説明

ラム波型共振子および発振器

【課題】ラム波デバイスの高周波特性を量産においても高い歩留まりで実現するために、製造ばらつきの影響を最小にする設計・製造の最適化を提供する。
【解決手段】圧電基板の一方の主面に設けられる複数の電極指を間挿してなるIDT電極と、前記IDT電極のラム波の伝播方向両側に配設される一対の反射器と、を備えるラム波型共振子であって、前記圧電基板の厚さtが、励振させる前記ラム波の波長をλとすると、0<t/λ≦3であらわされる範囲にあり、前記IDT電極の前記電極指の幅をWとしたときの、W/(λ/2)=ηで表されるメタライゼーションレシオηの基準値η0と、前記IDT電極の電極膜厚Hを前記波長λにより規格化したH/λの関係が以下を満たす。
η0=−70.0000(H/λ)2+4.6000(H/λ)+0.3254

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラム波を用いたラム波型共振子と、このラム波型共振子を備える発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
ラム波とは、伝播させる波の数波長以下に基板厚みを薄くすることで、基板内部を伝播するバルク波が基板の上下面での反射を繰り返し伝播する板波である。基板表面から深さ1波長以内にエネルギーの90%を有するレイリー波、漏洩弾性表面波、擬似縦波型漏洩弾性表面波の表面波とは異なり、ラム波は基板内部を伝播するバルク波であるためエネルギーは基板全体に分布している。
【0003】
非特許文献1によると、板波とレイリー波は学術的にも区別されており、非特許文献2にはレイリー波、漏洩弾性表面波の解析方法、非特許文献3にはラム波の解析方法が示されている。大きな違いは8次方程式の解の選択方法が各々の波で異なり、レイリー波とラム波は全く別の波であって性質が異なる。従って、ラム波はレイリー波と同様の設計条件では良好な特性が得られないため、ラム波を対象とした設計方法が必要である。
【0004】
また、ラム波の特徴として特許文献1に示される分散曲線のように、ラム波の伝播可能なモードは、基板厚み方向の波数が共振条件を満たすモードであり、ラム波には高次も含め多数のモードが存在する。存在するモードの位相速度はレイリー波以上であり、「縦波」以上の位相速度をもったモードも多数存在しているため、位相速度が大きいモードほど上記の表面波と同じ線幅でも容易に高周波化が可能となる。また、厚さが5波長以下のATカット水晶基板を用いることにより温度特性が優れ、高周波化に適したラム波を利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−258596号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】超音波便覧、超音波便覧編集委員会編集、丸善株式会社出版。1999年発行 第62頁〜第71頁。
【非特許文献2】弾性波素子技術ハンドブック、学振150委編集、オーム社出版。1991年発行 第148頁〜第158頁。
【非特許文献3】中川恭彦、重田光善、柴田和匡、垣尾省司著、ラム波型弾性波素子用基板の温度特性、電子情報通信学会論文誌 C NO.1 第34頁〜第39頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、特許文献1によるラム波デバイスは高周波帯に対応したデバイスとして好適な特性を示し、バルク波を用いた共振子や表面弾性波による共振器では実現が困難な高周波での動作が可能となり、且つ素子の小型化も可能とするものであった。しかし、ラム波デバイスの量産に関わる、特に製造ばらつきに関しての知見も無く、低い歩留まりでの量産しか望めないものであった。
【0008】
そこで、ラム波デバイスの高周波特性を量産においても高い歩留まりで実現するために、製造ばらつきの影響を最小にする設計・製造の最適化を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも上述の課題の一つを解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0010】
〔適用例1〕本適用例のラム波型共振子は、圧電基板の一方の主面に設けられる複数の電極指を間挿してなるIDT電極と、前記IDT電極のラム波の伝播方向両側に配設される一対の反射器と、を備えるラム波型共振子であって、前記圧電基板の厚さtが、励振させる前記ラム波の波長をλとすると、0<t/λ≦3であらわされる範囲にあり、前記IDT電極の前記電極指の幅をWとしたときの、W/(λ/2)=ηで表されるメタライゼーションレシオηと、前記IDT電極の電極膜厚Hを前記波長λにより規格化したH/λの関係が、η0を基準値として、η1≦η≦η2、η1<η0<η2を満たし、以下を満たすことを特徴とする。
