説明

メッシュを補強するための要素

本発明は、円形のメッシュのための補強要素(200)に関する。前記補強要素は、休止姿勢であるときに、錐体構造(202)を形成し、前記補強要素が軸応力下に置かれるときに拡がり得る複数のフィンガーを備え、各フィンガーは、頂点セグメント(201a)と周辺セグメント(201b)とを有し、前記錐体構造の頂点部(202a)と周辺部(202b)とを規定し、前記補強要素は、少なくとも前記補強要素が軸応力下にあるときに、各フィンガーについて、前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとを非直線化する手段(201c,205;402;502)を有し、前記非直線化する手段は、軸応力下の前記姿勢において、まず前記錐体構造の前記周辺部がほぼ平面の形状をとり、前記ほぼ平らな表面にくっつくこと、次に前記構造の前記頂点部がほぼ錐体形状を保つことを可能にする。本発明は、メッシュ(1)と結合されるそのような補強要素(200)を備える人工物(300)にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、例えばヘルニアをふさぐことが意図された、メッシュを補強するための補強要素(reinforcing element)、及びそのような補強要素とメッシュとを有する人工物(prosthesis)である。
【背景技術】
【0002】
ヒトにおいては、腹壁は、脂肪と、筋膜で結合された筋肉とから構成される。筋膜の連続において破れが生じ、腹膜の部分が滑り込んで脂肪又は腸の部分を含んだ嚢、すなわちヘルニアを形成することがある。ヘルニア又は切開創ヘルニア(体壁の外科的な傷に生じるヘルニア)は膨隆の形で現れ、位置する場所に応じて臍ヘルニア、鼠径ヘルニア、又は切開創ヘルニアと呼ばれる。
【0003】
ヘルニアを治療するために、外科医は、弱くなった組織を置き換え又は強化する合成メッシュで作られた人工物を配置することがよくある。
【0004】
しかし、このような人工物は、いったん埋め込まれると、それを外に向かって押し出す傾向がある腹圧にさらされる。このような圧力は、人工物を裏返らせ得るし、ヘルニアの再発の危険につながり得る。
【0005】
このように、人工物の効果、したがって再発の危険を最小にする可能性は、この人工物を良好に固定することに大いに依存する。特に、固定される前に、人工物は、補強しようとしている腹壁に適切に拡げられる必要がある。具体的には、メッシュタイプの人工物、言い換えると織物を形成する繊維の配列に基づいた人工物は、一般的に可撓性がある。ヘルニア門へ導くために、人工物は体積を小さくするために折りたたまれていることが多い。したがって、移植場所に導かれるときに、人工物は腹壁にしわを形成しがちである。人工物を拡げることは、この点に関して非常に重要であるが、特に、鼠径ヘルニアよりサイズが小さく、外科医が人工物を操作するための作業スペースが非常に小さい臍ヘルニアを治療するときには、困難であることがわかるかも知れない。
【0006】
例えば、臍ヘルニアの場合、トロカール挿入口の修復を試みるとき、又は予防策としての場合、治療される疾患のサイズが小さく例えば直径1〜3cmであり、開腹手術が考えられる。しかし、このタイプの手術においては、外科医は非常に小さな作業スペースしか持てず、視界も非常に狭い。したがって外科医は、好ましくは配置、展開、固定がしやすい人工物を利用可能にする必要があり、人工物の外縁を縫合する必要を可能であれば避ける。これは、このような作業条件においては複雑で困難な手術である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
具体的な問題は、人工物が腹壁に対して完全に展開しない場合には、潜在的に、癒着、痛み、及び腸閉塞の危険につながり、疾患の再発の可能性を増加させながら、腹膜嚢を引っかける危険、及び柔らかい器官が人工物と腹壁との間に挟まれる危険があるということである。したがって、外科医は、人工物のどの部分も折りたたまれていないこと、及び内臓及び腸の部分のどれもが人工物と腹壁との間に挟まれていないことを確かめることが不可欠である。更には、縫合の位置が正しくなかったり、人工物の固定がうまくないと、この人工物をゆがめ、歪力を生じさせる危険がある。
【0008】
したがって、特に人工物を導入する開口部のサイズが小さい臍ヘルニアの場合には、開口部を通って腹腔内により容易に導入され得るように、応力を受けながら、小さな体積しか占めないようにできる人工物を利用可能にすることは有益であろうし、これは、外科医の側に特に人工物を扱うことを要求することなく自動的に、配置され、展開され、腹壁に対して容易に平らになり得る。
【0009】
折りたたまれて配置され得る種々の人工物が既に存在する。
【0010】
例えば、文献WO−A−00/07520は、2重の輪によって補強され、スポークを備える柔軟性があるメッシュで構成された人工物を開示している。大きい方の輪の周囲を滑らかに動くフィラメントによって、人工物は鼠径の開口部に導入されるような円錐台の形状になる。しかし、人工物を拡げて腹壁に対して平らにすることは、いったん人工物が移植場所に導入されると、外科医にとってはかなりの介入となるし、いささか不満足なことである。更に、いったん人工物が植え込まれ、これを外に押し出す傾向がある腹圧にさらされると、これが裏返る危険を回避する手段がない。
【0011】
文献FR2810536には、メッシュのロールに取り付けられたほぼ円形のメッシュに基づく人工物によって、移植場所で導入されているような円筒形を人工物に採用することが可能になるということが記載されている。しかし、この人工物を拡げることについては少々はっきりしないところがある。更に、このような人工物は、いったん移植され、これを外に押し出す傾向がある腹圧にさらされると、裏返る危険を有し得る。
【0012】
文献FR2769825には、放射状の補強要素を有する、全体的に円形のメッシュタイプの人工物が記載されている。しかし、このような人工物は、あまり硬くならず、これを外に押し出す傾向がある腹圧にさらされると、裏返る危険があり得る。
【0013】
文献EP0544485には、放射状の補強要素を有する、全体的に円形のメッシュタイプの人工物が記載されている。しかし、いったん人工物が植え込まれ、これを外に押し出す傾向がある腹圧にさらされると、これが裏返る危険を回避する手段がない。
【0014】
本発明は、人工物を形成するためにメッシュと結合されることが意図された補強要素に関し、これは、一方では、前記人工物によって占められる体積を減少させ、小さなサイズの切開を通して人工物を容易に導入することを可能にし、他方では、人工物が、いったん移植され、これを外に押し出す傾向がある腹圧にさらされ場合に、裏返る危険を回避しながら、前記人工物を拡げ、固定することを促進することを可能にする
