説明

ランス口の構造体

【課題】ランス口及びランス口近傍の構造の長寿命化を図り、長期にわたってガス漏洩及び廃酸発生率の悪化を抑制することが可能なランス口の構造体を提供する。
【解決手段】銅製錬用の自溶炉の内壁に付着する融着物に向けて還元剤を吹き付けるランス2を自溶炉内へ挿入するためのランス口112を、自溶炉のアップテイク部の炉天井に形成するランス口構造体20であって、自溶炉のアップテイク部の炉天井に設けられ、ランスが侵入可能な大きさのランス口を形成する筒状の周壁を有するウォータジャケット部28と、ウォータジャケット部の周壁内に設けられた、冷却媒体の流通が可能な冷却管路42a,42bと、を備えたランス口構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自溶炉のランス口の構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬用の自溶炉では、乾燥した微粉の銅精鉱と、酸素富化空気あるいは高温熱風とを、炉内に同時に吹き込み、瞬間的に化学反応(酸化反応)を起こさせて、マット(銅が60〜65%含まれる)とスラグ(銅が1%前後含まれる)に分離する。なお、自溶炉は、反応シャフト、セットラ、及びアップテイクと呼ばれる部分を有している。
【0003】
自溶炉では微粉の銅精鉱を反応シャフト滞留中の短時間のうちに酸化することから、過酸化物の生成が不可避であり、発生した過酸化物はダストとして排ガス気流と共にセットラからアップテイクを介して廃熱ボイラ内へと流入する。過酸化物は一般に高融点であることから、その一部は比較的温度の低いセットラやアップテイクの内壁に融着し、ベコと称される融着物(融着ダスト)となる。この融着ダストは放置すると次第に成長しアップテイク内部の閉塞トラブルを引き起こしたりするおそれがある。
【0004】
そこで、最近では、融着ダストを有効に除去できる非鉄製錬炉の炉内付着物除去方法及び装置が、自溶炉において適用されつつある(例えば、特許文献1参照)。この炉内付着物除去方法及び装置では、ランスと呼ばれる部材を自溶炉に設けられた開口(ランス口)から炉内に挿入して、当該挿入状態で、融着ダストに向けてランスから還元剤(例えば炭材粉や粉コークス)を吹き付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−140255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自溶炉を実際に約3年使用して定期修理を行ったところ、ランス口を構成する部材(SUS316Lなどを材料とする)が、熱負荷により腐食し、当該部材全体の30%が損耗していたことが判明した。また、ランス口周辺の耐火物(キャスタとも呼ばれる)は、熱負荷により自溶炉内に脱落し、更に、自溶炉を形成するレンガのうちランス口に隣接するもの(例えば4列分のレンガ(例えば、元厚375mm))も、熱負荷により、厚さ200mm程度まで損耗していたことが判明した。なお、ランス口に隣接していないレンガは、厚さ250mm〜270mm程度を維持していた。
【0007】
このように、ランス口を構成する部材やランス口近傍の部材は、熱負荷による損耗や破損が激しいため、当該損耗部分や破損部分からガス漏洩が生じるおそれがあった。また、ガス漏洩のみならず、外部気体(フリーエアー)が自溶炉内に侵入することで、廃酸発生率が悪化するおそれもあった。
【0008】
そこで、本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、ランス口及びランス口近傍の構造の長寿命化を図り、長期にわたってガス漏洩及び廃酸発生率の悪化を抑制することが可能なランス口の構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のランス口の構造体は、銅製錬用の自溶炉の内壁に付着する融着物に向けて還元剤を吹き付けるランスを前記自溶炉内へ挿入するためのランス口を、前記自溶炉のアップテイク部の炉天井に形成する、ランス口の構造体であって、前記自溶炉のアップテイク部の炉天井に設けられ、前記ランスが侵入可能な大きさのランス口を形成する筒状の周壁を有する構造体本体と、前記構造体本体の前記周壁内に設けられた、冷却媒体の流通が可能な冷却管路と、を備えている。
