説明

モーションコントロール装置

【課題】 システムの固有振動角周波数をωnとした場合、指令の払い出し時間がπ/ωn以下、且つ、振動を励起しない指令を容易に生成でき、更に、機械を高速に位置決めすることができる指令を生成するモーションコントロール装置を提供する。
【解決手段】 任意の第1の時間幅と正規化された振幅とを有する第1の基本波形p1と、任意の第2の時間幅と正規化された振幅とを有する第2の基本波形p2と、を発生する波形発生器1,2と、前記第1の基本波形の振幅に第1の所定ゲインA1を乗じて出力し、前記第2の基本波形の振幅に第2の所定ゲインA2を乗じて出力する振幅調整器3,4と、前記第2の所定ゲインを乗じた信号に所定遅延時間を加えて出力する遅延器6と、前記第1の所定ゲインを乗じた信号から前記遅延器の出力信号を減算する減算器5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械振動を励起しない指令を生成して出力するモーションコントロール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットや工作機などの産業機械では、制御対象である機械をより高速に位置決めしたいといった要望があった。しかしながら、一般的に機械を高速に動作させる場合、機械の剛性が低い場合に、加減速時に残留振動が発生し、位置決め時間が遅くなるという問題があった。この一般的な技術課題を解決するために、従来技術では、複雑な制御演算や制御対象モデルを有さずに動作指令の形状を工夫している。
【0003】
従来技術は、「ロボットのように低剛性負荷をもつ位置決めサーボ系において、特に高速位置決めおよび制振を実現できる制御方式に関する」ものであって、請求項2に記載の「1軸または複数軸を有し、各軸が低剛性負荷をもち、かつ位置フィードバックおよび速度フィードバックループによって制御されるアクチュエータにより駆動されるロボットマニピュレータの位置決め制御方式において、上位からもらった目標位置指令と基本パターン保存部に保存された全動作量が1に規格化された形とを使って、前記目標位置指令の1/2の動作量に対する基本速度指令パターンを作成する基本パターン作成部をもち、前記基本パターン作成部で作成された基本速度指令パターンは、指令遅延部と指令パターン合成部に払い出され、前記指令遅延部では、基本速度指令パターンを低剛性負荷の固有振動周期の1/2の奇数倍だけずらしたパターンを作成し、指令パターン合成部に払い出され、前記指令パターン合成部では、基本パターン作成部と指令遅延部から出てきた指令を加算することにより、速度指令として、基本速度指令パターンと低剛性負荷の固有振動周期の1/2の奇数倍だけずらしたパターンとを合成した波形の信号を出力することを特徴とする制振位置決め制御方式」によれば、「低剛性負荷をもつサーボ系において、位置決め時間を遅くすることなく、負荷の振動を抑えることができる」ことが記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3280049号公報(第2−5頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、位置指令が与えられると、パターン作成器によって1/2・T・m(m=1,3,5・・・)ずらしたパターン2つを合成したパターンが速度指令として作成される(段落0015参照)ため、指令の払い出し時間が最小でもT/2(=π/ωn)以上かかってしまい、それよりも短い時間で動作させることができないという問題があった(Tは負荷の固有振動周期、ωnは固有振動角周波数)。また、指令の払い出し時間が遅れることにより、機械を高速に位置決めすることができないという問題もあった。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、時間幅と振幅とが異なる2つの信号を時間Tdだけずらして減算して速度指令を生成することにより、システムの固有振動角周波数をωnとした場合、指令の払い出し時間がT/2(=π/ωn)よりも早く指令を払い出すことができ、且つ、振動を励起しない指令を生成することができ、更に、機械を高速に位置決めすることができる指令を生成するモーションコントロール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1に記載の発明は、制御対象を制御する制御演算器に与える指令を生成して出力するモーションコントローラであって、任意の第1の時間幅と正規化された振幅とを有する第1の基本波形と、任意の第2の時間幅と正規化された振幅とを有する第2の基本波形と、を発生する波形発生器と、前記第1の基本波形の振幅に第1の所定ゲインを乗じて出力し、前記第2の基本波形の振幅に第2の所定ゲインを乗じて出力する振幅調整器と、前記第2の所定ゲインを乗じた信号に所定遅延時間を加えて出力する遅延器と、前記第1の所定ゲインを乗じた信号から前記遅延器の出力信号を減算する減算器と、を備え、前記減算器の出力信号を、前記制御対象が振動しない前記指令として前記制御演算器に与えるものである。