説明

リチウムイオン二次電池

【課題】良好なサイクル特性を有し、電池寿命を延長し得るリチウムイオン二次電池を、提供する。
【解決手段】正極集電体28と、正極集電体28に電気的に接触し、リチウムを挿入および脱離可能な活物質を含有する正極層22と、非水電解液を含有する電解質層42と、リチウムを挿入および脱離可能な活物質を含有する負極層32と、負極層32に電気的に接触している負極集電体38と、が順次積層されており、積層方向Lに対して直交する横方向Hに関し、負極層32は、負極集電体に対して可動である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池においては、充電時、リチウムイオンが正極から負極に移動し、放電時、リチウムイオンが負極から正極に移動することより、活物質が膨張収縮し、集電体に対し機械的なストレスが付加される。機械的なストレスは、集電体の変形や破断を引き起こし、サイクル特性の劣化による電池寿命を低下させる虞がある。そのため、集電体に平面異方性を有する形状の孔部を多数設けることで、活物質の膨張収縮を異方的に吸収している(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−32524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、活物質の膨張収縮は、縦方向だけでなく横方向にも発生するため、孔部の存在による吸収効果は、十分ではなく、例えば、集電体の降伏応力を超える横方向の引っ張り応力が生じ、集電体を塑性変形させることにより、集電体の変形や破断を引き起こし、サイクル特性の劣化による電池寿命を低下させる問題を有している。
【0005】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、良好なサイクル特性を有し、電池寿命を延長し得るリチウムイオン二次電池を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、正極集電体と、前記正極集電体に電気的に接触し、リチウムを挿入および脱離可能な活物質を含有する正極層と、非水電解液と、リチウムを挿入および脱離可能な活物質を含有する負極層と、前記負極層に電気的に接触している負極集電体と、が順次積層されて構成されるリチウムイオン二次電池である。そして、積層方向に対して直交する横方向に関し、前記正極層は、前記正極集電体に対して可動であり、および/又は、前記負極層は、前記負極集電体に対して可動である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、正極層および負極層の少なくとも一方の電極層が、集電体から独立して横方向に可動(接触はしているが、接着していない状態)であるため、リチウムイオンの移動に伴って活物質が膨張収縮し、横方向の引っ張り応力が生じる場合、せん断力が摩擦に勝つことにより、集電体に対して電極層は横方向に移動する(ずれる)。これにより、集電体の変形や破断が抑制されるため、サイクル特性の劣化による電池寿命の低下が避けられる。したがって、良好なサイクル特性を有し、電池寿命を延長し得るリチウムイオン二次電池を、提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明するための斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明するための断面図である。
【図3】図2に示される負極層を説明するための断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る変形例1を説明するための断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る変形例2を説明するための平面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る変形例3を説明するための平面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る変形例4を説明するための断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る変形例5を説明するための断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る変形例6を説明するための平面図である。
【図10】本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の性能評価結果を説明するための図表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明するための斜視である。
