説明

メタン分離膜および二酸化炭素分離膜、並びにそれらの製造方法

【課題】本発明により、耐熱性、耐久性、耐化学薬品性(耐食性)に優れたメタン分離膜または二酸化炭素分離膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、(a)(i)酸触媒、水、有機溶媒を撹拌して混合し、(ii)次にテトラアルコキシシランを加えて撹拌して混合し、(iii)その後、炭素数21〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えて撹拌して混合して、金属アルコキシド溶液を調製する工程、(b)該金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布する工程、および(c)該金属アルコキシド溶液を塗布した無機多孔質支持体を30〜300℃で焼成する工程
を含むことを特徴とするメタン分離膜または二酸化炭素分離膜の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン分離膜または二酸化炭素分離膜、特に耐熱性、耐久性、耐化学薬品性(耐食性)に優れたメタン分離膜および二酸化炭素分離膜、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス、ナフサ、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、石油化学工業由来のオフガス等の供給ガス混合物や、下水処理設備などからの汚泥およびごみ処理場のごみを生物学的に処理することにより発生する混合ガス(消化ガス)から、特定ガス、特にメタンを分離回収し、燃料ガスなどに有効利用されている。上記のような混合ガスから、メタンを選択的に分離回収する材料として、有機材料や無機材料から成る気体分離膜や吸着材などが用いられている(特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1には、例えば、天然ガス等から特定ガスの分離回収するために用いることができる気体分離膜として、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを重合及びイミド化して得られる芳香族ポリイミド膜を、350℃を超える温度で加熱処理して架橋させた芳香族ポリイミド気体分離膜が提案されている(特許文献1請求項1、段落[0002]等)。しかしながら、特許文献1の気体分離膜は有機材料からなり、無機材料から成る気体分離膜に比べると耐熱性、耐久性、耐化学薬品性(耐食性)に欠けるものであるという問題点があった。
【0004】
特許文献2には、下水処理設備などからの汚泥およびごみ処理場のごみを生物学的に処理することにより発生する、メタン、二酸化炭素を主成分とする混合ガス(消化ガス)を効率的に回収/貯蔵するのに用いる吸着材として、比表面積が800〜2400m/gで、細孔容積が0.4〜1.5cm/gで、かつ細孔直径が7〜20Åである活性炭からなる消化ガス用吸着材が提案されている(特許文献2請求項1、段落[0001]〜[0002]等)。しかしながら、特許文献2は吸着材であり、吸着脱着工程が必要となり、特定ガスの分離回収する工程や装置が複雑化するという問題点があった。
【0005】
特許文献3には、天然ガス、ナフサ、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、石油化学工業由来のオフガスその他といったような供給ガス混合物におけるCより高級な炭化水素から精製メタンを分離するための気体透過装置に用いられる選択透過膜として、芳香族ポリイミド、芳香族ポリエーテルなどの気体透過装置の作動温度より高いガラス転移温度をもつガラス質、非晶質又は半晶質重合体で構成されている選択透過膜が提案されている(特許文献3請求項1〜2、段落[0001]等)。しかしながら、特許文献3では、膜内の水蒸気及び高級炭化水素の凝縮は、気体透過装置が10℃〜100℃の間、好ましくは40℃〜60℃の間の作動温度を有する場合に回避でき、膜の信頼性の高い透過を確保するため、特許文献3の気体透過装置は、これらの重合体のガラス転移温度より低い温度で作動する場合に精製方法が最も効率良く作用することが記載されており(特許文献3段落[0005]、[0007]、[0020]等)、また、特許文献1の気体分離膜と同様に特許文献3の選択透過膜も有機材料からなり、無機材料から成る気体分離膜に比べると耐熱性、耐久性、耐化学薬品性(耐食性)に欠けるものであるという問題点があった。
【0006】
上記のような有機高分子材料では耐熱性が不十分であり、無機材料では柔軟性に欠けており脆いという両者の欠点を改善するため、無機‐有機ハイブリッド材料が提案されている(特許文献4)。特許文献4には、メタクリロキシアルキル基を有するケイ素アルコキシドと、三官能性ケイ素アルコキシド及び四官能性ケイ素アルコキシドからなる群から選択される少なくとも1種のケイ素アルコキシドと、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート及びポリエチレングリコールジアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種と、リン酸化合物とを含有する原料混合物を、ゾル‐ゲル法によって固化させることを特徴とする、リン酸基含有無機‐有機ハイブリッド材料の製造方法が記載されている(特許文献4請求項1)。また、特許文献4には、マトリックス相が無機材料で構成されているので、耐熱性および耐化学薬品性(耐食性)に優れており、100〜150℃程度の高温度においても、使用可能であり、無機マトリックス相と一体化した有機相を含むので、柔軟性にも優れていることが記載されている(段落[0036]〜[0037])。しかしながら、特許文献4の発明は、無機マトリックス相形成材料としてのケイ素アルコキシド、エチレングリコール等の有機相形成材料およびリン酸化合物から構成される、有機燃料電池のプロトン導電部材に用いられる低水分条件下でもプロトン伝導性の高い自立膜の発明であり、基材である無機多孔質支持体を用いるメタン分離膜の製造方法である本発明とは構成の異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10‐156157号公報
【特許文献2】特開2001‐269570号公報
【特許文献3】特表2004‐533927号公報
【特許文献4】特開2005‐162957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記のような従来の気体分離膜の有する問題点を解決し、耐熱性、耐久性、耐化学薬品性(耐食性)に優れたメタン分離膜およびその製造方法を提供することにある。また、本発明は、メタン分離膜の製造方法を基礎として検討を重ねた二酸化炭素分離膜の製造方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、テトラアルコキシシランおよび炭化水素基含有トリアルコキシシランから成る金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体上に薄膜コーティングし、焼成することによって、上記炭化水素基含有トリアルコキシシランの炭化水素基がメタンとの親和性を有しており、他の気体よりもメタンを優先的に透過させることを知見し、このような知見に基づき、本発明を完成させた。また、更に検討を進めて、二酸化炭素も他の気体から優先的に透過させることができるものも完成した。
