを含むアルミナ担持材である。熱交換器チャンネル列は10本であり、各列はプロセスチャンネルの側面に配置される。各熱交換器チャンネル列は、高さ0.750cm、長さ15cm、幅69mm(0.270インチ)であり、各チャンネル間が約0.76mm(0.030インチ)、各チャンネル列間が約2.2mm(0.090インチ)離間している。
反応器の全てのセクション内への流動量が等しくなるよう、一組のオリフィスプレートを使用して流れを装置の外側角部に押し出すようにした場合に問題が生じた。これらのオリフィスプレートは図22bに示される。流れは図22bに示すヘッダに入り、外側周囲位置のオリフィスを通して分与され、次いで別の直線装置(straightener)を経て各チャンネルに入る。図22a及び図22bに示すサーモウェルを使用してシステムの温度を測定した。サーモウェルは外側の熱交換器チャンネルは熱交換器チャンネルに接近しており、パーシャル沸騰状況から予測されるよりも高い温度を示す場合がある。
【0067】
Therminol LT(登録商標)を毎分50mlの割合で供給し、2:1モル混合比での一酸化炭素及び水素を接触時間を250ミリ秒として反応器に供給した。図22cには、各設定点での温度条件に至るまでの温度上昇と、初期性能とに関する、時間/流れデータを表すグラフである。反応器に流入する冷却材温度は、設定点での温度条件への温度上昇中に変化することが示された。冷却材温度が設定点温度に達するとプロセスの表面温度は冷却材の沸点よりも実質的に高い温度に固定され、反応器床の入口、又は上部位置が最高温度値となった。表面温度は流れ方向に沿って低下したが、長時間に渡りTherminolの沸点以上であった。このような高温は多数のチャンネルにドライアウトが発生していることを示唆するものである。ドライアウトは、触媒床の上部の熱電対が高温になると冷却材温度が設計圧力下での飽和温度よりも実質的に上昇することにより発生する。この場合、チャンネルの底部の温度は低く(沸騰運転温度に近い)、チャンネル上部に近い部分の温度はそれよりも実質的に高くなるので、チャンネルの上部から底部に掛けての流量配分の不均衡度が高くなり得、流れのプロファイルは、反応器出口付近での流量が増大し、反応器チャンネルの上部位置では減少する如く偏倚され得る。熱交換器チャンネルにドライアウトが生じると気相における圧力損失量がパーシャル沸騰チャンネルにおけるそれを上回るようになり、対流沸騰上の問題に加え、流量配分設計上の問題も生じることになる。この間、Fischer-Tropsh反応器の触媒は高温下に不活性化されていると考えられる。
【0068】
例6:
パーシャル沸騰の評価及び水のパーシャル沸騰時におけるマイクロチャンネル内のファウリング現象を判定するための一連の実験を行った。溶解固形物の全溶含有量(TDS)を0.5〜1ppm又は10〜20ppmの何れかとしての加速試験を行い、パーシャル沸騰蒸発器の沸騰側におけるファウリングの影響を定量化した。
装置の説明:
各低圧及び高圧の2台のパーシャル沸騰蒸発器を運転した。低圧のパーシャル沸騰蒸発器は水側に12本のチャンネルを有し、各チャンネルは幅約2.54(1インチ)、長さ約2.54(1インチ)、間隙幅が約0.5mm(0.020インチ)であった。また同パーシャル沸騰蒸発器は空気側に11本のチャンネルを有し、各チャンネルは幅約2.54(1インチ)、長さ約0.5mm(0.020インチ)、間隙幅が約2.54(1インチ)であった。水側及び空気側の各チャンネルは設計上、交互に配列され且つ、水側及び空気側の各最も外側のチャンネルが水側チャンネルとなるようにして全体的に交差流れパターンに配列された。装置は、水が垂直上方に(反重力方向)流れ、空気が水平方向に平行に流れるように配向された。
図25にはヘッダの内部状況が示される。円形のチャンネル1は内径約4.5mm(0.180インチ)であり、同チャンネル2は内径約0.8mm(0.031インチ)、同チャンネル3は内径約1.6mm(0.063インチ)、同チャンネル4は内径約2.5mm(0.100インチ)であった。水はチャンネル1内を垂直上方に流動した(図ではヘッダは逆転表示されている)。
【0069】
低圧蒸発器の水フッタ:
フッタの内側は単純なピラミッド形キャビティとなっており、フッタ開始位置での約2.54×2.54cm(1×1インチ)の寸法測定値から下方の内径約4.5mm(0.180インチ)の円形の出口開口に向けて傾斜している。
実際に長時間運転するに先立ってアクリル製装置を作製し、低圧及び高圧の各蒸発器の各ヘッダ、マイクロチャンネル、フッタを通しての水の流量配分を評価した。脱イオン水と、染料としての着色材とを用い、実際の長期運転におけるそれと等しい流量下に着色材を装置に流して結果をビデオテープに記録した。ビデオを再生して流れが一様に配分されているかを確認し、必要に応じて設計を変更した。低圧型の蒸発器ヘッダでは4方分離法を選択し、供給水をマイクロチャンネル帯域の4つの角部に送るようにしたが、高圧型の蒸発器ヘッダでは分与プレートの選択が一様配分を実現する上で重要であった。
実験的セットアップ及び運転:
低圧型のパーシャル沸騰蒸発器2台及び高圧型のパーシャル沸騰蒸発器1台を使用しての運転を実施し、以下に詳細を説明する結果を得た。低圧及び高圧の各形式のパーシャル沸騰蒸発器における流れダイヤグラムは以下の通りである。
【0070】
各パーシャル沸騰蒸発器は、蒸発器の高温側における空気入口流量及び蒸発器の低温側における水流量を制御しつつ実施された。空気は蒸発器に入る前に従来型のヒーターを介して所望温度に過熱された。空気はパーシャル沸騰蒸発器を出た後、マイクロチャンネル熱交換器に入り、送給水を予熱した。水はマイクロチャンネル熱交換器を通してバルクサプライから汲み出され、パーシャル沸騰蒸発器に送られた。高圧型の蒸発器には、背圧を一定に維持するための追加タスクがある。水及び蒸気の混合物はパーシャル沸騰蒸発器を出るに際して冷却され凝縮された。
