説明

メラニン生成抑制剤

【課題】化粧料、医薬品および食品に添加しても着色の問題がほとんどなく、また哺乳動物、特にヒトに対する毒性がほとんどなく、メラニン生成抑制効果または美白効果の高いメラニン生成抑制剤を提供すること。
【解決手段】一般式(1):
【化1】


(式中、R1は水素原子またはメトキシ基であり、R2およびR3は水酸基またはグルコース残基である)
で表される化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白効果を有するグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドまたはシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドを有効成分とするメラニン生成抑制剤に関し、さらに当該メラニン生成抑制剤を含む化粧料、医薬品または食品に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のシミ・ソバカス、肌荒れの原因としては不明な点も多いが、メラニン生成などによる色素沈着もその要因の1つとして挙げられている。美肌効果、シミ・ソバカスの防止効果、肌荒れ防止効果を有する物質としては、コウジ酸、アルブチンなどがすでに知られており(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、様々な美白化粧料やシミ・ソバカス防止を目的とする医薬部外品の基材として適用されている。また、古くから黒糖およびその抽出物の美白効果や美肌効果についてもよく知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。さらに、廃糖蜜から抽出されたタキオキシドを有効成分とするメラニン生成抑制剤も知られている(例えば、特許文献7参照)。
【特許文献1】特公昭56−18569号公報
【特許文献2】特開昭60−56912号公報
【特許文献3】特公昭59−48809号公報
【特許文献4】特開昭61−236728号公報
【特許文献5】特開平5−85927号公報
【特許文献6】特開2002−212048号公報
【特許文献7】特開平5−310547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、美白効果または美肌効果を有する黒砂糖から抽出した成分が着色成分(シュガー色素)または天然黒色成分であるために、これらを配合して調製された化粧料は著しく着色し、一般的な化粧料としては利用しがたいものである。また、糖蜜からアルコールなどで抽出し、吸着剤で着色成分を除去したエキスが美白効果をもつことが報告されているが、その美白成分は物質が特定されていない。メラニン生成抑制剤の有効成分であるタキオキシドは、3,4-ジメトキシフェニル-O-D-グルコースと構造と特性が類似しているために、化粧料に配合した場合において、着色の問題があった。また、アルブチンには、細胞に対する毒性が強いという問題がある。
【0004】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を行ったところ、廃糖蜜からの抽出研究において、従来知られていたタキオキシドとは全く異なる物質が、意外にもメラニン生成抑制効果に優れていることを見出した。
【0005】
従って、本発明の目的は、化粧料、医薬品および食品に添加しても着色の問題がほとんどなく、また哺乳動物、特にヒトに対する毒性がほとんどなく、メラニン生成抑制効果または美白効果の高いメラニン生成抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕一般式(1):
【0007】
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメトキシ基であり、R2およびR3は水酸基またはグルコース残基である)
【0008】
で表される化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤、
〔2〕前記化合物がグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドまたはシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドである、前記〔1〕記載のメラニン生成抑制剤、
〔3〕黒砂糖および/または廃糖蜜から抽出される前記〔1〕または〔2〕記載のメラニン生成抑制剤、
〔4〕前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載のメラニン生成抑制剤を含んでなる化粧料、
〔5〕前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載のメラニン生成抑制剤を含んでなる医薬品、ならびに
〔6〕前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載のメラニン生成抑制剤を含んでなる食品
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメラニン生成抑制剤により、化粧料、医薬品および食品に添加しても着色の問題がほとんどなく、さらに、哺乳動物、特にヒトに対する毒性もほとんどなく、また、高いメラニン生成抑制または美白効果も得られるという効果が奏される。さらに、本発明のメラニン生成抑制剤により、美白効果の高い化粧料、医薬品および食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のメラニン生成抑制剤は、一般式(1):