【0011】
リチウムイオン二次電池10は、積層型の非水電解質二次電池であり、外装ケース16、外装ケース16の内部に配置される電池本体部、正極端子プレート12および負極端子プレート14を有する。
【0012】
外装ケース16は、外部からの衝撃や環境劣化を防止するために使用されており、シート材の外周部の一部または全部を、熱融着により接合することで形成される。シート材は、軽量化および熱伝導性の観点から、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銅などの金属(合金を含む)をポリプロピレンフィルム等の絶縁体で被覆した高分子−金属複合ラミネートフィルムから構成されることが好ましい。
【0013】
端子プレート12,14は、高導電性部材からなり、外装ケース16の内部から外部に向かって延長しており、電池本体部から電流を引き出すために使用される。高導電性部材は、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス、これらの合金である。端子プレート12,14は、例えば、耐熱絶縁性の熱収縮チューブにより被覆することで、周辺機器(例えば、自動車部品、特に電子機器等)や配線などへの電気的接触を、確実に防止することが好ましい。
【0014】
図2は、本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明するための断面図である。
【0015】
電池本体部は、複数の単電池からなる電池要素20によって構成される。電池要素20は、正極層22、正極集電体28、負極層32、負極集電体38、電解質層42、負極リード46および正極リード44を有する。
【0016】
正極層22は、リチウムを挿入および脱離可能な正極活物質を含有し、正極集電体28の両面に配置され、正極集電体28に電気的に接触している。負極層32は、リチウムを挿入および脱離可能な負極活物質を含有し、負極集電体38の両面に配置され、負極集電体38に電気的に接触している。
【0017】
電解質層42は、例えば、非水電解液を含有するセパレータからなり、正極層22と負極層32との間に配置される。セパレータは、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔性シート(膜)である。
【0018】
電池要素20は、正極層22、正極集電体28、正極層22、電解質層42、負極層32、負極集電体38、負極層32、電解質層42、正極層22・・・の順で積層することを繰返すことにより、構成されている。また、隣接する正極層22、電解質層42および負極層32により、1つの単電池層が構成される。
【0019】
正極リード44は、高導電性部材からなり、正極集電体28と連続的に一体化している一端部と、外部に導出される正極端子プレート12に固定される他端部とを有し、正極集電体28と正極端子プレート12とを電気的に接続するために使用される。負極リード46は、高導電性部材からなり、負極集電体38と連続的に一体化している一端部と、外部に導出される負極端子プレート14に固定される他端部とを有し、負極集電体38と負極端子プレート14とを電気的に接続するために使用される。固定方法は、例えば、超音波溶接や抵抗溶接が適用される。
【0020】
正極層22が含有する正極活物質としては、容量および出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物を適用することが好ましい。リチウム−遷移金属複合酸化物は、例えば、LiCoOなどのLi・Co系複合酸化物、LiNiOなどのLi・Ni系複合酸化物、スピネルLiMnなどのLi・Mn系複合酸化物、LiFeOである。
【0021】
負極層32が含有する負極活物質としては、容量および出力特性の観点から、炭素材料および合金系負極材料を適用することが好ましい。炭素材料は、例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバ、コークス、ソフトカーボン、ハードカーボンである。
【0022】
合金系負極材料は、例えば、ケイ素、酸化ケイ素、二酸化錫、炭化ケイ素、錫であり、リチウムと合金化し得る元素を含むことが好ましい。リチウムと合金化し得る元素を含む合金系材料からなる負極活物質は、合金化しない負極活物質と比べて、膨張率が大きいため、負極層の可動性が向上するためである。
【0023】
正極層22および負極層32は、バインダや導電助剤等の添加剤をさらに含有する。
【0024】
バインダは、例えば、ポリアミック酸、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの混合物である。
