説明

メルトブロー紡糸装置およびメルトブロー紡糸方法

【課題】メルトブロー法により紡糸を行う際に、繊維の延伸と繊維の冷却とのタイムスパンを小さくする手段を講じることで、繊維の径の更なる微細化、柔軟化を実現する。
【解決手段】紡糸ダイ10の、熱風吐出スリット11eと冷風吐出スリット12eとの間に、冷却用流体供給スリット14を設ける。この冷却用流体供給スリット14に供給フード71を差し込んで、ポリマー通路11b、12bに冷却した紡糸油剤mを送り込む。冷風吐出スリット12eと熱風吐出スリット11eとの吐出風量の差から生じる負圧により、溶融ポリマーpを繊維fに延伸させる。これとほぼ同時に、冷却用流体供給スリット14を通じ溶融ポリマーpに冷却した紡糸油剤mを付与して冷却する。繊維fに熱が残らないため、結晶化が抑制されて延伸性が向上し、柔軟性も増し、風合いが良くなる。また、紡糸油剤mは、毛羽立ち、静電気の発生をも抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、極細の柔軟な長繊維(フィラメント)を得ることができるメルトブロー紡糸装置と、極細の柔軟な長繊維を得るためのメルトブロー紡糸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細手の長繊維の製造方法であるメルトブロー法は、概略図1のようである。
なお、図1は、この発明の実施形態を示すため、発明にかかる部分については、ここでは説明を省略する。
まず、熱可塑性ポリマーの原料チップを押出機30のホッパ31に投入し、押出機30に備えられたヒータで加熱溶融し、これを紡糸ダイ10のポリマー通路へと押出し供給する。
ポリマー通路を流通する溶融ポリマーは、ポリマー通路下端近傍において、紡糸ダイ10に設けられた吐出スリットから吐き出される大量の風により随伴力で延伸され、並列する多数の長繊維へと紡出される。
こうして得られた繊維は、冷却チャンバ40を通して冷却され、ガイドロール50で案内され、巻き取り機60に巻き取られる。
【0003】
ここで、バルキー性の高い風合いの良い繊維を得るには、その径を細くすることが肝要であり、繊維径の微細化は、繊維製造業者各社が競って取り組む課題となっている。
【0004】
径の細い繊維を得るための方法として、海島型、割繊型等の複合繊維紡糸法や、レーザー加熱紡糸法、静電紡糸法があるが、物理的、化学的工程が複雑であるため、手間がかかり、製造コストも嵩む問題がある。
そのため、メルトブロー法により、直接的に微細な径の繊維を得ることが要請されている。
【0005】
ところで、従来のメルトブロー法における紡糸ダイは、紡糸ダイのポリマー通路下端近傍の両側に、近接して設けられた一対の熱風吐出スリットから吐き出される熱風による随伴力で溶融ポリマーを延伸していた。
そのため、繊維の径を細くするには、熱風を大量に消費し、製造コストが高かった。
また、溶融ポリマーのポリマー通路からの吐出量と、熱風のスリットからの吐出量とのバランスを調整して所望の径の繊維を得るのが難しく、特に径が細い繊維を得るには、非常に微妙なバランスを調整せねばならなかった。
【0006】
そこで、本発明者は、特許文献1から3に記載されているように、溶融ポリマーをポリマー注入口から下端のポリマー注出口に向けて流通させる並列する複数のポリマー通路と、
熱風を吐出させる吐き出し口に向けて下り勾配をもって傾斜し、この吐き出し口がポリマー通路の下端近傍の両側において対向するポリマー通路上流側の一対の熱風吐出スリットと、
冷風を吐出させる吐き出し口に向けて下り勾配を持って傾斜し、この吐き出し口がポリマー通路の下端近傍の両側において対向するポリマー通路下流側の一対の冷風吐出スリットと、