Omega Engineering社製のタイプK熱電対(TC)がパーシャル沸騰蒸発器の外側表面と、全ての入口及び出口位置に組み込まれた。送気型Brooks 5851eシリーズ質量流量コントローラー、NoShok圧力トランスデューサーのモデル1001501127及び1003001127、OmegaラッチリレーコントローラーのモデルCNI 1653-C24、LabAlliance HPCLシリーズ3の水ポンプ、Swagelok可変圧力釈放弁等を適正運転のために較正及び検査した。空気流量を一次標準キャリブレーターに対して較正し、Dry-Cal DC-2M一次流れキャリブレーターがBIOS Internationalにより較正及び検査した。圧力トランスデューサーを、Flukeにより較正及び検査したFluke700P07又は700P06圧力モジュールを備えたFluke7181006を使用して較正した。水ポンプはLab Alliance社製のModel IV HPLCポンプであった。Omega CDCE-90-X導伝センサを、Cole Parmer社から購入した導伝性基準を用いて較正した。システム全体を、Swagelok316ステンレス鋼製チューブ及びフィッティングを使用して構成した。
【0071】
各蒸発器システムにおいて、水入口ラインに静圧を付加し、一方、出口ラインを閉塞した状態での圧力試験を実施した。低圧型の蒸発器にはゲージ圧での約551600〜620550Pa(80〜90psig)、高圧型の蒸発器にはゲージ圧での〜約2.4822E6Pa(〜360psig)の、各窒素流体を使用して発生させた圧力を付加した。装置の前記圧力を維持しつつ、空気側にゲージ圧での〜275800Pa(〜40psig)の圧力を付加した。15分間の圧力低下がゲージ圧での約3447.5Pa(0.5psig)を越えない場合を蒸発器システムの運転準備状態とした。
各蒸発器システムを始動するに際し、先ずプレヒーターを起動し、空気流れを動作プランに表示される値とした。システム温度が動作プランに示す所望温度である〜35−45℃の範囲になった時点でシステムに水を導入した。水は、低流量であるとチャンネル内での沸騰度及びドライアウト発生リスクが非常に高くなるのでそれを回避するべく、全流量下において導入された。高圧型蒸発器は、所望の運転圧力が得られるまでその背圧制御弁を調節した。各パーシャル沸騰蒸発器の直ぐ上流側のマイクロチャンネル熱交換器は、それらの運転圧力での沸点よりも10〜20℃分、低い温度となるように調節された。給水タンク内の伝導性メーターにより、運転中の給水クオリティが連続的に監視された。
システムを完全に始動させるに先立ち、システムを沸点よりも10℃低い温度で運転してシステムエネルギーの損失量を測定し、システムに関する入力及び出力エネルギー量を測定した。システムエネルギー損失量は初期状態ではシステムの入手可能なエネルギー量の6〜10%の範囲のものであった。
以下の表1には、各蒸発器に出入りする温度、圧力、流量が示される。
【0072】
【表1】

【0073】
第1の低圧型パーシャル沸騰蒸発器:
運転概要:
第1の低圧型パーシャル沸騰蒸発器を運転時間9125時間(〜380日)で停止した。運転中における劣化の兆候はなかった。運転時の蒸発率は〜31%であり、溶解固形物の全溶含有量(TDS)が〜1ppmである水が供給された。水の組成は、Caが〜0.29ppm、Mgが〜0.13ppm、燐酸塩が〜0.19ppm、Clが〜0.15ppmであった。加熱した送気を介して〜391Wのエネルギーが蒸発器に付加された。システムを完全に始動するに先立って測定したシステムの熱損失量は39Wであった。システムは、入口圧力がゲージ圧での1995.5E6Pa(〜2.9psig)、出口圧力がゲージ圧での17927Pa(〜2.6psig)で運転された。通常運転中のボイリング数Boは0.00326であり、SR数は1.39E10-6であった。
【0074】
また、システムは14サイクル又は14プロセスアップセットの間、性能上の変化を生じることなく持続され、かくしてパーシャル沸騰蒸発器の耐久性が実証された。サイクルは想定される通常運転条件からの偏差として定義される。種々のサイクルには、過熱した送気流れが維持される間の水損失量、装置が室温に冷却される原因となる、空気ヒーターへの電力損失量、システム全体に対する電力の損失量、が含まれる。幾つかのサイクルの間、パーシャル沸騰蒸発器内にドライアウトが生じる期間があったが、以下に詳しく説明するように、スケールの付着あるいは堆積は観察されなかった。図38に最終データを示す。表2及び表3には、パーシャル沸騰蒸発器の長期耐久性と全体効率が例証される。表2には、水チャンネル壁の温度と水/流れ出口温度との間の温度差が実験期間中に渡り僅かであったことが示される。表3には、2つのタイプのサイクルの前後における蒸発器(即ち熱交換器)の効率が不変であることが示される。熱交換器の効率は、空気によって水に伝達される実際の熱量を、空気によって伝達され得る最大推定熱量で除算した値として定義される。
【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
運転語の分析:
2つの現象、即ち、より重要な現象としての、空気側又は水側の何れかにファウリングの兆候があること、及び、点蝕又は腐食の如き材料劣化があること、についての分析を実施した。
装置を切断分離しての観察において、マイクロチャンネル内にはファウリング現象又は粒状物堆積の兆候は見られなかった。次いで装置を、装置の中央チャンネルも見えるようにして8つの立方体状に切断して観察したが、やはり空気チャンネル又は水チャンネルの何れにもファウリング現象の兆候は無かった。SEMを使用しての観察によれば点蝕の兆候は見られなかった。EDSデータによれば、表面上にFe、又ある場合にはCrリッチな酸化物スケールの存在が示されるが、これらはおそらく下側の金属に由来するものである。CaやMgの如き一般的な硬質の水スケール成分は出現していなかった。
【0078】
第2の低圧型パーシャル蒸発器:
運転概要:
第2の低圧型蒸発器を2041時間運転した。運転後、オフライン状態としてファウリング現象の兆候を調べた。蒸気クオリティが低下したこと及び空気出口温度が上昇したこと(即ち、水側への伝熱量が少なかった)から、ファウリング現象の発生が予測された。図39にデータを示す。蒸発器は、〜85%から50%の低い蒸気クオリティで運転され、水の溶解固形物の全溶含有量(TDS)は12〜15ppmであった。実際の水の組成は、Caが〜2ppm、Mgが〜0.9ppm、Srが〜0.27ppm、Clが〜0.67ppm、硫酸塩が1.8ppm、重炭酸塩が〜7ppmであった。システムは、入口圧力がゲージ圧での4826.5Pa(〜0.7psig)、出口圧力がゲージ圧での689.5Pa(〜0.1psig)で運転された。通常運転中のボイリング数BOは0.0068であり、SR数は4.30E10-6であった。
