説明

メラニン産生抑制剤及び皮膚外用剤

【課題】
メラニン産生抑制作用、及び充分な皮膚色素沈着症の改善・治療効果を有し、かつ、安定性、安全性を有する皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】
下記式(I)で表される13−オキソ−14,15−ジノール−8(17)−ラブダン(13-oxo-14,15-dinor-8(17)-labdane)からなるメラニン産生抑制剤。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン産生抑制剤及び皮膚外用剤に関し、詳しくは、特定のジテルペン化合物を有効成分とした、色白効果に優れた皮膚外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人の皮膚色を決定する因子として、表皮中のメラニン色素量,毛細血管の血流量,角質層の厚さなどがあるが、これらのうち最も重要な因子の一つに表皮中のメラニン色素量が挙げられる。いわゆる、シミ、ソバカスや日焼け後の色素沈着は、皮膚内に存在するメラノサイトの活性化によりメラニン産生が著しく亢進した結果生ずるものであり、中高年令層の肌の悩みの一つになっている。
【0003】
一般に、メラニン色素は表皮基底層及び毛根部,外毛根鞘に存在するメラノサイト内の小器官であるメラノソームで生成される。メラニン色素の生成過程は、メラノサイト内でチロシナーゼの作用により、チロシンが、ドーパ、ドーパキノンに酸化変換され、更に自動酸化し、ド−パクロム、5,6一ジヒドロキシインドールを経て重合し、最終的にはメラニン色素になる。生成されたメラニンは、メラノサイトの樹枝状突起から基底細胞に分泌され、基底細胞が分裂、有棘細胞となると共に上昇し、角質層に達した後、角質層の剥離と共に脱落して行くとされている。
【0004】
したがって、シミ、ソバカスや皮膚の色黒を防止、改善するためには、メラニン生成過程を阻害すること、あるいは既に生成したメラニンを淡色化することが考えられる。このような考えに基づいて、従来から種々の美白成分が提案されてきた。チロシナ−ゼ活性を阻害してメラニン生成を抑制するものとして、例えば、コウジ酸及びその誘導体、グルタチオン、アルブチン、プラセンターエキスが挙げられる。又、生成したメラニンを淡色漂白化するものとしては、過酸化亜鉛、アスコルビン酸及びその誘導体やトコフェロール及びその誘導体等が用いられてきた。更には、一部のジテルペン化合物についても、メラニン産生抑制効果(例えば、特許文献1、特許文献2,特許文献3参照)があることが報告されている。
【特許文献1】特許第3236130号公報
【特許文献2】特開2003−63944号公報
【特許文献3】特表2003−500346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、これら前記した美白成分については、処方系中での安定性や溶解性が悪く、澱や分解による異臭、着色の発生が指摘され、又、生体レベルにおける効果も充分ではなく、更に皮膚にかぶれを起こすなど安全性の面でも問題があり、満足すべきものではなかった。
【0006】
本発明はかかる実状に鑑みてなされたものであり、メラニン産生抑制作用、及び充分な皮膚色素沈着症の改善・治療効果を有し、かつ、安定性、安全性を有する皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特許文献1にも記載されたマヌールに類似するジテルペン化合物である下記式(I)で表される13−オキソ−14,15−ジノール−8(17)−ラブダン(13-oxo-14,15-dinor-8(17)-labdane)
が、マヌールに比し、色素細胞に対する顕著なメラニン産生抑制作用及び色素沈着抑制作用を有することを、さらには、該化合物を皮膚外用剤中に所定濃度で配合させたときに、皮膚に対する顕著な色素沈着改善効果(美白効果)を発現することを見出し、本発明に至った。
【0008】
【化1】

【0009】
すなわち本発明は、上記式(I)で表される13−オキソ−14,15−ジノール−8(17)−ラブダン(13-oxo-14,15-dinor-8(17)-labdane)からなるメラニン産生抑制剤に関する。
【0010】
また本発明は、皮膚外用剤であって、上記メラニン産生抑制剤を、該皮膚外用剤全量に対して0.0001〜10質量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、色白効果に優れ、かつ、安定性、安全性の高いメラニン産生抑制剤及び皮膚外用剤を提供することができる。本発明の皮膚外用剤は、シミ、ソバカス及び日焼けによる色黒等の局所性色素沈着症、並びにアジソン氏病などの全身性色素沈着症の予防、改善、治療用に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<1> 本発明のメラニン産生抑制剤
