説明

モータ制御装置

【課題】単一の電流検出素子によりモータに供給される各相の電流を、発熱を抑制しつつ検出する。
【解決手段】実施形態によれば、電流検出素子をインバータ回路の直流側に接続して電流値に対応する信号を発生させ、PWM信号生成手段は、モータの相電流に基づいてロータ位置を決定するとそのロータ位置に追従するように3相のPWM信号パターンを生成する。電流検出手段が、電流検出素子に発生した信号とPWM信号パターンとに基づいてモータの相電流を検出する場合、PWM信号生成手段は、電流検出手段がPWM信号の搬送波周期内で固定された2点のタイミングで2相の電流を検出可能となるよう3相のPWM信号パターンを生成する。電流判定手段は、検出された3相電流の大小関係を判定し、PWM信号生成手段は、3相間のPWMデューティ比を維持した状態で、検出された3相電流のうち最大相の通電期間をゼロ又は最小とするようPWM信号パターンを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ回路の直流部に配置される電流検出素子によって相電流を検出するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを制御するためにU,V,W各相の電流を検出する場合、インバータ回路の直流部に挿入した1つのシャント抵抗を用いて電流検出を行う技術がある。この方式で3相の全ての電流を検出するには、PWM(Pulse Width Modulation,パルス幅変調)キャリア(搬送波)の1周期内において、2相以上の電流を検出できるように3相のPWM信号パターンを発生させる必要がある。例えば図8に示すように(キャリアを鋸歯状波としている)、U,V相のデューティが等しい場合、U+(「+」はインバータ回路の上アーム側スイッチング素子を示す),V+がオン、W+がオフ時にW相の電流は検出できるが、他の相電流は検出できない。このため、図9に示すように、ある相(この場合W相)のPWM信号(デューティパルス)の位相をシフトさせることで、常に2相以上の電流を検出可能とすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3447366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電流検出のために各相のPWM信号を順次シフトさせると、3相の全てがオン又はオフする期間がシフトさせる前のパターンより減少することになる。3相の全てがオン又はオフする期間では、電流がインバータ回路のスイッチング素子とモータの巻線とのループ内で還流するので、シャント抵抗や直流電源部の平滑コンデンサには電流が流れず電流検出はできないが、その分だけ損失の発生は非常に小さい期間となる。(図10参照)。そのため、上述のようにPWM信号をシフトさせると、シャント抵抗や平滑コンデンサに電流が流れる期間が増加することに繋がり、これらの素子の発熱が増大することが問題となる。
【0005】
そこで、単一の電流検出素子によりモータに供給される各相の電流を、発熱を抑制しつつ検出できるモータ制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、3相ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を所定のPWM信号パターンに従いオンオフ制御することで、直流を3相交流に変換するインバータ回路を介してモータを駆動するモータ制御装置において、電流検出素子をインバータ回路の直流側に接続して電流値に対応する信号を発生させ、PWM信号生成手段は、モータの相電流に基づいてロータ位置を決定すると、そのロータ位置に追従するように3相のPWM信号パターンを生成する。そして、電流検出手段が、電流検出素子に発生した信号とPWM信号パターンとに基づいて、モータの相電流を検出する場合に、PWM信号生成手段は、電流検出手段がPWM信号の搬送波周期内で固定された2点のタイミングで2相の電流を検出可能となるように、3相のPWM信号パターンを生成する。また、電流判定手段は、検出された3相電流の大小関係を判定し、PWM信号生成手段は、3相間のPWMデューティ比を維持した状態で、検出された3相電流のうち、電流値が最大を示す相の通電期間をゼロ若しくは最小とするように3相のPWM信号パターンを補正する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】一実施形態であり、モータ制御装置の構成を示す機能ブロック図