本発明は、また、特に腹壁におけるヘルニアの治療のための、そのような補強要素とメッシュとを有する人工物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の局面は、メッシュと結合されることが意図された移植可能な補強要素に関し、1点から伸び、前記補強要素が休止形状であるときに、ほぼ錐体構造を形成する、複数のフィンガーを備え、前記錐体構造において、前記1点は頂点であり、前記フィンガーの自由端の集合体は前記錐体構造の基部を形成し、前記フィンガーは、前記補強要素が軸応力下に置かれるときに前記錐体構造が拡がるように、前記頂点に自由に取り付けられ、前記錐体構造の前記基部はほぼ平らな表面に接触させられ、圧縮力が前記補強要素に前記錐体構造の頂点から前記基部に向かって加えられ、各フィンガーは、頂点セグメントと周辺セグメントとを有し、前記フィンガーの前記頂点セグメントの集合体は前記錐体構造の頂点部を規定し、前記フィンガーの前記周辺セグメントの集合体は前記錐体構造の周辺部を規定し、前記補強要素は、少なくとも前記補強要素が軸応力下にある姿勢において、各フィンガーについて、前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとを非直線化する手段を有し、前記非直線化する手段は、軸応力下の姿勢において、まず前記錐体構造の前記周辺部がほぼ平面の形状をとり、前記ほぼ平らな表面にくっつくこと、次に前記構造の前記頂点部がほぼ錐体形状を保つことを可能にする補強要素に関する。
【0016】
本願の意味において「錐体構造(conical structure)」又は「ほぼ錐体構造(substantially conical structure)」によって意味されるものは、全体的に錐体の形状を有する構造であり、錐体は、回転対称を呈し得るし、角錐形(pyramid-shaped)であり得るし、又は他のいかなる錐体の形状でもあり得る。例えば、すり鉢山状の形(shape of sugarloaf)の構造も、本発明の意味においてほぼ錐体構造に含まれる。
【0017】
本願の意味において「移植可能な補強要素(implantable reinforcing element)」によって意味されるものは、生体適合性のある材料で作られ、人体に導入され移植され得る補強要素である。
【0018】
その構造により、本発明による補強要素は、ある特定の応力の効果の下で変形し、これらの応力が緩和されるとその休止形状に復帰することができるような、ある程度の弾性を有する。
【0019】
以下の説明から明らかになるように、本発明による補強要素は、特にヘルニアの治療用の人工物の製造に用いられ得るメッシュを堅くすることができ、例えば腹圧のような応力の効果の下で、メッシュが人工物のいかなる反転をも防ぐように、このメッシュを形作るために使われ得る。具体的には、本発明による補強要素は、人工物の反転を防ぎながら、人工物が腹壁に対して強く押し付けられ続けるようにすることができる。人工物が移植されると、腹圧が、自然に、したがって自動的に、補強要素を上述のような軸応力下に置き、前記ほぼ平面の表面は腹壁である。
【0020】
本発明のある実施形態において、前記非直線化する手段の少なくとも一部は、前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとの間の接合部に位置する。よって頂点セグメント及び周辺セグメントの非直線化は、上述の軸応力下にある位置で行われ、これは、補強要素が、人工物のメッシュが補強する人工物内に埋め込まれるときの腹圧に対応する。
【0021】
本発明のある実施形態において、半径方向の求心応力下でほぼ円筒形状をとることが可能であり、その形状において圧力が前記周辺セグメントに半径方向の中心に向かう方向に加えられる。よって、補強要素と関連付けられた人工物によって占有される体積を低減することができ、特にこの人工物をヘルニア切開を通じて導入するときにはそうである。
【0022】
本発明のある実施形態において、各周辺セグメントは、前記フィンガーの前記自由端に向かって幅が広くなる形状を有する。このような実施形態によれば、いったん補強要素がメッシュに取り付けられると、メッシュが適切に拡げられる。
【0023】
例えば、周辺セグメントの少なくとも1つには穴があいている。本発明のある実施形態において、前記周辺セグメントの全てには穴があいている。このような実施形態によれば、患者体内に導入される異物の量を最小限にしつつ、同時に、いったんメッシュが補強要素に取り付けられたら、メッシュが適切に拡がった状態を維持することができる。
【0024】
本発明のある実施形態において、各フィンガーについて、前記頂点セグメント及び前記周辺セグメントは、連結され、単一の弾性のあるタブから構成される。このような実施形態によれば、射出成形を用いて単一のものとして得られる補強要素を簡単に製造することが可能になる。
【0025】
前記弾性のあるタブには、前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとの間の接合部に穴があり、繋ぎ材が、前記穴を通ることによって各フィンガーを隣接するフィンガーに繋ぎ、前記繋ぎ材は、前記補強要素が前記休止姿勢であるときには張力がなく、前記補強要素が軸応力下にある姿勢においては張力が与えられている。
【0026】
他の実施形態において、複数の柔軟性のある材料のブリッジを更に備え、各材料のブリッジは、前記フィンガーの頂点セグメントと周辺セグメントとの間の各接合部においてフィンガーを隣接するフィンガーに接続し、前記材料のブリッジは、前記補強要素が休止姿勢であるときには張力がなく、前記補強要素が軸応力下の姿勢であるときには張力が与えられている。
【0027】
以下の記載から明らかになるように、補強要素が軸応力下にあるとき、張力が加えられた繋ぎ材又は材料のブリッジは、フィンガーまたは弾力性のあるタブが錐体構造の頂点部から分離しないようにし、錐体構造が圧縮されないようにすることでその錐体の形を維持し、よって補強要素が反転し、結果として人工物が反転するリスクを避けることができる。
【0028】
代替として、前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとは、前記補強要素が前記休止姿勢にあるときには、わずかに一直線からずれている。
【0029】
例えば、そのような実施形態においては、前記頂点セグメントは、前記錐体構造の前記頂点部の錐体のすり鉢山状の形(sugarloaf shape)を規定し、前記周辺セグメントは、軸対称の錐台を規定する。よって、軸応力下では、すり鉢山の頂点に加えられた応力によって、周辺セグメントは、可撓性のあるタブの弾性のために撓む。しかし、頂点セグメントは、それらのわずかに丸い形状のために、頂点部をすり鉢山状にし、実質的に最初の位置に留まるようにする。したがって錐体構造の頂点部は圧縮されない。
【0030】
本発明のある実施形態において、前記非直線化する手段は、各フィンガーの前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとの間の接合部において、前記錐体構造の内部表面に、材料の欠乏部を有する。よって軸応力下で圧力が補強要素の錐体構造の頂点に加えられるときは、それぞれのフィンガーは、材料の欠陥によって弱くなった部分において曲がり、周辺セグメントに対して頂点セグメントをずらす。
