説明

リチウムイオン2次電池とその製造方法、およびそれを用いた自動車、電子機器

【課題】極板に用いられるアルミニウム集電体の電解液中への溶出を抑制することにより、容量劣化、および内部抵抗増大を抑制した長寿命なリチウムイオン2次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するために本発明は、ケース5と、ケース5内に充填された電解液と、電解液中に浸漬された正極板1、負極板2とを備え、正極板1、負極板2は電極活物質層と集電体からなり、集電体のうち少なくとも1つは表面がフッ化アルミニウムのみで覆われたアルミニウムで構成され、前記フッ化アルミニウムが集電体のアルミニウム溶出を抑制するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や電子機器に搭載されるリチウムイオン2次電池とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン2次電池は、電気二重層キャパシタやニッケル水素蓄電池などのエネルギーデバイスと比較して本質的にエネルギー密度が高く、また様々な改善によりパワー密度の向上も進んできている。従って、小型化に有利であることから電子機器に採用されており、自動車への適用も検討されている。
【0003】
なお、本出願に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1から3が知られている。
【特許文献1】特開平10−271611号公報
【特許文献2】特開平11−317217号公報
【特許文献3】特開平11−7962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなリチウムイオン2次電池は、ケース内に充填された電解液の中に2種類の極板(集電体と電極活物質からなる)を浸漬した構成を有している。従って、その充放電時には化学反応を伴うため、充放電を繰り返すごとに容量劣化、内部抵抗増大を生じる。例えば、電気自動車やハイブリッド自動車にバッテリユニットとして用いた場合、所定の容量劣化が生じた時点で、電池あるいはバッテリユニットを交換する必要がある。
【0005】
このような劣化の要因としては、極板を構成する電極活物質層表面に電解液との反応生成物が付着し、反応サイトを塞いでしまう点が挙げられる。これにより反応が不十分となり容量が劣化したり、電池内部の電極活物質−電解液界面の電流経路遮断による内部抵抗増大が発生する。
【0006】
この課題に対して従来、電極活物質層の一部表面にプラズマ処理を施す技術が特許文献2に示されている。確かにこれにより反応生成物の発生量が抑えられ、劣化の改善がみられるものの、完全に劣化しなくなるわけではないので、他の劣化要因が残存していることが考えられる。
【0007】
すなわち、極板のうち少なくとも1種類に集電体として用いられるアルミニウムが電解液と反応することにより溶出し、反応生成物を発生する劣化要因が考えられる。
【0008】
これに対しては、集電体を含む金属部材(アルミニウム)の表面にフッ素化合物(フッ化アルミニウム)を主体とする被膜を形成することで、アルミニウムの電解液との反応を抑制する構成が特許文献3に示されている。
【0009】
このような構成により、確かに反応生成物の発生量が抑えられ、劣化の改善がみられるものの、自動車用のような長期的な充放電サイクル下では十分に劣化を抑制することができなかった。
【0010】
これは以下の理由によるものと考えられる。
【0011】
特許文献3の構成によると、アルミニウム集電体の表面に主体的にフッ化アルミニウムを形成しているものの、絶縁性が高い膜なのでアルミニウム集電体と電極活物質の導通を確保するために、集電体の一部表面には酸化被膜(酸化アルミニウム)を有する構成としている。
【0012】
この酸化被膜はアルミニウム原子と酸素原子との結合が弱いため、長期的な充放電による化学反応で酸化被膜が徐々に侵食され、アルミニウム集電体が電解液中に溶出してしまうと考えられる。
【0013】
従って、上記構成にしても長期的には反応生成物が徐々に発生し、電極活物質層表面に付着することで劣化が進行するという課題があった。
【0014】
そこで本発明は、極板に用いられる集電体のアルミニウム溶出をさらに抑制することにより、容量劣化、および内部抵抗増大を抑制した長寿命なリチウムイオン2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記従来の課題を解決するために、本発明のリチウムイオン2次電池は、極板を構成する集電体のうち少なくとも1つの表面がフッ化アルミニウムのみで覆われたアルミニウムからなる構成としたものである。
【0016】