【図2】PWM信号生成部の内部構成を示す機能ブロック図
【図3】位相がシフトされた3相のデューティパルスを示す図
【図4】位相をシフトさせるためデューティを変換するロジックを示す図
【図5】各相パルスのデューティの調整を説明する図(その1)
【図6】各相パルスのデューティの調整を説明する図(その2)
【図7】電流検出タイミングを示す図
【図8】従来技術を示す図(その1)
【図9】従来技術を示す図(その2)
【図10】インバータ回路の上アーム側スイッチング素子のオンオフパターンと、シャント抵抗により検出される電流との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態について、図1ないし図7を参照して説明する。図1は、モータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。直流電源部1は、直流電源のシンボルで示しているが、商用交流電源から直流電源を生成している場合には、整流回路や平滑コンデンサ等を含んでいる。直流電源部1には、正側母線2a,負側母線2bを介してインバータ回路(直流交流変換器)3が接続されているが、負側母線2b側には電流検出素子であるシャント抵抗4が挿入されている。インバータ回路3は、例えばNチャネル型のパワーMOSFET5(U+,V+,W+,U−,V−,W−)を3相ブリッジ接続して構成されており、各相の出力端子は、例えばブラシレスDCモータからなるモータ6の各相巻線にそれぞれ接続されている。
【0009】
シャント抵抗4の端子電圧(電流値に対応した信号)は電流検出部7により検出され、電流検出部(電流検出手段)7は、前記端子電圧とインバータ回路3に出力される3相のPWM信号パターンとに基づいてU,V,W各相の電流Iu,Iv,Iwを検出する。電流検出部7が検出した各相電流は、DUTY生成部8に与えられA/D変換されて読み込まれると、モータ6の制御条件等に基づいて演算が行われる。その結果、各相のPWM信号を生成するためのデューティU_DUTY,V_DUTY,W_DUTYが決定される。
【0010】
例えばベクトル制御を行う場合であれば、DUTY生成部8には、制御条件を設定するマイクロコンピュータ等からモータ6の回転速度指令ωrefが与えられると、推定したモータ6の実際の回転速度との差分に基づいてトルク電流指令Iqrefが生成される。モータ6の各相電流Iu,Iv,Iwからはモータ6のロータ位置θが決定されると、そのロータ位置θを用いるベクトル制御演算によりトルク電流Iq,励磁電流Idが算出される。トルク電流指令Iqrefとトルク電流Iqとの差分に対して例えばPI制御演算が行われ、電圧指令Vqが生成される。励磁電流Id側についても同様に処理されて電圧指令Vdが生成され、電圧指令Vq,Vdが上記ロータ位置θを用いて三相電圧Vu,Vv,Vwに変換される。そして、これらの三相電圧Vu,Vv,Vwに基づいて、各相デューティU,V,W_DUTYが決定される。
【0011】
各相デューティU,V,W_DUTYは、PWM信号生成部(PWM信号生成手段)9に与えられ、搬送波とのレベルが比較されることで3相PWM信号が生成される。また、3相PWM信号を反転させた下アーム側の信号も生成されて、必要に応じてデッドタイムが付加された後、それらが駆動回路10に出力される。駆動回路10は、与えられたPWM信号に従い、インバータ回路3を構成する6つのパワーMOSFET5(U+,V+,W+,U−,V−,W−)の各ゲートに、ゲート信号を出力する(上アーム側については、必要なレベルだけ昇圧した電位で出力する)。
【0012】
次に、PWM信号生成部9が3相PWM信号を生成する方式について説明する。インバータ回路3がPWM変調された3相交流を出力する際には、前述したように、上アーム側のFET5(U+,V+,W+)に対する通電パターンに応じて特定の相の電流を検出できる。以下は、各相上アーム側のゲート信号について述べるが、例えばU相のみがHレベルとなり、V相及びW相が何れもLレベルとなる通電パターンの期間では、シャント抵抗4の両端に発生する電圧はU相電流に対応する。また、U相及びV相の両方がHレベルであり、W相がLレベルとなる区間では、シャント抵抗4の両端電圧の符号を反転したものがW相電流に対応する。
【0013】