【0031】
本発明のある実施形態において、望ましくない手術後の重度の線維性癒着を特に避けるために、非付着性フィルムが前記補強要素の前記錐体構造の外部表面に取り付けられている。
【0032】
本願の意味において、「非付着性」とは滑らかで、細胞が再生する空間を提供しない、非多孔性の生体適合性のある材料またはコーティングである。
【0033】
本発明のある実施形態において、中心糸が前記錐体構造の頂点に取り付けられている。代替として、いくつかの中心糸が補強要素に固定されてもよい。他の実施形態においては、中心糸または中心糸群の代わりに布のテープを用いてもよい。この、またはこれらの中心糸(群)またはテープ(群)は、例えば、本発明による補強要素を備えた人工物を処置されている疾患の中央に位置付け、疾患の端部において閉じることによって端部を縫うことが容易になるよう、外科医によって使用されるものであってもよい。
【0034】
また本発明は、移植可能なメッシュを備え、上述の補強要素が前記メッシュに取り付けられており、前記錐体構造の頂点が前記メッシュの中心に位置し、前記メッシュが前記錐体構造の表面にほぼくっついていることを特徴とする人工物にも関する。
【0035】
本願の意味において「メッシュ(mesh)」によって意味されるものは、編物のような生体適合性のある繊維の配列であって、織られていても、織られていなくてもよく、好ましくはオープンセル(open-cell)(穴あき)構造の配列であり、すなわち、組織の再生を促す細孔を有するものである。そのようなメッシュは、生体吸収性があってもよく、永久的又は部分的に生体吸収性があってもよい。メッシュは、概して十分に柔軟性があり、腹腔への導入時に、自分自身の上に折り曲がることができる。メッシュは、織物の1つの又はいくつかの層から製造される。このようなメッシュは、当業者にはよく知られている。本発明による補強要素とともに用いられ得るメッシュは、長方形、正方形、円形、楕円形等、どのような形であってもよく、ヘルニア疾患の形に合うように切断され得る。例えば、メッシュは全体が円形又は楕円形であってもよく、そのような例では、本発明による補強要素は、好ましくは軸対称の錐体又は他の任意の錐体の形の構造を有し得る。代替として、メッシュは全体が正方形又は長方形の形状であってもよく、その場合には、本発明による補強要素は、好ましくは角錐形の構造を有する。
【0036】
本発明のある実施形態において、前記メッシュの縁が前記補強要素の前記フィンガーの自由端に隣接する。以下の記載から明らかになるように、このような実施形態によれば、人工物は適切に拡げられ、腹壁に対してより強く押し付けられることが可能になる。このような実施形態によれば、内臓が人工物と腹壁との間に挟まれるリスクを避けることができる。
【0037】
本発明のある実施形態において、人工物はその外部表面が非付着性コーティングで覆われている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
本発明は、以下の説明及び添付の図面から、より明確に明らかになるであろう。
【図1】図1は、腹部ヘルニア又は切開創ヘルニアの中心断面図である。
【図2】図2は、外科医が腹部に切開を形成した、図1のヘルニアの簡単化された図である。
【図3】図3は、休止姿勢にある、本発明による補強要素の第1実施形態の透視図である。
【図4】図4は、図3の補強要素を通る断面図である。
【図5】図5は、図3の補強要素とともに用いられ得るメッシュの上からの図である。
【図6】図6は、軸応力下にある、図3及び4の補強要素を通る断面図である。
【図7】図7は、軸応力下にある、図3及び4の補強要素の上からの図である。
【図8】図8は、半径方向の求心応力下にある、図3及び4の補強要素の側面図である。
【図9】図9は、本発明による人工物の一実施形態の透視図である。
【図10a】図10aは、本発明による人工物の実施形態を通る断面図である。
【図10b】図10bは、本発明による人工物の実施形態を通る断面図である。
【図11a】図11aは、人工物が非付着性コーティングで覆われている、図10aの実施形態を通る断面図である。
【図11b】図11bは、人工物が非付着性コーティングで覆われている、図10bの実施形態を通る断面図である。
【図12】図12は、本発明による補強要素の他の実施形態を通る断面図である。
【図13】図13は、ヘルニアを治療するための本発明のよる人工物の取り付けのステップを図示する。
【図14】図14は、ヘルニアを治療するための本発明のよる人工物の取り付けのステップを図示する。
【図15】図15は、ヘルニアを治療するための本発明のよる人工物の取り付けのステップを図示する。
【図16】図16は、本発明による人工物の他の実施形態の透視図である。
【図17a】図17aは、本発明による補強要素の他の実施形態の休止姿勢における断面図である。
【図17b】図17bは、本発明による補強要素の他の実施形態の軸応力下における断面図である。
【図18a】図18aは、本発明による補強要素の他の実施形態の休止姿勢における断面図である。
【図18b】図18bは、本発明による補強要素の他の実施形態の軸応力下における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、腹直筋103を囲む筋膜102の連続における破れ、及びヘルニア嚢105である嚢を形成する腹膜104の突出部によって特徴付けられる、腹壁101におけるヘルニア100を示す。ヘルニア嚢105は、脂肪(大網)、又は内臓106の一部を含み、その結果、脂肪組織107を圧し、皮膚108と接触している。ヘルニア100の手術は、腹腔109内で内臓106の位置を動かし、それらを保持することを含む。
【0040】
図2は、ヘルニア嚢105を縮小するために外科医が皮膚108,腹壁101,及び腹膜104を切開した、図1のヘルニア100を示す。内臓は、腹腔109に押し戻されているので、図2には示されていない。外科医は、その目的が腹壁を強くすることである人工物を、例えば縫合糸を用いて切開110を閉じる前に、形成した切開を経由して腹腔109に導入する。臍ヘルニアの場合には、切開110のサイズは特に小さく、例えば直径1〜3cmのオーダーである。
【0041】
図3及び4は、図5に示されているような円形の移植可能なメッシュ1に連結されることが意図されている、本発明による補強要素200の第1実施形態を、それぞれ透視図及び断面図で示す。
【0042】
