説明

メタボリックシンドロームの予防または改善用組成物

【課題】メタボリックシンドロームの予防、改善に有用性の高い医薬品、飲食品の提供。
【解決手段】一般式(I)の化合物を含むキツネノマゴ科植物、その処理物。


(X:水素、R1、R2:水素、一緒になって酸素)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドロームの予防または改善用組成物に関するものであり、詳細には、キツネノマゴ科植物またはその処理物を含有するメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物、ならびに、これを含有する医薬品および飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタボリックシンドロームは、代謝症候群、シンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群とも呼ばれる複合生活習慣病であり、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上を併せもった状態のことを言う。メタボリックシンドロームになると、糖尿病、高血圧症、高脂血症の一歩手前の段階でも、これらが内臓脂肪型肥満をベースに複数重なることによって、動脈硬化を進行させ、心臓病や脳卒中といった動脈硬化性疾患発症の相対的危険度が増すことが、国内外の疫学調査で明らかとなっている。
我が国では、2008年4月よりメタボリックシンドローム発症予防を目的に40歳以上の国民を対象として特定健康診断が開始され、国民のメタボリックシンドロームに対する関心が非常に高まっている。現在、メタボリックシンドロームの予防および治療には、糖尿病、高脂血症あるいは高血圧の治療薬が適応されており、疾病状態によっては、複数の薬剤服用を伴っている。
【0003】
キツネノマゴ(Justicia procumbens L. var. leucantha Honda 以下、「FX」と略記する場合がある)は、キツネノマゴ科(Acanthaceae)の一年草で、日本から台湾にかけての温暖地に分布する野草である。特に日本では、本州から沖縄に広く分布し、野原、荒地や道端などに自生する。高さは10〜40センチメートルであり、葉は対生し、7月〜9月頃に枝先に淡紅色の花を咲かせる。漢方では、その茎葉は中国古典薬物書「神農本草経」に爵床(シャクジョウ)と記載され、浄血、解熱、せき止めなどに利用されてきた。民間では、神経痛、リウマチ、筋肉痛あるいは発熱時に地上部の乾燥品を煎じたり、あるいは、生の茎や葉のしぼり汁を患部へ塗るなどの利用法が知られている。
【0004】
FXの成分としては、ジャスティシジンA、ジャスティシジンB、ネオジャスティシンA(ジャスティシジンD)、ネオジャスティシンB(ジャスティシジンC)、ディフィリン、タイワニンEおよびタイワニンEメチルエーテルなどの数種類のリグナンが同定されている。これらの成分は、in vitro系において、抗がん、抗ウイルス、抗炎症および血小板凝集抑制などの作用を有すると報告され、ジャスティシジンAの生体内における抗がん作用については、免疫不全モデルNOD−SCIDマウスへの連続経口投与により認められている(非特許文献1,2参照)。また、ジャスティシジンA、ジャスティシジンBおよびディフィリンなどに骨吸収抑制作用を有する事実が明らかになっている(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、FXあるいはその処理物成分について、メタボリックシンドロームに及ぼす影響、すなわち、体重、体脂肪、糖代謝、脂質代謝などに及ぼす影響については未だ報告されていない。
【特許文献1】特許第3099243号公報
【非特許文献1】Lee, J.-C., Lee, C.-H., Su, C.-L., Huang, C.-W., Liu, H.-S., Lin, C.-N. and Won, S.-J. Justicidin A decreases the level of cytosolic Ku70 leading to apoptosis in human colorectal cancer cells. Carcinogenesis 26: 1716-1730 (2005)
【非特許文献2】Su, C.-L., Huang, L. L. H., Huang, L.-M., Lee, J.-C., Lin, C.-N. and Won, S.-J. Caspase-8 acts as a key upstream executor of mitochondria during justicidin A-induced apoptosis in human hepatoma cells. FEBS Lett 580: 3185-3191 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、現在、メタボリックシンドロームの予防および治療には、糖尿病、高脂血症あるいは高血圧の治療薬が適応されており、疾病状態によっては、複数の薬剤を服用しなければならないのが実情である。一方、手軽に利用できる飲食品の開発も活発になりつつあり、より高い効果を期待できる飲食品の開発が望まれている。
そこで、本発明は、メタボリックシンドロームの予防または改善に有用性を有する物質あるいは成分を見出し、これを含有する医薬品および飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、FXあるいはその成分がメタボリックシンドロームの予防または改善に有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、メタボリックシンドロームの予防または改善に有用な以下の発明を包含する。
[1]キツネノマゴ科植物またはその処理物を含有することを特徴とするメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
[2]処理物が抽出物である前記[1]に記載のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
