説明

ミラーおよび光触媒活性を有する親水性複合膜

【課題】光触媒性の酸化チタン層を積層した場合の反射スペクトルを制御し、防眩性と防汚性を兼ね備え、視認性に優れたミラーを提供する。
【解決手段】ガラス基板1と、反射膜2と、着色層3、酸化チタン層4および酸化ケイ素層5が順次積層された複合膜とを有し、分光反射率ピークが490〜540nmであるミラー10であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラーの分野に関し、より詳しくは防眩性と親水性が付与されたグリーンミラーに関するものである。また、本発明はこのような機能を付与する光触媒活性を有する親水性複合膜の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のアウトサイドミラーおよびインサイドミラーの用途に適する防眩性および意匠性に優れるカラーミラーの開発が注目され、例えば、このようなカラーミラーとして、特許文献1(特開2006−151203号公報)には、着色層にAg微粒子を配合することにより青色の光の反射率を抑えた防眩性を有する車両用ミラーが提案されている。
【0003】
しかしながら、このようなカラーミラーには、防眩性のみならず、防汚性を兼ね備え視認性に優れたミラーが要求されている。
【特許文献1】特開2006−151203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような要求に答えるべく、光触媒性の酸化チタン層を積層した場合の反射スペクトルを制御し、防眩性と防汚性を兼ね備え、視認性に優れたミラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、酸化チタンを積層するに際して、その積層条件を制御することにより、グリーンの色調を維持しつつ、青色光の反射を抑え、優れた防眩性と視認性を付与できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、ガラス基板と、反射膜と、着色層、酸化チタン層および酸化ケイ素層が順次積層された複合膜とを有し、分光反射率ピークが490〜540nmであるミラーであることを特徴とする。
【0007】
このような構成のミラーとしては、ガラス基板の片面に反射膜が形成され、その対向するガラス基板の面に、着色層、酸化チタン層、酸化ケイ素層が順次積層されている構造のものや、あるいは、ガラス基板の片面に反射膜が形成され、その反射膜の上に着色層、酸化チタン層、酸化ケイ素層が順次積層されている構造のものがある。
【0008】
また、本発明は、ガラス基板と、反射膜と、着色層と、酸化チタン層および酸化ケイ素層が積層された積層膜とを有し、分光反射率ピークが490〜540nmであるミラーであることを特徴とするものである。
【0009】
このような構成のミラーとしては、ガラス基板の片面に着色層、反射膜とが積層され、その対向するガラス基板の面に酸化チタン層および酸化ケイ素層が積層されている構造のものがある。
【0010】
さらに、本発明のミラーは、ミラーの反射スペクトルにおいて、短波長領域(390〜430nm)に存在する分光反射率バレーにおける反射率が、分光反射率ピークの反射率に対して、25〜55%の反射率を有し、かつ、長波長領域(650〜690nm)に存在する分光反射率バレーにおける反射率が、分光反射率ピークの反射率に対して、50〜75%の反射率を有するものであることが好ましく、また、酸化チタン層の厚さは150〜190nm程度であることが好ましものである。
【0011】
なお、このようなミラーは、ガラス基板上またはガラス基板上に形成した反射層の上に、着色層を、ケイ素含有化合物と、無機顔料と、必要に応じて溶剤とを含む液をスピンコートし、加熱することにより形成する工程と、着色層の上または着色層が形成されたガラス基板の対向するガラス基板の面上に、酸化チタンおよび酸化ケイ素を、真空蒸着またはスパッタリングにより順次積層する工程と、を経ることにより製造することができる。このようなミラーは、車両用として好ましい特性を有するものであるが、車両用に限られるものではなく、広く一般の用途に用いることができる。
【0012】
