説明

ラム波型共振子及び発振器

【課題】ラム波の伝搬方向に垂直方向の振動漏れを抑制するラム波型共振子を提供する。
【解決手段】ラム波型共振子1は、複数の電極指片21a,21b,21c,22a,22bの一方の端部を接続するバスバー電極21d,22cを有し、これら複数の電極指片の先端部を互いに間挿してなるIDT電極20と、IDT電極20のラム波の伝搬方向両側に配設される一対の反射器25,26と、が水晶基板10の一方の主面に設けられ、上記電極指片の交差領域(交差幅Wi)の水晶基板10の厚さをti、交差領域の外端とバスバー電極21d,22cとの間の領域の水晶基板の厚さをtg、ラム波の波長をλとしたときに、tiが0<ti/λ≦3で表される範囲にあり、且つ、tg<tiの関係を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラム波型共振子と、このラム波型共振子を備える発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
ラム波とは、伝搬させる波の数波長以下に基板厚さを薄くすることで、基板内部を伝搬するバルク波が基板の上下面での反射を繰り返し伝搬する板波である。基板表面から深さ1波長以内にエネルギーの90%を有するレイリー波、漏洩弾性表面波、擬似縦波型漏洩弾性表面波の表面波とは異なり、ラム波は基板内部を伝搬するバルク波であるためエネルギーは基板全体に分布している。
【0003】
非特許文献1によると、板波とレイリー波は学術的にも区別されている。また、非特許文献2にはレイリー波、漏洩弾性表面波の解析方法、非特許文献3にはラム波の解析方法が示されている。大きな違いは8次方程式の解の選択方法が各々の波で異なり、レイリー波とラム波は全く別の波であって性質が異なる。従って、ラム波はレイリー波と同様の設計条件では良好な特性が得られないため、ラム波を対象とした設計方法が必要である。
【0004】
ラム波の特徴として、特許文献1に示されている分散曲線にあるように、ラム波の伝搬可能なモードは、基板厚み方向の波数が共振条件を満たすモードであり、ラム波には高次を含め多数のモードが存在する。
【0005】
存在するモードの位相速度はレイリー波以上であり、縦波以上の位相速度をもったモードも多数存在しているため、位相速度が高いモードほど上記の表面波と同じ電極指幅でも容易に高周波化が可能となる。また、厚さが5波長以下のATカット水晶基板を用いることにより、温度特性が優れ、高周波化に適したラム波を利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−258596号公報
【特許文献2】特開2008−54163号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】超音波便覧、超音波便覧編集委員会編集、丸善株式会社出版。1999年発行 第62頁〜第71頁
【非特許文献2】弾性波素子技術ハンドブック、学振150委編集、オーム社出版。1991年発行 第148頁〜第158頁
【非特許文献3】中川恭彦、重田光善、柴田和匡、垣尾省司著、ラム波型弾性波素子用基板の温度特性、電子情報通信学会論文誌 C NO.1。第34頁〜第39頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1によれば、電極として重い金属を用いており、そのことによりラム波の反射係数を高め、少ない反射器本数でエネルギーを閉じ込められるため小型化が可能と記載されている。これは縦方向(ラム波の伝搬方向)の振動漏れを抑えることによりエネルギーを閉じ込めることを意味している。しかし、横方向(ラム波の伝搬方向に対し垂直方向のこと)のエネルギー閉じ込めについては考慮されていないため、必ずしも最適電極設計であるとは言い難い。また、特許文献2においても、横方向のエネルギー閉じ込めを高めるための具体的な手段は開示されていない。
【0009】
もし、横方向(ラム波の伝搬方向に対して垂直方向)に振動漏れが生じていると、ラム波の良好な特性を生かしきれず、共振特性を評価するうえで重要なファクターであるQ値の低下、CI値の増加を招くことが考えられる。その結果、発振器に適用した場合に十分な特性が得られず、消費電力の増加や発振が停止するといった深刻な問題が生じる。
また、横方向の振動漏れが圧電基板の横方向外端部に至ると、圧電基板外端部からの反射波によりスプリアスが生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1]本適用例に係るラム波型共振子は、複数の電極指片の一方の端部を接続するバスバー電極を有し、前記複数の電極指片の先端部を互いに間挿してなるIDT電極と、前記IDT電極のラム波の伝搬方向両側に配設される一対の反射器と、が圧電基板の一方の主面に設けられ、前記電極指片の交差領域の前記圧電基板の厚さをti、前記交差領域のラム波の伝搬方向に対して垂直方向端部と前記バスバー電極との間の領域の前記圧電基板の厚さをtg、ラム波の波長をλとしたときに、厚さtiが0<ti/λ≦3で表される範囲にあり、且つ、tg<tiの関係を満たすことを特徴とする。
【0012】
本適用例によれば、詳しくは、後述する実施形態で説明するが、ラム波の位相速度は、規格化基板厚み(t/λ)に依存する性質があり、規格化基板厚みを薄くすると位相速度が高くなる。
【0013】
そこで、電極指片の交差領域の圧電基板厚さtiに対して、交差領域のラム波の伝搬方向に対して垂直方向端部とバスバー電極との間の領域の圧電基板厚さtgを薄くすることにより、交差領域の外端とバスバー電極との間の領域(ギャップと表すことがある)におけるラム波の位相速度が、電極指片の交差領域の位相速度よりも高くなる。その結果、ラム波の伝搬方向に対して垂直な横方向の変位が収束していく。これはバスバー電極から外側の自由振動面(電極がない圧電基板のみの領域)では振動漏れがほとんどない状態、つまり、エネルギーが閉じ込められている状態である。
【0014】
このように、横方向の振動漏れを抑制することにより、圧電基板の横方向外端部で発生する反射波の振幅を格段に小さくすることができ、圧電基板の横方向外端部からの反射波によるスプリアスを低減することができる。
