説明

メソポーラスメタロシリケートおよびその製造方法ならびにその用途

【課題】従来のメソポーラスメタシリケートは、固体酸が少なく、耐熱性及び触媒性能が十分でなかった。
【解決手段】テンプレート剤を含む液に結晶性メタロシリケートを溶解させたものを原料に用い、さらにメソポーラス構造指向剤を添加し、反応させることにより、FT−IR分析における波数3610cm-1付近に水酸基のピークを有する従来より固体酸点が多く耐熱性が高いメソポーラスメタロシリケートが得られる。Si元素の一部と置換している元素が、Al、B、Ga、Fe、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種以上からなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤や触媒として有用なメソポーラスメタロシリケートおよびその製造方法ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、メソポーラスシリカと呼ばれる多孔質シリカはメソポア領域と呼ばれる2〜50nmの領域の大きさのほぼ均一な直径の細孔を有する物質である。メソポーラスシリカは、細孔の作るネットワークの様式(空間対称性)や製造方法等によって、様々な特性を有する多孔質物質群である。このメソポーラスシリカは、細孔の直径、広い表面積等を有するという特性から、例えば、分離吸着剤、クロマトグラフィー充填剤、排水処理剤、触媒等の構造部材として多くの用途が期待されている。
【0003】
メソポーラスメタロシリケートは、Si元素の一部が、他の元素で置換された場合、ゼオライトと同様に、置換された骨格金属元素が酸性質を示すため、酸触媒としての利用も期待される。
【0004】
しかしながら、メソポーラスメタロシリケートは微視的には非晶質構造で、ゼオライトなどの結晶性物質に比べて耐熱性が弱く、また酸強度も弱いために、これまで利用範囲が限られていた。そこで、メソポーラスメタロシリケートに、ゼオライトのような結晶構造を導入することにより、耐熱性と強酸点を付与する試みも行われている。
【0005】
例えば特許文献1には、ゼオライトを塩基性水溶液に溶解させた後に界面活性剤を加え、その液を水熱合成することによって、ゼオライトとメソポーラスシリカの両方の特性を発現する多孔体を得る方法が開示されている。特許文献2には、有機溶媒に高分子界面活性剤を溶解した溶液に、遷移金属塩を加え溶解させ、該遷移金属の塩を加水分解、ポリマー化によりゾル溶液とし、該ゾル溶液からゲル状物を得、焼成して、メソ細孔の細孔壁が結晶構造を持つメソポーラス遷移金属酸化物を製造する方法が開示されている。特許文献3には、カチオン性界面活性剤と酸化硫酸チタンとを水中で混合し、その後カチオン性界面活性剤を除くことによって、メソ孔の壁膜がアナターゼ型の結晶構造を有するメソポーラスチタニアを合成する方法が開示されている。
【0006】
更に、非特許文献1には、ゼオライト合成途中の反応液を原料としてメソポーラスシリカを合成すると、通常の製法で合成するよりも耐熱性が向上し、酸触媒反応も促進されることが報告されている。非特許文献2には、メソポーラスアルミノシリケートを処理することによって、細孔壁をゼオライト状に結晶化させる方法が報告されている。得られたメソポーラスアルミノシリケートは、ゼオライトに似た酸性質を示すことが報告されている。非特許文献3には、特許文献1と同様に、ゼオライトを水酸化ナトリウム水溶液で溶解させた液を原料としてメソポーラスアルミノシリケートを合成すると、メソポーラスアルミノシリケートの細孔壁にゼオライト構造が導入され、通常のメソポーラスアルミノシリケートよりも優れた酸触媒になることが報告されている。
【0007】
しかし、既存報告の性能を以ってしても工業化に十分な特性には至っておらず、更なる耐熱性の向上及び酸点増加が求められている。
【特許文献1】特開2002―128517号公報(第2頁、請求項2)
【特許文献2】特開2001―354419号公報(第2頁、請求項6)
【特許文献3】特開2006―69877号公報(第2頁、請求項4)
【非特許文献1】J.Pinnavaiaら、アンゲバンテ・ヘミー(Angew.Chem.Int.Ed.)、2001年、第40巻、第7号、p.1255〜1258
【非特許文献2】M.J.Verhoefら、ケミストリーオブマテリアルズ(Chem.Mater.)、2001年、第13巻、p.683〜687
【非特許文献3】松方ら、ミクロポーラスアンドメソポーラスマテリアルズ(Micorpor.Mesopor.Mater.)、2004年、第74巻、p.163〜170
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、より多量のゼオライト構造が含有されたメソポーラスアルミノシリケートおよびその製造方法ならびにその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前項課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、結晶性メタロシリケートをテンプレート剤を含む液に溶解させたものを原料として合成した多孔質メタロシリケートが、FT−IR分析で検出できるほどの多量の固体酸点(水酸基)を含有することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明のメソポーラスメタロシリケートは、FT−IR分析における波数3610cm-1付近に水酸基のピークを有し、Si元素の一部が他の金属元素で置換されていることを特徴とする。ここで、本発明において、波数3610cm-1付近に観察される水酸基のピークとは、具体的には通常、波数3600cm-1〜3620cm-1に観察される水酸基のピークを意味し、その水酸基ピークとはS/N比が3以上であることが好ましい。