【0011】
【化2】

(式中、R1は水素原子またはメトキシ基であり、R2およびR3は水酸基またはグルコース残基である)
【0012】
で表される化合物を有効成分として含有することに一つの大きな特徴を有する。
【0013】
一般式(1)で表される化合物としては、グアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドおよびシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドが挙げられる。
【0014】
グアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドとしては、グアイアシルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシドおよびグアイアシルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシドが挙げられる。またシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドとしては、シリンギルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシドおよびシリンギルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシドが挙げられる。
【0015】
グアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドおよびシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドは、植物中に見出されており(Phytochemistry, 44(8), 1551-1557(1997))、一般的な化学合成方法により得ることもできるが、黒砂糖や廃糖蜜などの原料から抽出して得ることもできる。
【0016】
本発明に使用される原料としては、例えば、廃糖蜜、黒砂糖、粗糖、ビャクシン属植物の葉、ウリノキ属植物の葉などが挙げられ、中でも、工業的に安価に大量に入手可能な観点から、廃糖蜜および黒砂糖が好ましい。かかる原料は、単独で使用されてもよく、または2種以上併用されてもよい。
【0017】
ビャクシン属植物の葉およびウリノキ属植物の葉からグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドおよびシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドを抽出する方法としては、例えば、Phytochemistry, 44(8), 1551-1557(1997)に記載されているように水−メタノール溶液で抽出した後、高速液体クロマトグラフィーで分離する方法が挙げられる。
【0018】
また、廃糖蜜および/または黒砂糖からグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドおよびシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドを抽出する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0019】
(1)廃糖蜜および/または黒砂糖を水に溶解し、遠心分離または濾過により夾雑物を除去する工程;
(2)工程(1)で得られた溶液と吸着剤とを接触させた後、吸着剤を水で洗浄して糖分を十分除去し、15〜35重量%濃度のアルコールで吸着剤中の吸着物質を溶離させる工程;
(3)工程(2)で得られた溶離液をブタノールと水で分配してブタノール層を分取する工程;
(4)工程(3)で分取されたブタノール層をゲル濾過カラムを用いて5〜15重量%濃度のアルコールで溶出させる工程;ならびに
(5)工程(4)で得られた溶出液を逆相系カラムを用いて10〜20重量%濃度のアルコールで溶出させる工程、
を含む方法によりグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドを含む画分およびシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドを含む画分を得ることができる。さらに、所望により、画分に含まれるアルコールを蒸発させて濃縮物として得ることもできる。
【0020】
あるいは、前記方法のうち工程(3)の代わりに、
(3’)工程(2)で得られた溶離液を吸着剤カラムを用いて2〜10重量%濃度のアルコールで溶出させる工程、
を含む方法によりグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドを含む画分およびシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドを含む画分を得ることができる。さらに、所望により、画分に含まれるアルコールを蒸発させて濃縮物として得ることもできる。
【0021】
前記工程(2)に用いられる吸着剤としては、例えば、芳香樹脂系合成吸着剤を使用することができ、例えば、スチレンとジビニルベンゼンとを用いて重合された多孔性合成樹脂を用いることが好ましい。かかる樹脂としては、例えば、Amberlite XADタイプ(ロームアンドハース社製)、HPタイプ(三菱化成社製)などが挙げられる。