メッシュ1は、編物のような生体適合性のある繊維の配列であって、織られていても、織られていなくてもよい。これは、生体吸収性があってもよく、永久的又は部分的に生体吸収性があってもよい。一般に、メッシュはオープンセル構造であり、組織とよく一体化するように細孔を有している。このメッシュ1は、概して十分に柔軟性があり、切開110を経由する腹腔109への導入時に、自分自身の上に折り曲がることができる。メッシュ1は、織物の1つの又はいくつかの層からなる。織物は、2次元又は3次元の編物であってもよい。このようなメッシュは、当業者にはよく知られており、ここではより詳細な説明はしない。メッシュは、治療される疾患の大きさに合わせて切断された帯状の形であってもよい。図示された例においては、メッシュ1は円形であり、ヘルニア疾患100のための切開110の形に合わせて作られている。他の実施形態では、メッシュの形は楕円形であり得る。代替として、メッシュは長方形又は正方形であってもよく、その場合には、補強要素の錐体構造は角錐の形であってもよい。
【0043】
補強要素200は、応力が全く与えられていない休止姿勢で、図3及び4に図示されている。補強要素200は、複数のフィンガー201を有し、図示された例では、6個のフィンガー201が、等間隔に配置され、1つの点から伸びてほぼ錐体の構造202を形成し、その点は頂点203である。他の実施形態では、補強要素は、異なる数のフィンガー、例えば3〜12個のフィンガーを有していてもよい。例えば、角錐体の形の錐体構造の場合には、補強要素は4個のフィンガーを有していてもよく、各フィンガーは角錐の1つの角に位置する。
【0044】
図3及び4を参照して、各フィンガー201は自由端204を有し、その反対側の端は頂点203に取り付けられている。6個のフィンガー201の自由端204の集合体は、錐体構造202の基部を形成する。図示された例では、6個のフィンガー201はほぼ同じ長さであり、錐体構造202の基部はほぼ平面に含まれる。
【0045】
他の実施形態では、補強要素のフィンガーによって形成される構造は、非平面の基部を有する錐体であってもよい。同様に、形成される錐体は、軸対称の、角錐体又はいかなる他の錐体であってもよい。代替として、図18a及び18bから明らかになるであろうが、錐体構造は部分的にすり鉢山状の形(sugarloaf-shaped)であってもよい。
【0046】
図6及び7から明らかになるであろうが、補強要素200が、軸応力として知られ、後に説明される、ある応力下に置かれるときに、前記錐体構造202が開くように、フィンガー201は頂点203に自由に取り付けられている。
【0047】
図3を参照して、各フィンガー201は、図示された例において、細長いオーバーオールの形を有しており、互いに接続され、ほぼ一直線に並べられた2つの部分又はセグメントで形成されている。これらは、頂点203から始まり、図示された例ではフィンガー201の長さ全体の約3分の1まで伸びている頂点セグメント201aと、フィンガー201の長さの残り3分の2にわたって、フィンガー201の自由端204まで伸びている周辺セグメント201bである。
【0048】
前記フィンガー201の頂点セグメントの集合体は、錐体構造202の頂点部を規定し、前記フィンガー201の周辺セグメントの集合体は、錐体構造202の周辺部を規定する。補強要素200が休止姿勢にある図3及び4からわかるように、錐体構造202の頂点部及び周辺部は、ほぼ一直線に並んでおり、ほぼ軸対称の錐体を形成する。
【0049】
図示された例において、各フィンガー201について、頂点セグメント201aは堅牢な棒を構成し、周辺セグメント201bは図示された例においては穴のあいた掌革(palm)のようにフィンガー201の自由端に向かって幅が広くなる形状を有する。このため、フィンガー201の自由端204の輪郭は、錐体構造202の基部の周囲のかなり大きな部分の上に存在し、同時に、必要な材料の量が最小になる。本明細書において後に明らかになるように、周辺セグメントの形状によって、補強要素200によって補強されることが意図されているメッシュの最適な配置及び最適な加圧を実現することが可能になり、同時に、患者内に存在する異物の量が最小になる。
【0050】
図示された例においては、各フィンガー201について、頂点セグメント201a及び周辺セグメント201bは、連結され、単一の弾性のあるタブ(tab)から構成される。
【0051】
補強要素200は、どのような生体適合性のある材料で作られていてもよく、この材料は生体吸収性であってもよいし、そうでなくてもよい。好適な実施形態においては、補強要素は生体吸収性の材料で作られている。この出願において、「生体吸収性」は、材料が、生体組織によって吸収され、その材料の化学的性質に応じて例えば1日から数か月まで変わり得る所定の時間の後に生体内で消滅するような特性を意味する。
【0052】
そこで、本発明による補強要素の製造に適した生体吸収性材料として、ポリ乳酸(PLA:polylactic acid)、ポリカプロラクトン(PCL:polycaprolactone)、ポリジオキサン(PDO:polydioxanones)、トリメチレン・カーボネート(TMC:trimethylene carbonate)、ポリビニル・アルコール(PVA:polyvinyl alcohol)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA:polyhydroxyalkanoate)、酸化セルロース(oxidized cellulose)、ポリグリコール酸(PGA:polyglycol acid)、これらの材料の共重合体、及びこれらの混合物の名を挙げることができる。
【0053】
本発明による補強要素の製造に適した非生体吸収性材料として、ポリプロピレン(polypropylene)、ポリエチレン・テレフタレート(polyethylene terephthalate)のようなポリエステル(polyester)、ポリアミド(polyamide)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:polyetheretherketone)、ポリアリルエーテルエーテルケトン(PAEK:polyaryletheretherketone)及びこれらの混合物の名を挙げることができる。
【0054】
本発明による補強要素は、例えば、1つ以上の生体適合性の熱可塑材を射出成形することによって、1つの部品として制作されてもよい。代替として、本発明による補強要素は、材料の薄板を切り取ることによって得てもよい。
【0055】
その構造が複数のフィンガーに基づいているので、錐体構造202は、穿孔されており、柔軟性がある。このため、以下で説明される特定の応力の効果の下で変形するようなある程度の弾性を、補強要素は有する。
【0056】
更に、頂点セグメント201aと周辺セグメント201bとの間の接合部において、開口201cが存在し、これを6個のフィンガー201の全てに共通の繋ぎ材(tie)が通っている。この繋ぎ材は、例えば、生体適合性のある材料で作られた、編まれた又はその他の繊維(filament)、又は代替としてひも(cord)であってもよい。繋ぎ材205は、各フィンガー201の開口201cを通り、柔軟性がある輪を形成する。補強要素200が図3に図示されているように休止姿勢にあるときに、この繋ぎ材205はフィンガー201間で応力なしの状態になり、各フィンガーの間でわずかにたるむ。
【0057】