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1記載における前記モーションコントローラが、更に、前記減算器の出力信号を積分する積分器を備え、前記積分器の出力信号を、前記制御対象が振動しない前記指令として前記制御演算器に与えるものである。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載における前記モーションコントロール装置が、更に、前記減算器の出力信号もしくは前記積分器の出力信号をフィルタ処理するフィルタ演算器を備えるものである。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1記載における前記波形発生器が、前記第1の基本波形および第2の基本波を矩形波として出力し、かつ、前記矩形波の前記第2の時間幅が前記第1の時間幅より小さくなるように出力し、前記制御対象が任意の単数の周波数で振動しない前記指令を生成するものである。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1記載における前記波形発生器が、更に、前記指令に基づいて前記第1の基本波形および第2の基本波を出力し、かつ、前記矩形波の前記第2の時間幅が前記第1の時間幅より小さくなるように出力し、前記制御対象が任意の複数の周波数で振動しない新たな指令を生成するものである。
また、請求項6に記載の発明は、請求項1記載における前記モーションコントロール装置が、前記第1の基本波形の振幅に第1の所定ゲインを乗じた信号を、固有振動角周波数の2次遅れ系の伝達特性を有するシステムに入力した際に発生する第1の正弦波と、前記第2の基本波形の振幅に第2の所定ゲインを乗じた信号を、前記固有振動角周波数の2次遅れ系の伝達特性を有するシステムに入力した際に発生する第2の正弦波と、を算出し、前記第1の正弦波と前記第2の正弦波との振幅および位相が一致するように、前記所定遅延時間および前記第1の所定ゲイン並びに前記第2の所定ゲインを算出するものである。
請求項7に記載の発明は、制御対象を制御する制御演算器に与える指令を生成して出力するモーションコントローラであって、前記制御対象が任意の単数の周波数で振動しない略凹状の前記指令を出力し、前記指令を速度指令もしくは前記指令を更に積分した位置指令として前記制御演算器に出力するものである。
また、請求項8に記載の発明は、請求項7記載における前記モーションコントロール装置が、前記指令である速度指令に基づいて前記制御対象が任意の複数の周波数で振動しない略凹状の新たな指令を出力し、前記新たな指令を速度指令もしくは前記新たな指令を更に積分した位置指令として前記制御演算器に出力するものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によると、時間幅と振幅とが異なる2つの信号を時間Tdだけずらして減算して速度指令を生成することにより、システムの固有振動角周波数をωnとした場合、指令の払い出し時間がT/2(=π/ωn)よりも早く指令を払い出すことができ、且つ、振動を励起しない指令を生成することができる。
また、請求項2に記載の発明によると、時間幅と振幅とが異なる2つの信号を時間Tdだけずらして減算して速度指令を生成し、更に速度指令の積分により位置指令を生成することにより、システムの固有振動角周波数をωnとした場合、指令の払い出し時間がT/2(=π/ωn)よりも早く指令を払い出すことができ、且つ、振動を励起しない指令を生成することができ、更に、機械を高速に位置決めすることができる指令を生成することができる。
また、請求項3に記載の発明によると、フィルタ処理を施すことでより滑らかで、且つ微分可能な指令を生成することができ、制御演算器で指令を微分してフィードフォワードなどが実現でき、また、振動を励起したくない周波数以外の高い周波数の機械共振なども励起しにくくできる。
また、請求項4に記載の発明によると、単純な矩形波を使用することで、容易に単数の周波数で振動しない指令を生成することができる。
また、請求項5に記載の発明によると、一旦生成した特定の周波数で振動しない指令に基づいて、更に新たな指令を生成することができるため、容易に複数の周波数で振動しない指令を生成することができる。
また、請求項6に記載の発明によると、簡単な演算により所定遅延時間および第1の所定ゲイン並びに第2の所定ゲインを算出することができ、図示しないモーションコントロール装置内の演算器の負荷を軽減することができる。
請求項7に記載の発明は、指令の払い出し時間を短くすることができ、且つ、容易に単数の周波数の振動を励起しない指令を生成することができる。
