説明

ミラーセラピーシステム

【課題】患部が比較的広範囲に及ぶ場合にも使用でき、また、表示された映像が患側の四肢と錯覚されやすいミラーセラピーシステムを提供する。
【解決手段】制御装置5は、患者2の健側の半身を映した半身映像を撮像装置4から取得する映像取得部51と、取得した半身映像を左右反転させて反転映像を生成する反転処理部52とを有している。さらに、制御装置5は、患者2の身体の中心線同士が重なるように半身映像と反転映像とを合成することにより合成映像を生成する合成処理部53と、この合成映像を表示装置3に表示させる表示処理部54とを有している。これにより、表示装置3の表示面30には、患者2の健側のみを取り出して左右方向の中心で折り返してなる合成映像が、患者2の全身に相当する全身像として表示されることになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四肢欠損や片麻痺など、左半身と右半身とのいずれかに障害を持つ患者に対し、幻肢痛の改善や麻痺症状の緩和に使用されるミラーセラピーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば片方の手首から先を欠損した人は、患側(欠損した側)の手の位置に、たとえば指が無いにも関わらず指の痛みを感じることがある。このような症状は幻肢痛と呼ばれ、手に限らず四肢の一部を失った四肢欠損の患者には幻肢痛を訴える人が多い。幻肢痛は、一般的に、脳のある特定の部位が錯覚を起こすことによって生じる現象であると考えられている。
【0003】
このような症状を改善するための治療として、従来から、ミラーセラピーという治療が知られており、実際にミラーセラピーにより症状が改善されたという報告例は多数ある。ミラーセラピーは、患側の四肢を隠すように配置された鏡に健側(正常に機能する側)の四肢を映すことにより、患者に対し、鏡に映った健側の四肢の鏡像があたかも患側の四肢であるかのように見せ、健側の四肢の動きを患側の四肢の動きと錯覚させる治療である。同様の治療は、四肢欠損による幻肢痛を患っている患者だけでなく、脳卒中等により片麻痺を患っている患者に対しても、麻痺症状を緩和するために有効であることが知られている。
【0004】
また、ミラーセラピー以外の治療法で、幻肢痛の改善や麻痺症状の緩和に用いられる治療支援装置も提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載の治療支援装置は、健側の四肢の位置および姿勢に基づいて患側の四肢の位置および姿勢を演算し、演算結果に基づいて患側の四肢の映像を仮想的に表示する。この治療支援装置では、健側の四肢の位置および姿勢を検出するために、患者の各部に取り付けられた磁気センサ等が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−298430号公報(第0021〜0023段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一般的なミラーセラピーは、たとえば手首から先を欠損している等、患部が比較的狭い範囲の場合に限り用いられている。すなわち、たとえば肩関節から先を欠損している等、患部が広範囲に及ぶ場合、患者が正面を向いた自然な姿勢で健側、患側両方の四肢を視認するためには、患者の全身を鏡に映す必要がある。しかし、患者の全身を鏡に映した状態では、上述のように患側の四肢を隠す位置に配置された鏡に健側の四肢を映すことにより、健側の四肢の鏡像を患側の四肢であるかのように患者に錯覚させることは難しい。
【0008】
また、特許文献1に記載されている治療支援装置は、健側の四肢の位置および姿勢に基づいて、患側の四肢の位置および姿勢を演算するため、比較的複雑な演算処理が必要となる。したがって、この治療支援装置では、健側の四肢の動きと治療支援装置にて表示される映像との間にタイムラグが生じやすく、リアリティに欠け、表示された映像が患側の四肢と錯覚されにくいという問題がある。
【0009】
