説明

モータ

【課題】整流子が変形してもブラシの変形を抑制して正極側ブラシとモータハウジングとの短絡を防止することができるモータを得る。
【解決手段】モータハウジング10と、モータハウジング10の内側に固定された固定子11と、固定子11の内側に回転可能に設けられた回転子12と、回転子12の回転軸12aに設けられた整流子13と、一端部が整流子13と接触し他端部が正極側リード線14aに接続された正極側ブラシ15aと、一端部が整流子13と接触し他端部が負極側リード線14bに接続された負極側ブラシ15bと、モータハウジング10に固定され正極側ブラシ15aを保持した正極側ブラシ保持部16aおよび負極側ブラシ15bを保持した負極側ブラシ保持部16bが形成されたブラシ保持枠16とを備えたモータ1において、正極側ブラシ保持部16aは負極側ブラシ保持部16bより増肉されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータハウジングと、このモータハウジングに設けられたブラシと、このブラシを保持したブラシ保持枠とを備えたモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータハウジングと、前記モータハウジングの内側に固定された固定子と、前記固定子の内側に回転可能に設けられた回転子と、前記回転子の回転軸に設けられ、前記回転子とともに回転する整流子と、一端部が前記整流子と接触し、他端部がリード線に接続されたブラシと前記モータハウジングの内側に固定され、前記ブラシを保持した絶縁性のブラシ保持枠とを備えたエンジン始動装置のモータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
前記ブラシは、正極側リード線に接続された正極側ブラシと、負極側リード線に接続された負極側ブラシとから構成され、前記ブラシ保持枠は、前記正極側ブラシを内部に保持する正極側ブラシ保持部と、前記負極側ブラシを内部に保持する負極側ブラシ保持部とが形成され、前記正極側ブラシ保持部は、前記負極側ブラシ保持部と同程度の肉厚に形成されて正極側ブラシと前記モータハウジングとを絶縁している。
【0003】
【特許文献1】特許第2829182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このものの場合、長時間の通電により整流子が高温になり、整流子の強度が低下して回転する整流子が径方向外側に変形すると、整流子がブラシ保持枠と衝突し、正極側ブラシ保持部および負極側ブラシ保持部が変形する。特に、正極側ブラシ保持部が変形した場合には、正極側ブラシ保持部から正極側ブラシが飛び出して、正極側ブラシとモータハウジングとが短絡してしまう恐れがあるという問題点があった。
【0005】
この発明は、上述のような問題点を解決することを課題とするものであって、その目的は、整流子が変形してブラシ保持枠と衝突しても、正極側ブラシ保持部の変形を抑制して、正極側ブラシとモータハウジングとの短絡を防止することができるモータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るモータは、蓋部および円筒形状のモータハウジング本体を有したモータハウジングと、前記モータハウジングの内側に固定された固定子と、前記固定子の内側に回転可能に設けられた回転子と、前記回転子の回転軸に設けられ、前記回転子とともに回転する整流子と、一端部が前記整流子と接触し、他端部が正極側リード線に接続された正極側ブラシと、一端部が前記整流子と接触し、他端部が負極側リード線に接続された負極側ブラシと、前記モータハウジングの内側に固定され、前記正極側ブラシを保持した正極側ブラシ保持部および前記負極側ブラシを保持した負極側ブラシ保持部が形成された絶縁性のブラシ保持枠とを備えたモータにおいて、前記正極側ブラシ保持部は、前記負極側ブラシ保持部より、増肉されている。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係るモータによれば、整流子が変形してブラシ保持枠と衝突しても、正極側ブラシ保持部の変形を抑制して、正極側ブラシとモータハウジングとの短絡を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の各実施の形態を図に基づいて説明するが、各図において、同一または相当の部材、部位については、同一符号を付して説明する。
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係るモータ1が取り付けられたエンジン始動装置の全体断面図、図2は図1のII−II線に沿った矢視断面図である。