【0011】
前記メソポーラスメタロシリケート中のSi原子と他の金属元素の原子比(Si/他の金属元素)が10〜70であることが好ましい。
前記メソポーラスメタロシリケートは、前記他の金属元素が、Al、B、Ga、Fe、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種以上からなることが好ましい。
【0012】
前記水酸基が酸性水酸気であることが好ましい。
前記メソポーラスメタロシリケートは、走査型電子顕微鏡(SEM)による粉末X線回折測定で観察される結晶形態がメソポーラス構造であることが好ましい。
【0013】
本発明のメソポーラスメタロシリケートの製造方法は、テンプレート剤を含む液に結晶性メタロシリケートを溶解させたものを原料に用い、さらにメソポーラス構造指向剤を添加し、反応させることを特徴とする。
【0014】
前記製造方法において、結晶性メタロシリケート中のSi原子に対するテンプレート剤のモル比が0.1〜0.3であることが好ましい。
前記製造方法において、結晶性メタロシリケート中のSi原子に対するメソポーラス構造指向剤のモル比が0.1〜0.3であることが好ましい。
【0015】
前記製造方法において、結晶性メタロシリケートのSi以外の骨格金属元素が、Al、B、Ga、Fe、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種以上からなることが好ましい。
【0016】
前記製造方法において、結晶性メタロシリケート中のSi原子とSi以外の骨格金属元素の原子比(Si/Si原子以外の骨格金属元素)は10〜70であることが好ましい。
前記製造方法において、結晶性メタロシリケートがFAU型構造であることが好ましい。
【0017】
前記製造方法において、テンプレート剤が4級アンモニウム塩であることが好ましい。
前記製造方法において、テンプレート剤が水酸化テトラエチルアンモニウムであることが好ましい。
【0018】
前記製造方法において、メソポーラス構造指向剤が一般式〔NR(CH33+〔X〕-(但し、式中Rは炭素数8〜24のアルキル基、XはCl、BrまたはOH基を表す)で示される第4級アルキルトリメチルアンモニウムであることが好ましい。
【0019】
本発明の分離吸着剤、クロマトグラフィー充填剤、排水処理剤および触媒は、上記メソポーラスメタロシリケートを有効成分とする。
結晶性メタロシリケートがFAU型アルミノシリケートである場合には、Si/Al原子比が通常10〜70、好ましくは15〜40であることが好ましい。また、 前記製造方法において、テンプレート剤が4級アンモニウム塩であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のメソポーラスメタロシリケートは、従来のメソポーラスメタロシリケートよりも多くのゼオライト構造を有し、またその構造に起因する酸点を有する為に、従来のメソポーラスメタロシリケートより耐熱性が向上し、分離吸着剤、クロマトグラフィー充填剤、排水処理剤、触媒等の構造部材としての用途拡大や、新たに酸触媒としての用途拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のメソポーラスメタロシリケートは、FT−IR分析における波数3610cm-1付近に水酸基のピークを有し、Si元素の一部が他の金属元素で置換されていることを特徴とする。通常のメソポーラスメタロシリケートでは、FT−IR分析における波数3610cm-1付近にピークは観察されない。しかし、本発明のメソポーラスメタロシリケートは従来のメソポーラスメタロシリケートよりも、多くのゼオライト構造を有し、またその構造に起因する酸点を有している。
【0022】
本発明のメソポーラスメタロシリケートは、上述のようにFT−IR分析における波数3610cm-1付近に水酸基のピークを有することが特徴である。この水酸基のピークは、具体的には通常、波数3600cm-1〜3620cm-1に観察される水酸基のピークを意味し、その水酸基ピークとはS/N比が3以上であることが好ましい。この波数に観察される水酸基は、ゼオライト構造の酸性水酸基に帰属される。 なお、本発明において、FT−IR分析、ゼオライトの酸性質、ゼオライトの結晶形態、溶液中のケイ素およびアルミニウム濃度は、実施例に記載した方法により測定した。
【0023】
本発明におけるメソポーラスメタロシリケートの骨格構造は特に限定されないが、粉末X線回折で測定した結晶形態がメソポーラス構造であることが好ましい。具体例としてはMCM−41、MCM−48、FMS−16、SBA−15構造などのメソポーラス物質を例示することができる。
【0024】