本発明は上記事由に鑑みて為されており、患部が比較的広範囲に及ぶ場合にも使用でき、また、表示された映像が患側の四肢と錯覚されやすいミラーセラピーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のミラーセラピーシステムは、左半身と右半身とのいずれかに障害がある患者の正面に配置され前記患者と向き合う表示面に映像を表示する表示装置と、前記患者の前方に配置され前記患者の映像を撮像する撮像装置と、前記表示装置に表示させる映像を制御する制御装置と、前記表示面に対して前記患者側に配置され前記表示装置に表示された映像を透過させるハーフミラーとを備え、前記制御装置は、前記患者の左半身および右半身のうち健側の映像を半身映像として前記撮像装置から取得する映像取得部と、前記半身映像を前記表示装置に表示させる表示処理部とを有し、前記表示処理部は、前記ハーフミラーに映る前記患者の全身の鏡像のうち患側である右半身あるいは左半身の鏡像に重なる位置に前記半身映像が表示されるように、前記表示面上の前記半身映像のサイズを調整するサイズ調整部と、前記表示面上の前記半身映像の位置を調整する位置調整部とを有することを特徴とする。
【0011】
このミラーセラピーシステムにおいて、前記制御装置は、前記映像取得部で取得した前記半身映像を左右反転させて反転映像を生成する反転処理部と、前記半身映像と前記反転映像とを合成して前記患者の全身に相当する合成映像を生成する合成処理部とを有し、前記表示処理部は、前記ハーフミラーに映る前記患者の前記健側の鏡像と重なる位置に前記反転映像が表示されるように、前記表示装置に前記合成映像を表示させることがより望ましい。
【0012】
このミラーセラピーシステムにおいて、前記半身映像と、前記ハーフミラーに映った前記患者の前記健側の鏡像とが組み合わされて前記患者の全身に相当する全身像を形成するように、前記表示処理部は、前記表示装置に前記半身映像のみを表示させることがより望ましい。
【0013】
また、本発明のミラーセラピーシステムは、左半身と右半身とのいずれかに障害がある患者の正面に配置され前記患者と向き合う表示面に映像を表示する表示装置と、前記患者の前方に配置され前記患者の映像を撮像する撮像装置と、前記表示装置に表示させる映像を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記患者の左半身および右半身のうち健側の映像を半身映像として前記撮像装置から取得する映像取得部と、前記映像取得部で取得した前記半身映像を左右反転させて反転映像を生成する反転処理部と、前記半身映像と前記反転映像とを合成して前記患者の全身に相当する合成映像を生成する合成処理部と、前記合成映像を前記表示装置に表示させる表示処理部とを有し、前記表示処理部は、前記合成映像が前記患者に対して全身の鏡像と錯覚させるサイズおよび位置に表示されるように、前記表示面上の前記合成映像のサイズを調整するサイズ調整部と、前記表示面上の前記合成映像の位置を調整する位置調整部とを有することを特徴とする。
【0014】
このミラーセラピーシステムにおいて、前記サイズ調整部は、前記半身映像を実物の2分の1のサイズで前記表示装置の前記表示面に表示させることがより望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、患部が比較的広範囲に及ぶ場合にも使用でき、また、表示された映像が患側の四肢と錯覚されやすいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1のミラーセラピーシステムのシステム構成を示す概略図である。
【図2】同上の動作を示すフローチャートである。
【図3】同上の動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の実施形態では、四肢欠損や片麻痺など、左半身と右半身とのいずれかに障害を持つ患者に対し、幻肢痛の改善や麻痺症状の緩和に使用されるミラーセラピーシステムについて説明する。
【0018】
(実施形態1)
本実施形態のミラーセラピーシステム1は、図1に示すように、患者2の正面に配置され患者2と向き合う表示面30に映像を映す表示装置3と、患者2の映像を撮像する撮像装置4と、表示装置3に表示させる映像を制御する制御装置5とを備えている。
【0019】