さらに、本発明は、上記のようにミラーに設ける、防眩性と防汚性を付与し視認性を高める複合膜を含み、この複合膜は、基板の表面に、着色層、酸化チタン層および酸化ケイ素層が順次積層された光触媒活性を有する親水性複合膜であることを特徴とする。なお、このような光触媒活性を有する親水性複合膜は、ミラー用に限られるものではなく、車両用として、窓ガラスやランプのレンズなどに用いられる他、建築用のガラスなどとしても用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグリーン系のミラーによれば、青色の光や黄色から橙色の光の反射が抑えられ、短波長側の光を発生する高出力放電(HID)光源や、長波長側の光を発生するハロゲンランプに対して、優れた防眩性が確保できるとともに、酸化チタンと酸化ケイ素の積層膜による光触媒活性と親水性とが付与されることから、セルフクリーニング性を有し、さらに雨滴がミラーの表面にあたっても水滴としてミラー表面に存在しないことから、視認性に優れたミラーが提供される。なお、本発明のグリーン系の色調は、大半の人がグリーン色を好むことから、意匠性も向上するという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0015】
本発明のミラーは、分光反射率ピークが490〜540nmである、いわゆるグリーン系の色調を有するミラーであり、ガラス基板と、反射膜と、着色層、酸化チタン層および酸化ケイ素層を順次積層した光触媒活性を有する親水性複合膜とを有するか、あるいはガラス基板と、反射膜と、着色層と、酸化チタン層および酸化ケイ素が積層された積層膜とを有するものである。本発明のミラーの構成を図示すると、図1の(A)から(C)の構造のものとなる。図1の(A)は、ガラス基板上に反射膜を設け、その対向するガラス基板の面に、着色層、酸化チタン層、酸化ケイ素層が順次積層されているものである。また、(B)は、ガラス基板の片面に反射膜、着色層、酸化チタン層、酸化ケイ素層が順次積層されているものである。さらに、(C)は、ガラス基板の片面に着色層、反射膜が順次積層され、その対向するガラス基板の面に酸化チタン層および酸化ケイ素層が積層されている構成を有するものである。
【0016】
本発明のミラーは、ミラーにグリーンの色調を付与する無機顔料を主成分とする塗料を塗布することにより着色層を設ける。着色層を形成するための塗料としては、金属酸化物系の無機顔料と、バインダーと、溶剤と、必要に応じて各種添加剤などから構成される。
【0017】
無機顔料としては、Co、Cr、Cu、Al、Ni、Zn、Ti、Li、Sbの元素の金属酸化物単体や2種以上の元素を組み合わせた混合金属酸化物が使用できる。無機顔料の一次粒子の粒径は、ミラーとして使用する場合に、着色層に白濁や曇りが発生しなければ0.5μm以下のものが使用可能であるが、一次粒子は細かいほど良く、粒径としては0.1μm、好ましくは、0.07μm以下が良い。また、通常、無機顔料同士が凝集していることが多いので、ミラーとして使用する場合に着色層が白濁や曇りが生じないように充分に混合、分散することが必要である。
【0018】
このようなグリーンミラーの色調の無機顔料としては、例えば、(Co−Ni−Zn−Ti)酸化物のコバルト顔料や(Co−Cr−Ni)酸化物のコバルト顔料が使用でき、コバルトグリーン2024(アサヒ化成工業社製、平均一次粒子径0.1μm以下)など市販のものが使用できる。
【0019】
着色層の表面に酸化チタン層、酸化ケイ素層を成膜した後、紫外線照射による光触媒効果で顔料が酸化分解して変色や褪色、着色層の膜剥離を防止するため、主に無機顔料を使用するが、補助顔料として少量のフタロシアニンブルーやフタロシアニングリーンなどの有機顔料を使用することもできる。
【0020】
着色用の塗料では皮膜形成成分としてのバインダーを用いる。バインダーに使用できる材料は、着色層の表面に酸化チタン層、酸化ケイ素層を成膜した後、紫外線照射による光触媒効果でバインダーとなる材料が酸化分解して着色層が膜剥離することを防止するため、加熱硬化後無機質に近くなる物質が好ましく、ジメチルシリコーン樹脂を代表とする未変性アルキルシリコーン樹脂や、ポリエステル、エポキシ、アクリル等との変性シリコーン樹脂、あるいはジ、トリ、テトラアルコキシシリケート化合物、水ガラスが使用できる。着色層の膜硬度を高めるためには前記のシリコーン樹脂と前記の炭素数1〜10のアルコキシシリケート化合物を混合して使用することが有効である。シリコーン樹脂等のバインダーは、結着成分としての役割を果たし、顔料の分散固化や基材表面との接着に寄与する。
【0021】