また、請求項8に記載の発明によると、一旦生成した特定の周波数で振動しない指令に基づいて、更に新たな指令を生成することができるため、容易に複数の周波数で振動しない指令を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施例におけるモーションコントローラの概略構成図である。
【図2】(a)本発明の第1実施例における信号p1を説明する図である。(b)本発明の第1実施例における信号p2を説明する図である。
【図3】(a)本発明の第1実施例における信号v1を説明する図である。(b)本発明の第1実施例における信号v2を説明する図である。
【図4】本発明の第1実施例における信号vrを説明する図である。
【図5】(a)本発明の第2実施例の信号p1を説明する図である。(b)本発明の第2実施例の信号p2を説明する図である。
【図6】(a)本発明の第2実施例の信号v1を説明する図である。(b)本発明の第2実施例の信号v2を説明する図である。
【図7】本発明の第2実施例の信号vrを説明する図である。
【図8】本発明の第1実施例において生成した信号xr(位置指令)を用いた場合のシミュレーション結果を示す図である。
【図9】本発明の第2実施例において生成した信号xr(位置指令)を用いた場合のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の第1実施例におけるモーションコントローラの概略構成図である。図において、モーションコントローラ10は、時間幅T1の基本波形1である信号p1を発生する波形1発生器1、時間幅T2の基本波形2である信号p2を発生する波形2発生器2、信号p1にゲインA1を乗じて信号v1を出力する振幅調整器3、信号p2にゲインA2を乗じる振幅調整器4、信号p2にゲインA2を乗じた信号を時間Tdだけ遅らせた信号v2を出力する遅延器6、信号v1から信号v2を減算し信号vrを出力する減算器5、7は信号vrを積分し信号xrを出力する積分器7、で構成される。なお、T1、T2、Td、A1、A2の値は、後述する方法で機械等の振動を励起しないように決定する。
【0012】
また、モーションコントローラ10の出力である信号xrは、例えばサーボドライバ等の制御演算器8に入力され、更に、例えばサーボモータに連結された機械等の制御対象9を信号xrに応じて駆動する。
ここで、位置制御を行なうシステム構成の場合、xrは位置指令、xは検出位置、vrは速度指令を表し、制御演算器8では位置比例制御、速度比例積分制御、フィードフォワード制御等の制御演算を行い、トルク指令あるいは電流指令を算出する。
なお、xを検出速度、xrを速度指令とした速度制御を行なうシステム構成であってもよい。
【0013】
図において、波形1発生器1が時間幅T1の矩形波である信号p1を出力し、波形2発生器2が時間幅T2の矩形波である信号p2を出力する。なお、信号p1および信号p2の振幅は正規化されたもの(振幅1)とする。
振幅調整器3が信号p1を入力してゲインA1を乗じて信号v1を出力し、振幅調整器4が信号p2を入力してゲインA2を乗じて信号を出力する。遅延器6が、振幅調整器4の出力信号を時間Tdだけ遅らせて信号v2を出力する。減算器5が、信号v1から信号v2を減算して信号vrを出力する。積分器7が、信号vrを積分して信号xrを出力する。
【0014】
図2(a)は本発明の第1実施例における信号p1、図2(b)は本発明の第1実施例における信号p2を説明する図である。また、図3(a)は本発明の第1実施例における信号v1、図3(b)は本発明の第1実施例における信号v2を説明する図である。更に、図4は、本発明の第1実施例における信号vrを説明する図である。
【0015】
次に、機械等の振動が励起されないように、時間幅T1、時間幅T2、遅延時間Td、ゲインA1、ゲインA2を決定する仕組みを説明する。
固有振動角周波数ωnである2次遅れ系の伝達特性を有するシステムG(s)は、式(1)で表すことができる。また、振幅調整器3が出力する信号v1(時間幅T1の矩形波である信号p1にゲインA1を乗じた信号)のラプラス変換V1は、式(2)で表すことができる。ここで、システムG(s)に信号V1を入力した時の応答h1(t)を、式(1)(2)に基づいて逆ラプラス変換で求めると、式(3)で表すことができる。
なお、システムG(s)は、固有振動角周波数ωnで振動しない指令を作成するための仮定のシステムであり、どのような積分器7、制御演算器8、制御対象9に対しても適用できるように仮定したものである。
【0016】
【数1】

【0017】
同様に、遅延器6が出力する信号v2(時間幅T2の矩形波である信号p2にゲインA2を乗じて、時間Tdだけ遅らせた信号)のラプラス変換V2は、式(4)で表すことができる。ここで、システムG(s)に信号V2を入力した時の応答h2(t)を、式(1)(4)に基づいて逆ラプラス変換で求めると、式(5)で表すことができる。
