説明

モータ始動器

【課題】モータの始動電流を小容量の半導体スイッチで無段階に円滑に制御すること。
【解決手段】交流電源12と三相誘導モータ14との間に配置されたリアクトルコイル(一次コイル)50を逆付勢するように同じ鉄心に巻かれた二次コイル60を半導体スイッチ71の導通位相角の制御によって付勢、消勢してインピーダンスを調整する。モータ14の回転の立ち上がりでモータ14が定常運転状態になると、一次コイル50を電源12とモータ14との間から切り離し、交流電源12をモータ14に直接接続する。半導体スイッチ71の導通位相角の変化によって始動電流が無段階に円滑に制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ始動器に関し、更に詳細に述べると、誘導モータの始動電流を抑制しつつ誘導モータを始動する誘導モータ始動器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導モータの起動時に流れる始動電流を抑制し、モータの回転数の上昇に伴う始動電流の補正により、モータを適正な電圧―電流特性で始動するようにした幾つかのモータ始動器が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
1つの従来技術によるモータ始動器が特許文献1(特開2006−271060号公報)に開示されている。特許文献1の図3、図5(リアクトル始動方式)及び図4、図6(コンドルファ始動方式)に示すように、このモータ始動器は、電源と誘導モータM(図3、図4の符号30、40、図5、図6の符号50、60)との間に接続されてリアクタンスを付与し電源電圧を降圧する一次コイル(主コイル)(図3、図4の符号32、42、図5、図6の符号52,62)とこの一次コイルと共通の鉄心に巻かれていて一次コイルを消磁方向に制御して一次コイルのリアクタンスを低減するように調整する二次コイル(制御コイル)(図3,図4の符号34、45、図5、図6の符号54、65)とから成っている。二次コイル(制御コイル)34、45を機械的スイッチ(図3、図4の符号35、46)でオン、オフするか、二次コイル(制御コイル)54、65をこの二次コイル(制御コイル)54、65とは別個の鉄心に巻かれている三次コイル(補助コイル)(図5、図6の符号55、66)に接続し、この三次コイル(補助コイル)55、56を電磁接触器(図5、図6の符号58、69)により、タップを切り替えて制御する。
【0004】
このモータ始動器は、モータの起動時に、図3、図4のスイッチ35、46を開くか、図5、図6のすべての電磁接触器58、69を開いて二次コイル54、65を非励磁状態として一次コイル(主コイル)32、42、52、62が電源と誘導モータMとの間にあって電源電圧を減圧し、始動電流を抑制している。モータの回転数の上昇に伴って始動電流が低下した所定の段階で、図3、図4のスイッチ35、46を投入して二次コイル(制御コイル)34、45を一次コイル(主コイル)の消磁方向に励磁可能な状態とするか、図5、図6の電磁接触器58、69によって三次コイル(補助コイル)55、56のタップ間コイル部分を二次コイル(制御コイル)54、65に挿入してこの二次コイル(制御コイル)54、65を一次コイル(主コイル)の消磁方向に励磁可能な状態にしている。二次コイル34、45、54、65が励磁可能な状態となると、一次コイル(主コイル)32、42、52、62の消磁を段階的に(図5、図6の場合)又は全体的に(図3乃至図6の場合)行うことによってインピーダンスが小さくなり、始動電流の抑制を小さくして、モータが定常回転数に達した時に、電圧−電流特性が安定状態になる。
【0005】
しかし、この特許文献1の従来技術によるモータ始動器は、二次コイル(制御コイル)を開回路か閉回路とすることにより、一次コイル(主コイル)のリアクタンスを段階的に変化させて始動電流を制御するので、電圧電流の変化が段階的に切り替わる(特許文献1の図10参照)。このため、モータの始動特性が円滑に行われないし、機械的接点を用いるので、接点不良や経年変化に対するメンテナンスを必要とするとともに、機械的な衝撃を発生する虞があった。
【0006】
