説明

メラニン生成抑制剤

【課題】活性酸素消去作用、及びチロシナーゼ活性阻害作用を併せ持ち、そしてメラニンの生成を多面的に抑制することができるメラニン生成抑制剤を提供することである。
【解決手段】ブッソウゲ抽出物を含有するメラニン生成抑制剤、並びに、美白剤である該メラニン生成抑制剤、外用剤である該メラニン生成抑制剤、内用剤である該メラニン生成抑制剤、口腔用剤である該メラニン生成抑制剤、食品である該メラニン生成抑制剤及び飲料である該メラニン生成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン生成抑制剤に関する。より詳細には、メラニンの生成を多面的に抑制することによって、シミやそばかす等の色素沈着を効果的に防止するメラニン生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シミやそばかす等の色素の沈着は、皮膚細胞内でメラニンが生成し、蓄積することによって生じることが知られている。メラニンの生成過程については未だ十分に解明されているとはいえないが、その主要な生成過程の一つとして以下に示す過程が明らかとなっている;(1)皮膚が紫外線を浴びることによって皮膚の表皮細胞に活性酸素が発生する、(2)活性酸素によって細胞が損傷を受け、種々の情報伝達物質が生成・放出される、(3)種々の情報伝達物質によって、チロシナーゼの生成促進および活性化が引き起こされ、メラニンが生成する。従って、メラニンの生成を抑制して肌を白く保つには、皮膚上の活性酸素を消去すること、チロシナーゼの生成を抑制すること、或いはチロシナーゼ活性を阻害すること等が有効な手段として考えられている。
【0003】
これまでにアスコルビン酸等の活性酸素消去剤やコウジ酸やアルブチン等のチロシナーゼ活性阻害剤が美白剤の有効成分として提案されている(特許文献1等)。しかしながら、従来の美白剤の有効成分として提案されている物質では、メラニンの生成過程の一部分に作用するに過ぎず、メラニンは他の過程によっても生成するため、そのメラニン生成抑制効果は満足できるものではなかった。さらに、従来の美白剤成分では、効果の持続性の観点からも満足できるものではなかった。このような従来技術を背景として、メラニンの生成過程に多面的に作用することによって色素の沈着を効果的に抑制するメラニン生成抑制剤、並びに持続性に優れたメラニン生成抑制剤の開発が望まれていた。
【0004】
一方、ハイビスカス抽出物は、それ自体で繊維芽細胞の増殖効果(特許文献2)、抗炎症効果(特許文献3、特許文献4)、及び他の生理活性成分と併用することにより種々の皮膚や毛髪の機能亢進効果を発揮すること(特許文献5)、さらには特定のハイビスカスの抽出物は活性酸素消去効果及びメラニン生成抑制効果を奏すること(特許文献6)が報告されている。しかしながら、ハイビスカスは、多種にわたる品種があるため、各ハイビスカスに含まれる生理活性成分もそれぞれの品種によって様々であり、生理活性成分の存否を一律に論ずることはできない。すなわち、既に報告されているハイビスカスの抽出物によって奏される効果は、全てのハイビスカスに本来的に備わっているものではなく、特定のハイビスカスに起因するものである。
【特許文献1】特開平1−85907号公報
【特許文献2】特開平10−36279号公報
【特許文献3】特開昭57−99517号公報
【特許文献4】特開平9−87188号公報
【特許文献5】特開2000−7545号公報
【特許文献6】特開2000−95663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記のような従来の問題を解決して、メラニンの生成過程に多面的に作用して、色素の沈着を効果的に抑制することができるメラニン生成抑制剤を提供することである。具体的には、活性酸素消去作用、及びチロシナーゼ活性阻害作用を併せ持つことによってメラニンの生成を効果的に抑制し、シミやそばかす等の色素沈着を有効に防止できるメラニン生成抑制剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討していたところ、天然物由来成分であって食品原料として知られているブッソウゲ抽出物は、優れた活性酸素消去作用、及びチロシナーゼ活性阻害作用を有し、メラニンの生成を多面的に抑制できることを見出した。そこでかかる知見から、本発明者らはブッソウゲ抽出物を有効成分とするメラニン生成抑制剤が、美白剤として有効であることを確信した。さらに、その優れた活性酸素消去作用から、内用剤、特に食品として有効であると確信した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