錐体構造202は、軸応力として知られる応力の下で展開し得る。この軸応力につながるこの状況の例が、図6に図示されている。この図示されている状況において、前記錐体構造202の基部がほぼ平坦な表面111に接触させられ、圧縮力が前記補強要素200に前記錐体構造202の頂点203から前記基部に向かって加えられ、圧縮力は矢印Fによって示されている。この軸応力下で、各フィンガー201は、頂点203を通る錐体構造202の中心軸Aから離れる傾向にある。しかし、この応力の、及び生じたフィンガー201の半径方向の分離の効果によって、フィンガー201のそれぞれの間の繋ぎ材205が、ピンと張り、フィンガー201の頂点セグメントを半径方向にそれ以上離れないようにようにする。上述の圧縮力が加えられ続けると、各フィンガー201は伸ばされる。特に、頂点セグメント201と周辺セグメント201bとの間の接合部201cにおいて、フィンガーが弾性のあるタブから構成されているからである。フィンガー201の周辺セグメント201bは、図6に示されているように、拡がって、補強要素200が接触するようになった平坦な表面111に沿って動く。図6に明確に見られるように、上述の軸応力下では、錐体構造202の周辺部202bは、ほぼ平坦な形状となり、錐体構造の頂点部202aはほぼ錐体の形を保つ。頂点部202aは、圧縮され得ない。この図から明らかなように、各フィンガー201について、周辺セグメント201bは、もはや頂点セグメント201aとは一直線にはなっていない。同様に、錐体構造202の周辺部202bは、もはや錐体構造202の頂点部202aとは一直線にはなっていない。繋ぎ材205は、上述の軸応力の効果の下で、フィンガー201の頂点セグメントを周辺セグメントに関して一直線にさせない手段、及び、錐体構造202の頂点部と周辺部とを一直線にさせない手段として働いている。軸応力下にあるときの補強要素200を上から見た図である図7からも明らかなように、この姿勢において、各フィンガー201の間の繋ぎ材205は、緊張状態にある。
【0058】
以下の説明から明らかになるように、補強要素が移植されると、自然な腹圧が、補強要素に対して、以上で説明されたような軸応力を生成する状況の他の例となる。
【0059】
図8を参照して、補強要素200は、半径方向の求心応力として知られる応力の効果の下で、ほぼ円筒形の形状を取ってもよい。したがって、図8において矢印Pで示された圧力がフィンガー201の周辺セグメント201bに求心方向に加えられると、つまり、錐体構造202の頂点203を通る錐体構造202の中心軸Aに向かって、錐体構造202は閉じることができる、つまり、折りたたまれて、補強要素200が休止状態又は軸応力下にあるときの姿勢に比べて占める体積が小さいほぼ円筒形の形状になり得る。図8からわかるように、このような形状において、繋ぎ材205は非常に弛んでいて、各フィンガー間でループを形成する。開口201cの間の距離は、各開口201c間の繋ぎ材205の長さより遙かに短い。
【0060】
補強要素200は、図5に図示されたような移植可能なメッシュ1と結びつけられることが意図されている。そのために、メッシュ1は、図9に示されているように、錐体構造202の表面にくっつく(hug)ように、補強要素200に取り付けられる。メッシュ1は、どちらでもよいのだが、錐体構造202の外側表面202c、又は内側表面202dに取り付けられ得る。図10aは、メッシュ1が補強要素200の錐体構造202の外側表面202cに取り付けられる実施形態を示す。図10bは、メッシュ1が補強要素200の錐体構造202の内側表面202dに取り付けられる実施形態を示す。
【0061】
これにより、メッシュ1及び補強要素200を有する人工物300が生成される。錐体構造202の頂点203はメッシュ1の中心に位置し、メッシュ1は錐体構造202の内側表面202d又は外側表面202cにほぼくっついている。
【0062】
補強要素200は、メッシュ1に、メッシュ1と補強要素200を信頼性を持って付着させるどのような方法によって取り付けられてもよい。例えば、補強要素200はメッシュ1に、接着されてもよいし、例えば超音波溶着を用いて、溶着されてもよいし、熱接着されてもよいし、縫い付けられてもよい。補強要素200は、メッシュ1を作る繊維の配列に捕らわれるようにしてもよい。図9〜10bで説明された実施形態において、このようにして得られてた人工物300における繋ぎ材205は、柔軟性がある。
【0063】
図9に示されているように、フィンガー201の自由端がメッシュの縁に隣接するように、メッシュ1は補強要素の大きさに切り取られていることが好ましい。後に明らかになるように、メッシュ1の縁は、フィンガーの自由端を越えてあまり大きく突き出さないことが好ましい。
【0064】
望ましくない手術後の重度の線維性癒着を特に避けるために、人工物300は、その外側表面300cが非付着性(non-stick)コーティングで覆われていてもよい。特に、以下の図13〜15から明白になるように、人工物の外側表面300cは人工物300が移植されると、腹腔109に面することが意図されている。図11a及び11bは、非付着性コーティングが装備された図10a及び10bの人工物300をそれぞれ示す。
【0065】
非付着性材料又はコーティングは、生体吸収性材料、非生体吸収性材料、及びこれらの混合物から選ばれる。非生体吸収性の非付着性材料は、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)、ポリシロキサン(polysiloxane)、ポリウレタン(polyurethane)、ステンレス鋼、貴金属の派生物、及びこれらの混合物から選択されてもよい。
【0066】
好ましくは、前記非付着性材料又はコーティングは、生体吸収性である。前記非付着性コーティングに適した生体吸収性材料は、コラーゲン、酸化セルロース、ポリアクリレート(polyacrylate)、トリメチレンカーボネート(trimethylene carbonate)、カプロラクトン(caprolactone)、ジオキサノン(dioxanone)、グリコール酸(glycolic acid)、乳酸(lactic acid)、グリコライド(glycolide)、ラクチド(lactide)、多糖(polysaccharide)、キトサン(chitosan)、ポリグルクロニック酸(polyglucuronic acid)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、デキストラン(dextran)、及びこれらの混合物から選択されてもよい。
【0067】
非付着性コーティングは、少なくとも治癒の初期段階の間、人工物300のメッシュ1を保護する。すなわち、非付着性コーティングは、顆粒球(granulocyte)、単核白血球(monocyte)、マクロファージ(macrophage)、及び、更に一般に手術行為によって活性化される複数核を有する巨大細胞のような炎症細胞(inflammatory cell)にさらされることからメッシュ1を保護する。特に、少なくとも治癒の初期段階の間、その長さは約5〜10日間であり得るが、非付着性コーティングのみが、織物の第1の部分において、タンパク質、酵素、サイトカイン(cytokine)、又は炎症線(inflammatory line)における細胞のようなさまざまな因子に接し得る。