着色層を形成するための塗料は、上記の無機顔料とバインダーとを充分に混合分散して調製するが、この際、希釈剤や分散剤などの添加剤を添加することができる。無機顔料とバインダーとの混合割合は、無機顔料とバインダーとの総量に対して、無機顔料が20〜80重量%、好ましくは45〜60重量%であることが好ましい。無機顔料の配合割合が20重量%以下では着色層の膜厚を厚くしても淡い色調となり、80重量%以上では膜形成後、顔料の脱落や膜の密着性が低下する傾向が見られる。
【0022】
なお、使用する希釈剤としては、バインダーと相溶性のある有機溶剤が使用でき、その量は分散方法、塗工方法に応じて適宜調製されるが、希釈剤としては、一般にアルコール、エステル、ケトンおよびトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素を使用することができる。また、分散剤としては、塗膜の焼成時に分解し、塗膜を構成する成分にならないものがよく、市販のカルボン酸またはアミノ基変性の樹脂系の分散剤を用いることができる。
【0023】
なお、必要に応じて添加することができるその他の添加剤としては、適切な塗料特性を付与するためのレベリング剤、消泡剤等の各種添加剤、および焼成後に得られる着色層に望ましい性能を付与するための光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等があげられる。
【0024】
また、混合分散は、周知の方法により行うことができ、一般に、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、三本ロール、ペイントシェーカーなどが用いられる。
【0025】
このようにして得られた塗料をガラス基板などに塗工し、乾燥、焼成することにより着色層を形成する。
【0026】
塗工は、スピンコート法、スプレー法、フローコート法、デップ法、リバースコート法等により行うことができ、次いで、300℃以上、15分以上の加熱条件で乾燥、焼成することにより着色層が形成される。着色層の膜硬度を向上させるには、高温での乾燥、焼成が必要であり、ガラス基板と同等な膜硬度を達成するには、600〜800℃で3分以上の乾燥、焼成を必要とする。
【0027】
ここで形成した着色層は、後述する反射膜を設けた後、防眩性を達成するため、次のような基準を満たすことが必要である。
【0028】
基準となるグリーンミラーの分光反射率ピークは波長490〜540nmであり、好ましくは510〜525nmである。このような分光反射率ピークを有するグリーンの色調は青色と同等に人に好まれる色調であり、バックミラー等に使用した場合の意匠性が向上する。
【0029】
光学的には、ピーク波長より短波長側は、人の視感度が夜間に短波長側にシフト(プルキンエシフト:明所視での(昼間の)ピーク波長が555nm(黄緑色)となり、暗所視での(夜間の)ピーク波長が510nm(青色)となり、暗所では視感度が青色方向に移動すること)するので青色の光を感じやすくなる。したがって、夜間、ディスチャージヘッドランプなどの強い青色光成分を含む光を眩しく感じやすくなるが、グリーンミラーは波長490nm以下(青い光の波長域)の反射率が急激に低下できるので、青色系の光の反射を軽減でき防眩効果を発揮する。一方、ピーク波長より長波長側は、黄緑色や黄色及び赤色の光である。黄緑色や黄色の反射光は眩しく感じる光の波長域であること、また、赤色系の反射光となり色彩上問題があり、共にバックミラーの防眩性や意匠性が低下する。しかしながら、グリーンミラーは波長540nm以上の反射率を低減できるので、これらの問題も解決可能である。したがって、ハロゲンランプのように黄色から橙色の光源をもつライトに対しても防眩効果を発現できる。
【0030】
また、基準となるグリーンミラーの全可視光領域に対する反射率は38〜55%、好ましくは38%〜50%が適正であり、反射率が38%以下であると視認性が低下し、55%以上であると防眩性が低下する。
【0031】
なお、着色層の膜厚もこのような反射率や色調の観点から定められるが、通常、0.1〜5μm、好ましくは0.5〜1.5μm程度である。
【0032】
本発明のミラーの反射膜としては、周知の材料が使用でき、例えば、Al、Cr、Ti、Ag、Au等の単体金属または合金から、必要とする反射率に応じて選択し、蒸着やスパッタリングなどの周知の方法で成膜する。例えば、Alの蒸着膜の場合、反射率が高いものが得られるが、一方、Crの蒸着膜の場合はAlに比べて反射率が低くなり、防眩性が要求される場合などには好ましいものである。