【0025】
導電助剤は、正極層22および負極層32の導電性を向上させるために配合される添加物であり、例えば。アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料である。
【0026】
正極集電体28および負極集電体38の素材は、例えば、鉄、ステンレス鋼、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金およびカーボンである。電子伝導性、電池作動電位という観点からは、アルミニウムや銅が好ましい。
【0027】
電解質層42が含有する非水電解液は、例えば、液体電解質、ポリマー電解質である。
【0028】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として適用される有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状カーボネート類である。支持塩は、例えば、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩や、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩である。
【0029】
ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0030】
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、液体電解質が注入されてなる構成を有する。イオン伝導性ポリマーは、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体である。
【0031】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まないため、電池からの液漏れが抑制される。
【0032】
図3は、図2に示される負極層を説明するための断面図である。
【0033】
負極層32は、非水電解液側に配置され、負極活物質を含有する活物質層33と、集電体側に配置され、充放電に寄与していない電子伝導性層34とを有する。電子伝導性層34は、金属から構成され、電気的に接触している負極集電体38に対し、積層方向Lに対して直交する横方向Hに関し、可動である。
【0034】
負極層32は、負極集電体38から独立して横方向に可動(接触はしているが、接着していない状態)であるため、リチウムイオンの移動に伴って負極活物質が膨張収縮し、横方向の引っ張り応力が生じる場合、せん断力が摩擦に勝つことにより、負極集電体38に対して負極層32は横方向に移動する(ずれる)。これにより、例えば、負極活物質として酸化ケイ素を使用し、リチウムイオン二次電池10の高容量化を図る場合であっても、負極集電体38の変形や破断が抑制されるため、サイクル特性の劣化による電池寿命の低下が避けられる。
【0035】
活物質の膨張率は、正極層22に比較し、負極層32が総じて大きいため、負極層32のみを横方向Hに関し可動とすることで、構造を単純化しながらも、集電体の変形や破断を効率的に抑制することが可能である。
【0036】
電子伝導性層34は、集電体側に配置されているため、負極集電体38との電気的接触を良好に維持することが可能である。
【0037】
電子伝導性層34が金属から構成されるため、良好な電子伝導性を容易に得ることが可能である。
【0038】
負極集電体38のサイズは、可動である負極層32のサイズより大きく、横方向に移動する負極層32がはみでないように、設定されている。したがって、可動である負極層32は、横方向Hに移動しても、対応する負極集電体38からはみでることはなく、接触が確実に保たれ、また、破断も防止することが可能である。
【0039】
図4は、本発明の実施形態に係る変形例1を説明するための断面図である。
【0040】
可動である電極層は、負極層32に限定されず、正極層22を可動とすることも可能である。この場合、負極層32と同様に、非水電解液側に配置され、正極活物質を含有する活物質層23と、集電体側に配置され、充放電に寄与していない電子伝導性層24とを、正極層22が有するように構成する。
【0041】
これにより、正極層22は、正極集電体28から独立して横方向Hに可動(接触はしているが、接着していない状態)であるため、リチウムイオンの移動に伴って正極活物質が膨張収縮し、横方向の引っ張り応力が生じる場合、せん断力が摩擦に勝つことにより、正極集電体28に対して正極層22は横方向Hに移動する(ずれる)。これにより、正極集電体28の変形や破断が抑制されるため、サイクル特性の劣化による電池寿命の低下が避けられる。なお、必要に応じ、正極層22のみを可動とすることも可能である。