【0010】
これによれば、筒状の周壁を有する構造体本体の内部に設けられた冷却管路を冷却媒体が流通することで、構造体本体の熱負荷による損傷を抑制することができる。また、構造体本体の周辺に存在する自溶炉の一部における熱負荷による損傷も抑制することができる。これにより、構造体本体及びランス口近傍の構造部材の長寿命化を図り、長期にわたってガス漏洩及び廃酸発生率の悪化を抑制することが可能である。
【0011】
この場合において、前記構造体本体は、前記周壁の一部を形成する周壁部材を複数結合した構造を有することとすることができる。かかる場合には、構造体本体が複数の周壁部材に分離可能な構造となっていることから、構造体本体の製造(例えば、鋳造)を行う製造装置の小型化を図ることができる。また、構造体本体を現場(設置場所)にて組み立てることができるので、搬送の容易化、スペース効率の向上、及び組み立て作業の高効率化を図ることができる。
【0012】
また、本発明のランス口の構造体では、前記構造体本体の少なくとも一部が、耐熱性かつ耐蝕性の材料でコーティングされていることとすることができる。かかる場合には、構造体本体の損傷を抑制することができるので、より長寿命とすることが可能となる。この場合、前記耐熱性かつ耐蝕性の材料は、Ni−Cr系合金及びNi−Cr−Co系合金のいずれかであることとすることができる。この場合、材料としては、インコネル(スペシャルメタル社の商品名)を用いることができる。インコネルは、耐熱性、耐蝕性、耐酸化性、及び耐クリープ性などの高温特性に優れているため、構造体本体の熱負荷による損傷を効果的に抑制することができる。
【0013】
また、本発明のランス口の構造体では、前記構造体本体の周壁の前記ランスが侵入してくる側の端部に設けられ、前記構造体本体とは異なる材料で形成された、前記ランスが侵入可能な大きさの開口を有する筒状部材と、前記筒状部材と前記構造体本体との間に設けられ、前記筒状部材と前記構造体本体との間における気体の流通を遮断する環状のパッキン部材と、を更に備えることとすることができる。かかる場合には、構造体本体のランスが侵入してくる側の端部、すなわち、熱負荷による影響の少ない場所に、構造体本体とは異なる材料の筒状部材を設けることができる。この場合、筒状部材として、比較的熱に弱く、安価な材料を用いても寿命に影響がないため、低価格で、長寿命なランス口の構造体を製造することが可能となる。この場合、前記構造体本体の材料は、銅であり、前記筒状部材の材料は、オーステナイト系ステンレスであることとすることができる。また、本発明のランス口の構造体では、前記構造体本体と前記レンガとの間に、不定形耐火物が設けられていることとすることができる。
【0014】
また、本発明のランス口の構造体では、前記構造体本体のランス口を介した、前記自溶炉内外の気体の流通を抑制する蓋部材を更に備えることとすることができる。かかる場合には、ランス口を介した自溶炉内外の気体の流通を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のランス口の構造体は、ランス口及びランス口近傍の構造の長寿命化を図り、長期にわたってガス漏洩及び廃酸の発生率の悪化を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】銅製錬用自溶炉を模式的に示す図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】ランス口構造体及び当該ランス口構造体近傍の構成を示す図である。
【図4】ウォータジャケット部及びSUS部の断面図である。
【図5】図5(a)は、ウォータジャケット部の平面図であり、図5(b)は、SUS部の平面図である。
【図6】周壁部材のB−B線断面図(展開した断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、一実施形態の銅製錬用自溶炉100について、図1〜図6に基づいて、説明する。図1には、銅製錬用自溶炉100の構成が模式的に示されている。図1に示すように、自溶炉100は、反応シャフト101、セットラ102及びアップテイク103を有する。また、自溶炉100には、廃熱ボイラ200が接続されている。
