説明

モータ軸受構造

【課題】モータの軸受から滲み出る潤滑油のハウジング外への油漏れを無くして高機能化したスピンドルモータ用として汎用性のある軸受構造を得る。
【解決手段】ハウジングの開口部を軸受に対して非接触状態にて施蓋するリング状キャップが撥油剤を含浸させた多孔質体であり、しかもリング状キャップの内径側におけるモータ軸とのクリアランスが焼結含油軸受とモータ軸とのクリアランスよりも大きくした。これにより撥油剤を塗布したシール材のようにモータの製造加工時にシール効果を消失することがなく取り扱い性に優れ、また焼結含油軸受の内径に沿って振れ回るモータ軸が上記したリング状キャップに接触することがなく、ノイズやトルクロスを生じることがなく、しかもリング状キャップとモータ軸との同軸度精度に余裕を持たせることができ、量産性において優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング内にモータ軸を支承するための焼結含油軸受を圧入固定させたモータ軸受構造に関し、モータの高速回転に伴って含油軸受より漏れ出した油の飛散による周辺機器の汚損や運転不能の虞れを解消し、AVや各種情報機器類等の高機能化したモータ駆動源として、安価でしかも信頼性のあるモータ軸受構造を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来汎用の小型モータ軸受において、軸受内からの動圧潤滑油漏出を抑制するようにした構造のものとしては、これまでに例えばスリーブ(軸受)の内周面あるいは外周面の少なくとも一方に凹部を形成し、この凹部によってスリーブと軸受ハウジングとの装着関係により構成される軸方向の間隙を動圧発生オイルの潤滑通路として利用するとともに、該循環通路の出力側に親水性多孔質部材をシール材として上記ハウジングに保持させて配することにより動圧発生オイルの漏出を防止するようにしたもの(特開平10−248204号公報参照)が知られている。
【0003】
また軸受端に、表面に撥油剤を塗布した円筒状のカラーを当接状態にて配設するようにした軸受装置(特開平8−49723号公報参照)も知られている。
【特許文献1】特開平10−248204号公報
【特許文献2】特開平8−49723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のものは、動圧発生溝が形成された軸受を使用し、軸が軸受内径中心で回転する設計思想であるため、この構造で焼結含油軸受を使用した場合、親水性多孔質部材のシール材とモータ軸との間のクリアランスが軸受とモータ軸との間のクリアランスよりも小さいところから、モータ軸が潤滑機能を持たないシール材と接触してノイズやトルクロスを生じ、またモータ軸およびシール材の摩耗が激しく耐久性の面で問題がある。
【0005】
また特許文献2のものは、円筒状カラーが表面に撥油剤を塗布したものであるために、モータ加工時において加工工具類等との接触により塗布した撥油剤が剥離してその部分の撥油性が消失することから加工時における取り扱い性の面で問題があり、また円筒状カラーが焼結含油軸受に当接配置されているため、撥油剤を塗布した円筒状カラーによって油をはじいたとしても、それを保持する空間が無いことから、やがては軸受ユニット系外へ漏れ出してしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明にあっては、とくにVTRやFDD、CD−ROM、DVD−ROM、DVD−RAM等をはじめとした高精度でかつ高品位の駆動用スピンドルモータに適する低コストでしかも油漏れのない軸受を提供することを目的とするものであって、具体的にはモータ軸を支承する焼結含油軸受と、該軸受を内部に圧入固定するハウジングと、該ハウジングの開口部を上記軸受に対して非接触状態にて施蓋するリング状キャップとからなり、該リング状キャップは撥油剤を含浸させた多孔質体であり、しかもその内径側におけるモータ軸とのクリアランスを、、モータ軸が振れ回った際にも非接触状態を維持できるよう焼結含油軸受とモータ軸とのクリアランスよりも大きくしたことを特徴とするモータ軸受構造に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は上記した通り、ハウジングの開口部を軸受に対して非接触状態にて施蓋するリング状キャップが撥油剤を含浸させた多孔質体であるために、撥油剤を塗布したシール材のようにモータの製造加工時にシール効果を消失することがなく取り扱い性に優れ、またモータの高速回転に伴って軸受に含浸されている油がハウジング開口部方向に滲み出した場合に、油がリング状キャップの多孔質体内に含浸した撥油剤によってはじかれ、また該リング状キャップと非接触の軸受との間の間隙に溢れることなく保留されるために外部に漏れ出すことがない。
【0008】
さらに、リング状キャップの内径側におけるモータ軸とのクリアランスが、モータ軸が振れ回った際にも非接触状態を維持できるよう焼結含油軸受とモータ軸とのクリアランスよりも大きくしたために、焼結含油軸受の内径に沿って振れ回るモータ軸が上記したリング状キャップに接触することがなく、ノイズやトルクロスを生じることがない。また付近に介在した油が粘性抵抗として働くことによるトルクロスも生じない。さらにリング状キャップとモータ軸との同軸度精度に余裕を持たせることができ、量産性において優れる。
【0009】
またモータ軸の回転が停止し、軸受系の温度が低下した時点において上記間隙間に保留されていた油が再度軸受内に吸収されて回収されるので外部への油漏れが殆どなくなり、しかも簡単な構造で量産性に適し、低コストであるためにとくにVTRやFDD、CD−ROM、DVD−ROM、DVD−RAM等をはじめとした高精度でかつ高品位の駆動用スピンドルモータにも適する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下において本発明の具体的な内容を図1および図2にあらわした第1実施例に基づいて説明すると、1はハウジング、2は焼結含油軸受、3はモータの回転軸、4はスラスト板、5はリング状キャップをあらわしている。ハウジング1は、内部に円筒状の中空室1aを有するとともに、その一端をスラスト板4により閉塞されており、しかも上記中空室1a内にはモータ軸を支承する焼結含油軸受2が圧入固定して備えられている。この軸受2は多孔質の金属焼結体で、しかも全体がリング状をなし、かつ中空室1a内に嵌裝可能な大きさに形成され、内部には潤滑油が含浸されている。
