説明

ラジカル消去活性の高い酵母含有組成物

【課題】
アルコール発酵工程から排出される副産物を有効利用すること、および種々の疾病の原因とされる活性酸素やフリーラジカルを強力に消去できる、所謂抗酸化活性が高く、栄養的にもアミノ酸を豊富に含む、従来にないアルコール酵母含有組成物の提供。
【解決手段】
酵母含有組成物を所定分析方法により分析し、高いラジカル消去活性、高いアミノ酸含有量、および酵母菌体を多量に含むことが実証されたことにより、付加価値の高いアルコール酵母含有組成物及びその加工品の提供が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発酵アルコール製造工業から副生する、アルコール発酵残渣の有効利用に関し、当該発酵残渣から得られるラジカル消去活性の高い酵母含有組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
所謂酵母食品はビール発酵工業から得られる発酵残渣を原料としている。現在、その栄養的および体重減少効果などの機能的特徴が認められ、広く使用されている。しかるに、ラジカル消去活性の高い酵母食品は知られていない。ワインの場合、ワイン酵母にはアントシアニンなどのポリフェノールを多く吸着するものがあるので、ワインやブドウ果汁と酵母を接触させることを特徴とするポリフェノールの濃縮・回収方法およびポリフェノール高含有酵母が提案されている(特開2001‐8695)。しかし、本特許は酵母にポリフェノールを吸着させることが特徴であり、ポリフェノールが吸着した酵母が高いラジカル消去活性を有するかどうかには言及されていない。また、全ての酵母がポリフェノールを多く吸着する訳ではない。
【0003】
【特許文献1】特開2001‐8695号公報
【0004】
発酵アルコールは、サトウキビから得られる糖蜜、砂糖大根(シュガービート)から得られる廃液濃縮物、あるいはトウモロコシや甘藷の加水分解にて得られる糖類を発酵し、発酵もろみを蒸留して製造される。我々は主として、サトウキビから得られる糖蜜や柑橘系果汁残渣から得られる果汁蜜を原料に、酵母によりアルコール発酵を行っている。糖蜜や果汁蜜はポリフェノールを多く含んでおり、アルコール発酵残渣にも、その活性が残存することが考えられた。しかるに、現在までラジカル消去活性および抗酸化活性の高い酵母組成含有物の報告はない。
【0005】
我々は、アルコール発酵後に排出される発酵残渣に含まれる酵母に着目し、アルコール発酵後の貯槽底部沈殿物やアルコール発酵後の母液濃縮物(以下、「もろみ濃縮液」と称す。)を放置すると沈殿する沈殿物を乾燥し、含まれる酵母やその乾燥物の有する各々のラジカル消去活性を調べた結果、思いがけず高いラジカル消去活性を見出し、本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、アルコール発酵工程から排出される副産物を有効利用すること、および種々の疾病の原因とされる活性酸素やフリーラジカルを強力に消去できる、所謂抗酸化活性が高く、栄養的にもアミノ酸を豊富に含む、従来にないアルコール酵母含有組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決する為には、アルコール発酵後の貯槽底部沈殿物やアルコール発酵工程から排出される発酵もろみ、その濃縮物であるもろみ濃縮液、更に、前記貯槽沈殿物や発酵もろみ、及びもろみ濃縮液を放置すると沈殿する酵母菌体を含む沈殿物(以下、「マッド」と称す。)、またマッドを乾燥して得られる、乾燥マッドの活性酸素(スーパーオキシド・アニオン)消去活性を含む、フリーラジカル消去(または捕捉)活性を調べることが必須であり、これらの活性酸素消去活性、及び有機ラジカルである1、1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)消去活性を調べた。その結果、アルコール発酵残渣、即ち、アルコール発酵後の貯槽底部沈殿物や発酵もろみ、及びもろみ濃縮液を放置し沈殿する酵母含有組成物は活性酸素消去能およびDPPHラジカル消去能が極めて高いことが判明した。また、酵母含有組成物である乾燥マッドには多量のアミノ酸が含まれることも分かった。この乾燥物にはアルコール発酵で増殖した酵母菌体が多量に含まれることが分かり、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、アルコール発酵にて副生する酵母を含むラジカル消去活性の高い酵母含有組成物である。