【0022】
前記工程(3’)で用いられるカラム用の吸着剤としては、オクタデシル基を化学結合させたシリカゲル系の充填剤が好ましく、例えば、COSMOSILタイプ(ナカライテスク社製)、Develosilタイプ(野村化学社製)、TSKgelタイプ(東ソー社製)、YMC-packタイプ(ワイエムシー社製)、MCI GEL ODSタイプ(三菱化学社製)などが挙げられる。
【0023】
前記工程(4)におけるゲル濾過カラムに使用される充填剤としては、1000〜7000の分子量を分画可能な充填剤が好ましく、Toyoperl HW-40C(東ソー社製)、Sephadex G-25(ファルマシア社製)などが挙げられる。
【0024】
前記工程(5)における逆相系カラムに使用される充填剤としては、オクチル基を化学結合させたシリカゲル系の充填剤が好ましく、COSMOSILタイプ(ナカライテスク社製)、Develosilタイプ(野村化学社製)、TSKgelタイプ(東ソー社製)、YMC-packタイプ(ワイエムシー社製)、MCI GEL OTSタイプ(三菱化学社製)、Lichroprepタイプ(メルク社製)などが挙げられる。
【0025】
前記工程(2)、(3’)、(4)および(5)で使用されるアルコールとしては、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールなど)が挙げられる。各工程で使用されるアルコールの濃度は、各工程で使用されるカラムに応じて変動し、工程(2)においては、15〜35重量%が好ましく、20〜30重量%がより好ましく、工程(3’)においては、2〜10重量%が好ましく、3〜7重量%がより好ましく、工程(4)においては、5〜15重量%が好ましく、7〜13重量%がより好ましく、工程(5)においては、10〜20重量%が好ましく、13〜17重量%がより好ましい。
【0026】
以上のようにしてグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドを含む画分およびシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドを含む画分を得ることができる。本発明のメラニン生成抑制剤としては、前記抽出方法により得られた画分をそのまま使用してもよいし、所望により、得られた画分を更に逆相カラムなどの分取HPLCで精製した精製品を使用してもよい。
【0027】
本発明のメラニン生成抑制剤がメラニン生成抑制の効果を奏するためには、メラニン生成抑制剤中にグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドおよび/またはシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドが、好ましくは1重量%以上、より好ましくは10重量%以上含まれている。
【0028】
なお、本発明のメラニン生成抑制剤中のグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドまたはシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドの濃度は、例えば、オクチル基を化学結合させたシリカ系の充填剤を用いた逆相カラムによる高速液体クロマトグラフィー分析によって測定することができる。また、本発明のメラニン生成抑制剤中にグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドおよび/またはシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドが含まれているかどうかは、薄層クロマトグラフィー(シリカゲル、展開相;クロロホルム:メタノール(9:1)、発色液;硫酸)で確認することができる。
【0029】
メラニン生成のメカニズムは、次のように推定されている。L-チロシンがチロシナーゼの作用によりL-ドーパを経てドーパキノンとなり、これが酵素または非酵素的に酸化重合されてメラニンが生成される。従って、チロシナーゼの作用を阻害または抑制することによりメラニン生成が抑制できると考えられる。以上のことから、本発明のメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制の効果は、チロシナーゼ阻害活性を指標として測定することができ、その阻害活性は、メラニンの生成を抑制できる程度の活性を有していればよいが、好ましくは10%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上である。
【0030】
本発明においてチロシナーゼ阻害活性は、以下のようにして測定することができる。
(i)L-チロシン溶液とリン酸緩衝液を混合し、これに試料溶液または水を加えて直ちに470nmの吸光度を測定する;
(ii)工程(i)の混合液を37℃で10分間インキュベートし、チロシナーゼ溶液を加えて攪拌した後、37℃で15分間酵素反応させた後470nmの吸光度を測定する;
(iii)以下の式を用いてチロシナーゼ阻害活性を計算する。
チロシナーゼ阻害活性(%)={(b−a)−(B−A)/(b−a)}×100
A:試料溶液を用いた場合の工程(i)における吸光度
B:試料溶液を用いた場合の工程(ii)における吸光度
a:水を用いた場合の工程(i)における吸光度
b:水を用いた場合の工程(ii)における吸光度
【0031】