本構成によって、アルミニウム集電体はフッ化アルミニウムのみで表面が保護されるため、電解液との反応が十分阻害され、長期的にアルミニウムの溶出が抑制される。その結果、前記目的を達成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリチウムイオン2次電池によれば、アルミニウム集電体から溶出したアルミニウム反応生成物が電極活物質に付着する劣化モードを長期間に渡って回避できるので、容量劣化、および内部抵抗増大を抑制することができ、長寿命化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池の一部分解断面斜視図である。図2は、本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池の正極板の一部拡大斜視図である。
【0020】
図1において、リチウムイオン2次電池100は、極板として2枚の正極板1と負極板2を備え、両者の間に2枚のセパレータ3を配置した状態で捲回した素子4と電解液(図示せず)を、負極端子兼用のケース5に挿入した構造となっている。
【0021】
従って、素子4はケース5内で電解液に浸漬された状態となっている。
【0022】
正極板1は正極リード6を介して正極端子7に接続され、負極板2は負極リード8を介して負極端子兼用のケース5と接続される構成となっている。
【0023】
ケース5と正極端子7はパッキン9を介して絶縁、封止されている。また、高温下のリチウムイオン2次電池100の内圧異常時に動作する安全弁10が正極端子7の下部に配置されている。
【0024】
正極板1は図2(図1の太点線部分1Aの拡大図)に示したように、フッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体11の両面に電極活物質層としてコバルト酸リチウムを主成分とする正極活物質層12が形成されている。なお、フッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体11は表面がフッ化アルミニウム(図中太斜線で示す)のみで覆われており、これが本実施の形態1の特徴となる構成である。
【0025】
なお、負極板2は集電体の材質に銅箔を用いておりイオン化傾向の関係から電解液中に溶出することはないため、劣化の要因とならない。よって、正極板1のような表面処理は特に行っていない。
【0026】
また、上記構成ではケース5に正極板1と負極板2の計2枚を挿入した構成であるが、これはケース5に2枚以上の正極板1と負極板2を挿入してもよい。これによりケース5が1つになる分、小型化ができる。
【0027】
次に正極板1の製造方法を図3から図6を用いて説明する。
【0028】
図3は、本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池の正極板の製造プロセス毎の一部斜視図であり、(a)はアルミニウム集電体の斜視図を、(b)はアルミニウム集電体の両面に正極活物質層形成後の斜視図を、(c)はアルミニウム集電体の表面にフッ化アルミニウムを形成後の斜視図をそれぞれ示す。図4は本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池の製造方法におけるプラズマ生成装置の概略断面図を示す。図5は本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池のフッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体の表面から深さ方向への元素分析図である。図6は、本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池の正極板の他の製造プロセス毎の一部斜視図であり、(a)はアルミニウム集電体の斜視図を、(b)はアルミニウム集電体の表面にフッ化アルミニウムを形成後の斜視図を、(c)はアルミニウム集電体の両面に正極活物質層形成後の斜視図をそれぞれ示す。
【0029】
なお、本実施の形態1の特徴であるアルミニウム集電体13の表面をフッ化アルミニウムのみで覆う構成の製造プロセスには大きく2通りの方法があるので、図3に示す製造プロセスをプロセスA、図6に示す製造プロセスをプロセスBと呼ぶ。
【0030】
まず、プロセスAについて説明する。
【0031】
図3(a)に示したアルミニウム集電体13は厚み20μmのアルミニウム箔からなる。この両面に図3(b)に示すように、コバルト酸リチウムを主成分とする正極活物質層12を塗工により積層して正極板1を形成する。この際、後述するアルゴンガスによるプラズマ処理で正極活物質層12の一部が削られるため、その分を含めた厚さで正極活物質層12を形成しておく。
【0032】
なお、正極活物質層12の積層方法は塗工に限らず、押し出し成型や張り合わせなどの方法でも良い。
【0033】