【0009】
また本発明は、当該組成物1mgのDPPHラジカル消去活性がアスコルビン酸相当量で1mg以上であり、酵母含有組成物に含まれる酵母菌数が108cells/g以上である、酵母含有組成物である。
【0010】
アルコール発酵の発酵原料が、サトウキビから砂糖を分離した糖蜜および/または柑橘果汁窄汁残渣より回収する果汁蜜である、アルコール発酵にて副生する酵母を含むラジカル消去活性の高い酵母含有組成物である。
【0011】
また本発明は、アルコール発酵に使用する酵母がサッカロミセス・セレビシエである、アルコール発酵にて副生する酵母を含むラジカル消去活性の高い酵母含有組成物である。
【0012】
また本発明は、アルコール発酵に使用する酵母が凝集性を有するサッカロミセス・セレビシエである、アルコール発酵にて副生する酵母を含むラジカル消去活性の高い酵母含有組成物である。
【0013】
また本発明は、含まれるアミノ酸総量が1.5%(w/w)以上であることを特徴とする、アルコール発酵にて副生する酵母を含むラジカル消去活性の高い酵母含有組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来廃棄物または付加価値の低い肥料または飼料としての利用しかできなかった、アルコール発酵から得られる副産物である、酵母含有組成物は、その高いラジカル消去活性、高いアミノ酸含有量、および酵母菌体を多量に含むことにより、栄養剤や化粧品、また、付加価値の高い飼料添加物としての応用の可能性が広がった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の酵母含有組成物が有する極めて有効な特性、即ちDPPHラジカル消去活性、酵母菌数、アミノ酸総量等について実施例1から実施例3に基づき詳細に説明する。
【0016】
各実施例の説明の前に、本実施例で測定試料となるマッド等について工程時系列に説明する。まず、発酵アルコールは、通常発酵工程により糖分又は澱粉質の加水分解物がアルコールに変換することとなるが、その発酵に用いられる発酵原料はサトウキビや砂糖大根から得られる糖分含有の廃液濃縮物、トウモロコシや甘藷のような澱粉質原料から構成されている。
【0017】
前記発酵原料は、その発酵のために使用する酵母を添加する前に、澱粉原料においては洗浄、粉砕、糖化及び液化工程、調製のための水希釈等の工程を経ることとなり、一方糖質原料においても、調整加水や所定熱殺菌等の工程を経ることとなる。
【0018】
前記のとおり調製されたものに、サッカロミセス・セレビシエ(又はその酵母に凝集性を付加した凝集性酵母)等の酵母を添加しアルコール発酵を行った場合、そのアルコール発酵後の貯槽底部に酵母を含む沈殿物が堆積することとなる。また、アルコール発酵液を簡易蒸留によりエタノール分を回収する装置(以下、「もろみ濃縮装置」という。)に導入する前段階において所定の待ち貯槽を設けた場合、その貯槽底部にも酵母を含む沈殿物が堆積することとなる。
【0019】
更に、前記もろみ濃縮装置にアルコール発酵液を導入しエタノール分を回収する場合、エタノール回収成分とその他もろみ濃縮成分(所謂「もろみ濃縮液」という。)に二分することができ、そのもろみ濃縮液を所定時間放置すると沈殿物が堆積することとなる。
【0020】
我々は、このようにアルコール発酵後の各種経時段階の沈殿物(所謂「マッド」という。)を回収するとともに、マッドを化学工学的手法(マッドをボイラー蒸気の熱と間接接触により乾燥させ後、当該乾燥物を回収した後粉砕処理を施す所定方法)により乾燥したもの(所謂「乾燥マッド」という。)の有効性に着目し、以下の実施例のとおりその有効成分を確認することにより、結果として主としてマッドや乾燥マッドのような酵母含有組成物の顕著な有用性を見出すに至った。以下に、その有用性のいくつかを実施例として提示する。
【実施例1】
【0021】
実施例1として、我々は酵母含有組成物のラジカル消去活性等について以下のとおり確認した。
【0022】
ラジカル消去活性は、活性酸素を始めとするフリーラジカルを消去又は抑制する特性であり、具体的には生体の防御システムを通過した活性酸素やフリーラジカルをラジカル消去活性含有物を投与することにより消去又は捕捉し、生体における老化スピードの抑制等を図る機能を有している。