エンジン始動装置は、モータ1と、図示しないキースイッチの操作により、モータ1への通電を入り切りするスイッチ2と、モータ1の後述する回転軸12aに減速部3を介して設けられ、回転軸12aからの回転力が伝達される出力軸4と、この出力軸4に設けられ、軸線方向に沿って摺動可能なクラッチ5と、このクラッチ5に設けられ、エンジンのリングギヤ6と歯合可能なピニオンギヤ7と、出力軸4、クラッチ5およびピニオンギヤ7を覆ったハウジング8とを備えている。
スイッチ2には、回動軸9aを中心に回動可能なシフトレバー9が設けられており、スイッチ2の作動により、シフトレバー9が回動して、クラッチ5が出力軸4に沿って摺動する。
【0009】
モータ1は、蓋部であるリアブラケット10aおよび円筒形状のモータハウジング本体10bを有したモータハウジング10と、このモータハウジング10の内部に固定され、永久磁石を有した固定子11と、この固定子11の内側に回転可能に設けられた回転子12と、回転子12の回転軸12aに設けられ、回転子12とともに回転する整流子13とを備えている。
また、このモータ1は、一端部が整流子13に接触し、他端部が正極側リード線14aに接続された正極側ブラシ15aと、一端部が整流子13に接触し、他端部が負極側リード線14bに接続された負極側ブラシ15bと、モータハウジング10の内側に設けられ、正極側ブラシ15aを保持した正極側ブラシ保持部16aおよび負極側ブラシ15bを保持した負極側ブラシ保持部16bが形成されたフェノール樹脂のブラシ保持枠16とを備えている。
なお、ブラシ保持枠16は、フェノール樹脂に限らず、その他の絶縁性材料であってもよい。
正極側ブラシ15aおよび負極側ブラシ15bは、それぞれが2本ずつ設けられており、2本の正極側ブラシ15aが対向し、2本の負極側ブラシ15bも対向するようにして、それぞれが径方向に沿って配置されている。
正極側ブラシ保持部16aおよび負極側ブラシ保持部16bは、それぞれが正極側ブラシ15aおよび負極側ブラシ15bを保持するように2箇所ずつ形成されている。
それぞれの正極側リード線14aは、モータリード線17に接続されており、外部から正極側リード線14aへの通電が可能となっている。
【0010】
正極側ブラシ保持部16a内には、正極側ブラシ15aを整流子13側へ押圧するバネ18が設けられており、正極側ブラシ15aと整流子13とを確実に接触させている。
負極側ブラシ保持部16b内にも、負極側ブラシ15bを整流子13側へ押圧するバネ18が設けられており、負極側ブラシ15bと整流子13とを確実に接触させている。
【0011】
ブラシ保持枠16の反回転子12側には、正極側ブラシ保持部16a内の正極側ブラシ15aと、負極側ブラシ保持部16b内の負極側ブラシ15bとを閉じ込める絶縁当板19が設けられている。
この絶縁当板19により、正極側リード線14aおよび負極側リード線14bもブラシ保持枠16の内側に閉じ込められている。
【0012】
ブラシ保持枠16には、2つの正極側ブラシ保持部16aの周方向に沿った中間に、径方向外側に突出した突出部16eが形成されている。
また、ブラシ保持枠16には、2つの負極側ブラシ保持部16bの周方向に沿った中間にも、径方向外側に突出した突出部16eが形成されている。
ブラシ保持枠16の突出部16eと絶縁当板19とは、取付片20により挟持されて固定される。
取付片20は、図示しないネジを介してリアブラケット10aに固定されているので、ブラシ保持枠16は、軸線方向の移動が規制される。
【0013】
リアブラケット10aは、モータハウジング本体10bの内部を貫通して設けられた2本の通しボルト21を介してモータハウジング本体10bに固定されており、この通しボルト21は、エンジン始動装置のハウジング8にも螺着している。これにより、モータ1がハウジング8に固定される。
【0014】
正極側ブラシ保持部16aは、負極側ブラシ保持部16bより、周方向に沿って増肉されており、通しボルト21と当接している。これにより、ブラシ保持枠16の周方向に沿った回転が規制される。
また、正極側ブラシ保持部16aは、正極側リード線14aとモータハウジング10との間に延びて増肉されている。これにより、正極側リード線14aとモータハウジング10とが接触するのを防いでいる。
【0015】
なお、正極側ブラシ保持部16aは、軸線方向に沿って増肉してもよく、これにより、正極側ブラシ保持部16aの強度を向上させることができる。
【0016】
以上説明したように、実施の形態1に係るモータ1によると、正極側ブラシ保持部16aが増肉されて強化されているので、整流子13が変形してブラシ保持枠16に衝突しても、正極側ブラシ保持部16aの変形が抑制され、その結果、正極側ブラシ15aが正極側ブラシ保持部16aから飛び出すことを防ぎ、正極側ブラシ15aとモータハウジング10との短絡を防ぐことができる。
【0017】