【0015】
このことにより、ラム波型共振子の共振特性を評価する上で重要なファクターであるQ値の低下やCI値の増加を抑制する。従って、高いQ値はラム波型共振子の発振を安定維持することができ、低いCI値は消費電力の減少を実現できる。
【0016】
[適用例2]上記適用例に係るラム波型共振子において、前記圧電基板は、オイラー角(φ、θ、ψ)が、−1度≦φ≦+1度、35.0度≦θ≦47.2度、−5度≦ψ≦+5度の範囲であって、且つ厚さtgとラム波の波長λとの関係が、1.0λ≦tg<1.60λを満たす水晶基板であることが好ましい。
【0017】
ラム波型共振子の周波数温度特性、周波数帯域、励振の安定性は、水晶基板の切り出し角度とラム波の伝搬方向によって律せられる。つまり、オイラー角(φ、θ、ψ)と、基板厚みtと波長λとの関係で表される規格化基板厚みt/λにて律せられる。
【0018】
角度φと、角度θと、角度ψと、規格化基板厚みt/λと、を上述したような関係式とすることで、STWカット水晶、またはSTカット水晶に比べ優れた周波数温度特性と、高周波帯域への対応が可能となる。
【0019】
また、水晶基板の励振の効率を表す電気機械結合係数(K2)を高めることができるので、励振し易く、安定した周波数温度特性をもつラム波型共振子を提供することができる。
【0020】
[適用例3]上記適用例に係るラム波型共振子において、前記複数の電極指片の交差幅が20λ以上であることが望ましい。
【0021】
このラム波型共振子は、発振器への応用を考えた場合、発振回路と組み合わせたときの発振条件を満たさなければ発振器に適用できない。しかし、実施の形態で後述する共振周波数近傍のアドミッタンス円線図の測定結果によれば、交差幅が20λ以上であればアドミッタンスBが、B<0となり誘導性であるために、ラム波型共振子と発振回路とを組んだ場合に安定して発振させることができる。
【0022】
[適用例4]本適用例に係る発振器は、上記適用例のいずれかに記載のラム波型共振子と、前記ラム波型共振子を励振するための発振回路と、が備えられていることを特徴とする。
【0023】
本適用例によれば、圧電基板として水晶基板を用いると共に、上述した最適基板厚さ及び交差幅とするラム波型共振子を用いることで、横方向の振動漏れを抑制して高Q値、低CI値、及び周波数温度特性に優れた発振器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態1に係る水晶基板の切り出し方位とラム波伝搬方向を示す説明図。
【図2】実施形態1に係るラム波型共振子の基本形状を示し、(a)は概略構造を示す斜視図、(b)は、(a)のA−A切断面を示す断面図。
【図3】規格化基板厚みt/λと位相速度との関係を示すグラフ。
【図4】ラム波型共振子の1例を示し、(a)は上方から視認した平面図、(b)は(a)のB−B切断面を示す断面図。
【図5】実施例1に係る計算結果を示す説明図。
【図6】実施例2に係る計算結果を示す説明図。
【図7】実施例3に係る計算結果を示す説明図。
【図8】実施例4に係る計算結果を示す説明図。
【図9】実施例5に係る計算結果を示す説明図。
【図10】実施例6に係る計算結果を示す説明図。
【図11】実施例7に係る計算結果を示す説明図。
【図12】実施例8に係る計算結果を示す説明図。
【図13】実施例9に係る計算結果を示す説明図。
【図14】実施例10に係る計算結果を示す説明図。
【図15】実施例11に係る計算結果を示す説明図。
【図16】周波数温度変動量とオイラー角(0°、θ、0°)における角度θの関係を示すグラフ。
【図17】周波数温度変動量と規格化基板厚みt/λとの関係を示すグラフ。
【図18】角度θと位相速度との関係を示すグラフ。
【図19】規格化基板厚みt/λと位相速度との関係を示すグラフ。
【図20】角度θと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図21】角度θと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図22】規格化基板厚みt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図23】規格化基板厚みt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフ。
【図24】共振周波数近傍のアドミッタンス円線図。
【図25】変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明で参照する図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
(実施形態1)
【0026】
図1は、本実施形態に係る水晶基板の切り出し方位とラム波伝搬方向を示す説明図、即ちオイラー角(φ,θ,ψ)の説明図である。圧電基板としての水晶基板10の切り出し方位は、電気軸と呼ばれるX軸、機械軸と呼ばれるY軸、光学軸と呼ばれるZ軸によって定義される。
【0027】
オイラー角(0°,0°,0°)で表される水晶基板10は、Z軸に垂直な主面を有するZカット基板となる。ここで、オイラー角のφはZカット基板の第1の回転に関するものであり、Z軸を回転軸とし、+X軸から+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第1回転角度である。
【0028】
オイラー角のθはZカット基板の第1の回転後に行う第2の回転に関するものであり、第1の回転後のX軸を回転軸とし、第1の回転後の+Y軸から+Z軸へ回転する方向を正の回転角度とした第2回転角度である。水晶基板10のカット面は、第1回転角度φと第2回転角度θとで決定される。
【0029】
オイラー角のψはZカット基板の第2の回転後に行う第3の回転に関するものであり、第2の回転後のZ軸を回転軸とし、第2の回転後の+X軸から第2の回転後の+Y軸側へ回転する方向を正の回転角度とした第3回転角度である。ラム波の伝搬方向は第2の回転後のX軸に対する第3回転角度ψで表される。
【0030】