【0018】
【数2】

【0019】
ここで、応答h1(t)と応答h2(t)が完全に一致するように、振幅と位相を合わせると、以下の関係式(8)、式(11)を導出することができる。
なお、応答h1(t)と応答h2(t)が完全に一致するような信号v1(t)と信号v2(t)が作成できれば、これらの減算(v1(t)―v2(t))で求めた信号vr(t)は、固有振動角周波数ωnで最も振動するシステムG(s)に信号v1(t)と信号v2(t)を入力したときに発生する振動が完全に打ち消しあうことになり、信号vr(t)を固有振動角周波数ωnで最も振動するシステムG(s)に入力しても全く振動しないことになる、言い換えると、信号vr(t)が固有振動角周波数ωnの振動を励起しない信号とすることができる。
【0020】
式(3)におけるh1(t)の位相は式(6)、式(5)におけるh2(t)の位相は式(7)であり、式(6)=式(7)から式(8)が導出される。
また、式(3)におけるh1(t)の振幅は式(9)、式(5)におけるh2(t)の振幅は式(10)であり、式(9)=式(10)から式(11)が導出される。
【0021】
【数3】

【0022】
ここで、式(11)におけるsinの代わりにcosを用いて、式(12)としてもよい。
【0023】
【数4】

【0024】
また、本実施例において、位置制御を行なうシステム構成への適用を考えた場合、移動距離をDとすれば、信号v1から信号v2を減じた信号vr(速度指令)の積分値が移動距離D(位置指令と等価)になる必要があるため、式(13)を満たす必要がある。更に、本実施例では信号p1および信号p2を大きさ1の矩形波としているため、式(13)におけるp1(t)とp2(t)は定数1となるため式(14)となり、式(15)のような簡単な式で時間幅T1、時間幅T2、ゲインA1、ゲインA2を演算できる。
【0025】
【数5】



【0026】
一連の時間幅T1、時間幅T2、遅延時間Td、ゲインA1、ゲインA2の決定方法は次の通りである。
先ず、波形1発生器1が出力する矩形波信号p1の時間幅T1として指令払い出し時間(区間)を設定する。
ここで、指令払い出し時間は、例えば高速位置決めの場合、できるだけ短い時間に設定するのが一般的である。また、機械の許容速度や許容トルク、許容加速度、指令払い出しのサンプリング時間、他の装置との干渉等により設定に制約を受けることもあるため、この場合これらの制約事項を考慮して設定する。
波形2発生器2が出力する矩形波信号p2の時間幅T2の決め方は、時間幅T1より小さければ任意に決定してよく、例えば、時間幅T1の整数分の1などとすればよい。もしくは、時間幅T2の値によって最終的な波形vrが決まるため、波形vrを観測しながらこの時間幅T2を(遅延時間Td、ゲインA1、ゲインA2を算出しながら)調整しても良い。
次に、設定および決定した時間幅T1およびT2を用いて式(8)から遅延時間Tdを算出する。
最後に、式(11)あるいは式(12)と、式(13)あるいは式(15)の2式から、未知変数がゲインA1とゲインA2である連立方程式を解いてゲインA1とゲインA2を決定する。
【0027】
このように、固有振動角周波数ωnの2次遅れ系の伝達特性を有するシステムG(s)に基本信号p1にゲインA1を乗じた信号v1を入力したときに発生する正弦波h1(t)と、システムG(s)に基本信号p2にゲインA2を乗じ時間Tdだけ遅らせた信号v2を入力したときに発生する正弦波h2(t)が一致するように、時間幅T1、時間幅T2、遅延時間Td、ゲインA1、ゲインA2を設定することで、信号v1から信号v2を減じることにより求めた速度指令vrをシステムG(s)に入力しても、固有振動角周波数ωnの振動が全く発生しないことになる。
結果的に、速度指令vrは固有振動角周波数ωnの振動を励起しない指令になるのである。そして、vrを積分した位置指令xrも、固有振動角周波数ωnの振動を励起しない指令となるのである。
【0028】
また、作成した信号vrや信号xrにフィルタ処理を施した場合も、固有振動角周波数ωnの振動を励起しないという特徴は維持されるため、指令の波形を滑らかに、制御対象の動作を滑らかにしたい場合は、ローパスフィルタや、移動平均などのフィルタ処理を施しても全く問題ない。
【0029】
図8は、本発明の実施例1において生成した信号xr(位置指令)を用いた場合のシミュレーション結果を示す図である。図において、上段は生成した位置指令xr、中段は制御対象の位置x応答、下段は速度指令vrのパワースペクトラムである。
ここで、シミュレーションの条件は、制御対象9と制御演算器8とを合わせたシステム全体の振動根が10Hzにある場合であって、また理解を容易にするために、移動距離Dは1とした。
