説明

ラック歯を一体形成した部品

【課題】金属板が硬く薄い材料であっても、金属板を曲げ加工して形成される2以上の形成面のうち端に位置する形成面において、剛性を確保しながら精度良くラック歯をプレス成形する。
【解決手段】折り曲げられて形成される少なくとも2以上の形成面41〜46が所定の機能を果たす金属板製部品の端に位置する形成面41,46のうち少なくとも一方に、プレス成形によりラック歯33が直線状に一体形成されており、該ラック歯がプレス成形される形成面46における金属板の縁端51bにラック歯33に沿って平板状のフランジ部35が設けられてラック歯33が形成されていることを特徴とするラック歯を一体形成した部品31。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラック歯を一体形成した部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、福祉車両には、車椅子を載せたプラットホームを昇降・水平スライドさせることにより、乗員が車椅子に腰掛けたままで乗降することを可能とする車椅子リフトを備えているものがある。車椅子リフトは車体に連結されて昇降動作を担うリンクアームを備えており、そのリンクアームの先に設けられた支持体に対してプラットホームが水平スライドするようになっている。プラットホームは、その側面にレールが設けられており、支持体に軸支されたローラがレールに嵌ることでスライド可能に支持体に支持されている。そして、レールの下側にはラックが設けられており、支持体に設けられたモータ駆動するピニオンとのラック・アンド・ピニオンの噛合作用によってスライドさせられる。このように車椅子リフトが水平スライドする機構は、例えば、下記特許文献1に開示されている。
【0003】
従来、車椅子リフトの水平スライド機構を構成するレールは、例えば、アルミを押出成形した部品からなり、その下側に別体のラック部品が取り付けられていた。例えば、下記特許文献1では、レールの下側に下方に開放する断面コの時状の嵌合部が設けられており、その嵌合部に棒状のラック部品(ラックバー)が嵌め込まれている。嵌め込まれるラック部品は、従来、角棒状の鋼材を切削してラック歯を形成したものが一般的であるが、下記特許文献2には、コストダウンを目的とし、細長い鋼板を波型にプレス成形して片面にラック歯を形成したラック部品(ラックバー)が提案されている。下記特許文献2によれば、上型にはシャープな歯形の型を用い、下型には波形の型を用いる。そして、まず、第1のプレス工程で鋼板をある程度プレスして波形状に成形する。次いでその波形状の鋼板を上下反転させ、第2のプレス工程で再度プレスして完全に上下の型面の形状を転写して鋼板の上面にラック歯を形成する。第1のプレス工程では、後にラック歯が形成される部分が肉厚となるようになっており、その肉厚部分が第2のプレス工程によりシャープな歯形の型に流れ込むことで精度良くラック歯を形成することができる。更に、下記特許文献2には、断面L字状の鋼板のL字の一辺に対応する面にはラック歯を形成し、L字の他辺に対応する面には複数の取付孔を形成して取付フランジとしたラック部品も開示されている。下記特許文献2によれば、対向する凹凸面の断面が傾いたL字状(V字状)の金型を用い、該金型のL字状の一方の斜面をラック歯を形成するための凹凸面として、鋼板をプレスすることで鋼板をL字状に曲げるとともにラック歯を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−145237号公報
【特許文献2】特開2007−125584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ラック部品とレール部品とが別体である以上、コストダウンには限界がある。そこで、本発明者らは、鋼板をプレス加工してレール部品とラック部品とを一体形成することを想起した。そして、更に具体化して、鋼板の一端側を断面略コの字状に曲げ加工してレール部分を形成するとともに、他端側を前記コの字とは逆に折り返して下端の水平面にラック歯を形成することを試みた。しかしながら、レール部分の機能性を確保する観点から、従来の単機能のラック部品に用いられている鋼板に比べてより硬くて薄い材料を用いることが望ましい。