【0010】
即ち、本発明は、
(a)(i)酸触媒、水、有機溶媒を撹拌して混合し、
(ii)次にテトラアルコキシシランを加えて撹拌して混合し、
(iii)その後、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えて撹拌して混合して、
金属アルコキシド溶液を調製する工程、
(b)該金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布する工程、および
(c)該金属アルコキシド溶液を塗布した無機多孔質支持体を30〜300℃で焼成する工程
を含むことを特徴とするメタン分離膜または二酸化炭素分離膜の製造方法に関する。
【0011】
本発明のメタン分離膜または二酸化炭素分離膜の製造方法では、上記工程(ii)の炭化水素基含有トリアルコキシシランの炭化水素基が炭素数2〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される場合には、メタン分離膜が形成され、炭化水素基含有トリアルコキシシランの炭化水素基がメチル基の場合には、二酸化炭素分離膜が形成される。
【0012】
メタン分離膜の場合には、本発明は、(a)(i)酸触媒、水、有機溶媒を撹拌して混合し、
(ii)次にテトラアルコキシシランを加えて撹拌して混合し、
(iii)その後、炭素数2〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えて撹拌して混合して、
金属アルコキシド溶液を調製する工程、
(b)該金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布する工程、および
(c)該金属アルコキシド溶液を塗布した無機多孔質支持体を30〜300℃で焼成する工程
を含むことを特徴とするメタン分離膜の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、(a)(i)酸触媒、水、有機溶媒を撹拌して混合し、
(ii)次にテトラアルコキシシランを加えて撹拌して混合し、
(iii)その後、メチルトリアルコキシシランを加えて撹拌して混合して、
金属アルコキシド溶液を調製する工程、
(b)該金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布する工程、および
(c)該金属アルコキシド溶液を塗布した無機多孔質支持体を30〜300℃で焼成する工程
を含むことを特徴とする二酸化炭素分離膜の製造方法を提供する。
【0014】
更に、本発明を好適に実施するためには、メタン分離膜の場合は、
上記酸触媒が硝酸および塩酸から成る群から選択され、上記有機溶媒がメタノール、エタノールおよびプロパノールから成る群から選択されるアルコール類であり、
上記テトラアルコキシシランがテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランから成る群から選択され、
上記炭化水素基含有トリアルコキシシランが、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランおよびフェニルトリエトキシシランから成る群から選択され;
前記工程(a)において、
前記工程(a−i)が、15〜40℃で0.5〜3時間の条件で行われ、
前記工程(a−ii)が、15〜40℃で0.5〜24時間の条件で行われ、および
前記工程(a−iii)が、15〜40℃で0.5〜24時間の条件で行われ、
前記工程(b)が、
(b−i)前記無機多孔質支持体を金属アルコキシド溶液に浸漬する工程、
(b−ii)15〜40℃で0.5〜3時間放置して乾燥する工程、
(b−iii)上記工程(b−i)〜(b−ii)を繰り返す工程
を含み、
前記工程(c)が、
(c−i)室温から30〜300℃の焼成温度まで1〜24時間で昇温し、
(c−ii)該焼成温度で0.5〜6時間保持し、
(c−iii)該焼成温度から室温まで5〜10時間で冷却する工程、
(c−iv)上記工程(b−i)〜(c−iii)を更に1〜10回繰り返す工程
を含み;
上記金属アルコキシド溶液が、テトラアルコキシシランおよび炭化水素基含有トリアルコキシシランの合計量1モルに対して、酸触媒0.005〜0.1モル、水0.5〜10モル、有機溶媒5〜60モルを含有し、テトラアルコキシシランと炭化水素基含有トリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/炭化水素基含有トリアルコキシシラン)が1/9〜9/1であり;
上記メタン分離膜が、メタンの透過率P(CH)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CH/N)]1〜10を有し、二酸化炭素の透過率P(CO)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CO/N)]1〜100を有する;
ことが望ましい。
【0015】
また、本発明は、テトラアルコキシシラン、炭素数2〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシラン、酸触媒、水、有機溶媒を含有する金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布し、焼成して製造されるメタン分離膜に関する。
【0016】
更に、本発明の他の態様として、
(a)(i)酸触媒、水、有機溶媒を撹拌して混合し、
(ii)次にテトラアルコキシシランを加えて撹拌して混合し、
(iii)その後、炭素数2〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えて撹拌して混合して、
金属アルコキシド溶液を調製する工程、
(b)該金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布する工程、および
(c)該金属アルコキシド溶液を塗布した無機多孔質支持体を30〜300℃で焼成する工程
を含むことを特徴とするメタン分離膜の製造方法によって製造されたメタン分離膜がある。
【0017】
二酸化炭素分離膜の場合は、上記の炭化水素基含有トリアルコキシシランを炭素数1の炭化水素基(即ち、メチル基)にすることで良好なものが得られる。
【0018】
二酸化炭素分離膜の場合には、前記酸触媒が硝酸および塩酸から成る群から選択され、前記有機溶媒がメタノール、エタノールおよびプロパノールから成る群から選択されるアルコール類であり、
前記テトラアルコキシシランがテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランから成る群から選択され、
前記メチルトリアルコキシシランがメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランから選択されるのが好ましい。
【0019】
二酸化炭素分離膜の製造方法は、更に詳しくは、
前記工程(a)において、
前記工程(a−i)が、15〜40℃で0.5〜3時間の条件で行われ、
前記工程(a−ii)が、15〜40℃で0.5〜24時間の条件で行われ、および
前記工程(a−iii)が、15〜40℃で0.5〜24時間の条件で行われ、
前記工程(b)が、
(b−i)前記無機多孔質支持体を金属アルコキシド溶液に浸漬する工程、
(b−ii)15〜40℃で0.5〜3時間放置して乾燥する工程、
(b−iii)上記工程(b−i)〜(b−ii)を繰り返す工程
を含み、
前記工程(c)が、
(c−i)室温から30〜300℃の焼成温度まで1〜24時間で昇温し、
(c−ii)該焼成温度で0.5〜6時間保持し、
(c−iii)該焼成温度から室温まで5〜10時間で冷却する工程、
(c−iv)上記工程(b−i)〜(c−iii)を1〜10回繰り返す工程
を含むのが好ましい。
【0020】
二酸化炭素分離膜の場合には、更に、前記金属アルコキシド溶液が、テトラアルコキシシランおよびメチルトリアルコキシシランの合計量1モルに対して、酸触媒0.005〜0.1モル、水0.5〜10モル、有機溶媒5〜60モルを含有し、テトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/メチルトリアルコキシシラン)が1/9〜9/1であるのが好ましい。
【0021】
前記二酸化炭素分離膜は、メタンの透過率P(CH)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CH/N)]1〜10を有し、二酸化炭素の透過率P(CO)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CO/N)]1〜100を有するのが好ましい。
【0022】
二酸化炭素分離膜の場合、テトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/メチルトリアルコキシシラン)が7/3〜3/7である時に、二酸化炭素の透過率P(CO)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CO/N)]が最大になる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、先にテトラアルコキシシランを高分子化させた後、炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えて調製することを特徴とする金属アルコキシド溶液を、無機多孔質支持体上に薄膜コーティングし、焼成することによって、耐熱性、耐久性、耐化学薬品性(耐食性)に優れたメタン分離膜および二酸化炭素分離膜、並びにそれらの製造方法を提供することを可能としたものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の分離膜は、テトラアルコキシシラン、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシラン、酸触媒、水、有機溶媒を含有する金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布し、焼成して製造されることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の離膜の製造方法は、前述のように、
(a)(i)酸触媒、水、有機溶媒を撹拌して混合し、
(ii)次にテトラアルコキシシランを加えて撹拌して混合し、
(iii)その後、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えて撹拌して混合して、
金属アルコキシド溶液を調製する工程、
(b)該金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布する工程、および
(c)該金属アルコキシド溶液を塗布した無機多孔質支持体を30〜300℃で焼成する工程
を含むことを特徴とするものである。
【0026】
本明細書中で用いる場合、「テトラアルコキシシラン」とは、以下の式:
【化1】

(式中、R〜Rは、同一または異なっていてもよく、炭素数1〜3のアルキル基である。)
で表される化合物を意味し、具体例としては、テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランから成る群から選択される。また、「炭化水素基含有トリアルコキシシラン」とは、以下の式:
【化2】

(式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基であり、R〜Rは、同一または異なっていてもよく、炭素数1〜2のアルキル基である。)
で表される化合物を意味し、具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランおよびフェニルトリエトキシシランから成る群から選択される。
【0027】
本発明のメタン分離膜に用いる炭化水素基含有トリアルコキシシランとして、炭素数2〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランが、メタン分離能が優れることから好ましく、具体例としては、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランおよびフェニルトリエトキシシランから成る群から選択されることが好ましい。
【0028】
二酸化炭素分離膜に使用する炭化水素基含有トリアルコキシシランは、メチル基含有トリアルコキシシラン、具体的にはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが挙げられる。
【0029】
上記工程(a)の金属アルコキシド溶液を調製する工程では、まず、工程(a−i)において、酸触媒、水、有機溶媒を撹拌して混合するが、上記酸触媒が硝酸および塩酸から成る群から選択され、上記有機溶媒がメタノール、エタノールおよびプロパノールから成る群から選択されるアルコール類である。
【0030】
上記酸触媒、水および有機溶媒の配合量としては、テトラアルコキシシランおよび炭化水素基含有トリアルコキシシランの合計量1モルに対して、酸触媒0.005〜0.1モル、水0.5〜10モル、有機溶媒5〜60モルが好ましい。上記酸触媒の配合量が0.005モルより少ないと加水分解速度が小さくなって製造時間が長くなり、0.1モルより多いと加水分解速度が大きくなり過ぎて均一な分離膜が得られにくくなる。上記水の配合量が0.5モルより少ないと加水分解速度が小さくなり、また十分な加水分解が行われず、10モルより多いと加水分解が進行し過ぎて緻密な膜形成が困難になり、細孔径が大きくなる。上記有機溶媒の配合量が5モルより少ないと金属アルコキシド溶液の濃度が高くなり緻密で均一な膜形成が困難になり、60モルより多いと金属アルコキシド溶液の濃度が低くなり、1度のコーティングで塗布できる量が少なくなり、コーティング回数(工程数)を増加することが必要となる。