また、正極側ブラシ保持部16aは、周方向に沿って増肉されているので、整流子13が変形してブラシ保持枠16に衝突して、正極側ブラシ保持部16aが整流子13から径方向に沿った力を受けても、正極側ブラシ保持部16aの変形が抑制され、その結果、正極側ブラシ15aとモータハウジング10との短絡を防ぐことができる。
【0018】
また、正極側ブラシ保持部16aは、正極側リード線14aとモータハウジング10との間に延びて増肉されているので、正極側リード線14aとモータハウジング10との短絡を防ぐことができる。
【0019】
また、通しボルト21が、ブラシ保持枠16と係合し、ブラシ保持枠16の周方向に沿った回転を規制するので、回転する整流子13がブラシ保持枠16に衝突しても、ブラシ保持枠16が回転することが抑制され、その結果、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aがブラシ保持枠16から飛び出すことを防ぎ、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aとモータハウジング10との短絡を防ぐことができる。また、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aと通しボルト21との短絡も防ぐことができる。
【0020】
なお、上記実施の形態1では、通しボルト21とブラシ保持枠16とが係合したモータ1について説明したが、勿論このものに限らず、モータハウジング10の内部に固定された固定子11が、ブラシ保持枠16側に向かって延び、ブラシ保持枠16と係合したモータ1であってもよい。
【0021】
また、通しボルト21がブラシ保持枠16と係合して、ブラシ保持枠16の周方向に沿った回転を規制するモータ1に限らず、通しボルト21にブラシ保持枠16の端面と当接するフランジ部を設けて、ブラシ保持枠16の周方向に沿った回転を規制するとともに、ブラシ保持枠16の軸線方向の移動を規制するモータ1であってもよい。
ブラシ保持枠16が軸線方向に移動することが規制されるので、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aがブラシ保持枠16から飛び出すことを防ぎ、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aとモータハウジング10との短絡を防ぐことができる。また、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aと通しボルト21との短絡も防ぐことができる。
【0022】
実施の形態2.
図3(a)は実施の形態2に係るモータ1の要部断面図、図3(b)は図3(a)のB−B線に沿った矢視断面図である。
実施の形態2に係るモータ1は、リアブラケット10aに、ブラシ保持枠16側に向かって突出した係合部である突出部22aが2箇所形成されている。
ブラシ保持枠16には、リアブラケット10aに対向した面であって、正極側リード線14aとモータハウジング10との間に、軸線方向に沿った穴部16cが形成されており、突出部22aと係合している。
これにより、ブラシ保持枠16の周方向に沿った回転が規制される。
その他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0023】
実施の形態2に係るモータ1によると、リアブラケット10aに形成された突出部22aとブラシ保持枠16に形成された穴部16cとが係合し、ブラシ保持枠16の周方向に沿った回転が規制されるので、回転する整流子13がブラシ保持枠16に衝突しても、ブラシ保持枠16が回転することが抑制され、その結果、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aがブラシ保持枠16から飛び出すことを防ぎ、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aとモータハウジング10との短絡を防ぐことができる。
【0024】
なお、突出部22aが穴部16cと係合して、ブラシ保持枠16の周方向に沿った回転を規制するモータ1に限らず、突出部22aにブラシ保持枠16の端面と当接するフランジ部を設けて、ブラシ保持枠16の周方向に沿った回転を規制するとともに、ブラシ保持枠16の軸線方向の移動を規制するモータ1であってもよい。
これにより、整流子13がブラシ保持枠16に衝突しても、ブラシ保持枠16が軸線方向に移動することが抑制され、その結果、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aがブラシ保持枠16から飛び出すことを防ぎ、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aとモータハウジング10との短絡を防ぐことができる。
【0025】
実施の形態3.