その場合、ラック歯を形成するにあたり、従来のラック部品の成形方法をそのまま適用しても、成形時に歯形の側端末から亀裂が入るなどの不具合が生じやすく、剛性が損なわれるとともに、精度良くラック歯を形成することが難しかった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、金属板が硬く薄い材料であっても、金属板を曲げ加工して形成される2以上の形成面のうち端に位置する形成面において、剛性を確保しながら精度良くラック歯をプレス成形することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、折り曲げられて形成される少なくとも2以上の形成面が所定の機能を果たす金属板製部品の端に位置する形成面のうち少なくとも一方に、プレス成形によりラック歯が直線状に一体形成されており、該ラック歯がプレス成形される形成面における金属板の縁端に前記ラック歯に沿って平板状のフランジ部が設けられて前記ラック歯が形成されていることを特徴とするラック歯を一体形成した部品である。一実施形態として、前記平板状のフランジ部は、前記ラック歯がプレス成形される面形状に対して屈曲した配設形態とすることもできる。
【0008】
かかるラック歯を一体形成した部品によれば、ラック歯に沿って平板状のフランジ部が設けられていることにより、部品の強度・剛性を高めることができる。また、フランジ部がラック歯に沿う金属板の縁端に設けられてラック歯が形成されるため、ラック歯のプレス成形時にはラック歯の側端部とフランジ部との間で肉を融通しながら金属板の変形が許容されてラック歯の側端部における応力の集中が緩和され、薄く硬い金属板であっても亀裂を生じさせずに精度良くラック歯を形成することができるとともに、ラック歯の剛性を高めることもできる。そのため、ラック歯がプレス成形される形成面とは別の形成面がラック機能とは異なる機能を備えている部品に好適である。材質の選択においてラック歯の成形性に重点を置くことができない場合でもラック歯を精度良く形成できるためである。好ましい形態の一つに、ラック歯がプレス成形される形成面とは別の形成面がレール機能を果たすものが挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属板を折り曲げて形成される金属板製部品の端に位置する形成面にプレス成形によりラック歯を一体形成するにあたり、金属板が硬く薄くても、剛性を確保しながら精度良くラック歯をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態1に係るレール・ラック一体部品を備える福祉車両の車椅子リフタを表す全体斜視図である。
【図2】図1に示される車椅子リフタの側面図であり、該車椅子リフタのスライド機構を模式的に示す図である。
【図3】図2に示される車椅子リフタのIII−III線断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るレール・ラック一体部品の第6の形成面部分を拡大して示す斜視図である。
【図5】図4に示されるレール・ラック一体部品のV−V線断面図である。
【図6】図5に示されるレール・ラック一体部品のVI矢視図である。
【図7】本発明の実施形態1に係るレール・ラック一体部品を製造における曲げ加工作業を、材料となる鋼板を端面から見て説明する図である。
【図8】本発明の実施形態1に係るレール・ラック一体部品の製造におけるラック歯を形成するプレス成形作業の第2プレス工程で用いられる下型の斜視図である。
【図9】(A)は図8に示される下型のIXA矢視図であり、(B)は本発明の実施形態1に係るレール・ラック一体部品の製造におけるラック歯を形成するプレス成形作業の第2プレス工程で用いられる金型の断面を図8に示される下型のIXB−IXB線断面に対応して示す図である。
【図10】本発明の実施形態1に係るレール・ラック一体部品の製造におけるラック歯を形成するプレス成形作業の第2プレス工程で用いられる金型の断面を図9に示される下型のY−Y線断面に対応して示す図である。
【図11】(A),(B)は、本発明の実施形態1に係るレール・ラック一体部品を製造におけるラック歯を形成するプレス成形作業の第1プレス工程を説明する図であり、金型の断面を図9に示される下型のX−X線断面に対応して示す図である。
【図12】(A),(B)は、本発明の実施形態1に係るレール・ラック一体部品を製造におけるラック歯を形成するプレス成形作業の第2プレス工程を説明する図であり、金型の断面を図9に示される下型のX−X線断面に対応して示す図である。
【図13】(a)〜(f)は、本発明の実施形態1に係るレール・ラック一体部品の製造手順の一例を模式的に示す図であり、材料となる鋼板を端面から見て表す図である。
【図14】本発明の実施形態1の変更例1に係るレール・ラック一体部品の断面を、図3に対応させて示す図である。
【図15】本発明の実施形態1の変更例1に係るレール・ラック一体部品の断面を、図5に対応させて示す図である。