また、本発明のメラニン生成抑制剤のメラニン生成抑制の効果は、該抑制剤を添加したウシ胎児血清加イーグルMEM培地でB-16メラノーマ細胞を37℃、7日間培養し、遠心分離して得られた細胞の白色化度を指標とすることにより評価できる。
【0032】
細胞の白色化度は、遠心分離して得られた細胞を肉眼で観察し、以下の評価基準に従って評価することができる。
(評価基準)
白色化度大:ほとんど白色化しており、褐色細胞が見られない
白色化度中:やや白色化しており、褐色細胞が見られる
白色化度小:白色化していない
【0033】
本発明のメラニン生成抑制剤は、メラニン色素の沈着によるシミ、ソバカスを防止し、美白作用を有する化粧料、医薬品または食品として利用され得る。
【0034】
本発明の化粧料における前記メラニン生成抑制剤の含有量は、よりよい美白効果およびコストパフォーマンスの観点から、固形分として好ましくは、0.01〜10重量%、より好ましくは、0.1〜5重量%である。
【0035】
本発明の化粧料には、前記メラニン生成抑制剤の他、化粧料に従来から使用されている成分、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、タキオキシド、3,4-ジメトキシフェニル-O-D-グルコース、コウジ酸、ヒドロキノン、L-システイン、桑エキス、甘草エキスなどの美白作用をもつ物質などが含有されていてもよい。
【0036】
本発明の化粧料としては、例えば、化粧水、乳液、クレンジングクリーム、マッサージクリームなどのクリーム類、パック、ファンデーションなどのメーキャップ化粧品、石鹸、洗顔クリーム、ボディローション、ボディーシャンプーなどが挙げられる。これらの化粧料は、前記メラニン生成抑制剤を添加する以外は通常の化粧料と同様の方法で調製される。
【0037】
本発明の医薬品には、前記メラニン生成抑制剤の他、医薬品に従来から使用されている成分、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、増量剤、被覆剤などが含有されていてもよい。
【0038】
本発明の医薬品としては、例えば、その形態として、溶液、懸濁物、粉末、固体成型物などのいずれでもよく、その剤型としては、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤、注射剤、貼付剤、軟膏剤などが挙げられる。これらの医薬品は前記メラニン生成抑制剤を添加する以外は通常の医薬品と同様の方法で調製される。
【0039】
本発明の所望の効果を得るための医薬品の投与量は、メラニン生成抑制剤として、好ましくは50〜5000mg/日、より好ましくは500〜1000mg/日である。ただし、個体差(症状の種類、程度、年齢など)があるため、本発明における投与量は、かかる範囲にのみ限定されるものではなく、本発明の所望の効果が得られるように、個別具体的に投与量を適宜設定すればよい。
【0040】
本発明の医薬品の投与方法としては、特に限定されないが、経口投与、静脈投与、経直腸投与などが挙げられ、より好ましくは、経口投与である。
【0041】
本発明の食品における前記メラニン生成抑制剤の含有量は、特に限定されないが、経済的に商品を製造する観点から、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは、0.1〜1.0重量%である。
【0042】
本発明の食品には、前記メラニン生成抑制剤の他、食品に従来から使用されている成分、例えば、アスコルビン酸、L-システイン、ビタミンE、オリザノールなどが含有されていてもよい。
【0043】
本発明の食品としては、例えば、饅頭、羊羹など和菓子、クッキー、ビスケット、スポンジケーキ、カステラ、プリン、生クリーム、シュークリーム、チョコレート、パン、ゼリーなどの洋菓子、アイスクリーム、アイスキャンディ、シャーベットなどの氷菓、乳酸飲料、乳酸菌飲料、果汁飲料、炭酸飲料、コーヒー飲料、ココア飲料などの飲料などが挙げられる。これらの食品は、前記メラニン生成抑制剤を添加する以外は通常の食品と同様の方法で調製される。
【0044】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は当該実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1 メラニン生成抑制剤の調製1
廃糖蜜160gを4Lの水に溶かし,濾過して夾雑物を除去して廃糖蜜水溶液を得た。これをAmberlite XAD-2カラムに通液し、水で洗浄後25重量%MeOHで溶出させた。
【0046】
得られた25重量%MeOH画分(5.17g)をn-BuOHと水にて分配してBuOH層(1.13g)を得、BuOHを留去し、同画分をTOYOPEARL HW-40Cカラム(25×65cm)に通液し、10重量%MeOHを用いて溶出させ、吸光度270nmで溶出ピークを検出し、主ピーク成分ごとに6つの画分に分画し、それぞれ、画分1(30mg)、画分2(144mg)、画分3(437mg)、画分4(124mg)、画分5(118mg)および画分6(131mg)を得た。
【0047】
この内、チロシナーゼ阻害活性を測定し最も強かった画分4を低圧分取カラム(LiChroprep RP-8)に通液し、15重量%MeOHを用いて溶出させ、吸光度270nmで溶出ピークを検出し、主ピーク成分ごとに3つの画分に分画し、それぞれ、画分4−1(5.1mg)、画分4−2(2.3mg)および画分4−3(7.1mg)を得た。これらの画分4−1〜4−3は、チロシナーゼ阻害活性が認められた。
