説明

メチルメタクリレート系共重合体の製造方法、及びプラスチック光ファイバの製造方法

【課題】耐熱性および透明性に優れたメチルメタクリレート系共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】特定のラクトン化合物と、メタクリル酸メチルと、アゾ系化合物及びパーオキサイド系化合物から選ばれる開始剤と、連鎖移動剤とを、反応槽に連続的に供給して塊状重合法にて重合を行う重合工程と、反応槽から反応混合物を連続的に取り出して揮発物除去工程に供給する工程と、反応混合物から揮発物を連続的に分離除去する工程を有するメチルメタクリレート系共重合体の製造方法において、ラクトン化合物とメタクリル酸メチルとを特定の比率で配合し、ラクトン化合物として特定の比率の(R)体と(S)体からなる混合物を用い、特定の重合温度において、反応槽中の平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度Cとが特定の関係を満たし、重合反応域における反応混合物の重合体含有率を30〜60質量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性及び耐熱性に優れるメチルメタクリレート系共重合体の製造方法、及びこの製造方法により得られた重合体を芯材とするプラスチック光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光ファイバ(POF)は、安価、軽量、柔軟性、大口径という特長を生かし、照明用途、FA用センサー、あるいは通信分野における情報伝送用媒体として実用化されている。
【0003】
POFの芯材としては、十分な機械的強度および伝送特性を有するポリメチルメタクリレート(PMMA)を主成分とするメチルメタクリレート系樹脂(PMMA樹脂)が用いられている。
【0004】
PMMA樹脂を芯材とするPOFは、PMMAのガラス転移温度(Tg)が110℃程度であることから、より耐熱性の高い重合体を外側に被覆しても実際に使用できる温度は110℃程度が上限である。このため、さらに高い耐熱性が要求される用途では、ある種のビニル系単量体をメチルメタクリレート(MMA)と共重合することで、PMMAの透明性を維持しながら、耐熱性(ガラス転移温度)を向上した材料をPOFの芯材として使用する検討が行われている。
【0005】
具体的には、特許文献1〜3などにおいて、高いガラス転移温度や高い耐熱分解性等の耐熱性と、透明性とのバランスに優れた、α−メチレン−γ−ブチロラクトンの誘導体(例えば、α−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ、γ−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン等)の単独重合体、及びこれらの単量体とメタクリル酸エステルの単量体との共重合体を芯材とするPOFが提案されている。
【0006】
しかし、これら文献に記載されるα−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体の単独重合体、またはα−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体とメタクリル酸エステル単量体との共重合体は、外観は透明性が十分であるように見えても、実際にPOFの芯材として用いるには透明性が不十分である。さらに、ポリカーボネートと同程度のガラス転移温度(約150℃)を有するものとするためには、共重合体中にα−メチレン−γ−ブチロラクトンの誘導体の単位を50質量%前後共重合させる必要があるため、得られた共重合体の機械的強度が低下するという問題がある。
【0007】
また特許文献3において、α−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体のβ位にアルキル基が導入されたα−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトンやα−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトンの単独重合体、及びそれらの単量体とメタクリル酸エステル単量体との共重合体が開示されている。これらの共重合体は、MMAに比較的少量の上記ブチロラクトン化合物を共重合したものであるが、PMMAよりも高いガラス転移温度を有し、透明性(光線透過率)にも優れ、さらに高屈折率であることから、光導波路の芯材に適用できる可能性について報告されているが、POFとしての性能は実際には確認されていない。また、この共重合体の製造方法に関しては、2枚のガラス板を用いてバッチ式で行うセルキャスト重合法に関して記載されているだけであり、この共重合体を連続的に安定に製造する技術については何も開示されておらず、低コスト化や工業化の点において課題が残っていた。
【0008】
一般に、α−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体とメタクリル酸エステル単量体との共重合系は、非特許文献1、非特許文献2に記載されているように反応性比の差が大きく、生成した共重合体はブロック共重合体となる傾向がある。しかも、α−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体とメタクリル酸エステル単量体間の屈折率差が大きい場合には、これらの共重合体は、現在、一般にPOF用芯材として用いられているPMMA樹脂よりも極めて大きい光散乱損失値を有することになり、そのままPOFの芯材や光学用透明材料として用いることは容易ではない。そのため、α−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体とメタクリル酸エステル単量体の共重合性(反応性比)を意図的に制御できることが望まれていたが、そのような技術については、これまで何ら報告はされていない。
【0009】
また一方で、透明性の高いメチルメタクリレート系重合体を連続的に安定に製造する方法として、特許文献4(特開昭61−51150号公報)には、メタクリル酸メチルの単独重合体又は80質量%以上のメタクリル酸メチル単位で構成される共重合体の製造方法が開示され、特許文献5(WO99/44083号)には90質量%以上のメタクリル酸メチル単位で構成される(共)重合体の製造方法が開示され、特許文献6(特開平11-255828号公報)には80質量%以上のメタクリル酸メチル単位と20質量%以下のアクリル酸エステル単位又はメタクリル酸エステル(メチル酸メチルを除く)単位からなる(共)重合体の製造方法が開示されている。
【0010】
これらの製造方法においては、ラジカル重合開始剤として、式(4)や式(5)で示される構造を有するアゾ化合物を使用して重合を行っている。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
しかしながら、これらの公報にはメタクリル酸メチルの単独重合体や、98〜99質量%のメタクリル酸メチルと約1〜2質量%のアクリル酸アルキルエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル)の共重合体、80質量%のメタクリル酸メチルと20質量%のメタクリル酸フッ素化エステル(特許文献5の実施例16)の共重合体、に関して記載されているだけであり、MMAと共重合することで共重合体の耐熱性(ガラス転移温度)を向上することが可能な前記のα−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体の単位を5質量%より多く含有するような共重合体の製造条件に関する記載はない。
【0014】
また、メタクリル酸メチルとアクリル酸アルキルエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル)の反応性比(r1、r2)は、非特許文献3(「Polymer Handbook」,4th Edition,John wiley&Sons Inc.,1998,chapter−II/228)に記載のように、多くの報告があり、r1=1〜2、r2=0.2〜0.4の範囲であることが知られている。
【0015】
一方、反応性比の重合温度に対する依存性に関しては、非特許文献4(「ラジカル重合ハンドブック」、エヌ・テイー・エス、1998年)のp.223〜225や、非特許文献5(高分子学会編、「共重合」、第2巻、培風館、1976年)のp.2〜12に記載のように、一般的には、共重合反応の反応性比(ri値)は温度が高くなるほど均質重合に近づく(ri値が1に近づく)が、概してri値の温度依存性は小さいことが指摘されている。
【0016】
しかし、前述の特許文献4〜6等に記載されたメタクリル酸メチルの単独重合体、又はメタクリル酸メチルとアクリル酸アルキルエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル)の共重合体の製造条件においても、反応性比が重合温度に依存して変化することを考慮して製造条件を決定することは特に記載されていない。また、特許文献1〜3及び非特許文献1、2において、α−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体とメタクリル酸エステル単量体の共重合反応性比の温度依存性に関して記載はなく、これまでにこの温度依存性に係る報告はない。
【0017】
さらに特許文献4〜6において、単量体の全仕込み量に占めるアクリル酸アルキルエステルの含有量は20質量%以下の範囲であり、それを超える含有量(20質量超過)のコモノマー成分(アクリル酸アルキルエステル)を含む共重合系の製造条件については記載されていない。
【特許文献1】特開平9−033735号公報
【特許文献2】特開平9−033736号公報
【特許文献3】特開平8−231648号公報
【特許文献4】特開昭61−51150号公報
【特許文献5】WO99/44083号パンフレット
【特許文献6】特開平11-255828号公報
【非特許文献1】Polymer,Vol.21,p.1215−1216(1979)
【非特許文献2】Journal of Polymer Science:Part A:Polymer chemistry,Vol.41,p.1759−1777(2003)
【非特許文献3】「Polymer Handbook」,4th Edition,John wiley&Sons,Inc.,1998,chapter−II/228
【非特許文献4】「ラジカル重合ハンドブック」、エヌ・テイー・エス、1998年、p.223〜225
【非特許文献5】高分子学会編、「共重合」、第2巻、培風館、1976年、p.2〜12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、耐熱性および透明性に優れたメチルメタクリレート系共重合体の製造方法、及びその共重合体を芯材とするプラスチック光ファイバの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、一般式(1):
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、R1はメチル基、エチル基またはプロピル基を示し、R2、R3は独立して水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、無置換もしくは炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、または無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基を示し、R2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、該5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。さらに、式中のR2、R3のアルキル基鎖中の炭素原子は、S、N、P、Oから選ばれるヘテロ原子で置換されていてもよい。)
で示されるラクトン化合物(A)と、メタクリル酸メチル(B)と、アゾ系化合物及びパーオキサイド系化合物から選ばれる少なくとも1種類のラジカル重合開始剤と、連鎖移動剤とを、反応槽に連続的に供給して塊状重合法にて重合を行う重合工程と、反応槽から反応混合物を連続的に取り出して揮発物除去工程に供給する工程と、反応混合物から揮発物を連続的に分離除去する揮発物除去工程を有するメチルメタクリレート系共重合体の製造方法であって、
前記ラクトン化合物(A)と前記メタクリル酸メチル(B)との配合比(A/B)が、5/95〜50/50(質量比)の範囲にあり、
前記ラクトン化合物の単位(A)は、一般式(2):
【0022】
【化4】