なお、特許文献1の図1及び図2に記載のモータ始動器は、特許文献1の発明の他の従来技術であり、この図1及び図2のモータ始動器は、図3乃至図6のモータ始動器とは異なり、逆励磁用の二次コイルを有しないので、主コイルの全部又は一部を電源とモータとの間に挿入して印加電圧を減圧し、定常運転で主コイルを短絡して定常電流をモータに供給するようにしている。この形態のモータ始動器も特許文献1の図3乃至図6のモータ始動器と同様の欠点を有する(特許文献1の図8参照)。
【0007】
他の従来技術によるモータ始動器が特許文献2(特開平11−155293号公報)に開示されている。このモータ始動器は、電源とモータとの間に配置された半導体スイッチ(逆並列のSCR)から成っており、この始動器は、半導体スイッチの導通位相を制御することによってモータ印加電圧を連続的に変化してモータは安定状態に達するまで始動電流を制御している。
【0008】
このモータ始動器は、半導体スイッチの導通位相を制御することによって始動電流を制御するので、始動電流は無段階に制御できるが、半導体スイッチは、モータ電流(始動電流)を直接導通するモータ始動回路に配置されるので、大容量の半導体スイッチ(SCR)とする必要があり、また始動時に高周波ノイズを伴う欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−271060号公報
【特許文献2】特開平11−155293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、大容量の半導体スイッチを用いることなく、始動電流を無段階に円滑に制御することができるモータ始動器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の基本的な課題解決手段は、電源とモータとの間に配置されたリアクトルコイルを含むリアクタンス付与手段と、前記リアクタンス付与手段のリアクタンスを調整するように前記リアクタンス付与手段を制御する始動制御手段とを備え、前記始動制御手段は、前記モータの始動時に、前記リアクトルコイルの全部又は一部を前記電源とモータとの間に挿入して前記リアクタンス付与手段によりリアクタンスを調整し、前記モータが定常運転状態になると、前記リアクタンス付与手段を無効にするようにしたモータ始動器において、前記始動制御手段は、前記リアクタンス付与手段のリアクタンスを調整するように導通制御される半導体スイッチと、前記半導体スイッチの導通位相を制御するように前記半導体スイッチの制御端子に接続された半導体スイッチ導通位相制御回路とを含んでいることを特徴とするモータ始動器を提供することにある。
【0012】
本発明の上記基本的な課題解決手段において、リアクタンス付与手段は、前記リアクトルコイル(一次コイル)の少なくとも一部と同じ鉄心に逆方向に巻かれた二次コイルを含んでいるものとすることができる。この始動制御手段は、前記モータの始動時に、前記二次コイルの導通を制御して前記リアクトルコイルのインピーダンスを調整し、前記モータが定常運転状態になると、前記リアクトルコイルを短絡するか前記リアクトルコイルの全リアクタンスを打ち消して前記リアクタンス付与手段を無効にするように制御する。この始動制御手段の半導体スイッチは、前記二次コイルの導通を制御して前記リアクトルコイルのインピーダンスを調整することができる。
【0013】
また、本発明の上記基本的な課題解決手段において、リアクタンス付与手段は、前記リアクトルコイルのみから成り、前記始動制御手段の半導体スイッチは、前記リアクトルコイルに並列に接続され、前記半導体スイッチの導通位相に応じて前記リアクトルコイルを短絡して前記リアクタンス付与手段のリアクタンスを経時的に調整する形態とすることもできる。この形態は、電源電圧が比較的低い場合に好適に使用される。
【0014】
本発明の上記課題解決手段において、始動制御手段は、タイマーリレーを含み、前記タイマーリレーは、前記モータの回転が定常状態に達した時に前記半導体スイッチの導通位相制御回路を前記半導体スイッチの制御端子により遮断し、前記定常運転用常開接点を閉じるように設定されているのが好ましい。
【0015】
本発明の上記課題解決手段において、前記半導体スイッチの導通位相回路は、電源電圧の正負の半サイクル毎に0°乃至180°の範囲で導通角を変化するように設定されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電源とモータとの間に配置されたリアクトルコイルを含むリアクタンス付与手段を半導体スイッチの導通位相の制御によってインピ−ダンス調整するので、モータの始動電流を無段階に調整することができる。