また、本発明のメソポーラスメタロシリケートは、メソポーラスシリカのSi元素の一部が、他の金属元素で置換されている。前記Si元素の一部と置換している、他の金属元素としては、Al、B、Ga、Fe、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましく、他の金属元素のうち少なくとも1種がAlであることがより
好ましく、他の金属元素がAlであることが更に好ましい。本発明のメソポーラスメタロシリケート中のSi原子と他の金属元素との原子比(Si/他の金属元素)は通常10〜70、好ましくは15〜40である。
【0025】
次に本発明のメソポーラスメタロシリケートの製造方法について説明する。
本発明のメソポーラスメタロシリケートの製造方法は、上述のメソポーラスメタロシリケートを製造する方法であり、テンプレート剤を含む液に結晶性メタロシリケートを溶解させたものを原料に用い、さらにメソポーラス構造指向剤を添加し、反応させることを特徴とする。
【0026】
テンプレート剤を含む液への結晶性メタロシリケートの溶解は、アルカリ性水溶液中で加熱して行うことが好ましい。アルカリ性水溶液のpHは、通常9〜14、好ましくは11〜13である。
【0027】
用いる結晶性メタロシリケートにはゼオライト構造のメタロシリケートを用いることができ、その構造の種類は特に限定されない。例えば、国際ゼオライト学会で定義される構造コードで、MFI型、FAU型、FER型、BEA型、MOR型、ERI型、LTL型、CHA型、AFI型、EMT型、MTW型等の結晶性メタロシリケートを用いることができ、特にFAU型の結晶性メタロシリケートを用いることが好ましい。
【0028】
また、組成も特に限定されず、結晶性メタロシリケートのSi以外の骨格金属元素は、Al、B、Ga、Fe、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種以上で置換されていることが好ましく、Si以外の骨格金属元素のうち少なくとも1種がAlであることがより好ましく、Si以外の骨格金属元素がAlであることが更に好ましい。結晶性メタロシリケート中のSi原子とSi以外の骨格金属元素の原子比(Si/Si原子以外の骨格金属元素)は通常10〜70、好ましくは15〜40である。
【0029】
本発明に用いるテンプレート剤としては特に限定されるものではないが、通常ゼオライト合成に用いられる構造指向剤が用いられ、例えば4級アンモニウム塩等が例示できる。
4級アンモニウム塩の具体的な化合物としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、水酸化テトラエチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、水酸化テトラプロピルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。これら4級アンモニウム塩は、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
また、4級アンモニウム塩は4つのアルキル鎖が同じ長さのものが主に用いられるが、長さが不均一でも差し支えない。本発明の実施においては、特に水酸化テトラエチルアンモニウムを用いることが好ましい。
【0031】
なお本発明の製造方法によって得られる上記メソポーラスメタロシリケートが、何故大量のゼオライト構造を有するのか、詳細な機構は不明であるが、結晶性メタロシリケートをテンプレート剤を含む液で溶解させることによって、メソポーラスメタロシリケート中にゼオライト様の規則構造が形成されやすい状態になっているものと考えられる。
【0032】
テンプレート剤を含む液に結晶性メタロシリケートを溶解させる際は、通常は0〜250℃、好ましくは100〜200℃の温度で溶解させる。溶解時間は温度によって変化するが、数十分から数十時間が好ましい。なお、溶解させる濃度は特に制限されない。
【0033】
なお、結晶性メタロシリケートは、テンプレート剤を含む液に完全に溶解する必要はな
く、部分的に溶解した状態でも構わない。
本発明のメソポーラスメタロシリケートの製造方法において、結晶性メタロシリケート中のSi原子に対するテンプレート剤のモル比(結晶性メタロシリケート中のSi原子1に対するモル比)は、通常0.1〜0.3、好ましくは0.15〜0.25である。
【0034】
次に、本発明のメソポーラスメタロシリケートの製造方法において、結晶性メタロシリケートを溶かした液に、さらにメソポーラス構造指向剤を添加し、その混合物を反応させて、メソポーラスメタロシリケートを得る。溶媒は特に限定されないが、水を用いることができる。
【0035】
前記メソポーラス構造指向剤は特に限定されないが、一般式〔NR(CH33+〔X
-(但し、式中Rは炭素数8〜24のアルキル基、XはCl、BrまたはOH基を表す
)で示される第4級アルキルトリメチルアンモニウムが一般的である。第4級アルキルトリメチルアンモニウム塩の具体的な化合物としては、例えばオクチルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化オクチルトリメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化デシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化ドデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、水酸化オクタデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。これらメソポーラス構造指向剤は、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