【0031】
更に、上記工程(a−i)は、15〜40℃で0.5〜3時間、好ましくは1〜2時の条件で行われる。上記混合時間が0.5時間より短いと混合が不十分となる恐れがあり、3時間で十分に混合することができ、上記混合時間を更に長くしてもそれ以上の効果は得られず製造時間が長くなる。
【0032】
次いで、上記工程(a−i)により均一となった溶液の中へ、上記工程(a−ii)において、更にテトラアルコキシシランを加えて撹拌して混合する。上記テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランから成る群から選択され、上記工程(a−ii)は、15〜40℃で0.5〜24時間、好ましくは0.5〜6時間の条件で行われる。上記混合温度が15℃より低い場合や上記混合時間が0.5時間より短い場合、テトラアルコキシシランの高分子化が不十分となり、上記混合温度が40℃より高い場合や上記混合時間が24時間より長い場合、テトラアルコキシシランの高分子化が進みすぎて、後の炭化水素基含有トリアルコキシシランを添加しても、上記炭化水素基が均一に分散しにくくなる。
【0033】
次いで、上記工程(a−iii)において、更に炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えて撹拌して混合する。上記炭化水素基含有トリアルコキシシランとしては、メタン分離膜を製造する際には、炭素数2〜6の炭化水素基またはフェニル基を有するもので、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランおよびフェニルトリエトキシシランから成る群から選択される。二酸化炭素分離膜を製造する場合には、メチル基を有するトリアルコキシシランであり、具体的にはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが挙げられる。上記炭化水素基含有トリアルコキシシランとしては、上記工程(a−ii)で用いた上記テトラアルコキシシランのメトキシ基またはエトキシ基の1つを、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの炭素数21〜6のアルキル基、およびフェニル基などの炭化水素基で置換したものである。
【0034】
上記テトラアルコキシシランと炭化水素基含有トリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/炭化水素基含有トリアルコキシシラン)は、9/1〜1/9である。上記テトラアルコキシシランの配合量が、テトラアルコキシシランおよび炭化水素基含有トリアルコキシシランの合計量に対して、10モル%未満では炭化水素基含有トリアルコキシシランの濃度が高くなり過ぎて炭化水素基の分散が均一な膜となりにくく、90モル%を超えると炭化水素基含有トリアルコキシシランの濃度が低くなり過ぎて炭化水素基が少なくなって十分なメタンの親和性が得られなくなる。
【0035】
上記テトラアルコキシシランと炭化水素基含有トリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/炭化水素基含有トリアルコキシシラン)は、上記範囲内で一般的に良好であるが、より具体的には違う挙動を示す。メタン分離膜を製造する際には、上記テトラアルコキシシランと炭化水素基含有トリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/炭化水素基含有トリアルコキシシラン)は、炭化水素基含有トリアルコキシシランの配合量が増えるに従って、メタンの透過率P(CH)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CH/N)]が増加する傾向を示す。従って、テトラアルコキシシラン/炭化水素基含有トリアルコキシシランのモル比は、7/3〜1/9が好ましく、より好ましくは5/5〜1/9である。また、二酸化炭素分離膜を形成するときには、テトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/メチルトリアルコキシシラン)が7/3〜3/7、好ましくは6/4〜4/6である時に、二酸化炭素の透過率P(CO)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CO/N)]が最大になる。また、同じく二酸化炭素分離膜の場合、テトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/メチルトリアルコキシシラン)が8/2〜3/7、好ましくは7/3〜5/5である時に、二酸化炭素の透過率P(CO)とメタンの透過率P(CH)の比である透過率比[α(CO/CH)]が最大になる。この現象は非常に特異的であり、有効利用できるものである。実施例では、その点を実証する実験を示す。
【0036】
上記工程(a−iii)は、15〜40℃で0.5〜24時間、好ましくは0.5〜6時間の条件で行われる。上記混合温度が15℃より低い場合や上記混合時間が0.5時間より短い場合、炭化水素基含有トリアルコキシシランの加水分解が十分に行われず、上記混合時間が24時間より長くしても、それ以上の効果は得られず製造時間が長くなる。
【0037】
本発明の分離膜の製造方法においては、上述のように、まず上記工程(a−i)において、酸触媒、水、有機溶媒を混合した後に、工程(a−ii)として、まずテトラアルコキシシランを加えて混合する。工程(a−ii)は、前述のように、所定温度で所定時間混合する。この工程で、以下の反応式に示すように、テトラアルコキシシランのアルコキシド基が加水分解を受けて、テトラヒドロキシシランになり、その脱水反応によりポリシロキサン骨格が形成されるのであるが、テトラアルコキシシランが高分子化されて、反応が完全に進行しないでヒロドキシル基(またはアルコキシ基(−OR))が残ったものが形成されるものと思われる。ここでは、わかりやすく説明するために、テトラアルコキシシランとして、テトラエトキシシラン(TEOS)、炭化水素基含有トリアルコキシシランとして、上記テトラエトキシシランの1つのエトキシ基を炭化水素基Rで置換したものとの、水との反応を例として示す。尚、この反応式はわかりやすく説明するために、いわば模式的に示しているものであり、この通りの反応が実際に起こっているものと解釈してはならない。
【0038】
【化3】

【0039】