η0=−70.0000(H/λ)2+4.6000(H/λ)+0.3254
η1=0.05
η2=−6833.3333(H/λ)3+363.0000(H/λ)2
−6.9567(H/λ)+0.5155
【0011】
複数の振動モードが密集して存在するラム波型共振子では、モード結合が発生し易く、所望の振動モードが得られず、位相速度も変動し易いものとなってしまう。しかし、上述の適用例によれば、モード結合を起こし易い範囲を回避し、所望の振動モードを得ることができる。更に、上述の範囲におけるηとH/λとの組み合わせによって、電極膜厚のばらつきに対して、周波数シフトの最も低いラム波型共振子を得ることができる。
【0012】
〔適用例2〕上述の適用例において、前記メタライゼーションレシオηと、前記IDT電極の前記電極膜厚Hを前記波長λにより規格化したH/λの関係が、以下を満たすことを特徴とする。
0.1≦η≦0.576 である時、H/λ=0.04
【0013】
上述の適用例によれば、圧電基板の厚みのばらつきに対して、最も周波数シフトの小さいラム波型共振子を得ることができる。
【0014】
〔適用例3〕上述の適用例において、前記圧電基板が、オイラー角(φ、θ、ψ)が、
φ=0°
35°≦θ≦47.2°
−5°<ψ<5°
で表され、且つ、前記圧電基板の厚さtと前記波長λとの関係が、0.176≦t/λ≦1.925を満たす水晶基板であることを特徴とする。
【0015】
上述の適用例によれば、ラム波型共振子の周波数温度特性、周波数帯域、励振の安定性は、水晶基板の切り出し角度と弾性波の伝播方向によって律せられる。つまり、オイラー角(0、θ、0)における角度θと、基板厚みtと波長λとの関係で表される規格化基板厚みt/λにて律せられる。
【0016】
それぞれを上述したような関係式とすることで、前述した従来技術のSTWカット水晶、STカット水晶に比べ優れた周波数温度特性と、高周波帯域への対応が可能となり、また、水晶基板の励振の効率を表す電気機械結合係数(K2)を高めることができるので、励振し易く、安定した周波数温度特性をもつラム波型共振子を提供することができる。
【0017】
〔適用例4〕上述の適用例のラム波共振子と、前記ラム波共振子を励振するための発振回路とを備えていることを特徴とする発振器。
【0018】
上述の適用例によれば、圧電基板として水晶基板を用いると共に、上述した最適電極設計条件上とするラム波型共振子を用いることで振動漏れを抑圧して高Q値、低CI値、及び周波数温度特性に優れた発振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態のラム波型共振子の概略構造を示す斜視図。
【図2】図1のA−A切断面を示す断面図。
【図3】実施形態の水晶基板の切り出し方位を示す説明図。
【図4】規格化基板厚さt/λと位相速度との関係を示すグラフ。
【図5】規格化電極膜厚H/λに対するメタライゼーションレシオηと周波数偏差との関係を示すグラフ。
【図6】図5のグラフより得られる、周波数偏差の少ない規格化電極膜厚H/λとメタライゼーションレシオηの関係を示すグラフ。
【図7】規格化電極膜厚H/λに対するメタライゼーションレシオηと基板厚みのばらつきによる周波数シフトとの関係を示すグラフ。
【図8】周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係を示すグラフ。
【図9】周波数温度変動量と規格化基板厚みt/λとの関係を示すグラフ。
【図10】オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度との関係を示すグラフ。
【図11】規格化基板厚みt/λと位相速度との関係を示すグラフ。
【図12】オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図13】オイラー角(0、θ、0)における角度θと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図14】規格化基板厚みt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図15】規格化基板厚みt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図16】図1に示すラム波型共振子を上方から見た平面図。