このように、PWM信号の通電パターンに応じて2相分の電流を順次検出して記憶すれば、時分割的ではあるが3相分の電流を検出できる。この場合、各相電流を同時に検出してはいないので実際には誤差を生じるが、特別な厳密さが要求されなければ実用上問題はなく、3相分の電流検出値を用いて回路方程式を解くことで、次の周期の通電パターンを算出できる。
【0014】
また、FET5のオン,オフ状態が変化した直後は電流波形が安定しないので、シャント抵抗4に発生した電圧信号を安定した状態で読み込むために最小待機時間(安定時間)τが必要である。この待機時間τが例えば3μsecであるとすると、一つの相の電流を読み込むためには特定の通電状態(PWM信号パターン)を3μsec以上継続させる必要がある。換言すれば、同一の通電状態での継続時間が3μsecよりも短い場合は電流の読み込みが正常に行われず、その時に更新されるべき相の電流値を更新できない。つまり、全てのPWM信号パターンによる通電状態を最小待機時間τ以上継続することができれば、どのようなケースでも相電流を検出できる(後述する図7参照)。
【0015】
そこで、本実施形態では、各相のPWM信号パルスの出力位相を、従来とは異なる方式でシフトさせる。インバータ回路3を介してモータ6に印加する電圧は、各相のパルス間のデューティ差が一定であれば、パルスの立ち上がり位置,立下がり位置を同じ時間だけシフトさせても変わらない。
【0016】
図2は、PWM信号生成部9の内部構成を示す機能ブロック図である。PWM信号生成部9では、DUTY生成部8より入力された各相デューティU,V,W_DUTYは、DUYT調整部(電流判定手段)11によって減算値が出力された場合に、減算器12U,12V,12Wを介してデューティが減算される。そして、減算器12U,12V,12Wの出力信号は、パルス生成部(電流判定手段)13に入力され、U,V,W各相のキャリア(搬送波)とのレベルが比較された結果、各相のPWM信号U±,V±,W±が生成される。
【0017】
ここで、キャリアとしてアップダウンカウンタ(図示せず)により生成される三角波を使用する。アップダウンカウンタは、PWM周期の開始でカウンタ値が最大を示し、そこからダウンカウントを開始する。PWM周期の中心位相でカウント値がゼロになると、そこからアップカウントに転じて三角波を出力する。キャリア周期は、例えば50μsecとする。尚、波形が逆相となる三角波を用いても良い。パルス生成部13によって位相が調整されるのに先立ち、DUYT調整部11においてシャント抵抗4や直流電源1の平滑コンデンサに電流が流れる期間が増加することを抑制するように各相デューティが調整される。
【0018】
図3は、PWM信号生成部9において位相がシフトされた3相のデューティパルスを示し、図4は、図3のように位相をシフトさせるためデューティを変換するロジックを示している。パルス生成部13では、先ず、各相デューティU,V,W_DUTYの大小関係を比較し、デューティが最大,最小,それらの中間となる相を決定し、それぞれMAX相,MIN相,MID相とする。また、それぞれのデューティを、MAXduty,MINduty,MIDduty(当初デューティ)とする。
【0019】
図4(a)は、「MIDduty×2<キャリアMAX値(振幅最大値)」の場合、図4(b)は、「MIDduty×2≧キャリアMAX値(振幅最大値)」の場合であり、このように場合分けされる。また、それぞれについて、PWM周期の前半(第1区間)と後半(第2区間)とでデューティの設定が異なる。図4(a)のケースでは、周期前半において、MAX相,MID相のデューティは何れも「MIDduty×2」に設定され、MIN相のデューティはゼロに設定される。また、周期後半において、MAX相のデューティは「(MAXduty−MIDduty)×2」に設定され、MID相のデューティはゼロに、MIN相のデューティは「MINduty×2」に設定される。
【0020】
図4(b)のケースでは、周期前半において、MAX相,MID相のデューティは何れも「キャリアMAX値(デューティ100%)」に設定され、MIN相のデューティはゼロに設定される。また、周期後半において、MAX相のデューティは「MAXduty×2−(キャリアMAX値)」に、MID相のデューティは[MIDduty×2−(キャリアMAX値)」に、MIN相のデューティは「MINduty×2」に設定される。MIN相については、(a),(b)のケースで同じパターンとなる。尚、キャリアに逆相の三角波を使用する場合は、デューティパルスとの比較論理を逆にすれば良い。
