説明

モータ制御装置

【課題】 スイッチング損失を低減できるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】 車両に設けられたブレーキ液圧制御装置の液圧をコントロールするためのポンプを駆動するモータMと、モータMのブラシ20a,20b,20c,20dに通電する回路のオンオフを切り替えるリレー21a,21b,21c,21dを備えた駆動回路24と、リレー21a,21b,21c,21dをコントロールするコントローラ25と、を備え、モータMは、プラス側ブラシ20a,20cと、マイナス側ブラシ20b,20dとを有し、コントローラ25は、モータMの駆動時、第1の電極を成す2つのブラシの一方と第2の電極を成す1つのブラシが共に通電され、車両の状態に応じて各ブラシの通電パターンが切り替わるようにリレー21a,21b,21c,21dを駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、騒音が許容されない通常状態ではモータ制御のPWM周波数を最大可聴周波数よりも高くし、騒音が許容される騒音許容状態ではPWM周波数を最大可聴周波数以下としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−168545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、通常状態ではPWM周波数を最大可聴周波数よりも高くする必要があるため、駆動素子のスイッチング損失が大きいという問題があった。
本発明の目的は、スイッチング損失を低減できるモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のモータ制御装置では、車両に設けられた液圧制御装置のポンプを駆動するブラシモータの作動時、車両の状態に応じて各ブラシの通電パターンが切り替わるように、ブラシモータに通電する回路のオンオフを切り替える切り替え手段を駆動する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明によれば、スイッチング損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1のブレーキ液圧制御装置1の斜視図である。
【図2】実施例1のブレーキ液圧制御装置1の油圧回路図である。
【図3】実施例1のモータ制御装置19の構成図である。
【図4】実施例1のブラシ通電パターン決定部25aの通電パターン決定処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施例1のリレー選択部25bのリレー選択処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例1の各ブラシ通電パターンとNT特性との関係図である。
【図7】実施例1の各ブラシ通電パターンとモータMに供給される電流との関係を示す回路図である。
【図8】モータに電流を印加したときにモータに流れる電流の波形を示す図である。
【図9】実施例1のモータMに電圧を印加したときにモータMに流れる電流を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のモータ制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0009】
〔実施例1〕
まず、構成を説明する。
[ブレーキ液圧制御装置]
図1は、実施例1のブレーキ液圧制御装置1の斜視図であり、ブレーキ液圧制御装置1は、車両の各車輪に設けられたホイルシリンダの液圧を制御するもので、例えば、車両のエンジンルーム内に配置され、DCブラシモータ(以下、モータ)Mと、ポンプや電磁弁等の油圧部品を内蔵し内部に油圧回路を構成したハウジングHGと、モータMや油圧部品を駆動制御する電気回路を備えたブレーキコントローラECUを有する。
図2は、実施例1のブレーキ液圧制御装置1の油圧回路図である。
実施例1の油圧回路は、P系統とS系統の2系統からなる、X配管と呼ばれる配管構造を有する。
P系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続され、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。また、P系統、S系統それぞれに、ポンプPPとポンプPSとが設けられ、このポンプPPとポンプPSは、1つのモータMによって駆動される。
ブレーキペダルBPには、ブレーキペダルBPの操作状態を検出するブレーキスイッチBSが設けられている。ブレーキペダルBPは、インプットロッドIRを介してマスタシリンダM/Cに接続されている。なお、インプットロッドIRの入力を倍力するブースタを備えた構成としてもよい。
【0010】