図2は、実施形態1に係るラム波型共振子の基本形状を示し、(a)は概略構造を示す斜視図、(b)は、(a)のA−A切断面を示す断面図である。本実施形態における水晶基板10の切り出し方位は、厚み方向のZ軸をZ’まで角度θだけ回転させた回転Yカット水晶であり、図中、長手方向がX軸、幅方向がY’、厚み方向がZ’となるように切り出されている(図1、参照)。
【0031】
図2(a),(b)において、このラム波型共振子1は、水晶基板10と、水晶基板10の一方の主面のX軸方向に形成される櫛歯形状のIDT電極(Interdigital Transducer)20と、IDT電極20のラム波が伝搬方向両側に設けられる一対の反射器25,26と、から構成されている。従って、ラム波の伝搬方向はX軸方向となる。
【0032】
また、水晶基板10の厚さをt、伝搬されるラム波の波長をλとしたときに、規格化基板厚みt/λは、0<t/λ≦3で表される範囲に設定されている。
【0033】
IDT電極20はAl電極からなり、入力IDT電極21とGND(グランド)IDT電極22とから構成されている。GND(グランド)IDT電極22は、必ずしも接地する必要はなく、信号線に接続することも可能である。入力IDT電極21は、複数の電極指片21a,21b,21cが平行で同じ長さで形成され、これら複数の電極指片の一方の端部はバスバー電極21dで接続されている。GNDIDT電極22は、複数の電極指片22a,22bが平行で同じ長さに形成され、これら複数の電極指片の一方の端部はバスバー電極22cで接続されている。
【0034】
入力IDT電極21と、GNDIDT電極22とは互いの電極指片の先端部が間挿されている。電極指片21a,21b,21cの先端部は、バスバー電極22cと間隙を有して配設される。また、電極指片22a,22bの先端部はバスバー電極21dと間隙を有して配設される。
【0035】
なお、入力IDT電極21の電極指片21a,21b,21cと、GNDIDT電極22の電極指片22a,22bと、が間挿されたときに互いの電極指片が交差する幅を交差幅と表す。
【0036】
なお、図2に記載のIDT電極20の電極指片及び反射器25,26の電極指片の数は簡略化しており、実際にはそれぞれ数十本から数百本設けられる。
【0037】
水晶基板10は、電気軸と呼ばれるX軸、機械軸と呼ばれるY軸、光学軸と呼ばれるZ軸の面で構成される薄板である。しかし、本実施形態における水晶基板10の切り出し方位は、厚み方向のZ軸をZ’まで角度θだけ回転させた回転Yカット水晶であり、図では、水晶基板10の図示の軸方向を表している。従って、厚さ方向をZ、ラム波の伝搬方向をX、ラム波の伝搬方向に対して垂直方向をYで表している。なお、X方向を縦方向、Y方向を横方向と表すことがある。
【0038】
本実施形態では、電極指片21a,21b,21cのピッチ、電極指片22a,22bのピッチをλ(ラム波の波長)とし、各電極指片の幅及び各電極指片間の距離を(1/4)λとしている。
【0039】
ラム波型共振子1は、入力IDT電極21に所定の周波数で入力される駆動信号によって水晶基板10が励振されるが、この励振された弾性波は、水晶基板のX方向に向かって水晶基板10の表裏の面内を反射しながら伝搬していく。このように伝搬される弾性波をラム波と呼称している。
【0040】
IDT電極20の構造はSAW共振子と似ているが、用いている波の種類が異なるため特性も異なり、設計条件も当然異なる。そして、IDT電極20から伝搬されるラム波は反射器25,26によって反射される。
【0041】
従って、電極指片21aのラム波の伝搬方向中心から反射器25の最も電極指片21a寄りのラム波の伝搬方向中心までの距離D1、同様に電極指片21cとの距離D2は、(1/2)nλ(nは整数)に設定され、反射波が、所定の周波数で、駆動信号と位相が一致するように設定されている。
なお、電極指片21aと反射器25との距離、電極指片21cと反射器26との距離は(1/2)λ以外であってもよい。
【0042】
続いて、規格化基板厚みt/λと位相速度との関係について図面を参照して説明する。
図3は、規格化基板厚みt/λと位相速度との関係を示すグラフである。横軸には規格化基板厚みt/λ、縦軸には位相速度(m/s)を示している。また、圧電基板として水晶基板10を用いたときのラム波型共振子を例示している。
【0043】
図3によれば、このラム波型共振子1には、複数のモードが存在していることが示され、規格化基板厚みt/λが大きくなるに従い、各モードにおける位相速度が3000(m/s)〜6000(m/s)の範囲で集約されており、特に5000(m/s)〜6000(m/s)の範囲では密集している。
【0044】
このようにモードが密集している場合には、モード結合が起こりやすく、所望のモードが得られないこと、または、位相速度が変動しやすいことが考えられる。そこで、規格化基板厚みをt/λ≦3に設定することで、モード結合のしやすい範囲を回避することができる。
【0045】
また、図3によれば、規格化基板厚みt/λが小さいほど位相速度が高まる傾向が示され、規格化基板厚みがt/λ≦3においては、位相速度が6000(m/s)以上のモードが多数存在している。位相速度は周波数と波長の積によって表されるため、このラム波型共振子が高周波に対応可能であることを示している。
【0046】
次に、IDT電極20の構成について説明する。
図4は、ラム波型共振子の1例を示し、(a)は主面方から視認した平面図、(b)は(a)のB−B切断面を示す断面図である。まず、本実施形態にて提案する最適電極設計パラメーターについて説明する。図4(a)において、電極指片21a,21b,21cと電極指片22a,22bとが間挿されたときに互いに交差する電極指片の交差幅(交差領域)をWiと表している。
【0047】
また、バスバー電極21d,22cの幅をWb、電極指片21a,21b,21cの先端部とバスバー電極22cとの距離、及び電極指片22a,22bの先端部とバスバー電極21dとの距離をWg(以降、ギャップWgと表すことがある)で表す。つまり、ギャップWgは、IDT電極20の交差領域のラム波の伝搬方向に対して垂直方向端部とバスバー電極21d,22cとの距離である。
【0048】