【0021】
以上のようにデューティパルスの位相を調整した結果、MID相パルスについては、キャリア振幅がゼロレベルになるPWM周期の中心位相より遅れ方向(図中左方向)にパルスが伸びるように設定され、MAX相パルスについては、立ち上り位相をMID相パルスの立ち上り位相に一致させて、そこからパルスが進み方向(図中右方向)に伸びるように設定される。そして、MIN相パルスについては、MID相パルスとは逆に、PWM周期の中心位相より進み方向にパルスが伸びるように設定される。
【0022】
次に、DUTY調整部11における調整について図5ないし図7を参照して説明する。3相のデューティの調整は、MAX相の電流がシャント抵抗4に流れないように、且つMID相及びMIN相の電流が流れる期間を極力少なくするように調整する。この処理について具体的な数値例を示しながら説明する。例えば、前回検出した電流値がIu=100A,Iv=Iw=−50Aであったとする。そして、今回出力する各相のデューティが電流制御及びベクトル制御における2相→3相変換の結果、U_DUTY=75%,V_DUTY=45%,W_DUTY=35%になったとする。この場合、各相の調整前のデューティパルス及びシャント抵抗4に流れる各相電流値を図5に示す。
【0023】
PWM周期の前半であり、U,V相のデューティパルスが重なる区間(1)のデューティは45%であり、シャント抵抗4に流れる電流は−Iw=50Aとなる。また、PWM周期の後半であり、U,W相のデューティパルスが重なる区間(2)のデューティは30%であり、シャント抵抗4に流れる電流は−Iv=50Aとなる。最後にW相のデューティパルスのみとなる区間(3)のデューティは5%であり、シャント抵抗4に流れる電流はIw=−50Aとなる。ここで、シャント抵抗4による損失は電流の2乗に比例するため、PWM周期の全期間中に発生する損失の合計LT1を計算すると、
LT1=R×502(45+30+5)/100
となる。この時、MAX相である電流Iuはシャント抵抗4に流れていないため、MID相,MIN相電流の通電時間を短くするよう調整する。
【0024】
図6に示すように、3相全てのデューティを一律に減少させて行くと、MID相,MIN相電流の通電期間が減少して行くが、減少値5%が電流Iuの通電期間を発生させない限界であり、5%を超えて減少させると電流Iuの通電期間が増加してしまう。したがって、3相全てのデューティを一律に減少させる値を5%とする。すると、U_DUTY=70%,V_DUTY=40%,W_DUTY=30%となり、このときの合計損失LT1を計算すると、
LT2=R×502(40+30)/100
となり、損失の減少率は12.5%となる。すなわち、MIN相のデューティパルスだけが存在する期間(3)の分だけ全相のデューティを一律に減少させるように調整することで、シャント抵抗4及び平滑コンデンサに流れる電流を抑制できる。
【0025】
次に、以上のように調整した3相デューティパルスを発生させた場合に、電流を検出(サンプリング)するタイミングについて図7を参照して説明する。電流検出は、図7に示すA,Bの2回のタイミングで行う。タイミングAはキャリアの谷であり、PWM周期の中心位相に一致する。タイミングBは、W相がオンしてから前述のτ時間が経過しないと電流が安定しないため、キャリアの谷から時間τだけ経過したタイミングとする。上述したようにPWM周期が50μsの場合に、τ=3μsとする。
【0026】
タイミングAでは、U,V相がオンしているためW相電流Iwが負極性で検出でき、タイミングBでは、U,W相がオンするため、V相電流Ivが負極性で検出できる。尚、タイミングAでは、V相のデューティパルスの振幅が中心位相で丁度ゼロとなるように図示されているが、実際には各種の応答遅れがあるので、タイミングAでもFET5V+はオンしているため、W相電流Iwを問題なく検出できる。そして、U相電流は、V,W相電流の検出結果から総和がゼロであることに基づき演算で算出する。モータ6の回転位置や通電する電流位相によって、U,V,W相と、MAX,MID,MIN相との対応関係が変化した場合は、それ変化に応じて検出する電流の相を切り替えるようにする。
【0027】