また、このミラーセラピーシステム1は、表示装置3の表示面30の手前(患者2側)に配置されたハーフミラー6をさらに備えている。ハーフミラー6は、その前面(鏡面)が患者2と向き合うように、表示装置3と患者2との間に垂直に立てて配置されており、背後の表示装置3に表示された映像を患者2側に透過させる。
【0020】
表示装置3は、ここではプラズマディスプレイからなり、ハーフミラー6の背面側に取り付けられている。図1では、ハーフミラー6を支持する構造や、表示装置3の取付構造の図示を省略しているが、これらの構造は適宜選択され、ハーフミラー6および表示装置3は十分な強度をもって定位置に固定される。なお、表示装置3はプラズマディスプレイに限らず、液晶ディスプレイ等、他のディスプレイ装置であってもよい。また、ディスプレイ装置の代わりに、ハーフミラー6の背面に貼り付けられる拡散シート(図示せず)と、ハーフミラー6の後方(患者2とは反対側)から拡散シートに映像を投影する投影装置(図示せず)とで構成される表示装置を用いることも考えられる。
【0021】
本実施形態においては、ハーフミラー6は、前面が縦長の長方形状であって、患者2の全身を映す姿見として機能する大きさに形成されている。ハーフミラー6の透過率は、ハーフミラー6を鏡として利用し、且つ患者2がハーフミラー6を通して表示装置3に表示される映像を視認できるように設計される。
【0022】
ハーフミラー6は、ガラスや合成樹脂の透明な基材の少なくとも一表面に、金属膜などによる鏡面コーティングが施されることにより形成されている。
【0023】
ここでは、表示装置3は、ハーフミラー6の背面に表示面30が接するように配置されている。表示装置3の高さ位置は、下端縁がハーフミラー6の下端から所定の間隔を空けて位置し、且つ上端縁がハーフミラー6の上端から所定の間隔を空けて位置するように決められている。ここで、表示装置3はハーフミラー6の中心よりもやや上方寄りに配置されている。また、表示装置3に表示される映像をハーフミラー6の前面に高輝度で表示できるよう、ハーフミラー6と表示面30との間には、屈折率を調節して反射を防止する透明材料が充填されていることが望ましい。
【0024】
上記構成によれば、ハーフミラー6の前面は、鏡として患者2の鏡像を映し出すとともに、表示装置3の表示面30に表示された映像を映し出すように機能する。つまり、ハーフミラー6の正面に患者2が居れば、患者2の鏡像がハーフミラー6の前面に映るとともに、表示装置3に表示される映像がハーフミラー6を透過してハーフミラー6の前面に映し出されることになる。詳しくは後述するが、表示装置3に表示される映像は制御装置5によって生成される。
【0025】
撮像装置4は、ハーフミラー6の前面側(患者2側)に配置され、ハーフミラー6の正面に居る患者2を正面から撮像するべく、ハーフミラー6とは反対側にレンズが向けられている。撮像装置4の高さ位置は、患者2の目線の高さに合わせられる。撮像装置4の左右方向の位置は、患者2の目(利き目)の位置と、ハーフミラー6の前面に映る鏡像における目(利き目)の位置とを結ぶ直線上に設定される。そのため、患者2から見て鏡像内の利き目は撮像装置4によって隠れることなる。
【0026】
さらに、撮像装置4は、その視野内に患者2の左半身と右半身とのうち健側(四肢の欠損や麻痺がなく正常に機能する側)のみが含まれるように、左右方向の向き(パン角)が調節される。つまり、撮像装置4の視野の左端縁あるいは右端縁が患者2の身体の左右方向における中心線20(図3(a)参照)に一致するように、撮像装置4の向きが調節される。
【0027】
上述したような撮像装置4の位置および向きの調節は、患者2の位置および姿勢が決定してから初期設定として行われる。これにより、撮像装置4では、患者2の健側の半身の映像(以下、「半身映像」という)が撮像されることになる。
【0028】
