説明

モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置

【課題】演算負荷の増大を招くことなく、より精度よく各相間の抵抗アンバランスに起因するトルクリップルの発生を抑制することが可能なモータ制御装置を提供すること。
【解決手段】モータ制御信号生成部24は、相抵抗補正演算部35を備える。相抵抗補正演算部35には、予め測定された各相の抵抗値Ru,Rv,Rw、及び基準抵抗値Rが記憶され、該相抵抗補正演算部35は、これらの記憶された値に基づいて、d/q座標系の電圧方程式においてモータ12の回転角θに依存して変動する電圧降下項を打ち消すような補正成分εd,εqを演算する。そして、モータ制御信号生成部24は、これら各補正成分εd,εqをd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に重畳することにより、各相間の抵抗値の相違に起因するトルクリップルの発生を抑制すべく該各d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、三相(U,V,W)の駆動電力の供給を通じてモータの作動を制御するモータ制御装置では、各相の抵抗値は全て等しいことを前提として、その各相電流が等しくなるように(それぞれの振幅が等しく、同一の回転角における各相電流値の総和がゼロとなるように)各相の印加電圧が制御される。しかしながら、現実には、その配線長の違いやフェールセーフ用の相開放リレーの有無(通常は三相のうちの二相のみに設置)等により、各相の抵抗値は必ずしも均等とはならない。その結果、各相電流のバランスが崩れ、トルクリップルが発生してしまうという問題がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1に記載のモータ制御装置では、各相開放リレーの抵抗値を踏まえ、各相電流が等しくなるように、相開放リレーが設けられた二相、又は残る一相の電圧を補正する。そして、これにより、トルクリップルの発生を抑えて円滑なモータ回転を確保する構成となっている。
【特許文献1】特開2005−170924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例では、各相開放リレー、及び各相の抵抗値は同一であることを前提としているため、各相開放リレーの抵抗値にバラツキがある場合や、各相の配線長が異なる場合には対処することができない。そして、これに対応すべく三相の全てについて電圧補正を行うとすれば、その演算負荷の増大から、より高性能な演算装置(マイコン)を採用する必要があり、これが製造コストを押し上げる要因となるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、演算負荷の増大を招くことなく、より精度よく各相間の抵抗アンバランスに起因するトルクリップルの発生を抑制することのできるモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、d/q座標系における電流フィードバック制御の実行によりモータ制御信号を生成するモータ制御信号生成手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動回路とを備えたモータ制御装置であって、各相の抵抗値を記憶する記憶手段を備え、前記モータ制御信号生成手段は、前記記憶された各抵抗値に基づいて、前記各抵抗値の相違により生ずるトルクリップルを抑制すべく、前記d/q座標系における各電圧指令値を補正すること、を要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記d/q座標系における各電圧指令値の補正は、当該d/q座標系の電圧方程式において、前記モータの回転角に依存して変動する電圧降下項を打ち消す補正成分の重畳により行われること、を要旨とする。
【0008】
即ち、二軸の直流量としてモータ電圧及び電流が取り扱われるd/q座標系上では、各相間の抵抗アンバランスに起因するリップル成分が交流成分として表面化する。より具体的には、その電圧方程式において、モータの回転角に応じて変動する電圧降下項としてまとめることが可能である。従って、上記各構成によれば、より精度よく各相間の抵抗アンバランスに起因するトルクリップルの発生を抑えて円滑なモータ回転を確保することができる。更に、d軸及びq軸の二軸上で補正がその完結することから、U,V,Wの三相において補正する場合よりも演算負荷が小さい。その結果、高性能な演算装置(マイコン)の採用に伴うコスト上昇を回避することができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記記憶される各相の抵抗値は、前記モータと前記駆動回路との間を接続する動力配線、及び該動力配線に設けられた相開放リレーを含む電力供給経路の抵抗値を各相毎に予め測定した値であること、を要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のモータ制御装置を備えた電動パワーステアリング装置であることを要旨とする。
上記構成によれば、演算負荷の増大を招くことなく、より精度よく各相間の抵抗アンバランスに起因するトルクリップルの発生を抑制して、より良好な操舵フィーリングを実現することができるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、演算負荷の増大を招くことなく、より精度よく各相間の抵抗アンバランスに起因するトルクリップルの発生を抑制することが可能なモータ制御装置及び電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のEPS1の概略構成図である。同図に示すように、ステアリングホイール(ステアリング)2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック5に連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック5の往復直線運動に変換される。そして、このラック5の往復直線運動により操舵輪6の舵角が変更されるようになっている。
【0013】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0014】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、その駆動源であるモータ12がラック5と同軸に配置された所謂ラック型のEPSアクチュエータであり、モータ12が発生するアシストトルクは、ボールねじ機構(図示略)を介してラック5に伝達される。尚、本実施形態のモータ12は、ブラシレスモータであり、ECU11から三相(U,V,W)の駆動電力の供給を受けることにより回転する。そして、モータ制御装置としてのECU11は、このモータ12が発生するアシストトルクを制御することにより、操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
【0015】
本実施形態では、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されている。そして、ECU11は、これらトルクセンサ14及び車速センサ15によりそれぞれ検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、EPSアクチュエータ10の作動、即ちパワーアシスト制御を実行する。
【0016】
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段としてのマイコン17と、モータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
【0017】
