説明

モルタル、モルタル硬化物及び橋梁

【課題】 軽量でかつ流動性が良いモルタル並びにその硬化物及びこれを用いた橋梁を提供することを目的とする。
【解決手段】 モルタルの全体容量1m中に、水350kg以上400kg以下と、セメント640kg以上680kg以下と、残量の骨材とを含有し、前記骨材は、実質的に粒径1.2mm以下、比重1.3以下の軽量細骨材のみからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル、その硬化物及びこれを用いた橋梁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の補強、補修方法として、中空の鋼部材にコンクリートやモルタルを充填する方法が行われている。その際に用いるコンクリートやモルタルには、(1)構造物重量の増加を抑えるため、軽量であること、(2)充填を良好に行うため、流動性が良いこと、が必須である。一方、橋梁など、実際に供用されている構造物においては、(3)施工を短時間に行い社会的損失を最小限にするため、迅速に硬化して実用強度が得られる、という特徴が必要となる。
【0003】
特許文献1は、軽量骨材15〜25重量%、ポルトランドセメント82〜72重量%、及び硬化促進剤3〜7重量%、並びに少量の増粘剤及び凝結調整剤よりなる軽量モルタルにより、軽量構造物を短時間で形成できると開示している。
【0004】
また、特許文献2は、特定の比表面積を有するセメント100重量部と、特定の比表面積を有する微粒子10〜40重量部と、特定の比表面積を有する無機粒子A10〜50重量部と、特定の比表面積を有する無機粒子B5〜35重量部と、減水剤と、水とを含有する水硬性組成物であって、上記無機粒子Aと上記無機粒子Bの合計量が、上記セメント100重量部に対して15〜55重量部である水硬性組成物が、優れた流動性を有し、硬化後は機械的特性に優れると開示している。
【0005】
【特許文献1】特公平1−46478号公報
【特許文献2】特許第3397775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のコンクリートやモルタルを構造物に充填して、この構造物の補強、補修を行う場合、例えば特許文献1に開示された軽量モルタルでは上記(1)の特徴を満足するが、上記(2)の特徴を満足しない場合があり、(3)の特徴は期待できなかった。
一方、例えば特許文献2に開示された水硬性組成物は、いわゆるグラウト材であり、上記(2)及び(3)の特徴は満足するが、比重約2以上となるため、重量が重く、上記(1)の特徴を満足できなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、軽量でかつ流動性が良いモルタル並びにその硬化物及びこれを用いた橋梁を提供することを目的とする。さらに本発明は、前記特徴に加え、迅速に硬化して実用強度が得られるモルタル並びにその硬化物及びこれを用いた橋梁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明のモルタルは、全体容量1m中に、水350kg以上400kg以下と、セメント640kg以上680kg以下と、残量の骨材とを含有してなり、前記骨材が、実質的に粒径1.2mm以下、比重1.3以下の軽量細骨材のみからなることを特徴とする。
水は、多くすることでモルタルの流動性が向上するが、水と固形物の分離(ブリージング)を生じやすくなる。また、水を少なくするとモルタルの流動性が悪化する。従って、水の配合量はモルタルの全体容量1m中に350kg以上400kg以下とした。
水の量を一定とすると、セメントは、少なくすることでモルタルの流動性が向上し、比重が小さくなるが、硬化物の強度が低くなる。また、水の量を一定とした場合、セメントが多すぎると、強度は向上するが、モルタルの流動性が悪くなり、また比重が大きくなるため重くなる。従って、セメントの配合量は、モルタルの全体容量1m中に640kg以上680kg以下とした。
残量の骨材の配合量は、その比重にもよるが、例えば、モルタルの全体容量1m中に420kg以上485kg以下程度となる。
上記組成を有する本発明のモルタルは、比重約1.5程度となり、軽量である。また、モルタルコーンによるフロー値で15cm以上の良好な流動性を有する。
【0009】
上記本発明のモルタルは、全体容量1m中に、前記水390kg以上400kg以下と、前記セメント640kg以上660kg以下と、硬化促進剤80kg以上120kg以下とを含有する組成としてもよい(以下、この組成のモルタルの種類を「急硬タイプ」ともいう)。
硬化促進剤は、多いほどモルタルの硬化に要する時間が短くなるが、作業性が悪化する。従って、硬化促進剤の配合量は、モルタルの全体容量1m中に80kg以上120kg以下とした。
この急硬タイプのモルタルにおいては、残量の骨材の配合量は、その比重にもよるが、例えば、モルタルの全体容量1m中に420kg以上440kg以下程度となる。
本発明による上記急硬タイプのモルタルは、実用強度5N/mm以上に達するのに要する時間が5時間以内の急硬性を有している。