本発明のメソポーラスメタロシリケートの製造方法において、結晶性メタロシリケート中のSi原子に対するメソポーラス構造指向剤のモル比(結晶性メタロシリケート中のSi原子1に対するモル比)は、通常0.1〜0.3、好ましくは0.15〜0.25である。
【0037】
反応条件は、求めるメソポーラスメタロシリケートの物性によって異なるが、通常50℃以上、好ましくは90〜200℃である。反応時間は数十分から十数日である。
上記製造方法によって得られる、本発明のメソポーラスメタロシリケートは、該メソポーラスメタロシリケートを有効成分とする分離吸着剤、クロマトグラフィイー充填剤、排水処理剤、触媒等様々な用途に用いることができる。
【0038】
〔実施例〕
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0039】
本発明において、各物性は以下のように測定した。
〔FT−IR〕
FT−IRスペクトルは、透過型FT−IR装置(日本電子製JIR−7000)を用いて測定した。20mg(ca.6.4mg/cm2)の試料を500kg/cm2の圧力にてウェハ状に成形した。400℃で2時間真空排気した後、室温にて分解能4cm-1、積算数500回の条件にて測定を行った。
【0040】
〔ゼオライトの酸性質〕
ゼオライトの酸性質は、ピリジンを吸着させたゼオライトのFT−IRスペクトルを測定することにより検討した。FT−IRスペクトルは、透過型FT−IR装置(日本電子製JIR−7000)を用いて測定した。20mg(ca.6.4mg/cm2)の試料
を500kg/cm2の圧力にてウェハ状に成形した。400℃で2時間真空排気した後
、室温まで放冷しFT−IRスペクトルを測定した。その後、150℃でピリジンを1時間吸着させ、所定の温度で0.5時間排気処理した後、FT−IRスペクトルを測定した。両スペクトルの差から吸着ピリジンのFT−IRスペクトルを算出した。
【0041】
〔粉末X線回折〕
ゼオライトの結晶形態は、走査型電子顕微鏡[SEM](日立製作所製、S−4100)を用いて観察した。試料はカーボンテープを用いてホルダーに付け、白金パラジウム蒸着(日立製作所製、E−1030型イオンスパッター装置)を行い、加速電圧20kVの条件で行った。
【0042】
〔溶液中のケイ素およびアルミニウム濃度〕
溶液中のケイ素およびアルミニウム濃度は、ICP発光分析装置(セイコー製、SPS7700)を用いて行った。
【実施例1】
【0043】
FAU型アルミノシリケート(Si/Al(モル比)=23)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、および蒸留水を混合し、TEAOH/Si(モル比)=0.2、H2O/Si(モル比)=5とした。
【0044】
この混合物を、オートクレーブ中で140℃で18時間加熱した。
その後、オートクレーブを冷却して一度開封し、メソポーラス構造指向剤であるn−ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTABr)と蒸留水とを添加し、CTABr/Si(モル比)=0.15、H2O/Si(モル比)=40とした。
【0045】
この混合物を再びオートクレーブに戻し、150℃で5日間反応させた。得られた生成物を蒸留水で洗浄した後、焼成してから粉末X線回折、反射式FT−IRで分析した。
粉末X線回折分析ではメソポーラス構造が形成されていることが確認された。
【0046】
得られたメソポーラスメタロシリケートのSi/Al(モル比)は原料と同じ23であった。
FT−IR分析では3610cm-1付近にピークが確認された。このピークはピリジン吸着によって消失することから、酸性水酸基のピークであることが確認された。図1に、当実施例の粉末X線回折強度を示すグラフを示す。図2に、当実施例のFT−IRの分析結果を示す。図3には、ピリジン吸着後のFT−IRの分析結果を示す。
【0047】
〔比較例1〕
実施例1のFAU型アルミノシリケートを、アモルファスシリカとγ−アルミナで代替した。アモルファスシリカとγ−アルミナの分量は、両者の混合物のSi/Alモル比が23になるように決定した。それ以外は、全て実施例と同じ条件で実験を行った。
【0048】
粉末X線回折分析ではメソポーラス構造のみが形成されていることが確認されたが、反射式FT−IR分析では、3610cm-1付近にピークは観察されず、実施例1に比べて酸性水酸基が少ないもしくは形成されていないことが示された。
【0049】
図4に、当比較例の粉末X線回折強度を示すグラフを示す。図5に、当比較例のFT−IRの分析結果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1のメソポーラス物質のX線回折パターン。
【図2】実施例1のメソポーラス物質のFT−IRスペクトル。点線は3610cm-1を示す。丸で囲んだ部分を拡大してベースライン補正したものを、右上に示す。