【0017】
また、半導体スイッチは、モータ電流調整の主回路に配置されるのではなく、モータ電流回路のリアクタンス付与手段のリアクトルコイル又はそのリアクタンス調整用の二次コイルの電流を制御するので、半導体スイッチの容量が小さくてよく、また高調波ノイズの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のリクアクトル制御方式によるモータ始動器を含むモータ駆動回路の系統図である。
【図2】図1のモータ始動器の起動時の第1の回路動作状態を示す系統図である。
【図3】図1のモータ始動器の起動時の第2及び第3の回路動作状態を示す系統図である。
【図4】図1のモータ始動器の第4乃至第6の回路動作状態とモータが定常運転に至るまでのモータ始動器の回路状態を示す系統図である。
【図5】図1乃至図4のモータ始動器に印加する電源電圧波形(A)と、半導体スイッチが動作していない時の出力電流(始動電流)波形(B)と半導体スイッチの導通が位相制御されている時の出力電流(始動電流)(C)との1サイクルを示す波形図である。
【図6】図1のモータ始動器の起動後定常運転に入るまでの電圧―電流特性を示す波形図である。
【図7】本発明をコンドルファ型モータ始動器に適用した場合の部分系統図である。
【図8】図7のモータ始動器の始動制御動作を段階的に説明するフローチャートである。
【図9】本発明を他の形態のコンドルファ型モータ始動器に適用した場合を示し、同図(A)は、第1の制御段階の部分系統図、同図(B)は、第2の制御段階の部分系統図、同図(C)は、定常運転状態の部分系統図である。
【図10】図9のモータ始動器の始動制御動作を段階的に説明するフローチャートである。
【図11】本発明を他の形態のコンドルファ型モータ始動器に適用した場合を示し、同図(A)は、第1の制御段階の部分系統図、同図(B)は、第2の制御段階の部分系統図、同図(C)は、定常運転状態の部分系統図である。
【図12】図11のモータ始動器の始動制御動作を段階的に説明するフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の幾つかの実施の形態によるモータ始動器20について図面を参照して述べると、図1は、このモータ始動器20を含むモータ駆動回路10を示し、図1のモータ駆動回路10は、三相交流電源12と三相誘導モータ14との一相分のみが代表して示されている。
【0020】
本発明のモータ始動器20は、基本的に、交流電源12とモータ14との間に配置されたリアクトルコイル50を含むリアクタンス付与手段Aと、このリアクタンス付与手段Aのリアクタンスを調整するようにこのリアクタンス付与手段Aを制御する始動制御手段Bとを備える。この始動制御手段Bは、後に述べる半導体スイッチによって制御され、モータ14の始動時に、リアクトルコイル50の全部又は一部を電源12とモータ14との間に挿入してリアクタンス付与手段Aのリアクタンスを調整し、モータ14が定常運転状態になると、リアクタンス付与手段Aを短絡又は打ち消しにより、無効にするように構成されている。
【0021】
本発明の1つの実施の形態であるリアクトル式モータ始動器20は、図1乃至図4に示される。このモータ始動器20のリアクタンス付与手段Aのリアクトルコイル50は、交流電源12とモータ14との間で、定常運転用電磁接触器30の常開接点(定常運転スイッチ)30C1に並列にして始動電磁接触器40の常開接点(始動スイッチ)40C1を介して配置されている。リアクタンス付与手段Aは、リアクトルコイル(一次コイル)50の他に、このリアクトルコイル(一次コイル)50と同じ鉄心に逆方向に巻かれて一次コイル50のインピーダンスを低下するように逆付勢されるリアクタンス調整用の二次コイル60とを備え、始動制御手段Bは、この二次コイル60の導通を制御するようにしている。図示の形態では、リアクトルコイル(一次コイル)50は、その一部のコイル部分50Rのみがリアクタンス調整用の二次コイル60に対応して同じ鉄心に逆方向に巻かれており、従ってこの一次コイル50のコイル部分50Rのみのインピーダンスが調整(低減)される。
【0022】