【図16】(a)〜(f)は、本発明の実施形態1の変更例1に係るレール・ラック一体部品の製造手順の一例を模式的に示す図であり、材料となる鋼板を端面から見て表す図である。
【図17】本発明の実施形態1の変更例1に係るレール・ラック一体部品の製造におけるラック歯を形成するプレス成形作業で用いられる下型の斜視図である。
【図18】本発明の実施形態1の変更例1に係るレール・ラック一体部品の製造におけるラック歯を形成するプレス成形作業で用いられる金型の断面を図17に示される下型のXVIII−XVIII線断面に対応して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態1]
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。図3に示されるように、本実施形態の部品31は、レール機能(レール部23)とラック機能(ラック部25)との二つの機能を併せ持つ部品の一例であり、以下、レール・ラック一体部品と称する。このレール・ラック一体部品31は、図1に示される福祉車両Cに設けられた車椅子リフタ11において、プラットホーム13を水平スライドさせるスライド機構21の一構成部品である。レール・ラック一体部品31の説明をする前に、車椅子リフタ11及びスライド機構21の概要を説明する。なお、図中の前後左右及び上下は、図1に示される車椅子リフタ11を備える福祉車両Cの前後左右及び上下に対応している。
【0012】
<車椅子リフタ11の概要について>
車椅子リフタ11は、図1に例示されるように、ワンボックスタイプの福祉車両Cの後部に設けられており、車椅子Kを載せたプラットホーム13が昇降し、車室内外方向、すなわち前後方向へ水平スライドすることにより、乗員が車椅子Kに着座したままで後側開口部Hを通じて乗降することを可能にしている。車椅子リフタ11では、プラットホーム13が左右一対のホルダー15、支持アーム17、回動アーム19を順に介して車室フロアFLに固定されている。プラットホーム13は、スライド機構21を介して水平スライド可能にホルダー15に支持されている。ホルダー15からは支持アーム17が起立して延びており、その先端が回動アーム19の先端に連結されている。回動アーム19の基端は車室フロアFLに対して回動可能に連結されている。回動アーム19の回動動作と支持アーム17との連結構造は、回動アーム19に内蔵される四節リンク機構(図示省略)が担っており、該四節リンク機構により回動アーム19は支持アーム17の角度を変えずに回動することが可能となっている。したがって、回動アーム19を回動させると、その先端が上下に変位し、支持アーム17、ホルダー15及びプラットホーム13は、その角度を変えることなく上下変位する。これにより、プラットホーム13は、水平状態を保ったまま昇降させられる。
【0013】
<スライド機構21について>
プラットホーム13を前後に水平スライド可能にホルダー15に支持するスライド機構21は、図2,3に示されるように、プラットホーム13の側部に設けられたレール部23とラック部25と、ホルダー15に軸支された支持ローラ27,27とピニオン29と、ピニオン29を回転させるためのモータ29m(図3参照)とを主体として構成されている。
【0014】
レール部23は、プラットホーム13の側面において外方に開放する断面略コの字状であり、図2に示されるように、スライド方向(前後方向)に沿ってプラットホーム13の略全長に亘って設けられている。支持ローラ27,27は、図3に示されるように、ホルダー15からレール部23に対して直交方向に延びる回転軸に支持されてレール部23の内側に嵌っており、レール部23に沿って転動可能な状態でプラットホーム13を支持している。すなわち、プラットホーム13は、支持ローラ27,27の転動によってスムーズに水平スライドできる状態で支持ローラ27,27に支持されている。
【0015】
ラック部25は、図2に示されるように、レール部23の下方において、スライド方向(前後方向)に沿ってプラットホーム13の略全長に亘って設けられている。ホルダー15には、ラック部25と噛合し、モータ29mの駆動により回転するピニオン29が設けられている。ピニオン29をモータ29m(図3参照)で回転させると、ラック部25とピニオン29との噛合作用によってプラットホーム13が水平スライドさせられる。
【0016】
<レール・ラック一体部品31について>