熱風吐出スリットと冷風吐出スリットとの間にあって、各ポリマー通路を外気に開放する冷却用流体供給路とが設けられ、冷風吐出スリットの吐出風量を、熱風吐出スリットの吐出風量より大になるように制御してエアを供給するメルトブローの紡糸ダイを先に提案している。
【0007】
このような紡糸ダイのポリマー通路に、溶融したポリマーを供給すると、まず、熱風吐出スリットの対向する吐き出し口から吐き出される熱風の随伴力により、溶融ポリマーがポリマー通路下端のポリマー注出口から挟まれるようにして引き出される。
つぎに、冷風吐出スリットの対向する吐き出し口から大量に冷風が吐き出されるため、熱風と冷風の風量差から負圧が発生し、これにより先に引き出された溶融ポリマーが紡糸ダイ下端方向に吸引されて急激に延伸される。
【0008】
こうして、溶融ポリマーが冷却せず、径の微細化がスムーズに行われる必要最小限の熱風を付与したうえで、大量の冷風により発生する負圧により延伸する構成を採用したため、複合紡糸法等によらず直接的に、かつ熱風を大量に消費せずに低コストで、さらに熱風と冷風の風量バランスを適宜調整することで簡単に、非常に径の細い長繊維を得ることができる。
【0009】
ところで、従来からメルトブロー法により長繊維を得る際には、溶融ポリマーに水蒸気などの冷却用流体を付与することがよく行われている。
このように冷却用流体で紡糸後の繊維を急冷すると、繊維に残存する熱が除去されて、繊維の結晶化が抑制され、繊維の延伸性および柔軟性が向上する。
【0010】
冷却用流体を付与する方法としては、特許文献4に記載されているように、紡糸ダイより所定距離(通常40mmから100mm)下方に、スプレーなどからなる流体供給装置を配置し、これから繊維に冷却流体を吹き付けることによるのが通常である。
【特許文献1】特開2000−336517号公報
【特許文献2】特開2002−371427号公報
【特許文献3】特開2003−3320号公報
【特許文献4】特開平10−204767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、特許文献1の紡糸ダイにおいても、同様に、さらに微細径で柔軟性のある長繊維を得るためには、冷却用流体を延伸の際に供給して結晶化を抑制することが必要である。
しかし、従来のように、紡糸ダイよりも下方で冷却する構成では、紡出から冷却までにタイムスパンがあるため、その間に繊維に残存する熱により結晶化が進行してしまう問題がある。
よって、繊維の冷却点を繊維の延伸点により近づけることが、結晶化をさらに抑制し、繊維の延伸性、柔軟性をさらに高めるために必要である。
【0012】
そこでこの発明は、メルトブロー法により紡糸を行う際に、繊維の延伸と繊維の冷却とのタイムスパンを小さくする手段を講じることで、結晶化を抑制し、繊維の径の更なる微細化、柔軟化を実現することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決するため、この発明にかかるメルトブロー紡糸装置を以下の構成とした。
すなわち、紡糸ダイを、溶融ポリマーをポリマー注入口から下端のポリマー注出口に向けて流通させる並列する複数のポリマー通路と、熱風を吐出させる吐き出し口に向けて下り勾配をもって傾斜し、この吐き出し口がポリマー通路の下端近傍の両側において対向するポリマー通路上流側の一対の熱風吐出スリットと、冷風を吐出させる吐き出し口に向けて下り勾配を持って傾斜し、この吐き出し口がポリマー通路の下端近傍の両側において対向するポリマー通路下流側の一対の冷風吐出スリットと、熱風吐出スリットと冷風吐出スリットの間にあって、ポリマー通路に冷却用流体を供給する冷却用流体供給路とを有するものとする。
そして、紡糸用エア供給装置により、この紡糸ダイに、冷風吐出スリットの吐出風量が、熱風吐出スリットの吐出風量より大になるようにエアを供給する。
