説明

メタクリル樹脂組成物

【課題】良好な難燃性に加え、優れた耐熱性を有するメタクリル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】メタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体及び耐熱性改良単量体が重合してなる重合体X、並びにハロゲン化リン酸エステルを含有するメタクリル樹脂組成物であって、メタクリル樹脂組成物中の重合体X及びハロゲン化リン酸エステルの各含有量が、重合体X及びハロゲン化リン酸エステルの合計100重量部を基準として重合体X75.0〜95.0重量部、ハロゲン化リン酸エステル5.0〜25.0重量部であり、かつ、重合体Xが、前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の合計100重量%を基準として前記単官能単量体79.0〜99.8重量%、前記多官能単量体0.1〜1.0重量%及び耐熱性改良単量体0.1〜20.0重量%の割合で重合してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタクリル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂組成物は、その透明性から、例えば、照明材料、看板、ディスプレイ、建築材料等に広く使用されている。このような用途に使用されるメタクリル樹脂組成物には、難燃性が求められており、かかるメタクリル樹脂組成物として、例えば、特開平8−113655号公報(特許文献1)、特開2003−277568号公報(特許文献2)、特開2009−132802号公報(特許文献3)には、メタクリル樹脂及びハロゲン化リン酸エステルを含有するメタクリル樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−113655号公報
【特許文献2】特開2003−277568号公報
【特許文献3】特開2009−132802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のメタクリル樹脂組成物は、難燃性に優れるものの、耐熱性の点で必ずしも満足のいくものではなかった。そこで、本発明の目的は、良好な難燃性に加え、優れた耐熱性を有するメタクリル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、メタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体及び耐熱性改良単量体が重合してなる重合体X、並びにハロゲン化リン酸エステルを含有するメタクリル樹脂組成物であって、
メタクリル樹脂組成物中の重合体X及びハロゲン化リン酸エステルの各含有量が、重合体X及びハロゲン化リン酸エステルの合計100重量部を基準として、重合体X75.0〜95.0重量部、ハロゲン化リン酸エステル5.0〜25.0重量部であり、かつ、
重合体Xが、前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の合計100重量%を基準として前記単官能単量体79.0〜99.8重量%、前記多官能単量体0.1〜1.0重量%及び耐熱性改良単量体0.1〜20.0重量%の割合で重合してなるものであることを特徴とするメタクリル樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、良好な難燃性に加え、優れた耐熱性を有するメタクリル樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、メタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体及び耐熱性改質単量体が重合してなる重合体X(以下、重合体Xということがある。)、並びにハロゲン化リン酸エステルを含有するものである。重合体Xは、メタクリル酸メチルを50重量%以上含む単官能単量体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体、及び耐熱性改質単量体の共重合体であることができ、好ましくはメタクリル酸メチルを85重量%以上含む単官能単量体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体、及び耐熱性改質単量体の共重合体であることができる。
【0008】
ここでいうメタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体は、メタクリル酸メチルを50重量%以上、好ましくは85重量%以上含むものであり、メタクリル酸メチルのほかに、ラジカル重合可能な二重結合を分子内に1個有する単官能単量体を含んでもよい。メタクリル酸メチル以外の単官能単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニルのようなアクリル酸エステル類;メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸イソノニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニルのようなメタクリル酸エステル類;メタクリル酸、無水マレイン酸、スチレン、シクロヘキシルマレイミド、アクリロニトリル等が挙げられる。また、必要に応じてそれらの2種以上が含まれていてもよい。
【0009】