【図3】実施例1のメソポーラス物質にピリジンを吸着させた後のFT−IRスペクトル。点線は3610cm-1を示す。丸で囲んだ部分を拡大してベースライン補正したものを、右上に示す。
【図4】比較例1のメソポーラス物質のX線回折パターン。
【図5】比較例1のメソポーラス物質のFT−IRスペクトル。点線は3610cm-1を示す。丸で囲んだ部分を拡大してベースライン補正したものを、右上に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FT−IR分析における波数3610cm-1付近に水酸基のピークを有し、Si元素の一部が他の金属元素で置換されていることを特徴とするメソポーラスメタロシリケート。
【請求項2】
FT−IR分析における波数3600cm-1〜3620cm-1に観察される水酸基のピークのS/N比が3以上であることを特徴とする請求項1に記載のメソポーラスメタロシリケート。
【請求項3】
メソポーラスメタロシリケート中のSi原子と他の金属元素との原子比(Si/他の金属元素)が10〜70であることを特徴とする請求項1または2に記載のメソポーラスメタロシリケート。
【請求項4】
前記他の元素が、Al、B、Ga、Fe、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケート。
【請求項5】
前記水酸気が酸性水酸基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケート。
【請求項6】
走査型電子顕微鏡(SEM)による粉末X線回折で測定した結晶形態がメソポーラス構造であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケート。
【請求項7】
テンプレート剤を含む液に結晶性メタロシリケートを溶解させたものを原料に用い、さらにメソポーラス構造指向剤を添加し、反応させることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートの製造方法。
【請求項8】
結晶性メタロシリケート中のSi原子に対するテンプレート剤のモル比が0.1〜0.3であることを特徴とする請求項7に記載のメソポーラスメタロシリケートの製造方法。
【請求項9】
結晶性メタロシリケート中のSi原子に対するメソポーラス構造指向剤のモル比が0.1〜0.3であることを特徴とする請求項7または8に記載のメソポーラスメタロシリケートの製造方法。
【請求項10】
前記結晶性メタロシリケートのSi以外の骨格金属元素が、Al、B、Ga、Fe、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種以上からなることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートの製造方法。
【請求項11】
結晶性メタロシリケート中のSi原子とSi以外の骨格金属元素の原子比(Si/Si原子以外の骨格金属元素)は10〜70であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートの製造方法。
【請求項12】
結晶性メタロシリケートがFAU型構造であることを特徴とする、請求項7〜11のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートの製造方法。
【請求項13】
テンプレート剤が4級アンモニウム塩であることを特徴とする、請求項7〜12のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートの製造方法。
【請求項14】
テンプレート剤が水酸化テトラエチルアンモニウムであることを特徴とする、請求項7
〜13のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートの製造方法。
【請求項15】
メソポーラス構造指向剤が一般式〔NR(CH33+〔X〕-(但し、式中Rは炭素数8〜24のアルキル基、XはCl、BrまたはOH基を表す)で示される第4級アルキルトリメチルアンモニウムであることを特徴とする請求項7〜14のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートの製造方法。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートを有効成分とする分離吸着剤。
【請求項17】
請求項1〜6のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートを有効成分とするクロマトグラフィー充填剤。
【請求項18】
請求項1〜6のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートを有効成分とする排水処理剤。
【請求項19】
請求項1〜6のいずれかに記載のメソポーラスメタロシリケートを有効成分とする触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−114020(P2009−114020A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288944(P2007−288944)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】