【0023】
(式(2)中、R1、R2、R3は式(1)に同じ)
で示される(S)体および一般式(3):
【0024】
【化5】

【0025】
(式(3)中、R1、R2、R3は式(1)に同じ)
で示される(R)体を質量比で70/30〜30/70の範囲で含み、
重合温度が110〜185℃の範囲において、反応槽中における平均滞留時間θ(時間)とラジカル重合開始剤の重合温度における半減期時間τ(時間)の比(θ/τ)と、ラジカル重合開始剤濃度C(ラジカル重合開始剤量(mol)/単量体量(mol))とが、下記式(1)及び式(2)で示す関係を満たし、
70≦(θ/τ)≦1300 (1)
3.07×10-8×(θ/τ)0.93≦C≦2.31×10-7×(θ/τ)0.93 (2)
重合反応域における反応混合物の重合体含有率が30〜60質量%である、メチルメタクリレート系共重合体の製造方法に関する。
【0026】
上記製造方法においては、ラクトン化合物(A)は、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
また、上記製造方法においては、前記ラジカル重合開始剤が、10時間半減期温度が60〜120℃であるアゾ系化合物又は有機過酸化物であり、前記重合工程における重合温度が120〜160℃であることが好ましい。
【0028】
また、上記製造方法においては、10時間半減期温度が60〜120℃であり、分子構造中にニトリル基(−CN)を含まないアゾ系化合物であり、前記重合工程における重合温度が120〜160℃であることが好ましい。
【0029】
さらに本発明は、芯−鞘構造を有するプラスチック光ファイバの製造方法であって、
上記の製造方法によりメチルメタクリレート系共重合体を製造する工程と、複合紡糸ノズルに、前記メチルメタクリレート系共重合体を芯材として供給し、屈折率が異なる他の重合体を鞘材として供給して複合紡糸する工程を有するプラスチック光ファイバの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、耐熱性および透明性に優れたメチルメタクリレート系共重合体の製造方法、及びその共重合体を芯材とするプラスチック光ファイバの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0032】
本発明によるメチルメタクリレート系共重合体の製造方法は、一般式(1)で示されるラクトン化合物(A)、メタクリル酸メチル(MMA)(B)、ラジカル重合開始剤(以下、適宜「開始剤」という)、及び連鎖移動剤を反応槽に連続的に供給して塊状重合法にて重合を行う重合工程と、反応槽から反応混合物を連続的に取り出して揮発物除去工程に供給する工程と、反応混合物から揮発物を連続的に分離除去する揮発物除去工程を有する。
【0033】
ラクトン化合物(A)は、一般式(2)で示される(S)体および一般式(3)で示される(R)体を質量比で70/30〜30/70の範囲で含むものである。
【0034】
ラクトン化合物(A)は、α−メチレン−γ−ブチロラクトンの誘導体であり、β位に置換基R1(メチル基、エチル基またはプロピル基)を有する。α−メチレン−γ−ブチロラクトンは、α位にメチレン基を有する5員環構造のラクトン化合物であり、メタクリル酸メチルのα位の炭素に結合したメチル基の炭素と、エステル基内のメチル基の炭素とが結合している環状構造を有する。
【0035】
このようなラクトン化合物(A)に対して、β位に置換基を有さずγ位のみに置換基を有するラクトン化合物(例えば、α−メチレン−γ−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−γ,γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン)の単位を有する重合体は、光散乱損失が大きいため、POFの芯材としては不十分である。
【0036】
しかし、β位に置換基を有するラクトン化合物(A)の単位は、重合体の光散乱損失の増大を抑制し、ラクトン化合物(A)の単位を有する本発明によるメチルメタクリレート系重合体は極めて高い透明性を維持することができる。
【0037】
さらに、β位に置換基を有するラクトン化合物(A)の単位を有することにより、重合体の主鎖の回転運動が束縛され、β位に置換基を有さずγ位に置換基を有するラクトン化合物の単位を有する場合と比較して、重合体の耐熱性(ガラス転移温度)を著しく向上することができる。ラクトン化合物(A)のβ位に置換基R1の構造が嵩高くなりすぎると、共重合時の重合性が低下し、得られる重合体の耐熱性が低下するため、この置換基R1は、メチル基、エチル基、プロピル基から選択される。
【0038】
上記一般式(1)で表されるラクトン化合物(A)は、そのγ位に置換基を有さないもの(R2及びR3がH)であってもよいが、式中のR2、R3は、独立して、水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、無置換もしくは炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、または無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基であってもよい。また式中のR2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、その5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。かかる炭素数1〜12のアルキル基は、Cn2n+1(nは1〜12の自然数を示す。)で表わされるものであり、その形状は直鎖状であっても分岐していてもよい。また、フッ素原子で置換された炭素数1〜12のアルキル基は、Cnm2n+1-m(nは1〜12の自然数、mは2n+1以下の自然数を示す。)で表わされるものであり、その形状は直鎖状であっても、分岐していてもよい。さらに、式中のR2、R3の主鎖中の炭素原子は、S、N、P、Oから選ばれるヘテロ原子で置換されていてもよい。
【0039】
ラクトン化合物(A)は、β位に置換基R1を有することに加えて、一般式(2)で示される(S)体と、一般式(3)で示される(R)体を30/70〜70/30(質量比)の割合で含むものである。この(S)体の単位と(R)体の単位とを上記割合で含有するメチルメタクリレート系共重合体は、極めて高い透明性を有し、高温環境下においても、この高い透明性を維持することができる。この重合体を芯材に用いたPOFにおいては伝送損失を安定的に低く維持することができる。より高い透明性を維持できる点から、ラクトン化合物(A)は、(S)体と(R)体とを40/60〜60/40(質量比)の範囲内で含有することが好ましく、45/55〜55/45(質量比)の範囲内で含有することがより好ましい。ラクトン化合物(A)に含まれる(S)体および(R)体の一方が多すぎると、得られる重合体の透明性が低下する傾向がある。
【0040】
一般式(1)で表されるラクトン化合物(A)としては、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEMBL)、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPMBL)、α−メチレン−β−メチル−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(βMγMMBL)、α−メチレン−β−メチル−γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン(βMγDMMBL)、α−メチレン−β−メチル−γ−エチル−γ−ブチロラクトン(βMγEMBL)、α−メチレン−β−メチル−γ−プロピル−γ−ブチロラクトン(βMγPMBL)、α−メチレン−β−メチル−γ−シクロヘキシル−γ−ブチロラクトン(βMγCHMBL)、α−メチレン−β−エチル−γ−メチル−γ−ブチロラクトン(βEγMMBL)、α−メチレン−β−エチル−γ,γ−ジメチル−γ−ブチロラクトン(βEγDMMBL)、α−メチレン−β−エチル−γ−エチル−γ−ブチロラクトン(βEγEMBL)、α−メチレン−β−エチル−γ−プロピル−γ−ブチロラクトン(βEγPMBL)、α−メチレン−β−エチル−γ−シクロヘキシル−γ−ブチロラクトン(βEγCHMBL)を挙げることができる。
【0041】
特に、R2、R3が共に水素原子である化合物、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEMBL)、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPMBL)は、非常に高い光学的透明性が得られる点から好ましく、レンズ用材料やPOF用芯材として好適である。この中でも、βMMBL、βEMBLは、少量でのガラス転移温度の向上効果に優れる点から、特に好ましい。
【0042】
ラクトン化合物(A)とMMA(B)との配合比(A/B)は、質量比として、5/95〜50/50の範囲にあり、10/90〜50/50の範囲にあることが好ましく、20/80〜30/70の範囲にあることがより好ましい。ラクトン化合物(A)とMMA(B)がこのような配合比であると、Tgが120℃以上と高く耐熱性が十分な共重合体を得ることができ、また、この共重合体をPOFの芯材に用いた時にPOFの機械的強度の低下を抑制することができる。ラクトン化合物(A)が少なすぎると、共重合体のTgを上昇させる効果が不十分にある。逆にラクトン化合物(A)が多すぎると、共重合体のTgは高くなるが、その共重合体の成形には高い加工温度が必要となり、成形中に共重合体が熱分解を起こすおそれがある。