分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体としては、例えば、アリルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートの如き分子内にラジカル重合可能な二重結合を2個有する多官能単量体、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレートの如き分子内にラジカル重合可能な二重結合を3個有する多官能単量体、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレートの如き分子内にラジカル重合可能な二重結合を4個有する多官能単量体等が挙げられる。また、必要に応じてそれらの2種以上が含まれていてもよい。それらの中でも、分子内にラジカル重合可能な二重結合を2個有する多官能単量体が好ましく、さらに、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートがより好ましい。
【0010】
耐熱性改良単量体は、これを単独で重合した場合における重合体のガラス転移温度が、メタクリル酸メチルを単独で重合した場合における重合体のガラス転移温度(105℃)よりも高くなる単量体のことをいう。中でも、単独重合体のガラス転移温度が130℃以上となる単量体が好ましい。このような耐熱性改良単量体を前記単官能単量体及び前記多官能単量体と重合させてなる重合体Xをメタクリル樹脂組成物に含有させることにより、該組成物のガラス転移温度は、メタクリル酸メチルの単独重合体のガラス転移温度(105℃)よりも高くなり、該組成物の耐熱性を向上させることができる。なお、耐熱性改良単量体は、前記単官能単量体におけるメタクリル酸メチル以外の単官能単量体や、前記他官能単量体とは相違するものである。
【0011】
耐熱性改良単量体の具体例としては、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、アダマンチルアクリレート、アダマンチルメタクリレート、N−t−ブチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド、N−ジメチルフェニルマレイミド、α−メチルスチレンなどが挙げられ、中でも、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、N−フェニルマレイミド、α−メチルスチレが好ましい。また、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0012】
重合体Xは、得られるメタクリル樹脂組成物の成形性の点から、前記単官能単量体、前記多官能単量体、耐熱性改良単量体にくわえ、連鎖移動剤が重合されてなるものが好ましい。かかる連鎖移動剤としては、連鎖移動を起こせる化合物であれば特に制限はなく、例えば、メルカプト基を有する化合物や、α−メチルスチレンダイマー、テルピノレン等が挙げられる。中でも、メルカプト基を有する化合物が好ましい。ここでいうメルカプト基を有する化合物としては、例えば、n−オクチルメルカプタン、1−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンの如きアルキルメルカプタンの他、2−メルカプトエタノール、芳香族メルカプタン、チオグリコール酸エステル類、3−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸エステル類等が挙げられる。また、必要に応じてそれらの2種以上が含まれていてもよい。
【0013】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、重合体X及びハロゲン化リン酸エステルを含有するものである。ハロゲン化リン酸エステルとしては、例えば、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)オクチルホスフェート等のハロゲン原子を含有するリン酸エステルや、ハロゲン化アルキルポリホスフェート等のハロゲン原子を含有するポリリン酸エステル(所謂含ハロゲン縮合リン酸エステル)が挙げられ、中でも、ハロゲン原子を含有するポリリン酸エステル(所謂含ハロゲン縮合リン酸エステル)が好ましい。また、これらハロゲン化リン酸エステルとしては、市販のものを用いることができ、例えば、大八化学工業株式会社製の「TMCPP」、「CRP」、「CR−504L」、「CR−570」、「DAIGUARD−540」等が挙げられる。
【0014】
本発明のメタクリル樹脂組成物は、前述したように重合体X及びハロゲン化リン酸エステルを含有するものであって、(1)メタクリル樹脂組成物中の重合体X及びハロゲン化リン酸エステルの各含有量が、重合体X及びハロゲン化リン酸エステルの合計100重量部を基準として、重合体X75.0〜95.0重量部、ハロゲン化リン酸エステル5.0〜25.0重量部であること、及び、(2)重合体Xが、前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の合計100重量%を基準として、前記単官能単量体79.0〜99.8重量%、前記多官能単量体0.1〜1.0重量%及び耐熱性改良単量体0.1〜20.0重量%の割合で重合してなるものであることを特徴とする。このように、所定の単量体成分が所定の重量割合で重合してなる重合体Xと、所定量のハロゲン化リン酸エステルとを含有することにより、良好な難燃性に加え、優れた耐熱性を有するメタクリル樹脂組成物となるのである。
【0015】