即ち、本発明は以下に掲げるメラニン生成抑制剤である:
項1.ブッソウゲ抽出物を含有することを特徴とするメラニン生成抑制剤。
項2.美白剤として用いられる、項1に記載のメラニン生成抑制剤。
項3.外用剤である、項1又は2に記載のメラニン生成抑制剤。
項4.内用剤である、項1又は2に記載のメラニン生成抑制剤。
項5.口腔用剤である、項1又は2に記載のメラニン生成抑制剤。
項6.飲食物である、項1又は2に記載のメラニン生成抑制剤。
【0008】
なお、本発明でいうメラニン生成抑制剤とは、活性酸素消去作用、又はチロシナーゼ活性阻害作用に基づいてメラニンの生成を抑制する効果を奏するものである。又、本発明でいう美白剤とは、かかるメラニン生成抑制作用に基づいて美白効果を奏するものである。
【0009】
以下、本発明をより詳細に説明する。
(A)メラニン生成抑制剤
本発明のメラニン生成抑制剤は、従来食品原料として用いられており、安全性が確認されているブッソウゲ抽出物を、有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明で用いられるブッソウゲ(学名:Hibiscus rosa-sinensis)は、アオイ科(Malvaceae)、フヨウ属(Hibiscus)に属する植物種で、原産地は中国であり、日本でも温暖な地域に自生していることが知られている。本発明に使用されるブッソウゲとしては、野生種であってもよく、また品種改良されたものであってもよい。
【0011】
本発明の有効成分として使用される抽出物は、ブッソウゲから抽出することによって調製することができる。ブッソウゲの抽出部位については特に制限されず、例えば該植物の全草、或いは花、芽、葉、茎、枝、枝先、根、根茎、及び種子等の該植物の一部を挙げることができる。これらの中で、好ましくは花を挙げることができる。
【0012】
本発明に使用されるブッソウゲ抽出物は、上記抽出対象をそのまま或いは必要に応じて、乾燥、細切、破砕、圧搾、煮沸或いは発酵処理したものを冷水、熱水若しくは有機溶剤、あるいは水と有機溶剤の混合液等の抽出溶媒で抽出することにより取得することができる。この抽出に使用される有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の単独或いは2種以上の組み合わせを挙げることができる。上記抽出溶媒の中で、好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、あるいは水と低級アルコールの混合液を挙げることができる。
【0013】
本発明に使用されるブッソウゲ抽出物の抽出方法は、特に制限されるものではなく、常法に従って行うことができる。一例として、ブッソウゲの花を粉砕し、これに抽出対象物1重量部に対して3〜5重量部の30%エタノール水溶液を加え、室温で撹拌しながら2〜3日抽出を行った後、濾過により固形分を取り除く方法を挙げることができる。
【0014】
かくして得られるブッソウゲ抽出物は、抽出溶剤に溶解した液状であり、本発明には該抽出物をそのままの状態で用いることもできるが、好ましくは、減圧蒸留等により有機溶媒が取り除かれているものである。また必要に応じて、さらに、減圧乾燥や凍結乾燥等の乾燥処理に施することにより水分を取り除き、乾燥品として用いることもできる。
【0015】
また、ブッソウゲ抽出物としては、簡便には、商業的に入手したものを用いることもできる。
【0016】
本発明のメラニン生成抑制剤は、ブッソウゲ抽出物そのものからなるものであってもよいし、それを有効成分として薬学上又は食品衛生上許容される担体又は添加物等の他の成分を配合されているものであってもよい。かかる担体又は添加物の種類及び配合量は、本発明の効果を損なわないことを限度として、メラニン生成抑制剤の剤型又は使用対象物に応じて、適宜選択調整することができる。また、本発明のメラニン生成抑制剤の形状についても特に制限されるものではなく、適用される製品等の剤型、形態、用途等に応じて、液状、乳液状、クリーム状、粉末状、顆粒、丸剤、軟膏等に任意に調製することができる。
【0017】
本発明のメラニン生成抑制剤は、効果的にメラニンの生成を抑制して、色素の沈着を有効に抑制できるので、美白剤として応用することができる。
【0018】
本発明のメラニン生成抑制剤を処方するにあたっては、外用剤とすることも、また内用剤とすることも、また口腔用剤とすることもできる。
【0019】