次に正極板1に、まずアルゴンガスを用いたプラズマ処理を行った後、フッ素含有化合物ガスとアルゴンガスを用いたプラズマ処理を行う。これにより、図3(c)の太斜線に示すようにアルミニウム集電体13のうち表面に露出したアルミニウム部分のみを全面フッ化したフッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体11が形成される。なお、プラズマ処理による製造方法の詳細は後述する。
【0034】
フッ素含有化合物ガスやアルゴンガスを用いたプラズマ処理はドライプロセスであるので、フッ素は化学的に結合力の強いアルミニウムと優先的に結合する。そのため、正極活物質層12の表面にはフッ素がほとんど被覆されず、アルミニウムが露出した全表面のみにフッ化アルミニウムという不動態が形成される。これがアルミニウムを電解液との反応から保護する役割を果たす。
【0035】
この際、最初にアルゴンガスのみでプラズマ処理をすることにより、一般に空気中にさらされたアルミニウムの表面に形成されている酸化アルミニウムを取り除き、ほぼ純粋な(本実施の形態1では純度99.9%のアルミニウム箔を用いた)アルミニウムの表面とすることができる。
【0036】
従って、この表面に前記したフッ素含有化合物ガスとアルゴンガスを用いたプラズマ処理を行うことにより、アルミニウムの表面にはフッ化アルミニウムのみが形成される。
【0037】
このようなプロセスで製造することにより、正極活物質層12の表面にはフッ素がほとんど被覆されないので正極活物質層12と電解液の間で起こるリチウムイオン2次電池100の反応を阻害することはなく、かつフッ化アルミニウムがアルミニウム集電体13の溶出を抑制する正電極1が形成される。
【0038】
ここで、プラズマ処理によるフッ化アルミニウムの形成方法の詳細について図4に示したプラズマ生成装置の概略断面図を用いて説明する。
【0039】
図4において、真空チャンバー16の内部には一対のプラズマ生成電極17が配されている。プラズマ生成電極17は、高周波制御部19を介して高周波電源20に接続されている。
【0040】
一対のプラズマ生成電極17にはそれぞれ互いに位相を半周期ずらした2種類の高周波電力が高周波制御部19から印加される構成になっている。
【0041】
次にプラズマ処理による製造工程を順に説明する。なお、極板として正極板1を製造する場合について述べる。
【0042】
まず、図3(b)に示した正極板1は帯状に作製する。
【0043】
次に、帯状の正極板1の先端をボビン状の巻出部22に固定し、巻出部22を回転させて帯状の正極板1を巻出部22に捲回する。
【0044】
この巻出部22を真空チャンバー16の内部に取り付ける。ここで、巻出部22は真空チャンバー16に容易に脱着できる構造となっている。
【0045】
なお、巻出部22を先に真空チャンバー16に取り付けてから帯状の正極板1を巻出部22に固定、捲回してもよい。
【0046】
次に図4に示すように、正極板1の終端を、一対のプラズマ生成電極17の間を通して真空チャンバー16の内部に設けた巻取部23に固定する。
【0047】
次に、真空チャンバー16の内部にアルゴンガスを導入し、高周波制御部19により一対のプラズマ生成電極17に高周波電力を印加し、プラズマ生成電極17の間にアルゴンのプラズマを生成する。
【0048】
これにより、プラズマ生成電極17の間にある正極板1はアルゴンのプラズマにより表面が削られ、特に正極板1のアルミニウム集電体13の表面は不純物や酸化アルミニウムが取り除かれるため、ほぼ純粋なアルミニウム表面が得られる。
【0049】
この状態で巻出部22および巻取部23を図4の矢印方向に回転させると、帯状の正極板1が順次プラズマ生成電極17の間を移動するので、帯状の正極板1の構成部材であるアルミニウム集電体13の全てに渡り、極めて効率よくほぼ純粋なアルミニウム表面が得られる。
【0050】
帯状の正極板1が最後まで巻取部23に巻き取られると、巻出部22および巻取部23の回転が停止する。この際、正極板1の先端は巻出部22に固定されているので、先端が巻出部22から外れることはない。
【0051】
次に、真空チャンバー16内には(表1)に示す条件で、アルゴンガスおよび四フッ化炭素からなるフッ素含有化合物ガスを導入し、プラズマ生成電極17に高周波電力を印加する。これにより、一対のプラズマ生成電極17に挟まれた空間にはフッ素を含むプラズマが効率よく生成される。
【0052】
【表1】

【0053】
この状態で正極板1を巻取部23から巻出部22へ逆方向に移動させることで、アルミニウム集電体13の全表面がプラズマ処理によりフッ素化され、フッ化アルミニウムが形成される。
【0054】
以上の製造方法により、正極板1の両面や側面も一括、連続してプラズマ処理することができ、生産性が極めて向上する。
【0055】
この際、アルミニウム集電体13には図4に示した一連のプラズマ処理を行う前に正極活物質層12が形成されているため、両者は電気的に十分導通している。この状態でプラズマ処理を行ってもアルミニウム集電体13と正極活物質層12の接触部分にはフッ素含有化合物ガスが到達できないので、フッ化アルミニウムは生成しない。