制御装置5は、表示装置3と撮像装置4との両方に接続されており、撮像装置4で撮像された映像を加工して表示装置4に表示させる機能を持つ。具体的には、制御装置5は、半身映像を撮像装置4から取得する映像取得部51と、取得した半身映像を左右反転させて反転映像を生成する反転処理部52とを有している。さらに、制御装置5は、患者2の身体の中心線20同士が重なるように半身映像と反転映像とを合成することにより合成映像を生成する合成処理部53と、この合成映像を表示装置3に表示させる表示処理部54とを有している。これにより、表示装置3の表示面30には、患者2の健側のみを取り出して左右方向の中心で折り返してなる映像(合成映像)が、患者2の全身に相当する全身像として表示されることになる。
【0029】
要するに、制御装置5は、患者2の患側(四肢の欠損や麻痺がある側)の半身の映像に代えて、半身映像が左右反転された反転映像を半身映像と合成することによって、患者2の全身に相当する全身像としての合成映像を表示装置3に表示させる。
【0030】
以下、ミラーセラピーシステム1の動作について図2のフローチャートを参照して説明する。
【0031】
まず、患者2の位置および姿勢が決定すると、少なくとも撮像装置4の視野内に患者2の健側の半身のみが含まれるように撮像装置4の位置や向きを調節する初期設定が行われる。
【0032】
初期設定が完了すると、撮像装置4は患者2の半身映像を撮像する(S1)。撮像された半身映像は撮像装置4から制御装置5に送られる。制御装置5は、映像取得部51にて半身映像を取得すると、この半身映像を反転処理部52にて左右反転させ反転映像を生成する(S2)。
【0033】
それから、制御装置5は、合成処理部53にて、患者2の身体の中心線20同士が重なるように半身映像と反転映像とを合成し合成映像を生成する(S3)。合成映像が生成されると、制御装置5は、表示処理部54にて合成映像を表示装置3に表示させる(S4)。
【0034】
また、表示処理部54は、ハーフミラー6に映る患者の鏡像に合成映像が重なるように、表示面30上の合成映像のサイズを調整するサイズ調整部(図示せず)と、表示面30上の合成映像の位置を調整する位置調整部(図示せず)とを有している。つまり、上述の処理S4において、表示処理部54は、サイズ調整部による合成映像のサイズ調整と、位置調整部による合成映像の位置調整とを行っている。
【0035】
ここで、撮像装置4で撮像される映像は、何の加工も施されなければ、鏡像のように左右が反転されることはなく、表示面30に正対する患者2から見た左右と、表示面30に表示される映像における左右とは反対になる。すなわち、撮像装置4で撮像された患者2の全身の映像が、何の加工も施されずに、患者2と正対する表示装置3の表示面30に表示されると、表示面30の右側には患者2の左半身が、表示面30の左側には患者2の右半身が表示されることになる。そのため、合成映像は、ハーフミラー6に映る患側の半身の鏡像には半身映像が重なり、且つハーフミラー6に映る健側の半身の鏡像に反転映像が重なるように、その表示サイズおよび表示位置が設定されることになる。
【0036】
ここに、患者2の視点から見たハーフミラー6に映る自身の鏡像は実物の2分の1のサイズになるので、サイズ調整部は、合成映像を実物の2分の1のサイズで表示装置3の表示面30に表示させるように合成映像のサイズを調節する。なお、合成映像のサイズの調節は、撮像装置4のズーム機能を用いて行われてもよい。
【0037】
位置調整部は、表示面30における合成映像の表示位置を自由に調節可能な位置合わせ機能を有しており、患者2の視点から見て患側の半身の鏡像に重なる位置に半身映像が表示されるように、表示面30における合成映像の表示位置を調節する。
【0038】
具体的には、ハーフミラー6と撮像装置4と患者2との位置関係に応じて表示面30における合成映像の位置が調節される。ハーフミラー6と患者2との位置関係は、ハーフミラー6の正面中央部に患者2が立つように予め定められていればよい。あるいは、患者2の重心位置を検出する圧力センサが付加され、圧力センサの検出結果からハーフミラー6と患者2との位置関係が求められるようにしてもよい。なお、ハーフミラー6と撮像装置4と位置関係については、予め定めておくことがよい。
【0039】
次に、簡易に合成映像の表示位置を調整する方法について説明する。制御装置5は、患者2の身長として予め一律(たとえば170cm)の値が登録されている身長登録部(図示せず)を備える。なお、身長登録部に登録される身長は、患者2によって直接入力されるようにしてもよい。ハーフミラー6と撮像装置4と患者2との位置関係が特定されていれば、表示処理部54は、登録された患者2の身長に基づいた位置に合成映像を表示させることで、患者2の視点から見て患側の半身の鏡像に重なる位置に半身映像を表示させることが可能となる。