本実施形態では、上記スライド機構21に係るレール部23とラック部25とが、レール・ラック一体部品31により一部品で構成されている。レール・ラック一体部品31は、鋼板(熱間圧延鋼板SPH590、2.3t)からなる。レール・ラック一体部品31は、元になる鋼板をレール部23とラック部25の長手方向に沿って折り曲げることで形成された複数の形成面41,42,43,44,45,46を有している。本明細書では、説明の便宜上、図3に示されるレール・ラック一体部品31の断面で見て、鋼板の上側の一端から順に、第1〜第6の形成面41〜46と称する。第2の形成面42、第3の形成面43、第4の形成面44は、外方が開放するコの字状に配設されており、このコの字の上側の先端に対応する第2の形成面42の端から下方に第1の形成面41が垂れている。この第1の形成面41、第2の形成面42、第3の形成面43、第4の形成面44の4つの面によりレール部23が構成されている。そして、レール部23を構成するコの字の下側の先端に対応する第4の形成面44の端から下方に折れる垂直な第5の形成面45を介し、内方に延びる水平な第6の形成面46が配設されている。第6の形成面46の下面には、ピニオン29と噛合するラック歯33が形成されており、それによりラック部25が構成されている。
【0017】
図4〜6等に示されるように、第6の形成面46には、鋼板の端である縁端51bに平板状のフランジ部35が設けられてラック歯33が形成されている。ラック歯33は第6の形成面46において、第5の形成面45との区画に係る折り曲げ端部47からフランジ部35までの幅で、当該レール・ラック一体部品31の略全長に亘って形成されている。ラック歯33はプレス成形にて形成されており、フランジ部35は元の鋼板の平板形状のままである。フランジ部35は、ラック歯33の側方に第6の形成面46の面形状に沿って水平に延びており、ラック歯33の端からなだらかに傾斜してフランジ部35に続いている。
【0018】
レール・ラック一体部品31の製造にあたっては、大別して、第1〜第6の形成面41〜46を形成するために曲げ加工するプレス成形作業と、上下の金型に挟んで押圧することによりラック歯33を形成するプレス成形作業との二つの作業が行われる。曲げ加工には、例えば、図7に示されるように、断面V字型の凹部61aを有するダイ61に載置した鋼板51を、先端が断面V字型に窄まったパンチ63で押圧して、図中に二点差線で示されるように、鋼板51に一箇所の曲がり角を形成する所謂V曲げ加工を採用することができる。
【0019】
ラック歯33の形成作業では、図12(B)に示されるように、鋼板51を上下の金型81に挟んで押圧するプレス成形により鋼板51を波形に成形しながらその片面を目的とする歯形形状のラック歯33として形成する。その際、同時にフランジ部35も設ける。フランジ部35は、鋼板51をプレスしてラック歯33を形成するにあたり、鋼板51に対して表裏面の双方から押さえつける挟扼力を付与しないで鋼板51の平板形状を残すことで形成される。フランジ部35には挟扼力が加わっていないため、ラック歯33の側端部ではフランジ部35と肉を融通しながら変形することで亀裂を生じずにシャープな歯形が精度よく形成される。
【0020】
ラック歯33の形成作業で用いられる金型81の下型85が図8,9(A)に示されている。下型85には、ラック歯33の形成に係る凹凸形成部位87と、フランジ部35を設けるのに係るフランジ部設定用部位89とが設けられている。凹凸形成部位87は、図12(B)に示されるように、上型83と協働して鋼板51を波形に成形しながらその片面にラック歯33を形成する部位であり、鋼板51を波形に成形する凹部85aと凸部85bとが繰り返されている凹凸形状である。図8,9(A)に示されるように、フランジ部設定用部位89は、凹凸形成部位87の一側方に設けられている。フランジ部設定用部位89は、凹凸形成部位87の凸部85bが一部欠かれた形状である。フランジ部設定用部位89の凸部89bは、高さが凹凸形成部位87の凸部85bの半分程度で上面が水平な水平部89cと、該水平部89cと凹凸形成部位87の凸部85bとの間で傾斜する斜面部89dとで構成されている。フランジ部設定用部位89の凹部89aは凹凸形成部位87の凹部85aと同じ深さであり、凹凸形成部位87の凹部85aと段差無く連続している。図12(B),10等に示されるように、上型83は、細部は別にして概ね下型85を上下反転させたような凹凸の繰り返し形状であり、下型85の凹形状に対向して凸形状が配され、下型85の凸形状に対向して凹形状が配されている。上型83にも、下型85に対応する位置に、凹凸形成部位86(図12(B)参照)とフランジ部設定用部位88(図9(B),10参照)とが形成されている。上型83のフランジ部設定用部位88も、下型85と同様に、凹凸形成部位86の凸部83bが一部欠かれた形状であり、フランジ部設定用部位88の凸部88bは、高さが凹凸形成部位86の凸部83bの半分程度で下面が水平な水平部88cと、該水平部88cと凹凸形成部位86の凸部83bとの間で傾斜する斜面部88dとで構成されている。上下のフランジ部設定用部位88,89の水平部88c,89cは、下型85に鋼板51を載置して上型83を完全に閉じ合わせた場合であっても、鋼板51に対して上下方向の双方から押さえつける挟扼力の加わらない高さとなっている。