【0068】
非付着性コーティングが非生体吸収性材料から作られている場合には、移植の前後において、人工物300の移植耐用期間の間、コーティングがメッシュ1を保護する。
【0069】
更に、非付着性コーティングのおかげで、例えば空洞の内臓のような壊れやすい周辺組織が、特に望ましくない手術後の重度の線維性癒着の形成から保護される。
【0070】
非付着性材料が生体吸収性材料を含むときには、2、3日間吸収されない生体吸収性材料を選択することが望ましく、その結果非付着性コーティングが、手術後2、3日間、腸及び空洞の器官を保護する機能を発揮することができ、更には人工物の細胞再建が壊れやすい器官を保護できるようになるまでそのようにする。
【0071】
好ましくは、WO99/06080に記載されているように、非付着性材料の溶液をかけて次にゲル化させることにより、非付着性コーティングは人工物300の外側表面300cに塗布され得る。
【0072】
本発明の一実施形態においては、非付着性コーティングは、図12に図示されているように、メッシュ1が補強要素200に取り付けられる前に補強要素200に結合される、当初は独立したフィルム302の形である。そのような実施形態において、フィルム302は、補強要素200の錐体構造202の外側表面202cに取り付けられる。フィルム302は、例えば、押し出し成形によって得られてもよい。補強要素200は、例えば接着、熱溶着、又は代替として超音波溶着によって前記フィルム302に取り付けられてもよい。代替として、補強要素200には、サポートに注がれた非付着性材料の溶液が塗布され、補強要素は溶液ゲルとしての前記フィルムに閉じ込められる。
【0073】
上述の全ての実施形態において、メッシュ1及び非付着性コーティング301,302は、後者が独立したフィルムの形であってもそうでなくでも、後者が休止形状から軸応力下の図6の形状、又は半径方向の求心応力下の図8の形状に切り替わるときに、補強要素200の錐体構造202の連続する変形に追従するように十分に柔軟性がある。繋ぎ材205は、補強要素200が休止姿勢にあるときの柔軟な形状から補強要素200が軸応力下にあるときのピンと張った形状に切り替わる能力を維持するという条件で、メッシュ1及び/又は非付着性コーティング301,302に潜在的に閉じ込められてもよい。
【0074】
更に、メッシュ1及び非付着性コーティングは、もし存在すれば、錐体構造202の形を完全に支持する。すなわち、補強要素200及びその錐体構造202がメッシュ1を補強し、これらは人工物300のフレーム構造としての働きをし、メッシュ1はさまざまなフィンガー201を接続する。非付着性コーティングは、メッシュ1の縁を越えてわずかに突き出てもよい。
【0075】
人工物300は、非付着性コーティング301,302で覆われていてもいなくても、休止状態では補強要素200の形状に類似した錐体形状を有し、前記補強要素200に加えられる軸応力の効果の下では部分的に平面又は錐体の形状をとり、補強要素200のフィンガー201の周辺セグメントに与えられる半径方向の求心応力の効果の下では円筒形の形状をとることも可能である。
【0076】
補強要素200が軸応力下の形状にあるときには、メッシュ1の頂点部は錐体形状を保ち、メッシュ1の周辺部は、錐体構造202を構成し平面形状をとるフィンガー201の周辺セグメント201bの拡がりに追従する。
【0077】
例として、図11aの人工物300が装着されるようすを説明する。言うまでもなく、以下で説明される装着方法は、図10a,10b又は11bの人工物、及び/又は図16〜18bで説明されるような本発明の補強要素によって補強されるメッシュを有する人工物に、同様に適用され得る
人工物300は、図11aに図示されているような休止形状で外科医に供給される。人工物には、補強要素200の錐体構造202の頂点203に取り付けられ、人工物300の内部に向かって伸びている中心糸303が既に装備されていてもよく、中心糸303の長さは円筒形状における人工物300の長さを遙かに超えている。代替として、人工物300は、中心糸なしで供給されてもよく、その場合には人工物300を移植の場所に導入する前に、外科医がそのような糸を取り付ける。外科医は、いくつかの中心糸を使用してもよい。
【0078】
図2に示された切開110を行ってから、外科医は、人工物300が図13に示されているようなほぼ円筒形状になるように、指を使って、上述したように人工物300に半径方向の求心応力を加える。すると、人工物300は、特に限られた体積しか占めないようになり、切開110を通って容易に導入される。図13に示されているように、人工物300は、錐体構造202の頂点203を腹腔109に向けて、腹腔109に導入されるこの図においては、明瞭にするために、1つには円筒形状にある人工物300を保持する外科医の手が、もう1つには中心糸303の自由端が、図示されていない。
【0079】
人工物300が腹腔109に入ると、外科医は、加えていた半径方向の求心応力を緩める。弾性があるので、補強要素200、したがって人工物300は、図4及び11aに図示されているような休止形状に戻る。すると、図14に示されているように、人工物300は、非付着性コーティング301で覆われているその外側表面を腹腔109に向けて、腹腔109内に自動的に展開する。
【0080】
次のステップで、外科医は、切開110に関して人工物300を中心に置くことと、人工物300を腹壁(101,104)に対してしっかり押し付けることとの両方のために、中心糸303を用いる。これを行うために、外科医は、中心糸303をかなり引っ張る。このステップの間、外科医は、人工物300が反転する危険性を恐れる必要なく、中心糸303を引き得る。全くその反対に、図15に示された状況において、外科医が中心糸303に加える引力は、図6を参照して、補強要素200の錐体構造202の頂点203に加えられる圧力と同等である。外科医が中心糸303をより強く引いて張力を掛けるほど、補強要素200、したがって人工物300の錐体構造202の周辺部202bは、拡がってより強く腹壁(101,104)に押し付けられ、その形状を支持し、一方、補強要素200、したがって人工物300の錐体構造202の頂点部202aは、図15に示されているように錐体構造を維持し、補強要素200、したがってそれにしっかりと接続された人工物300のいかなる反転をも防止する。
【0081】