【0079】
本システムにおいても、性能上の変化を来すことなく〜9サイクルの持続期間の耐性を持つことが実証された。プロセスアップセットは、第1の低圧型蒸発器において示されたそれと同じであった。表4には、第2の低圧型蒸発器の長期間の耐久性と、全体的な有効性が示される。表4では2つのタイプのサイクルの前後で蒸発器(即ち熱交換器)の効果に変化がなかったことが示される。熱交換器の有効性は先に定義した通りのものである。
【0080】
【表4】

【0081】
運転後の分析:
水側のヘッダ及びフッタを取り外しての検査においてスケール付着が見られた。スケール付着はマイクロチャンネル帯域を通して続いていた。ボアスコープによる目視検査ではスケールはマイクロチャンネル帯域全体に一様に付着していた。各チャンネルの、類似する領域のスケール付着量は同じであるように見えた。これは、マイクロチャンネル帯域を通る流れが一様であることを表している。SEM及びEDSを用いたスケール付着の評価により、スケールには硬水スケールにおけるそれと一致する相当量のCa、Si、Mg、Oが含有されることが分かった。更に、スケールは、硬水スケールに見られる方解石、石膏、その他の代表的ミネラル成分を含むことが分かった。かくして、第2の低圧型蒸発器は代表的な硬水スケールに関連する問題があると言える。
これらの例における剪断応力及び剪断速度を求めた。
低圧型蒸発器のジオメトリは、約25.4mm×0.51mm×25.4mm(1インチ×0.02インチ×1インチ)であり、合計チャンネル数は12。流体は水、装置の合計流量に対する核装置の流量は第1の低圧型蒸発器(#1)が毎分28.4ml、第2の低圧型蒸発器(#2)が毎分20mlであった。
【0082】
【表5】

【0083】
例示したように、パーシャル沸騰運転中におけるマイクロチャンネル内の剪断応力は、約61cm(24インチ)のオーダーの長いマイクロチャンネルを使用する前記例3における剪断応力よりも2倍の大きさのオーダーにおいて小さかった。
【0084】
【表6】

【0085】
例7:温度プロファイルの優位点モデル比較
マイクロチャンネルの伝熱性が高いことにより、伝熱壁温度を低く維持しながらのパーシャル沸騰が可能となる。マイクロチャンネル内の伝熱壁と流体との間の温度差が小さいことは、膜沸騰よりもむしろ核沸騰において好ましく、かくしてチャンネル内の沸騰はずっと安定化される。パーシャル沸騰のための数学モデルが開発され、マイクロチャンネルの利点を実証するべく、マイクロチャンネル及び大きい寸法形状のチャンネルにおけるモデル結果を比較した。
モデル化した蒸発器の幾何形状が図29に示される。蒸発のための熱はカートリッジヒーターにより提供させた。蒸発させるために使用した流体はメタノールであった。メタノールは室温(25℃)下にチャンネルに流入し、周囲圧力下にチャンネルを出た。カートリッジヒータからの熱を、75%の蒸気クオリティ(質量ベースでの)が得られるように調節した。
【0086】
チャンネルは幅が約25.4mm(1インチ)であり、高さはミクロ寸法からマクロ寸法の間で変化された。チャンネル長さは約10cm(4.0インチ)であった。カートリッジヒーターは直径が約9.5mm(0.375インチ)、長さはチャンネルの長さと同じであった。カートリッジヒーターは一様な表面熱フラックスを提供した。蒸発器はステンレス鋼製とした。カートリッジヒーターとチャンネルとの間の金属壁は厚さが約0.5mm(0.02インチ)であった。厚さ約6.35mm(0.25インチ)の周囲部分がチャンネルとカートリッジヒーターとを取り巻くものと仮定された。チャンネル間隙を以下のように変化させることにより2つのケースを考慮した。
ケース1:チャンネル間隙=約1.27cm(0.050インチ)
ケース2:チャンネル間隙=約9.5cm(0.375インチ)
何れのケースにおいてもメタノールの毎分流量は3.7mlとした。ヒーターのセッティングも一定に保持した。モデルでは周囲への熱損失は生じないものと仮定した。流れ方向と直交する任意の断面における金属壁の温度変動は無視した。純液相における伝熱係数を、矩形チャンネルにおける十分発達したヌセルト数から算出した。

ここで、Nu=十分発達したヌセルト数、
K=液体の、W/m-k単位での伝熱性、
Dh=m単位での水力直径、
liq=液体の、W/m-k単位での伝熱係数、
である。
【0087】
純蒸気のための伝熱係数も同様に算出可能である。
2相システムでは伝熱係数は蒸気クオリティに依存するものと仮定し、その最大値を3000W/m2Kと仮定する。2相システムにおける伝熱係数は、蒸気クオリティが0から0.5に変化するに際し、純液体の伝熱係数からその最大値(3000W/m2K)へと直線的に増大し、次いで、蒸気クオリティが0.5から1に変化するとこの最大値(3000W/m2K)から純蒸気伝熱係数へと直線的に減少する。
図30a)及び図30b)には、ケース1及び2の各場合の蒸発器の入口から出口にかけての温度プロファイル(壁及び流体温度)を示す。何れのケースの場合でも蒸気の出口クオリティは同じとした。壁と流体との間の温度差が少ないことで膜沸騰形態の発生が防止され、対流沸騰又は核沸騰形態が生じるには好ましい状況となる。膜沸騰は一般に液体が激しく蒸発することによって発生し、プロセスを非一様化すると共にその制御を困難なものとする。他方、対流沸騰又は核沸騰は制御が容易であり、プロセスを温度、圧力、クオリティ変動に関して安定化させる。かくして、マイクロチャンネル形態の蒸発器によれば、従来のマクロチャンネル形態の蒸発器による以上に安定した沸騰が提供される。
図31a)及び図31b)には、ケース1及びケース2の各場合におけるチャンネルの長さ方向に沿った蒸気クオリティのプロファイルが示される。何れのケースにおいても、出口蒸気クオリティは同じ0.73であったが、蒸発速度は相違していた。マイクロチャンネル形態形の蒸発器では蒸発はずっと円滑であり且つ漸進的であるが、マクロチャンネル形態の蒸発器では蒸発は突発且つ急峻的である。これらの結果は、マイクロチャンネル形態における蒸発が、マクロチャンネル形態の蒸発器と比較して安定化することを示している。