【図17】共振周波数近傍のアドミッタンス円線図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
【0021】
(実施形態)
図1、図2には本発明に係る実施形態のラム波型高周波共振子が示されている。図1は、概略構造を示す斜視図、図2は、図1のA−A切断面を示す断面図である。図1、図2において、このラム波型共振子1は、水晶基板10と、水晶基板10の一方の主面に形成される櫛歯形状のIDT電極20から構成されている。
【0022】
水晶基板10は、表面の切り出し角及びラム波の伝播方向が、オイラー角(0、θ、0)で表される範囲になるように設定されている。この水晶基板10の厚みtは、伝播されるラム波の波長をλとしたときに、規格化基板厚みt/λは、0<t/λ≦3で表される範囲に設定されている。
【0023】
櫛歯形状のIDT電極20は、アルミニウム電極からなり、水晶基板10の表面に、水晶基板のX軸方向に反射器25、入力IDT電極21とGND(グランド)IDT電極22、反射器26の順で形成、構成されている。
【0024】
入力IDT電極21とGNDIDT電極22とは、相互に電極指が間挿するように形成されている。入力IDT電極21を例示して説明すると、電極指21aと電極指21bとのピッチはλで設定される。反射器25,26の電極指も同様な関係で設定されている。
【0025】
入力IDT電極21に所定の周波数で入力される駆動信号によって、水晶基板10に弾性波が励振されるが、この励振された弾性波は、水晶基板10のX軸方向に向かって、水晶基板10の表裏の面内を反射しながら伝播していく。このように伝播される弾性波をラム波と呼称している。そして、反射器25,26によって反射される。したがって、入力IDT電極21の外端の電極指(図中、左端)と反射器25との距離、及び入力IDT電極21の外端の電極指(図中、右端)との間隔は、(1/2)nλ(nは整数)に設定され、反射波が、所定の周波数で、駆動信号と位相が一致するように設定されている。
【0026】
図3には、水晶基板10の切り出し方位が示されている。水晶基板10は、電気軸と呼ばれるX軸、機械軸と呼ばれるY軸、光学軸と呼ばれるZ軸の面で構成される薄板であるが、本実施形態における水晶基板10の切り出し方位は、厚み方向のZ軸をZ’まで角度θだけ回転させた回転Yカット水晶であり、図中、長手方向がX軸、幅方向がY’、厚み方向がZ’となるように切り出されている。
【0027】
図4は、圧電基板に水晶基板を用いたときの規格化基板厚みt/λと位相速度との関係の一部を示すグラフである。図4において、横軸にはt/λ、縦軸には位相速度(m/s)が示されている。図4によれば、このラム波型高周波共振子には、複数のモードが存在していることが示され、規格化基板厚みt/λが大きくなるに従い、各モードは密集する傾向があり、5000m/s上の範囲に密集している。
【0028】
このようにモードが密集している場合には、モード結合が起こりやすく、所望のモードが得られない、または位相速度が変動しやすい、ことが考えられる。そこで、t/λ≦3に設定することで、モード結合のしやすい範囲を回避することができる。
【0029】
また、このグラフによれば、t/λが小さいほど位相速度が高まる傾向が示され、t/λ≦3においては、位相速度が6000m/s以上のモードが多数存在している。位相速度は周波数と波長の積によって表されるため、このラム波型高周波共振子が高周波に対応可能であることを示している。
【0030】
図5は、水晶基板10にIDT電極20を備えるラム波型共振子1における電極膜厚H(図2参照)のばらつきによる周波数シフト(ppm)を示すグラフである。図5に示されるデータは、本実施形態において規格化された電極膜厚H/λが、0.01≦H/λ≦0.05の範囲で設定され、設定されたH/λに対応し、電極膜厚Hのずれ、すなわちばらつき10nmあたりの周波数シフト量(ppm)とメタライゼーションレシオηとの関係を示している。
【0031】
ここで、メタライゼーションレシオηについて説明する。メタライゼーションレシオηとは、図2に示すラム波型共振子におけるIDT電極指の幅Wと、ラム波波長λにより定義される値であり、以下のように示される。
η=W/(λ/2)
【0032】
図5に示すように、メタライゼーションレシオηと電極膜厚ずれ10nmあたりの周波数シフトは、η=0.2近傍において曲線の頂点部を持ち、変化量が少ない値を持つ。しかし、H/λ=0.05では周波数シフトの偏差も大きく、電極膜厚のずれに対して周波数シフトの少ない共振子は得られないことが分かった。この結果から、H/λ=0.01〜0.04の各々のH/λに対する各曲線の頂点(最大値部)のデータからメタライゼーションレシオη0(中心値)の関係を近似式にて示すと以下のようになる。