【0048】
画分4−3を更に分取HPLC(Develosil ODS-MG-5;8.0×250mm)を用いて精製して、画分4−3−1(1.5mg)、画分4−3−2(2.1mg)、画分4−3−3(1.3mg)および画分4−3−4(1.9mg)を得た。これらの画分をIR測定(フーリエ変換赤外分光光度計FTS-3000、Bio-Rad社製)した。EI-MS(70eV)は、二重収束質量分析計M-2500(日立製作所社製)で測定した。1H-NMR、13C-NMRおよび2次元NMRは重メタノール(CD3OD)または重クロロホルム(CDCl3)を溶媒に核磁気共鳴吸収装置JNM-A500(日本電子社製)にて室温で測定した。
【0049】
その結果、画分4−3−1はグアイアシルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシド、画分4−3−2はグアイアシルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシド、画分4−3−3はシリンギルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシド、画分4−3−4はシリンギルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシドであることが判明した。
【0050】
また、画分4−1および4−2について、上記同様の測定を行ったところ、画分4−1はタキオキシドであることが判明したが、画分4−2の化合物は特定できなかった。
【0051】
実施例2 メラニン生成抑制剤の調製2
廃糖蜜250gを7Lの水に溶かし、濾過して夾雑物を除去して廃糖蜜水溶液を得た。これをAmberlite XAD-2カラムに通液し,水で洗浄後25重量%MeOHで溶出した。
【0052】
得られた25重量%MeOH画分(8.5g)を分取C18カラム(1×35cm、ODSカラム、ウォターズ社製)に通液し、5重量%MeOHを用いて溶出させた。得られた5重量%MeOH画分(2.6g)をTOYOPEARL HW-40Cカラム(25×65cm)に通液し、10重量%MeOHを用いて溶出させ、吸光度270nmで溶出ピークを検出し、主ピーク成分ごとに5つの画分に分画し、それぞれ、画分1(141mg)、画分2(629mg)、画分3(936mg)、画分4(274mg)および画分5(392mg)を得た。
【0053】
この内、チロシナーゼ阻害活性を測定し最も強かった留分4を低圧分取カラム(LiChroprep RP-8)に通液し、15重量%MeOHを用いて溶出させ、吸光度270nmで溶出ピークを検出し、主ピーク成分ごとに3つの画分に分画し、それぞれ、画分4−1(7.1mg)、画分4−2(4.3mg)および画分4−3(12.3mg)を得た。これらの画分4−1〜4−3は、チロシナーゼ阻害活性が認められた。
【0054】
画分4−3を更に分取HPLC(Develosil ODS-MG-5;8.0×250mm)を用いて精製して、画分4−3−1(2.5mg)、画分4−3−2(2.9mg)、画分4−3−3(2.4mg)および画分4−3−4(3.1mg)を得た。これらの画分をIR測定(フーリエ変換赤外分光光度計FTS-3000、Bio-Rad社製)した。EI-MS(70eV)は、二重収束質量分析計M-2500(日立製作所社製)で測定した。1H-NMR、13C-NMRおよび2次元NMRは重メタノール(CD3OD)または重クロロホルム(CDCl3)を溶媒に核磁気共鳴吸収装置JNM-A500(日本電子社製)にて室温で測定した。
【0055】
その結果、画分4−3−1はグアイアシルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシド、画分4−3−2はグアイアシルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシド、画分4−3−3はシリンギルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシド、画分4−3−4はシリンギルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシドであることが判明した。
【0056】
また、画分4−1および4−2について、上記同様の測定を行ったところ、画分4−1はタキオキシドであることが判明したが、画分4−2の化合物は特定できなかった。
【0057】
試験例1 チロシナーゼ阻害活性の測定
実施例1で得られたグアイアシルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシド、グアイアシルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシド、シリンギルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシドおよびシリンギルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシド、ならびにアルブチン(メルク社製)、実施例1で得られたタキオキシドおよび3,4-ジメトキシフェニル-O-D-グルコースを、それぞれ0.3mg/mlまたは0.5mg/mlの濃度で溶解したリン酸緩衝液(0.05mM、pH6.8)50μLを、0.5mg/mlのL-チロシン溶液150μLとリン酸緩衝液750μLとの混合溶液に加え、直ちに470nmの吸光度を測定した。
【0058】