[3]抽出物が、下記一般式(I)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、A環およびB環は置換されていてもよく、Xは水素原子、水酸基または置換されていてもよいアルコキシ基を表し、RとRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表すか、RおよびRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表す)
で表わされる化合物を含有することを特徴とする前記[2]〜[5]に記載のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
[4]下記一般式(I)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、A環およびB環は置換されていてもよく、Xは水素原子、水酸基または置換されていてもよいアルコキシ基を表し、RとRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表すか、RおよびRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表す)
で表わされる化合物を含有することを特徴とするメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
[5]レプチン抵抗性改善用組成物である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
[6]下記一般式(I)
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、A環およびB環は置換されていてもよく、Xは水素原子、水酸基または置換されていてもよいアルコキシ基を表し、RとRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表すか、RおよびRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表す)
で表わされる化合物を含有することを特徴とするメタボリックシンドロームの予防または改善のための飲食品。
[7]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物を含有することを特徴とする医薬品。
[8]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物を含有することを特徴とする飲食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、血中レプチン値を低下させ、肝トリグリセリド量を減少させ、脂質代謝を改善し、体重増加を抑制することが可能な、メタボリックシンドロームの予防または改善用組成物、ならびに、これを含有する医薬品および飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物は、キツネノマゴ科植物またはその処理物を含有するものである。
【0015】
本発明に用いられるキツネノマゴ科植物は特に限定されず、ハアザミ属(Acanthus)に属する植物、キンヨウボク属(Aphelandra)に属する植物、コエビソウ属(Beloperone)に属する植物、アリモリソウ属(Codonacanthus)に属する植物、ヘリトリオシベ属(Crossandra)に属する植物、ハグロソウ属(Dicliptera)に属する植物、ルリハナガヤ属(Eranthemum)に属する植物、アミメグサ属(Fittonia)に属する植物、ヒロハサギゴケ属(Hemigraphis)に属する植物、オギノツメ属(Hygrophila)に属する植物、シタイショウ属(Hypoestes)に属する植物、サンゴバナ属(Jacobinia)に属する植物、キツネノマゴ属(Justicia)に属する植物、ウロコマリ属(Lepidagathis)に属する植物、ベニサンゴバナ属(Pachystachys)に属する植物、ハグロソウ属(Peristrophe)に属する植物、ルイラソウ属(Ruellia)に属する植物、イセハナビ属(Strobilanthes)に属する植物、ヤハズカズラ属(Thunbergia)に属する植物などを挙げることができる。なかでも、キツネノマゴ属(Justicia)に属する植物がより好ましく、特に好ましくは、キツネノマゴ(Justicia procumbens L. var. leucantha Honda 以下、「FX」と記す)である。
FXは、上述のように、日本から台湾にかけての温暖地に分布する野草であり、日本では本州から沖縄に広く分布し、野原、荒地や道端などに自生する植物であるので、容易に取得することができる。また、大量に栽培して利用することも可能である。
【0016】
処理物としては、例えば、植物体の一部(葉、茎、根、花など)または全草の切断物、粉砕物、破砕物、乾燥物、搾り汁、抽出物等が挙げられる。なかでも、一般式(I)で表わされる化合物を含有する抽出物であることが好ましい。
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、A環およびB環は置換されていてもよく、Xは水素原子、水酸基または置換されていてもよいアルコキシ基を表し、RとRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表すか、RおよびRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表す)
上記一般式(I)において、A環またはB環が置換されている場合における置換基としては、例えばハロゲン原子、それぞれ置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルケニル基、水酸基等が挙げられる。置換の数はそれぞれ1〜4である。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられ、フッ素または塩素が好ましい。
【0019】
