説明

ラサギリンの塩およびその製剤

本発明は、ラサギリンの塩およびその製剤に関する。さらに、本発明は、ラサギリンの塩を調製するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の説明】
【0001】
本発明は、ラサギリンの塩およびその製剤に関する。さらに、本発明は、ラサギリンの塩を調製するための方法を提供する。
【0002】
ラサギリンは、酵素モノアミンオキシダーゼのB型の選択的で且つ不可逆的なインヒビターであるプロパルギル-1-アミノインダンのR(+)エナンチオマーである。ラサギリンの合成法は、例えば、米国特許第5,532,415およびWO 2002/068376に開示される。また、US 5,532,415は、パーキンソン病、記憶障害、痴呆、鬱病、活動亢進症候群(hyperactive syndrome)、情動性疾患(affective illness)、神経変性疾患、神経毒性障害(neurotoxic injury)、脳虚血、頭部外傷障害(head trauma injury)、脊髄性外傷障害(spinal trauma injury)、精神分裂病、注意欠陥障害、多発性硬化症、または退薬症状(withdrawal symptoms)の治療に適切な薬学的組成物を開示する。
【0003】
薬学的製剤、特にラサギリンを活性成分として含んでいる固体剤形の調製における問題の一つには、剤形中に必要とされる活性成分の含有量が低いことがあげられる。活性成分は相対的に大量の賦形剤とともに混合されなければならないので、例えば、錠剤の混合に際して原薬の均質な分布を得ることは困難である。原薬の分布が不十分な錠剤用の混合物が錠剤の製造に使用される場合に、そのように製造された錠剤は内容物の均一性(uniformity)を欠いており、薬の許容される内容物を有さない。内容物の均一性が乏しいことは、バイオアベイラビリティーの顕著な減少の原因であることが示されており、原薬の量が多すぎる場合には毒性の原因となりうる。
【0004】
この問題を克服するために、WO 2006/091657は、90%以上の総体積量のラサギリン塩粒子が250ミクロン未満のサイズを有する薬学的に許容されるラサギリン塩の粒子の混合物を示唆しており、特定の粒径分布がラサギリンの固体の薬学的組成物の内容物の均一性に有利な効果を有していることが記載されている。しかしながら、ラサギリン粒子の微粉化(micronization)には、粉末が静電気的に荷電しうるまたはさらなる処理の間に凝集体を形成しうるとの不利な点が存在する。さらにまた、微粉化された原薬は流動性の減少を呈し、さらなる処理工程においても問題を生じる可能性がある。
【0005】
従って、調製が容易で薬学的製剤を容易に製造できる、特に固体の剤形で内容物の均一性が高いラサギリン原薬のさらなる形態に関する必要性がなおも存在する。
【0006】
様々なラサギリンの薬学的に許容される塩は、当該技術分野において知られている。例えば、EP-A-D436492は、ラサギリンの塩酸塩および酒石酸塩を開示している。ラサギリンのさらなる塩はWO95/11016に開示された塩であり、即ち、硫酸塩、リン酸塩、メシレート塩、マレイン酸塩、エシレート塩、酢酸塩、フマル酸塩、臭化水素酸塩、トシル化塩および安息香酸塩である。ラサギリンのさらなる塩は、WO2008/019871に開示されている。WO2008/076315は、タンニン酸ラサギリンを開示している。
【0007】
しかしながら、既知のラサギリン塩は結晶性または無定形であるが、何れの場合でも固体である。従って、これらの全ての既知の塩は、固体の剤形の調製において上記の問題を有する。
【0008】
驚くことに、薬学的製剤の内容物の均一性に関する上記問題が、薬学的製剤の製造においてラサギリンの液体の塩を用いることにより克服できることを見つけた。以上のように、本発明は、塩が23 °Cで液体であることを特徴とするラサギリンと酸の塩に関する。
【0009】
ラサギリンの液体の塩は、それらを賦形剤と薬学的製剤の製造において混合する前に粒子を微粉化する必要がないとの利点を有する。前記塩は液体であるので、大量の賦形剤と容易に混合でき、その結果混合物中の原薬の均質な分布が保証されることで得られた単位剤形中で内容物の高い均一性を生じる。
【0010】
ラサギリンの液体の塩は、結晶の多形性に関連する問題が生じないとのさらなる利点を有する。異なる結晶形態で存在できる活性な薬学的物質の固体の塩は、それらが薬学的製剤中で貯蔵された場合に物理的な不安定性の問題がしばしば生じる。結晶形態の変化が物質の溶解性に多大なる影響を与える可能性があるので、固体を回避することにより明らかな利点が提供される。