尚、本実施形態の駆動回路18は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(アーム)として各相に対応する3つのアームを並列接続してなる周知のPWMインバータであり、マイコン17の出力するモータ制御信号は、駆動回路18を構成する各スイッチング素子のオンduty比を規定するものとなっている。そして、モータ制御信号が各スイッチング素子のゲート端子に印加され、同モータ制御信号に応答して各スイッチング素子がオン/オフすることにより、車載電源(図示略)の直流電圧が三相(U,V,W)の駆動電力に変換されてモータ12に供給されるようになっている。
【0018】
本実施形態では、ECU11には、モータ12に通電される各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ20u,20v,20w、及びモータ12の回転角θを検出するための回転角センサ21が接続されている。そして、マイコン17は、これら各センサの出力信号に基づき検出されたモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θ、並びに上記操舵トルクτ及び車速Vに基づいて駆動回路18にモータ制御信号を出力する。
【0019】
さらに詳述すると、マイコン17は、操舵系に付与するアシスト力の制御目標量として電流指令値を演算する電流指令値演算部22と、電流指令値演算部22により算出された電流指令値に基づいてモータ制御信号を生成するモータ制御信号生成手段としてのモータ制御信号生成部24とを備えている。
【0020】
電流指令値演算部22は、上記トルクセンサ14及び車速センサ15により検出された操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を演算する。尚、本実施形態では、通常、電流指令値演算部22は、d軸電流指令値Id*として「0」を出力する(Id*=0)。モータ制御信号生成部24には、電流指令値演算部22の出力するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*とともに、各電流センサ20u,20v,20wにより検出された各相電流値Iu,Iv,Iw、及び回転角センサ21により検出された回転角θが入力される。そして、モータ制御信号生成部24は、これら各相電流値Iu,Iv,Iw、及び回転角θ(電気角)に基づいて、d/q座標系における電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を生成する。
【0021】
即ち、モータ制御信号生成部24において、各相電流値Iu,Iv,Iwは、回転角θとともに3相/2相変換部25に入力され、同3相/2相変換部25によりd/q座標系のd軸電流値Id及びq軸電流値Iqに変換される。また、モータ制御信号生成部24に入力されたq軸電流指令値Iq*は、上記q軸電流値Iqとともに減算器26qに入力され、d軸電流指令値Id*は、d軸電流値Idとともに減算器26dに入力される。これら減算器26d,26qにおいて演算されたd軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqは、それぞれ対応するF/B制御部27d,27qに入力される。そして、これら各F/B制御部27d,27qにおいて、その制御目標値であるd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に実電流であるd軸電流値Id及びq軸電流値Iqを追従させためのフィードバック制御が行われる。
【0022】
具体的には、F/B制御部27d,27qは、入力されたd軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqに所定のF/Bゲイン(PIゲイン)を乗ずることにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。そして、これらd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*(後述する補正後のd軸電圧指令値Vd**及びq軸電圧指令値Vq**)は、回転角θとともに2相/3相変換部28に入力され、同2相/3相変換部28において三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換される。
【0023】
2相/3相変換部28において演算された各電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、PWM変換部29に入力され、同PWM変換部29において、該各電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応するduty指令値が生成される。そして、モータ制御信号生成部24は、これら各duty指令値に示されるオンduty比を有するモータ制御信号を生成し、マイコン17は、そのモータ制御信号を、駆動回路18を構成する各スイッチング素子(のゲート端子)に出力することにより、同駆動回路18の作動、即ちモータ12への駆動電力の供給を制御する。
【0024】
また、本実施形態では、モータ12と駆動回路18とを接続する各相の動力配線Lp_u,Lp_v,Lp_wのうち、U相及びV相の動力配線Lp_u,Lp_vには、フェールセーフ用の相開放リレー30a,30bが設けられており、ECU11には、これに対応する駆動回路31が設けられている。具体的には、本実施形態のマイコン17には、モータ12に対する過剰電流の発生等、システム異常の発生を検知する異常判定部32が設けられており、上記の駆動回路31は、この異常判定部32が出力する異常信号Strに基づいて、各相開放リレー30a,30bを開駆動する。そして、モータ12に対する駆動電力の供給を遮断することにより、速やかなフェールセーフを図る構成となっている。
【0025】
(抵抗アンバランス補正制御)
次に、本実施形態における抵抗アンバランス補正制御の態様について説明する。
上述のように、実際のモータ制御装置においては、配線長の違いやフェールセーフ用の相開放リレーの有無等により、各相の抵抗値は必ずしも均等とはならない。その結果、各相電流のバランスが崩れ、トルクリップルが発生してしまうという問題がある。
【0026】
この点を踏まえ、本実施形態では、モータ制御信号生成手段としてのモータ制御信号生成部24は、こうした各相間の抵抗値の相違に起因するトルクリップルの発生を抑制すべく、そのモータ制御信号の生成過程におけるd/q座標系の各電圧指令値、即ちd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を補正する。
【0027】
詳述すると、図2に示すように、本実施形態のモータ制御信号生成部24は、相抵抗補正演算部35を備えており、該相抵抗補正演算部35には、予め測定された各相の抵抗値Ru,Rv,Rw、及び基準抵抗値Rが記憶(保持)されている。即ち、本実施形態では、この相抵抗補正演算部35により記憶手段が構成されている。尚、上記記憶される各相の抵抗値Ru,Rv,Rwは、モータ12と駆動回路18との間を接続する動力配線Lp_u,Lp_v,Lp_w、及び該動力配線に設けられたフェールセーフ用の相開放リレー30a,30bを含む電力供給経路の抵抗値を各相毎に予め測定した値である(シミュレーション値でもよい)。そして、本実施形態では、基準抵抗値Rには、測定された各相の抵抗値Ru,Rv,Rwの平均値が用いられている。
【0028】
また、相抵抗補正演算部35には、d/q座標系の各実電流値、即ちd軸電流値Id及びq軸電流値Iq、並びにモータ12の回転角θが入力されるようになっている。そして、該相抵抗補正演算部35は、これらの状態量、及び上記記憶された各相の抵抗値Ru,Rv,Rw、並びに基準抵抗値Rに基づいて、上記補正を実行するための補正成分εd,εqを演算する。
【0029】
具体的には、本実施形態の相抵抗補正演算部35は、次の(1)(2)式に基づいて、上記各補正成分εd,εqを演算する。
【0030】
【数1】