【0021】
ラック歯33の形成作業では、図9(A)に二点鎖線で示されるように、鋼板51を、その縁端51bがフランジ部設定用部位89側になるように下型85に載置してプレスする(図9(B)参照)。ここで、元になる鋼板51は、後述するように、少なくともラック歯33が形成される第6の形成面46は、他の面とは区画された形成面として折り曲げられている。その屈曲方向側の型は、凹凸形成部位の端が折り曲げ端部付近に至っており、屈曲方向とは反対側の型は、凹凸形成部位の端が折り曲げ端部47を超えて延びている。図9(A),(B)に示されるように、他の面が下方に垂れ下がるように鋼板51を下型85に載置する場合には、下型85の凹凸形成部位87の端は折り曲げ端部47付近に至っており、上型83の凹凸形成部位86の端は折り曲げ端部47を超えて延びている。プレスにより、図12(B)に示されるように、凹凸形成部位86,87により鋼板51が元の平板形状に対して上下に起伏するように変形させられて波形となる。そして、鋼板51の凹凸形成部位86,87に対応する部分における該鋼板51の縁端51b側の端53c(図9(A)参照)では、すなわちラック歯33の側端部になる部分)では、上下の斜面部88d,89dにより挟扼力を付与することなく上側または下側から押圧することで、波形の振幅を収束させて、その先の上下のフランジ部設定用部位88,89の間で確実に平板状のフランジ部35を設けることができる(図9(B),10参照)。
【0022】
ラック歯33をプレス成形する際は、複数回のプレスにより、鋼板51を緩やかな波形形状から最終目的のシャープな歯形形状に段階的に変形させるのが好ましい。図11,12には、鋼板51を段階的に変形させてラック歯33を形成する工程の一例が示されており、図中における鋼板51の上面にラック歯33が形成される過程が示されている。このラック歯33を形成する工程は、異なる2セットの金型71(図11),81(図12)を用いる第1プレス工程と第2プレス工程との二段階のプレス作業工程を経てラック歯33が形成される。第1プレス工程では鋼板51を比較的起伏の緩やかな波形に変形させ、第2プレス工程では第1プレス工程で形成された波形の凹凸を増幅しながら片面を比較的シャープな歯形に変形させる。なお、既に構成の概略を説明した上記金型81は、第2プレス工程で用いられる金型81であるが、第1プレス工程で用いられる金型71も、凹凸形成部位とフランジ部設定用部位とを備える点は同様である。
【0023】
図12に示されるように、第2プレス工程で用いられる金型81の凹凸形成部位86,87は、上型83は、目的とするラック歯33の形状に対応する凹凸の繰り返し形状であり、凸部83bは曲線的な頂点を有し、凹部83aはラック歯33の頂点に対応する平面的な底部を有する。図11に示されるように、第1プレス工程に用いられる金型71の凹凸形成部位76,77は、上下とも曲線的に凹凸する波形であり、波形の頂点の間隔は第2プレス工程で用いられる金型81と一致しているが、凹凸の緩急は異なっている。第1プレス工程に用いられる上型73は、凸部73bは第2プレス工程に用いられる上型83の凸部83bに比べて鋭い山形であり、それと引き換えに凹部73aは第2プレス工程に用いられる上型83の凹部83aに比べて幅広で緩やかに湾曲している。第1プレス工程で用いられる下型75の凸部75bは、対向する上型73の凹部73aの凹み形状の緩やかな湾曲具合に比べると、その湾曲具合は鋭いが、第2プレス工程で用いられる下型85の凸部85bに比べて緩やかな山形であり、それと引き換えに凹部75aは第2プレス工程で用いられる下型85の凹部85aに比べて鋭い谷形となっている。
【0024】
第1プレス工程では、まず、図11(A)に示されるように、下型75に元になる鋼板51を載置し、上型73を降下させて鋼板51を押圧する。それにより、上型73と下型75との間で鋼板51は徐々に波形に変形させる。ここで、下型75の凸部75bの山形の湾曲形状に対し、対向する凹部75aの湾曲形状が緩やかで幅広であるため、図11(B)に示されるように、最終的にラック歯33が形成される鋼板51の凸状部分51aは、他の部分に比べて肉厚になる。第1プレス工程では、鋼板51に肉厚な凸状部分51aを形成しながら、亀裂などの損傷が生じない範囲である程度の波形を付与すればよく、上型73と下型75の型形状が鋼板51に完全に転写されるまで押圧することを要しない。