【0056】
従って、従来(特許文献3)のように電気的導通を得るためにアルミニウム集電体13の一部が酸化アルミニウムになるように製造する必要がなく、製造プロセスが極めて容易になる。
【0057】
このようなプロセスにより作製したフッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体11の表面から深さ方向への元素分析(X線光電子分光分析)を行った結果を図5に示す。図5において横軸は表面からの深さ、縦軸は元素の比率をそれぞれ示す。
【0058】
図5より、表面近傍(〜10nm)を含め酸素原子は検出されず、フッ素(F)とアルミニウム(Al)が主に測定されるので、確かに全表面がフッ化アルミニウムのみで覆われていることを確認した。
【0059】
なお、表面近傍に観測される炭素(C)は分析時に単に表面に付着していた不純物であり、フッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体11の表面構成元素ではない。
【0060】
これらのことから、アルミニウム集電体13と正極活物質層12の接触部分以外は全面に緻密なフッ化アルミニウムのみが形成されるため、充放電反応によるアルミニウムの溶出を長期間抑制し続けることができる。
【0061】
なお、本実施の形態1ではプラズマ生成電極17を一対のみ配置したが、複数配置すれば処理速度や生産性のさらなる向上が可能となる。
【0062】
また、本実施の形態1ではアルミニウム集電体13の両面にあらかじめ正極活物質層12を形成してからフッ化アルミニウムの形成を行う製造プロセス(プロセスA)としたが、これは図6に示す製造プロセス(プロセスB)でもよい。
【0063】
ここで、プロセスBについて説明する。
【0064】
まず図6(a)に示したアルミニウム集電体13のみを図4のプラズマ生成装置で前記した手順によりプラズマ処理することで、図6(b)に示すようにアルミニウム集電体13の全表面にフッ化アルミニウムの形成を行う。
【0065】
次に図6(c)に示すように、作成したフッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体11の両面に、塗工などの方法により正極活物質層12を形成する。
【0066】
このような製造プロセスとすることで、図4で説明したプラズマ生成装置において、プロセスAに比べプラズマ処理や巻取り動作による正極活物質層12のクラック発生や脱落等の可能性を低減することができる。
【0067】
但し、フッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体11と正極活物質層12の界面にはフッ化アルミニウムが存在することになるため、両者の接触抵抗が上昇し、リチウムイオン2次電池100の内部抵抗が増大してしまう。
【0068】
そこで、図6(c)で完成した正極活物質層12とプラズマ処理後のフッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体11からなる正極板1を高圧でロールプレスする。
【0069】
これにより、正極活物質層12がフッ化アルミニウムに圧接され、正極活物質層12の表面の一部がフッ化アルミニウムを突き破りアルミニウム集電体13に到達し接触するので、接触抵抗の影響を低減できる。
【0070】
従って、プロセスBにおいてはロールプレスを含めた製造プロセスとすればよい。
【0071】
なお、この場合も、プロセスAと同様にアルミニウム集電体13と正極活物質層12の接触部分以外は全面に緻密なフッ化アルミニウムのみが形成されているため、充放電反応によるアルミニウムの溶出を長期間抑制し続けることができる。
【0072】
次に、以上の製造プロセスで作成されたリチウムイオン2次電池100について、従来技術との劣化特性比較を行った結果を図7に示す。
【0073】
図7は本発明の実施の形態1、特許文献3、および一般的な従来技術におけるリチウムイオン2次電池の充放電サイクル回数と容量変化率の相関図である。
【0074】
図7において、本実施の形態1のリチウムイオン2次電池は正極板1をプロセスAにより図3(c)のように構成したものであり、従来技術のリチウムイオン2次電池は正極板1が図3(b)の構成とした。また、特許文献3のリチウムイオン2次電池の充放電サイクル回数と容量変化率の相関は特許文献3に示されたグラフから得たが、充放電サイクル回数が約45回までのデータしかないので、その範囲での主要点を図7に転記した。
【0075】
図7より、明らかに本実施の形態1の場合の容量変化率は従来技術や特許文献3のものに比べ低減されることがわかった。従って、充放電サイクル回数を従来以上に伸ばすことが可能となり、長寿命なリチウムイオン2次電池が実現できた。