【0018】
自溶炉100では、反応シャフト101の頂部から乾燥した微粉の銅精鉱と、溶剤として添加される珪酸と、酸素富化空気又は高温熱風とが同時に吹き込まれる。そして、銅精鉱と、酸素富化空気又は高温熱風とが瞬間的に酸化反応を起こし、その反応熱で銅精鉱が溶解し、セットラ102にてマット104(Cuを60%程度含む)とスラグ(Cuを1%程度含む、不図示)とに分離される。
【0019】
マット104は、後工程の転炉にて更に製錬され、粗銅となる。一方、スラグは、自溶炉に付属した錬かん炉(不図示)へと送られる。そして、スラグは、錬かん炉にて含有するCuの一部が回収された後、海水にて水砕処理され、セメント原料などとして用いられる。
【0020】
自溶炉100内で発生する排ガスは、温度が約1300℃で、SO2濃度が10%〜40%である。この排ガスは、アップテイク103の出口開口部105から廃熱ボイラ200へと送給される。廃熱ボイラ200では、排ガスが冷却されるとともに、顕熱が高圧蒸気として回収される。そして、排ガスは、電気集塵機で除塵された後、硫酸工場へと送給され、SO2が硫酸として回収されることになる。
【0021】
図2には、図1のA−A線断面図が示されている。この図2に示すように、アップテイク103の天井壁には、ランス口112を形成するランス口構造体20が設けられている。また、ランス口構造体20の近傍には、炉内付着物除去装置50が設けられている。
【0022】
炉内付着物除去装置50は、図2に示すように、ランス2と、移動体5と、ランス旋回駆動部8と、昇降駆動部10と、を有する。
【0023】
ランス2は、中空の棒状部材を有しており、ランス口112を介して、自溶炉100(アップテイク103)内に侵入可能とされている。棒状部材の上端部には、還元剤としての炭材粉を気流輸送する気流輸送装置3が接続されている。また、棒状部材の下端部には、ノズル4が設けられている。気流輸送装置3からは、炭材粉が気流輸送によってランス2(棒状部材の中空部)内に供給され、当該炭材粉は、不図示のキャリアガス供給装置から供給される不活性ガス(N2ガス)と混合されて、ノズル4から吹き出されるようになっている。
【0024】
ノズル4の吹き出し方向は、ランス2の中心軸(長手方向)に対して、90〜150°の間で調整可能となっている。この場合、自溶炉100の内壁下部に還元剤(炭材粉)を吹き付ける場合には、角度を大きくし、自溶炉100の内壁上部に還元剤を吹き付ける場合には、角度を小さくする。このようにして、炭材粉を自溶炉100の内壁に吹き付けることで、自溶炉100内で発生した過酸化物のうち、アップテイク103に融着した融着ダスト(ベコ)を還元、低融点スラグ化することができる。なお、炭材粉と混合するガスとして、上述したように不活性ガスであるN2ガスを用いているのは、仮に酸素を含有するガスを用いることとすると、固体還元剤(炭材粉)が融着ダストに到達する以前に酸化燃焼してしまい、所望の還元溶解効果を得ることができないからである。
【0025】
移動体5は、ランス2を上端部近傍にて保持しており、ワイヤ6を介して昇降駆動部10により吊り下げ支持されている。移動体5は、昇降駆動部10によるワイヤ6の巻き取り量に応じて、上下方向に関する位置を変更する。なお、移動体5は、上下方向に関する位置変更(上下動)の際には、上下方向に延設されたレール7に沿って移動するようになっている。
【0026】
ランス旋回駆動部8は、電動モータを含んでおり、ランス2を中心軸回りに旋回駆動する。すなわち、ランス2の旋回駆動により、ノズル4による還元剤の吹き付け方向を変更することができる。
【0027】
次に、ランス口構造体20について、図3〜図6に基づいて説明する。図3には、ランス口構造体20及び当該ランス口構造体20近傍の構成が示されている。この図3に示すように、ランス口構造体20は、自溶炉100の外壁(炉天井)を構成するレンガ22により形成される開口22a内に挿入された状態となっている。ランス口構造体20と開口22aとの間(隙間)には、不定形耐火物(キャスタ)24が設けられている。また、ランス口構造体20は、不定形耐火物24に対して、ランス口構造体20の周囲に多数設けられたアンカーボルト26にて固定されている。なお、図3では、図示の便宜上、アンカーボルト26を2列分のみ図示している(全列については、図5(a)参照)。