本発明のメラニン生成抑制剤を外用剤として処方するにあたっては、必要に応じて、無機顔料、紫外線吸収剤、美白成分、チロシナーゼ活性阻害剤、メラニン色素還元剤、界面活性剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、抗菌剤、保湿剤、香料、着色剤等の添加剤を適宜添加してもよい。本発明のメラニン生成抑制剤を適用できる外用剤としては、特に制限されないが、例えば、外用医薬品類や外用医薬部外品類(皮膚外用剤等)、基礎化粧料(化粧水、乳液、クリーム、軟膏、ローション、オイル、パック等)、メークアップ化粧料(ファンデーション、口紅、頬紅、マスカラ等)、その他皮膚用化粧料(洗顔料、皮膚洗浄料、マッサージ剤、クレンジング剤等)、あるいは浴用剤等が挙げられる。
【0020】
本発明のメラニン生成抑制剤を外用剤として処方する場合、その外用剤への配合量としては、配合対象、剤型、期待される効果等によっても異なり、一律に規定することはできないが、通常、外用剤100重量%中に、ブッソウゲ抽出物が乾燥重量で0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜3重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%となる範囲である。
【0021】
本発明のメラニン生成抑制剤を内用剤として処方するにあたっては、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤化剤、緩衝剤、賦形剤、増量剤、保存剤、香料等の添加剤を配合して、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、あるいはシロップ剤等の経口用剤としてもよい。また、本発明のメラニン生成抑制剤を内用剤として処方するにあたって、更に他の薬学的活性成分を配合することもできる。
【0022】
本発明のメラニン生成抑制剤を内用剤として処方する場合、その内用剤への配合量は、投与対象、剤型、投与方法等によっても異なり、一律に規定することはできないが、例えば、内用剤100重量%中に、ブッソウゲ抽出物が乾燥重量で0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜50重量%、更に好ましくは1〜30重量%となる範囲を挙げることができる。
【0023】
また、本発明の内用剤の投与量としては、投与剤型、投与対象、投与方法、期待される効果等によっても異なり、一律に規定することはできないが、成人の場合では通常、ブッソウゲ抽出物が乾燥重量で0.01〜50g/日、好ましくは0.1〜20g/日、更に好ましくは1〜10g/日程度である。
【0024】
本発明のメラニン生成抑制剤を口腔用剤として処方するにあたっては、必要に応じて、粘着剤、清涼剤、結合剤、甘味料、着香料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤、pH調整剤等の添加剤を適宜添加してもよい。本発明のメラニン生成抑制剤を適用できる口腔用剤としては、特に制限されないが、例えば、練歯磨等の歯磨き剤、洗口液、マウスリンス、口腔用パスタ、トローチ、歯茎のマッサージクリーム等を挙げることができる。その形態も特に限定されず、溶液、エマルジョン、軟膏、ゾル、ゲル、ペースト、錠剤、パウダー、スプレー、シート、フィルムなどの種々の形態に調製することができる。
【0025】
本発明のメラニン生成抑制剤を口腔用剤として処方する場合、その口腔用剤への配合量としては、配合対象、剤型、期待される効果等によっても異なり、一律に規定することはできないが、通常、口腔用剤100重量%中に、ブッソウゲ抽出物が乾燥重量で0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜3重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%となる範囲である。
【0026】
口腔用剤の製造方法は特に限定されず、公知の方法に従って、適宜製造することができる。またその適用方法も特に限定されないが、患部もしくは口腔内全体等に、1日1回乃至数回、適当量適用すれば良い。本発明の口腔用剤は、上記ブッソウゲ抽出物を含有することに基づいて、優れた活性酸素消去作用、チロシナーゼ活性阻害作用、及びメラニン産生抑制作用を有しており、歯茎に沈着した色素を除去し、優れた美白作用を奏することができる。
【0027】