【0076】
なお、図7には示していないが、プロセスBにおいてもプロセスAと同等の容量変化率を示し、長寿命化が可能であった。
【0077】
次に、本実施の形態1の正電極1におけるアルミニウムの難溶出性を活かした電解液の検討について述べる。
【0078】
一般に、リチウムイオン2次電池の電解液アニオンには、PF6-が用いられている。この電解液を用いて実験した結果が前記図7であり、電解液が従来と同じものであっても本実施の形態1の構成で十分な容量劣化低減に対する効果があることが明確になったが、さらに劣化低減が実現できる電解液について検討を行った。
【0079】
充放電サイクルによる内部抵抗変化による劣化を低減するにはイオンが動きやすく内部抵抗変化に影響を与えにくい、すなわち、PF6-よりもイオン移動度の大きい電解液アニオンを用いることが有効である。
【0080】
PF6-よりもイオン移動度の大きい電解液アニオンとしては、一例としてPF6-より分子量が小さく動きやすいBF4-が挙げられる。しかし、従来技術のリチウムイオン2次電池にBF4-を用いると、PF6-よりも反応活性が高いためアルミニウムの溶出がさらに多くなり、容量劣化や内部抵抗変化がかえって大きくなってしまう課題があった。そのため、従来は電解液アニオンにPF6-が用いられていた。
【0081】
しかし、本実施の形態1の正電極1にはアルミニウムの溶出を抑制するためのフッ化アルミニウムのみが表面に形成された集電体が用いられているため、電解液アニオンにBF4-を使用できる可能性がある。
【0082】
そこで、実際に電解液を変えた場合の劣化特性比較を行った。その結果を図8に示す。
【0083】
図8は本発明の実施の形態1および従来技術におけるリチウムイオン2次電池の充放電サイクル回数と内部抵抗変化率の相関図である。
【0084】
図8において、従来技術のリチウムイオン2次電池(正極板1が図3(b)のもの)に電解液としてLiPF6塩を用いたものと、プロセスAで作製した本実施の形態1のリチウムイオン2次電池(正極板1が図3(c)のもの)に電解液としてLiPF6塩を用いたものと、プロセスAで作製した本実施の形態1のリチウムイオン2次電池(正極板1が図3(c)のもの)に電解液としてLiBF4塩を用いたものの充放電サイクル回数に対する内部抵抗変化率の比較を示す。
【0085】
図8より、明らかにプロセスAの場合の内部抵抗変化率は従来技術に比べ低減されており、フッ化アルミニウムが有効に作用していることがわかった。
【0086】
さらに、電解液については前記予想通り、LiBF4塩の方がLiPF6塩よりも内部抵抗変化率がさらに小さいことがわかり、従来使用できなかったLiBF4塩を使ってリチウムイオン2次電池の長寿命化が実現できた。
【0087】
なお、プロセスAに電解液アニオンとしてLiBF4塩を用いたリチウムイオン2次電池は内部抵抗を低減できるため、急速充放電性能が高まるだけでなく、大電流を充放電するときに生じる発熱(ジュール熱)も低減できる効果がある。
【0088】
但し、LiBF4塩はLiPF6塩より耐熱性が低いため、リチウムイオン2次電池の使用環境温度範囲が高温になる用途等に対しては、必要な耐熱性が得られるように両者を混合して用いてもよい。
【0089】
従って、電解液についてはPF6-またはBF4-の少なくともいずれかのアニオンを含有するものであればよい。
【0090】
以上の構成により、リチウムイオン2次電池の容量劣化および内部抵抗変化を低減させることができるため、充放電サイクル回数を従来以上に伸ばすことが可能となり、長寿命なリチウムイオン2次電池を実現できる。
【0091】
なお、以上の例はリチウムイオン2次電池の場合で示したが、それ以外の電気化学素子で極板にアルミニウム製の集電体を用いたエネルギーデバイスの場合でもフッ化アルミニウムを形成することで同様の効果が得られる。
【0092】
また、エネルギーデバイスを構成する材料として、電解液と接するケース材料等にアルミニウムを用いている場合でも同様に応用展開することができる。
【0093】
(実施の形態2)
図9は、本発明の実施の形態2におけるリチウムイオン2次電池を用いた自動車のシステム図である。なお、図9はハイブリッド自動車の例を示す。
【0094】
図9において、ハイブリッド自動車の車両内には以下の構成部材からなる。
【0095】
タイヤ24に接続された前輪車軸25には動力伝達機構26を介してエンジン28、フロントモーター29、および発電を行うジェネレータ30が機械的に接続されている。
【0096】
また、タイヤ24に接続された後輪車軸31にはリアモーター32が機械的に接続されている。
【0097】
フロントモーター29、ジェネレータ30、リアモーター32、および実施の形態1で述べたリチウムイオン2次電池からなるバッテリ電源を搭載したバッテリユニット33は、いずれもパワーコントロールユニット34と電気的に接続されている。
【0098】