【0043】
本発明のメチルメタクリレート系共重合体の製造方法は、重合工程において塊状重合法を用いる。そして、生産性を良好にするためには重合を連続で行う。すなわち、開始剤と単量体混合物、連鎖移動剤を反応槽に連続的に供給し重合を進行させ、反応槽から反応混合物を連続的に取り出す。次いで、反応混合物から揮発物を連続的に分離除去するための揮発物除去工程において、その取り出した反応混合物から単量体や開始剤、連載移動剤を除去して、メチルメタクリレート系共重合体を連続的に製造する。
【0044】
本発明者らは、ラクトン化合物(A)とMMA(B)との共重合体の連続製造方法の検討を行ったところ、2つの特徴的な重合挙動を見出した。
【0045】
第1の特徴として、ラクトン化合物(A)とMMA(B)の共重合反応は、重合温度により共重合性が著しく変化する。
【0046】
図1はα−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)とMMAの共重合、図2はα−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEMBL)とMMAの共重合、図3はα−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPMBL)とMMAの共重合において、重合温度80〜180℃の範囲における反応性比の変化を示したグラフである。反応性比(r1、r2)の測定は、Finemann−Lossの方法(Journal of Polymer Science、VOl.5、p259(1950)に記載)に準じて行った。なお、図1〜図3の反応性比(r1、r2)は、ラクトン化合物(A)をM1、MMA(B)をM2とした時の反応性比である。
【0047】
図1〜図3によれば、重合温度が低い場合(80〜100℃)には、r1>r2となるため、重合初期にはラクトン化合物(A)が優先的に重合し、重合中期から重合後期にかけては残ったMMA(B)が重合していく傾向にある。重合温度120℃付近の場合は、r1とr2の数値は近い値となるため、ラクトン化合物(A)とMMA(B)は重合初期から同程度に共重合する。重合温度が高い場合(130〜180℃)では、r1<r2となるため、重合初期にはMMA(B)が優先的に重合し、重合中期から残ったラクトン化合物(A)も重合する傾向にある。
【0048】
この現象は、先述した非特許文献4や非特許文献5に記載されていること(一般的に共重合反応の反応性比は温度が高くなるほど均質重合に近づき(ri値が1に近づく)、概してri値の温度依存性は小さい)とは大きく異なるものである。
【0049】
さらに、本発明者らの検討によれば、ラクトン化合物(A)とMMAの共重合体をPOFの芯材として用いる場合、この共重合体の共重合性(反応性比)がPOFの伝送損失に影響し、重合温度は最適な範囲内で行う必要のあることを見出した。
【0050】
重合挙動の第2の特徴は、ラクトン化合物(A)とMMA(B)の共重合速度はその配合比により、著しく変化するということである。
【0051】
単量体消費速度(RP)とは、特開2002−201228号公報に記載されているように、単量体混合物中の単量体の消費速度であり、共重合反応速度にあたるものであり、下記の式で定義される。
【0052】
RP=−d[M]/dt
=kp〔f×kd/(ktc+ktd)〕0.5[I]0.5[M]
=kp/(ktc+ktd0.5〔kd×f×I〕0.5[M]
=KP・(RK0.5・[M]
式中の符号は下記事項を示す。
P=kp/(ktc+ktd0.5
K=kd×f×I
p:成長反応速度定数
d:開始剤の分解反応速度定数
tc:停止反応(再結合)の速度定数
td:停止反応(不均化)の速度定数
f:開始剤効率
P:単量体消費速度[mol/(m3・sec)]
P:単量体消費速度定数[{m3/(mol・sec)}0.5
[M]:単量体濃度[mol/m3
[I]:開始剤の濃度[mol/m3
K:開始剤分解速度[mol/(m3・sec)]
Kは開始剤の種類と濃度によって決まり、[M]は単量体濃度であるから、単量体消費速度(RP)を左右する単量体自体の重合性は、単量体消費速度定数(KP)によって表現されるといえる。
【0053】
図4〜図6は、ラクトン化合物(A)とMMA(B)の配合比を変えた場合の共重合時の単量体消費速度定数(KP)(総括反応速度定数)を示す。図4はラクトン化合物(A)がα−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)である場合、図5はα−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEMBL)である場合、図6はα−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPMBL)である場合を示す。
【0054】
図4〜図6が示すように、単量体消費速度定数(KP)を、単量体混合物中のラクトン化合物(A)含有量に対してプロットすると、下向けに凸型となる曲線を描く。これらの単量体消費速度定数(KP)の曲線は、ラクトン化合物(A)の含有量20〜50質量%付近で底値をとり、その傾向は重合温度が100℃より高くなる辺りから顕著に表れる。したがって、本発明のように、単量体混合物が、ラクトン化合物(A)5〜50質量%およびMMA(B)が5〜95質量%からなる場合には、特許文献4や特許文献5、特許文献6に開示されているメタクリル酸メチルを単独又は80質量%以上という高濃度で含有する単量体混合物の重合に適用される条件を、そのままこの場合の重合に適用すると、重合が急激に進みすぎて暴走反応が生じたり、あるいは逆に、目標とする重合率に到達しなかったりする。
【0055】
このように、ラクトン化合物(A)とMMAの共重合は、従来のメタクリル酸メチル系(共)重合体の重合には見られない挙動を示すことから、その挙動に応じた重合条件を新たに見出す必要がある。
【0056】
そこで、本発明者らは連続製造の条件に関する鋭意検討を行った結果、反応層に供給する単量体混合物の配合比がラクトン化合物(A)5〜50質量およびMMA(B)50〜5質量%において、最適な重合温度の範囲が存在し、その温度範囲において、反応槽中における平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)の最適な範囲があり、その比(θ/τ)に応じて最適な開始剤濃度(C)の範囲があることを見出した。この条件に基づく本発明の製造方法によれば、ラクトン化合物(A)とMMAの共重合体を、長期間にわたって安定して連続に製造することができる。
【0057】
本発明のメチルメタクリレート系共重合体の製造方法においては、重合温度が110〜185℃の範囲で行う。
【0058】
重合温度が高いと重合反応は安定に進みやすくなるが、重合温度が高すぎると後述する揮発物除去工程を経て得られた共重合体は、MMAの二量体の生成が多くなるため揮発物除去後の共重合体の透明性が低下したり、着色が増大する傾向がある。一方、重合温度が低すぎると、ゲル効果による重合速度の加速現象が大きくなったり、反応槽中の反応混合物の粘度が高くなったりするため、安定に運転することが困難になる。また、十分な生産性を確保するために開始剤を高い濃度で添加する必要があり、高濃度の開始剤を添加すると、共重合体の分子量が不均一となったり、共重合体の耐熱分解性が低下したりするおそれがある。
【0059】
上記の重合温度の範囲においては、製造しようとする共重合体の用途によって、最適な温度範囲に設定することができる。
【0060】
図1〜図3に示すように、ラクトン化合物(A)とMMA(B)の共重合反応性比(r1、r2)は、重合温度が110℃〜185℃の範囲で大きく変化するが、得られる共重合体の光線透過率はいずれも90%以上と高い透明性を示す。従って、自動車用途(テールランプレンズ、メーターパネル、バイザー等)や、照明用途(照明カバー、信号機、非常灯等)、家電機器(家電・OA機器等の表示窓、ボタンや匡体、携帯電話画面、電話機ボタン、液晶バックライト導光板等)、各種レンズ(プロジェクションテレビレンズ、フレネルレンズ、ピックアップレンズ、LBP用fθレンズ等)といった用途に、この重合温度(110℃〜185℃)で製造した共重合体を使用することができる。
【0061】
プラスチック光ファイバ用途のように、極めて高い光学的透明性が要求される場合には、重合温度は120℃〜160℃の範囲で行うことが望ましい。重合温度が120℃より低い場合、図1〜図3に示すように、反応性比の関係は、r1>r2となる。この場合、ラクトン化合物(A)5〜50質量%およびMMA(B)50〜95質量%からなる単量体混合物の共重合では、反応混合物中に生成している共重合体の共重合組成分布やシーケンス分布の広がりが大きくなる傾向があり、得られた共重合体をコア材とするPOFの伝送損失は増大する傾向がある。重合温度は125℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。一方、重合温度が120℃より高い場合、反応性比の関係は、図1〜図3に示すようにr1<r2となる。この場合についても同様に、反応混合物中に生成している共重合体の共重合組成分布やシーケンス分布の広がりが大きくなる傾向があり、得られた共重合体をコア材とするPOFの伝送損失は増大する傾向がある。重合温度は150℃以下がより好ましく、140℃以下がさらに好ましく、135℃以下が特に好ましい。