メタクリル樹脂組成物における重合体X及びハロゲン化リン酸エステルの各含有量は、前述したとおり、重合体X及びハロゲン化リン酸エステルの合計100重量部を基準として、重合体X75.0〜95.0重量部、ハロゲン化リン酸エステル5.0〜25.0重量部であり、好ましくは、重合体X80.0〜90.0重量部、ハロゲン化リン酸エステル10.0〜20.0重量部である。ハロゲン化リン酸エステルの含有量が5.0重量部未満となると、メタクリル樹脂組成物において所望の難燃性が発揮されないことがあり、ハロゲン化リン酸エステルの含有量が25.0重量部を超えると、メタクリル樹脂組成物の耐熱性が低下する恐れがある。
【0016】
重合体Xは、前述したとおり、前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の合計100重量%を基準として、前記単官能単量体79.0〜99.8重量%、前記多官能単量体0.1〜1.0重量%及び耐熱性改良単量体0.1〜20.0重量%の割合で重合してなるものであり、好ましくは、前記単官能単量体89.5〜99.4重量%、前記多官能単量体0.1〜0.5重量%及び耐熱性改良単量体0.5〜10.0重量%の割合で重合してなるものである。前記多官能単量体の割合が、0.1重量%未満となると、メタクリル樹脂組成物において所望の難燃性が発揮されないことがあり、1.0重量%を超えると、メタクリル樹脂組成物の成形性が低下する恐れがある。耐熱性改良単量体の割合が、0.1重量%未満となると、メタクリル樹脂組成物の耐熱性が低下する恐れがある。耐熱性改良単量体の割合が20.0重量%を超えると、メタクリル樹脂組成物の光学特性が損なわれる恐れがあり、加えて、コスト面でも不利になる。
【0017】
また、重合体Xが、前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体にくわえ、連鎖移動剤が重合されてなるものである場合、連鎖移動剤の重合割合は、前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の合計100重量%を基準として0.01〜0.5重量%であるのが好ましい。連鎖移動剤の重合割合が低すぎると、メタクリル樹脂組成物の成形性が低下する恐れがあり、連鎖移動剤の重合割合が高すぎると、メタクリル樹脂組成物の機械的強度が低下する恐れがある。
【0018】
尚、本発明のメタクリル樹脂組成物には、必要に応じて、光拡散剤、着色剤、補強剤、充填剤、離型剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤等の各種添加剤を、1種または2種以上含有させてもよい。例えば、光拡散剤を含有するメタクリル樹脂組成物は、看板やディスプレイの前面板に利用できる拡散板や乳半板として好適である。光拡散剤の種類は限定されることなく、有機系もしくは無機系の微粒子が用いられ、有機系微粒子としてはポリスチレン架橋粒子やMS架橋粒子、アクリル系架橋粒子などが挙げられ、無機系微粒子としては、酸化チタンや硫酸バリウム、酸化ケイ素などが挙げられる。
【0019】
次に、本発明のメタクリル樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明のメタクリル樹脂組成物の製造方法としては、例えば、(ア)溶融した重合体Xにハロゲン化リン酸エステルを添加する方法、(イ)メタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体、耐熱性改良単量体、及びハロゲン化リン酸エステルをそれぞれ所定量混合して得られる重合性混合物を重合反応させる方法、(ウ)メタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体が一部重合してなる部分重合体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体、耐熱性改良単量体及びハロゲン化リン酸エステルを含有する重合性混合物を重合反応させる方法等が挙げられる。中でも、(イ)や(ウ)の方法が有利に採用される。
【0020】
上記(イ)の製造方法の具体例としては、メタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体、耐熱性改良単量体及びハロゲン化リン酸エステルを含有する重合性混合物を重合反応させるメタクリル樹脂組成物の製造方法であって、重合性混合物中のハロゲン化リン酸エステルの含有量が、前記単官能単量体、前記多官能単量体、耐熱性改良単量体及びハロゲン化リン酸エステルの合計100重量部を基準として、5.0〜25.0重量部であり、かつ、重合性混合物中の前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の各含有割合が、これらの合計100重量%を基準として、前記単官能単量体79.0〜99.8重量%、前記多官能単量体0.1〜1.0重量%、耐熱性改良単量体0.1〜20.0重量%であることを特徴とするメタクリル樹脂組成物の製造方法が挙げられる。
【0021】
また、上記(ウ)の製造方法の具体例としては、メタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体が一部重合してなる部分重合体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体、耐熱性改良単量体及びハロゲン化リン酸エステルを含有する重合性混合物を重合反応させるメタクリル樹脂組成物の製造方法であって、重合性混合物中のハロゲン化リン酸エステルの含有量が、前記部分重合体、前記多官能単量体、耐熱性改良単量体及びハロゲン化リン酸エステルの合計100重量部を基準として、5.0〜25.0重量部であり、かつ、重合性混合物中の前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の各含有割合が、これらの合計100重量%を基準として、前記単官能単量体79.0〜99.8重量%、前記多官能単量体0.1〜1.0重量%、耐熱性改良単量体0.1〜20.0重量%であることを特徴とするメタクリル樹脂組成物の製造方法が挙げられる。