パワーコントロールユニット34は、例えば自動車加速時にはエンジン28の動力とフロントモーター29やリアモーター32の動力で走行し、定速時にはエンジン28の動力のみで走行し、減速時にはフロントモーター29やリアモーター32を発電機として使用し、減速により発生した電気エネルギーをバッテリユニット33に回収するなど、走行状態に合わせた燃費低減に最適な動力組み合わせの選択等の制御を行っている。
【0099】
このような自動車は、実施の形態1に記載したリチウムイオン2次電池を用いているため、バッテリユニット33が現状のハイブリッド自動車に用いられているバッテリよりも長寿命となる。従って、寿命によるバッテリユニット33の交換回数を低減することができ、その分の低コスト化はもちろん、省資源、環境負荷低減に対しても効果が得られる。
【0100】
さらに、実施の形態1に記載したリチウムイオン2次電池のうち、特にプロセスAに電解液アニオンとしてLiBF4塩を用いたものは内部抵抗を低減できるため、大電流を充放電するハイブリッド自動車のようなパワー用途のバッテリに適用することにより、急速充放電が可能な上、バッテリユニット33の発熱も抑制することができる。
【0101】
従って、従来のハイブリッド自動車に用いられていたバッテリ冷却用のファンなどが不要となり、システム構成をシンプルにすることができる。
【0102】
以上の構成により、バッテリユニット33が長寿命なハイブリッド自動車を実現することができる。
【0103】
なお、本実施の形態2では自動車としてハイブリッド自動車を例に説明したが、燃料電池自動車や電気自動車、アイドリングストップ自動車等にも適用できる。
【0104】
(実施の形態3)
図10は、本発明の実施の形態3におけるリチウムイオン2次電池を用いた電子機器の外観図である。なお、図10は電子機器として携帯電話の例を示す。
【0105】
図10において、携帯電話40の内部には機器のバッテリ電源として実施の形態1で述べたリチウムイオン2次電池(図示せず)が搭載されている。この携帯電話40はキーボード41を操作することで使用でき、操作の結果や必要な情報などは画面42に表示される。
【0106】
近年の携帯電話40は、機能として単に通話するだけでなくメールや各種情報の収集、さらにはテレビの受像までできるものが登場している。従って、携帯電話40の使用時間が長くなるに伴ってバッテリへの充電回数が増えるため、繰り返し充電に対してより長寿命のバッテリが必要である。
【0107】
これに対し、本実施の形態3の携帯電話40に搭載したバッテリは実施の形態1で述べたリチウムイオン2次電池であるので、上記のような携帯電話40の使われ方の傾向に合致した長寿命バッテリとして極めて有用である。
【0108】
また、従来のリチウムイオン2次電池からなるバッテリを用いた携帯電話40において、例えば大電流を長時間連続して使用するテレビ受像機能を手に持って利用する場合、バッテリの内部抵抗が大きいため大電流によりバッテリが発熱し、これを内蔵した携帯電話40を手に持ち続けることで、室温が高い場合には低温やけどを負う可能性があった。
【0109】
さらに、携帯電話40の筐体内という閉空間がバッテリにより加熱されるので、携帯電話40を構成する電子部品の特性や信頼性に影響を与える可能性があった。
【0110】
しかし、実施の形態1に記載したリチウムイオン2次電池のうち、特に電解液アニオンとしてLiBF4塩を用いたものをバッテリとして内蔵した携帯電話40は、バッテリ内部抵抗を低減できるため、放電時の内部損失が少なくなる。
【0111】
その結果バッテリの発熱が抑制されるため、テレビ受像のように長時間携帯電話40を手に持ち続けて使用した場合の低温やけどの可能性を低減することができる。
【0112】
さらに、携帯電話40を構成する電子部品の特性や信頼性への熱による影響が低減できる。
【0113】
以上の構成により、バッテリが長寿命になるだけでなく、バッテリの発熱が抑制され、安全性や信頼性の高い電子機器を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明にかかるリチウムイオン2次電池は、極板の劣化が抑制されるため長寿命化が可能になるので、自動車や電子機器の充電バッテリ電源等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池の一部分解断面斜視図
【図2】本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池の正極板の一部拡大斜視図
【図3】本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池の正極板の製造プロセス毎の一部斜視図であり、(a)アルミニウム集電体の斜視図、(b)アルミニウム集電体の両面に正極活物質層形成後の斜視図、(c)アルミニウム集電体の表面にフッ化アルミニウムを形成後の斜視図