【0011】
本発明の塩は、通常の条件下、即ち、室温(23°C)および1013hPaの常圧で液体である。「液体」の用語は、塩が、粒子が遊離しバルク物質の境界で区別しうる表面を自由に形成できる物質の状態を意味する。液体の形は、液体が充填された容器により決定される。前記液体は、低いまたは高い粘性、例えば、油または濃厚な油の形態であってもよい。
【0012】
本発明の一態様において、ラサギリンの液体の塩の一部を形成する酸は、一般式 R-COOHを有し、式中のRは飽和または不飽和の分枝状または非分枝状のC2-C23アルキルである。このアルキル残基は、好ましくは2-19の炭素原子、より好ましくは5-17の炭素原子である。更なる一態様において、式中のRが飽和または不飽和の非分枝状のC2-C19アルキル、より好ましくはC5-C17アルキルである酸が好適である。
【0013】
適切な酸の例は、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルチミン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、およびアラキドン酸である。
【0014】
物理的特性に優れ化学的な安定性にも優れるラサギリンの液体の塩が、長鎖のカルボン酸、例えば、オレイン酸およびその飽和の対応物、即ち、親油性が高く水素結合が僅かな酸を用いて得られることが認められた。鎖長を5炭素原子に減少させても、なお液体の産物を生じる。他方で酢酸ラサギリンは、結晶性の固体である。プロピオン酸ラサギリンは、0°Cで固体であり、室温で油である。
【0015】
また、強いが非常に親油性である酸が用いられた、しかし、生じる塩、例えば、ラウリル硫酸ラサギリンおよびドデシルベンゼンスルホン酸ラサギリン(rasagiline dodecyl benzene sulphonate)は固体である。イオン性の液体/液体の塩の調製に頻繁に使用されるイオンであるドキュセート(docusate)を用いたときでさえ、対応するラサギリン塩は固体のワックスとして得られる。また、イオン性の液体の研究に使用される別の対イオンであるサッカリナート(saccharinate)は、固体の形態のラサギリン塩を生じる。
【0016】
薬学的製剤の製造における合成、安定性および有用性に関連する有利な特性の観点において、ヘキサン酸ラサギリン、オクタン酸ラサギリン、デカン酸ラサギリンおよびオレイン酸ラサギリンは、本発明の最も好適な液体の塩である。
【0017】
更なる一態様において、本発明は、上記のようなラサギリンの液体の塩を含む薬学的製剤を提供する。好ましくは固体の剤形、例えば、カプセル、錠剤、経口の分散性錠剤、徐放性錠剤、ペレットまたは顆粒剤、好ましくは錠剤、特に直接的な圧縮により調製可能な錠剤の形態であるこれらの薬学的製剤において、液体の塩は共通の賦形剤と混合される。例えば、液体の塩は賦形剤と混合しうるまたは粒子性の賦形剤の表面に吸着しうるまたは係る粒子に吸収しうる。従って、本発明によって、望まれない微粉化工程を必要としない、内容物の均一性が高いラサギリン製剤の調製が許容される。液体の塩によって、薬学的製剤の調製において原薬の均質な分布が提供される。これによって、例えば、僅か1 mgのラサギリンを含む200 mgの錠剤の容易な調製が許容される。
【0018】
本発明の薬学的製剤中の活性成分の量は、特に限定されない。量は、当業者の一般的な知識および特定の必要性に基づいて当業者が選択できる。例えば、薬学的製剤は、何らかのオプションでのコーティングが存在しない調製物の総重量に基づいて、遊離ラサギリンとして計算された0.2 % w/w〜20 % w/wの活性成分を含みうる。好ましくは、薬学的組成物は、何らかのオプションでのコーティングが存在しない調製物の総重量に基づいて、遊離ラサギリンとして計算された5 % w/wおよび15 % w/wの間の活性成分を含む。
【0019】