ケース1でのボイリング数は0.005であり、SR数は5×10-6であり、ケース2におけるボイリング数は0.029、SR数は0.021であった。
【0088】
例8:加熱壁面付近における高剪断速度下における小気泡:
マイクロチャンネルにおいて観察された高い剪断速度は加熱壁面からの蒸気泡の脱離を容易化する。蒸気泡は脱離する前に加熱壁面の近くで大きく成長し、剪断速度下に変形する。剪断速度が速くなる程、蒸気泡の変形は厳しいものとなり、結局、蒸気泡は小直径の内に脱離するようになる。図32を参照されたい。連続液相における小蒸気泡の拡散は流体の単位体積当たりの相間表面積を大きくし、伝熱性を改善させる。又、蒸気泡サイズが小さいことで拡散速度も速くなる。流れは、蒸気泡同士の衝突とそれによる流れの変動を生じることなく、ずっと安定化される。
【0089】
沸騰熱伝導は、核沸騰形態下で且つ蒸気泡が表面の形成位置から極めて小さいうちに脱離されることにより、これらの小蒸気泡が相間の伝熱及び物質移動を最大化することで最適化される。スリット付きマイクロチャンネルでの蒸気泡脱離に関する流れ条件への影響を実験的に研究した。一般に、従来品と比較して、マイクロチャンネルのチャンネル壁位置での速度勾配はずっと大きく、これが壁における剪断応力を高め、所定条件(例えば壁の過熱、平均熱フラックスなど)での蒸気泡形成中のより急速に“クリップオフ”、即ち脱離させるのである。研究(例えばJournal-of-Colloid and Interface Science 241, 514-520(2001))によれば、蒸気泡脱離のための限界流れパラメータはチャンネル高さのみならず、蒸気泡の接触直径の関数であることが示される。要求される平均流速(キャピラリー数)は大きい蒸気泡の場合は低くなり、この関係における勾配はチャンネル高さが減少するに従い減少することが示された。一般に、チャンネル高さ(間隙)の小さい方のチャンネルでは同じサイズの蒸気泡が脱離するに要する流体速度は低下する。従って、固有の小さいチャンネル間隙寸法を有するマイクロチャンネルでは、流れ及び熱の各条件が同じであれば発生する蒸気泡はずっと小さいものとなる。
【0090】
例9:高拡散量時の安定した蒸気泡流れ:
マイクロチャンネル内でのパーシャル沸騰状況下において、過熱表面上に蒸気泡が発生し、表面から脱離して流体中に拡散される。マイクロチャンネルには、連続する液相中に蒸気泡が拡散されるセクションが存在する。これらの蒸気泡の相互作用が、伝熱性能及び2相流れの安定性に直接的な影響を与える。マイクロチャンネル内では流れ領域でのチャンネル壁の影響がより支配的なものであり、チャンネルの幅方向での剪断速度は高いが、この高い剪断速度は、蒸気泡の成長と変形とを妨害し、限界寸法を超える蒸気泡は結局破壊される。蒸気泡の限界半径は剪断速度のみならず相間張力及び流体粘度の関数であり、剪断速度が高いと蒸気泡の限界半径は小さくなる。マイクロチャンネルの壁面がこれら壁面間の流れ領域を規制して支配的ストリームラインをこれらの壁面と平行化した。支配的な流れは層流であった。
【0091】
例10:ぬれ性増進構造:
加熱面における液膜厚を減少できれば沸騰に関する表面熱フラックス要件は著しく低減され得る。マイクロチャンネルによればチャンネル内側の液膜は薄くなるが、液膜厚は微細メッシュ、スクリーンなどの如き構造を用いることで一層減少され得る。こうした構造は、液体の、より広い表面積への拡散を助成し、かくして表面上の液膜厚を減少させる。液膜が薄ければ蒸発に必要な表面熱フラックスは小さくなるので低い表面熱フラックスでのパーシャル沸騰を実現し易くなる。そうした構造の幾つかの例には、これに限定するものではないが、エキスパンデッドメタル箔、ワイヤメッシュスクリーン、綿布、燒結金属、メタルフォーム、ポリマー繊維、溝付き表面(三角形溝(即ちフレネルレンズ)、矩形溝、円形溝)又は任意のぬれ性の多孔質材料、がある。
【0092】
別の実施例では沸騰のための表面積を増大させるための表面機能構造部分も使用され得る。表面から凹む又は突出する下の何れかの表面機能構造部分は、マイクロチャンネルの水力直径より小さくもされ得、そうすることで、壁面が平坦である場合におけるよりももっと小さい蒸気泡が形成され得る。更には、流れは表面機能構造部分内で移流(advects)されるので、マイクロチャンネル壁面に抗して発生する流体の剪断応力は適度なものとなる。表面機能特徴部分内に生じる剪断応力は、マイクロチャンネルの、この表面機能構造部分の上部で交差する類似の平坦な流れチャンネルにおける剪断応力未満のものであり得る。表面機能構造部分での剪断応力の大きさは、相当する平坦な流れチャンネルのそれの10%、別の実施例では50%又はそれ以上であり得る。表面機能構造部分の沸騰壁に対する流体の剪断応力は、ある文献に説明される表面積増大部分内において見出される剪断応力よりもずっと大きい。それは、この文献のおける表面積増大部分における流体の移流が最小であるからである。
【0093】
例11:表面粗さ:
マイクロチャンネル内における表面粗さ部分及び微小孔は、核沸騰蒸気が形成される上で劇的な効果がある。表面粗さはチャンネルの表面位置での流れに乱れを生じさせ、それが結局、蒸気泡形成のための潜在核形成部位を生じさせる。従って、マイクロチャンネル用途で入手可能な核形成部位は容積測定ベースではずっと多くなる。
εを表面粗さ部分の平均高さとし、DHをチャンネルの水力直径とした場合のチャンネル水力直径に対する表面粗さ部分の値ε/DHは、従来のチャンネルのそれよりも一般に大きい。表面粗さは、表面プロファイルを横断トレースするために使用するスタイラス装置である表面形状測定装置(Profilometer)によって測定され得る。この結果は、表面の中心線からの算術平均値からのずれであるRA又は、表面の中心線からのずれの平均二乗偏差であるRMSの何れかにより表される。RA又はRMSの値は、μ(マイクロメーター又はμmと同じ)か、又はマイクロインチ(μ”)の何れかにおいて与えられる。RMSは所定の表面に対するRA数よりもおよそ11パーセント高くなる(RA×1.11=RMS)。大抵の表面では表面粗さ部分の合計プロファイル高さ、又はピーク部及び谷部間の高さはRA値のほぼ4倍となる。衛生等級の全直径でのステンレス鋼管の表面粗さ部分における各値が表7に示される。