また、冷却用流体供給装置により、この紡糸ダイの冷却用流体供給路を通じ、各ポリマー通路を流通する溶融ポリマーに冷却用流体を付与する。
【0014】
この紡糸ダイのポリマー通路のポリマー注入口から、押出機により溶融ポリマーを注入すると、ポリマー通路を下降する溶融ポリマーが熱風吐出スリットの吐き出し口から吐出される熱風と接触しその随伴力により引き出される。
そして、熱風吐出スリットと冷風吐出スリットの風量の差から生じる負圧により、引き出された溶融ポリマーは急激に延伸され、長繊維となってポリマー注出口から送り出される。
この過程において、紡糸ダイの冷却用流体供給路を通じて送り込まれる冷却用流体により、溶融ポリマーが冷却される。
このように、繊維の紡出と冷却とがほぼ同時におこなわれるため、熱による結晶化が抑制されて延伸性が向上し、一層微細径の柔軟な長繊維を得ることができる。
また、この繊維はクリンプの大きな風合いに優れたものとなる。
そしてこのように結晶化の問題を解決したため、この繊維から不織布を形成すると靭性に非常に優れたものとなる。
【0015】
ここで、紡糸ダイの熱風吐出スリットと、冷風吐出スリットの両吐き出し口の間があまりに開きすぎると、生じる負圧が小さくなり、延伸性が落ちる。
そのため、熱風吐出スリットと、冷風吐出スリットとの間に位置する冷却用流体供給路の上下の幅は、あまり大きくは取れない。
一方、冷却用流体供給路の上下の幅が狭すぎると、十分な冷却が行われず、繊維に熱が残り、結晶化が進行してしまう。
そこで、冷却用流体供給路のポリマー通路に連通する近傍上下の幅を、10mmから30mmに形成すると、冷却流体により十分な冷却が行われ、かつ延伸に十分な負圧が得られる。
【0016】
冷却用流体供給装置は、ミスト発生装置を有し、このミスト発生装置によりミスト状にされた冷却用液体を紡糸ダイに送り込むと、ミストは拡散性に優れるため、ポリマーが満遍なく冷却される。
また、溶融ポリマーの冷却後には、熱風吐出スリットと冷風吐出スリットとから吐き出される風量の差により生じる負圧により、このミスト状の冷却用液体は繊維の紡出後にポリマー注出口から外気へと飛ばされ繊維上にほとんど残存しない。
よって、特別な装置等を用いて繊維に残存した冷却用液体を除去する必要がなく、処理が楽であり、コストもかからない。
【0017】
このようなミスト状の冷却用液体としては、水蒸気を用いると、コストが安く、また仮に繊維に残存しても無害であるため好ましい。
また、冷却用液体として、ミスト状の紡糸油剤を用いると、冷却されるとともに、繊維中に油剤が付与されるため、繊維同士の滑りがよくなって延伸性が向上し、毛羽立ちが防止され、静電気の発生も抑制される。
そして、この紡糸油剤も、残量をコントロールするようにして付与すれば、繊維の後工程で有用となる。
【0018】
紡糸ダイの冷却用流体供給路を、並列するポリマー通路を中心としてその両側に対向する一対の冷却用流体供給スリットとし、これらは並列する複数のポリマー通路に通じるものとし、この冷却用流体供給スリットの一方または双方に油剤供給装置をつなぐと、一対のスリットに冷却流体を流通させることで複数のポリマー通路を流通する溶融ポリマーを同時に冷却できるため、効率的である。
また、構造が簡単であるため、紡糸ダイの製造コストを削減できる。
なお、冷却用流体供給装置を冷却用流体供給スリットの一方側のみにつないだ場合には、冷却用流体の接触による溶融ポリマーの冷却に偏りが生じる(いわゆる偏冷却状態)ため、特にクリンプの大きな風合いのよい繊維を簡単に得ることができる。
【0019】
紡糸ダイを、熱風吐出スリットが設けられた上流側ダイと、冷風吐出スリットが設けられた下流側ダイとから構成し、この上下流ダイ相互を、上流側ダイを上側に、下流側ダイを下側にして、所定の間隔を保ってボルト等により連結すると、熱風吐出スリットと冷風吐出スリットとの間に簡単に冷却用流体供給スリットを形成することができ、製造が容易である。