【0062】
なお、重合温度は、所望の温度が一定に維持されることが望ましく、反応槽のヒータ温度(ジャケット温度等)、及び単量体の供給温度を調節すること等により制御することができる。
【0063】
本発明のメチルメタクリレート系共重合体の製造方法においては、反応槽中における反応混合物の重合体含有率が常時30〜60質量%の範囲に治まるような条件で行う。重合体含有率が低すぎると、生産性が低くなり、また、後述する揮発物除去工程における押出機の負担が増大し、製造安定性が低下する。重合体含有率は、35質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。一方、重合体含有率が高すぎると、反応混合物中の共重合体の分子量が不均一になり、この共重合体をPOFのコア材に用いた場合、POFの光学特性が低下する傾向があったり、反応混合物の重合温度の制御が困難になるおそれがある。反応混合物中の重合体含有率は50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。
【0064】
本発明における重合工程において、反応混合物の反応槽における平均滞留時間は、重合率などの点から、2時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましく、生産性などの点から、7時間以下が好ましく、6時間以下がより好ましい。
【0065】
反応槽内に供給される開始剤の濃度は、経済的にかつ安定した状態で共重合体の製造を行うため、反応槽中における平均滞留時間θ(時間)と開始剤の半減期時間τ(時間)τの比と、開始剤濃度C(開始剤量(mol)/単量体量(mol))とが、下記式(1)及び式(2)で示す関係を満たすことが必要である。
70≦(θ/τ)≦1300 (1)、
3.07×10-8×(θ/τ)0.93≦C≦2.31×10-7×(θ/τ)0.93 (2)。
【0066】
式(1)で示される通り、比(θ/τ)は70〜1300の範囲にある必要ある。この比(θ/τ)が70より小さいと、共重合体の分子量が不均一になり、また重合体含有率(重合率)を30質量%とすることが困難である。また、比(θ/τ)が70より小さいことは、半減期温度の低い開始剤を用いる条件にも相当するが、これは重合温度を低く設定することに相当し、この場合には、反応槽内において開始剤と単量体を均一に混合することが難しくなる。その結果、操業安定性が悪化したり、重合体の分子量が不均一となり、ゲル状物などの異物が発生しやすくなり、重合体の光学特性が悪化する。また、図1〜図3に示すように、ラクトン化合物(A)とMMA(B)の共重合反応性比の差が著しく大きくなる(r1>>r2)ことにつながり、共重合体のシーケンス分布に偏りが生じて、得られる共重合の光学特性が劣化したり、この共重合体をコア材とするPOFの光学性能が低下したりする。比(θ/τ)は90以上が好ましく、100以上がより好ましく、180以上がさらに好ましく、260以上が特に好ましい。
【0067】
一方、比(θ/τ)が1300より大きいと、その場合は滞留時間(θ)が長くすることに相当することから、単位容積・単位時間当たりの共重合体の生産性が低下したり、開始剤の使用量が増えるために得られる共重合体の耐熱分解性が低下したりする。この比(θ/τ)は1000以下が好ましく、800以下がより好ましく、600以下が特に好ましい。
【0068】
また、本発明の製造方法においては、式(2)で示される通り、開始剤濃度C(開始剤量(mol)/単量体量(mol)を、3.07×10-8×(θ/τ)0.93以上、2.31×10-7×(θ/τ)0.93以下、の範囲に設定する。この条件をグラフに示したものが図7である。ラクトン化合物(A)とMMAを共重合する際は、反応槽中の平均滞留時間(θ)に応じて、式(1)を満たすような重合温度と開始剤の種類を選び、さらに比(θ/τ)に応じて、開始剤濃度(C)を、グラフ中4本の線で囲まれる斜線で示す領域の中から選択すればよい。
【0069】
開始剤濃度(C)が、2.31×10-7×(θ/τ)0.93より高い場合、反応混合物が反応槽以外において後重合するため、共重合体の分子量が不均一となるおそれがある。また、この場合において、比(θ/τ)が低い領域では、重合体含有率を上述した40質量%以上に到達するためには、多量の開始剤が必要となり、重合反応の制御が困難になったり、得られる共重合体の耐熱分解性が低下するおそれがある。開始剤濃度(C)は、1.54×10-7×(θ/τ)0.93以下が好ましい。
【0070】
一方、開始剤濃度(C)が、3.07×10-8×(θ/τ)0.93より低い場合、重合体含有率を30質量%以上に到達させることが困難となる。反応混合物中の開始剤濃度(C)は、5.12×10-8×(θ/τ)0.93以上が好ましい。
【0071】
開始剤としては、重合時に副反応や着色等の悪影響を及ぼさないものが好ましく、アゾ系化合物および有機過酸化物から選ばれるものを用いることができる。
【0072】
有機過酸化物としては、ジラウリルパーオキサイド(10時間半減期温度62℃、日本油脂社製、商品名:パーロイルL)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(10時間半減期温度65℃、日本油脂社製、商品名:パーオクタO)、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(10時間半減期温度70℃、日本油脂社製、商品名:パーヘキシルO)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(10時間半減期温度72℃、日本油脂社製、商品名:パーブチルO)、ベンゾイルパーオキサイド(10時間半減期温度74℃、日本油脂社製、商品名:ナイパーBW)、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−2−メチルシクロヘキサン(10時間半減期温度83℃、日本油脂社製、商品名:パーヘキサMC)、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(10時間半減期温度87℃、日本油脂社製、商品名:パーヘキサTMH)、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(10時間半減期温度91℃、日本油脂社製、商品名:パーヘキサC)、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート(10時間半減期温度97℃、日本油脂社製、商品名:パーブチル355)、ジクミルパーオキサイド(10時間半減期温度116℃、日本油脂社製、商品名:パークミルD)、ジ−t−ブチルパーオキサイド(10時間半減期温度124℃、日本油脂社製、商品名:パーブチルD)等を挙げることができる。
【0073】
アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(10時間半減期温度52℃、和光純薬社製、商品名:V−65)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(10時間半減期温度65℃、和光純薬社製、商品名:V−60)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(10時間半減期温度67℃、和光純薬社製、商品名:V−59)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(10時間半減期温度67℃、和光純薬社製、商品名:V−601)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−メチルプロピオネート)(10時間半減期温度73℃、和光純薬社製、商品名:VE073)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)(10時間半減期温度110℃、和光純薬社製、商品名:VR−110)、1,1′−アゾビス(シクロへキサンカルボニトリル)(10時間半減期温度87℃、和光純薬社製、商品名:V−40)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)(10時間半減期温度160℃、和光純薬社製、商品名:VR−160)等を挙げることができる。
【0074】
上記の開始剤の中でも、共重合体の加熱着色への影響が小さいことから、アゾ系化合物が好ましく、中でも、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬製、V−601)や、下記の化学式(4)(V−60)、化学式(5)(VR−110)、化学式(6)(VR−160)、化学式(7)(VE073)に示す化合物のような、分子構造中にニトリル基(−CN)を含まないアゾ系化合物が特に好ましい。このようなアゾ系化合物を用いて製造された共重合体を芯材に用いることにより、初期の伝送損失が低く、耐熱性の高い(100〜140℃の高温環境下に長期間置かれた場合に伝送損失の増加が小さい)POFを製造することができる。
【0075】
【化6】