なお、水晶基板10のY方向(横方向)の中心位置を中心線Pで表している。IDT電極20及び反射器25,26は、この中心線P上に形成される。また、反射器25,26それぞれの電極指片は、交差幅Wiの範囲内に配設されている。
【0049】
次に、図4(b)を参照してラム波型共振子1の断面形状の1例について説明する。水晶基板10は、IDT電極20及び反射器25,26が形成される主面に対向する裏面に薄肉部11,12が設けられている。
【0050】
ここで、IDT電極20の交差領域(交差幅Wiで表される範囲)の水晶基板10の厚さをti、交差領域のY方向外端部とバスバー電極21d,22cそれぞれのギャップWgの範囲の厚さをtg、バスバー電極21d,22cを含んでY方向外側の範囲の水晶基板の厚さをtbとする。
【0051】
水晶基板のそれぞれの部位の厚さti,tg,tbは、ラム波の波長をλとしたときに、0<ti/λ≦3、0<tg/λ≦3で表される範囲にあり、且つ、tg<tiの関係を満たすよう設定される。なお、図4では、ti=tbの場合を例示している。
【0052】
なお、薄肉部11,12のX方向の形成範囲は、図4(a)に示すように、IDT電極20を含んで反射器25,26の外端部までとすることが好ましい。
【0053】
ラム波型共振子に関して、基礎特性に関する文献はあるが、横方向(Y方向)のエネルギー閉じ込めに関する文献は見当たらず、最適設計条件は不明確であった。そこで、ラム波の横方向のエネルギー閉じ込めに関して詳細に調査を進めてきた。
【0054】
その結果、ラム波は水晶SAWと比較して横方向に振動漏れが発生しやすく、電極指片の交差幅WiとギャップWgの設計条件に敏感であり、横方向のエネルギーを閉じ込めるためには、交差幅Wiの範囲の位相速度をギャップWgの範囲の位相速度よりも遅くすることが有効であることが分かった。
【0055】
次に、ラム波の横(Y)方向の変位を支配する微分方程式について述べる。この微分方程式はラム波型共振子の振動エネルギーを長さと深さ方向に積分して得られるラグランジアンL=T−U(Tは運動エネルギー、Uは位置エネルギー)から得られるもので次式で表される。
【0056】
【数1】

【0057】
ただし、U(Y)は幅方向変位、Yはラム波の波長λで規格化したy座標(y/λ)、a定数は横方向のせん断効果係数、ωは角周波数、ω0は電極指片の交差幅が無限大のラム波型共振子が有する角周波数である。a定数は解析結果、もしくは測定結果から得られるものであり、本実施形態では0.021であった。この微分方程式に基づきラム波型共振子の横方向の変位を計算した。
【0058】
続いて、具体的な実施例の計算結果について図5〜図15を参照して説明する。なお、図5〜図15では、水晶基板は図4(a)のB−B切断面を示している。そして、横軸は水晶基板の中心線Pを0として横方向(Y方向)の距離、縦軸は横方向の変位を表している。なお、Wi、Wg、Wb、及びti、tg、tbはそれぞれ波長λで規格化している。
(実施例1)
【0059】
図5は、実施例1に係る計算結果を示す説明図である。実施例1は、オイラー角(0°、42.0°、0°)、Wi=30λ、Wg=2.0λ、Wb=28.0λとした場合を例示し、図5(a)は、水晶基板の厚さを均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0060】
この図5(a)に表すように、IDT電極の中央(中心線P)で変位が最大となっている。しかし、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0061】
自由表面への振動漏れの発生は、エネルギーの損失となり、共振子の共振特性を評価する上で重要なファクターであるQ値の低下やCI(Crystal Impedance)値の増加となる。Q値の低下はラム波型共振子の発振を安定維持することが困難となり、CI値の増加は消費電力の増加につながる。
【0062】
このように、バスバー電極の外端部から水晶基板の横方向外端部に向けて振動漏れが生じると、水晶基板の外端部からの反射波によりスプリアスが生じてしまう。
【0063】
図5(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.3λとしている。
【0064】
このようにすれば、図5(b)に示すようにIDT電極の中央(中心線P)で変位が最大となる。しかし、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
【0065】
このように図5(a)と図5(b)とでエネルギーの閉じ込め状態が変化する理由について説明する。図3に示した規格化基板厚みt/λと位相速度の関係から、水晶基板を薄くすると位相速度が速くなる。このことからtg<tiとすることで、IDT電極の交差幅Wiの領域におけるラム波の位相速度よりも、ギャップ領域(Wg)の位相速度が速くなることから、横方向のエネルギーの閉じ込め条件を満足したためである。
【0066】
次に、厚さtiよりも薄い領域を変更した場合について説明する。
図5(c)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgとバスバー電極領域の厚さtbを等しくした場合を示している。なお、それぞれの領域の厚さを、ti=1.6λ、tg=tb=1.0λとしている。
【0067】
図5(c)は図5(b)と同様に、IDT電極の中央(中心線P)で変位が最大となり、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
【0068】
以降、Wi,Wg,Wb、及びti、tg、tbの寸法を変更した場合のエネルギー閉じ込めについて説明する。
(実施例2)
【0069】
図6は、実施例2に係る計算結果を示す説明図である。実施例2は、オイラー角(0°、42.0°、0°)、Wi=20λ、Wg=6.0λ、Wb=30.0λとした場合を例示し、図6(a)は、水晶基板の厚さを均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0070】
