説明

モールドモータ

【課題】ステータの組立時間の短縮と、組立性の向上したモールドモータを提供することを目的とする。
【解決手段】ステータコア21に取り付けられるインシュレータ5の一部にモールド成形時の支持部を露出するための切欠部54を設け、同切欠部54の外周に沿って補強リブ55をさらに設けて、インシュレータ5全体の強度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーロータ型電動機の外周を合成樹脂でモールドするモールドモータに関し、さらに詳しく言えば、ステータコアに取り付けられるインシュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
インナーロータ型電動機は、環状ヨーク部の内周面から中心に向かって複数のティース部を有するステータと、ステータの中心に同軸的に配置されるロータとを備えている。通常、ステータは、磁性体からなるステータコアを有し、ステータコアはティース面を除いてインシュレータによって絶縁被覆されている。
【0003】
インシュレータについて、例えば特許文献1に記載されているモールドモータでは、ティース部の数(特許文献1では12ヶ所)ごとに分割された24個のインシュレータメンバを、ステータコアの両端から1つずつ嵌め込んだのち、各ティース部にコイルを巻回するようにしている。
【0004】
また、特許文献1では、一方のインシュレータメンバには、後のモールド工程において、その金型内でステータコアと金型とを当接するための切欠部を設けるようにしている
【0005】
しかしながら、24個に分割されたインシュレータメンバを1つずつステータコアに組み込むには、時間がかかるため、量産性がよくない。この点を解決するため、出願人は、インシュレータを上下2つのインシュレータメンバに分けて成形し、それらをステータコアの両端から嵌め合わせることを検討した。
【0006】
しかしながら、この切欠部によってインシュレータの強度が弱められ、歪みやすくなり、その結果、インシュレータをステータコアに対して取り付けにくくなることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−148191号公報
【特許文献2】特開2010−166739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の課題は、ステータコアに装着されるインシュレータを、上下2つのインシュレータメンバに分割し、その一方にモールド時の金型に対する位置決め用の切欠部を形成するにあたって、インシュレータの強度不足や歪みが生じないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明は以下に示すいくつかの特徴を備えている。環状ヨーク部の内周面から中心に向かって放射状に延びる複数のティース部を有するステータコアと、上記ステータコアに対して軸方向の両端から挟み込むように取り付けられ、上記ティース部のティース面を残して上記ステータコアを絶縁被覆する一対のインシュレータとを含み、樹脂一体成形によって外郭が形成されたステータと、上記ステータの中心に同軸的に配置されるロータとを有するモールドモータにおいて、少なくとも一方の上記インシュレータには、上記環状ヨーク部の端面を覆う端板と、上記各ティース部を覆い、その外周にコイルが巻回される巻胴部とを一体に備え、上記端板には、上記環状ヨーク部の一部を露出させる切欠部が設けられており、上記切欠部に沿って補強リブが設けられていることを特徴としている。
【0010】
より好ましい態様として、上記切欠部は、上記端板の外周から内側に向かってコ字状または半円状に切り欠かれており、上記補強リブは、上記切欠部に沿った断面形状に上記ステータコアの軸線方向に沿って立設されていることを特徴としている。
【0011】
さらには、上記補強リブの上記コイルの渡り線が当接する外周面は、面取りされていることを特徴としている。
【0012】
また、上記端板にはさらに、上記コイルの渡り線の配線ガイドとしてのブリッジ部が設けられており、上記補強リブの軸方向高さは、上記ブリッジ部の高さとほぼ同一であることを特徴としている。
【0013】
さらに、上記補強リブの両端は、上記端板の外径よりも内径側に配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、インシュレータの端板に形成される切欠部を囲むように補強リブを設けることにより、切欠部付近の強度を高めることができ、その結果、インシュレータ全体の強度を高めることで、インシュレータの歪みを抑え、スムーズにステータコアにインシュレータを挿入できるだけでなく、組み立ても容易になる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、切欠部はコ字状または半円状に切り掛かれており、そこに補強リブが切欠部の外周に沿った断面形状で立設されていることにより、切欠部の周辺の強度を確実に高めることができ、インシュレータ全体の剛性が高まる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、渡り線が当接する上記補強リブの当接面が面取りされていることにより、渡り線が補強リブの角部に当接して破損することを防止することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、端板にはさらにコイルの渡り線が案内されるブリッジ部が設けられており、補強リブの軸方向高さがブリッジ部の高さとほぼ同一であることにより、強度を上げつつ、モータ全体の大型化を防ぐことができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、インシュレータの補強リブの両端の位置を端板の外形よりも内側に配置したことにより、ステータコアを巻線機などの治具に取り付ける際に、ステータコアが若干でも傾いていた場合に、補強リブが治具に接触してインシュレータが破損して絶縁不良を起こすことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るモールドモータの要部断面図。