更に、本発明のメラニン生成抑制剤は、そのまま単独で或いは一成分として配合して、食品として調製することも、又飲料として調製することもできる。
【0028】
本発明のメラニン生成抑制剤を食品として調製するにあたっては、特に制限されないが、例えば、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、ゼリー等の形態に調製することができる。又、菓子類(ガム、キャンディー、クッキー、せんべい、ビスケット等)、水産練り製品(蒲鉾、竹輪等)、調味料(ソース、マヨネーズ、ふりかけ、香辛料、ドレッシング等)、パン、麺類、シリアル等の各種食品の一成分として配合することもできる。
【0029】
本発明のメラニン生成抑制剤を飲料として調製するにあたっては、特に制限されないが、例えば炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、コーヒー飲料、ミネラルウォーター、アルコール飲料、果汁飲料、茶類、栄養飲料等の各種飲料の一成分として配合することができる。
【0030】
なお、上記食品及び飲料は、健康食品、病者用食品、特定保健用食品、栄養補助食品等の範疇に属するものであってもよい。
【0031】
本発明のメラニン生成抑制剤を食品或いは飲料として調製する場合、その食品或いは飲料への配合量については、その形態、期待される効果等によっても異なり、一律に規定することはできないが、食品の場合であれば、食品100重量%中に、ブッソウゲ抽出物が乾燥重量で例えば0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜50重量%、更に好ましくは1〜30重量%となる範囲を;飲料の場合であれば、飲料100重量%中に、ブッソウゲ抽出物が乾燥重量で例えば0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜50重量%、更に好ましくは1〜30重量%となる範囲を挙げることができる。
【0032】
また、上記食品或いは飲料の一日当たりの摂取量としては、特に制限されないが、メラニン生成抑制効果の観点からは、例えば、成人の場合では通常、ブッソウゲ抽出物が乾燥重量で0.01〜50g/日、好ましくは0.1〜20g/日、更に好ましくは1〜10g/日程度となる量を目安とすることができる。
【0033】
なお、本発明に用いられるブッソウゲ抽出物は、後述する試験例1に示すように、優れた活性酸素を消去する作用(スーパーオキサイド消去作用)を有しており、活性酸素消去剤の有効成分として使用することもできる。すなわち、本発明には、以下の態様の発明が包含される。
(1)ブッソウゲ抽出物を含有することを特徴とする活性酸素消去剤。
(2)外用剤である(1)に記載の活性酸素消去剤。
(3)内用剤である(1)に記載の活性酸素消去剤。
(4)口腔用剤である(1)に記載の活性酸素消去剤。
(5)食品である(1)に記載の活性酸素消去剤。
(6)飲料である(1)に記載の活性酸素消去剤。
【0034】
また、本発明に用いられるブッソウゲ抽出物には、後述する試験例2に示すように、チロシナーゼが生成してもその酵素活性を阻害する作用を有しており、チロシナーゼ活性阻害剤として使用することもできる。すなわち、本発明には、以下の態様の発明が包含される。
(11)ブッソウゲ抽出物を含有することを特徴とするチロシナーゼ活性阻害剤。
(12)外用剤である(11)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(13)内用剤である(11)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(14)口腔用剤である(11)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(15)食品である(11)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
(16)飲料である(11)に記載のチロシナーゼ活性阻害剤。
【発明の効果】
【0035】
本発明のブッソウゲ抽出物を有効成分とするメラニン生成抑制剤は、優れた活性酸素消去作用を有し、さらにチロシナーゼ活性阻害作用をも有するため、メラニンの生成過程に多面的に作用することによって色素の沈着を効果的に抑制でき、優れた美白効果を奏する美白剤として応用することができる。
【0036】