本発明の薬学的製剤は、一般的な薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含んでいてもよい。例えば、薬学的製剤が錠剤の形態である場合に、これら製剤は適切な結合剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、フレーバー剤(flavoring agents)流動増強剤(flow-enhancing agents)、および溶融剤(melting agents)を含んでもよい。例えば、錠剤またはカプセル剤の単位剤形の形態での経口投与に対し、液体の塩を、経口で非毒性の薬学的に許容される不活性な担体、例えば、ラクトース、ゼラチン、寒天、デンプン、スクロース、グルコース、メチルセルロース、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトール、微結晶性セルロースなどと混合できる。適切な結合剤には、デンプン、ゼラチン、天然の糖、例えば、グルコースまたはβラクトース、コーンスターチ、天然および合成のガム、例えば、アカシア、トラガカント、またはアルギン酸ナトリウム、ポビドン、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどが含まれる。これらの剤形に使用される潤滑剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム(sodium stearyl fumarate)、タルクなどが含まれる。崩壊剤には、限定されることなく、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウムなどが含まれる。
【0020】
好適な態様において、本発明の薬学的製剤は、遊離塩基として計算された0.2% w/w〜20% w/wのラサギリン、40% w/w 〜98% w/wの一またはそれ以上の充填剤、0% w/w〜40% w/w の一またはそれ以上の結合剤、0% w/w〜30% w/w の一またはそれ以上の崩壊剤および0% w/w〜5% w/w の一またはそれ以上の潤滑剤を含む錠剤の形態であり、これらの各々は何らかのオプションで存在するコーティングのない調製物の総重量に基づくものである。
【0021】
薬学的製剤は、特に約 5 % w/w未満の活性成分の含有量が低い直接圧縮された錠剤に関して、通常では得ることができない内容物の優れた均一性を有する。
【0022】
また、本発明は、パーキンソン病、記憶障害、痴呆、鬱病、活動亢進症候群(hyperactive syndrome)、情動性疾患(affective illness)、神経変性疾患、神経毒性障害(neurotoxic injury)、脳虚血、頭部外傷障害(head trauma injury)、脊髄性外傷障害(spinal trauma injury)、精神分裂病、注意欠陥障害、多発性硬化症、または退薬症状(withdrawal symptoms)の治療のための上記のようなラサギリンの液体の塩を含む医薬および係る医薬の製造における本液体の塩の使用を提供する。
【0023】
本発明の液体の塩は、ラサギリンおよび酸を混合することおよび塩を回収することにより調製できる。一態様において、混合する工程は溶媒の非存在下で行われ、塩形成反応後に溶媒を除去する必要がないとの利点を有し、そのうえ環境にやさしい方法が提供される。溶媒の非存在下で塩を調製するなお別の利点は、生じる塩が残留する溶媒を含まないことである。効率的な混合は、撹拌ミルを使用して補助できる。代わりに、ラサギリンおよび酸は、溶媒の存在下で混合できる。この場合において、ラサギリンまたは酸またはラサギリンおよび酸は、混合する前に同じまたは異なる溶媒中に懸濁または溶解できる。例えば、最初にラサギリンを溶媒に溶解でき、次に酸をこの溶液に添加する。適切な溶媒は、例えば、水、テトラヒドロフラン、イソプロピルアルコール、アセトン、ジイソプロピルエーテル、およびその混合物である。好適な溶媒は、ジイソプロピルエーテルおよびアセトンである。
【0024】
本発明は、限定すると解釈されることを意図するものではない以下の例によりさらに説明される。
【0025】
以下の表 1において、比較例および本発明の例が要約される:
【表1】


【0026】
比較例1: グルコン酸ラサギリン
a) 1 ml エタノール中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液に、192 μl(0.61 mmol, 1.05 eq)のグルコン酸の45-50 % w/w水溶液を添加した。僅かに濁った黄色の溶液を、5時間撹拌し、綿を通して濾過して余分なグルコン酸を除去し、蒸発させた。固体の泡(solid foam)が、形成された。
【0027】