置換されていてもよいアルキル基におけるアルキル基としては、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状、環状いずれでもよく、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられ、なかでも炭素数1〜5のものが好ましい。当該アルキル基が有していてもよい置換基としては、例えばハロゲン、ニトロ、アミノ(アシル、アルキル、イミノメチル、イミノ(アリール置換)メチル、アミジノ、アミノを置換基として有していてもよい)、スルホ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシ、ヒドラジノ、イミノ、アミジノ、カルバモイル、アリール(ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルキルアミノ、アミノ、カルバモイル、スルホ、アルキルスルホニル、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシ、ニトロ、アシルオキシ、アラルキルオキシ、スルホニルオキシを置換基として有していてもよい)、複素環(ニトロ、オキソ、アリール、アルケニレン、ハロゲノアルキル、アルキルスルホニル、アルキル、アルコキシ、アルキルアミノ、アミノ、ハロゲン、カルバモイル、ヒドロキシ、シアノ、カルボキシ、スルホを置換基として有していてもよい)などが挙げられる。
【0020】
置換されていてもよいアリール基におけるアリール基としては、例えばフェニル、ナフチル、ビフェニル、アンスリル、インデニルなどが挙げられる。当該アリール基が有していてもよい置換基としては、例えばハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ(アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリールを置換基として有していてもよい)、スルホニル、ヒドロキシ、スルホオキシ、スルファモイル、アルキル(アミノ、ハロゲン、ヒドロキシ、シアノを置換基として有していてもよい)、アルコキシ、アラルキルオキシ、アルキルスルホンアミド、メチレンジオキシ、アルキルスルホニル、アルキルスルホニルアミノなどが挙げられる。また、シクロアルキルと縮合環(例えばテトラヒドロナフチル、インダニル、アセナフチルなど)を形成していてもよい。
【0021】
置換されていてもよいアルケニル基におけるアルケニル基としては、炭素数2〜10の直鎖状、分枝状、環状いずれでもよく、例えばアリル(allyl)、ビニル、クロチル、2−ペンテン−1−イル、3−ペンテン−1−イル、2−ヘキセン−1−イル、3−ヘキセン−1−イル、2−シクロヘキセニル、2−シクロペンテニル、2−メチル−2−プロペン−1−イル、3−メチル−2−ブテン−1−イル等が挙げられ、なかでも炭素数2〜6のものが好ましい。当該アルケニルが有していてもよい置換基としては、例えば炭素数1〜6のアルキル(前記のアルキル基が有していてもよい置換基と同様の基を有していてもよい)、ハロゲン、ニトロ、アミノ(アシル、イミノメチレン、アミジノ、アルキル、アリールを置換基として有していてもよい)、スルホ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシアルキルオキシカルボニル、カルバモイル、アルキルチオ、アリルチオ、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、スルファモイル、アリール、アシルなどの基が挙げられる。上記アルケニルあるいはアルケニレンは二重結合に関する異性体(E体、Z体)を包含する。
【0022】
上記置換基の説明におけるハロゲンとしては、たとえば塩素、臭素、フッ素、ヨウ素が挙げられる。上記置換基の説明におけるアルキルとしては、炭素数1〜10、さらに1〜6、特に1〜4のものが好ましく、その例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどが挙げられる。上記置換基としてのシクロアルキルとしては、炭素数3〜6のものが好ましく、その例としてはシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。上記置換基としてのアルコキシとしては、 炭素数1〜4のものが好ましく、その例としてはメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシなどが挙げられる。上記置換基としてのアリールとしては、例えばフェニル、ナフチルなどが挙げられる。上記置換基としての複素環としては、例えば2−ピリジル、3−ピリジル、イミダゾリル、チアゾリル、ピロリジニル、ピリド[2,3−d]ピリミジルなどが挙げられる。上記置換基としてのアシルとしては、炭素数1〜6のものが好ましく、例えばホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイルなどが挙げられる。上記置換基としてのアラルキルとしては例えばベンジル、フェネチル、フェニルプロピルなどが挙げられる。上記置換基としてのアルケニルあるいはアルケニレンとしては、前記したアルケニルと同様のものまたはメチレンが挙げられる。
【0023】
置換されたアルキルの具体例としては、例えばトリフルオロメチル、トリフルオロエチル、ジフルオロメチル、トリクロロメチル、ヒドロキシメチル、1−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシエチル、メトキシエチル、エトキシエチル、1−メトキシエチル、2−メトキシエチル、2,2−ジメトキシエチル、2,2−ジエトキシエチルなどが挙げられる。置換されたアリール基の具体例としては、例えば4−クロロフェニル、4−フルオロフェニル、2,4−ジクロロフェニル、p−トリル、4−メトキシフェニル、4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルなどが挙げられる。置換されたアルケニルの具体例としては、例えば2,2−ジクロロビニル、3−ヒドロキシ−2−プロペン−1−イル、2−メトキシビニルなどが挙げられる。
【0024】