図4は実施の形態3に係るモータ1の要部断面図である。
実施の形態3に係るモータ1は、リアブラケット10aの円筒部の内周面に径方向内側に突出した係合部である突出部22bが2箇所形成されている。
ブラシ保持枠16の側面には、径方向内側に凹んだ穴部16dが2箇所形成されており、突出部22bと係合している。
これにより、ブラシ保持枠16の周方向に沿った回転が規制されるとともに、ブラシ保持枠16の軸線方向に沿った移動も規制される。
その他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0026】
実施の形態3に係るモータ1によると、リアブラケット10aに形成された突出部22bとブラシ保持枠16に形成された穴部16dとが係合して、ブラシ保持枠16の周方向に沿った回転が規制されるとともに、ブラシ保持枠16の軸線方向に沿った移動も規制されているので、回転する整流子13がブラシ保持枠16に衝突しても、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aがブラシ保持枠16から飛び出すことを防ぎ、正極側ブラシ15aおよび正極側リード線14aとモータハウジング10との短絡を防ぐことができる。
【0027】
なお、上記各実施の形態では、エンジン始動装置に取り付けられたモータ1について説明したが、勿論このものに限らず、その他のものに取り付けられるモータ1であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態1に係るモータの全体構成図である。
【図2】図1のII−II線に沿った矢視断面図である。
【図3】図3(a)は実施の形態2に係るモータの要部断面図、図3(b)は図3(a)のB−B線に沿った矢視断面図である。
【図4】実施の形態3に係るモータの要部断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 モータ、2 スイッチ、3 減速部、4 出力軸、5 クラッチ、6 リングギヤ、7 ピニオンギヤ、8 ハウジング、9 シフトレバー、9a 回動軸、10 モータハウジング、10a リアブラケット、10b モータハウジング本体、11 固定子、12 回転子、12a 回転軸、13 整流子、14a 正極側リード線、14b 負極側リード線、15a 正極側ブラシ、15b 負極側ブラシ、16 ブラシ保持枠、16a 正極側ブラシ保持部、16b 負極側ブラシ保持部、16c 穴部、16d 穴部、16e 突出部、17 モータリード線、18 バネ、19 絶縁当板、20 取付片、21 通しボルト、22a 突出部、22b 突出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋部および円筒形状のモータハウジング本体を有したモータハウジングと、
前記モータハウジングの内側に固定された固定子と、
前記固定子の内側に回転可能に設けられた回転子と、
前記回転子の回転軸に設けられ、前記回転子とともに回転する整流子と、
一端部が前記整流子と接触し、他端部が正極側リード線に接続された正極側ブラシと、
一端部が前記整流子と接触し、他端部が負極側リード線に接続された負極側ブラシと、
前記モータハウジングの内側に固定され、前記正極側ブラシを保持した正極側ブラシ保持部および前記負極側ブラシを保持した負極側ブラシ保持部が形成された絶縁性のブラシ保持枠とを備えたモータにおいて、
前記正極側ブラシ保持部は、前記負極側ブラシ保持部より、増肉されていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記正極側ブラシ保持部は、周方向に沿って増肉されていることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記正極側ブラシ保持部は、前記正極側リード線と前記モータハウジングとの間に延びて増肉されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
前記モータハウジング、前記蓋部を前記モータハウジング本体に固定する通しボルトまたは固定子には、前記ブラシ保持枠と係合し、前記ブラシ保持枠の周方向に沿った回転または軸線方向に沿った移動の少なくとも周方向に沿った回転を規制する係合部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のモータ。
【請求項5】
エンジン始動装置に用いられることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載のモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−312322(P2008−312322A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156617(P2007−156617)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】