始動制御手段Bは、後に詳細に述べるように、リアクタンス調整用の二次コイル60を導通/非導通としてリアクトルコイル(一次コイル)50のリアクタンスを調整して始動電流を制御する。モータ14が定常運転状態になると、定常運転スイッチ30C1を閉じてリアクタンス付与用の二次コイル50を短絡してリアクトルコイル(一次コイル)50をモータ駆動回路10から切り離す。
【0023】
始動制御手段Bは、リアクタンス調整用の二次コイル60の導通を制御する半導体スイッチ71と、この半導体スイッチ71の導通位相を制御するように半導体スイッチ71の制御端子71Gに接続された半導体スイッチ制御電源72とから成っている。図示の形態では、半導体スイッチ71は、逆並列に接続されたサイリスタ(SCR)を含み、そのゲート(制御端子)71Gに半導体スイッチ制御電源72が接続されている。
【0024】
半導体スイッチ制御電源72は、半導体スイッチ71の導通位相を制御する図示しない導通位相制御回路を含み、交流電源12から始動用電磁接触器40の常開接点40C2を介して付勢される。この半導体スイッチ制御電源72は、半導体スイッチ71に所定の導通位相を付与するように設定されている。
【0025】
始動制御手段Bは、交流電源12に始動用電磁接触器40の常開接点40C3を介して接続されるタイマーリレー73を更に含んでいる。このタイマーリレー73は、モータ14の起動後、安定状態に達するまでの時間に設定される。このタイマーリレー73は、時限に達すると消勢して、後に詳細に述べるように、定常運転用電磁接触器30を励磁し、半導体スイッチ制御電源72を電源12から切り離すと共に、始動用電磁接触器40を消磁し、始動制御手段Bを消勢する。
【0026】
定常運転用電磁接触器30は、タイマーリレー73の常開接点73C1と定常運転用電磁接触器30の常開接点(自己保持接点)30C2との並列回路を介して交流電源12に接続される。また始動用電磁接触器40は、起動スイッチ74と定常運転用電磁接触器30の常閉接点30C3の直列回路と自己常開接点40C4と定常運転用電磁接触器30の自己保持用電磁接触器30Xの常開接点30XCとの直列回路との並列回路を介して交流電源12に接続されている。定常運転用電磁接触器30の自己保持用電磁接触器30Xは、タイマーリレー73の常閉接点73C2と定常運転用電磁接触器30の常開接点30C4を介して交流電源12に接続されている。
【0027】
なお、タイマーリレー73には始動表示灯75が交流電源12に並列して接続されており、始動用電磁接触器40の常閉接点40C5と定常運転用電磁接触器30の常開接点30C5とを介して定常運転表示灯76が交流電源12に接続されている。
【0028】
次に、本発明の上記の実施の形態によるモータ始動器20の動作を図2と図3とを参照しつつ説明する。なお、図2乃至図4において、太線で示された回路部分は付勢状態にある回路部分であることを示し、また図2、図3において(1)乃至(6)及び[4]乃至[6]は、モータ始動器20の動作順序を示すが、[4]乃至[6]は、消勢の順序を示す。
【0029】
まず、モータ14を起動するために、図2の順序(1)で示すように、押しボタン式の起動スイッチ74を投入する。このように、起動スイッチ74を投入してその接点を閉じると、定常運転用電磁接触器30の常閉接点30C3を介して始動用電磁接触器40が励磁されるため、始動スイッチである常開接点40C1が閉じ、交流電源12の電源電圧は、リアクトルコイル(一次コイル)50を介してモータ14に印加される。この際、始動用電磁接触器40の常開接点40C2が開いているため、半導体スイッチ制御電源72が付勢されていないので、半導体スイッチ71は、非導通状態にあり、モータ14は、電源電圧からリアクトルコイル(一次コイル)50によって降圧された電圧が印加される。従って、モータ14には大きく抑制された始動電流が流れる。
【0030】
また、始動用電磁接触器40が励磁されると、図3の順序(2)で示すように、その常開接点40C2、40C3、40C4、40C5が閉じるので、半導体スイッチ制御電源72と、自己保持電磁接触器30Xと、タイマーリレー73とが付勢される。
【0031】
自己保持電磁接触器30Xが励磁されると、図3の順序(3)で示すように、既に自己の励磁で閉じている常開接点40C4と自己保持電磁接触器30Xの励磁で閉じられた常開接点30XCとを介して始動用電磁接触器40が自己保持されるので、起動スイッチ74から手を離しても始動用電磁接触器40の励磁状態が維持される。