図6(a)に表すように、水晶基板の厚さを均一にした場合には、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0071】
図6(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.0λとしている。
【0072】
このようにすれば、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
【0073】
図6(c)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgとバスバー電極領域の厚さtbを等しくした場合を示している。なお、それぞれの領域の厚さを、ti=1.6λ、tg=tb=1.0λとしている。
【0074】
図6(c)は図6(b)と同様に、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
(実施例3)
【0075】
図7は、実施例3に係る計算結果を示す説明図である。実施例3は、オイラー角(0°、42.0°、0°)、Wi=40λ、Wg=14.0λ、Wb=24.0λとした場合を例示し、図7(a)は、水晶基板の厚さを均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0076】
図7(a)に表すように、水晶基板の厚さを均一にした場合には、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0077】
図7(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.1λとしている。
【0078】
このようにすれば、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
【0079】
図7(c)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgとバスバー電極領域の厚さtbを等しくした場合を示している。なお、それぞれの領域の厚さを、ti=1.6λ、tg=tb=1.1λとしている。
【0080】
図7(c)は図7(b)と同様に、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
(実施例4)
【0081】
図8は、実施例4に係る計算結果を示す説明図である。実施例4は、オイラー角(0°、42.0°、0°)、Wi=40λ、Wg=18.0λ、Wb=19.0λとした場合を例示し、図8(a)は、水晶基板の厚さを均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0082】
図8(a)に表すように、水晶基板の厚さを均一にした場合には、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0083】
図8(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.2λとしている。
【0084】
このようにすれば、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
【0085】
図8(c)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgとバスバー電極領域の厚さtbを等しくした場合を示している。なお、それぞれの領域の厚さを、ti=1.6λ、tg=tb=1.2λとしている。
【0086】
図8(c)は図8(b)と同様に、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
(実施例5)
【0087】
図9は、実施例5に係る計算結果を示す説明図である。実施例5は、オイラー角(0°、42.0°、0°)、Wi=20λ、Wg=21.0λ、Wb=13.0λとした場合を例示し、図9(a)は、水晶基板の厚さを均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0088】
図9(a)に表すように、水晶基板の厚さを均一にした場合には、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0089】
図9(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.58λとしている。
【0090】
このようにすれば、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
【0091】
図9(c)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgとバスバー電極領域の厚さtbを等しくした場合を示している。なお、それぞれの領域の厚さを、ti=1.6λ、tg=tb=1.58λとしている。
【0092】
図9(c)は図9(b)と同様に、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
【0093】
続いて、水晶基板のオイラー角(φ、θ、ψ)を変更した場合のエネルギー閉じ込め状態について説明する。
(実施例6)
【0094】
図10は、実施例6に係る計算結果を示す説明図である。実施例6は、オイラー角(+1.0°、42.0°、0°)、Wi=20λ、Wg=21.0λ、Wb=13.0λとした場合を例示し、図10(a)は、水晶基板の厚さをti=1.6λに均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0095】
図10(a)に表すように、水晶基板の厚さを均一にした場合には、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0096】
図10(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.2λとしている。
【0097】
このようにすれば、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
(実施例7)
【0098】