【0076】
【化7】

【0077】
【化8】

【0078】
【化9】

【0079】
上述した開始剤を用いて、重合温度が110〜185℃で、70≦(θ/τ)≦1300を満たす具体的な温度条件としては、反応槽の滞留時間を4時間とする場合、アゾ系化合物では、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V−601)を用いたときには110℃〜140℃付近、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−メチルプロピオネート)(VE073)を用いたときには110℃〜150℃付近、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)(VR−110)を用いたときには145℃〜185付近に設定することができる。有機過酸化物では、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(パーオクタO)を用いたときには110℃〜145℃付近、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−2−メチルシクロヘキサン(パーヘキサMC)を用いたときには120℃〜160℃付近、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート(パーブチル355)を用いたときには135℃〜185付近、ジ−t−ブチルパーオキサイド(パーブチルD)を用いたときには160℃〜185℃付近に設定することができる。この条件で、開始剤濃度(C)を、前記式(2)の範囲内で調整して決定することができる。
【0080】
プラスチック光ファイバ用途のように、極めて高い光学的透明性が要求される場合には、重合温度は、前述のように120℃〜160℃の範囲に設定することが好ましい。重合温度が低すぎたり高すぎたりする場合には、POFの伝送損失が高くなる傾向がある。
【0081】
開始剤には、10時間半減期温度が60℃〜120℃の範囲にあるアゾ系化合物または有機過酸化物を用いることが好ましく、60〜110℃の範囲がより好ましく、60〜100℃の範囲がさらに好ましい。開始剤の10時間半減期温度が低すぎると、高濃度の開始剤が必要となるため得られる共重合体の耐熱分解性が低下したり、あるいは、重合温度を低くする必要があるために重合安定性が低下するおそれがある。10時間半減期温度が高すぎると、生産性を損なわないためには重合温度を高くする必要が生じ、得られる共重合体が着色しやすくなる。
【0082】
開始剤は、異物の除去処理を行ってから用いることが好ましい。例えば、公知のフィルタを用いて開始剤を濾過する。アゾ系化合物の開始剤には、常温で液体状のものもあれば、固体状のものもある。液体状の開始剤はそのままフィルタ濾過すればよく、固体状の開始剤は単量体に溶解した後にその溶液をフィルタ濾過すればよい。また、一般に市販の開始剤を用いた場合、通常製品中に開始剤以外の成分が含まれている。この場合、開始剤の純度、即ち製品中に含まれる開始剤の濃度は95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましい。
【0083】
本発明における重合工程では、反応槽内に、共重合体の分子量を調節する目的で連鎖移動剤を使用する。この連鎖移動剤としては、炭素数が3〜8個のアルキルメルカプタンを用いることが好ましい。このメルカプタンは、常温で液体でありハンドリングが簡単な上、比較的蒸気圧が高いために揮発物除去工程においてそのほとんどを除去することができる。その結果として、工業的に有利な、非常に不純分の少ない透明性に優れた共重合体の製造が可能となる。アルキルメルカプタンの炭素数が多すぎると、揮発物除去工程で十分に除去することが困難となる傾向がある。メルカプタンが共重合体中に残存すると、成形加工時の熱履歴における着色原因となるおそれがある。一方、炭素数が2個以下であると常温における揮発性が高くなるために、メルカプタンに特有の臭気が発生しやすくなるために、調合時や重合時、揮発物除去時の取り扱いが困難となる。
【0084】
炭素数が3〜8個のアルキルメルカプタンとしては、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、tert−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどの第一級、第二級、第三級メルカプタンなどを挙げることができる。特に、n−ブチルメルカプタンは揮発温度が低く、溶融押出工程で揮発除去が容易であることから好ましい。
【0085】
これらの連鎖移動剤の使用量は、適宜設定することができるが、例えば、GPCのポリスチレン換算により求めた共重合体の重量平均分子量が50,000〜300,000の範囲になる量に設定することができる。分子量が小さすぎると、得られる共重合体が脆くなる傾向があり、大きすぎると、共重合体の成形安定性が低下する傾向がある。得られる共重合体の重量平均分子量は、70,000〜150,000の範囲にあることが好ましく、80,000〜125,000の範囲にあることがより好ましい。このような重量平均分子量の範囲にある共重合体を調製するために、単量体混合物100質量部に対して、例えば、n−ブチルメルカプタン等のアルキルメルカプタンを0.02質量部〜3.0質量部の範囲で添加することができる。
【0086】
本発明における重合工程では、前述の単量体、開始剤、連鎖移動剤を反応槽内に供給する。反応槽内に供給される前に重合が進行することを防ぐため、単量体と開始剤とは別々に供給することが好ましい。その場合は、反応槽に供給された単量体、開始剤、連鎖移動剤は反応槽内で攪拌混合される。その際、互いに共重合する単量体同士を予め混合して単量体混合物を調製し、この単量体混合物を反応槽へ供給することができ、この単量体混合物には連鎖移動剤を添加しておいてもよい。反応槽へ供給する前の重合が問題となるほど進行しない場合や、その進行が十分に抑えられる場合は、単量体混合物に開始剤を添加して原料混合物を調整し、この原料混合物を反応槽へ供給してもよい。その際、反応槽内に窒素などの不活性ガスを導入することが好ましい。不活性ガスの導入においては、重合温度における混合単量体の全蒸気圧より高い圧力を加えることが必要である。
【0087】
反応槽は公知のものが用いられるが、その内部を加熱および冷却できるようにジャケットを有しているものを使用することが好ましい。攪拌装置は公知のものが使用可能であり、例えばダブルヘリカルリボン翼、マックスブレンド(R)翼(住友重機械工業(株)製)を使用することができる。
【0088】
なお、本発明における重合工程においては、反応槽内へ、単量体、開始剤、連鎖移動剤が供給され、実質的に均一に撹拌混合され、そして重合が進行して、重合体、単量体、開始剤、連鎖移動剤からなる反応混合物となっている状態が形成される。
【0089】
重合後に反応槽から取り出された反応混合物は、通常のポンプ等を用いて揮発物除去工程に送られる。生産性を良くするためには、反応槽から反応混合物を連続的に抜き出しながら、連続的に揮発物除去工程に移送することが好ましい。
【0090】
揮発物除去工程においては、反応混合物を予熱温度110〜250℃に加熱し、かつこの予熱温度におけるMMAの蒸気圧以上に加圧して、細孔又はスリットを通して減圧下にあるベント押し出し機の供給部に供給し、揮発物の大部分を分離回収する。さらに、残揮発成分を、このベント押し出し機の下流側に設けた1つ以上のベント部において除去する。その際、少なくとも、最も下流側に設けたベント部において200〜270℃、圧力50kPa以下で揮発物を除去することが好ましい。なお、揮発物とは、未反応単量体、二量体、不活性溶媒、未反応のメルカプタン等の揮発成分をいう。ベント押し出し機の供給部に反応混合物を供給する際に、ベント押し出し機の供給部スクリュに反応混合物を直接吹き付けることもできる。
【0091】
揮発物除去工程において、上記予熱温度が低すぎると、揮発物を除去するのに必要な熱量が不足するため共重合体中の残存揮発物量が多くなり、優れた光学性能および機械的性質を備えた共重合体を得ることが困難となる。上記予熱温度が高すぎると、揮発物の除去は有利であるが、予熱部接液面において硫黄成分に起因すると考えられる着色物の付着生成が見られ、この着色物が同伴することにより、得られた共重合体の光学特性が低下する。なお、ベント部の圧力が高すぎると、共重合体中の揮発物を十分に除去することが困難となる。上記予熱温度のより好ましい範囲は120〜210℃である。
【0092】
押出機内の温度は、高いほど揮発物はより効果的に除去されるが、揮発物除去後に得られる重合体が着色する等の劣化のおそれがあるので、押出機内の温度は未反応単量体を除去できる範囲でできるだけ低くすることが好ましい。具体的には押出機内の温度は190℃〜260℃程度とすることが好ましい。
【0093】
本発明によるPOFの製造方法においては、複数の材料を同心円状に積層して吐出する複合紡糸ノズルを用いた複合紡糸法により紡糸することが好ましい。複合紡糸ノズルとしては二層以上のものが適宜用いられる。例えば中心から外周に向かって屈折率が段階的に変化するPOFを製造する際には、三層以上の複合紡糸ノズルを用いることができる。またSI型POFを製造する際には、二層の複合紡糸ノズルの内層に芯材を、外層に鞘材をそれぞれ供給して紡糸することができる。
【0094】
POFの芯材には、上記の製造方法により得られたメチルメタクリレート系共重合体を用いる。
【0095】
POFの鞘材としては、含フッ素オレフィン系樹脂や、フッ素化メタクリレート系重合体等のように、POFの鞘材料として提案されている公知のフッ素系重合体を適宜選択することができる。クラッドが1層構造の場合は、含フッ素オレフィン系樹脂と、フッ素化メタクリレート系重合体のいずれかを用いることができる。クラッドが2層以上の複数層から形成されている場合は、内層クラッドにはフッ素化メタクリレート系重合体を選択することが望ましい。
【0096】
含フッ素オレフィン系樹脂としては、結晶融解熱が40mJ/mg以下であるテトラフルオロエチレン(TFE)単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂が、本発明のPOFの鞘材として特に好ましい。
【0097】
例えばテトラフルオロエチレン(TFE)単位とビニリデンフルオライド(VdF)単位とヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位からなる共重合体、VdF単位とTFE単位からなる共重合体、VdF単位とHFP単位からなる共重合体、VdF単位とTFE単位とHFP単位とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位からなる共重合体、VdF単位とTFE単位とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位からなる共重合体、エチレン単位とTFE単位とHFP単位からなる共重合体、VdFとTFEとヘキサフルオロアセトンからなる共重合体等が挙げられるが、これに限定されるものではない。中でも、共重合成分としてTFE単位とVdF単位とHFP単位とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位は低コストであり、これらの少なくとも1種類を構成単位に有する共重合体は、透明性が高く、耐熱特性に優れる点から好ましい。
【0098】
TFE単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂としては、より具体的には、VdF単位10〜60質量%とTFE単位20〜70質量%とHFP単位5〜35質量%からなる3元共重合体、VdF単位5〜25質量%とTFE単位50〜80質量%とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位5〜25質量%からなる3元共重合体、VdF単位10〜30質量%、TFE単位40〜80質量%、HFP単位5〜40質量%、パーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位0.1〜15質量%からなる4元共重合体、TFE単位40〜90質量%とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位10〜60質量%からなる2元共重合体、TFE単位30〜75質量%とHFP単位25〜70質量%からなる2元共重合体、等を挙げることができる。
【0099】
上記のTFE単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂のうちでも、透明性の点から、結晶性の低いものが好ましい。
【0100】
含フッ素オレフィン系樹脂の結晶性は、示差走査熱量測定(DSC)で測定した結晶融解熱を指標として表すことができる。結晶融解熱は、含フッ素オレフィン系樹脂のTFE単位、VdF単位に由来する結晶成分の熱融解に起因して発生する熱量であって、値が大きい程、樹脂の結晶性が高くなる傾向がある。
【0101】
本発明の製造方法により製造するPOFは、最外層のクラッド材に、結晶融解熱が40mJ/mg以下のTFE単位を含む含フッ素オレフィン系樹脂を用いること好ましい。結晶融解熱が大きすぎると、樹脂自体の結晶性が高くなり、鞘材が著しく白濁する傾向がある。そのため、POFの初期の伝送層損失が増大したり、POFが高(湿)熱環境下に長期間放置された場合、伝送損失が著しく増加したりする傾向がある。
【0102】
結晶融解熱がより小さければ樹脂の結晶性が低く抑えられるため、長時間の高温環境下においてもPOFの伝送損失の増加を抑制することができる。こうした観点から結晶融解熱は25mJ/mg以下がより好ましく、POFとして非常に高い耐熱性を発現するためには、15mJ/mg以下がさらに好ましい。
【0103】
一方、フッ素化メタクリレート系重合体は、屈折率の調整が容易で、良好な透明性及び耐熱性を有しながら、屈曲性及び加工性に優れる重合体であるためPOFの鞘材として好適である。
【0104】
内側の第1クラッドに用いられるフッ素化メタクリレート系重合体としては、例えば下記一般式(VI)
CH2=CX−COO(CH2m−R1f (VI)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、又はメチル基、R1fは炭素数1〜12の(フルオロ)アルキル基、mは1又は2の整数を示す。)
で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレートの単位(D)15〜90質量%と、他の共重合可能な単量体の単位(E)10〜85質量%からなり、屈折率が1.39〜1.475の範囲にある共重合体を用いることができる。
【0105】
上記一般式(VI)であらわされるフルオロアルキル(メタ)クリレートの単位(D)として、より具体的には、
下記一般式(VII)
CH2=CX−COO(CH2m(CF2nY (VII)
(式中、Xは水素原子又はメチル基、Yは水素原子又はフッ素原子を示し、mは1又は2、nは1〜12の整数を示す。)
あるいは、
下記一般式(VIII)
CH2=CX−COO(CH2m−(C)R2f3f1 (VIII)
(式中、Xは水素原子又はメチル基を示し、R2f及びR3fは同一又は相異なるフルオロアルキル基、R1は水素原子又はメチル基、又はフッ素原子を示し、mは1又は2を示す。)
を挙げることができる。
【0106】
一般式(VII)の例として、(メタ)アクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル(3FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(4FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(5FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(6FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(8FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロブチル)エチル(9FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロヘキシル)エチル(13FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(16FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロオクチル)エチル(17FM)、(メタ)アクリル酸―1H,1H,11H−(イコサフルオロウンデシル)(20FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロデシル)エチル(21FM)等の、直鎖状フッ素化アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸フッ素化エステルが挙げられる。
【0107】
一般式(VIII)の例として、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロネオペンチルや、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロイソブチル等の、分岐状フッ素化アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸フッ素化エステル等を挙げることができる。
【0108】
一方、他の共重合可能な単量体単位(E)として、
下記一般式(2)で示される(S)体および下記一般式(3)で示される(R)体を質量比で70/30〜30/70の範囲で含む下記一般式(1)
【0109】
【化10】