【0033】
【数1】

【0034】
さらに上述の、図5における電極膜厚のばらつきによる周波数シフトの最も変化量の少ない点から得られたメタライゼーションレシオの中心値のη0に対して、周波数シフトの±5ppm/10nmの範囲であれば発振器市場における要求仕様を十分に満たすことができるので、このことからηの下限η1及び上限η2を求める。
【0035】
下限値η1は、図5からもη=0であっても、周波数シフトの許容範囲である±5ppm/10nmの値の範囲にあることを示す。しかし、上述の通りη=W/(λ/2)で表されることからη=0は電極指幅W=0となり、存在し得ない共振子である。よって、製造可能な範囲として、下限値η1はη1=0.05以上が好ましい。
【0036】
次に上限値η2は上述の中心値η0同様に近似式にて示され、以下の値となる。
【0037】
【数2】

【0038】
上述の近似式より求められるη0、η1、η2の結果を図6に示す。この図6によって、電極膜厚Hのばらつきに対しても周波シフトが少ないラム波型共振子を容易に得ることができる。
【0039】
図7は、水晶基板10にIDT電極20を備えるラム波型共振子1における水晶基板10の厚みばらつきによる周波数シフトを示すグラフである。縦軸を基板厚みばらつき0.01μmあたりの周波数シフト量(ppm)、横軸をメタライゼーションレシオηとしている。この図から、H/λのどの水準においても、AT振動子の周波数シフト量(125ppm/0.01μm)と比較しても十分に小さいことが分かった。中でも、H/λ=0.04およびH/λ=0.05の場合が周波数シフトの小さい値を示し、メタライゼーションシフトηの値が0.1≦η≦0.576の範囲のときはH/λ=0.04、0.576<η<0.9の範囲ではH/λ=0.05が基板板厚のばらつきに対して最も周波数シフトが小さい、すなわち周波数変化の感度が最も低い共振子を得ることができる。ここで、η=0.576は図7においてH/λ=0.04の曲線とH/λ=0.05の曲線が交差する点のηの値である。
【0040】
しかし、上述の通りH/λ=0.05の場合には、電極膜厚のずれ(ばらつき)に対して周波数シフトの変化が要求品質を満たすものではないため、基板10の厚みばらつきに対して周波数シフトが少ない条件はH/λ=0.04がより好ましい。
【0041】
続いて、前述したラム波型共振子1(図1,2、参照)における位相速度と規格化基板厚みt/λ及びオイラー角(0、θ、0)における角度θそれぞれに対する周波数温度偏差(周波数温度変動量)、位相速度、電気機械結合係数K2の関係についてシミュレーションにより算出した結果について図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、水晶基板10のカット角を、φ=0°、ψ=±5°としている。
【0042】
図8は、周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係を示すグラフである。図8において、本実施形態の水晶基板10を用いたラム波型共振子1のSTWカット水晶よりも周波数温度特性がよい角度θの範囲は35°≦θ≦47.2°であることを示している。
【0043】
なお、水晶基板10の角度θは、36°≦θ≦45°にすることがより望ましい。この角度θの領域では、周波数温度変動量がほぼフラットとなりSTカット水晶よりも周波数温度特性が優れる。
【0044】
図9は、周波数温度変動量と規格化基板厚みt/λとの関係を示すグラフである。図9に示すように、規格化基板厚みt/λが、0.176≦t/λ≦1.925の範囲において、STWカット水晶及びSTカット水晶よりも優れた周波数温度特性を有する。
【0045】
次に、角度θ及び規格化基板厚みt/λと位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2相互の関係について詳しく説明する。図10は、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度との関係を示すグラフである。ここで、規格化基板厚みt/λを0.2〜2.0まで6段階に設定し、それぞれのt/λにおける位相速度を示す。
【0046】
図10に示すように、規格化基板厚みt/λ=2.0の場合を除いた全ての場合において、角度θが30°〜50°の範囲で、5000m/s以上の位相速度を得ることができる。