【図4】本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池の製造方法におけるプラズマ生成装置の概略断面図
【図5】本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池のフッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体の表面から深さ方向への元素分析図
【図6】本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン2次電池の正極板の他の製造プロセス毎の一部斜視図であり、(a)アルミニウム集電体の斜視図、(b)アルミニウム集電体の表面にフッ化アルミニウムを形成後の斜視図、(c)アルミニウム集電体の両面に正極活物質層形成後の斜視図
【図7】本発明の実施の形態1、特許文献3、および一般的な従来技術におけるリチウムイオン2次電池の充放電サイクル回数と容量変化率の相関図
【図8】本発明の実施の形態1および従来におけるリチウムイオン2次電池の充放電サイクル回数と内部抵抗変化率の相関図
【図9】本発明の実施の形態2におけるリチウムイオン2次電池を用いた自動車のシステム図
【図10】本発明の実施の形態3におけるリチウムイオン2次電池を用いた電子機器の外観図
【符号の説明】
【0116】
1 正極板
2 負極板
5 ケース
11 フッ化アルミニウム形成アルミニウム集電体
12 正極活物質層
13 アルミニウム集電体
16 真空チャンバー
17 プラズマ生成電極
19 高周波制御部
20 高周波電源
22 巻出部
23 巻取部
100 リチウムイオン2次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケース内に充填された電解液と、
前記電解液中に浸漬された少なくとも2枚の極板とを備え、
前記極板は電極活物質層と集電体からなり、
前記集電体のうち少なくとも1つは表面がフッ化アルミニウムのみで覆われたアルミニウムからなるリチウムイオン2次電池。
【請求項2】
電解液はPF6-またはBF4-の少なくともいずれかのアニオンを含有する請求項1に記載のリチウムイオン2次電池。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のリチウムイオン2次電池において、アルミニウムの表面にはアルゴンガスを用いたプラズマ処理を行った後、フッ素含有化合物ガスとアルゴンガスを用いたプラズマ処理を行うことによりフッ化アルミニウムが形成されるリチウムイオン2次電池の製造方法。
【請求項4】
集電体に電極活物質層を形成してなる極板に対しプラズマ処理を行う請求項3に記載のリチウムイオン2次電池の製造方法。
【請求項5】
プラズマ処理は、真空チャンバー中に設けた一対のプラズマ生成電極の間に極板または集電体を配し、位相を半周期ずらした2種類の高周波電力を前記一対のプラズマ生成電極にそれぞれ印加することにより行われる請求項3に記載のリチウムイオン2次電池の製造方法。
【請求項6】
帯状の極板または集電体の先端が巻出部に固定された後、前記巻出部に捲回され、
前記巻出部が真空チャンバー中に設けられ、
前記極板または集電体の終端が、一対のプラズマ生成電極の間を通して前記真空チャンバー中に設けられた巻取部に固定され、
前記極板または集電体は、前記巻出部から前記巻取部へ移動する間にアルゴンガスを用いたプラズマ処理がなされ、
前記極板または集電体が最後まで前記巻取部に巻き取られたら、フッ素含有化合物ガスとアルゴンガスによりプラズマを生成し、
前記極板または集電体を前記巻取部から前記巻出部へ逆方向に移動させ、
その間に前記フッ素含有化合物ガスとアルゴンガスを用いたプラズマ処理を行う請求項5に記載のリチウムイオン2次電池の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2のいずれかに記載のリチウムイオン2次電池において、電極活物質層と集電体はプラズマ処理後、ロールプレスにより圧接するリチウムイオン2次電池の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2のいずれかに記載のリチウムイオン2次電池を車両内のバッテリ電源として搭載した自動車。
【請求項9】
請求項1または2のいずれかに記載のリチウムイオン2次電池を機器のバッテリ電源として搭載した電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−344494(P2006−344494A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169147(P2005−169147)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】