【0033】
本発明のミラーは、光触媒活性を付与するために、酸化チタン層を設ける。この酸化チタン層の形成によって、着色層の基準となるグリーンの色調に変化することがあってはならない。したがって、本発明で成膜する酸化チタン層は次のようなものとなる。
【0034】
酸化チタン層は、真空蒸着、スパッタリング法やイオンプレーティング法のようないわゆるPVD法により調製することができる。具体的に真空蒸着の場合について説明すると、真空蒸着装置内に、蒸発源となる酸化チタンをセットするとともに、基板をセットし、真空槽内の圧力を6.6×10−4〜6.7×10−2Pa程度まで減圧し、それと同時に基板を280〜500℃、好ましくは280〜400℃の温度となるように加熱して、真空環境を作る。次いで、酸素ガスを真空圧力計を確認しながら、6.6×10−3〜6.7×10−2Pa程度となるようにマスフローコントローラーを介して導入し、酸化チタンにエレクトロンビームを照射することにより加熱し、シャッターを開き、蒸着を開始する。蒸着膜厚は光学式膜厚計または水晶式膜厚計などにより監視し、所定の膜厚となった時シャッターを閉じ、基材上に形成された酸化チタン層を得る。なお、蒸着速度は、0.2〜0.7nm/sec程度であることが好ましい。
【0035】
形成される酸化チタン層は光触媒性に優れるアナターゼ型の酸化チタンであることが好ましく、これは、X線回折などにより、2θ=25.3°に現れる(101)面からのピークの存在により確認することができる。
【0036】
酸化チタン層の膜厚は、70〜200nmであり、色調の点を考慮すると、150〜190nmであることが好ましく、160〜190nmであることがより好ましい。
【0037】
次いで、酸化チタン層の上に、親水性の付与や機械的強度の向上などのため、酸化ケイ素層を設ける。酸化ケイ素層は、上述の酸化チタン層を形成する場合と同様にして、蒸着源として酸化チタンに代えて酸化ケイ素を用いることにより酸化チタン層の上に成膜することができる。酸化ケイ素層の膜厚は、2〜50nm程度、色調の点を考慮すると、2〜30nmであることが好ましい。このようなミラー表面の酸化ケイ素層は、酸化チタンの光触媒作用によって生じた正孔による水の酸化で発生するヒドロキシラジカルにより、Ti−OHよりも格段に安定なSi−OHが生じ、これが親水性を長期間にわたって維持するものであると考えられる。また、酸化ケイ素層の膜厚を増加すると酸化チタンの屈折率との関係で、反射率を低下できる効果もある。
【0038】
なお、本発明のミラーで用いるガラス基板は、特に制限されるものではなく、例えば、ソーダガラスなどの周知のガラスを用いることができる。なお、基材としてソーダガラスなどを用い、ガラス基板上に酸化チタン層を形成する場合には、約400℃以上の温度でガラス中のナトリウムイオンが酸化チタン層に拡散して、NaTi層が形成され、この層が電子−正孔対の再結合中心として作用し、光触媒活性が損なわれる場合がある。これを防ぐには、ガラス基材と酸化チタン層との間に酸化ケイ素層などのバリヤー層を介在させることが好ましい。
【0039】
このようにして得られるミラーは、反射スペクトルの分光反射率ピークが490〜540nmものでありグリーンの色調を帯び、防眩性と、セルフクリーニング性や親水性が付与され、しかも意匠性に優れるものである。また、可視光領域に対する反射率は40〜55%であることが防眩性、視認性の点で好ましいものである。
【0040】
さらに、本発明のミラーは、反射スペクトルにおいて、短波長領域(390〜430nm)に存在する分光反射率バレーにおける反射率が、分光反射率ピークの反射率に対して、25〜55%の反射率を有し、かつ、長波長領域(650〜690nm)に存在する分光反射率バレーにおける反射率が、分光反射率ピークの反射率に対して、50〜75%の反射率を有するものであり、これにより着色層の色調と同様な色調を示し、言い換えれば、酸化チタン層、酸化ケイ素層を積層しても反射スペクトルに変化がないものが得られる。
【0041】
なお、本発明のミラーは、必要に応じ、前述したミラーの構造のうちいずれの構造のものとしてもよく、これらのミラーは、上述のガラス基板、着色層、反射膜、酸化チタン層、および酸化ケイ素層を、作製するミラーの構造にしたがい、順次積層することにより製造することができる。
【0042】