【図2】上記モールドモータのステータの斜視図。
【図3】第1インシュレータメンバの斜視図。
【図4】第1インシュレータメンバの平面図。
【図5】第1インシュレータメンバの切欠部付近を拡大した拡大平面図。
【図6】ステータを巻線機内に設置した状態の模式図。
【図7】ステータをモールド金型に設置した状態の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
図1に示すように、このモールドモータ1は、リング状のステータ2と、ステータ2の中心に同軸的に配置されるロータ3とを有し、ステータ2は、金型内で樹脂一体成形によって、ティース面241を残して樹脂による外郭10で覆われている。
【0022】
ステータ2の一方の端面(図1では右端面)には、ロータ3のロータ出力軸32の軸受33が収納される第1ブラケット41が設けられている。ステータ2の他方の端面(図1では、左端面)には、図示しない駆動用回路基板が搭載され、さらにそれを覆うように第2ブラケット42が設けられている。第2ブラケット42には、もう1つの軸受34が収納されている。
【0023】
本発明において、ロータ3は、軸受33,34に回転可能な状態で支持されたロータ出力軸32と、同ロータ出力軸32に同軸的に取り付けられた円盤状のバックヨーク35と、同バックヨーク35の外径側に配置された複数の板状のロータマグネット31とを備えている。ステータ2とロータ3の両端には、ブラケット41,42によって蓋がされている。本発明において、ロータ3およびブラケット41,42の構成は任意的事項であり、その具体的な形態は仕様に応じて任意に変更されてよい。
【0024】
図2を併せて参照して、ステータ2は、電磁鋼板の積層体からなるステータコア21と、ステータコア21を絶縁被覆するインシュレータ5とを備えている。この例において、ステータコア21は、電磁鋼板の積層体からなるが、ステータコア21としての基本的な機能を有していれば、例えば圧粉鉄心などの方法で作製されたものであってよい。なお、図2において、積層状態を示す線は省略されている。
【0025】
ステータコア21は、環状ヨーク部23と、同環状ヨーク部23の内周面から中心に向かって突設する複数のティース部24a〜24l(この例では、12極)とを有し、各ティース部24a〜24lの先端には、ロータ3のマグネット面31に沿って所定の空隙をもって対向するティース面241が形成されている。ティース部24a〜24lの極数は、仕様に応じて任意に変更されてよい。
【0026】
インシュレータ5は、ステータコア21に対しての軸線方向の両端から取り付けられる上下もしくは左右一対のインシュレータメンバ5a,5bを備えている。インシュレータ5は、絶縁性を有する合成樹脂の成型品からなる。絶縁性を有する合成樹脂としては、PBTやPET,PAなどがある。
【0027】
この例において、インシュレータメンバー5a,5bは、後述する切欠部54の有無を除いて、その基本的な形態は同一であるため、以下においては、一方のインシュレータメンバ5a(以下、第1インシュレータメンバ5aとする)のみを説明し、他方のインシュレータメンバ5b(以下、第2インシュレータメンバ5b)の具体的な説明は省略する。
【0028】
図2〜図5を参照して、第1インシュレータメンバ5aは、ステータコア21の環状ヨーク部23を被覆する端板51と、同端板51の内周面から中心方向に向かって放射状に突設され、各ティース部24a〜24lのティース面241を残して外周面を被覆する複数の巻胴部52a〜52lとを備えている。
【0029】
端板51は、環状ヨーク部23の軸方向の端面に沿って当接する円環状を呈し、その外径は、環状ヨーク部23と端板51との間に、ステータコア21を巻線機にセッティングする際の位置決め用の微小段差231(図6参照)を形成することを目的として、環状ヨーク部23の外径よりも若干小さく形成されている。
【0030】
端板51の表面(環状ヨーク部23に対向する面とは反対の面)には、コイル6の渡り線の配線ガイドとして、複数のブリッジ部53が設けられている。この例において、ブリッジ部53は、各ティース部24a〜24lに対向するように12ヶ所設けられている。
【0031】
ブリッジ部53は、端板51の端面から軸線方向に沿ってほぼ垂直に立設されており、回転軸線方向(図5の紙面垂直方向)から見て扁平な円弧状に形成されている。ブリッジ部53は、この例以外の形状であってもよく、本発明において、ブリッジ部53の構成は任意的事項である。
【0032】
ステータコア21の環状ヨーク部23のうち、端板51よりも外径側の微小段差231は、ステータコア21に巻線を巻回する際に巻線機7側の取付面71(図6参照)に当接して、巻線機に対してステータコア21が支持されるようになっている。
【0033】
第1インシュレータメンバ5aには、モールドする際に金型8(図7参照)内でのステータコア21の支持部として、ステータコア21の端面の一部を露出させるための切欠部54が設けられている。
【0034】
切欠部54は、端板51の外周面から内周面に向かってコ字状に切り欠かれている。切欠部54は、コ字状以外に半円状であってもよい。この例において、切欠部54は、各ティース部24a〜24lの間に挟まれるように12ヶ所設けられている。