b) 1 ml THF中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液に、170 μl(0.54 mmol, 0.95 eq)のグルコン酸の45-50% w/w水溶液を添加した。僅かに濁った黄色の溶液を2時間撹拌したところ低量の油状層(oily layer)がTHF層の下に形成された。上清のTHFを除去し、油状層をTHFで二回洗浄した。残留する油状層はワックス状となり、高減圧下で乾燥後に固体の泡が形成された。
【0028】
c) 1 mlのエタノールと水との1:1の混合物中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液に、192 μl(0.61 mmol, 1.05 eq)のグルコン酸の45-50% w/w水溶液を添加した。透明な溶液を、2時間撹拌し、蒸発させた。固体の泡が、高減圧下で乾燥させた際に形成された(211 mg, 0.58 mmol, quant.)。
【0029】
比較例2: L-アスパラギン酸ラサギリン
82 mg L-アスパラギン酸を、7 mlの水に70°Cで溶解した。2 ml イソプロパノール中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液を、この温度で添加した。透明のままの溶液を、0°Cに冷却し、この温度で1時間撹拌した。濁りが観察されなかったので、溶媒を真空中で除去した。残留する透明な油は、静置されて部分的に結晶化した。スラリーをアセトンで洗浄した後、白色で結晶性の物質が得られた(40 mg)。この物質がアスパラギン酸であることが分析により明らかとされた。
【0030】
比較例3: クエン酸ラサギリン
1 ml アセトン中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液に、1 mlの熱したアセトン中の117 mg(0.61 mmol, 1.05 eq) 無水クエン酸の溶液を添加した。溶液は、添加している間に濁り、ワックス状の沈殿物が形成された。上清を除去し、ワックスを2 ml アセトンで超音波処理を用いて二回洗浄した。高減圧下での乾燥条件において、白色で固体の泡が得られた。乾燥を高減圧下で6時間連続して行った(120 mg, 0.33 mmol, 57 %)。
【0031】
比較例 4: DL-乳酸ラサギリン
1 ml アセトン中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液に、44 μl(0.58 mmol, 1.0 eq)のDL-乳酸を添加した。白色の乳状沈殿物の形成が観察された。2時間の撹拌後、ワックス状の沈殿物がガラス壁に形成された。上清を除去し、前記ワックスを2 ml アセトンで洗浄した。高減圧下での乾燥(6時間)条件において、白色で粘着性の固体の泡が得られた(150 mg, 0.58 mmol, quant.)。
【0032】
比較例 5: サッカリナートラサギリン
1.5 ml アセトン中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液に、1.5 mlのアセトン中の106 mg(0.58 mmol, 1.0 eq)サッカリナート(saccharinate)の溶液を添加した。溶液を一晩撹拌した。真空中での溶媒の蒸発および高減圧下での乾燥により、白色で固体の泡が生じた(208 mg, 0.58 mmol, quant.)。
【0033】
比較例 6: ドキュセートラサギリン
a) 260 mg (0.58 mmol)のドキュセートナトリウム(sodium docusate)を1 ml アセトンに溶解した。40 μlの酢酸を添加した。生じた溶液を、1 ml アセトン中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリンの溶液に添加した。一晩の撹拌後、2 ml ジクロロメタンを添加し、混合物を綿を通して濾過した。濾過物を蒸発させて、固体のワックス状の物質を得た。
【0034】
b) ドキュセートナトリウムを1 M塩酸およびジクロロメタンでの水系後処理(aqueous work-up)により対応する酸に変換した。有機相を乾燥し、蒸発させた。245 mg (0.58 mmol)の生じた酸を1 ml アセトン中に溶解し、1 ml アセトン中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液に添加した。溶媒を2時間撹拌後に蒸発させて、固体の ワックス状の物質を得た(365 mg, 0.58 mmol, quant.)。
【0035】
比較例 7: ラウリル硫酸ラサギリン