置換されていてもよい水酸基としては、水酸基およびこの水酸基に適宜の置換基、特に水酸基の保護基として用いられるものを有した、例えばアルコキシ、アルケニルオキシ、アラルキルオキシ、アシルオキシなどに加えてアリールオキシが挙げられる。当該アルコキシとしては、炭素数1〜10のアルコキシ(例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペントキシ、イソペントキシ、ネオペントキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、ノニルオキシ、シクロブトキシ、シクロペントキシ、シクロヘキシルオキシ等)が好ましい。当該アルケニルオキシとしては、アリル(allyl)オキシ、クロチルオキシ、2−ペンテニルオキシ、3−ヘキセニルオキシ、2−シクロペンテニルメトキシ、2−シクロヘキセニルメトキシなど炭素数2〜10のものが、当該アラルキルオキシとしては、例えばフェニル−C1-4アルキルオキシ(例えばベンジルオキシ、フェネチルオキシ等)が挙げられる。当該アシルオキシとしては、炭素数2〜4のアルカノイルオキシ(例えばアセチルオキシ、プロピオニルオキシ、n−ブチリルオキシ、イソブチリルオキシ等)が好ましい。当該アリールオキシとしてはフェノキシ、4−クロロフェノキシなどが挙げられる。
【0025】
また、上記アルコキシ、アルケニルオキシ、アラルキルオキシ、アシルオキシ、アリールオキシにおける、アルキル、アルケニル、アシル、アリールの各基は置換基を有していてもよく、当該置換基としては、例えばハロゲン(例えはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ(例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ等)などが挙げられ、置換基の数は1〜3個が好ましい。その具体例としては、例えばトリフルオロメトキシ、2,2,2−トリフルオロエトキシ、ジフルオロメトキシ、2−メトキシエトキシ、4−クロロベンジルオキシ、2−(3,4−ジメトキシフェニル)エトキシなどが挙げられる。
【0026】
A環またはB環が置換されている場合の置換基としては、上記例示した置換基のなかで、置換されていてもよい水酸基である場合が好ましい。さらに上述のいかなる場合においても、置換基が2以上有るときこれらは互いに二価の炭化水素残基で環を形成していてもよい。このような場合の具体例として、2つの置換基が連結して、−(CH−、−(CH=CH)−または−O(CHO−(P、mおよびnはそれぞれ整数を示す)で示される環を形成し、かかる環は、ベンゼン環の隣接する2つの炭素原子と共に5、6および7員環を形成する場合が挙げられる。
【0027】
Xで表される置換されていてもよいアルコキシ基におけるアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ(例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペントキシ、イソペントキシ、ネオペントキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、ノニルオキシ、シクロブトキシ、シクロペントキシ、シクロヘキシルオキシ等)が挙げられ、炭素数1〜6のアルコキシが好ましい。当該アルコキシが有していてもよい置換基としては、例えばハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ(例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ等)などが挙げられ、置換基の数は1〜3個が好ましい。その置換アルコキシの具体例としては、例えばトリフルオロメトキシ、2,2,2−トリフルオロエトキシ、ジフルオロメトキシ、2−メトキシエトキシなどが挙げられる。
【0028】
とRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表す化合物は、下記一般式(II)で表わされる。
【0029】
【化5】

【0030】
(式中、A環およびB環は置換されていてもよく、Xは水素原子、水酸基または置換されていてもよいアルコキシ基を表す)
およびRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表す化合物は、下記一般式(III)で表わされる。
【0031】
【化6】

【0032】
(式中、A環およびB環は置換されていてもよく、Xは水素原子、水酸基または置換されていてもよいアルコキシ基を表す)
上記一般式(I)で表されるキツネノマゴの既知のリグナン成分(例えばジャスティシジンA、ジャスティシジンBなど)は、公知の方法(例えばPlanta Medica, 36, 200 (1979)、Tetrahedron Letters, No.36, 3517 (1967)、Tetrahedron Letters, 47 4167 (1965)、薬学雑誌, 81, 1596 (1961)等に記載の方法)またはそれに準ずる方法によりFXまたはそれ以外のキツネノマゴ科植物を原料として製造することができる。
【0033】
上記一般式(I)に記載の化合物は、例えば以下の方法によりキツネノマゴ科植物から抽出することができる。すなわち、キツネノマゴ科植物の乾燥粉末をエタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類またはジクロロメタン、クロロホルムなどのアルキルハライドで抽出する。抽出溶媒の量は原料の乾燥粉末に対し通常3〜20倍(w/w)である。また抽出温度は室温から使用する溶媒の沸騰点までの範囲でいずれでもよい。なお、水と混和する溶媒の場合は適宜混合溶媒を用いて抽出作業の効率化を図ることができる。抽出液をろ過して残渣と分離したのち、濃縮してエキスを作製する。得られたエキスを、シリカゲルの通常100〜300倍(w/w)量を固定相とするカラムクロマトグラフィーに付し、まずジクロロメタンまたはクロロホルムで、ついでアセトンで溶離する。溶離液中のリグナン成分は後述のTLCによって検出することができる。主要成分であるジャスティシジンAおよびBを含む溶離液を集め濃縮したのち、濃縮残留物を、逆相系シリカゲルの通常100〜300倍(w/w)量を固定相とするカラムクロマトグラフィーに付し、40〜60%メタノール水溶液で溶離して、TLCおよびHPLCで追跡しながらジャスティシジンB、ついでジャスティシジンAを含む分画物を得、濃縮して粉末状の残留物を得る。両者をそれぞれジクロロメタン−ジエチルエーテルから再結晶すると大部分のジャスティシジンAおよびBがいずれも無色板状晶として得られる。以上の操作過程で得られたすべての分画物および再結晶母液について、TLCおよびHPLCで追跡しながら、上記のカラムクロマトグラフィーを繰り返すことによって、その他のジャスティシジン成分が得られる。