【0028】
不定形耐火物24としては、アルミナ・クロム質キャスタブル(製品名:CFC−19SN−6)などの耐火性の高い材料を用いることができる。レンガ22としては、マグネシア・クロム質レンガ(製品名:RRR−DB)などの耐火性の高い材料を用いることができる。
【0029】
ランス口構造体20は、図3に示すように、構造体本体としてのウォータジャケット部28と、ウォータジャケット部28の上側に設けられた筒状部材としてのSUS部30と、SUS部30に設けられた蓋部材32と、を備える。
【0030】
ウォータジャケット部28は、ウォータジャケット部28及びSUS部30の断面図である図4に示すように、全体として略筒状の形状を有している。ただし、実際には、ウォータジャケット部28は、ウォータジャケット部28の平面図である図5(a)に示すように、平面視U字状の周壁部材38a,38bを組み合わせることで、平面視略楕円形(オーバル状、レーストラック状)の筒形状を構成している。なお、ウォータジャケット部28の中央開口部分は、ランス2(及びノズル4)が通過可能な程度の開口径を有している。すなわち、ウォータジャケット部28の中央開口部分は、前述したランス口112(図2参照)として機能する。周壁部材38a,38bには、2枚の固定板40a,40bが複数のボルト(図4参照)で固定されている。これにより、周壁部材38a,38b間が強固に結合されている。なお、固定板40a,40bとしては、銅板を用いることができる。また、ウォータジャケット部28は、現場(自溶炉100が設置される工場など)において、組み立てることができる。
【0031】
周壁部材38a,38bは、銅の鋳造により製造される。周壁部材38a,38bの内部には、図5(a)のB−B線断面図(展開した断面図)である図6に示すように、冷却媒体としての冷却水が流通可能な2つの冷却管路42a,42bが設けられている。なお、周壁部材38bの冷却管路42a,42bも、図6と同様の形状、配置となっている。
【0032】
冷却管路42aは、断面略W字状の形状を有し、冷却管路42bは、断面略U字状の形状を有している。冷却管路42a,42bは、銅製の管路であり、周壁部材38a,38bの鋳造の際に埋め込まれる。なお、図6に示すように、冷却管路42aの給水口の近傍に冷却管路42bの排水口が位置し、冷却管路42aの排水口の近傍に冷却管路42bの給水口が位置している。また、冷却管路42a,42bそれぞれの両端部には、図3、図4に示すように、液体流通用の配管44がそれぞれ接続されている。したがって、冷却管路42a,42bそれぞれに配管44を介して冷却水を流通させることで、冷却管路42a,42bそれぞれに互いに逆向きの冷却水の流れが形成されることになる。これら冷却水は、冷却管路42a,42bを流れている間に、熱伝導により、ウォータジャケット部28を冷却し、ひいては、周辺部材(不定形耐火物24やレンガ22)を冷却する。なお、配管44の材料としては、SUS304(18%のクロム(Cr)と8%のニッケル(Ni)を含むステンレス鋼)などを用いることができる。
【0033】
ここで、上記のようなウォータジャケット部28を用いた場合の、冷却シミュレーションの一例について説明する。本シミュレーションにおいては、冷却管路42a,42bに対して合計3t/hの冷却水(30℃)を供給した。この場合、冷却管路42aを通過した冷却水は、37.4℃となり、冷却管路42bを通過した冷却水は、42.92℃となった。すなわち、冷却管路42aでは、冷却水の温度変化ΔT1が、7.4℃であり、冷却管路42bでは、冷却水の温度変化ΔT2が、12.92℃であった。この点、ウォータジャケット部28に1本の冷却管路のみを設けた場合には、温度変化ΔTが20℃以上となることを考慮すると、上記のような冷却管路42a,42bを用いることで、冷却効率が向上されていることがわかる。勿論、冷却管路を一切設けない従来のランス口構造体と比較しても、本実施形態のウォータジャケット部28の冷却効果は高い。
【0034】