167 mg (0.58 mmol, 1.0 eq)のラウリル硫酸ナトリウムを、1 mlの水および40 μlの酢酸に溶解し、1 ml アセトン中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリンの溶液を添加した。2時間撹拌後に、溶液を真空中で蒸発させた。残渣を2 mlのアセトンおよび1 mlのメタノールに再スラリー化した。混合物を綿を通して濾過し、酢酸ナトリウムを除去した。濾過物を蒸発させて、固体の泡を得た。
【0036】
比較例 8; 4-ドデシルベンゼンスルホン酸ラサギリン
202 mg (0.58 mmol, 1.0 eq)の4-ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、1 mlの水に溶解し、40 μlの酢酸を添加した。生じた溶液を、1 mlアセトン中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液に添加した。2時間撹拌後に、溶液を真空中で蒸発させた。残渣を2 mlのアセトンに再スラリー化した。混合物を綿を通して濾過し、酢酸ナトリウムを除去した。濾過物を蒸発させて、固体の泡を得た(300 mg, 0.58 mmol, quant.)。
【0037】
例 1: リノール酸ラサギリン
6 ml アセトン中の300 mg ラサギリン(1.75 mmol)の溶液に、0.54 ml(1.75 mmol, 1.0 eq)のリノール酸を添加した。2時間撹拌後に、溶媒を真空中で30°Cで蒸発させた。高減圧下で乾燥することにより、茶色がかった油が生じた(0.77 g, 1.75 mmol, quant.)。
【0038】
IR: v = 3308.9, 3009.2, 2927.2, 2854.8, 1712.2, 1615.9, 1548.5, 1459.5, 753.8 cm-1。IRは、アミンのプロトン化を示す。
【0039】
例 2: ペンタン酸ラサギリン
0.5 ml ジイソプロピルエーテル中の60 mg(0.58 mmol, 1.0 eq)ペンタン酸の溶液に、0.5 ml ジイソプロピルエーテル中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液を添加した。90分間撹拌後に、溶媒を真空中で除去した。残渣を高減圧下で5時間乾燥して濃厚な油を得た(158 mg, 0.58 mmol, quant.)。
【0040】
1H NMR (d6-DMSO, 400 MHz): δ = 7.30 (m,1 H, PhH), 7.23-7.12 (m, 3 H, PhH), 4.24 (t, J = 6.4 Hz, 1 H, N-CH), 3.37 (d, J=2.4 Hz, 2 H, N-CH2), 3.09 (t, J = 2.4 Hz, 1 H, アルキニル-H), 2.89 (m, 1 H, ring-CH), 2.72 (quint., J =15.0, 7.6 Hz, 1 H, ring-CH), 2.27 (m, 1 H, ring-CH), 2.19 (t, J = 7.4 Hz, 2 H, C(O)CH2), 1.74 (m, 1 H, ring-CH), 1.47 (m, 2 H, C(O)CH2CH2), 1.29 (m, 2 H, CH3CH2), 0.86 (t, J = 7.6 Hz, 3 H, CH3)。全体でアミン/酸=1:1の比であることが確認された。
【0041】
IR: v = 3291.5, 2957.6, 2932.9, 1712.3, 1606.7, 1552.1, 1458.4, 754.9, 661.6 cm-1。IRは、アミンのプロトン化を示す。
【0042】
例 3: プロパン酸ラサギリン
0.5 ml ジイソプロピルエーテル中の43 mg(0.58 mmol, 1.0 eq)のプロピオン酸の溶液に、0.5 ml ジイソプロピルエーテル中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液を添加した。90分間撹拌後に、溶媒を真空中で除去した。残渣を高減圧下で5時間乾燥して濃厚な油を得た(143 mg, 0.58 mmol, quant.)。
【0043】