【0042】
図5および図6は、本発明の実施形態に係る変形例2および変形例3を説明するための平面図である。
【0043】
電子伝導性層34は、平坦な金属プレートによって構成する形態に限定されず、必要に応じて、貫通孔35を有するように構成することも可能である。貫通孔35は、例えば、図5に示される発泡金属や、図6に示されるエキスパンドメタルを適用することで、形成することも可能である。なお、貫通孔35は、機械加工によって、形成することも可能である。
【0044】
図7は、本発明の実施形態に係る変形例4を説明するための断面図である。
【0045】
可動である負極層32と負極集電体38との間に、金属リチウムを含有する層(金属リチウム含有層)34を配置することも可能である。この場合、非水電解液の注液時において、金属リチウム含有層からのリチウムイオンが、負極層32に含有される負極活物質にドープされるので、リチウムイオン二次電池10の充放電効率を向上させることが可能である。また、金属リチウムは、ずり応力が小さく、横方向に強い力がかかると、簡単に可動を許すため、負極層32の可動性が向上する。なお、金属リチウム含有層を配置する方法は、特に限定されないが、例えば、負極集電体38に対するリチウムの蒸着を適用することが可能である。
【0046】
負極層32の電子伝導性層34は、貫通孔35を有することが好ましい。非水電解液の注液時において、金属リチウム含有層からのリチウムイオンが、貫通孔35を通過するため、負極層32に含有される負極活物質に、容易にドープすることが可能であるためである。
【0047】
図8は、本発明の実施形態に係る変形例5を説明するための断面図である。
【0048】
可動である負極層32の電子伝導性層は、金属から構成される形態に限定されず、必要に応じて、導電性弾性体を適用することも可能である。この場合、可動である負極層32は、導電性弾性体から構成される電子伝導性層34Aを有するため、負極活物質の膨張収縮によって引き起こされる亀裂を、容易に抑制することが可能である。導電性弾性体は、例えば、微多孔性ポリエチレン等の導電性ポリマーである。
【0049】
図9は、本発明の実施形態に係る変形例6を説明するための平面図である。
【0050】
可動である負極層32は、複数に分割され(例えば、矩形状で4分割)、電気的に接触している負極集電体38の表面に、互いに離間して間欠的に配置することも可能である。この場合は、負極層32A〜32Dの内側に隙間Sが存在し、当該隙間に向かって移動(膨張)することができるため、外側への移動量を抑制することが可能である。なお、負極層32の分割数および分割形状、隙間Sの幅は、適宜設定することが可能である。
【0051】
図10は、本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の性能評価結果を説明するための図表である。
【0052】
初期充放電を実行した後における放電容量維持率およびゆがみに関し、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の性能評価を実施した。
【0053】
初期充放電においては、(1)一定電流(0.1C)で4.2Vまで充電後、4.2Vで保持するトータル12時間の充電、(2)開放状態で30分の放電休止、(3)一定電流(0.1C)で2.5Vまで放電(カットオフ)、(4)開放状態で30分の放電休止を、順次実施した。
【0054】
ゆがみは、外観観察で評価した。
【0055】
放電容量維持率は、50回および100回のサイクル試験後における初期の放電容量に対する容量変化の比率で評価した。サイクル試験の1サイクルにおいては、(1)一定電流(0.5C)で4.2Vまで充電後、4.2Vで保持するトータル4時間の充電、(2)開放状態で30分の放電休止、(3)一定電流(0.5C)で2.5Vまで放電(カットオフ)、(4)開放状態で30分の放電休止を、順次実施した。
【0056】
次に、性能評価に適用された実施例1〜6および比較例の構成を説明する。
【0057】
(実施例1)
実施例1に係る電子伝導性層は、図3に示される電子伝導性層のように、負極層にのみ配置されており、以下、実施例1の作成方法を順次説明する。
【0058】
<負極スラリーの調製>
粒子径2μmの酸化ケイ素およびバインダとなるポリイミドの前駆体であるポリアミック酸を含む溶液を用意した。次いでNMP(N−メチル−2−ピロリドン)をスラリー粘度調製溶媒として用い、酸化ケイ素、およびポリアミック酸を含む溶液を加え、負極スラリーを調製した。混合比は、質量比で酸化ケイ素:ポリアミック酸=85:15であった。
【0059】
<負極層の作製>