図11は、実施例7に係る計算結果を示す説明図である。実施例7は、オイラー角(−1.0°、42.0°、0°)、Wi=20λ、Wg=21.0λ、Wb=13.0λとした場合を例示し、図11(a)は、水晶基板の厚さをti=1.6λに均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0099】
図11(a)に表すように、水晶基板の厚さを均一にした場合には、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0100】
図11(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.2λとしている。
【0101】
このようにすれば、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
(実施例8)
【0102】
図12は、実施例8に係る計算結果を示す説明図である。実施例8は、オイラー角(0°、33.5°、0°)、Wi=20λ、Wg=21.0λ、Wb=13.0λとした場合を例示し、図12(a)は、水晶基板の厚さをti=1.6λに均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0103】
図12(a)に表すように、水晶基板の厚さを均一にした場合には、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0104】
図12(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.43λとしている。
【0105】
このようにすれば、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
(実施例9)
【0106】
図13は、実施例9に係る計算結果を示す説明図である。実施例9は、オイラー角(0°、48.2°、0°)、Wi=20λ、Wg=21.0λ、Wb=13.0λとした場合を例示し、図13(a)は、水晶基板の厚さをti=1.6λに均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0107】
図13(a)に表すように、水晶基板の厚さを均一にした場合には、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0108】
図13(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.15λとしている。
【0109】
このようにすれば、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
(実施例10)
【0110】
図14は、実施例10に係る計算結果を示す説明図である。実施例10は、オイラー角(0°、42.0°、5.0°)、Wi=20λ、Wg=21.0λ、Wb=13.0λとした場合を例示し、図14(a)は、水晶基板の厚さをti=1.6λに均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0111】
図14(a)に表すように、水晶基板の厚さを均一にした場合には、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0112】
図14(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.58λとしている。
【0113】
このようにすれば、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
(実施例11)
【0114】
図15は、実施例11に係る計算結果を示す説明図である。実施例11は、オイラー角(0°、42.0°、−5.0°)、Wi=20λ、Wg=21.0λ、Wb=13.0λとした場合を例示し、図15(a)は、水晶基板の厚さをti=1.6λに均一にしたときの共振状態にある横方向の変位分布を示している。
【0115】
図15(a)に表すように、水晶基板の厚さを均一にした場合には、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しておらず、水晶基板の横方向外端における変位が大きくなっている。つまり、振動漏れが生じているためにエネルギーが閉じ込められていないことを示している。
【0116】
図15(b)は、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgを、IDT電極の電極指片の交差幅Wiの範囲の厚さtiよりも薄くした場合を示し、それぞれの領域の厚さを、ti=tb=1.6λ、tg=1.58λとしている。
【0117】
このようにすれば、交差幅Wiより外側の自由表面に至る領域では横方向の変位が収束しており、水晶基板の横方向外端における変位が発生していない。つまり、振動漏れを抑制しているためにエネルギーが閉じ込められていることを示している。
【0118】
なお、水晶基板のギャップ領域(Wg)の厚さtgとバスバー電極領域の厚さtbを等しくした場合においても、前述した実施例1〜実施例5と同様にエネルギーの閉じ込めができると推察できる。
【0119】
以上説明したように、実施形態1〜実施形態5では、水晶基板のオイラー角(0°、42.0°、0°)の場合に、IDT電極の交差幅Wiが20.0λ≦Wi≦40.0λの範囲、ギャップWgが2.0λ≦Wg≦21.0λの範囲において、電極指片の交差領域の水晶基板の厚さtiと、交差領域の外端とバスバー電極との間の領域の水晶基板の厚さtgとが、tg<ti、1.0λ≦tg<1.60λの関係を満たせば、自由表面への横方向の変位を抑制し、振動漏れがほとんどない状態、つまり、エネルギーが閉じ込められている状態であることを示している。
【0120】
また、実施形態6〜実施形態11では、水晶基板のオイラー角(φ、θ、ψ)において、角度φ,θ,ψのそれぞれが、−1度≦φ≦+1度、33.5度≦θ≦48.2度、−5度≦ψ≦+5度、tg<ti、且つ、1.0λ≦tg<1.60λを満たせば、自由表面への横方向の変位を抑制することができることを示している。