次いで、混合溶液を37℃で10分間インキュベートし、チロシナーゼ溶液25μl(マッシュルーム由来、470ユニット)を加えて撹拌した後、37℃で15分間酵素反応させた後、470nmの吸光度を測定した。
【0059】
さらに、前記化合物の代わりに水を添加したリン酸緩衝液(0.05mM、pH6.8)50μLを、0.5mg/mlのL-チロシン溶液150μLとリン酸緩衝液750μLとの混合溶液に加え、直ちに470nmの吸光度を測定した。次いで、混合溶液を37℃で10分間インキュベートし、チロシナーゼ溶液25μl(マッシュルーム由来、470ユニット)を加えて撹拌した後、37℃で15分間酵素反応させた後、470nmの吸光度を測定した。
【0060】
上記で得られた470nmの吸光度をもとに、各化合物のチロシナーゼ阻害活性を測定した。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果より、実施例1で得られたグアイアシルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシド、グアイアシルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシド、シリンギルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシドおよびシリンギルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシドは、従来から知られているアルブチン、タキオキシドおよび3,4-ジメトキシフェニル-O-D-グルコースと比較して低濃度で、チロシナーゼ阻害活性を有することがわかる。
【0063】
試験例2 培養細胞を用いたメラニン生成抑制効果試験
実施例1で得られたグアイアシルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシド、グアイアシルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシド、シリンギルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシドおよびシリンギルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシドをそれぞれ0.05重量%となるように添加した10重量%ウシ胎児血清加イーグルMEM培地を用い、5%(v/v)炭酸ガスを含有する空気下37℃、7日間、B-16メラノーマ細胞2×105個を直径6cmの培養シャーレで培養した。
【0064】
培養終了後、0.025重量%のトリプシンを含むダルベッコリン酸緩衝液を培養シャーレに添加して細胞を剥離し、細胞数を計数した。遠心分離して得られた細胞を肉眼で観察し、細胞の白色化度を以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
白色化度大:ほとんど白色化しており、褐色細胞が見られない
白色化度中:やや白色化しており、褐色細胞が見られる
白色化度小:白色化していない
【0065】
メラニン生成抑制剤を添加しなかったコントロールの場合、培養7日後の細胞数は5.4×105個で白色化度は小であった。
【0066】
一方、グアイアシルグリセロール-8-O-β-Dの場合、培養7日後の細胞数は4.9×105個で白色化度は大であった。
【0067】
グアイアシルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシドの場合、培養7日後の細胞数は4.3×105個で白色化度は大であった。
【0068】
シリンギルグリセロール-8-O-β-Dの場合、培養7日後の細胞数は4.6×105個で白色化度は大であった。
【0069】
シリンギルグリセロール-9-O-β-Dの場合、培養7日後の細胞数は4.2×105個で白色化度が大であった。
【0070】
以上の結果より、本発明のメラニン生成抑制剤を添加してメラノーマ細胞を培養した場合、白色化度が大であると共に、細胞に対する毒性がほとんど認められなかった。従って、本発明のメラニン生成抑制剤は、人体に対してほとんど毒性がないと考えられる。
【0071】
実施例3:本発明のメラニン生成抑制剤を含有する化粧料
有効成分をグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドまたはシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドとする本発明のメラニン生成抑制剤を含有する化粧料を以下の処方例に従って調製した。調製した化粧料を40℃にて6ヶ月間保存した後の正常を確認したところ、全く変化しておらず、本発明のメラニン生成抑制剤を含有する化粧料は経時安定性が高く、着色もしないことがわかった。なお、以下において、特記しない限り重量%を%として表す。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
試験例3 美白効果の評価
色黒、シミまたはソバカスに悩む被験者40名をパネルとし、半分の20名には実施例3で調製した化粧水を、残りの20名には実施例3の処方例1の化粧水から有効成分であるグアイアシルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシドを除いた処方の化粧水(比較例)を3ケ月間毎日使用させた。使用終了後にアンケート調査を実施して美白効果を評価した。