以上のように本実施形態によれば、インバータ回路3を構成するMOSFET5U±,V±,W±を所定のPWM信号パターンに従いオンオフ制御する際に、インバータ回路3の直流母線2b側にシャント抵抗4を接続し、PWM信号生成部9が、モータ6の相電流に基づいてロータ位置θを決定し、そのロータ位置θに追従するように3相のPWM信号パターンを生成する。そして、電流検出部7が、シャント抵抗4に発生した信号とPWM信号パターンとに基づいてモータの相電流を検出する場合、PWM信号生成部9は、電流検出部7が、キャリア周期内で固定された2点のタイミングで2相の電流を検出可能となるように3相のPWM信号パターンを生成する。したがって、従来とは異なり、相電流がステップ状に変化することが無く、モータ6のトルク変動や駆動時の騒音が発生しないので、3相の電流Iu,Iv,Iwを、モータ印加電圧が低い状態から高い状態まで検出できる。
【0028】
また、PWM信号生成部9は、検出された3相電流の大小関係を判定すると、3相間のPWMデューティ比を維持した状態で、3相のうち電流値が最大を示す相の通電期間をゼロ若しくは最小とするように3相のPWM信号パターンを補正する。具体的には、上記判定結果により、3相のPWM信号のうち電流値が最大,最小,それらの中間となる相をそれぞれMAX相,MIN相,MID相とすると、MID相についてはキャリア周期の中間位相を基準として遅れ側にデューティを増減させるように、MIN相については前記基準位相より逆方向にデューティを増減させ、MAX相については、パルスの立ち上り位相を、MID相のパルスの立ち上り位相に一致させる。そして、MIN相のデューティパルスのみが発生する期間分だけ、3相のデューティパルスを一律に減少させるようにした。
【0029】
これにより、PWM周期内において、インバータ回路3のMOSFET5U+,V+,W+が全てオフする期間を極力増加させ、それに伴いシャント抵抗4や平滑コンデンサに電流を流す期間を減少させることができ、それらの回路素子による損失,発熱の発生を抑制し、効率を向上させることが可能となる。そして、PWM信号生成部9は、各相の基準を、キャリアの振幅が最小(又は最大)となる位相に基づいて設定するので、電流検出部7による電流検出のタイミングも、上記位相に基づいて容易に設定できる。
【0030】
また、PWM信号生成部9は、三角波をキャリアとして使用し、MID相の当初デューティの2倍がキャリア振幅のMAX値未満である場合、キャリア周期の前半では、MAX相及びMID相のデューティを、MID相の当初デューティの2倍に設定し、後半では、MAX相のデューティを、MAX相の当初デューティとMID相の当初デューティとの差の2倍に設定すると共にMID相のデューティをゼロに設定する。また、MID相の当初デューティの2倍がキャリア振幅のMAX値以上である場合、キャリア周期の前半では、MAX相及びMID相のデューティをキャリア振幅のMAX値に設定すると共に、後半では、MAX相のデューティを、MAX相の当初デューティの2倍よりキャリア振幅のMAX値を減じた値に設定すると共に、MID相のデューティを、MID相の当初デューティの2倍よりキャリア振幅のMAX値を減じた値に設定する。そして、MIN相のデューティについては、何れの場合も、キャリア周期の前半ではゼロに、後半ではMIN相の当初デューティの2倍値に設定する。
【0031】
このようなロジックに従いデューティパルス位相を調整することで、MID相,MIN相については、基準位相から互いに異なる方向にデューティが増減するようにパルスを発生させ、MAX相については、立ち上り位相がMID相の立ち上り位相と一致するようにデューティパルスを発生させることができる。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
電流検出部7が、キャリア周期内で2相の電流を検出するタイミングは、必ずしもキャリアのレベルが最小又は最大を示す位相を基準とする必要はなく、2相の電流を検出可能な範囲でキャリアの任意の位相に基づいて設定すれば良い。
【0033】
また、電流を検出するタイミングは、PWMキャリアの周期に一致させる必要はなく、例えばキャリア周期の2倍や4倍の周期で検出を行っても良い。したがって、電流検出部7に入力する電流検出タイミング信号は、キャリアそのものである必要はなく、例えばキャリアに同期して所定の周期を有するパルス信号であっても良い。
シャント抵抗4を、正側母線2aに配置しても良い。また、電流検出素子はシャント抵抗4に限ることなく、例えばCT(Current Transformer)等を設けても良い。
スイッチング素子はNチャネル型のMOSFETに限ることなく、Pチャネル型のMOSFETや、IGBT,パワートランジスタ等を使用しても良い。