【0110】
【化11】

【0111】
【化12】

【0112】
(式(1)〜(3)中、R1はメチル基、エチル基またはプロピル基を示し、R2、R3は独立して水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、無置換もしくは炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、または無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基を示し、R2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、該5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。さらに、式中のR2、R3のアルキル基鎖中の炭素原子は、S、N、P、Oから選ばれるヘテロ原子で置換されていてもよい。)
で表されるラクトン化合物の単位を挙げることができる。
【0113】
一般式(1)で表されるラクトン化合物としては、前述したα−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β、β−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン等のα−メチレン−β−アルキル−γ−ブチロラクトン類等を挙げることができる。
【0114】
他の共重合可能な単量体単位(E)には、ラクトン化合物の単位の他にも、鞘材の耐熱性(ガラス転移温度、熱分解性)や吸水率、機械的強度を改善するために、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単位を共重合してもよい。
【0115】
このような、フルオロアルキル(メタ)クリレートの単位(D)と、他の共重合可能な単量体の単位(E)としてラクトン化合物の単位を含有するフッ素化メタクリレート系重合体は、鞘材としての透明性に優れるだけではなく、機械的強度や耐熱性(ガラス転移温度、熱分解性)も良好であることから、特に好ましい。
【0116】
クラッドを構成する前記含フッ素オレフィン系樹脂やフッ素化メタクリレート系重合体のMFRは、5〜50の範囲内にあることが好ましく、10〜40の範囲内がより好ましく、15〜25の範囲内がさらに好ましい。MFRが大きすぎると、POFの屈曲性および加工性が低下したり、POFが高温環境に置かれた時に鞘材が変形してPOFの伝送損失が低下したりするおそれがある。MFRが小さすぎると、共重合体の成形性が低下するおそれがある。
【0117】
コアの外周部にクラッドを形成する方法は、特に限定されず公知の方法を使用できる。前述の複合防止ノズルを用いた複合防止法のほか、例えば鞘材を酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の溶媒に溶解して得られる溶液を、コーティング法、浸漬法によってコアの表面に被覆することによりクラッドを形成することができる。
【0118】
本発明のPOFの外周部には保護層を形成することもできる。保護層の材料としては、例えば、VdF単位とTFE単位との共重合体、VdF単位とTFE単位とHFP単位との共重合体、VdF単位とTFE単位とHFP単位とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位との共重合体、VdF単位とTFE単位とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位との共重合体、エチレン単位とTFE単位とHFP単位との共重合体、TFE単位とHFP単位との共重合体、VdF単位とTFE単位とヘキサフルオロアセトン単位との共重合体等上記鞘材として挙げた材料を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。この保護層は、コーティング法や浸漬法を用いたり、複合紡糸ノズルを用いコアおよびクラッドとともに押出賦形することによって形成することができる。
【0119】
本発明により製造された共重合体は耐熱性のみならず、光学的透明性に非常に優れているので、得られた共重合体を、POFに光を透過させた際に光が主に通過する部分、即ち芯材に用いたPOFを製造すると、伝送性能に優れたPOFを得ることができる。POFの構造は、例えば芯鞘が同心円状に積層され、その界面で屈折率が急激に変化するSI型POFが挙げられる。
【0120】
耐熱性と光学的透明性に優れた樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂や環状ポリオレフィン系樹脂(いずれもガラス転移温度が150℃)が工業化されている。現在まで、これらの樹脂をPOFの芯材に用いる検討が行われてきており、既に一部は工業化されているものもあるが、報告されているPOFの伝送損失としては、それぞれ約500dB/km、約1000dB/km程度である。これに対して、本発明の製造方法で製造したメタクリル系共重合体を芯材とするPOFは、ガラス転移温度が約150℃でありながら、POFの伝送損失300dB/km以下を達成することができる。
【実施例】
【0121】
以下に、本発明の製造方法について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらによって限定されるものではない。
【0122】
実施例および比較例で実施した重合体およびPOFの物性の評価方法は次の通りである。
【0123】
[ガラス転移温度(Tg)]
得られた重合物を塩化メチレンに溶解後、メタノール中で再沈し、その沈殿物を40℃で真空乾燥した。乾燥後の試料について、示差走査熱量計(DSC)(セイコー電子工業社製、商品名:DSC−220)を使用してガラス転移温度(Tg)を測定した。その際、共重合体を、昇温速度10℃/分で220℃まで昇温し、5分間保持して溶融させた後、10℃/分で0℃まで降温し、再度昇温速度10℃/分で昇温し、5分間保持して、10℃/分で降温を行い、この時のガラス転移温度を求めた。
【0124】
[耐熱分解性]
得られた重合物を塩化メチレンに溶解後、メタノール中で再沈し、その沈殿物を40℃で真空乾燥した。乾燥後の試料について、示差熱分析装置(TG/DTA)(セイコー電子工業社製、商品名:TG/DTA 6300)を使用して熱分解の5%質量減少温度を測定した。その際、昇温速度10℃/分で室温から600℃まで昇温し、試料の質量が5質量%減少する時の温度を求めた。
【0125】
[屈折率]
得られた重合物を溶融プレスし、厚さ200μmのフィルム状の試験片を形成し、この試験片について、アッベの屈折計を用い、25℃におけるナトリウムD線の屈折率(nD25)を測定した。
【0126】
[重合率(重合体含有率)、共重合体中のラクトン化合物(A)の含有量]
反応槽から反応混合物を連続的に取り出して揮発物除去工程に供給する工程の途中からサンプリングした反応混合物を塩化メチレンに溶解し、この溶液について、ガス・クロマトグラフィー(島津製作所社製、商品名:GC−8A)により反応混合物中に残存するラクトン化合物(A)とMMAを測定した。分離カラムはTC−1(0.25mm径×30m長)、検出器FID、内部標準物質としてテトラリンを用いて定量した。
【0127】
事前に作成した検量線により、反応混合物中のラクトン化合物(A)(X質量%)とMMA(Y質量%)を定量して、重合率(=100−X−Y)を求めた。
【0128】
共重合体中のラクトン化合物(A)の含有量(質量%)は、反応槽に供給する単量体混合物中のラクトン化合物(A)の含有量をZ(質量%)とする時、含有量(質量%)=100×(Z−X)/(100−X−Y)から求めた。
【0129】
[GPCによる分子量の測定]
得られた共重合体を塩化メチレンに溶解後、メタノール中で再沈し、その沈殿物を真空乾燥した。乾燥後の試料をクロロホルム中に溶解し、この試料溶液について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(東ソー社製GPCシステム)を用いて共重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)を、ポリスチレン換算分子量として求めた。
【0130】
なお、反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率(重合率)が30質量%より低い場合は、揮発物除去工程へ供給せずに、その反応混合物を、塩化メチレンに溶解後、メタノール中で再沈し、真空乾燥した試料を測定に用いた。
【0131】
[POFの伝送損失]
励振NA0.1、測定波長650nmにおけるPOFの伝送損失を20m−5mカットバック法にて測定した。
【0132】
[POFの耐熱試験]
POFを、温度125℃のオーブンに2000時間放置した後に、励振NA0.1、測定波長650nmにおけるPOFの伝送損失(dB/km)を、20m−5mカットバック法により測定した。
【0133】
[実施例1]
α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(MMBL)の(R)体((R)MMBL)と(S)体((S)MMBL)の等量を混合して、MMBLの(R)体と(S)体の混合物((R/S)MMBL)を得た。
【0134】
単量体として、この(R/S)MMBL22質量部と、MMA78質量部との単量体混合物を用いた。
【0135】
この単量体混合物に、開始剤として、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬製、商品名:V−601):DMABMPを、1.0×10-5(mol)/単量体1(mol)の割合で添加し、また、連鎖移動剤として、n−ブチルメルカプタン(シェブロンフィリップス社製、純度99.5質量%)を700ppmの割合で添加した混合物を反応槽に連続的に供給した。
【0136】
その際、重合温度は114℃に制御し、反応槽内に供給された混合物は攪拌翼により撹拌混合した。また、重合反応域における反応混合物の平均滞留時間を4.0時間として、重合を実施した。このとき、反応槽中における平均滞留時間(θ)と開始剤の半減期時間(τ)の比(θ/τ)は91である。
【0137】
反応混合物を反応槽から連続的に取り出し、ポンプを用いて5リットル/hrで送液しながら220℃まで加熱昇温し、連続的に、スクリュ径40mmのリアベント式3ベント単軸脱揮押し出し機に供給し、揮発物を分離除去して、透明性の良好な共重合体を得た。
【0138】
その際、この単軸脱揮押し出し機の、供給部の圧力(リアベント(第一ベント))は150Torr(20.0kPa)〜200Torr(26.7kPa)、第二ベント及び第三ベント部の圧力は50Torr以下(6.67kPa以下)を維持するようにして、供給部押し出し機温度は220℃、第二ベント及び第三ベント部の押し出し機温度は240℃に設定した。スクリュ回転数は80rpmである。
【0139】
反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率(重合率)は47.8質量%であった。
【0140】
得られた重合体のGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)は84,000であり、また重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は1.53であり、この重合体は極めて分子量分布の狭いものであった。示差熱分析装置(TG/DTA)により測定した5%質量減少温度は327℃、走査型示差熱量計(DSC)により測定したガラス転移点は150℃と高く、この重合体は熱特性的にも良好であった。
【0141】
また、約170時間(1週間)の連続運転においても、操業が極めて安定していた。
【0142】
なお、これ以降の実施例、比較例、表において、特に指定がなければ、MMBLは、(R)MMBLと(S)MMBLを等量混合した混合物である。
【0143】
図8に、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0144】
[実施例2]
α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(EMBL)の(R)体((R)EMBL)と(S)体((S)EMBL)を等量混合して、EMBLの(R)体と(S)体の混合物((R/S)EMBL)を得た。単量体としてこの(R/S)EMBL22質量部と、MMA78質量部との単量体混合物を用い、開始剤濃度を2.95×10-6(mol)/単量体1(mol)とした他は、実施例1と同様にして、透明性の良好な共重合体を得た。得られた反応混合物及び共重合体の評価結果を表1−1及び表1−2に示した。
【0145】
なお、これ以降の実施例、比較例、表において、特に指定がなければ、EMBLは、(R)EMBLと(S)EMBLを等量混合した混合物である。
【0146】
図8に、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0147】
[実施例3〜10]
表1−1及び表1−2に示した製造条件とした以外は実施例1と同様にして共重合体を製造した。得られた反応混合物及び共重合体の評価結果を表1−2に示した。
【0148】
なお、表中のPMBLは、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(PMBL)の(R)体((R)PMBL)と(S)体((S)PMBL)を等量混合した、PMBLの(R)体と(S)体の混合物((R/S)PMBL)である。これ以降の実施例、比較例、表において、特に指定がなければ、PMBLは、(R)PMBLと(S)PMBLを等量混合した混合物である。
【0149】
図8に、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0150】
[比較例1]
表1−1及び表1−2に示す製造条件とした以外は、実施例1と同様にしての共重合体の製造を実施した。得られた反応混合物及び共重合体の評価結果を表1−2に示した。
【0151】
