説明

リチウムイオン二次電池

【課題】電極体の湾曲部における活物質の剥がれを抑制でき電池性能を確保する上で有利なリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池の電極体12は、幅よりも大きな長さを有する帯状の正極20と負極22とが幅よりも大きな長さを有する帯状セパレータ24、26を介在させて重ね合わされ複数回巻回され、断面が扁平な長円形状を呈している。電極体12は、長円形状の長手方向の両端が湾曲部36となっている。湾曲部36を構成する正極20の部分、負極22の部分、セパレータ24の部分に、それぞれ幅方向に延在する凸部と凹部とが前記長さ方向に交互に繰り返して複数設けられた波形構造38が湾曲部36の全長にわたって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを駆動源とした電気自動車やハイブリッド自動車においてモータに電力を供給するバッテリとして、扁平な電極体が例えば矩形板状の角型容器に収容されたリチウムイオン二次電池が多く使用されている。
電極体は、帯状の正極と、帯状の負極とが、帯状のセパレータを介して重ね合わせて巻回され断面が扁平な長円形状を呈している。
正極は、正極集電箔とその両面に形成された正極活物質とを有しており、負極は、負極集電箔とその両面に形成された負極活物質とを有している。
このように構成されたリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンが正極から負極に移動することで充電がなされ、リチウムイオンが負極から正極に移動することで放電がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−152581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、電極体は、長円形状の長手方向の両端が湾曲部となっている。
そのため、正極、負極、セパレータの巻回時、湾曲部において引っ張り方向の応力が作用しやすく、また、充電動作および放電動作による温度上昇による膨張収縮による応力も湾曲部に作用しやすい。
このような応力の作用が顕著になると、正極活物質および負極活物質が割れて正極集電箔および負極集電箔から部分的に剥がれることがある。この結果、充電あるいは放電に寄与する正極活物質および負極活物質が減少し導電性が低下するため、電池の性能が低下してしまう。
活物質の割れや剥がれを防止する対策として、集電箔の全域に複数の貫通孔を形成し活物質と集電箔との密着力を向上させることが考えられる。しかしながら、貫通孔を形成することで集電箔の断面積が減少して強度が低下することから、電極およびセパレータを巻回する際に破れやすくなることが懸念される。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、電極体の湾曲部における活物質の剥がれを抑制でき電池性能を確保する上で有利なリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、帯状の正極と帯状の負極とが、帯状のセパレータを介在させて重ね合わされ複数回巻回され断面に湾曲部が形成されている電極体を有するリチウムイオン二次電池であって、前記湾曲部を構成する正極の部分、負極の部分、セパレータのいずれかに、前記帯状の幅方向に延在する凸部と凹部とが前記長さ方向に交互に繰り返して複数設けられた波形構造が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によれば、電極部の湾曲部に形成した波形構造により、湾曲部に作用する応力を緩和できるため、活物質が割れたり、活物質が集電箔から剥がれたりすることを抑制することができ、電池性能を確保する上で有利となる。
請求項2記載の発明によれば、凸部と凹部との位相が一致することで正極と負極との距離のばらつきを抑制できることから、リチウムイオンの往来を効率よく行うことができるため、電池の性能を確保する上でより有利となる。
請求項3記載の発明によれば、湾曲部の径方向の外側に至るほど湾曲部に作用する応力が大きくなることに対応して、応力の大きさに応じた長さの波形構造を形成することができ、応力を効果的に緩和する上で有利となる。
請求項4記載の発明によれば、正極および負極のそれぞれの表裏で貫通孔を通ってリチウムイオンの往来が可能となるため、リチウムイオンのアンバランスを解消し、また、過充電時における金属リチウムの析出を抑制することができ、電池の性能を確保する上で有利となる。また、貫通孔が形成されることにより、正極集電箔と正極活物質との結着力、負極集電箔と負極活物質との結着力を向上させることができ、活物質の集電箔からの剥がれを抑制する上でより有利となる。
請求項5記載の発明によれば、貫通孔の長手方向が帯状の正極、負極の幅方向と一致するように形成されているので、湾曲部に作用する引っ張り方向の応力に対して貫通孔の部分が変形しやすく、引張方向の応力の緩和を図る上でより有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態におけるリチウムイオン二次電池10の構成を示す斜視図である。
【図2】電極体12の一部を展開した説明図である。
【図3】図2のAA線断面図である。
【図4】図2のB矢視図である。
【図5】図4のC部拡大図である。
【図6】湾曲部36の構成を示す説明図である。
【図7】湾曲部36の一部を示す断面図である。
【図8】電極体12から正極20、負極22、セパレータ24,26の一部を展開した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係るリチウムイオン二次電池10は、電極体12と、電極体12を収容する矩形板状の容器14と、容器14に設けられた正負の電極16,18とを含んで構成されている。