1H NMR (d6-DMSO, 400 MHz): δ = 7.30 (m,1 H, PhH), 7.24-7.10 (m, 3 H, PhH), 4.25 (t, J = 6.4 Hz, 1 H, N-CH), 3.38 (dd, J = 2.4, 1.2 Hz, 2 H, N-CH2), 3.09 (t, J = 2.4 Hz, 1 H, アルキニル-H), 2.90 (m, 1 H, ring-CH), 2.72 (quint., J =15.0, 7.6 Hz, 1 H, ring-CH), 2.28 (m, 1 H, ring-CH), 2.19 (q, J = 7.6 Hz, 2 H, C(O)CH2), 1.74 (m,1 H, ring-CH), 0.99 (t, J = 7.6 Hz, 3 H, CH3)。全体でアミン/酸=1:1の比であることが確認された。
【0044】
IR: v = 3291.7, 2930.4, 2852.3, 1716.1, 1599.2, 1560.0, 1459.1, 754.7, 648.3 cm-1。IRは、アミンのプロトン化を示す。
【0045】
比較例 9: 酢酸ラサギリン
1.5 ml ジイソプロピルエーテル中の100 mg(0.58 mmol)ラサギリン溶液に、33 μlの酢酸を添加した。1時間撹拌後に、溶媒を真空中で除去したところ沈殿が観察された。高減圧下での2時間乾燥後に、結晶性の固体物が得られた。
【0046】
例 4: デカン酸ラサギリン
120 ml ジイソプロピルエーテル中の6.0 g(35.0 mmol)ラサギリン溶液に、6.75 ml (35.0 mmol, 1.0 eq)のデカン酸を窒素雰囲気下で添加した。90分間撹拌後に、溶媒を真空中で30°Cで除去した。回転式エバポレータでの乾燥を、この温度でさらに2時間継続した。高減圧下での2時間の乾燥によって、11.5 g(33.5 mmol, 96 %)の黄色油が得られた。
【0047】
1H NMR (d6-DMSO, 300 MHz): δ = 7.32 (m,1 H, PhH), 7.21-7.12 (m, 3 H, PhH), 4.25 (t, J = 6.3 Hz, 1 H, N-CH), 3.37 (d, J = 2.4 Hz, 2 H, N-CH2), 3.05 (t, J = 2.4 Hz, 1 H, アルキニル-H), 2.91 (m,1 H, ring-CH), 2.74 (quint., J =15.0, 7.5 Hz, 1 H, ring-CH), 2.28 (m,1 H, ring-CH), 2.17 (t, J = 7.5 Hz, 2 H, C(0)CH2), 1.76 (m, 1 H, ring-CH), 1.47 (brt, J = 6.9 Hz, 2 H, C(O)CH2CH2), 1.23 (s, 12 H, 6 x CH2), 0.85 (t, J = 6.3 Hz, 3 H, ω-CH3)。全体でアミン/酸=1:1の比であることが確認された。
【0048】
IR: v = 2925.62, 2854.60, 1713.00, 1616.02, 1548.12, 1459.44, 1401.58 cm-1。IRは、アミンのプロトン化を示す。
【0049】
HPLC(領域%): 99.81 %。
【0050】
例 5: オクタン酸ラサギリン
a) 120 ml ジイソプロピルエーテル中の6.0 g(35.0 mmol)ラサギリン溶液に、5.5 ml (35.0 mmol, 1.0 eq)のオクタン酸を窒素雰囲気下で添加した。90分間撹拌後に、溶媒を真空中で30°Cで除去した。回転式エバポレータでの乾燥を、この温度でさらに2時間継続した。高減圧下での2時間の乾燥によって、10.9 g(34.6 mmol, 99 %)の薄茶色の油が得られた。
【0051】
1H NMR (d6-DMSO, 300 MHz): δ = 7.31 (m, 1 H, PhH), 7.21-7.13 (m, 3 H, PhH), 4,25 (t, J = 6.3 Hz, 1 H, N-CH), 3.37 (d, J = 2.8 Hz, 2 H, N-CH2), 3.05 (t, J = 2.4 Hz, 1 H, アルキニル-H), 2.91 (m, 1 H, ring-CH), 2.74 (quint., J = 15.0, 7.5 Hz, 1 H, ring-CH), 2.28 (m,1 H, ring-CH), 2.17 (t, J = 7.5 Hz, 2 H, C(0)CH2), 1.76 (m, 1 H, ring-CH), 1.48 (brt, J = 6.9 Hz, 2 H, C(0)CH2CH2), 1.24 (s, 8 H, 4 x CH2), 0.85 (t, J = 6.3 Hz, 3 H, ω-CH3)。全体でアミン/酸=1:1の比であることが確認された。