【0077】
その結果、実施例3の処方例1の化粧水を使用したパネラーのアンケート結果では、有効(色素沈着がかなり薄くなった):9名、やや有効(色素沈着がやや薄くなった):8名,無効(色素沈着に変化がなかった):3名であった。また、有効成分を含まない化粧水を使用したパネラーのアンケート結果では、有効(色素沈着がかなり薄くなった):0名、やや有効(色素沈着がやや薄くなった):5名,無効(色素沈着に変化がなかった):15名であった。
【0078】
この結果から、本発明のメラニン生成抑制剤を含む化粧水の方が、含まない化粧水よりも明らかに美白効果が認められた。
【0079】
実施例4 本発明のメラニン生成抑制剤を含有する医薬品
【0080】
有効成分をグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドまたはシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドとする本発明のメラニン生成抑制剤を含有する医薬品を以下の処方例に従って調製した。調製した医薬品を40℃にて6ヶ月間保存した後の正常を確認したところ、全く変化しておらず、であり、本発明のメラニン生成抑制剤を含有する医薬品は着色しないことがわかった。なお、以下において、特記しない限り重量%を%として表す。
【0081】
処方例1:吸水軟膏剤
セスキオレイン酸ソルビタン 5.0%
ラウロマクロゴール 0.5%
白色ワセリン 40.0%
セタノール 18.0%
パラオキシ安息香酸エチル 0.01%
パラオキシ安息香酸ブチル 0.01%
シリンギルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシド 1.0%
精製水 35.48%
全量 100%
【0082】
処方例2:親水軟膏剤
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 10.0%
ポリオキシエチレンセチルエーテル 10.0%
ステアリルアルコール 10.0%
プロピレングリコール 20.0%
グリセリン 30.0%
パラオキシ安息香酸メチル 0.01%
パラオキシ安息香酸ブチル 0.01%
グアイアシルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシド 1.0%
精製水 18.98%
全量 100%
【0083】
実施例5 本発明のメラニン生成抑制剤を含有する食品
【0084】
有効成分をグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドまたはシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドとする本発明のメラニン生成抑制剤を含有する食品を以下の処方例に従って調製した。なお、以下において、特記しない限り重量%を%として表す。
【0085】
処方例1:ミルクプリン
ペクチン 0.6%
コーンスターチ 0.5%
グラニュー糖 5.0%
牛乳(脂肪分3.6%) 50.0%
生クリーム(脂肪分45%) 7.3%
50%加糖卵黄 10.0%
カスタードプリンフレーバー 0.1%
ナマクリームフレーバー 0.02%
着色料(カロチン) 適量
カラメルシロップ YE−75 適量
グアイアシルグリセロール-8-O-β-D-グルコピラノシド 0.1%
水 残余
全量 100%
【0086】
処方例2:アップルゼリー
カラギナン 0.60%
クエン酸三ナトリウム 0.05%
グラニュー糖 5.0%
果糖ブドウ糖液糖 10.5%
1/4アップル果汁 12.0%
50%クエン酸 0.30%
アップルフレーバー 0.11%
グアイアシルグリセロール-9-O-β-D-グルコピラノシド 0.5%
水 70.94%
全量 100%
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のメラニン生成抑制剤は、美白効果を有する化粧料、医薬品または食品に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメトキシ基であり、R2およびR3は水酸基またはグルコース残基である)
で表される化合物を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【請求項2】
前記化合物がグアイアシルグリセロール-D-グルコピラノシドまたはシリンギルグリセロール-D-グルコピラノシドである、請求項1記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項3】
黒砂糖および/または廃糖蜜から抽出される請求項1または2記載のメラニン生成抑制剤。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のメラニン生成抑制剤を含んでなる化粧料。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか記載のメラニン生成抑制剤を含んでなる医薬品。
【請求項6】
請求項1〜3いずれか記載のメラニン生成抑制剤を含んでなる食品。


【公開番号】特開2006−22070(P2006−22070A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203534(P2004−203534)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】