図4に戻り、ウォータジャケット部28の下端面及び内周面の下側部分(図4において太線にて示している部分)には、インコネル(スペシャルメタル社の商品名)29がコーティング(クラッディング(肉盛り))されている。なお、インコネルは、インコネル棒を熱して溶かした後、ウォータジャケット部28の表面に溶射することでクラッディングすることができる。なお、インコネル29の厚さは、例えば、3mmである。
【0035】
ここで、インコネル29は、ニッケル(Ni)をベースとした材料であり、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)等の合金元素量の差異によって、インコネル600、インコネル625、インコネル718、インコネル750X等に分けられる。インコネルは、耐熱性、耐蝕性、耐酸化性、耐クリープ製などの高温特性に優れた材料である。したがって、本実施形態のようにインコネル29をウォータジャケット部28の表面に設けることで、ウォータジャケット部28を長寿命化することが可能となる。
【0036】
なお、図4では、インコネル29をウォータジャケット部28の内周面の下側部分に設けることとしているが、これは、ウォータジャケット部28の当該部分が、SO2に対して頻繁に晒されるからである。しかしながら、これに限らず、インコネルを、ウォータジャケット部28の内周面全域に設けることとしても良い。また、ウォータジャケット部28の外周面にもインコネルを設けることとしてもよい。
【0037】
また、ウォータジャケット部28の内周面にコーティングする材料としては、インコネルに限らず、その他のNi−Cr系合金、Ni−Cr−Co系合金を採用することとしても良い。また、高温特性等に優れたその他の材料を用いることとしても良い。
【0038】
SUS部30は、図3及び図4に示すように、筒状部30aと、筒状部30aの上端部に設けられた上側フランジ部30bと、筒状部30aの下端部に設けられた下側フランジ部30cと、を有する。筒状部30aは、SUS部30の平面図である図5(b)に示すように、平面視略楕円形(オーバル状、レーストラック状)の形状を有している。また、上側フランジ部30bも、図5(b)に示すように、平面視略楕円形(オーバル状、レーストラック状)の形状を有しており、下側フランジ部30cも、不図示ではあるが、同様の形状を有している。なお、SUS部30の中央開口部分は、ランス2(及びノズル4)が通過可能な程度の開口径を有している。すなわち、SUS部30の中央開口部分は、前述したランス口112(図2参照)として機能する。
【0039】
SUS部30の材料としては、従来のランス口構造体の材料としても用いられていた、SUS316Lなどを用いることができる。SUS316Lは、オーステナイト系ステンレスの代表的な鋼種であり、耐食性、靭性、延性、加工性、溶接性に優れている。また、SUS316Lは、クロムニッケル系ステンレス鋼であり、主成分は18%のクロム(Cr)と、12%のニッケル(Ni)と、2.5%のモリブデン(Mo)と、0.03%以下の炭素(C)であり、金属組織は耐食性に優れるオーステナイトを呈している。
【0040】
SUS部30は、図3、図4に示すように、環状(平面視略楕円形(オーバル状、レーストラック状))のパッキン部材46を、下側フランジ部30cとウォータジャケット部28の上端面との間に介在させた状態で、ウォータジャケット部28にボルト等により固定される。すなわち、SUS部30は、パッキン部材46を介して、ウォータジャケット部28のランス2が侵入してくる側の端部に、ボルト等により固定されているともいえる。なお、パッキン部材46としては、耐熱性、耐蝕性が高い材料、例えば、商品名PA−PCなどを用いることができる。
【0041】
蓋部材32は、ランス2が自溶炉100の外部に退避しているときに、自溶炉100内からの排ガスの噴出、及び自溶炉100内へのフリーエアーの進入を防止するために、ランス口112を閉塞する部材である。この蓋部材32は、SUS部30の側面に設けられた回転軸48に取付けられている。回転軸48は、不図示のエアシリンダによって回転され、当該回転軸48の回転により、蓋部材32が、図3の破線の状態と実線の状態との間で遷移するようになっている。
【0042】