調製された負極スラリーを、厚さ20μmのアルミニウム箔上にドクターブレードを使用して塗布した。負極スラリーとアルミニウム箔との積層体を、80℃で10分間で保持してNMPを蒸発させた後、120℃で5時間真空乾燥した。そして、120℃の条件下で、厚さ20μmの微多孔性ポリエチレン膜(電子伝導性層)に転写し、負極層を得た。なお、微多孔性ポリエチレン膜は、空孔率が32%であり、平均粒径0.1μmのケッチェンブラック(導電剤)を含有していた。
【0060】
<負極シートの作製>
作成された負極層を、20mm×100mmになるように切り出し、これを、2枚用意した。また、厚さ20μmの圧延銅箔(集電体)を、60mm×115mmに切り出した。
【0061】
両面負極シートは、圧延銅箔の両面に、負極層を短軸側が5mmずつ、長軸側はタブ部とは反対側の端から10mmになるように配置して、作製した。また。圧延銅箔と負極層とは、タブ溶接部側の負極層部分のコーナー部を、ポリイミドフィルム(例えば、カプトン(登録商標))によって圧延銅箔に固定した。片面負極シートは、圧延銅箔の両面に負極層を短軸側が5mmずつ、長軸側は端からそれぞれ5mm、10mmになるように配置して、作製した。圧延銅箔における10mm側は、タブ用溶接部分である。なお、タブは、負極リード(負極端子プレート)に対応する。
【0062】
<正極シートの作製>
正極活物質としてニッケル酸リチウムと導電助剤としてアセチレンブラックとバインダとなるPVdFを用意した。次いでNMPを溶媒として用い、ニッケル酸リチウム、アセチレンブラック、PVdFを加え、正極スラリーを調製した。混合比は、質量比でニッケル酸リチウム:アセチレンブラック:PVdF=90:5:5であった。
【0063】
調製した正極スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体)上に塗布した。得られた正極スラリーとアルミニウム箔との積層体を、80℃で乾燥した後で、室温(25℃)で、プレスを実行し、空孔率が35%になるように調整した。そして、100℃で5時間真空乾燥し、幅49mm、塗布部長さ99mm、未塗布部分が10mmになるように切り出し、未塗布部をタブ用溶接部分とした正極シートを得た。タブは、正極リード(正極端子プレート)に対応する。
【0064】
<電解液の調製>
ECおよびDECを50:50の体積比で混合し、電解液の可塑剤(有機溶媒)とした。次いで、この可塑剤に、リチウム塩であるLiPFを、1Mの濃度になるように添加して、電解液を調製した。
【0065】
<セパレータの作製>
ポリプロピレンシートを、62mm×102mmに切り出し、セパレータとした。ポリプロピレンシートは、厚さ25μmかつ空孔率30%である。
【0066】
<評価用二次電池の組立て>
負極シートおよび正極シートに、ニッケル箔およびアルミニウム箔をそれぞれ溶接し、リード(端子プレート)に対応するタブを形成した。ニッケル箔およびアルミニウム箔は、変性ポリプロピレンからなる樹脂が先付けされており、厚さ300μm、幅60mmかつ長さ50mmである。
【0067】
正極シート、ポリプロピレンセパレータ、負極シート、ポリプロピレンセパレータ、正極シートを、この順で積層した。なお、負極シートのタブと正極シートのタブとが、反対側に位置するように、負極シートおよび正極シートを位置決めしている。その後、アルミニウムラミネートフィルム(外装ケース)中に配置し、調整した電解液を注液して、タブの先付けの樹脂部位置で真空シールすることで、評価用二次電池を完成させた。
【0068】
(実施例2)
実施例2は、変形例2に概して対応しており、電子伝導性層として、空孔率70%かつ厚さ100μmの発泡銅箔(図5参照)が適用され、負極層の作製の際の真空乾燥条件が、350℃で5時間である点で、実施例1と異なっている。
【0069】
(実施例3)
実施例3は、変形例3に概して対応しており、電子伝導性層として、発泡銅箔の代わりに、エキスパンドメタル(図6参照)を使用した点で、実施例2と異なっている。
【0070】
(実施例4)
実施例4は、電子伝導性層として、発泡銅箔の代わりに、厚さ10μmの圧延銅箔を使用した点で、実施例2と異なっている。
【0071】
(実施例5)
実施例5は、変形例6(図9参照)に概して対応しており、可動である負極層は、4分割されており、以下に示すように負極シートの作製に関し、実施例1と異なっている。
【0072】
<負極シートの作製>
実施例3と同様に作製した負極層を、24.5mm×49mmになるように切り出し、これを、8枚用意した。また、実施例1と同様に、厚さ20μmの圧延銅箔(集電体)を、60mm×115mmに切り出した。
【0073】