【0047】
図11は、規格化基板厚みt/λと位相速度との関係を示すグラフである。オイラー角(0、θ、0)における角度θを30°〜50°まで5段階に設定し、それぞれの角度θにおける位相速度を示している。
【0048】
図11に示すように、各角度θにおいて位相速度のばらつきは小さく、規格化基板厚みt/λが0.2〜2の大部分の範囲で5000m/s以上の位相速度を得ることができる。
【0049】
次に、オイラー角(0、θ、0)の角度θ、規格化基板厚みt/λと、位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2の相互の関係について説明する。図12は、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフである。なお、規格化基板厚みt/λを1.7としている。
【0050】
図12に示すように、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいθの範囲は、35°≦θ≦47.2°であり(図9も参照する)、この範囲において位相速度5000m/s以上が得られることを示している。
【0051】
図13は、オイラー角(0、θ、0)における角度θと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフである。図13に示すように、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいオイラー角(0、θ、0)における角度θの範囲は、35°≦θ≦47.2°である。
【0052】
この範囲において電気機械結合係数K2は、基準としている0.02を大きく上回っている。角度θの範囲が32.5°≦θ≦47.2°の場合は、電気機械結合係数K2が0.03以上となり、角度θの範囲が34.2°≦θ≦47.2°の場合は、電気機械結合係数K2が0.04以上となり、さらに、角度θの範囲が36°≦θ≦47.2°の場合は、電気機械結合係数K2が0.05以上となる。
【0053】
図14は、規格化基板厚みt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフである。図14に示すように、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり、この範囲において位相速度は大部分の範囲で5000m/s以上が得られる。この規格化基板厚みt/λの範囲では、規格化基板厚みt/λが小さいほど位相速度が速くなり、高周波帯域が得られる。つまり、規格化基板厚みt/λを調整すれば位相速度を調整することが可能である。
【0054】
図15は、規格化基板厚みt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフである。図15に示すように、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さい規格化基板厚みt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり、この範囲において電気機械結合係数K2は大部分の範囲で0.02以上が得られる。この規格化基板厚みt/λが1に近い範囲では、電気機械結合係数K2が0.05以上の高い領域が得られる。
【0055】
なお、本実施形態では、圧電基板として水晶基板10を用いた場合を例示して説明したが、水晶以外の圧電材料を基板として用いることが可能である。例えば、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイト、ニオブ酸カリウムを採用できる。また、酸化亜鉛、窒化アルミ、五酸化タンタル等の圧電性薄膜、硫化カドミウム、硫化亜鉛、ガリウム砒素、インジウムアンチモン等の圧電半導体にも応用可能である。
【0056】
しかしながら水晶基板と他の圧電基板とは共振特性、特に温度特性に大きな差がでることから、圧電基板として水晶基板を用いることにより、温度に対する周波数の変化量を小さく抑えることができ、良好な周波数温度特性を得ることができる。このように、圧電基板に水晶基板を用い、前述した最適電極設計条件とすることで周波数温度特性に優れ、高Q値、低CI値のラム波型共振子を提供することができる。
【0057】
(発振器)
続いて、発振器について説明する。発振器は、前述したラム波型共振子と、このラム波型共振子を励振するための発振回路(図示せず)を含んで構成される。ラム波型共振ことしては、上述のカット角のばらつきに対して周波数シフトの少ないラム波型共振子が使用される。