【0040】
さらに別の方法について説明する。身長登録部に患者2の身長が登録されていなくても、撮像装置4の映像中のどの位置に患者2の特定部位(たとえば頭部)が撮像されているのかが、パターンマッチング等の画像処理により判断される構成であればよい。ハーフミラー6と撮像装置4と患者2との位置関係(撮像装置4の高さ、取り付け角度等を含む)が特定されれば、ハーフミラー6に映る鏡像の特定部位(たとえば頭部)の位置が判断できる。したがって、表示処理部54は、患者2の視点から見て患側の半身の鏡像に重なる位置に半身映像を表示させることが可能となる。
【0041】
あるいは、サイズ調整部や位置調整部は、圧力センサの検出結果から患者2の姿勢が立位か座位かを判断する構成であってもよい(体重が略2箇所に分散していれば立位と判断する)。この場合、たとえば距離画像カメラが付加され、距離画像カメラおよび撮像装置4の位置および向きと、距離画像カメラで検出される患者2の立ち位置および頭頂部の位置とから、ハーフミラー6に映る鏡像の特定部位(たとえば頭部)の位置が判断される。なお、サイズ調整部や位置調整部は、撮像装置4で撮像される映像を画像処理することによって、患者2の特定部位(たとえば頭部)の位置を求める構成であってもよい。これら合成映像の表示サイズおよび表示位置の調節は、初期設定時に行われてもよいし、自動化されていてもよい。
【0042】
したがって、ハーフミラー6の前面には、患者2の鏡像が映るとともに、この鏡像に重なるように、患者2の全身に相当する合成映像がハーフミラー6を透過して映し出されることになる。
【0043】
さらに、制御装置5は、撮像装置4から入力される映像をリアルタイム(1秒間に15〜30フレーム程度)で加工(反転、合成)して、表示装置3に映像信号を出力する。表示装置3は、制御装置5からの映像信号を受け、リアルタイムで合成映像を表示する。つまり、制御装置5は、図2に示すように、半身映像の撮像(S1)、半身映像の左右反転(S2)、合成映像の生成(S3)、合成映像の表示(S4)という一連の処理を、一定周期で繰り返し行う。そのため、表示装置3の表示面30には、実際の患者2の動きに合わせて動く合成映像(動画像)が表示されることになる。
【0044】
その結果、表示装置3は、表示面30に映る合成映像を患者2に視認させることにより、患者2に対して、反転映像の部分を健側の鏡像と錯覚させ、半身映像の部分を患側の鏡像と錯覚させて、合成映像全体を自らの全身の鏡像と錯覚させることができる。つまり、表示装置3は、合成映像を患者2に提示することによって、左半身と右半身との両方が健側であるかのように患者2に錯覚させることができる。そのため、患者2は、健側の四肢を動かすことにより、合成映像における半身映像と反転映像の両方で四肢が動くのを見て、あたかも患側の四肢が動いているかのように錯覚する。
【0045】
また、映像取得部51は、撮像装置4を用いて患者2の全身を撮像した映像から、健側の映像のみを抽出して半身映像を取得する構成であってもよい。この場合、図2に示すフローチャートにおける半身映像の撮像(S1)前に行われる初期設定において、撮像装置4は、その視野内に患者2の右半身、左半身の両方が含まれるように左右方向の向きが調節される。さらに、映像取得部51は、撮像装置4から取得した映像内で患者2の身体の左右方向の中心線20を画像処理によって自動的に抽出し、この中心線20よりも健側の映像を切り出して半身映像を生成する。このように映像処理部51が半身映像を切り出して生成する処理は、図2に示すフローチャートにおける半身映像の撮像(S1)と半身映像の左右反転(S2)との間に付加される。なお、患者2の身体の中心線20は、たとえば患者2の身体の中心線20上に予め取り付けられた複数の目印を映像中から抽出し、これらの目印を結ぶことによって判別される。
【0046】