【0025】
第2プレス工程では、図12(A)に示されるように、第1プレス工程で得られた波形の鋼板51の波形状の凹凸と下型85の波形状の凹凸の位置を合致させた状態で鋼板51を下型85に載置し、上型83を降下させて波形の鋼板51を押圧する。第2プレス工程では、上型83と下型85の型形状が鋼板51に転写されるまで押圧する(図12(B)参照)。波形の鋼板51の肉厚な凸状部分51aは、よりシャープな上型83の凹部83aと下型85の凸部85bに挟まれて、肉が上方へ逃げながら変形を許容することで凹部83aを満たし、高さのあるラック歯33を精度良く形成することができる。
【0026】
上記曲げ加工作業と上記ラック歯33を形成するプレス成形作業とによりレール・ラック一体部品31を製造するにあたり、ラック歯33がプレス成形されるのに先立ち、元になる鋼板51が折り曲げられて少なくともラック歯33が形成される第6の形成面46が他の面とは区画された形成面として形成される。つまり、折り曲げにより他の面とは異なる面として形成された第6の形成面46に対してラック歯33が形成される。
【0027】
上記曲げ加工作業と上記ラック歯33を形成するプレス成形作業とによってレール・ラック一体部品31を製造する手順は必ずしも限定されるものではないが、好ましい製造手順の一例として図13に模式的に示される手順がある。図中には、その工程における曲げ加工の位置と曲げ方向に対応してパンチ63を模式的に示している。
【0028】
<第1の工程>
第1の工程では、図13(a)において、パンチ63(1)で示されるように、材料となる鋼板51を折り曲げて後にラック歯33が形成される第6の形成面46を他の面とは区画する。すなわち、後に第6の形成面46と第5の形成面45との境界となる位置を曲げ加工する。それとともに、パンチ63(2)で示されるように、後に第4の形成面44と第5の形成面45の境界となる位置を曲げ加工する。それにより、クランク状に曲げられた鋼板51の一端に第6の形成面46が位置するようになるため、次の第2の工程でラック歯33を形成する際に作業がしやすくなる。
【0029】
<第2の工程>
第2の工程では、図13(b)に示されるように、上記ラック歯33を形成するプレス作業により第6の形成面46にラック歯33を形成する。このとき、鋼板51の縁端51bに挟扼力を作用させない部分を残すことで、フランジ部35を設けながらラック歯33を形成する。
【0030】
<第3の工程>
第3の工程では、図13(c)において、パンチ63(3)で示されるように、ラック歯33が形成された第6の形成面46とは反対の端になる第1の形成面41と第2の形成面42との境界となる位置を曲げ加工して、第1の形成面41を区画する。
【0031】
<第4の工程>
第4の工程では、図13(d)において、パンチ63(4)で示されるように、第2の形成面42と第3の形成面43との境界となる位置を曲げ加工して、第2の形成面42を区画する。これにより、最終的にレール部23を構成する略コの字状の部位23aが形成される。
【0032】
<第5の工程>
第5の工程では、図13(e)において、パンチ63(5)で示されるように、第3の形成面43と第4の形成面44との境界となる位置を曲げ加工する。これにより、図13(f)に示されるように、レール部23とラック部25とが上下に並んで配置されてレール・ラック一体部品31が成形される。
【0033】
以上の構成のレール・ラック一体部品31によれば、以下の作用効果がある。
まず、レール部23とラック部25との全く異なる機能を併せ持っており、部品点数を減らすことができる。そのうえ、一枚の鋼板をプレス加工するため、比較的低コストで製造することができる。ここで、ラック歯33をプレス成形するにあたり、ラック歯33に沿う鋼板の縁端をプレスせず、平板状のフランジ部35を設けることで、比較的薄くて硬い鋼板を材料とする場合であっても、ラック歯33の側端部から亀裂が入るのを防ぎながら精度良くラック歯33を形成することができるとともに、フランジ部35によりラック歯33を補強することができる。かかるレール・ラック一体部品31によれば、比較的薄くて硬い鋼板を材料として選択することにより、レール部23の機能性と成形性とを確保しながら、精度良くラック歯33を形成することができ、プレス加工によるレール部23とラック部25の一体成形が可能となっている。また、ラック歯33の側端部が変形し易くなっており、変形に抗する力が小さいため金型の耐久性を向上させることもできる。