【0032】
半導体スイッチ制御電源72が付勢されると、半導体スイッチ(サイリスタ)71は、半導体スイッチ制御電源72で予め設定された所定の導通位相と非導通位相とに応じて、導通(オン)と非導通(オフ)とを繰り返す。
【0033】
従って、リアクタンス調整の二次コイル60は、半導体スイッチ(サイリスタ)71の導通と非導通との繰り返しによって閉成回路状態と開放回路状態とが所定の位相間隔で繰り返される。二次コイル60が閉成回路となると、リアクトルコイル(一次コイル)50の一部のコイル部分50Rが逆励磁されてそのリアクタンスが打ち消されるためリアクトルコイル(一次コイル)50全体のインピーダンスが低下し、電源電圧の降圧レベルが小さくなって始動電流が増加する。また二次コイル60が開放回路となると、リアクトルコイル(一次コイル)50のコイル部分50Rの逆励磁がなくなってリアクタンスの打ち消しもなくなり、リアクトルコイル(一次コイル)50全体のインピーダンスが元の値に復帰し、電源電圧の降圧レベルが大きくなって始動電流が減少する。
【0034】
図5(A)は、電源電圧Vの波形、図5(B)は、半導体スイッチ71が非導通の時の始動電流ISの波形、また図5(C)は、半導体スイッチ71が1サイクルの内各正負の半サイクル毎に、位相角θ1で非導通、θ2で導通とした場合の始動電流ISの波形を示す。図5(B)から解るように、半導体スイッチ71の導通位相角が0°の場合、即ち位相角θ1、θ2で非導通の場合には、リアクトルコイル(一次コイル)50がモータ駆動回路10に大きなインピーダンスを付与して始動電流を大きく抑制する。また図5(C)から解るように、半導体スイッチ71の非導通の位相角θ1である場合には始動電流IS1の絶対値は低いが、半導体スイッチ71の導通の位相角θ2である場合には始動電流IS2の絶対値は高くなる。
【0035】
このように、半導体スイッチ71を所定の位相角で導通と非導通とを繰り返すことによってリアクトルコイル(一次コイル)50のインピーダンスを調整して始動電流ISを抑制することができる。従って、半導体スイッチ71の導通位相角θ2を起動後の時間の経過につれて半サイクル毎に0°から180°まで徐々に大きくなるように設定することにより、モータの回転数の上昇につれて始動電流が無段階に増加するように制御することができる。これによってモータ14を円滑に始動することができる。
【0036】
タイマーリレー73が所定の時限TL(図6参照)に達すると、図4の順序(4)で示すように、その常開接点73C1を閉じて定常運転用電磁接触器30を励磁すると同時に、順序[4]で示すように、常閉接点73C2を開いて自己保持電磁接触器30Xを消磁する。このように、自己保持電磁接触器30Xが消磁すると、その常開接点30XCが開くため始動用電磁接触器40が消磁する。定常運転用電磁接触器30は、自己保持常開接点30C2の閉成によって自己保持されるので、タイマーリレー73の消磁によってその常開接点73C2が開いても定常運転用電磁接触器30の励磁が維持される(図4の順序(5)参照)。
【0037】
また、定常運転用電磁接触器30が励磁されると、その常開接点(定常運転スイッチ)30C1が閉じて交流電源12が直接モータ14に接続されてモータ14に定常のモータ駆動電流が流れると同時に(図4の順序(4)参照)、始動用電磁接触器40の消磁によってその常開接点40C1が開いてリアクトルコイル(一次コイル)50がモータ駆動回路20から切り離される(図4の順序〔5〕参照)。また常開接点40C3、40C4が開いてタイマーリレー73及び始動電磁接触器40が交流電源12から切り離され、いずれも始動前の状態に戻る(図4の順序[5] [6]参照)。このようにして、モータ14は、リアクトルコイル(一次コイル)50を介することなく、交流電源12から直接駆動される。
【0038】
上記の実施の形態によるリアクトル式始動器によってモータ14が駆動される場合の電圧−電流特性が図6に示されている。この図から解るように、起動開始(始動)後、電圧は、リアクトルコイル(一次コイル)50のインピーダンスによって印加電圧Vaが抑制されるが、リアクトルコイル(一次コイル)50のインピーダンスは、半導体スイッチ71の導通位相の制御(オン/オフ)によって行われる二次コイル60の閉開(導通/非導通)動作によって調整されると、モータの回転数の上昇(時間Tの経過)に伴って印加電圧Vaが徐々に上昇し、定常電圧Vcに至る。一方、始動電流(モータ駆動電流)Iは、印加電圧Vaの降圧によって「IS」のように抑制される。同様に、始動電流ISは、半導体スイッチ71の導通位相の制御によって徐々に増加し、定常運転状態に入ると、次第に減少し、最後に安定状態になって定常電流ITとなる。タイマーリレー73の時限TLは、この定常運転状態に入るころに設定されているので、一次コイル50がモータ駆動回路10から外されて定常運転状態に入る。