【0010】
あるいは、上記本発明のモルタルは、全体容量1m中に、前記水350kg以上360kg以下と、前記セメント660kg以上680kg以下とを含有する組成としてもよい(以下、この組成のモルタルの種類を「早強タイプ」ともいう)。
この早強タイプのモルタルにおいては、残量の骨材の配合量は、その比重にもよるが、例えば、モルタルの全体容量1m中に455kg以上485kg以下程度となる。
本発明による上記早強タイプのモルタルは、実用強度5N/mm以上に達するのに要する時間が12時間以内の早強性を有している。
【0011】
上記本発明のモルタルにおいて、前記軽量細骨材として硬質パーライトを好適に用いることができる。
【0012】
上記本発明のモルタルは、全体容量1m中に、膨張材20kg以上50kg以下を含有してもよい。
膨張材は、モルタルが硬化時に収縮する分を補う働きを有する。膨張材が少なすぎるとモルタルが収縮し、多すぎると不経済となるため、膨張材の配合量は、モルタルの全体容量1m中に20kg以上50kg以下とした。
【0013】
上記本発明のモルタルは、高性能AE減水剤またはAE減水剤を、前記セメント及び前記膨張材の合計量の0.5重量%以上5重量%以下含有してもよい。
高性能AE減水剤またはAE減水剤は、モルタルの流動性を保持するために配合され、上記配合量の範囲でその効果を発揮する。
【0014】
また本発明のモルタル硬化物は、上記本発明のモルタルを硬化してなることを特徴とする。
このモルタル硬化物は、軽量でかつ良好な充填状態となる。特に本発明の急硬タイプ又は早強タイプのモルタルを硬化してなるモルタル硬化物は、迅速に硬化して実用強度を得ることができる。
【0015】
本発明の橋梁は、上記本発明のモルタル硬化物で補強された鋼床板を有することを特徴とする。
この橋梁は、軽量でかつ補強材であるモルタル硬化物の充填状態が良好である。また、モルタル硬化物が本発明の急硬タイプ又は早強タイプのモルタルを硬化してなるものである場合は、モルタルが迅速に硬化して実用強度が得られるので、施工を短時間に行い社会的損失を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軽量でかつ良好な流動性を有するモルタルを提供することができる。また本発明によれば、軽量でかつ良好な充填状態となるモルタル硬化物を提供することができる。また本発明によれば、軽量でかつ補強材であるモルタル硬化物の充填状態が良好な橋梁が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明のモルタルに用いられるセメントとしては、ポルトランドセメントが挙げられる。中でも、JIS R 5210に規定されている早強ポルトランドセメントは、セメント自体も早強性を有しているので好ましい。
【0018】
本発明のモルタルに用いられる軽量細骨材としては、パーライト、シラスバルーン等が挙げられる。中でも、粒径1.2mm以下の硬質パーライト(真珠岩系パーライト)は、骨材が強度を有しており、入手もし易いので好ましい。
【0019】
本発明のモルタルに用いられる膨張材としては、石灰系膨張材、CSA(カルシウムサルフォアルミネート)系膨張材等が挙げられる。中でも、石灰系早強性膨張材は、それ自体が早強性を有しているので好ましい。
【0020】
本発明のモルタルに用いられる硬化促進剤としては、塩基性塩化カルシウム系硬化促進剤、カルシウムアルミネート系早強材等が挙げられる。中でも、塩基性塩化カルシウム系硬化促進剤は、安価なので好ましい。
【0021】
本発明のモルタルに用いられる高性能AE減水剤、AE減水剤としては、ポリカルボン酸系AE減水剤、リグニンスルフォン酸化合物等が挙げられる。中でも、ポリカルボン酸系高性能AE減水剤、AE減水剤は、セメントの凝結遅延作用がないので好ましい。
【0022】
本発明のモルタル硬化物は、通常のモルタル硬化物と同様に、上記本発明のモルタルを所望の箇所に充填した後に、一定時間静置することにより得られる。
本発明のモルタルは流動性が良いので、自己充填法を採用することができる。
本発明の急硬タイプのモルタルを硬化したモルタル硬化物は、充填後約5時間以内で実用強度が得られる。本発明の早強タイプのモルタルを硬化したモルタル硬化物は、充填後約12時間以内で実用強度が得られる。
【0023】
本発明の橋梁は、例えば、走行路の床版を構成するデッキプレートと、該デッキプレートの下面に固設され、内部空間を有する閉断面に形成された複数のリブからなる鋼床版構造において、前記リブの閉断面空間内に、本発明のモルタルを充填し、硬化させた構造を有する。
【0024】
(実施例)
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
表1は、本実施形態で用いられる、モルタルの材料を示したものである。但し、これら材料は本発明のモルタルに用いられる材料の一例であって、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0025】
【表1】