【0034】
抽出、製造される過程におけるリグナン成分の追跡手段としては薄層クロマトグラフィー(TLC)あるいは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が適宜用いられる。
TLC条件−(1)プレート;シリカゲル60F254(メルク社製)、展開溶媒;ジエチルエーテル、検出方法;紫外線ランプ(254nm)
(2)プレート;TLCプレートRP−8F254s(メルク社製)、展開溶媒;アセトニトリル−水(7:3)、検出方法;紫外線ランプ(254nm)
HPLC条件−カラム;ERC−ODS−1161(6×100mm)、移動層;アセトニトリル−水(35:65)、カラム温度;40度、流速;1ml/分、検出波長;254nm
【0035】
上記一般式(I)で表わされる化合物は、例えば、特許文献1、J. Org. Chem., 36, 3450 (1971)、Chem. Pharm. Bull., 25, 1803 (1977)、Chem. Pharm. Bull., 37, 68 (1989)、Chem. Commun., 653, (1968)、Chem. Commun., 354, (1980)、J. Chem. Soc.(C), 2091, (1971)、J. Chem. Soc.(C), 1755, (1966) 等に記載の方法およびこれに準じた方法にしたがって合成することができる。
【0036】
上述のように、メタボリックシンドロームは、代謝症候群、シンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群とも呼ばれる複合生活習慣病であり、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上を併せもった状態のことを言う。メタボリックシンドロームになると、糖尿病、高血圧症、高脂血症の一歩手前の段階でも、これらが内臓脂肪型肥満をベースに複数重なることによって、動脈硬化を進行させ、心臓病や脳卒中といった動脈硬化性疾患発症の相対的危険度が増すことが、国内外の疫学調査で明らかとなっている。
【0037】
わが国では、以下の(1)に加えて(2)〜(4)のうち2つ以上が当てはまるとメタボリックシンドロームと診断される。
(1)腹囲(へそ周り)が、男性の場合は85cm以上、女性の場合は90cm以上
(2)中性脂肪が150mg/dL以上、HDLコレステロールが40mg/dL未満、のいずれか、または両方
(3)最高(収縮期)血圧が130mmHg以上、最低(拡張期)血圧が85mmHg以上、のいずれか、または両方
(4)空腹時血糖値が110mg/dL以上
【0038】
実施例において詳細に示すように、キツネノマゴ(FX)のエタノール抽出エキスまたはキツネノマゴ科植物の成分の一種であるジャスティシジンAを遺伝性肥満糖尿病マウスKKAに4週間混餌投与すると、血漿レプチン値がFXのエタノール抽出エキスの用量に依存して低下する事実が認められた。レプチンは、脂肪細胞から分泌され、中枢系に作用して摂食抑制作用のみならず、エネルギー消費亢進作用を有し、肥満や体重増加の制御に関与するホルモンである。また、末梢組織における糖・脂質代謝を調節する事実も知られている。しかし、肥満者では、脂肪細胞の肥大に伴いレプチン産生量が増加し、体脂肪量と血漿レプチン値とは正の相関関係にある。すなわち、血中レプチン濃度が高いにも関わらずに肥満していることは、レプチン抵抗性の状態にあり、レプチンの作用障害が存在すると考えられている。したがって、レプチン抵抗性の改善は、エネルギー消費亢進を誘発し、体重を減少させる、すなわち、抗肥満の手段として期待される。KKAマウスは、肥満発症に伴い高レプチン血症を生じ、摂餌量の低下を誘発することなく肥満状態に共通してみられるレプチン抵抗性を示すことが知られている。今回、本発明者らは、FXのエタノール抽出エキスおよびジャスティシジンAがKKAマウスにおいて血中レプチン値を低下させ、レプチン抵抗性を改善することができることを見出し、メタボリックシンドロームの予防または改善に有用性を有することを見出した。
【0039】
具体的には、FXのエタノール抽出エキスおよびジャスティシジンAはいずれも、KKAマウスの血中レプチン値を低下させ、ジャスティシジンAは、摂餌量の減少を伴わずに体重増加を抑制し、血中グルコース値の上昇を抑制し、血漿トリグリセリド値の上昇を抑制し、血漿遊離脂肪酸値の上昇を抑制し、血漿HDLコレステロールおよびLDL/VLDLコレステロール値の上昇を抑制し、肝トリグリセリド量を有意に減少させ、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)を有意に低下させた(実施例参照)。また、FXは、血漿HDLコレステロールおよびLDL/VLDLコレステロール値の上昇を抑制し、肝トリグリセリド量を有意に減少させ、ALTを有意に低下させた(実施例参照)。
【0040】
FXのエタノール抽出エキスおよびジャスティシジンAが血中レプチン値を低下させた機作は明らかではないが、FXのエタノール抽出エキスの投与により、肥満の発症に伴い増加する肝トリグリセリド量が減少し、血漿HDLコレステロールおよびLDL/VLDLコレステロール値が低下傾向を示したことは、いずれもFXのエタノール抽出エキスのレプチン抵抗性改善作用に起因するものと考えられる。さらに、FXのエタノール抽出エキスあるいはジャスティシジンAの投与により、肝機能のマーカーである血中ALT値が有意に低下したことから、FXおよびジャスティシジンAは、直接的もしくは間接的に肝臓に影響を及ぼす可能性が示唆される。