以上のように構成されるランス口構造体20では、通常は、図3において破線にて示すように、蓋部材32が、ランス口112を閉塞した状態を維持する。そして、ランス2を用いた融着ダストの還元溶解を行うタイミングにおいて、エアシリンダを介して回転軸48が回転されることで、図3において実線にて示すように、蓋部材32が、ランス口112を開放する。その後、炉内付着物除去装置50では、図2に示すように、ランス口112を介して、自溶炉100内にランス2のノズル4を侵入させ、ノズル4から還元剤(炭材粉)を自溶炉100の内壁に向けて吹き付ける。この吹き付けが完了した後は、自溶炉100内及びランス口112内からランス2を退避させるとともに、エアシリンダを介して回転軸48を回転させることで、図3に破線で示すように、蓋部材32によりランス口112を閉塞する。なお、上記の動作は、コンピュータ等を用いて自動的に行うこととしても良いし、人の操作の下、行うこととしても良い。
【0043】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、自溶炉100のアップテイク103の天井部に設けられたウォータジャケット部28が、ランス2が侵入可能な大きさのランス口112を形成する筒状形状を有しており、ウォータジャケット部28の周壁内には、冷却水の流通が可能な冷却管路42a,42bが設けられているので、冷却管路42a,42b内に冷却水を流通させることで、ウォータジャケット部28の熱負荷による損傷を抑制することができる。また、ウォータジャケット部28の周辺に存在する部材(自溶炉100の一部構成部材)の熱負荷による損傷も抑制することができる。これにより、ウォータジャケット部28及びランス口112近傍の構造部材の長寿命化を図り、長期にわたってガス漏洩及び廃酸発生率の悪化を抑制することが可能である。例えば、従来においては、ランス口構造体及びその周辺の部材の寿命として3年程度が見込まれていたところ、本実施形態のランス口構造体を採用することで、寿命を6年程度まで延ばすことが期待できる。
【0044】
また、ウォータジャケット部28は、複数の周壁部材38a,38bを複数結合した構造を有するので、ウォータジャケット部28の製造(例えば、鋳造)を行う製造装置の小型化を図ることができる。また、ウォータジャケット部28を現場(自溶炉100が設置される工場など)において組み立てることもできるので、搬送の容易化、スペース効率の向上、及び組み立て作業の高効率化を図ることができる。
【0045】
また、本実施形態では、ウォータジャケット部28の少なくとも一部が、耐熱性かつ耐蝕性の材料(インコネル29)でコーティング(クラッディング)されているので、ウォータジャケット部28を長寿命とすることができる。
【0046】
また、本実施形態では、ウォータジャケット部28の自溶炉100外の位置に、パッキン部材46を介してSUS部30を設けている。したがって、ランス口構造体の全てを銅製のウォータジャケット部とするような場合と比較して、ランス口構造体20を安価にて製造することができる。また、SUS部30は、ウォータジャケット部28の自溶炉100外の位置という、比較的熱の影響が少ない位置に設けられているので、SUS部30を採用することによる寿命の短縮という事態もほとんど生じない。また、SUS部30とウォータジャケット部28との間には、パッキン部材46が設けられているので、SUS部30とウォータジャケット部28との隙間を介したガス漏洩や、フリーエアーの侵入などが発生するのを抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態では、ランス口構造体20が、蓋部材32を備えているので、ランス2を用いた作業を行っていない間における、ランス口112を介した自溶炉100内外の気体の流通を抑制することができる。
【0048】
なお、上記実施形態では、ウォータジャケット部28の内部に冷却管路42a,42bを埋め込む場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、ウォータジャケット部28(周壁部材38a,38b)の鋳造の際に、冷却管路42a,42bと同様の冷却媒体の通路を作りこむこととしても良い。
【0049】