次に、本実施形態のミラーセラピーシステム1を使用したミラーセラピーの手順について、図3を参照して説明する。ここでは、図3(a)に示すように左腕を欠損した患者2にミラーセラピーシステム1が使用される例を示す。
【0047】
まず、ハーフミラー6の正面中央部に患者2が立った(あるいは座った)状態で、撮像装置4は患者2の映像を撮像する。このとき、撮像装置4は、患者2の健側(この場合、四肢の欠損がない右半身)21、つまり図3(a)の左半分の映像を半身映像として撮像する。
【0048】
制御装置5は、撮像装置4から半身映像を入力し、この半身映像を反転処理部52にて左右反転させることにより反転映像を生成する。さらに、制御装置5は、半身映像と反転映像とを合成処理部53にて合成することにより、図3(b)に示すように、右半分を反転映像31、左半分を半身映像32とする合成映像33を生成して、この合成映像33を表示装置3に表示させる。
【0049】
この状態で、患者2が健側21の腕(右腕)を上げると、合成映像33においては、あたかも左右の腕が同時に上がるような変化が生じる。一方、患者2が患側(この場合、四肢の欠損がある左半身)22の脚(左脚)を動かしても、合成映像33においては、何ら変化が生じない。
【0050】
このとき、制御装置5は、表示装置3に表示させる合成映像33を、実物の2分の1のサイズとし、ハーフミラー6に映った鏡像と重なるようにすることにより、患者2に対して、合成映像33を自身の鏡像であるかのように錯覚させることができる。
【0051】
以上説明した構成のミラーセラピーシステム1によれば、患者2は、表示装置3に表示される合成映像を見ているだけで脳が錯覚を起こし、ミラーセラピーと同様に、健側の四肢の動きを患側の四肢の動きと錯覚して幻肢痛や麻痺症状の改善を図ることができる。しかも、表示装置3の表示面30には、患者2の全身を映し出すことができるので、一般的なミラーセラピーのように患部が比較的狭い範囲の場合に限らず、患部が広範囲に及ぶ場合でも、患者2にミラーセラピーと同様の効果を与えることができる。
【0052】
また、上記ミラーセラピーシステム1では、半身映像を左右反転させて反転映像を生成し、半身映像と反転映像とを合成して合成映像としているだけであるから、合成映像を得るために複雑な演算処理は必要ない。すなわち、本実施形態のミラーセラピーシステム1は、健側の四肢の位置・姿勢に基づいて患側の四肢の位置・姿勢を演算するような複雑な演算処理を必要としないので、患者2の動きと合成映像の動きとの間のタイムラグを小さく抑えることができる。したがって、このミラーセラピーシステム1では、患者2に対してリアリティのある合成映像が提示され、表示された合成映像の半身映像の部分が患側の四肢と錯覚されやすいという利点がある。
【0053】
さらに、本実施形態では、表示装置3の手前にハーフミラー6が設置されていることにより、以下のような利点がある。すなわち、合成映像は、映像の遅れや画像解像度、被写体の照明状態、撮像装置の位置の違いによる患者2の視点とのずれ、レンズの焦点距離等により、患者2の動き等をリアルタイムで完全に反映することは困難である。そのため、ハーフミラー6を設けずに、表示装置3に表示される合成映像のみを患者2に見せるようにした場合、患者2は多少の違和感を感じることがある。これに対して、ハーフミラー6の前面に映る鏡像は、光学的に患者2の姿を忠実に反映しているので、患者2の動き等をリアルタイムで略完全に表すことができる。
【0054】
ここに、患者2は、眼の焦点距離(合成映像の焦点距離:鏡像の焦点距離=1:2)を切り替えることにより、ハーフミラー6に映った鏡像と、表示装置3に表示される合成映像とのどちらかに注目することができる。そこで、患者2は、合成映像に注目しながら、鏡像についても視界に入るような状態でミラーセラピーシステム1を使用すれば、合成映像内の四肢の動作を実際の四肢の動作と錯覚しやすくなり、治療の効果が一層高くなると考えられる。
【0055】
たとえば左腕を欠損した患者2の場合、鏡像における欠損した左腕部分に重ねて半身映像の腕部分(健側である右腕を撮像した映像)が表示される。したがって、患者2は、健側の腕を動かしたときに、合成映像において健側の腕と同時に患側の腕が動くのを見て、自然と合成映像における患側の腕部分(半身映像)に注目する。このとき、患者2は、現実感のある鏡像が視界に入ることで、違和感を感じずに表示装置3に映る映像を自分の全身像として捉えることができる。