また、本発明に用いられるブッソウゲ抽出物は、従来食品原料として用いられており、安全性が確認されているため、内用剤、口腔用剤或いは外用剤として処方することができ、又食品或いは飲料、または歯磨きなどの口腔用組成物の成分としても使用することができる。故に、本発明のメラニン生成抑制剤によれば、メラニンの生成を抑制して美白を達成する手段を多岐にわたって提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、製造例、試験例、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例等により何ら限定されるものではない。
【製造例】
【0038】
乾燥したブッソウゲ(仏桑華)(学名:Hibiscus rosa-sinensis L.)の花100gをミルで粉砕し、これに30%エタノール水溶液500mLを加え、室温で撹拌しながら3日間抽出処理した。次いで、濾過により固形分を取り除き、濾液を減圧濃縮した後、凍結乾燥して15gのブッソウゲ抽出物を得た。
【0039】
なお、以下に示す試験例及び実施例は、特に記載がない場合、上記方法によって取得したブッソウゲ抽出物を用いて行った。
【試験例1】
【0040】
活性酸素消去効果の評価
ブッソウゲ抽出物の活性酸素消去効果を評価するために、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)分析キット−WST(Dojindo Molecular Technologies社製)を用いて、ブッソウゲ抽出物のスーパーオキサイドの消去能を測定した。具体的な方法を以下に記載する。なお、以下の方法で特に記載のない溶液等については、上記測定キットに備わっているもの、或いは該キットの使用方法に従って調整したものを使用した。
【0041】
まず、96ウェルマイクロプレートに、最終ウェル内濃度が0.0033〜0.8重量%になるように濃度を調整したブッソウゲ抽出物溶液(以下、目的サンプル溶液という)を各ウェルに20μL添加した。次に、各ウェルにテトラゾリウム塩溶液を20μL加え、よく混合した。その後、各ウェルに酵素溶液を20μL添加し、直ちに37℃で20分間インキュベートした後、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。なお、コントロールとして、下記の条件についても同様の方法で測定した。測定した吸光度の値から次式に基づいてスーパーオキサイド消去率(%)を算出した。
・ブランク:酵素溶液無添加(代わりに酵素溶液の希釈液を添加)・目的サンプル溶液添加
・コントロール1:酵素溶液添加・目的サンプル溶液無添加(代わりに目的サンプル溶液の希釈液を添加)
・コントロール2:酵素溶液無添加(代わりに酵素溶液の希釈液を添加)・目的サンプル溶液無添加(代わりに目的サンプル溶液の希釈液を添加)
【0042】
【数1】

なお、比較として、活性酸素消去能を有することが知られている物質であるアスコルビン酸、及びチロシナーゼ阻害活性に基づいて美白剤として使用されているコウジ酸、アルブチン、さらに同じハビスカス属のロゼル(Hibiscus sabdariffa L.)およびムクゲ(Hibiscus syriacus L.)の抽出物を、ブッソウゲ抽出物の代わりに用いて、同様に測定を行った。
【0043】
得られた結果を図1に示す。図1には、ブッソウゲ抽出物、ロゼル抽出物、ムクゲ抽出物、アスコルビン酸、コウジ酸、及びアルブチンの各添加濃度におけるスーパーオキサイド消去率(%)を夫々示す。
【0044】
この結果、ブッソウゲ抽出物は、従来から高いスーパーオキサイド消去能を有する物質として知られているアスコルビン酸に匹敵するスーパーオキサイド消去能を有しており、他のハイビスカス種(ロゼル抽出物、ムクゲ抽出物)よりも効果が高いことが確認された。
【試験例2】
【0045】
チロシナーゼ活性阻害効果の評価
ブッソウゲ抽出物のチロシナーゼの活性阻害効果を評価するために、以下の試験を行った。
マウス由来B16メラノーマ細胞(大日本製薬 B16F0)を96ウェルマイクロプレートに5×104cells/wellとなるように播種して一晩培養し、細胞を定着させた。次に、培養プレートの培養液をアスピレーターで取り除き、1%トライトンX-100を含むPBS(リン酸緩衝食塩水)を50μl/well添加し、細胞の膜構造を破壊して粗チロシナーゼ溶液とした。次に、ウェル中の最終濃度が10mg/mlとなるように、PBSで希釈したブッソウゲ抽出物溶液(下式において目的サンプルという。)を50μl/well添加した。その後、PBSで希釈した0.1%ドーパ溶液を各ウェルに50μL添加し、直ちに37℃で4時間インキュベート後、マイクロプレートリーダーを用いて、405nmの吸光度を測定した。なお、コントロールとして、下記の条件についても同様の方法で測定した。測定した吸光度の値から次式に基づいてチロシナーゼ活性阻害率(%)を算出した。