また、上記実施形態では、各周壁部材38a,38bにおける冷却管路の本数を2本としたがこれに限られるものではなく、冷却管路の本数は任意である。また、冷却管路の形状や配置、冷却水を流す方向についても任意に設定することができる。
【0050】
また、上記実施形態では、ウォータジャケット部28が、2つの周壁部材38a,38bを組み合わせた構造を有する場合について説明したが、これに限れるものではなく、周壁部材は3つ以上あっても良い。また、ウォータジャケット部28は、一体物であっても良い。
【0051】
なお、上記実施形態では、SUS部30の材料がSUS316Lである場合について説明したが、これに限らず、SUS部30の材料としては、銅以外の種々の材料を用いることができる。また、SUS部30については、ランス口構造体の構成から、省略しても良い。この場合、蓋部材32は、ウォータジャケット部28に設けることとすればよい。
【0052】
また、上記実施形態では、冷却媒体として、冷却水を用いることとしたが、これに限られるものではなく、その他の冷却媒体を用いることとしてもよい。なお、上記実施形態では、還元剤として炭材粉を用いることとしたが、これに限らず、還元剤としては、粉コークスを用いることとしてもよい。
【0053】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0054】
2 ランス
20 ランス口構造体
28 ウォータジャケット部(構造体本体)
29 インコネル
30 SUS部(筒状部材)
32 蓋部材
38a,38b 周壁部材
42a,42b 冷却管路
46 パッキン部材
100 自溶炉
112 ランス口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製錬用の自溶炉の内壁に付着する融着物に向けて還元剤を吹き付けるランスを前記自溶炉内へ挿入するためのランス口を、前記自溶炉のアップテイク部の炉天井に形成する、ランス口の構造体であって、
前記自溶炉のアップテイク部の炉天井に設けられ、前記ランスが侵入可能な大きさのランス口を形成する筒状の周壁を有する構造体本体と、
前記構造体本体の前記周壁内に設けられた、冷却媒体の流通が可能な冷却管路と、を備えるランス口の構造体。
【請求項2】
前記構造体本体は、前記周壁の一部を形成する周壁部材を複数結合した構造を有することを特徴とする請求項1に記載のランス口の構造体。
【請求項3】
前記構造体本体の少なくとも一部は、耐熱性かつ耐蝕性の材料でコーティングされていることを特徴とする請求項1又は2に記載のランス口の構造体。
【請求項4】
前記耐熱性かつ耐蝕性の材料は、Ni−Cr系合金及びNi−Cr−Co系合金のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載のランス口の構造体。
【請求項5】
前記構造体本体の周壁の前記ランスが侵入してくる側の端部に設けられ、前記構造体本体とは異なる材料で形成された、前記ランスが侵入可能な大きさの開口を有する筒状部材と、
前記筒状部材と前記構造体本体との間に設けられ、前記筒状部材と前記構造体本体との間における気体の流通を遮断する環状のパッキン部材と、を更に備える請求項1〜4のいずれか一項に記載のランス口の構造体。
【請求項6】
前記構造体本体の材料は、銅であり、
前記筒状部材の材料は、オーステナイト系ステンレスであることを特徴とする請求項5に記載のランス口の構造体。
【請求項7】
前記構造体本体と前記レンガとの間には、不定形耐火物が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のランス口の構造体。
【請求項8】
前記構造体本体のランス口を介した、前記自溶炉内外の気体の流通を抑制する蓋部材を更に備える、請求項1〜7のいずれか一項に記載のランス口の構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−67372(P2012−67372A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215129(P2010−215129)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】