なお、レプチンと同様に脂肪細胞から分泌されるアディポネクチン値は、FXのエタノール抽出エキスあるいはジャスティシジンAの投与により変化しなかったことから、FXのエタノール抽出エキスおよびジャスティシジンAは、脂肪細胞に作用して脂肪組織全体の機能に影響したとは考えられない。アディポネクチンは、一般に、レプチンとは反対に肥満によりその発現・分泌は低下し、インスリン抵抗性発症の原因と考えられ、また、体重の軽減時には、アディポネクチンの発現・分泌は上昇し、インスリン抵抗性改善の一因となることが知られている。また、KKAマウスにおいても肥満発症に伴う血中アディポネクチンの低下とアディポネクチン投与によるインスリン抵抗性の改善が報告されている(Nat Med 7: 941-946 (2001))。
【0041】
FXのエタノール抽出エキスにはジャスティシジンAが約2%含まれており、FXのエタノール抽出エキス投与による変化は、ジャスティシジンA投与時にもみられたので、ジャスティシジンAの作用が反映している可能性が考えられる。しかし、ジャスティシジンA投与により観察された体重の増加抑制傾向あるいは血中グルコース、トリグリセリドや遊離脂肪酸の低下傾向がFXのエタノール抽出エキス投与時にみられなかったのは、ジャスティシジンAの効力、あるいは効果発現に要する成分割合が関係していると推測される。また、FXのエタノール抽出エキスには種々の成分が含まれていると想像され、ジャスティシジンAの作用と拮抗する成分が存在し、それらとの相互作用の結果とも考えられる。
【0042】
FXのエタノール抽出エキスの安全性については、単回投与毒性試験(0.5、1、2g/kg)および遺伝毒性試験(復帰突然変異試験)のいずれの試験においてもFXのエタノール抽出エキスによる異常性は認められなかった(未発表データ)。本報告に用いたFXのエタノール抽出エキスの高用量(0.5%)は、KKAマウスの摂餌量を参考に換算すると、約0.76g/kg/dayに相当したが、4週間投与の条件下においても剖検、器官重量および血液パラメーターに毒性と考えられる所見は認められなかった。したがって、FXはメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物として有用性を有するものであるといえる。
【0043】
本発明の医薬品は、上記本発明のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物を含有し、メタボリックシンドロームの予防または治療効果を有するものであればよい。具体的には、肥満の予防または改善、糖尿病の予防または治療、高血圧症の予防または治療、脂質異常(高脂血症)の予防または治療の少なくともいずれかに有効であればよい。
本発明の医薬品は、経口、非経口、または局所のいずれかの経路で哺乳動物に投与することができる。剤形についても特に限定されず、種々の薬剤学的に許容される不活性担体と組み合わせて、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ剤、トローチ剤、ハードキャンディー剤、散剤、スプレー剤、クリーム剤、塗剤、坐剤、ゼリー剤、ゲル剤、ペースト剤、ローション剤、軟膏剤、水性懸濁液、注射溶液、エリキシル剤、シロップ剤などの形態を採用することができる。
【0044】
本発明の飲食品は、上記本発明のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物を含有するものであればよい。本発明に好適な飲食品は特に限定されない。具体例には、例えば、いわゆる栄養補助食品(サプリメント)としての錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤等を挙げることができる。これ以外には、例えば茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料、そば、うどん、中華麺、即席麺等の麺類、飴、キャンディー、ガム、チョコレート、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子およびパン類、かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品、加工乳、発酵乳等の乳製品、サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂および油脂加工食品、ソース、たれ等の調味料、カレー、シチュー、丼、お粥、雑炊等のレトルトパウチ食品、アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の冷菓などを挙げることができる。
【0045】
本発明の医薬品および飲食品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、メタボリックシンドロームの予防または改善効果が期待できる限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
本発明の医薬品および飲食品は、キツネノマゴ科植物もしくはその処理物、または一般式(I)で表わされる化合物に加え、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲内で、医薬品、飲食品に使用される公知の添加剤等を併用して配合することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
〔遺伝性肥満糖尿病マウスKKAへの影響〕
1.材料と方法
(1)動物
7週齢、雌性KKA/Taマウスを日本クレア(株)より購入し、1週間の馴化後に実験に使用した。マウスは、それぞれ個別プラスチック製ケージに収容し、通常食であるCE−2粉末飼料(日本クレア社製)および水を自由摂取させ、室温:23±2℃、湿度:50±15%および12時間照明(7:00−19:00)の環境下で飼育した。
【0047】
(2)被験物質