【0039】
図3に示すように、始動表示灯75は、始動用電磁接触器40が励磁されてその常開接点40C3が閉じると、タイマーリレー73の励磁と共に点灯し、またタイマーリレー73が時限TLに達して消磁して始動用電磁接触器40の常開接点40C3が開くと消灯する。定常運転用電磁接触器30が励磁されてその常開接点30C5が閉じると、定常運転表示灯76は、始動用電磁接触器40の消磁で閉じる常閉接点40C5を介して交流電源12に接続されて点灯する。
【0040】
上記の実施の形態で本発明は、リアクトル式モータ始動器に適用したが、本発明は、図7、図9及び図10に示すように、コンドルファ式モータ始動器にも同様にして適用することができる。
【0041】
図7の実施の形態によるコンドルファ式モータ始動器に用いられるリアクトルコイル(一次コイル)50は、常開接点40C6を介して他の相に接続される。この一次コイル50の一部50Rには図1と同様の始動制御手段Bが設けられ、且つ、このリアクトルコイル(一次コイル)50の一部50Rにタップ切り替え端子50T1(80%減圧)、50T2(65%減圧)を介してモータ14に接続されていることを除いて図1のモータ始動器20と同じである。なお、図7には、図1の右側に示されたのと同様の半導体スイッチ制御電源72、電磁接触器30、40、タイマーリレー73及び表示灯75、76の回路が設けられ、相間接続用常開接点40C6は、始動用常開接点40C1と同様に、図1の始動用電磁接触器40の励磁によって閉じられる。なお、この常開接点40C6は、始動用電磁接触器40の励磁によって始動用常開接点(始動スイッチ)40C1と同時に閉じるが、この始動用常開接点40C1よりも早く開くようにタイマーリレー73とは別個のタイマーリレーによって開くようにする。
【0042】
図7の実施の形態によるモータ始動器20は、図1の起動スイッチ74に相当する起動スイッチを投入後、始動用電磁接触器40が励磁され、常開接点40C1及び40C6が閉じられるので、一次コイル50の一部50Rがタップ切り替え端子T1、T2で定まる分圧比に応じて電源電圧が分圧されてモータ14に印加される。
【0043】
一方、一次コイル部分50Rに対応してこのコイル部分50Rのリアクタンスを打ち消すように作用する二次コイル60は、半導体スイッチの導通位相角θ2の大きさに応じてこの一次コイル部分50Rのリアクタンスを減少させ、従ってモータ14に印加される電圧も相応して小さくなる。所定の時間が経過すると、常開接点40C6が開くので、モータ14にはタップ切り替え端子T1、T2を介して一次コイル50の一部50Rがリアクトルコイルとして作用して電源電圧にリアクタンスを付与し、図1のリアクトル始動器と同様の方法で始動電流を制御する。
【0044】
図1のタイマーリレー73が時限TLに達すると、常開接点40C1が開くと同時に、定常運転用電磁接触器30が励磁されてその常開接点(定常運転スイッチ)30C1が閉じ、リアクトルコイル(一次コイル)50が短絡されて電源電圧がそのままモータ14に印加される。
【0045】
図8は、図7のモータ始動器20の始動から定常運転に達するまでの動作の順序を示す。このフローチャートから解るように、(a)起動スイッチ投入、(b)常開接点40C6の閉成、(c)半導体スイッチ71の導通位相に応じて定まる分圧比(タップ端子T1又はT2の両端のリアクタンス比)に応じた電圧のモータへの印加、(d)常開接点40C6の開放によるタップ電圧のモータへの印加、(e)タイマーリレーの励磁による常開接点40C1の開放と定常運転スイッチ(常開接点)30C1の閉成による電源電圧のモータへの印加(定常運転状態)の順に始動制御される。
【0046】