このステップの間、周辺セグメントが人工物300の補強要素200のフィンガー201の自由端204に向かって幅が広くなっているという事実により、人工物300が表面に最適に押し付けられ、柔らかい臓器が人工物300と腹壁(101,104)との間に挟まれないようにすることができる。フィンガー201の自由端204において周辺セグメント201bの輪郭によって占められる、メッシュ1の周辺部の割合が大きいほど、人工物300がより強く表面に押し付けられる。加えて、メッシュ1の縁が好ましくはフィンガー201を越えて突き出さないという事実により、人工物300に折り目ができることや、内蔵がメッシュ1と腹壁(101,104)との間に挟まれることを防ぐことが可能になる。更に、補強要素200のフィンガー201が比較的独立しているので、これらは基本的に錐体構造の頂点部で連結されているのだが、補強要素200に自由度を与え、各フィンガー201を腹壁(101,104)の潜在的な局所的な変形に、この変形が自然の変形又は患者の動きによって生じたものであっても、適合させることができ、同時に人工物300を腹壁(101,104)に強く押し付け続ける。
【0082】
外科医に残されたしなければならないことは、切開110を縫い合わせながら、中心糸303を腹壁(101,104)に縫合することである。図15からわかるように、人工物300は、完全に展開し、いかなる内蔵も人工物と腹壁(101,104)との間に挟まれる危険なく、拡がって腹壁(101,104)に強く押し付けられる。人工物300がこの移植姿勢にあるとき、人工物300の頂点部及び周辺部は、一直線になっていない。具体的には、自然な腹圧が図6に示された軸応力状況を作り出し、補強要素200が患者の体内に存在する間、補強要素200を軸応力下に保つ。補強要素200が生体吸収性のものである場合には、吸収時間は、補強要素200が消える前にメッシュ1がコロニーを再形成される機会を有するのに十分な長さに選ばれる。メッシュ1の定着にはこのように長期間が保証される。
【0083】
本発明による人工物は、特に装着が簡単である。この装着は、特に信頼性があり、内臓を挟むいかなる危険性も、人工物が反転するいかなる危険性も避けることができる。本発明による人工物は、本発明による補強要素を装備し、腹部の切開のサイズが小さい臍ヘルニアの治療に特に適している。特に、本発明による人工物は、本発明による補強要素を装備し、特別な補助工具を必要とすることなく、サイズの小さい切開を経由して腹腔に容易に挿入することが可能になる、特に占める体積が小さいほぼ円筒形状を採用することができる。その特別な構造のおかげで、本発明による人工物は、余計な工具を介在させることなく、腹腔内で自動的に展開する。更に、その特別な構造のおかげで、本発明による人工物は、拡がることを補助する特別な工具の介在を必要とすることなく、拡がって腹壁に効果的に強く押し付けられ得る。本発明による人工物は、したがって、再発の危険性を最小化しながら、ヘルニア、特に臍ヘルニアの効果的で簡単迅速な治療を可能にする
図16〜18bは、本発明による補強要素の他の実施形態を図示する。
【0084】
図16は、図1〜15に示された補強要素200の代替となる形の透視図である。同一の要素を示す参照符号をそのまま用いる。図16の補強要素200は、フィンガー201の周辺セグメント201bがフィンガー201の自由端で開いた三角形を形成し、繋ぎ材が柔軟性のある材料のブリッジ207で置き換えられ各材料のブリッジはフィンガー201を隣接するフィンガー201に接続している、という点で、図3のものとは異なる。材料のブリッジ207は、例えば、補強要素と同じ材料で形成され、補強要素の製造時にこれとともに成型されてもよい。材料のブリッジ207は、十分に柔軟性があるので、補強要素が休止姿勢であるときの柔軟性のある弛んだ形状から、補強要素200が軸応力下にある姿勢におけるピンと張られた形状まで変化し得る。図3の補強要素のように、図16の補強要素のフィンガー201は、柔軟性及び弾性があり、軸応力の作用の下で、材料のブリッジ207がピンと張られるようになると、変形することができる。その結果、周辺セグメント201bがもはや頂点セグメント201aとは一直線にはならず、この効果はフィンガー201で形成された錐体構造の周辺部が平らになり、平らな表面の形状をとることであり、これに対してその頂点部は錐体形状を維持する。
【0085】
言うまでもないが、上述の材料のブリッジ207は、図1〜15の補強要素200の実施形態に説明された繋ぎ材205を置き換え得る。同様に、図1〜15の補強要素の、穴が開いた掌革状の周辺セグメントは、図16を参照して説明された開いた三角形によって置き換えられ得る。
【0086】
図17a及び17bは、それぞれ休止状態及び軸応力下における、本発明による補強要素400の他の実施形態の概略図であり、非直線化する手段(misalignment means)が、各フィンガー401に、材料の欠乏部(deficiency of material)402によって形成され、頂点セグメント401aと周辺セグメント401bとの間の接合部において、錐体構造202の内部表面に作り出される。このような実施形態において、軸応力下で錐体構造の頂点203に加えられる圧力は、材料の欠乏部402があるので、周辺セグメント401bを図17bに示されているように曲げさせ、又は座屈させ、もはや頂点セグメント401aと一直線にはならないようにさせる。図17bに示されているように、錐体構造の周辺部202bは平面形状をとり、頂点部202aは錐体形状を維持する。
【0087】
図18a及び18bは、それぞれ休止状態及び軸応力下における、本発明による補強要素500の他の実施形態の概略図であり、これにおいて、非直線化する手段が、各フィンガー501に、エルボー(elbow)502によって形成され、頂点セグメント501aと周辺セグメント501bとの間の接合部に位置し、頂点セグメントはわずかに丸い形状を有して錐体構造の頂点部にすり鉢山状の形を与える。このような実施形態において、各フィンガー501について、頂点セグメント501a及び周辺セグメント501bは、補強要素500が休止姿勢であるときに、わずかに一直線にはなっておらず、周辺セグメントは直線状の輪郭を有する。このように、周辺セグメント501bは、軸対称の錐台を規定する。更に、この実施形態において、各フィンガーについて、前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとは連結され、単一の弾性のあるタブから構成されている。軸応力下で錐体構造の頂点203に加えられる圧力は、エルボー502が存在し、頂点セグメント501aが丸い形状をしているので、図18bに示されているように、頂点セグメント501aに関して周辺セグメント501bを曲げさせ、又は座屈させ、その結果、一方のセグメントは他方のセグメントとの一直線からより外れるようになる。図18に示されているように、錐体構造の周辺部202bは平面形状をとり、頂点部202aはほぼ錐体ですり鉢山状の形を維持する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッシュと結合されることが意図された移植可能な補強要素(200;400;500)であって、
1点から伸び、前記補強要素が休止形状であるときに、ほぼ錐体構造(202)を形成する、複数のフィンガー(201;401;501)を備え、
前記錐体構造において、前記1点は頂点(203)であり、前記フィンガー(201)の自由端の集合体は前記錐体構造の基部を形成し、