本発明のメラニン産生抑制剤は、上記式(I)で表される13−オキソ−14,15−ジノール−8(17)−ラブダン(13-oxo-14,15-dinor-8(17)-labdane)からなる。斯かる13−オキソ−14,15−ジノール−8(17)−ラブダン(13-oxo-14,15-dinor-8(17)-labdane)(以下、X−ketonと称する。)は、文献にも収載された既知化合物(例えばHELVETICA CHIMICA ACTA Vol.63,Fasc.7(1980),p1932-1946参照)であり、ジテルペン化合物の1つである。しかし、該X−ketonについては、これまで実用的な意味で用いられたことはなく、ましてや該化合物に優れたメラニン産生抑制作用があることは全く知られていなかった。
【0013】
本発明のメラニン産生抑制剤に用いられるX−ketonは市販のものがあれば、該市販品を使用しても良いが、例えば、特許第3236130号公報等に記載のマヌールを出発物質として、以下のようにして合成することも可能である。
【0014】
<2> 本発明のメラニン産生抑制剤に用いられるX−keton(以下、単にX−ketonともいう)の合成(合成例1)
マヌール(商品名:Manool、販売元:Westchem Industries Inc.)0.8g(2.75mmol)をアセトン80mLに溶解し、氷冷下撹拌しながら1.2gのKMnO4を少量ずつ2時間かけて加える。上記KMnO4の添加1時間後に、更に0.3gのKMnO4を追加し、1時間半撹拌を続ける。上記混合物の温度を室温とした後メタノール10mLを加え、50℃で1時間撹拌する。該反応物をセライトで不溶物を除去後、減圧濃縮し、
シリカゲルカラムクロマト(ヘキサン/酢酸エチル=95/5〜88/12)で精製し、無色のオイルとしてX−keton165.7mgを得る。収率23%。
【0015】
<3> 本発明の皮膚外用剤
本発明の皮膚外用剤は、上記メラニン産生抑制剤を、該皮膚外用剤全量に対し好ましくは0.0001〜10質量%の範囲で配合する。さらに好ましくは0.01〜10質量%の範囲で配合する。皮膚外用剤の内でも、特に、日焼けによるシミ、ソバカス、色黒等の色素沈着の抑制及び/又は色素沈着の改善を目的としたものでは、配合量は、0.01質量%以上であることが好ましい。配合量が0.0001質量%より少ないと、メラニン生成抑制作用に基づく効果が低下し、また10質量%を越える量を用いても、効果が頭打ちになるので、上記範囲で配合することが好ましい。
【0016】
本発明の皮膚外用剤には、上記メラニン産生抑制剤の他に、医薬品、化粧品などに一般に用いられる各種成分、すなわち油脂類、ロウ類、鉱物油、脂肪酸類、アルコール類、多価アルコール類、エステル類、金属セッケン類、ガム質、糖類及び水溶性高分子化合物、界面活性剤、ビタミン類、アミノ酸類あるいはその他粉末成分、又は、色剤、香料、抗酸化剤、pH調整剤、キレート剤、防腐剤、紫外線防御剤、あるいは抗炎症剤などを配合することができる。
【0017】
上記油脂類としては、アボガド油,アーモンド油,ウイキョウ油,エゴマ油,オリブ油,オレンジ油,オレンジラファー油,ゴマ油,カカオ脂,カミツレ油,カロット油,キューカンバー油,牛脂脂肪酸,ククイナッツ油,サフラワー油,シア脂,大豆油,ツバキ油,トウモロコシ油,ナタネ油,パーシック油,ヒマシ油,綿実油,落花生油,タートル油,ミンク油,卵黄油,カカオ脂,パーム油,パーム核油,モクロウ,ヤシ油,牛脂,豚脂又はこれら油脂類の水素添加物(硬化油等)などが挙げられる。
【0018】
上記ロウ類としては、ミツロウ,カルナバロウ,鯨ロウ,ラノリン,液状ラノリン,還元ラノリン,硬質ラノリン,カンデリラロウ,モンタンロウ,セラックロウなどが挙げられる。
【0019】
上記鉱物油としては、流動パラフィン,ワセリン,パラフィン,オゾケライド,セレシン,マイクロクリスタンワックス,スクワレン,スクワラン,プリスタンなどが挙げられる。
【0020】
上記脂肪酸類としては、ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,ベヘン酸,オレイン酸,12-ヒドロキシステアリン酸,ウンデシレン酸,トール油,ラノリン脂肪酸などの天然脂肪酸、イソノナン酸,カプロン酸,2−エチルブタン酸,イソペンタン酸,2−メチルペンタン酸,2−エチルヘキサン酸,イソペンタン酸などの合成脂肪酸が挙げられる。