【0022】
上記(イ)や(ウ)の方法における各成分の重量割合や含有割合は、前述したメタクリル樹脂組成物の各成分の含有割合となるように適宜調整できる。また、前記連鎖移動剤を前記重合性混合物に添加することができる。
【0023】
上記(ウ)の方法におけるメタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体が一部重合してなる部分重合体とは、前記単量体の一部が重合した重合体と、残りの未重合の単量体との混合物であり、いわゆる部分重合体シロップと称されるものである。この部分重合体は適度な粘性を有し、これを重合反応に供する際の操作性に優れるので、上記(ウ)の方法がより有利に採用される。また、前記部分重合体中の重合体の含有割合については、特に制限は無いが、前述した粘性や操作性の点から、該部分重合体100重量%を基準として1〜10重量%であるのが好ましい。
【0024】
尚、メタクリル樹脂組成物中に、必要に応じて上述したような添加剤を含有させる場合には、上記重合性混合物に添加して含有させることができる。
【0025】
上記重合性混合物を重合反応させる際、通常、該混合物にラジカル開始剤を添加して重合反応を行う。かかるラジカル開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)のようなアゾ化合物や、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドのような過酸化物等が挙げられ、また必要に応じて、アミン類のような促進剤を併用してもよい。この重合反応の温度は、通常、使用するラジカル開始剤の種類等によって、常温〜150℃の範囲で適宜設定され、また、必要に応じて多段階の温度条件で重合を行ってもよい。
【0026】
重合反応の方式としては、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、分散重合等の方法により行うことができるが、中でも、塊状重合、特にキャスト重合(注型重合)により行うことが好ましい。
【0027】
かかるキャスト重合は、上記重合性混合物をセルに注入して重合させることにより行うことができる。このセルとしては、例えば、2枚のガラス板と軟質塩化ビニルチューブのようなシール材から構成されるものを用いることができる。セルの空隙の間隔は所望の厚さの樹脂板が得られるように適宜調整されるが、一般的には1〜30mmである。
【0028】
かくして、良好な難燃性に加え、優れた成形性を有するメタクリル樹脂組成物を得ることができる。このメタクリル樹脂組成物は、例えば、照明材料、看板、ディスプレイ、建築材料等に利用することができる。特に、このメタクリル樹脂組成物は、ガソリンスタンドの如き可燃性物質を取り扱う場所において、その店名や商品価格等を表示する看板等の難燃板として好適に利用される。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、得られたメタクリル樹脂組成物の難燃性試験及び成形性試験は、以下のとおり行った。
【0030】
(1)難燃性試験
JIS K 6911−1979の耐燃性試験A法に準拠して、3個1組のサンプルにて不燃性、自消性、可燃性の判定を行った。尚、サンプルのうち3個とも不燃性の場合には◎、サンプルのうち3個とも自消性の場合には○、サンプルのうち1個又は2個が可燃性の場合には△、サンプルのうち3個とも可燃性の場合には×を示した。
【0031】
(2)耐熱性試験
JIS K 7191に準拠して、80℃で16時間アニールしたサンプルの熱変形温度(℃)を測定した。
【0032】
実施例1
メタクリル酸メチルが重合してなるポリメタクリル酸メチルを含有するメタクリル酸メチル部分重合体シロップ85.80重量部(該部分重合体中のポリメタクリル酸メチルの含有割合は、該部分重合体100重量%を基準として3.5重量%)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.2重量部、耐熱性改良単量体としてジシクロペンタニルメタクリレート1.0重量部、連鎖移動剤として1−ドデシルメルカプタン0.06重量部、含ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製の「CR−570」)13.0重量部、及び2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.07重量部を混合して重合性混合物を得た。この重合性混合物において、部分重合体シロップ、ネオペンチルグリコールジメタクリレート及びジシクロペンタニルメタクリレートの各含有割合は、これらの合計100重量%を基準として、部分重合体シロップ98.62重量%、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.23重量%、ジシクロペンタニルメタクリレート1.15重量%となる。また、この重合性混合物において、含ハロゲン縮合リン酸エステルの含有量は、部分重合体シロップ、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート及び含ハロゲン縮合リン酸エステルの合計100重量部を基準として、13.0重量部となる。