上述のように、上記工程(a−ii)では、完全な三次元高分子化を進行させないで、一部に反応性のヒドロキシル基(またはエトキシ基(−OC))が残った状態で停止している必要がある。その次の工程(a−iii)で、炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えて、ある程度高分子化したシロキサン骨格をつなぎ合わせて、アルキル基がシロキサン骨格内に均一に分散した状態で三次元高分子化を行うようにしなければならない。工程(a−iii)では、次の反応式に示されるように、一部高分子化したシロキサン骨格(場合によっては、オリゴマー化したポリシロキサン骨格と言うこともできる。)を炭化水素基含有トリアルコキシシランがつなぎ合わせて、炭化水素基含有トリアルコキシシランがシロキサン骨格内に均一に分散したものが形成されるのである。
【0040】
【化4】

【0041】
本発明の分離膜の製造方法においては、上記炭化水素基Rをできるだけ均一に分散させるため、上記テトラアルコキシシランおよび炭化水素基含有トリアルコキシシランを同時に加えて水との反応を行うのではなく、先にテトラアルコキシシランを加水分解することによって高分子化させた後、炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えることによって、上記炭化水素基含有トリアルコキシシラン中の炭化水素基Rを金属アルコキシド溶液全体により均一に分散させようとするものである。
【0042】
このように、上記炭化水素基含有トリアルコキシシラン中の炭化水素基Rが、分離層全体に均一に存在することにより、メタンと炭化水素基Rとの親和性が生まれ、メタンを優先的に透過させることが可能となる。分離層全体に炭化水素基Rが均一に分散しており、オングストローム(Å)オーダーの気体が膜内のいずれの箇所を透過しても、炭化水素基Rとの親和性を発揮させることができるのである。二酸化炭素分離膜の場合は、メチル基含有トリアルコキシシラン中のメチル基と二酸化炭素の親和力が高いために二酸化炭素の分離能力が高まると考えられる。
【0043】
本発明の分離膜の製造方法では、上記工程(b)において、上記のように得られた金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布する。塗布方法としては、特に限定されないが、通常、ディッピング法、スプレー法、スピン法等が挙げられるが、本発明のメタン分離膜を得るための製造条件の制御の容易さや製造装置の簡素化などの点で、ディッピング法が好ましい。
【0044】
上記無機多孔質支持体としては、シリカ系セラミックス、シリカ系ガラス、アルミナ系セラミックス、ステンレス多孔体、チタン多孔体、銀多孔体等が挙げられ、形状は用途に応じて、円管状や平板状など限定されない。
【0045】
ディッピング法を用いる場合、上記工程(b)は、
(b−i)前記無機多孔質支持体を金属アルコキシド溶液に浸漬する工程、
(b−ii)15〜40℃で0.5〜3時間放置して乾燥する工程、
(b−iii)上記工程(b−i)〜(b−ii)を繰り返す工程
を含む。上記工程(b−i)は、引き上げ速度0.1〜2mm/秒で行われることが好ましく、上記引き上げ速度が0.1mm/秒未満ではディッピングの工程時間が長くなり過ぎ、2mm/秒を超えるとコーティングの厚さが大きくなり過ぎる。また、乾燥時間が0.5時間より短いと乾燥が不十分となり、3時間で十分であり、それを超えて行う必要はない。尚、上記工程(b−iii)において、上記工程(b−i)〜(b−ii)を繰り返すのは、金属アルコキシド溶液をより均一に無機多孔質支持体に塗布するためである。
【0046】
上記工程(c)は、
(c−i)室温から30〜300℃の焼成温度まで1〜24時間で昇温し、
(c−ii)上記焼成温度で0.5〜6時間保持し、
(c−iii)上記焼成温度から室温まで5〜10時間で冷却する工程、
(c−iv)上記工程(b−i)〜(c−iii)を更に1〜10回繰り返す工程、
を含む。
【0047】
上記工程(c−i)においては、焼成温度は30〜300℃であり、好ましくは50〜200℃である。上記焼成温度が30℃より低いと、焼成が不十分であり、300℃を超えると膜が熱によって劣化する恐れがある。上記焼成温度までの昇温時間が1時間より短いと急激な温度変化により均一な膜を形成し難くなり、24時間より長いと長時間加熱されるため膜が劣化する恐れがある。
【0048】
上記工程(c−ii)においては、上記焼成温度での保持時間が0.5時間より短いと焼成が不十分であり、6時間より長いと膜が熱劣化する恐れがある。
【0049】
上記工程(c−iii)においては、上記焼成温度から室温までの冷却時間が5時間より短いと亀裂や割れが発生する恐れがあり、10時間より長いと膜が劣化する恐れがある。
【0050】
更に、本発明の分離膜の製造方法では、膜の亀裂をなくし、気体分子径に近い孔径が得られるまで、即ち、メタン分離膜の性能として、メタンの透過率P(CH)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CH/N)]1〜10が得られるまで、上記塗布工程(b)および上記焼成工程(c)を、具体的には、上記工程(c−iv)においては、上記工程(b−i)〜(c−iii)を1〜10回、好ましくは3〜7回繰り返すことが好ましい。
【0051】
本発明の製造方法に用いる無機多孔質支持体としては、通常0.01〜100μm程度の孔径を有する多数の細孔を有するものを用いるが、上記のように、塗布工程(b)および上記焼成工程(c)を複数回繰り返すことによって、無機多孔質支持体表面に対象となる気体、特にメタンおよび二酸化炭素の気体分子径、またはそれに近い細孔径を有する分離層を形成することを目的とする。本発明の分離膜の製造方法においては、上記気体分子径、またはそれに近い細孔径を有し、前述のように、分離層全体に均一に存在する炭化水素基含有トリアルコキシシラン中の炭化水素基Rとの親和性との相互作用とにより、対象となる気体、特にメタンおよび二酸化炭素を優先的に透過させようとするものである。
【0052】
上記金属アルコキシド溶液は、無機多孔質支持体表面に直接塗布してもよいが、無機多孔質支持体の細孔径が大きくて上記金属アルコキシド溶液が細孔内に浸入してしまい、膜の形成が困難である場合には、上記金属アルコキシド溶液を塗布する前に、無機多孔質支持体表面に中間層を設けてもよい。上記中間層を形成することによって、無機多孔質支持体の細孔径よりも小さい径を有する細孔を形成させることで、金属アルコキシド溶液の塗布環境が改善される。中間層の材料としては、例えばα−アルミナやγ−アルミナ、シリカおよびシリカライトが挙げられ、中間層の形成方法としては、例えばディッピング法が挙げられる。
【0053】
メタン(CH)の気体分子径は3.8Å(0.38nm)であり、二酸化炭素(CO)の気体分子径は3.3Åであり、窒素(N)の気体分子径は3.64Åである。そのような気体分子が透過する本発明のメタン分離膜の細孔の孔径を測定するのは、非常に小さく、実際には複雑な形状をしていることから困難であるが、実際にメタンなどの気体の透過率を測定する方法が分離膜として使用する目的には好適である。上記分離膜の炭化水素基Rとの親和性のより低い窒素(N)の気体透過率との比、即ち、メタンの透過率P(CH)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CH/N)]や、二酸化炭素の透過率P(CO)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CO/N)]などによって、分離膜の性能を判断する。尚、上記のように、メタンの気体分子径は窒素の気体分子径より大きいので、上記透過率比[α(CH/N)]は1より小さい値となるところ、本発明のメタン分離膜では分離層全体に均一に存在する炭化水素基含有トリアルコキシシラン中の炭化水素基Rとの親和性との相互作用とにより、上記透過率比が1を超える大きな値となり、窒素より大きい気体分子径のメタンを優先的に透過させることができるのである。