【0121】
また、横方向(Y方向)の振動漏れを抑制することにより、水晶基板の横方向外端部で発生する反射波の振幅を格段に小さくすることができ、水晶基板の横方向外端部からの反射波によるスプリアスを低減することができる。
【0122】
このことにより、ラム波型共振子の共振特性を評価する上で重要なファクターであるQ値の低下やCI値の増加を抑制する。従って、高いQ値はラム波型共振子の発振を安定維持することができ、低いCI値は消費電力の減少を実現できる。
【0123】
なお、バスバー電極の幅Wb及び厚さtbは、電極指片の交差領域の水晶基板の厚さtiと、交差領域の外端とバスバー電極との間の領域の水晶基板の厚さtgと、オイラー角(φ、θ、ψ)と、を上述の条件の範囲内とすれば制約されない。
【0124】
続いて、前述したラム波型波共振子1(図2,3、参照)における位相速度と規格化基板厚みt/λ及びオイラー角(0°,θ,0°)における角度θそれぞれに対する周波数温度偏差(周波数温度変動量)、位相速度、電気機械結合係数K2の関係についてシミュレーションにより算出した結果について図面を参照して説明する。
【0125】
図16は、周波数温度変動量(ppm)とオイラー角(0°、θ、0°)における角度θの関係を示すグラフである。図16において、ラム波型共振子1は、角度θが35度≦θ≦47.2度の範囲において、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよいことを示している。
【0126】
なお、水晶基板10の角度θは、36度≦θ≦45度にすることがより望ましい。この角度θの領域では、周波数温度変動量がほぼフラットとなりSTカット水晶よりも周波数温度特性が優れる。
【0127】
図17は、周波数温度変動量(ppm)と規格化基板厚みt/λとの関係を示すグラフである。図17に示すように、規格化基板厚みt/λが、0.176≦t/λ≦1.925の範囲において、STWカット水晶及びSTカット水晶よりも優れた周波数温度特性を有する。なお、規格化基板厚みt/λは、上述した各実施例におけるti/λに相当する。
【0128】
次に、角度θ及び規格化基板厚みt/λと位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2相互の関係について詳しく説明する。
図18は、オイラー角(0°、θ、0°)における角度θと位相速度との関係を示すグラフである。ここで、規格化基板厚みt/λを0.2〜2.0まで6段階に設定し、それぞれのt/λにおける位相速度を示す。
【0129】
図18に示すように、規格化基板厚みt/λ=2.0の場合を除いた全ての場合において、角度θが30度〜50度の範囲で、5000m/s以上の位相速度を得ることができる。
【0130】
図19は、規格化基板厚みt/λと位相速度との関係を示すグラフである。オイラー角(0°、θ、0°)における角度θを30度〜50度まで5段階に設定し、それぞれの角度θにおける位相速度を示している。
【0131】
図19に示すように、各角度θにおいて位相速度のばらつきは小さく、規格化基板厚みt/λが0.2〜2の大部分の範囲で5000m/s以上の位相速度を得ることができる。
【0132】
次に、オイラー角(0°、θ、0°)の角度θ、規格化基板厚みt/λと、位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2の相互の関係について説明する。
図20は、角度θと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフである。なお、規格化基板厚みt/λを1.7としている。
【0133】
図20に示すように、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいθの範囲は、35度≦θ≦47.2度であり(図17も参照する)、この範囲において位相速度5000m/s以上が得られることを示している。
【0134】
図21は、角度θと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフである。図21に示すように、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さい角度θの範囲は、35度≦θ≦47.2度である(図17も参照する)。
【0135】
この範囲において電気機械結合係数K2は、基準としている0.02を大きく上回っている。角度θの範囲が32.5度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.03以上となり、角度θの範囲が34.2度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.04以上となり、さらに、角度θの範囲が36度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.05以上となる。
【0136】
図22は、規格化基板厚みt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示すグラフである。図22に示すように、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり、この範囲において位相速度は大部分の範囲で5000m/s以上が得られる。この規格化基板厚みt/λの範囲では、規格化基板厚みt/λが小さいほど位相速度が速くなり、高周波帯域が得られる。つまり、規格化基板厚みt/λを調整すれば位相速度を調整することが可能である。
【0137】
図23は、規格化基板厚みt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示すグラフである。図23に示すように、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さい規格化基板厚みt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり、この範囲において電気機械結合係数K2は大部分の範囲で0.02以上が得られる。この規格化基板厚みt/λが1に近い範囲では、電気機械結合係数K2が0.05以上の高い領域が得られる。