両面負極シートは、圧延銅箔の両面(裏および表)に、負極層をそれぞれ4枚ずつ配置して、作製した。この際、各面において、4枚の分割負極層を短軸側が5mmずつ、長軸側はタブ溶接部とは反対側の端から5mmになるように配置した。また、分割電極層の4つのコーナー部のうち、圧延銅箔の4つのコーナー部に近い1つのコーナー部のみを、ポリイミドフィルムで固定した。
【0074】
(実施例6)
実施例6は、変形例4に概して対応しており、エキスパンドメタル(電子伝導性層)と圧延銅箔(集電体)との間に、金属リチウム含有層36(図7参照)をさらに有する点で、実施例3と異なっている。金属リチウム含有層は、圧延銅箔に、厚さ5μm、幅50mmかつ長さ100mmになるようにリチウムを蒸着することにより、形成した。
【0075】
(比較例)
比較例は、電子伝導性層を有しておらず、以下に示すように負極層の作製および負極シートの作製に関し、実施例1と異なっている。
【0076】
<負極層の作製>
実施例1と同様に作製した負極スラリーを、実施例1と同様に作製した厚さ20μmの圧延銅箔(集電体)上に、ドクターブレードを使用して塗布した。負極スラリーと圧延銅箔との積層体を、80℃で10分間で保持してNMPを蒸発させた。その後、裏面にも同様に負極スラリーを塗布した後、350℃で5時間真空乾燥し、負極層を得た。
【0077】
<負極シートの作製>
作成された負極層を、塗布部が幅50mm×長さ100mm、未塗布部が幅50mm×長さ10になるように切り出し、負極シートとした。
【0078】
次に、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の性能評価結果を説明する。
【0079】
図10に示されるように、実施例1〜6に関し、50サイクル後の放電容量維持率(%)は、63〜75、100サイクル後の放電容量維持率(%)は、55〜71である。一方、比較例に関し、50サイクル後の放電容量維持率(%)は、48、100サイクル後の放電容量維持率(%)は、12である。つまり、実施例1〜6は、比較例と異なり、良好な放電容量維持率を有し、かつ、その差異は、サイクル数の増加に伴って顕著となっている。
【0080】
また、ゆがみに関し、比較例のみに発生しており、実施例1〜6は、良好な結果を示している。
【0081】
以上のように、本実施の形態において、正極層および負極層の少なくとも一方の電極層が、集電体から独立して横方向に可動(接触はしているが、接着していない状態)であるため、リチウムイオンの移動に伴って活物質が膨張収縮し、横方向の引っ張り応力が生じる場合、せん断力が摩擦に勝つことにより、集電体に対して電極層は横方向に移動する(ずれる)。これにより、集電体の変形や破断が抑制されるため、サイクル特性の劣化による電池寿命の低下が避けられる。したがって、良好なサイクル特性を有し、電池寿命を延長し得るリチウムイオン二次電池を、提供することが可能である。
【0082】
活物質の膨張率は、正極層に比較し、負極層が総じて大きいため、負極層のみを横方向に関し可動とする場合、構造を単純化しながらも、集電体の変形や破断を効率的に抑制することが可能である。
【0083】
電子伝導性層は、集電体側に配置されているため、負極集電体との電気的接触を良好に維持することが可能である。
【0084】
電子伝導性層を金属から構成する場合、良好な電子伝導性を容易に得ることが可能である。一方、電子伝導性層を導電性弾性体から構成する場合、負極活物質の膨張収縮によって引き起こされる亀裂を、容易に抑制することが可能である。
【0085】
負極集電体のサイズは、可動である負極層のサイズより大きく、横方向に移動する負極層がはみでないように、設定されている。したがって、可動である負極層は、横方向に移動しても、対応する負極集電体からはみでることはなく、接触が確実に保たれ、また、破断も防止することが可能である。
【0086】
可動である負極層を、複数に分割し、電気的に接触している負極集電体表面に、互いに離間し配置する場合は、負極層の内側に隙間が存在し、当該隙間に向かって移動(膨張)することができるため、外側への移動量を抑制することが可能である。
【0087】
可動である負極層に含まれる負極活物質は、リチウムと合金化し得る元素を含む合金系材料からなることが好ましい。リチウムと合金化し得る元素を含む合金系材料からなる負極活物質は、合金化しない負極活物質と比べて、膨張率が大きいため、負極層の可動性が向上するためである。
【0088】
可動である負極層と負極集電体との間に、金属リチウム含有層を配置することも可能である。この場合、非水電解液の注液時において、金属リチウム含有層からのリチウムイオンが、負極層に含有される負極活物質にドープされるので、リチウムイオン二次電池の充放電効率を向上させることが可能である。また、金属リチウムは、ずり応力が小さく、横方向に強い力がかかると、簡単に可動を許すため、負極層の可動性を向上させることが可能である。