【0056】
なお、患者2から見て、ハーフミラー6に映る鏡像と表示装置3に表示される合成映像との見え方に大差が生じないように、ミラーセラピーシステム1を使用時には、表示装置3の輝度や室内の明るさが適宜調節されていることが望ましい。
【0057】
また、本実施形態では、ハーフミラー6に映る患者2の鏡像に合成映像が重なるように、合成映像が実物の2分の1のサイズに調節されているので、合成映像と鏡像とは、ハーフミラー6の前面に違和感なく重ねて映ることになる。したがって、患者2は、ハーフミラー6に映る鏡像と、合成映像との区別がつきにくくなり、合成映像内の四肢の動作を実際の四肢の動作とより錯覚しやすくなる。
【0058】
ところで、上記ミラーセラピーシステム1の変形例として、制御装置5は、反転処理部52、合成処理部53が省略され、表示装置3に半身映像と反転映像とを合成してなる合成映像を表示させるのではなく、半身映像のみを表示させる構成であってもよい。この場合、図2に示すフローチャートにおける半身映像の左右反転(S2)、合成映像の生成(S3)の2つの処理が不要になり、制御装置5は、合成映像の表示(S4)という処理に代えて表示処理部54にて半身映像を表示装置3に表示させる。したがって、ハーフミラー6の前面には、患者2の鏡像が映るとともに、この鏡像の患側の半身に重なる位置に、表示装置3に表示された半身映像がハーフミラー6を透過して映し出されることになる。
【0059】
すなわち、ハーフミラー6の前面に映った患者2の健側の鏡像と、表示装置3に表示される半身映像とを組み合わせた像が、患者2の全身に相当する全身像としてハーフミラー6の前面に映し出される。その結果、患者2は、ハーフミラー6の前面に映る全身像を視認することにより、ハーフミラー6の前面に映る全身像を自らの全身の鏡像と錯覚し、上記実施形態と同様に、幻肢痛や麻痺症状の改善を図ることができる。
【0060】
この構成では、半身映像を左右反転させる処理や、半身映像と反転映像とを合成する処理も不要になるので、患者2の動きと半身映像の動きとの間のタイムラグを、上記実施形態よりさらに小さく抑えることができるという利点ある。
【0061】
(実施形態2)
本実施形態のミラーセラピーシステム1は、ハーフミラーを備えていない点が実施形態1のミラーセラピーシステム1と相違する。
【0062】
すなわち、このミラーセラピーシステム1は、光学的に形成される鏡像を提示することはなく、表示装置3に表示された合成映像のみを患者2に視認させ、患者2に対して、反転映像の部分を健側の鏡像と錯覚させ、半身映像の部分を患側の鏡像と錯覚させる。言い換えれば、合成映像が患者2に対して全身の鏡像と錯覚させるサイズおよび位置に表示されるように、サイズ調整部が表示面30上の合成映像のサイズを調整し、位置調整部は表示面30上の合成映像の位置を調整する。これにより、患者2は、合成映像全体を自らの全身に相当する鏡像と錯覚する。
【0063】
したがって、患者2は、表示装置3の表示面30に映る合成映像を見ているだけで脳が錯覚を起こし、ミラーセラピーと同様に、健側の四肢の動きを患側の四肢の動きと錯覚して幻肢痛や麻痺症状の改善を図ることができる。
【0064】
以上説明した本実施形態のミラーセラピーシステム1によれば、ハーフミラーを省略した分だけ、実施形態1のシステムに比べて構成を簡略化できるという利点がある。しかも、本実施形態の構成では、比較的大型の画面を備えるディスプレイが予め備わっていれば、専用のディスプレイを新設しなくても、既存のディスプレイを表示装置3として用いることが可能であるため、システムの導入コストを低減できる。
【0065】
また、本実施形態のようにハーフミラーを省略した構成においても、表示装置3の表示面30に表示される合成映像を実物の2分の1のサイズとすることは有用である。すなわち、表示面30を鏡面とした場合に鏡面に映る鏡像と同サイズで合成映像が表示されることにより、患者2は表示面30に表示された合成映像を表示面30に映り込んだ鏡像のように錯覚しやすくなる。言い換えれば、表示装置3に表示された合成映像が加工された映像であることに患者2が気付きにくくなり、幻肢痛や麻痺症状の改善効果の向上が期待できる。