図2に示すように、電極体12は、正極20と、負極22と、2枚のセパレータ24、26とで構成されている。
正極20は、幅よりも大きな長さを有する帯状を呈している。
正極20は、図3に示すように、3層構造であり、厚さ方向の中央に位置する正極集電箔28と、その両面に形成された正極活物質30とで構成されている。正極集電箔28は不図示の接続部材を介して容器14の正側の電極16に接続されている。
正極集電箔28としてはアルミニウム箔が用いられ、正極活物質30としてはコバルト酸リチウムなどが用いられる。
【0009】
負極22は、幅よりも大きな長さを有する帯状を呈している。
負極22は、図3に示すように、3層構造であり、厚さ方向の中央に位置する負極集電箔32と、その両面に形成された負極活物質34とで構成されている。負極集電箔32は不図示の接続部材を介して容器14の負側の電極18に接続されている。
負極集電箔32としては銅箔が用いられ、負極活物質34としては炭素材料などが用いられる。
【0010】
セパレータ24、26は、幅よりも大きな長さを有する帯状を呈し、リチウムイオンが移動できる多孔質の絶縁フィルムで構成されている。
電極体12は、正極20と、負極22とが、セパレータ24、26を介在させて重ね合わされ複数回巻回され、断面が扁平な長円形状を呈している。
具体的には、セパレータ24と、正極20と、セパレータ26と、負極22とがこの順番で重ね合わされ、セパレータ24を外側にし、負極22を内側にして複数回巻回されている。
図4に示すように、電極体12は、長円形状の長手方向の両端が湾曲部36となっている。
図5に示すように、正極20、負極22、セパレータ24、26が巻回される際、湾曲部36において円周距離の差により引っ張り方向の応力が集中して作用しやすく、また、充電動作および放電動作による膨張収縮による応力も湾曲部36に作用しやすい。
【0011】
そこで、本実施の形態では、図6,図7に示すように、湾曲部36を構成する正極20の部分、負極22の部分、セパレータ24の部分に、それぞれ幅方向に延在する凸部と凹部とが前記長さ方向に交互に繰り返して複数設けられた波形構造38が湾曲部36の全長にわたって形成されている。
このような波形構造38によって湾曲部36に作用する応力が緩和されるため、正極活物質30,負極活物質34が割れたり、正極活物質30,負極活物質34が正極集電箔28,負極集電箔32から剥がれたりすることを抑制する上で有利となる。
【0012】
また、湾曲部36において正極20に形成された凸部と、負極22に形成された凸部と、セパレータ24、26に形成された凸部とは、湾曲部36の径方向において位相が一致している。
また、湾曲部36において正極20に形成された凹部と、負極22に形成された凹部と、セパレータ24、26に形成された凹部とは、湾曲部36の径方向において位相が一致している。
このように凸部と凹部との位相を一致させると、正極20と負極22との距離のばらつきを抑制できることから、リチウムイオンの往来を効率よく行うことができるため、電池の性能を確保する上で有利となる。
【0013】
また、本実施の形態では、図6,図8に示すように、帯状の正極20、負極22、セパレータ24、26の長さ方向における波形構造38の長さは、湾曲部36の内側から外側に至るに従って次第に長くなるように形成されている。
このようにすると、湾曲部36の径方向の外側に至るほど湾曲部36に作用する応力が大きくなることに対応して、応力の大きさに応じた長さの波形構造38を形成することができ、応力を効果的に緩和する上で有利となる。
【0014】
また、湾曲部36に対応する正極集電箔28の部分に、該正極集電箔28の部分の両面に形成された正極活物質30の間でリチウムイオンが移動可能な正極活物質30で埋められた複数の貫通孔40が形成されている。
また、湾曲部36に対応する負極集電箔32の部分に、該負極集電箔32の部分の両面に形成された負極活物質34の間でリチウムイオンが移動可能な負極活物質34で埋められた複数の貫通孔42が形成されている。
このような貫通孔40,42を形成すると、以下の効果が奏される。
図7に示すように、部品の加工精度のばらつきによって前記の凸部と凹部との位相は多少ずれる場合がある。
このような位相のずれが生じると、正極20と負極22との距離のばらつきが生じるため、リチウムイオンの往来に悪影響を与え、リチウムイオンの量にアンバランスが発生することが考えられる。
しかしながら、貫通孔40,42を形成したため、正極20および負極22のそれぞれの表裏でリチウムイオンの往来が可能となるため、リチウムイオンのアンバランスを解消することができる。そのため、リチウムイオンの往来を効率よく行うことができるため、電池の性能を確保する上で有利となる。
【0015】
また、過充電の状態となると、正極活物質30の構造崩壊、負極22における金属リチウム析出の不具合が発生することが知られている。
このような不具合を防止するため、従来では、負極22側に取り込まれるリチウムイオン量が正極20側に取り込まれるリチウムイオン量よりも多くなるように、正極活物質30に対する負極活物質34の割合が多くなるように構成されている。
しかしながら、湾曲部36においては、湾曲部36の径方向の外側に位置する正極20の部分の面積に対して湾曲部36の径方向の内側に位置する負極22の部分の面積が小さくなるため、このような位置関係にある正極活物質30に対する負極活物質34の割合が相対的に少なくなり、上記不具合の発生が懸念される。