マスタシリンダM/CとポンプPP,PS(以下、ポンプP)の吸入側とは、管路11P,11S(以下、管路11)によって接続されている。この各管路11上には、常閉型のオンオフ電磁弁であるゲートインバルブ2P,2Sが設けられている。マスタシリンダM/Cとゲートインバルブ2Pとの間には、マスタシリンダM/Cの圧力を検出する圧力センサPMCが設けられている。
また、管路11上であって、ゲートインバルブ2P,2S(以下、ゲートインバルブ2)とポンプPとの間にはチェックバルブ6P,6S(以下、チェックバルブ6)が設けられ、この各チェックバルブ6は、ゲートインバルブ2からポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
各ポンプPの吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、管路12P,12S(以下、管路12)によって接続されている。この各管路12上には、各ホイルシリンダW/Cに対応する常開型の比例電磁弁であるソレノイドインバルブ4FL,4RR,4FR,4RL(以下、ソレノイドインバルブ4)が設けられている。
また、各管路12上であって、各ソレノイドインバルブ4とポンプPとの間にはチェックバルブ7P,7S(以下、チェックバルブ7)が設けられて、この各チェックバルブ7は、ポンプPからソレノイドインバルブ4へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
さらに、各管路12には、各ソレノイドインバルブ4を迂回する管路17FL,17RR,17FR,17RL(以下、管路17)が設けられ、この管路17には、チェックバルブ10FL,10RR,10FR,10RL(以下、チェックバルブ10)が設けられている。この各チェックバルブ10は、ホイルシリンダW/CからポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0011】
マスタシリンダM/Cと管路12とは管路13P,13S(以下、管路13)によって接続され、管路12と管路13とはポンプPとソレノイドインバルブ4との間において合流する。この各管路13上には、常開型の比例電磁弁であるゲートアウトバルブ3P,3S(以下、ゲートアウトバルブ3)が設けられている。
また各管路13には、各ゲートアウトバルブ3を迂回する管路18P,18S(以下、管路18)が設けられ、この管路18には、チェックバルブ9P,9S(以下、チェックバルブ9)が設けられている。この各チェックバルブ9は、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
ポンプPの吸入側にはリザーバ16P,16S(以下、リザーバ16)が設けられ、このリザーバ16とポンプPとは管路15P,15S(以下、管路15)によって接続されている。リザーバ16とポンプPとの間にはチェックバルブ8P,8S(以下、チェックバルブ8)が設けられて、この各チェックバルブ8は、リザーバ16からポンプPへ向かう方向のブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
ホイルシリンダW/Cと管路15とは管路14P,14S(以下、管路14)によって接続され、管路14と管路15とはチェックバルブ8とリザーバ16との間において合流する。この各管路14には、それぞれ常閉型のオンオフ電磁弁であるソレノイドアウトバルブ5FL,5RR,5FR,5RLが設けられている。
ブレーキコントローラECUは、圧力センサPMCにより検出されたマスタシリンダ圧Pmcや各種車両情報(車輪速、車両加速度)に基づいて、アンチスキッドブレーキ制御(ABS)や、先行車追従制御(ACC)、車両挙動安定化制御(VDC)等の自動ブレーキ制御における制御目標値を演算し、ゲートインバルブ2、ゲートアウトバルブ3、ソレノイドインバルブ4、ソレノイドアウトバルブ5およびモータMを駆動制御する。
【0012】
[モータ制御装置]
図3は、実施例1のモータ制御装置19の構成図であり、モータ制御装置19は、上記モータMと、モータMの通電を制御する駆動素子22と、モータMの各ブラシ20a,20b,20c,20dに通電する回路のオンオフを切り替えるリレー(切り替え手段)21a,21b,21c,21dを備えた駆動回路24と、駆動素子22およびリレー21a,21b,21c,21dをコントロールするコントローラ25と、を有する。コントローラ25は、ブレーキコントローラECUが機能の一部として備えるものである。