前記フィンガーは、前記補強要素が軸応力下に置かれるときに前記錐体構造が拡がるように、前記頂点に自由に取り付けられ、前記錐体構造の前記基部はほぼ平らな表面に接触させられ、圧縮力が前記補強要素に前記錐体構造の頂点から前記基部に向かって加えられ、
各フィンガーは、頂点セグメント(201a)と周辺セグメント(201b)とを有し、
前記フィンガーの前記頂点セグメントの集合体は前記錐体構造の頂点部(202a)を規定し、前記フィンガーの前記周辺セグメントの集合体は前記錐体構造の周辺部(202b)を規定し、
前記補強要素は、少なくとも前記補強要素が軸応力下にある姿勢において、各フィンガーについて、前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとを非直線化する手段(201c,205;402;502)を有し、
前記非直線化する手段は、軸応力下の前記姿勢において、まず前記錐体構造の前記周辺部がほぼ平面の形状をとり、前記ほぼ平らな表面にくっつくこと、次に前記構造の前記頂点部がほぼ錐体形状を保つことを可能にする
補強要素。
【請求項2】
前記非直線化する手段の少なくとも一部は、前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとの間の接合部に位置する
ことを特徴とする請求項1に記載の補強要素(200)。
【請求項3】
半径方向の求心応力下でほぼ円筒形状をとることが可能であり、その形状において圧力が前記周辺セグメントに半径方向の中心に向かう方向に加えられる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の補強要素(200)。
【請求項4】
各周辺セグメントは、前記フィンガーの前記自由端に向かって幅が広くなる形状を有する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の補強要素(200)。
【請求項5】
周辺セグメントの少なくとも1つには穴があいている
ことを特徴とする請求項4に記載の補強要素(200)。
【請求項6】
前記周辺セグメントの全てには穴があいている
ことを特徴とする請求項5に記載の補強要素(200)。
【請求項7】
各フィンガーについて、前記頂点セグメント及び前記周辺セグメントは、連結され、単一の弾性のあるタブから構成される
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の補強要素(200)。
【請求項8】
前記弾性のあるタブには、前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとの間の接合部に穴があり、繋ぎ材が、前記穴を通ることによって各フィンガーを隣接するフィンガーに繋ぎ、前記繋ぎ材は、前記補強要素が前記休止姿勢であるときには張力がなく、前記補強要素が軸応力下にある姿勢においては張力が与えられている
ことを特徴とする請求項7に記載の補強要素(200)。
【請求項9】
複数の柔軟性のある材料のブリッジ(207)を更に備え、各材料のブリッジ(207)は、前記フィンガー(201)の頂点セグメントと周辺セグメントとの間の各接合部においてフィンガー(201)を隣接するフィンガー(201)に接続し、前記材料のブリッジ(207)は、前記補強要素(207)が休止姿勢であるときには張力がなく、前記補強要素(200)が軸応力下の姿勢であるときには張力が与えられている
ことを特徴とする請求項7に記載の補強要素(200)。
【請求項10】
前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとは、前記補強要素が前記休止姿勢にあるときには、わずかに一直線からずれている
ことを特徴とする請求項7に記載の補強要素(200)。
【請求項11】
前記頂点セグメントは、前記錐体構造の前記頂点部の錐体のすり鉢山状の形(sugarloaf shape)を規定し、前記周辺セグメントは、軸対称の錐台を規定する
ことを特徴とする請求項10に記載の補強要素(200)。
【請求項12】
前記非直線化する手段は、各フィンガーの前記頂点セグメントと前記周辺セグメントとの間の接合部において、前記錐体構造の内部表面に、材料の欠乏部を有する
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の補強要素(200)。
【請求項13】
非付着性フィルムが前記補強要素(200)の前記錐体構造(202)の外部表面に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の補強要素(200)。
【請求項14】
中心糸が前記錐体構造の頂点(203)に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の補強要素(200)。
【請求項15】
移植可能なメッシュ(1)を備え、
請求項1〜14のいずれか1項に記載の補強要素が前記メッシュに取り付けられており、前記錐体構造の頂点が前記メッシュの中心に位置し、前記メッシュが前記錐体構造の表面にほぼくっついている
ことを特徴とする人工物(300)。
【請求項16】
前記メッシュの縁が前記補強要素の前記フィンガーの自由端に隣接する
ことを特徴とする請求項15に記載の人工物。
【請求項17】
その外部表面が非付着性コーティングで覆われている
ことを特徴とする請求項15又は16に記載の人工物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11a】
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【図11b】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17a】
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【図17b】
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【図18a】
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【図18b】
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【公表番号】特表2013−507161(P2013−507161A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532625(P2012−532625)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065131
【国際公開番号】WO2011/042553
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(597147278)ソフラディム・プロダクション (8)
【Fターム(参考)】