図9の実施の形態によるコンドルファ式モータ始動器20は、図7の実施の形態によるモータ始動器20の定常運転スイッチ(常開接点)30C1を含む接続回路と常開接点(始動スイッチ)40C1とがなく、定常運転状態では、リアクトルコイル(一次コイル)50のコイル部分50Rに対応する二次コイル60が半導体スイッチ71の全導通角での導通により、コイル部分50Rのリアクタンスが打ち消されて、リアクトルコイル(一次コイル)50が恰も無誘導回路となるようにしてリアクタンス付与手段Aを無効にすることを除いて図7のモータ始動器20と同じである。なお、図9において、回路の太線部分は、全励磁状態にあることを示し、回路の一点鎖線の太線部分は、導通角が制御されている状態を示す。
【0047】
図10は、図9のモータ始動器20の始動から定常運転に達するまでの動作の順序を示し、このフローチャートから解るように、(a)起動スイッチの投入、(b)常開接点40C6の閉成、(c)半導体スイッチ71の導通位相により定まる分圧比(タップ端子T1又はT2の両端のリアクタンス比)に応じた電圧のモータへの印加(図9(A)参照)、(d)常開接点40C6の開放によるタップ電圧のモータへの印加(図9(B)参照)、(e)タイマーリレーの励磁による半導体スイッチ71の全位相角での導通によるコイル部分50Rの全リアクタンスの打ち消し(リアクトルコイル(一次コイル)50の無誘導化=リアクタンス付与手段Aの無効化)の順に始動制御される。
【0048】
図11の実施の形態によるコンドルファ式モータ始動器20は、図9の実施の形態によるモータ始動器20のリアクトルコイル50に対応してこれを逆励磁する二次コイル60がなく、リアクトルコイル50の導通を直接半導体スイッチ71で制御するように半導体スイッチ71をリアクトルコイル50に並列に接続したことを除いて図9のモータ始動器20と同じである。
【0049】
このモータ始動器20は、図11に示すように、起動スイッチ74の投入で励磁される半導体スイッチ制御電源72とこの半導体スイッチ制御電源72の駆動によって励磁されて常開接点(始動スイッチ)40C6を閉成する始動用電磁接触器40とを備えている。なお、図1乃至図4と同じ部分は同じ符号が付されている。
【0050】
図12は、図11のモータ始動器20の始動から定常運転に達するまでの動作の順序を示し、このフローチャートから解るように、(a)起動スイッチ74の投入、(b)半導体スイッチ制御電源72の付勢による半導体スイッチ71の導通/非導通、(c)始動用電磁接触器40の励磁による常開接点40C6の閉成、(d)半導体スイッチ71の導通位相により定まる分圧比(タップ端子T1又はT2の両端のリアクタンス比)に応じた電圧のモータへの印加(図11(A)参照)、(e)常開接点40C6の開放後半導体スイッチ71の導通位相に応じたリアクトルコイル50のタップ電圧のモータへの印加(図11(B)参照)、(f)タイマーリレー73の励磁による半導体スイッチ71の全位相角での導通によるコイル部分50Rの短絡(リアクタンス付与手段Aの無効化)の順に始動制御される。図11(A)(B)に示すように、始動制御中は、始動表示灯75Aが点灯し、図11(C)示すように、定常運転中は、常閉接点40C5の閉成と常開接点72Xとを通して定常運転表示灯76が点灯する。
【0051】
図12のモータ始動器20は、他の実施の形態のモータ始動器2とは異なって低圧の電源電圧から駆動されるモータに用いられるのに好適である。電源電圧が低圧であると、モータの定常運転で半導体スイッチ71にモータ駆動電流を流すことができる(図11(C)参照)。
【0052】
いずれの図示の実施の形態も、電源12とモータ始動器20との間には、起動スイッチ74と同時に閉じられるが、起動スイッチ74から手を離しても閉成状態が保持される電源スイッチを有するが、図面ではいずれも省略されている。
【0053】
なお、図示の実施の形態では、タイマーリレー73の消磁で始動制御状態から定常運転状態に入るようにしたが、例えば、モータの回転数や駆動電流を検出してその検出結果に基づいて始動制御状態から定常運転状態に入るようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、電源とモータとの間に配置されて電源電圧を減圧するリアクトルコイルのリアクタンスが半導体スイッチの導通位相角の制御によって調整される。半導体スイッチは、モータ駆動回路中のリアクトルコイルのインピーダンスを制御するので、高圧電源であっても大容量の半導体スイッチを用いることなく、始動電流を無段階に円滑に制御することができ、産業上の利用性が向上する。