【0138】
なお、本実施形態では、圧電基板として水晶基板を用いた場合を例示して説明したが、水晶以外の圧電材料を基板として用いることが可能である。例えば、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、四硼酸リチウム、ランガサイト、ニオブ酸カリウムを採用できる。また、酸化亜鉛、窒化アルミ、五酸化タンタル等の圧電性薄膜、硫化カドミウム、硫化亜鉛、ガリウム砒素、インジウムアンチモン等の圧電半導体にも応用可能である。
【0139】
しかしながら水晶基板と他の圧電基板とは共振特性、特に温度特性に大きな差がでることから、圧電基板として水晶基板を用いることにより、温度に対する周波数の変化量を小さく抑えることができ、良好な周波数温度特性を得ることができる。このように、圧電基板に水晶基板を用い、前述した最適電極設計条件とすることで周波数温度特性に優れ、高Q値、低CI値のラム波型共振子を提供することができる。
【0140】
また、本実施形態では、IDT電極20及び反射器25,26にはAl電極を用いていたが、これら電極にはAlを主成分とする合金を用いても構わない。例えば、Au、Ag、Cu、Si、Ti、Pdなどを重量比で10%以下含有したAl合金を用いても同様な効果が得られる。
(発振器)
【0141】
続いて、発振器について説明する。
発振器は、前述したラム波型共振子と、このラム波型共振子を励振するための発振回路(図示せず)を有して構成される。ラム波型共振しとしては、前述した実施例1〜実施例11に示した電極設計条件及び水晶基板の厚さ設計条件の範囲のものが使用される。
【0142】
ここで、最適設計条件の範囲である各実施例において、互いに交差する電極指片の交差幅Wiは、20λ〜40λである。このような最適電極設計条件にした場合のラム波型共振子は高いQ値、低いCI値を実現できる。しかしながら、発振器に用いる場合、発振回路と組み合わせたときの発振条件を満たさなければ発振器に適用できない。
【0143】
ラム波型共振子を発振させるには、ラム波型共振子で決まる共振周波数近傍で誘導性になっていなければ発振しない。共振周波数近傍で誘導性とするには、電極指片が間挿されたときに互いに交差する交差幅Wiが影響する。
【0144】
図24は、共振周波数近傍のアドミッタンス円線図の測定結果を示している。図24において、Wiが15λ以下の場合は、アドミッタンスBがB>0となり容量性であるために発振できない。
【0145】
また、Wiが20λ以上であればアドミッタンスBがB<0となり誘導性であるために、ラム波型共振子と発振回路とを組んだときに発振させることが可能になる。
【0146】
従って、上記から電極指片が間挿されたときに互いに交差する交差幅Wiが20λ以上であるラム波型共振子を用いることにより、良好な発振特性を有する発振器を実現できる。
(変形例)
【0147】
なお、前述した各実施例では、水晶基板が平板構造を用いた構造を例示して説明したが、逆メサ構造でもよい。
図25は変形例を示す断面図である。図25(a),(b)は、IDT電極20及び反射器25,26の外側、つまり、水晶基板10の周縁部13の厚さを電極指片の交差幅Wi領域の水晶基板の厚さtiよりも厚い場合を例示している。
【0148】
このようにすれば、水晶基板10自身の強度が増し、水晶基板10の破損を防ぐことができる。
【0149】
図25(c)は、バスバー電極21d,22cの形成領域から自由表面にわたって交差幅Wi領域の水晶基板の厚さtiよりも厚い場合を例示している。
【0150】
このようにすれば、水晶基板10自身の強度を増すと共に、発振回路との接続におけるワイヤーボンディング時の耐衝撃性が向上するという効果がある。
【0151】
なお、以上説明したラム波型共振子は、発振器以外にフィルターやセンサー等に応用することができる。
【符号の説明】
【0152】
1…ラム波型共振子、10…水晶基板、20…IDT電極、21a,21b,21c,22a,22b…電極指片、21d,22c…バスバー電極、25,26…反射器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極指片の一方の端部を接続するバスバー電極を有し、前記複数の電極指片の先端部を互いに間挿してなるIDT電極と、前記IDT電極のラム波の伝搬方向両側に配設される一対の反射器と、が圧電基板の一方の主面に設けられ、
前記電極指片の交差領域の前記圧電基板の厚さをti、前記交差領域のラム波の伝搬方向に対して垂直方向端部と前記バスバー電極との間の領域の前記圧電基板の厚さをtg、ラム波の波長をλとしたときに、厚さtiが0<ti/λ≦3で表される範囲にあり、且つ、tg<tiの関係を満たすことを特徴とするラム波型共振子。
【請求項2】
請求項1に記載のラム波型共振子において、
前記圧電基板は、オイラー角(φ、θ、ψ)が、−1度≦φ≦+1度、35.0度≦θ≦47.2度、−5度≦ψ≦+5度の範囲であって、且つ厚さtgとラム波の波長λとの関係が、1.0λ≦tg<1.60λを満たす水晶基板であることを特徴とするラム波型共振子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のラム波型共振子において、
前記複数の電極指片の交差幅が20λ以上であることを特徴とするラム波型共振子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のラム波型共振子と、
前記ラム波型共振子を励振するための発振回路と、
が備えられていることを特徴とする発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−220163(P2010−220163A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67544(P2009−67544)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】