【0011】
なおこの場合の焼結含油軸受2の構造については、ハウジング1内に一定の間隔を介して2個の軸受2a・2bが設けられているが、必ずしもこのような構造のものに限らず、実質的に1個の軸受として構成されたものでもよい。さらにハウジング1内にはモータの回転軸3が、軸受2a・2bに支承された状態にて保持され、またその一端がスラスト板4によって保持される。
【0012】
リング状キャップ5は前記軸受2aとの間に一定の間隔Sを介することにより、軸受2aに対して非接触状態にて施蓋される。この場合における間隔Sの介在については、スピンドルモータが、その上側の軸受部のみが外部と連通する所謂「袋状」の構造となっているために、上側の軸受2aの外側面に油を保持するための間隔Sを形成するのがきわめて有効となる。
【0013】
さらに上記したリング状キャップ5は金属粉末あるいはセラミックス粉末を焼結した多孔質体により構成され、内部には撥油剤が施される。ここで使用される撥油剤としては撥油性の油または撥油性の樹脂もしくはPTFEなどの撥油性固形成分を含む揮発性油が用いられる。撥油性の油は液状のまま多孔質のリング状キャップ5内に含浸保持され、また撥油性の樹脂は例えばフッ素樹脂やポリプロピレン樹脂等が用いられる。
【0014】
またフッ素樹脂やポリプロピレン樹脂を含めて加熱により液状にし、これを多孔質の金属粉末あるいはセラミックス粉末の焼結体としたリング状キャップ5内に含浸させた後、冷却して固化させた状態にて保持させることもできる。
【0015】
リング状キャップ5は、図2の部分拡大図に示したように、その内径側におけるモータ軸3とのクリアランスC1を、モータ軸が振れ回った際にも非接触状態を維持すべく焼結含油軸受2とモータ軸3とのクリアランスC2よりも大きくなるようにC1>C2とした。なお、この場合における具体的なクリアランスについては、0.1mmを超えるほど大きすぎるとモータ軸3を伝って上がってきた油との距離が大きすぎて撥油効果が十分ではなくなる。
【0016】
また0.01mm以下と小さすぎるとクリアランスC1に介在した油が粘性抵抗として働くことにより、トルクロスを発生してしまい、しかもリング状キャップ5と焼結含油軸受2の同軸精度の要求がきわめて厳格となるところからコストの上昇が避けられない。これらのことを勘案すると、リング状キャップ5の内周端とモータ軸3との好ましいクリアランスC1の範囲については0.01〜0.1mmの範囲内となるように設定するのが理想的である。
【0017】
図3および図4には、本発明の第2実施例があらわされている。この場合にはリング状キャップ5の内周端とモータ軸3とのクリアランスC1について、これを焼結含油軸受2とモータ軸3とのクリアランスC2に対して、モータ軸が振れ回った際にも非接触状態を維持できるようにC1>C2とするための手段として、リング状キャップ5の内径を焼結含油軸受2の内径と等しくし、逆にモータ軸3の上記したリング状キャップ5に対応する付近3aの外径を段差により小さくして幾分細くすることにより、既述した第1実施例と同様に、焼結含油軸受2とモータ軸3とのクリアランスC2に対し、リング状キャップ5の内周端とモータ軸3とのクリアランスC1がC1>C2となるようにしている。
【0018】
このようにすると、製造コストの面においては若干高くなるものの、段差によるリング状キャップ5に対応する付近3aの回転時における遠心力が弱いために、上昇した油が段差部分で振り切られ、撥油効果がより一層十分となる。なおこの場合におけるリング状キャップ5の内周端とモータ軸3aとの好ましいクリアランスC1の範囲については前記した第1実施例の場合と同じである。
【0019】
なお、本発明に係る軸受構造は、上記した用途の他に、冷蔵庫、パソコン、OA機器等に使用され、長寿命が要求される冷却用ファンモータ、あるいはTVやプロジェクター等に使用されるDLP用ホイールモータ、更には複写機、プリンタ等に使用されるポリゴンスキャナーモータ、その他自動車搭載用ブラシレスモータ、換気扇や扇風機等の家電用モータなど広汎に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施例であるモータ軸受構造の要部をあらわした断面図。
【図2】図1におけるリング状キャップの内周端とモータ軸とのクリアランス部分の拡大図。
【図3】本発明の第2実施例であるモータ軸受構造の要部をあらわした断面図。
【図4】図3におけるリング状キャップの内周端とモータ軸とのクリアランス部分の拡大図。
【符号の説明】
【0021】
1 ハウジング
1a 中空室
2 焼結含油軸受
2a 軸受
2b 軸受
3 モータ軸
3a リング状キャップに対応する付近
4 スラスト板
5 リング状キャップ
S 間隔
C1 クリアランス
C2 クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ軸を支承する焼結含油軸受と、該軸受を内部に圧入固定するハウジングと、該ハウジングの開口部を上記軸受に対して非接触状態にて施蓋するリング状キャップとからなり、該リング状キャップは撥油剤を含浸させた多孔質体であり、しかもその内径側におけるモータ軸とのクリアランスを、モータ軸が振れ回った際にも非接触状態を維持できるよう焼結含油軸受とモータ軸とのクリアランスよりも大きくしたことを特徴とするモータ軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−210083(P2009−210083A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55708(P2008−55708)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(592128788)ポーライト株式会社 (16)
【Fターム(参考)】