【0021】
上記アルコール類としては、エタノール,イソピロパノール,ラウリルアルコール,セタノール,ステアリルアルコール,オレイルアルコール,ラノリンアルコール,コレステロール,フィトステロールなどの天然アルコール、2−ヘキシルデカノール,イソステアリルアルコール,2−オクチルドデカノールなどの合成アルコールが挙げられる。
【0022】
上記多価アルコール類としては、酸化エチレン,エチレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,エチレングリコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノブチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ポリエチレングリコール,酸化プロピレン,プロピレングリコール,ポリプロピレングリコール,1,3−ブチレングリコール,グリセリン,ペン
タエリトリトール,ソルビトール,マンニトールなどが挙げられる。
【0023】
上記エステル類としては、ミリスチン酸イソプロピル,パルミチン酸イソプロピル,ステアリン酸ブチル,ラウリン酸ヘキシル,ミリスチン酸ミリスチル,オレイン酸オレイル,オレイン酸デシル,ミリスチン酸オクチルドデシル,ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル,乳酸セチル,乳酸ミリスチル,フタル酸ジエチル,フタル酸ジブチル,酢酸ラノリン,モノステアリン酸エチレングリコール,モノステアリン酸プロピレングリコール,ジオレイン酸プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0024】
上記金属セッケン類としては、ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛,ステアリン酸カルシウム,パルミチン酸亜鉛,ミリスチン酸マグネシウム,ラウリン酸亜鉛,ウンデシレン酸亜鉛などが挙げられる。
【0025】
上記ガム質、糖類及び水溶性高分子化合物としては、アラビアゴム,ベンゾインゴム,ダンマルゴム,グアヤク脂,アイルランド苔,カラヤゴム,トラガントゴム,キャロブゴム,クインシード,寒天,カゼイン,乳糖,果糖,ショ糖及びそのエステル,トレハロース及びその誘導体,デキストリン,ゼラチン,ペクチン,デンプン,カラギーナン,カルボキシメチルキチン又はキトサン,エチレンオキサイドなどのアルキレン(C2〜C4)オキサイドが付加されたヒドロキシアルキル(C2〜C4)キチン又はキトサン,低分子キチン又はキトサン,キトサン塩,硫酸化キチン又はキトサン,リン酸化キチン又はキトサン,アルギン酸及びその塩,ヒアルロン酸及びその塩,コンドロイチン硫酸及びその塩,ヘパリン,エチルセルロース,メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,カルボキシエチルセルロース,カルボキシエチルセルロースナトリウム,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ニトロセルロース,結晶セルロース,ポリビニルアルコール,ポリビニルメチルエーテル,ポリビニルピロリドン,ポリビニルメタアクリレート,ポリアクリル酸塩,ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイドなどのポリアルキレンオキサイド又はその架橋重合物,カルボキシビニルポリマー,ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0026】
上記界面活性剤としては、アニオン界面活性剤(アルキルカルボン酸塩,アルキルスルホン酸塩,アルキル硫酸エステル塩,アルキルリン酸エステル塩)、カチオン界面活性剤(アルキルアミン塩,アルキル四級アンモニウム塩)、両性界面活性剤:カルボン酸型両性界面活性剤(アミノ型,ベタイン型),硫酸エステル型両性界面活性剤,スルホン酸型両性界面活性剤,リン酸エステル型両性界面活性剤、非イオン界面活性剤(エーテル型非イオン界面活性剤,エーテルエステル型非イオン界面活性剤,エステル型非イオン界面活性剤,ブロックポリマー型非イオン界面活性剤,含窒素型非イオン界面活性剤)、その他の界面活性剤(天然界面活性剤,タンパク質加水分解物の誘導体,高分子界面活性剤,チタン・ケイ素を含む界面活性剤,フッ化炭素系界面活性剤)などが挙げられる。
【0027】