【0023】
このようなラジカル消去活性の有用性がアルコール発酵から生じる副産物に含有されているどうか確認するために、DPPHラジカル消去活性の測定法である電子スピン共鳴法により、当該活性の測定を行った。なお、ポリフェノール含有量についてもFolin-Ciocalteu法に基づく吸光光度法により測定を行った。
【0024】
電子スピン共鳴法は、フリーラジカルが含有する不対電子の電子スピン共鳴を測定する方法であり、所謂ESR 法であり、フリーラジカルの動態確認に最適な方法である。なお、本実施例では、DPPHラジカル消去活性の他、活性酸素消去能(スーパーオキシドアニオンラジカル消去能)についてもESRスピントラッピング法により測定し、その測定結果をスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性で求めた。
【0025】
次に、本実施例の測定対象としては、酵母含有組成物である乾燥マッド、マッド及びもろみ濃縮液、その他比較として発酵原料自体である糖蜜及び果汁みつを用いた。
【0026】
DPPH消去活性の具体的な試料調製及び測定方法等は、以下のとおり。
DPPH溶液はエタノールで希釈調製(24μM)するとともに、所定濃度のアスコルビン酸及びサンプル溶液は各々50%メタノールで希釈調製(サンプルである酵母含有組成物や糖蜜・果汁蜜は、各々2mg/mLに希釈調製)した。次に、前記アスコルビン酸及びサンプル溶液をそれぞれ100μL採取し、それぞれに前記DPPH100μLを混合し60秒後にESR測定装置にて測定した。
【0027】
活性酸素消去能の具体的な試料調整及び測定方法等は、以下のとおり。
乾燥マッドである粉末サンプルについては10mg/mLとなるように蒸留水で希釈し、更に蒸留水にて100倍希釈し測定試料とした。その他のサンプルについては蒸留水で100倍希釈し測定試料とした。次に、A液〔2mM ヒポキサンチン+5.5mM Diethylenetriaminepentaacetic acid(DTPA)+9.2M 5,5-Dimethyl-1-pyroline-N-oxide(DMPO)溶液(等量混合)〕0.1mL、サンプル50μL及び0.5U/mLキサンチンオキシダーゼ(XOD)溶液 50μLを混合し、60秒後にESR測定装置にて測定した。
【0028】
前記諸条件により各種測定した結果を表1に示す。なお、各サンプルの原産地及び入荷日又は生成日は表1の(注4)のとおり。
【0029】
【表1】

【0030】
表1により全体を比較すると、果汁みつを除く試料において概ね60%以上の高いDPPH消去能を示していることから、酵母含有組成物は高いラジカル消去活性を有していることが分かる。また、DPPHラジカル消去能のアスコルビン酸相当量において1mgの試料当たり1mg以上であるため、この点からも高いラジカル消去活性の特徴を裏付けることができる。更にポリフェノール濃度(没食子酸の相当換算値)についても、全酵母含有組成物について概ね40,000mg/L以上の高濃度を呈している。活性酸素消去能については、乾燥マッドで40,000unit/g前後の極めて高い消去能を有するマッドが存在し、その他濃縮液マッドやもろみ濃縮液についても3,000unit/g前後の相当高い消去能を有しており、ワインで一般的に高いと考えられる1,000unit/g程度(M.Satoら:Food Factors for Cancer Prevention, H.Ohigashi, T.Osawa et al. (Eds), Springer-Verlag Tokyo, pp. 359-364(1997))を遥かに超える数値を示している。
【0031】
このように、酵母含有組成物は非常に高いラジカル消去能及び活性酸素消去能、さらにはポリフェノール濃度を有しており、その発酵前の原料である糖蜜や果汁みつと比較しても概ね同様の有用性を有すると考えられ、アルコール発酵によりエタノール生成を行った残分としてこれまで低付加価値の利用しか想定されなかった酵母含有組成物に、高付加価値な利用を可能とする根拠を得ることができる。また、この酵母含有組成物はそもそもアルコール発酵副産物であるため、これを原料とする各種高付加価値製品は、極めて低廉なコストで製品を加工生産することが可能となる。
【実施例2】
【0032】
酵母菌数については、酵母含有組成物である乾燥マッドについて1g 当りの酵母菌数を測定した。サンプル調製、測定方法、及びは以下のとおり。