反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率(重合率)は47〜55質量%の範囲で大きく変動し、また重合温度も安定せず、安定操業が困難であった。反応槽から反応混合物を揮発物除去工程に安定に供給することはできなかった。
【0152】
図8に、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0153】
[比較例2]
表1−1及び表1−2に示す製造条件とした以外は、実施例1と同様にしての共重合体の製造を実施した。得られた反応混合物及び共重合体の評価結果を表1−2に示した。
【0154】
反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率(重合率)は30質量%未満であり、反応混合物の重合体含有率が低すぎて、後工程の揮発分除去工程で反応混合物を安定に脱揮することができなかった。
【0155】
図8に、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0156】
[比較例3〜11]
表1−1及び表1−2に示す製造条件とした以外は、実施例1と同様にしての共重合体の製造を実施した。得られた反応混合物及び共重合体の評価結果を表1−2に示した。
【0157】
反応槽から取り出された直後の反応混合物の重合体含有率(重合率)は30質量%未満であったり、重合体含有率(重合率)が大きく変動し重合温度も安定せず、安定操業が困難であったりした。反応槽から反応混合物を揮発物除去工程に安定に供給することができなかったり、反応混合物の重合体含有率が低すぎて後工程の揮発分除去工程で反応混合物を安定に脱揮することができなかった。
【0158】
図8には、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0159】
[実施例11〜20、比較例12〜22]
開始剤に2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)(和光純薬社製、商品名:VR−110):ABTMPを用いて、表2−1及び表2−2に記載の製造条件とした以外は、実施例1と同様にして共重合体の製造を実施した。得られた反応混合物及び共重合体の評価結果を表2−2に示した。
【0160】
図9には、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0161】
[実施例21〜30、比較例23〜33]
開始剤に1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−メチルプロピオネート)(和光純薬社製、商品名:VE073):ABCHMPを用いて、表3−1及び表3−2に記載の製造条件とした以外は、実施例1と同様にして共重合体の製造を実施した。得られた反応混合物及び共重合体の評価結果を表3−2に示した。
【0162】
図10には、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0163】
[実施例31〜40、比較例34〜44]
開始剤に1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(日本油脂社製、商品名:パーオクタO):TMBPEHを用いて、表4−1及び表4−2に記載の製造条件とした以外は、実施例1と同様にして共重合体の製造を実施した。得られた反応混合物及び共重合体の評価結果を表4−2に示した。
【0164】
図11には、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0165】
[実施例41〜50、比較例45〜55]
開始剤にt−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート(日本油脂社製、商品名:パーブチル355):TDPTMHを用いて、表5−1及び表5−2に記載の製造条件とした以外は、実施例1と同様にして共重合体の製造を実施した。得られた反応混合物及び共重合体の評価結果を表5−2に示した。
【0166】
図12には、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0167】
[実施例51〜54、比較例56〜63]
開始剤にジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂社製、商品名:パーブチルD):DTBPOを用いて、表6−1及び表6−2に記載の製造条件とした以外は、実施例1と同様にして共重合体の製造を実施した。得られた反応混合物及び共重合体の評価結果を表6−2に示した。
【0168】
図13には、平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す。
【0169】
[実施例55〜59、比較例64〜65]
MMBLの(R)体と(S)体を、それぞれ表7−1に記載の配合比((R)体/(S)体=20/80〜80/20(質量比))で混合して、MMBLの(R)体と(S)体の混合物を得た。
【0170】
単量体として、上記(R)体と(S)体の混合物であるMMBL22質量部と、MMA78質量部の単量体混合物を用いた。
【0171】
この単量体混合物に、開始剤として、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬製、商品名:V−601):DMABMPを、3.09×10-5(mol)/単量体1(mol)の割合で添加し、また、連鎖移動剤として、n−ブチルメルカプタン(シェブロンフィリップス社製、純度99.5質量%)を700ppmの割合で添加した混合物を反応槽に連続的に供給した。
【0172】
その際、重合温度は129℃に制御し、反応槽内に供給された混合物は攪拌翼により撹拌混合した。また、重合反応域における反応混合物の平均滞留時間を4.0時間として、重合を実施した。このとき、反応槽中における平均滞留時間(θ)と開始剤の半減期時間(τ)の比(θ/τ)は490である。
【0173】
反応混合物を反応槽から連続的に取り出し、ポンプを用いて5リットル/hrで送液しながら220℃まで加熱昇温し、連続的に、スクリュ径40mmのリアベント式3ベント単軸脱揮押し出し機に供給し、揮発物を分離除去して、共重合体を得た。
【0174】
反応槽から抜き取った直後の反応混合物の重合体含有率(重合率)は43質量%であった。
【0175】
得られた共重合体のGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)は83,300〜84,500であり、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)は1.53〜1.56であり、この共重合体は極めて分子量分布の狭いものであった。また、共重合体中のMMBLとMMAの含有量比(MMBL/MMA)は、25.0〜25.2/74.8〜75.0(wt%)であり、共重合体の屈折率は1.499であった。
【0176】
また、約170時間(1週間)の連続運転においても、操業が極めて安定していた。
【0177】
リアベント式3ベント単軸脱揮押し出し機の、供給部の圧力(リアベント(第一ベント))は25kPa、第二ベント及び第三ベント部の圧力は50Torr(6.67kPa)であり、供給部押し出し機温度は220℃、第二ベント及び第三ベント部の押し出し機温度は240℃に設定した。スクリュ回転数は80rpmである。
【0178】
次に、押し出し機先端から押し出された共重合体を、密閉・溶融状態のまま、連続的に220℃に設定した紡糸ヘッドに設置した二層の同心円状複合紡糸ノズルに導いた。この複合紡糸ノズルの内層に芯材として前記共重合体を供給し、外層に鞘材としてVdF/TFE/HFP/PFPVE(21/55/18/6質量%、屈折率1.350、結晶融解熱(△H)8mJ/mg)からなる共重合体を供給して溶融複合紡糸を行った。続いて、160℃の熱風加熱炉中で繊維軸方向に2.0倍に延伸し、鞘材層の厚みが10μmで直径が1000μmのPOFを得た。本実施例及び比較例の製造条件および評価結果を表7−1及び表7−2にまとめて記載した。
【0179】
得られたPOFの波長650nmにおける伝送損失の測定結果を表7−2に記載した。MMBLの(S)体と(R)体の質量比が70/30〜30/70の範囲内の共重合体(実施例55〜59)を用いたPOFの伝送損失は300dB/kmより低く、特に(S)体と(R)体の質量比が50/50の共重合体を用いたPOFの伝送損失は190dB/kmと最も優れていた。これに対して、(S)体と(R)体の質量比が80/20及び20/80である共重合体(比較例64、65)を用いたPOFの伝送損失は、それぞれ490dB/km及び501dB/kmであった。
【0180】
[実施例60〜72]
MMBLとして、(S)体と(R)体が質量比で50/50の混合物を用いた。
【0181】
開始剤は、表8−1に記載したように、実施例60〜64では、10時間半減期温度が60〜100℃で、分子構造中にニトリル基(−CN)を含まないアゾ系化合物である、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬製V−601):DMABMP、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−メチルプロピオネート)(和光純薬社製、商品名:VE073):ABCHMPを用いた。
【0182】
実施例65〜69では、10時間半減期温度が100℃より高く、分子構造中にニトリル基(−CN)を含まないアゾ系化合物である、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)(和光純薬社製、商品名:VR−110):ABTMPを用いた。
【0183】
実施例70〜71では、10時間半減期温度が60〜100℃で、分子構造中にニトリル基(−CN)を含むアゾ系化合物である、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(和光純薬社製、商品名:V−60):AIBNを用いた。
【0184】
実施例72では、10時間半減期温度が60〜100℃の有機過酸化物である、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(日本油脂社製、商品名:パーオクタO):TMBPEHを用いた。
【0185】
上記のMMBLおよび開始剤を用いて、表8−1及び表8−2に示す製造条件とした以外は、実施例55〜59と同様にして共重合体を製造し、そして、この共重合体を芯材に用いた以外は、実施例55〜59と同様にしてPOFを得た。
【0186】
得られた共重合体中のMMBLとMMAの含有量比(MMBL/MMA)は、24.5〜25.2/74.8〜75.5(wt%)の範囲であり、その共重合体のガラス転移温度は153〜155℃、屈折率は1.498〜1.499であった。
【0187】
得られたPOFの波長650nmにおける伝送損失の測定結果を表8−2に記載した。何れもPOFの伝送損失は400dB/km以下であり、特に重合温度が120〜160℃の場合はPOFの伝送損失は特に低く280dB/km以下であり、重合温度がこの範囲より低くなっても、高くなってもPOFの伝送損失は増加する傾向が見られた。
【0188】
また、POFの耐熱性試験(125℃、2,000時間)を行なったところ、開始剤が、分子構造中にニトリル基(−CN)を含まないアゾ系化合物の場合(実施例60〜69)は、伝送損失の増加は25dB/km以下であった。これに対して、開始剤が、分子構造中にニトリル基(−CN)を含むアゾ系化合物の場合(実施例70〜71)、及び有機過酸化物(実施例72)の場合は、伝送損失の増加は90dB/km以上であった。
【0189】
各実施例、比較例において用いた単量体の略号は、以下の化合物を示す。
【0190】
MMBL:α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン
(R)MMBL:(R)体のα−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン
(S)MMBL:(S)体のα−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン
EMBL:α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン
PMBL:α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン
MMA:メタクリル酸メチル
VdF:フッ化ビニリデン
TFE:テトラフルオロエチレン
HFP:ヘキサフルオロプロピレン
PFPVE:パーフルオロペンタフオロプロピルビニルエーテル(CF2=CFOCH2CF2CF3
BuSH:n−ブチルメルカプタン(シェブロンフィリップス社製、純度99.5質量%)
DMABMP:ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬社製、商品名:V−601)
AIBN:2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(和光純薬社製、商品名:V−60)
ABCHMP:1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−メチルプロピオネート)(和光純薬社製、商品名:VE073)
ABTMP:2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)(和光純薬社製、商品名:VR−110)
TMBPEH:1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(日本油脂社製、商品名:パーオクタO)
TDPTMH:t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート(日本油脂社製、商品名:パーブチル355)
DTBPO:ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂社製、商品名:パーブチルD)
【0191】
【表1−1】