【0054】
本発明の分離膜は、メタンの透過率P(CH)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CH/N)]1〜10、好ましくは1〜5を有し、二酸化炭素の透過率P(CO)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CO/N)]1〜100、好ましくは1〜70を有することが望ましい。上記透過率比[α(CH/N)]が1未満では、メタンの分離が十分に行えなくなり、上記透過率比[α(CO/N)]が1未満では、二酸化炭素の分離が十分に行えなくなる。
【0055】
気体透過試験は、分離膜を1時間減圧乾燥させて膜内の水分を除去してから、閉鎖空間において、窒素(N)、メタン(CH)、二酸化炭素(CO)のそれぞれの単独ガスを、室温、0.1MPaで分離膜に透過させて行い、透過してくる気体の流量(mL/分)を質量流量計にて測定し、単位分圧差で単位時間に単位面積の試験片を通過する気体の体積(モル数)として、気体透過率[mol/(m・s・Pa)]を決定した。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例により特に制限されるものではない。
【0057】
(実施例1)
(a)金属アルコキシド溶液の調製
(i)以下の表1に示す金属アルコキシド溶液の配合の内、硝酸、水、エタノールを容器に入れて、室温でマグネチックスターラーを用いて30分間撹拌して混合し、混合溶液を作製した。
(ii)上記混合溶液に、同表に示す金属アルコキシド溶液の配合の内、テトラエトキシシランを加えて更に1時間撹拌して混合した。
(iii)同表に示す金属アルコキシド溶液の配合の内、更にエチルトリエトキシシランを加えて2.5時間撹拌して混合して、金属アルコキシド溶液を調製した。
【0058】
(b)金属アルコキシド溶液の塗布
上記のように得られた金属アルコキシド溶液に、無機多孔質支持体としてアルミナ製の管(内径7mm、外径10mm、長さ50mm)を、引き上げ速度1mm/秒でディップコーティングし、室温にて1時間乾燥した。更に、ディップコーティングおよび乾燥を行った。
【0059】
(c)焼成工程
上記乾燥後の金属アルコキシド溶液を塗布した無機多孔質支持体を焼成器に入れて、25℃(室温)から150℃まで5時間かけて昇温し、150℃で2時間保持し、150℃から25℃まで5時間かけて冷却した。
【0060】
(d)塗布および焼成工程
上記(b)および(c)を合計3回繰り返して、分離膜を作製した。
【0061】
(実施例2)
エチルトリエトキシシランの代わりにプロピルトリエトキシシランを用い、テトラエトキシシランとの配合比を変更し、上記(b)および(c)を合計4回のところを合計5回繰り返した以外は、実施例1と同様にして、分離膜を作製した。
【0062】
(実施例3)
テトラエトキシシランとプロピルトリエトキシシランとの配合比を変更した以外は、実施例2と同様にして、分離膜を作製した。
【0063】
(実施例4)
プロピルトリエトキシシランの代わりにヘキシルトリエトキシシランを用いた以外は、実施例2と同様にして、分離膜を作製した。
【0064】
(実施例5)
プロピルトリエトキシシランの代わりにフェニルトリエトキシシランを用いた以外は、実施例2と同様にして、分離膜を作製した。
【0065】
(実施例6)
エチルトリエトキシシランの代わりにメチルトリエトキシシランを用い、テトラエトキシシランとの配合比を変更し、上記(b)および(c)を合計4回のところを合計3回繰り返した以外は、実施例1と同様にして、分離膜を作製した。
【0066】
(実施例7)
エチルトリエトキシシランの代わりにメチルトリエトキシシランを用い、テトラエトキシシランとの配合比を変更した以外は、実施例1と同様にして、分離膜を作製した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】


*1:信越化学工業(株)から商品名「LS−2430」で市販のテトラエトキシシラン
*2:信越化学工業(株)から商品名「LS−2410」で市販のエチルトリエトキシシラン
*3:信越化学工業(株)から商品名「LS−3120」で市販のプロピルトリエトキシシラン
*4:信越化学工業(株)から商品名「LS−4808」で市販のヘキシルトリエトキシシラン
*5:信越化学工業(株)から商品名「LS−4480」で市販のフェニルトリエトキシシラン
*6:信越化学工業(株)から商品名「LS−1890」で市販のメチルトリエトキシシラン
*7:和光純薬工業(株)製の試薬特級の硝酸(69.5%)
*8:和光純薬工業(株)製の試薬特級のエタノール(99.5%)
【0069】
作製した実施例1〜7の分離膜に関して、気体透過率の測定を行った。その結果を、窒素の透過率P(N)との比である透過率比αと共に以下の表3〜4に示す。測定方法は以下の通りである。
【0070】
(気体透過率の測定方法)
気体透過試験は、分離膜を1時間減圧乾燥させて膜内の水分を除去してから、閉鎖空間において、窒素(N)、メタン(CH)、二酸化炭素(CO)のそれぞれの単独ガスを、室温、1気圧(0.1MPa)で分離膜に透過させ、透過してくる気体の流量を質量流量計にて測定し、単位分圧差で単位時間に単位面積の試験片を通過する気体の体積(モル数)として、気体透過率を決定した。具体的には、図1に示すように、ガスシリンダー(ボンベ)(1)から透過させる単独ガスを、圧力ゲージ(2)にて、室温で、供給ガス圧0.1MPaとなるように設定し、気体透過試験装置(3)の内部を上記単独ガスで満たして、分離膜(4)を透過する上記ガスの流量(mL/分)を質量流量計(5)により測定した。上記流量から、気体透過率[mol/(m・s・Pa)]を算出した。
【0071】
分離膜の気体透過試験装置への取り付けは、分離膜に耐熱ガラス管[コーニング社製「パイレックス」;外径8mm、内径6mm、長さ10mmで、一方の端は分離膜を形成したアルミナ管の内部(内径7mm)に入るように1〜3mmまで細くなっている]を接着剤(セメダイン(株)製の「セメダインC」)を用いて接着、接続し、接続部分および分離膜の上部の隙間をシール材(エポキシ樹脂)(6)(ナガセケムテックス(株)製の二液性エポキシ系接着剤「AV138」および「HV998」)でシールすることによって行った。上記質量流量計として、コフロック(Kofloc)社製の熱式質量流量計であるマスフローメータ「5410」[流量レンジ:10mL/分、フルスケール(FS)最大流量に対する精度:±1%(20℃)]を用いた。