また、本発明の親水性複合膜も同様に、上記の着色層、酸化チタン層および酸化ケイ素層を基板表面に順次積層することにより製造することができる。その詳細は、上述したとおりである。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例などにより更に詳しく説明するが、以下の実施例によって制限されるものではない。なお、実施例においては、図1の(A)で示したミラー構造の場合を例として説明する。
【0044】
(A)着色層の作製と評価
実験例1
(a)グリーンミラーの作製
(1) まず、(Co−Ni−Zn−Ti)酸化物のコバルト顔料(一次粒径0.04μm)30質量部と、分散助剤樹脂(ルーブリゾール社製「ソルスパース24000」、商品名)5質量部と、n−ブタノール65質量部とをサンドミル内に入れ、次いで20〜40℃の温度範囲で、6時間にわたって混練分散し、ライトグリーン色のペーストを調製した。次いで、酢酸エチル61.25質量部およびトルエン61.25質量部の溶剤とシリコーン系樹脂(信越化学工業社製「KR−9706」、商品名)24.5質量部(固形分換算)とを混合して調製したシリコーン樹脂と、上記で調製したペースト100質量部とを混練分散して塗料を作製した(乾燥、焼成後の塗膜成分はシリコン樹脂:無機顔料=45w%:55w%である)。
【0045】
(2) 次いで、洗浄したガラス基板の表面に、得られた塗料のゾル液をスピンコート法で塗布した。
【0046】
(3) このガラス基板を加熱炉中で300℃で、30分、予備乾燥、焼成後、膜硬度を高めるため680℃で、10分、乾燥、焼成し着色層を作製した。作製した着色層は、段差計(KLA−tencor社製 アルファステップ500)で測定した結果、膜厚は1.4μmであった。
【0047】
(4) ガラス基板の裏側(着色層を設けていないガラス面)にスパッタリング法でクロム被膜を形成し、「反射膜/ガラス基板/着色層」の構造のグリーンミラーを作製した。
(5) 得られたグリーンミラーの反射率を積分球式反射率計(村上色彩技術研究所社製:RM−5)で測定したところ42%であった。なお、比較のため、透明ガラスにクロム被膜を形成したミラー(クロムミラー)の反射率を測定したところ48%であった。
【0048】
(6) また、グリーンミラーの分光反射率特性を分光光度計(日本分光社製:V−550)で測定した。測定結果を図2に示す。緑色を呈するピーク波長が520nmのなだらかな分光反射率曲線であった。
【0049】
(b)グリーンミラーの評価
本発明の酸化チタン層、酸化ケイ素層が積層されたグリーンミラーは基本的にガラス基板の表面に、着色層、酸化チタン層、酸化ケイ素層を順次積層させて完成するため、下地となる着色層の膜形成条件を変化させ評価した。まず、バインダーであるシリコン樹脂と無機顔料の配合割合の影響を検討した。
【0050】
(1) シリコン樹脂と無機顔料の混合割合の検討
シリコン樹脂と無機顔料の混合割合を表1に示すように変化させて、着色層を形成し、実験例1と同様にしてグリーンミラーを作製した(実験例2〜8)。次いで、得られたグリーンミラーの外観、密着性、膜硬度等の耐久性を評価した。
【0051】
外観の評価は目視により観察し、曇り、白濁、割れ、クラックなどの異常が認められないものをOKとした。
【0052】
密着性の評価は碁盤目試験と蒸気試験で行い、碁盤目試験は、着色層を1mm間隔でクロスカットした後、セロテープ(登録商標)(ニチバン社)、を貼り付け、強く引きはがした時にミラー(着色層)に残った数で評価した(碁盤目試験:JIS K5400−8、5項。テープ規準:JIS Z1522)。
【0053】
また、蒸気試験は、90℃の飽和蒸気中に5時間放置した後の、ミラーの外観の変化を目視により観察し、評価した。
【0054】
塗膜の硬度は、キムワイプ(登録商標)S−200(クレシア社)、を用いて250g/cmの荷重で10往復擦った後の傷の有無を目視により観察し、評価した。
【0055】
なお、総合評価は、各種評価結果の結果を総合して、○:使用に問題のない、△:使用するに際して若干の問題が残る、×:使用できない、との評価基準でもって示したものである。
【表1】

【0056】
表1によれば、(ア)無機顔料の混合量が多い実験例2、実験例3は膜形成後、無機顔料がシリコーン樹脂に十分に覆われず、密着力不足や膜硬度が低下する傾向が認められ、(イ)無機顔料の混合量が少ない実験例7、実験例8は膜形成時、加熱乾燥、焼成処理でシリコン樹脂体積収縮が大きくその応力により膜にひび割れが生じる傾向が認められる。以上のことより、シリコン樹脂と無機顔料の混合割合は、好ましくは無機顔料20〜80w%:シリコン樹脂80〜20w%で使用可能であることがわかる。