【0035】
図7を併せて参照して、この切欠部54は、金型8の底部から突設されたステータ支柱81の先端にステータコア21の端面を当接させることによって、金型8内でステータコア21を支持できるようになっている。
【0036】
端板51にはさらに、切欠部54の形成によって低下した剛性を高めるための補強リブ55が設けられている。図5を参照して、補強リブ55は、切欠部54の外周に沿って切欠部54を囲むように配置されている。
【0037】
補強リブ55は、端板51の表面から軸線方向に沿ってほぼ垂直に立設し、断面コ字状に形成されている。補強リブ55の内周面55a(ステータ2の半径方向から見て外径側)は、切欠部54の形状に合わせてコ字状に形成されている。
【0038】
補強リブ55の外周面55b(ステータ2の半径方向から見て内径側)の角部551,552は、渡り線が当接して破損することを防止するため、面取りされている。この例において、一方の角部551は、対向するブリッジ部53の角部に対し緩やかな曲率の円弧状に面取りされており、他方の角部552は、急な曲率の円弧状に面取りされている。補強リブ55の角部の面取り条件については、任意であってよい。
【0039】
この例において、補強リブ55の外周面55bの各角部551,552は、渡り線が当接することを考慮して面取りされているが、さらには渡り線を這わせるための溝などをさらに設けてもよく、少なくともインシュレータ5aの剛性を補強する効果を備えていれば、その他の変形例も本発明に含まれる。
【0040】
補強リブ55の軸方向高さは、ブリッジ部53の軸方向高さと同一もしくはそれ以下となるように設定されている。すなわち、補強リブ55を高くすることで強度の向上は期待できるが、ブリッジ部53よりも高くしてしまうと、モータ1全体の軸方向高さが高くなるため、好ましくない。
【0041】
また、補強リブ55の外周方向の端部553,553は、端板51の外周面511よりも内径側に配置されていることが好ましい。すなわち、図6に示すように、補強リブ55の外周方向の端部553が、端板51の外周面よりも内径側に配置されていることにより、ステータコア21を巻線機7に取り付ける際に、補強リブ55の端部553が巻線機7に接触することを防止でき、インシュレータ5の破損を防止しつつ、スムーズにセッティングすることができる。
【0042】
他方のインシュレータメンバ5b(以下、第2インシュレータメンバ5bとする)には、切欠部54は設けられていないが、切欠部54が設けられていてもよい。
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、インシュレータメンバ5aの端板54に形成された切欠部54による剛性の低下を補うため、切欠部54に沿って補強リブ55を設けたことにより、インシュレータメンバ5aの強度を向上させることができ、その結果、モールドモータの組立性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 モールドモータ
2 ステータ
21 ステータコア
23 環状ヨーク部
24a〜24l ティース部
3 ロータ
41,42 ブラケット
5 インシュレータ
5a 第1インシュレータメンバ
5b 第2インシュレータメンバ
51 端板
52a〜52l 巻胴部
53 ブリッジ部
54 切欠部
55 補強リブ
6 コイル
7 巻線機
8 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ヨーク部の内周面から中心に向かって放射状に延びる複数のティース部を有するステータコアと、上記ステータコアに対して軸方向の両端から挟み込むように取り付けられ、上記ティース部のティース面を残して上記ステータコアを絶縁被覆する一対のインシュレータとを含み、樹脂一体成形によって外郭が形成されたステータと、上記ステータの中心に同軸的に配置されるロータとを有するモールドモータにおいて、
少なくとも一方の上記インシュレータには、上記環状ヨーク部の端面を覆う端板と、上記各ティース部を覆い、その外周にコイルが巻回される巻胴部とを一体に備え、上記端板には、上記環状ヨーク部の一部を露出させる切欠部が設けられており、上記切欠部に沿って補強リブが設けられていることを特徴とするモールドモータ。
【請求項2】
上記切欠部は、上記端板の外周から内側に向かってコ字状または半円状に切り欠かれており、上記補強リブは、上記切欠部に沿った断面形状に上記ステータコアの軸線方向に沿って立設されていることを特徴とする請求項1に記載のモールドモータ。
【請求項3】
上記補強リブの上記コイルの渡り線が当接する外周面は、面取りされていることを特徴とする請求項1または2に記載のモールドモータ。
【請求項4】
上記端板にはさらに、上記コイルの渡り線の配線ガイドとしてのブリッジ部が設けられており、上記補強リブの軸方向高さは、上記ブリッジ部の高さとほぼ同一であることを特徴とする請求項1,2または3に記載のモールドモータ。
【請求項5】
上記補強リブの両端は、上記端板の外径よりも内径側に配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のモールドモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−115980(P2013−115980A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261815(P2011−261815)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006611)株式会社富士通ゼネラル (1,266)
【Fターム(参考)】