【0066】
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
【符号の説明】
【0067】
1 ミラーセラピーシステム
2 患者
3 表示装置
4 撮像装置
5 制御装置
6 ハーフミラー
30 表示面
31 反転映像
32 半身映像
33 合成映像
51 映像取得部
52 反転処理部
53 合成処理部
54 表示処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
左半身と右半身とのいずれかに障害がある患者の正面に配置され前記患者と向き合う表示面に映像を表示する表示装置と、前記患者の前方に配置され前記患者の映像を撮像する撮像装置と、前記表示装置に表示させる映像を制御する制御装置と、前記表示面に対して前記患者側に配置され前記表示装置に表示された映像を透過させるハーフミラーとを備え、前記制御装置は、前記患者の左半身および右半身のうち健側の映像を半身映像として前記撮像装置から取得する映像取得部と、前記半身映像を前記表示装置に表示させる表示処理部とを有し、前記表示処理部は、前記ハーフミラーに映る前記患者の全身の鏡像のうち患側である右半身あるいは左半身の鏡像に重なる位置に前記半身映像が表示されるように、前記表示面上の前記半身映像のサイズを調整するサイズ調整部と、前記表示面上の前記半身映像の位置を調整する位置調整部とを有することを特徴とするミラーセラピーシステム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記映像取得部で取得した前記半身映像を左右反転させて反転映像を生成する反転処理部と、前記半身映像と前記反転映像とを合成して前記患者の全身に相当する合成映像を生成する合成処理部とを有し、前記表示処理部は、前記ハーフミラーに映る前記患者の前記健側の鏡像と重なる位置に前記反転映像が表示されるように、前記表示装置に前記合成映像を表示させることを特徴とする請求項1記載のミラーセラピーシステム。
【請求項3】
前記半身映像と、前記ハーフミラーに映った前記患者の前記健側の鏡像とが組み合わされて前記患者の全身に相当する全身像を形成するように、前記表示処理部は、前記表示装置に前記半身映像のみを表示させることを特徴とする請求項1記載のミラーセラピーシステム。
【請求項4】
左半身と右半身とのいずれかに障害がある患者の正面に配置され前記患者と向き合う表示面に映像を表示する表示装置と、前記患者の前方に配置され前記患者の映像を撮像する撮像装置と、前記表示装置に表示させる映像を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記患者の左半身および右半身のうち健側の映像を半身映像として前記撮像装置から取得する映像取得部と、前記映像取得部で取得した前記半身映像を左右反転させて反転映像を生成する反転処理部と、前記半身映像と前記反転映像とを合成して前記患者の全身に相当する合成映像を生成する合成処理部と、前記合成映像を前記表示装置に表示させる表示処理部とを有し、前記表示処理部は、前記合成映像が前記患者に対して全身の鏡像と錯覚させるサイズおよび位置に表示されるように、前記表示面上の前記合成映像のサイズを調整するサイズ調整部と、前記表示面上の前記合成映像の位置を調整する位置調整部とを有することを特徴とするミラーセラピーシステム。
【請求項5】
前記サイズ調整部は、前記半身映像を実物の2分の1のサイズで前記表示装置の前記表示面に表示させることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のミラーセラピーシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−324(P2012−324A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139287(P2010−139287)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】