上記ビタミン類としては、ビタミンA群:レチノール,レチナール(ビタミンA1),デヒドロレチナール(ビタミンA2),カロチン,リコピン(プロビタミンA)、ビタミンB群:チアミン塩酸塩,チアミン硫酸塩(ビタミンB1),リボフラビン(ビタミンB2),ピリドキシン(ビタミンB6),シアノコバラミン(ビタミンB12),葉酸類,ニコチン酸類,パントテン酸類,ビオチン類,コリン,イノシトール類、ビタミンC群:アスコルビン酸及びその誘導体、ビタミンD群:エルゴカルシフェロール(ビタミンD2),コレカルシフェロール(ビタミンD3),ジヒドロタキステロール、ビタミンE群:トコフェロール及びその誘導体,ユビキノン類、ビタミンK群:フィトナジオン(ビタミンK1),メナキノン(ビタミンK2),メナジオン(ビタミンK3),メナジオール(ビタミンK4),その他、必須脂肪酸(ビタミンF),カルニチン,フェルラ酸,γ-オリザノール,オロット酸,ビタミンP類(ルチン,エリオシトリン,ヘスペリジン),ビタミンUなどが挙げられる。
【0028】
上記アミノ酸類としては、バリン,ロイシン,イソロイシン,トレオニン,メチオニン,フェニルアラニン,トリプトファン,リジン,グリシン,アラニン,アスパラギン,グルタミン,セリン,システイン,シスチン,チロシン,プロリン,ヒドロキシプロリン,アスパラギン酸,グルタミン酸,ヒドロキシリジン,アルギニン,オルニチン,ヒスチジンなどや,それらの硫酸塩,リン酸塩,硝酸塩,クエン酸塩,或いはピロリドンカルボン酸のごときアミノ酸誘導体などが挙げられる。
【0029】
また、本発明の皮膚外用剤には、本発明のメラニン産生抑制剤に用いられるX−keton以外のメラニン産生抑制成分を配合してもよく、例えば、パンテテイン−s−スルホン酸、イソフェルラ酸、エラグ酸、アルブチン、コージ酸、リノール酸、リノール酸メチル、4−ブチルレゾルシノール等を1種または2種以上配合することも可能である。
【0030】
本発明の皮膚外用剤の剤型は特に制限はなく、通常医薬品、医薬部外品、化粧品などに用いられているもの、例えば軟膏、クリ−ム、乳液、ロ−ション、パック、浴用剤などの剤型が挙げられる。
【0031】
本発明の皮膚外用剤の使用量は、本発明のメラニン産生抑制剤の含有量、使用者の体重、年齢、性別、症状等によって適宜選択されるが、例えばクリーム状、軟膏状の場合、皮層面1cm2当たり5 mg〜50 mg使用するのが好ましく、10 mg〜30 mg使用するが更に好ましい。また、液状製剤の場合は、皮層面1cm2当たり2 mg〜30 mg使用するのが好ましく、5 mg〜20 mg使用するが更に好ましい。
【0032】
なお、本発明の皮膚外用剤の製剤化は、公知の製剤技術により行うことができる。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
以下に、X−ketonの作用を、実施例に基づいて説明する。尚、以下で使用したX−ketonは上記合成例1に記載の方法により合成した。合成されたX−ketonの13C-NMR(67.5 MHz, CDCl3)での測定結果を図1に、1H-NMR(270 MHz, CDCl3)での測定結果を図2に、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)での測定結果を図3に示す。
また、マヌールは市販されているもの(商品名Manool、販売元Westchem Industries Inc.)を使用した。
【0035】
<実施例1> 色素細胞に対するX−ketonのメラニン産生抑制作用
1)試料溶液の調製
X−keton及びマヌールはジメチルスルフォキシドに溶解して試料溶液とした。
2)X−ketonのメラニン産生抑制作用
プラスチック培養フラスコ(75cm2)に5×104個のB−16メラノ−マ細胞(大日本製薬株式会社)を播種し、10%血清を含むイ−グルMEM培地を用い、CO2インキュベーターで5%二酸化炭素存在下(空気95%、二酸化炭素5%)、37℃で培養した。2日後、表2に示した試料を、培地中の濃度で10-5、10-4質量%になるように添加し、さらに4日間培養した。
【0036】
培養終了後、培地を除去し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄後、トリプシン及びEDTA含有培地を使用して細胞をフラスコから剥離させ、細胞懸濁液から遠心分離により細胞を回収した。得られた細胞をPBSで2回洗浄した後、沈渣の白色度を目視観察した
。なお、上記試料溶解用溶媒(ジメチルスルフォキシド)のみを添加したものを対照とした。観察結果は、下記表1の基準により評価し、その評価結果を表2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