【0052】
IR: v = 2954.71, 2927.69, 2855.59, 1713.63, 1607.76, 1548.75, 1459.54, 1401.97 cm-1。IRは、アミンのプロトン化を示す。
【0053】
HPLC(領域%): 99.58 %。
【0054】
b) 1.0 g (5.84 mmol)ラサギリンおよび0.93 ml(5.84 mmol, 1.0 eq)オクタン酸を、Retsch MM400ボールミルを用いて5 mlのアゲートジャー(agate jar)中で10分間アゲートボール(agate ball)で20 Hzで30分間粉砕した。オクタン酸ラサギリンを、黄色の粘稠性の油として得た。IRの分光学的データは、例5のa)で得たデータと一致した。
【0055】
例 6: ヘキサン酸ラサギリン
120 ml ジイソプロピルエーテル中の7.0 g(40.9 mmol)ラサギリン溶液に、5.1 ml (40.9 mmol, 1.0 eq)のヘキサン酸を窒素雰囲気下で添加した。90分間の撹拌後に、溶媒を真空中で30°Cで除去した。回転式エバポレータでの乾燥を、この温度でさらに2時間継続した。高減圧下での2時間の乾燥によって、11.6 g(40.3 mmol, 99 %)の薄茶色の油が得られた。
【0056】
1H NMR (d6DMSO, 300 MHz): δ = 7.31 (m, 1 H, PhH), 7.21-7.10 (m, 3 H, PhH), 4.25 (t, J = 6.3 Hz, 1 H, N-CH), 3.37 (d, J = 2.8 Hz, 2 H, N-CH2), 3.06 (t, J = 2.4 Hz, 1 H, アルキニル-H), 2.90 (m, 1 H, ring-CH), 2.74 (quint., J =15.0, 7.5 Hz, 1 H, ring-CH), 2.28 (m, 1 H, ring-CH), 2.17 (t, J = 7.5 Hz, 2 H, C(O)CH2), 1.74 (m, 1 H, ring-CH), 1.48 (quint., J =14.4, 7.2 Hz, 2 H, C(O)CH2CH2), 1.25-1.21 (m, 4 H, 2 x CH2), 0.85 (t, J = 6.6 Hz, 3 H, ω-CH3)。全体でアミン/酸=1:1の比であることが確認された。
【0057】
IR: v = 2956.13, 2931.46, 2859.22, 1714.75, 1608.88, 1551.24, 1459.09, 1401.15 cm-1。IRは、アミンのプロトン化を示す。
【0058】
HPLC(領域%): 99.63 %。
【0059】
例 7: オレイン酸ラサギリン
a) 120 ml ジイソプロピルエーテル中の4.5 g(26.3 mmol)ラサギリン溶液に、8.3 ml(26.3 mmol, 1.0 eq)のオレイン酸を窒素雰囲気下で添加した。90分間撹拌後に、溶媒を真空中で30°Cで除去した。回転式エバポレータでの乾燥を、この温度でさらに2時間継続した。高減圧下での2時間の乾燥によって、11.2 g(24.7 mmol, 94 %)の黄色油が得られた。
【0060】
1H NMR (d6-DMSO, 300 MHz): δ = 7.31(m,1 H, PhH), 7.21-7.10 (m, 3 H, PhH), 5.30 (t, J = 4.8 Hz, 2 H, オレフィン-H), 4.25 (t, J = 6.3 Hz, 1 H, N-CH), 3.37 (d, J = 2.8 Hz, 2 H, N-CH2), 3.04 (t, J = 2.4 Hz, 1 H, アルキニル-H), 2.90 (m, 1 H, ring-CH), 2.71 (quint., J =15.0, 7.5 Hz, 1 H, ring-CH), 2.26 (m, 1 H, ring-CH), 2.15 (t, J = 7.5 Hz, 2 H, C(O)CH2), 1.97 (m, 4 H, 2 x C=CHCH2), 1.76 (m, 1 H, ring-CH), 1.48 (brt, J = 7.2 Hz, 2 H, C(O)CH2CH2), 1.25-1.21 (s, 18 H, 9 x CH2), 0.84 (t, J = 6.3 Hz, 3 H, ω-CH3)。全体でアミン/酸=1:1の比であることが示される。
【0061】