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
上記表3〜4の結果から明らかなように、先にテトラアルコキシシランを加水分解することによって高分子化させた後、炭素数2〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えた実施例1〜5の本発明の分離膜では、メタンとの親和性が高い膜となり、メタン透過率比α(CH/N)が非常に高いものとなった。
【0075】
これに対して、炭素数1のアルキル基であるメチル基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランを用いた実施例6および7の分離膜は、特に実施例7では二酸化炭素の透過率比α(CO/N)は非常に高くなり、二酸化炭素分離膜として使用が可能である。
【0076】
(実施例8)
この実施例では、実施例4のテトラエトキシシランとヘキシルトリエトキシシランのモル比(テトラエトキシシラン/ヘキシルトリエトキシシランのモル比)を0.9/0.1〜0.1/0.9(合計1モル)の範囲内で変化させてメタン分離比の変化を確認した。操作は実施例4と同様に行うが、ヘキシルトリエトキシシランの配合量を0.1から0.9まで0.1モルずつ増加させてメタンと窒素の透過率比α(CH/N)を測定した。結果を表5に示す。また、変化を見やすくするために透過率比α(CH/N)を縦軸に、ヘキシルトリエトキシシラン(He−TEOS)の配合モル量を横軸にしたグラフを図2に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
表5および図2のグラフから明らかなように、ヘキシルトリエトキシシランのモル量の増加につれて透過率比α(CH/N)が増加する傾向が読み取れる。この結果から、テトラエトキシシラン/ヘキシルトリエトキシシランのモル比は0.3/0.7〜0.1/0.9(即ち、3/7〜1/9)が好ましいことが解る。
【0079】
(実施例9)
この実施例では、実施例6および7のテトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランのモル比(テトラエトキシシラン/メチルトリエトキシシランのモル比)を0.9/0.1〜0.1/0.9(合計1モル)の範囲内で変化させてCOの透過率比αの変化を確認した。操作は実施例6または7と同様に行うが、メチルトリエトキシシランの配合量を0.1から0.9まで0.1モルずつ増加させて二酸化炭素と窒素の透過率比α(CO/N)を測定した。結果を表6に示す。また、変化を見やすくするために透過率比α(CO/N)を縦軸に、メチルトリエトキシシラン(Me−TEOS)の配合モル量を横軸にしたグラフを図3に示す。
【0080】
【表6】

【0081】
表6および図3のグラフから明らかなように、メチルトリエトキシシランのモル量の増加につれて透過率比α(CO/N)が増加するが、0.5〜0.7モルぐらいから減少する傾向が読み取れる。この結果から、テトラエトキシシラン/メチルトリエトキシシランのモル比は0.7/0.3〜0.3/0.7(即ち、7/3〜3/7)が好ましいことが解る。
【0082】
(実施例10)
上記実施例9のデータを元に、二酸化炭素とメタンの透過率比α(CO/CH)のメチルトリエトキシシランの配合量に対応した変化を確認した。結果を表7に示す。また、また、変化を見やすくするために透過率比α(CO/CH)を縦軸に、メチルトリエトキシシラン(Me−TEOS)の配合モル量を横軸にしたグラフを図4に示す。
【0083】
【表7】

【0084】
表7および図4のグラフから明らかなように、メチルトリエトキシシランのモル量の増加につれて透過率比α(CO/CH)が特異的に変化することが解る。特に、メチルトリエトキシシランの配合量が0.3〜0.5の領域で非常に高い透過率比α(CO/CH)を示すことが確認できる。この結果から、テトラエトキシシラン/メチルトリエトキシシランのモル比は0.7/0.3〜0.5/0.5(即ち、7/3〜5/5)が透過率比α(CO/CH)にとって好ましいことが解る。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例における気体透過率の測定方法を説明する概略模式図である。
【図2】実施例8における透過率比α(CH/N)を縦軸に、ヘキシルトリエトキシシランの配合モル量を横軸にしたグラフである。
【図3】実施例9における透過率比α(CO/N)を縦軸に、メチルトリエトキシシランの配合モル量を横軸にしたグラフである。
【図4】実施例10における透過率比α(CO/CH)を縦軸に、メチルトリエトキシシランの配合モル量を横軸にしたグラフである。
【符号の説明】
【0086】
1 … ガスシリンダー(ボンベ)
2 … 圧力ゲージ
3 … 気体透過試験装置
4 … 分離膜
5 … 質量流量計
6 … シール材(エポキシ樹脂)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)酸触媒、水、有機溶媒を撹拌して混合し、
(ii)次にテトラアルコキシシランを加えて撹拌して混合し、
(iii)その後、炭素数1〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えて撹拌して混合して、
金属アルコキシド溶液を調製する工程、
(b)該金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布する工程、および
(c)該金属アルコキシド溶液を塗布した無機多孔質支持体を30〜300℃で焼成する工程
を含むことを特徴とするメタン分離膜または二酸化炭素分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記(ii)の炭化水素基含有トリアルコキシシランの炭化水素基が炭素数2〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される場合には、メタン分離膜が形成され、
炭化水素基含有トリアルコキシシランの炭化水素基がメチル基の場合には、二酸化炭素分離膜が形成される請求項1記載のメタン分離膜またはメタン分離膜分離膜の製造方法。
【請求項3】
(a)(i)酸触媒、水、有機溶媒を撹拌して混合し、
(ii)次にテトラアルコキシシランを加えて撹拌して混合し、
(iii)その後、炭素数2〜6のアルキル基およびフェニル基から成る群から選択される炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランを加えて撹拌して混合して、
金属アルコキシド溶液を調製する工程、
(b)該金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布する工程、および
(c)該金属アルコキシド溶液を塗布した無機多孔質支持体を30〜300℃で焼成する工程
を含むことを特徴とするメタン分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記酸触媒が硝酸および塩酸から成る群から選択され、前記有機溶媒がメタノール、エタノールおよびプロパノールから成る群から選択されるアルコール類であり、