その後、さらに沈渣に1N水酸化ナトリウム(2ml)を加え加熱溶解し、冷却後クロロホルム(2ml)を加えて再び遠心分離した。得られた上清の400nmにおける吸光度を測定し、予め合成メラニンを用いて作成した検量線よりメラニン量(単位はμg)を求めた。尚、メラニン量は104個の細胞あたりの量として求めた。その結果を表3に示す。
【0040】
尚、表中の抑制率は、下記式1により求めた。
【0041】
(式1)抑制率(%)=<試料溶解用の溶媒を添加した細胞のメラニン量(対照)−各試料を添加した細胞のメラニン量>×100/<試料溶解用の溶媒を添加した細胞のメラニン量(対照)>
【0042】
【表3】

【0043】
これらの結果から明らかなように、X−ketonは対照やマヌールに比し、色素細胞内のメラニン産生を顕著に抑制する作用を示した。
【0044】
<実施例2> X−ketonの色素沈着抑制作用
各実験群に使用する茶色モルモット(東京実験動物株式会社)(各7匹ずつ計21匹)
の背部皮膚を電気バリカンとシェ−バ−で除毛、剃毛し、この部位を1.5×1.5cmの照射窓を左右対照に計6個有する黒布で覆い、この布の上からFL20S・E30ランプ(株式会社東芝)を光源として、対象から30cmの位置より、1mW/cm2/secの紫外線を4分20秒間照射した。
【0045】
この操作を1日1回の割合で3日間連続して行った。照射終了翌日から表5に記載の試料溶液(エタノ−ルに溶解)20μlを実験終了日まで1日1回塗布した。また、エタノールのみの塗布を対照として同様に実験を行った。実験開始21日目に処置部の色素沈着の程度を表4の評価基準に従い、肉眼観察により評価した。結果は平均値(各実験区7匹の平均値)として表5に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
表5に示したように、X−ketonは、皮膚に塗布した場合、0.5質量%濃度において、マヌールに比して、紫外線によるメラニン産生を顕著に抑制した。
【0049】
以上に示したように、本発明に用いるX−ketonは、メラニン産生を抑制する作用、色素の沈着を抑制する作用を有する。その結果、これを皮膚外用剤基剤中に一定割合以上配合したものは、皮膚に対する格段に優れた色白効果をもたらし、シミ、ソバカス、日焼けによる色黒等の局所性色素沈着症、並びにアジソン氏病などの全身性色素沈着症の改善・治療用に利用できる。しかも、安全性にも優れるため長期連用使用が可能である。
【0050】
以下に、本発明の皮膚外用剤を実施例に基づいて説明する。尚、以下の実施例中の配合量は質量部である。
【0051】
<実施例3> 水中油型クリ−ム
A.POE(30)セトステアリルエーテル 2.0質量部
グリセリンモノステアレート 10.0質量部
流動パラフィン 10.0質量部
ワセリン 4.0質量部
セタノール 5.0質量部
γ−トコフェロール 0.05質量部
BHT 0.01質量部
ブチルパラベン 0.1質量部
X−keton 0.2質量部
B.プロピレングリコール 10.0質量部
精製水 58.64質量部
【0052】
1)本発明の皮膚外用剤(水中油型クリ−ム)の製法
A、Bの各成分を各々混合し、80℃に加熱した。これらを加えて撹拌乳化し、その後冷却し水中油型クリ−ムを得た。
【0053】
2)本発明の皮膚外用剤の色素沈着改善効果
上記で得られたクリ−ム(実施例3)と実施例3においてX−ketonをマヌールに置き換えた比較例1、及び実施例3においてX−ketonを水に置き換えた対照とを、統計的に同等な60名の色黒、シミ、ソバカスに悩む女性集団に3ケ月連用させ、色素沈着改善効果を評価した。その結果を表6に示す。
【0054】
【表6】

【0055】
この結果から明らかなように、本発明の皮膚外用剤は、X−ketonの代わりにマヌールを配合した比較例1及びX−ketonの代わりに水を配合した対照に比し、格段に有効な色素沈着改善効果を有することが示された。尚、本発明のクリーム(実施例3)塗布部位において、皮膚に好ましくない反応は全く観察されなかった。
【0056】
<実施例4> 乳液
A.合成ゲイロウ 2.0質量部
セタノール 1.0質量部
スクワラン 4.0質量部
ステアリン酸 1.0質量部
POE(25)モノステアリン酸 2.2質量部
グリセリンモノステアレート 0.5質量部
ブチルパラベン 0.1質量部
γ−トコフェロール 0.05質量部
BHT 0.01質量部
X−keton 1.0質量部
B.1,3−ブチレングリコール 3.0質量部
プロピレングリコール 7.0質量部
苛性カリ 0.2質量部