【0020】
冷却用流体供給装置は、ミスト発生装置と、このミスト発生装置に後端のミスト入口が連結され、先端の上面ほぼ全部が開放されたミスト出口に向かい横幅が広がり、縦幅が狭まる中空の扁平な供給フードとを有するものとする。
そして、この供給フードを紡糸ダイの冷却用流体供給スリットの一方または双方に差し込み、ミスト出口をポリマー通路に近接させ、ミスト状の冷却用液体をミスト出口から出た直後に溶融ポリマーに付与するようにすると、ミストがポリマーへ付着する前に大気中に拡散してしまうことが防がれ、無駄なく効率よく繊維の冷却が行われる。
また、供給フードの先端側は縦幅が狭いため、冷却用流体供給スリットに差し込みやすく、横幅が広いため、並列する多数のポリマー通路に一の供給フードでミスト状冷却用液体を送り込むことができるため効率がよい。
そして、供給フードの後端側は、縦幅が広いため、比較的太いパイプ、ホース等を連結することができ、ミスト発生装置から多くの量の冷却用流体を供給することができる。
なお、ここで、冷却用流体供給スリットの一方のみに供給フードを差し込んで冷却すると、上述したように特にクリンプの大きな風合いのよい繊維が得られる。
【0021】
ここで、供給フードの先端上面のミスト出口からミスト状の冷却用流体を立ち昇らせ、熱風吐出スリットの吐き出し口下端から3mmから8mmの位置より冷却用流体を溶融ポリマーに付与するように調節すると、延伸が開始されるのとほぼ同時に冷却されて結晶化が十分に抑制される。
【発明の効果】
【0022】
上述したように、紡糸ダイの熱風吐出スリットと冷風吐出スリットの間に、冷却用流体供給路を設け、この冷却用流体供給路から冷却用流体を送り込み、繊維の延伸とほぼ同時に冷却する構成を採用したため、余熱による繊維の結晶化が抑制され、延伸性が向上し、繊維径の更なる微細化および柔軟化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつこの発明の実施の形態について説明する。
図1に、実施形態にかかるメルトブロー紡糸装置1の全体概略を示すが、メルトブロー法については上述したため、説明を省略する。
【0024】
図2および図4に示すように、メルトブロー紡糸装置1の紡糸ダイ10は、上側ダイ11と下側ダイ12の2つのブロック状の金属体をボルト13で連結することにより形成されている。
なお、ボルト13に代えて支持体を用いてもよい。
【0025】
まず、図2、図4に示すように、上側ダイ11には、上面の口の広いポリマー注入口11aから下面の開口へとほぼ垂直に連通するポリマー通路11bが幅方向に並列して複数設けられている。
また、ポリマー通路11bの両側には、上側ダイ11上面の熱風送入口から下面方向へとほぼ垂直に延びる対の熱風通路11cが幅方向に等間隔に並列して複数設けられている。
図示のように、熱風通路11cは、外側と内側の二列からなる。
この熱風通路11cのそれぞれは、その下端で比較的大きな空間である熱風室11dに通じている。
熱風室11dは、上側ダイ11の内部においてポリマー通路11bの両側に対称に配され、上側ダイ11の幅方向に延びている。
熱風室11dの内側下端は、上側ダイ11の下面方向に延びる一対の熱風吐出スリット11eに通じており、この熱風吐出スリット11eは、上側ダイ11の下面において開放されて吐き出し口11fを形成する。
図示のように、熱風吐出スリット11eは、ポリマー通路11bの下面開口方向に下り勾配をもって傾斜しており、その吐き出し口11fは、ポリマー通路11bの並列する複数の下面開口の両側を挟み込むようにして近接している。
【0026】