実施例1のモータMは、4個のブラシ20a,20b,20c,20dを有するDCブラシモータである。プラス側ブラシ20a,20cは、電源であるバッテリBATに接続され、マイナス側ブラシ20b,20dは、グランドGNDに接続されている。バッテリBATとプラス側ブラシ20a,20cとの間には、両者を電気的に断接するリレー21a,21cが介装されている。また、グランドGNDとマイナス側ブラシ20b,20dとの間には、両者を電気的に断接するリレー21b,21dが介装されている。駆動素子22は、リレー21b,21bとグランドGNDとの間に介装されている。
コントローラ25は、ブラシ通電パターン決定部25aとリレー選択部25bとリレー駆動部25cとPWM制御部25dとを有する。
ブラシ通電パターン決定部25aは、車両の状態に応じて4個のブラシ20a,20b,20c,20dのブラシ通電パターンを決定する。各ブラシ通電パターンは、互いに通電するブラシの数を異ならせたもので、ブラシ通電パターンを変えることで異なるNT(回転数−トルク)特性が得られる。実施例1のモータMは、4個のブラシモータであるため、ブラシ通電パターンは以下の3通りとなる。
1.パターンA:全てのブラシ20a,20b,20c,20dに通電する。
2.パターンB:プラス側ブラシ20a,20cの一方と、マイナス側ブラシ20b,20dの両方とに通電する。または、プラス側ブラシ20a,20cの両方と、マイナス側ブラシ20b,20dの一方とに通電する。
3.パターンC:プラス側ブラシ20a,20cの一方とマイナス側ブラシ20b,20dの一方とに通電する。
リレー選択部25bは、ブラシ通電パターン決定部25aにより決定されたブラシ通電パターンに応じて、ONするブラシおよびOFFするブラシを選択する。また、リレー選択部25bは、各リレー21a,21b,21c,21dの通電時間(ON時間)をそれぞれ積算して不揮発性のメモリ内に記憶し、ブラシ通電パターンがBまたはCに決定された場合には、ON時間が少ないブラシを優先的に選択する(切り替え手段駆動時間検出手段)。ここで、メモリに記憶された通電時間は、イグニッションキースイッチのオンまたはオフによって消去されないものとする。
リレー駆動部25cは、リレー選択部25bにより選択されたブラシをON、選択されなかったブラシをOFFする駆動指令を各リレー21a,21b,21c,21dに出力し、各リレー21a,21b,21c,21dを駆動する。
PWM制御部25dは、モータMの作動時、最大可聴周波数よりも小さなPWM周波数(例えば、100〜150Hzの間の値)で駆動素子22を駆動する。
【0013】
[通電パターン決定処理]
図4は、実施例1のブラシ通電パターン決定部25aの通電パターン決定処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS1では、ブレーキスイッチBSの信号からブレーキ操作中であるか否かを判定し、YESの場合はステップS2へ進み、NOの場合はステップS4へ進む。
ステップS2では、車体速から車両が停止状態であるか否かを判定し、YESの場合はステップS10へ進み、NOの場合はステップS3へ進む。
ステップS3では、ABS制御中であるか否かを判定し、YESの場合はステップS4へ進み、NOの場合はステップS6へ進む。
ステップS4では、昇圧速度が高いホイルシリンダがあるか否かを判定し、YESの場合はステップS5へ進み、NOの場合はステップS9へ進む。
ステップS5では、要求液圧が高いホイルシリンダがあるか否かを判定し、YESの場合はステップS8へ進み、NOの場合はステップS9へ進む。
ステップS6では、マスタシリンダ圧Pmcの増加勾配から急制動要求時であるか否かを判定し、YESの場合はステップS8へ進み、NOの場合はステップS7へ進む。
ステップS7では、ブラシ通電パターンをBとする。
ステップS8では、ブラシ通電パターンをAとする。
ステップS9では、ブラシ通電パターンをBとする。
ステップS10では、ブラシ通電パターンをCとする。
【0014】
[リレー選択処理]
図5は、実施例1のリレー選択部25bのリレー選択処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS11では、ブラシ通電パターン決定部25aにより決定されたブラシ通電パターンを読み込む。
ステップS12では、ステップS11で読み込んだブラシ通電パターンがブラシ通電パターンBであるか否かを判定し、YESの場合はステップS13へ進み、NOの場合はステップS15へ進む。
ステップS13では、メモリから各リレー21a,21b,21c,21dのON時間の積算値を読み込む。
ステップS14では、ON時間の積算値が少ない3個のリレーを選択する。
ステップS15では、ステップS11で読み込んだブラシ通電パターンがブラシ通電パターンCであるか否かを判定し、YESの場合はステップS17へ進み、NOの場合はステップS16へ進む。
ステップS16では、全てのリレー21a,21b,21c,21dをONとし、ステップS22へ進む。
ステップS17では、メモリから各リレー21a,21b,21c,21dのON時間の積算値を読み込む。