【0057】
(2) 乾燥、焼成条件の検討
実験例1で行った予備乾燥、焼成300℃、30分後のものについて、本乾燥、焼成の条件を表2に記載した条件に変更して着色層を形成し、実験例1と同様にしてグリーンミラーを作製し、同様に外観、密着性、膜硬度等の耐久性について評価した(実験例9〜14)。結果を表2に示した。
【表2】

【0058】
表2によれば、(ア)予備乾燥、焼成で300℃、10分加熱した後、同温度で更に10分乾燥、焼成を加えた実験例9は、密着力や膜硬度は使用段階に近い状態となる。更に高温とした実験例10〜13では膜硬度が高くなる傾向である。また、ガラス基板と同等な膜硬度達成には600℃以上の温度が必要であることもわかる。(イ)一方、800℃を超える温度では、ガラス基板の熱変形が起こりミラーとしての使用が不可能となる場合がある。これらのことを考慮すると、着色層の本乾燥、焼成温度は600〜800℃が好ましいものであることがわかる。
【0059】
実施例1
(a)酸化チタン層、酸化ケイ素層の成膜
酸化チタン層、酸化ケイ素層を設けた後で、グリーンミラーの色調を変化させないためには、得られた積層膜(酸化チタン、酸化ケイ素の積層膜)の色調が緑色に近くなければならない。積層膜の色調は主にガラスより屈折率が高い酸化チタン膜の膜厚で決まる。光学膜の計算により緑色の反射光となる酸化チタンの膜厚を特定した。比較的低膜厚な酸化チタン膜(屈折率(n)=2.2〜2.3)の光干渉作用で、緑色に近い反射光となる膜厚は55nm、150nm、270nmが計算で求められた。このうち、150nmが適正な膜厚である。酸化チタン膜で十分な光触媒作用を起こさせるためには、酸化チタンのアナターゼ型結晶が成長していることが必要で、良好なアナターゼ結晶が成長する膜厚は80nm以上を必要とする。
【0060】
また、酸化チタンの膜厚が厚くなると、酸化チタンが可視光線波長域(波長=400〜700nm)にいくつかの反射ピークが存在するため、緑色の反射光でも違う色が交じり合うこともあり、基本となるグリーンミラーの色調が得られなくなる。グリーンミラーの分光反射特性と同じ可視光線波長域に1つの分光反射率ピークが得られるのは、膜厚が約150nmの時である。
【0061】
実験例で得られたグリーンミラーの着色層の上に次のようにして、酸化チタン層、酸化ケイ素層を順次積層した。
【0062】
(1) 実施例1で作製したグリーンミラーを電子銃を加熱源とする真空蒸着機中セットし、真空槽を真空ポンプで2.6×10−3Paまで排気した。同時にグリーンミラーをヒーターで330℃まで加熱した。
【0063】
(2) 酸素ガスを真空槽にマスフローコントロラー(MFC)で導入し、真空槽内の圧力を2.6×10−2Paにした。
【0064】
(3) あらかじめ材料投入しておいた酸化チタン(TiO)および酸化ケイ素(SiO)蒸着材料(キャノンオプトロン社製)のうちの酸化チタン(TiO)にエレクトロンビーム(EB)を照射し加熱した後、シャッターを開け蒸着を開始した。 蒸着時の膜厚は光学膜厚計(シンクロン社製:OPM−6)で監視し、中心波長560nmの干渉フィルターを使用し3λ/4で蒸着を終了し酸化チタン層を形成した。また、蒸着速度は水晶式膜厚計(XTC)で0.5nm/secで監視しながら行った。
【0065】
(4) 酸素ガスを真空槽にMFCを介して導入し、真空槽内の圧力を1.3×10−2Paにした。
【0066】
(5) 次に、蒸着材料を酸化ケイ素(SiO)に変更して、エレクトロンビーム(EB)を照射し加熱した後、シャッターを開き、蒸着を開始した。蒸着時の膜厚は光学膜厚計の光量変化を計算し、20nmの膜厚値となった時点で蒸着を終了し酸化チタン層の上に酸化ケイ素層を形成した。これにより親水膜が付与された酸化チタン、酸化ケイ素積層膜の成膜を完了した。
【0067】
(b)酸化チタン層、酸化ケイ素層の成膜したグリーンミラーの評価
(1) 完成した着色層の上に、酸化チタン層、酸化ケイ素層が積層されたグリーンミラー(「グリーン積層膜ミラー」という)の可視光領域に対する反射率は47%であった。グリーン積層膜ミラーの断面構造は図1の(A)とおりである。また、得られたグリーン積層膜ミラーの分光反射特性を基準となる実験例1のグリーンミラーの分光反射特性とともに図3に示した。