次に、図2および図4に示すように、下側ダイ12には、上面の開口から下面のポリマー注出口12aへとほぼ垂直に連通するポリマー通路12bが、上側ダイ11のポリマー通路11bに連通するようにして幅方向に並列して複数設けられている。
また、ポリマー通路12bの両側には、下側ダイ12側面の冷風送入口から内側に向けてほぼ水平に延びる対の冷風通路12cが幅方向に等間隔に並列して複数設けられている。
この冷風通路12cのそれぞれは、その内端で比較的大きな空間である冷風室12dに通じている。
冷風室12dは、下側ダイ12の内部においてポリマー通路12bの両側に対称に配され、下側ダイ12の幅方向に延びている。
冷風室12dの内側上端は、下側ダイ12の下面方向に延びる一対の冷風吐出スリット12eに通じており、この冷風吐出スリット12eは、ポリマー通路12bのポリマー注出口12a近傍において連通して開放され、吐き出し口12fを形成する。
図示のように、冷風吐出スリット12eは、冷風室12dからまずほぼ水平に延び、つぎにポリマー通路12bのポリマー注出口12a方向に下り勾配をもって傾斜しており、その吐き出し口12fは、ポリマー通路12bの並列するポリマー注出口12aを両側から挟み込んで連通している。
【0027】
図2および図4に示すように、上側ダイ11と下側ダイ12は所定の間隔D(10mmから30mm程度)をおいてボルト13で連結されているため、上側ダイ11下面と下側ダイ12上面との間に扁平な空間が形成され、この空間はポリマー通路11b、12bを外気に開放している。
そのため、この空間は、紡糸ダイ10の両側面からその内部に、冷却用流体を供給可能な冷却用流体供給スリット14を形成している。
このように、間隔をおいてボルト13で連結するだけで、簡単に冷却用流体を供給する通路が形成されることになる。
【0028】
図1のように、上側ダイ11の熱風挿入口には、ヒータ21を介して第一のブロワ22がつながれ、これにより熱風吐出スリット11eの吐き出し口11fから熱風を吐出可能となっている。
また、下側ダイ12の冷風送入口には、直接第二のブロワ23がつながれ、これにより冷風吐出スリット12eの吐き出し口12fから冷風を吐出可能となっている。
これらブロワ22,23は、第二のブロワの風量23が、常に第一のブロワ22の風量を上回るように制御可能となっており、合わせてエア供給装置20を形成する。
なお、図示のように、第二のブロワ23は冷却チャンバ40にもつながれて、チャンバ40にも冷風を送り込んでいる。
【0029】
図1および図4に示すように、紡糸ダイ10の冷却用流体供給スリット14には、供給フード71が、その先端部がポリマー通路11b、12bに近接するようにして差し込まれている。
図3のように、供給フード71は、後端から先端に向かい、横幅がなだらかに広がり、縦幅がなだらかに狭まる中空の扁平体である。
供給フード71の後端には、スリーブ状のミスト入口71aが設けられ、先端には、その上面のほぼ全部が開放されたミスト出口71bが設けられている。
図4のように、供給フード71のミスト入口71aには、パイプ、ホース等を介し、液体をミスト状にする周知のミスト発生装置72がつながれ、さらにこのミスト発生装置には、冷却液槽73がつながれて冷却用流体供給装置70を形成している。
冷却液槽73で冷却され、ミスト発生装置72に送り込まれた液体は、ミスト状にされ、ミスト入口71aから供給フード71内に送り込まれる。
【0030】
紡糸装置1の構成は以上のようであり、次にこの装置1を用いて極細の長繊維fを紡出する工程について図5を参照しつつ説明する。
【0031】
まず、紡糸ダイ10のポリマー注入口11aから、押出機30により溶融したポリマーpを注入し、熱風送入口および冷風送入口に、それぞれ第一、第二ブロワ22、23により熱風および冷風を送り込む。