次いで、前記重合性混合物を、2枚のガラス板と塩化ビニル製ガスケットから構成される空隙の間隔が3mmのセルに流し込み、60℃にて6時間、次いで100℃にて1時間加熱して重合し、厚さ3mmの板状のメタクリル樹脂組成物を得た。該メタクリル樹脂組成物について、上記の評価を行ったところ、難燃性試験では◎、熱変形温度は82℃となった。
【0033】
実施例2
メタクリル酸メチルが重合してなるポリメタクリル酸メチルを含有するメタクリル酸メチル部分重合体シロップ83.80重量部(該部分重合体中のポリメタクリル酸メチルの含有割合は、該部分重合体100重量%を基準として3.5重量%)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.2重量部、耐熱性改良単量体としてジシクロペンタニルメタクリレート1.0重量部、連鎖移動剤として1−ドデシルメルカプタン0.06重量部、含ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製の「CR−570」)15.0重量部、及び2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.07重量部を混合して重合性混合物を得た。この重合性混合物において、部分重合体シロップ、ネオペンチルグリコールジメタクリレート及びジシクロペンタニルメタクリレートの各含有割合は、これらの合計100重量%を基準として、部分重合体シロップ98.59重量%、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.24重量%、ジシクロペンタニルメタクリレート1.18重量%となる。また、この重合性混合物において、含ハロゲン縮合リン酸エステルの含有量は、部分重合体シロップ、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート及び含ハロゲン縮合リン酸エステルの合計100重量部を基準として、15.0重量部となる。
次いで、前記重合性混合物を、2枚のガラス板と塩化ビニル製ガスケットから構成される空隙の間隔が3mmのセルに流し込み、60℃にて6時間、次いで100℃にて1時間加熱して重合し、厚さ3mmの板状のメタクリル樹脂組成物を得た。該メタクリル樹脂組成物について、上記の評価を行ったところ、難燃性試験では◎、熱変形温度は73℃となった。
【0034】
実施例3
メタクリル酸メチルが重合してなるポリメタクリル酸メチルを含有するメタクリル酸メチル部分重合体シロップ81.80重量部(該部分重合体中のポリメタクリル酸メチルの含有割合は、該部分重合体100重量%を基準として3.5重量%)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.2重量部、耐熱性改良単量体としてジシクロペンタニルメタクリレート3.0重量部、連鎖移動剤として1−ドデシルメルカプタン0.06重量部、含ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製の「CR−570」)15.0重量部、及び2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.07重量部を混合して重合性混合物を得た。この重合性混合物において、部分重合体シロップ、ネオペンチルグリコールジメタクリレート及びジシクロペンタニルメタクリレートの各含有割合は、これらの合計100重量%を基準として、部分重合体シロップ96.24重量%、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.24重量%、ジシクロペンタニルメタクリレート3.53重量%となる。また、この重合性混合物において、含ハロゲン縮合リン酸エステルの含有量は、部分重合体シロップ、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート及び含ハロゲン縮合リン酸エステルの合計100重量部を基準として、15.0重量部となる。
次いで、前記重合性混合物を、2枚のガラス板と塩化ビニル製ガスケットから構成される空隙の間隔が3mmのセルに流し込み、60℃にて6時間、次いで100℃にて1時間加熱して重合し、厚さ3mmの板状のメタクリル樹脂組成物を得た。該メタクリル樹脂組成物について、上記の評価を行ったところ、難燃性試験では◎、熱変形温度は73℃となった。
【0035】
実施例4
メタクリル酸メチルが重合してなるポリメタクリル酸メチルを含有するメタクリル酸メチル部分重合体シロップ84.80重量部(該部分重合体中のポリメタクリル酸メチルの含有割合は、該部分重合体100重量%を基準として3.5重量%)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.2重量部、耐熱性改良単量体としてN−フェニルマレイミド1.0重量部、連鎖移動剤として1−ドデシルメルカプタン0.06重量部、含ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製の「CR−570」)14.0重量部、及び2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.07重量部を混合して重合性混合物を得た。この重合性混合物において、部分重合体シロップ、ネオペンチルグリコールジメタクリレート及びN−フェニルマレイミドの各含有割合は、これらの合計100重量%を基準として、部分重合体シロップ98.60重量%、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.23重量%、N−フェニルマレイミド1.16重量%となる。また、この重合性混合物において、含ハロゲン縮合リン酸エステルの含有量は、部分重合体シロップ、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、N−フェニルマレイミド及び含ハロゲン縮合リン酸エステルの合計100重量部を基準として、14.0重量部となる。