【0026】
上記材料を用いて、急硬タイプ及び早強タイプのモルタルをそれぞれ配合した。それぞれのタイプのモルタルの単位容量当たりの材料配合量を表2に示す。
以下の手順で各材料を配合した。
(1) セメント、膨張材、軽量細骨材をミキサーで撹拌する。
(2) 水、硬化促進剤、AE減水剤を添加する。
(3) 全体を撹拌する。
配合後のモルタルの密度も表2に示す。また、モルタルのブリージング率の実測値も表2に示す。表2に示すとおり、急硬タイプ及び早強タイプのいずれのモルタルもブリージング(水分離)を生じなかった。
【0027】
【表2】

【0028】
(圧縮強度試験)
上記急硬タイプ及び早強タイプのモルタルを注型し、所定時間硬化させて、直径50mm×高さ100mmの円柱供試体を得た。表3に、得られた円柱供試体の、JIS A 1108に基づく圧縮強度試験結果を、硬化時間毎に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
(流動性試験)
上記急硬タイプ及び早強タイプのモルタルに関して、材料の練り混ぜ直後におけるフロー値を、JIS R 5201に規定されたフロー試験に基づいて測定した。フローコーンを取り去った直後の(落下運動を与える前の)フロー値を表4に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
(充填試験)
図1(a)〜図1(c)に示す、橋梁のUリブを模した模型で充填試験を行った。図1(a)は、充填試験に用いた容器の横断面図、図1(b)は、容器に横断勾配を与えた状態を示す横断面図、図1(c)は、容器に縦断勾配を与えた状態を示す縦断面図である。
容器10は、それぞれ塩化ビニルからなる容器本体11及び蓋12から構成されている。容器10は、長手方向の長さが約2.5mであり、容積が約0.2mである。容器本体11底部の長手方向の一端部には、モルタルを注入するための注入口15が開口し、他端部には容器本体11底部外側から容器本体11内部の上部近傍まで連通し、上端で開口した排出口16が設けられている。
容器10に、表5に示した縦断勾配及び横断勾配を与え、注入口15からモルタルを注入して充填を行った。モルタルのフロー値及び圧送速度も表5に示す。本試験では表2に示した早強タイプのモルタルを使用しており、番号1と番号2、番号3と番号4は同一の組成であるが、番号2及び番号4は練り混ぜ後約1時間経過し、フロー値が低下した状態で試験を行った。
【0033】
【表5】

【0034】
モルタルを容器10に充填直後、目視により空隙を確認した。いずれの試料も、小さい空隙は残ったが、問題となるような大きな空隙は生じなかった。従って、本発明のモルタルは良好に充填できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例において充填試験に用いた容器を示す図であり、(a)は容器の横断面図、(b)は容器に横断勾配を与えた状態を示す横断面図、(c)は容器に縦断勾配を与えた状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 容器
11 容器本体
12 蓋
15 注入口
16 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体容量1m中に、
水350kg以上400kg以下と、
セメント640kg以上680kg以下と、
残量の骨材と
を含有してなるモルタルであって、
前記骨材が、実質的に粒径1.2mm以下、比重1.3以下の軽量細骨材のみからなることを特徴とするモルタル。
【請求項2】
全体容量1m中に、
前記水390kg以上400kg以下と、
前記セメント640kg以上660kg以下と、
硬化促進剤80kg以上120kg以下と
を含有することを特徴とする請求項1に記載のモルタル。
【請求項3】
全体容量1m中に、
前記水350kg以上360kg以下と、
前記セメント660kg以上680kg以下と
を含有することを特徴とする請求項1に記載のモルタル。
【請求項4】
前記軽量細骨材が硬質パーライトを有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のモルタル。
【請求項5】
全体容量1m中に、
膨張材20kg以上50kg以下
を含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のモルタル。
【請求項6】
高性能AE減水剤またはAE減水剤を、前記セメント及び前記膨張材の合計量の0.5重量%以上5重量%以下含有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のモルタル。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のモルタルを硬化してなることを特徴とするモルタル硬化物。
【請求項8】
請求項7に記載のモルタル硬化物で補強された鋼床板を有することを特徴とする橋梁。

【図1】
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【公開番号】特開2007−197239(P2007−197239A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16209(P2006−16209)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(506122246)三菱重工橋梁エンジニアリング株式会社 (111)
【Fターム(参考)】