溶融ポリマーpは、ポリマー通路11bを下降し、熱風および冷風は、図5中矢印で示すように、熱風吐出スリット11eおよび冷風吐出スリット12eの吐き出し口11f、12fからそれぞれ吐出される。
【0032】
また、供給フード71に、冷却液槽73で冷却され、ミスト発生装置72でミスト状にされた紡糸油剤mをミスト入口71aから送り込む。
図5のように、ミスト入口71aから送り込まれた紡糸油剤mは供給フード71内で徐々に拡散し、フード先端の上面に設けられたミスト出口71bから立ち昇る。
紡糸油剤mは、ポリエステルなど水分に影響されない繊維を紡出する場合には、水溶性油を10%から12%程度含有する水溶液(いわゆるエマルジョン)を用い、ナイロン(登録商標)など水分を吸収し、膨張する繊維を紡出する場合には、非水系の紡糸油剤を用いる。
【0033】
ポリマー通路11bを下降する溶融ポリマーpは、まず、熱風吐出スリット11eの吐き出し口11fから内側に向かい吐出される熱風との接触による随伴力により、両側から挟み込まれるようにして、上側ダイ11の下面開口から引き出される。
【0034】
次に、図5中矢印の長さで示すように、冷風吐出スリット12eの吐き出し口12fからの吐出風量は、熱風吐出スリット11eの吐き出し口11fからの吐出風量を上回るように制御されているため、ポリマー通路11b、12bに負圧が生じる。
紡糸ダイ10の冷却用流体供給スリット14の上下の幅が10mm〜30mm程度に形成されているため、両吐き出し口11f、12fが非常に近接している。
そのため生じる負圧は、非常に大きなものとなっており、この負圧により、熱風に引き出された溶融ポリマーpは急激に延伸されて長繊維fとなる。
【0035】
また、この際に上側ダイ11の下面開口から引き出された溶融ポリマーpには、図示のように、供給フード71から供給されるミスト状の紡糸油剤mが付着し、付着により冷却され、かつ紡糸油剤mにコーティングされる。
ここで、図示のように、紡糸油剤mのポリマーpへの付着開始点と、熱風吐出スリット11eの吐き出し口11fとの距離(すなわち、付着開始点と上側ダイ11下面との距離)dは、3mmから8mm程度であるから、引き出されたとほぼ同時に紡糸油剤が付着する。
この紡糸油剤mの付着により冷却され、冷却されることにより結晶化が抑制されるため、ポリマーpの延伸性が向上し、柔軟性も増す。
そして、油剤の付与により滑りがよくなくため、さらに延伸性が向上し、繊維fの毛羽立ちが防止され、静電気の発生も抑制される。
このため、極細の柔軟な長繊維fが形成され、紡糸ダイ10のポリマー注出口12aから送り出される。
【0036】
ここで、紡糸油剤mはミスト状であるため、このような繊維fの延伸形成後には、ポリマー通路11b、12bに生じた負圧により、図5で示すように、ポリマー注出口12aから飛ばされて繊維fから離れ、繊維fにほとんど残ることはない。
【0037】
なお、この実施形態においては、冷却用流体として冷却した紡糸油剤mを用いたが、これに代えて水蒸気などを用いてもよい。
水蒸気の場合、紡糸後に仮に繊維に残存したとしても、無害であるため安全であり、後処理の必要もない。
また、実施形態では、両方の冷却流体供給スリット14から紡糸油剤mを供給しているが、片方のみから供給してもよく、その場合、偏冷却状態となるため、特にクリンプの大きな風合いのよい繊維を得ることができる。
【0038】
また、実施形態では、紡糸ダイ10を上側ダイ11と下側ダイ12とから形成しているが、一体物でもよく、冷却流体を供給する供給路はスリット14でなくともよく、たとえば、紡糸ダイ10側面から並列する複数のポリマー通路11b、12bにそれぞれ個別に通じる並列する円孔型の冷却用流体流通路を設けてもよい。
【0039】