【0094】
【表7】

【0095】
表7に示す各値は、DCL社のBulletin on Material Welds and Finishers(Meltzer 1993)から±5%以内の精度であったと考えられる多数の試験によって得た平均データ値である。
表7に示される値によれば、従来システムでのε/DHの値の最大値は2.03ミクロン/10mm〜2×10-4mである。しかしながら、マイクロチャンネルにおける表面機能構造部分における実験結果(Wu及びCheng:2003及びHonda及びWei:2004)によると、ε/DH値は少なくとも1オーダーの大きさ分(〜10-3m)大きくなり得る。
マイクロチャンネルの表面における工学的機能構造部分は、核沸騰をも助長し得る。数ある幾何学的パラメータの中でも孔の直径は、脱離時の蒸気泡直径に対する影響が最大であることが分かった。実験(Ramaswamy他:2002)によれば、表面増大化構造に対する沸騰形態は、平坦な表面に対するそれと明確に類似するものであり、壁面の過熱温度が低〜中(4〜12℃)であると沸騰は独立蒸気泡形態で発生し、壁の過熱温度が高くなると蒸気泡合体が開始される。蒸気泡が合体すると大きな蒸気泡が生成され、結局、相間の伝熱性が低下し、システムの全体性能が低下する。しかしながら、蒸気泡合体は孔間ピッチを変化させることによりある程度制御することができる。長孔付き表面は核沸騰を助成し得るのである。その他の表面模様、例えば、冷却材チャンネルの単数あるいは複数の壁におけるサブチャンネル格子のような表面模様も有益であり得る。
一般に、蒸気泡の平均脱離直径は孔寸法が減少(一定の壁過熱温度に対して)するに従い減少する。
核沸騰のためのこうした表面増大用の機能構造部分が、従来寸法のチャンネルにおけるよりもマイクロチャンネルにおいてずっと成功裡に作用する大きな理由は、大抵の場合、マイクロチャンネル内での流れが層流であり、チャンネル間隙全体が境界層により占有されることである。こうした表面増大用の機能構造部分を用いることで境界層全体での核沸騰発生量が増え、かくしてマイクロチャンネル流れの全断面での核沸騰発生量が増大し得る。しかしながら、従来のチャンネル用途では流れ容積全体に占める境界層(層流又は乱流)の割合は僅かであるに過ぎないので、こうした形式での表面積増大用の機能構造部分によって得られる性能上の影響は比較的小さくなる。
【0096】
例12:流量配分:
複数の冷却材マイクロチャンネルを連結する開放マニホルドを有するマイクロチャンネルシステムでは、本発明は、添付する図34a及び34bのコピー元でもある米国特許出願番号10/695400号に説明されるような流れ制御機構を含み得る。
連結するチャンネルマトリクスと平行に整列させる状態で障害物を一様に配分させたバリヤが、連結するチャンネルマトリクスに入る過熱液又は飽和液の回転及び急膨張を介した圧力損失を変化させ得る。こうしたバリヤには、これに限定しないが、オリフィスプレート、スクリーン、格子、フィルター材料配列、グレーチング、が含まれ得る。マイクロチャンネル組み合わせに入る流れを変化させるために、流れ抵抗の異なるバリヤをマニホルド内に配置し、マイクロチャンネルへの流れを必要に応じて調整させ得るが、この場合、バリヤの下流側の各セクションを相互にシールしてチャンネル間漏洩が生じないようにすることが重要である。
ヘッダと整列させた状態で障害物を一様に配分させたバリヤ(バリヤはオリフィスをも創出し得る)が、連結するチャンネルマトリクスに関してゼロではない角度を成すところのヘッダの流れ方向の断面積を変化させ、かくして圧力損失を発生させ得る。この圧力損失により、連結するチャンネルマトリクスを横断する方向に流体を駆動する局部圧力が低下する。このバリヤは、連結するマイクロチャンネルマトリクスと平行に整列する状態で配分される障害物に代替させ得るものであるが、障害物と共に用いることもできる。
【0097】
連結するチャンネルマトリクスと平行に整列する状態で障害物を一様に配分させたバリアは、平衡クオリティのずっと高い流体の圧力損失量を増大させる。流体の平衡クオリティが高い程流れのモーメントが大きくなるので、バリヤを通過する流れの圧力損失量が大きくなるのである。このバリヤは各チャンネルから一定量の熱フラックスを除去するマイクロチャンネル列にとっては極めて有効なものである。バリヤは、チャンネルの出口又は入口に固定し、冷却材チャンネルマトリクス(2、5、10又はそれ以上の、平坦な、平行チャンネルを有する平行なチャンネル列の如き)を通過する局部流量を平衡化させることができる。
開放マニホルドシステムでは、こうした、マイクロチャンネル外部受け式のマニホルド構造を配置及び固定するための空間があり得る。
平行する多数の独立型のマイクロチャンネルへの流量を計測するためにオリフィスプレート設計形状(図34a及び図34b参照)を使用し得る。図中、異なるチャンネルにおける冷却材マイクロチャンネルの上部から底部にかけての流量は、プロセス流れ方向でのチャンネル壁面における非一様な熱フラックスプロファイルを収受するべく変化する。オリフィスを通る流量配分は流れ抵抗ネットワーク法により予測し、計算流体力学ツールも使用される。図49a及び図49bに示すある実施例では以下のルールを使用する。
【0098】
1)プロセス側と冷却側とを分離するチャンネルの中実壁の温度を、ビニルアセテートモノマー反応のための等温境界条件を生じさせるべく、160℃にほぼ一定に維持すべきであること。このルールは、約6気圧下での水の流れ沸騰を介して認識されたものである。
2)運転を経済的なものとするために、冷却材ループのポンピング用電力を最小化すると共に、冷却材の出口位置での流れ平衡クオリティを最大化すべきであること。従って、全運転条件下において冷却材マイクロチャンネルにホットスポットやドライアウトが生じないような条件下で、冷却材の全体的な圧力損失と流量とが最小化されるべきであること。
選択されたVAM反応モデルによれば、反応器上部(反応体域の開始位置付近)での最大熱フラックスは、その退部位置での熱フラックスのおよそ10倍もの大きさとなる。この形式のプロファイルでは、流れ沸騰の限界熱フラックス(CHF)から決定される出口蒸気クオリティ値を0.3とする条件下での、同図に示す冷却材の非一様な流量配分が必要とされる。これは、熱フラックス及び出口蒸気クオリティが所定値である流量では局所的ホットスポット又は冷却材のドライアウトの発生が防止されることを意味している。