【0089】
また、金属リチウム含有層を配置する場合、負極層の電子伝導性層は、貫通孔を有することが好ましい。非水電解液の注液時において、金属リチウム含有層からのリチウムイオンが、貫通孔を通過するため、負極層に含有される負極活物質に、容易にドープすることが可能であるためである。
【0090】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲で種々改変することができる。例えば、変形例1〜5を適宜組み合わせることが可能である。また、双極型二次電池に適用することも可能である。この場合、例えば、集電体材料として、ステンレスや、アルミニウムと銅とを接着させて構成されるクラッド材を、適用する。
【符号の説明】
【0091】
10 リチウムイオン二次電池、
12 正極端子プレート、
14 負極端子プレート、
16 外装ケース、
20 電池要素、
22 正極層、
23 活物質層、
24 電子伝導性層、
28 正極集電体、
32,32A 負極層、
33 活物質層、
34,34A 電子伝導性層、
35 貫通孔、
38 負極集電体、
42 電解質層、
44 正極リード、
46 負極リード、
50 組電池、
H 横方向、
L 積層方向、
S 隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、
前記正極集電体に電気的に接触し、リチウムを挿入および脱離可能な活物質を含有する正極層と、
非水電解液と、
リチウムを挿入および脱離可能な活物質を含有する負極層と、
前記負極層に電気的に接触している負極集電体と、
が順次積層されており、
積層方向に対して直交する横方向に関し、前記正極層は、前記正極集電体に対して可動であり、および/又は、前記負極層は、前記負極集電体に対して可動である
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
可動である前記正極層および/又は前記負極層に、電気的に接触している前記正極集電体および/又は前記負極集電体のサイズは、前記横方向に移動する前記正極層および/又は前記負極層がはみでないように、設定されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
可動である前記正極層および/又は前記負極層は、複数に分割され、電気的に接触している前記正極集電体および/又は前記負極集電体の表面に、互いに離間して配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
可動である前記正極層および/又は前記負極層は、
非水電解液側に配置され、前記活物質を含有する活物質層と、
集電体側に配置され、電気的に接触している前記正極集電体および/又は前記負極集電体に対して可動であり、充放電に寄与しない電子伝導性層と、
を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記電子伝導性層は、金属から構成されることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記電子伝導性層は、導電性弾性体から構成されることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記負極層のみが、前記横方向に関し可動であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池
【請求項8】
可動である前記負極層に含まれる活物質は、リチウムと合金化し得る元素を含む合金系材料からなることを特徴とする請求項7に記載のリチウムイオン二次電池
【請求項9】
金属リチウムを含有する層をさらに有し、当該層は、可動である前記負極層と前記負極集電体との間に配置されることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
可動である前記負極層は、非水電解液側に配置され、前記活物質を含有する活物質層と、負極集電体側に配置され、前記負極集電体に対して可動であり、充放電に寄与しない電子伝導性層と、を有し、
前記電子伝導性層は、貫通孔を有する
ことを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−48991(P2011−48991A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195695(P2009−195695)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】