なお、本発明者がこの紡糸装置1を用いて試作を行ったところ、約0,035デニールの極細の長繊維を得ることができた。
また、この紡糸装置1で得た長繊維から不織布を試作したところ、靭性が非常に良好であり、繊維の結晶化を抑制できていることが確認された。
また、この紡糸装置1と、上記特許文献1に記載の紡糸装置とで同じ条件で紡糸を行ったところ、この紡糸装置1により得られた繊維のほうが、特許文献1に記載の紡糸装置により得られた繊維よりも、さらに径が細いことが確認された。
また、これら繊維から平面視同一サイズ、同一重量(同一樹脂量)の不織布を作製し、その厚みを測定したところ、特許文献1に記載の紡糸装置により得られた繊維からなる不織布は、厚みが0.4mmであったのに対し、この発明の紡糸装置1により得られた繊維から成る不織布は、厚みが0.6mmであったため、ボリュームが50%増しており、クリンプがより大きくなっていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態にかかるメルトブロー紡糸装置の全体図
【図2】紡糸ダイの斜視図
【図3】供給フードの斜視図
【図4】紡糸ダイに供給フードを差し込んだ状態の縦断面図
【図5】紡糸工程の一部拡大図
【符号の説明】
【0041】
1 メルトブロー紡糸装置
10 紡糸ダイ
11 上側ダイ
11a ポリマー注入口
11b ポリマー通路
11c 熱風通路
11d 熱風室
11e 熱風吐出スリット
11f 吐き出し口
12 下側ダイ
12a ポリマー注出口
12b ポリマー通路
12c 冷風通路
12d 冷風室
12e 冷風吐出スリット
12f 吐き出し口
13 ボルト
14 冷却用流体供給スリット
20 紡糸用エア供給装置
21 ヒータ
22 第一のブロワ
23 第二のブロワ
30 押出機
31 ホッパ
40 冷却チャンバ
50 ガイドロール
60 巻き取り機
70 冷却用流体供給装置
71 供給フード
71a ミスト入口
71b ミスト出口
72 ミスト発生装置
73 冷却液槽
p 溶融ポリマー
f 長繊維
m ミスト状紡糸油剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ポリマーをポリマー注入口から下端のポリマー注出口に向けて流通させる並列する複数のポリマー通路と、
熱風を吐出させる吐き出し口に向けて下り勾配をもって傾斜し、この吐き出し口がポリマー通路の下端近傍の両側において対向するポリマー通路上流側の一対の熱風吐出スリットと、
冷風を吐出させる吐き出し口に向けて下り勾配を持って傾斜し、この吐き出し口がポリマー通路の下端近傍の両側において対向するポリマー通路下流側の一対の冷風吐出スリットと
熱風吐出スリットと冷風吐出スリットの間にあって、ポリマー通路に冷却用流体を供給する冷却用流体供給路とが設けられた紡糸ダイと、
この紡糸ダイに、冷風吐出スリットの吐出風量が、熱風吐出スリットの吐出風量より大となるようにエアを供給する紡糸用エア供給装置と、
この紡糸ダイの冷却用流体供給路を通じ、各ポリマー通路を流通する溶融ポリマーに冷却用流体を付与する冷却用流体供給装置とからなるメルトブロー紡糸装置。
【請求項2】
上記紡糸ダイの冷却用流体供給路の、ポリマー通路に連通する近傍の上下の幅を、10mmから30mmに形成した請求項1に記載のメルトブロー紡糸装置。
【請求項3】
上記冷却用流体供給装置は、ミスト発生装置を有し、このミスト発生装置により冷却用液体をミスト状に形成し、紡糸ダイに送り込む請求項1または2に記載のメルトブロー紡糸装置。
【請求項4】
上記紡糸ダイの冷却用流体供給路を、並列するポリマー通路を中心としてその両側に対向する一対の冷却用流体供給スリットとし、これらは並列する複数のポリマー通路に連通するものとし、