【0192】
【表1−2】

【0193】
【表2−1】

【0194】
【表2−2】

【0195】
【表3−1】

【0196】
【表3−2】

【0197】
【表4−1】

【0198】
【表4−2】

【0199】
【表5−1】

【0200】
【表5−2】

【0201】
【表6−1】

【0202】
【表6−2】

【0203】
【表7−1】

【0204】
【表7−2】

【0205】
【表8−1】

【0206】
【表8−2】

【産業上の利用可能性】
【0207】
本発明によれば、耐熱性および透明性に優れるメチルメタクリレート系共重合体、及びこの共重合体を芯材とする、耐熱性および伝送性能に優れるプラスチック光ファイバを得ることができる。本発明により得られる共重合体は、自動車内通信配線のような情報伝達用のみならず、屈折率分布型レンズや光導波路、光デバイス等のオプトエレクトロニクス分野において、耐熱性に加え、透明性や、光散乱損失が少ないことを要求される各種光学部品用として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0208】
【図1】ラクトン化合物(βMMBL)とメタクリル酸メチル(MMA)の共重合における反応性比を示したグラフである。
【図2】ラクトン化合物(βEMBL)とメタクリル酸メチル(MMA)の共重合における反応性比を示したグラフである。
【図3】ラクトン化合物(βPMBL)とメタクリル酸メチル(MMA)の共重合における反応性比を示したグラフである。
【図4】ラクトン化合物(βMMBL)とメタクリル酸メチル(MMA)の配合比と総括反応速度定数KPの関係の温度依存性を示したグラフである。
【図5】ラクトン化合物(βEMBL)とメタクリル酸メチル(MMA)の配合比と総括反応速度定数KPの関係の温度依存性を示したグラフである。
【図6】ラクトン化合物(βPMBL)とメタクリル酸メチル(MMA)の配合比と総括反応速度定数KPの関係の温度依存性を示したグラフである。
【図7】平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す図である。
【図8】開始剤が(DMABMP)の場合(実施例1〜10、比較例1〜11)の平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す図である。
【図9】開始剤が(ABTMP)の場合(実施例11〜20、比較例12〜22)の平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す図である。
【図10】開始剤が(ABCHMP)の場合(実施例21〜30、比較例23〜33)の平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す図である。
【図11】開始剤が(TMBPEH)の場合(実施例31〜40、比較例34〜44)の平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す図である。
【図12】開始剤が(TDPTMH)の場合(実施例41〜50、比較例45〜55)の平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す図である。
【図13】開始剤が(DTBPO)の場合(実施例51〜54、比較例56〜63)の平均滞留時間θと開始剤の半減期時間τの比(θ/τ)と、開始剤濃度(C)との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、R1はメチル基、エチル基またはプロピル基を示し、R2、R3は独立して水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、無置換もしくは炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基、または無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基を示し、R2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、該5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。さらに、式中のR2、R3のアルキル基鎖中の炭素原子は、S、N、P、Oから選ばれるヘテロ原子で置換されていてもよい。)。
で示されるラクトン化合物(A)と、メタクリル酸メチル(B)と、アゾ系化合物及びパーオキサイド系化合物から選ばれる少なくとも1種類のラジカル重合開始剤と、連鎖移動剤とを、反応槽に連続的に供給して塊状重合法にて重合を行う重合工程と、反応槽から反応混合物を連続的に取り出して揮発物除去工程に供給する工程と、反応混合物から揮発物を連続的に分離除去する揮発物除去工程を有するメチルメタクリレート系共重合体の製造方法であって、
前記ラクトン化合物(A)と前記メタクリル酸メチル(B)との配合比(A/B)が、5/95〜50/50(質量比)の範囲にあり、
前記ラクトン化合物(A)は、一般式(2):
【化2】

(式(2)中、R1、R2、R3は式(1)に同じ)
で示される(S)体および一般式(3):
【化3】

(式(3)中、R1、R2、R3は式(1)に同じ)
で示される(R)体を質量比で70/30〜30/70の範囲で含み、
重合温度が110〜185℃の範囲において、反応槽中における平均滞留時間θ(時間)とラジカル重合開始剤の重合温度における半減期時間τ(時間)の比(θ/τ)と、ラジカル重合開始剤濃度C(ラジカル重合開始剤量(mol)/単量体量(mol))とが、下記式(1)及び式(2)で示す関係を満たし、
70≦(θ/τ)≦1300 (1)
3.07×10-8×(θ/τ)0.93≦C≦2.31×10-7×(θ/τ)0.93 (2)
重合反応域における反応混合物の重合体含有率が30〜60質量%である、メチルメタクリレート系共重合体の製造方法。
【請求項2】
ラクトン化合物(A)が、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトンから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のメチルメタクリレート系共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記ラジカル重合開始剤が、10時間半減期温度が60〜120℃であるアゾ系化合物又は有機過酸化物であり、前記重合工程における重合温度が120〜160℃である、請求項1又は2に記載のメチルメタクリレート系共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記ラジカル重合開始剤が、10時間半減期温度が60〜120℃であり、分子構造中にニトリル基(−CN)を含まないアゾ系化合物であり、前記重合工程における重合温度が120〜160℃である、請求項1又は2に記載のメチルメタクリレート系共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記連鎖移動剤が、炭素数3〜6個のアルキルメルカプタンである請求項1から4のいずれかに記載のメチルメタクリレート系共重合体の製造方法。
【請求項6】
芯−鞘構造を有するプラスチック光ファイバの製造方法であって、
請求項1〜4のいずれかの製造方法によりメチルメタクリレート系共重合体を製造する工程と、複合紡糸ノズルに、前記メチルメタクリレート系共重合体を芯材として供給し、屈折率が異なる他の重合体を鞘材として供給して複合紡糸する工程を有するプラスチック光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−291138(P2008−291138A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139068(P2007−139068)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】