【符号の説明】
【0055】
A リアクタンス付与手段
B 始動制御手段
10 モータ駆動回路
12 三相交流電源
14 三相誘導モータ
20 モータ始動器
30 定常運転用電磁接触器
30C1 常開接点(定常運転スイッチ)
30C2,30C4、30C5 常開接点
30C3 常閉接点
40 始動用電磁接触器
40C1 常開接点(始動スイッチ)
40C2、40C3、40C4、40C6 常開接点
40C5 常閉接点
40C6 常開接点
40C6X 常閉接点
50 リアクトルコイル(一次コイル)
50R 一次コイルの一部
60 二次コイル(リアクタンス調整用)
71 半導体スイッチ(例えば、逆並列サイリスタ)
71G 制御端子(ゲート)
72 半導体スイッチ制御電源
72X 常開接点
73 タイマーリレー
73C1 常開接点
73C2 常閉接点
74 起動スイッチ
75 始動用表示灯
76 定常運転用表示灯
T1、T2 タップ切り替え端子
V 電源電圧
IS、IS1、IS2 始動電流
Va 印加電圧
Vc 定常電圧
IT 定常電流
TL 時限

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源とモータとの間に配置されたリアクトルコイルを含むリアクタンス付与手段と、前記リアクタンス付与手段のリアクタンスを調整するように前記リアクタンス付与手段を制御する始動制御手段とを備え、前記始動制御手段は、前記モータの始動時に、前記リアクトルコイルの全部又は一部を前記電源とモータとの間に挿入して前記リアクタンス付与手段のリアクタンスを調整し、前記モータが定常運転状態になると、前記リアクタンス付与手段を無効にするようにしたモータ始動器において、前記始動制御手段は、前記リアクタンス付与手段のインピーダンスを調整するように導通制御される半導体スイッチと、前記半導体スイッチの導通位相を制御するように前記半導体スイッチの制御端子に接続された半導体スイッチ導通位相制御回路とを含んでいることを特徴とするモータ始動器。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ始動器であって、前記リアクタンス付与手段は、前記リアクトルコイル(一次コイル)の少なくとも一部と同じ鉄心に逆励磁されるように巻かれた二次コイルを更に含む。前記始動制御手段は、前記モータの始動時に、前記二次コイルの導通を制御して前記リアクトルコイルのインピーダンスを調整し、前記モータが定常運転状態になると、前記リアクトルコイルを短絡するか前記リアクトルコイルの全リアクタンスを打ち消すようにしたことを特徴とするモータ始動器。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ始動器であって、前記リアクタンス付与手段は、前記リアクトルコイルのみから成り、前記始動制御手段の半導体スイッチは、前記リアクトルコイルに並列に接続され、前記半導体スイッチの導通位相に応じて前記リアクトルコイルを短絡して前記リアクタンス付与手段のリアクタンスを調整することを特徴とするモータ始動器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のモータ始動器であって、前記始動制御手段は、タイマーリレーを含み、前記タイマーリレーは、前記モータの回転が定常状態に達した時に前記リアクタンス付与手段を無効にするようにしたことを特徴とするモータ始動器。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載のモータ始動器であって、前記半導体スイッチ導通位相回路は、電源電圧の正負の半サイクル毎に0°乃至180°の範囲で導通角を変化するように設定されていることを特徴とするモータ始動器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−259581(P2011−259581A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130845(P2010−130845)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(594010434)電光工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】