・ブランク: B16メラノーマ細胞無播種・目的サンプルに対応したブッソウゲ抽出物溶液添加
・ブランク: B16メラノーマ細胞無播種・ブッソウゲ抽出物溶液無添加
・ブッソウゲ抽出物添加サンプル:B16メラノーマ細胞播種・ブッソウゲ抽出物溶液添加
・コントロール1: B16メラノーマ細胞播種・ブッソウゲ抽出物溶液無添加(代わりにPBSを添加)
・コントロール2: B16メラノーマ細胞無播種・ブッソウゲ抽出物溶液無添加(代わりにPBSを添加)
【0046】
【数2】

なお、比較として、同じハビスカス属のムクゲ(Hibiscus syriacus L.)の抽出物をブッソウゲ抽出物の代わりに用いて、同様に測定を行った。得られた結果を 図2に示す。 図2には、ブッソウゲ抽出物とムクゲ抽出物のチロシナーゼ活性阻害率(%)を示している。
【0047】
この結果から、ブッソウゲ抽出物には、既に美白効果が知られているムクゲ抽出物よりも高いチロシナーゼ活性阻害作用があることが確認された。
【試験例3】
【0048】
メラニン生成抑制効果
上記の結果からブッソウゲ抽出物は、メラニンの合成に関与する活性酸素消去作用、チロシナーゼ活性阻害作用を有していることが明らかとなった。本試験において、ブッソウゲ抽出物のメラニン自体に対する生成抑制効果について評価した。試験は、以下の方法に従って行った。
【0049】
マウス由来B16メラノーマ細胞(RCB 0557)を6ウェルプレートに約105cells/wellとなるように播種し、一晩培養して、細胞を定着させた。次に、最終的にウェル内濃度が0.2〜2%となるようにPBSで希釈したブッソウゲ抽出物溶液(下式において目的サンプルという。)を添加し、4日培養後、0.25%トリプシン液を用いて細胞を剥がし、遠心操作により細胞を回収した。回収した細胞の色差を目視で確認した後、1N NaOHにて細胞の膜構造を破壊しメラニンを溶出させて、405nmの吸光度を測定した。なお、コントロールとして、ブッソウゲ抽出物を添加しない系(以下、下式において、無添加サンプルという。)について同様に測定した。さらに、溶液調製時の誤差を補正する為、サンプル中のタンパク量を定量キットを用いて測定し、単位タンパク量で補正し、メラニン生成率(%)を次式に基づいて算出した。
【0050】
【数3】

なお、比較として、同じハビスカス属のムクゲ(Hibiscus syriacus L.)の抽出物をブッソウゲ抽出物の代わりに用いて、同様に測定を行った。得られた結果を 図3に示す。図3には、ブッソウゲ抽出物とムクゲ抽出物の各添加濃度におけるメラニン生成率(%)を示す。
【0051】
この結果、ブッソウゲ抽出物の添加によって、メラニンの生成が有意に抑制されていることが確認され、しかも既に美白効果が知られているムクゲ抽出物よりも高いメラニン生成抑制作用があることが確認された。
【処方例】
【0052】
<処方例1> 化粧水 (重量%)
ブッソウゲ抽出物 1.0
アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム 3.0
ポリプロピレングリコール 2.0
オキシベンゾン 3.0
パラオキシ安息香酸エステル 0.5
クエン酸 適 量
香料 適 量
精製水 残 部
合 計 100.0。
【0053】
<処方例2> 化粧用クリーム (重量%)
ブッソウゲ抽出物 0.5
アスコルビン酸モノステアリン酸エステル 3.0
システイン 0.1
ステアリルアルコール 5.0
ステアリン酸 8.0
スクワラン 10.0
自己乳化型グリセリルモノステアレート 3.0
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.0) 1.0
プロピレングリコール 5.0
水酸化カリウム 0.3
香料 適 量
防腐剤 適 量
精製水 残 部
合計 100.0。
【0054】
<処方例3> 乳液 (重量%)
ブッソウゲ抽出物 1.0
ハイビスカス酸モノエチル 1.0
スクワラン 8.0
ワセリン 2.0
ミツロウ 0.5
ソルビタンセスキオレエート 0.8
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20E.0) 1.2
カルボキシビニルポリマー 0.2
プロピレングリコール 0.5