精製水 77.44質量部
【0057】
1)本発明の皮膚外用剤(乳液)の製法
A及びBの成分を70℃で各々撹拌しながら溶解した。Bの成分にAの成分を加え予備
乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化し、乳化後かき混ぜながら30℃まで冷却し乳液を得た。
【0058】
<実施例5> 乳液
A.合成ゲイロウ 2.5質量部
セタノール 1.0質量部
スクワラン 4.0質量部
ステアリン酸 1.0質量部
POE(25)モノステアリン酸 2.2質量部
グリセリンモノステアレート 0.5質量部
ブチルパラベン 0.1質量部
γ−トコフェロール 0.05質量部
BHT 0.01質量部
X−keton 0.5質量部
B.1,3−ブチレングリコール 3.0質量部
プロピレングリコール 7.0質量部
苛性カリ 0.2質量部
精製水 77.94質量部
【0059】
1)本発明の皮膚外用剤(乳液)の製法
A及びBの成分を70℃で各々撹拌しながら溶解した。Bの成分にAの成分を加え予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化し、乳化後かき混ぜながら30℃まで冷却し乳液を得た。
【0060】
<実施例6> 化粧水
A.POE(20)ソルビタンモノラウレート 1.5質量部
POE(20)モノラウレート 0.5質量部
エタノール 10.0質量部
γ−トコフェロール 0.02質量部
X−keton 0.1質量部
B.グリセリン 5.0質量部
プロピレングリコール 4.0質量部
クエン酸 0.15質量部
クエン酸ナトリウム 0.1質量部
精製水 78.63質量部
【0061】
1)本発明の皮膚外用剤(化粧水)の製法
Aの各成分を合わせ、室温下で溶解した。一方、Bの各成分も室温下で溶解し、これをAの成分に加えて可溶化し化粧水を得た。
【0062】
<実施例7> パック料
A.ポリビニルアルコール 15.0質量部
精製水 40.0質量部
B.ビサボロール 0.5質量部
γ−トコフェロール 0.02質量部
エタノール 4.0質量部
1,3−ブチレングリコール 4.0質量部
POE(8)POP(55) 3.0質量部
X−keton 3.0質量部
精製水 30.48質量部
【0063】
1)本発明の皮膚外用剤(パック料)の製法
Aの成分を室温にて分散溶解した。これにBの成分を加えて均一に溶解しパック料を得た。
【0064】
<実施例8> 水中油型クリ−ム
A.POE(30)セチルエーテル 2.0質量部
グリセリンモノステアレート 10.0質量部
流動パラフィン 10.0質量部
ワセリン 4.0質量部
セタノール 5.0質量部
γ−トコフェロール 0.05質量部
BHT 0.01質量部
ブチルパラベン 0.1質量部
X−keton 0.01質量部
B.プロピレングリコール 10.0質量部
精製水 58.83質量部
【0065】
1)本発明の皮膚外用剤(水中油型クリ−ム)の製法
A、Bの各成分を各々混合し、80℃に加熱した。これらを加えて撹拌乳化し、その後冷却し水中油型クリ−ムを得た。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】合成例1に記載の方法により合成されたX−ketonの13C-NMR (67.5 MHz, CDCl3)による測定結果。
【図2】合成例1に記載の方法により合成されたX−ketonの1H-NMR (270 MHz, CDCl3)による測定結果。
【図3】合成例1に記載の方法により合成されたX−ketonのフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)による測定結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される13−オキソ−14,15−ジノール−8(17)−ラブダン(13-oxo-14,15-dinor-8(17)-labdane)からなるメラニン産生抑制剤。
【化1】


【請求項2】
皮膚外用剤であって、請求項1に記載のメラニン産生抑制剤を、前記皮膚外用剤全量に対して0.0001〜10質量%含有することを特徴とする皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−137705(P2006−137705A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328861(P2004−328861)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】