被験物質であるFXのエタノール抽出エキスは、兵庫県を中心に関西周辺部において採集したFXの全草を用いてOkigawa et al.の報告(Tetrahedron 26: 4301-4305 (1970))を参考に調製した。次に、エキスを、デキストランを用いて10倍散に調製し、CE−2粉末飼料に混合した。また、ジャスティシジンAは、採集したFX全草よりMunakata et al.(Tetrahedron Lett 47: 4167-4170 (1965))の方法を参考に分離精製および結晶化し、飼料に混合した。マウスへの投与用量は、FXのエタノール抽出エキス:0.1%、0.5%およびジャスティシジンA:0.065%に設定し、投与期間は、4週間とした。なお、ジャスティシジンAの用量は、吸収性を考慮してFXのエタノール抽出エキス0.5%中のジャスティシジンA含量(エキス中に2%含有)の約5倍量を目安に、0.065%とした。
【0048】
(3)動物の群分け
馴化飼育したマウスを、投与開始日の体重および血中グルコース値を指標として、各投与群の平均体重および血中グルコース値が均等になるように4群(8例/群)に群分けをした。
(4)体重および摂餌量
体重は週1回、摂餌量は1週間に2回の頻度で測定した。
【0049】
(5)血液生化学パラメーター
被験物質投与開始前日および投与終了日に、マウス尾静脈の剃刀による切り込み部からの血液を血糖測定器センサー部(ニプロフリースタイルメーター)に吸引して血糖値を測定した。さらに、尾静脈からヘパリン処理キャピラリーにより部分採血を行った。血液は遠心分離処理(5,000 rpm、10 min、0-4℃)を施した後に上清(血漿)を採取し、遊離脂肪酸(NEFA)を遊離脂肪酸測定キット(NEFA Cテストワコー:和光純薬)を用いて測定した。また、被験物質投与終了日に、エーテル麻酔下で腹部大動脈よりヘパリン処理注射筒を用いて全採血を行った。採取した血液は、遠心分離処理により血漿を調製し、トリグリセリド(ドライケムシステム:富士フィルムメデイカル)、レプチン(モリナガマウスレプチン測定キット:森永生科学研究所)、インスリン(レビス インスリン−マウス U−タイプ:シバヤギ)、LDL/VLDLコレステロール、HDLコレステロール(HDL and LDL/VLDL Cholesterol Quantification Kit,:BioVision)、アディポネクチン(マウス/ラットアディポネクチンELISAキット:大塚製薬)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)(ドライケムシステム:富士フィルムメデイカルおよびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)(ドライケムシステム:富士フィルムメデイカル)をそれぞれ括弧内に記した測定キットを用いて測定した。
【0050】
(6)器官摘出
被験物質投与終了日の全採血後に、子宮周囲脂肪組織、腎臓周囲脂肪組織、大腿骨付近皮下脂肪組織、肩甲骨間褐色脂肪組織、肝臓、腎臓、心臓、脾臓、胸腺、肺および子宮を摘出し、各器官の重量を測定した。
(7)肝トリグリセリド
マウスより摘出後に凍結保存した肝臓の一部を用い、Folch et al.の方法(J Biol Chem 226: 479-509 (1957))に従いトリグリセリド量を測定した。
(8)成績表示および統計処理
成績は、平均値±標準誤差(SE)で表示した。表中の用量表示は、FXのエタノール抽出エキス量としての0.1%(低用量)、0.5%(高用量)とした。
FXのエタノール抽出エキス投与群と対照群との有意差検定はDunnett検定により行った。また、ジャスティシジンA投与群と対照群との有意差検定はStudent検定に従った。いずれの検定の場合も危険率5%以下を有意差ありと判定した。
【0051】
2.結果
(1)体重
本実験に使用した8週齢KKAマウス(対照群)は、実験期間(4週間)中に11.3±0.6g(平均値±SE)の体重増加を示した(表1)。FXのエタノール抽出エキスを0.1%あるいは0.5%の用量でKKAマウスに4週間投与したが、体重増加量は対照群と同様の変化であった。しかし、ジャスティシジンA(0.065%)の投与では、有意な体重の増加抑制がみられた。すなわち、4週間の体重増加量は、対照群の11.3±0.6g(平均値±SE)に対し、ジャスティシジンA投与群は、8.8±0.9g(表1)であり、22.1%の増加抑制を示した。
【0052】
【表1】

【0053】
(2)摂餌量
実験期間中の各週の摂餌量を表2に示した。対照群に比べ、FXのエタノール抽出エキス(0.1%、0.5%)あるいはジャスティシジンA(0.065%)投与群では、4週間を通して摂餌量に変化はみられなかった。
【0054】
【表2】

【0055】
(3)血液パラメーター
表3に測定したすべての血液パラメーター値を記した。
【0056】
【表3】

【0057】
(i) グルコース
本実験に使用したKKAマウス(対照群)では、血中グルコース値が実験開始時は軽度高く(242±33mg/dl、平均値±SE)、4週後ではさらに315±29mg/dlに上昇した。FXのエタノール抽出エキス(0.1%、0.5%)投与群においても対照群と同様の変化であった。しかし、ジャスティシジンA(0.065%)投与群では、血中グルコース平均値が300mg/dl以下の値(271±35mg/dl)を維持し、血中グルコース値の上昇が抑制される傾向(対照群に比べ14%低下)にあった。
(ii) インスリン
血漿インスリン値は、FXのエタノール抽出エキス、ジャスティシジンAのいずれを投与しても、対照群に比べ、変化はみられなかった。
【0058】
(iii) 脂質
本実験のKKAマウス(対照群)は、400mg/dl以上の血漿トリグリセリド値を示し、高トリグリセリド血症であった。FXのエタノール抽出エキス投与は血漿トリグリセリド値には影響を及ぼさなかった。しかし、ジャスティシジンAを投与すると、対照群に比べ、低下傾向を示した(28.8%低下)。
血漿遊離脂肪酸値は、FXのエタノール抽出エキス投与により変化しなかったが、ジャスティシジンA投与により、対照群と比較して20.8%の低下傾向を示した。
血漿HDLコレステロールおよびLDL/VLDLコレステロール値は、FXのエタノール抽出エキスの低用量(0.1%)の投与では変化しなかったが、高用量(0.5%)の投与では、有意ではないが低下傾向を示した。ジャスティシジンA投与によっても低下傾向(24.6%低下)にあった。