IR: v = 2925.56, 2854.04, 1712.92, 1615.04, 1551.28, 1459.31, 1402.52 cm-1。IRは、アミンのプロトン化を示す。
【0062】
HPLC(領域%): 99.8%。
【0063】
b) 20 mg (0.12 mmol)ラサギリンを、ガラスバイアル中の33 mg(0.12 mmol, 1.0 eq)オレイン酸に添加した。混合物を手で5分間振盪して、均質な油を形成し、室温で1時間静置した。IRの分光学的データは、例7のa)で得たデータと一致した。
【0064】
例 8: 錠剤の調製
1 mg ラサギリン(遊離塩基として計算した)、175 mg ケイ化微結晶セルロース(Prosolv(登録商標))、25 mg クロスカルメロースナトリウム(Ac-Di-Sol(登録商標))、および0.83 mg ステアリン酸マグネシウムからなる錠剤を次のように調製した: 2 g Prosolv(登録商標)および油状のラサギリン塩を乳鉢で調製した。Prosolv(登録商標)、Ac-Di-Sal(登録商標)、およびステアリン酸マグネシウムの残量を添加し、激しく混合した。錠剤を、リバミニプレス(Riva Minipress)に3.5 kNの圧縮力で調製した。錠剤は、内容物の優れた均一性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩が23°Cで液体であることを特徴とする、ラサギリンと酸の塩。
【請求項2】
請求項1に記載の塩であって、前記酸が一般式 R-COOHを有し、式中のRは飽和または不飽和の分枝状または非分枝状のC2-C23アルキルである塩。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塩であって、式中のRは飽和または不飽和の非分枝状のC2-C19アルキルである塩。
【請求項4】
先行する請求項の何れか一項に記載の塩であって、前記酸は、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルチミン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、およびアラキドン酸からなる群から選択される塩。
【請求項5】
先行する請求項の何れか一項に記載の塩であって、ヘキサン酸ラサギリン、オクタン酸ラサギリン、デカン酸ラサギリン、およびオレイン酸ラサギリンからなる群から選択される塩。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載のラサギリンの塩を含む薬学的製剤。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか一項に記載のラサギリンの塩のパーキンソン病、記憶障害、痴呆、鬱病、活動亢進症候群、情動性疾患、神経変性疾患、神経毒性障害、脳虚血、頭部外傷障害、脊髄性外傷障害、精神分裂病、注意欠陥障害、多発性硬化症、または退薬症状を治療する医薬の製造のための使用。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか一項に記載のラサギリンの塩を調製する方法であって、ラサギリンおよび酸を混合することおよび前記塩を回収することを含む方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記ラサギリンおよび酸は、撹拌ミルを用いて混合される方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、前記ラサギリンおよび酸は、溶媒の存在下で混合される方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記溶媒は、ジイソプロピルエーテルまたはアセトンである方法。

【公表番号】特表2012−532843(P2012−532843A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518978(P2012−518978)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059723
【国際公開番号】WO2011/003938
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(509350608)ラティオファーム ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】