次いで、前記重合性混合物を、2枚のガラス板と塩化ビニル製ガスケットから構成される空隙の間隔が3mmのセルに流し込み、60℃にて6時間、次いで100℃にて1時間加熱して重合し、厚さ3mmの板状のメタクリル樹脂組成物を得た。該メタクリル樹脂組成物について、上記の評価を行ったところ、難燃性試験では○、熱変形温度は82℃となった。
【0036】
実施例5
メタクリル酸メチルが重合してなるポリメタクリル酸メチルを含有するメタクリル酸メチル部分重合体シロップ83.80重量部(該部分重合体中のポリメタクリル酸メチルの含有割合は、該部分重合体100重量%を基準として3.5重量%)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.2重量部、耐熱性改良単量体としてN−フェニルマレイミド1.0重量部、連鎖移動剤として1−ドデシルメルカプタン0.06重量部、含ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製の「CR−570」)15.0重量部、及び2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.07重量部を混合して重合性混合物を得た。この重合性混合物において、部分重合体シロップ、ネオペンチルグリコールジメタクリレート及びN−フェニルマレイミドの各含有割合は、これらの合計100重量%を基準として、部分重合体シロップ98.59重量%、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.24重量%、N−フェニルマレイミド1.18重量%となる。また、この重合性混合物において、含ハロゲン縮合リン酸エステルの含有量は、部分重合体シロップ、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、N−フェニルマレイミド及び含ハロゲン縮合リン酸エステルの合計100重量部を基準として、15.0重量部となる。
次いで、前記重合性混合物を、2枚のガラス板と塩化ビニル製ガスケットから構成される空隙の間隔が3mmのセルに流し込み、60℃にて6時間、次いで100℃にて1時間加熱して重合し、厚さ3mmの板状のメタクリル樹脂組成物を得た。該メタクリル樹脂組成物について、上記の評価を行ったところ、難燃性試験では◎、熱変形温度は77℃となった。
【0037】
比較例1
メタクリル酸メチルが重合してなるポリメタクリル酸メチルを含有するメタクリル酸メチル部分重合体シロップ84.80重量部(該部分重合体中のポリメタクリル酸メチルの含有割合は、該部分重合体100重量%を基準として3.5重量%)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート0.2重量部、連鎖移動剤として1−ドデシルメルカプタン0.06重量部、含ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製の「CR−570」)15.0重量部、及び2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.07重量部を混合して重合性混合物を得た。なお、この重合性混合物は、耐熱性改良単量体を含有していないものである。
次いで、前記重合性混合物を、2枚のガラス板と塩化ビニル製ガスケットから構成される空隙の間隔が3mmのセルに流し込み、60℃にて6時間、次いで100℃にて1時間加熱して重合し、厚さ3mmの板状のメタクリル樹脂組成物を得た。該メタクリル樹脂組成物について、上記の評価を行ったところ、難燃性試験では◎、熱変形温度は70℃となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体及び耐熱性改良単量体が重合してなる重合体X、並びにハロゲン化リン酸エステルを含有するメタクリル樹脂組成物であって、
メタクリル樹脂組成物中の重合体X及びハロゲン化リン酸エステルの各含有量が、重合体X及びハロゲン化リン酸エステルの合計100重量部を基準として、重合体X75.0〜95.0重量部、ハロゲン化リン酸エステル5.0〜25.0重量部であり、かつ、
重合体Xが、前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の合計100重量%を基準として前記単官能単量体79.0〜99.8重量%、前記多官能単量体0.1〜1.0重量%及び耐熱性改良単量体0.1〜20.0重量%の割合で重合してなるものであることを特徴とするメタクリル樹脂組成物。
【請求項2】
重合体Xが、前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体にくわえ、連鎖移動剤が重合されてなるものであり、連鎖移動剤の重合割合が、前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の合計100重量%を基準として0.01〜0.5重量%である請求項1記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項3】