なお、各パラメータ(時間幅T1、時間幅T2、遅延時間Td、ゲインA1、ゲインA2)の値は、上述の通りの式(8)、式(11)もしくは式(12)、式(13)もしくは式(15)を用いて、一連の決定方法で決定した。
波形1発生器1が出力する矩形波信号p1の時間幅T1を0.04s、波形2発生器2が出力する矩形波信号p2の時間幅T2を時間幅T1の1/4の0.01sに設定し、式(8)を用いて遅延時間Td=0.02sを算出し、式(11)もしくは式(12)、式(13)もしくは式(15)を用いて、ゲインA1=884.7331、ゲインA2=904.9822を算出した。
【0030】
パワースペクトラムから、本発明における実施例1で生成した指令vrには10Hzの成分が含まれなく、指令vrがシステムG(s)の固有振動角周波数ωnである10Hzの振動を励起しないものであることが分かる。
【0031】
また、従来技術において、指令払い出しの限界はT/2=π/ωn=0.05sであり、これ以上短くはできないことに対し、本発明における実施例1では、上段の生成した位置指令xrを見れば、0sから0.04sまでで10Hzの振動を励起しない指令を払い出すことができていることが分かる。
更に、中段の制御対象の位置x応答を見れば、少なくとも0.05s以内に位置決め(移動距離0から1に至る時間)が完了しており、高速位置決めもできていることは明らかである。
【0032】
このように、実施例1におけるモーションコントローラは、時間幅と振幅とが異なる2つの信号を時間Tdだけ遅らせて減算することにより、従来技術におけるπ/ωnよりも早く指令を払い出し、且つ、振動を励起しない指令を生成することができ、更に機械を高速に位置決めすることができる。
【実施例2】
【0033】
図5(a)は本発明の第2実施例の信号p1、図5(b)は本発明の第2実施例の信号p2を説明する図である。また、図6(a)は本発明の第2実施例の信号v1、図6(b)は本発明の第2実施例の信号v2を説明する図である。更に、図7は、本発明の第2実施例の信号vrを説明する図である。
本実施例2では、複数のある周波数の振動(例えば、2つの周波数ωnとω1、または3つの周波数ωnとω1とω2)を励起しない指令を生成する場合を説明する。
2つの周波数ωnとω1を励起しない指令を生成する場合、先ず実施例1の要領で固有振動角周波数ωnを励起しない指令を生成し(図4)、次に波形1発生器1および波形2発生器が、図4の指令信号を用いて図5(a)(b)のように、周波数ω1を励起しない指令を生成するための信号p1および信号p2を出力する。時間幅T1およびT2の設定方法は、実施例と同様である。したがって、最終的な信号vrが2つの周波数ωnとω1を励起しない指令に相当する。
同様に、3つの周波数ωnとω1とω2を励起しない指令を生成する場合、上記の場合に引き続いて、波形1発生器1および波形2発生器が、図7の指令信号を用いて、周波数ω2を励起しない指令を生成するための信号p1および信号p2を出力する。時間幅T1およびT2の設定方法は、実施例と同様である。したがって、最終的な信号vrが3つの周波数ωnとω1とω2を励起しない指令に相当する。
なお、波形1発生器1および波形2発生器が信号p1および信号p2を出力した以降の指令の生成方法および各パラメータ(時間幅T1、時間幅T2、遅延時間Td、ゲインA1、ゲインA2)の決定方法は、実施例1と同様であるため説明を省略する。
【0034】
図9は、本発明の実施例2において生成した信号xr(位置指令)を用いた場合のシミュレーション結果を示す図である。図において、上段は生成した位置指令xr、中段は制御対象の位置x応答、下段は速度指令vrのパワースペクトラムである。
ここで、シミュレーションの条件は、制御対象9と制御演算器8を合わせたシステム全体の振動根が16Hzにある場合、且つ、制御対象9が10Hzで振動する台の上に設置されている場合であって、10Hzおよび16Hzの振動も励起したくないとする。また理解を容易にするために、移動距離Dは1とした。
【0035】
パワースペクトラムから、本発明における実施例2で生成した指令vrには10Hzよび16Hzの振動成分が両方含まれなく、指令xrが16Hzだけでなく10Hzの振動も励起しないものであることが分かる。
また、この場合、指令の払い出しおよび位置決めは、0.1s以内に完了していることが分かる。
【0036】
このように、実施例2におけるモーションコントローラは、基本波形p1およびp2として、図5の(a)および(b)に示すような、特定の振動を励起しない波形を用いて、新たに他の任意の周波数の振動も励起しないように指令を生成することで、複数の振動を励起しない指令を生成できる。