【0099】
孔寸法の異なるオリフィスをチャンネルの入口(ヘッダ)位置に配置することで、必要流量時のチャンネルの、ヘッダにおける圧力損失を含む合計圧力損失量は同じになり得る。仮に各チャンネル用に別個のオリフィスを用いれば、特にオリフィスの長さが短い、例えば1mm未満である場合、オリフィス直径は、レイノルズ数の小さい、極めて直径の小さい(<0.1mm)ものとなる。マイクロチャンネルであること及びチャンネル数が大きい(例えば300本)ことから、その整列操作を含む製法は非現実的なものとなろう。かくして、オリフィス数の少ないオリフィスプレート形態が設計された。図50を参照されたい。この設計形状では、オリフィス直径、摩擦損失、マニホルドからの回転損失、圧力損失が関数として算出される。各オリフィスは一群のチャンネルに対応し、かくしてオリフィス寸法は通常法において作製されるに十分大きい各オリフィスにおける流れ形態は流量制御に適した乱流である。図50にはオリフィスプレートにおけるオリフィス寸法配分、ヘッダの冷却材入口からフッタの出口にかけての圧力損失量、オリフィスを横断しての圧力損失量、が示される。
【0100】
例13:温度制御のためのパーシャル沸騰を伴う化学反応器:
全体的な生産性を高く維持しつつ、副産物の生成量は逆に最小化されるように反応器温度を制御するための、発熱性化学反応器(Fischer-Tropsch合成)に隣り合うマイクロチャンネルにおけるパーシャル沸騰を評価した。パーシャル沸騰チャンバでの温度は近等温的であり、反応器を横断する温度差が10℃未満、より好ましくは5℃未満であった。
この例では、流量計測のための十分な圧力損失を創出する拘束性オリフィスを各チャンネル入口位置で使用して、平行なマイクロチャンネル列への流量が一様化又は調整されるように制御した。先に参照した特許文献には、チャンネル列(代表的には行チャンネル)へのその他の流量配分法として、マニホルド内部にサブマニホルドを使用し、多孔質媒体を使用してチャンネルへの、又はチャンネル内の流量を制御すること、又は各チャンネルへの流量をゲートサイズ変更により調節すること、を含み得る方法が説明されている。
【0101】
パーシャル沸騰流体は、上昇又は下降流れ状態下に水平又は垂直の各方向を流動し得る。上昇流れは、流れの不均衡配分の一因となるマニホルド内における水の静水圧ヘッドの問題が排除されることから好ましい。他の実施例では、パーシャル沸騰のための水その他の流体を上昇させるのは、例えば、反応混合物も多相形態であるFT合成の様な幾つかの反応に対しては問題があり得る。
この例で説明するFT反応器では、プロセスマイクロチャンネルは2部構成とされ、上半分側のマイクロチャンネルは0.1016cm(0.04インチ)のプロセス間隙を有し、下半分側のマイクロチャンネルは0.3048cm(0.12インチ)のプロセス間隙を有している。0.1016cm(0.04インチ)のプロセス間隙を有する前記上半分側のマイクロチャンネルはその2本が、下半分側の1本のマイクロチャンネル内に流体を送るようになっている。上半分側の前記2本のマイクロチャンネルは、熱抽出のためのパーシャル沸騰を生じる熱交換チャンネルにより分離される。前記上半分側の2本のプロセスマイクロチャンネルが前記下半分側の1本のプロセスマイクロチャンネルと連結する場所としての段部が画定される。この段部は、プロセスマイクロチャンネル触媒用の容積をもっと大きくし、反応器入口(新規の送給物及び細孔の反応体濃度を伴う)付近で生成された高レベルの熱容量を低下させることを意図したものである。
【0102】
質量、エネルギー、モーメント、冷却材流量配分、温度プロファイル、反応操作中の圧力損失、に対する一次元モデルを使用して、水のパーシャル沸騰をFischer-Tropsch合成用の反応温度を制御するために適用した場合を説明する。
冷却材マイクロチャンネル及びマニホルドシステムの設計は、F−T反応を350ミリ秒の接触時間で実施した場合の熱フラックスプロファイルに基づくものであった。反応器の生産性については、FT液生成量が一日当たり0.08バレル生成されるものとした。FT反応器は触媒をも収納し、反応器の一部分は高伝熱性の不活性材料製とされた。結果からは、20℃の温度下での毎分当たりのポンピング流量(LPM)が3.0リットルの場合、ヘッダの入口条件がゲージ圧での約2.44773E6Pa(355psig)及び224℃であり、周囲部分が絶縁され、各チャンネルにおける内径0.2794cm(0.011インチ)の半円形オリフィスが、0.05588cm(0.022インチ)×0.254cm(0.10インチ)の平行なマイクロチャンネル列にして、綴じ込み状態のマイクロチャンネル内でFT反応に隣り合って沸騰が生じるところのマイクロチャンネル列に対して開口すると仮定した場合に、冷却セクションを横断する壁温は、温度差範囲が驚いたことに1℃未満である224.2℃から225℃に制御されることが予測された。
【0103】
流量が3.0LPM以下であるとフッタにおける出口クオリティが高くなってフッタの全体的密度が低下し、フッタマニホルドの上部から底部に開けての圧力増量が全ての液体ヘッダにおけるそれ未満となる。又、ヘッダへの合計流量が低下すると、“段部”での流量が、ヘッダ及びフッタ間の局所的な静水圧差の相違によって単調変化的に駆動される状況下において上流側セクションにおけるよりも多くなり、オリフィスの入口セクションでの圧力損失は小さくなる。流量配分の偏差と一定の熱入力量とが組み合わさることで、上流セクションのチャンネルにおけるクオリティが高まり、かくして流れ抵抗及び流量不均衡が悪化する。このモデルによれば、ポンピング流量が1.0LPM以下であって、予測出口質量クオリティが5%である場合は逆流が予測されるため、温度を飽和温度よりも1℃低い温度下に3.0LPMで運転することが推奨される。
図36には反応器の寸法形状が例示される。冷却材はマイクロチャンネル内を交差流れ方向に流れ、プロセス流れは上部から底部方向に(重力に従って)流れる。プロセスチャンネルは反応器上部位置で最も狭幅とされ、反応基底部付近で幅広となる。反応器上部付近の冷却材チャンネルの方が反応基底部付近のそれよりも数が多い。この設計形状では、冷却材チャンネル内でパーシャル沸騰する水であるところの冷却材流れのための水平なマニホルドシステムが必要とされる。