【0068】
図3によると、グリーン積層膜ミラーには、波長490〜540nmの領域に分光反射率のピークとなる点「図中のA点」があり、これを挟んで、短波長領域(390〜430nm)に存在する分光反射率のバレーとなる点「図中のB点」と、長波長領域(650〜690nm)に存在する分光反射率のバレーとなる点「図中のC点」とが、存在することがわかる。そして、この分光反射特性は、実施例1のグリーン積層膜ミラーにおいては、 A点(分光反射率ピーク):520nm(反射率=59.3%)
B点(短波長側バレイ):400nm(反射率=23.2%)
C点(長波長側バレイ):670nm(反射率=39.1%)
であり、実験例1のグリーンミラーと同様な色調を確保するためには、図3に示すA、B、C点の波長(位置)とその反射割合を、ある程度保つ必要がある。実施例1のグリーン積層膜ミラーの場合、
B/A=0.39
C/A=0.66
であり、適正な範囲にあることがわかる。なお、適正な範囲としては、B/Aは25〜55%であり、C/Aは50〜75%である。
【0069】
(2) 積層膜の酸化チタン層と酸化ケイ素層の膜厚と屈折率(n)は、エリプソメーター(フィリプス社製:SD2303)でモニターガラスを使用し測定した。結果を表3に示した。
【表3】

【0070】
(3) また、酸化チタン層の結晶性をX線回折装置で分析したところ、アナターゼ型の結晶であることが確認された。XRD測定結果を図4に示した。
【0071】
(4) 次に、グリーン積層膜ミラーの光触媒性と親水性能を評価した。
【0072】
グリーン積層膜ミラー表面に、0.1w%エンジンオイル−ジクロロメタン溶液をディッピング法で塗布し乾燥後、ブラックライト(フナコシ社製:UVL−56)で紫外線(1mw/cm)を照射し、ミラー表面の水滴接触角の変化を観察した。なお、比較例1として着色層を設けなることなく、実施例1と同様に作製したサンプル、すなわち、着色層がなくガラス表面に積層膜を設け親水膜が付与されたクロムミラーを用いて、同様に評価した。結果を図5に示した。
【0073】
図5によると、実施例1および比較例1とも同様な傾向を示し、共に紫外線照射4時間で水滴接触角が5°以下の超親水性表面となった。このことより、着色層を設けたグリーン積層膜ミラーにおける着色層は、酸化チタンの光触媒活性の発現を妨げるものでないことがわかる。なお、水滴接触角の測定は、接触角計(協和界面化学社製、CA−X)を用いて測定した。
【0074】
(5) 次に得られた、グリーン積層膜ミラーおよび比較例1のクロムミラーについての耐久性の評価を行った。なお、評価項目中、「外観」は得られたミラーの外観を目視により観察し、曇り、白濁、割れ、クラックなどの異常のないものをOKとし、また、膜硬度は、上述のキムワイプ(登録商標)S−200(クレシア社)、の代わりにスチールウール:0000を用いて、250g/cmの荷重で10往復擦った後の傷の有無を目視により観察し、評価したものである。結果を表4に示した。
【表4】

【0075】
表4によると、グリーンミラーの着色層の表面に酸化チタン層、酸化ケイ素層を積層して、光触媒性と親水性を付与する処理をしても、密着性の低下やクラックを発生させるようなことはなく、グリーン積層膜ミラーの積層膜は強度な密着力があることがわかる。
【0076】
(c)酸化チタン層が分光反射特性に与える影響の検討
(1) グリーン積層膜ミラーの積層膜の成膜での色調の範囲を決定するため、酸化チタン層を蒸着する時の光学膜厚計の干渉フィルターの波長を変化させ、酸化チタン層の膜厚を変化させたグリーン積層膜ミラー(ミラー2〜6)を作製し、反射スペクトルにおいて図3に示したA、B、C点の推移と色調を観察した。なお、酸化チタン層の膜厚以外の蒸着条件と酸化ケイ素層の蒸着条件、膜厚は実施例1と同様にして作製した。結果を実施例1とともに表5に示した。
【表5】

【0077】
表5によると、実施例1のグリーン積層膜ミラーと比較して、酸化チタン層の膜厚を実施例1よりも薄くしたミラー2、3ではA、B、C点の波長がいずれも短波長方向になることがわかる。ミラー2はA点の波長が青色の範囲となリ、さらにC点よりも長波長側の反射率も高くなるため、その影響もあるが、グリーン積層膜ミラーの色調が青味を帯びて、グリーン積層膜ミラーとは言い難くなる。
【0078】