【0059】
(iv) 脂肪細胞分泌因子
血漿レプチン値は、FXのエタノール抽出エキスの低用量(0.1%)の投与では低下の傾向を示し、高用量(0.5%)の投与により有意に低下した。また、ジャスティシジンA投与によっても有意な低下を示した。
一方、アディポネクチン値は、FXのエタノール抽出エキスあるいはジャスティシジンAの投与による変化はみられなかった。
(v) 肝機能
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)は、FXのエタノール抽出エキスあるいはジャスティシジンAの投与による変化はみられなかった。一方、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)については、FXのエタノール抽出エキスの高用量(0.5%)投与あるいはジャスティシジンA投与により有意に低下した。
【0060】
(4)肝トリグリセリド量
被験物質投与最終日に摘出した肝臓について、トリグリセリド量を測定した結果を表4に示した。表4から明らかなように、FXのエタノール抽出エキスの投与により肝トリグリセリド量が減少し、高用量(0.5%)投与群では有意に減少した。また、ジャスティシジンA投与群においても肝トリグリセリド量は有意に減少した。
【0061】
【表4】

【0062】
(5)剖検および器官重量
FXのエタノール抽出エキスあるいはジャスティシジンA投与期間中のマウスの外観および行動に異常は認められなかった。また、剖検時にもマウスに異常は認められなかった。解剖により摘出したすべての器官、すなわち子宮周囲、腎臓周囲、皮下部の白色脂肪組織、肩甲骨間褐色脂肪組織、肝臓、腎臓、心臓、脾臓、胸腺および肺の重量は、FXのエタノール抽出エキス低用量(0.1%)投与群、FXのエタノール抽出エキス高用量(0.5%)投与群、あるいはジャスティシジンA投与群のいずれの群においても対照群に比べ、変化を示さなかった(表1)。子宮重量は、FXのエタノール抽出エキス高用量(0.5%)投与群で有意な高値を示したが、その影響は軽度であった。
以上のように、FXのエタノール抽出エキスは、KKAマウスの血中レプチン値を低下させ、血漿HDLコレステロールおよびLDL/VLDLコレステロール値の上昇を抑制し、肝トリグリセリド量を有意に減少させ、ALTを有意に低下させることが明らかとなった。また、ジャスティシジンAは、KKAマウスの血中レプチン値を低下させ、摂餌量の減少を伴わずに体重増加を有意に抑制し、血中グルコース値の上昇を抑制し、血漿トリグリセリド値の上昇を抑制し、血漿遊離脂肪酸値の上昇を抑制し、血漿HDLコレステロールおよびLDL/VLDLコレステロール値の上昇を抑制し、肝トリグリセリド量を有意に減少させ、ALTを有意に低下させることが明らかとなった。したがって、FXおよびジャスティシジンAは、メタボリックシンドロームの予防または改善用組成物として有用である。
【0063】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キツネノマゴ科植物またはその処理物を含有することを特徴とするメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
【請求項2】
処理物が抽出物である請求項1に記載のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
【請求項3】
抽出物が、下記一般式(I)
【化1】

(式中、A環およびB環は置換されていてもよく、Xは水素原子、水酸基または置換されていてもよいアルコキシ基を表し、RとRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表すか、RおよびRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表す)
で表わされる化合物を含有することを特徴とする請求項2に記載のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
【請求項4】
下記一般式(I)
【化2】

(式中、A環およびB環は置換されていてもよく、Xは水素原子、水酸基または置換されていてもよいアルコキシ基を表し、RとRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表すか、RおよびRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表す)
で表わされる化合物を含有することを特徴とするメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
【請求項5】
レプチン抵抗性改善用組成物である請求項1〜4のいずれかに記載のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物。
【請求項6】
下記一般式(I)
【化3】

(式中、A環およびB環は置換されていてもよく、Xは水素原子、水酸基または置換されていてもよいアルコキシ基を表し、RとRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表すか、RおよびRがいずれも水素原子でRとRが一緒になって酸素原子を表す)
で表わされる化合物を含有することを特徴とするメタボリックシンドロームの予防または改善のための飲食品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のメタボリックシンドロームの予防または改善用組成物を含有することを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2010−116371(P2010−116371A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292093(P2008−292093)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000236573)浜理薬品工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】