ステップS18では、ステップS17で読み込んだリレー21aのON時間の積算値とリレー21cのON時間の積算値とを比較する。
ステップS19では、ステップS18で比較した2つのON時間の積算値うち少ない方のリレーを選択し、ステップS22へ進む。
ステップS20では、ステップS17で読み込んだリレー21bのON時間の積算値とリレー21dのON時間の積算値とを比較する。
ステップS21では、ステップS20で比較した2つのON時間の積算値のうち少ない方のリレーを選択し、ステップS22へ進む。
ステップS22では、今回の制御周期における各リレーのON時間をメモリに記憶された積算値に加算する。
【0015】
次に、作用を説明する。
[通電パターン決定処理作用]
(ブラシ通電パターンA)
ホイルシリンダの昇圧速度が高く、かつ、要求液圧が高い場合には、図4に示したフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS8へと進み、ブラシ通電パターンAを選択する。
また、ブレーキペダルBPの踏み込み速度が高い場合には、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS6→ステップS8へと進み、ブラシ通電パターンAを選択する。
(ブラシ通電パターンB)
ブレーキペダルBPの踏み込み速度が低い場合には、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS6→ステップS7へと進み、ブラシ通電パターンBを選択する。
ホイルシリンダの昇圧速度が低い場合には、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS9へと進み、ブラシ通電パターンBを選択する。
また、要求液圧が低い場合には、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS9へと進み、ブラシ通電パターンBを選択する。
(ブラシ通電パターンC)
車両の停車時には、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS10へと進み、ブラシ通電パターンCを選択する。
【0016】
[ブラシ通電パターンとモータ特性]
図6は、実施例1の各ブラシ通電パターンとNT特性との関係図である。
ブラシ通電パターンAの場合、ロックトルクT1のとき、ロック電流I1が流れるようなモータ特性となる。
ブラシ通電パターンBの場合、ロックトルクT2のとき、ロック電流I2が流れるようなモータ特性となる。ロックトルクT2はロックトルクT1の1/2の大きさであり、ロック電流I2はロック電流I1の1/2の大きさである。
ブラシ通電パターンCの場合、ロックトルクT3のとき、ロック電流I3が流れるようなモータ特性となる。ロックトルクT3は、ロックトルクT1の1/3の大きさであり、ロック電流I3は、ロック電流I1の1/3の大きさである。
以下に、各ブラシ通電パターンでNT特性が異なる理由を説明する。
図7は、実施例1の各ブラシ通電パターンとモータMに供給される電流との関係を示す回路図であり、(a)はブラシ通電パターンA、(b)はブラシ通電パターンB、(c)はブラシ通電パターンCである。なお、バッテリBATとグランドGND間の電位差をV、各ブラシ20a,20b,20c,20d間の各巻線23a,23b,23c,23dの抵抗をrとする。
(a) パターンAでは、全てのリレー21a,21b,21c,21dがONとなるため、バッテリBAT−グランドGND間の合成抵抗R1は、R1=r/4であり、バッテリBAT−グランドGND間に流れる電流I1は、I1=4V/rである。よって、各巻線23a,23b,23c,23dに流れる電流は、それぞれV/rとなる。
(b) パターンBでは、リレー21a,21b,21dがON、リレー21cがOFFとなるため、バッテリBAT−グランドGND間の合成抵抗R2は、R2=r/2であり、バッテリBAT−グランドGND間に流れる電流I2は、I2=2V/rである。よって、2つの巻線23a,23dに流れる電流は、それぞれV/rとなる。つまり、パターンBでは、巻線23a,23dの流れる電流はパターンAの各巻線23a,23b,23c,23dに流れる電流と同一であるが、電流が流れる巻線の数がパターンAの1/2であるため、ロックトルクT2はロックトルクT1の1/2の大きさとなる。なお、図では、プラス側ブラシ20a,20cの一方と、マイナス側ブラシ20b,20dの両方とを通電した例を示したが、プラス側ブラシ20a,20cの両方と、マイナス側ブラシ20b,20dの一方とを通電した場合も同様の結果となる。