本実施の形態では、貫通孔40,42により正極20および負極22のそれぞれの表裏でリチウムイオンの往来が可能となる。したがって、負極22の部分の面積が正極20の部分の面積よりも小さくても、負極22の裏表の広い範囲でリチウムイオンを十分に取り込むことができるため、過充電時における金属リチウムの析出を抑制する上で有利となる。
【0016】
また、貫通孔40,42が形成されることにより、正極集電箔28と正極活物質30との結着力、負極集電箔32と負極活物質34との結着力を向上させることができ、活物質の集電箔からの剥がれを抑制する上で有利となる。
また、貫通孔40,42は、正極集電箔28、負極集電箔32のうち、湾曲部36に対応する部分にのみ限定されて設けられることから、集電箔の強度低下を最小限にでき、正極20,負極22、セパレータ24、26を巻回する際の破損を抑制する上で有利となる。
また、本実施の形態では、各貫通孔40,42は長円状を呈し、貫通孔40,42はその長手方向が帯状の正極20、負極22の幅方向と一致するように形成されている。
このようにすると、正極20,負極22、セパレータ24、26を巻回する際に湾曲部36に作用する引っ張り方向の応力に対して貫通孔40,42の部分が変形しやすく、応力の緩和を図る上で有利となる。
【0017】
以上説明したように本実施の形態によれば、電極体12の湾曲部36を構成する正極20の部分、負極22の部分、セパレータ24の部分に、それぞれ幅方向に延在する凸部と凹部とが長さ方向に交互に繰り返して複数設けられた波形構造38を形成した。したがって、波形構造38により湾曲部36に作用する応力を緩和することができ、活物質が割れたり、活物質が集電箔から剥がれたりすることを抑制することができ、電池性能を確保する上で有利となる。
【0018】
なお、本実施の形態では、電極体12の断面が扁平な長円形状を呈している場合について説明したが、電極体12の断面形状はこれに限定されるものではなく、従来公知の様々な断面形状が採用可能である。
また、波形構造が湾曲部36を構成する正極20の部分、負極22の部分、セパレータ24の部分のそれぞれに形成されている場合について説明したが、波形構造は、湾曲部36を構成する正極20の部分、負極22の部分、セパレータ24の部分のいずれかに形成されていてもよい。このような構成であっても、実施の形態と同様に、波形構造により、湾曲部36に作用する応力を緩和でき実施の形態と同様の効果が奏される。ただし、本実施の形態のようにすると、波形構造が湾曲部36を構成する正極20の部分、負極22の部分、セパレータ24の部分のそれぞれに形成されているので、湾曲部36に作用する応力を緩和する上でより一層有利となる。
【符号の説明】
【0019】
10……リチウムイオン二次電池、12……電極体、14……容器、16,18……電極、20……正極、22……負極、24,26……セパレータ、28……正極集電箔、30……正極活物質、32……負極集電箔、34……負極活物質、36……湾曲部、38……波形構造、40,42……貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極と帯状の負極とが、帯状のセパレータを介在させて重ね合わされ複数回巻回され断面に湾曲部が形成される電極体を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記湾曲部を構成する正極の部分、負極の部分、セパレータのいずれかに、前記帯状の幅方向に延在する凸部と凹部とが前記長さ方向に交互に繰り返して複数設けられた波形構造が形成されている、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記湾曲部において前記凸部及び凹部が正極の部分、負極の部分、セパレータのそれぞれに設けられ、
前記正極に形成された凸部と、前記負極に形成された凸部と、前記セパレータに形成された凸部とは、前記湾曲部の径方向において位相が一致しており、かつ、前記湾曲部において前記正極に形成された凹部と、前記負極に形成された凹部と、前記セパレータに形成された凹部とは、前記湾曲部の径方向において位相が一致している、
ことを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記長さ方向における前記波形構造の長さは、前記湾曲部の内側から外側に至るに従って次第に長くなるように形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記正極は、正極集電箔とその両面に形成された正極活物質とを有し、
前記負極は、負極集電箔とその両面に形成された負極活物質とを有し、
前記湾曲部に対応する前記正極集電箔の部分に、該正極集電箔の部分の両面に形成された正極活物質の間でリチウムイオンが移動可能な複数の貫通孔が形成され、
前記湾曲部に対応する前記負極集電箔の部分に、該負極集電箔の部分の両面に形成された負極活物質の間でリチウムイオンが移動可能な複数の貫通孔が形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記貫通孔は長円状を呈し、前記貫通孔はその長手方向が前記帯状の正極、負極の幅方向と一致するように形成されている、
ことを特徴とする請求項4記載のリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−20821(P2013−20821A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153424(P2011−153424)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】