【0034】
<変更例1>
図14〜18を参照しながら変更例1について説明する。変更例1は、上記実施形態1において一部のみを変更した実施の形態である。上記実施形態1から変更を要しない部分については、図中に同じ符号で示し、詳細な説明は省略する。
【0035】
図14,15に示されるように、本実施形態のレール・ラック一体部品91は、第6の形成面46に設けられるフランジ部93の配設形態が上記実施形態1とは異なっている。フランジ部93は、元の鋼板の平板形状のままである点では上記実施形態1と同様であるが、第6の形成面46のラック歯33が形成される面形状に対して屈曲している。フランジ部93は、第6の形成面46においてラック歯33が形成される下面側に略直角に屈曲している。
【0036】
このようなレール・ラック一体部品91を形成する好ましい製造手順の一例として図16に模式的に示される手順がある。まず、図16(a)に示される第1の工程では、パンチ63(1)、パンチ63(0)で模式的に示されるように、材料となる鋼板51を折り曲げて、後にラック歯33が形成される第6の形成面46を他の面とは区画するとともに、他の面との境界となる第6の形成面46の折り曲げ端とは反対の端である鋼板51の縁端51bを屈曲させてフランジ部93を形成する。また、パンチ63(2)で示されるように、後に第4の形成面44と第5の形成面45の境界となる位置も曲げ加工する。次に、図16(b)に示される第2の工程で、第6の形成面46をプレスし、鋼板51を波形に成形しながらその片面にラック歯33を形成する。ここで好適に用いられる金型の下型105は、図17に示されるように、凹部105aと凸部105bとが長手方向に繰り返されている凹凸形状であり、その凹凸形状は全幅に亘って形成されている。上型103は、概ね下型105を上下反転させたような凹凸の繰り返し形状であって、目的とする歯形に対応する凹凸形状である。下型105の凹部105aに対向して上型103の凸部103bが配され、下型105の凸形状に対向して上型103の凹形状が配される。図18に示されるように、下型105と上型103とは幅方向位置はずれて配される。下型105は、第6の形成面46と他の面とを区画する折り曲げ端部47からフランジ部93を超えて延びる。上型103は、フランジ部93から折り曲げ端部47を超えて延びる。ラック歯33のプレス成形に次いで、上記実施形態1と同様に図16(c)〜(e)に示される第3〜5の工程を経て、図16(f)に示されるレール・ラック一体部品91を成形することができる。
【符号の説明】
【0037】
11 車椅子リフタ
21 スライド機構
23 レール部
25 ラック部
27,27 支持ローラ
29 ピニオン
29m モータ
31 レール・ラック一体部品
33 ラック歯
35 フランジ部
41,42,43,44,45,46 形成面
51 鋼板
51b (鋼板の)縁端
91 レール・ラック一体部品
93 フランジ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り曲げられて形成される少なくとも2以上の形成面が所定の機能を果たす金属板製部品の端に位置する形成面のうち少なくとも一方にプレス成形によりラック歯が直線状に一体形成されており、該ラック歯がプレス成形される形成面における金属板の縁端に前記ラック歯に沿って平板状のフランジ部が設けられて前記ラック歯が形成されていることを特徴とするラック歯を一体形成した部品。
【請求項2】
請求項1に記載のラック歯を一体形成した部品であって、
前記平板状のフランジ部は、前記ラック歯がプレス成形される面形状に対して屈曲した配設形態となっていることを特徴とするラック歯を一体形成した形成部品。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のラック歯を一体形成した部品であって、
前記ラック歯がプレス成形される形成面とは別の形成面がレール機能を果たすことを特徴とするラック歯を一体形成した部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−78788(P2013−78788A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220769(P2011−220769)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(503225593)株式会社緑技研 (2)
【Fターム(参考)】