【0104】
前提及び参照:
モデルの幾何形状:
図37にはチャンネルの概要及び重要な寸法が例示される。
冷却材マニホルドは、端部チャンネルカラムのためのの170本の、また“段部”チャンネルカラムのための83本の、幅0.05588cm(0.022インチ)、高さ0.254cm(0.100インチ)の冷却材チャンネルを有する。各チャンネルを分離する高さ約0.762cm(0.030インチ)のリブがあることから、モデル化したヘッダ及びフッタの各カラムの合計高さは170×(0.254cm+0.07cm)=約55.086cm(170×(0.100インチ+0.030インチ)=22.100インチ)となる。
オリフィスは単一のチャンネル沸騰装置において実験的に試験されてきたものであり、その開口は半円形で直径は約0.027cm(0.011インチ)であった。このオリフィスは、冷却材マイクロチャンネルへの入口位置でのオリフィスの圧力損失を、パーシャル沸騰運転中のチャンネルを通しての圧力損失よりも高くすることを目的としたものであり、そうすることで、数百本の冷却材マイクロチャンネルの各々への流量が制御される。オリフィスチャンネルは長さ約0.127cm(0.050インチ)に渡り伸延され、先に説明した主たるチャンネル断面に開放する。チャンネルの、主たる熱交換器セクション以前の上流側セクションは長さ約1.778cm(0.700インチ)である。次いで熱交換器セクションは約29.210cm(11.500インチ)に渡り伸延される。チャンネルの、フッタ以前の下流側セクションの長さは約1.905cm(0.750インチ)である。
ヘッダ及びフッタは、長さ約1.905cm(0.75インチ)×幅約2.349cm(0.925インチ)において矩形状に伸延し、その断面は直径約2.349cm(0.925インチ)の円の半円状であり、冷却材チャンネルと相互連通された。
【0105】
目標は、冷却材ループのための、一定の壁温と、高度の除熱と、力強い流れ(即ち、安定した運転)を得ることである。実験的な知見に基づいたモデルにより、運転上、マニホルドの上半分における2750W/m2の、また下半分における6500W/m2の各熱負荷を排除する設計が可能とされた。過冷却水はフッタの上部から流入してフッタの底部から排出される。
この冷却材ループは、重力方向において垂直に配列した高さが約0.56mのヘッダ及びフッタと共に垂直方向に配列した多数の除熱チャンネルを有する。流体は、飽和温度である225℃の丁度手前の温度224℃で且つ高圧(ゲージ圧での2.44773E6Pa(355psig))において流入される。直径が0.02794cm(0.011インチ)の半円形断面のオリフィスを各チャンネルに使用すること及び、出口質量クオリティの平均値が0.02であることにより、チャンネル間でのクオリティインデックスファクターは9%であった。出口温度は全てにおいて224.8℃であった。図38には、最初の17本のチャンネルの一組を第1セクションとし、最後の17本のチャンネルの一組をセクション10とする順番で並べた各セクションに対してマニホルドの平均チャンネルマスフラックス(下方軸)と、平均出口温度(上方軸)がプロット表示される。図によれば、流量は、蒸気を含むフッタの上部から底部にかけての静水圧差がヘッダにおけるそれと比較して低いので、底部側のチャンネルセットの方向への偏倚を生じる。
【0106】
この設計によれば、オリフィス内で圧力損失が生じることで十分な流れ抵抗が生じるので、流量配分が良好化され得る。長さ29.21cm(11.5インチ)のチャンネルにおける圧力損失量はこうした圧力下では非常に小さいので、オリフィス内でのそうした圧力損失が必要となるのである。図39にはマスクオリティに対するLockhart-Martenelli定数Cと、マスクオリティフラクションが0.6以上である場合の単相ガス圧力損失によって最もよく説明される圧力損失を伴う、X=0.01での8からX=0.3でのゼロまでの一定の圧力損失とが示される。
マニホルドは、対流伝熱係数が、実質的に丁度出口位置でのマスクオリティフラクション分増大することで、その壁温が225℃に良好に維持され得る。図40は室温時の単相液伝熱係数に対する伝熱係数の実験値の比を示すものである。この比はマスクオリティフラクションが0.01である場合の1から、X=0.2でのほぼ5へと急速に高くなり、かくして低容積クオリティフラクションにおいて対流沸騰伝熱の利益が得られるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fischer-Tropsch反応の実施方法であって、
触媒を含むプロセスチャンネル内でFischer-Tropsch反応を実施すること、
前記反応による熱を、少なくとも15cmの長さを有する隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルに移行させ、前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネル内の冷却流体をパーシャル沸騰させること、
を含み、
前記プロセスチャンネル内でのプロセス流れと触媒との接触時間が300ミリ秒未満であり、メタン選択制が15%未満であり、
前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルの壁位置での、該隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルの少なくとも長さ1cm当たりの平均剪断応力が実測又は計算の何れにおいても少なくとも1パスカル(Pa)であり、または、前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルがマイクロチャンネルであり且つ該隣り合うマイクロチャンネル内の冷却流体の流速が少なくとも0.1m/sである方法。
【請求項2】