サンプル調製:乾燥マッドの1gを蒸留水で1Lにメスアップし酵母菌数測定用試料とした。
測定方法:測定方法は、Thoma氏血球計数器を用いた対角法により行った。計算方法は以下のとおり。
酵母数=測定酵母数×2倍×1万×試料希釈倍数(1000倍)
なお、乾燥マッドの原産地及び生成日については以下のとおり
1 2004年2月分タイ産+沖縄産+果汁蜜
2 2004年3月分タイ産+沖縄産+果汁蜜
3 2004年6月分タイ産+沖縄産+果汁蜜
表2に酵母数測定結果を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2より、全ての酵母含有組成物において少なくとも108cells/g以上の酵母菌数を示しており、高い菌濃度であることが判明した。この高い菌濃度より、ビール酵母の一般的な有用性、即ち栄養的及び体重減少効果などの機能的特徴を相当程度含む製品を生産することが可能となった。
【実施例3】
【0035】
アミノ酸総量については、酵母含有組成物の乾燥マッドについて高速アミノ酸分析計を用いた生体液分析法により行った。具体的な前処理試料調製は以下のとおり。
1)乾燥マッド250mgに水を25mLを加え30分攪拌する。
2)前記調整試料を7000rpm10分間で遠心分離を行う。
3)遠心分離後の上澄液を0.45μmフィルターで濾過する。
4)前記ろ過液を、高速アミノ酸分析計に50μL注入し、生体液分析法により分析を行った。
測定結果は表3のとおり。なお、各サンプルは各対象月に生成した乾燥マッドを採取し、本実施例の分析用サンプルとした。
【0036】
【表3】

【0037】
表3より、乾燥マッドのアミノ酸総量で、1.5%(w/w)以上の含有が示されており、酵母含有組成物に高濃度でアミノ酸が含有されていることが分かる。顕著な実態として、いずれに試料においてもアラニンが極めて高濃度に含有されているため、その有用性として一般的にいわれている、脂肪燃焼作用・肝機能改善作用・皮膚更新促進作用等の各種有用作用を有する高機能性産品の提供が可能となる。
【0038】
更に、γ−アミノ酪酸(所謂「GABA」)についても、概ね0.3%(w/w)程度の高い含有率があり、当該GABAは優れた生理活性があり、即ち血圧低下作用・脳代謝亢進作用・記憶促進作用・精神安定作用・成長ホルモン分泌促進作用等が期待でき、従って高付加価値な利用可能性がこの点からも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
従来酵母含有組成物は、廃棄物または付加価値の低い肥料または飼料としての利用しかできなかったが、本発明により高いラジカル消去活性、高いアミノ酸含有量、および酵母菌体を多量に含むことが実証されたため、高機能飲食料品、各種サプリメント、化粧品、及び付加価値の高い飼料添加物等として広く活用することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール発酵にて副生する酵母を含むラジカル消去活性の高い酵母含有組成物。
【請求項2】
酵母含有組成物1mgのDPPHラジカル消去活性がアスコルビン酸相当量で1mg以上であり、酵母含有組成物に含まれる酵母菌数が108cells/g以上である、請求項1の酵母含有組成物。
【請求項3】
アルコール発酵の発酵原料が、サトウキビから砂糖を分離した糖蜜および/または柑橘果汁窄汁残渣より回収する果汁蜜である、請求項1の酵母含有組成物。
【請求項4】
アルコール発酵に使用する酵母がサッカロミセス・セレビシエである請求項1の酵母含有組成物。
【請求項5】
アルコール発酵に使用する酵母が凝集性を有するサッカロミセス・セレビシエである請求項1の酵母含有組成物。
【請求項6】
含まれるアミノ酸総量が1.5%(w/w)以上であることを特徴とする、請求項1の酵母含有組成物。

【公開番号】特開2006−109768(P2006−109768A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301260(P2004−301260)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(503399805)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (2)
【Fターム(参考)】