(c) パターンCでは、リレー21a,21bがON、リレー21c,21dがOFFとなるため、バッテリBAT−グランド間の合成抵抗R3は、R3=3r/4であり、バッテリBAT−グランドGND間に流れる電流I3は、I3=4V/3rである。よって、巻線23aに流れる電流はV/r、巻線23b,23c,23dに流れる電流はV/3rとなる。つまり、パターンCでは、巻線23aに流れる電流はパターンAの各巻線23a,23b,23c,23dに流れる電流と同一であるが、巻線23b,23c,23dに流れる電流はパターンAの各巻線23a,23b,23c,23dに流れる電流の1/3となり、さらに、巻線23cに流れる電流は、モータトルクを打ち消す方向に作用するため、ロックトルクT3はロックトルクT1の1/3の大きさとなる。
【0017】
[従来装置の課題]
車両用のブレーキ液圧制御装置において、緊急回避を目的とした制動力を得るためのブレーキ制御の場合は、作動頻度が少なく、騒音の許容範囲も大きい。しかし、近年では、上記緊急回避時以外の通常走行時における自動ブレーキ制御、例えば先行車追従、車線逸脱防止、旋回時におけるヨーモーメント付与などの高機能制御と共にブレーキ液圧制御装置の作動頻度が増大している。また、車両の停止または停止寸前までブレーキ制御が継続されるため、ブレーキ液圧制御装置の作動騒音に対する要求は厳しくなっている。
ここで、ブレーキ液圧制御装置において、最も耳障りな作動騒音はモータを駆動する駆動素子のPWM周波数に大きく依存している。PWM周波数が最大可聴周波数よりも低い場合(例えば、500Hz)は、モータのインダクタンスが小さいと、図8(a)に示すように、駆動素子のOFFの期間でモータの電流が維持されずにゼロまで落ちてしまう。すなわち、電流変動が大きく、モータに連続して電流が流れないため、周期的に大きなトルク変動が発生することでPWM周波数の音が聞こえてしまう。一方、図8(b)のようにPWM周波数が最大可聴周波数を超える場合(例えば、20KHz)には、電流変化を小さくできるため、上記のような問題は発生しない。
【0018】
上記課題に対し、従来のブレーキ液圧制御装置では、騒音が許容されない通常状態と騒音が許容される急制動状態とでモータ制御のPWM周波数を切り替えることで対応している。つまり、通常状態ではPWM周波数を最大可聴周波数よりも高くし、急制動状態ではPWM周波数を最大可聴周波数以下とすることで、通常状態でのモータ作動音の低騒音化を図りつつ、急制動状態でのPWM制御による駆動素子の発熱を抑えて駆動素子の高寿命化を図っている。
ところが、上記従来装置では、通常状態でPWM周波数を高くしているため、スイッチングノイズ対策(コイル、コンデンサ等の追加)を施した高価な駆動素子が必要となる。また、上述したように近年では通常状態での作動頻度が増大しているため、PWM周波数が高い状態が続くと、駆動素子の発熱が大きくなる。よって、駆動素子の高寿命化を図るためには放熱板等の熱対策が必要となり、コストアップおよび装置の大型化を招く。なお、別案としてモータと駆動素子またはモータと電源との間にインダクタンスの大きなコイルを設定し、電流の変動を抑制することで騒音を抑制する方法も考えられるが、この方策ではモータの電流応答性が低下し、作動応答が遅くなるため、急制動要求時等、早い昇圧速度が来た場合に対応できなくなる。
つまり、従来装置では、コストアップや装置の大型化を要することなく、制動要求に即した液圧特性の実現と静粛性の向上とを両立させることができなかった。
【0019】
これに対し、実施例1のモータ制御装置19では、PWM周波数を最大可聴周波数以下の周波数としつつ、車両の走行時と停車時、ホイルシリンダW/Cの昇圧速度、要求液圧に応じて複数のブラシ通電パターンを切り替えている。すなわち、PWM周波数を変化させるのではなく、シーンに応じてモータMのNT特性を変えることにより、制動要求と静粛性との両立を図るものである。
[駆動素子の高寿命化]
モータMを駆動するPWM周波数を最大可聴周波数以下の低い周波数(100〜150Hzの間の値)に抑えているため、スイッチング損失を低減でき、駆動素子22の発熱を小さく抑えることができる。よって、スイッチングノイズ対策や発熱対策に伴うコストアップおよび装置の大型化を伴うことなく、駆動素子22の高寿命化を図ることができる。
【0020】
[制動要求に即した液圧特性の実現と静粛性の向上との両立]
図9は、実施例1のモータMに電圧を印加したときにモータMに流れる電流を示すタイムチャートであり、モータMが作動する瞬間、モータMには突入電流(インラッシュ電流)としてロック電流が流れ、このロック電流に比例したロックトルクが発生する。このロックトルクによりモータ自身に加振力が作用するため、ブレーキ液圧制御装置1が振動して作動騒音となる。実施例1では、PWM周波数を最大可聴周波数以下の周波数としているため、上述したように駆動素子22がONになるとき突入電流としてロック電流が流れる。