前記テトラアルコキシシランがテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランから成る群から選択され、
前記炭化水素基含有トリアルコキシシランが、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランおよびフェニルトリエトキシシランから成る群から選択される請求項3記載のメタン分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)において、
前記工程(a−i)が、15〜40℃で0.5〜3時間の条件で行われ、
前記工程(a−ii)が、15〜40℃で0.5〜24時間の条件で行われ、および
前記工程(a−iii)が、15〜40℃で0.5〜24時間の条件で行われ、
前記工程(b)が、
(b−i)前記無機多孔質支持体を金属アルコキシド溶液に浸漬する工程、
(b−ii)15〜40℃で0.5〜3時間放置して乾燥する工程、
(b−iii)上記工程(b−i)〜(b−ii)を繰り返す工程
を含み、
前記工程(c)が、
(c−i)室温から30〜300℃の焼成温度まで1〜24時間で昇温し、
(c−ii)該焼成温度で0.5〜6時間保持し、
(c−iii)該焼成温度から室温まで5〜10時間で冷却する工程、
(c−iv)上記工程(b−i)〜(c−iii)を1〜10回繰り返す工程
を含む請求項3記載のメタン分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記金属アルコキシド溶液が、テトラアルコキシシランおよび炭化水素基含有トリアルコキシシランの合計量1モルに対して、酸触媒0.005〜0.1モル、水0.5〜10モル、有機溶媒5〜60モルを含有し、テトラアルコキシシランと炭化水素基含有トリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/炭化水素基含有トリアルコキシシラン)が1/9〜9/1である請求項3記載のメタン分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記メタン分離膜が、メタンの透過率P(CH)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CH/N)]1〜10を有し、二酸化炭素の透過率P(CO)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CO/N)]1〜100を有する請求項3記載のメタン分離膜の製造方法。
【請求項8】
テトラアルコキシシランと炭化水素基含有トリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/炭化水素基含有トリアルコキシシラン)が7/3〜1/9である時に、メタンの透過率P(CH)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CH/N)]が最大になる請求項7記載のメタン分離膜の製造方法。
【請求項9】
(a)(i)酸触媒、水、有機溶媒を撹拌して混合し、
(ii)次にテトラアルコキシシランを加えて撹拌して混合し、
(iii)その後、メチルトリアルコキシシランを加えて撹拌して混合して、
金属アルコキシド溶液を調製する工程、
(b)該金属アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布する工程、および
(c)該金属アルコキシド溶液を塗布した無機多孔質支持体を30〜300℃で焼成する工程
を含むことを特徴とする二酸化炭素分離膜の製造方法。
【請求項10】
前記酸触媒が硝酸および塩酸から成る群から選択され、前記有機溶媒がメタノール、エタノールおよびプロパノールから成る群から選択されるアルコール類であり、
前記テトラアルコキシシランがテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランから成る群から選択され、
前記メチルトリアルコキシシランがメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランから選択される、
請求項9記載の二酸化炭素分離膜の製造方法。
【請求項11】
前記工程(a)において、
前記工程(a−i)が、15〜40℃で0.5〜3時間の条件で行われ、
前記工程(a−ii)が、15〜40℃で0.5〜24時間の条件で行われ、および
前記工程(a−iii)が、15〜40℃で0.5〜24時間の条件で行われ、
前記工程(b)が、
(b−i)前記無機多孔質支持体を金属アルコキシド溶液に浸漬する工程、
(b−ii)15〜40℃で0.5〜3時間放置して乾燥する工程、
(b−iii)上記工程(b−i)〜(b−ii)を繰り返す工程
を含み、
前記工程(c)が、
(c−i)室温から30〜300℃の焼成温度まで1〜24時間で昇温し、
(c−ii)該焼成温度で0.5〜6時間保持し、
(c−iii)該焼成温度から室温まで5〜10時間で冷却する工程、
(c−iv)上記工程(b−i)〜(c−iii)を1〜10回繰り返す工程
を含む請求項9記載の二酸化炭素分離膜の製造方法。
【請求項12】
前記金属アルコキシド溶液が、テトラアルコキシシランおよびメチルトリアルコキシシランの合計量1モルに対して、酸触媒0.005〜0.1モル、水0.5〜10モル、有機溶媒5〜60モルを含有し、テトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/メチルトリアルコキシシラン)が9/1〜1/9である請求項9記載の二酸化炭素分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記メタン分離膜が、メタンの透過率P(CH)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CH/N)]1〜10を有し、二酸化炭素の透過率P(CO)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CO/N)]1〜100を有する請求項9記載の二酸化炭素分離膜の製造方法。
【請求項14】
テトラアルコキシシランとメチルトリアルコキシシランのモル比(テトラアルコキシシラン/メチルトリアルコキシシラン)が7/3〜3/7である時に、二酸化炭素の透過率P(CO)と窒素の透過率P(N)の比である透過率比[α(CO/N)]が最大になる請求項9記載の二酸化炭素分離膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−236189(P2012−236189A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−95615(P2012−95615)
【出願日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】