連鎖移動剤が、メルカプト基を有する化合物である請求項2記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項4】
耐熱性改良単量体が、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、N−フェニルマレイミド、α−メチルスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体である請求項1〜3のいずれか記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項5】
前記多官能単量体が、分子内にラジカル重合可能な二重結合を2個有する多官能単量体である請求項1〜4のいずれか記載のメタクリル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載のメタクリル樹脂組成物からなる難燃板。
【請求項7】
メタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体、耐熱性改良単量体及びハロゲン化リン酸エステルを含有する重合性混合物を重合反応させるメタクリル樹脂組成物の製造方法であって、
重合性混合物中のハロゲン化リン酸エステルの含有量が、前記単官能単量体、前記多官能単量体、耐熱性改良単量体及びハロゲン化リン酸エステルの合計100重量部を基準として、5.0〜25.0重量部であり、かつ、
重合性混合物中の前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の各含有割合が、これらの合計100重量%を基準として、前記単官能単量体79.0〜99.8重量%、前記多官能単量体0.1〜1.0重量%、耐熱性改良単量体0.1〜20.0重量%であることを特徴とする請求項1記載のメタクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記重合性混合物が、さらに連鎖移動剤を含有し、その含有割合が、前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の合計100重量%を基準として0.01〜0.5重量%である請求項7記載のメタクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
メタクリル酸メチルを主体とする単官能単量体が一部重合してなる部分重合体、分子内にラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2個有する多官能単量体、耐熱性改良単量体及びハロゲン化リン酸エステルを含有する重合性混合物を重合反応させるメタクリル樹脂組成物の製造方法であって、
重合性混合物中のハロゲン化リン酸エステルの含有量が、前記部分重合体、前記多官能単量体、耐熱性改良単量体及びハロゲン化リン酸エステルの合計100重量部を基準として、5.0〜25.0重量部であり、かつ、
重合性混合物中の前記単官能単量体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の各含有割合が、これらの合計100重量%を基準として、前記単官能単量体79.0〜99.8重量%、前記多官能単量体0.1〜1.0重量%、耐熱性改良単量体0.1〜20.0重量%であることを特徴とする請求項1記載のメタクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記部分重合体中の重合体の含有割合が、該部分重合体100重量%を基準として1〜10重量%である請求項9記載のメタクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記重合性混合物が、さらに連鎖移動剤を含有し、その含有割合が、前記部分重合体、前記多官能単量体及び耐熱性改良単量体の合計100重量%を基準として0.01〜0.5重量%である請求項9又は10記載のメタクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
連鎖移動剤が、メルカプト基を有する化合物である請求項8又は11記載のメタクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
耐熱性改良単量体が、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、N−フェニルマレイミド、α−メチルスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体である請求項7〜12のいずれか記載のメタクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記多官能単量体が、分子内にラジカル重合可能な二重結合を2個有する多官能単量体である請求項7〜13のいずれか記載のメタクリル樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項7〜14のいずれか記載の方法により製造されたメタクリル樹脂組成物からなる難燃板。

【公開番号】特開2011−46835(P2011−46835A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196532(P2009−196532)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】