そこで、実施例1では、走行状態(走行時と停止時)、ホイルシリンダW/Cの昇圧速度、要求液圧に応じてモータMのNT特性を切り替えていることで、突入電流の大きさを変更している。図9に示すように、ブラシ通電パターンAのロック電流I1は最も大きく、ブラシ通電パターンBのロック電流I2はI1の1/2、ブラシ通電パターンCのロック電流I3はI1の1/3である。
つまり、急制動時であって高い液圧や高応答性が要求されるシーンでは、ブラシ通電パターンAを選択し、高トルクが得られるようなMT特性とする。このとき、突入電流は大きくなるものの、急制動時にはブレーキ液圧制御装置1の作動騒音が乗員に聞こえにくく、仮に聞こえたとしても気にならないため、静粛性は要求されない。
一方、緩制動時で急制動時よりも静粛性が要求されるシーンでは、ブラシ通電パターンBを選択し、突入電流を小さくすることで作動騒音を抑える。このとき、ブラシ通電パターンAに対してロックトルクが1/2となるNT特性に切り替わるが、緩制動時には高い液圧や高応答性が不要であるため、ブレーキ性能が阻害されることはない。
また、停車状態のような最も静粛性が要求されるシーンでは、ブラシ通電パターンCを選択し、作動騒音を最小限に抑える。なお、ブラシ通電パターンCに対してロックトルクが1/3となるNT特性に切り替わるが、停車状態を維持するホイルシリンダ圧は小さいため、車両が動き出すことはない。
以上のように、走行状態(走行時と停止時)、ホイルシリンダW/Cの昇圧速度、要求液圧に応じてモータMのNT特性を切り替えることで、制動要求に即した液圧特性の実現と静粛性の向上との両立を図ることができる。
【0021】
[ブラシの耐久性向上]
ブラシ通電パターンBでは、プラス側ブラシ20a,20cのどちらか一方、またはマイナス側ブラシ20b,20dのどちらか一方に通電すればよいため、通電するブラシを一方に固定すると、当該ブラシのみ摩耗し、耐久性が悪化する。この問題はブラシ通電パターンCについても同様に発生する。
そこで、実施例1では、図5に示したリレー選択処理を実行する。リレー選択処理では、通電パターン決定処理によってブラシ通電パターンBが選択された場合、ステップS11→ステップS12→ステップS13→ステップS14へと進み、ON時間が最も長いリレーを除外した3つのリレーを選択する。これにより、各ブラシ20a,20b,20c,20dの摩耗量のバラツキを低減でき、耐久性を高めることができる。
一方、リレー選択処理では、通電パターン決定処理によってブラシ通電パターンCが選択された場合、ステップS11→ステップS12→ステップS15→ステップS17→ステップS18→ステップS19→ステップS20→ステップS21へと進み、リレー21a,21cのうちON時間が短い方とリレー21b,21dのうちON時間が短い方とを選択する。これにより、各ブラシ20a,20b,20c,20dの摩耗量のバラツキを低減でき、耐久性を高めることができる。
[コスト抑制]
実施例1では、ポンプPを駆動するモータMとしてブラシモータを用いている。ここで、ブラシモータに代えてブラシレスモータを用いることで、高寿命化、静粛性の向上等の目的は達成可能であるが、ブラシレスモータは回転角センサ、電子回路を内蔵しているためブラシモータと比較して高価である。さらに、電流が大きい場合、駆動素子も高価となる。つまり、実施例1では、安価なブラシモータを用いてコストを抑制しつつ、高寿命化および静粛性の向上を実現している。
また、実施例1において、駆動回路24を構成する4つのリレー21a,21b,21c,21dは、ブラシ通電パターンを切り替える際にON/OFFされるものであって、PWM周波数のようなスイッチングスピードは不要であるため、安価なものを用いることができる。
すなわち、実施例1のモータ制御装置19は、制動要求に即した液圧特性の実現と静粛性の向上との両立を実現するための構成を、安価な構成部品(ブラシモータM、駆動素子22およびリレー21a,21b,21c,21d)を用いて実現することができる。
【0022】
次に、効果を説明する。
実施例1のモータ制御装置19では、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 車両に設けられたブレーキ液圧制御装置1の液圧をコントロールするためのポンプPを駆動するモータMと、モータMのブラシ20a,20b,20c,20dに通電する回路のオンオフを切り替えるリレー21a,21b,21c,21dを備えた駆動回路24と、リレー21a,21b,21c,21dをコントロールするコントローラ25と、を備え、モータMは、プラス側ブラシ20a,20cと、マイナス側ブラシ20b,20dとを有し、コントローラ25は、モータMの駆動時、第1の電極を成す2つのブラシの一方と第2の電極を成す1つのブラシが共に通電され、車両の状態に応じて各ブラシの通電パターンが切り替わるようにリレー21a,21b,21c,21dを駆動する。すなわち、車両状態に応じて各ブラシ20a,20b,20c,20dの通電パターンを切り替えることで、駆動素子22を最大可聴周波数以下の低い周波数で駆動できるため、スイッチング損失を低減できる。