前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネル内の前記冷却流体が、該隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルの少なくとも15cmの長さにおいてパーシャル沸騰され、前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルの壁位置での、該隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルの少なくとも長さ1cm当たりの平均剪断応力が実測又は計算の何れにおいても少なくとも1パスカル(Pa)である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルが、隣り合うマイクロチャンネルをプロセスチャンネルから分離するチャンネル壁の表面である内壁面を含むマイクロチャンネルを含み、プロセス中における該内壁面の温度が、マイクロチャンネル内の条件下での該冷却流体の沸騰温度よりも5℃以上は高くない温度において前記冷却流体の沸騰温度より高く、少なくとも0.1m/sの流速で前記冷却流体を前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルを通過させることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プロセスチャンネルが重力方向に関して垂直であり、前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルが重力に関して水平である請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記隣り合うミニチャンネル又は隣り合うマイクロチャンネルの幅対高さ比ににおけるアスペクト比がすくなくとも5である請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記プロセスチャンネルがミニチャンネル又はマイクロチャンネルである請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
冷却材チャンネルの平行列に隣り合うプロセスチャンネルの平行列を含み、
前記冷却材チャンネルの平行列内を流動する冷却材がパーシャル沸騰され、前記冷却材チャンネルがプロセスチャンネルに関して交差流れ状況とされる請求項1〜6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
多数の熱交換帯域を反応長さに沿って配置し、各帯域で異なる温度下にパーシャル沸騰を使用する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒がコバルトを含むアルミナ担持材を含む請求項1〜8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
パーシャル沸騰される冷却流体を使用してFischer-Tropsch反応を実施する装置であって、
冷却材チャンネルの平行列に隣り合うプロセスチャンネルの平行列を含み、
前記冷却材チャンネルが、前記プロセスチャンネルに関して交差流れ状況とされ、
前記プロセスチャンネルがFischer-Tropsch反応用の触媒を含み、
前記冷却材チャンネルが10mmあるいは10mm未満であり、長さが少なくとも15cmである装置。
【請求項11】
前記冷却材チャンネルの幅対高さ比ににおけるアスペクト比がすくなくとも5である請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記プロセスチャンネルが、装置の一端位置において狭幅とされ、装置の他端位置において幅広とされる請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
前記冷却材チャンネルの平行列がマニホルドに連結され、冷却流体が該マニホルドを通して冷却材チャンネルに入り、前記冷却流体が前記冷却材チャンネルの少なくとも15cmの長さにおいてパーシャル沸騰される請求項10に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22a】
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【図22b】
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【図22c】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30a】
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【図30b】
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【図31a】
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【図31b】
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【図32】
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【図33】
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【図34a】
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【図34b】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【公開番号】特開2012−126732(P2012−126732A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−52166(P2012−52166)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【分割の表示】特願2007−540057(P2007−540057)の分割
【原出願日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(504455241)ヴェロシス インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】