【0058】
図16はIDT電極20の構成について説明する図であり、図1に示すラム波型共振子を上方から視認した平面図である。本実施形態にて提案する最適電極設計パラメータについて、バスバー電極21d,22cの幅をWb、電極指21a,21b,21cとバスバー電極22cとの距離、及び電極指22a,22bとバスバー電極21dとの距離をWg、電極指21a,21b,21cと電極指22a,22bとが間挿されたときに互いに交差する電極指の交差幅をWiと表している。なお、水晶基板10のY方向の中心位置を中心線Pで表している。IDT電極20及び反射器25,26は、この中心線P上に形成される。
【0059】
このように形成された電極において、互いに交差する電極指の交差幅Wiは、20λ〜50λである。このような最適電極設計条件にした場合のラム波型共振子は高いQ値、低いCI値を実現できる。しかしながら、発振器に用いる場合、発振回路と組み合わせたときの発振条件を満たさなければ発振器に適用できない。
【0060】
ラム波型共振子を発振させるには、ラム波型共振子で決まる共振周波数近傍で誘導性になっていなければ発振しない。共振周波数近傍で誘導性とするには、電極指が間挿されたときに互いに交差する交差幅Wiが影響する。
【0061】
図17は、共振周波数近傍のアドミッタンス円線図の測定結果を示している。図17において、Wiが15λ以下の場合は、アドミッタンスBがB>0となり容量性であるために発振できない。
【0062】
また、Wiが20λ以上であればアドミッタンスがB<0となり誘導性であるために、ラム波型共振子と発振回路とを組んだときに発振させることが可能になる。
【0063】
従って、上記から電極指が間挿されたときに互いに交差する交差幅Wiが20λ以上であるラム波型共振子を用いることにより、良好な発振特性を有する発振器を実現できる。
【0064】
なお、以上説明したラム波型共振子は、反射器25,26を用いない端面反射型共振子にも応用可能である。また、発振器以外にフィルターやセンサー等に応用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…ラム波型共振子、10…水晶基板、20…IDT電極、21…入力IDT電極、22…GNDIDT電極、25,26…反射器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一方の主面に設けられる複数の電極指を間挿してなるIDT電極と、前記IDT電極のラム波の伝播方向両側に配設される一対の反射器と、を備えるラム波型共振子であって、
前記圧電基板の厚さtが、励振させる前記ラム波の波長をλとすると、0<t/λ≦3であらわされる範囲にあり、
前記IDT電極の前記電極指の幅をWとしたときの、W/(λ/2)=ηで表されるメタライゼーションレシオηと、前記IDT電極の電極膜厚Hを前記波長λにより規格化したH/λの関係が、η0を基準値として、η1≦η≦η2、η1<η0<η2を満たし、以下を満たす、
ことを特徴とするラム波型共振子。
η0=−70.0000(H/λ)2+4.6000(H/λ)+0.3254
η1=0.05
η2=−6833.3333(H/λ)3+363.0000(H/λ)2
−6.9567(H/λ)+0.5155
【請求項2】
前記メタライゼーションレシオηと、前記IDT電極の前記電極膜厚Hを前記波長λにより規格化したH/λの関係が、以下を満たす、
ことを特徴とする請求項1に記載のラム波型共振子。
0.1≦η≦0.576 である時、H/λ=0.04
【請求項3】
前記圧電基板が、
オイラー角(φ、θ、ψ)が、
φ=0°
35°≦θ≦47.2°
−5°<ψ<5°
で表され、
且つ、前記圧電基板の厚さtと前記波長λとの関係が、0.176≦t/λ≦1.925を満たす水晶基板である、
ことを特徴とする請求項1もしくは2に記載のラム波型共振子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のラム波型共振子と、
前記ラム波型共振子を励振するための発振回路と、を備えている、
ことを特徴とする発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−171888(P2011−171888A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32154(P2010−32154)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】