(2) コントローラ25は、ホイルシリンダ液圧の昇圧速度または要求液圧に基づいて通電パターンを決定し、昇圧速度または要求液圧が高いときは低いときに比べて通電するブラシ数が多くなる通電パターンとする。すなわち、通電するブラシ数を増やすほどモータ性能を高くできる一方、作動騒音は大きくなる。逆に、通電するブラシ数を減らすほど作動騒音を小さくできる一方、モータ性能が低くなる。よって、昇圧速度または要求液圧が高いときは低いときに比べて通電するブラシ数が多くなる通電パターンとすることで、制動要求に即した液圧特性の実現と静粛性の向上との両立を図ることができる。
(3) コントローラ25は、各リレー21a,21b,21c,21dのうちON時間の短い切りリレーを選択し駆動する。すなわち、各リレー21a,21b,21c,21dのON時間は対応する各ブラシ20a,20b,20c,20dのON時間と等しいため、各リレー21a,21b,21c,21dのON時間を検出することで、各ブラシ20a,20b,20c,20dのON時間を判定できる。そして、同じ通電パターンが得られる各リレー21a,21b,21c,21dのON/OFFの組み合わせが複数存在する場合、通電時間の少ないリレーがONされるような組み合わせを選択することで、各ブラシ20a,20b,20c,20dの摩耗量のバラツキを低減でき、耐久性を高めることができる。
【0023】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
駆動素子22のPWM周波数は、実施例1に示したように100〜150Hzの間の値が好ましいが、500Hz以下であればよい。
実施例1では、4個のブラシ付きモータについて説明したが、本発明は、3個以上のブラシ付きモータに適用できる。
実施例1では、3つのブラシ通電パターンを切り替える例を示したが、AとBまたはAとCのように2つのブラシ通電パターンを切り替えてもよい。
図5のステップS9でブラシ通電パターンCを選択する構成としてもよい。また、ステップS10でブラシ通電パターンBを選択する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0024】
P ポンプ
W/C ホイルシリンダ
1 ブレーキ液圧制御装置
19 モータ制御装置
20a,20b,20c,20d ブラシ
21a,21b,21c,21d リレー(切り替え手段)
24 駆動回路
25 コントローラ
25b リレー選択部(切り替え手段駆動時間検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられた液圧制御装置の液圧をコントロールするためのポンプを駆動するブラシモータと、
前記ブラシモータの各ブラシに通電する回路のオンオフを切り替える切り替え手段を備えた駆動回路と、
前記切り替え手段をコントロールするコントローラと、
を備え、
前記ブラシモータは、第1の電極を成す2つのブラシと、前記第1の電極と異極の第2の電極を成す1つのブラシの少なくとも3つのブラシを有し、
前記コントローラは、前記ブラシモータの作動時、前記第1の電極を成す2つのブラシの一方と前記第2の電極を成す1つのブラシが共に通電され、前記車両の状態に応じて各ブラシの通電パターンが切り替わるように前記切り替え手段を駆動することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、
前記液圧制御装置は、前記車両の車輪に設けられたホイルシリンダの液圧をコントロールするブレーキ液圧制御装置であって、
前記ブラシモータは、前記第1の電極を成す2つのブラシと、前記第2の電極を成す2つのブラシとを備え、
前記コントローラは、前記ホイルシリンダ液圧の昇圧速度または要求液圧に基づいて前記通電パターンを決定し、前記昇圧速度または前記要求液圧が高いときは低いときに比べて通電するブラシ数が多くなる通電パターンとすることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置において、
前記切り替え手段のオン時間を検出する切り替え手段駆動時間検出手段を設け、
前記コントローラは、前記切り替え手段のうち前記オン時間の短い切り替え手段を選択し駆動することを特徴とするモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−218875(P2011−218875A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87463(P2010−87463)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】