この冷却用流体供給スリットの一方または双方に冷却用流体供給装置をつないだ請求項1から3のいずれかに記載のメルトブロー紡糸装置。
【請求項5】
上記紡糸ダイは、熱風吐出スリットが設けられた上流側ダイと、冷風吐出スリットが設けられた下流側ダイとからなり、
この上下流ダイ相互を、上流側ダイを上側に、下流側ダイを下側にして、所定の間隔を置いて連結することにより、熱風吐出スリットと冷風吐出スリットとの間に冷却用流体供給スリットが形成される請求項4に記載のメルトブロー紡糸装置。
【請求項6】
上記冷却用流体供給装置は、ミスト発生装置と、このミスト発生装置に後端のミスト入口が連結され、先端の上面ほぼ全部が開放されたミスト出口に向かい横幅が広がり、縦幅が狭まる中空の扁平な供給フードとを有し、
この供給フードを紡糸ダイの冷却用流体供給スリットの一方または双方に差し込み、ミスト出口をポリマー通路に近接させた請求項4または5に記載のメルトブロー紡糸装置。
【請求項7】
溶融ポリマーをポリマー注入口から、下端のポリマー注出口に向けて流通させる並列する複数のポリマー通路と、
熱風を吐出させる吐き出し口に向けて下り勾配をもって傾斜し、この吐き出し口がポリマー通路の下端近傍の両側において対向するポリマー通路上流側の一対の熱風吐出スリットと、
冷風を吐出させる吐き出し口に向けて下り勾配をもって傾斜し、この吐き出し口がポリマー通路の下端近傍の両側において対向するポリマー通路下流側の一対の冷風吐出スリットと、
熱風吐出スリットと冷風吐出スリットとの間にあって、ポリマー通路に冷却用流体を供給する冷却用流体供給路とが設けられた紡糸ダイの、ポリマー通路のポリマー注入口から、溶融ポリマーを押出機により注入する工程と、
冷風吐出スリットの吐出風量が、熱風吐出スリットの吐出風量より大になるように制御して紡糸ダイにエアを供給し、溶融ポリマーを延伸して繊維に紡出する工程と、
紡糸ダイの冷却用流体供給路を通じて冷却用流体を送り込み溶融ポリマーに付与する工程とからなるメルトブロー紡糸方法。
【請求項8】
上記紡糸ダイの冷却用流体供給路を、並列するポリマー通路を中心としてその両側に対向する一対の冷却用流体供給スリットとし、この冷却用流体供給スリットは、並列する複数のポリマー通路に通じるものとし、
この冷却用流体供給スリットの一方または双方から冷却用流体を送り込み、溶融ポリマーに付与する請求項7に記載のメルトブロー紡糸方法。
【請求項9】
上記冷却用流体供給装置は、ミスト発生装置と、このミスト発生装置に後端のミスト入口が連結され、先端の上面ほぼ全部が開放されたミスト出口に向かい横幅が広がり、縦幅が狭まる中空の扁平な供給フードとを有し、
この供給フードを紡糸ダイの冷却用流体供給スリットの一方または双方に差し込み、ミスト出口をポリマー通路に近接させ、先端上面のミスト出口からミスト状の冷却用流体を立ち昇らせ、
熱風吐出スリットの吐き出し口下端から3mmから8mmの位置より冷却用流体を溶融ポリマーに付与する請求項7または8に記載のメルトブロー紡糸方法。
【請求項10】
上記冷却用流体として水蒸気を用いる請求項7から9のいずれかに記載のメルトブロー式紡糸方法。
【請求項11】
上記冷却用流体としてミスト状の紡糸油剤を用いる請求項7から9のいずれかに記載のメルトブロー紡糸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−38269(P2008−38269A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−210856(P2006−210856)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(599069703)有限会社末富エンジニアリング (5)
【Fターム(参考)】