また、実施例1のグリーン積層膜ミラーと比較して、酸化チタン層の膜厚を実施例1よりも厚くしたミラー4、5、6ではA、B、C点の波長がいずれも長波長方向になる。グリーン積層膜ミラーの色調は徐々に黄色が強くなり、ミラー6では黄緑色となり実施例1のグリーンの色調と同等とは言い難くなる。
【0079】
これらの結果によれば、グリーン積層膜ミラーに適用する、酸化チタン層の膜厚の範囲は150〜190nm、好ましくは165〜180nmが好ましいことがわかる。
【0080】
(2) 次に、図3に示す実施例1の分光反射特性のA点より短波長側を、実験例1のグリーンミラーの特性に近似させるための検討を行った。
【0081】
具体的には真空槽内の圧力を変更することにより、酸化チタン層の蒸着時の酸素分圧 を表6に示すように変化させ、グリーン積層膜ミラー(ミラー7〜10)を作製し、分光反射スペクトルを測定して反射特性を評価した。酸化チタン層蒸着時の酸素分圧以外の蒸着条件と酸化チタン層の膜厚、および酸化ケイ素の蒸着条件、膜厚は実施例1と同様にした。結果を実施例1とともに表7に示した。
【表6】

【表7】

【0082】
表6によると、真空槽内の圧力を変化することで酸化チタンの屈折率が変化し、圧力が低くなるほど屈折率が高くなる傾向にあることがわかる。
【0083】
一方、表7によると、ミラー反射率はいずれもほぼ同等の値を示している。屈折率が高いミラー9、10は、B点/A点及びC点/A点の値が実施例1と比較して低い値となる。また、A点の反射率が大きくなるので、より緑色が強調される。なお、グリーミラーに酸化チタン層と酸化ケイ素層を積層して得られるグリーン積層膜ミラーの可視光領域に対する反射率は、防眩性などの点から40〜55%であることが好ましいが、いずれのグリーン積層膜ミラーもこの範囲の反射率を満たしていることがわかる。
【0084】
一例として、ミラー8およびミラー10について、得られた分光反射スペクトルを図6に示した。図6によると、屈折率が高いミラー10は、A点より短波長側の反射率が、実施例1で作製したグリーン積層膜ミラーよりも実験例1の基準となるグリーンミラーにより近似している。また、グリーンの基準となる実験例1のグリーンミラーよりもA点付近の反射率が高いので緑色の反射光が強調されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明のミラーの構造を示す模式的断面図である。
【図2】グリーンミラーの基準となる分光反射スペクトルを示すチャート図である。
【図3】本発明のミラーの分光反射スペクトルを示すチャート図である。
【図4】本発明の酸化チタン層のX線回折(XRD)結果を示すチャート図である。
【図5】本発明のミラーの光触媒活性の指標として、紫外線照射時間と水滴の接触角との関係を示すグラフである。
【図6】本発明のミラーの分光反射スペクトルを示すチャート図である。
【符号の説明】
【0086】
1 ガラス基板
2 反射膜
3 着色層
4 酸化チタン層
5 酸化ケイ素層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と、反射膜と、着色層、酸化チタン層および酸化ケイ素層が順次積層された複合膜とを有し、分光反射率ピークが490〜540nmであるミラー。
【請求項2】
ガラス基板と、反射膜と、着色層と、酸化チタン層および酸化ケイ素層が積層された積層膜とを有し、分光反射率ピークが490〜540nmであるミラー。
【請求項3】
反射スペクトルにおいて、短波長領域(390〜430nm)に存在する分光反射率バレーにおける反射率が、分光反射率ピークの反射率に対して、25〜55%の反射率を有し、かつ、長波長領域(650〜690nm)に存在する分光反射率バレーにおける反射率が、分光反射率ピークの反射率に対して、50〜75%の反射率を有する請求項1または請求項2に記載のミラー。
【請求項4】
基板の表面に、着色層、酸化チタン層および酸化ケイ素層が順次積層された光触媒活性を有する親水性複合膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−107425(P2008−107425A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288141(P2006−288141)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000000136)市光工業株式会社 (774)
【Fターム(参考)】