水酸化カリウム 0.1
エタノール 7.0
香料 適 量
防腐剤 適 量
精製水 残 部
合計 100.0。
【0055】
<処方例4> パン(重量%)
下記表に示す配合割合で原料を配合し、常法に従って、パンを製造した。
小麦粉 51.0
砂糖 3.0
食塩 1.0
ブッソウゲ抽出物 0.5
脱脂粉乳 1.0
油脂 3.1
イーストフード 0.1
イースト 1.0
精製水 残 部
合計 100.0。
【0056】
<処方例5> タブレット(重量%)
ブッソウゲ抽出物 10
アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム 10
プラセンタエキス 10
コラーゲン 20
結晶セルロース 20
デキストリン 14
グリセリン脂肪酸エステル 6
賦形剤 10
合計 100。
【0057】
<処方例6> ドリンク剤(重量%)
ブッソウゲ抽出物 1.0
果糖ブドウ糖 20.0
クエン酸 0.5
クエン酸三ナトリウム 0.1
アスコルビン酸 0.2
香料 適 量
精製水 残 部
合計 100.0。
【0058】
<処方例7> 練り歯磨き No.1(重量%)
第2リン酸カルシウム 30.0
グリセリン 10.0
ソルビトール 20.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
カラギーナン 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
香料 1.0
安息香酸ナトリウム 0.3
ブッソウゲ抽出物 0.1
精製水 残 部
合 計 100.0。
【0059】
<処方例8> 練り歯磨き No.2(重量%)
ラウリル硫酸ナトリウム 0.80
ラウリル酸ジエタノールアミド 1.00
プロピレングリコール 3.00
60% ソルビット液 35.00
メチルパラベン 0.20
ブチルパラベン 0.01
サッカリンナトリウム 0.15
ゼラチン 0.30
香料 0.60
アルギン酸ナトリウム 0.90
安息香酸ナトリウム 0.10
水酸化アルミニウム 45.00
モノフルオリン酸ナトリウム 0.76
ブッソウゲ抽出物 0.05
精製水 残 部
合計 100.0。
【0060】
<処方例9> 洗口液 (重量%)
エタノール 10.00
グリセリン 5.00
クエン酸 0.01
クエン酸ナトリウム 0.10
ポリオキシエチレン硬化ひまし油 0.50
パラオキシ安息香酸メチル 0.10
香料 0.20
ブッソウゲ抽出物 0.1
精製水 残 部
合計 100.0。
【0061】
<処方例10> 口腔用パスタ(重量%)
流動パラフィン 13.00
セタノール 10.00
グリセリン 25.00
ソルビタンモノパルミテート 0.60
ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート 5.00
ラウリル硫酸ナトリウム 0.10
塩化ベンゾトニウム 0.10
サリチル酸メチル 0.10
サッカリン 0.20
香料 0.25
ブッソウゲ抽出物 0.50
精製水 残 部
合計 100.00。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ブッソウゲ抽出物の添加濃度とスーパーオキサイド消去率(%)の関係を示す図である(試験例1)。比較のため、ロゼル抽出物、ムクゲ抽出物、コウジ酸、アルブチン、アスコルビン酸についても同様に添加濃度とスーパーオキサイド消去率(%)の関係を示す。
【図2】ブッソウゲ抽出物の最終濃度が10mg/mlであるときのチロシナーゼ活性の阻害率(%)を示す図である(試験例2)。比較のため、ムクゲ抽出物についても同濃度でのチロシナーゼ活性の阻害率(%)を示す。
【図3】ブッソウゲ抽出物の各添加濃度におけるメラニン生産率(%)を示す(試験例3)。比較のため、ムクゲ抽出物についても同各添加濃度におけるメラニン生産率(%)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブッソウゲ抽出物を含有することを特徴とするメラニン生成抑制剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−282598(P2006−282598A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105491(P2005−105491)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】