また、システムに複数の振動モードがある場合にも、どの振動も励起せずに制御対象を動作させることが可能な指令を生成することができる。更に、複数の振動の周波数を近い値にすることで、その周波数近傍の周波数を一様に励起しない指令となるので、振動の周波数が若干変化するような制御対象に対して、周波数が変わった場合も振動が発生しにくいロバストな指令を生成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
時間幅と振幅とが異なる2つの信号を時間Tdだけずらして減算することでπ/ωnよりも早く指令を払い出し、且つ、振動を励起しない指令を生成することができるので、機械を駆動する電動機の位置決め以外にも、化学プラントや電子回路など振動が問題となる全ての制御対象を制御する装置への目標信号の生成という用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 波形1発生器
2 波形2発生器
3 振幅調整器1
4 振幅調整器2
5 減算器
6 遅延器
7 積分器
8 制御演算器
9 制御対象
10 モーションコントローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を制御する制御演算器に与える指令を生成して出力するモーションコントローラであって、
任意の第1の時間幅と正規化された振幅とを有する第1の基本波形と、任意の第2の時間幅と正規化された振幅とを有する第2の基本波形と、を発生する波形発生器と、
前記第1の基本波形の振幅に第1の所定ゲインを乗じて出力し、前記第2の基本波形の振幅に第2の所定ゲインを乗じて出力する振幅調整器と、
前記第2の所定ゲインを乗じた信号に所定遅延時間を加えて出力する遅延器と、
前記第1の所定ゲインを乗じた信号から前記遅延器の出力信号を減算する減算器と、を備え、
前記減算器の出力信号を、前記制御対象が振動しない前記指令として前記制御演算器に与えることを特徴とするモーションコントロール装置。
【請求項2】
前記モーションコントローラが、更に、前記減算器の出力信号を積分する積分器を備え、
前記積分器の出力信号を、前記制御対象が振動しない前記指令として前記制御演算器に与えることを特徴とする請求項1記載のモーションコントロール装置。
【請求項3】
前記モーションコントロール装置が、更に、前記減算器の出力信号もしくは前記積分器の出力信号をフィルタ処理するフィルタ演算器を備えることを特徴とする請求項1または2記載のモーションコントロール装置。
【請求項4】
前記波形発生器が、前記第1の基本波形および第2の基本波を矩形波として出力し、かつ、前記矩形波の前記第2の時間幅が前記第1の時間幅より小さくなるように出力し、
前記制御対象が任意の単数の周波数で振動しない前記指令を生成することを特徴とする請求項1記載のモーションコントロール装置。
【請求項5】
前記波形発生器が、更に、前記指令に基づいて前記第1の基本波形および第2の基本波を出力し、かつ、前記矩形波の前記第2の時間幅が前記第1の時間幅より小さくなるように出力し、
前記制御対象が任意の複数の周波数で振動しない新たな指令を生成することを特徴とする請求項1記載のモーションコントロール装置。
【請求項6】
前記モーションコントロール装置が、前記第1の基本波形の振幅に第1の所定ゲインを乗じた信号を、固有振動角周波数の2次遅れ系の伝達特性を有するシステムに入力した際に発生する第1の正弦波と、前記第2の基本波形の振幅に第2の所定ゲインを乗じた信号を、前記固有振動角周波数の2次遅れ系の伝達特性を有するシステムに入力した際に発生する第2の正弦波と、を算出し、
前記第1の正弦波と前記第2の正弦波との振幅および位相が一致するように、前記所定遅延時間および前記第1の所定ゲイン並びに前記第2の所定ゲインを算出することを特徴とする請求項1記載のモーションコントロール装置。
【請求項7】
制御対象を制御する制御演算器に与える指令を生成して出力するモーションコントローラであって、
前記制御対象が任意の単数の周波数で振動しない略凹状の前記指令を出力し、前記指令を速度指令もしくは前記指令を更に積分した位置指令として前記制御演算器に出力することを特徴とするモーションコントロール装置。
【請求項8】
前記モーションコントロール装置が、前記指令である速度指令に基づいて前記制御対象が任意の複数の周波数で振動しない略凹状の新たな指令を出力し、前記新たな指令を速度指令もしくは前記新たな指令を更に積分した位置指令として前記制御演算器に出力することを特徴とする請求項7記載のモーションコントロール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−60044(P2011−60044A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209746(P2009−209746)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】