尚、上式において、「ΔRu」「ΔRv」「ΔRw」は、基準抵抗値Rに対する各相の抵抗値Ru,Rv,Rwのズレである。
【0031】
そして、モータ制御信号生成部24は、加算器36d,36qにおいて、これら各補正成分εd,εqをd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に重畳することにより、該各d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を補正する構成となっている。
【0032】
さらに詳述すると、先ず、「各相の抵抗値Ru,Rv,Rwが等しい場合」におけるd/q座標系の電圧方程式は、次の(3)式に表すことができる。そして、これに対応するブロック線図は、図3に示されるものとなる。
【0033】
【数2】

尚、上式において、「L」はインダクタンス(「s」は微分演算子)、「p」は極対数、「ωm」はモータ回転角(機械角)、「Ke」は逆起電力定数である。
【0034】
一方、各相の抵抗値Ru,Rv,Rwは、基準抵抗値R及び該基準抵抗値Rに対する各相抵抗値のズレΔRu,ΔRv,ΔRwを用いて、次の(4)式に表すことができ、これを(5)〜(7)式を用いてd/q座標系に変換することにより(8)式を得る。
【0035】
【数3】

従って、「各相間の抵抗アンバランスを考慮した場合」におけるd/q座標系の電圧方程式は、次の(9)式に表すことができ、これに対応するブロック線図は図4に示されるものとなる。尚、図4中、破線αに囲まれた「A」「B」「C」「D」の各ブロックは、それぞれ(9)式中の「Rdq_aa」「Rdq_ab」「Rdq_ba」「Rdq_bb」に(2/3)を乗じたものである。
【0036】
【数4】