【符号の説明】
【0034】
図面中、3はインバータ回路、4はシャント抵抗(電流検出素子)、5はパワーMOSFET(スイッチング素子)、6はモータ、7は電流検出部(電流検出手段)、9はPWM信号生成部(PWM信号生成手段)、11はDUTY調整部(電流判定手段)、13はパルス生成部(電流判定手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相ブリッジ接続された複数のスイッチング素子を所定のPWM信号パターンに従いオンオフ制御することで、直流を3相交流に変換するインバータ回路を介してモータを駆動するモータ制御装置において、
前記インバータ回路の直流側に接続され、電流値に対応する信号を発生する電流検出素子と、
前記モータの相電流に基づいてロータ位置を決定し、前記ロータ位置に追従するように3相のPWM信号パターンを生成するPWM信号生成手段と、
前記電流検出素子に発生した信号と前記PWM信号パターンとに基づいて、前記モータの相電流を検出する電流検出手段と、
検出された3相電流の大小関係を判定する電流判定手段とを備え、
前記PWM信号生成手段は、前記電流検出手段が、前記前記PWM信号の搬送波周期内で固定された2点のタイミングで2相の電流を検出可能となるように、3相のPWM信号パターンを生成すると、3相間のPWMデューティ比を維持した状態で、前記検出された3相電流のうち、電流値が最大を示す相の通電期間をゼロ若しくは最小とするように、前記3相のPWM信号パターンを補正することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記PWM信号生成手段は、前記電流判定手段の判定結果に応じて、3相のPWM信号のうち電流値が最大,最小,それらの中間となる相をそれぞれ最大相,最小相,中間相と称すると、
前記中間相については、前記搬送波周期の任意の位相を基準として遅れ側,進み側の一方向にデューティを増減させ、
前記最小相については、前記搬送波周期の任意の位相を基準として前記方向とは逆方向にデューティを増減させ、
前記最大相については、立ち上り位相を、前記中間相のデューティパルスの立ち上り位相に一致させるように、デューティパルスを発生させると、
前記最小相のデューティパルスのみが発生する期間分だけ、3相のデューティパルスを一律に減少させることを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記PWM信号生成手段は、前記各相の基準を、搬送波の振幅が最大又は最小となる位相に基づいて設定することを特徴とする請求項2記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記PWM信号生成手段は、三角波を搬送波として使用し、
前記搬送波の振幅が減少する区間又は増加する区間の一方を第1区間とし、他方の区間を第2区間とすると、
前記中間相の当初デューティの2倍が、前記搬送波振幅の最大値未満である場合、
前記第1区間においては、前記最大相及び前記中間相のデューティを、前記中間相の当初デューティの2倍に設定し、
前記第2区間においては、前記最大相のデューティを、前記最大相の当初デューティと前記中間相の当初デューティとの差の2倍に設定し、前記中間相のデューティをゼロに設定し、
前記中間相の当初デューティの2倍が、前記搬送波振幅の最大値以上である場合、
前記第1区間においては、前記最大相及び前記中間相のデューティを、前記搬送波振幅の最大値に設定すると共に、
前記第2区間においては、前記最大相のデューティを、前記最大相の当初デューティの2倍より前記搬送波振幅の最大値を減じた値に設定し、前記中間相のデューティを、前記中間相の当初デューティの2倍より前記搬送波振幅の最大値を減じた値に設定し、
前記最小相のデューティについては、何れの場合も、前記第1区間においてはゼロに設定し、前記第2区間においては前記最小相の当初デューティの2倍値に設定することを特徴とする請求項3記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−66255(P2013−66255A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201775(P2011−201775)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】