即ち、上記(9)式及び図4に示すように、各相間に抵抗アンバランスがある場合には、上記(2)式及び図3に示される各相の抵抗値Ru,Rv,Rwが等しい場合との比較において、その各相抵抗値のズレΔRu,ΔRv,ΔRwに起因する干渉成分が電圧降下項となる((9)式中の第1項、及び図4中の破線αに囲まれた「A」「B」「C」「D」の各ブロック)。そして、各相間に抵抗アンバランスがある場合、上記(8)式に示されるように、この電圧降下項がモータ12の回転角に依存して変動することによって、トルクリップルが発生することになる。
【0037】
つまり、二軸の直流量としてモータ電圧及び電流が取り扱われるd/q座標系上においては、上記のような各相間の抵抗アンバランスに起因するリップル成分が交流成分として表面化する。そして、本実施形態では、図5に示すブロック線図のように、その交流成分(同図中、モータ12側の破線αに囲まれた「A」「B」「C」「D」の各ブロック)を打ち消すような補正成分(同図中、ECU11側の破線βに囲まれた「A」「B」「C」「D」の各ブロック)をd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に重畳する。即ち、上記(1)(2)式に示される、補正成分εd,εqを重畳することにより、各相間の抵抗アンバランスに起因するトルクリップルの発生を抑制する構成となっている。
【0038】
以上、本実施形態によれば、より精度よく各相間の抵抗アンバランスに起因するトルクリップルの発生を抑えて円滑なモータ回転を確保することができる。更に、d軸及びq軸の二軸上で補正がその完結することから、U,V,Wの三相において補正する場合よりも演算負荷が小さい。その結果、高性能な演算装置(マイコン)の採用に伴うコスト上昇を回避することができる。
【0039】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、本発明を電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化したが、EPS以外の用途に用いられるモータ制御装置に具体化してもよい。
【0040】
・本実施形態では、d/q座標系において表面化する交流成分として、各相抵抗値のズレΔRu,ΔRv,ΔRwに起因する干渉成分に着目し、これを打ち消すような補正成分をd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に重畳することとした。しかし、これに限らず、各相抵抗値のズレΔRu,ΔRv,ΔRw及び基準抵抗値Rを含めた各相の抵抗値Ru,Rv,Rw自体を干渉成分と取り扱い、これを打ち消すような補正成分をd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*に重畳する構成としてもよい。尚、この場合、上記(9)式は、次の(10)式のように変形される。従って、そのブロック線図もまた、図6に示されるものとなる。
【0041】
【数5】

・本実施形態では、記憶手段としての相抵抗補正演算部35は、予め測定された各相の抵抗値Ru,Rv,Rw、及び基準抵抗値Rを記憶(保持)することとした。しかし、これに限らず、各相抵抗値のズレΔRu,ΔRv,ΔRw及び基準抵抗値Rを保持する構成であってもよい。また、基準抵抗値Rには、測定された各相の抵抗値Ru,Rv,Rwの平均値を用いることとしたが、各相の抵抗値Ru,Rv,Rwの何れかを基準抵抗値Rとする構成としてもよい。
【0042】
・また、本実施形態では、相抵抗補正演算部35は、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqに基づいて補正成分εd,εqを演算することとした(上記(1)(2)式参照)。しかし、これに限らず、補正成分εd,εqの演算は、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を用いて行うこととしてもよい。このような構成としても本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
・さらに、各相の抵抗値Ru,Rv,Rwについて温度補正を行うものについて、本発明を適用するとよい。即ち、各相間の抵抗アンバランスにある場合、温度変化によって、当該アンバランスが助長されることになる。従って、本発明を温度補正制御と併用することで、より顕著な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】EPSの電気的構成を示す制御ブロック図。
【図3】各相の抵抗値が等しい場合のブロック線図。
【図4】各相間の抵抗アンバランスを考慮した場合のブロック線図。
【図5】本実施形態の補正を適用した場合のブロック線図。
【図6】別例の補正を適用した場合のブロック線図。
【符号の説明】
【0045】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、10…EPSアクチュエータ、11…EPSECU、12…モータ、17…マイコン、18…駆動回路、22…電流指令値演算部、24…モータ制御信号生成部、30a,30b…相開放リレー、35…相抵抗補正演算部、Lp_u,Lp_v,Lp_w…動力配線、θ…回転角、Vd*,Vd**…d軸電圧指令値、Vq*,Vq**…q軸電圧指令値、εd,εq…補正成分、Ru,Rv,Rw…抵抗値、ΔRu,ΔRv,ΔRw…ズレ、R…基準抵抗値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
d/q座標系における電流フィードバック制御の実行によりモータ制御信号を生成するモータ制御信号生成手段と、前記モータ制御信号に基づいてモータに三相の駆動電力を供給する駆動回路とを備えたモータ制御装置であって、
各相の抵抗値を記憶する記憶手段を備え、
前記モータ制御信号生成手段は、前記記憶された各抵抗値に基づいて、前記各抵抗値の相違により生ずるトルクリップルを抑制すべく、前記d/q座標系における各電圧指令値を補正すること、を特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記d/q座標系における各電圧指令値の補正は、当該d/q座標系の電圧方程式において、前記モータの回転角に依存して変動する電圧降下項を打ち消す補正成分の重畳により行われること、を特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置において、
前記記憶される各相の抵抗値は、前記モータと前記駆動回路との間を接続する動力配線、及び該動力配線に設けられた相開放リレーを含む電力供給経路の抵抗値を各相毎に予め測定した値であること、を特徴とするモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のモータ制御装置を備えた電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−81951(P2009−81951A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249612(P2007−249612)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】